IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】層構造体、成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20220819BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20220819BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220819BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220819BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20220819BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L101/02
C08L23/26
B32B27/30 102
B29C49/04
B65D1/00 110
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018122447
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020002246
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-068300(JP,A)
【文献】特開2014-065843(JP,A)
【文献】特開2004-035759(JP,A)
【文献】特開平11-099594(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172226(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/084187(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B32B 27/30
B29C 49/04
B65D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する単層又は多層の層構造体であって、
上記樹脂組成物が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と反応可能な変性基を有する熱可塑性樹脂(B)を含有し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)が50/50~90/10であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が10~35モル%であり、上記樹脂組成物の220℃におけるメルトテンションが40~130mNであり、
上記熱可塑性樹脂(B)が、α-オレフィン系重合体、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであり且つ不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されている樹脂である層構造体(但し、上記樹脂組成物からなる層の一方の面が、極性官能基を有さないポリオレフィンからなる層と直接隣接されている場合を除く。)。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂(B)の酸価が1~20mgKOH/gである、請求項1に記載の層構造体。
【請求項3】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)が50/50~85/15である、請求項1又は2に記載の層構造体。
【請求項4】
上記樹脂組成物におけるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計含有量が99質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の層構造体。
【請求項5】
多層である場合、
少なくとも1層の接着層、並びに少なくとも1層のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び熱可塑性樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂から形成される層をさらに有し、
上記樹脂組成物からなる層と上記他の熱可塑性樹脂から形成される層とは、全て上記接着層を介して積層されている、請求項1~のいずれか1項に記載の層構造体。
【請求項6】
多層である場合、順に
上記樹脂組成物からなる層、接着層、並びにエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び熱可塑性樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂から形成される層、又は、
上記他の熱可塑性樹脂から形成される第1の熱可塑性樹脂層、第1の接着層、上記樹脂組成物からなる層、第2の接着層、並びに上記他の熱可塑性樹脂から形成される第2の熱可塑性樹脂層
の層構造からなる、請求項1~のいずれか1項に記載の層構造体。
【請求項7】
ブロー成形用である、請求項1~のいずれか1項に記載の層構造体。
【請求項8】
樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する成形体であって、
上記樹脂組成物が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と反応可能な変性基を有する熱可塑性樹脂(B)を含有し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)が50/50~90/10であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が10~35モル%であり、上記樹脂組成物の220℃におけるメルトテンションが40~130mNであり、
上記熱可塑性樹脂(B)が、α-オレフィン系重合体、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであり且つ不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されている樹脂である、成形体(但し、上記樹脂組成物からなる層の一方の面が、極性官能基を有さないポリオレフィンからなる層と直接隣接されている場合を除く。)。
【請求項9】
ブロー成形容器である、請求項に記載の成形体。
【請求項10】
燃料容器である、請求項に記載の成形体。
【請求項11】
樹脂組成物を用いてブロー成形する工程を備える成形体の製造方法であって、
上記樹脂組成物が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と反応可能な変性基を有する熱可塑性樹脂(B)を含有し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)が50/50~90/10であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が10~35モル%であり、上記樹脂組成物の220℃におけるメルトテンションが40~130mNであり、
上記熱可塑性樹脂(B)が、α-オレフィン系重合体、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであり且つ不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されている樹脂である、成形体の製造方法(但し、製造される上記成形体において、上記樹脂組成物からなる層の一方の面が、極性官能基を有さないポリオレフィンからなる層と直接隣接されている場合を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、層構造体、成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料のバリア性を有する層を備える共押出ブロー成形容器が燃料容器として好適に用いられている。かかる燃料のバリア性を有する層として、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)が用いられる場合がある。
【0003】
特許文献1には、EVOH等のバリア性樹脂からなる層及び熱可塑性樹脂からなる層の共押出ブロー成形により得られる燃料容器が記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、EVOHと酸変性されたエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム及び/又は酸変性された熱可塑性エラストマーとからなる樹脂組成物が記載され、実施例には、単層射出成形体が開示されており、多層ブロー成形を用いなくとも、燃料バリア性及び低温耐衝撃性を両立することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-143644号公報
【文献】特開2005-68300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、EVOH単独の成形体は、耐衝撃性に劣る。このため、燃料容器等の用途においては、耐衝撃性を補うために熱可塑性樹脂層を設けた共押出ブロー成形が好適に用いられている(特許文献1参照)。一方、近年、用途の幅が広がり、特に水素タンク等の燃料容器の用途では、熱可塑性樹脂の融点以上の温度で使用されることもあり、従来の多層構造の容器を使用できないケースが見られるようになった。このような場合において、特許文献2のように単層のバリア材を用いることで、高温での使用にも耐えられる容器が得られる可能性があることがわかった。
【0007】
しかし、EVOHと酸変性されたエチレン-α-オレフィン共重合体ゴム及び/又は酸変性された熱可塑性エラストマーとからなる特許文献2の樹脂組成物を用いて、単層のブロー成形を行うとドローダウンが生じやすく、単層でのブロー成形が困難となり、安定的な成形が困難であることを発明者らは知見した。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、EVOHを含む樹脂組成物であって、良好な成形性、特に良好なブロー成形性を有する樹脂組成物、上記樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する層構造体及び成形体、並びに上記成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の態様は、以下に示す樹脂組成物、層構造体、成形体及び成形体の製造方法である。
【0010】
[1]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と反応可能な変性基を有する熱可塑性樹脂(B)を含有し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)が50/50~90/10であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が10~35モル%であり、220℃におけるメルトテンションが40~130mNである樹脂組成物。
[2]上記熱可塑性樹脂(B)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と反応可能な変性基を有する熱可塑性エラストマー又はエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と反応可能な変性基を有するα-オレフィン系重合体である、[1]の樹脂組成物。
[3]上記熱可塑性樹脂(B)が、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されている樹脂である、[1]又は[2]の樹脂組成物。
[4]上記熱可塑性樹脂(B)の酸価が1~20mgKOH/gである、[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物。
[5][1]~[4]のいずれかの樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する単層又は多層の層構造体。
[6][1]~[4]のいずれかの樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する成形体。
[7]ブロー成形容器である、[6]の成形体。
[8]燃料容器である、[6]の成形体。
[9][1]~[4]のいずれかの樹脂組成物を用いてブロー成形する工程を備える成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物であって、良好な成形性を有する樹脂組成物、上記樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する層構造体及び成形体、並びに上記成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下「EVOH(A)」と略記する場合がある)、及びEVOH(A)と反応可能な変性基を有する熱可塑性樹脂(B)(以下「熱可塑性樹脂(B)」と略記する場合がある)を含有する。本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)は、50/50~90/10である。EVOH(A)のエチレン単位含有量は、10~35モル%である。また、本発明の樹脂組成物の220℃におけるメルトテンションは、40~130mNである。本発明の樹脂組成物は、メルトテンションが上記範囲にあることで、溶融成形性が良好である。具体的には、本発明の樹脂組成物は、メルトテンションが上記範囲にあるため、ブロー成形を行うときのドローダウンが抑制され、単層でのブロー成形も容易に実施できる。本発明の樹脂組成物においては、定かではないが、適当な質量比のEVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)とにおいて架橋等の何らかの反応が生じていることで、メルトテンションが高まっていると推測される。
【0013】
(EVOH(A))
EVOH(A)は、エチレン単位とビニルアルコール単位とを有し、エチレン単位含有量が10~35モル%の共重合体である。EVOH(A)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体のケン化により得られる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化は公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的であるが、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等のその他の脂肪酸ビニルエステルであってもよい。
【0014】
EVOH(A)のエチレン単位含有量の下限は10モル%であり、15モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、23モル%であってもよい。EVOH(A)のエチレン単位含有量の上限は35モル%であり、30モル%が好ましく、28モル%がより好ましく、26%がさらに好ましいこともある。エチレン単位含有量が10モル%未満では、熱安定性が低下する傾向にある。また、エチレン単位含有量が35モル%を超えると、ガスバリア性やメルトテンションが低下する傾向にある。なお、本明細書において「ガスバリア性」は、酸素バリア性の測定結果に基づいて評価する。
【0015】
EVOH(A)のケン化度の下限は90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が90モル%以上であると、本発明の樹脂組成物におけるガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が良好となる傾向がある。また、ケン化度の上限は100モル%であってもよく、99.97モル%であってもよく、99.94モル%であってもよい。
【0016】
EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン及びビニルエステル以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。上記他の単量体由来の単位とは、エチレン単位、ビニルエステル単位及びビニルアルコール単位以外の単量体単位である。EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、上記他の単量体由来の単位のEVOH(A)の全構造単位に対する含有量の上限は30モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、5モル%がよりさらに好ましく、1モル%が特に好ましいこともある。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量の下限は0.05モル%であってよく、0.10モル%であってもよい。
【0017】
上記他の単量体は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0018】
上記他の単量体由来の単位は、下記式(I)で表される構造単位(I)及び下記式(II)で表される構造単位(II)の少なくともいずれか一種であってもよい。
【0019】
【化1】
【0020】
上記構造単位(I)及び構造単位(II)中、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R、R及びRのうちの一対、RとR、及びRとRは結合していてもよい。上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0021】
EVOH(A)が上記構造単位(I)又は(II)を有する場合、樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上し、得られる成形体や層構造体における延伸性及び熱成形性等が良好になる傾向がある。
【0022】
上記構造単位(I)又は(II)において、上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3~10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6~10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0023】
上記構造単位(I)において、上記R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、中でも、得られる層構造体等における延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる観点から、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基又はヒドロキシメチル基であることがより好ましい。
【0024】
EVOH(A)中に上記構造単位(I)を含有させる方法は特に限定されず、例えば、上記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させる方法等が挙げられる。この構造単位(I)に誘導される単量体としては、例えばプロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-ヒドロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-ヒドロキシ-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、4-ヒドロキシ-1-ヘキセン、5-ヒドロキシ-1-ヘキセン、6-ヒドロキシ-1-ヘキセン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等の水酸基あるいはエステル基を有するアルケンが挙げられる。中でも、共重合反応性、及び得られる成形体及び層構造体の加工性、ガスバリア性等の観点からは、プロピレン、3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、及び3,4-ジアシロキシ-1-ブテンが好ましい。なお、“アシロキシ”はアセトキシであることが好ましく、具体的には3-アセトキシ-1-プロペン、3-アセトキシ-1-ブテン、4-アセトキシ-1-ブテン及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、上記構造単位(I)に誘導される。
【0025】
上記構造単位(II)において、R及びRは共に水素原子であることが好ましい。特にR及びRが共に水素原子であり、上記R及びRのうちの一方が炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。脂肪族炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。得られる層構造体におけるガスバリア性を特に重視する観点からは、R及びRのうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることがより好ましい。また上記R及びRのうちの一方が(CHOHで表される置換基(但し、hは1~8の整数)、他方が水素原子であることがさらに好ましい。この(CHOHで表される置換基において、hは、1~4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0026】
EVOH(A)中に上記構造単位(II)を含有させる方法は特に限定されず、ケン化反応によって得られたEVOH(A)に一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法等が用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(i)~(vii)で示される化合物が好適に用いられる。
【0027】
【化2】
【0028】
上記式(i)~(vii)中、R、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基等)、炭素数3~10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基等)又は炭素数6~10の脂肪族炭化水素基(フェニル基等)を表す。また、i、j、k、p及びqは、それぞれ独立して、1~8の整数を表す。ただし、R11が水素原子であった場合、R12は水素原子以外の置換基を有する。
【0029】
上記式(i)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-エポキシプロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン等が挙げられる。上記式(ii)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。上記式(iii)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテルが挙げられる。上記式(iv)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。上記式(v)で表される一価エポキシ化合物としては、グリシドール等の各種エポキシアルカノールが挙げられる。上記式(vi)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルカンが挙げられる。上記式(vii)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルケンが挙げられる。
【0030】
上記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2~8のエポキシ化合物が好ましい。特に化合物の取り扱いの容易さ、及び反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数は2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は上記式(i)又は式(ii)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOH(A)との反応性及び得られる層構造体及び熱成形体の加工性、ガスバリア性等の観点からは、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン又はグリシドールが好ましく、中でもエポキシプロパン又はグリシドールがより好ましい。
【0031】
EVOH(A)の融点は特に限定されないが、下限としては160℃が好ましく、170℃がより好ましく、180℃がさらに好ましく、190℃又は194℃が特に好ましいことがある。EVOH(A)の融点が160℃以上であることで、溶融成形性、特にブロー成形性を高めることができる。一方、この融点の上限は240℃が好ましく、220℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。EVOH(A)の融点が上記範囲にあることにより、溶融成形性、特にブロー成形性がより高まる。
【0032】
EVOH(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量の下限は50質量%が好ましく、55質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。一方、本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量の上限は90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。EVOH(A)の含有量を上記範囲内とすることで、メルトテンションがより高まり、成形性、特にブロー成形性がより高まる傾向にある。また、EVOH(A)の含有量を上記下限以上とすることでガスバリア性を高めることなどができる。
【0034】
(熱可塑性樹脂(B))
熱可塑性樹脂(B)は、EVOH(A)と反応可能な変性基(以下「変性基」と略記する場合がある)を有する。変性基は、通常、EVOH(A)が有する水酸基と反応可能な基であり、例えば酸性基(酸性の変性基)、エポキシ基、アミノ基、ハロゲン等が挙げられる。中でも酸性基が好ましい。酸性基としては、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)等が挙げられる。また、酸性基には、酸無水物基も含まれるものとする。酸無水物基とは、2つの酸性基が脱水縮合した基であり、例えば-CO-O-CO-で表されるカルボン酸無水物基が挙げられる。酸性基の中でも、カルボキシ基及びカルボン酸無水物基が好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂(B)の中でも、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されている熱可塑性樹脂がより好ましい。この場合、熱可塑性樹脂(B)は、変性基として、不飽和カルボン酸又はその誘導体に由来するカルボキシ基又はカルボン酸無水物基を有することとなる。不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられる。不飽和カルボン酸又はその誘導体の中でも、無水マレイン酸が、反応性の観点などからより好ましい。すなわち、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されている熱可塑性樹脂の中でも、無水マレイン酸変性体が好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂(B)の酸価の下限は1mgKOH/gが好ましく、3mgKOH/gがより好ましく、5mgKOH/gがさらに好ましく、7mgKOH/gがよりさらに好ましく、10mgKOH/gが特に好ましい。一方、熱可塑性樹脂(B)の酸価の上限は20mgKOH/gが好ましく、16mgKOH/gがより好ましく、14mgKOH/gがさらに好ましいこともある。熱可塑性樹脂(B)の酸価が上記範囲である場合、メルトテンションがより高まり、成形性、特にブロー成形性がより高まる傾向にある。なお、酸価は、JIS K0070:1992に記載の中和滴定法において、測定する樹脂を溶解する溶剤をキシレンに変更して測定される値とする。
【0037】
熱可塑性樹脂(B)は、変性基を有するα-オレフィン系重合体又は変性基を有する熱可塑性エラストマーであることが好ましく、変性基を有するα-オレフィン系重合体であることがより好ましく、変性基を有するα-オレフィン共重合体がさらに好ましい。なお、α-オレフィン系重合体とは、α-オレフィンを単量体として含む重合体であり、例えばα-オレフィンの単独重合体、2種以上のα-オレフィンの共重合体、及びα-オレフィンと他の単量体との共重合体等が含まれる。
【0038】
変性基を有するα-オレフィン共重合体(変性α-オレフィン共重合体)としては特に限定されず、変性基を有するエチレン-プロピレン共重合体、変性基を有するエチレン-ブテン共重合体、変性基を有するプロピレン-ブチレン共重合体、変性基を有するブチレン-エチレン共重合体等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を組み合わせても良い。中でも、柔軟性に優れ、本発明の樹脂組成物から得られる成形体及び層構造体の耐屈曲性が向上する観点から、変性基を有するエチレン-プロピレン共重合体及び変性基を有するエチレン-ブテン共重合体が好ましい。また、変性基を有するα-オレフィン共重合体は、酸変性α-オレフィン共重合体が好ましく、無水マレイン酸変性α-オレフィン共重合体がより好ましい。
【0039】
変性基を有するα-オレフィン系重合体は、ゴム弾性を有する重合体(エラストマー)であってもよく、ゴム弾性を有さない重合体であってもよい。また、変性基を有するα-オレフィン系重合体は、公知の方法により製造することができる。変性基を有するα-オレフィン系重合体は、市販品を用いてもよい。
【0040】
上記変性基を有する熱可塑性エラストマー(変性熱可塑性エラストマー)としては、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー、変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、変性ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、変性ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0041】
ここで、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル又はポリエステルを備えるマルチブロックコポリマーである。なお、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、分子構造の違いによって次のようなタイプに分けることができ、ポリエステル・ポリエーテル型とポリエステル・ポリエステル型が主流を占めている。
(1)ポリエステル・ポリエーテル型
一般には、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとしてポリエーテルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(2)ポリエステル・ポリエステル型
ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(3)液晶性
ハードセグメントとして剛直な液晶分子を、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
【0042】
上記ポリエステルセグメントとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸等のジカルボン酸成分と、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等のジオール成分とから形成されるポリエステルセグメントが挙げられる。上記ポリエーテルセグメントとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等の脂肪族ポリエーテルセグメントが挙げられる。
【0043】
変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、上述したポリエステル系熱可塑性エラストマーにおいて変性基を有するものを意味し、無水マレイン酸変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0044】
ここでポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、通常、ハードセグメントとしてスチレン系重合体ブロック(Hb)を、ソフトセグメントとして共役ジエン系重合体ブロック又はその水添ブロック(Sb)を備える。このスチレン系熱可塑性エラストマーの構造としては、Hb-Sbで表されるジブロック構造、Hb-Sb-Hb若しくはSb-Hb-Sbで表されるトリブロック構造、Hb-Sb-Hb-Sbで表されるテトラブロック構造、又はHbとSbとが計5個以上直鎖状に結合しているポリブロック構造であってもよい。
【0045】
スチレン系重合体ブロック(Hb)に使用されるスチレン系モノマーは、スチレン及びその誘導体等が挙げられ、例えばスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t-ブトキシスチレン等のスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などが挙げられる。中でもスチレンが好ましい。スチレン系モノマーは1種のみでも良く、2種以上であっても良い。
【0046】
また、上記共役ジエン系重合体ブロック又はその水添ブロック(Sb)に使用される共役ジエン化合物は、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン等が挙げられる。中でも、ブタジエンが好ましい。共役ジエン化合物は1種のみでも良く、2種以上であっても良い。さらに、他の共単量体、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレンを共重合することもできる。また、共役ジエン系重合体ブロックは、部分的又は完全に水素添加されている水素添加体であっても良い。
【0047】
変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、上述したポリスチレン系熱可塑性エラストマーにおいて変性基を有するものを意味し、具体例としては、変性スチレン-イソプレンジブロック共重合体、変性スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、変性スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、変性スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体、及び変性スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体並びにその水素添加体が挙げられる。中でも、変性スチレン-イソプレンジブロック共重合体の水素添加体、変性スチレン-ブタジエンジブロック共重合体の水素添加体、変性スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体、変性スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体、及び変性スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。上記変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0048】
ここで、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、(1)短鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるハードセグメントと、(2)長鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるソフトセグメントとを備える直鎖状のマルチブロックコポリマーである。ここで、ポリウレタンとは、イソシアネート(-NCO)とアルコール(-OH)との重付加反応(ウレタン化反応)で得られるウレタン結合(-NHCOO-)を有する化合物の総称である。
【0049】
変性ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、上述したポリウレタン系熱可塑性エラストマーにおいて変性基を有するものを意味し、無水マレイン酸変性ポリウレタン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0050】
ここで、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ハードセグメントとしてポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンブロックを、ソフトセグメントとしてエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のゴムブロックを備える熱可塑性エラストマー等が含まれる。なお、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ブレンド型とインプラント化型がある。
【0051】
変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、上述したポリオレフィン系熱可塑性エラストマーにおいて変性基を有するものを意味し、例えば、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン-1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン等が挙げられ、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0052】
ここで、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するポリアミド成分は、ナイロン6,66,610,11,12等から選択され、ナイロン6、ナイロン12が主体を占めている。ソフトセグメントの構成物質には、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール等の長鎖ポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールの代表例には、ジオールポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールの代表例には、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン-1,4-アジペート)グリコール等が挙げられる。
【0053】
変性ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、上述したポリアミド系熱可塑性エラストマーにおいて変性基を有するものを意味し、無水マレイン酸変性ポリアミド系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0054】
変性熱可塑性エラストマー(変性基を有する熱可塑性エラストマー)としては、酸変性熱可塑性エラストマーが好ましく、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマーがより好ましい。変性基を有する熱可塑性エラストマーは、公知の方法により製造することができる。変性基を有する熱可塑性エラストマーは、市販品を用いてもよい。
【0055】
熱可塑性樹脂(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
本発明の樹脂組成物における熱可塑性樹脂(B)の含有量の下限は10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。一方、本発明の樹脂組成物における熱可塑性樹脂(B)の含有量の上限は50質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(B)の含有量を上記範囲内とすることで、メルトテンションがより高まり、成形性、特にブロー成形性がより高まる傾向にある。
【0057】
(混合比率等)
EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)の下限は50/50であり、55/45が好ましく、60/40がより好ましい。一方、EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比(A/B)の上限は90/10であり、85/15が好ましく、80/20がより好ましい。EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との混合比率を上記範囲とすることで、メルトテンションを高め、良好なブロー成形性を発揮することができ、ガスバリア性も良好な状態とすることができる。
【0058】
本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計含有量の下限としては90質量%が好ましく、99質量%がより好ましく、99.9質量%又は99.99質量%がさらに好ましいこともある。EVOH(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計含有量を高めることで、より良好な成形性、ガスバリア性等が発揮されることがある。
【0059】
(その他添加剤)
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、EVOH(A)及び熱可塑性樹脂(B)とは異なる樹脂、金属塩、酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、充填材、各種繊維などの補強材等、他の成分を有していてもよい。中でも、熱安定性や他の樹脂との接着性の観点から、金属塩及び酸を含むことが好ましい。
【0060】
金属塩としては、層間接着性を高める観点からはアルカリ金属塩が好ましく、熱安定性の観点からはアルカリ土類金属塩が好ましい。本発明の樹脂組成物が金属塩を含む場合、その含有量は金属塩の金属原子換算で1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましく、10ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上が特に好ましい。また金属塩の含有量は樹脂組成物に対し金属塩の金属原子換算で10000ppm以下が好ましく、5000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、500ppm以下が特に好ましい。金属塩の含有量が上記範囲にあると、層間接着性を良好に保ちつつ、リサイクルを行った際の熱安定性が良好となる傾向になる。
【0061】
上記酸としては、カルボン酸化合物又はリン酸化合物が溶融成形時の熱安定性を高める観点から好ましい。本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物を含む場合、カルボン酸の含有量は樹脂組成物に対し1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。また、カルボン酸の含有量は10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。また、リン酸化合物を含む場合、リン酸化合物の含有量は樹脂組成物に対し1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量は10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物又はリン酸化合物を上記範囲内で含むと、溶融成形時の熱安定性が良好になる傾向にある。
【0062】
本発明の樹脂組成物が上記ホウ素化合物を含む場合、その含有量は樹脂組成物に対し1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。また、ホウ素化合物の含有量は2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲内であると、溶融成形時の熱安定性が良好になる傾向にある。
【0063】
(樹脂組成物の物性)
本発明の樹脂組成物においては、220℃におけるメルトテンションの下限が40mNであり、50mNが好ましく、60mNがより好ましい。一方、メルトテンションの上限は、130mNであり、120mNが好ましく、110mNがより好ましい。本発明の樹脂組成物の220℃におけるメルトテンションが上記範囲であることで、良好な成形性が発揮され、特に単層でのブロー成形を容易に行うことなどができる。
【0064】
なお、「メルトテンション」は、JIS K7199:1999に準拠した試験装置(キャピラリーダイ)を用い、220℃にて溶融状態となった樹脂組成物をキャピラリーから一定速度で押し出し、これを所定速度で引き取るときの張力を測定した値である。具体的には、東洋精機製作所の「キャピログラフ1D」を用いて、測定温度220℃、キャピラリー径1mm、長さ10mm、ピストンスピード15mm/分、引取速度7.5m/分の条件にて測定した値とすることができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物のメルトテンションは、EVOH(A)のエチレン単位含有量、EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との混合比率及び混練条件などにより調整できる。具体的な混練条件の調整方法としては、例えば、単軸押出機を用いる場合には、スクリューの形状や溝深さにより樹脂滞留時間を調整したり、せん断粘度を調整したりする方法等が挙げられる。スクリュー形状としては、例えば、フルフライトスクリューやバリアスクリューなどを用いることができる。その他、混練強度を調整するために、マドックやダルメージといった形状を有するスクリューを用いてもよい。さらに、せん断速度を上げるためにスクリュー回転数を調整してもよい。また、スクリュー形状を容易に変更可能な観点から二軸押出機を用いる場合がある。二軸押出機を用いた場合には、混練強度を調整するために、ニーディングディスクの長さを調整する方法等が挙げられる。なお、混練強度を強めるなど、十分に混練を行うことで、メルトテンションは大きくなる傾向にある。
【0066】
本発明の樹脂組成物は通常乾燥物であり、その形状は特に限定されないが、通常、ペレット状や粉末状である。本発明の樹脂組成物における全樹脂成分に対する含水率は例えば10質量%以下であってもよく、1質量%以下であってよく、0.1質量%以下であってよい。なお、全樹脂成分とは、EVOH(A)、熱可塑性樹脂(B)及び任意成分としてのその他の樹脂をいう。
【0067】
本発明の樹脂組成物は、良好な成形性、特に単層のブロー成形を行う際の成形性に優れ、ガスバリア性や、破断伸度等で評価される機械特性も良好である。このため本発明の樹脂組成物は、包装材料等の溶融成形材料、特にブロー成形材料として好適に用いることができる。
【0068】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に制限されないが、例えば、EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)とを溶融条件下で十分に混合又は混練することによって製造される。
【0069】
溶融条件下における混合又は混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を使用して行うことができる。混合又は混練の時の温度は、使用するEVOH(A)及び熱可塑性樹脂(B)の融点等に応じて適宜調節すればよいが、通常160℃以上300℃以下の温度範囲内の温度を採用すればよく、180℃以上290℃以下であってもよく、200℃以上280℃以下であってもよい。
【0070】
本発明の樹脂組成物が、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物等を含有する場合、これらを含有させる方法は特に限定されない。例えば、本発明の樹脂組成物のペレット等を調製する際に組成物に添加して混練する方法が好適に採用される。添加する方法も特に限定されないが、乾燥粉末として添加する方法、溶媒を含浸させたペースト状で添加する方法、液体に懸濁させた状態で添加する方法、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法、溶液に浸漬させる方法などが例示される。中でも、均質に分散させる観点から、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法又は溶液に浸漬させる方法が好ましい。溶媒は特に限定されないが、添加剤の溶解性、コストの観点、取り扱いの容易性、作業環境の安全性等の観点から水が好適に用いられる。
【0071】
<層構造体>
本発明の一実施形態に係る層構造体は、本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する。当該層構造体は、単層であってもよく、2層以上の多層であってもよい。
【0072】
本発明の層構造体が単層である場合、当該層構造体は、本発明の樹脂組成物のみから形成される。また、当該層構造体が、多層である場合、通常、本発明の樹脂組成物から形成される層と、他の成分からなる層とを有する。当該層構造体は、シート又はフィルムなどであってよく、その他の形状に成形されたものであってもよい。
【0073】
上記他の成分からなる層としては、例えば、EVOH(A)及び熱可塑性樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂、紙、織布、不織布、金属綿条、木質面、熱可塑性樹脂から形成される層が挙げられ、中でも他の熱可塑性樹脂層が好ましい。当該層構造体の層構造は特に限定されず、本発明の樹脂組成物からなる層をE、接着層をAd、他の熱可塑性樹脂から得られる層をTで表わす場合、T/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等の構造が挙げられる。これらの各層は単層であっても多層であってもよい。
【0074】
本発明の層構造体が多層構造体である場合、その製造方法としては、例えば本発明の樹脂組物から得られる成形体(フィルム、シート等)に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、本発明の樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、本発明の樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共射出する方法、本発明の樹脂組成物から得られる層と他の熱可塑性樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。
【0075】
上記他の熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又はその共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエステルエラストマー、ナイロン-6、ナイロン-66等のポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレン及びポリエステルが好ましく用いられる。
【0076】
上記接着層としては、本発明の樹脂組成物の層及び他の熱可塑性樹脂の層との接着性を有していれば特に限定されないが、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する接着性樹脂が好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステル又はその無水物を化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を好適に用いることができる。ここでオレフィン系重合体とは、ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、オレフィンと他のモノマーとの共重合体を意味する。中でも、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチルエステル共重合体が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0077】
本発明の層構造体が単層のフィルムである場合は、従来の単層フィルムと同様の方法により製造することができる。中でも、本発明の樹脂組成物をキャスティングロール上に溶融押出するキャスト成形工程、及び/又は本発明の樹脂組成物から得られる無延伸フィルムを延伸する工程(一軸延伸工程、逐次二軸工程、同時二軸延伸工程、インフレーション成形工程)を備える方法が好ましい。
【0078】
<成形体>
本発明の一実施形態に係る成形体は、本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する。かかる成形体は、本発明の樹脂組成物のみからなる成形体であってもよい。当該成形体としては、フィルム、シート、チューブ、袋、容器等が挙げられる。なお、層構造体と成形体とは、形態として重複するものもあるが、層構造に着目したものが層構造体であり、成形の有無に着目したものが成形体である。
【0079】
本発明の成形体は、通常、本発明の樹脂組成物の溶融成形により製造することができる。この溶融成形の方法としては、例えば押出成形、キャスト成形、インフレーション押出成形、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形、射出ブロー成形等が挙げられ、中でもブロー成形を好適に採用することができる。また、溶融成形温度はEVOH(A)の融点等により異なるが、150~270℃程度が好ましい。これらの成形体は再使用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。また、フィルム、シート等を一軸又は二軸延伸することも可能である。
【0080】
本発明の成形体は、多層であっても単層であってもよいが、特に、単層のブロー成形体が好ましい。上述のように、EVOHを含む従来の樹脂組成物を用いてブロー成形を行う場合、パリソンの成形の際にドローダウンが生じやすく、ブロー成形を行い難い。このドローダウンは、EVOHを含む従来の樹脂組成物を用いてブロー成形を行うときに顕著に生じやすくなる。これに対し、本発明の樹脂組成物によれば上記ドローダウンの発生が抑制される。従って、本発明の樹脂組成物を用いた単層のブロー成形体は、成形性も良好であり、かつ、良好なガスバリア性を発揮することができる。また、当該成形体は、破断伸度等で評価される機械特性にも優れる。さらに本発明の樹脂組成物を用いた単層の成形体は、高温の使用にも耐えることができる。なお、当該成形体としては、本発明の樹脂組成物を用いた単層又は多層の溶融成形体に、他の層や他の部材が具備されたものであってもよい。
【0081】
本発明の成形体は、上述の性質が要求される日用品、包装材、機械部品等として使用することができる。上記成形体の特長が特に効果的に発揮される用途の例としては、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、高圧タンク材、ガソリンタンク材、燃料容器、飲料容器、タイヤ用チューブ材、靴用クッション材、バッグインボックス用内袋材、有機液体貯蔵用タンク材、有機液体輸送用パイプ材、暖房用温水パイプ材(床暖房用温水パイプ材等)、樹脂製壁紙等が挙げられる。中でも、燃料容器や飲料容器等の容器であることが好ましく、ガソリンタンク、灯油タンク、水素タンク等の燃料容器であることがより好ましく、水素タンクであることがさらに好ましい。なお、燃料容器には、本発明の樹脂組成物等から形成された容器本体以外に、フィルター、残量計、バッフルプレート等が備えられていてもよい。
【0082】
また、本発明の成形体は、ブロー成形容器であることが好ましく、ブロー成形燃料容器であることがより好ましく、ブロー成形水素タンクであることがさらに好ましい。これらの成形体は、多層であっても単層であってもよいが、上述のように単層であることで、本発明の樹脂組成物を用いる利点がより十分に享受できる。
【0083】
<成形体の製造方法>
本発明の一実施形態に係る成形体の製造方法は、本発明の樹脂組成物を用いてブロー成形する工程を備え、ドローダウンを抑制し、効率的にブロー成形を行うことができる。
【0084】
本発明の成形体の製造方法は、本発明の樹脂組成物を用いること以外は公知のブロー成形方法により行うことができる。例えば、公知のブロー成形機にて、100℃~400℃の温度で、例えば本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有するパリソンを用いてブロー成形し、金型内温度10℃~30℃で10秒間~30分間冷却し、全層平均厚み300μm~10,000μmの中空容器を成形することができる。上記パリソンは、本発明の樹脂組成物のみからなる単層のパリソンであってもよい。
【0085】
なお、本発明の製造方法におけるブロー成形は、単層又は多層のブロー成形であってよいが、多層のブロー成形である場合に、本発明の樹脂組成物を用いる利点がより十分に享受される。また、当該製造方法は、ブロー成形により得られたブロー成形体に対して、他の層や他の部材を設ける工程等をさらに備えていてよい。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例と比較例とを挙げて具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。なお、評価方法はそれぞれ以下の方法に従った。
【0087】
<評価方法>
(1)メルトテンション
実施例又は比較例で得られた樹脂組成物ペレットについて、JIS K7199:1999に準拠した試験装置である東洋精機製作所の「キャピログラフ1D」を用いて、メルトテンションの測定を行った。測定条件は、測定温度220℃、キャピラリー径1mm、長さ10mm、ピストンスピード15mm/分、引取速度7.5m/分とした。
【0088】
(2)破断伸度
実施例又は比較例で得られた樹脂組成物ペレットについて、JIS K7160に準拠して破断伸度を測定した。具体的には、下記「ダンベル作製方法」によって得られた1Aダンベルを用いて、-40℃/0%RH下、引張速度50mm/分にて測定した。
(ダンベル作製方法)
装置:射出成形機(日精樹脂工業の「FS-80S 12AS」)
温度条件:Hopper/C1/C2/C3/C4/Nozzle1/Nozzle2=45/200/220/220/200/210℃
金型温度:50℃
冷却時間:40秒
【0089】
(3)酸素透過量(OTR)
実施例又は比較例で得られた樹脂組成物ペレットを用いて、下記「単層フィルムの作製」に記載の条件で得られた厚み20μmの単層フィルムを20℃/65%RHの条件下で調湿したのち、酸素透過度測定装置(ModernControlの「OX-Tran2/20」)を使用し、20℃/65%RHの条件下で酸素透過度(OTR)を測定した。
(単層フィルムの作製)
単軸押出装置(東洋精機製作所の「D2020」、D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.0、スクリュー:フルフライト)を用い、上記樹脂組成物ペレットから厚み20μmの単層フィルムを作製した。押出条件は以下に示すとおりである。
押出温度:220℃
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
スクリュー回転数:45rpm
引取りロール速度:3.4m/分
【0090】
(4)ブロー成形試験
実施例又は比較例で得られた樹脂組成物ペレットについて、東洋精機製作所の「ラボプラストミル4C150」にダイス径3cmの専用アダプターを設置して、以下の「ブロー成形条件」にてブロー成形試験を実施した。このブロー成形試験において、ダイス出口から100cm地点に達するまでの時間(秒)を測定した。
(ブロー成形条件)
ラボプラストミル温度条件:C1/C2/C3/Die=190/210/210/250℃
回転速度:50rpm
【0091】
<実施例及び比較例で用いた材料>
実施例及び比較例で用いたEVOH(A)及び熱可塑性樹脂(B)は、以下の通りである。
・EVOH(A)
A-1:エバール(登録商標)L171B(株式会社クラレ製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン単位含有量27モル%、融点190℃)
A-2:エバール(登録商標)M100B(株式会社クラレ製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン単位含有量24モル%、融点195℃)
A-3:エバール(登録商標)F171B(株式会社クラレ製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン単位含有量32モル%、融点183℃)
A-4:エバール(登録商標)E171B(株式会社クラレ製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン単位含有量44モル%、融点165℃)
・熱可塑性樹脂(B)
B-1:TAFMER(商標)MH7010(三井化学株式会社製、無水マレイン酸変性エチレンブテン共重合体、酸価6mgKOH/g)
B-2:TAFMER(商標)MH7020(三井化学株式会社製、無水マレイン酸変性エチレンブテン共重合体、酸価12mgKOH/g)
B-3:Tuftec(商標)M1943(旭化成株式会社製、無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加体、酸価15mgKOH/g)
B-4:TAFMER(商標)P0610(三井化学株式会社製、エチレンプロピレン共重合体、酸価0mgKOH/g)
B-5:Estane(登録商標)58300(Lubrizol社製、TPU、酸価0mgKOH/g)
【0092】
[実施例1]
EVOH(A)としてEVOH(A-1)を60質量部、及び熱可塑性樹脂(B)として熱可塑性樹脂(B-2)を40質量部用い、ドライブレンドした後に、日本製鋼所の二軸押出機「TEX30α」(スクリュー径30mm)に供給し、溶融押出した。溶融押出は、溶融温度220℃、押出速度20kg/hrの条件で行った。押出したストランドを冷却槽で冷却固化した後に切断し、実施例1の樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットについて、上記(1)~(4)記載の方法に従ってメルトテンションの測定、破断伸度の測定、OTRの測定及びブロー成形試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0093】
[実施例2~6、比較例1~7]
EVOH(A)の種類及び配合量、並びに熱可塑性樹脂(B)の種類及び配合量を表1に記載した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを作製し、評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0094】
[比較例8]
押出速度を20kg/hrから5kg/hrに変更した以外は実施例5と同様の方法で樹脂組成物ペレットを作製し、評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1~6は、比較例1~8と比べて高いメルトテンションを有しており、ブロー成形試験においても高い値を示している。ブロー成形試験の結果から、実施例1~6の樹脂組成物によれば、ブロー成形によるパリソン成形においてドローダウンを抑制できることがわかる。また、実施例1~6の樹脂組成物は、ガスバリア性も高く、十分な機械特性を有する成形体が得られることがわかる。なお、実施例間で比較すると、実施例3は、実施例1と比べてエチレン単位含有量が少ないため、高いメルトテンションを有し、ブロー成形でのドローダウンをより抑制できることがわかる。また、実施例3は、実施例1と比べてエチレン単位含有量が少ないため、ガスバリア性も高い。
【0097】
一方で、比較例1のように変性基を有する熱可塑性樹脂(B)を含まない場合、比較例2のように熱可塑性樹脂(B)の酸価が低い場合、比較例3及び4のように、EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との質量比が50/50~90/10の範囲外となる場合、比較例5及び6のようにEVOHと反応可能な変性基を有さない熱可塑性樹脂を用いた場合、及び比較例7のようにエチレン単位含有量が高いEVOH(A)を用いた場合は、メルトテンションが低い値となる。また、比較例8のように混練強度を弱くした場合も、メルトテンションが低くなる。この要因は定かでは無いが、EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)との反応が不十分であり、かつ、分散が不十分であることが要因であると推測される。これらの比較例1~8のように、メルトテンションが低い場合、ブロー成形試験における測定値が小さく、ドローダウンが生じやすいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の樹脂組成物は、燃料容器、特に水素タンク等に好適に使用できる。