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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】降雨減衰予測装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/309 20150101AFI20220819BHJP
   G01W 1/10 20060101ALI20220819BHJP
   H04B 7/15 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
H04B17/309
G01W1/10 P
H04B7/15
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018229615
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020092367
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔集会名〕 かんさい放送と技術フォーラム2018 〔開催日〕 2018年5月17日 〔場所〕 NHK大阪放送局17階会議室
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】丸本 雅人
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-321235(JP,A)
【文献】特開平05-307080(JP,A)
【文献】特開2005-106601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0222179(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/309
G01W 1/10
H04B 7/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定箇所の降雨による電波の減衰を予測する降雨減衰予測装置において、
実際に所定時間毎かつ所定領域毎に観測された降水強度を受信し、当該降水強度をメモリに格納する受信部と、
前記メモリに格納された最新の前記降水強度及び雨雲の所定の移動速度及び移動方向に基づいて、現時点から所定の予測時間までの間の前記所定箇所における電波の減衰を降雨減衰量として予測する予測部と、を備え、
前記予測部は、
前記移動速度及び前記移動方向に基づいて、現時点から前記予測時間までの間で前記所定箇所を通過することが予測される前記雨雲による前記降水強度をソートするための領域をソート範囲として設定するソート範囲設定部と、
前記メモリから最新の前記降水強度を読み出し、前記ソート範囲設定部により設定された前記ソート範囲内で前記降水強度をソートし、前記所定箇所の最大降水強度を特定する降水強度ソート部と、
前記降水強度ソート部により特定された前記最大降水強度に基づいて、前記所定箇所の前記降雨減衰量を予測する降雨減衰量予測部と、を備えたことを特徴とする降雨減衰予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の降雨減衰予測装置において、
前記移動速度及び前記移動方向はユーザにより予め設定される、ことを特徴とする降雨減衰予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の降雨減衰予測装置において、
前記ユーザにより予め設定される前記移動速度を、前記所定箇所において過去に観測された最大移動速度とし、
前記ユーザにより予め設定される前記移動方向を、前記所定箇所において過去に観測された複数の方向とする、ことを特徴とする降雨減衰予測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の降雨減衰予測装置において、
さらに、前記メモリから最新の前記降水強度及び過去の前記降水強度を読み出し、最新の前記降水強度における前記所定箇所を含む第1領域の分布と、過去の前記降水強度における前記第1領域と同じサイズの第2領域の分布との間でのマッチングを行い、前記第2領域を所定距離分順次シフトさせることで前記第1領域の分布と前記第2領域の分布との間の差が最小となる前記第2領域を特定し、前記第1領域及び前記差が最小となる前記第2領域に基づいて、前記移動速度及び前記移動方向を設定する移動パターン設定部を備えたことを特徴とする降雨減衰予測装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の降雨減衰予測装置において、
さらに判定部を備えると共に、前記予測部はさらに受信レベル予測部を備え、
前記受信レベル予測部は、
前記所定箇所において降雨がないときの前記電波の受信レベルを基準受信レベルとして、当該基準受信レベル及び前記降雨減衰量予測部により予測された前記降雨減衰量に基づいて、前記所定箇所の前記受信レベルを予測し、
前記判定部は、
前記受信レベル予測部により予測された前記受信レベル及び所定の閾値に基づいて、前記所定箇所の放送が途切れる可能性を判定する、ことを特徴とする降雨減衰予測装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から5までのいずれか一項に記載の降雨減衰予測装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雨による電波の減衰を測定する技術に関し、特に、降雨による電波の減衰(以下、「降雨減衰」という。)を予測する降雨減衰予測装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図13は、放送ネットワークを説明する概略図である。この放送ネットワーク100は、放送局(演奏所)101、放送所(親局)102及び中継局103-1,103-2等により構成される。放送ネットワーク100は、STL(Studio to Transmitter Link)回線及びTTL(Transmitter to Transmitter Link)回線を用いることで、放送所(親局)102または中継局103-1,103-2等から各家庭に設置された受信機へ放送波を送信する。これにより、家庭内の視聴者は映像を視聴することができる。
【0003】
STL回線は、放送局(演奏所)101から放送所(親局)102へ放送内容を送信するためのマイクロ波を用いた無線回線であり、TTL回線は、放送所(親局)102から中継局103-1,103-2等へ放送内容を送信するためのマイクロ波を用いた無線回線である。
【0004】
ところで、近年は豪雨の発生頻度が増加しており、図13に示したSTL回線またはTTL回線等において、豪雨による電波の受信レベルの低下が増加傾向にある。
【0005】
このような電波の受信レベルを測定する技術として、電波の減衰量を算出する手法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
この手法は、実際に10分毎に観測された地点の降雨強度に基づいて、10分毎の降雨強度の確率分布を対数正規分布で近似し、降雨強度分布データを生成し、降雨強度分布データに基づいて電波の減衰量を算出し、この確率分布を示す減衰量分布データを生成する。そして、生成した減衰量分布データ、外部から入力した1時間雨量の予測値、及び、1時間あたりで放送が遮断されない時間を示す要求放送時間データに基づいて、降雨マージンを算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-246375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図13に示した放送ネットワーク100において、STL回線またはTTL回線にて降雨減衰が発生すると、放送局(演奏所)101、放送所(親局)102または中継局103-1,103-2等から送信された電波の受信レベルが低下し、放送が途切れる可能性がある。つまり、STL回線またはTTL回線において降雨減衰が発生すると、放送局(演奏所)101にて制作された番組等の映像が視聴者へ届かないことがあり得る。
【0009】
このため、STL回線またはTTL回線における降雨減衰を事前に予測することが所望されていた。降雨減衰を予測することにより、使用回線を、通常のSTL回線またはTTL回線から、別に用意された予備回線がある場合にはその予備回線に切り替えることで、放送の途切れを回避することができるからである。
【0010】
このような降雨減衰を予測するために、前述の特許文献1の手法を用いることが想定される。しかし、この手法は、減衰量分布データを生成する際に、所定時間毎の降雨強度の確率分布を対数正規分布で近似する必要があるため、降雨減衰を予測するための処理が複雑になり負荷が高いという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、降雨減衰を簡易かつ確実に予測可能な降雨減衰予測装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、請求項1の降雨減衰予測装置は、所定箇所の降雨による電波の減衰を予測する降雨減衰予測装置において、実際に所定時間毎かつ所定領域毎に観測された降水強度を受信し、当該降水強度をメモリに格納する受信部と、前記メモリに格納された最新の前記降水強度及び雨雲の所定の移動速度及び移動方向に基づいて、現時点から所定の予測時間までの間の前記所定箇所における電波の減衰を降雨減衰量として予測する予測部と、を備え、前記予測部が、前記移動速度及び前記移動方向に基づいて、現時点から前記予測時間までの間で前記所定箇所を通過することが予測される前記雨雲による前記降水強度をソートするための領域をソート範囲として設定するソート範囲設定部と、 前記メモリから最新の前記降水強度を読み出し、前記ソート範囲設定部により設定された前記ソート範囲内で前記降水強度をソートし、前記所定箇所の最大降水強度を特定する降水強度ソート部と、前記降水強度ソート部により特定された前記最大降水強度に基づいて、前記所定箇所の前記降雨減衰量を予測する降雨減衰量予測部と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項2の降雨減衰予測装置は、請求項1に記載の降雨減衰予測装置において、前記移動速度及び前記移動方向はユーザにより予め設定される、ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3の降雨減衰予測装置は、請求項2に記載の降雨減衰予測装置において、前記ユーザにより予め設定される前記移動速度を、前記所定箇所において過去に観測された最大移動速度とし、前記ユーザにより予め設定される前記移動方向を、前記所定箇所において過去に観測された複数の方向とする、ことを特徴とする。
【0015】
また、請求項4の降雨減衰予測装置は、請求項1に記載の降雨減衰予測装置において、さらに、前記メモリから最新の前記降水強度及び過去の前記降水強度を読み出し、最新の前記降水強度における前記所定箇所を含む第1領域の分布と、過去の前記降水強度における前記第1領域と同じサイズの第2領域の分布との間でのマッチングを行い、前記第2領域を所定距離分順次シフトさせることで前記第1領域の分布と前記第2領域の分布との間の差が最小となる前記第2領域を特定し、前記第1領域及び前記差が最小となる前記第2領域に基づいて、前記移動速度及び前記移動方向を設定する移動パターン設定部を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項5の降雨減衰予測装置は、請求項1から4までのいずれか一項に記載の降雨減衰予測装置において、さらに判定部を備えると共に、前記予測部はさらに受信レベル予測部を備え、前記受信レベル予測部が、前記所定箇所において降雨がないときの前記電波の受信レベルを基準受信レベルとして、当該基準受信レベル及び前記降雨減衰量予測部により予測された前記降雨減衰量に基づいて、前記所定箇所の前記受信レベルを予測し、前記判定部が、前記受信レベル予測部により予測された前記受信レベル及び所定の閾値に基づいて、前記所定箇所の放送が途切れる可能性を判定する、ことを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項6のプログラムは、コンピュータを、請求項1から5までのいずれか一項に記載の降雨減衰予測装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、降雨減衰を簡易かつ確実に予測することができる。そして、降雨減衰の発生を予測することにより、例えば使用回線を、通常のSTL回線またはTTL回線から、別に用意された予備回線がある場合にはその予備回線に切り替えることで、放送の途切れを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1,2の降雨減衰予測装置を含む全体システムの概略図である。
図2】実施例1の降雨減衰予測装置の構成例を示すブロック図である。
図3】実施例1の降雨減衰予測装置の処理例を示すフローチャートである。
図4】予測部の構成例を示すブロック図である。
図5】(1)は、ソート範囲Cを説明する図である。(2)は、ソートにより得られた最大降水強度を説明する図である。
図6】9通りの移動方向Aが設定された場合の例を説明する図である。
図7】5分毎の気象データのみを用いた場合、降雨減衰の発生を見逃す可能性があることを説明する図である。
図8】表示画面の例を示す図である。
図9】実施例2の降雨減衰予測装置の構成例を示すブロック図である。
図10】実施例2の降雨減衰予測装置の処理例を示すフローチャートである。
図11】移動パターン設定処理例を説明する図である。
図12】実施例1の実験結果を示す図である。
図13】放送ネットワークを説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、実施例1,2の降雨減衰予測装置を含む全体システムの概略図である。この降雨減衰予測システムは、サーバ104及び降雨減衰予測装置1,2を備えて構成される。サーバ104と降雨減衰予測装置1,2とは、インターネット105を介して接続される。
【0021】
サーバ104は、一般財団法人気象業務支援センターに設置された装置であり、気象データ(5分毎1kmメッシュ全国合成レーダーGPV(Grid Point Value:格子点値))を、インターネット105を介してFTP通信にて降雨減衰予測装置1,2へ送信する。
【0022】
気象庁は、全国で20台の気象レーダーを用いて、約1kmメッシュ(1km2)の領域単位の換算降水強度[mm/h]を観測している。サーバ104は、この1kmメッシュ単位の換算降水強度を、5分毎の気象データ(以下、「5分毎1kmメッシュ降水強度の気象データ」という。)として、ユーザの装置(例えば降雨減衰予測装置1,2)へ配信している。換算降水強度は、瞬間的な雨や雪の強さを1時間あたりに換算した値である。
【0023】
降雨減衰予測装置1,2は、サーバ104から5分毎1kmメッシュ降水強度の気象データを受信する。そして、降雨減衰予測装置1,2は、現在(最新)の5分毎の降水強度及び雨雲の移動パターンに基づいて、現時点から予測時間までの間に所定箇所を通過するであろう(通過することが予測される)雨雲による最大降水強度を予測する。降雨減衰予測装置1,2は、最大降水強度から降雨減衰量を算出し、所定の対象箇所の回線受信レベルを予測する。
【0024】
所定箇所は、例えば、図13に示した放送局(演奏所)101、放送所(親局)102及び中継局103-1,103-2等の間のSTL回線またはTTL回線(以下、「対象回線」という。)である。
【0025】
以下に説明する実施例1の降雨減衰予測装置1は、ユーザの操作により予め設定された雨雲の移動パターン(移動速度及び移動方向)を用いて、降雨減衰を予測する。具体的には、降雨減衰予測装置1は、実際に観測された所定時間毎(本例では5分毎)の降水強度を取得する。そして、降雨減衰予測装置1は、5分毎の降水強度及び予め設定された移動パターンに基づいて、現時点から予測時間までの間に対象回線を通過するであろう雨雲による最大降水強度を予測し、最大降水強度から降雨減衰量を算出して回線受信レベルを予測する。降雨減衰予測装置1は、回線受信レベル及び予め設定された閾値に基づいて、放送の途切れの可能性を判定する。
【0026】
これにより、従来の対数正規分布で近似する等の処理(特許文献1の処理)が不要になるから、降雨減衰を簡易な処理にて予測することができる。また、現時点から予測時間までの間に対象回線を通過する雨雲に着目するようにしたから、所定時間毎の降水強度から直接的に降雨減衰を予測する処理とは異なり、降雨減衰を見逃すことなく確実に予測することができる。そして、放送の途切れの可能性があると判定すると、使用している対象回線を、別に用意された予備回線がある場合にはその予備回線に切り替えることで、放送の途切れを回避することが可能となる。
【0027】
また、実施例2の降雨減衰予測装置2は、実際に観測された所定時間毎の降水強度を取得し、5分毎の降水強度に基づいて雨雲の移動パターンを設定する。降雨減衰予測装置2は、5分毎の降水強度及び設定した移動パターンに基づいて、実施例1と同様の処理にて、回線受信レベルを予測し、放送の途切れの可能性を判定する。
【0028】
これにより、雨雲の移動パターンは、ユーザの操作により予め設定されるのではなく、実際に観測された降水強度を用いて設定されるから、降雨減衰を精度高く予測することができ、放送の途切れを確実に回避することが可能となる。
【0029】
〔実施例1〕
まず、実施例1について説明する。前述のとおり、実施例1は、予め設定された雨雲の移動パターンを用いて、実際に観測された5分毎の降水強度に基づき、対象回線を通過するであろう雨雲による最大降水強度を予測し、最大降水強度から降雨減衰量を算出して回線受信レベルを予測する。そして、放送の途切れの可能性を判定する。
【0030】
図2は、実施例1の降雨減衰予測装置1の構成例を示すブロック図であり、図3は、実施例1の降雨減衰予測装置1の処理例を示すフローチャートである。この降雨減衰予測装置1は、受信部10、メモリ11、予測部12、判定部13及び表示部14を備えている。
【0031】
受信部10は、一般財団法人気象業務支援センターに設置されたサーバ104から、5分毎1kmメッシュ降水強度の気象データを受信し、気象データをメモリ11に格納する(ステップS301)。メモリ11には、最新の気象データ及び過去の気象データが格納される。気象データは、5分毎の時刻、1kmメッシュの地点、及び降水強度からなる。ステップS301の処理は、常時実行される。
【0032】
予測部12は、ユーザにより予め設定された移動パターンを入力する(ステップS302)。また、予測部12は、ユーザにより予め設定された予測時間、回線地点情報、周波数情報等を入力し、メモリ11から気象データを読み出す。
【0033】
ここで、移動パターンは、雨雲の移動速度及び移動方向からなり、実施例1ではユーザにより予め設定され、後述する実施例2では、受信した気象データに基づいて現時点のデータとして算出される。回線地点情報は、対象回線を特定するための情報である。移動パターンの詳細については後述する。また、回線地点情報、周波数情報等の詳細についても後述する。
【0034】
移動パターン、予測時間、回線地点情報、周波数情報等は、ユーザの操作に従い変更することが可能である。予測部12は、ユーザの操作により移動パターン等が変更された場合、変更後の移動パターン等を即座に入力し、変更後の移動パターン等を、後述する処理に用いる。また、メモリ11に格納される気象データが5分毎に更新されるため、予測部12は、気象データが更新されたタイミングで、最新の気象データを読み出す。
【0035】
予測部12は、移動パターンに基づいて、現時点から予測時間までの間で対象回線を通過するであろう現時点の雨雲による降水強度をソートするためのエリア(現時点の雨雲のエリア)を、ソート範囲として設定する(ステップS303)。これにより、対象回線を基準としたソート範囲が設定される。
【0036】
予測部12は、最新の気象データを用いて、ソート範囲内で最大降水強度を特定する(ステップS304)。これにより、現時点から予測時間までの間で対象回線を通過するであろう雨雲による最大降水強度が特定される。
【0037】
予測部12は、最大降水強度から降雨減衰量を算出する(ステップS305)。これにより、現時点から予測時間までの間の対象回線における最大降水強度に対応する降雨減衰量が得られる。
【0038】
予測部12は、基準受信レベル及び降雨減衰量から回線受信レベルを予測する(ステップS306)。これにより、現時点から予測時間までの間の対象回線における最大降水強度に対応する回線受信レベルが予測される。
【0039】
予測部12は、回線受信レベルの予測値を判定部13に出力すると共に、現時点の降水強度、回線地点情報、回線受信レベル(回線受信レベルの予測値)等を表示データとして表示部14に出力する。予測部12の処理の詳細については後述する。
【0040】
判定部13は、予測部12から回線受信レベルの予測値を入力し、回線受信レベルの予測値と、ユーザにより予め設定された閾値とを比較し、放送の途切れの可能性の有無を判定する。判定部13は、回線受信レベルの予測値が閾値以下の場合、放送が途切れる可能性があると判定し、放送が途切れる可能性があることを示す警報を生成して表示部14及び外部へ出力する(ステップS307)。
【0041】
閾値は、対象回線の放送局(演奏所)101、放送所(親局)102または中継局103-1,103-2等において放送が途切れる可能性があることを示す値であるから、判定部13により、回線受信レベルの予測値が、放送が途切れる可能性のある値(警戒レベル)まで低下するか否かが判定される。これにより、警報が外部へ出力されることで、放送の途切れの可能性があることを、例えば音声にてユーザへ通知することができる。
【0042】
判定部13は、回線受信レベルの予測値が閾値よりも大きい場合、放送の途切れの可能性がないと判定する。判定部13は、放送の途切れの可能性の有無を示す判定結果を外部へ出力する。
【0043】
予測部12による回線受信レベルの予測処理及び判定部13による放送の途切れの可能性の判定処理は、回線地点情報が複数の対象回線を示している場合、複数の対象回線のそれぞれについて行われるものとする。閾値は、対象回線毎に設定されるものとし、周波数情報等についても同様である。
【0044】
表示部14は、予測部12から表示データを入力すると共に、判定部13から警報を入力し、表示データ及び警報を画面表示する。表示データ及び警報の画面表示は常に更新されるものとする。これにより、ユーザは、現時点の降水強度、対象回線、回線受信レベルの予測値等を認識することができ、放送の途切れの可能性の有無について認識することができる。表示部14により表示される画面例については後述する。
【0045】
尚、予測部12は、ユーザの操作に従い、メモリ11から過去の気象データを読み出し、そのときの最大降水強度を求め、降雨減衰量を算出し、回線受信レベルを予測するようにしてもよい。この場合、判定部13は、そのときの放送の途切れの可能性の有無を判定し、表示部14は、そのときの表示データ及び警報を画面表示する。
【0046】
また、降雨減衰予測装置1は、ユーザの操作に従い、ユーザにより指定された期間の降雨減衰量及び回線受信レベルの予測値、表示データ等を、例えばエクセル(Excel(登録商標))ファイル等の形式で出力するようにしてもよい。
【0047】
(予測部12)
次に、図2に示した予測部12について詳細に説明する。前述のとおり、予測部12は、予め設定された移動パターンを入力し、ソート範囲を設定し、ソート範囲内で最大降水強度を特定し、降雨減衰量を算出し、回線受信レベルを予測する一連の処理(図3に示したステップS302~S306の処理)を行う。
【0048】
図4は、予測部12の構成例を示すブロック図である。この予測部12は、ソート範囲設定部20、降水強度ソート部21、降雨減衰量予測部22及び受信レベル予測部23を備えている。
【0049】
ソート範囲設定部20は、予め設定された移動パターンを入力すると共に、予め設定された予測時間及び回線地点情報を入力し、回線地点情報から対象回線を特定する。
【0050】
予測時間は、回線受信レベルが予測される時間を示す。つまり、現時点を基準として、当該予測時間までの間の回線受信レベル(最低の回線受信レベル)が予測される。回線地点情報は、電波の送信地点を示す放送局(演奏所)101、放送所(親局)102等に関する情報、及び電波の受信地点を示す放送所(親局)102、中継局103-1等に関する情報からなる。
【0051】
ソート範囲設定部20は、移動パターンに基づいて、現時点から予測時間までの間で対象回線を通過するであろう現時点の雨雲による降水強度をソートするためのソート範囲を設定する。そして、ソート範囲設定部20は、ソート範囲を降水強度ソート部21に出力する。
【0052】
図5(1)は、ソート範囲Cを説明する図であり、雨雲が真東へ移動する場合の例を示している。電波の送信地点(送信局)を回線地点α1、電波の受信地点(受信局)を回線地点α2、送信局の回線地点α1と受信局の回線地点α2との間の伝搬路を対象回線βとする。また、雨雲の移動方向をA、ソート方向をB、ソート範囲をC、雨雲の移動距離をL、1kmメッシュの領域をそれぞれM1~M31とする。1kmメッシュの領域において、黒塗りの領域は降水強度が高いことを示し、黒点の領域は降水強度が中程度であることを示し、空白の領域は降水強度が低いことを示す。
【0053】
ソート範囲設定部20は、移動パターンに含まれる移動速度に予測時間を乗算し、移動距離Lを求める。そして、ソート範囲設定部20は、移動パターンに含まれる移動方向(雨雲の移動方向A)の反対方向をソート方向Bに設定し、対象回線βを基準として、ソート方向Bへ移動距離Lだけ移動させた際の移動範囲を求める。これにより、対象回線βが示す直線と、ソート方向Bの移動距離Lが示す直線とで囲まれた四角形の移動範囲が求められる。ソート範囲設定部20は、移動範囲と重なる1kmメッシュの範囲を、ソート範囲Cに設定する。図5(1)では、ソート範囲Cとして1kmメッシュM1~M31が設定される。
【0054】
尚、移動パターンに含まれる移動速度は、降雨減衰を精度高く予測するために、降雨減衰を見逃さない速度である必要があり、過去に観測された雨雲の速度の上限値(最大移動速度)が設定される。例えば、対象回線β付近を過去に通過した台風の最大速度(例えば60[km/h])が設定される。移動速度が実際の雨雲の速度よりも速い値に設定されると、降雨減衰を見逃す可能性は減少するが、設定された移動速度が速すぎる場合、予測誤差が大きくなるため、移動速度は適切な値に設定される必要がある。また、移動パターンに含まれる移動方向は、降雨減衰を精度高く予測するために、過去に観測された雨雲の方向を考慮して設定される。
【0055】
図4に戻って、降水強度ソート部21は、ソート範囲設定部20からソート範囲を入力すると共に、メモリ11から最新の気象データを読み出し、気象データを用いて、ソート範囲内で1kmメッシュの最大降水強度を特定する。そして、降水強度ソート部21は、最大降水強度(対象回線の最大降水強度)を降雨減衰量予測部22に出力する。
【0056】
図5(2)は、図5(1)に示したソート範囲Cのソートにより得られた最大降水強度を説明する図である。
【0057】
降水強度ソート部21は、雨雲の移動方向Aに対して反対方向をソート方向Bに設定し、対象回線βを通過する1kmメッシュM1~M31毎に、ソート範囲C内のソート方向Bに、気象データが示す降水強度をソートし、1kmメッシュの最大降水強度を特定する。この最大降水強度は、現時点から予測時間までの間で対象回線βを通過するであろう雨雲による最大の降水強度である。
【0058】
具体的には、降水強度ソート部21は、ソート範囲C内の1kmメッシュM1~M31のうち、対象回線βに重なっている1kmメッシュM10,M20,M21,M31を特定する。そして、降水強度ソート部21は、対象回線βに重なっている1kmメッシュM10について、ソート範囲C内のソート方向Bの1kmメッシュM1~M10におけるそれぞれの降水強度をソートし、これらの降水強度のうち最大の降水強度を特定する。そして、降水強度ソート部21は、1kmメッシュM10の降水強度を、特定した最大の降水強度に置き換える。
【0059】
同様に、降水強度ソート部21は、対象回線βに重なっている1kmメッシュM20,M21,M31のそれぞれについて、ソート範囲C内のソート方向Bへ降水強度をソートし、最大の降水強度を特定する。そして、降水強度ソート部21は、1kmメッシュM20,M21,M31の降水強度を、特定したそれぞれの最大の降水強度に置き換える。降水強度ソート部21は、置き換え後の1kmメッシュM10,M20,M21,M31の降水強度(最大の降水強度)のうち最も大きい降水強度を、対象回線βの最大降水強度として特定する。
【0060】
これにより、現時点から予測時間までの間で対象回線βを通過するであろう雨雲による最大降水強度が得られる。
【0061】
ここで、移動パターンに含まれる移動方向Aは、降雨減衰を精度高く予測するために、降雨減衰を見逃さない方向である必要があり、複数の方向が設定されることが望ましい。
【0062】
図6は、9通りの移動方向Aが設定された場合の例を説明する図であり、ソート範囲設定部20が9通りの移動パターンを入力した場合を示している。降雨減衰の発生を見逃さないようにするためには、雨雲の移動速度だけでなく移動方向Aも適切に設定されることが望ましい。
【0063】
そこで、本発明者らは、雨雲の移動方向Aについて、過去に観測した雨雲の移動傾向を鋭意検討し、降雨減衰の予測実験を繰り返した。その結果、図6の上下左右を北南西東として、図6に示す9通りの移動方向Aを設定することが降雨減衰を精度高く予測するために有用であることを見出した。
【0064】
図6に示すように、移動方向Aは、北東から南東までの間において、図5に示した雨雲が真東に移動する場合に加え、合計9通りの方向からなる。
【0065】
降水強度ソート部21は、図6に示すように、9通りの移動方向Aについてソート範囲Cをそれぞれ設定する。そして、降水強度ソート部21は、9通りのソート範囲Cのそれぞれについて、前述と同様の処理を行い、対象回線βの最大降水強度を特定する。降水強度ソート部21は、9通りの移動方向Aのそれぞれについて、対象回線βの最大降水強度を降雨減衰量予測部22に出力する。
【0066】
図4に戻って、降雨減衰量予測部22は、降水強度ソート部21から対象回線の最大降水強度を入力すると共に、予め設定された周波数情報及び偏波面情報を入力する。そして、降雨減衰量予測部22は、最大降水強度、周波数情報、偏波面情報及び伝搬距離(本例の場合は1km)に基づいて、降雨減衰量を予測する。これにより、対象回線における降雨減衰量の予測値が求められる。周波数情報は、電波の周波数に関する情報であり、偏波面情報は、電波の偏波面に関する情報である。降雨減衰量予測部22は、降雨減衰量(降雨減衰量の予測値)を受信レベル予測部23に出力する。
【0067】
具体的には、以下の式により、最大降水強度R[mm/h]、周波数情報、偏波面情報及び伝搬距離を用いて、降雨減衰量γR[dB/km]が算出される。
[数1]
γR=k・Rα ・・・(1)
k,αは、周波数情報及び偏波面情報により決定されるパラメータである。
【0068】
尚、伝搬距離は、各メッシュを通過する伝搬路の距離である。また、前記式(1)は、ITU-Rにて規定された式であり、詳細については以下の文献を参照されたい。
International Telecommunication Union,“Specific attenuation model for rain for use in prediction methods”,Recommendation ITU-R P.838-3,Mar. 2005
【0069】
ここで、図6に示したように、9通りの移動方向Aが設定された場合、つまり、ソート範囲設定部20が9通りの移動パターンを入力した場合を想定する。降雨減衰量予測部22は、降水強度ソート部21から、9通りの移動方向Aのそれぞれにおける対象回線βの最大降水強度を入力する。
【0070】
降雨減衰量予測部22は、9通りの移動方向Aのそれぞれについて、前記式(1)を用いて降雨減衰量γR-1,γR-2,・・・,γR-9を算出する。降雨減衰量予測部22は、降雨減衰量γR-1,γR-2,・・・,γR-9のうち最大の降雨減衰量を特定し、これを降雨減衰量の予測値として用いる。これにより、対象回線βにおける降雨減衰量の予測値が求められる。降雨減衰量予測部22は、特定した降雨減衰量(降雨減衰量の予測値)を受信レベル予測部23に出力する。
【0071】
尚、降水強度ソート部21は、9通りの移動方向Aのそれぞれにおける最大降水強度のうち最も大きい最大降水強度を、対象回線βの最大降水強度として降雨減衰量予測部22に出力するようにしてもよい。この場合、降雨減衰量予測部22は、降水強度ソート部21から入力した対象回線βの最大降水強度を用いて、前記式(1)にて降雨減衰量γRを予測する。
【0072】
ここで、前述のとおり、予測部12に備えたソート範囲設定部20は、移動パターンを用いてソート範囲を設定し、降水強度ソート部21は、降水強度をソートして最大降水強度を求め、降雨減衰量予測部22は、降雨減衰を予測する。これに対し、予測部12は、5分毎の気象データのみを用いて降雨減衰を予測することも可能である。しかし、5分毎の気象データのみを用いた場合、降雨減衰の発生を見逃す可能性があり妥当でない。
【0073】
図7は、5分毎の気象データのみを用いた場合、降雨減衰の発生を見逃す可能性があることを説明する図である。(1)は、時刻t1のときの降雨強度の分布(配信された気象データ)を示し、(3)は、時刻t2のときの降雨強度の分布(配信された気象データ)を示す。時刻t1,t2の間隔は、気象データ配信間隔時間の5分である。また、(2)は、時刻t1,t2間の所定時刻t’において想定される降雨強度の分布であり、時刻t’は、最大の降雨強度が対象回線βを通過する時刻、すなわち降雨減衰が最大となる時刻を示している。
【0074】
図7に示すように、時刻t1,t2の5分毎の気象データのみを用いた場合、時刻t’の降雨強度の分布を想定しないため、降雨減衰の発生を見逃す可能性がある。このため、5分毎の気象データのみを用いる処理は好ましくない。そこで、図4に示した予測部12のソート範囲設定部20、降水強度ソート部21及び降雨減衰量予測部22による処理のように、移動パターンを用いてソート範囲を設定し、降水強度をソートすることで、降雨減衰の発生を見逃さないようにした。
【0075】
図4に戻って、受信レベル予測部23は、降雨減衰量予測部22から降雨減衰量を入力すると共に、予め設定された基準受信レベルを入力する。基準受信レベルは、対象回線において、降雨がないときの受信レベル実測値の平均値である。これにより、基準受信レベルとして、回線設計時の理論値を用いるのではなく、降雨がないときの受信レベル実測値の平均値を用いることにより、降雨減衰の影響のみを回線受信レベルの予測値に反映させることができる。尚、基準受信レベルとして、距離減衰、アンテナ利得、フェージング等の実測値の平均値も含めた値を用いることにより、これらの影響も回線受信レベルの予測値に反映させることができる。
【0076】
受信レベル予測部23は、基準受信レベルを基準値として、基準受信レベルから降雨減衰量を減算し、回線受信レベルを求める。これにより、対象回線における現時点の回線受信レベルの予測値が求められる。受信レベル予測部23は、回線受信レベルを判定部13に出力する。
【0077】
また、図4に詳細は示していないが、予測部12は、現時点の降水強度、回線地点情報、回線受信レベル(回線受信レベルの予測値)等を表示データとして、表示部14に出力する。
【0078】
図8は、表示部14により表示される表示画面の例を示す図である。この表示画面には、対象回線β(矢印←)及び当該対象回線βの回線地点α1,α2(丸印)が地図上に描画され、現時点の1kmメッシュ毎の降水強度が、地図上にその値に応じた形態(a)で描画されている。図8には、現時点の時刻16:36における表示データが示されている。
【0079】
また、表示画面には、対象回線βの回線地点α1である送信局及び回線地点α2である受信局の名称(b)、基準レベル(基準受信レベル)(c)、対象回線βが途切れる可能性のある値(警戒レベル)(d)が表示される。さらに、表示画面には、現時点から予測時間10分までの間の回線受信レベルの予測値(e)が表示される。
【0080】
図8では、予測時間が10分に設定されている。予測時間が10分に設定されているのは、データ配信間隔が5分であることから、予測時間を5分以下とすると、降雨減衰を見逃す可能性があり、また、予測時間を、10分を超える長い時間とすると、表示誤差が大きくなるからである。
【0081】
図8には示していないが、表示部14が判定部13から警報を入力すると、例えば「放送が途切れる恐れがあります」の警報表示を行い、警報が発生した対象回線βの箇所を強調表示する。
【0082】
これにより、ユーザは、現時点の降水強度、対象回線βの位置、回線受信レベルの予測値等を認識することができ、放送の途切れの可能性の有無、及び放送が途切れる可能性のある対象回線βを認識することができる。
【0083】
(実験結果)
次に、実施例1の降雨減衰予測装置1による実験結果について説明する。図12は、実施例1の実験結果を示す図であり、ある地域において、移動パターンを9通りとし(図6)、予測時間を10分とした場合の所定の対象回線βにおける実験結果を示している。横軸は時刻を示し、縦軸は、所定の対象回線βにおける回線受信レベル[dBm]を示す。実線は、回線受信レベルの実測値(放送局(演奏所)101、放送所(親局)102または中継局103-1等で実際に観測した値)を示し、点線は、降雨減衰予測装置1の予測部12により算出された回線受信レベルの予測値を示す。
【0084】
図12に示す実測値及び予測値から、予測値が実際の回線受信レベルの変化に追従している。つまり、降雨減衰予測装置1により、対象回線βの降雨減衰が正しく予測されている。
【0085】
特に、図12に示す実測値から、時刻16:32に豪雨が発生し、所定の対象回線βの回線受信レベルが低下したことがわかる。また、図12に示す予測値から、時刻16:30の気象データ受信時に、すなわち豪雨が発生した時刻16:32の約2分前に、時刻16:32における所定の対象回線βの回線受信レベルの低下を正しく予測していることがわかる。
【0086】
以上のように、実施例1の降雨減衰予測装置1によれば、受信部10は、5分毎1kmメッシュ降水強度の気象データを受信し、気象データをメモリ11に格納する。
【0087】
予測部12は、予め設定された移動パターンに基づいて、現時点から予測時間までの間で対象回線を通過するであろう現時点の雨雲のエリアを、ソート範囲として設定する。そして、予測部12は、メモリ11に格納された最新の気象データを用いてソート範囲内で最大降水強度を特定し、最大降水強度から降雨減衰量を算出し、基準受信レベル及び降雨減衰量から回線受信レベルを予測する。
【0088】
判定部13は、予測部12により予測された回線受信レベルと閾値とを比較し、回線受信レベルが閾値以下の場合、放送の途切れの可能性があると判定する。
【0089】
これにより、従来の対数正規分布で近似する等の複雑な処理(特許文献1の処理)が不要になるから、降雨減衰を簡易な処理にて予測することができる。また、現時点から予測時間までの間に対象回線を通過する雨雲に着目するようにしたから、所定時間毎の降水強度から直接的に降雨減衰を予測する処理とは異なり、降雨減衰を見逃すことなく確実に予測することができる。そして、放送の途切れの可能性があると判定すると、使用している対象回線を、別に用意された予備回線がある場合にはその予備回線に切り替えることで、放送の途切れを回避することが可能となる。
【0090】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。前述のとおり、実施例2は、実際に観測された5分毎の降水強度を取得し、この降水強度に基づいて雨雲の移動パターンを設定する。そして、5分毎の降水強度及び移動パターンに基づいて、対象回線を通過するであろう雨雲による最大降水強度を予測し、最大降水強度から降雨減衰量を算出して回線受信レベルを予測し、放送の途切れの可能性を判定する。
【0091】
実施例1において、予め設定された移動パターンである雨雲の移動速度及び移動方向が、実際の雨雲の移動速度及び移動方向と異なる場合、降雨減衰の予測誤差が大きくなり、結果として、放送の途切れの可能性を誤って予測することがあり得る。
【0092】
そこで、実施例2では、移動パターンを、実際に観測された気象データに基づいて設定するようにした。これにより、実施例1に比べ、精度高く降雨減衰を予測することができ、放送の途切れの可能性を精度高く予測することができる。
【0093】
図9は、実施例2の降雨減衰予測装置2の構成例を示すブロック図であり、図10は、実施例2の降雨減衰予測装置2の処理例を示すフローチャートである。この降雨減衰予測装置2は、受信部10、メモリ11、予測部12、判定部13、表示部14及び移動パターン設定部15を備えている。
【0094】
図2に示した実施例1の降雨減衰予測装置1とこの実施例2の降雨減衰予測装置2とを比較すると、両降雨減衰予測装置1,2は、受信部10、メモリ11、予測部12、判定部13及び表示部14を備えている点で共通する。一方、降雨減衰予測装置2は、移動パターン設定部15を備えている点で、移動パターン設定部15を備えていない降雨減衰予測装置1と相違する。
【0095】
また、図3に示した実施例1の処理例とこの実施例2の処理例とを比較すると、実施例1のステップS301,S303~S307の処理と、実施例2のステップS1001,S1003~S1007の処理とが同一である。一方、降雨減衰予測装置2によるステップS1002の処理は、降雨減衰予測装置1によるステップS302の処理と異なる。
【0096】
受信部10、メモリ11、予測部12、判定部13及び表示部14の処理は、実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、ステップS1001,S1003~S1007の処理は、実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0097】
移動パターン設定部15は、ユーザにより予め設定された回線地点情報を入力すると共に、メモリ11から気象データを読み出す。そして、移動パターン設定部15は、回線地点情報から対象回線を設定し、最新の気象データ及び過去の気象データを時系列に解析することで、対象回線付近における現時点の雨雲の移動パターンである移動速度及び移動方向を設定する(ステップS1002)。そして、移動パターン設定部15は、移動パターンを予測部12に出力する。
【0098】
図11は、移動パターン設定部15による移動パターン設定処理例を説明する図である。移動パターン設定部15は、メモリ11から最新の気象データ及び過去(例えば5分前)の気象データを読み出す。
【0099】
移動パターン設定部15は、地図上に描画した現在の気象データの分布に対し、対象回線を含む所定エリアの基準枠W1を設定する。また、移動パターン設定部15は、地図上に描画した過去の気象データの分布に対し、当該基準枠W1と同じ領域を中心とした所定の探索エリア内で、基準枠W1と同じサイズの枠W2を設定する。
【0100】
移動パターン設定部15は、基準枠W1の気象データの分布と枠W2の気象データの分布との間でマッチングを行う。移動パターン設定部15は、所定の探索エリア内で枠W2を所定距離分順次シフトさせながら、基準枠W1の気象データの分布と枠W2の気象データの分布との間の差を求め、当該差が最も小さい(マッチング度合いが最も高い)枠W2’を特定する。
【0101】
つまり、移動パターン設定部15は、基準枠W1の降雨強度分布と、複数の枠W2のそれぞれについての降雨強度分布との間でマッチングを実行し、複数の枠W2のうち、降雨強度分布の差が最も小さい(マッチング度合いが最も高い)枠W2’を特定する。
【0102】
移動パターン設定部15は、基準枠W1と枠W2’との間の距離を求めると共に、メモリ11から読み出した現在の気象データ及び過去の気象データとの間の時間差を求め、距離を時間差で除算して雨雲の移動速度を求める。また、移動パターン設定部15は、枠W2’に対する基準枠W1の方向を求め、これを雨雲の移動方向とする。このように、気象データに基づいて雨雲の移動パターンが設定される。
【0103】
以上のように、実施例2の降雨減衰予測装置2によれば、移動パターン設定部15は、気象データを時系列に解析することで、対象回線付近における現時点の雨雲の移動パターンである移動速度及び移動方向を設定する。
【0104】
予測部12は、移動パターン設定部15により設定された移動パターンに基づいて、現時点から予測時間までの間で対象回線を通過するであろう現時点の雨雲のエリアを、ソート範囲として設定する。そして、予測部12は、メモリ11に格納された最新の気象データを用いてソート範囲内で最大降水強度を特定し、最大降水強度から降雨減衰量を算出し、基準受信レベル及び降雨減衰量から回線受信レベルを予測する。
【0105】
判定部13は、予測部12により予測された回線受信レベルと閾値とを比較し、回線受信レベルが閾値以下の場合、放送の途切れの可能性があると判定する。
【0106】
これにより、実施例1と同様に、降雨減衰を簡易かつ確実に予測することができる。そして、放送の途切れの可能性があると判定すると、使用している対象回線を、別に用意された予備回線がある場合にはその予備回線に切り替えることで、放送の途切れを回避することが可能となる。
【0107】
また、実施例1では、ユーザにより予め設定された移動パターンを用いて降雨減衰を予測するようにしたから、この移動パターンが実際の移動パターンと異なる場合、予測誤差が大きくなり、結果として、放送の途切れの可能性を誤って予測することがあり得る。実施例2では、実際に観測された降水強度に基づいて移動パターンを設定し、この移動パターンに基づいて降雨減衰を予測するようにしたから、実施例1に比べ、精度高く降雨減衰を予測することができ、放送の途切れの可能性を精度高く予測することができる。
【0108】
以上、実施例1,2を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施例1,2に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。実施例1,2の降雨減衰予測装置1,2は、卓上型の装置であってもよいし、スマートフォン等の携帯端末であってもよい。
【0109】
また、実施例1の降雨減衰予測装置1は、図6に示したとおり、例えば9通りの移動パターンを用いるようにしたが、これは一例であり、9通り以外の1または複数の移動パターンを用いるようにしてもよい。要するに、使用する移動パターンの数は、降雨減衰の予測漏れがなく、かつ降雨減衰を過度に予測しないように、予測誤りを低下させることが可能な数であればよい。
【0110】
また、実施例1,2の降雨減衰予測装置1,2は、サーバ104から5分毎1kmメッシュ降水強度の気象データを受信するようにしたが、本発明は、気象データの時間間隔を5分に限定するものではなく、他の時間間隔であってもよい。また、本発明は、気象データの領域単位を1kmメッシュに限定するものではなく、他の領域単位であってもよい。
【0111】
尚、実施例1,2の降雨減衰予測装置1,2のハードウェア構成としては、通常のコンピュータを使用することができる。降雨減衰予測装置1,2は、CPU、RAM等の揮発性の記憶媒体、ROM等の不揮発性の記憶媒体、及びインターフェース等を備えたコンピュータによって構成される。
【0112】
降雨減衰予測装置1に備えた受信部10、メモリ11、予測部12、判定部13及び表示部14の各機能は、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。また、降雨減衰予測装置2に備えた受信部10、メモリ11、予測部12、判定部13、表示部14及び移動パターン設定部15の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0113】
これらのプログラムは、前記記憶媒体に格納されており、CPUに読み出されて実行される。また、これらのプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもでき、ネットワークを介して送受信することもできる。また、これらのプログラムは、Webアプリケーションとしてブラウザー上で動作するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1,2 降雨減衰予測装置
10 受信部
11 メモリ
12 予測部
13 判定部
14 表示部
15 移動パターン設定部
20 ソート範囲設定部
21 降水強度ソート部
22 降雨減衰量予測部
23 受信レベル予測部
100 放送ネットワーク
101 放送局(演奏所)
102 放送所(親局)
103-1,103-2 中継局
104 サーバ
105 インターネット
α1 回線地点(送信局)
α2 回線地点(受信局)
β 対象回線
A 雨雲の移動方向
B ソート方向
C ソート範囲
L 雨雲の移動距離
M1~M31 1kmメッシュ
a 降水強度
b 送信局及び受信局の回線地点
c 回線の基準受信レベル
d 回線が途切れる可能性のある値(警戒レベル)
e 回線受信レベルの予測値
W1 基準枠
W2 枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13