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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/44 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
C08F220/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017064305
(22)【出願日】2017-03-29
(65)【公開番号】P2018168209
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】山谷 学
(72)【発明者】
【氏名】晴山 和直
(72)【発明者】
【氏名】木島 正志
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168480(JP,A)
【文献】特開2011-111602(JP,A)
【文献】特公昭44-029062(JP,B1)
【文献】米国特許第02798059(US,A)
【文献】特開2011-190484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00-220/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位(A)を1~30質量%、および下記一般式(2)で表される構造単位(B)を70~99質量%含有する、共重合体。
【化1】
(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1のアルキル基であり、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。)
【化2】
(式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1のアルキル基である。)
【請求項2】
前記構造単位(A)を1~25質量%、前記構造単位(B)を70~98.9質量%およびカルボキシ基を含むモノマー由来の構造単位(C)を0.1~5質量%含有する、請求項1に記載の共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料の原料として好適な共重合体に関する。また、本発明はかかる共重合体の原料単量体として好適な単量体であるN-置換アクリルアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は耐熱性と耐薬品性に優れるため、電極部材や耐熱性を要する産業用の加熱装置として広く用いられている。また、炭素材料の一つである炭素繊維は優れた機械的強度を有するため、自動車用部材、航空宇宙素材、スポーツ・レジャー用素材、圧力容器等の工業用素材などとして極めて有用であり、需要が拡大している。また、今後はさらに幅広い分野で利用されることが期待されている。
【0003】
炭素材料は有機高分子化合物からなる炭素材料前駆体を酸化性雰囲気で加熱して不融化熱処理し、不活性雰囲気中で加熱して炭素化して製造されるのが一般的である。炭素繊維は、アクリロニトリル系重合体などからなる炭素繊維前駆体繊維を束ねた前駆体繊維束を用い、次のような工程を経て得られる。まず、耐炎化工程により数十~数百錘の前駆体繊維束を200~300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化熱処理し(アクリロニトリル系共重合体を酸化性雰囲気で加熱して不融化する処理は、「耐炎化」と呼ばれる。)、得られた耐炎化繊維束を、炭素化工程において300℃以上の不活性雰囲気中で焼成し、炭素繊維束を得る(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/015210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、耐炎化工程および炭素化工程(以下、これらの工程を合わせて「焼成工程」ともいう。)で起こる化学反応により、炭素原子を含んだ分解物がガスとして放出されて炭素化収率が低くなり、生産性が悪くなるなどの問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、焼成工程後の炭素化収率が高い炭素材料前駆体の製造に適した共重合体を提供することと、かかる共重合体の製造に用いるN-置換アクリルアミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)で表される構造単位(A)を1~30質量%、および下記一般式(2)で表される構造単位(B)を70~99質量%含有する、共重合体。
【0008】
【化1】
【0009】
式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基であり、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。
【0010】
【化2】
【0011】
式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基である。
【0012】
[2] 前記構造単位(A)を1~25質量%、前記構造単位(B)を70~98.9質量%およびカルボキシ基を含むモノマー由来の構造単位(C)を0.1~5質量%含有する、[1]に記載の共重合体。
[3] 下記一般式(3)で表される酸ハロゲン化物と下記一般式(4)で表されるアミンを塩基性化合物の存在下で反応させて、下記一般式(5)で表されるN-置換アクリルアミドを製造する方法において、反応生成物を酢酸エチルで抽出した後、ヘキサンを加えて再結晶して精製する、N-置換アクリルアミドの製造方法。
【0013】
【化3】
【0014】
式(3)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基であり、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0015】
【化4】
【0016】
式(4)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。
【0017】
【化5】
【0018】
式(5)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基であり、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、焼成工程後の炭素化収率が高い炭素材料前駆体の製造に適した共重合体を提供できる。また、本発明によれば、かかる共重合体の原料として好適に用いることができる単量体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、「(メタ)アリル」は、アリルとメタリルの総称である。
【0021】
「共重合体」
本発明の共重合体(以下、「共重合体(Z)」ともいう。)は、以下に示す構造単位(A)および構造単位(B)を含有する。共重合体(Z)は、以下に示す構造単位(C)をさらに含有していてもよい。
【0022】
<構造単位(A)>
構造単位(A)は下記一般式(1)で表される構造単位である。
【0023】
【化6】
【0024】
式(1)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基であり、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。
【0025】
、Rにおいてハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基(アルコキシ基)、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基は、それぞれ直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、置換基(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基等)を有していてもよい。 アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル基、ベンジル基、ナフチル基などが挙げられる。
アルキルオキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ベンジルオキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。
アルキルチオ基としては、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基などが挙げられる。
アリールチオ基としては、例えばフェニルチオ基、ベンジルチオ基、ナフチルチオ基などが挙げられる。
【0026】
アシル基はR-CO-で表される。Rはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭化水素基である。炭化水素基としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基などが挙げられる。炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、置換基(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基等)を有していてもよい。
アシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
およびRは、重合率の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0027】
において、アルキル基、アリール基は、それぞれ直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、置換基(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基等)を有していてもよい。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル基、ベンジル基、ナフチル基などが挙げられる。
は、共重合体(Z)を賦形して得られる炭素材料前駆体の結晶性を維持する点で、水素原子やメチル基など、立体障害の少ない置換基が好ましい。
【0028】
において、炭素数1~12のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基は、それぞれ直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、置換基(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基等)を有していてもよい。
アルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基などが挙げられる。
アリーレン基としては、例えばフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
は、エチレン基が好ましい。
【0029】
構造単位(A)の由来源となる単量体(以下、「単量体(a)」ともいう。)としては、例えばN-(シアノメチル)アクリルアミド、N-(シアノエチル)アクリルアミド、N-(シアノプロピル)アクリルアミド、N-(シアノブチル)アクリルアミド、N-(4-シアノフェニル)アクリルアミド、N,N-(ジシアノメチル)アクリルアミド、N,N-(ジシアノエチル)アクリルアミド、N-(シアノメチル)メタクリルアミド、N-(シアノエチル)メタクリルアミド、N-(シアノプロピル)メタクリルアミドなどが挙げられる。これらの中でも、重合性の観点から、N-シアノエチルアクリルアミドが好ましい。
これら単量体(a)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
単量体(a)は、例えば後述するN-置換アクリルアミドの製造方法により得られる。
【0030】
共重合体(Z)を構成する全ての単位の合計を100質量%としたときに、構造単位(A)の割合は0.5~30質量%であり、2~25質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。特に、共重合体(Z)が下記構造単位(C)を含有する場合、構造単位(A)の割合は1~25質量%であることが好ましい。
構造単位(A)の割合が0.5質量%以上であれば、焼成工程後の炭素化収率の高い炭素材料前駆体の製造に適した共重合体(Z)を得ることができる。一方、構造単位(A)の割合が30質量%以下であれば、後述する構造単位(B)の割合を十分に確保できるので、品質の良い炭素材料を得ることができる。
【0031】
<構造単位(B)>
構造単位(B)は下記一般式(2)で表される構造単位である。
【0032】
【化7】
【0033】
式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基である。
【0034】
およびRにおいて、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基(アルコキシ基)、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基は、それぞれ直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
~Rにおけるアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基としては、それぞれR~Rの説明において先に例示したものが挙げられる。
およびRは、品質の良い炭素繊維が得られる観点から、水素原子であることが好ましい。
【0035】
構造単位(B)の由来源となる単量体(以下、「単量体(b)」ともいう。)としては、例えば(メタ)アクリロニトリル、α-シアノアクリレート、ジシアノビニリデン、フマロニトリルエチルなどが挙げられる。これらの中でも、重合性と、炭素材料にしたときの力学物性の観点から、(メタ)アクリロニトリルが好ましい。
これら単量体(b)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
共重合体(Z)を構成する全ての単位の合計を100質量%としたときに、構造単位(B)の割合は70~99.5質量%であり、70~98.9質量%であることが好ましく、80~97質量%であることがより好ましい。特に、共重合体(Z)が下記構造単位(C)を含有する場合、構造単位(B)の割合は80~98.9質量%であることが好ましい。
構造単位(B)の割合が70質量%以上であれば、品質の良い炭素材料を得ることができる。一方、構造単位(B)の割合が99質量%以下であれば、構造単位(A)の割合を十分に確保できるので、焼成工程後の炭素化収率の高い炭素材料前駆体の製造に適した共重合体(Z)を得ることができる。
【0037】
<構造単位(C)>
構造単位(C)はカルボキシ基を含むモノマー由来の構造単位である。
カルボキシ基を含むモノマー(以下、「単量体(c)」ともいう。)としては、例えばメタクリル酸、アクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、ビニル安息香酸、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ブチルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、焼成時間を短縮する観点から、メタクリル酸が好ましい。
これら単量体(c)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
共重合体(Z)を構成する全ての単位の合計を100質量%としたときに、構造単位(C)の割合は0.1~5質量%であることが好ましく、0.5~1.5質量%であることがより好ましい。
構造単位(C)の割合が0.1質量%以上であれば、耐炎化反応を促進し、焼成の生産性を向上することができる。一方、構造単位(C)の割合が5質量%以下であれば、炭素材料の力学物性の低下を抑えることができる。
【0039】
<任意単位>
共重合体(Z)は、必要に応じて構造単位(A)、構造単位(B)および構造単位(C)以外の単位(以下、「任意単位」ともいう。)を含有してもよい。
任意単位の由来源となる単量体(以下、「任意単量体」ともいう。)としては、少なくとも単量体(a)および単量体(b)と共重合可能であれば特に限定されないが、例えばメチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;メチルビニルケトン、イソプロピルメチルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;マレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル単量体およびその塩;リン酸基を含有ビニル単量体およびその塩;酢酸ビニル、N-ビニルピロリドンなどが挙げられる。
これら任意単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
共重合体(Z)を構成する全ての単位の合計を100質量%としたときに、任意単位の割合は29.3質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
<分子量>
共重合体(Z)の質量平均分子量は、200000~800000であることが好ましい。共重合体(Z)の質量平均分子量が200000以上であれば、賦形性が向上する。一方、共重合体(Z)の質量平均分子量が800000以下であれば、ワニスを製造し易くキャストフィルムにしたり、多孔質材料に含浸して炭素材料前駆体とするのが容易である。
なお、共重合体(Z)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した分子量をポリスチレン換算した値である。
【0042】
<製造方法>
共重合体(Z)は、単量体(a)、単量体(b)、単量体(c)及び任意単量体を溶液重合、懸濁重合、乳化重合など公知の重合方法により得ることができる。重合により得られた共重合体(Z)からは、未反応の単量体などの不純物を除く処理をすることが望ましい。
【0043】
<作用効果>
以上説明した本発明の共重合体(Z)は、上述した構造単位(A)を特定量含有するので、焼成工程後の炭素化収率が高い炭素材料前駆体を得ることができる。
ところで、単量体(a)は側鎖にニトリル基を有するが、このニトリル基が高い電子吸引性を有するため、重合率が低下しやすい。また、単量体(a)のみを使用すると、質量平均分子量を賦形に適した値に制御することが困難である。
しかし、本発明の共重合体(Z)は、構造単位(A)に加えて上述した構造単位(B)も特定量含有する。よって、重合率を高めることができ、共重合体(Z)の質量平均分子量を賦形に適した値に制御できる。
さらに、共重合体(Z)が構造単位(C)を特定量含有していれば、耐炎化反応を促進し、焼成の生産性を向上することができる。
このように本発明の共重合体(Z)は、賦形性を良好に維持しつつ、焼成工程後の炭素化収率が高い炭素材料前駆体を得ることができる。
【0044】
「N-置換アクリルアミドの製造方法」
共重合体(Z)を溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの重合方法により得る際に用いる原料として好適な単量体(a)は、下記一般式(3)で表される酸ハロゲン化物と下記一般式(4)で表されるニトリル基を有するアミンを塩基性化合物の存在下で反応させて得られる、下記一般式(5)で表されるN-置換アクリルアミドである。
【0045】
【化8】
【0046】
式(3)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基であり、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
式(3)中のR、Rとしては、共重合体(Z)の説明において先に例示した式(1)中のR、Rがそれぞれ挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0047】
【化9】
【0048】
式(4)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。
式(4)中のR、Rとしては、共重合体(Z)の説明において先に例示した式(1)中のR、Rがそれぞれ挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0049】
【化10】
【0050】
式(5)中、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトリル基、ニトロ基、ホスホノ基、スルホン基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキルオキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数6~12のアリールチオ基または炭素数1~13のアシル基であり、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、Rは炭素数1~12のアルキレン基または炭素数6~12のアリーレン基である。
式(5)中のR~Rとしては、共重合体(Z)の説明において先に例示した式(1)中のR~Rがそれぞれ挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0051】
本発明のN-置換アクリルアミドの製造方法では、反応時に生成するハロゲン化水素を中和するために、塩基性化合物の存在下で、上述した酸ハロゲン化物とニトリル基を有するアミンを反応させる。
塩基性化合物としては、アンモニア、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩又はフッ化物等の無機塩基;アルカリ金属のアルコキシド、アミン等の有機塩基などが挙げられる。これらの中でも、酸ハロゲン化物との副反応を抑えるために、求核性の低い第三級のアミンが好ましく、具体的にはトリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。
【0052】
反応時に生成するハロゲン化水素を中和するために塩基性化合物の使用量は、特に限定されないが、酸ハロゲン化物1モル当たり1モル以上が好ましく、1.1モル以上がより好ましく、1.2モル以上がさらに好ましい。1モル以上あれば生成するハロゲン化水素を良好に中和することができる。
【0053】
酸ハロゲン化物とニトリル基を有するアミンとの反応は、有機溶媒中で行ってもよいし、溶媒が存在しない系で行ってもよい。
有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いても混合して用いてもよい。
【0054】
酸ハロゲン化物とニトリル基を有するアミンとを反応させる温度は、-80~80℃の範囲が好ましい。反応温度が低いと、反応時間が長くなる等の問題が生じる可能性がある。反応を円滑に進行させる観点から、反応温度は-60℃以上がより好ましく、-40℃以上がさらに好ましい。一方、反応温度が高いと重合や副反応等の問題が生じる可能性があることから、反応温度は60℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。反応圧力は特に制限されず、減圧、常圧、加圧いずれの圧力下においても実施できる。
【0055】
反応方式としては、例えば、単一の反応器内に全ての原料を仕込んで反応を完結させる回分式、反応器内に原料を連続的に供給して連続的に反応させる連続式、反応器と配合タンクとを備え、反応器と配合タンクとの間で原料を循環させながら反応器で反応させる循環式などが挙げられる。
反応時間は、反応温度、酸塩化物、アミン、塩基の種類及び反応液濃度によって異なるため適宜決めればよいが、通常0.1~24時間程度とすることができる。
【0056】
このようにして得られる反応生成物を精製して、N-置換アクリルアミドを得る。
反応終了後の精製方法としては、反応生成物の物性、原料の種類及び量、溶剤の種類等を考慮して、水洗、アルカリ水洗、酸水洗、抽出、蒸留、晶析、濾過等の公知の精製方法が挙げられる。これらの精製方法は適宜組み合わせることができる。これらの精製方法の中でも、収率を落とすことなく、高純度の生成品を得ることができることから、酢酸エチルと水を用いた抽出を行った後、良溶媒として酢酸エチルを、貧溶媒としてヘキサンを用いた再結晶操作を行う方法が好ましい。
【0057】
「炭素材料」
炭素材料は、本発明の共重合体(Z)を含む炭素材料前駆体を耐炎化処理した後、炭素化処理することで得られる。
以下、炭素材料の製造方法の一例について説明する。
【0058】
<製造方法>
本実施形態の炭素材料の製造方法は、以下に示す耐炎化工程と炭素化工程とを有する。なお、耐炎化工程と炭素化工程とを総称して「焼成工程」ともいう。
【0059】
(耐炎化工程)
耐炎化工程は、本発明の共重合体(Z)を含む炭素材料前駆体を酸化性雰囲気中、90分以下の時間、220~300℃で加熱して(耐炎化処理)、耐炎化物を得る工程である。
ここで、「酸化性雰囲気」とは、空気雰囲気、もしくは、酸素、二酸化窒素、二酸化硫黄などの公知の酸化性物質を含む雰囲気のことである。これらの中でも、経済性の面から、酸化性雰囲気としては空気雰囲気が好ましい。
なお、「酸化性物質」とは、酸素を与えることにより物の燃焼を引き起こす物質や、物の燃焼を助長しうる物質を意味する。
【0060】
炭素材料前駆体の製造方法は特に制限されない。例えば、懸濁重合によって得られた本発明の共重合体(Z)を濾過、洗浄、乾燥、粉砕すれば粉状の炭素材料前駆体が得られ、本発明の共重合体(Z)を含む溶液を用いて溶液流涎法によってフィルム状に成形すればフィルム状の炭素材料前駆体が得られ、本発明の共重合体(Z)を粉状にした後に加圧・加熱して圧縮成形すれば立体形状の炭素材料前駆体が得られる。
【0061】
耐炎化処理の方法としては特に限定されず、例えば従来公知の耐炎化炉(熱風循環炉)を用いる方法や加熱固体表面に接触させる方法を採用できる。
炭素材料前駆体が連続した繊維状またはフィルム状の場合、耐炎化炉を用いる方法では、通常、耐炎化炉に入った炭素材料前駆体を一旦耐炎化炉の外部に出した後、耐炎化炉の外部に配設された折り返しロールによって折り返して耐炎化炉に繰り返し通過させる方法が採られる。
加熱固体表面に接触させる方法では、炭素材料前駆体を間欠的に加熱固体表面に接触させる方法が採られる。
【0062】
耐炎化処理の温度(耐炎化処理温度)は220~300℃であることが好ましい。耐炎化処理温度が220℃以上であれば、耐炎化反応の暴走を抑制でき、効率的に耐炎化処理を行うことができる。一方、耐炎化処理温度が300℃以下であれば、炭素材料前駆体のポリアクリロニトリル骨格を熱分解させることなく耐炎化処理することが容易に可能である。
【0063】
耐炎化処理を行う時間(耐炎化処理時間)は、90分以下であることが好ましく、70分以下であることがより好ましい。耐炎化処理時間が90分以下であれば、耐炎化処理工程が生産性を損なう原因となることを容易に防ぐことができ、効率よく炭素材料を製造することが可能である。耐炎化処理時間の下限については特に制限されないが、10分以上であることが好ましく、20分以上であることがより好ましい。耐炎化処理時間が10分以上であれば、炭素材料前駆体内部への充分な酸素の拡散を容易に行うことができる。
【0064】
耐炎化工程では、得られる耐炎化物の密度が1.30~1.43g/cmになるまで加熱して耐炎化処理することが好ましく、より好ましくは1.33~1.38g/cmである。耐炎化物の密度が1.30g/cm以上であれば、炭素化工程中での熱融着が起こりにくく、炭素材料を容易に製造することが可能である。一方、耐炎化物の密度が1.43g/cm以下であれば、炭素材料の性能低下を抑制できる。
なお、耐炎化物の密度は、JIS K 7112に基づく密度勾配管法により測定される値である。
【0065】
(炭素化工程)
炭素化工程は、耐炎化工程により得られた耐炎化物を不活性ガス雰囲気中、800~2000℃で加熱して(炭素化処理)、炭素材料を得る工程である。
ここで、「不活性ガス雰囲気」とは、酸素、二酸化窒素、二酸化硫黄などの公知の酸化性物質を実質的に含まない雰囲気のことである。「実質的に」とは、不活性ガス雰囲気を形成するガスの全体体積に対して、酸化性物質の体積濃度が1.0体積%以下であることを意味する。
なお、「不活性ガス」とは、他の物質と反応を起こしにくく、化学的に安定したガスを意味し、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。
【0066】
炭素化処理の方法としては、例えば炭素化炉に不活性ガスを導入した状態で、耐炎化物を導入して保持した後に取り出すことで、耐炎化物を加熱して炭素化処理する。
【0067】
炭素化処理の温度(炭素化処理温度)は800~2000℃であることが好ましい。炭素化処理温度が800℃以上であれば、炭素化反応速度が遅くなるのを抑制できるので、短時間で炭素化処理できる。一方、炭素化処理温度が2000℃以下であれば、炭素化処理による炭素材料の力学物性の低下を抑えられる。
炭素化処理温度は一定でもよいし、炭素化処理中に昇温させてもよい。昇温させる場合、例えば炭素化炉内に複数の加熱ゾーンを設置し、上流側の加熱ゾーンから下流側の加熱ゾーンに向かって温度が高くなるように各加熱ゾーンの温度を設定して、上流側の加熱ゾーンから下流側の加熱ゾーンに向かって順次通過させて処理することで実現できる。
【0068】
炭素化処理を行う時間(炭素化処理時間)は特に制限されないが、1~60分であることが好ましく、10~40分であることがより好ましい。炭素化処理時間が1分以上あれば、炭素化収率がより高くなる傾向にある。一方、炭素化処理時間が60分以下あれば、得られる炭素材料の機械特性が向上する傾向にある。また、生産性を良好に維持できる。
【0069】
なお、耐炎化工程と炭素化工程との間に、耐炎化物に対して、不活性ガス中、最高温度が炭素化処理温度より低い温度(例えば、550℃以上800℃未満)で加熱する前炭素化処理を行ってもよい(前炭素化工程)。
なお、前炭素化工程を行う場合、「焼成」には、耐炎化工程と前炭素化工程と炭素化工程とを含む。
【0070】
<その他の工程>
炭素化工程により得られた炭素材料は、そのまま炭素材料として用いることができるが、必要に応じて公知の方法により黒鉛化したものを炭素材料として用いてもよい。例えば炭素材料を不活性雰囲気中、最高温度が2000℃を超えて3000℃以下で加熱することにより黒鉛化された炭素材料が得られる。
【0071】
<作用効果>
以上説明した炭素材料の製造方法では、本発明の共重合体(Z)を含む炭素材料前駆体を耐炎化処理および炭素化処理して炭素材料を得る。このようにして得られる炭素材料は、炭素化収率が高い。
【実施例
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例で行った各種測定方法は、以下の通りである。
【0073】
「測定・評価」
<共重合体の組成測定>
共重合体の組成(各単量体単位の比率(質量%))は、H-NMR法により、以下のようにして測定した。
溶媒としてジメチルスルホキシド-d6溶媒を用い、共重合体を溶解させ、NMR測定装置(日本電子株式会社製、製品名:GSZ-400型)により、積算回数500回、測定温度80℃の条件で測定し、ケミカルシフトの積分比から各単量体単位の比率を求めた。
【0074】
<共重合体の質量平均分子量の測定>
共重合体の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(装置:東ソー株式会社製、製品名:SC8010,SD8022,RI8020,CO8011,PS8010、カラム:和光純薬工業株式会社製、製品名:Wakopak(Wakobeads G-50)、展開溶媒:水/メタノール/酢酸/酢酸ナトリウム=6/4/0.3/0.41)を用いて、ポリスチレンを標準物質として質量平均分子量を求めた。
【0075】
「合成例1」
単量体(a)である、N-シアノエチルアクリルアミドを以下の試薬を原料として用い、以下の手順により合成した。
<原材料試薬>
・3-アミノプロピオニトリル(別名:2-シアノエチルアミン)(東京化成工業株式会社製、>98%)
・アクリル酸クロリド(別名:塩化アクリル)(東京化成工業株式会社製、>98%)
・テトラヒドロフラン(東京化成工業株式会社製、>99.5%)
・トリエチルアミン(東京化成工業株式会社製、>99%)
【0076】
<手順>
三口フラスコに金属ナトリウムで脱水して蒸留したテトラヒドロフラン400mlとトリエチルアミン113g(1.10mol)、3-アミノプロピオニトリル42g(0.60mol)を投入した後、氷浴中で、撹拌して均一に溶解した。次いで、脱水蒸留したテトラヒドロフラン100mlで希釈したアクリル酸クロリド(50g、0.55mol)を1滴ずつ、滴下ロートにて、反応液中に滴下した。滴下が全て終了するまで氷浴中で1時間攪拌を行った後、20℃で18時間攪拌を続けた。得られた反応液を分液ロート移して、酢酸エチル、水を加えて振とうして、反応物を酢酸エチル層に移した。この操作を5回行った。得られた酢酸エチル溶液に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、減圧加熱して酢酸エチルを蒸発させると褐色の粘性液体が得られた。この液体を良溶媒である酢酸エチルを加えて溶解し、さらに貧溶媒であるヘキサンを加えて再結晶操作を行い、N-シアノエチルアクリルアミドを得た。収率は60%であった。
【0077】
「実施例1」
<共重合体(Z1)の製造>
以下の試薬を原料として用いた。
・単量体(a):N-シアノエチルアクリルアミド(上記合成例1により得たもの)
・単量体(b):メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製、和光特級グレード、>99%)
・単量体(c):アクリロニトリル(関東化学株式会社製、特鹿級グレード、>98%)
・レドックス重合開始剤:
過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、和光特級グレード、>98%)
亜硫酸水素アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、化学用グレード、45%~55%)
硫酸第一鉄(FeSO・7HO)(和光純薬工業株式会社製、和光特級グレード、99%~102%)
・pH調整剤:
硫酸(和光純薬工業株式会社製、高純度特級グレード、>95%)
純水で6質量%水溶液の希硫酸に調整し、用いた。
・反応停止剤:
シュウ酸(和光純薬工業株式会社製、和光特級グレード、>98%)、炭酸水素アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、和光一級グレード、>98%)
純水で0.456質量%シュウ酸、1.76質量%炭酸水素アンモニウムを含む水溶液に調整し、反応停止剤として用いた。
・重合媒体:純水(電気伝導度>5μS/cm)
【0078】
容量2Lのセパラブルフラスコに純水を1.8L入れ、ダブルヘリカルリボン撹拌翼(SUS316製 W85mm×H150mm)で撹拌しながら、希硫酸を加えてpHが3.0になるように調整し、55℃に保持した。
次に、過硫酸アンモニウムの2.75質量%水溶液34.7g、亜硫酸水素アンモニウムの5.00質量%水溶液28.6g、硫酸第一鉄の6.0×10-4質量%水溶液9.1gを同セパラブルフラスコに投入して撹拌し均一化した。撹拌を継続しつつ、アクリロニトリル(AN)84質量部、シアノエチルアクリルアミド15.0質量部、メタクリル酸(MAA)1.00質量部、純水30.7質量部からなる単量体が均一に溶解された混合物238gをセパラブルフラスコに投入した。
セパラブルフラスコを55℃に保持して1時間攪拌を継続し、重合体スラリーを得た。
得られた重合体スラリーを撹拌しながら反応停止剤をpHが5.5になるまで加えて重合反応を停止させた。
次いで、重合スラリーを吸引濾過器により、70℃の水で3回洗浄濾過した後、2日間、70℃のスチーム乾燥機で加熱乾燥した後、粉砕し、共重合体(Z1)の粉末を得た。
得られた共重合体(Z1)の組成をNMRにより測定したところ、シアノエチルアクリルアミド単位が10.0質量%、アクリロニトリル単位が89.0質量%、メタクリル酸単位が1.0質量%であった。すなわち、共重合体(Z1)は、上記一般式(1)中のR、RおよびRがいずれも水素原子であり、Rがエチレン基である構造単位(A)10.0質量%と、上記式(2)中のRおよびRがいずれも水素原子である構造単位(B)89.0質量%と、メタクリル酸由来の構造単位(C)1.0質量%とで構成されている。
また、共重合体(Z1)の質量平均分子量を測定したところ、8.0×10であった。
【0079】
<炭素材料の製造>
得られた共重合体(Z1)の粉末を熱重量測定装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「STA7300」)を用い、以下のようにして窒素雰囲気で加熱して、炭素材料を得た。
まず、空気を導入した状態で共重合体(Z1)の粉末を180℃まで昇温速度50℃/分で昇温し、220℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、280℃まで昇温速度1℃/分で昇温した後、窒素に切り替えて、280℃で20分窒素置換した後、最高到達温度1400℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、炭素材料を得た。雰囲気温度の上昇による質量変化から炭素化収率を算出した。具体的には、1400℃に到達した時点で残留する炭素材料の質量を昇温前の共重合体(Z1)の質量で除して炭素化収率を算出した。炭素化収率は46%であった。
【0080】
「比較例1」
<共重合体(Y1)の製造>
アクリロニトリル94.0質量%と、メタクリル酸1.00質量%と、アクリルアミド5.0質量%とからなる単量体混合物を用いた以外は、共重合体(Z1)と同様にして、共重合体(Y1)の粉末を得た。
得られた共重合体(Y1)の組成をNMRにより測定したところ、アクリロニトリル単位が96.3質量%、メタクリル酸単位が1.0質量%、アクリルアミド単位が2.7質量%であった。
また、共重合体(Y1)の質量平均分子量を測定したところ、4.2×10であった。
共重合体(Y1)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素材料を製造し、炭素化収率を算出した。炭素化収率は42%であった。
【0081】
実施例1および比較例1の結果から明らかなように、共重合体(Z1)を耐炎化処理および炭素化処理した炭素材料は、構造単位(A)を含まない共重合体(Y1)を用いた比較例1に比べて、炭素化収率が高かった。