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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】眼科装置及び眼科装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
A61B3/103
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019519590
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018729
(87)【国際公開番号】W WO2018216551
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017102463
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】不二門 尚
(72)【発明者】
【氏名】広原 陽子
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮川 雄
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-194271(JP,A)
【文献】特開2014-147416(JP,A)
【文献】国際公開第2006/124380(WO,A2)
【文献】特開2015-012963(JP,A)
【文献】特開2011-156291(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002846(WO,A1)
【文献】特開2014-045924(JP,A)
【文献】特表2008-534051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の両眼で視認される共通の視標を呈示する視標呈示部と、
前記視標呈示部により呈示される前記視標の呈示距離を、予め定めた遠見視の距離から予め定めた近見視の距離へ変更する呈示距離変更部と、
前記被検眼の光学特性を他覚的に取得する眼特性取得部と、
前記両眼に加入度数を付加する加入度数付加部と、
前記加入度数付加部により前記両眼に任意の加入度数を付加した状態で、前記呈示距離変更部による前記呈示距離の変更と、前記眼特性取得部による前記光学特性の連続的な取得と、を実行させる制御部と、
を備え
前記呈示距離変更部が、前記被検眼に対して輻湊刺激が呈示されてから前記被検眼に輻湊調節が起こるまでの時間よりも短い時間で前記呈示距離の変更を行う眼科装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記呈示距離変更部による前記呈示距離の変更前後の一定時間における前記光学特性の変化を、前記眼特性取得部に取得させる請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記加入度数付加部は、前記両眼に付加する加入度数を変更し、
前記制御部は、前記加入度数付加部により前記両眼に付加される前記加入度数が変更されるごとに、前記呈示距離変更部による前記呈示距離の変更と、前記眼特性取得部による前記光学特性の連続的な取得と、を繰り返し実行させる繰り返し制御を行う請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記繰り返し制御によって前記眼特性取得部により前記加入度数ごとに取得された前記光学特性の取得結果に基づき、前記両眼に適した前記加入度数を決定する加入度数決定部を備える請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記眼特性取得部により取得された前記光学特性に基づき、前記被検眼の調節力を判別する調節力判別部を備え、
前記加入度数決定部は、前記調節力判別部により判別された前記調節力が予め定めた調節力基準を満たす場合、前記眼特性取得部により取得された前記光学特性の値及び揺らぎを前記加入度数ごとに判別した結果に基づき、前記加入度数の決定を行う請求項4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記眼特性取得部により取得された前記光学特性に基づき、前記被検眼の調節力を判別する調節力判別部を備え、
前記加入度数決定部は、前記調節力判別部により判別された前記調節力が予め定めた調節力基準を満たさない場合であって、且つ前記眼特性取得部により取得された前記光学特性が時間経過に応じて前記呈示距離の変更前の値に近づく前記光学特性の戻りが発生する場合に、前記加入度数ごとの前記戻りの大きさを判別した結果に基づき、前記加入度数の決定を行う請求項4又は5に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記加入度数付加部は、前記両眼に対する前記加入度数の非付加状態において前記眼特性取得部により取得された前記光学特性に基づき、前記繰り返し制御で前記両眼に付与する加入度数を決定する請求項3から6のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記呈示距離が前記遠見視の距離である場合に、前記眼特性取得部が取得した前記光学特性に基づき、前記両眼の完全矯正状態を他覚的に確認する完全矯正状態確認部を備える請求項1から7のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記眼特性取得部は、前記光学特性として等価球面度数を取得する請求項1から8のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記眼特性取得部は、前記光学特性と前記両眼の輻湊角とを取得する請求項1から9のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項11】
前記眼特性取得部は、
前記両眼と前記視標とをそれぞれ結ぶ光路に個別に設けられた一組の光学部材と、
前記光学部材の各々の位置から前記光路に対して垂直方向にシフトした位置にそれぞれ設けられた一組の波面センサであって、測定光を前記波面センサに対向する前記光学部材に向けて出射する一組の波面センサと、
を備え、
前記光学部材は、前記視標の像光を透過し、前記波面センサから入射した測定光を前記光学部材に対向する前記被検眼に向けて反射し、前記被検眼にて反射された前記測定光を前記光学部材に対向する前記波面センサに向けて反射し、
前記波面センサは、前記波面センサに対向する前記光学部材から入射する前記測定光を受光して受光信号を出力し、
前記眼特性取得部は、前記波面センサから出力された前記受光信号に基づき、前記光学特性を得る請求項1から10のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項12】
被検眼の両眼で視認される共通の視標を呈示する視標呈示ステップと、
前記視標呈示ステップで呈示される前記視標の呈示距離を、予め定めた遠見視の距離から予め定めた近見視の距離へ変更する呈示距離変更ステップと、
前記被検眼の光学特性を他覚的に取得する眼特性取得ステップと、
前記両眼に加入度数を付加する加入度数付加ステップと、
前記加入度数付加ステップにて前記両眼に任意の加入度数を付加した状態で、前記呈示距離変更ステップによる前記呈示距離の変更と、前記眼特性取得ステップによる前記光学特性の連続的な取得と、を実行させる制御ステップと、
を有し、
前記呈示距離変更ステップが、前記被検眼に対して輻湊刺激が呈示されてから前記被検眼に輻湊調節が起こるまでの時間よりも短い時間で前記呈示距離の変更を行う眼科装置の作動方法。
【請求項13】
前記加入度数付加ステップでは、前記両眼に付加する加入度数を変更し、
前記制御ステップは、前記加入度数付加ステップにて前記両眼に付加される前記加入度数が変更されるごとに、前記呈示距離変更ステップによる前記呈示距離の変更と、前記眼特性取得ステップによる前記光学特性の連続的な取得と、を繰り返し実行させる繰り返し制御を行う請求項12に記載の眼科装置の作動方法。
【請求項14】
前記繰り返し制御によって前記加入度数ごとに取得された前記光学特性の取得結果に基づき、前記両眼に適した前記加入度数を決定する加入度数決定ステップを有する請求項13に記載の眼科装置の作動方法。
【請求項15】
前記呈示距離が前記遠見視の距離である場合に、前記眼特性取得ステップで取得した前記光学特性に基づき、前記両眼の完全矯正状態を他覚的に確認する完全矯正状態確認ステップを有する請求項12から14のいずれか1項に記載の眼科装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造に適した眼科装置、及び眼科装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に中高年齢者は、加齢に伴い発生する老視眼(老眼)のために眼の調節応答の機能、すなわちピント位置の調整機能が低下するため、近見作業を行う際には近見眼鏡を良く用いる。このような近見眼鏡の眼鏡レンズの処方(近見処方)は、検者の経験に頼って行われるのが通常であり、検者は被検者の年齢に応じて経験的に眼鏡レンズの加入度数を決定している。このため、近見処方に時間が掛かったり、検者によって差が生じたりするなどの問題が生じる。従って、近見処方の中でも特に適切な加入度数の決定を自動化することが望まれている。
【0003】
特許文献1には、予め設定された近用距離に視標を移動提示し、被検眼が近用距離に移動された視標を見るために必要な第1球面度数と近用の他覚眼屈折力測定で得られた被検眼の第2球面度数とを比較し、第1球面度数と第2球面度数との差から必要な加入度数を求める眼屈折力測定装置が開示されている。また、この眼屈折力測定装置では、求めた加入度数を被検眼に加え、加入度数の微調整を行った後に、被検眼の限界の近用視力値を測定する。
【0004】
特許文献2には、視標を近方の任意距離に呈示した状態で被検眼の屈折力を一定時間連続的に測定し、この測定で得られる径時変化データを解析して、この解析結果から得られる毛様体緊張性微動を示す周波数成分の出現頻度に基づき、緊張状態の有無を判定して過度な緊張のない適正な加入度数を求める検眼装置が開示されている。この検眼装置によれば、長時間の近方視に於いて眼精疲労の少ない近見用眼鏡レンズの製造が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-110388号公報
【文献】特開2011-156291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の眼屈折力測定装置で得られた被検眼の限界の調節力に基づき、眼鏡レンズの加入度数の決定及び処方を行って近見眼鏡の眼鏡レンズを製造すると、近見眼鏡を長時間の装用した際に目が疲れ易くなる等の問題が生じる。このため、依然として検者の経験による加入度数の調整が必要となる。
【0007】
一方、特許文献2の検眼装置では、上記の通り長時間の近方視に於いて眼精疲労の少ない近見用の眼鏡レンズの製造が可能になる。しかし、特許文献1及び特許文献2の装置はいずれも装置内部に配置された視標を被検眼に呈示して単眼ずつ測定を行う。その結果、特許文献1及び特許文献2の装置では、視標の呈示位置を近見視用の距離(近見距離)に変更した場合に、被検眼が常に正面を固視した状態(眼位を変えない状態)で測定を行っている。ここで、人が自然な状態で近方の物体を注視する場合は両眼の輻湊が生じ、この輻湊によっても調節(輻湊性調節)が誘発されることが知られている。このため、被検眼に調節力が残っている場合には、輻湊性調節により近方視ができる可能性がある。従って、上記のように輻湊刺激のない状態での測定では自然視の状態を再現しているとは言い難く、加入度数の決定に関しては不充分である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定に用いられる眼科装置、及び眼科装置の作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するための眼科装置は、被検眼の両眼で視認される共通の視標を呈示する視標呈示部と、視標呈示部により呈示される視標の呈示距離を、予め定めた遠見視の距離から予め定めた近見視の距離へ変更する呈示距離変更部と、被検眼の光学特性を他覚的に取得する眼特性取得部と、両眼に加入度数を付加する加入度数付加部と、加入度数付加部により両眼に任意の加入度数を付加した状態で、呈示距離変更部による呈示距離の変更と、眼特性取得部による光学特性の連続的な取得と、を実行させる制御部と、を備える。
【0010】
この眼科装置によれば、被検眼の両眼の輻湊を考慮した視標の近見視の距離での呈示を実行し、輻湊により誘発される調節変化を含めて両眼の光学特性を測定することができる。その結果、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定に用いられる被検眼の両眼の光学特性が得られる。
【0011】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、制御部は、呈示距離変更部による呈示距離の変更前後の一定時間における光学特性の変化を、眼特性取得部に取得させる。これにより、輻湊により誘発される調節変化を含めて両眼の光学特性を測定することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、加入度数付加部は、両眼に付加する加入度数を変更し、制御部は、加入度数付加部により両眼に付加される加入度数が変更されるごとに、呈示距離変更部による呈示距離の変更と、眼特性取得部による光学特性の連続的な取得と、を繰り返し実行させる繰り返し制御を行う。これにより、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定に用いられる被検眼の両眼の光学特性が得られる。
【0013】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、繰り返し制御によって眼特性取得部により加入度数ごとに取得された光学特性の取得結果に基づき、両眼に適した加入度数を決定する加入度数決定部を備える。これにより、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定を行うことができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、眼特性取得部により取得された光学特性に基づき、被検眼の調節力を判別する調節力判別部を備え、加入度数決定部は、調節力判別部により判別された調節力が予め定めた調節力基準を満たす場合、眼特性取得部により取得された光学特性の値及び揺らぎを加入度数ごとに判別した結果に基づき、加入度数の決定を行う。これにより、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定を行うことができる。
【0015】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、眼特性取得部により取得された光学特性に基づき、被検眼の調節力を判別する調節力判別部を備え、加入度数決定部は、調節力判別部により判別された調節力が予め定めた調節力基準を満たさない場合であって、且つ眼特性取得部により取得された光学特性が時間経過に応じて呈示距離の変更前の値に近づく光学特性の戻りが発生する場合に、加入度数ごとの戻りの大きさを判別した結果に基づき、加入度数の決定を行う。これにより、被検眼の両眼の調節力が多少残っている場合に、この被検眼に最適な加入度数の決定を行うことができる。
【0016】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、加入度数付加部は、両眼に対する加入度数の非付加状態において眼特性取得部により取得された光学特性に基づき、繰り返し制御で両眼に付与する加入度数を決定する。これにより、被検眼に最適な加入度数の決定に要する時間を短縮することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、呈示距離が遠見視の距離である場合に、眼特性取得部が取得した光学特性に基づき、両眼の完全矯正状態を他覚的に確認する完全矯正状態確認部を備える。
【0018】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、眼特性取得部は、光学特性として等価球面度数を取得する。
【0019】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、眼特性取得部は、光学特性と両眼の輻湊角とを取得する。これにより、加入度数ごとに取得された輻湊角に基づき、加入度数ごとの測定において両眼が視標を自然視する状態が再現されていたか否かを判定できる。
【0020】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、眼特性取得部は、両眼と視標とをそれぞれ結ぶ光路に個別に設けられた一組の光学部材と、光学部材の各々の位置から光路に対して垂直方向にシフトした位置にそれぞれ設けられた一組の波面センサであって、測定光を波面センサに対向する光学部材に向けて出射する一組の波面センサと、を備え、光学部材は、視標の像光を透過し、波面センサから入射した測定光を光学部材に対向する被検眼に向けて反射し、被検眼にて反射された測定光を光学部材に対向する波面センサに向けて反射し、波面センサは、波面センサに対向する光学部材から入射する測定光を受光して受光信号を出力し、眼特性取得部は、波面センサから出力された受光信号に基づき、光学特性を得る。これにより、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定に用いられる被検眼の両眼の光学特性が得られる。
【0021】
本発明の目的を達成するための眼科装置の作動方法は、被検眼の両眼で視認される共通の視標を呈示する視標呈示ステップと、視標呈示ステップで呈示される視標の呈示距離を、予め定めた遠見視の距離から予め定めた近見視の距離へ変更する呈示距離変更ステップと、被検眼の光学特性を他覚的に取得する眼特性取得ステップと、両眼に加入度数を付加する加入度数付加ステップと、加入度数付加ステップにて両眼に任意の加入度数を付加した状態で、呈示距離変更ステップによる呈示距離の変更と、眼特性取得ステップによる光学特性の連続的な取得と、を実行させる制御ステップと、を有する。
【0022】
本発明の他の態様に係る眼科装置の作動方法において、加入度数付加ステップでは、両眼に付加する加入度数を変更し、制御ステップは、加入度数付加ステップにて両眼に付加される加入度数が変更されるごとに、呈示距離変更ステップによる呈示距離の変更と、眼特性取得ステップによる光学特性の連続的な取得と、を繰り返し実行させる繰り返し制御を行う。
【0023】
本発明の他の態様に係る眼科装置の作動方法において、繰り返し制御によって加入度数ごとに取得された光学特性の取得結果に基づき、両眼に適した加入度数を決定する加入度数決定ステップを有する。
【0024】
本発明の他の態様に係る眼科装置の作動方法において、呈示距離が遠見視の距離である場合に、眼特性取得ステップで取得した光学特性に基づき、両眼の完全矯正状態を他覚的に確認する完全矯正状態確認ステップを有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の眼科装置及び眼科装置の作動方法は、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態の眼科装置の上面概略図である。
図2】加入度数変更部の一例を示した上面図及び正面図である。
図3】視標移動機構による視標の呈示距離の設定及び変更を説明するための説明図である。
図4】視標呈示部により呈示される視標の一例を説明するための説明図である。
図5】波面センサの構成を示すブロック図である。
図6】装置本体の構成を示すブロック図である。
図7】波面センサによる測定で得られる被検眼の両眼の眼特性の測定データの一例を示したグラフである。
図8】近見動的測定での視標の呈示距離の変更動作を説明するための説明図である。
図9】加入度数決定モードにおいて繰り返し実行される近見動的測定の流れを示すフローチャートである。
図10】第1の被検者の被検眼について取得された加入度数ごとの等価球面度数及び輻湊角の時間変化を示す測定データの一例を示した説明図である。
図11】第2の被検者の被検眼について取得された加入度数ごとの等価球面度数及び輻湊角の時間変化を示す測定データの一例を示した説明図である。
図12】第3の被検者の被検眼について取得された加入度数ごとの等価球面度数及び輻湊角の時間変化を示す測定データの一例を示した説明図である。
図13】眼科装置を使用した近見用の眼鏡レンズの製造の流れ、特に眼科装置による処方値の出力までの流れを示したフローチャートである。
図14】第2実施形態の加入度数決定モードにおいて実行される近見動的測定の流れを示すフローチャートである。
図15】第3実施形態の眼科装置の上面概略図である。
図16】第3実施形態の眼科装置の装置本体の構成を示すブロック図である。
図17】透過率調整部による液晶シャッタの透過率調整について説明するための説明図である。
図18】被検眼の両眼にそれぞれ入射する可視光の光量差を拡大した場合の被検眼(非優位眼)の視線方向の変化を説明するための説明図である。
図19】斜位近視の被検眼の両眼にそれぞれ入射する可視光の光量差を拡大した場合の被検眼の眼位及び屈折力の時間変化の一例を示したグラフである。
図20】加入度数決定部による加入度数の他の決定方法について説明するための説明図である。
図21】視標の呈示距離の変更の変形例1を説明するための説明図である。
図22】視標の呈示距離の変更の変形例2を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態の眼科装置]
図1は、第1実施形態の眼科装置10の上面概略図である。図1に示すように、眼科装置10は、被検者の被検眼Eの両眼の完全矯正値の取得と、被検眼Eの両眼に適した加入度数の決定と、を行う。この眼科装置10で得られる完全矯正値及び加入度数は、近見用の眼鏡レンズ(図示は省略)の処方、すなわち近見用の眼鏡レンズの製造に用いられる。
【0028】
眼科装置10は、テーブル11と、一組の赤外線光源12R,12Lと、接眼部13R,13Lと、加入度数付加部14R,14Lと、視標呈示部15と、視標移動機構16と、一組のダイクロイックミラー17R,17Lと、一組の波面センサ18R,18L(両眼波面センサともいう)と、装置本体19と、を備える。この眼科装置10は、被検眼Eの完全矯正値を取得(測定)する完全矯正値取得モードと、被検眼Eに適した加入度数を決定する加入度数決定モードと、を含む複数の動作モードを有する。
【0029】
テーブル11上には眼科装置10の各部が設けられている。また、テーブル11の被検者側に位置する前端部(図中の下端部)には、不図示の顔支持部が設けられている。顔支持部が被検者の額と顎のいずれか一方または双方を支持することにより、テーブル11上での被検眼Eの位置が定まる。
【0030】
赤外線光源12R,12Lは、被検眼Eの略前方に配置された筐体部(不図示)に取り付けられている。赤外線光源12Rは、被検眼Eの右眼の近傍に取り付けられており、この右眼に向けて近赤外光LAを出射する。また、赤外線光源12Lは、被検眼Eの左眼の近傍に取り付けられており、この左眼に向けて近赤外光LAを出射する。近赤外光LAの波長域は、例えば950nmである。
【0031】
接眼部13R,13Lは、前述のテーブル11に取り付けられている。接眼部13Rは、被検眼Eの右眼に対向する位置に設けられている。これにより、右眼では、接眼部13Rを通して後述の視標28(図4参照)を視認することができる。また、接眼部13Lは、被検眼Eの左眼に対向する位置に設けられている。これにより、左眼では、接眼部13Lを通して視標28を視認することができる。
【0032】
図2は、被検眼Eの両眼にそれぞれ加入度数を付加する加入度数付加部14R,14Lの一例を示した上面図(上段)及び正面図(下段)である。図2に示すように、加入度数付加部14R,14Lは、加入度数決定モード時に被検眼Eの両眼にそれぞれ付加する加入度数を変化させる。加入度数付加部14Rは、接眼部13Rの前方側(被検眼Eとは反対側)に設けられたターレット21Rと、ターレット21Rに設けられた5種類のレンズ22と、ターレット21Rを回転駆動する回転駆動部23Rと、を備える。
【0033】
ターレット21Rには、5種類のレンズ22が同一円周上に設けられている。ターレット21Rは、回転駆動部23Rにより回転駆動されることにより、5種類のレンズ22を選択的に接眼部13Rの前方側に配置する。5種類のレンズ22は、それぞれ0D(ディオプター:Diopter)、0.5D、1.0D、1.5D、及び2.0Dの加入度数が加入されている。なお、ターレット21R内の0Dのレンズ22が設けられている部分は空間であってもよい。回転駆動部23Rによりターレット21Rを回転駆動することで、5種類の加入度数を選択的に被検眼Eの右眼に付加することができる。なお、各レンズ22に、反射防止膜等により測定用の近赤外光(波長域:約800nm~1100nm)の反射防止対策を施すことにより、レンズ22の反射光が収差測定及び前眼部観察のノイズとならないようにすることが望ましい。
【0034】
回転駆動部23Rは、モータ及び駆動伝達機構により構成されている。この回転駆動部23Rは、加入度数決定モードが設定された場合、後述の装置本体19の制御の下、ターレット21Rを回転させることにより被検眼Eの右眼に付加する加入度数を変更する。具体的には、右眼に付加する加入度数を0D、0.5D、1.0D、1.5D、及び2.0Dの順番で段階的に変化させる。また、完全矯正値取得モードでは、右眼に付加する加入度数を0Dに設定、すなわち加入度数の付加を行わない非付加状態に設定する。
【0035】
加入度数付加部14Lは、接眼部13Lの前方側に設けられたターレット21Lと、ターレット21Lに設けられた5種類のレンズ22と、ターレット21Lを回転駆動する回転駆動部23Lと、を備える。加入度数付加部14Lの各部の構成は、既述の加入度数付加部14Rと基本的に同じであるので、ここでは具体的な説明は省略する。加入度数付加部14Lは、加入度数決定モードが設定されている場合、被検眼Eの左眼に付加する加入度数を0D、0.5D、1.0D、1.5D、及び2.0Dの順番で段階的に変化させる。また、加入度数付加部14Lは、完全矯正値取得モードが設定されている場合、左眼に付加する加入度数を0Dに設定、すなわち非付加状態に設定する。
【0036】
なお、本実施形態では、ターレット21R,21Lをそれぞれ回転駆動部23R,23Lにより回転駆動しているが、検者が手動操作でターレット21R,21Lを回転してもよい。また、加入度数付加部14R,14Lは、ターレットタイプに限定されるものでなく、例えばテストフレーム(試験枠)タイプのものを用いてもよく、この場合には検者が手動でレンズ22を入れ替えることにより、被検眼Eに付加する加入度数を変更する。
【0037】
また、加入度数決定モード時に被検眼Eの両眼にそれぞれ付加する加入度数は、上述の5種類の度数に限定されるものではなく、より多くの種類を設けることにより、加入度数の範囲を広く、または加入度数の間隔を細かくする等、適宜変更してもよい。
【0038】
図1に戻って、視標呈示部15は、テーブル11の前端部側とは反対側の後端部側に設けられており、本実施形態では液晶ディスプレイが用いられる。この視標呈示部15は、被検眼Eの両眼に対して、両眼で視認される共通(同一)の視標28(図4参照)を呈示する。この視標呈示部15は、視標移動機構16によりテーブル11の前後方向(被検眼Eに近づく方向及び被検眼Eから遠ざかる方向)に移動自在に保持されている。
【0039】
視標移動機構16は、本発明の呈示距離変更部に相当するものである。視標移動機構16は、視標呈示部15をテーブル11の前後方向に高速移動させることで、視標呈示部15により被検眼Eに呈示される視標28(図4参照)の呈示距離、すなわち視標28と被検眼Eとの間の距離を短時間で変更する。視標移動機構16は、テーブル11の上面に設けられ且つ前後方向に延びたガイドレール25と、ガイドレール25にスライド移動自在に設けられ且つ視標呈示部15を支持する支持部26と、支持部26をガイドレール25に沿って移動(変位)させる視標移動部27と、を備える。
【0040】
視標移動部27は、モータ及び駆動伝達機構により構成されており、後述の装置本体19の制御の下、支持部26を介して視標呈示部15を前後方向に高速移動させることにより、視標28(図4参照)の呈示距離の設定(調整)を行う。
【0041】
図3は、視標移動機構16による視標28(図4参照)の呈示距離の設定及び変更を説明するための説明図である。視標移動機構16は、視標呈示部15を前後方向に高速移動させることより、視標28の呈示距離を予め定めた遠見視の距離(以下、遠見視距離という)である5.0m(0.2D)と、予め定めた近見視の距離(以下、近見視距離という)である0.4m(2.5D)とに短時間で変更可能である。なお、0.4m(2.5D)は、ラップトップ型のパーソナルコンピュータでの作業を想定した距離であり、作業の種類(読書、精密作業)に応じて近見視距離の設定は変更される。
【0042】
視標移動機構16は、完全矯正値取得モードでは視標28(図4参照)の呈示距離を遠見視距離に調整する。また、視標移動機構16は、加入度数決定モードでは上述の5段階の加入度数(0D~2.0D)の変化に応じて、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に短時間で変更する動作を5回繰り返し行う。なお、「短時間」の定義については後述する。
【0043】
なお、本実施形態では、視標28(図4参照)の呈示距離の変更を視標移動機構16に(視標移動部27)により自動で行うが、例えば検者の手動操作により呈示距離の変更を行ってもよい。
【0044】
図4は、視標呈示部15により呈示(表示)される視標28の一例を説明するための説明図である。図4に示すように、視標呈示部15は、視標28の呈示距離が遠見視距離(図中上段)である場合と近見視距離(図中下段)である場合とにおいて、視標28の表示態様を異ならせている。例えば遠見用の視標28は遠方にあって違和感のない風景などが望ましく、近見用の視標28は文字又は幾何学的なパターンなどにすることが好ましい。なお、呈示距離に関係なく視標呈示部15による視標28の表示態様を一定にしてもよい。
【0045】
また、本実施形態では視標呈示部15として液晶ディスプレイを用いているが、例えば視標28の画像が描画された視標板等のように、視標28の呈示(表示)が可能な各種の装置又は部材を視標呈示部15として用いてもよい。
【0046】
図1に戻って、ダイクロイックミラー17R,17Lは本発明の光学部材に相当する。ダイクロイックミラー17Rは、不図示の支持部材を介して波面センサ18Rの前方に支持されており、視標28と被検眼Eの右眼とを結ぶ光路OR上に配置される。一方、ダイクロイックミラー17Lは、不図示の支持部材を介して波面センサ18Lの前方に支持されており、視標28と被検眼Eの左眼とを結ぶ光路OL上に配置される。ダイクロイックミラー17R,17Lは、それぞれテーブル11の上面に対して垂直な軸周りに回転調整可能である。
【0047】
ダイクロイックミラー17R,17Lは、可視光(波長域:約380nm~780nm)を透過させると共に、可視光とは異なる波長域の光、例えば近赤外光(波長域:約800nm~1100nm)を反射する。これにより、視標28の像光はダイクロイックミラー17R,17Lを透過するので、被検眼Eは両眼で視標28を視認できる。
【0048】
ダイクロイックミラー17Rは、後述の波面センサ18Rから入射する近赤外光LB(本発明の測定光に相当)を被検眼Eの右眼に向けて反射する。これにより、近赤外光LBが光路ORに沿って進み、加入度数付加部14R及び接眼部13Rを経て被検眼Eの右眼に入射する。このため、被検眼Eの右眼には、近赤外光LBと、既述の赤外線光源12Rから出射された近赤外光LAとの2波長の近赤外光LA,LBが入射する。被検眼Eの右眼に入射した近赤外光LA,LBは右眼にて反射され、それぞれの一部が光路ORに沿ってダイクロイックミラー17Rに入射する。ダイクロイックミラー17Rは、被検眼Eの右眼より入射した近赤外光LA,LBを波面センサ18Rに向けて反射する。
【0049】
ダイクロイックミラー17Lは、後述の波面センサ18Lから入射する近赤外光LBを被検眼Eの左眼に向けて反射する。これにより、近赤外光LBが光路OLに沿って進み、加入度数付加部14L及び接眼部13Lを経て被検眼Eの左眼に入射する。このため、被検眼Eの左眼にも右眼と同様に、近赤外光LBと、既述の赤外線光源12Lから出射された近赤外光LAとの2波長の近赤外光LA,LBが入射する。被検眼Eの左眼に入射した近赤外光LA,LBは左眼にて反射され、それぞれの一部が光路OLに沿ってダイクロイックミラー17Lに入射する。ダイクロイックミラー17Lは、被検眼Eの左眼より入射した近赤外光LA,LBを波面センサ18Lに向けて反射する。
【0050】
波面センサ18R,18Lは、本発明の眼特性取得部に相当するものである。波面センサ18R,18Lは、連続測定[例えば30fps(frames per second)]可能な測定機であり、被検眼Eの光学特性(等価球面度数、球面収差、及びその他の収差)を測定することができる。また、波面センサ18R,18Lは、被検眼Eの両眼の眼位(視線方向)の測定、被検眼Eの両眼の輻湊角の測定、及び前眼部の観察(瞳孔径及び瞳孔中心の検出)も行うことができる。
【0051】
波面センサ18Rは、ダイクロイックミラー17Rの位置から光路ORに対して垂直方向にシフトした位置(ダイクロイックミラー17Rの図中右側方)に設けられており、ダイクロイックミラー17Rに対向している。波面センサ18Lは、ダイクロイックミラー17Lの位置から光路OLに対して垂直方向にシフトした位置(ダイクロイックミラー17Lの図中左側方)に設けられており、ダイクロイックミラー17Lに対向している。なお、波面センサ18R,18Lはそれぞれテーブル11の上面に対して垂直な軸周りに回転調整可能である。
【0052】
波面センサ18Rは、ダイクロイックミラー17Rに向けて近赤外光LBを出射すると共に、ダイクロイックミラー17Rにて反射された2波長の近赤外光LA,LBを受光して波長域ごとの受光信号を装置本体19へ出力する。また、波面センサ18Lは、ダイクロイックミラー17Lに向けて近赤外光LBを出射すると共に、ダイクロイックミラー17Lにて反射された2波長の近赤外光LA,LBを受光して波長域ごとの受光信号を装置本体19へ出力する。
【0053】
波面センサ18R,18Lは、波長950nmの近赤外光LAを受光して被検眼Eの前眼部の画像を取得することで、アライメント、両眼の眼位(視線方向)、輻湊状態、及び瞳孔径の測定(検出、検知、検査、及び判定を含む)に用いられる受光信号を出力する前眼部観察系29A(図5参照)をそれぞれ備える。また、波面センサ18R,18Lは、波長840nmの近赤外光LBを受光して、被検眼Eの両眼の光学特性(透過球面度、球面収差、及びその他の収差)の測定に用いられる受光信号を出力する収差測定系29B(図5参照)をそれぞれ備える。
【0054】
このように本実施形態では、ダイクロイックミラー17R,17Lにより反射された2波長の近赤外光LA,LBを、被検眼Eの両眼の眼特性(眼位、輻湊角、瞳孔径、及び光学特性等)を測定するための測定光として用いている。これにより、被検眼Eが両眼で視標28を目視(自然視)している状態、すなわち両眼に輻湊が生じ、この輻湊によって輻湊性調節が誘発されている状態にて、被検眼Eの両眼の眼特性を測定できる。
【0055】
[波面センサの構成]
図5は、波面センサ18Rの構成を示すブロック図である。図5に示すように、波面センサ18Rは、前述の前眼部観察系29A及び収差測定系29Bの他に、対物レンズ30と、ダイクロイックミラー31と、ミラー32とを備えている。
【0056】
対物レンズ30は、後述の収差測定系29Bからミラー32及びダイクロイックミラー31を経て入射した波長840nmの近赤外光LBを、ダイクロイックミラー17Rに向けて出射する。また、対物レンズ30には、被検眼Eの右眼にて反射された2波長の近赤外光LA,LBが、光路OR及びダイクロイックミラー17R等を経て入射する。対物レンズ30は、ダイクロイックミラー17Rから入射した近赤外光LA,LBをダイクロイックミラー31に向けて出射する。
【0057】
ダイクロイックミラー31は、波長950nmの近赤外光LAは透過し、波長840nmの近赤外光LBは反射する。これにより、ダイクロイックミラー31は、収差測定系29Bからミラー32を経て入射する波長840nmの近赤外光LBを対物レンズ30に向けて反射する。また、ダイクロイックミラー31は、対物レンズ30から入射した2波長の近赤外光LA,LBのうち、波長950nmの近赤外光LAは前眼部観察系29Aに入射させ、波長840nmの近赤外光LBはミラー32に向けて反射する。
【0058】
ミラー32は、収差測定系29B及びダイクロイックミラー31のいずれか一方から入射した波長840nmの近赤外光LBを、他方に向けて反射する。
【0059】
前眼部観察系29Aは、アライメント光学系34と、リレーレンズ35A,35Bと、結像レンズ36と、CCD(Charge-Coupled Device)型又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型の撮像素子37と、を備える。
【0060】
アライメント光学系34は、ダイクロイックミラー31、対物レンズ30、及びダイクロイックミラー17R等を介して、被検眼Eの右眼の前眼部にアライメント光束を投光(投影)する。これにより、後述の撮像素子37で取得される前眼部の像に輝点像が生じるため、右眼に対する波面センサ18R等のアライメントを行うことができる。
【0061】
リレーレンズ35A、35Bは、ダイクロイックミラー31から入射した波長950nmの近赤外光LAを、結像レンズ36に向けて出射する。結像レンズ36は、リレーレンズ35Bから入射した近赤外光LAによる前眼部画像を、撮像素子37の受光面に結像させる。
【0062】
撮像素子37は、結像レンズ36により結像された近赤外光LAを受光(撮像)して、被検眼Eの右眼の前眼部の像を示す受光信号を装置本体19へ出力する。
【0063】
収差測定系29Bは、SLD(Super luminescent diode)等の半導体素子40と、コリメートレンズ41と、ビームスプリッタ42と、ミラー43と、レンズ系44A,44Bと、ハルトマンプレート45と、CCD型又はCMOS型の撮像素子46と、を備える。
【0064】
半導体素子40は、コリメートレンズ41に向けて波長840nmの近赤外光LBを出射する。コリメートレンズ41は、半導体素子40から入射した近赤外光LBを略平行光とした後に、ビームスプリッタ42に向けて出射する。なお、必要に応じて半導体素子40を、被検眼Eの眼底に近赤外光LBが集光するように、被検眼Eの度数に合せて移動ささせる。
【0065】
ビームスプリッタ42は、例えばS偏光を反射し且つP偏光を透過する偏光ビームスプリッタであり、コリメートレンズ41から入射した波長840nmの近赤外光LBをミラー32に向けて反射する。また、ビームスプリッタ42は、ダイクロイックミラー31等を経てミラー32から入射した近赤外光LBをそのまま透過させて、ミラー43に向けて出射する。
【0066】
ミラー43は、ビームスプリッタ42から入射した波長840nmの近赤外光LBを、レンズ系44Aに向けて反射する。レンズ系44A,44Bは、ミラー43から入射した近赤外光LBをハルトマンプレート45に向けて出射する。
【0067】
ハルトマンプレート45の表面には、焦点距離が等しい多数の微小レンズが形成されている。ハルトマンプレート45は、レンズ系44Bから入射した波長840nmの近赤外光LBを、各微小レンズに対応した複数の光束に分割し、各々の光束を撮像素子46の受光面上に結像させる。
【0068】
撮像素子46は、ハルトマンプレート45により受光面上に結像された複数の光束を受光(撮像)して、各光束に対応した複数の点像を示す受光信号を装置本体19へ出力する。レンズ系44B及びハルトマンプレート45は、レンズ系44Bからハルトマンプレート45に略平行光が入射するように必要に応じて移動する。半導体素子40、レンズ系44B、及びハルトマンプレート45は連動して移動してもよい。
【0069】
波面センサ18Lは、波面センサ18Rと同一の構成であるので、波面センサ18Lの各部の説明及び図示は省略する。波面センサ18Lは、被検眼Eの左眼にて反射された波長950nmの近赤外光LAを前眼部観察系29Aで受光して、左眼の前眼部の像を示す受光信号を装置本体19へ出力する。また、波面センサ18Lは、被検眼Eの左眼にて反射された波長840nmの近赤外光LBを収差測定系29Bで受光して、複数の点像を示す受光信号を装置本体19へ出力する。
【0070】
[装置本体の構成]
図6は、装置本体19の構成を示すブロック図である。この装置本体19としては、例えばパーソナルコンピュータなどの各種演算処理装置が用いられる。
【0071】
図6に示すように、装置本体19には、統括制御部50と、操作部51と、視標移動制御部52と、度数変更制御部53と、センサ制御部54と、解析部55と、完全矯正状態確認部56と、調節力判別部57と、加入度数決定部58と、出力部59と、表示出力部60と、記憶部61と、を備える。なお、統括制御部50、及び視標移動制御部52から出力部59までの構成は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はFPGA(field-programmable gate array)などに所定の制御プログラムを実行させることにより実現される。
【0072】
統括制御部50は、本発明の制御部に相当するものであり、操作部51に入力された検者からの操作指示に応じて、眼科装置10の各部の動作(完全矯正値の取得、加入度数の決定、及び眼科装置10の動作モードの切り替え等)を統括的に制御する。操作部51は、例えばキーボード及びマウス等の公知の入力デバイスが用いられる。
【0073】
なお、統括制御部50は、眼科装置10の動作モードが完全矯正値取得モード又は加入度数決定モードである場合、赤外線光源12R,12Lからの近赤外光LAの照射を実行させる。また、統括制御部50は、呈示距離に応じた視標28を視標呈示部15に表示させる。
【0074】
視標移動制御部52は、統括制御部50の制御の下、既述の視標移動機構16(視標移動部27)を駆動して、視標呈示部15を前後方向に移動させることにより、視標28の呈示距離の設定を行う。
【0075】
度数変更制御部53は、統括制御部50の制御の下、既述の加入度数付加部14R(回転駆動部23R)と加入度数付加部14L(回転駆動部23L)とをそれぞれ制御して、ターレット21R,21Lをそれぞれ回転させることにより、被検眼Eの両眼にそれぞれ付加する加入度数を変更する。
【0076】
センサ制御部54は、統括制御部50の制御の下、既述の波面センサ18R,18Lをそれぞれ駆動して近赤外光LBを出射させると共に、双方の撮像素子37,46を駆動(近赤外光LA,LBの撮像及び受光信号の出力)させる。
【0077】
解析部55は、既述の波面センサ18R,18Lと共に本発明の眼特性取得部を構成するものであり、波面センサ18R,18Lの双方の撮像素子37,46から入力された受光信号を解析して、被検眼Eの両眼の眼特性の測定データを取得する。これにより、両眼の眼特性の測定データを他覚的に取得できる。この測定データには、本発明の両眼の光学特性の取得結果も含まれる(図7参照)。
【0078】
図7は、波面センサ18R,18Lによる測定で得られる被検眼Eの両眼の眼特性の測定データの一例を示したグラフである。なお、図7は、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離を変更するのに合わせて波面センサ18R,18Lで測定(後述の近見動的測定)された両眼の眼特性の測定データである。
【0079】
図7に示すように、波面センサ18R,18Lを用いることで、被検眼Eの両眼の眼特性の測定データとして、等価球面度数(符号7A参照)、眼位(視線方向、符号7B参照)、瞳孔径(符号7C参照)、球面収差(符号7D参照)、及び輻湊角(符号7E参照)等の時間変化を示す測定データが得られる。なお、波面センサ18R,18Lから出力される受光信号を解析して、上記の眼特性の各測定データを取得する方法は公知技術であるので具体的な説明は省略する。
【0080】
図6に戻って、完全矯正状態確認部56は、被検眼Eの両眼の完全矯正状態を他覚的に確認する。なお、完全矯正値取得モードは、被検者にテストレンズを装用させた状態で行われる。
【0081】
完全矯正状態確認部56は、完全矯正値取得モード時に解析部55により取得された被検眼Eの両眼の光学特性(等価球面度数、乱視成分)の測定データに基づき、両眼の残余度数を取得して、この残余度数に基づき両眼の完全矯正状態を確認する。なお、完全矯正状態確認部56が取得した残余度数は、出力部59へ出力される。なお、残余度数の取得方法については公知技術であるので具体的な説明は省略する。
【0082】
本実施形態では、完全矯正状態確認部56の確認結果に基づき、検者が被検眼Eの両眼の完全矯正値を決定する。なお、完全矯正値の具体的な決定方法については後述する。そして、検者が決定した完全矯正値を操作部51に入力することにより、この完全矯正値が統括制御部50を介して出力部59に入力される。
【0083】
調節力判別部57は、詳しくは後述するが、加入度数決定モード時に被検眼Eの両眼の調節力を判別する。調節力判別部57は、被検眼Eの両眼の調節力の判別結果を加入度数決定部58へ出力する。
【0084】
加入度数決定部58は、詳しくは後述するが、加入度数決定モード時に被検眼Eの両眼にそれぞれ適した加入度数を決定して、加入度数の決定結果を出力部59へ出力する。
【0085】
出力部59は、操作部51から入力された被検眼Eの両眼の完全矯正値と、加入度数決定部58から入力された両眼の加入度数とに基づき、近見用の眼鏡レンズ(不図示)の処方値を決定し、この処方値を表示出力部60と記憶部61とにそれぞれ出力する。
【0086】
処方値は、被検眼Eの両眼の完全矯正値及び加入度数の他に、視標28の呈示距離を近見視距離に設定し且つ加入度数を0Dに設定した状態において、波面センサ18R,18Lにより取得された両眼の光学特性を用いて生成してもよい。
【0087】
また、処方値には、眼科装置10とは別途の測定により被検眼Eが斜位近視であると診断された場合に、この斜位近視を矯正するためのプリズム度数が含まれる。このプリズム度数は、検者が被検眼Eの斜位角及び調節変化(図19参照)を公知の方法で測定した測定結果に基づき決定される。このプリズム度数は、検者により操作部51を介して出力部59に入力される。
【0088】
なお、出力部59は、完全矯正値取得モード時においては、完全矯正状態確認部56から入力された残余度数を表示出力部60に出力する。
【0089】
表示出力部60は、液晶ディスプレイ等のモニタとプリンタとを備える。表示出力部60は、出力部59から入力された処方値と、撮像素子37から入力された受光信号に基づく被検眼Eの両眼の観察像とを表示すると共に、処方値の出力(印刷)を行う。なお、表示出力部60は、完全矯正値取得モード時においては、出力部59から入力された残余度数を表示する。記憶部61は、出力部59から入力された処方値を例えば被検者の固有識別情報に関連付けて記憶する。
【0090】
次に、完全矯正値取得モード時の被検眼Eの両眼の完全矯正値の取得動作、及び加入度数決定モード時の両眼の加入度数の決定動作の詳細について説明する。
【0091】
[完全矯正値取得モード]
完全矯正値取得モードは、最初は被検者にテストレンズが装用されていない状態で開始される。統括制御部50は、完全矯正値取得モードの設定がなされた場合、赤外線光源12R,12Lからの近赤外光LAの出射を実行させる。
【0092】
視標移動制御部52は、完全矯正値取得モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、視標移動部27を駆動することにより、視標28の呈示距離を既述の遠見視距離に設定する。また、視標呈示部15は、完全矯正値取得モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、遠見視距離に対応した視標28の呈示を開始する。
【0093】
度数変更制御部53は、完全矯正値取得モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、回転駆動部23R,23Lをそれぞれ駆動することにより、被検眼Eの両眼にそれぞれ付加する加入度数を0D、すなわち非付加状態に設定する。
【0094】
センサ制御部54は、完全矯正値取得モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、波面センサ18R,18Lからの近赤外光LBの出射を実行させる。また、センサ制御部54は、波面センサ18R,18Lの双方の撮像素子37による近赤外光LBの撮像と、双方の撮像素子46による近赤外光LBの撮像とをそれぞれ実行させ、双方の撮像素子37,46からそれぞれ受光信号を装置本体19へ出力させる。これにより、解析部55による被検眼Eの両眼の光学特性(等価球面度数、乱視成分)の測定データの解析及び取得と、完全矯正状態確認部56による両眼の残余度数の取得とが実行される。
【0095】
完全矯正状態確認部56により取得された残余度数は、出力部59を介して表示出力部60にて表示される。これにより、仮の完全矯正値が検者により決定され、この完全矯正値に対応したテストレンズが被検者に装用される。
【0096】
テストレンズ装用後、統括制御部50の制御の下、波面センサ18R,18Lによる近赤外光LBの出射と、波面センサ18R,18Lによる受光信号の出力と、解析部55による解析と、完全矯正状態確認部56による被検眼Eの両眼の残余度数の取得と、が繰り返し実行される。そして、完全矯正状態確認部56は、新たに取得した両眼の残余度数が0D~-0.25D程度であるか否かに基づき、両眼の完全矯正状態を確認する。そして、完全矯正状態確認部56は、残余度数が0D~-0.25D程度ではない場合、その旨を示す警告情報及び新たに取得した残余度数を、出力部59を介して表示出力部60へ出力する。これにより、表示出力部60において、警告情報及び残余度数が表示される。
【0097】
検者は、テストレンズに新たな残余度数分の度数を加えた後、眼科装置10に上述の各処理を繰り返し実行させる。以下、完全矯正状態確認部56により取得される残余度数が0D~-0.25D程度になるまで、上述の処理が繰り返し実行される。完全矯正状態確認部56は、新たに取得した両眼の残余度数が0D~-0.25D程度になった場合、その旨を示す完了情報を、出力部59を介して表示出力部60へ出力する。これにより、表示出力部60において完了情報が表示される。検者は、この時点でのテストレンズの度数に基づき被検眼Eの両眼の完全矯正値を決定し、この完全矯正値を、操作部51等を介して出力部59に入力する。その結果、被検眼Eの両眼にて視標28を自然視している状態、すなわち両眼に輻湊が生じている状態での両眼の他覚的な完全矯正値を決定することができる。
【0098】
なお、完全矯正状態確認部56は、残余度数の取得及び出力までを行い、被検眼Eの両眼の完全矯正状態の確認及び完全矯正値の決定については検者が行ってもよい。また逆に、テストレンズの度数に関する情報を、検者が操作部51等を介して完全矯正状態確認部56に入力することで、完全矯正状態確認部56が完全矯正値の決定までを行ってもよい。
【0099】
[加入度数決定モード]
加入度数決定モードは、被検眼Eが既述の斜位近視である場合、プリズム(プリズムレンズ)等で被検眼Eの斜位近視を予め矯正した状態で実行される。
【0100】
統括制御部50は、加入度数決定モードの設定がなされた場合、既述の完全矯正値取得モードと同様に、赤外線光源12R,12Lからの近赤外光LAの出射と、波面センサ18R,18Lからの近赤外光LBの出射とを実行させる。
【0101】
度数変更制御部53は、加入度数決定モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、回転駆動部23R,23Lを駆動することにより、加入度数付加部14R,14Lにより被検眼Eの両眼にそれぞれ付加される加入度数を0D、0.5D、1.0D、1.5D、2.0Dの順番で変更させる。
【0102】
視標移動制御部52、センサ制御部54、及び解析部55は、加入度数決定モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、加入度数付加部14R,14Lにより被検眼Eの両眼にそれぞれ付加される加入度数ごとに、後述の近見動的測定を繰り返し実行させる。換言すると統括制御部50は、両眼にそれぞれ付加される加入度数ごとに、視標移動制御部52、センサ制御部54、及び解析部55を制御して近見動的測定を繰り返し実行させる繰り返し制御を行う。
【0103】
近見動的測定とは、視標28の呈示距離を短時間で遠見視距離から近見視距離に変更する変更前後の一定時間の被検眼Eの眼特性(光学特性等)の変化を、波面センサ18R,18Lにより連続的に測定することである。なお、本明細書でいう「短時間」とは、被検眼Eに対して輻湊刺激が呈示されてから被検眼Eに輻湊調節が起こるまでの時間よりも短い時間であり、具体的には0.2秒以下である。
【0104】
図8は、近見動的測定での視標28の呈示距離の変更動作を説明するための説明図である。図8に示すように、視標移動制御部52は、視標移動部27を駆動して、視標28の呈示距離を遠見視距離に設定した状態を1秒間継続した後、遠見視距離から近見視距離に短時間で変更させ、近見視距離に設定した状態を6秒間継続する。なお、各時間は適宜変更してもよい。
【0105】
視標呈示部15は、統括制御部50の制御の下、視標28の呈示距離が遠見視距離の場合には遠見視距離に対応した視標28を被検眼Eの両眼に呈示し、視標28の呈示距離が近見視距離の場合には近見視距離に対応した視標28を被検眼Eの両眼に呈示する(図4参照)。
【0106】
センサ制御部54は、視標28の呈示距離の変更に合わせて、波面センサ18R,18Lによる近赤外光LA及び近赤外光LBの撮像及び受光信号の出力を実行させる。また、解析部55は、視標28の呈示距離の変更に合わせて波面センサ18R,18Lからそれぞれ出力される受光信号の解析及び眼特性の測定データの取得を実行する。これにより、加入度数付加部14R,14Lにより被検眼Eの両眼に対して前述の各加入度数のいずれか付加されている状態での両眼の眼特性の時間変化を示す測定データ(既述の図7参照)が得られる。
【0107】
図9は、加入度数決定モードにおいて繰り返し実行される近見動的測定の流れを示すフローチャートである(本発明の眼科装置の作動方法に相当)。図9に示すように、統括制御部50は、操作部51にて加入度数決定モードへの変更操作がなされると、赤外線光源12R,12Lからの近赤外光LAの出射を実行させると共に、センサ制御部54を制御して波面センサ18R,18Lからの近赤外光LBの出射を実行させる。また、統括制御部50は、度数変更制御部53を制御して回転駆動部23R,23Lを駆動することにより、加入度数付加部14R,14Lにより被検眼Eの両眼にそれぞれ付加される加入度数を0Dに設定する(ステップS1)。
【0108】
統括制御部50は、操作部51にて測定開始操作がなされると、視標呈示部15に遠見視距離に対応した視標28を呈示させる(ステップS2、本発明の視標呈示ステップに相当)。また、統括制御部50は、視標移動制御部52を制御して、視標移動部27を駆動して視標28の呈示距離を遠見視距離に設定すると共に(ステップS3)、時間経過の測定を開始する。さらに統括制御部50は、センサ制御部54を制御して、波面センサ18R,18Lによる測定(近赤外光LA,LBの撮像及び受光信号の出力)を開始させる(ステップS4、本発明の眼特性取得ステップに相当)。
【0109】
統括制御部50は、視標28の呈示距離が遠見視距離に設定されてから1秒が経過すると、視標移動制御部52を制御して視標移動部27を駆動することにより、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に変更する(ステップS5でYES、ステップS6、本発明の呈示距離変更ステップに相当)。この際に、統括制御部50は、視標呈示部15に近見視距離に対応した視標28を呈示させる。
【0110】
統括制御部50は、視標28の呈示距離が近見視距離に変更される1秒前から変更後の6秒間の間、センサ制御部54を制御して、波面センサ18R,18Lによる測定を継続(連続)する(ステップS7)。ここでの測定は、撮像素子46により取得するハルトマン画像をカメラレート、例えば1/30秒間隔で取得して、メモリに記録しておくことで、光学特性値の演算を測定終了後に実施してもよい。この際に本実施形態では、被検眼Eの両眼で同一の視標28を視認しているので、被検眼Eの両眼にて視標28を自然視している状態、すなわち両眼に輻湊が生じている状態で波面センサ18R,18Lによる測定が実行される。そして、統括制御部50は、呈示距離が変更されてから6秒が経過すると、波面センサ18R,18Lによる測定を終了させる(ステップS8)。
【0111】
次いで、統括制御部50は、波面センサ18R,18Lの双方から出力された受光信号の解析を解析部55に実行させる(ステップS9)。これにより、被検眼Eの両眼に加入度数0Dが付加されている状態での両眼の眼特性[光学特性(等価球面度数)、輻湊角]の時間変化を示す測定データが取得される(ステップS10)。以上で1回目の近見動的測定が完了する。
【0112】
1回目の近見動的測定の完了後、統括制御部50は、度数変更制御部53を制御して回転駆動部23R,23Lを駆動することにより、加入度数付加部14R,14Lにより被検眼Eの両眼にそれぞれ付加される加入度数を0.5Dに変更する(ステップS13でYES、本発明の加入度数付加ステップに相当)。そして、統括制御部50は、視標呈示部15、視標移動制御部52、センサ制御部54、及び解析部55をそれぞれ駆動して、既述のステップS2からステップS10までの処理を繰り返し実行させる(本発明の繰り返し制御ステップに相当)。これにより、2回目の近見動的測定が実行され、被検眼Eの両眼に加入度数0.5Dが付加されている状態での被検眼Eの両眼の眼特性の時間変化を示す測定データが取得される。
【0113】
以下同様にして、加入度数付加部14R,14Lにより被検眼Eの両眼にそれぞれ付加される加入度数が1.0D、1.5D、2.0Dの順番で変更されるごとに近見動的測定がそれぞれ実行される(本発明の繰り返し制御ステップに相当)。これにより、被検眼Eの両眼に加入度数1.0D、1.5D、2.0Dがそれぞれ付加されている状態での被検眼Eの両眼の時間変化を示す測定データが取得される。以上で加入度数ごとの近見動的測定が全て完了する。
【0114】
[調節能力の判別及び加入度数決定]
図6に戻って、調節力判別部57は、加入度数0Dの条件で取得された被検眼Eの両眼の眼特性の測定データの中で光学特性の測定データ、より具体的には等価球面度数の測定データに基づき、被検眼Eの両眼の調節力を判別する。
【0115】
加入度数決定部58は、調節力判別部57による判別結果と、加入度数ごとの等価球面度数の測定データとに基づき、被検眼Eの両眼に適した加入度数の決定を行う。また、加入度数決定部58は、加入度数ごとの輻湊角の測定データに基づき、上述の近見動的測定において両眼が呈示距離変更後の視標28に対して調節していたか否かを判定する。
【0116】
以下、調節力判別部57による調節力の判別と、加入度数決定部58による加入度数の決定との具体例を説明する。
【0117】
<第1の被検者(20代後半)>
図10は、第1の被検者(20代後半)の被検眼Eについて取得された加入度数ごとの等価球面度数及び輻湊角の時間変化を示す測定データの一例を示した説明図である。なお、図中の符号「T」は、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に切り替えるタイミングを示している。また、図中の符号「P」は、近見視距離にある視標28の位置を示す視標位置である。
【0118】
(調節力の判別)
図10に示すように、調節力判別部57は、加入度数0Dの条件で取得された被検眼Eの両眼の等価球面度数の測定データに基づき、この両眼の調節力を判別する。例えば調節力判別部57は、視標28の近見視距離が2.5D(0.4m)である場合、視標28の呈示距離の変更に伴い両眼の等価球面度数が-1.5Dまで変化するか否かに基づき、両眼の調節力が予め定めた調節力基準を満たすか否かを判別する。この判別基準(-1.5D)については、視標28の近見視距離の設定等に応じて適宜変更してもよい。
【0119】
なお、調節力判別部57は、加入度数0Dの条件で取得された等価球面度数の測定データに基づき被検眼Eの両眼の調節力を判別する代わりに、例えば被検者の年齢に応じて被検眼Eの両眼の調節力を判別してもよい。この場合、調節力判別部57は、操作部51等で入力された被検者の年齢が予め定めた一定年齢以下である場合、既述の調節力基準を満たすと判別し、一定年齢以下ではない場合、調節力基準を満たさないと判別する。例えば調節力基準を満たす被検眼Eは、調節力があるので近見には不自由しないものの、疲れにくい近見用の眼鏡が望まれる。一方、調節力基準を満たさない被検眼Eは、近見に支障が生じるおそれがあり、近見用の眼鏡が必要となる。
【0120】
第1の被検者の場合、視標28の呈示距離の変更に伴い被検眼Eの両眼の等価球面度数が-2.5Dの近傍まで変化する。このため、調節力判別部57は、被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たす旨の判別結果を加入度数決定部58へ出力する。
【0121】
(加入度数の決定)
加入度数決定部58は、調節力判別部57から入力された調節力の判別結果に基づき、被検眼Eの両眼の調節力が既述の調節力基準を満たす場合には、解析部55にて取得された加入度数ごとの等価球面度数の測定データの値及び揺らぎを判別する。
【0122】
加入度数0Dの条件で取得された両眼の等価球面度数は、視標28の呈示距離の短時間での変更に伴い急激に約-1.5Dまで変化した後で緩やかに-2.5D(符号P参照)まで変化している。この最初の-1.5Dまでの変化が輻湊性調節と考えられる。そして、呈示距離変更後の等価球面度数には揺らぎ(点線枠で表示)が発生している。
【0123】
加入度数0.5Dの条件で取得された両眼の等価球面度数は、視標28の呈示距離の変更に伴い、0Dの場合と同様に急激に約-1.5Dまで変化した後で緩やかに-2.5Dまで変化し、且つ呈示変更後の等価球面度数の揺らぎは加入度数0Dの場合よりも抑えられている。また、加入度数1.0Dの条件で取得された両眼の等価球面度数は、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.5Dまで変化し、且つ呈示距離変更後の等価球面度数の揺らぎについても加入度数0.5Dの場合よりも抑えられている。
【0124】
加入度数1.5Dの条件で取得された両眼の等価球面度数は、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.5Dをオーバシュート(点線枠で表示)するが、呈示距離変更後の等価球面度数の揺らぎは安定している。本実施形態では、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に短時間で切り替えることで、被検眼Eの輻湊性調節と呈示距離の変更に伴う調節とを分離して検出できる。その結果、俊敏に反応する被検眼Eの輻湊性調節状態の取得が可能になる。これにより、呈示距離の切り替えを低速で行った場合には検出することができないオーバシュートの検出が可能になり、被検眼Eの両眼に適さない加入度数の判別が容易となる。従って、被検眼Eの両眼に適した加入度数の決定を行うことができる。
【0125】
また、加入度数2.0Dの条件で取得された両眼の等価球面度数は、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.5Dを大きく超えている(過矯正が発生している)が、呈示距離変更後の等価球面度数の揺らぎは安定している。
【0126】
加入度数決定部58は、加入度数ごとの等価球面度数の測定データの波形形状を公知の手法(フィッティング等)で解析することにより、加入度数ごとの等価球面度数の値及び揺らぎを判別する。そして、加入度数決定部58は、等価球面度数が-2.5D(その近傍を含む)に達し且つ輻湊性調節のみで変化せず等価球面度数の揺らぎがなくなる加入度数0.5Dを、被検眼Eの両眼に適した加入度数として決定する。
【0127】
また、加入度数決定部58は、加入度数ごとの等価球面度数の測定データの波形形状を解析する代わりに、例えば各測定データをFFT(Fast Fourier Transform)によりフーリエ変換して等価球面度数の揺らぎを解析することにより、揺らぎがなくなる加入度数を決定してもよい。
【0128】
<第2の被検者(40代前半)>
図11は、第2の被検者(40代前半)の被検眼Eについて取得された加入度数ごとの等価球面度数及び輻湊角の時間変化を示す測定データの一例を示した説明図である。
【0129】
(調節力の判別)
図11に示すように、第2の被検者の場合、加入度数0Dの条件で取得された被検眼Eの両眼の等価球面度数の測定データは、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.0Dの近傍まで変化する。このため、調節力判別部57は、両眼の調節力が調節力基準を満たすとの判別結果を加入度数決定部58へ出力する。
【0130】
(加入度数の決定)
加入度数決定部58は、被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たしているので、既述の図10で説明した方法と同様の方法で加入度数の決定を行う。
【0131】
加入度数0D及び加入度数0.5Dの条件でそれぞれ取得された両眼の等価球面度数の測定データは、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.5Dまで変化せず、呈示距離変更後の等価球面度数にも揺らぎ(点線枠で表示)が発生している。
【0132】
加入度数1.0D及び加入度数1.5Dの条件でそれぞれ取得された両眼の等価球面度数の測定データは、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.5Dの近傍まで変化し、且つ呈示変更後の等価球面度数の揺らぎは加入度数0.5Dの場合よりも抑えられている。
【0133】
加入度数2.0Dの条件で取得された両眼の等価球面度数は、視標28の呈示距離の変更に伴い-2.5Dを大きく超えている(過矯正)が、呈示距離変更後の等価球面度数の揺らぎは安定している。
【0134】
加入度数決定部58は、測定データの波形形状の解析又はフーリエ変換による揺らぎの解析を行い、加入度数ごとの等価球面度数の値及び揺らぎを判別することにより、等価球面度数が-2.5Dに達し且つ等価球面度数の揺らぎがなくなる加入度数1.0Dを、被検眼Eの両眼に適した加入度数として決定する。
【0135】
<第3の被検者(40代後半)>
図12は、第3の被検者(40代後半)の被検眼Eについて取得された加入度数ごとの等価球面度数及び輻湊角の時間変化を示す測定データの一例を示した説明図である。
【0136】
(調節力の判別)
図12に示すように、第3の被検者の場合、加入度数0Dの条件で取得された被検眼Eの両眼の等価球面度数の測定データは、視標28の呈示距離の変更に伴い-1.0D位までしか変化せず、さらに時間経過に応じて呈示距離の変更前の値に近づく「戻り」(図中の矢印参照)が発生している。この場合、調節力判別部57は、被検眼Eの両眼の調節力が既述の調節力基準を満たさないが多少残っていることを示す判別結果を加入度数決定部58へ出力する。なお、既述の通り、被検者の年齢に基づき、被検者の被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たさないが多少残っている状態であるか否かの判別を行ってもよい。
【0137】
(加入度数の決定)
加入度数決定部58は、調節力判別部57から入力された調節力の判別結果に基づき、被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たさないが所定の最低基準を満たしており、且つ等価球面度数の測定データに「戻り」が発生している場合、加入度数ごとの等価球面度数の戻り量を判別した結果に基づき、加入度数の決定を行う。
【0138】
加入度数0Dから加入度数1.0Dの条件でそれぞれ取得された両眼の等価球面度数の測定データでは、視標28の呈示距離の変更後、時間経過に応じて「戻り」が発生している。
【0139】
一方、加入度数1.5D及び加入度数2.0Dの条件でそれぞれ取得された両眼の等価球面度数の測定データでは、視標28の呈示距離の変更後の等価球面度数の戻り量が、加入度数0Dから加入度数1.0Dの場合と比較して大幅に減少している。
【0140】
加入度数決定部58は、例えば加入度数ごとの等価球面度数の測定データの波形形状を公知の手法(フィッティング等)で解析することにより、加入度数ごとの等価球面度数の戻り量を判別する。そして、加入度数決定部58は、加入度数ごとの等価球面度数の戻り量の判別結果に基づき、戻り量が所定の基準以内となる加入度数(本実施形態では1.5D)を、被検眼Eの両眼に適した加入度数として決定する。
【0141】
<輻湊角の測定データに基づく判定>
既述の図10から図12において、加入度数決定部58は、加入度数ごとの被検眼Eの両眼の輻湊角の測定データに基づき、加入度数ごとの近見動的測定において両眼が呈示距離変更後の視標28に対して調節していたか否かを判定する。これにより、加入度数ごとの近見動的測定において、両眼が視標28を自然視する状態が再現されていたか否かを判定できる。なお、加入度数決定部58は否と判定した場合、近見動的測定が正しく実行されていない、或いは被検眼Eが視標28に対して調節できない等の問題があるため、その旨を示す警告表示を表示出力部60等に表示させる。
【0142】
[第1実施形態の眼科装置の作用]
図13は、上記構成の眼科装置10を使用した近見用の眼鏡レンズの製造方法(本発明の眼科装置の作動方法を含む)の流れ、特に眼科装置10による処方値の出力までの流れを示したフローチャートである。
【0143】
最初に被検者の顔が眼科装置10の顔支持部にセットされ、顔の高さ調整が行われる。そして、検者が操作部51を操作して眼科装置10を完全矯正値取得モードに設定すると(ステップS21)、統括制御部50は、赤外線光源12R,12Lから被検眼Eに向けて近赤外光LAの出射を開始させる。
【0144】
また、統括制御部50は、センサ制御部54を制御して波面センサ18R,18Lからの近赤外光LBの出射を開始させる。波面センサ18R,18Lから出射された近赤外光LBは、ダイクロイックミラー17R,17L等を経て被検眼Eの両眼にそれぞれ入射する。これにより、被検眼Eの右眼で反射された近赤外光LA,LBがダイクロイックミラー17R等を経て波面センサ18Rに入射し、被検眼Eの右眼で反射された近赤外光LA,LBがダイクロイックミラー17L等を経て波面センサ18Lに入射する。
【0145】
さらに、統括制御部50の制御の下、視標移動制御部52による視標28の呈示距離の遠見視距離への設定と、視標呈示部15による遠見視距離に対応した視標28の呈示と、度数変更制御部53による加入度数0Dの付加と、が実行される。
【0146】
そして、統括制御部50の制御の下、被検眼Eの両眼の眼特性の測定が開始され、波面センサ18R,18Lの双方の撮像素子37による近赤外光LBの撮像及び受光信号の出力と、双方の撮像素子46による近赤外光LBの撮像及び受光信号の出力と、解析部55による受光信号の解析と、が実行される。次いで、被検者にテストレンズが装用されていない状態での被検眼Eの両眼の残余度数が完全矯正状態確認部56により取得され、この残余度数に関する情報が出力部59を介して表示出力部60に出力される。表示出力部60は残余度数を表示する。
【0147】
検者は、表示出力部60に表示された残余度数に基づき、仮の完全矯正値を決定した後、この完全矯正値に対応したテストレンズを被検者に装用させる。そして、検者は、被検者にテストレンズを装用させた状態での既述の残余度数の取得処理を眼科装置10に繰り返し実行させる。
【0148】
完全矯正状態確認部56は、テストレンズ装用後に取得された残余度数が0D~-0.25D程度であるか否かに基づき、被検眼Eの両眼の完全矯正状態を他覚的に確認する(本発明の完全矯正状態確認ステップに相当)。そして、完全矯正状態確認部56は、取得した残余度数が0D~-0.25D程度ではない場合、その旨を示す警告情報及び残余度数を、出力部59を介して表示出力部60へ出力する。これにより、表示出力部60にて警告情報及び残余度数が表示される。
【0149】
この場合、検者は、テストレンズに新たに取得された残余度数分の度数を加えた後、眼科装置10に既述の残余度数の取得処理及び完全矯正状態の確認等を繰り返し実行させる。以下、被検眼Eの両眼の残余度数が0D~-0.25D程度になるまで、上述の各処理が繰り返し実行される。
【0150】
完全矯正状態確認部56は、新たに取得した被検眼Eの両眼の残余度数が0D~-0.25D程度になる場合、その旨を示す完了情報を、出力部59を介して表示出力部60へ出力する。これにより、表示出力部60にて完了情報が表示される。検者は、被検者に装用されているテストレンズの度数に基づき被検眼Eの両眼の完全矯正値を決定し、この完全矯正値を、操作部51等を介して出力部59に入力する。これにより、被検眼Eの両眼の他覚的な完全矯正値が取得(決定)される(ステップS22)。
【0151】
なお、テストレンズについては、既述の通り、測定近赤外光(波長域:約800nm~1100nm)に対する反射防止対策が施されていることが好ましい。また、テストレンズは眼科装置10の加入度数付加部14R、14Lに組み込まれていてもよい。この場合、完全矯正値に加入度数を加算した度数を決定し、その度数に対応するレンズを加入度数付加部14R、14Lに配置することで、完全矯正値に対して加入度数を加えた状態での測定を行うことが可能である。
【0152】
出力部59は、完全矯正状態確認部56から入力された完全矯正値を表示出力部60へ出力する。これにより、表示出力部60にて両眼の完全矯正値が表示又は出力される。
【0153】
検者は、完全矯正値に対応したテストレンズを被検者に装用させた後、5m視力測定による被検者の視力確認を行って、被検眼Eの視力が1.2~1.5程度、もしくは被検眼Eの最高視力が出ていることを確認する(ステップS23)。以上で完全矯正値取得モードが完了する。
【0154】
完全矯正値取得モードの完了後、必要に応じて検者により公知の手法で被検眼Eの斜位角の測定及び調節変化の測定が実施され(後述の図19参照)、被検眼Eの斜位近視の有無が診断される(ステップS24)。そして、被検眼Eが斜位近視である場合、すなわち被検眼Eにプリズムの加入が必要である場合には、被検眼Eに対するプリズムの加入が行われる(ステップS25でYES、ステップS26)。なお、プリズム度数に関する情報は、検者により操作部51を介して出力部59に入力される。
【0155】
検者が操作部51を操作して眼科装置10を加入度数決定モードに設定すると(ステップS27)、既述の図9で説明した加入度数ごとの近見動的測定及び受光信号の解析が波面センサ18R,18L及び解析部55により実行される(ステップS28)。眼科装置10による近見動的測定は、視標28を被検眼Eの両眼で自然視している状態、すなわち両眼に輻湊が生じ且つこの輻湊によって輻湊性調節が誘発されている状態で実行される。
【0156】
次いで、既述の図10から図12で説明した調節力判別部57による調節力の判別と、加入度数決定部58による加入度数の決定とが実行される(ステップS29,S30、本発明の加入度数決定ステップに相当)。これにより、被検眼Eの両眼に適した加入度数が決定する。加入度数決定部58は、決定した加入度数を出力部59へ出力する。以上で加入度数決定モードが完了する。
【0157】
加入度数決定モードが完了すると、出力部59は、操作部51及び加入度数決定部58からそれぞれ入力された被検眼Eの両眼の完全矯正値、加入度数、及びプリズム度数(プリズム加入が必要な場合)に基づき、近見用の眼鏡レンズ(不図示)の処方値を決定する(ステップS31)。そして、出力部59は、決定した処方値を表示出力部60と記憶部61とにそれぞれ出力する。これにより、表示出力部60による処方値の表示及び出力と、記憶部61による処方値の記憶とが行われる。
【0158】
検者は、処方値に対応したテストレンズを被検者に装用させた後、被検者に対する自覚検眼を行って問題がなければ処方値を確定し、被検者に対する処方を行う(ステップS32)。そして、処方値に従って近見用の眼鏡レンズ(不図示)がメーカにて製造される(ステップS33)。
【0159】
[第1実施形態の眼科装置の効果]
以上のように本実施形態の眼科装置10によれば、視標28を被検眼Eの両眼で自然視している状態、すなわち両眼に輻湊が生じ且つこの輻湊によって輻湊性調節が誘発されている状態で加入度数ごとの近見動的測定が行われる。これにより、被検眼Eの両眼の輻湊を考慮した視標28の近見視距離での呈示を実行し、輻湊により誘発される調節変化を含めて両眼の光学特性等の眼特性を測定することができる。その結果、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定に用いられる被検眼Eの両眼の眼特性の測定結果が得られる。このため、眼科装置10を用いることで、より自然視状態に近い最適な加入度数の決定を行うことができる。
【0160】
[第2実施形態の眼科装置]
上記第1実施形態の加入度数決定モードでは、被検者の被検眼Eの調節力に関係なく、個々の加入度数[0D、0.5D、1.0D、1.5D、2.0D]ごとに近見動的測定を繰り返し行う繰り返し制御を実施している。
【0161】
この際に、既述の図10及び図11に示したような被検眼Eの調節力が調節力基準を満たす第1の被検者及び第2の被検者の場合、被検眼Eに適した加入度数は低くなる(例えば1.0D以下)。また逆に、既述の図12に示したような被検眼Eの調節力が調節力基準を満たさない第3の被検者の場合、被検眼Eに適した加入度数は高くなる(例えば1.5D以上)。このため、第1の被検者及び第2の被検者では加入度数1.5D及び加入度数2.0Dで近見動的測定を行う必要性は低く、逆に第3の被検者では加入度数0.5D及び加入度数1.0Dで近見動的測定を行う必要性は低い。
【0162】
そこで、第2実施形態の眼科装置10では、加入度数決定モードが設定された場合に、被検者の被検眼Eの調節力に応じて加入度数決定モードで変更する加入度数を決定し、決定した加入度数ごとに近見動的測定を行う。なお、第2実施形態の眼科装置10は、上記第1実施形態の眼科装置10と基本的に同じ構成であるので、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0163】
図14は、第2実施形態の加入度数決定モードにおいて実行される近見動的測定の流れを示すフローチャートである。なお、ステップS1からステップS10までは上記第1実施形態と基本的に同じであるので、具体的な説明は省略する。
【0164】
ステップS10において、被検眼Eの両眼に加入度数0Dが付加されている状態、すなわち加入度数の非付加状態での両眼の眼特性[光学特性(等価球面度数)、輻湊角]の時間変化を示す測定データが取得されると(ステップS11でYES)、度数変更制御部53は、被検眼Eの両眼の調節力を判別する。例えば度数変更制御部53は、既述の調節力判別部57と同様の判別手法で被検眼Eの調節力を判別したり、或いは調節力判別部57から調節力の判別結果を取得したりする。
【0165】
次いで、度数変更制御部53は、被検眼Eの両眼の調節力に応じて、加入度数決定モードで変更する加入度数を決定する(ステップS12)。例えば度数変更制御部53は、被検眼Eの両眼の調節力が既述の調節力基準を満たしている場合には、加入度数決定モードで変更する加入度数を0.5D及び1.0Dに決定し、被検眼Eの両眼の調節力が既述の調節力基準を満たしていない場合には、加入度数決定モードで変更する加入度数を1.5D及び2.0Dに決定する。なお、変更する加入度数の決定方法は特に限定はされない。
【0166】
そして、1回目の近見動的測定の完了後、度数変更制御部53は、統括制御部50の制御の下、回転駆動部23R,23Lを駆動することにより、先に決定した加入度数の中で最も低い加入度数を被検眼Eの両眼に付加させる。そして、統括制御部50は、視標呈示部15、視標移動制御部52、センサ制御部54、及び解析部55をそれぞれ駆動して、既述のステップS2からステップS10までの処理を繰り返し実行させる。これにより、2回目の近見動的測定が実行され、被検眼Eの両眼の眼特性の測定データが取得される。以下同様に、度数変更制御部53が決定した加入度数ごとに近見動的測定が実行され、加入度数ごとの測定データが得られる。そして、第1実施形態と同様に、被検眼Eの両眼に適した加入度数が決定される。
【0167】
以上のように、第2実施形態の眼科装置10では、被検眼Eの両眼の調節力に応じて加入度数決定モードで変更する加入度数を決定することにより、被検眼Eの調節力に対応した加入度数での近見動的測定を選択的に実施できる。その結果、被検眼Eの両眼に適した加入度数の決定に要する時間を短縮できる。
【0168】
[第3実施形態の眼科装置]
次に、第3実施形態の眼科装置10について説明を行う。上記各実施形態では、斜位近視を矯正するためのプリズム度数の決定を眼科装置10とは別途に行っていたが、第3実施形態の眼科装置10ではプリズム度数の決定も自動で行う。
【0169】
図15は、第3実施形態の眼科装置10の上面概略図である。図16は、第3実施形態の眼科装置10の装置本体19の構成を示すブロック図である。図15及び図16に示すように第3実施形態の眼科装置10は、テーブル11上に設けられた液晶シャッタ70R,70Lと、装置本体19に設けられた透過率調整部71及びプリズム度数決定部72とを備え、さらに動作モードとしてプリズム度数決定モードを有している点を除けば、上記第1実施形態の眼科装置10と基本的に同じ構成である。このため、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0170】
液晶シャッタ70Rはダイクロイックミラー17Rの視標呈示部15側の面上に取り付けられ、液晶シャッタ70Lはダイクロイックミラー17Lの視標呈示部15側の面上に取り付けられている。これにより、液晶シャッタ70R,70Lは光路OR,OLにそれぞれ配置される。従って、被検眼Eの右眼はダイクロイックミラー17R及び液晶シャッタ70Rを通して視標28を視認し、被検眼Eの左眼はダイクロイックミラー17L及び液晶シャッタ70Lを通して視標28を視認する。
【0171】
液晶シャッタ70R,70Lは、それぞれ光路OR,OLに沿って進む可視光(視標28の像光)が透過する透過領域を有している。液晶シャッタ70R,70Lは、それぞれ透過領域の濃度を任意に変化させることにより、透過領域をそれぞれ透過する光の透過率を任意に調整することができる。これにより、被検眼Eの両眼でそれぞれ視認する視標28の明るさを個別に調整できる。液晶シャッタ70R,70Lの透過率は、装置本体19が調整する。
【0172】
なお、液晶シャッタ70R,70Lは、被検眼Eの両眼でそれぞれ視認する視標28の明るさを個別に調整可能であれば、その位置及び構成は特に限定されるものではない。ただし、被検眼Eの両眼にて反射された近赤外光LA,LBが液晶シャッタ70R,70Lにより減衰されることを防止する観点から、液晶シャッタ70R,70Lは、ダイクロイックミラー17R,17Lと視標呈示部15との間に配置することが好ましい。
【0173】
視標移動制御部52は、プリズム度数決定モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、視標移動部27を駆動することにより、視標28の呈示距離を既述の近見視距離に設定する。また、視標呈示部15は、プリズム度数決定モードの設定がなされた場合、統括制御部50の制御の下、近見視距離に対応した視標28の呈示を行う。
【0174】
図17は、透過率調整部71による液晶シャッタ70R,70Lの透過率調整について説明するための説明図である。図17に示すように、透過率調整部71は、プリズム度数決定モードが設定された場合に、統括制御部50の制御の下、液晶シャッタ70R,70Lのそれぞれの透過領域の透過率(濃度)を調整する。
【0175】
具体的に、透過率調整部71は、液晶シャッタ70R,70Lのうちで被検眼Eの非優位眼に対応する一方の透過率を時間の経過と共に連続的(符号T1参照)又は段階的(符号T2参照)に減少させる。例えば本実施形態では、1秒ごとに一方の透過率が5%ずつ低下させる。そして、透過率調整部71は、液晶シャッタ70R,70Lの一方が完全遮蔽状態(非透過状態)で10秒間経過した後、一方の透過率を1秒ごとに5%ずつ増加させる。
【0176】
また、透過率調整部71は、液晶シャッタ70R,70Lの他方の透過率は一定に維持させる(符号T3参照)。これにより、液晶シャッタ70R,70Lの一方の透過率を時間経過と共に減少させると、被検眼Eの非優位眼に入射する可視光の光量が時間の経過と共に減少し、且つ被検眼Eの優位眼に入射する可視光の光量は一定に維持される。その結果、被検眼Eの両眼にそれぞれ入射する可視光の光量の差である光量差が拡大する。
【0177】
図18は、被検眼Eの両眼にそれぞれ入射する可視光の光量差を拡大した場合の被検眼E(非優位眼)の視線方向の変化を説明するための説明図である。図18の符号80Aに示すように、被検眼Eの両眼にそれぞれ入射する可視光の光量差がゼロ(ほぼゼロを含む)である場合、被検眼Eの両眼でそれぞれ目視した視標28の像を一つの像として被検者が認識する融像が成立する。
【0178】
次いで、符号80Bに示すように、透過率調整部71は、予め選択された被検眼Eの非優位眼(ここでは右眼)に対応する液晶シャッタ70Rの透過率を時間の経過と共に減少させる。この場合、既述の光量差が一定範囲内である場合には融像が成立する。
【0179】
そして、符号80Cに示すように、既述の光量差が一定範囲内を超えて拡大すると、被検者は被検眼Eの両眼でそれぞれ目視している視標28の像を一つの像として認識することができなくなり、輻湊が維持されない状態となるので、融像が破壊されてしまう。その結果、被検眼Eの非優位眼の眼位(視線方向)に変化が生じる。
【0180】
この際に、本実施形態の眼科装置10では、統括制御部50の制御の下、センサ制御部54による波面センサ18R,18Lの測定と、解析部55による解析とを実行させることにより、融像の破壊に伴う非優位眼の眼位の変化(斜位角θ)、及び眼位の変化に伴う被検眼Eの光学特性の変化、具体的には屈折力(屈折値)の変化を測定できる。
【0181】
図19は、斜位近視の被検眼Eの両眼にそれぞれ入射する可視光の光量差を拡大した場合の被検眼Eの眼位及び屈折力(D)の時間変化の一例を示したグラフである。図19の符号81Aに示すように、融像の破壊に伴う非優位眼の眼位の変化(図中点線枠で表示)が発生すると、この眼位の変化に基づき被検眼Eの斜位角θの測定を行うことができる。そして、図19の符号81Bに示すように、被検眼Eが斜位近視である場合、非優位眼の眼位の変化に伴う被検眼Eの屈折力の変化、すなわち調節変化が発生する。具体的には、非優位眼が外方偏位すると被検眼Eの屈折力が遠視側へシフトする(図中の矢印参照)。
【0182】
図16に戻って、プリズム度数決定モード時に波面センサ18R,18L及び解析部55によって取得された被検眼Eの眼位及び屈折力(D)の時間変化を示す測定データは、解析部55からプリズム度数決定部72に入力される。
【0183】
プリズム度数決定部72は、既述の図19に示したように、被検眼Eの非優位眼の眼位の変化に伴う調節変化が生じている場合、被検眼Eの斜位角θ及び屈折力(D)の測定結果に基づき、被検眼Eに対して加入するプリズムのプリズム度数を決定する。なお、プリズム度数の決定方法は、公知技術であるので具体的な説明は省略する。そして、プリズム度数決定部72は、プリズム度数の決定結果を出力部59へ出力する。出力部59は、プリズム度数の決定結果を処方値として表示出力部60に表示出力させると共に、記憶部61に記憶させる。
【0184】
以上のように第3実施形態の眼科装置10では、被検眼Eの融像の破壊に伴う眼位の変化(斜位角θ)及び調節変化を自動で測定できるので、既述の図13に示したステップS25を自動化することができる。すなわち、1つの眼科装置10で、完全矯正値の取得と、プリズム度数の決定と、加入度数の決定と、をそれぞれ自動で行うことができる。
【0185】
[その他]
上記各実施形態の加入度数決定部58は、被検眼Eの両眼の調節力が既述の調節力基準を満たす場合、解析部55にて取得された加入度数ごとの等価球面度数の測定データの値及び揺らぎに基づき加入度数を決定しているが、他の方法を用いて加入度数を決定してもよい。
【0186】
図20は、加入度数決定部58による加入度数の他の決定方法について説明するための説明図である。図20に示すように、加入度数決定部58は、解析部55にて取得された加入度数ごとの等価球面度数の測定データの平均値、例えば呈示距離変更後の3秒~5秒間の平均値を、加入度数ごとに算出する。
【0187】
符号20Aに示すように、被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たしている既述の第1の被検者(図10参照)の場合、加入度数が1.0Dまでの範囲では等価球面度数の測定データの平均値がほぼ一定であるのに対して、加入度数が1.5D及び2.0Dでは等価球面度数の測定データの平均値が次第に小さくなる(図中の符号FD参照)。
【0188】
符号20Bに示すように、被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たしている既述の第2の被検者(図11参照)の場合、加入度数が0.5Dから1.5Dまでの範囲では等価球面度数の測定データの平均値はほぼ一定であり(符号FH参照)、加入度数が2.0Dでは等価球面度数の測定データの平均値が小さくなる(符号FD参照)。
【0189】
一方、符号20Cに示すように、被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たしていない既述の第3の被検者(図12参照)の場合、図中の矢印に示すように、加入度数の増加に伴い等価球面度数の測定データの平均値が線形的に減少する。
【0190】
このように被検眼Eの両眼の調節力が調節力基準を満たす場合、すなわち両眼の調節力が残っている場合には、加入度数ごとの等価球面度数の測定データの平均値の波形に、平均値がほぼ一定になる一定部分と、平均値が減少する減少部分とが連続して現れることが、本発明者により確認された。そして、本発明者は、既述の一定部分(一定部分内において減少部分との境界側の領域)に対応する加入度数が、被検眼Eの両眼にそれぞれ適した加入度数になることを確認した。従って、加入度数決定部58は、加入度数ごとに等価球面度数の測定データの平均値をそれぞれ求め、加入度数に対する平均値の変化を解析することで、被検眼Eの両眼にそれぞれ適した加入度数を決定することができる。
【0191】
上記各実施形態では、視標28を視認(自然視)している被検眼Eの両眼の上記各種眼特性を取得する手段として波面センサ18R,18Lを用いているが、少なくとも両眼の光学特性を取得可能な公知の各種装置(眼特性取得部)を代わりに用いてもよい。また、本実施形態の眼科装置10は少なくとも加入度数の決定のみを行い、他の完全矯正値及びプリズム度数は別途の装置で取得又は決定してもよい。
【0192】
上記各実施形態では、視標移動機構16を高速駆動することにより視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に短時間で変更して、俊敏に反応する被検眼Eの輻湊性調節状態を取得可能にしているが、他の方法で短時間での呈示距離の変更(切替)を行ってもよい。
【0193】
図21は、視標の呈示距離の変更の変形例1を説明するための説明図である。また、図22は、視標の呈示距離の変更の変形例2を説明するための説明図である。なお、図21及び図22に示した各変形例は、呈示距離の変更に係る構成以外は、上記第1実施形態と基本的に同じであるので、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0194】
(変形例1)
図21に示すように、変形例1では、視標呈示部15を既述の遠見視距離に対応する位置に固定して遠見視用の視標28(図4の上段参照)を表示させる。また、変形例1では、既述のガイドレール25、支持部26、及び視標移動部27(図1参照)の代わりに、視標呈示部100及び視標切替機構101(本発明の呈示距離変更部に相当)を別途設けている。
【0195】
視標呈示部100は、視標呈示部15と基本的には同じものであり、近見視用の視標28(図4の下段参照)を表示する。この視標呈示部100は、視標切替機構101により、被検眼Eの前方で且つ既述の近見視距離に対応する呈示位置(点線で表示)と、この呈示位置から側方(上下左右のいずれの方向でも可)に退避した退避位置(実線で表示)との間で移動自在に保持される。また、視標呈示部100は、遠見時はテーブル11に倒伏した状態(倒れた状態)になることで退避し、近見時は起立した状態(立ち上がった状態)で近見視用の視標28を呈示するようにしてもよい。
【0196】
視標切替機構101は、図示は省略するが、視標呈示部100を呈示位置と退避位置との間でスライド移動自在に保持するガイドレール等の保持部と、視標呈示部100に駆動力を付与するモータ等の駆動機構と、を備えている。この視標切替機構101の駆動は、既述の視標移動制御部52(図6参照)により制御される。
【0197】
視標移動制御部52の制御の下、視標切替機構101が視標呈示部100を退避位置に移動させた場合、被検眼Eに対して視標呈示部15の視標28が呈示される。また逆に、視標切替機構101が視標呈示部100を呈示位置に移動させた場合、被検眼Eに対して視標呈示部100の視標28が呈示される。このため、視標切替機構101により視標呈示部100を退避位置から呈示位置に短時間で移動させることで、第1実施形態と同様に視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に短時間で切り替えることができる。
【0198】
この際に、視標呈示部100を退避位置から呈示位置に移動させる移動距離は、第1実施形態において視標呈示部15を遠見視距離から近見視距離に移動させる移動距離よりも大幅に短くすることができる。このため、変形例1では、第1実施形態よりも短時間で視標28の呈示距離の切り替えを行うことができる。その結果、俊敏に反応する被検眼Eの輻湊性調節状態の取得をより確実に行うことができる。
【0199】
なお、変形例1では、視標切替機構101により視標呈示部100を退避位置と呈示位置との間で自動移動させているが、視標呈示部100の移動を手動操作で行ってもよい。
【0200】
(変形例2)
図22に示すように、変形例2は、視標呈示部15を既述の遠見視距離に対応する位置に固定して遠見視用の視標28を表示させる点では上述の変形例1と同じであるが、変形例1とは異なる視標呈示部103を備えている。
【0201】
視標呈示部103は、被検眼Eの前方で且つ既述の近見視距離に対応する呈示位置に設けられている。この視標呈示部103は、例えば透過型の液晶ディスプレイ或いはヘッドアップディスプレイ等のような透明(透過型)ディスプレイが用いられる。この視標呈示部103は、既述の統括制御部50の制御の下、近見視用の視標28を表示する表示状態と、視標28の表示を行わない非表示状態と、に切り替えられる。この場合、視標呈示部103及び統括制御部50が本発明の呈示距離変更部として機能する。なお、視標呈示部103は、表示状態に切り替えられた場合、被検眼Eに対して視標呈示部15を視認不可能な遮光状態となる。
【0202】
視標呈示部103が非表示状態に切り替えられた場合、被検眼Eは、視標呈示部103を通して視標呈示部15に表示されている視標28を両眼で視認できる。これにより、被検眼Eの両眼に対して遠見視用の視標28が呈示される。また逆に、視標呈示部103が表示状態に切り替えられた場合、被検眼Eは、視標呈示部103に表示されている視標28を両眼で視認できる。これにより、被検眼Eの両眼に対して近見視用の視標28が呈示される。このため、視標呈示部103を非表示状態から表示状態に切り替えることで、第1実施形態と同様に視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に切り替えることができる。
【0203】
この際に変形例2では、視標呈示部103の移動を一切行うことなく、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に切り替えることができるため、第1実施形態及び変形例1よりも短時間で視標28の呈示距離の切り替えを行うことができる。その結果、俊敏に反応する被検眼Eの輻湊性調節状態の取得をより確実に行うことができる。
【0204】
なお、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に切り替える方法は、上記実施形態、変形例1、及び変形例2に限定されるものではなく、視標28の呈示距離の変更可能な各種の方法が用いられる。
【0205】
上記各実施形態では、視標呈示部15等により呈示される視標28、すなわち外部固視標を用いているが、両眼で視認される共通(同一)もしくは別々に表示するが融像により1つの像と認識できる内部固視標を用いてよい。また、遠見視用の視標28として、光学的に5mの距離に呈示できる視標を用いても良い。
【0206】
上記各実施形態では、視標28の呈示距離を遠見視距離から近見視距離に変更する前後の一定時間の被検眼Eの眼特性(光学特性等)の変化を連続的に測定しているが、呈示距離の変更後から一定時間の眼特性の変化を連続的に測定してもよい。
【0207】
上記各実施形態では、被検眼Eの両眼の眼特性(光学特性等)の変化を同時に測定しているが、被検眼Eの両眼に視標28を同時に呈示している状態であれば、眼特性の変化の測定を片眼ずつ行ってもよい。
【0208】
上記各実施形態では、視標28の呈示距離の変更に伴う被検眼Eの両眼の光学特性の変化の測定として等価球面度数(等価屈折力)等の変化を測定しているが、球面収差及びその他の高次収差等の各種の光学特性の変化を測定してもよい。
【0209】
上記各実施形態では、被検眼Eの両眼に対して付加する加入度数ごとに既述の近見動的測定を繰り返し行うことにより、被検眼Eに適した加入度数の決定を行っているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば被検眼Eの両眼に最初に付加にした任意の加入度数での近見動的測定の測定結果として、典型的な光学特性変化のプロファイルを得ることができれば、近見動的測定を1回で終了して加入度数の決定を行ってもよい。
【0210】
上記各実施形態では、眼科装置10により加入度数の決定(処方値の出力)までを自動的に行っているが、例えば眼鏡レンズの製造方法(製造工程)の中で加入度数ごとの被検眼Eの両眼の眼特性(光学特性等)の取得までを眼科装置10で行い、これ以降の加入度数の決定は検者等が行う場合にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0211】
10…眼科装置,
11…テーブル,
12R,12L…赤外線光源,
13R,13L…接眼部,
14R,14L…加入度数付加部,
15,100,103…視標呈示部,
16…視標移動機構,
17R、17L,31…ダイクロイックミラー,
18R,18L…波面センサ,
19…装置本体,
21R,21L…ターレット,
22…レンズ,
23R,24R…回転駆動部,
25…ガイドレール,
26…支持部,
27…視標移動部,
28…視標,
29A…前眼部観察系,
29B…収差測定系,
30…対物レンズ,
34…アライメント光学系,
35A,35B…リレーレンズ,
36…結像レンズ,
37,46…撮像素子,
41…コリメートレンズ,
42…ビームスプリッタ,
43…ミラー,
44A,44B…レンズ系,
45…ハルトマンプレート,
50…統括制御部,
51…操作部,
52…視標移動制御部,
53…度数変更制御部,
54…センサ制御部,
55…解析部,
56…完全矯正状態確認部,
57…調節力判別部,
58…加入度数決定部,
59…出力部,
60…表示出力部,
61…記憶部,
70R,70L…液晶シャッタ,
71…透過率調整部,
72…プリズム度数決定部,
101…視標切替機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22