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  • 特許-酸化ガリウム粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】酸化ガリウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 15/00 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
C01G15/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018202184
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066567
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 篤
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-034024(JP,A)
【文献】特開昭55-104921(JP,A)
【文献】特開2004-142969(JP,A)
【文献】特開2011-144080(JP,A)
【文献】特開平11-322335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが2.0未満である酸にガリウムとシュウ酸とが溶解したガリウム溶液に第1塩基を添加する第1中和ステップと、
前記第1中和ステップ後の前記ガリウム溶液に前記第1塩基より物質として弱い塩基である第2塩基を添加する第2中和ステップと、
前記第2中和ステップ後の前記ガリウム溶液に前記第1塩基を再び添加する第3中和ステップと、
前記ガリウム溶液の中で析出した水酸化ガリウム粉末を前記第3中和ステップ後に濾別して仮焼する仮焼ステップと、を含み、
前記第2中和ステップは、前記第2塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを3.0から5.0に上昇させることを含む
酸化ガリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第1中和ステップは、前記第1塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを2.0以上3.0以下である第1設定値まで上昇させ、
前記第2中和ステップは、前記第2塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを前記第1設定値から5.0以上7.0以下である第2設定値まで上昇させ、
前記第3中和ステップは、前記第2中和ステップ後の前記第1塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを前記第2設定値から8.0以上の第3設定値まで上昇させる
請求項1に記載の酸化ガリウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記第2塩基は、前記第1塩基と弱酸との塩である
請求項1または2に記載の酸化ガリウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記第1塩基は、アンモニア水溶液であり、
前記第2塩基は、炭酸アンモニウム水溶液である
請求項1から3のいずれか一項に記載の酸化ガリウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記第1塩基は、シュウ酸アンモニウムを含む
請求項4に記載の酸化ガリウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記第2塩基は、炭酸アンモニウムの濃度が0.10mol/L以上2.0mol/L以下の炭酸アンモニウム水溶液である
請求項4または5に記載の酸化ガリウム粉末の製造方法。
【請求項7】
前記第1中和ステップ、前記第2中和ステップ、および、前記第3中和ステップにおいて前記ガリウム溶液の温度を20℃以上50℃以下である所定温度に保つ
請求項1から6のいずれか一項に記載の酸化ガリウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ガリウムは、ガリウムドープ酸化亜鉛膜、インジウム-ガリウム-亜鉛膜などの透明導電性薄膜の原料として広く用いられている。透明導電性薄膜は、酸化ガリウムを含むターゲットを用いたスパッタ成膜によって形成される。酸化ガリウム含有ターゲットは、酸化ガリウム粉末をその他の原料とともに形成、焼結することで製造される。薄膜の均一性を高めるうえで、酸化ガリウム含有ターゲットの原料となる酸化ガリウム粉末の粒径は、より微小であることが求められている。
【0003】
酸化ガリウム粉末は、まず、強酸性溶液にガリウムを溶解させたガリウム溶液に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を添加し、それによって、水酸化ガリウム粉末を析出させる。そして、ガリウム溶液から濾別された水酸化ガリウム粉末の集合を粗粉砕し、粗大な水酸化ガリウム粉末を分級で除去した後に、水酸化ガリウム粉末を仮焼することによって製造される。(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-322335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上述の製造方法で析出した水酸化ガリウム粉末は、反応速度が速いほど析出する水酸化ガリウム粒子が微細化することが知られており、微細な水酸化ガリウムが析出することによって粒子の表面エネルギーが増大して粒子同士の吸着力が増し、乾燥後の硬化が促されると考えられる。このことから、水酸化ガリウム粉末の集合は、粗粉砕が困難となる程度に高い硬度で塊を形成してしまう。結果として、微小な粒径を有する酸化ガリウム粉末が得られ難くなる。そして、水酸化ガリウム粉末の集合が仮焼前に粗粉砕と分級とを経るとしても、所望の大きさの粒径を有した水酸化ガリウム粉末の収率は非常に低く、ひいては、酸化ガリウム粉末の収率は非常に低いものとなっている。
【0006】
本発明の目的は、微小な粒径を有する酸化ガリウム粉末を製造可能にした酸化ガリウム粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための酸化ガリウム粉末の製造方法は、pHが2.0未満である酸にガリウムとシュウ酸とが溶解したガリウム溶液に第1塩基を添加する第1中和ステップと、前記第1中和ステップ後の前記ガリウム溶液に前記第1塩基より弱い塩基である第2塩基を添加する第2中和ステップと、前記第2中和ステップ後の前記ガリウム溶液に前記第1塩基を再び添加する第3中和ステップと、前記ガリウム溶液の中で析出した水酸化ガリウム粉末を前記第3中和ステップ後に濾別して仮焼する仮焼ステップと、を含み、前記第2中和ステップは、前記第2塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを3.0から5.0に上昇させることを含む。
【0008】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法によれば、ガリウム溶液のpHを上昇させる際に、中和当量点の近傍においてのみ、第1塩基よりも弱い塩基である第2塩基が用いられる。そのため、中和当量点の近傍でpHの急上昇を抑えて、pHの急上昇に起因した酸化ガリウムの硬化が抑制可能となる。結果として、水酸化ガリウム粉末の粒径が大きくなることを抑えて、微小な粒径を有した酸化ガリウム粉末の製造を可能とする。
【0009】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法において、前記第1中和ステップは、前記第1塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを2.0以上3.0以下である第1設定値まで上昇させ、前記第2中和ステップは、前記第2塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを前記第1設定値から5.0以上7.0以下である第2設定値まで上昇させ、前記第3中和ステップは、前記第2中和ステップ後の前記第1塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを前記第2設定値から8.0以上の第3設定値まで上昇させてもよい。
【0010】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法によれば、ガリウム溶液のpHが急上昇し得る範囲の直前まで、第1塩基がpHを上昇させ、また、当該範囲を過ぎた直後からは、第1塩基がpHを上昇させる。そのため、pHを第3設定値まで上昇させる時間の短縮が可能ともなる。
【0011】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法において、前記第2塩基は、前記第1塩基と弱酸との塩であってもよい。
上記酸化ガリウム粉末の製造方法によれば、第2塩基に含まれる第1塩基由来の陽イオンが、第2中和ステップにおいてガリウム溶液に溶解する。そして、第1塩基が寄与する溶液内での平衡と、第2塩基が寄与する溶液内での平衡とに共通した陽イオンによる緩衝作用が、第2中和ステップ、および、第3中和ステップにおいて生じる。また、第2塩基に含まれる弱酸由来の陰イオンが、第2中和ステップにおいてガリウム溶液に溶解する。そして、弱酸由来の緩やかな中和が第2中和ステップにおいて生じる。そのため、中和当量点の近傍において、ガリウム溶液のpHが急上昇することが、さらに抑制可能ともなる。
【0012】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法において、前記第1塩基は、アンモニア水溶液であり、前記第2塩基は、炭酸アンモニウム水溶液であってもよい。また、上記酸化ガリウム粉末の製造方法において、前記第1塩基は、シュウ酸アンモニウムを含んでもよい。
【0013】
上記酸化ガリウム粉末の各製造方法であれば、酸化ガリウム粉末にガリウム以外の他の金属元素やハロゲン元素が混入することが抑制可能ともなる。
上記酸化ガリウム粉末の製造方法において、前記第2塩基は、炭酸アンモニウムの濃度が0.10mol/L以上2.0mol/L以下の炭酸アンモニウム水溶液であってもよい。
【0014】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法によれば、粒径が微小な酸化ガリウム粉末を低コストで製造することが可能となる。
上記酸化ガリウム粉末の製造方法において、前記第1中和ステップ、前記第2中和ステップ、および、前記第3中和ステップにおいて前記ガリウム溶液の温度を20℃以上50℃以下である所定温度に保ってもよい。
【0015】
上記酸化ガリウム粉末の製造方法によれば、酸化ガリウムの硬化抑制が高い確度で実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】酸化ガリウム粉末の製造方法の一実施形態での各ステップの流れを示すフロー図。
図2】各製造ステップでのpH曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、酸化ガリウム粉末の製造方法を具体化した一実施形態を説明する。
図1に示すように、酸化ガリウム粉末の製造方法は、水酸化ガリウム粉末の製造方法を含む。酸化ガリウム粉末の製造方法は、ガリウム溶液を準備する溶液準備ステップS11、第1中和ステップS12、第2中和ステップS13、第3中和ステップS14、および、仮焼ステップS15を含む。
【0018】
ガリウム溶液は、酸にガリウムを溶解させることによって得られる。酸に溶解させるガリウムは、金属ガリウム、または、ガリウム化合物である。ガリウム化合物は、例えば、ガリウム合金、硫酸ガリウム、塩化ガリウムである。酸は、例えば、硝酸とシュウ酸との混合物、硫酸とシュウ酸との混合物、塩酸とシュウ酸との混合物であり、好ましくは、硝酸とシュウ酸との混合物である。
【0019】
ガリウム溶液のpHは、1.0以上2.0未満である。ガリウム溶液に含まれるガリウムの濃度は、0.01mol/L以上1.0mol/L以下、好ましくは、0.05mol/L以上0.5mol/L以下である。
【0020】
第1中和ステップS12は、ガリウム溶液に第1塩基を添加する。第1中和ステップS12は、第1塩基の添加によって、ガリウム溶液のpHを第1設定値まで上昇させる。第1設定値は、2.0以上3.5以下である。
【0021】
第1塩基は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、および、これらの水溶液の少なくとも1種であり、好ましくは、アンモニア水溶液である。第1塩基の添加速度は、水酸化物イオン換算で、例えば、1.0×10-2mol/min以上1.0mol/min以下、好ましくは、5.0×10-2mol/min以上5.0×10-1mol/min以下である。
【0022】
第2中和ステップS13は、第1中和ステップS12に続いて、ガリウム溶液に第2塩基を添加する。第2中和ステップS13は、第2塩基の添加によって、ガリウム溶液のpHを第2設定値まで上昇させる。第2中和ステップS13は、ガリウム溶液のpHを3.0から5.0に上昇させることを含む。第2設定値は、5.0以上8.0以下であり、好ましくは、5.0以上7.0以下である。
【0023】
第2塩基は、第1塩基より弱い塩基である。第2塩基は、例えば、弱塩基である第1塩基と弱酸との塩である。第1塩基が、アンモニア水溶液である場合、第2塩基は、例えば、炭酸アンモニウム、または、炭酸水素アンモニウムである。好ましくは、炭酸アンモニウムである。第2塩基の添加速度は、水酸化物イオン換算で、例えば、5.0×10-3mol/min以上1.0×10-1mol/min、好ましくは、1.0×10-3mol/min以上2.0×10-2mol/min以下である。なお、第1塩基、および、第2塩基は、仮焼ステップにおいて気化し、固形分残渣となることなく、かつ、気化成分が仮焼雰囲気において不都合な反応を進めないことが、酸化ガリウムの純度を高める観点で好ましい。この観点からも、アンモニア水溶液、および、炭酸アンモニウムの選択は好都合である。
【0024】
第3中和ステップS14は、第2中和ステップS13に続いて、ガリウム溶液に第1塩基を再度添加する.第3中和ステップS14は、ガリウム溶液のpHを第3設定値まで上昇させる。第3設定値は、6.0よりも大きい値であり、好ましくは.7.0以上である。
【0025】
第3中和ステップS14での第1塩基の添加速度は、水酸化物イオン換算で、例えば、1.0×10-2mol/min以上1.0mol/min以下、好ましくは、5.0×10-2mol/min以上5.0×10-1mol/min以下である。
【0026】
なお、第1塩基は、第1中和ステップS12と第3中和ステップS14との間で、相互に同じ種類の塩基であってもよいし、相互に異なる種類の塩基であってもよい。第1塩基は、第2塩基よりも強い塩基であればよい。また、第1塩基の添加速度は、第1中和ステップS12と第3中和ステップS14との間で、相互に等しくてもよいし、相互に異なっていてもよい。
【0027】
ガリウム溶液の温度は、第1中和ステップS12、第2中和ステップS13、および、第3中和ステップS14において、一定に保たれることが好ましい。各ステップS12,S13,S14でのガリウム溶液の温度は、一定に保たれることによって、各ステップS12,S13,S14での反応、および、各ステップS12,S13,S14間での反応の切り替えを安定させて、それによって、酸化ガリウム粒子の粒径を安定させる。
【0028】
なお、ガリウム溶液の温度は、例えば、20℃以上50℃以下であり、好ましくは、35℃以上45℃以下である。ガリウム溶液の温度が20℃以上であれば、水酸化ガリウムの溶解度が低いことによるゲル化、および、水酸化インジウムの硬化が、好適に抑えられる。ガリウム溶液の温度が50℃以下であれば、例えば、第1塩基に用いられ得るアンモニアの蒸発が、好適に抑えられる。
【0029】
仮焼ステップS15は、第3中和ステップS14の後に、ガリウム溶液中に析出した水酸化ガリウム粉末を濾別する。次いで、濾別された水酸化ガリウム粉末を50℃以上200℃以下で、大気乾燥、または、真空乾燥し、粗粉砕の後、分級により粗大な粒子を除去した後、仮焼し、それによって、酸化ガリウムを得る。仮焼温度は、550℃以上850℃以下であり、好ましくは、650℃以上750℃以下である。仮焼時間は、2時間以上6時間以下であり、好ましくは、3時間以上5時間以下である。仮焼雰囲気は、大気雰囲気、または、酸素雰囲気である。
【0030】
ここで、酸化ガリウム粉末を製造する従来法は、上記第2中和ステップS13を行わずに、第1塩基の添加のみによって、ガリウム溶液のpHを第3設定値まで上昇させる。ガリウム溶液から析出する水酸化ガリウム粉末の粒径は、ガリウム溶液のpHに依存する。一方、ガリウム溶液に塩基を添加するとき、添加した塩基の量が中和当量点の付近に達すると、図2の破線が示すように、ガリウム溶液のpHは、3.0から5.0にかけて急上昇する。ガリウム溶液のpHが急上昇すると、水酸化ガリウム粉末の集合が、粗粉砕することが困難な程度に生成されてしまう。また、添加の方法を工夫し、ガリウム溶液の攪拌自体が可能な条件であっても、ガリウム溶液は局所的にゲル化しており、水酸化ガリウム粉末の集合を粗粉砕することは困難である。
【0031】
この点、第2中和ステップS13は、pHが3.0から5.0に上昇する範囲を含むように、第1塩基よりも弱い塩基である第2塩基を添加する。そして、図2の実線が示すように、第2中和ステップS13は、第2中和ステップS13でのpHの急上昇、および、第3中和ステップS14でのpHの急上昇を抑える。結果として、ガリウム溶液のゲル化を抑えること、ひいては、水酸化ガリウムの硬化を抑えることを可能とする。
【0032】
また、第2塩基として、第1塩基と弱酸との塩が用いられる場合、第1塩基が寄与する溶液内での平衡と、第2塩基が寄与する溶液内での平衡とに共通した陽イオンによる緩衝作用が、第2中和ステップS13、および、第3中和ステップS14において生じる。例えば、第1塩基が、アンモニア水溶液であり、第2塩基が、炭酸アンモニウム水溶液であるとき、炭酸アンモニウムに含まれるアンモニウムイオンは、アンモニアと水との電離平衡において、水酸化物イオンの生成を抑える。
【0033】
また、第2塩基に含まれる弱酸由来の陰イオンが、第2中和ステップS13において、ガリウム溶液に溶解する。そして、弱酸由来の緩やかな中和が、第2中和ステップS13において生じる。そのため、中和当量点の近傍において、ガリウム溶液のpHが急上昇することが、さらに抑制可能ともなる。例えば、第1塩基が、アンモニア水溶液であり、第2塩基が、炭酸アンモニウム水溶液であるとき、弱塩基であるアンモニアと、弱酸である炭酸との緩やかな中和が、第2中和ステップS13において進行する。
【0034】
酸化ガリウム粉末の製造方法を用いた各実施例を以下に説明する。
[実施例1]
pHが1.0の硝酸に金属ガリウムとシュウ酸アンモニウムとを溶解させて、ガリウムが0.16mol/L、シュウ酸アンモニウムが0.01mol/Lの濃度を有した500mlのガリウム溶液を調製した(溶液準備ステップS11)。
【0035】
次に、第1塩基として、3.0mol/Lのアンモニア水溶液と、0.02mol/Lのシュウ酸アンモニウム水溶液とを1:1で混合した混合液を用いた。そして、アンモニアが2.0×10-4mol/minの添加速度で、ガリウム溶液のpHが3.0に達するまで、第1塩基をガリウム溶液に添加した(第1中和ステップS12)。この間、ガリウム溶液の温度を35℃以上45℃以下に維持した。
【0036】
次に、第2塩基として、0.20mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液を用い、5.0×10-4mol/minの添加速度で、ガリウム溶液のpHが6.0に達するまで、ガリウム溶液に第2塩基を添加した(第2中和ステップS13)。この間、ガリウム溶液の温度を35℃以上45℃以下に維持した。
【0037】
次に、0.019mol/minの添加速度で、ガリウム溶液のpHが9になるまで、7.4mol/Lのアンモニア水溶液をガリウム溶液に添加した。この間、ガリウム溶液の温度を35℃以上45℃以下に維持した。
【0038】
そして、ガリウム溶液内に析出した水酸化ガリウム粉末を濾別し、濾別された水酸化ガリウム粉末を70℃で12時間乾燥後、粉末の集合を自動乳鉢機で粉末に粗粉砕した。次いで、粉砕後の水酸化ガリウム粉末を180μmメッシュで分級し、その後、700℃の大気雰囲気下で4時間仮焼して、実施例1の酸化ガリウム粉末を得た(仮焼ステップS15)。
【0039】
実施例1の酸化ガリウム粉末を得る過程において、ガリウム溶液のゲル化、および、酸化ガリウムの硬化は認められなかった。実施例1の酸化ガリウム粉末を用い、JIS8830:2013に準拠したBET比表面積を測定した結果、実施例1のBET比表面積は、14.61m/gであった。
【0040】
[実施例2]
第2塩基を、0.50mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液、第2塩基の添加速度を1.3×10-4mol/minに変更し、それ以外を実施例1と同じくして、実施例2の酸化ガリウム粉末を得た。
【0041】
実施例2の酸化ガリウム粉末を得る過程において、ガリウム溶液のゲル化、および、酸化ガリウムの硬化は認められなかった。実施例2の酸化ガリウム粉末を用い、JIS8830:2013に準拠したBET比表面積を測定した結果、実施例2のBET比表面積は、14.51m/gであった。
【0042】
[実施例3]
第2塩基を、1.00mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液、第2塩基の添加速度を2.5×10-3mol/minに変更し、それ以外を実施例1と同じくして、実施例3の酸化ガリウム粉末を得た。
【0043】
実施例3の酸化ガリウム粉末を得る過程において、ガリウム溶液のゲル化、および、酸化ガリウムの硬化は認められなかった。実施例3の酸化ガリウム粉末を用い、JIS8830:2013に準拠したBET比表面積を測定した結果、実施例3のBET比表面積は、14.45m/gであった。
【0044】
[実施例4]
第2塩基を、1.50mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液、第2塩基の添加速度を3.8×10-3mol/minに変更し、それ以外を実施例1と同じくして、実施例4の酸化ガリウム粉末を得た。
【0045】
実施例4の酸化ガリウム粉末を得る過程において、ガリウム溶液のゲル化、および、酸化ガリウムの硬化は認められなかった。実施例4の酸化ガリウム粉末を用い、JIS8830:2013に準拠したBET比表面積を測定した結果、実施例4のBET比表面積は、14.92m/gであった。
【0046】
[比較例1]
pHが1.0の硝酸に金属ガリウムとシュウ酸アンモニウムとを溶解させて、ガリウムが0.16mol/L、シュウ酸アンモニウムが0.02mol/Lの濃度を有した500mlのガリウム溶液を調製した(溶液準備ステップS11)。
【0047】
そして、第1塩基、および、第2塩基を、14.8mol/Lのアンモニア水溶液、第1塩基、および、第2塩基の添加速度を、2.5×10-3mol/minに変更し、それ以外を実施例1と同じくして、比較例1の酸化ガリウム粉末を得た。
【0048】
比較例1の酸化ガリウム粉末を得る過程において、酸化ガリウムの硬化が認められた。そして、酸化ガリウムの塊を粉砕することは可能であったものの、粒状の塊が多く残った。酸化ガリウム粉末のBET比表面積は、9.22m/gであった。
【0049】
上述した酸化ガリウム粉末の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
(1)ガリウム溶液に塩基を添加してpHを上昇させる際、pHが3.0から5.0に上昇する範囲を含むように、第1塩基よりも弱い塩基である第2塩基を添加する。そのため、ガリウム溶液のpHにおいて急速な上昇を抑えることが可能となる。
【0050】
このとき、水酸化物イオンの濃度の上昇がゆるやかとなるため、水酸化ガリウム粉末の析出、および、凝集の速度もゆるやかになる。そして、水酸化ガリウム粉末が急速に析出する場合と比べて、水酸化ガリウム粉末が相互に異なる結晶系を取り得る。結果として、水酸化ガリウム粉末の集合が粗粉砕で粉砕不能な程度に硬化することが抑えられる。したがって、粒径がより微小な水酸化ガリウム粉末を製造することが可能であり、ひいては、粒径がより微小な酸化ガリウム粉末を製造することが可能となる。
【0051】
(2)第2中和ステップS13で添加される第2塩基が、第1塩基の塩である場合、ガリウム溶液でのpHの急上昇は、第2中和ステップS13、および、第3中和ステップS14での緩衝作用によって、さらに抑えられる。結果として、上記(1)に準じた効果を得るためのpHの調整が、さらに容易なものとなる。
【0052】
(3)第2中和ステップS13で添加される第2塩基が、弱酸の塩である場合、ガリウム溶液でのpHの急上昇が、弱酸由来の緩やかな中和によって、さらに抑えられる。結果として、上記(1)に準じた効果を得るためのpHの調整が、さらに容易なものとなる。
【0053】
(4)第1塩基がアンモニア水溶液であり、また、第2塩基が炭酸アンモニウム水溶液であるため、酸化ガリウム粉末において、他の金属やハロゲンの混入を抑えることが可能ともなる。
【0054】
(5)第1塩基にシュウ酸アンモニウムが含まれる。そのため、シュウ酸イオンによって水酸化ガリウムの針状結晶成長を抑えることが可能となる。さらに、第1塩基に含まれるアンモニアとともに緩衝作用を生じるため、ガリウム混合溶液のpHの急速な上昇をさらに抑えることが可能ともなる。
【0055】
(6)第1中和ステップS12、および、第3中和ステップS14では、第2塩基よりも強い塩基である第1塩基を用いるため、第2塩基のみを用いる方法と比べて、酸化ガリウム粉末の製造に要する時間を短縮可能ともなる。
【0056】
(7)第1中和ステップS12、および、第3中和ステップS14では、第2塩基よりも強い塩基である第1塩基を用いるため、第2塩基のみを用いる方法と比べて、酸化ガリウム粉末の製造に要する水量を削減可能ともなる。
【0057】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・酸に溶解されるガリウムは、精錬された金属ガリウム、あるいは、ガリウム化合物に限らず、使用済みのガリウムターゲットなどの金属片であってもよい。酸に溶解されるガリウムは、純粋な金属ガリウム、あるいは、純粋なガリウム化合物に限らず、ガリウム以外の不純物を含んでもよい。この場合、第1中和ステップの前処理として、ガリウム溶液から不純物を取り除くことを行ってもよい。
【0058】
・第1設定値は、2.0未満でもよい。要は、第2中和ステップS13において、第2塩基の添加によってガリウム溶液のpHを3.0から5.0に上昇させることを含む構成であればよい。
【0059】
・第2塩基は、第1塩基よりも弱い塩基であればよい。pHの急上昇を抑えるという観点においては、例えば、第1塩基を水酸化ナトリウム、第2塩基をアンモニアとした場合であっても、上記(1)に準じた効果を得ることは可能である。
【0060】
・第2中和ステップS13での緩衝作用が得られるという観点において、第2塩基は、弱酸の塩であればよい。例えば、第1塩基が、アンモニア水溶液であり、第2塩基が、炭酸水素アンモニウム水溶液であるとき、上記(1)から(3)に準じた効果を得ることは可能である。
【0061】
・第3中和ステップS14での緩衝作用が得られるという観点において、第2塩基は、弱塩基の塩であればよい。例えば、第1塩基が、アンモニアであり、第2塩基が、酢酸アンモニウムであるとき、第3中和ステップS14での緩衝作用に準じた効果を得ることは可能である。
【0062】
・ガリウム以外の金属やハロゲンが酸化ガリウム粉末に混入することを抑える観点において、例えば、第1塩基が、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドであり、第2塩基が、アンモニアであってもよい。この場合においても、上記(1)に準じた効果を得ることは可能である。
【0063】
上記実施形態、および、変更例によれば、付記1に記載の技術的思想が導き出される。
[付記]
pHが2.0未満である酸にガリウムとシュウ酸とが溶解したガリウム溶液に第1塩基を添加する第1中和ステップと、前記第1中和ステップ後の前記ガリウム溶液に前記第1塩基より弱い塩基である第2塩基を添加する第2中和ステップと、前記第2中和ステップ後の前記ガリウム溶液に前記第1塩基を再び添加する第3中和ステップと、前記ガリウム溶液の中で析出した水酸化ガリウム粉末を前記第3中和ステップ後に濾別して水酸化ガリウム粉末を製造するステップと、を含み、
前記第2中和ステップは、前記第2塩基の添加によって前記ガリウム溶液のpHを3.0から5.0に上昇させることを含む、水酸化ガリウム粉末の製造方法。
【0064】
上記付記によれば、水酸化ガリウム粉末の製造に用いる塩基を第1塩基のみとする場合と比べて、水酸化ガリウム粉末の粒径を小さくすることが可能となる。そして、水酸化ガリウム粉末の仮焼によって製造する酸化ガリウム粉末の粒径を小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
S11…溶液準備ステップ、S12…第1中和ステップ、S13…第2中和ステップ、S14…第3中和ステップ、S15…仮焼ステップ。
図1
図2