(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】Snの除去方法およびPbの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 13/02 20060101AFI20220822BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20220822BHJP
C22B 9/10 20060101ALI20220822BHJP
C22B 13/06 20060101ALI20220822BHJP
C25C 3/34 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C22B13/02
C22B7/04 A
C22B9/10 101
C22B13/06
C25C3/34 B
(21)【出願番号】P 2019047633
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】武井 琢真
(72)【発明者】
【氏名】小野 瑛基
(72)【発明者】
【氏名】薄井 正治郎
(72)【発明者】
【氏名】沼田 誠
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214021(JP,A)
【文献】特開2013-234356(JP,A)
【文献】特開2018-059210(JP,A)
【文献】特開2019-157240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 13/02
C22B 7/04
C22B 9/10
C22B 13/06
C25C 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハリス炉において、溶融粗Pbメタルに対してソーダ処理を行うソーダ処理工程と、
前記ソーダ処理で発生するSnスカムを、目の大きい第1網で掬った後、前記第1網よりも目の小さい第2網で掬うことでSnスカムを除去する除去工程と、を含むことを特徴とするSnの除去方法。
【請求項2】
前記第1網は、3mm~5mmの目を有し、
前記第2網は、1.5mm以下の目を有することを特徴とする請求項1記載のSnの除去方法。
【請求項3】
前記Snスカムを、前記第1網で複数回掬った後に、前記第2網で掬うことを特徴とする請求項1または2に記載のSnの除去方法。
【請求項4】
前記スカムを前記第1網で複数回掬い、前記第1網で前記スカムを掬えなくなった後に前記第2網で前記スカムを掬うことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のSnの除去方法。
【請求項5】
前記第1網で前記Snスカムを掬ってから前記第2網で前記Snスカムを掬うまでの間において、前記溶融粗Pbメタル中のSn品位を3mass%以下とすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のSnの除去方法。
【請求項6】
前記第1網および前記第2網で掬ったSnスカムのPb含有量は20mass%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のSnの除去方法。
【請求項7】
前記溶融粗PbメタルのSn品位は、3.0mass%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のSnの除去方法。
【請求項8】
溶融粗Pbメタルから、請求項1~7のいずれか一項に記載のSnの除去方法によってSnが除去されることで得られる精製Pbメタルに対して電解工程を行うことでPbを製造することを特徴とするPbの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、Snの除去方法およびPbの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、銅製錬などで発生する鉛(Pb)滓などの鉛原料から製品Pbを製造する鉛製錬において、溶融粗Pbメタルに対してソーダ処理を行うことで、錫(Sn)スカムが発生する。Snスカムを回収することでSnを除去することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Snスカムを網で回収しようとすると、SnスカムにPbなどの不純物が混入するおそれがある。Snスカムへの不純物混入量が多いと、Snスカムの浸出残渣を鉛製錬工程に繰り返す際に当該不純物の繰り返し量が増え、処理コストが増加するおそれがあり、歩留まりが悪化するおそれがある。
【0005】
本件は上記の課題に鑑み、Snスカムへの不純物混入量を抑制することができるSnの除去方法およびPbの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、Snの除去方法は、ハリス炉において、溶融粗Pbメタルに対してソーダ処理を行うソーダ処理工程と、前記ソーダ処理で発生するSnスカムを、目の大きい第1網で掬った後、前記第1網よりも目の小さい第2網で掬うことでSnスカムを除去する除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
前記第1網は、3mm~5mmの目を有し、前記第2網は、1.5mm以下の目を有していてもよい。前記Snスカムを、前記第1網で複数回掬った後に、前記第2網で掬ってもよい。前記スカムを前記第1網で複数回掬い、前記第1網で前記スカムを掬えなくなった後に前記第2網で前記スカムを掬ってもよい。前記第1網で前記Snスカムを掬ってから前記第2網で前記Snスカムを掬うまでの間において、前記溶融粗Pbメタル中のSn品位を3mass%以下としてもよい。前記第1網および前記第2網で掬ったSnスカムのPb含有量は20mass%以下としてもよい。前記溶融粗PbメタルのSn品位を、3.0mass%以上としてもよい。
【0008】
1つの態様では、Pbの製造方法は、溶融粗Pbメタルから、上記Snの除去方法によってSnが除去されることで得られる精製Pbメタルに対して電解工程を行うことでPbを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Snスカムへの不純物混入量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】製品Snおよび製品Pbを製造する製造工程の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0012】
図1は、製品Snおよび製品Pbを製造する製造工程の一例について説明する図である。
図1で例示するように、銅製錬工程などで発生する鉛滓、廃バッテリー等の鉛原料に対して脱銅および炭酸化が行われる。脱銅および炭酸化によって得られた炭酸鉛は、Pb原料としてPb電気炉に投入される。炭酸鉛は、Pb電気炉で1000℃~1200℃で溶融することによって、粗Pbメタルとスラグとに分離する。
【0013】
粗Pbメタルには、不純物としてSnが含まれている。例えば、粗PbメタルにおけるSn品位は、6.0mass%を上回り、8.0mass%以上となることもある。以下で説明する工程では、Snを効果的に除去することができるため、粗PbメタルにおけるSn品位が10.0mass%を上回るような場合に特に有効となる。
【0014】
冷却した粗Pbメタルは、ハリス炉に投入される。ハリス炉では、粗Pbメタルを溶融することで得られる溶融粗Pbメタルに対してソーダ処理が行われる。ソーダ処理とは、500℃程度に加熱して溶融した溶融粗Pbメタルに、例えば苛性ソーダを添加し、さらに場合により追加の苛性ソーダおよび硝酸ソーダを添加して、Snをソーダ塩(Na2SnO3)化して、溶湯表面において固形化させる処理のことである。固形化したSnのソーダ塩は、一般にSnスカムと呼ばれる。Snスカムを掬い取る等して分離することでSnスカムを除去することができる。溶融粗Pbメタル中のSn品位を十分に低くするために、ソーダ処理を行う行程と、Snスカムを分離する工程と、を含む一連の工程を1以上繰り返す。当該一連の工程を1以上繰り返す工程を、ハリス処理工程と称する。
【0015】
Snスカムは、Sn製造用のSn原料として利用される。具体的には、Snスカムは、Snを浸出するSn浸出工程に供される。得られた浸出後液は、電解採取工程に供され、製品Snが製造される。Sn浸出工程の浸出残渣は、鉛電気炉または炭酸化工程に繰り返される。一方、ハリス処理工程によって、Sn品位が低くなった精製Pbメタルが得られる。この精製Pbメタルは、電解精製工程に供され、製品Pbが製造される。
【0016】
図2は、ハリス処理工程について例示する図である。
図2で例示するように、ハリス炉10内に冷却した粗Pbメタルが投入される。この粗Pbメタルをハリス炉10で加熱することで、溶融粗Pbメタル20が得られる。例えば、ソーダ処理前の溶融粗Pbメタル20のSn品位は、3.0mass%以上である。なお、黒丸は、含有されるSn成分を表している。溶融粗Pbメタル20に対してソーダ処理を行うことで、溶湯表面においてSnスカム30が発生する。このSnスカム30を網で掬い取る等して分離することで、Snスカム30を除去することができる。さらに溶融粗Pbメタル20に対してソーダ処理を行うことで、溶湯表面においてSnスカム30が発生する。このSnスカム30を網で掬い取る等して分離することで、Snスカム30をさらに除去することができる。ハリス処理工程では、溶融粗Pbメタル20中のSn濃度が十分に低くなるまで、ソーダ処理を行う行程とSnスカム30を分離する工程とが繰り返されることになる。溶融粗Pbメタル20中のSn濃度が十分に低くなれば、当該溶融粗Pbメタル20をメタルポンプによって吸引することで、ハリス炉10から精製Pbメタル40を回収することができる。
【0017】
Snスカム30には、粒径の大きいものもあれば、粒径の小さいものも含まれる。そこで、目の小さい網を使ってSnスカム30を掬い取ることが考えられる。しかしながら、目の小さい網を使うと、湯切りが悪く、Snスカム30にPbなどの不純物が混入するおそれがある。Snスカム30への不純物混入量が多いと、Snスカム30の浸出残渣を鉛製錬工程に繰り返す際に当該不純物の繰り返し量が増え、処理コストが増加するおそれがあり、歩留まりが悪化するおそれがある。
【0018】
本発明者らは、ソーダ処理を行う際のSnスカム30の粒径に着目した。本発明者らは、ソーダ処理において、大きい粒径のSnスカム30が生成し、その後に小さい粒径のSnスカム30が生成することを突き止めた。このメカニズムは、ソーダ処理の初期にはSnが溶融粗Pbメタル20中にSnが多く含まれているために、Snスカム30の核が多く発生して凝集してSnスカム30が粗大化するからであると推測される。
【0019】
そこで、本実施形態においては、ハリス炉10において、溶融粗Pbメタル20に対してソーダ処理を行うソーダ処理工程と、ソーダ処理で発生するSnスカムを、目の大きい第1網ですくった後、第1網よりも目の小さい第2網で掬うことでハリス炉10からSnスカムを除去する除去工程と、を行う。この除去工程は、先のソーダ処理から次のソーダ処理までの間に行われる工程である。
【0020】
この場合、第1網でSnスカム30を掬う際には、大きい粒径のSnスカム30を湯切り良く掬うことができる。したがって、Snスカム30への不純物の付着量を抑制しつつSnスカム30を回収することができる。したがって、Snスカム30への不純物の混入を抑制することができる。第2網を用いる際には大きい粒径のSnスカム30は残っていないため、Snスカム30の総量が減っている。この場合に目の小さい第2網を用いても、Snスカム30への不純物の付着量は抑制される。以上のことから、Snスカム30への不純物混入量を抑制しつつSnスカム30を回収することができる。
【0021】
例えば、第1網は、3mm~5mmの目を有していることが好ましい。この場合、第1網の目が十分に大きくなることから、大きい粒径のSnスカム30を湯切り良く掬うことができる。例えば、第2網は、1.5mm以下の目を有することが好ましい。この場合、第2網の目が十分に小さくなることから、小さい粒径のSnスカム30を掬うことができ、Snスカム30を十分に回収することができるようになる。
【0022】
Snスカム30を、第1網で複数回掬った後に、第2網で掬うことが好ましい。この場合、大きい粒径のSnスカム30を第1網で十分に掬った後に第2網が用いられることになる。それにより、Snスカム30への不純物の混入をより抑制することができるようになる。
【0023】
Snスカム30を第1網で複数回掬い、第1網でSnスカムを掬えなくなった後に第2網でSnスカムを掬うことが好ましい。この場合、大きい粒径のSnスカム30を第1網で、十分に掬った後に第2網が用いられることになる。それにより、Snスカム30への不純物の混入をより抑制することができるようになる。
【0024】
第1網でSnスカム30を掬ってから第2網でSnスカムを掬うまでの間において、溶融粗Pbメタル20中のSn品位を3mass%以下まで低下させることが好ましい。この場合、大きい粒径のSnスカム30を第1網で十分に掬った後に第2網が用いられることになる。それにより、Snスカム30への不純物の混入をより抑制することができるようになる。
【0025】
本実施形態に係るSnの除去方法によれば、第1網でSnスカム30を掬った後に第2網でSnスカム30を掬うことから、Snスカム30への不純物の混入を抑制することができる。それにより、例えば、第1網および第2網で掬ったSnスカム30のPb含有量を20mass%以下とすることができる。
【実施例】
【0026】
(実施例)
実施形態に従って、第1網および第2網を用いてSnスカム30を回収した。実施例では、ソーダ処理前の溶融粗Pbメタル20中のSn品位は、5mass%~10mass%であった。ソーダ処理によってSnスカム30を発生させ、目が5mmの第1網でSnスカム30を掬い、その後に目が1mmの第2網でSnスカム30を掬った。
【0027】
(比較例)
比較例では、2種類の網を用いず、1種類の網だけを用いてSnスカム30を掬った。ソーダ処理前の溶融粗Pbメタル20中のSn品位は、5mass%~10mass%であった。ソーダ処理によってSnスカム30を発生させ、目が1mmの網でSnスカム30を掬った。
【0028】
実施例および比較例について、網で回収したSnスカム30中のSnおよびPb量を測定した。測定結果を表1に示す。表1に示すように、比較例では、回収されたSnスカム30中のSn品位は低く、Pb品位が高かった。これは、小さい目の網だけを用いたため、大きい粒径のSnスカム30を掬う際に湯切りが悪く、Pbなどの不純物がSnスカム30に混入したからであると考えられる。これに対して、実施例では、回収されたSnスカム30中のSn品位が高く、Pb品位が低かった。これは、目の大きい第1網で粒径の大きいSnスカム30を湯切り良く掬うことができ、第2網を用いる際にはSnスカム30の総量が減ってSnスカム30への不純物の付着量が抑制されたからであると考えられる。
【表1】
【0029】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 ハリス炉
20 溶融粗Pbメタル
30 Snスカム
40 精製Pbメタル