(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】表面から細菌バイオフィルムを低減または除去するためのサーモリシンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20220822BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220822BHJP
A61L 17/14 20060101ALI20220822BHJP
A61L 27/28 20060101ALI20220822BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
A61K38/48
A61P17/02
A61L17/14
A61L27/28
A61L29/16
(21)【出願番号】P 2019503673
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(86)【国際出願番号】 IB2017054535
(87)【国際公開番号】W WO2018020435
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-25
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502032219
【氏名又は名称】スミス アンド ネフュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】レイ・シ
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン・ファンデルカール
(72)【発明者】
【氏名】アレクサ・ジョヴァノビック
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ロシュ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-531103(JP,A)
【文献】特表2015-537004(JP,A)
【文献】特開平06-262165(JP,A)
【文献】特表2006-504835(JP,A)
【文献】特開2013-060592(JP,A)
【文献】特表2016-512829(JP,A)
【文献】Journal of Bacteriology,2013年,Vol.195, No.8, pp.1645-1655
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61L 15/00-33/18
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌バイオフィルムで感染または汚染された創傷、粘膜病変、または皮膚病変を処置するための、サーモリシン
及び医薬的に許容される担体を含む組成物であって、
前記組成物は創傷、粘膜病変、または皮膚病変に局所投与され、
前記創傷、粘膜病変、または皮膚病変は壊死組織を含まず、且つデブリードマンを必要とせず、
前記細菌バイオフィルムが低減または除去される、組成物。
【請求項2】
前記細菌バイオフィルムがグラム陽性細菌バイオフィルムである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細菌バイオフィルムがグラム陰性細菌バイオフィルムである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記創傷が慢性創傷であり、前記慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、または熱傷である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記創傷、粘膜病変、または皮膚病変上の前記細菌バイオフィルムの低減または除去をもたらす量のサーモシリンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
抗菌剤をさらに含む、請求項1
~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
細菌バイオフィルムで感染または汚染された生物学的表面上の細菌バイオフィルムを低減または除去するための、サーモリシン
及び医薬的に許容される担体を含む組成物であって、
前記組成物は生物学的表面に局所投与され、
前記生物学的表面は壊死組織を含まず、且つデブリードマンを必要としない、組成物。
【請求項8】
前記生物学的表面が慢性創傷であり、前記慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、または熱傷である、請求
項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記生物学的表面が、皮膚病変、粘膜病変、内臓、体腔、口腔、骨組織、筋組織、神経組織、眼組織、尿路組織、肺組織、気管組織、洞性組織、耳組織、歯科組織、歯肉組織、鼻組織、血管組織、心臓組織、上皮組織、上皮病変、膣組織、または腹膜組織である、請求
項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記細菌バイオフィルムがグラム陽性細菌バイオフィルムである、請求
項7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記細菌バイオフィルムがグラム陰性細菌バイオフィルムである、請求
項7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記生物学的表面上の前記細菌バイオフィルムの低減または除去をもたらす量のサーモリシンを含む、請求
項7~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
サーモリシンの濃度が0.0001mg/mL~10mg/mLである、請求
項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年7月27日に出願された米国特許仮出願第62/367,338号に対する利益を主張する。参照出願の全内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、表面上の細菌バイオフィルムの低減または除去に有用な方法及び組成物に関する。当該組成物は、細菌バイオフィルムを低減または除去する活性成分としてのサーモリシンを含む。
【背景技術】
【0003】
細菌バイオフィルムは、表面に付着した細菌の集団である。バイオフィルム内の細菌は、しばしば、自己生産した細胞外高分子物質(EPS)のマトリックス内に包埋されており、このEPSは細菌を一つの塊の中に保持し、細菌塊をその下にある表面に堅固に付着させる。細菌バイオフィルムEPS(しばしばスライムと呼ばれる)は、概して細胞外DNA、タンパク質、多糖、及び様々なバイオポリマーから構成された高分子集合体である。バイオフィルムは生物学的表面にも非生物学的表面にも形成可能であり、工業現場にも臨床現場にも蔓延し得る。
【0004】
バイオフィルムがヒトの健康に顕著な脅威となる証拠が示されている。バイオフィルムは、80%超の体内の微生物感染症の原因である(“Research on Microbial Biofilms”,National Institutes of Health,PA Number:PA-03-047,December 20,2002)。バイオフィルムは、尿路感染症、膀胱炎、肺感染症、皮膚感染症、粘膜感染症、副鼻腔感染症、耳感染症、ざ瘡、う歯、歯周病、院内感染症、開放創、及び慢性創傷などの健康状態に関与する。加えて、バイオフィルムは、医療デバイス上に、例えば、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用及び化学療法剤の長期投与用留置カテーテル(ヒックマンカテーテル)、心臓インプラント(例えば、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助デバイス、ならびに合成血管移植片及びステント)、人工器官、経皮縫合糸、ならびに気管及び人工呼吸器チューブ上に形成する可能性がある。
【0005】
バイオフィルム内で成長する細菌は、抗生剤や抗菌剤への耐性増加を示し、実質的な低減または除去が非常に困難である。バイオフィルム内の細菌は、バイオフィルム内にない細菌よりも抗菌化合物への耐性が増加している(最大で1000倍高い)が、この同じ細菌がプランクトン条件下で成長した場合は、このような薬剤に対し感受性を有する(“Research on Microbial Biofilms”,National Institutes of Health,PA Number:PA-03-047,December 20,2002)。また、バイオフィルム内で成長した細菌は、プランクトン条件下で成長した同じ細菌とは生理学的にも異なる。バイオフィルム内の細菌は、バイオフィルム内のどこに存在するかに応じて異なる代謝状態に階層化されるため、対応する自由生活性細菌と比較して異なる表現型を示す。バイオフィルム内の細菌における抗菌耐性の背後にあるもう一つの理論は、EPSの保護的役割である。EPSは、外部の薬剤(例えば、抗菌剤)が細菌に到達するのを物理的に防止できる「メッシュ」またはネットワークとして視覚化することができる。このEPS、代謝状態の変更、及び獲得された抵抗性因子により、バイオフィルムは、抗菌剤及び抗生剤に対する多因子性の耐性を有する。さらに、ほとんどの抗菌製剤は水性の調製物であることから、水分子の高い表面張力により、抗菌剤がバイオフィルムネットワークに積極的に浸透することがさらに難しくなる。
【0006】
創傷、粘膜病変、及び皮膚病変は、特に細菌感染されやすい。微生物学的観点からは、正常でインタクトな皮膚の主要な役割は、皮膚表面上に棲息する微生物集団を制御すること、そして基礎組織が潜在的病原体によりコロニー形成及び侵入されるのを防止することである。皮下組織の露出、例えば、創傷、粘膜病変、または皮膚病変により、湿潤で温かく栄養に富んだ環境がもたらされ、これが微生物のコロニー形成及び増殖につながる。創傷のコロニー形成はほとんどの場合多微生物性であり、潜在的に病原性の多数の微生物を伴うため、任意の創傷、粘膜病変、または皮膚病変は感染を受ける一定のリスクがある。
【0007】
創傷は、治癒への複数のバリアを有することが多い。創傷の治癒及び感染は、創傷環境内で細菌が安定し繁栄したコミュニティーを形成する能力と宿主が細菌コミュニティーを制御する能力との関係による影響を受ける。細菌は、それ自体の保護的な微小環境、すなわちバイオフィルムを迅速に形成することができるため、細菌が表面に付着した後は、宿主がこれらの生物を制御する能力はバイオフィルムコミュニティーの成熟に伴って低下する可能性があり、これにより、最終的には創傷が治癒する能力に影響が及ぶ。治癒が遅れている創傷、すなわち慢性創傷は、バイオフィルム形成に関して特に懸念されることである。バイオフィルムが全ての細菌感染に存在するわけではないが、一部ではバイオフィルムが慢性創傷と結び付けられている(Mertz,2003,Wounds,15:1-9)。糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、及び熱傷などの創傷は、慢性創傷になり得る創傷の例である。慢性創傷における細菌バイオフィルムは、概して、宿主の免疫系によって解決されることはなく、このようなバイオフィルムの全身及び局所用抗菌剤/抗生剤に対する耐性は増加している。したがって、慢性創傷における細菌バイオフィルム感染は、実質的な低減または除去が非常に困難である。
【0008】
特に、創傷、粘膜病変、及び皮膚病変において毒性を有する生物は、staphylococcus spp.、streptococcus spp.、及びenterococci spp.などのグラム陽性細菌である。メチシリン耐性 staphylococcus aureus(MRSA)などの抵抗性株を含めたStaphylococcus aureusのバイオフィルムは、創傷、皮膚病変、及び粘膜病変においてますます問題となっている。これらの生物、特にMRSAは、前鼻孔に存在することができ、鼻内に病変をもたらし、これは身体の他の部分にも拡散する恐れがあり、そのような部位に皮膚病変や粘膜病変がもたらされる。グラム陰性細菌のPseudomonas aeruginosaも、創傷において特に毒性を有する生物である(Bjarnsholt,2008,Wound Repair and Regeneration;及びJacobsen,2011,International Wound Journal)。
【0009】
近年、粘膜病変、皮膚病変、及び慢性創傷の処置のために様々な抗生剤や抗菌剤を使用する多くの試みが行われており、これら粘膜病変、皮膚病変、及び慢性創傷の多くは細菌バイオフィルムに感染または汚染されたものである。このような薬剤は様々な化学化合物の一部であり、これらには、中でも、バンコマイシンなどのペプチド、ならびにムピロシン、ヨード化合物、及び銀/銀イオンなどの抗菌剤が含まれる。しかし、多くの細菌はこれらの化合物にますます抵抗性を有するようになっている。
【0010】
したがって、創傷、粘膜病変、及び皮膚病変における細菌バイオフィルム、ならびに他の生物学的表面及び非生物学的表面上の細菌バイオフィルムを低減または除去することができる、安全で有効な化合物が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、細菌バイオフィルム関連の技術分野における上述の制約及び欠点に対する解決策を提供する。詳細には、当該解決策は、生物学的表面及び非生物学的表面を含む表面上の細菌バイオフィルムを低減または除去するための、サーモリシン及びサーモリシンを含む組成物の使用を前提としている。本発明の一態様において、細菌バイオフィルムに感染または汚染された創傷、粘膜病変、皮膚病変、及び/または他の生物学的表面を、サーモリシンまたはサーモリシンを含む組成物を当該表面に投与することにより、処置する方法が開示されている。別の態様において、非生物学的表面上の細菌バイオフィルムを、サーモリシンまたはサーモリシンを含む組成物を当該表面に投与することにより、防止、低減、または除去する方法が開示されている。さらに別の態様において、生物学的表面及び非生物学的表面上に存在する細菌バイオフィルムの低減または除去に有用な、サーモリシンを含む組成物が開示されている。
【0012】
また、本発明の文脈において、実施形態1から51も開示する。実施形態1は、細菌バイオフィルムで感染または汚染された創傷、粘膜病変、または皮膚病変を処置する方法であって、当該方法が、当該創傷、粘膜病変、または皮膚病変に、サーモリシンを含む組成物を局所投与することを含み、当該細菌バイオフィルムが低減または除去される、方法である。実施形態2は、当該組成物が担体をさらに含む、実施形態1に記載の方法である。実施形態3は、当該細菌バイオフィルムがグラム陽性細菌バイオフィルムである、実施形態1~2のいずれか一つに記載の方法である。実施形態4は、当該グラム陽性細菌バイオフィルムがStaphylococcus sp.である、実施形態3に記載の方法である。実施形態5は、当該Staphylococcus sp.がStaphylococcus aureusである、実施形態4に記載の方法である。実施形態6は、当該Staphylococcus sp.がメチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)である、実施形態5に記載の方法である。実施形態7は、当該細菌バイオフィルムがグラム陰性細菌バイオフィルムである、実施形態1~2のいずれか一つに記載の方法である。実施形態8は、当該グラム陰性細菌バイオフィルムがPseudomonas sp.である、実施形態7に記載の方法である。実施形態9は、当該Pseudomonas sp.がPseudomonas aeruginosaである、実施形態8に記載の方法である。実施形態10は、当該創傷が慢性創傷である、実施形態1~9のいずれか一つに記載の方法である。実施形態11は、当該慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、または熱傷である、実施形態10に記載の方法である。実施形態12は、当該皮膚病変または粘膜病変が、疱疹、潰瘍、擦過傷、疣贅、膿瘍、掻爬、または感染である、実施形態1~9のいずれか一つに記載の方法である。実施形態13は、サーモリシンの濃度が、創傷、粘膜病変、または皮膚病変上の細菌バイオフィルムの低減または除去をもたらす量である、実施形態1~12のいずれか一つに記載の方法である。実施形態14は、サーモリシンの濃度が、少なくとも0.00001mg/mL、少なくとも0.0001mg/mL、少なくとも0.001mg/mL、少なくとも0.01mg/mL、少なくとも0.1mg/mL、少なくとも1.0mg/mL、または少なくとも10mg/mLである、実施形態1~13のいずれか一つに記載の方法である。実施形態15は、当該担体が、ローション、溶液、懸濁液、液体、乳剤、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、エアロゾルスプレー、エアロゾルフォーム、非エアロゾルスプレー、非エアロゾルフォーム、フィルム、またはシートである、実施形態2~14のいずれか一つに記載の方法である。実施形態16は、当該担体が医薬的に許容される担体である、実施形態15に記載の方法である。実施形態17は、当該組成物が抗菌剤をさらに含む、実施形態1~16のいずれか一つに記載の方法である。実施形態18は、生物学的表面上の細菌バイオフィルムを低減または除去する方法であって、当該生物学的表面にサーモリシンを含む組成物を投与することを含む、方法である。実施形態19は、当該組成物が担体をさらに含む、実施形態21に記載の方法である。実施形態20は、当該生物学的表面が創傷である、実施形態18~19のいずれか一つに記載の方法である。実施形態21は、当該創傷が慢性創傷である、実施形態20に記載の方法である。実施形態22は、当該慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、または熱傷である、実施形態21に記載の方法である。実施形態23は、当該生物学的表面が皮膚病変、または粘膜病変である、実施形態18~19のいずれか一つに記載の方法である。実施形態24は、当該皮膚病変または粘膜病変が、疱疹、潰瘍、擦過傷、疣贅、膿瘍、掻爬、または感染である、実施形態23に記載の方法である。実施形態25は、当該生物学的表面が、内臓、体腔、口腔、骨組織、筋組織、神経組織、眼組織、尿路組織、肺組織、気管組織、洞性組織、耳組織、歯科組織、歯肉組織、鼻組織、血管組織、心臓組織、上皮組織、上皮病変、膣組織、または腹膜組織である、実施形態18~19のいずれか一つに記載の方法である。実施形態26は、当該細菌バイオフィルムがグラム陽性細菌バイオフィルムである、実施形態18~25のいずれか一つに記載の方法である。実施形態27は、当該グラム陽性細菌バイオフィルムがStaphylococcus sp.である、実施形態26に記載の方法である。実施形態28は、当該Staphylococcus sp.がStaphylococcus aureusである、実施形態27に記載の方法である。実施形態29は、当該Staphylococcus sp.がメチシリン耐性 Staphylococcus aureus(MRSA)である、実施形態28に記載の方法である。実施形態30は、当該細菌バイオフィルムがグラム陰性細菌バイオフィルムである、実施形態18~25のいずれか一つに記載の方法である。実施形態31は、当該グラム陰性細菌バイオフィルムがPseudomonas sp.である、実施形態30に記載の方法である。実施形態32は、当該Pseudomonas sp.がPseudomonas aeruginosaである、実施形態31に記載の方法である。実施形態33は、サーモリシンの濃度が、当該生物学的表面上の細菌バイオフィルムの低減または除去をもたらす量である、実施形態18~32のいずれか一つに記載の方法である。実施形態34は、サーモリシンの濃度が少なくとも0.00001mg/mLである、実施形態18~33のいずれか一つに記載の方法である。実施形態35は、当該担体が医薬担体である、実施形態19~34のいずれか一つに記載の方法である。実施形態36は、当該担体が、ローション、溶液、懸濁液、液体、乳剤、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、エアロゾルスプレー、エアロゾルフォーム、非エアロゾルスプレー、非エアロゾルフォーム、フィルム、またはシートである、実施形態35に記載の方法である。実施形態37は、非生物学的表面上の細菌バイオフィルムを低減または除去する方法であって、当該非生物学的表面にサーモリシンを含む組成物を投与することを含む、方法である。実施形態38は、当該組成物が非生物学的表面への適用に適した担体をさらに含む、実施形態37に記載の方法である。実施形態39は、当該非生物学的表面が医療デバイスの表面である、実施形態37または38に記載の方法である。実施形態40は、当該医療デバイスが、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用留置カテーテル、化学療法剤投与用留置カテーテル、心臓インプラント、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助デバイス、合成血管移植片、合成血管ステント、人工器官、経皮縫合糸、気管チューブ、または人工呼吸器チューブである、実施形態39に記載の方法である。実施形態41は、サーモリシンの濃度が、当該非生物学的表面上の細菌バイオフィルムの低減または除去をもたらす量である、実施形態37~40のいずれか一つに記載の方法である。実施形態42は、サーモリシンの濃度が少なくとも0.00001mg/mLである、実施形態37~41のいずれか一つに記載の方法である。実施形態43は、サーモリシンを含む組成物でコーティングされた表面を含む、製造品である。実施形態44は、医療デバイスである、実施形態43に記載の製造品である。実施形態45は、当該医療デバイスが、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用留置カテーテル、化学療法剤投与用留置カテーテル、心臓インプラント、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助デバイス、合成血管移植片、合成血管ステント、人工器官、経皮縫合糸、気管チューブ、または人工呼吸器チューブである、実施形態44に記載の製造品である。実施形態46は、当該組成物でコーティングする前に、バイオフィルムが当該製造品の表面上に存在しない、実施形態43~45のいずれか一つに記載の製造品である。実施形態47は、当該表面を当該組成物でコーティングする前に、バイオフィルムが当該製造品の表面上に存在する、実施形態43~45のいずれか一つに記載の製造品である。実施形態48は、製造品の表面を処置して、当該表面上のバイオフィルム形成の可能性を防止または低減する方法であって、当該表面をサーモリシンを含む組成物でコーティングすることを含む、方法である。実施形態49は、当該製造品が医療デバイスである、実施形態48に記載の方法である。実施形態50は、当該医療デバイスが、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用留置カテーテル、化学療法剤投与用留置カテーテル、心臓インプラント、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助デバイス、合成血管移植片、合成血管ステント、人工器官、経皮縫合糸、気管チューブ、または人工呼吸器チューブである、実施形態49に記載の方法である。実施形態51は、当該製造品が、電界紡糸されたポリマーファイバーまたはナノファイバーであり、サーモリシンを含む当該組成物が、当該電界紡糸されたポリマーファイバーまたはナノファイバーに対し、共有結合的に付着または吸着している、実施形態48に記載の方法である。
【0013】
別段の明記がない限り、本明細書で表現されるパーセント値は重量比であり、組成物全体の重量に対するものである。例としては、100グラムの材料における10グラムの構成成分は、10wt%の構成成分である。
【0014】
細菌バイオフィルムの文脈における「低減する」「低減された」「低減すること」または「低減」という用語は、バイオフィルム内の細菌数の低減を意味する。
【0015】
生物学的表面上の細菌バイオフィルムを処置する文脈、または粘膜病変、創傷、もしくは皮膚病変を処置する文脈における「処置する」「処置された」「処置」または「処置すること」という用語は、細菌バイオフィルムにおける任意の測定可能な低減もしくは完全な除去、及び/または粘膜病変、創傷、もしくは皮膚病変の治療的改善を意味する。
【0016】
細菌バイオフィルムを処置する文脈、または創傷、粘膜病変、もしくは皮膚病変を処置する文脈における「有効な」という用語は、治療的改善を含めた、所望された、期待された、または意図された結果を達成するのに十分であることを意味する。
【0017】
細菌バイオフィルムの文脈における「除去する」「除去された」「除去すること」または「除去」という用語は、バイオフィルム内に存在する細菌の完全な撲滅を意味する。
【0018】
細菌バイオフィルムの文脈における「防止する」「防止された」または「防止すること」という用語は、表面(例えば、本発明の組成物でコーティングされた生物学的表面または非生物学的表面)上に細菌バイオフィルムが形成する可能性の低減または完全な防止を意味する。
【0019】
本明細書における「創傷」という用語は、皮膚または粘膜の外部創傷を意味し、慢性創傷及び急性創傷を含む。
【0020】
本明細書における「病変」という用語は、負傷または疾患による損害を受けた身体組織上の領域を意味する。
【0021】
「約(about)」または「およそ(approximately)」という用語は、当業者が理解するように近接していることとして定義され、一つの非限定的な実施形態において、これらの用語は10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、最も好ましくは0.5%以内であるように定義される。
【0022】
さらに、「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)などの、含むの任意形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」及び「有する(has)」などの、有するの任意形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」及び「含む(include)」などの、含むの任意形態)または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」などの、含有するの任意形態)といった単語は、包括的または無制限的であり、追加の列挙されていない要素も方法ステップも除外しない。
【0023】
「一つの(a)」または「一つの(an)」という語の使用は、請求項及び/または明細書で「含む(comprising)」という用語と共に使用される際には「一つ(one)」を意味し得るが、「一つ以上の(one or more)」、「少なくとも一つの(at least one)」、及び「一つまたは二つ以上の(one or more than one)」という意味とも矛盾しない。
【0024】
使用のための組成物及び方法は、明細書全体において開示されている成分またはステップのいずれかを「含む」、いずれかから「本質的になる」、またはいずれかから「なる」ことができる。
【0025】
本明細書で論じられている任意の実施形態は、本発明の任意の方法または組成物に対し実施され得るように企図されており、その逆も同様である。さらに、本発明の組成物は、本発明の方法を達成するように使用することができる。
【0026】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかになる。ただし、発明を実施するための形態及び特定の例は、本発明の特定の実施形態を示す一方で、例示として与えられるものに過ぎないということが理解されるべきである。というのも、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び改変は、当業者にとってはこの発明を実施するための形態から明らかとなるからである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1 コラゲナーゼ及び対照と比較した場合の、in vitroでのS.aureus細菌バイオフィルムに及ぼすサーモリシンの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、表面上の細菌バイオフィルム及び/またはこのようなバイオフィルムの成長の、低減、除去、もしくは防止に有用な方法及び組成物に関する。詳細には、本発明は、細菌バイオフィルムに対し活性を示すサーモリシンを含む組成物、ならびにこのような組成物を、細菌バイオフィルムに感染または汚染された生物学的表面及び非生物学的表面に投与することにより、細菌バイオフィルムを有効に低減または除去する方法を提供する。加えて、バイオフィルムが形成しやすい表面(例えば、医療デバイス)は、このような組成物で処置してバイオフィルム形成を防止することができる。一態様において、本発明は、細菌バイオフィルムに感染または汚染された創傷、皮膚病変、粘膜病変、及び他の生物学的表面の処置に有用な方法及び組成物に関する。別の態様において、本発明は、医療デバイスなどの非生物学的表面上の細菌バイオフィルム及び/またはこのようなバイオフィルムの成長の、低減、除去、もしくは防止に有用な方法及び組成物に関する。理論に拘泥するものではないが、サーモリシンは、細菌バイオフィルムの細胞外高分子物質(EPS)マトリックスを破壊及び/または消化することにより、バイオフィルムの成長または形成を低減、除去、及び/または防止することができる。また、サーモリシンは、細菌における殺菌活性も示し得る。
【0029】
I. 組成物
本発明の組成物は、サーモリシンを含む。サーモリシンは、Bacillus thermoproteolyticus rokkoと呼ばれる細菌種から、発酵プロセスにより作られる熱安定性のメタロプロテイナーゼであり、疎水性残基ロイシン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、アラニン、及びメチオニンのN末端で切断を行う。Amano Japanがサーモリシンの製造業者及び供給元である。サーモリシンは単離及び/または精製することができる。サーモリシンのCAS番号は9073-78-3である。
【0030】
当該組成物内のサーモリシンの濃度は、当該組成物を表面に投与した際に表面上の細菌バイオフィルムの低減または除去をもたらす量である。様々な実施形態において、本発明の組成物内のサーモリシンの濃度は、少なくとも0.00001mg/mL、または少なくとも0.0001mg/mL、または少なくとも0.001mg/mL、または少なくとも0.01mg/mL、または少なくとも0.1mg/mL、または少なくとも1.0mg/mL、または少なくとも10mg/mL、または0.00001mg/mL~10mg/mL、または0.0001mg/mL~10mg/mL、または0.001mg/mL~10mg/mL、または0.01mg/mL~10mg/mL、または0.1mg/mL~10mg/mL、または1.0mg/mL~10mg/mL、または0.00001mg/mL~1.0mg/mL、または0.0001mg/mL~1.0mg/mL、または0.001mg/mL~1.0mg/mL、または0.01mg/mL~1.0mg/mL、または0.1mg/mL~1.0mg/mL、または0.00001mg/mL~0.1mg/mL、または0.0001mg/mL~0.1mg/mL、または0.001mg/mL~0.1mg/mL、または0.01mg/mL~0.1mg/mL、または0.00001mg/mL~0.01mg/mL、または0.0001mg/mL~0.01mg/mL、または0.001mg/mL~0.01mg/mL、または0.00001mg/mL~0.001mg/mL、または0.0001mg/mL~0.001mg/mL、または0.00001mg/mL~0.001mg/mLとすることができ、あるいは0.00001mg/mL、または0.0001mg/mL、または0.001mg/mL、または0.01mg/mL、または0.1mg/mL、または1.0mg/mL、または10mg/mLとすることができる。
【0031】
本発明の組成物は、許容される担体、例えば、創傷、粘膜、皮膚、臓器、及び他の生物学的組織を含めた生物学的表面への適用に適した担体、または医療デバイスを含めた非生物学的表面への適用に適した担体、を含むことができる。当該担体は、医薬的に許容される担体とすることができる。当該担体は、局所的な送達及び処置に適した担体とすることができる。担体の非限定的な例としては、ローション、溶液、懸濁液、液体、乳剤、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、エアロゾルスプレー、エアロゾルフォーム、非エアロゾルスプレー、非エアロゾルフォーム、フィルム、粉末、及びシートが挙げられる。当該組成物は、ガーゼ、包帯、または他の創傷被覆材料に含浸されていてもよい。皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に適した担体の非限定的な例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,399,092号に開示されている担体が挙げられ、これらは高吸収性ポリマー、抗微生物剤、ならびにポロキサマー及び/またはポリオールを含む無水かつ親水性の担体である。参照により本明細書に組み込まれる米国公開第2016/0008293号に開示されている担体は、水含量が15%w/w未満であり、水溶性セルロースエーテル、親水性レオロジー改質剤、及びタンパク質分解酵素を含む溶解性のゲル形成フィルム組成物であり、このゲル形成フィルムは水または他の水性媒体と接触するとヒドロゲルを形成可能であるが、当該担体は、皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に適した担体である。参照により本明細書に組み込まれる米国公開第2013/0045196号に開示されている担体は、液体親水性ポリオール及びタンパク質分解酵素を含む分散相と、疎水性塩基を含む連続相とを含む組成物であり、皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に適した担体である。参照により本明細書に組み込まれる米国公開第2015/0283217号に開示されている担体は、非イオン性セルロースエーテルを含む親水性ゲル化剤及びサーモリシンを含むヒドロゲル組成物であり、皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に適した担体である。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,785,584号に開示されている担体は、アルコキシ化脂肪アルコールならびにリン酸モノ及びジエステルを含むクリプトアニオン性界面活性乳化剤と、少なくとも一つの創傷治癒剤、柔軟剤、湿潤剤、保存剤、または抗微生物剤と、タンパク質分解酵素とを含むスプレー式組成物であり、皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に適した担体である。
【0032】
好適な担体の他の非限定的な例としては、ワセリン系軟膏、ポリエチレングリコール系軟膏及びゲル、ポロキサマー系軟膏及びゲル、無水組成物、水性系組成物、疎水性組成物、ならびに/または親水性組成物が挙げられる。
【0033】
本発明の組成物は、さらに、生物学的表面または非生物学的表面への適用のための組成物の使用に適した機能的成分を含むことができる。非限定的な例としては、吸収剤、高吸収剤、抗菌剤、抗酸化剤、結合剤、緩衝剤、増量剤、キレート剤、着色剤、殺生物剤、脱臭剤、乳化安定剤、フィルム形成剤、芳香成分、湿潤剤、溶菌剤、酵素剤、乳白剤、酸化剤、pH調整剤、可塑剤、保存剤、還元剤、柔軟皮膚コンディショニング剤、湿潤皮膚コンディショニング剤、保湿剤、界面活性剤、乳化剤、清浄剤、発泡剤、ヒドロトロープ(hydrotope)、溶媒、懸濁剤、粘度制御剤(レオロジー改質剤)、粘度増進剤(増粘剤)、及び/または噴射剤が挙げられる。好適な機能的成分のリスト及びモノグラフは、McCutcheonの Vol.1 Emulsifiers&Detergents及びVol.2 Functional Materials(2001)に開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
本発明の組成物は、さらに、医薬的活性成分、美容的活性成分、傷薬、創傷治癒剤、抗生剤、抗真菌剤、防腐剤、清浄剤、及び抗菌剤を含むことができる。当該組成物は、無菌であっても、保存剤で保存されていてもよい。
【0035】
様々な抗菌剤が本発明での使用に適している。好適な抗菌剤としては、以下の非限定的な例のような銀化合物が挙げられる:銀元素、銀ナノ粒子、銀ゼオライト、スルファジアジン銀、イオン化銀、銀塩、例えば、塩化銀及び硝酸銀。他の好適な抗菌剤としては、以下の非限定的な例のようなヨード化合物が挙げられる:ヨード、ヨードチンキ、ルゴールヨード溶液、ヨウ化物、ヨード局所溶液、アルキルアリールオキシポリエチレンのリン酸エステルと複合化されたヨード、ヨードキノール、塩化ウンデコイリウム-ヨード、ノニルフェノキシポリエタノール-ヨード複合体、ならびにヨードフォア、例えば、ポビドン-ヨード(PVP-ヨード)、ポリビニルアルコール-ヨード、ポリビニルオキサゾリドン-ヨード、ポリビニルイミダゾール-ヨード、ポリビニルモルホロン-ヨード、及びポリビニルカプロラクタム-ヨード、ノニルフェノールエトキシレート-ヨード、可溶性デンプン-ヨード、ベータシクロデキストリン-ヨード、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物-ヨード、エトキシ化直鎖状アルコール-ヨード、及びカデキソマー-ヨード。好適な抗菌剤のさらなる非限定的な例としては、クロルヘキシジンならびにその塩の二塩酸塩、二酢酸塩及び二グルコン酸塩;4級アンモニウム化合物、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化セタルコニウム、塩化セチルピリジニウム、セトリモニウム、セトリミド、塩化ドファニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及び臭化ドミフェン;塩素含有化合物、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び二酸化塩素;過酸化水素;安息香酸及びその塩;過酸化ベンゾイル;ベンジルアルコール;ビスピリチオン塩;ホウ酸;ショウノウメタクレゾール;ショウノウフェノール;クロロブタノール;クロフルカルバン;ダプソン;デヒドロ酢酸及びその塩;エチルアルコール;ヘキサクロロフェン;ヘキセチジン(hexitidine);ヘキシルレゾルシノール;ヒドロキシ安息香酸及びその塩;イソプロピルアルコール;酢酸マフェニド;マグネシウムピリチオン;メルブロミン;メルクフェノールクロリド;メチルパラベン;メトロニダゾール及びその誘導体;ムピロシン及びその塩;ニトロフラゾン;n-プロパノール;有機過酸化物;p-クロロ-m-キシレノール;フェノール;フェノキシエタノール;フェニルアルコール;フェニルエチルアルコール;硫化セレン;ナトリウムオキシクロロセン;ナトリウムスルファセタミド(sulfacetmide);ソルビン酸及びその塩;硫黄;テトラクロロサリチルアニリド;チモール;トリブロンサラン;トリクロカーボン(triclocarbon);トリクロサン;ならびにジンクピリチオンが挙げられる。抗菌ペプチド及び抗生剤も好適な抗菌剤である。一部の実施形態において、本発明の組成物は、一つ以上の抗菌剤をさらに含む。他の実施形態において、本発明の組成物は、一つ以上の抗生剤をさらに含む。他の非限定的な実施形態において、本発明の組成物は、サーモリシンが主にまたは唯一バイオフィルムの処置において活性であるように、上述の抗菌剤及び/または抗生剤を含まないことがある。
【0036】
本発明の組成物は、任意の適したパッケージ構成でパッケージングすることができる。非限定的な例としては、ボトル、ローションポンプ、トドル(toddle)、チューブ、ジャー、非エアロゾルポンプスプレー器、エアロゾル容器、パウチ、及び/またはパケットが挙げられる。当該パッケージは、単回使用または複数回使用の投与用に構成することができる。
【0037】
A. 製造
本発明の組成物は、医薬製品及び局所用製品、ならびに非生物学的表面への適用のために設計された製品(例えば、医療デバイス)の製造についての技術分野で公知の方法及び設備により、製造することができる。このような方法としては、以下に限定されないが、機械的ミキサー(LIGHTNINプロペラミキサーを含む)、COWLESディゾルバー、SILVERSONディスパーサー、逆回転サイドスクラッピングミキサー、ホモジナイザー及びディスパーサー(インラインまたはインタンクのローター-ステーターホモジナイザーを含む)、及びミル(3ロールミル、軟膏ミル、またはローター-ステーターミルを含む)の使用が挙げられる。回転サイドスクラッピングミキサー及びインタンクホモジナイザーを有する「オールインワン」真空混合システムも使用することができる。このようなミキサーとしては、以下に限定されないが、OLSAミキサー、FRYMA-KORUMAミキサー、及びLEE TRI-MIX TURBO-SHEARケトルが挙げられる。本発明の組成物は、小規模の実験室スケールバッチからフルスケールの生産バッチまで製造することができる。
【0038】
II. 細菌バイオフィルム
本発明の組成物は、グラム陽性及びグラム陰性両方の細菌バイオフィルムにおける細菌の低減及び/または細菌バイオフィルムの除去に適している。また、当該組成物は、このようなバイオフィルムが医療デバイスなどの表面上に形成するのを防止するために使用することもできる。グラム陽性細菌の非限定的な例としては、Staphylococcus spp.、例えば、Staphylococcus aureus、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)、及びStaphylococcus epidermidis;Streptococcus spp.、例えば、Streptococcus pneumonia;Bacillus spp.;Listeria monocytogenes;enterococci spp.;ならびに乳酸菌、例えば、Lactobacillus plantarum及びLactococcus lactisが挙げられる。グラム陰性細菌の非限定的な例としては、Pseudomonas spp.、例えば、Pseudomonas aeruginosa;及びEscherichia coliが挙げられる。
【0039】
A. in vitroのバイオフィルムモデル
in vitroのバイオフィルムモデルを使用して、細菌バイオフィルムに対する本発明の製剤のバイオフィルム有効性を評価した。細菌を、血液寒天プレート上のフィルター上に置いたコラーゲンマトリックス上にスポットし、インキュベートしてバイオフィルム形成を行う。当該モデルは、バイオフィルムの下方から栄養が提供され、局所処置が上方の空気界面に適用される点において、in vivoの創傷バイオフィルムを模倣している。このin vitroのモデル及び方法論は、2010年4月18日にOrlando、FLでの2010 Wound Healing Society Annual Meeting,Poster BRC09で提示されたポスター発表、A Versatile In Vitro Biofilm Model Using Two Wound Pathogens to Screen Formulations,Van der Kar,et al.で開示されている。さらなるin vitroのバイオフィルムモデル及び方法論は以下の刊行物に開示されており、これらの全てが参照により本明細書に組み込まれる。Penetration of Rifampin through Staphylococcus epidermidis Biofilms,Zheng,et al.,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,Mar.2002,p.900-903;Oxygen Limitation Contributes to Antibiotic Tolerance of Pseudomonas aeruginosa in Biofilms,Borriello et al.,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,July 2004,p.2659-2664;及びHeterogeneity in Pseudomonas aeruginosa Biofilms Includes Expression of Ribosome Hibernation Factors in the Antibiotic-Tolerant Subpopulation and Hypoxia-Induced Stress Response in the Metabolically Active Population,Williamson et al.,Journal of Bacteriology,February 2012,p.2062-2073.
【0040】
III. 使用及び処置の方法
本発明の組成物は、生物学的表面及び非生物学的表面上の細菌バイオフィルムにおける細菌の低減及び/または細菌バイオフィルム除去に有用であり、また、細菌バイオフィルムで感染または汚染された創傷、皮膚病変、粘膜病変、及び他の生物学的表面の処置にも有用である。また、当該組成物は、バイオフィルムが成長または形成しやすい表面(例えば、医療デバイス)上におけるバイオフィルムの成長または形成の防止に使用することもできる。細菌バイオフィルムで感染または汚染された創傷、粘膜病変、皮膚病変、または他の生物学的表面を処置する方法であって、当該方法が、当該創傷、粘膜病変、皮膚病変、または他の生物学的表面に、サーモリシンを含む組成物を局所投与することを含み、当該細菌バイオフィルムが低減または除去される、方法が開示されている。次に、当該組成物による処置の後に、医薬的活性成分、美容的活性成分、傷薬、創傷治癒剤、抗生剤、抗真菌剤、防腐剤、清浄剤、及び/または抗菌剤を含む他の組成物が、さらなる処置のために、創傷、粘膜病変、皮膚病変、または生物学的表面に投与されてもよい。
【0041】
A. 生物学的表面
本発明の組成物は、当該組成物を生物学的表面に投与することにより、生物学的表面上の細菌バイオフィルムの低減または除去に有用である。生物学的表面の非限定的な例としては、創傷(慢性創傷及び急性創傷を含む)、皮膚病変、皮膚、粘膜、粘膜病変、内臓、体腔、口腔、骨組織、筋組織、神経組織、眼組織、尿路組織、肺及び気管組織、洞性組織、耳組織、歯科組織、歯肉組織、鼻組織、血管組織、心臓組織、上皮、上皮病変、及び腹膜組織が挙げられる。慢性創傷の非限定的な例としては、糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、及び熱傷が挙げられる。急性創傷の非限定的な例としては、切開及び外科的創傷が挙げられる。皮膚病変及び粘膜病変の非限定的な例としては、疱疹、潰瘍、擦過傷、疣贅、膿瘍、掻爬、ならびに皮膚及び粘膜の感染症、例えば、ブドウ球菌またはMRSAの感染症が挙げられる。皮膚病変及び粘膜病変の例は、“Description of Skin Lesions”,MacNeal,Robert J.,the on-line Merck Manual Professional Version,March 2013,http://www.merckmanuals.com/professional/dermatologic-disorders/approach-to-the-dermatologic-patient/description-of-skin-lesionsに開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。皮膚病変は、表皮、唇、耳道、頭皮、甘皮、爪床、または生殖器に出現し得る。粘膜病変は、口腔粘膜、鼻粘膜、陰茎及び膣の粘膜、または肛門に出現し得る。
【0042】
B. 創傷の局所処置
本発明の組成物は、当該組成物を細菌バイオフィルムに感染または汚染された創傷(慢性創傷及び急性創傷を含む)局所投与することにより、当該創傷の処置に有用である。慢性創傷の非限定的な例としては、糖尿病性足部潰瘍、静脈潰瘍、動脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、及び熱傷が挙げられる。急性創傷の非限定的な例としては、切開及び外科的創傷が挙げられる。一部の実施形態において、当該創傷は、焼痂及び/または壊死組織を含み、デブリードマンを必要とする。様々な実施形態において、当該組成物は二重の機能を果たし、創傷内に存在する細菌バイオフィルムを低減または除去することに加えて、さらに、デブリードマンを必要とする創傷のデブリードマンを行う。他の実施形態において、当該創傷は、焼痂及び/または壊死組織を含まず、デブリードマンを必要としない。
【0043】
C. 皮膚病変及び粘膜病変の局所処置
本発明の組成物は、当該組成物を細菌バイオフィルムに感染または汚染された皮膚病変または粘膜病変に局所投与することにより、当該皮膚病変または粘膜病変の処置に有用である。皮膚病変及び粘膜病変の非限定的な例としては、疱疹、潰瘍形成、擦過傷、疣贅、膿瘍、掻爬、ならびに皮膚及び粘膜の感染症、例えば、ブドウ球菌またはMRSAの感染症が挙げられる。皮膚病変は、表皮、唇、耳道、頭皮、甘皮、爪床、または生殖器に出現し得る。粘膜病変は、口腔粘膜、鼻粘膜、陰茎及び膣の粘膜、または肛門に出現し得る。一部の実施形態において、当該粘膜病変または皮膚病変は、焼痂及び/または壊死組織を含み、デブリードマンを必要とする。様々な実施形態において、当該組成物は二重の機能を果たし、病変内に存在する細菌バイオフィルムを低減または除去することに加えて、さらに、デブリードマンを必要とする病変のデブリードマンを行う。他の実施形態において、当該粘膜病変または皮膚病変は、焼痂及び/または壊死組織を含まず、デブリードマンを必要としない。
【0044】
D. 他の生物学的表面の処置
本発明の組成物は、当該組成物を細菌バイオフィルムに感染または汚染された他の生物学的表面に局所投与することにより、当該生物学的表面の処置に有用である。他の生物学的表面の非限定的な例としては、内臓、体腔、口腔、骨組織、筋組織、神経組織、眼組織、尿路組織、肺組織、気管組織、洞性組織、耳組織、歯科組織、歯肉組織、鼻組織、血管組織、心臓組織、上皮組織、上皮病変、膣組織、及び/または腹膜組織が挙げられる。
【0045】
E. 非生物学的表面
本発明の組成物は、当該組成物を非生物学的表面(例えば、医療デバイスのような製造品の表面)に投与することにより、当該非生物学的表面上の細菌バイオフィルムの低減または除去に有用である。また、当該組成物は、このような非生物学的表面上にバイオフィルムが成長または形成するのを防止するために使用することもできる。このような表面は、ヒトの組織及び/または創傷への曝露により、バイオフィルムが成長または形成しやすい可能性がある。医療デバイスの非限定的な例としては、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用及び化学療法剤の長期投与用留置カテーテル(ヒックマンカテーテル)、心臓インプラント(例えば、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助デバイス、ならびに合成血管移植片及びステント)、人工器官、経皮縫合糸、ならびに気管及び人工呼吸器チューブが挙げられる。
【0046】
医療デバイスを含めた製造品の表面は、本発明の組成物でコーティングして、製造品の表面上に細菌バイオフィルムが形成するのを防止することができる。さらなる好適な製造品としては、電界紡糸されたポリマーファイバー及び/またはナノファイバー、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)電界紡糸ファイバーが挙げられる。一部の実施形態において、コーティングする前に、細菌バイオフィルムは表面上に存在しない。他の実施形態において、コーティングする前に、細菌バイオフィルムは表面上に存在する。製造品をサーモリシンでコーティングする、当技術分野で公知の様々な方法(例えば、噴霧または浸漬)を用いることができる。コーティングのさらなる方法としては、非生物学的表面(電界紡糸されたポリマーファイバー及び/またはナノファイバーの表面を含む)に対するサーモリシンの共有結合的付着または吸着が挙げられ得る。電界紡糸されたポリマーファイバー及び/またはナノファイバーに対し、タンパク質及び酵素を共有結合的に付着または吸着する方法は、Ahn et al.,Robust trypsin coating on electrospun polymer nanofibers in rigorous conditions and its uses for protein digestion,Biotechnol.Bioeng.Dec.2010;107:917-923、及びPolini et al.,Collagen-functionalised electrospun polymer fibers for bioengineering applications,Soft Matter,Feb.2010,6,1668-1674に開示されており、この両方が参照により本明細書に組み込まれる。一実施形態において、製造品の表面を処置して、当該表面上のバイオフィルム形成の可能性を防止または低減する方法であって、当該表面をサーモリシンを含む組成物でコーティングすることを含む、方法が開示されている。別の実施形態において、当該製造品は、電界紡糸されたポリマーファイバーまたはナノファイバーであり、サーモリシンを含む当該組成物は、当該電界紡糸されたポリマーファイバーまたはナノファイバーに対し、共有結合的に付着または吸着している。
【実施例】
【0047】
実施例1:サーモリシン及びコラゲナーゼを用いたin vitroバイオフィルム研究
サーモリシンの細菌バイオフィルム低減能力を実証するため、in vitroアッセイを実施した。このアッセイでは、S.aureus ATCC 6538を、最適な細菌バイオフィルム形成のために0.25%のグルコースを追加したトリプシンダイズブロスの成長培地に懸濁させた。懸濁液を無菌96ウェルプレートのウェルに移し、37℃で22時間インキュベート(培地を1回交換)した。細菌バイオフィルムの形成後、成長培地を、様々な濃度で成長培地に溶解したサーモリシンの溶液と、同じ濃度で成長培地に溶解したコラゲナーゼの溶液とで置き換えた(酵素濃度は、0.000001mg/mL、0.00001mg/mL、0.0001mg/mL、0.001mg/mL、0.01mg/mL、0.1mg/mL、1.0mg/mL、及び10mg/mLとした)。16時間後、残存する付着細菌の定量化を、酵素溶液(酵素+成長培地)を吸引し、プレートを十分に洗浄し、次にクリスタルバイオレット染色を行い、570nmにおける吸光度を記録することにより行った。酵素を伴わない対照も試験した。クリスタルバイオレットは、残存する付着細菌を染色した。対照と比較しての吸光度低下は、付着細菌の低減を示し、細菌バイオフィルムの低減が生じたことを意味する。
図1は、これらのデータの概要を示している。
図1に示されるように、サーモリシンは、0.00001mg/mL~10mg/mLの濃度で細菌バイオフィルムの低減に有効であり、この濃度のコラゲナーゼよりも細菌バイオフィルムの低減にはるかに有効であった。この発見における驚くべき性質は、プロテアーゼがそれ自体は細菌バイオフィルムの低減または除去において過度に有効であるとは考えられていないという一般的知識に基づくものである。