(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】親水性多孔質膜および親水性多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/12 20060101AFI20220822BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220822BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20220822BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220822BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B01D71/12
B01D69/02
B01D71/68
B01D69/00
B01D69/12
(21)【出願番号】P 2021502229
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007282
(87)【国際公開番号】W WO2020175416
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019032723
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】石井 陽大
(72)【発明者】
【氏名】梅原 健志
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-075694(JP,A)
【文献】特開2015-157278(JP,A)
【文献】特開2007-136449(JP,A)
【文献】特表2000-515062(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115438(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/032684(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0164025(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159143(US,A1)
【文献】特開2015-110212(JP,A)
【文献】特開2015-110208(JP,A)
【文献】国際公開第2019/240254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と前記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含む親水性多孔質膜であって、
前記多孔質膜の両表面どうしで平均孔径が異なっており、
前記親水性多孔質膜の厚み方向に分布する前記ヒドロキシアルキルセルロースはゲルパーミエーションクロマトグラフィで検出強度のピークを2つ以上示し、
前記ピークのうち最も遅く検出されるピークの重量平均分子量Mw
minが100,000未満である、前記親水性多孔質膜。
【請求項2】
前記親水性多孔質膜を厚み方向に平均孔径がより小さい表面側から均等厚みで2つの部分A、部分Bに分けたとき、
前記部分Bに保持された前記ヒドロキシアルキルセルロースよりも、前記部分Aに保持された前記ヒドロキシアルキルセルロースのゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、前記の最も遅く検出されるピークの検出強度が大きい、請求項1に記載の親水性多孔質膜。
【請求項3】
孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、
前記緻密部位から前記多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加しており、
前記緻密部位が前記部分Aにある請求項2に記載の親水性多孔質膜。
【請求項4】
前記緻密部位の平均孔径が0.01~5μmである請求項3に記載の親水性多孔質膜。
【請求項5】
前記ピークのうち最も早く検出されるピークの重量平均分子量Mw
maxが以下の関係を満たす請求項1~4のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜;
30,000≦Mw
max/d
max≦130,000
式中、d
maxは前記多孔質膜の平均孔径の大きい側の表面の平均孔径[μm]である。
【請求項6】
前記多孔質膜がポリエーテルスルホンまたはポリスルホンを含む請求項1~5のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜。
【請求項7】
前記ヒドロキシアルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロースである請求項1~6のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜。
【請求項8】
前記ヒドロキシアルキルセルロースの総質量が前記多孔質膜の総質量に対し0.02~3質量%である請求項1~7のいずれか一項に記載の親水性多孔質膜。
【請求項9】
多孔質膜と前記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含む親水性多孔質膜の製造方法であって、
両表面において平均孔径が異なる前記多孔質膜を用意すること、
前記多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布すること、および
前記多孔質膜の平均孔径がより小さい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布することを含む、前記製造方法。
【請求項10】
多孔質膜と前記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含む親水性多孔質膜の製造方法であって、
両表面において平均孔径が異なる前記多孔質膜を用意すること、および
前記多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、その後、同じ表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布することを含む、前記製造方法。
【請求項11】
より小さい前記重量平均分子量が100,000未満である請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液のヒドロキシアルキルセルロース濃度がいずれも0.005~0.5質量%である請求項9~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性多孔質膜および親水性多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを材料とする多孔質膜は水浄化用途などのろ過膜として工業的に有用であり、プリーツ加工して一定の容量のカートリッジ中に収めた製品も市販されている。通常、フィルターカートリッジには、ピンホールやシール不良のような欠陥の有無を確認するために完全性試験が実施される。完全性試験では、ろ過器に装着したろ過膜に通水して細孔を水で満たした後に空気圧力を負荷し気体の漏れを観察する。このとき、ろ過膜が水に濡れず、水で塞がれない細孔があると、圧力をかけたときに欠陥が存在しなくても気体が漏れるため、欠陥の有無(完全性)の判定ができない。すなわち、ろ過膜が疎水性であると、完全性試験による欠陥の有無の正確な確認が困難である。そのため、従来から、親水性ポリマーを用いた多孔質膜の親水化が行われている。
【0003】
特許文献1には、ポリエーテルスルホン膜に親水性ポリマーを付与して得られたオートクレーブ滅菌処置にも耐える精密ろ過多孔質膜について開示されている。特許文献1に記載の精密ろ過多孔質膜の製造には、親水性ポリマーとして分子量110,000から150,000のヒドロキシプロピルセルロースが用いられている。
【0004】
特許文献2には、異方性多孔質膜であるポリエーテルスルホン膜をヒドロキシプロピルセルロースで親水化したフィルターのプリーツ加工処理法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-251152号公報
【文献】特開2006-116383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
孔径分布を有する異方性多孔質膜では、孔径の小さい部位の親水化が不十分になったり、目詰まりを起こしたりしやすく、特許文献1および2に記載の親水化方法はまだ改善の余地がある。
本発明は、親水性多孔質膜およびその製造方法を提供することを課題とする。特に、本発明の課題は、フィルターカートリッジのろ過膜として使用された際に完全性試験に合格できる親水性多孔質膜であって透水性の高い親水性多孔質膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意検討を重ね、重量平均分子量が100,000未満のヒドロキシアルキルセルロースとより重量平均分子量が大きいヒドロキシアルキルセルロースとを組み合わせて用いて作製した親水性多孔質膜が完全性試験において十分な親水性による正確な結果を与えるとともに透水性も高いことを見出し、上記課題の解決に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の<1>~<12>を提供するものである。
<1>多孔質膜と上記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含む親水性多孔質膜であって、
上記多孔質膜の両表面どうしで平均孔径が異なっており、
上記親水性多孔質膜の厚み方向に分布する上記ヒドロキシアルキルセルロースはゲルパーミエーションクロマトグラフィで検出強度のピークを2つ以上示し、
上記ピークのうち最も遅く検出されるピークの重量平均分子量Mwminが100,000未満である、上記親水性多孔質膜。
<2>上記親水性多孔質膜を厚み方向に平均孔径がより小さい表面側から均等厚みで2つの部分A、部分Bに分けたとき、
上記部分Bに保持された上記ヒドロキシアルキルセルロースよりも、上記部分Aに保持された上記ヒドロキシアルキルセルロースのゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、上記の最も遅く検出されるピークの検出強度が大きい、<1>に記載の親水性多孔質膜。
<3>孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、
上記緻密部位から上記多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加しており、
上記緻密部位が上記部分Aにある<2>に記載の親水性多孔質膜。
<4>上記緻密部位の平均孔径が0.01~5μmである<3>に記載の親水性多孔質膜。
<5>上記ピークのうち最も早く検出されるピークの重量平均分子量Mwmaxが以下の関係を満たす<1>~<4>のいずれかに記載の親水性多孔質膜;
30,000≦Mwmax/dmax≦130,000
式中、dmaxは上記多孔質膜の平均孔径の大きい側の表面の平均孔径[μm]である。
【0009】
<6>上記多孔質膜がポリエーテルスルホンまたはポリスルホンを含む<1>~<5>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<7>上記ヒドロキシアルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロースである<1>~<6>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<8>上記ヒドロキシアルキルセルロースの総質量が上記多孔質膜の総質量に対し0.02~3質量%である<1>~<7>のいずれかに記載の親水性多孔質膜。
<9>多孔質膜と上記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含む親水性多孔質膜の製造方法であって、
両表面において平均孔径が異なる上記多孔質膜を用意すること、
上記多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布すること、および
上記多孔質膜の平均孔径がより小さい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布することを含む、上記製造方法。
<10>多孔質膜と上記多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースを含む親水性多孔質膜の製造方法であって、
両表面において平均孔径が異なる上記多孔質膜を用意すること、および
上記多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、その後、同じ表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布することを含む、上記製造方法。
<11>より小さい上記重量平均分子量が100,000未満である<9>または<10>に記載の製造方法。
<12>上記ヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液のヒドロキシアルキルセルロース濃度がいずれも0.005~0.5質量%である<9>~<11>のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、親水性多孔質膜およびその製造方法が提供される。本発明の親水性多孔質膜は、フィルターカートリッジの完全性試験による欠陥検査が可能になるとともに透水性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例で用いた多孔質膜の断面図(写真)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
<親水性多孔質膜>
本明細書において、親水性多孔質膜は基材となる多孔質膜が親水化されている膜を意味する。親水性多孔質膜は、基材となる多孔質膜に対し、ヒドロキシアルキルセルロースを保持することにより親水性が増している膜を指し、基材となる多孔質膜が完全に疎水性であることを意味するものではない。
親水性多孔質膜は、複数の細孔を有する膜である。孔は例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
【0014】
本発明の親水性多孔質膜は、多孔質膜と、この多孔質膜に保持されたヒドロキシアルキルセルロースとを含む。
多孔質膜に保持されたとは、親水性多孔質膜の保存時や使用時に容易に剥離しない程度に多孔質膜に結合していることを意味する。多孔質膜とヒドロキシアルキルセルロースとは例えば疎水性相互作用により互いに結合していてもよい。
【0015】
基材となる多孔質膜がヒドロキシアルキルセルロースにより親水化されるとき、一般的に、ヒドロキシアルキルセルロースは多孔質膜の外面の少なくとも一部を被覆した状態で保持される。本明細書において、多孔質膜の外面とは、多孔質膜の膜表面(膜のおもて面または裏面)および多孔質膜内部の各細孔に面している多孔質膜の面(本明細書において「細孔の表面」ということがある)を意味する。本発明の親水性多孔質膜では、膜厚方向において多孔質膜の膜表面(膜のおもて面および裏面の双方)が被覆されている。また、本発明の親水性多孔質膜は、従来技術に比較して、より多くの細孔の表面が被覆されており、好ましくは、実質的に全ての細孔の表面が被覆されている。
【0016】
本発明の親水性多孔質膜は、面積方向において、親水化されていない部分を含んでいてもよい。すなわち、本発明の親水性多孔質膜は、ヒドロキシアルキルセルロースを全面で保持していても、一部のみにおいて保持していてもよい。全面で保持していることにより、多孔質膜全体の親水化が好ましく達成できる。また、特に親水性が必要となる一部のみにおいて親水化を行うことにより、基材である多孔質膜の特性を活かしつつ必要な範囲での親水化が達成できる。
【0017】
本発明の親水性多孔質膜がヒドロキシアルキルセルロースを面積方向の一部のみにおいて保持している例として好ましくは、長尺シート状の多孔質膜の長辺側両端部のみにおいてヒドロキシアルキルセルロースを保持している親水性多孔質膜が挙げられる。長辺側両端部は、例えば、短辺が20~35cmの多孔質膜である場合、親水性多孔質膜の長辺の縁から短辺方向4cm、より好ましくは2cm以内の部位であればよい。多孔質膜は、フィルターカートリッジのろ過膜として使用される際、両端部において負荷がかかりやすい。すなわち、長尺シート状の多孔質膜は、必要に応じてプリーツ加工され、円筒状に丸められ、その合わせ目をシールしたうえで、その円筒の両端部がカートリッジのエンドプレートと呼ばれる板に融着される。融着の際は熱がかかることによって多孔質膜が疎水化され完全性試験において濡れ不良による気体の漏れが生じ易い。特に熱がかかる両端部の親水性をヒドロキシアルキルセルロースの保持により高めておくことで、カートリッジ作製工程に由来する親水性の低下を防止することができる親水性多孔質膜が得られ、この親水性多孔質膜を利用して、完全性試験を合格するフィルターカートリッジを作製することができる。
【0018】
したがって、長尺シート状の多孔質膜は、特に、フィルターカートリッジのろ過膜として使用される長尺シート状の多孔質膜は、少なくとも長辺側両端部においてヒドロキシアルキルセルロースを保持していることが好ましい。
【0019】
[多孔質膜]
(多孔質膜の構造)
本明細書において、多孔質膜は親水性多孔質膜の基材となる膜である。
多孔質膜は複数の細孔を有する膜をいう。細孔は、例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
【0020】
本発明の親水性多孔質膜における多孔質膜は、多孔質膜の両表面(おもて面および裏面)どうしで平均孔径が異なっている。両表面の平均孔径の比較は、後述する膜の厚み方向の孔径の比較において、膜のおもて面および裏面それぞれにもっとも近い区分の平均孔径を比較して行なう。
【0021】
本発明の親水性多孔質膜における多孔質膜は、厚み方向に孔径分布を持つ構造を有する。また、膜のおもて面の孔径および裏面の孔径が異なるように孔径分布を有する厚み方向に非対称である構造(非対称構造)である。非対称構造の例としては、一方の膜表面から他方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造、孔径が最小となる層状の緻密部位をいずれかの表面に偏っている内部に有し、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造が挙げられる。
【0022】
本発明で用いられる多孔質膜は、多孔質膜の両表面どうしで平均孔径が異なっているとともに、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有する構造であることが好ましい。緻密部位は多孔質膜を厚み方向に均等厚みで2つの部分A、Bに分けたとき、平均孔径がより小さい表面側の部分Aにあればよい。
【0023】
多孔質膜の内部とは膜の表面に接していないことを意味し、「緻密部位を内部に有する」とは、緻密部位が、後述するように膜の厚み方向の孔径を比較したときに、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分ではないことを意味する。緻密部位を内部に有する構造の多孔質膜を用いることによっては、同じ緻密部位を表面に接して有する多孔質膜を用いた場合よりも、透過させることが意図された物質の透過性が低下しにくい。いかなる理論にも拘泥するものではないが、緻密部位が内部にあることによりタンパク質などの他の物質の吸着が起こりにくくなっているためと考えられる。
【0024】
本明細書において、多孔質膜の平均孔径は電子顕微鏡によって得られた膜断面の写真から測定すればよい。具体的には、多孔質膜にメタノールを含浸させたあと液体窒素中で凍結された多孔質膜からミクロトーム(Leica社製、EM UC6)で断面観察用の切片を切り出し、3000倍でSEM撮影(日立ハイテクノロジーズ社製、SU8030型FE-SEM)を行うことにより多孔質膜断面の写真を得ることができる。
なお、親水性多孔質膜の平均孔径は、ヒドロキシアルキルセルロースを保持していることにより、基材の多孔質膜の孔径より小さくなっていてもよいが、通常、多孔質膜の孔径と同じであると近似できる。
【0025】
本明細書において、膜の厚み方向の孔径の比較を行なう場合、膜断面のSEM撮影写真を膜の厚み方向で分割して行なうものとする。分割数は膜の厚みに応じて適宜選択できる。分割数は少なくとも5以上とし、例えば、200μm厚の膜では平均孔径がより小さい表面から20分割して比較を行う。この場合、それぞれの多孔質膜の断面のSEM撮影写真を厚み方向に20分割する分割線を19本引き、各分割線と交差または接する孔(閉孔)をデジタイザーでなぞり、閉孔と同じ面積に相当する円直径とし、連続する50個の孔の平均孔径を求める。なお、分割幅の大きさは、膜における厚み方向の幅の大きさを意味し、写真での幅大きさを意味するものではない。膜の厚み方向の孔径の比較において、孔径は、各区分の平均孔径として比較される。各区分の平均孔径は、例えば、膜断面図の各区分の50個の孔の平均値であればよい。この場合の膜断面図は例えば80μm幅(表面と平行な方向において80μmの距離)で得てもよい。このとき、孔が大きく、50個測定できない区分については、その区分でとれる数だけ測定したものであればよい。また、このとき、孔が大きくその区分に収まるものでない場合は、ほかの区分にわたってその孔の大きさを計測する。
【0026】
孔径が最小となる層状の緻密部位は、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最小となる区分に相当する多孔質膜の層状の部位をいう。緻密部位は平均孔径が最小となる区分の1.1倍以内の平均孔径を有する1つまたは複数の区分に相当する部位からなる。緻密部位の厚みは、0.5μm~50μmであればよく、0.5μm~30μmであることが好ましい。本明細書において、緻密部位の平均孔径は0.01~5μmであることが好ましく、0.02~3μmであることがより好ましく、0.05~1.4μmであることがさらに好ましい。
緻密部位の平均孔径は多孔質膜の最小孔径に該当する。多孔質膜の最小孔径はASTM F316-86により測定することもできる。
多孔質膜の最小孔径は、ろ過対象物の大きさに応じて適宜選択することができる。
【0027】
本発明の親水性多孔質膜における多孔質膜において、緻密部位は多孔質膜を厚み方向に均等厚みで2つの部分に分けたとき、平均孔径がより小さい表面(本明細書において、「表面X」ということがある。)側の部分Aにある。すなわち、緻密部位は、多孔質膜の厚みの中央部位より表面X側に偏っている。具体的には、緻密部位が表面Xから多孔質膜の厚みの5分の2以内の距離にあることが好ましく、3分の1以内の距離にあることがより好ましく、4分の1以内の距離にあることがさらに好ましい。この距離は上述の膜断面写真において判断すればよい。
【0028】
多孔質膜においては緻密部位から少なくともいずれか一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していればよい。多孔質膜において、緻密部位から表面Xに向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していてもよい。これらのうち、少なくとも緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していることがより好ましい。「厚み方向で孔径が連続的に増加」とは、厚み方向に隣り合う区分の間の平均孔径の差異が、最大平均孔径(最大孔径)と最小平均孔径(最小孔径)の差異の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下となるように増加していることをいう。「連続的に増加」は、本質的には、減少がなく一律に増加することを意味するものであるが、減少している部位が偶発的に生じていてもよい。例えば、区分を表面から2つずつ組み合わせたときに、組み合わせの平均値が、一律に増加(表面から緻密部位に向かう場合は一律に減少)している場合は、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0029】
多孔質膜の最大孔径は0.1μm以上であることが好ましく、0.1μm超であることがより好ましく、1.5μm超であることがさらに好ましく、また、25μm以下であることが好ましく、23μm以下であることがより好ましく、21μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最大となる区分のその平均孔径を多孔質膜の最大孔径とする。
【0030】
緻密部の平均孔径と多孔質膜の最大孔径との比(多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比であって最大孔径を最小孔径で割った値、本明細書において「異方性比」ということもある。)は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。緻密部位以外の平均孔径を大きくし、多孔質膜の物質透過性を高くするためである。また、異方性比は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。上記の多段濾過のような効果は異方性比が25以下の範囲で効率よく得られるためである。
平均孔径が最大となる区分は膜のいずれかの表面にもっとも近い区分またはその区分に接する区分であることが好ましい。
【0031】
膜のいずれかの表面にもっとも近い区分においては、平均孔径が0.05μm超25μm以下であることが好ましく、0.08μm超23μm以下であることがより好ましく、0.1μm超21μm以下であることがさらに好ましい。また、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分の平均孔径の緻密部の平均孔径との比は、1.2以上20以下であることが好ましく、1.5以上15以下であることがより好ましく、2以上13以下であることがさらに好ましい。
【0032】
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、膜強度、取扱性、およびろ過性能の観点から、10μm~1000μmであることが好ましく、10μm~500μmであることがより好ましく、30μm~300μmであることがさらに好ましい。
なお、親水性多孔質膜の厚みは、ヒドロキシアルキルセルロースを保持していることにより、基材の多孔質膜の厚みより大きくなっていてもよいが、通常、基材の多孔質膜の厚みとほぼ同じとなる。
【0033】
(多孔質膜の組成)
多孔質膜はポリマーを含む。多孔質膜は本質的にポリマーから構成されていることが好ましい。ポリマーは数平均分子量(Mn)が1,000~10,000,000であるものが好ましく、5,000~1,000,000であるものがより好ましい。
【0034】
ポリマーの例としては、熱可塑性または熱硬化性のポリマーが挙げられる。ポリマーの具体的な例としては、ポリスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、スルホン化ポリエーテルスルホン、セルロースアシレート、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、オルガノシロキサン-ポリカーボネートコポリマー、ポリエステルカーボネート、オルガノポリシロキサン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、6,6-ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイとしてもよい。
これらのうち、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、PVDF,スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、6,6-ナイロン、セルロースアシレートが好ましく、ポリスルホンがより好ましい。
【0035】
多孔質膜はポリマー以外の他の成分を添加剤として含んでいてもよい。
上記添加剤としては、食塩、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の金属塩、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の金属塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の高分子、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の高分子電解質、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルメチルタウリン酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤等を挙げることができる。添加剤は多孔質構造のための膨潤剤として作用していてもよい。
【0036】
例えば、ポリマーとしてポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを用いる場合、多孔質膜は、さらにポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。このとき、ポリビニルピロリドンは多孔質膜に保持されている状態であってもよい。疎水性であるポリスルホンまたはポリエーテルスルホンはポリビニルピロリドンを含むことにより親水性が高くなる。ポリビニルピロリドンは、例えば、特開昭64-34403号公報に記載があるようにポリスルホン膜またはポリエーテルスルホン膜の製膜原液中に孔形成剤として添加されるものである。製膜原液中のポリビニルピロリドンは製膜過程でそのほとんどが凝固水中に溶解して除去されるが、一部が膜表面に残留するものである。
【0037】
多孔質膜は単一の層として1つの組成物から形成された膜であることが好ましく、複数層の積層構造ではないことが好ましい。
多孔質膜の製造方法については、特開昭63-141610号公報、特開平4-349927号公報、特公平4-68966号公報、特開平04-351645号公報、特開2010-235808号公報等を参照することができる。
多孔質膜としては市販品を使用してもよい。例えば、スミライトFS-1300(住友ベークライト社製)、マイクロPES 1FPH(メンブラーナ社製)、Astropore(ポリスルホン膜、富士フイルム株式会社製)、Durapore(PVDF膜、メルクミリポア(Merkmillipore)社製)、Sartopore(PES膜、Sartorius社製)等が挙げられる。
【0038】
[ヒドロキシアルキルセルロース]
本発明の親水性多孔質膜におけるヒドロキシアルキルセルロースは、多孔質膜を親水化する親水性ポリマーである。
ヒドロキシアルキルセルロースのセルロース骨格の疎水性が基材である多孔質膜との疎水性相互作用に寄与し、多孔質膜に保持させると同時に、ヒドロキシアルキルセルロースの側鎖のヒドロキシ基やヒドロキシプロピル基により多孔質膜に親水性を付与することができる。また、ヒドロキシアルキルセルロースは分子間力が高いため、分子が親水性多孔質膜中で強固に相互作用し、その形態を保持することができると推測される。
さらに、ヒドロキシアルキルセルロースは食品添加物として使用できる成分であるため、フィルターカートリッジ作製後に洗い流す必要がない。そのため、工程負荷が少なく、かつ、安全な親水性多孔質膜を得ることができる。
【0039】
本発明の親水性多孔質膜において厚み方向に分布するヒドロキシアルキルセルロースはゲルパーミエーションクロマトグラフィで検出強度のピークを2つ以上示し、上記ピークのうち最も遅く検出されるピークの重量平均分子量Mwminが100,000未満である。具体的には、本発明の親水性多孔質膜において親水化されている部位の厚み方向を全て含むように切り出し、そこに含まれるヒドロキシアルキルセルロースのゲルパーミエーションクロマトグラフィを行ったときに、上記のように2つ以上のピークが検出される。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)は、具体的には本明細書の実施例に記載の手順および条件で測定することができる。また、GPCで検出される各ピークの重量平均分子量は当業者に周知の方法で求めることができる(例えば、森定雄著、“サイズ排除クロマトグラフィー”、共立出版(1991)参照)。
【0040】
上記のゲルパーミエーションクロマトグラフィで観測されるピークは孔径に合った親水化の観点からは、ピークは多いほど好ましく、通常の測定ではピークとして判別できなくなるほど重量平均分子量の分布を段階的に有していることが好ましい。しかし、ヒドロキシアルキルセルロースの入手の容易性などの観点から、上記のゲルパーミエーションクロマトグラフィで観測されるピークは2つまたは3つであることが好ましく、2つであることが好ましい。
【0041】
本発明の親水性多孔質膜は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで100,000未満の重量平均分子量のピークを示すヒドロキシアルキルセルロース、すなわち、重量平均分子量が100,000未満のヒドロキシアルキルセルロースを含む。重量平均分子量が100,000未満であるヒドロキシアルキルセルロースを含むことにより、多孔質膜においてより孔径の小さい部位の細孔の表面も親水化することができる。また、ヒドロキシアルキルセルロースが凝集しにくくなる。このため、ヒドロキシアルキルセルロースによる目詰まりが生じにくくなり、親水性多孔質膜の透水性が低下することを防止することができる。
【0042】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィで最も遅く検出されるピークに対応するヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量Mwmin、すなわち、本発明の親水性多孔質膜に含まれるヒドロキシアルキルセルロースのうち、最も低い重量平均分子量のヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、10,000以上80,000以下であることがより好ましく、30,000以上50,000以下であることがさらに好ましい。10,000以上とすることにより、ヒドロキシアルキルセルロース間および、ヒドロキシアルキルセルロースと多孔質膜との相互作用を十分なものとして、ヒドロキシアルキルセルロースが多孔質膜に保持されるようにすることができる。
【0043】
本発明の親水性多孔質膜において厚み方向に分布するヒドロキシアルキルセルロースにはゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、上記の最も遅く検出されるピークとは別のピークを示す重量平均分子量が100,000以上のヒドロキシアルキルセルロースも含まれる。重量平均分子量がより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含むことにより、多孔質膜においてより孔径の大きい部位の細孔の表面を効率的に親水化することができる。重量平均分子量が100,000以上のヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量は100,000以上2,500,000以下であることがより好ましく、140,000以上1,500,000以下であることがさらに好ましい。
【0044】
また、重量平均分子量が100,000以上のヒドロキシアルキルセルロースのうち、最も大きい重量平均分子量のヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量Mwmax(GPCで検出される2つ以上のピークのうち最も早く検出されるピークの重量平均分子量)は多孔質膜の孔径の大きい側の表面の平均孔径dmax[μm]との関係が以下を満たすことが好ましい。これにより、より大きい孔径の細孔の表面も効率的に親水化できるとともに目詰まりを防止することができる。
30,000≦Mwmax/dmax≦130,000
さらに、以下を満たすことがより好ましい。
80,000≦Mwmax/dmax≦110,000
【0045】
重量平均分子量がより小さいヒドロキシアルキルセルロースにより、より孔径の小さい部位の細孔の表面が親水化され、重量平均分子量がより大きいヒドロキシアルキルセルロースにより、より孔径の大きい部位の細孔の表面が親水化されていることは以下の分析から判別、確認することができる。
【0046】
多孔質膜を厚み方向に平均孔径がより小さい表面側から均等厚みで順番に2つの部分A、部分Bに分けたとき、部分Bよりも、部分Aに保持されたヒドロキシアルキルセルロースのゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、上記の2つ以上のピークのうちの最も検出時間が遅いピークの検出強度が大きくなる。例えば、本願実施例で用いられたPSE20は
図1に断面図を示すような構造を有するが、厚み方向に均等に2つの部分に分けたとき、
図1において下側が部分Aとなり、上側が部分Bとなる。
図1からわかるように、部分Aは通常緻密部位を有する。このような例において部分Aから溶出したヒドロキシアルキルセルロースは部分Bから溶出したヒドロキシアルキルセルロースよりも小さい重量平均分子量を示す。
【0047】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、炭素数が3以上5以下のアルキレンオキシドをセルロースに付加したヒドロキシアルキルセルロースが好ましい。多孔質膜とヒドロキシアルキルセルロースとの相互作用および得られる親水性多孔質膜の親水性が実用に好ましい範囲で得られるからである。このうち、プロピレンオキシド(炭素数3)をセルロースに付加したヒドロキシプロピルセルロースが最も好ましい。アルキレンオキシドの付加数(置換度)は、多いと親水性が上がり、少ないと親水性が低くなる。この観点から、モル置換度は1以上が好ましく、2以上がより好ましい。
【0048】
ヒドロキシアルキルセルロースの含有量は、ヒドロキシアルキルセルロースを保持している部位(ヒドロキシアルキルセルロースを浸透させた部位)について、親水性多孔質膜の質量に対し、0.02~3質量%であることが好ましく、0.05~1.0質量%であることがより好ましい。多孔質膜におけるヒドロキシアルキルセルロースの含有量は、例えば実施例に示す方法で測定することができる。
【0049】
[親水性多孔質膜の製造方法]
親水性多孔質膜は基材である多孔質膜にヒドロキシアルキルセルロースによる親水化処理を行うことにより製造することができる。具体的には、ヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を多孔質膜に浸透させることにより製造することができる。親水化された多孔質膜に、さらに洗浄処理、滅菌処理等を行ってもよい。
【0050】
(親水化液)
親水化液はヒドロキシアルキルセルロースを含む溶液として調製すればよい。溶媒は、水または水に混和する性質を持つ溶媒であれば、特に限定されない。溶媒は、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、その有機溶媒は少なくとも1種類以上の低級アルコールであることが好ましい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数が5以下のアルコールが挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、またはイソプロパノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。親水化液の溶媒は水であることが特に好ましい。
【0051】
親水化液はヒドロキシアルキルセルロースおよび溶媒以外に界面活性剤、防腐剤、ポリフェノール等の膜硬化剤等を含んでいてもよい。
【0052】
(浸透)
多孔質膜への親水化液の浸透方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬法、塗布法、転写法、噴霧法等が挙げられる。浸透は、少なくとも親水化を行う部位において、多孔質膜の厚み方向全体に親水化液が浸透するように行うことが好ましい。これらのうち、浸漬法または塗布法が好ましい。多孔質膜内部まで親水化液を効率よく浸透させることができるからである。多孔質膜への親水化液の浸透方法としては、塗布法がより好ましい。多孔質膜内部まで孔径に適したヒドロキシアルキルセルロースを効率よく浸透させることができるからである。
【0053】
塗布法としては、上記の重量平均分子量分布を有するヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を多孔質膜の片面または両面から塗布することにより行う方法および重量平均分子量の異なるヒドロキシアルキルセルロース毎に親水化液を別途準備し、別途塗布することにより行う方法が挙げられる。特に重量平均分子量毎に親水化液を用意する後者の方法により、多孔質膜に孔径に適したヒドロキシアルキルセルロースを浸透させることができる。
【0054】
重量平均分子量毎に用意された親水化液は、例えば、以下の手順1または2のように多孔質膜に塗布することにより、ヒドロキシアルキルセルロースの凝集を防止することができ、また、ヒドロキシアルキルセルロースによる多孔質膜の目詰まりを防止することができる。
手順1(両面塗布)
多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、かつ平均孔径がより小さい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布する。
手順2(逐次塗布)
多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロース溶液を塗布し、その後、同じ表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロース溶液を塗布する。
【0055】
塗布は多孔質膜の厚み方向全体に親水化液が浸透するように行うことが好ましい。複数の親水化液を用いて塗布を行う場合は、全ての親水化液の塗布後に多孔質膜の厚み方向全体に親水化液が浸透していればよい。多孔質膜の一部のみを被覆する場合は、被覆したい一部のみに親水化液を塗布する塗布法を行うことができる。親水化液の塗布は、親水化液をスポンジや布に染み込ませたものを多孔質膜の表面に接触させる方法や、ビードコート、グラビアコートあるいはワイヤーバーコートなどの既知の方法により行うことができる。
【0056】
浸漬法においては、親水化液中に多孔質膜を浸漬することにより親水化液を多孔質膜に含浸させる。親水化液としては上記の重量平均分子量分布を有するヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を用いればよい。浸漬後は親水化液から、多孔質膜を引き上げることによって余分な親水化液を除去すればよい。
浸漬は加圧下で行ってもよい。加圧により多孔質膜の各細孔内に効率よく親水化液を注入することができる。
【0057】
浸漬処理あるいは圧入処理する場合の浸漬時間または圧入時間は特に限定されないが一般的には0.5秒~1分間程度であればよく、0.5秒~30秒間程度が好ましい。溶媒等の選択により、浸漬時間の短縮を図ることができる。
多孔質膜の親水化液中への浸漬時間や親水化液中のヒドロキシアルキルセルロース濃度によってヒドロキシアルキルセルロースの付着量を適宜調節することができる。
【0058】
(乾燥、加熱)
多孔質膜への親水化液の浸透後、乾燥により親水化液中の溶媒を揮発除去することが好ましい。乾燥の手段としては、加温乾燥、風乾燥、および減圧乾燥等が挙げられ、特に限定されないが、製造工程の簡便性から風乾燥または加温乾燥が好ましい。乾燥は、単に放置することにより達成されてもよい。
【0059】
(洗浄)
上記乾燥の後は、洗浄溶媒を用いた洗浄を行うことが好ましい。過剰のヒドロキシアルキルセルロースなどを除去することができるからである。また、洗浄により、原料の多孔質膜に含まれる不要な成分も除去することができる。洗浄方法は特に限定されないが、浸漬あるいは圧入法で親水性多孔質膜の膜表面および細孔表面に洗浄溶媒を浸透させ、その後、除去すればよい。洗浄溶媒としては、親水化液の溶媒として例示した溶媒を例示することができる。2回以上洗浄溶媒の浸透および除去を行ってもよい。このとき2回以上の洗浄において洗浄溶媒は同じであってもよく、異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。洗浄の最後に用いられる洗浄溶媒は水であることが好ましい。特に水に浸漬することが好ましい。アルコールなど有機溶媒成分を除くためである。
洗浄後の親水性多孔質膜は上述の手順で再度乾燥させればよい。
【0060】
(滅菌処理)
親水性多孔質膜の滅菌処理として、例えば、高圧蒸気滅菌処理を行うことができる。特にオートクレーブを用いた高温高圧の水蒸気による処理を行うことが好ましい。通常、プラスチックに対する高圧蒸気滅菌処理は、飽和水蒸気によって加圧され110~140℃程度の環境下で10~30分間処理することによって行われるが、本発明の親水性多孔質膜の滅菌処理も同様の条件で行うことができる。滅菌処理に用いられるオートクレーブとしては、例えば、株式会社トミー精工製のSS325が挙げられる。
【0061】
<親水性多孔質膜の用途>
本発明の親水性多孔質膜はろ過膜として各種用途で使用することができる。ろ過膜は、種々の高分子、微生物、酵母、微粒子を含有あるいは懸濁する液体の分離、精製、回収、濃縮などに適用され、特にろ過を必要とする微細な微粒子を含有する液体からその微粒子を分離する必要のある場合に適用することができる。例えば、微粒子を含有する各種の懸濁液、発酵液あるいは培養液などの他、顔料の懸濁液などから微粒子を分離するときにろ過膜を使用することができる。本発明の親水性多孔質膜は、具体的には、製薬工業における薬剤の製造、食品工業におけるビールなどのアルコール飲料製造、電子工業分野での微細な加工、精製水の製造などにおいて必要となる精密ろ過膜として使用することができる。
【0062】
孔径分布を有する本発明の親水性多孔質膜をろ過膜として用いるとき、より孔径が小さい部位がろ過液の出口側(アウトレット側)に近くなるように配置してろ過を行うことにより、微粒子を効率よく捕捉することができる。また、親水性多孔質膜は、孔径分布を有するため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着または付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高いろ過効率を維持することができる。
【0063】
本発明の親水性多孔質膜は、用途に応じた形状に加工して、種々の用途に用いることができる。親水性多孔質膜の形状としては、平膜状、管状、中空糸状、プリーツ状、繊維状、球状粒子状、破砕粒子状、塊状連続体状などが挙げられる。多孔質膜の親水化処理前に用途に応じた形状に加工してもよく、多孔質膜の親水化処理後に用途に応じた形状に加工してもよい。
【0064】
親水性多孔質膜は、各種用途に用いられる装置において容易に取り外し可能であるカートリッジに装着されてもよい。カートリッジにおいて親水性多孔質膜はろ過膜として機能しうる形態で保持されていることが好ましい。親水性多孔質膜を保持したカートリッジは、公知の多孔質膜カートリッジと同様に製造することができ、例えば、WO2005/037413号、特開2012-045524号公報を参照することができる。
【0065】
例えば、フィルターカートリッジは、以下のように製造することができる。
長尺の親水性多孔質膜を短辺(幅)方向で折り目がつくようにプリーツ加工する。例えば、通常2枚の膜サポートの間に挟んで、公知の方法でプリーツ加工することができる。膜サポートとしては不織布、織布、ネットなどを使用すればよい。膜サポートは、ろ過圧変動に対してろ過膜を補強すると同時に、ひだの奥に液を導入するために機能する。プリーツひだの幅は例えば5mmから25mmであればよい。プリーツ加工した親水性多孔質膜は円筒状に丸め、その合わせ目をシールすればよい。
【0066】
円筒状の親水性多孔質膜はエンドプレートにエンドシールされる、エンドシールはエンドプレート材質にしたがって公知の方法で行えばよい。エンドプレートに熱硬化性のエポキシ樹脂を使用する時は、調合したエポキシ樹脂接着剤の液体をポッティング型中に流し込み、予備硬化させて接着剤の粘度が適度に高くなってから、円筒状ろ材の片端面をこのエポキシ接着剤中に挿入し、その後加熱して完全に硬化させればよい。エンドプレートの材質がポリプロピレンやポリエステルの如き熱可塑性樹脂の時は、熱溶融した樹脂を型に流し込んだ直後に円筒状ろ材の片端面を樹脂の中に挿入する方法を行ってもよい。一方、既に成形されたエンドプレートのシール面のみを熱板に接触させたり赤外線ヒーターを照射したりしてプレート表面だけを溶融し、円筒状ろ材の片端面をプレートの溶融面に押しつけて溶着してもよい。
【0067】
組み立てられたフィルターカートリッジはさらに公知の洗浄工程に付してもよい。
なお、親水性多孔質膜におけるヒドロキシアルキルセルロースは、フィルターカートリッジにおいて、一部または全てが洗浄工程等で用いられる溶剤に溶解して除去されていてもよい。
【実施例】
【0068】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0069】
[親水化液の作製]
ヒドロキシプロピルセルロースについては日本曹達(株)製のNISSO HPC Hグレード(分子量100万)、Mグレード(分子量70万)、SLグレード(分子量10万)そしてSSLグレード(分子量4万)を用いた。ヒドロキシエチルセルロースについては三晶(株)製のSANHEC Mグレード(分子量72万)、Lグレード(分子量9万)を用いた。上記のいずれかを純水中に表1に記載の質量%濃度になるように加え、完全に溶解するまで撹拌した。また、表1中、実施例1および比較例1においては、上記のうちのいずれか2種のグレードを混合して用いているが、2種のグレードは質量比で1:1で混合し、表に記載の濃度は混合物の濃度である。
【0070】
[親水性多孔質膜の作製]
表1に記載の多孔質膜を用い、表1に記載の手順で各実施例、比較例の親水性多孔質膜を作製した。
表1において、PSFは富士フイルム株式会社製のポリスルホン膜PSE20である。PSE20は最小孔径0.2μm、最大孔径(平均孔径が大きい表面の平均孔径:d
max)7μm、厚み140μmであり、孔径分布を非対称に有する構造を有する。断面図を
図1に示す。PSF2は特開平9-227714号公報の実施例1を参考に製膜した。最小孔径2μm、最大孔径(平均孔径が大きい表面の平均孔径:d
max)20μm、厚み180μmであり、孔径分布を非対称に有する構造を有する。PESは3M社製のポリエーテルスルホン膜メンブラーナ TM200であり、最小孔径0.3μm、最大孔径(平均孔径が大きい表面の平均孔径:d
max)10μm、厚み140μmであり、孔径分布を非対称に有する構造を有する。
ヒドロキシアルキルセルロースは表1に記載の手順で多孔質膜に浸透させた。表1に記載の手順は以下の通りである。なお、塗布はいずれもギーサーを用いて行った。
【0071】
浸漬:多孔質膜を27秒連続的に2種のヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液に浸漬した後引き上げた。
両面塗布(大大小小):多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、かつ平均孔径がより小さい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布した。
両面塗布(大小小大):多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、かつ平均孔径がより小さい表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液塗布した。
逐次塗布(小大):多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、その後、同じ表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布した。
逐次塗布(大小):多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側に重量平均分子量のより大きいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布し、その後、同じ表面側に重量平均分子量のより小さいヒドロキシアルキルセルロースを含む親水化液を塗布した。
【0072】
上記手順の後の各親水性多孔質膜を80℃のオーブンで80秒間加熱し乾燥させた。
乾燥後の各親水性多孔質膜について、過剰なヒドロキシアルキルセルロースを除去するため25℃純水に5分間浸漬して洗浄を実施した。その後、70℃の温度環境下で24時間乾燥させた。
【0073】
[重量平均分子量評価]
各親水性多孔質膜を10cm×10cmに切断し、これをDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解した。溶解した液を凍結乾燥したのちに、乾燥物を下記溶離液に溶解し、膜中のヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量の評価を行った。
重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)にて評価した。条件は下記の通りである。
・分子量マーカーにプルラン(P-82)を使用
・装置:HLC-8320GPC EcoSEC(東ソー(株))
・カラム:OHpak KB-805 HQ(7.8mmI.D.×30cm)
・カラム:OHpak KB-804 HQ(7.8mmI.D.×30cm)
・カラム:OHpak SB-803 HQ(7.8mmI.D.×30cm)
・溶離液:0.1M NaNO3
・カラム温度:40℃
観測されたピーク数と最も早く観測されたピークと最も遅く観測されたピークとの重量平均分子量(Mwmax、Mwmin)を表1に示す。
【0074】
[多孔質膜中のヒドロキシアルキルセルロース量]
多孔質膜を1cm四方に5枚切り出し、質量を測定したのち、1mlのメタノールに30分間浸漬した。この液をLiquid Chromatograph/Charged Aerosol Detector(LC/CAD)にて評価した。条件は下記の通りである。
・標品:メタノールにヒドロキシアルキルセルロースを所定量溶解させた溶液(20/50/100ppm)
・装置:Waters社製ACQUITY UPLC H-Class
・カラム:Presto FF‐C18 150×4.6mm
・検出器:CAD(Thermo Fisher Scientific 製Corona Ultra RS)
・溶離液:A液…水、B液…アセトニトリル
・溶離条件:5-90%B(0-15min)、0.4ml/min、37℃
上記条件で測定したときに保持時間8.5~12.5分に検出されるヒドロキシアルキルセルロースピークの標品で得られるピークとの面積比を用いて多孔質膜中のヒドロキシアルキルセルロース量[膜中HAC含有量(質量%)]を算出した。
【0075】
[ヒドロキシアルキルセルロースの分布]
各親水性多孔質膜を20cm×20cmで2枚切断した。これらを多孔質膜の平均孔径がより大きい表面側、平均孔径がより小さい表面側からそれぞれ厚み方向で中央まで削り取り、それぞれDMFに溶解して、溶出されたヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量の評価を行った。最も検出時間の遅いピークの検出強度がより大きかった側の部分を(部分A:平均孔径がより小さい表面側;部分B:平均孔径がより大きい表面側)確認した。いずれも同じだった場合は、表1において「均等」とした。
【0076】
[完全性試験]
親水化処理をした膜で濾過フィルターカートリッジ(10インチ)を作製し、8L/minで200s通水した後、水を抜いた。続いて1次面側から150kPaの空気圧をかけ、濾過フィルターカートリッジを通過してくる空気の量を測定し、30mL/min以下なら合格、これより大きければ不合格とした。
【0077】
[透水性]
透水性は、親水化処理した多孔質膜に100kPaの圧力をかけ純水を透過させたときの透水性で評価した。単位面積当たり、1分間に膜を通って流れ出た水の体積を測定し透水性(mL/min/cm2)とした。
【0078】