(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】積層装置、活性化装置、制御装置、積層体の製造装置、および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220823BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/68 G
(21)【出願番号】P 2018011659
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三ッ石 創
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 功
(72)【発明者】
【氏名】角田 真生
(72)【発明者】
【氏名】福田 稔
(72)【発明者】
【氏名】釜下 敦
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012300(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/168534(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/68
B23K 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と第2基板とを積層することにより積層体を生成する積層部と、
前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて、前記積層部で前記第1基板と前記第2基板とを積層するときの積層条件を設定する算出部と、
を備え、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つである
積層装置。
【請求項2】
請求項1に記載の積層装置において、
前記積層部の積層により前記第1基板および前記第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値を推定する推定部を備え、
前記算出部は、前記推定値を用いて前記積層条件を設定する積層装置。
【請求項3】
請求項2に記載の積層装置において、
前記算出部は、前記推定値を用いて、前記第1基板の変化量と前記第2基板の変化量との差異が所定の値以下になるように、前記積層条件を設定する積層装置。
【請求項4】
請求項3に記載の積層装置において、
前記算出部は、前記推定値と、前記積層部による積層前の前記第1基板および前記第2基板の位置ずれ量とを用いて、前記第1基板と前記第2基板との間の積層時の位置ずれ量を演算する積層装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の積層装置において、
前記積層条件を制御する制御部を備える積層装置。
【請求項6】
請求項5に記載の積層装置において、
前記積層条件は、前記第1基板および前記第2基板の間に生じる位置ずれを補正する補正量、積層時の温度、気圧、湿度、および、気体の種類の少なくとも一つを含む積層装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の積層装置において、
前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を変形させる変形部を備え、
前記積層条件は、前記変形部の変形量を含む積層装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の積層装置において、
前記第1基板を保持する保持部を備え、
前記積層条件は、前記保持部の保持力を含む積層装置。
【請求項9】
第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部と、
前記積層部の積層により前記第1基板および前記第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値であって、前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて推定された推定値が入力される入力部と、
前記推定値を用いて前記積層部を制御する制御部と、
を備え、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つである積層装置。
【請求項10】
第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部と、
前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて決定された積層条件が入力される入力部と、
を備え、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つであり、
前記積層部は、前記入力部に入力された前記積層条件で前記第1基板および前記第2基板を積層する積層装置。
【請求項11】
第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、
前記所定情報を用いて、積層により前記第1基板および前記第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値を推定する推定部と、
前記推定値を積層装置に出力する出力部と、
を備え、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つである活性化装置。
【請求項12】
第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、
前記所定情報を用いて、積層により前記第1基板および前記第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値を推定する推定部と、
前記推定値を積層装置に出力する出力部と、
を備え、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つである制御装置。
【請求項13】
第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、
前記所定情報に基づいて、積層装置で第1基板および第2基板を積層するときの積層条件を決定する決定部と、
前記決定部で決定した前記積層条件を前記積層装置に出力する出力部と、
を備え、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つである制御装置。
【請求項14】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の積層装置と、
活性化処理をする活性化装置と、を備える積層体の製造装置。
【請求項15】
第1基板と第2基板とを積層することにより積層体を生成することと、
前記第1基板、前記第2基板および前記積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて、記第1基板と前記第2基板とを積層するときの積層条件を設定することと、を含み、
前記製造条件は、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を活性化する活性化条件、
前記第1基板の表面及び前記第2基板の表面の少なくとも一方を洗浄または親水化処理する洗浄条件、
洗浄または親水化処理された前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方を乾燥させる乾燥気体の条件、積層装置内の
前記第1基板及び前記第2基板の間の気体の条件、
前記第1基板および前記第2基板間の分子間力、および、
積層装置での積層処理の前の工程で前記第1基板および前記第2基板の少なくとも一方を処理する装置の製造条件の少なくとも一つである
積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層装置、活性化装置、制御装置、積層体の製造装置、および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子間力で基板を接合する接合装置が特許文献1に開示されている。特許文献1には、接合に際して基板同士の位置ずれを低減する目的で、上下基板の曲率を等しくする工程を付加している。しかしながら、接合する基板の種々の状況によっては、依然として基板同士の位置ずれを低減することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、積層装置は、第1基板と第2基板とを積層することにより積層体を生成する積層部と、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて、積層部での積層により第1基板および第2基板の間に生じると推定される位置ずれを補正する補正量を算出する算出部と、を備える。
本発明の第2の態様によると、積層装置は、第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部と、積層部の積層により第1基板および第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値が入力される入力部と、推定値を用いて積層部を制御する制御部と、を備える。
本発明の第3の態様によると、積層装置は、第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部と、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて決定された積層条件が入力される入力部と、を備え、積層部は、入力部に入力された積層条件で第1基板および第2基板を積層する。
本発明の第4の態様によると、活性化装置は、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、所定情報を用いて、積層により第1基板および第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値を推定する推定部と、推定値を積層装置に出力する出力部と、を備える。
本発明の第5の態様によると、制御装置は、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、所定情報を用いて、積層により第1基板および第2基板の間に生じる位置ずれに対応する推定値を推定する推定部と、推定値を積層装置に出力する出力部と、を備える。
本発明の第6の態様によると、制御装置は、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、所定情報に基づいて、積層装置で第1基板および第2基板を積層するときの積層条件を決定する決定部と、決定部で決定した積層条件を積層装置に出力する出力部と、を備える。
本発明の第7の態様によると、積層体の製造装置は、第1から第3の態様のいずれか一つの態様による積層装置と、活性化処理をする活性化装置と、を備える。
本発明の第8の態様によると、積層体の製造方法は、第1基板と第2基板とを積層することにより積層体を生成することと、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて、積層により第1基板および第2基板の間に生じると推定される位置ずれを補正する補正量を算出することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】第1の実施形態に係る積層体製造システムを示す構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係る活性化装置を示す構成図である。
【
図3】第1の実施形態に係る洗浄装置を示す構成図である。
【
図4】第1の実施形態に係る積層装置を示す構成図である。
【
図5】第1の実施形態に係る積層装置の動作を説明するための図である。
【
図6】第1の実施形態に係る積層装置による基板の積層処理を説明するための図である。
【
図7】第1の実施形態に係る積層装置による基板の積層過程を示す図である。
【
図8】積層体における基板の位置ずれを説明するための図である。
【
図9】第1の実施形態に係る積層装置の積層条件の決定処理を説明するための図である。
【
図10】第1の実施形態に係る積層装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図11】第2の実施形態に係る積層装置の積層条件の決定処理を説明するための図である。
【
図12】第2の実施形態に係る積層装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図13】第3の実施形態に係る積層装置の積層条件の決定処理を説明するための図である。
【
図14】第3の実施形態に係る積層装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図16】第4の実施形態に係る積層装置の積層条件の決定処理を説明するための図である。
【
図17】第4の実施形態に係る積層装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図18】基板の接合の境界で生じる現象を説明するための図である。
【
図19】基板の接合の境界で生じる現象を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る積層体製造システム100を示す構成図である。積層体製造システム100は、筐体110と、基板ケース140と、第1搬送ロボット160と、基板バッファー170と、基板位置調節部180と、第2搬送ロボット190と、活性化装置200と、洗浄装置250と、積層装置500と、制御装置600とを備える。積層体製造システム100は、複数の基板210を積層して成る積層体を製造する。基板210は、たとえば、回路パターンやアライメントマーク、電極等が形成された円形のシリコン基板である。積層体製造システム100は、未加工の基板、化合物半導体基板、プリント基板、ガラス基板等を積層することもできる。回路パターン等が形成された基板と未加工の基板とを積層することも、回路パターンが形成された基板同士、未加工の基板同士等、同種の基板を積層することもできる。積層される基板210は、それ自体が、既に複数の基板を積層して形成された基板であってもよい。なお、積層される基板210は、円形の基板に限られず、角型の基板であってもよい。
【0007】
基板ケース140は、基板210を収容可能なケースであり、回路パターン等が形成された基板210を収容する。第1搬送ロボット160は、基板ケース140から基板210を取り出して、基板バッファー170または基板位置調節部180に基板210を搬送する。基板バッファー170は、基板210を一時的にストックする。基板位置調節部180は、活性化装置200、洗浄装置250、および積層装置500等の各種装置に基板210が搬送される前に、基板210をプリアライメントする。第2搬送ロボット190は、基板バッファー170と、基板位置調節部180と、活性化装置200と、洗浄装置250と、積層装置500との間で基板210を搬送する。
【0008】
活性化装置200は、基板210の表面を活性化する。洗浄装置250は、活性化装置200によって活性化処理された基板210を洗浄する。積層装置500は、2つの基板210を積層(接合)する。活性化装置200、洗浄装置250、および積層装置500の詳細については後述する。
【0009】
制御装置600は、CPU等の演算処理回路、ROMやRAM等のメモリを有し、所定のプログラムを実行してその機能を実現する。制御装置600は、たとえばコンピュータであり、積層体製造システム100の各部を統括的に制御する。制御装置600は、第1搬送ロボット160、第2搬送ロボット190、基板位置調節部180、活性化装置200、洗浄装置250、および積層装置500の駆動を制御する。
【0010】
図2は、第1の実施形態に係る活性化装置200を示す構成図である。
図2に示す活性化装置200は、プラズマ処理装置であり、チャンバ201と、チャンバ201内にガスを導入するガス導入口202と、チャンバ201内に配置された一対の平行電極(平行電極203、平行電極204)と、平行電極間に高周波電圧を印加する高周波電源205とを備えている。平行電極203および平行電極204には、高周波電源205が接続されている。平行電極203は、アース(グランド)206に接続される。チャンバ201の内部は、真空ポンプ等により真空雰囲気にされる。
【0011】
第2搬送ロボット190によって活性化装置200に搬送された基板210は、不図示のロードロックチャンバを介してチャンバ201に搬入される。基板210は、積層時に接合面となる基板210の表面が上側(上向き)となるように、平行電極204に載置される。ガス導入口202から導入されたアルゴンガス等のガスは、高周波電源205により平行電極間に高周波電圧が印加されることによって、プラズマ化される。プラズマ中のイオンは、平行電極に載置された基板210に照射される。基板210の表面は、プラズマ処理されて活性化される。
【0012】
このように、基板210の表面は、プラズマ処理されることによって、活性化した状態となる。基板表面の活性化とは、基板の表面にダングリングボンド(未結合手)を生じさせることによって、結合を形成しやすくすることを指す。
【0013】
具体的には、活性化装置200では、例えば減圧雰囲気下において処理ガスである酸素ガスを励起してプラズマ化し、酸素イオンを二つの基板のそれぞれの接合面となる表面に照射する。例えば、基板がSi上にSiO膜を形成した基板である場合には、この酸素イオンの照射によって、積層時に接合面となる基板表面におけるSiOの結合が切断され、SiおよびOのダングリングボンドが形成される。基板の表面にこのようなダングリングボンドを形成することを活性化と称する場合がある。このダングリングボンドが形成された状態の基板を、例えば大気に晒した場合、空気中の水分がダングリングボンドに結合して、基板表面が水酸基(OH基)で覆われる。基板の表面は、水分子と結合しやすい状態、すなわち親水化されやすい状態となる。つまり、活性化により、結果として基板の表面が親水化しやすい状態になる。
【0014】
基板210には、その表面に金属(たとえば銅)の電極が複数形成されている。基板210の活性化状態は、基板210の材料(たとえばシリコン)の活性化状態のみならず金属電極の表面の活性化状態を含む概念である。活性化装置200によって活性化処理された基板210は、第2搬送ロボット190によって洗浄装置250へ搬送される。
【0015】
図3は、第1の実施形態に係る洗浄装置250を示す構成図である。洗浄装置250は、容器251内に配置された基板ステージ252と、基板ステージ252を回転させるモータ253と、洗浄水を噴射する噴射ノズル254と、噴射された洗浄水を排水する排水口255とを備えている。第2搬送ロボット190によって洗浄装置250に搬送された基板210は、積層時に接合面となる基板210の表面が上側(上向き)となるように、基板ステージ252に載置される。
【0016】
基板ステージ252に載置された基板210は、基板ステージ252に吸着保持される。基板210は、モータ253によって基板ステージ252が回転されることで、基板ステージ252と共に回転する。洗浄装置250は、噴射ノズル254を移動させることによって、洗浄水が噴射される位置を変更することができる。
【0017】
洗浄装置250は、基板ステージ252に保持された基板210を基板ステージ252と共に回転させながら、噴射ノズル254から基板210に洗浄水(たとえば、純水)を噴射する。基板210の表面の全域に洗浄水が供給されて、基板210の表面は、洗浄および親水化処理される。すなわち、洗浄装置250は、基板の接合面となる表面に純水等を塗布することによって基板の表面を親水化する親水化装置250でもある。基板210の表面は、OH基が付着した状態、すなわちOH基で終端された状態となる。この親水化処理を行うことによって、基板210の活性化状態は変動する。洗浄装置250によって洗浄および親水化処理された基板210は、第2搬送ロボット190によって積層装置500へ搬送される。
【0018】
図4は、第1の実施形態に係る積層装置500を示す構成図である。積層装置500は、積層部300と、制御部400と、計測部410と、演算部420と、通信部430と、記憶部440とを備える。制御部400、計測部410、演算部420、通信部430、および記憶部440は、バス450を介して接続されている。
【0019】
記憶部440は、ROM等のメモリやハードディスク装置等の記憶装置により構成され、基板を積層する際の条件(積層条件)の決定に用いられるデータが記憶される。積層条件は、積層部300で2つの基板を積層する際の温度や加圧力等の条件である。詳細は後述するが、たとえば、記憶部440には、積層処理前または処理中に計測または推測した基板に関する情報と、積層による基板の径方向の長さの変化量に関連する値との対応関係が、記憶(記録)されている。基板の径方向は、基板の厚さ方向に交差する方向の一例である。また、記憶部440には、2つの基板の径方向の長さの変化量の差異に対応する値と、その差異を低減するための条件との対応関係が、記憶されている。これら対応関係は、予め実験などにより求められて、データテーブルや計算式として記憶部440に記憶される。ここで、変化量とは、基板上における設計上の位置に対する実際の位置の差である。
【0020】
演算部420は、演算処理回路やメモリ等によって構成され、積層部300で2つの基板を積層する際の積層条件を決定する。詳細は後述するが、演算部420は、計測部410や通信部430等を介して、積層処理前または処理中に計測または推測した基板に関する情報を取得する。演算部420は、取得した情報と記憶部440に記憶された上述の対応関係に基づき、積層される2つの基板の径方向の長さの変化量の差異に対応する値(推定値)を推定する。演算部420は、この推定値と記憶部440に記憶された上述の対応関係を用いて、2つの基板の位置ずれを低減させる積層条件を決定する。
【0021】
制御部400は、演算処理回路やメモリ等によって構成され、演算部420により決定された積層条件に基づき、積層部300を構成する各部を制御して、基板211、213を積層する。制御部400は、詳細は後述するが、基板の表面の活性化状態を検出するための各種制御、演算も行う。通信部430は、入出力回路等により構成され、外部の装置(たとえば制御装置600)とデータを送受信する。
【0022】
積層部300は、枠体310、上ステージ322、下ステージ332、X方向駆動部331、Y方向駆動部333、Z方向駆動部335、顕微鏡324、および顕微鏡334を備える。枠体310は、底板312、支柱314、および天板316を有する。枠体310は、積層装置500の筐体を構成する。積層装置500の筐体内は、大気圧の雰囲気である。
【0023】
上ステージ322は、天板316の図中下面に下向きに固定される。上ステージ322は、真空チャック、静電チャック等により基板ホルダ221を保持する機能を有する。
図4に示す状態では、上ステージ322は、基板211を保持した基板ホルダ221を保持している。下ステージ332は、Y方向駆動部333の図中上面に搭載される。下ステージ332は、真空チャック、静電チャック等により基板ホルダ223を保持する機能を有する。
図4に示す状態では、下ステージ332は、基板213を保持した基板ホルダ223を保持している。基板ホルダ221、223は、それぞれ基板211、213を保持する保持部の一例である。
【0024】
X方向駆動部331は、図中の矢印Xで示す方向に移動可能に構成されている。Y方向駆動部333は、X方向駆動部331上において、図中の矢印Yで示す方向に移動可能に構成されている。制御部400は、X方向駆動部331およびY方向駆動部333を移動させることによって、下ステージ332をX-Y方向に二次元的に移動させることができる。Z方向駆動部335は、図中の矢印Zで示す方向に、昇降可能に構成されている。制御部400は、Z方向駆動部335を昇降させることによって、下ステージ332をZ方向に移動させることができる。
【0025】
顕微鏡324は、上ステージ322の側方において、天板316の下面に固定される。顕微鏡324は、下ステージ332に保持された基板213の上面を観察することができる。顕微鏡334は、下ステージ332の側方において、Y方向駆動部333に搭載される。顕微鏡334は、上ステージ322に保持された基板211の下面を観察することができる。制御部400は、顕微鏡324、334のそれぞれの焦点を合わせたり、顕微鏡324、334に共通の指標を観察させたりすることによって、顕微鏡324、334を予め較正する。制御部400は、制御部400によって算出される顕微鏡324、334の相対位置の較正を行うことによって、顕微鏡324、334の相対位置を高精度に測定することが可能となる。
【0026】
積層装置500の計測部410は、基板211、213の積層状態を計測する。計測部410は、複数の検出部411、および積層状態演算部412を有する。上ステージ322には、基板ホルダ221に設けられる観察孔240毎に、観察窓340が設けられる。検出部411は、観察窓340毎に設けられ、観察窓340および観察孔240を介して基板211、213の積層状態の計測を行う。観察孔240および観察窓340は、透明な材料を用いて形成される。
【0027】
検出部411は、不図示の光源および受光部を有し、計測対象物に光を照射して計測対象物から反射した光を受光する。検出部411の光源は、少なくとも一部が基板211を透過する波長の光(たとえば赤外線)を発生する。検出部411は、下ステージ332の移動によって基板211と基板213とが接近した後に、光源が発生した光を観察窓340および観察孔240を介して、基板211、213に対して照射する。検出部411の受光部は、基板211、213から反射された光を受光する。受光部により受光される光の光強度(光量)は、基板211と基板213との間の間隔に応じた値となる。受光部は、たとえばフォトダイオードを有し、受光量に応じた電気信号を生成する。検出部411は、生成した電気信号を積層状態演算部412に出力する。
【0028】
積層状態演算部412は、各検出部411から出力された電気信号に基づいて、基板211、213の積層状態に関する情報として、後述する基板211と基板213との接触領域の大きさを算出する。なお、計測部410は、照射光と反射光との位相差に基づいて接触領域の大きさを演算してもよいし、照射光と反射光との周波数差に基づいて接触領域の大きさを演算してもよい。計測部410は、基板間の静電容量を計測して、接触領域の大きさを演算する構成であってもよい。この場合、計測部410は、接触領域外における基板間の間隔に応じた容量を計測して、計測された容量に基づいて接触領域の大きさを演算する。
【0029】
計測部410は、接触領域の大きさを示す情報を、演算部420に出力する。本実施形態では、詳細は後述するが、演算部420は、接触領域の大きさに基づいて、基板211、213を積層するときの積層条件を決定する。
【0030】
図5は、第1の実施形態に係る積層装置500の動作例を説明するための図である。
図5(a)に示すように、制御部400は、X方向駆動部331およびY方向駆動部333を駆動させて、顕微鏡324、334によって基板211、213の各々に設けられたアライメントマークを検出する。アライメントマークは、一の基板を積層対象である他の基板と位置合わせする場合に指標として利用される。
【0031】
制御部400は、相対位置が既知である顕微鏡324、334を用いて基板211、213のアライメントマークの位置を検出することによって、基板211、213の相対位置を測定する。具体的には、制御部400は、顕微鏡324、334が基板211、213の各々のアライメントマークを検出するまでの下ステージ332の移動量に基づいて、基板211、213の相対位置を測定する。
【0032】
図5(b)に示すように、制御部400は、顕微鏡324、334によるアライメントマークの位置の測定結果に基づいて、X方向駆動部331およびY方向駆動部333を駆動する。制御部400は、基板211および基板213の各々のアライメントマークの位置の位置ずれ量が所定の量以下となるように、もしくは、回路領域の接続部同士の位置ずれ量が所定の値以下となるように、下ステージ332のX方向およびY方向の位置を調節する。
【0033】
図5(c)に示すように、制御部400は、Z方向駆動部335を昇降させることによって、下ステージ332のZ方向の位置を調節する。制御部400は、下ステージ332のZ方向の位置を調節することによって、上ステージ322に保持された基板211と、下ステージ332に保持された基板213との間の間隔の調整を行う。
【0034】
図6は、第1の実施形態に係る積層装置500による基板の積層処理を説明するための図である。なお、
図6では、説明の便宜上、基板ホルダ223を極端に凸状に図示している。
図6(a)は、
図5(b)に示すように位置調整された(アライメントされた)基板211、213を示す模式図である。基板ホルダ221を介して上ステージ322に保持された基板211と、基板ホルダ223を介して下ステージ332に保持された基板213とは、X方向およびY方向において位置合わせされた状態で対向している。基板ホルダ223は、中央が隆起した保持面225で基板213を保持しているため、基板213も中央部が隆起している。基板ホルダ221は平坦な保持面を有するため、基板211は平坦な状態で保持される。そのため、
図6(a)に示すように、積層装置500において対向する基板211、213の間隔は、基板211、213の中央部において小さく、周縁部に近づくほど大きくなる。
【0035】
制御部400は、
図6(b)に示すように、Z方向駆動部335によって下ステージ332を上昇させ、基板211と基板213とを接触させる。基板211に対して凸状の基板213を平坦な状態の基板211と接触させるため、基板211と基板213とは、一部が接触して接合する。基板213は基板ホルダ223の湾曲した保持面225に保持されているため、基板213の周縁部は、基板211から離れている。換言すると、基板ホルダ223は、基板211、213の中央部以外の部分が接触しないように、基板213を保持している。基板211、213の略中央には、図中に点線Cで囲って示すように、基板211、213の接触領域が形成される。基板211、213の接触領域は、基板211、213が部分的に接合された領域であり、基板211、213の接合の起点の領域となる。
【0036】
基板211、213の接触領域が形成された後、制御部400は、基板ホルダ221による基板211の保持を解除する。基板ホルダ221による基板211の保持が解除されると、基板211は基板ホルダ221から解放される。基板211が解放されると、基板211および基板213は、基板211、213の分子間力によって起点から径方向に順次に接合される。具体的には、基板211、213の接触領域が、時間の経過に従って、基板211、213の内側から外側に向かって各径方向に拡大し、基板211、213の接合が進行する。すなわち、基板211、213の接合した領域が順次拡がっていくボンディングウェーブが生じて、基板211、213の接触領域が拡大する。基板ホルダ221による保持が解除された基板211が、分子間力により起点から外径方向への面運動(ボンディングウェーブ)を生じて、起点から径方向に基板が順次に接合するともいえる。積層装置500では、基板211、213の接触領域が順次拡大する過程で、基板間の空気を押し出しながら基板同士の接合が行われるため、基板211、213の間に気泡が混入することが抑制される。
【0037】
基板211、213は、活性化処理および親水化処理によって形成された水酸基による水素結合のような化学結合によって、全面的に結合される。
【0038】
ここで、二つの基板が結合した状態とは、積層された二つの基板に設けられた端子が互いに接続され、これにより、二つの基板間に電気的な導通が確保された場合、もしくは、二つの基板の接合強度が所定の強度以上となる場合には、それらの状態を含む。また、積層された二つの基板にアニール等の処理を行うことにより、二つの基板が最終的に電気的に接続される場合、もしくは、二つの基板の接合強度が所定の強度以上となる場合には、結合した状態は、アニール等の処理前に二つの基板が一時的に結合している状態、すなわち仮接合されている状態を含む。アニールにより接合強度が所定の強度以上になる状態は、例えば、二つの基板の表面同士が互いに共有結合により結合されている状態を含む。また、仮接合されている状態は、重なり合った二つの基板を分離して再利用することができる状態を含む。
【0039】
こうして、
図6(c)に示すように、積層装置500においては、基板211、213を積層した積層体230が形成される。積層体230は、第2搬送ロボット190によって積層装置500から搬出された後、第1搬送ロボット160によって基板ケース140に収容される。以下では、
図7を用いて積層装置500による基板の積層過程について詳細を説明する。
【0040】
図7は、第1の実施形態に係る積層装置500による基板の積層過程を示す図である。なお、
図7では、基板ホルダ223は平坦な保持面を有している。
図7(a)~
図7(c)は、基板211、213の積層過程を時系列で示している。なお、
図7では、基板211、213の中央部分から外縁部分までを示している。基板211の保持を解除させて基板211、213の接合を進行させると、基板211は、基板間の空気抵抗の影響を受けて引き伸ばされる。より詳しくは、基板211は、基板間の空気を排斥し(押し出し)ながら分子間力によって基板213との接合を進行させるため、径方向の歪み(伸び)を生じながら、すなわち径方向の長さが変化しながら基板213と貼り合わされる。そのため、基板211と基板213とが水平方向にずれて積層される場合が生じる。基板211、213の中央部分では位置ずれが生じていなくても、周縁部分において位置ずれが生じることとなる。
【0041】
なお、位置ずれとは、上述したように、二つの基板の間で対応するアライメントマーク同士の位置のずれ、又は、互いに対応する接続部同士の位置のずれである。位置ずれ量が所定の値よりも大きい場合は、接続部同士が接触しない又は適切な電気的導通を得ることができない、もしくは基板間に所定の接合強度が得られないこととなる。
【0042】
図7(b)および
図7(c)において、基板211中の点線と基板213中の点線とのずれは、基板211、213の位置ずれを模式的に表している。基板211、213の位置ずれが生じる要因の一つとして、基板211、213の間に生じる倍率差が挙げられる。以下、基板211、213の倍率差について説明する。
【0043】
倍率とは、基板の中心からの距離Xにおける所定のパターン(たとえばアライメントマーク)の設計位置からのずれ量を距離Xで除算することにより得られる値(単位はたとえばppm)である。基板211、213の各々における所定のパターンの設計位置は共通であり、基板211、213の各々の倍率の差は、基板211、213の位置ずれ量となる。積層対象となる基板は、露光処理やエッチング処理等のプロセスで生じた倍率、すなわち積層処理の前の段階から生じている倍率を有する。積層処理前から生じている倍率を、基板固有の初期倍率と呼ぶこととし、基板211、213のそれぞれの初期倍率の差を、初期倍率差と呼ぶこととする。また、基板211と基板213との積層時に生じる倍率差を、積層時倍率差と呼ぶこととし、積層後(積層体230の形成後)における基板211、213のそれぞれの倍率の差を、積層倍率差と呼ぶこととする。すなわち、基板211、213の積層後の位置ずれのうち、倍率による成分が積層倍率差である。
【0044】
積層倍率差は、基板211、213の初期倍率差と、基板211、213の積層時倍率差とに基づく値となる。積層倍率差を所定の値以下とすることにより、倍率差に起因する基板211、213の間の位置ずれが抑制され、基板211の回路パターンと基板213の回路パターンとの位置ずれが上記した所定の値以下となる。
【0045】
図8は、積層体230における基板211、213の位置ずれを説明するための図である。
図8(a)および
図8(b)は、基板211と基板213とがずれて積層された状態を示している。
図8(a)では、基板211と基板213とを積層したとき、基板211のアライメントマークP1に関する倍率がSUとなり、基板213のアライメントマークP2に関する倍率がSLとなった例を示している。SU>SLである。積層体230における積層倍率差ΔISを、基板213についての倍率-基板211についての倍率と定義すると、積層倍率差ΔIS=SL-SUとなる。
図8(a)に示す例の場合、積層倍率差はマイナスの値となる。
【0046】
図8(b)では、基板211と基板213とを積層したとき、基板211のアライメントマークP1に関する倍率がSUとなり、基板213のアライメントマークP2に関する倍率がSLとなった例を示している。SL>SUである。積層体230における積層倍率差ΔISは、SL-SUとなる。
図8(b)に示す例の場合、積層倍率差はプラスの値となる。
【0047】
積層倍率差(の絶対値)が大きい場合は、たとえば基板211に設けられた電極と基板213に設けられた電極との電気的な接続が不十分となり、積層体230が不良品となる。そのため、積層体製造システム100は、基板間の積層倍率差を許容範囲に収める必要がある。
【0048】
上述したように、本実施形態の積層装置500では、2枚の基板を接合して積層する際、基板間を接近させ分子間力を利用して基板中央部を接触させて中央領域を接合する。その後、一方の基板について、そのホルダによる吸着を解放する。このとき、解放された一方の基板は、分子間力により径方向に波打ちながら、すなわちボンディングウェーブを発生しつつ他方の基板に接合されていく。2つの基板は、基板間の空気を排斥しながら分子間力によって接合を進行させる。
【0049】
基板211、213の分子間力は、活性化装置200で活性化処理され、さらに洗浄装置250で洗浄された基板表面の活性化状態に依存する。基板211、213の活性化状態が良いと、基板211、213の分子間力が大きくなる傾向がある。また、基板間の分子間力が大きい場合は、積層する際に生じる基板211の径方向の長さの変化量が大きくなり、基板間の分子間力が小さい場合は、基板211の径方向の長さの変化量が小さくなる傾向がある。基板間の分子間力が大きい、すなわち基板間の接合力が大きいと、ボンディングウェーブの速度が上がるため、基板211の変形量(径方向の長さの変化量)が大きくなると推定される。
【0050】
このため、基板表面の活性化状態は、積層する際に生じる基板211の径方向の長さの変化量に影響を与える。基板表面の活性化状態が、基板211の倍率の変化量(積層時に生じる倍率の変化量)および積層時倍率差に影響を与えるともいえる。ここで、倍率の変化量とは、設計上の倍率と実際に生じている倍率との差である。また、基板間を接近させて形成される接触領域の大きさは、基板間の分子間力に依存する。活性化状態が悪いと、基板間の分子間力が小さくなるため、接触領域の面積は小さくなる。また、活性化状態が良いと、基板間の分子間力が大きくなるため、接触領域の面積は大きくなる。したがって、接触領域の大きさは、基板表面の活性化状態を示す物理量として利用できる。
【0051】
積層装置500は、基板211、213または積層体230の製造条件に関する情報に基づいて、積層する前に二つの基板の少なくとも一方に生じる歪み(例えば倍率)を推定する。積層装置500は、推定した歪みに基づいて積層後の二つの基板の間の位置ずれ量または積層倍率差を求め、この位置ずれ量または積層倍率差が所定の値以下となるような補正量(基板の変形量など)を求める。積層装置500は、この補正量が得られるように積層条件を設定する。後述するが、積層装置500は、積層条件として、基板の温度、基板ホルダの曲率、アクチュエータ(圧電素子等)の駆動量などの調整パラメータを決定する。各調整パラメータと補正量との関係は、予め算出して積層装置500の内部のメモリ等に記憶させる。なお、製造条件と補正量、歪みと補正量、および、位置ずれ量と補正量、のいずれかの関係が分かっている場合は、その他の値を求めなくてもよい。また、製造条件、歪み、および、位置ずれ量のいずれかと、各調整パラメータのいずれかとの関係が分かっていれば、その他の値を求めなくてもよい。
【0052】
一例として、本実施形態の積層装置500は、接触領域の大きさの情報に基づいて、2つの基板の積層条件を決定する。接触領域の大きさの情報は、活性化条件に関する情報に含まれ、活性化条件に関する情報は、基板211、213の製造条件に関する情報に含まれる。積層装置500は、接触領域の大きさに基づいて基板211の径方向の長さの変化量に基づく積層時倍率差を推定し、積層時倍率差と初期倍率差とを用いて、積層後の倍率差(積層倍率差)を推定する。積層装置500は、推定した積層倍率差に基づいて積層条件を決定する。これにより、本実施形態の積層装置500は、とくに積層倍率差を抑制する機能を有する。以下に、詳細に説明する。
【0053】
図4に示す制御部400は、基板211、213の中心部を接合させて接触領域を形成させた後、計測部410によって接触領域の大きさを計測させる。演算部420は、計測部410により計測された接触領域の大きさを計測値として取得し、基板211、213の径方向の長さの差異に関する値(積層時倍率差、又は、積層倍率差)を上述した推定値として推定する。本実施形態では、記憶部440には、接触領域の大きさと、基板211に生じる倍率の変化量または倍率の変化量に基づく積層時倍率差との対応関係が記憶されている。また、記憶部440には、積層部300が基準条件(たとえば常温)で2つの基板を積層した場合における積層倍率差と、その積層倍率差を低減するための温度との対応関係も記憶されている。記憶される温度は、基板自体の温度でもよく、基板を温調するための温調部と基板の温度との相関関係が分かっていれば温調部の温度でもよい。
【0054】
温調部は、図示しないが、例えば上ステージ322および下ステージ332の少なくとも一方に設けられており、基板を変形させる変形部の一例である。演算部420は、記憶部440に記憶された上述の対応関係を参照して、接触領域の大きさから基準条件で積層した場合の積層時倍率差を演算し、初期倍率差と積層時倍率差とを用いて積層倍率差を推定し、その積層倍率差が所定の値以下となる補正量を算出し、算出した補正量に基づいて基板211、213の積層条件を決定する。すなわち、本実施形態では、演算部420は、補正量を算出する算出部としての役割を果たす。積層条件は、上述した積層倍率差を抑制するための条件であり、換言すると、積層処理により基板に発生する歪みによる基板間の位置ずれを抑制するための条件である。
【0055】
図9は、第1の実施形態に係る積層装置500の積層条件の決定処理の一例を説明するための図である。
図9(a)は、基板211、213の接触領域の大きさと、基準条件で積層された場合の基板211に生じる倍率の変化量との関係を示している。
図9(a)において、横軸は接触領域の大きさを示し、縦軸は基板211に生じる倍率の変化量を示している。積層過程で基板211に生じる倍率の変化量は、上述したように、2つの基板が接合されていく過程で基板211に生じる歪みによる倍率の変化量である。接触領域の大きさが小さいと、基板211の径方向の長さの変化量が小さくなり、基板211の倍率の変化量が小さくなる。また、接触領域の大きさが大きいと、基板211の径方向の長さの変化量が大きくなり、基板211の倍率の変化量が大きくなる。
図9(a)に示したような接触領域の大きさと倍率の変化量との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。なお、基板211、213の接触領域の大きさと積層時倍率差との関係は、
図9(a)と同様である。また、基板211、213の接触領域の大きさと基板213に生じる倍率の変化量との関係も、
図9(a)と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0056】
接触領域の大きさと倍率の変化量との対応関係や、接触領域の大きさと積層時倍率差との対応関係が記憶部440に記憶されているので、演算部420は、接触領域の大きさ(計測値)が判れば、積層過程で生じる基板211の倍率の変化量および積層時倍率差を推定することができる。例えば、演算部420は、計測部410によって取得された接触領域の大きさ、および記憶部440に記憶された接触領域の大きさと倍率の変化量との対応関係に基づいて、積層過程で基板211、213に生じると推測される積層時倍率差を算出する。また、例えば、演算部420は、接触領域の大きさ、および接触領域の大きさと積層時倍率差との対応関係に基づいて、積層過程で生じると推測される積層時倍率差を算出するようにしてもよい。演算部420は、算出した積層時倍率差と基板211、213の初期倍率差とに基づいて、積層倍率差(推定値)を推定する。基板間の初期倍率差は、たとえば、2つの基板211、213のアライメントマークの相対位置に基づいて算出される。なお、演算部420は、露光処理の際に露光装置で取得された初期倍率差を示す情報を、通信部430を介して露光装置から取得してもよい。
【0057】
図9(b)は、基板213の温度と基板211、213の積層倍率差との関係の一例を示している。
図9(b)においては、基準値で接合したときの積層倍率差をゼロとしている。
図9(b)に示したような積層倍率差と基板213の温度との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。
【0058】
演算部420は、推定した積層倍率差に基づいて基板211、213を積層したと仮定した場合の積層倍率差が所定の値以下となる補正量を算出し、推定した積層倍率差、および、記憶部440に記憶された積層倍率差と基板213の温度との対応関係に基づいて、補正量に対応する積層条件を演算して決定する。
図9(b)に示す例では、演算部420は、積層条件として、積層する際の基板213の温度条件を決定する。すなわち、演算部420は、積層倍率差が所定の値以下となるときの補正量に対応する温度を決定する。制御部400は、演算部420によって決定された積層条件に基づいて、基板211、213の積層を行わせる。制御部400は、積層処理により生じると推測される基板211、213の積層時倍率差と初期倍率差とに応じた積層倍率差を、演算部420が決定した補正量に応じて基板213の温度を制御することにより補正する。より詳しくは、制御部400は、決定した温度に基づいて温調部を制御することにより、基板213の温度を調節する。これによって、基板213を熱膨張または熱収縮させて、基板213の大きさを予め変化させる。積層装置500では、基板211に生じると推測される倍率の変化量(積層時倍率差)に対応して基板213の大きさを予め変化させて、基板211、213の積層を行う。そのため、基板211、213の積層倍率差を低減し、積層後の基板間の位置ずれを抑制することができる。
【0059】
演算部420は、接触領域の大きさに基づき算出した積層倍率差がゼロの場合は、補正量はゼロとし、基板211の温度および基板213の温度を同じ基準値(たとえば常温)とする。演算部420は、積層倍率差がマイナスの値の場合は、基板213の温度を基準値より高くする。演算部420は、積層倍率差がプラスの値の場合は、基板213の温度を基準値より低くする。
【0060】
図8(a)に示したような積層倍率差を補償するための積層条件は、たとえば、基板213の温度が基板211の温度よりも高くなるように、温調部を制御することにより基板211、213の温度を調節して、基板211、213の積層を行うことである。たとえば、基板ホルダ223を加熱して基板213を熱膨張させた状態で、基板211、213の積層を行う。
【0061】
図8(b)に示したような積層倍率差を補償するための積層条件は、たとえば、基板213の温度が基板211の温度よりも低くなるように、温調部を制御することにより基板211、213の温度を調節して、基板211、213の積層を行うことである。たとえば、基板ホルダ223の温度を調節して基板213を熱収縮させた状態で、基板211、213の積層を行う。
【0062】
図10は、第1の実施形態に係る積層装置500の動作例を説明するためのフローチャートである。この
図10のフローチャートを参照して、積層装置500の動作例について説明する。
【0063】
ステップS100において、積層対象となる基板211、213は、第2搬送ロボット190によって積層装置500に搬入される。ステップS110において、積層装置500の制御部400は、顕微鏡324、334を用いて基板211、213のアライメントマークの位置を検出することによって、基板211、213の相対位置を測定する。ステップS120において、制御部400は、基板211、213のアライメントマークの相対位置に基づいて、X方向駆動部331およびY方向駆動部333を駆動して、下ステージ332のX方向およびY方向の位置を調節する。
【0064】
ステップS130において、制御部400は、Z方向駆動部335によって下ステージ332を上昇させ、基板211と基板213とを接触させて接触領域を形成させる。ステップS140において、制御部400は、計測部410に基板211、213の接触領域の大きさを計測させる。ステップS150において、積層装置500の演算部420は、接触領域の大きさに基づいて、基板211、213を基準条件で積層した場合の積層時倍率差を推定する。また、演算部420は、積層時倍率差と初期倍率差とを用いて積層倍率差を推定する。演算部420は、推定した積層倍率差に基づいて積層倍率差が所定の値以下となる補正量を算出し、基板211、213を積層する際の積層条件を決定する。
【0065】
ステップS160において、制御部400は、演算部420によって決定された積層条件に基づいて、積層倍率差を抑制するための対応処理を行う。制御部400は、対応処理として、たとえば、温調部を制御することにより基板ホルダ223の温度を調節して、基板213を熱膨張または熱収縮させる。ステップS170において、制御部400は、基板211を基板ホルダ221による保持から解放させて、基板211および基板213の結合を進行させる。基板211および基板213が全面において結合されて、積層体230が形成される。ステップS180において、積層体230は、第2搬送ロボット190によって積層装置500から搬出される。積層体230は、積層装置500から搬出された後、第1搬送ロボット160によって基板ケース140に収容される。
【0066】
上述した実施形態では、積層装置500は、基板や積層体の製造条件に関する情報として、接触領域の大きさの情報を用いて、積層倍率差(推定値)を推定する例について説明した。しかし、積層装置500は、基板の径方向の長さの変化量に影響する他のパラメータを用いて、積層倍率差を推定するようにしてもよい。この場合、積層装置500は、たとえば、通信部430を介して、外部の装置(例えば、活性化装置200、洗浄装置250、制御装置600)から基板211、213の製造条件に関する情報を取得する。また、記憶部440には、たとえば、基板211、213の製造条件と、積層による基板の径方向の長さの変化量に関連する値との対応関係が、予め実験などにより求められて記憶される。
【0067】
積層装置500は、積層時倍率差、積層倍率差を上述の推定値として用いる代わりに、基板211、213の位置ずれ量に関する他のパラメータを推定値として用いてもよい。たとえば、積層装置500は、基板211、213の各々の倍率の比を推定値として用いてもよいし、基板211、213の各々の倍率に対して重み付けを行い、それらの差や比を推定値として用いてもよい。この場合、記憶部440には、たとえば、基準条件で2つの基板を積層した場合における基板間の位置ずれ量に関する他のパラメータと、その位置ずれ量を低減するための条件との対応関係が記憶されている。
【0068】
上述した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)積層装置500は、第1基板および第2基板の少なくとも一方の厚み方向と交差する所定方向の長さが変化するように第1基板と第2基板とを積層して積層体を生成する積層部300と、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて、積層部300の積層条件を制御する制御部400と、を備える。本実施形態では、制御部400は、基板211、213の製造条件に関する情報として接触領域の大きさの情報を用いて積層条件を決定し、決定した積層条件に基づいて積層部300を制御する。たとえば、基板211、213を温度調節して伸縮量の差異を抑制するような制御を行う。このため、基板間の位置ずれを低減することができ、積層体の製造における歩留まりを向上させることができる。
【0069】
(2)積層装置500は、第1基板および第2基板の少なくとも一方の厚み方向と交差する所定方向の長さが変化するように第1基板と第2基板とを積層して積層体を生成する積層部300と、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部(通信部430)と、所定情報を用いて積層部300の積層による第1基板の所定方向の長さの変化量と、積層部300の積層による第2基板の所定方向の長さの変化量との差異に対応する推定値を推定する推定部(演算部420)と、推定値を用いて積層部300を制御する制御部400と、を備える。本実施形態では、演算部420は、通信部430等を介して取得した基板211、213の初期倍率および接触領域の大きさに基づいて、積層倍率差(推定値)を算出する。制御部400は、積層倍率差を用いて決定された積層条件に基づいて積層部300を制御する。このため、積層体の製造における歩留まりを向上させることができる。
【0070】
(3)積層装置500は、第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部300と、第1基板および第2基板の少なくとも一方を計測する計測部410と、計測部410が計測した計測値を用いて、積層部300の積層による第1基板の所定方向の長さの変化量と積層部300の積層による第2基板の所定方向の長さの変化量との差異に対応する推定値を推定する推定部(演算部420)と、推定値を用いて積層部300を制御する制御部400と、を備える。本実施形態では、計測部410を用いて基板の活性化状態を把握して、演算部420によって積層装置500における積層条件を定める。このような条件設定を行うことによって、積層体の製造における歩留まりを向上させることができる。
【0071】
(第2の実施形態)
図11および
図12を参照して、第2の実施形態に係る積層体製造システムについて説明する。第2の実施形態の積層体製造システムは、
図1に示した積層体製造システム100の構成と同様の構成を有する。なお、図中、第1の実施形態と同一もしくは相当部分には、同一の参照番号を付し、第1の実施形態との相違点を主に説明する。第1の実施形態では、接触領域の大きさに基づいて積層条件を決定する例について説明した。第2の実施形態では、接触領域の吸着力に基づいて積層条件を決定する例について説明する。
【0072】
図11は、第2の実施形態に係る積層装置500の積層条件の決定処理を説明するための図である。
図11(a)は、基板211、213の接触領域の吸着力と、基準条件で積層された場合の基板211に生じる倍率の変化量との関係を示している。
図11(a)において、横軸は接触領域の吸着力を示し、縦軸は基板211に生じる倍率の変化量を示している。接触領域の吸着力は、基板間の分子間力に相関する。分子間力が小さいと接触領域の吸着力、すなわち分子間力で接合された2つの基板同士の接合力が小さくなり、分子間力が大きいと接触領域の吸着力が大きくなる。接触領域の吸着力が小さいと基板211に生じる倍率の変化量が小さくなり、接触領域の吸着力が大きいと基板211に生じる倍率の変化量が大きくなる。
図11(a)に示したような接触領域の吸着力と倍率の変化量または倍率の変化量に基づく積層時倍率差との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。なお、基板211、213の接触領域の吸着力と積層時倍率差との関係は、
図11(a)と同様である。また、なお、基板211、213の接触領域の吸着力と基板213に生じる倍率の変化量との関係についても、
図11(a)と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0073】
計測部410は、基板211、213の接触領域の吸着力の計測を行う。制御部400は、接触領域の形成後、Z方向駆動部335によって下ステージ332を所定量下降させる。計測部410は、下ステージ332が所定量下降したときに、Z方向駆動部335の機械的または電気的な負荷を検出することによって、接触領域の吸着力を計測する、すなわち、2つの基板を引きはがす力を計測する。基板の引きはがし力の計測には、周知技術を用いることができる。たとえば、制御部400は、接触領域で接合された2つの基板を離すように下ステージ332を駆動する。このときの下ステージ332に作用する負荷を歪ゲージなどによるセンサで計測すればよい。
【0074】
接触領域の吸着力と倍率の変化量との対応関係や、接触領域の大きさと積層時倍率差との対応関係が記憶部440に記憶されているので、演算部420は、接触領域の吸着力が判れば、基板211の倍率の変化量および積層時倍率差を推定することができる。すなわち、本実施形態では、演算部420は、計測部410により計測された接触領域の吸着力を上述した計測値として取得する。なお、演算部420は、通信部430を介して活性化装置200から活性化条件の情報を取得し、その情報に基づいて接触領域の吸着力を推定するようにしてもよい。接触領域の吸着力の情報は、基板211、213の製造条件に含まれる活性化条件に関する情報の一つである。
【0075】
例えば、演算部420は、接触領域の吸着力、および記憶部440に記憶された接触領域の吸着力と倍率の変化量との対応関係に基づいて、積層過程で生じると推測される積層時倍率差を算出する。また、例えば、演算部420は、接触領域の吸着力、および接触領域の吸着力と積層時倍率差との対応関係に基づいて、積層時倍率差を算出するようにしてもよい。演算部420は、算出した積層時倍率差と基板211、213の初期倍率差に基づいて、積層倍率差(推定値)を推定する。
【0076】
図11(b)は、基板213の温度と基板211、213の積層倍率差との関係の一例を示している。なお、
図11(b)においては、基準値で接合したときの積層倍率差をゼロとしている。
図11(b)に示したような積層倍率差と基板213の温度との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。演算部420は、第1の実施形態の場合と同様に、推定した積層倍率差、および記憶部440に記憶された積層倍率差と基板213の温度との対応関係に基づいて、目標となる補正量に対応する積層条件を演算して決定する。
図11(b)に示す例では、演算部420は、積層条件として、基板213の温度条件を決定する。制御部400は、演算部420によって決定された積層条件に基づいて、基板211、213の積層を行わせる。制御部400は、積層処理により生じると推測される基板211、213の積層倍率差を、第1の実施形態の場合と同様に、基板213の温度調節によって補正する。この結果、積層後の基板間の位置ずれを抑制することができる。
【0077】
図12は、第2の実施形態に係る積層装置500の動作例を説明するためのフローチャートである。ステップS200において、基板211、213が積層装置500に搬入される。ステップS210において、積層装置500の制御部400は、顕微鏡324、334を用いて、基板211、213の各々のアライメントマークの相対位置を測定する。ステップS220において、制御部400は、アライメントマークの相対位置に基づいて、下ステージ332のX方向およびY方向の位置を調節する。
【0078】
ステップS230において、制御部400は、下ステージ332を上昇させ、基板211と基板213とを接触させて接触領域を形成させる。ステップS240において、制御部400は、計測部410によって基板211、213の接触領域の吸着力を計測させる。ステップS250において、積層装置500の演算部420は、接触領域の吸着力に基づいて、基板211、213を基準条件で積層した場合の積層倍率差を推定する。演算部420は、推定した積層倍率差に基づいて積層倍率差が所定の値以下となる補正量を算出し、算出した補正量に応じて基板211、213の積層条件を決定する。
【0079】
ステップS260において、制御部400は、積層条件に基づいて、積層倍率差を抑制するための対応処理を行う。制御部400は、対応処理として、たとえば基板213の温度調節を行う。ステップS270において、基板211が基板ホルダ221から解放されることで、基板211および基板213の結合が進行し、積層体230が形成される。ステップS280において、積層体230は、積層装置500から搬出された後、基板ケース140に収容される。
第2の実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
(第3の実施形態)
図13および
図14を参照して、第3の実施形態に係る積層体製造システムについて説明する。第3の実施形態の積層体製造システムは、
図1に示した積層体製造システム100の構成と同様の構成を有する。なお、図中、第1の実施形態と同一もしくは相当部分には、同一の参照番号を付し、第1の実施形態との相違点を主に説明する。第3の実施形態では、基板211の厚さに基づいて積層条件を決定する例について説明する。
【0081】
図13は、第3の実施形態に係る積層装置500の積層条件の決定処理を説明するための図である。
図13(a)は、基板211の厚さと基準条件で積層された場合の基板211に生じる倍率の変化量との関係を示している。
図13(a)において、横軸は基板211の厚さを示し、縦軸は基板211に生じる倍率の変化量を示している。上述したように解放された基板211は、ボンディングウェーブを生じつつ接合されていくが、基板211は径方向に歪む。このため、基板211の厚さが薄いと基板211に生じる倍率の変化量が大きくなり、基板211の厚さが厚いと基板211に生じる倍率の変化量が小さくなる傾向がある。
図13(a)に示したような基板211の厚さと倍率の変化量または倍率の変化量に基づく積層時倍率差との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。なお、基板211の厚さと積層時倍率差との関係は、
図13(a)と同様である。また、基板213の厚さと基板213に生じる倍率の変化量または積層時倍率差との関係も、
図13(a)と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0082】
演算部420は、積層処理の前のプロセスにおいて取得された基板211の厚さを示す情報を、通信部430を介して取得する。通信部430には、たとえば、研磨装置や露光装置により取得された基板211の厚さを示す情報が入力される。基板211の厚さと倍率の変化量との対応関係や、基板211の厚さと積層時倍率差との対応関係が記憶部440に記憶されているので、演算部420は、基板211の厚さが判れば、基板211の倍率の変化量および積層時倍率差を推定することができる。例えば、演算部420は、通信部430を介して取得した基板211の厚さ、および記憶部440に記憶された基板211の厚さと倍率の変化量との対応関係に基づいて、積層時倍率差を算出する。また、例えば、演算部420は、基板211の厚さ、および基板211の厚さと積層時倍率差との対応関係に基づいて、積層時倍率差を算出するようにしてもよい。演算部420は、算出した積層時倍率差と基板211、213の初期倍率差に基づいて、積層倍率差(推定値)を推定する。
【0083】
図13(b)は、基板213の温度と基板211、213の積層倍率差との関係の一例を示している。なお、
図13(b)においては、基準値で接合したときの積層倍率差をゼロとしている。
図13(b)に示したような積層倍率差と基板213の温度との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。演算部420は、第1の実施形態の場合と同様に、推定した積層倍率差、および記憶部440に記憶された積層倍率差と基板213の温度との対応関係に基づいて積層条件を決定する。
図13(b)に示す例では、演算部420は、積層条件として、基板213の温度条件を決定する。制御部400は、演算部420によって決定された積層条件に基づいて、基板211、213の積層を行わせる。制御部400は、積層処理により生じると推測される基板211、213の積層倍率差を、第1の実施形態の場合と同様に、基板213の温度調節によって補正する。この結果、積層後の基板間の位置ずれを抑制することができる。
【0084】
図14は、第3の実施形態に係る積層装置500の動作例を説明するためのフローチャートである。ステップS300において、基板211、213が、積層装置500に搬入される。ステップS310において、積層装置500の制御部400は、顕微鏡324、334を用いて基板211、213の各々のアライメントマークの相対位置を測定する。ステップS320において、制御部400は、アライメントマークの相対位置に基づいて、下ステージ332のX方向およびY方向の位置を調節する。
【0085】
ステップS330において、積層装置500の演算部420は、基板211の厚さに基づいて、基板211に生じると推測される倍率の変化量や積層時倍率差を算出し、基板211、213を基準条件で積層した場合の積層倍率差を推定する。ステップS340において、演算部420は、推定した積層倍率差に基づいて、目標となる補正量に対応した基板211、213の積層条件を決定する。ステップS350において、制御部400は、積層条件に基づいて、積層倍率差を抑制するための対応処理を行う。制御部400は、対応処理として、たとえば基板213の温度調節を行う。
【0086】
ステップS360において、制御部400は、下ステージ332を上昇させ、基板211と基板213とを接触させて接触領域を形成させる。ステップS370において、基板211が基板ホルダ221から解放されることで、基板211および基板213の結合が進行し、積層体230が形成される。ステップS380において、積層体230は、積層装置500から搬出された後、基板ケース140に収容される。
【0087】
第3の実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。第1および第2の実施形態では、基板を積層する際に基板計測を行って積層条件を定める例について説明した。第3の実施形態では、基板の厚みに基づき積層条件を定めた。したがって、積層処理に際して基板を計測する作業が不要である。たとえば、積層装置の前工程である露光工程において計測された基板厚みの情報を利用できるので、積層装置のタクトタイムが短縮できる利点がある。
【0088】
(第4の実施形態)
図15~
図17を参照して、第4の実施形態に係る積層体製造システムについて説明する。第4の実施形態の積層体製造システムは、
図1に示した積層体製造システム100の構成と同様の構成を有する。なお、図中、第1の実施形態と同一もしくは相当部分には、同一の参照番号を付し、第1の実施形態との相違点を主に説明する。第4の実施形態では、基板211、213の反り量の差に基づいて積層条件を決定する例について説明する。
【0089】
基板210(211、213)の反り量は、基板210の厚さ方向の変形量を示す値である。反り量は、基板210の厚さ方向の変形量に対して、重力のように基板210に作用する外力により生じた変形量の成分を差し引いた量であり、外力による変形量も含む撓み量とは区別される。
図15は、基板210の反り量を説明するための図であり、
図15では、基板210において回路パターンやアライメントマーク、電極等が形成された面を矢印で示している。回路パターン等が形成された基板210の面は、接合面となる。
図15(a)に示す例の場合、基板210は凸状に反っており、基板210の反り量はプラスの値となる。
図15(b)に示す例の場合、基板210は凹状に反っており、基板210の反り量はマイナスの値となる。基板211、213の反り量の差は、基板213の反り量-基板211の反り量と定義する。
【0090】
図16は、第4の実施形態に係る積層装置500の積層条件の決定処理を説明するための図である。
図16(a)は、基板211、213の反り量の差と基準条件で積層された場合の積層倍率差との関係の一例を示している。
図16(a)において、横軸は基板211、213の反り量の差を示し、縦軸は積層倍率差を示している。基板211、213の反り量の差が小さいと積層倍率差がマイナスの値となり、基板211、213の反り量の差が大きいと積層倍率差がプラスの値となる。
図16(a)に示したような基板211、213の反り量の差と積層倍率差との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。
【0091】
演算部420は、積層処理の前のプロセスにおいて測定された基板211、213の反り量を示す情報を、通信部430を介して取得する。通信部430には、たとえば、研磨装置や露光装置により取得された基板211、213の反り量を示す情報が入力される。基板211、213の反り量の差と積層倍率差との対応関係が記憶部440に記憶されているので、演算部420は、基板211、213の反り量の差が判れば、積層倍率差を推定することができる。演算部420は、通信部430を介して取得した基板211、213の反り量の差、および記憶部440に記憶された基板211、213の反り量の差と積層倍率差との対応関係に基づいて、積層倍率差(推定値)を推定する。
【0092】
図16(b)は、基板213の温度と基板211、213の積層倍率差との関係を示している。なお、
図16(b)においては、基準値で接合したときの積層倍率差をゼロとしている。
図16(b)に示したような積層倍率差と基板213の温度との対応関係は、記憶部440に予め記憶されている。演算部420は、第1の実施形態の場合と同様に、推定した積層倍率差に基づいて積層倍率差が所定の値以下となる補正量を算出し、推定した積層倍率差および記憶部440に記憶された積層倍率差と基板213の温度との対応関係に基づいて、補正量に対応する積層条件を決定する。制御部400は、演算部420によって決定された積層条件に基づいて、基板211、213の積層を行わせる。この結果、積層後の基板間の位置ずれを抑制することができる。
【0093】
図17は、第4の実施形態に係る積層装置500の動作例を説明するためのフローチャートである。ステップS400において、基板211、213が、積層装置500に搬入される。ステップS410において、積層装置500の制御部400は、顕微鏡324、334を用いて基板211、213の相対位置を測定する。ステップS420において、制御部400は、アライメントマークの相対位置に基づいて、下ステージ332のX方向およびY方向の位置を調節する。
【0094】
ステップS430において、積層装置500の演算部420は、基板211、213の反り量に基づいて、基板211、213を基準条件で積層した場合の積層倍率差を推定する。ステップS440において、演算部420は、推定した積層倍率差に基づいて、目標となる補正量に対応した基板211、213の積層条件を決定する。ステップS450において、制御部400は、積層条件に基づいて、積層倍率差を抑制するための対応処理を行う。制御部400は、対応処理として、たとえば基板213の温度調節を行う。
【0095】
ステップS460において、制御部400は、下ステージ332を上昇させ、基板211と基板213とを接触させて接触領域を形成させる。ステップS470において、基板211が基板ホルダ221から解放されることで、基板211および基板213の結合が進行し、積層体230が形成される。ステップS480において、積層体230は、積層装置500から搬出された後、基板ケース140に収容される。
第4の実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0096】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
【0097】
(変形例1)
上述した実施形態では、積層装置500は、積層条件として基板211、213の温度条件を決定し、基板211、213の温度を調整することによって、基板間の位置ずれを抑制する例について説明した。しかし、保持面の形状や曲率が異なる複数の基板ホルダを用意して、例えば
図9から
図17を用いて説明した方法で推定した積層倍率差に基づいて、積層条件として保持面の形状または保持面の曲率を決定し、演算部420により算出された補正量に対応した形状または曲率を有する基板ホルダを決定してもよい。基板ホルダは、基板211、213を変形させる変形部の一例である。この場合、積層倍率差と基板ホルダの形状又は曲率との関係、または、積層倍率差と複数の基板ホルダとの関係が予め記憶されており、積層倍率差が所定の値以下となる補正量に対応する形状または曲率の保持面を有する基板ホルダが決定される。積層装置500は、基板ホルダを変更することによって、基板213を変形させる変形量すなわち補正量を調整することができ、これにより、基板213の倍率を調整することができる。これにより、基板間の位置ずれを抑制することができる。なお、積層装置500は、積層倍率差に基づいて、基板211を保持させる基板ホルダを変更してもよい。
【0098】
(変形例2)
積層装置500において、上ステージ322および下ステージ332に、基板211、213を機械的に変形させる複数のアクチュエータ(たとえば圧電素子)のような駆動部を設けて、例えば
図9から
図17を用いて説明した方法で推定した積層倍率差に基づいて積層倍率差が所定の値以下となる補正量を演算部420が算出し、制御部400が、積層条件として、基板211、213の変形量、または、その変形量に対応する駆動部の駆動量を補正量に応じて決定してもよい。駆動部は、基板211、213を変形させる変形部の一例である。この場合、積層倍率差と駆動量との関係が予め記憶されており、積層倍率差が所定の値以下となる駆動量が設定される。積層装置500は、基板211、213の少なくとも一方を変形させて積層処理を行うことによって、基板間の位置ずれを抑制することができる。なお、積層装置500は、積層倍率差に基づいて、Z方向駆動部335を昇降させることによって、下ステージ332のZ方向の位置を調節するようにしてもよい。
【0099】
(変形例3)
積層装置500は、基板211、213を接合して積層体230を形成した後、積層体230を加熱処理および加圧処理してもよい。この場合、積層倍率差に基づいて、加熱処理の際の温度や加圧処理の際の圧力を調整するようにしてもよい。
【0100】
(変形例4)
上述した実施形態および変形例では、基板211を基板ホルダ221による保持から解放させて、基板211および基板213の結合を進行させる例について説明した。しかし、積層装置500は、下ステージ332において基板213を解放することにより、基板211、213の結合を進行させてもよい。この場合、積層装置500は、例えば、基板213に生じると推測される積層時倍率差を算出して、算出した積層時倍率差に基づいて積層条件を決定する。なお、積層装置500は、2つの基板211、213の両方を解放して、基板211、213の結合を進行させてもよい。
【0101】
(変形例5)
上述した実施形態および変形例では、活性化装置200としてプラズマ処理装置を用いる例について説明した。しかし、活性化装置200は、基板の表面をウェットエッチングすることによって活性化処理する構成であってもよい。活性化装置200としてイオン注入装置を用いてもよい。
【0102】
(変形例6)
本実施形態は次のような積層装置も含む。
第1基板の所定方向の長さの変化量は、積層部が第1基板と第2基板とを積層することにより生じる伸縮量、及び、第1基板を装置に載置したときに生じる伸縮量の少なくとも一方を含み、第2基板の所定方向の長さの変化量は、積層部が第1基板と第2基板とを積層することにより生じる伸縮量、及び、第2基板を装置に載置したときに生じる伸縮量の少なくとも一方を含む積層装置。基板を基板ホルダに載置したときに生じる基板の伸縮量は、積層倍率差に影響する。積層装置500は、計測部410等によって基板を基板ホルダに載置したときの倍率の変化量を計測し、倍率の変化量に基づき積層条件を決定する。
【0103】
(変形例7)
本実施形態は次のような積層装置も含む。
第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部と、積層部の積層による第1基板の所定方向の長さの変化量と、積層部の積層による第2基板の所定方向の長さの変化量との差異に対応する推定値が入力される入力部と、推定値を用いて積層部を制御する制御部と、を備える積層装置。この場合、積層装置500は、たとえば計測部410によって取得された接触領域の大きさを示す情報を含む製造条件に関する情報を、通信部430を介して外部の装置(たとえば制御装置600)に出力する。制御装置600は、例えば接触領域の大きさを示す情報を用いて推定値を推定する。推定値は、基板間の位置ずれ量、積層倍率差、および、それらが所定の値以下となる補正量のいずれかを含む。積層装置500は、通信部430を介して制御装置600から推定値を取得し、推定値に基づいて積層条件を決定して積層処理を行う。推定値が基板間の位置ずれ量または積層倍率差である場合は、積層装置500は、これらに基づいて補正量を算出してもよい。なお、外部の装置(たとえば制御装置600)は、接触領域の吸着力、基板の厚さ、2つの基板の反り量の差を示す情報等に基づいて推定値を推定して、積層装置500に入力するようにしてもよい。
【0104】
(変形例8)
本実施形態は次のような積層装置も含む。
第1基板と第2基板とを積層した積層体を生成する積層部と、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件に関する情報に基づいて決定された積層条件が入力される入力部と、を備える積層装置。積層部は、入力部に入力された積層条件で第1基板および第2基板を積層する。この場合、積層装置500は、例えば制御装置600、活性化装置200、および、露光装置のような外部の装置から、通信部430を介して積層条件の入力を受け、入力された積層条件に従って、基板211、213の積層を行う。
【0105】
(変形例9)
本実施形態は次のような活性化装置も含む。
第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、所定情報を用いて積層による第1基板の所定方向の長さの変化量と、積層による第2基板の所定方向の長さの変化量との差異に対応する推定値を推定する推定部と、推定値を積層装置に出力する出力部と、を備える活性化装置。この場合、活性化装置200は、入力部、推定部、および出力部を含んで構成される。入力部は、たとえば、積層装置500において計測された接触領域の大きさを示す情報を含む製造条件に関する情報を、通信部430を介して取得する。推定部は、例えば接触領域の大きさに基づき推定値を推定する。推定値は、基板間の位置ずれ量、積層倍率差、および、それらが所定の値以下となる補正量のいずれかを含む。出力部は、推定値を積層装置500に出力する。積層装置500は、活性化装置200によって推定された推定値に基づいて積層条件を決定して積層処理を行う。推定値が基板間の位置ずれ量または積層倍率差である場合は、積層装置500は、これらに基づいて補正量を算出してもよい。なお、活性化装置200は、入力部に入力された接触領域の吸着力、基板の厚さ、2つの基板の反り量の差を示す情報等に基づいて推定値を推定して、出力部から積層装置500に出力してもよい。
【0106】
(変形例10)
本実施形態は次のような制御装置も含む。
第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、所定情報を用いて積層による第1基板の所定方向の長さの変化量と、積層による第2基板の所定方向の長さの変化量との差異に対応する推定値を推定する推定部と、推定値を積層装置に出力する出力部と、を備える制御装置。この場合、制御装置600は、入力部、推定部、および出力部を含んで構成される。入力部は、たとえば、積層装置500において計測された接触領域の大きさを示す情報を含む製造条件に関する情報を、通信部430を介して取得する。推定部は、例えば接触領域の大きさに基づき推定値を推定する。推定値は、基板間の位置ずれ量、積層倍率差、および、それらが所定の値以下となる補正量のいずれかを含む。出力部は、推定値を積層装置500に出力する。積層装置500は、制御装置600によって推定された推定値に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件を決定して積層処理を行う。推定値が基板間の位置ずれ量または積層倍率差である場合は、積層装置500は、これらに基づいて補正量を算出してもよい。なお、制御装置600は、入力部に入力された接触領域の吸着力、基板の厚さ、2つの基板の反り量の差を示す情報等に基づいて推定値を推定して、出力部から積層装置500に出力してもよい。
【0107】
(変形例11)
本実施形態は次のような制御装置も含む。
第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つを計測した計測値、及び、第1基板、第2基板および積層体の少なくとも一つの製造条件の少なくとも一方である所定情報が入力される入力部と、所定情報に基づいて、積層装置で第1基板および第2基板を積層するときの積層条件を決定する決定部と、決定部で決定した積層条件を積層装置に出力する出力部と、を備える制御装置。この場合、制御装置600は、入力部、決定部および出力部を含んで構成される。入力部は、たとえば、積層装置500において計測された接触領域の大きさを示す情報を含む製造条件に関する情報を、通信部430を介して取得する。決定部は、例えば接触領域の大きさに基づき推定値を推定し、推定値に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件を決定する。推定値は、基板間の位置ずれ量、積層倍率差、および、それらが所定の値以下となる補正量のいずれかを含む。出力部は、決定した積層条件を積層装置500に出力する。積層装置500は、制御装置600によって決定された積層条件に基づいて積層処理を行う。
【0108】
(変形例12)
上述した第1~第4の実施形態では、接触領域の大きさ、接触領域の吸着力、基板の厚さ、2つの基板の反り量の差に基づいて、積層条件を決定する例について説明した。しかし、これらに限定されるものではなく、基板の径方向の長さの変化量に影響する他のパラメータに基づいて積層条件を決定してもよい。
【0109】
たとえば、下基板(基板213)を保持するステージまたはホルダが平坦であり、上基板(基板211)を下基板に接合する場合において、上基板が伸び、下基板が伸縮しない場合や、上基板が第1量だけ伸びた後に第1量より少ない第2量だけ収縮し、下基板が上基板の収縮の影響を受けて収縮する場合などがある。これらの収縮量は、積層倍率差と相関がある。たとえば、下基板を保持するステージまたはホルダが凸形状であり、上基板を下基板に接合する場合において、上基板が伸び、下基板が伸びる場合や、上基板が第3量だけ伸びた後に第3量より少ない第4量だけ収縮し、下基板が上基板の収縮の影響を受けて収縮する場合などがある。これらの収縮量は、積層倍率差と相関がある。
【0110】
このため、基板211、213の収縮量を計測または推測して、基板211、213の収縮量に基づいて基板211、213の伸縮量の差異を把握し、その差異が所定の値以下となるように補正量を算出し、算出した補正量に対応する積層条件を決定してもよい。なお、伸縮量の差異としては、伸縮量の差、伸縮量の比などを用いることができる。
【0111】
通信部430を介して積層処理の前の工程で計測された基板211、213の計測値や、基板211、213の製造条件に対応する所定情報を用いて、積層条件を決定してもよい。たとえば、エッチング処理等の工程における基板のエッチング処理時間や、洗浄装置250において洗浄および親水化処理の際に用いる薬液の種類、供給量、濃度などの基板211、213の製造条件に関する情報を、エッチング処理装置、洗浄装置250、および、親水化装置から通信部430で受信し、これらの情報に基づいて基板211、213間の位置ずれ量を算出し、位置ずれ量が所定の値以下となるように補正量を算出し、算出した補正量に対応する積層条件を決定してもよい。洗浄装置250においてスピン乾燥を行う場合は、乾燥気体の種類、供給量、供給時間等の基板211、213の製造条件に関する情報を、洗浄装置250から通信部430で受信し、これらの情報に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件を決定してもよい。活性化装置200において活性化処理の際にガス導入口202から導入するガスのガス圧、平行電極間に印加する高周波電圧の電圧値、プラズマ処理時間、基板の温度等の基板211、213の製造条件に関する情報を活性化装置200から通信部430で受信し、これらの情報に基づき、積層条件を決定してもよい。これらは、積層前の処理により基板表面の活性化状態が変動して上述した分子間力に影響することを想定して積層条件を決定するものである。基板211、213の製造条件には、基板211、213を積層装置500に搬入する前に処理する上記した各種処理装置すなわち積層装置500とは別の外部の処理装置における処理条件を含む。
【0112】
(変形例13)
図18は、基板211、213の接合の境界Kで生じる現象を説明する図である。基板ホルダ223の吸着面に吸着された基板213と、他の基板211との接合が進行する過程で、境界Kの直近では、活性化された基板211、213の接合面が分子間力等により相互に引きつけ合って接合が進行する。
【0113】
より詳しくは、基板211は、基板ホルダ221による保持から解放される前から、
図6(b)中に点線Cで示したような基板211、213の接触領域を形成し、既に基板213に部分的に接合されている。このため、基板ホルダ221による保持から解放された基板211は、接触領域に隣接する領域において、基板211自体の剛性により基板ホルダ221から離れて、対向する基板213に自律的に接合しようとする。よって、基板211の下面には、境界Kを含む領域において倍率が拡大される変形を生じる力Pが作用する。
【0114】
一方、基板211の基板213に対する接近は、当初は離れていた基板211、213の間に存在する大気の粘性により妨げられ、基板211、213が接合するまでに時間を要する。このため、基板211、213相互の間に作用する分子間力により、基板213に対して、吸着している基板ホルダ223から引き剥がし、且つ、境界Kを含む領域において倍率が拡大する基板211と共に倍率が拡大する力Qが作用する。
更に、境界Kにおいて基板ホルダ223から引き剥がされた基板213は、境界Kから離れた領域では依然として基板ホルダ223に吸着されている。このため、境界Kにおいて、基板213の未だ接合されていない領域を引き寄せる力Rが作用して、基板213に皺状の屈曲をなす褶曲部239が生じる。
【0115】
基板213に褶曲部239が生じた場合、基板213の上面では、倍率が大きくなる変形が生じる。ここで、
図19(a)に示すように、基板ホルダ223が基板213を保持する保持力が大きければ、基板213に生じる皺状の変形である褶曲部239の曲率が小さいので、基板213における倍率の増加は少ない。一方、
図19(b)に示すように、基板ホルダ223が基板213を保持する保持力が小さければ、基板213に生じる褶曲部239の曲率が大きくなるので、基板213における倍率の増加も大きくなる。
【0116】
基板211、213に生じる倍率を含む変形量の変化には、基板211、213の剛性、大気の粘性、基板213と基板ホルダ223との摩擦、基板213および基板ホルダ223の保持面に対する付着物の多寡、基板211、213の活性化度合、および、基板211、213間の分子間力の大きさ等の物理特性が影響する。また、ここでいう物理特性には、基板211、213の厚さ、初期倍率等の他、反り等の変形状態、付着物多寡等のいわば使用状態も含む。
【0117】
また、これらの物理特性による基板211、213への作用は、積層装置500内の大気の温度、気圧、湿度、気体の種類等の環境条件により変化する。基板211、213の物理特性は、基板211、213の製造条件に関する情報に含まれ、積層装置500の環境条件は、積層体230の製造条件に関する情報に含まれる。よって、これらの物理特性および環境条件と積層条件との関係を予め記憶しておき、測定した物理特性または環境条件に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件を設定し、接合する基板213を補正すれば、物理特性および環境条件の変化に起因する倍率のばらつきを抑制できる。
【0118】
更に、上記したように、基板213の倍率は、基板213に作用する保持力に応じて変化する。このため、積層装置500は、積層条件として、基板ホルダによる基板の保持力を決定してもよい。具体的には、保持力は、静電チャックによって基板の保持を行う場合は、印加電圧を調整することにより制御可能であり、真空チャックによって基板の保持を行う場合には、負圧源の圧力を調整することにより制御可能である。静電チャックへの印加電圧および真空チャックの圧力源の圧力は、それぞれ積層条件に含まれる。この場合、積層倍率差と保持力との関係、または、積層倍率差と印加電圧または圧力との関係を予め記憶しておき、制御部は、例えば
図9から
図17を用いて説明した方法で推定した積層倍率差に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件を決定する。
【0119】
ここで、基板213に作用する保持力は、基板213に作用させる吸引力を発生する負圧の大きさと、基板213および基板ホルダ223の摩擦力の大きさと関連性を有する。よって、基板213を保持する場合の吸引力と、基板213および基板ホルダの間の摩擦力との少なくとも一方を変化させることにより、基板213に対する保持力を変化させることができる。なお、基板211、213の接合時に生じる変形量に影響する物理特性および接合時の環境条件は、実験、解析等により予め把握できる。また、基板211、213に対する付着物の量は計測し難いので、例えば、基板ホルダ221、223の使用回数に基づいて推定した基板ホルダ221、223に対する付着物の量から推測してもよい。
【0120】
なお、上記の例では、基板213に対する吸引力を生じさせる負圧を変化させて、基板213に作用する保持力を調節した。しかしながら、基板213と基板ホルダ223との間の摩擦を変化させても、基板213に作用する保持力を調節することができる。
【0121】
よって、例えば、保持面の摩擦係数が異なる複数の基板ホルダ223を用意し、目標とする補正量に合わせて使用する基板ホルダ223を交換することにより、基板213の接合時に変形量を調節してもよい。保持面の摩擦係数は積層条件に含まれる。また、基板213において基板ホルダ223に接触する面に、摩擦係数を変化させるものを塗布あるいは付着させてもよい。更に、吸引力の変更による保持力の調節と、摩擦力の調節とを併用してもよい。この場合、製造条件に関する情報または積層倍率差と、保持面の摩擦係数との関係が予め記憶されており、実際の製造条件または積層倍率差に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件が設定される。
【0122】
また、上記した環境条件を積層条件として、製造条件に関する情報または当該情報に基づいて推定された積層倍率差に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように環境条件を設定してもよい。
【0123】
積層装置500内の気体の種類は、粘性が高くなるに従って、積層時に保持が解除された基板211に生じる倍率が大きくなる。これは、積層時に基板211、213間の気体を押し出すために大きな力が必要となり、基板211の変形が大きくなるためと考えられる。このため、粘性が異なる気体の種類を変更することにより、基板211に生じる倍率を調整することができ、二つの基板211、213間の倍率差による位置ずれを補正することができる。
【0124】
また、積層装置500内の気圧が高くなるに従って、積層時に保持が解除された基板211に生じる倍率が大きくなる。これは、気圧が高いと分子の量が多いため、二つの基板211、213間の気体を押し出すために大きな力が必要になるためと考えられる。このため、気圧を調節することにより基板211に生じる倍率を調整することができ、二つの基板211、213間の倍率差による位置ずれを補正することができる。
【0125】
また、積層装置500内の湿度が高くなるに従って、積層時に保持が解除された基板211に生じる倍率が大きくなる。これは、湿度が大きいと気体の粘性が上がるためと考えられる。このため、湿度を調節することにより基板211に生じる倍率を調整することができ、二つの基板211、213間の倍率差による位置ずれを補正することができる。
【0126】
上記のいずれの環境条件においても、製造条件に関する情報または発生倍率と、環境条件との関係が予め記憶されており、実際の製造条件または発生倍率に基づいて、積層倍率差が所定の値以下となるように環境条件が設定される。
【0127】
上記では、種々の実施形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0128】
上記では、それぞれ基板211、213がそれぞれ基板ホルダ221、223に保持された例を示したが、基板ホルダ221、223を不要とし、基板211を上ステージ322に直接保持し、基板223を下ステージ332に直接保持してもよい。この場合、上ステージ322および下ステージ332は、それぞれ基板211、213を保持する保持部を構成する。
【0129】
また、上記では、積層倍率差が所定の値以下となるように積層条件を設定した例を示したが、基板間の位置ずれの成分のうち積層倍率差以外の成分の値が所定の値以下となるように積層条件を設定してもよく、位置ずれ全体が所定の値以下となるように積層条件を設定してもよい。
【0130】
また、上記では、基板211、213および積層体230のいずれか一つの製造条件に関する情報に基づいて、基板211、213に生じると推定される位置ずれを補正する補正量を決定した例を示したが、基板211、213および積層体230のいずれか一つの製造条件に関する情報に基づいて、その後に積層される二つの基板に生じると推定される位置ずれを補正する補正量を算出してもよい。この場合、上記した各実施形態と同様に、位置ずれ量の推定、補正量の算出、および、積層条件の制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0131】
100…積層体製造システム、210…基板、200…活性化装置、230…積層体、250…洗浄装置、300…積層部、400…制御部、410…計測部、420…演算部、430…通信部、500…積層装置、600…制御装置