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特許7127291電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途
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  • 特許-電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/50 20100101AFI20220823BHJP
   C01G 45/02 20060101ALI20220823BHJP
   C25B 1/21 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01M4/50
C01G45/02
C25B1/21
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018022056
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019139960
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井手 望水
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-257928(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157181(WO,A1)
【文献】特開2017-179583(JP,A)
【文献】特開2009-289728(JP,A)
【文献】特開平07-057732(JP,A)
【文献】特開昭60-255626(JP,A)
【文献】特開昭57-000848(JP,A)
【文献】特開2006-108083(JP,A)
【文献】特開2009-117246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/50
C01G 45/02
C25B 1/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線を光源とするXRD測定における(110)面の半値幅が1.4°以上2.5°以下で、240℃での重量減少から算出する構造水量が1.4wt%以上2.1wt%以下で、炭素重量分率が0.02wt%以上1.0wt%以下であることを特徴とする電解二酸化マンガン。
【請求項2】
マンガン塩水溶液中の電解により二酸化マンガンを製造する方法であって、カチオン性界面活性剤を電解液中に混合(ただし、炭素材料(アセチレンブラック、ケッチンブラック)を電解液に混合するものを除く)し、98℃以下で電析することを特徴とする請求項1に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項3】
前記カチオン性界面活性剤が、アルキルアミン、アルキルアミン塩及び第四級アンモニウム塩のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項4】
前記カチオン性界面活性剤が、炭素の総数が20個以上であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性界面活性剤が、炭素数17以上のアルキル基を1個以上含むことを特徴とする請求項2~請求項4のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の電解二酸化マンガンを含むことを特徴とする電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項6に記載の電池用正極活物質を含むことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池、例えばマンガン乾電池等、特にアルカリマンガン乾電池やリチウムイオン一次電池において、正極活物質として使用される電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンは、たとえばマンガン乾電池またはアルカリマンガン乾電池の正極活物質として知られており、保存性に優れ、且つ安価であるという利点を有する。特に、二酸化マンガンを正極活物質として用いるアルカリマンガン乾電池は、重負荷での放電特性に優れていることから電子カメラ、携帯用テープレコーダー、携帯情報機器、さらにはゲーム機や玩具にまで幅広く使用され、近年急速にその需要が伸びてきている。
【0003】
しかし、アルカリマンガン乾電池は、放電電流が大きくなるに従い正極活物質である二酸化マンガンの利用率が低下し、また放電電圧が低下した状態では使用できないため、実質的な放電容量が大きく損なわれるという課題があった。すなわち、大電流を使用(ハイレート放電)する機器にアルカリマンガン乾電池を用いると、充填されている正極活物質である二酸化マンガンが十分に活用されず、使用可能な時間が短いという欠点を有していた。
【0004】
そこで短時間に大電流を取り出すハイレート間欠放電条件においても、高容量、長寿命を発現できる優れた二酸化マンガン、所謂ハイレート放電特性に優れた二酸化マンガンが望まれていた。
【0005】
これまで、ハイレート放電特性改善のため、(110)面の半価幅が小さい電解二酸化マンガンを製造することが検討されてきた(特許文献1、2)。
【0006】
しかしながら、電解二酸化マンガンの(110)面の半価幅を小さくするためには電解時の電流密度を小さくする必要があり、生産性が低いという問題があった。
【0007】
カチオン性界面活性剤を電解液中に混合して電解二酸化マンガンを製造することも検討されているが(非特許文献1)、電解時の温度が100℃以上と高温である事から半価幅を小さくする効果は見られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-135067号公報
【文献】特開2017-179583号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Journal of Power Sources、141(2005)、p.340-350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、(110)面の半価幅が小さく、構造水量が少なく全体に対する二酸化マンガンの含有量が多く、結晶構造が含有界面活性剤の炭素分により維持され、ハイレート放電特性に優れる電解二酸化マンガンと、これを高い生産性で得られる製造方法及びその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用される二酸化マンガンの製造方法について鋭意検討を重ねた結果、カチオン系界面活性剤を電解液中に混合して98℃以下で電解することにより(110)面の半価幅が小さく、かつ、構造水量が少なく全体に対する二酸化マンガンの含有量が多く、結晶構造が含有界面活性剤の炭素分により維持される電解二酸化マンガンを得られることを見出し、さらにこれを生産性の高い高電流密度で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、CuKα線を光源とするXRD測定における(110)面の半値幅が1.4°以上2.5°以下で、240℃での重量減少から算出する構造水量が1.4wt%以上2.1wt%以下で、炭素重量分率が0.02wt%以上1.0wt%以下である電解二酸化マンガン、カチオン性界面活性剤を電解液中に混合し、98℃以下で電析する電解二酸化マンガンの製造方法である。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の電解二酸化マンガンは、CuKα線を光源とするXRD測定における(110)面の半値幅が1.4°以上2.5°以下である。CuKα線を光源とするXRD測定における(110)面の半値幅が2.5°を超える場合は結晶性が十分ではなく、1.4°未満であると結晶性が高くなりすぎて、[H+]拡散に有効な構造欠陥等の水酸基が減少するため、放電性能が低下すると推測される。この半値幅は1.5°以上2.5°以下が好ましい。
【0014】
本発明の電解二酸化マンガンは、240℃での重量減少から算出する構造水量が1.4wt%以上2.1wt%以下である。240℃での重量減少から算出する構造水量が1.4wt%未満の場合は、[H+]拡散に有効な構造欠陥等の水酸基が減少し、放電性能が低下すると推測される。2.1wt%を超える場合は、全体に対する二酸化マンガンの含有率が減少し、放電性能が低下することが推測される。この構造水量は1.45wt%以上2.05wt%以下が好ましい。
【0015】
本発明の電解二酸化マンガンは、炭素重量分率が0.02wt%以上1.0wt%以下である。炭素重量分率が0.02wt%未満の場合は、カチオン性界面活性剤等の炭素分により維持された二酸化マンガンの結晶性が十分でなくなり、放電性能が低下する。1.0wt%を超える場合は、全体に対する二酸化マンガンの含有率が減少し、放電性能が低下する。炭素重量分率は0.3wt%以上0.9wt%以下が好ましい。
【0016】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電解工程において、電解液中にカチオン性界面活性剤を添加するものである。
【0017】
本発明におけるカチオン性界面活性剤は特に限定はないが、例えば、アルキルアミン、アルキルアミン塩及び第四級アンモニウム塩のうちの少なくとも1種等があげられる。アルキルアミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、メチルオクチルアミン、メチルデシルアミン、メチルテトラデシルアミン、メチルヘキサデシルアミン、メチルオクタデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン等が例示でき、アルキルアミン塩としては、例えば、オクチルアミン塩酸塩、デシルアミン塩酸塩、テトラデシルアミン塩酸塩、ヘキサデシルアミン塩酸塩、オクタデシルアミン塩酸塩等が例示でき、第四級アンモニウム塩としては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドコシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドコシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドコシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラオクチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヒドロキシド等が例示できる。
【0018】
この場合のカチオン性界面活性剤の炭素の総数は20個以上であることが好ましい。ここに、炭素の総数の20個以上のものとしては、例えば、ジメチルオクタデシルアミン、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドコシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドコシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドコシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラオクチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヒドロキシド等があげられる。また、炭素数17以上のアルキル基を1個以上含むことが好ましい。ここに、炭素数17以上のアルキル基を1個以上含むものとしては、例えば、ジメチルオクタデシルアミン、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドコシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドコシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドコシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヒドロキシド等があげられる。
【0019】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電析時の温度が98℃以下である。温度を98℃以下としてカチオン性界面活性剤を添加して電析することにより、(110)面の半値幅が小さい電解二酸化マンガンを得ることができる。電解温度は、電流効率を維持することで製造効率を維持し、電解液の蒸発を抑制して、加熱コストの増加を防止し、カチオン性界面活性剤の半値幅を小さくする効果を得るため、90℃以上98℃以下で行うことが好ましい。電解温度は電流効率と加熱コストの観点から、93℃以上97℃以下がより好ましく、95℃以上97℃未満がさらに好ましい。
【0020】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法では、電解電流密度は特に制限はないが、生産性を向上させ、かつ、電極基盤への腐食ダメージをより防止するため、0.2A/dm以上1.5A/dm未満であることが好ましい。生産性と安定生産の観点から、電解電流密度は0.29A/dm以上1.4A/dm以下であることがより好ましく、0.29A/dm以上1.35A/dm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
電解槽内の電解液はマンガン塩水溶液を用いることができる。マンガン塩に特に制限はないが、例えば、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン等が例示できる。電解液には酸を混合することができ、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等が例示できる。以降、硫酸-硫酸マンガン混合溶液を例として記載するが、特にこれに限定されるものではない。なお、ここでいう硫酸濃度とは、硫酸マンガンの硫酸イオンは除いた値である。電解液中の硫酸は、硫酸濃度として制御され特に限定はないが、例えば、10~75g/Lが例示できる。電解期間中の硫酸濃度を一定にすることができるし、電解期間中に硫酸濃度を任意に変えることもでき、特に、電解終了時の硫酸濃度を電解開始時の硫酸濃度よりも高く制御することもできる。
【0022】
この場合の電解期間中又は電解開始時の硫酸濃度としては、10g/L以上65g/L以下が好ましく、13g/L以上60g/L以下がより好ましい。また、電解終了時の硫酸濃度としては、15g/L以上75g/L以下が好ましく、18g/L以上70g/L以下がより好ましい。このように硫酸濃度を任意に変えることにより、前半に比較的低濃度の硫酸濃度で電解することで、電極基材への腐食ダメージを軽減し、結晶性が高く高充填性の二酸化マンガンを得やすく、後半に比較的高濃度の硫酸濃度で電解することにより、既に電解二酸化マンガン析出層に覆われているため電極基材がより腐食ダメージを受け難く、さらに前半の特徴に加え更に電位が高まり、ハイレート特性に優れた電解二酸化マンガンが得られ易くなる。また、電解開始から電解終了まで電解中の硫酸濃度を徐々に変化させるのではなく、電解の前半と後半で硫酸濃度を切替えることが好ましい。前半の電解と、後半の電解の比率に制限はないが、例えば低硫酸濃度と高硫酸濃度での電解時間の比が1:9~9:1、特に3:7~7:3の範囲が好ましい。
【0023】
電解槽に供給される補給硫酸マンガン液中のマンガンイオン濃度に限定はないが、例えば、10~75g/Lが例示できる。
【0024】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電解で得られた電解二酸化マンガンを粉砕するものである。粉砕には、例えば、ローラーミル、ジェットミル等が使用できる。ローラーミルとしては、例えば、遠心式ローラーミル、竪型のロッシェミル等が挙げられる。ローラーミルのうち、コストや耐久性に優れ、工業的な使用に適しているため、マイクロビッカース硬度が400HV(JIS Z 2244)以上の硬度を有する原料を粉砕可能で、20kW以上150kW以下のミルモーターを有するローラーミルが好ましい。
【0025】
粉砕については1段とすることで本発明の粒度構成を低コストで得ることができる。
【0026】
また、粉砕した電解二酸化マンガンに、最頻粒径がより小さい電解二酸化マンガンを混合することにより、最頻粒径、粒度分布幅をコントロールして所望の粒度構成とすることもできる。最頻粒径がより小さい二酸化マンガンの混合量は粉砕した電解二酸化マンガンの重量を上回らない量を混合し、トータルの重量%で10重量%以上40重量%以下が好ましい。混合の方法は乾式での混合がコスト的に好ましく、湿式での混合は混合スラリーのpHを2.5以上6.5以下とすることで、1μm以下の微粒子をより大きい粒子の表面に凝集させやすくより好ましい。また、粒度構成のコントロールは粉砕後の分級によりその粒度構成を調整してもよく、乾式での気流分級や湿式での分散分級により、粒度構成や1μm以下の微粒子の量や凝集状態を調整することもできる。
【0027】
本発明の電解二酸化マンガンをアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用する方法には特に制限はなく、周知の方法で添加物と混合して正極合剤として用いることができる。例えば、電解二酸化マンガンに導電性を付与するためのカーボン、電解液等を加えた混合粉末を調製し、円盤状またはリング状に加圧成型した粉末成型体として電池正極とすることができる。
【0028】
本発明の電解二酸化マンガンは、高結晶性と低い構造水量から、高性能かつ保存特性が良好な正極材料として、電池、特にアルカリマンガン乾電池やリチウムイオン一次電池の正極活物質として好適に使用することができる。
【0029】
アルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用する方法には特に制限はなく、周知の方法で添加物と混合して用いることができる。例えば、電解二酸化マンガンに導電性を付与するためにカーボン等を加えた混合粉末を調製し、これを円盤状またはリング状に加圧成型した粉末成型体として電池正極とすることができる。
【0030】
リチウムイオン一次電池の正極活物質として使用する場合は、特に制限はなく周知の方法で添加物と混合して用いることができる。例えば、前処理として焼成を行い、導電助剤としてカーボン等、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン等を加えた混合粉末を調製し、その混合粉末を集電体に結着、または前記混合粉末を溶媒に分散させスラリーとし、塗布、乾燥、その後加圧成形することで電池正極とすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の電解二酸化マンガンは、2θが22±1°付近の回折線の半価全幅(FWHM)が小さく、240℃での重量減少から算出する構造水量が少なく、全体に対する二酸化マンガンの含有量が多く、結晶構造が含有界面活性剤の炭素分により維持され、アルカリマンガン乾電池やリチウムイオン一次電池の正極活物質、アルカリ電池の正極材料として用いた場合にハイレート放電特性に優れることが期待される電解二酸化マンガンであり、本発明の電解二酸化マンガンの製造方法では前記電解二酸化マンガンを生産性の高い高電流密度で生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1のSEM画像(×1,000)である。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
<XRD測定における(110)面の半価全幅(FWHM)の測定>
電解二酸化マンガンの2θが22±1°付近の回折線の半価全幅(FWHM)は、X線回折装置(Ultima IV、リガク製)を使用して測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5418 Å)を用い、測定モードはスキャンスピード4.00deg./min、ステップ幅0.040deg.、および測定範囲は2θとして10°から90°の範囲で測定した。
【0035】
<構造水量の測定>
電解二酸化マンガンの240℃での重量減少から算出する構造水量は、熱重量分析装置(TG/DTA6300、セイコーインスツルメンツ製)を使用し、240℃、12時間保持の際の重量減少量から、110℃、16時間保持の際の重量減少量を減じ、これを600℃、1時間保持した際の重量で除し、百分率で表した。
【0036】
<炭素重量分率の測定>
電解二酸化マンガンの炭素重量分率は、炭素・硫黄分析装置(LECO CS844、LECO製)を用いて燃焼-赤外線吸収法で測定した。
【0037】
<BET比表面積の測定>
電解二酸化マンガンのBET比表面積は、BET1点法の窒素吸着により測定した。測定装置にはガス吸着式比表面積測定装置(フローソーブIII,島津製作所製)を用いた。測定に先立ち、150℃で40分間加熱することで測定試料を脱気処理した。
【0038】
実施例1
電流密度を1.0A/dm、電解温度を97℃、電解補給液をマンガン濃度39.0g/lの硫酸マンガン液とし、硫酸濃度が20.0g/lとし、トリメチルステアリルアンモニウムクロリドを100mg/Lとなるように添加し、17日間電解した。電解後の電解二酸化マンガンは、粉砕、洗浄後、スラリーのpHが5.3~5.7となるように中和した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。また、実施例1のSEM画像(1,000倍)を図1に示す。100℃以上でカチオン性界面活性剤を添加した場合と明らかに異なり、緻密な粒子形状を示している。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例2
トリメチルステアリルアンモニウムクロリドを200mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例1と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0042】
実施例3
トリメチルステアリルアンモニウムクロリドを50mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例1と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0043】
実施例4
電流密度を0.55A/dm、電解温度を96℃、電解補給液をマンガン濃度48.0g/Lの硫酸マンガン液とし、硫酸濃度が35.3g/Lとしたこと以外は実施例1と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0044】
実施例5
トリメチルステアリルアンモニウムクロリドを200mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0045】
実施例6
トリメチルステアリルアンモニウムクロリドを50mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0046】
実施例7
硫酸濃度を45.3g/Lとしたこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0047】
実施例8
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを100mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0048】
実施例9
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを400mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例8と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0049】
実施例10
ドコシルトリメチルアンモニウムサルフェートを100mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0050】
実施例11
ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリドを100mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0051】
比較例1
界面活性剤を添加していないこと以外は実施例1と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0052】
比較例2
界面活性剤を添加していないこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0053】
比較例3
アニオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを100mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0054】
比較例4
両性界面活性剤であるN-ドデシルベタインを100mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0055】
比較例5
ノニオン性ポリエチレングリコールモノステアレート(n=25)を100mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例4と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0056】
比較例6
界面活性剤を添加せず、電流密度を0.34A/dm、電解温度を97℃としたこと以外は実施例7と同様の方法で電解・後処理を実施した。製造条件を表1に、結果を表2に示した。
【0057】
表1、2の実施例1~3と比較例1の比較、及び実施例4~11と比較例2の比較から、カチオン性界面活性剤を電解液中に混合し、98℃以下で電析することにより界面活性剤を混合しない場合よりも(110)面の半価幅が小さい電解二酸化マンガンが得られることが分かった。また、実施例7と比較例6の比較から、カチオン性界面活性剤を混合して電析することにより、高い電流密度、すなわち高い生産性で(110)面の半値幅が小さい電解二酸化マンガンが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の電解二酸化マンガンは、高結晶性と低い構造水量であるため、高性能かつ保存特性が良好な正極材料として、電池、特にアルカリマンガン乾電池やリチウムイオン一次電池の正極活物質として好適に使用することができ、本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、高い放電特性、特にハイレート放電特性に優れることが期待されるアルカリマンガン乾電池やリチウムイオン一次電池の正極活物質を生産性の高い高電流密度で製造することができる。
図1