(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】コモンモードチョーク
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20220823BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20220823BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20220823BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01F37/00 N
H01F17/06 A
H01F17/06 D
H01F17/06 K
H01F27/32 150
H01F41/12 A
(21)【出願番号】P 2018053862
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片山 靖久
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-160522(JP,A)
【文献】特開平07-230915(JP,A)
【文献】特開平10-074631(JP,A)
【文献】特表2016-514387(JP,A)
【文献】特開2017-152548(JP,A)
【文献】特開2012-056118(JP,A)
【文献】特開2006-031959(JP,A)
【文献】特開2016-096316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H01F 41/12
H01F 27/32
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の磁心と、前記磁心を覆う環状のケースと、前記ケースの中空部を2本のバスバーが貫通するコモンモードチョークであって、
前記バスバーは、中腹部に樹脂部を備え、かつ、前記ケースの軸方向に見た場合に、一端側は、前記ケースの中空部より外側まで屈曲し、他端側は中空部の内側にあり、
前記樹脂部は、前記ケースの軸方向において、一端側で前記ケースより突出する鍔部を有し、前記鍔部により前記ケースの端部で係止され、他端側で前記ケースの端部まで伸長しており、
前記樹脂部は、平面状の接触部を備え、
第1のバスバーの樹脂部と、第2のバスバーの樹脂部とは、前記平面状の接触部同士を対向させ、互いに隣接して前記ケース内に収納され、
前記2本のバスバーは、屈曲した側が前記ケースの軸方向のそれぞれ別側に配置されるように、前記ケースに貫通され、かつ、
それぞれの前記樹脂部を介して前記中空部内で並列に配置されるとともに、
前記樹脂部により、前記軸方向の所定位置で、前記ケースに係止されて
おり、
前記バスバーの最も広い平面部は、前記樹脂部の接触部の平面と平行となっている、ことを特徴とするコモンモードチョーク。
【請求項2】
前記ケースの軸方向において、前記樹脂部の端部は、他の樹脂部の端部と異なる位置にあることを特徴とする請求項
1に記載のコモンモードチョーク。
【請求項3】
それぞれの前記樹脂部は、前記中空部内で互いに隣接した状態で、前記ケース内周面に接していることを特徴とする請求項1
または2に記載のコモンモードチョーク。
【請求項4】
前記樹脂部とケースは、前記の接する部分において、前記バスバーの抜け落ちを防止可能な嵌合部が形成されていることを特徴とする請求項
3に記載のコモンモードチョーク。
【請求項5】
前記環状の磁心は、周方向で一体的に形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれかに記載のコモンモードチョーク。
【請求項6】
前記磁心とケースは、軸方向に複数配置されることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれかに記載のコモンモードチョーク。
【請求項7】
前記樹脂部は、バスバーの中腹部にインジェクション成型されたものであることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれかに記載のコモンモードチョーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の磁心と、この磁心を覆う環状のケースと、このケースの中空部を複数の導体が貫通する、コモンモードチョークに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動ではインバータなどの電力変換器を使用して電力変換することでモータ駆動の省エネが進められている。電力変換器は、パワー半導体をスイッチングすることで電力を変換するが、半導体のスイッチングからノイズが発生するという問題がある。ノイズにはコモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズがある。特にコモンモードノイズによる漏れ電流は他の機器への影響を及ぼすため対策が重要となる。
コモンモードノイズの対策としてコモンモードチョークが用いられる。コモンモードチョークは、ナノ結晶軟磁性材料やMn-Znフェライト等の高透磁率の環状の磁心が採用されている。コモンモードチョークとして、環状の磁心を電源配線に直接取り付けるタイプがある。
【0003】
電源配線として、車載などの大電流が流れるインバータ等では、バスバーと呼ばれる断面が矩形の導体(銅板)が用いられることがある。複数のバスバーを用いる場合、バスバー同士の間にも電圧がかかるため、バスバーの間の絶縁性を確保するための工夫が設けられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、導体貫通型磁心ユニットを用いたノイズフィルターに関する技術が開示される。詳細には、特許文献1は、磁性材料により形成され、その内周側にバスバーが貫通する環状の磁心と、導電性材料により形成され、両端側にそれぞれ端子部が形成されているとともに、その中央側の少なくとも一部が平板状に形成され、前記中空部を互いに所定の間隔を存して板厚方向に積層された状態で貫通する複数のバスバーと、樹脂材料で形成され、前記磁心および前記バスバーを、前記端子部を露出した状態で一体にモールドするモールド部材と、を備えることを特徴とするフィルター付き端子台が開示されている。
特許文献1に記載されたバスバーは、環状の磁心の中空部に通すことができる程度に、3本中2本が屈曲され、この2本のバスバーが蛇行されながら磁心に通された後、中央の直線状のバスバーが挿入され、その後、それぞれのバスバー間に絶縁ボビンが挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のノイズフィルターは、バスバーの両端側が屈曲したものを用いている。この理由は、それぞれのバスバーが直線状であると、バスバーの端部が同じスペースに配置されやすくなり、バスバーの端部と外部の電気回路の外部導体とを、ボルト等で結合するスペースが十分に取れないため、バスバーを屈曲させて、両者の結合スペースを確保するためである。
【0007】
しかし、導体貫通型のコモンモードチョークは、組み立てが容易なものが求められる。もし環状の磁心が軸方向に長いものである場合、バスバーの両端を屈曲させてしまうと、バスバーを磁心の中空部に貫通させることができない。バスバーを細くして弾力性を持たせ、磁心を貫通させやすくする手段も考えられるが、バスバーの断面積が小さくなるので、大きな電流を流す用途では採用できない。
環状の磁心にバスバーを貫通させる他の方法として、周方向で分割可能な環状の磁心、例えば断面がU字状の複数の軟磁性部材からなる磁心を使用し、バスバーの中腹部を覆うように軟磁性部材を組み合わせる方法がある。しかし、この方法は、合金薄帯を巻いた巻磁心のような、周方向に一体の磁心を用いる場合には、磁心を分割することが難しい。また分割した場合には、磁気的なギャップが生じてインピーダンス特性が低下するという問題がある。
【0008】
また、外部導体との結合を確実に行うために、バスバーの端部は、磁心に対して所定の位置になるように位置決めされる。
【0009】
つまり、コモンモードチョークは、磁心へのバスバー貫通と、バスバー端部の位置決めを考慮し、かつ、極力簡易な組立てで両方の作業を行える構造が望ましい。しかし、従来の導体貫通型磁心ユニットでは、その作業性を両立させることは非常に困難である。
【0010】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、磁心へのバスバーの貫通、及び、磁心へのバスバー端部の位置決めが容易な、コモンモードチョークを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、環状の磁心と、前記磁心を覆う環状のケースと、前記ケースの中空部を2本のバスバーが貫通するコモンモードチョークであって、
前記バスバーは、中腹部に樹脂部を備え、かつ、前記ケースの軸方向に見た場合に、一端側は、前記ケースの中空部より外側まで屈曲し、他端側は中空部の内側にあり、
前記2本のバスバーは、屈曲した側が前記ケースのそれぞれ別側に配置されるように、前記ケースに貫通され、かつ、それぞれの前記樹脂部を介して前記中空部内で並列に配置されるとともに、前記樹脂部により、前記軸方向の所定位置で、前記ケースに係止されていることを特徴とする。
また、前記バスバーは、前記樹脂部に形成された鍔部により、前記ケースの端部で係止されている構造とすることができる。
また、前記ケースの軸方向において、前記樹脂部の端部は、他の樹脂部の端部と異なる位置にある構造とすることができる。
また、それぞれの前記樹脂部は、前記中空部内で互いに隣接した状態で、前記ケース内周面に接している構造とすることができる。
また、前記樹脂部とケースは、前記の接する部分において、前記バスバーの抜け落ちを防止可能な嵌合部が形成されている構造とすることができる。
また、環状の磁心は、周方向で一体的に形成されたものを用いることができる。
また、前記磁心とケースは、軸方向に複数配置される構造とすることができる。
また、前記樹脂部は、バスバーの中腹部にインジェクション成型されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明のコモンモードチョークは、簡易な組立てで、環状の磁心へのバスバー貫通と、バスバーの固定を、簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態のコモンモードチョークの一例である。
【
図2】
図1のコモンモードチョークの、ケースと樹脂部を組み合わせた状態を示す図である。
【
図3】
図1のコモンモードチョークの、樹脂部を示す図である。
【
図4】実施形態のコモンモードチョークのケースの蓋部を示す図である。
【
図5】実施形態のコモンモードチョークのケースの底部を示す図である。
【
図8】別の実施形態での、ケースと樹脂部を組み合わせた状態を示す図である。
【
図11】さらに別の実施形態での、ケースと樹脂部を組み合わせた状態を示す図である。
【
図13】実施形態のコモンモードチョークにおける、樹脂部の端部の状態を説明するための図である。
【
図14】別の実施形態のコモンモードチョークの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態のコモンモードチョークについて説明する。
図1は本実施形態のコモンモードチョーク10であり、
図1(a)は正面図、
図1(b)は下側面図、
図1(c)は左側面図である。
このコモンモードチョーク10は、環状の磁心(図示せず)を覆う環状のケース3a,3bを備え、前記ケース3a,3bの中空部を2本のバスバー1a,1bが貫通する。
また、前記バスバー1a,1bは、中腹部に樹脂部(ボビン)2a,2bを備え、かつ、前記ケース3a,3bの軸方向に見た場合に、一端側(
図1(a)のバスバー1aの左側端部、及び、バスバー1bの右側端部)は、前記ケースの中空部より外側まで屈曲し、他端側は中空部の内側にあり、(
図1(c)を参照)
前記2本のバスバー1a,1bは、屈曲した側が前記ケース3a,3bの軸方向のそれぞれ別側に配置されるように、前記ケースに貫通され(
図1(a)のバスバー1aの左側端部、及び、バスバー1bの右側端部)、かつ、それぞれの前記樹脂部(ボビン)2a,2bを介して前記中空部内で並列に配置されるとともに、前記樹脂部(具体的には、後述
図3のボビンの鍔21)により、前記軸方向の所定位置で、前記ケースに係止されている。
バスバーの他端側がケースの中空部を貫通可能な形状であるので、他端側から中空部に挿入すれば、簡単に磁心内部にバスバーを貫通させることができる。
また、バスバーの屈曲した側がケースの軸方向のそれぞれ別側に配置されるので、バスバーの端部と外部導体とを結合することが容易である。
さらに、バスバーの中腹部に樹脂部を設けているので、2本のバスバーが樹脂部を介して中空部内に配置されるので、バスバー同士を離して配置することができ、絶縁効果を高めることができる。樹脂は絶縁性の高いものを用いることが好ましい。
また、樹脂部により軸方向の所定位置でケースに係止するので、バスバーを貫通させつつ、軸方向でのバスバーの位置決めが容易である。
また、環状の磁心は環状のケースに覆われるので、外部からの衝撃等による磁心の破損を抑制できる。
【0015】
バスバー1a,1bは、樹脂部(ボビン)2a,2bの一端側に形成された鍔部(
図3の21)により、前記ケース(3a,3b)の端部で係止されている。
かかる構成によれば、鍔部とケースが接触しているかどうかを目視で確認すれば、バスバーが軸方向において目標位置にあることが確認できるので、組立作業が容易である。
また、鍔部がバスバーの屈曲する一端側に形成されているので、バスバーの他端側をケースに挿入してそのまま押し込むワンアクションで、鍔部がケースの端部に当接し、ケースとバスバーの位置決めが完了するので、位置決めの作業が容易である。
また、樹脂部の中空部内を通さない部位に鍔部を設けるので、鍔部の設計が容易である。
【0016】
ケースの軸方向において、ボビン2a又は2bの端部は、他のボビン2b又は2aの端部と異なる位置にある構造とすることができる。かかる構成によれば、バスバー間の沿面距離を長くすることができる。沿面距離とは、2つの導電性部分間の、双方を隔てる絶縁物の表面に沿って計測した最短距離である。この沿面距離は、導体間の絶縁性を示す指標として用いられる。以下にその理由を詳述する。
図13は、
図1のケースの端部部分の模式図である。説明のため、ボビン2aが存在する範囲を太線の斜線部で、ボビン2bが存在する範囲を細線の斜線部で示す。また、各部の寸法は、
図1と変えた部位がある。
ボビン2aと2bの端部が同じ位置にある場合、沿面距離は、バスバー1a,1b間の空間距離と同じ距離W1である。例えば、ボビンの端部を、バスバーの長手方向に垂直な方向とせず、斜めにすることでも沿面距離を長くできるが、ボビンの形状が複雑になり成形が難しくなる。特に、バスバー同士の距離が2mm以下になるコモンモードチョークの場合、バスバーで挟まれる側の樹脂部の肉厚は1mm以下となるので、複雑な形状に成形することは困難である。
上記のように、ボビンの端部の位置を変えることで、屈折する太線の矢印の間の長さを沿面距離とすることができ、バスバー1a,1b間の空間距離W1よりも遥かに長い沿面距離を確保することができる。これにより、バスバー間の絶縁性を高めることができる。
【0017】
それぞれの樹脂部(ボビン)2a,2bは、中空部内で互いに隣接した状態で、ケース(3a,3b)内周面に接している構造とすることができる。
コモンモードチョークは、それぞれの導体に流れる電流により、磁心に流れる磁束が極力打ち消されるような、ディファレンシャルモードを維持できる構造とする必要がある。かかる構成によれば、それぞれの樹脂部がケース内周面に接することで、ケースの軸に垂直な方向に対して固定されるので、バスバーがケース内部で位置決めされる。これにより、それぞれのバスバーが、磁心に対して一定の距離を保つように中空部で位置が固定され、バスバーの位置の変動によって磁心で発生する磁束量の変化を極力小さくでき、その結果、ディファレンシャルモードを維持できる。
【0018】
樹脂部(ボビン)2a,2bとケース3a,3bは、両者が接する部分において、バスバーの抜け落ちを防止可能な嵌合部(具体的には、
図9の溝25等)が形成されている構造とすることができる。
かかる構成によれば、バスバーをケースの中空部に挿入した後も、軸方向での位置ずれが抑制できるので、さらに確実にバスバーの端部と外部導体との結合スペースを確保できる。
【0019】
また、環状の磁心(
図6の4)は、周方向で一体的に形成されたものを用いることができる。
本発明のコモンモードチョークは、かかる構成を採用しているので、周方向で分割した磁心を用いずとも、バスバーの貫通及び位置決めが容易であるので、環状の磁心を切断加工等により分割せずとも、そのまま使用することができる。
【0020】
また、前記樹脂部(ボビン)2a,2bは、バスバー1a,1bの中腹部にインジェクション成型されたものを用いることができる。
インジェクション成型は成形の自由度が大きく、前記の鍔部や嵌合部の成形が容易である。また、成形される鍔部や嵌合部の寸法精度も高くできる。そのため、より確実にケースとバスバーの位置決めを行うことができる。
【0021】
次に本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
(実施例)
図1は、本発明に係るコモンモードチョーク10の外観を示す図である。
コモンモードチョーク10は、環状の磁心2個(図示せず)と、それぞれの環状の磁心を覆う環状のケース3a,3bと、2本のバスバー1a,1bと、バスバー同士、及び、バスバー1aとケース3a、3bを絶縁するボビン2aと、バスバー同士、及び、バスバー1bとケース3a、3bを絶縁するボビン2bからなる。
【0022】
バスバー1a,1bは、同じ形状に形成されている。
図7は、バスバーを示す図であり、
図7(a)はバスバーの正面図、
図7(b)はその側面図である。バスバー1a,1bの断面は矩形状である。また、両端に外部導体とボルトで接続するための孔11が形成されている。また、中央には、樹脂部がインジェクション成型される直線状の中腹部が形成され、両端部は樹脂部が形成されず導体が露出している。一端側は屈曲部12で曲げられており、
図7(a)での縦方向での最大幅(中腹部での長手方向の直角方向における最大幅)は、後述するケースの中空部の直径よりも大きい。また、他端側は、直線状に形成されている。
バスバーの材質は、導電率 96%以上の銅である。また、バスバーの断面積S(mm
2)は、使用する電流容量(A)を、電流密度(A/mm
2)で割ったもので決定できる。電流密度は、例えば、JIS規格8480で複数にランク分けされた電流容量に対する値が決められている。バスバーの断面積とともに、磁心のサイズが決定される。
【0023】
ボビン2a,2bは、同じ形状に形成されており、バスバー1a,1bの中腹部に固着される樹脂部材である。本実施形態ではインジェクション成型により樹脂部材を成形した。但し
図3は、説明のために、ボビン単体の状態を記載した。
図3はボビン2aの斜視図であり、
図3(a)はボビンを斜め上から見た図であり、
図3(b)は
図3(a)と反対の方向から見た図である。ボビン2a,2bは、半円柱状であり、円弧状の外周面23と平面状の接触部24を備える。
また、ボビン2a,2bは、バスバーが固定される貫通孔22を有する。ボビン2a,2bはバスバーの中腹部を覆うので、バスバー1a,1bは、ケースの中空部に配置された状態で絶縁状態を維持できる。また、一方のボビンに亀裂が入ったとしても、他方のボビンで絶縁状態を維持することができる。
ボビンの材質は、例えば熱可塑性樹脂(例 PBT樹脂 PET樹脂)等を用いることができ、必要によりガラス繊維を含ませて機械的強度を高めたものも使用できる。
さらに、ボビン2a,2bは、一端側に鍔21が形成されている。鍔21は、半円の板状にバスバーの貫通孔が形成されたものであり、この半円はケースの中空部よりも大きな径を有する。この鍔は、ボビンを、ケースに対して、軸方向の所定位置に固定する役目を持つ。この鍔21の形状は特に限定されず、最大幅がケースの中空部の径よりも大きければよい。
ボビン2a,2bは、平面状の接触部24同士を対向させ、互いに隣接することで、円柱状になる。なお、ボビン2a,2bの鍔がそれぞれ異なる端部側になるようにボビン2a,2bが中空部内で隣接される。
【0024】
なお、バスバー1a,1bの最も広い平面部は、ボビン2a,2bの接触部24の平面と平行になるように、ボビン内に固定される。そのため、ボビン2a,2bの接触部24同士を対向させ、互いに隣接させることで、バスバー1aと1bが平行になるので、磁心の軸断面上において、内径部でのバスバー1a,1bの占める面積割合を大きくでき、つまりは中空部におけるバスバーの電流が通る有効断面積を大きくすることができる。そのため、このバスバーおよびボビンは、大電流化の対応が容易なコモンモードチョークの製造に貢献できる。
また、バスバーは、その両端がボビンから突出するように固定される。バスバーの一端側に形成される屈曲部は、ボビンの鍔が備えられた側に配置される。
かかる構成により、バスバー1a,1bの直線状の端部をケースの内径部に挿入するだけで、磁心にバスバーを貫通させることができる。また、ボビンの鍔がケースに係止するので、ボビンをケースに挿入するだけでバスバーと磁心とを軸方向の所定位置で固定できる。
【0025】
環状のケースについて説明する。
図4はケースの蓋部31、
図5はケースの底部32の斜視図である。図中、破線はケース内部の輪郭を示している。また、図番から伸びる線において、先端側に黒丸がある細線は、ケース内部の部位を指している。
ケースの蓋部31は、蓋側中空部311が形成されている。また、内部には、環状の磁心の一部を収納可能な、ドーナツ状の蓋溝312が形成され、その開口部側(図面下側)には、底部32と組み合わせるための段差313が形成されている。
また、ケースの底部32は、底側中空部321が形成されている。また、内部には、環状の磁心の一部を収納可能な、ドーナツ状の底溝322が形成され、その開口部側(図面上側)には、蓋部31と組み合わせるための段差323が形成されている。
【0026】
ケース3は、蓋部31と底部32を組み合わせたものであり、外観は円環状である。組み合わされたケース3は、内径側に、円柱状の中空部が形成される。この中空部は、ボビン2a,2bを互いに隣接させた状態で挿入可能であり、かつ、内周面とボビン2a,2bの外周面23とが摺動可能となるように、径の寸法が設定される。
【0027】
ケースの材質は、例えば熱可塑性樹脂(例 PBT樹脂 PET樹脂)等を用いることができ、必要によりガラス繊維を含ませて機械的強度を高めたものも使用できる。
なお、本実施形態のコモンモードチョークでは、磁心を内包したケースを、同軸で2つ繋げて使用している。
【0028】
環状の磁心について説明する。
図6は、磁心4の斜視図である。磁心4は円環状に形成されている。
この磁心は、既知の軟磁性材料で作製できる。例えば、フェライト材を粉末成形して作製することもできるし、アモルファス金属薄帯やナノ結晶金属薄帯を巻いて作製することもできる。
本実施形態では、ナノ結晶化が可能なアモルファス金属薄帯(厚さ25μm)を巻いて積層体とし、結晶化開始温度以上に加熱してナノ結晶化した磁心を用いている。
この磁心4は、前記のケース底部32の底溝322、及び、ケース蓋部31の蓋溝312で形成される空間に収納される。磁心4がケース内部で動かないようにすることで、ケースに樹脂部を介して固定されるバスバーとの距離を固定できる。この距離を固定するため、ケース内の空間と磁心4が勘合するように設計することができる。また、磁心4とケースとは接着剤等で固定することもできる。
【0029】
バスバーの固定方法について、さらに詳述する。
バスバー1aはボビン2aを介して、バスバー1bはボビン2bを介して、ケース3a、3bに固定される。
図2は、ボビン2a,2bと、磁心を内包したケース3a,3bを組み合わせた上体を示す斜視図である。図中では、ケース内のボビンの外観は破線で示している。
ボビン2a,2bは、軸方向に並べられたケース3a,3bの中空部に挿入される。ボビン2aは、ケースの中空部に、軸方向の一端側から、鍔が無い方の端部から挿入され、鍔21がケースの軸方向端部に当接するまで挿入される。鍔21により、ボビン2aは、軸方向の所定位置で、ケースに係止される。ボビン2aが挿入された後、ケースの他端側から、ボビン2bが、鍔が無い方の端部から挿入される。
ボビン2aと2bは、平面部同士を対向させて隣接することで円柱状となるが、その外周面はケース3a,3bの中空部の内周面と摺動する程度に設計されている。そのため、挿入されたボビン2a,2bは、軸方向だけでなく、軸断面上でも、磁心に対して位置が固定される。
【0030】
図13は、
図1の、ケース端部側の拡大図である。本実施形態のコモンモードチョークは、ケースの軸方向において、樹脂部の端部2a又は2bは、他の樹脂部2b又は2aの端部と異なる位置にあるので、両者の間で段差がある。これにより、沿面距離が長くなり、バスバー間の絶縁性が高めらる。
また、この段差は、バスバーをケースに係止するための鍔部21で形成できるので、簡易な構成で、バスバーの固定と沿面距離の長距離化を行うことができる。
【0031】
以下に、別の本実施形態について説明する。なお、上記の説明と重複する構造については省略することがある。
【0032】
図8~10は、樹脂部とケースの接する部分において、バスバーの抜け落ちを防止可能な嵌合部が形成されている実施形態を示す図である。
磁心は
図6に、バスバーは
図7に示すものを用いることができる。
図10は、この実施形態に用いられるケース底部32cの上面図と側面図である。
図5の底部32cに対し、凸部324が中空部321の内周面に形成されている点で異なり、それ以外は同じである。
図9は、この実施形態に用いられるボビンである。
図3のボビン1a,1bに対し、溝部25が形成されている点で異なり、それ以外は同じである。溝部25は、外周面23に形成され、ケースの底部32cの凸部324の高さよりも若干深く形成されている。溝部25は、鍔部21が形成されていない側の端部から軸方向に向けて伸びる1本の直線溝と、その周方向に伸びる2本の周溝からなる。2本の周溝は、それぞれ、ケースに鍔部21が係止した状態で、底部32cの凸部324が形成された位置にある。
【0033】
ボビン(バスバー)とケースの軸方向の位置決め方法、及び、バスバーの抜け落ちを防止する嵌合方法について、
図8を用いて説明する。
ボビンはバスバーに固着されているので、ボビンがケースから抜け落ちなければ、同様にバスバーの抜け落ちも無い。
ボビン2c,2dは、ケース3c、3dの凸部324が、溝部25と摺動するように、中空部に挿入される。ボビン2cは、ケースの中空部に、軸方向の一端側から、鍔が無い方の端部から挿入され、鍔21がケースの軸方向端部に当接するまで挿入される。鍔21により、ボビン2cは、軸方向の所定位置で、ケースに係止される。ボビン2cが挿入された後、ケースの他端側から、ボビン2dが、鍔が無い方の端部から挿入される。
挿入されたボビン2c,2dは、ケース3c、3dに対して、相対的に回転される。これにより、ケースの凸部324は、溝部25の直線溝から周溝に移動する。この状態にすることで、ケースの凸部324が周溝の軸方向の壁面に係止され、ボビン2c,2dとケース3c、3dが嵌合する。かかる構成は、
図3のボビンの効果に加え、ボビンやバスバーの抜け落ちを防止する効果がある。
【0034】
また、その他の実施形態として、ボビンの鍔部21を無くし、ケースの凸部324と溝部25の終端の壁部を係止させて、ケースとボビンの軸方向の位置決めを行う構成も採用できる。
かかる構成によれば、溝部だけで、ケースとボビンの軸方向の位置決めと、バスバーの抜け落ちの防止が可能であり、ボビンの鍔部を無くせるので、軽量化が可能である。また、形状が簡略化されるのでボビンの製造が容易である。
なお、この実施形態においても、ケースの軸方向において、樹脂部の端部が、他の樹脂部の端部と異なる位置にあるように設計することで、沿面距離を長くすることができる。
【0035】
図11、
図12は、さらに別の実施形態を示す図であり、ボビンの断面形状が異なるものである。
磁心は、
図6に示すものを用いることができる。バスバーは
図7に、ケースは
図4の蓋部と
図10の底部に示すものを用いることができる。
図12は、この実施形態に用いられるボビンである。
図9のボビン2c,2dに対し、外周面23の一部が、側壁26となっている点で異なり、それ以外は同じである。軸方向の位置決め方法、及び、バスバーの抜け落ちを防止する嵌合方法も、
図8での説明と同じである。
図12のボビン1e,1fは、ケース3c、3dの中空部内で互いに隣接した状態で、外周面23がケース内周面に接しているが、側壁26は接していない。かかる構成によれば、
図9のボビン1c,1dの効果に加え、貫通孔22の側面の肉厚が薄くなり、軽量化、及び材料費の低減の効果がある。
【0036】
なお、この実施形態においても、ボビンの鍔部21を無くし、ケースの凸部324と溝部25の終端の壁部を係止させて、ケースとボビンの軸方向の位置決めを行う構成も採用できる。
なお、この実施形態においても、ケースの軸方向において、樹脂部の端部が、他の樹脂部の端部と異なる位置にあるように設計することで、沿面距離を長くすることができる。
【0037】
図14、
図15は、さらに別の実施形態を示す図であり、
図1のコモンモードチョークに対して、バスバーの形状が異なるものである。軸方向の位置決め方法、及び、バスバーの抜け落ちを防止する嵌合方法も、
図1での説明と同じである。
図15は、この実施形態に用いられるバスバーである。
図7のバスバー1a,1bは、屈曲部12の先端側と中央側とも、同一面内になるように形成されているのに対し、
図12のバスバーは、屈曲部12の位置で、折り曲げられるように形成されている。かかる構成によれば、
図15のバスバーは、屈曲部を折り曲げるだけで形成することができ、製造が容易である。
【符号の説明】
【0038】
1:バスバー、2:ボビン、3:ボビン(樹脂部)、4:磁心、10:コモンモードチョーク、11:孔(バスバー)、12:屈曲部(バスバー)、21:鍔部(ボビン)、22:貫通孔(ボビン)、23:外周面(ボビン)、24:接触部(ボビン)、25:溝部(ボビン)、26:側壁(ボビン)、31蓋部(ケース)、32:底部(ケース)、311、321:中空部(ケース)、312:蓋溝、322:底溝、313:段差、324:凸部