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特許7127375曲面に印刷層を有するカバーガラスおよびその印刷方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】曲面に印刷層を有するカバーガラスおよびその印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20220823BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20220823BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20220823BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20220823BHJP
   C03C 17/22 20060101ALI20220823BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220823BHJP
   B41F 23/04 20060101ALI20220823BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220823BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220823BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B05D7/00 E
C03C17/34 A
C03C17/34 Z
C03C17/38
C03C17/32 B
C03C17/22
C03C21/00 101
B41F23/04 A
B41J2/01 121
B41J2/01 125
B41J2/01 501
B05D7/00 K
B05D7/24 301M
B05D7/24 301R
B32B17/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018113014
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019214024
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英伸
【審査官】磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256060(JP,A)
【文献】特開2017-001902(JP,A)
【文献】特開2017-213881(JP,A)
【文献】国際公開第2017/127734(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175743(WO,A1)
【文献】特開2009-151212(JP,A)
【文献】特開2015-176046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
B41F 21/00-30/06
B41J 2/01
B41J 2/165-2/20
B41J 2/21-2/215
C03C 15/00-23/00
G02B 5/20-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面領域を有するガラスに印刷層を形成する印刷層の形成方法であって、
前記曲面領域に熱硬化性の第1のインクを印刷して第1の印刷層を形成する印刷工程と、
前記第1の印刷層を乾燥する乾燥工程と、
前記第1の印刷層に第2のインクを印刷して第2の印刷層を形成する印刷工程と、
前記乾燥工程の後に、前記第1の印刷層を熱硬化する硬化工程と、を有し、
前記ガラスがカバーガラスである、印刷層の形成方法。
【請求項2】
前記第1の印刷層は赤外線透過層であり、前記第2の印刷層は光遮蔽層である、請求項に記載の印刷層の形成方法。
【請求項3】
前記第2のインクは熱硬化性のインクである、請求項に記載の印刷層の形成方法。
【請求項4】
前記第1のインクは光透過性を有するインクである、請求項1に記載の印刷層の形成方法。
【請求項5】
前記第2のインクは光遮蔽性を有するインクである、請求項に記載の印刷層の形成方法。
【請求項6】
前記乾燥工程はランプヒータによって行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の印刷層の形成方法。
【請求項7】
前記硬化工程は、乾燥炉内で行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の印刷層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は曲面に印刷層を形成したカバーガラスおよびその印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報量が増大する中で高機能ディスプレイのニーズが高まっており、携帯電話機向け、携帯タブレット向け、車載ディスプレイ向け等に平坦な主面を有するカバーガラスが多く開発されている。一方で、曲面を有するディスプレイ等のカバーガラスの需要も高まっている。しかし、そのような曲面を有するカバーガラスは平坦なガラスと比較して成形や強化が難しく、さらに印刷層形成後の色ムラにより外観品質が不十分といった問題を有する。
【0003】
曲面を有するカバーガラスであっても、カバーガラス全体にわたって色ムラが生じない範囲に膜厚を制御することにより、外観品質に優れたカバーガラスを提供することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-234056
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、曲面を有するカバーガラスに複数の印刷層を形成する場合、曲面に印刷されたインクの厚さが曲面の傾斜に沿って変化するため、カバーガラスと第1の印刷層の界面の反射光と、第1の印刷層と第2の印刷層の界面の反射光との膜界面で光の干渉が生じた結果、色ムラが発生することを見出した。
【0006】
特許文献1は、インク剥離性のガラス板とガラス製凸版を同時に使用し、両者のうち少なくとも一方に湾曲可能な薄板状ガラスを用いた印刷方法を開示する。特許文献1の印刷方法によれば、インク剥離性のガラス板上に残されたインキを予備乾燥によって半乾燥状態とし、加熱処理を施すことなくパターン除去や被転写基材への転写が可能となる。しかしながら、この予備乾燥工程は、曲面を有するガラスにインクを塗布し、乾燥することによってインクの厚さが曲面の傾斜に沿って変化することを想定しない。
【0007】
耐候性に優れたカバーガラスを作成する場合、光に反応しにくい熱硬化性のインクを適用するために、インクが硬化するまでに一定の時間が必要となる。そこでインクに対して新たに乾燥工程を追加することで、インクを印刷した後の単曲あるいは複曲ガラス端部のインクの厚さを一定に保つことができ、外観品質に優れたカバーガラスを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
外表面に取り付けられるカバーガラスに印刷層を形成する場合がある。この印刷層には耐候性が要求されるので、耐候性の観点から光硬化性ではなく、熱硬化性のインクを用いて印刷を行うことが好ましい。しかし、熱硬化性のインクを用いた場合、光硬化性のインクを用いた場合と異なり、印刷後速やかに紫外線等で硬化することができない。曲面を有するカバーガラスに印刷されたインクは曲面の傾斜に沿って厚さが変化するため、曲面では、平坦領域に対してインクが薄く印刷される傾向がある。
【0009】
カバーガラスに印刷層を複数形成する場合、インクが薄く印刷される曲面部では、本来の厚さで印刷される平坦部と比較して、ガラス内に入射する入射光の反射位置が変化する。すなわち、カバーガラスと第1の印刷層の界面の反射光と、第1の印刷層と第2の印刷層の界面の反射光が干渉して色ムラが生じ、外観品質が悪くなる。
【0010】
本発明者は、カバーガラスの曲面に熱硬化性のインクを印刷して印刷領域を形成する印刷工程と、印刷領域を乾燥して第1の印刷層を形成する乾燥工程と、さらに第1の印刷層を熱硬化する硬化工程を実施した後に第2の印刷層を形成することで、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.曲面領域を有するガラスに印刷層を形成する印刷層の形成方法であって、
前記曲面領域に熱硬化性の第1のインクを印刷して第1の印刷層を形成する印刷工程と、
前記印刷層を乾燥する乾燥工程と、を有する印刷層の形成方法。
2.前記乾燥工程の後に、前記第1の印刷層を熱硬化する硬化工程を有する、前記1に記載の印刷層の形成方法。
3.前記第1の印刷層に第2のインクを印刷して第2の印刷層を形成する印刷工程と、を有する前記1または2に記載の印刷層の形成方法。
4.前記第2のインクは熱硬化性のインクである、前記1~3のいずれか1に記載の印刷層の形成方法。
5.前記第1のインクは光透過性を有するインクである、前記1~4のいずれか1に記載の印刷層の形成方法。
6.前記第2のインクは光遮蔽性を有するインクである、前記1~4のいずれか1に記載の印刷層の形成方法。
7.前記乾燥工程はランプヒータによって行われる、前記1~6のいずれか1に記載の印刷層の形成方法。
8.前記硬化工程は、乾燥炉内で行われる、前記1~7の印刷層の形成方法。
9.前記ガラスはカバーガラスである、前記1~8の印刷層の形成方法。
10.熱硬化性の第1のインクによって印刷層が形成された曲面領域を有するガラスであって、
前記印刷層は前記曲面領域に形成され、
前記印刷層は第1の印刷層と第2の印刷層を有し、
前記第1の印刷層と前記第2の印刷層は異なる可視光透過率を有し、
前記第1の印刷層は前記第2の印刷層よりも可視光透過率が高く、
前記第1の印刷層の膜厚は、前記曲面領域で一定もしくは色ムラが生じない範囲である、ガラス。
11.前記第1の印刷層の可視光透過率が1%以下である、前記10に記載のガラス。
12.前記第2の印刷層の可視光透過率が0.01%以下である、前記10に記載のガラス。
13.前記ガラスは、化学強化ガラスである、前記10に記載のガラス。
14.前記ガラスは複曲ガラスである、前記10に記載のガラス。
15.前記ガラスは、前記印刷層が形成された面の反対側の面に、反射防止膜が形成された、前記9~14のいずれか1に記載のガラス。
【発明の効果】
【0012】
本発明の印刷層の形成方法によって、曲面を有するカバーガラスであっても、色ムラが生じない、外観品質に優れたカバーガラスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】視認領域に曲面領域を有するカバーガラスの斜視図である。
図1b】視認領域が平坦であるカバーガラスの斜視図である。
図2a】従来の印刷層形成工程を模したフローチャートである。
図2b】本発明の印刷層形成工程を模したフローチャートである。
図3a】曲面領域を有する従来のカバーガラスの一実施形態に係る正面図である。
図3b】前記一実施形態の正面図の拡大図である。
図4a】曲面領域を有する本発明のカバーガラスの一実施形態に係る正面図である。
図4b】前記一実施形態の正面図の拡大図である。
図5】カバーガラスをなすガラス板状体の厚みを説明するための図である。
図6】複数の曲面領域を有する本発明の一実施形態に係る斜視図である。
図7】平坦領域に印刷層を形成したカバーガラスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の用語の定義は本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「平坦領域」とは、平均曲率半径が10000mm超である部分を意味する。
「曲面領域」とは、平均曲率半径が10000mm以下である部分を意味する。
【0015】
<カバーガラス>
本発明のカバーガラスについて、図1aおよび図1bを参照して説明する。
図1aは、本実施形態のカバーガラス10を説明するための図である。図1aに示すように、本実施形態のカバーガラス10は、第1面11と、第1面11に対向する第2面12と、第1面11と第2面12を接続する端面13を有するガラス板状体10aからなる。カバーガラス10は印刷層を有し、本明細書におけるガラス板状体10aとは、端面13の厚さに比べて、第1面11および第2面12の長手方向、あるいは短手方向の長さが大きい板状体であることを意味する。さらに本実施形態のカバーガラス10は曲面領域を有するため、平板状の板ガラスを意味するものではない。
【0016】
ガラス板状体10aの2つの主面のうち、いずれの主面を第1面もしくは第2面とするかは特に限定しないが、自動車用内装部品やディスプレイ装置等のカバーガラスとして使用する場合、外部に露出する側の面、すなわち、表示面となる側の面をガラス板状体10aの第1面とする。従って、自動車用内装部品やディスプレイ装置等の表示面と対向する面がガラス板状体10aの第2面である。本発明ではカバーガラス10の第2面に赤外線透過層と黒色層を印刷層として形成し、赤外線透過層は赤外線を透過する透過層として機能し、黒色層は光を遮蔽する遮蔽層として機能する。また、図1aはディスプレイの視認領域が曲面領域14を形成しているが、図1bのように平坦領域のみにディスプレイの視認領域が形成されてもよい。なお、図1a,図1bでは、ディスプレイの視認領域をグレートーンで示した。また、本発明は赤外線透過層や黒色層といった印刷層に限らない。ガラスの曲面に複数の印刷層を形成する場合に、赤外線透過層を第1の印刷層、黒色層を第2の印刷層として置き換えると、様々な用途に応用できる。
【0017】
カバーガラス10の第1面11および第2面12のうち少なくとも一方の面には、防眩処理(AG処理)、反射防止処理(AR処理)、耐指紋処理(AFP処理)等が施されることが好ましい。印刷層が設けられる面および面取り部には、印刷層との密着性を向上させるため、プライマー処理やエッチング処理等が施されていてもよい。
【0018】
図2aのa1~a5は、従来の印刷層の印刷方法を示したフローチャートの模式図である。図2aでは赤外線透過層の印刷後、または黒色層の印刷後に傾斜部を乾燥する工程が設けられていない。
【0019】
図2bのb1~b7は、本発明のフローチャートの模式図である。本発明では、赤外線透過層の印刷工程と乾燥炉内硬化工程との間、または黒色層印刷工程と乾燥炉内硬化工程の間に傾斜部乾燥工程を設けている。なお、「傾斜部乾燥」とは本実施形態におけるカバーガラス10の曲面領域を乾燥する工程を意味する。従来のフローチャート(図2a)に傾斜部乾燥工程を加えることで、曲面領域に印刷されたインクを固定し、傾斜に沿ってインクの厚さが変化することを防止できる。乾燥工程に必要な温度は印刷されたインクの性質や厚さに依存するが、インクの厚さが変化しない程度に乾燥できればよく、例えば60~100℃の温度で実施される。曲面に所定の厚さのインクが印刷されると、ガラス内に入射する入射光の反射位相を揃えることができるため、膜界面で干渉して色ムラが生じることなく、外観品質が向上する。
【0020】
傾斜部乾燥工程は、図4aに示すように、例えばランプヒータ20によって行う。ランプヒータ20による傾斜部乾燥工程は、カバーガラス10の曲面領域14をランプヒータ20の位置に合わせて実施してもよいし、ランプヒータ20をカバーガラスの位置に合わせて実施してもよい。図2bに示すように、インクを乾燥する工程を挟むことでインクが傾斜方向に沿って流れることがないため、インクの厚さが平坦領域に対して同等、もしくは色ムラの生じない範囲となる。なお、本発明において「インクの厚さが等しい」とは、曲面領域と平坦領域のそれぞれに印刷されたインクの厚さが0.8:1~1.2:1の場合を意味する。
【0021】
図3aに示すように、従来のカバーガラスは曲面領域14と平坦領域15に印刷されたインク層60の厚さが異なる。その原因は、印刷されたインクが硬化するまでの間に、曲面領域14に印刷されたインクの厚さが曲面の傾斜に沿って変化することに起因する。図3bに示すようにインク60の厚さが傾斜に沿って変化すると、インク層の厚さがガラス層の厚さに対して薄くなり、色ムラが生じる。
【0022】
図4aに示すように、本発明のカバーガラスは、曲面領域14と平坦領域15に印刷されたインク層60の厚さが同等、または色ムラの生じない範囲に形成される。本発明のカバーガラスは、曲面領域に印刷されたインクの厚さが傾斜に沿って変化する前に曲面領域を乾燥することで、曲面に印刷されたインクの厚さが変化しない。
【0023】
本実施形態のカバーガラスを構成するガラス板状体10aの端面13は、その厚さtが小さいことが以下の理由から好ましい。まず、厚さtを小さくすることで、カバーガラスの質量が小さくなる。そして、カバーガラスの厚さ方向における吸光度は、厚さtに比例する。したがって、厚さtを小さくすることで、吸光度を小さくし、カバーガラスの厚さ方向における可視光透過率を上げられるため、視認性が向上する。
【0024】
図5に示すように、本明細書において、カバーガラス10をなすガラス板状体10aの厚さtとは、第1面11における任意の点Pと、点Pにおける第1面11に対する法線とガラス板状体の第2面12との交点Qと、を結ぶ最短距離とする。
【0025】
本実施形態のカバーガラス10は、カバーガラス10をなすガラス板状体の平均厚さtaveが5mm以下である。軽量化の観点、タッチパネルなどのセンシングの観点からカバーガラスをなすガラス板状体の平均厚さtaveが2.3mm以下であることが好ましく、2mm以下がより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましい。また同じ理由により、ガラス板状体の平均厚さtaveの下限値は0.5mm以上であって、0.7mm以上であることが特に好ましく、1.0mm以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本実施形態のカバーガラス10は、カバーガラス10をなすガラス板状体の曲面領域における厚さtにばらつきが少ないことが好ましい。厚さtのばらつきが少ないことで、ガラス板状体の透過率が均一となり、視認性が向上する。具体的には、ガラス板状体の曲面領域における厚さの最大値tmaxと、最小値tminと、の比tmax/tminが1.0~1.5であることが好ましく、1.0~1.1であることがより好ましい。
【0027】
図6は、本発明における曲面領域を説明するための図であり、曲面領域を有するカバーガラスを示している。図6に示すカバーガラス100は、第1面110と、第1面110に対向する第2面120と、第1面110と第2面120を接続する少なくとも一つの端面130を有するガラス板状体10bからなる。本発明では、曲面領域を特定するため、カバーガラス100をなすガラス板状体の第1面110の任意の点Pにおける第1面の接線方向のうち、以下の条件を満たすよう選ばれる接線方向をX軸とし、第1面の点Pにおける第1面の接線方向のうち、X軸に直交する方向をY軸とし、X軸とY軸に直交する方向をZ軸とする。ここでX軸は、ガラス板状体の第1面上の任意の点Pにおける第1面の接線方向のうち、X軸とZ軸を通るXZ平面におけるガラス板状体の第1面の断面の曲率半径(以下、第1曲率半径ともいう)R1が最小となる方向とする。R1が最小となる方向が複数ある場合、それらのうち少なくとも一つの方向をX軸として、第1曲率半径R1を定めてよい。
【0028】
カバーガラス100をなすガラス板状体10bの第1面は、第1面上の少なくとも1点においてX軸方向にその表面が屈曲した曲面領域を有する。曲面領域とは、第1面上の任意の点PにおいてXZ平面における第1曲率半径R1が10000mm以下となる領域を指す。なお、図6では、第1面110全体が曲面領域をなしている。
【0029】
第1曲率半径R1が10000mm以下の曲面領域を有していると、自動車用内装部材若しくはディスプレイ装置等のカバーガラスとして使用した場合に、これらの表示面上に配置される部位が適度に屈曲しているため、利用者からの視野角が小さくなり、視認性が向上する。視認性の向上の観点からは、曲面領域の第1曲率半径R1は300~3000mmの範囲内であることが好ましく、500~2000mmの範囲内であることがより好ましい。
【0030】
また、カバーガラス10をなすガラス板状体10aの曲面領域は、曲面領域上の少なくとも1点においてY軸方向にもその表面が屈曲していてもよい。この場合、Y軸とZ軸を通るYZ平面におけるガラス板状体の第1面の断面の曲率半径(以下、第2曲率半径ともいう)R2が10000mm以下であることが好ましく、300~3000mmの範囲内であることがより好ましく、500~2000mmの範囲内であることがさらに好ましい。なお、上述の通り、ガラス板状体の第1面上の任意の点Pにおける第1面の接線方向のうち、第1曲率半径R1が最小となる方向をX軸とするため、第1曲率半径R1および第2曲率半径R2はR1≦R2の関係式を満たす。
【0031】
<加工・成形>
カバーガラス10は、大きいサイズの板ガラスを小さく切断し、切削、研磨の各工程を経たガラスを、化学強化や物理強化等の強化処理をすることによって形成される。板ガラスの切断方法としては、例えばダイヤモンドブレードによる切断のほか、スクライブ割断法やレーザー切断法などを用いて実施することができる。カバーガラス10の強度を高めたい場合はカバーガラス10の表層部を化学強化することが好ましく、より好ましくは表層部の全てを化学強化することが好ましい。切削加工又は研磨加工を施す工具としては砥石を用いてもよく、また砥石の他に、布、皮、ゴム等からなるバフやブラシ等を用いてもよい。その際、酸化セリウム、アルミナ、カーボランダム、コロイダルシリカ等の研磨剤を用いてもよい。中でも寸法安定性の観点から、研磨具としては砥石を用いることが好ましい。
【0032】
<組成>
カバーガラス10は、透明度の高いガラスによって構成されている。カバーガラス10として用いられるガラスの材料として、多成分系の酸化物ガラスを用いてもよい。
【0033】
カバーガラス10として用いられるガラスの組成の具体例を以下に示す。但し、カバーガラス10として用いられるガラスの組成はこれらに限定されない。本発明に使用されるガラスはナトリウムを含んでいればよく、成形、化学強化処理又は物理強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用することができる。具体的には、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノボロシリケートガラス、結晶化ガラス、アルカリ含有光学ガラス等が挙げられる。
【0034】
カバーガラス10として用いられるガラスの組成としては特に限定されないが、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を50~80%、Al23を2~25%、Li2Oを0.1~20%、Na2Oを0.1~18%、K2Oを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%、P25を0~5%、B23を0~5%、Y23を0~5%およびZrO2を0~5%を含む。
【0035】
<化学強化>
本発明の製造方法により製造される化学強化ガラスは、ガラス表面にイオン交換により形成された圧縮応力層を有する。イオン交換法は、ガラスの表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度でイオン交換することにより、ガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン及び/またはNaイオン)をイオン半径のより大きい他のアルカリイオン(例えば、Naイオン及び/またはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0036】
<印刷・乾燥>
次に、印刷層について説明する。
なお、本明細書において、印刷層とは、隠蔽性や美観性を付与できる層をいい、例えば、光透過層としてカバーガラス10に印刷される。
【0037】
印刷層を形成する方法としては、赤外線透過層印刷、もしくは半透明層印刷が好ましい。赤外線透過印刷は、例えば、インクジェット印刷法で行う。
【0038】
インクジェット印刷法とは、ノズルから液状にしたインクの微少液滴をパルス状に吐出して、透明板上にパターンを形成する方法である。ノズル移動機構の原点を基準としてカバーガラス10を位置決めし、コンピュータからの指令に基づき、ノズルがインクの微少液滴を吐出しながらカバーガラス10の面上を、概略水平方向へ移動する。これにより、点状のインクが連続して形成されて所定のパターンの印刷層が形成される。被印刷面が曲面領域を有するカバーガラスの場合は、パターンの歪みなどを考慮すると、インクの液滴を吐出するノズルとカバーガラス10との距離は略一定であることが好ましい。例えば、ノズルとカバーガラス10との距離を一定に維持した上で、パターンに応じてノズルまたはカバーガラスを回動、移動させる機構を使用することが好ましい。なお、インクをノズルまで供給する供給圧力が安定し、ノズルからのインクの吐出量を一定に保持できることから、ノズルを固定して、そのノズルに対してカバーガラス10を回動、移動させる機構がより好ましい。
【0039】
図7に示すように、印刷層が枠状の場合、上辺印刷層61、下辺印刷層62、右辺印刷層63、左辺印刷層64の4つの直線状のパターンに分けて印刷するのが好ましい。ノズルを一方向に直線移動させながらパターンを形成する場合は、カバーガラスを支持台(図示しない)に載置し、ノズルの吐出孔をカバーガラス10の印刷面12(第2面)のうち、図7の右下端部に位置させる。この後、吐出孔からインクを吐出しつつ、ノズルを左下端部まで移動させて、図7に示す下辺印刷層62を印刷する。カバーガラスの曲面領域に印刷層を形成する場合は、その曲面に沿ってノズルを移動させる。
【0040】
次に、支持台およびノズルの少なくとも一方を相対移動させて、吐出孔を第2面の右上端部に位置させる。この後、吐出孔からインクを吐出しつつ、ノズルを左上端部まで移動させて、図7に示すような上辺印刷層61を印刷する。
【0041】
そして、ノズルの吐出孔をカバーガラスの第2面(図7の右上端部)に位置させる。この後、吐出孔からインクを吐出しつつ、ノズルを右下端部まで移動させて図7に示す右辺印刷層63を印刷する。
【0042】
最後に、支持台およびノズルの少なくとも一方を相対移動させて、吐出孔を第2面における左上端部に位置させる。この後、吐出孔からインクを吐出しつつ、ノズルを左下端部まで移動させて、図7に示すような左辺印刷層64を印刷する。
【0043】
印刷層の厚さは、吐出孔からのインクの吐出量やノズルの移動速度を制御することで調整できる。厚くする場合には、吐出量を多くして、移動速度を遅くすればよい。薄くする場合には、吐出量を少なくして、移動速度を速くすればよい。
【0044】
赤外線透過層印刷工程によってインクを印刷した後は、10秒以内にインクの乾燥工程を行う。ランプヒータ20を用いて乾燥工程を行う場合、ランプヒータ20は印刷層に対して約50mmの距離に設置することが好ましい。ランプヒータ20は印刷層の硬化が始まらない範囲の温度、例えば150℃以下に設定される。例えばインフリッヂ工業社製カーボンファイバーヒーター(CFH-290)を用いて100℃で乾燥工程を行った場合、出力値100Vで、照射時間は5s~20sであることが好ましく、さらに高温であれば3s~10sであることが好ましい。
【0045】
乾燥工程を実施した後に、光遮蔽層の印刷を行う。光遮蔽層の印刷には、例えばインクジェット印刷法を用いる。本発明のようにガラスが曲面領域14を有する場合、支持台およびノズルの少なくとも一方をガラスの曲面領域14に沿って駆動することが好ましい。
【0046】
インクの吐出量は、ノズルの吐出孔から吐出する液滴量と、吐出する間隔(吐出ピッチ)により制御できる。一つの吐出孔からの液滴量をL(pL)、吐出ピッチをP(μm)とする場合、L/P(pL/μm)と吐出量に相関関係がある。L/Pは7以下が好ましい。L/Pが上限値以下であると、吐出量が安定し直線状に印刷する場合に滲みが抑えられ直線性が安定する。また、曲線状に印刷する場合にはインク垂れが抑制でき、所望の曲線形状が得られる。L/Pは6以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。
L/Pは0.5以上が好ましい。下限値以上であると、遮光性を求める印刷などに適した厚さや印刷品質が得られ、良好な印刷層が得られる。L/Pは0.6以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
【0047】
ノズルとカバーガラスとの相対移動速度は、例えば250mm/秒以下が好ましい。ノズルとカバーガラスとの相対移動速度が上限値より速いと、これらの間で生じる気流や振動による影響を受けやすくなる。気流により巻き込んだ異物が印刷層に混入し、欠陥になる可能性がある。また振動により所望の形状精度とならない可能性がある。そこで上限値より遅い相対移動速度が好ましい。相対移動速度は230mm/秒以下がより好ましく、200mm/秒以下がさらに好ましい。
【0048】
ノズルとカバーガラスとの相対移動速度の下限値は特に制限はないが、5mm/秒以上が好ましい。相対移動速度は、製造時間に影響を与える。相対移動速度が下限値以上であれば、高い品質の印刷層を備えたカバーガラス10を高い生産効率で作製できる。相対移動速度は10mm/秒以上がより好ましく、20mm/秒以上がさらに好ましい。
【0049】
印刷層のうち、凸部および凹部を形成する部分を印刷する際は、形成しない部分と比較して、印刷ピッチを狭くすると同時に、インクの吐出ヘッド1孔あたりの吐出量を少なくするのが好ましい。印刷ピッチを狭くすることで、凸部および凹部を含む微細なパターンを描画できる。インクの吐出量を少なくすることにより、凸部および凹部が過量なインクで潰れるのを防ぐことができる。
【0050】
本実施形態では、上辺印刷層61、下辺印刷層62、右辺印刷層63、左辺印刷層64の厚さは同じであり、これらの印刷条件(インクの吐出量およびノズルの移動速度)は同じであることが好ましい。
【0051】
ノズルとカバーガラスとの間隔は、0.5mm以上2mm以下に制御されること好ましい。所望の厚さの範囲に制御でき、均質な印刷層が得られる。また、上辺印刷層61、下辺印刷層62、右辺印刷層63、左辺印刷層64の印刷用インクは、同じ種類のインクが好ましい。
<熱硬化>
【0052】
その後、乾燥炉内に移動して熱硬化を行うことで、印刷層が硬化し、印刷層付きカバーガラスが得られる。上辺印刷層61、下辺印刷層62、右辺印刷層63、左辺印刷層64の乾燥や熱硬化は、形成した都度実施してもよく、全てを形成してから実施してもよい。
【0053】
<効果>
カバーガラスの曲面領域に設けられた印刷層が平坦領域と同等、もしくは色ムラが生じない範囲に制御されているので、ガラス内に入射する入射光の反射位相を揃えることができるため、人間の目には印刷層の界面における色ムラがなくなる。またカバーガラスと印刷層の境界の色彩差が小さくなり、目立たなくなることで外観品質が向上する。
【0054】
本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更等が可能である。本発明の実施の際の具体的な手順、および構造等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【0055】
<表面構造>
有機ガラスや合成樹脂等を用いる場合、同種・異種問わず重ねられた基材で構成されていてもよく、基材間に各種接着層が挿入されていてもよい。
カバーガラスとして無機ガラスを用いる場合、化学強化処理、物理強化処理のいずれを行ってもよいが、化学強化処理を行うことが好ましい。上述のような比較的、薄い無機ガラスを強化処理する場合、化学強化処理が適切である。
【0056】
<インク>
印刷層を形成するインクは、無機系でも有機系であってもよい。無機系のインクとしては、例えば、SiO2、ZnO、B23、Bi23、Li2O、Na2OおよびK2Oから選択される1種以上、CuO、Al23、ZrO2、SnO2およびCeO2から選択される1種以上、Fe23およびTiO2からなる組成物であってもよい。
【0057】
有機系のインクとしては、樹脂を溶剤に溶解した種々の印刷材料を使用できる。例えば、樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、オレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリウレタンポリオール等の樹脂からなる群から選ばれる、少なくとも1種以上を選択して使用してよい。溶媒としては、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤を用いてもよい。例えば、アルコール類としては、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等を使用でき、エステル類としては酢酸エチル、ケトン類としてはメチルエチルケトンを使用できる。芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、ソルベッソTM100、ソルベッソTM150等を使用でき、脂肪族炭化水素系溶剤としてはヘキサン等を使用できる。なお、これらは例として挙げたものであり、その他、種々の印刷材料を使用できる。前記有機系の印刷材料は、カバーガラスに印刷した後、溶媒を蒸発させて樹脂の印刷層を形成できる。
【0058】
印刷層に用いられるインクには、着色剤が含まれてもよい。着色剤としては、例えば、印刷層を黒色とする場合、カーボンブラック等の黒色の着色剤を使用できる。その他、所望の色に応じて適切な色の着色剤を使用できる。
【0059】
印刷層は、所望の回数だけ積層してもよく、印刷に用いるインクは、各層で異なるものを使用してもよい。また、印刷層は、一方の主面だけでなく、他方の主面にも印刷してよく、端面に印刷してもよい。印刷層を所望の回数だけ積層する場合、各層で異なるインクを用いてもよい。
【0060】
本発明に用いられるインクは、加熱により硬化できる熱硬化性インクが好ましい。
熱硬化性樹脂材料を用いて印刷層を形成する場合、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂等、アクリル樹脂が使用可能である。
【0061】
液状の熱硬化性の樹脂材料をカバーガラスの主面に印刷する場合、印刷したい範囲全面において均一な膜厚で印刷が可能な方法が好ましく、ローラー印刷、カーテンフロー、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、リバースコート、ロールコート、フローコート、スプレーコート等の印刷方法が例示されるが、スクリーン印刷で印刷することは極めて難しい。
【0062】
熱硬化性の樹脂材料の印刷膜厚は、目標とするカバーガラス10を作製するのに十分な膜厚でさえあれば任意で構わないが、印刷膜厚は理論必要膜厚の1.2倍以上かつ3倍以下であることが好ましい。印刷膜厚が1.2倍以上であれば、わずかな板厚偏差や反りの影響によらず金型内に樹脂材料を完全に充填させる事ができ、カバーガラスの寸法精度や形状精度を適切に維持できる。印刷膜厚が3倍以内であれば、金型を押し付けた際に金型端部から樹脂材料がはみ出してカバーガラス10の端面13を汚染するおそれがない。なお、理論必要膜厚は、作製したいカバーガラスが占める全体積の、前記作製したいカバーガラスが占める全面積に対する比によって表される。
【0063】
印刷層の平面形状は、第1面11の一辺に沿う線状、連続する二辺に沿うL字状、対向する二辺に沿う2本の直線状でもよい。印刷層は、第1面11が四角形以外の多角形や円形あるいは異形の場合、これらの形状に対応する枠状、多角形の一辺に沿う直線状、円形の一部に沿う円弧状でもよい。
【0064】
印刷層の端部の平面形状を波形とする場合、波の形状は三角波でもよく、矩形波でもよい。いずれの形状でも、波の形状に対応して、可視光の透過率が低い領域と高い領域が周期的に端部に現れ、人間の目にはカバーガラスと印刷層の境界が、ぼやけて見える。
そのため、カバーガラスと印刷層の境界の色彩差が自然に小さくなり、色彩差が目立たなくなる。
【0065】
本発明のカバーガラスは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のパネルディスプレイや、車載用情報機器、携帯機器のカバーガラスといった表示装置用のカバー部材に使用できる。本発明のカバーガラスを表示装置用カバーに用いることで、視認性を確保しつつ被対象物を保護できる。また、カバー部材のカバーガラスと印刷層の境界の色彩差を小さくでき、美観に優れた表示装置を提供できる。
【0066】
カバーガラス10を表示装置に用いる場合、印刷層は、表示装置が非表示の場合の色彩に対応した色彩を有するのが好ましい。例えば、非表示の場合の色彩が黒色系の場合は、印刷層も黒色系であるのが望ましい。
【0067】
印刷層は、求められる色彩と物理的特性が両立できない場合があるが、この場合であっても、凸部または凹部によって、カバーガラスと印刷層の境界の色彩差が小さくなるため、印刷層の色彩が原因で、表示装置の美観を損ねるおそれがない。
本発明のカバーガラス10の印刷層は、このカバーガラス10が用いられる物品の模様を構成し、物品の意匠性を向上させるものでもよい。
【0068】
カバーガラスを製造するにあたり、製造順序は特に限定されない。例えば、予めカバーガラス10に接着層を配置した構造体を準備しておき、フレームに配置し、その後、液晶モジュールを貼合してもよい。
【0069】
カバーガラスは、タッチセンサ等を備えていてもよい。タッチセンサを組み込む場合は、カバーガラス10の第1面11側に、図示しない別の接着層を介してタッチセンサを配置し、それに接着層を介して液晶モジュールを配置する。
【実施例
【0070】
実施例1では、未強化のカバーガラスとして、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を64.4%、Al23を8.0%、Na2Oを12.5%、K2Oを4.0%、MgOを10.5%、CaOを0.1%、SrOを0.1%、BaOを0.1%、およびZrO2を0.5%含むガラス基板を準備した。同カバーガラスは、幅20mm、長さ600mmで板厚1.2mmであり、長さ400mm付近で単一方向に屈曲している。
【0071】
次に、カバーガラスを3点で位置決めして支持台上に載置し、エアーによって吸着固定した。支持台はロボットハンドに固定され、ロボットハンドは三菱電機社製のアームに接続するように固定されている。アームを駆動することによって、カバーガラスを各工程で適切な位置へ移動させることができる。今回アームは6軸構造のものを用いたが、カバーガラスを一定の位置となるように保持し、移動できる構造であればよい。
【0072】
支持台上に固定されたカバーガラスは、まず赤外線透過インクの印刷工程に移行した。
赤外線透過インクは赤外線透過インク固形分19質量% 粘度CP5.7のインクを使用した。赤外線透過インクをタンク内に導入し、インクジェットヘッド内を含めてインクを循環させると共に、インクがヘッドから落ちてこないように循環系内の圧力制御を行った。カバーガラスに赤外線透過インクを塗布する部分をインクジェットヘッドに対向するように移動させながら液体時の膜厚が15μmになるようにインクを吐出することで印刷した。
【0073】
曲面領域を印刷した後速やかに印刷層をヒーター直下へ移動しランプヒータを使ってインクを乾燥した。平面乾燥時はカバーガラスをランプヒータに対して水平方向に移動することでムラなく乾燥が進むようにした。乾燥工程ではインフリッヂ工業社製カーボンファイバーヒーター(CFH-290)を使った。出力値100V、平坦領域、曲面領域のいずれも照射時間は10sとした。
【0074】
乾燥工程後、カバーガラスをロボットハンドから取り外し網目状の乾燥ラック上に移動した。乾燥ラックごと乾燥炉に投入し、230℃に加熱することで樹脂を硬化させた。加熱時間は60分間であり、硬化後の膜厚は実測値で2.8μmであった。加熱硬化後に乾燥ラックを取り出して室温まで冷却した。
【0075】
乾燥終了後、黒色インクの印刷工程に移行した。
黒色インクは、黒色インク固形分25質量% 粘度CP9.5のものを使用した。乾燥時はカバーガラスを水平方向に移動することでムラなく乾燥が進むようにした。次いで乾燥した黒色インクをタンク内に導入し、液体時の膜厚が20μmとしたほかは、赤外線透過インクと同じ条件で印刷した。
【0076】
乾燥工程では赤外線透過インクの乾燥工程と同じくインフリッヂ工業社製カーボンファイバーヒーター(CFH-290)を使った。出力値100V、平坦領域、曲面領域のいずれも照射時間は10sとした。出力値100V、平坦領域、曲面領域のいずれも照射時間は10sとした。
【0077】
乾燥工程後、カバーガラスをロボットハンドから取り外し網目状の乾燥ラック上に移動した。乾燥ラックごと乾燥炉に投入し、230℃に加熱することで樹脂を硬化させた。加熱時間は60分間であり、硬化後の膜厚は実測値で5.0μmであった。加熱硬化後に乾燥ラックを取り出して室温まで冷却した。
【0078】
比較例1では、実施例1で用いたカバーガラスと同じ組成のカバーガラスを準備したが、実施例1とは異なり、乾燥工程を行わずに、赤外線透過インクと黒色インクを印刷して熱硬化させた。
【0079】
本実施例における各種評価は以下に示す分析方法により行った。
具体的には、照度1000ルクスの照明下、ガラスと判定者の目との距離を50cmとし、光源直下に実施例、比較例で作成したサンプルを置き、45°の角度から目視で検査した際にガラス表面に色ムラが認められない場合を○、色ムラがある場合を×とした。
【0080】
結果を表1、表2に記載する。
【表1】
【表2】
【0081】
表1、表2の通り、赤外線透過インク、もしくは黒色インクをカバーガラスに印刷した後、該傾斜部に乾燥処理を行うことで色ムラが生じず、外観品質が向上した。
【0082】
なお、実施例において第1印刷層は熱硬化性インクを用いて印刷層を形成したが、第2印刷層以降は適宜他のインク、例えば光硬化性インクに置き換えて印刷層を形成することもできる。
【0083】
また、従来例および実施例ではカバーガラスを用いたが、ガラスが特定の用途に限られる必要はなく、ガラスに印刷を施す場合であれば本発明が適用可能であることは当業者にとっては自明である。
【符号の説明】
【0084】
10,100…カバーガラス 11,110…第1面 12,120…第2面 13,130…端面 10a,10b…ガラス板状体 14…曲面領域 15…平坦領域 20…ランプヒータ 60…印刷層 61…上辺印刷層 62…下辺印刷層 63…右辺印刷層 64…左辺印刷層
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
図7