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特許7127414熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付き金属箔、積層体、プリント配線板及び半導体パッケージ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付き金属箔、積層体、プリント配線板及び半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220823BHJP
   C08L 61/08 20060101ALI20220823BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220823BHJP
   C08G 8/12 20060101ALI20220823BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20220823BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220823BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20220823BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220823BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20220823BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L61/08
C08L33/06
C08G8/12
C08G59/18
B32B27/30 A
B32B27/42 101
H05K1/03 610K
H05K1/03 630H
H01L23/14 R
C08L63/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018148681
(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公開番号】P2020023622
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】串田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】富岡 健一
(72)【発明者】
【氏名】澤木 琢
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 悟史
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-041398(JP,A)
【文献】特開2014-169442(JP,A)
【文献】特開2014-201639(JP,A)
【文献】特開2015-089940(JP,A)
【文献】特開2015-163713(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187135(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G 59/00- 59/72
B32B 1/00- 43/00
H05K 1/03
H01L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェノール系樹脂、
(B)熱硬化性樹脂、及び
(C)アクリル系ポリマー
を含有する、熱硬化性樹脂組成物であり、
前記(A)成分が、(A1)炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂と、(A2)鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基との組み合わせである炭素数が10~25の脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂と、を含有
前記(B)成分がエポキシ樹脂であり、
前記(C)成分が、下記一般式(c1)で表される構造単位(c1)を、10~50質量%含有する、熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(R c1 は水素原子又はメチル基を示し、R c2 は炭素数1~3の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記(A1)成分が、下記一般式(1)に由来する構造単位と、下記一般式(2)に由来する構造単位と、を含むものである、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい環形成原子数5~15の芳香族炭化水素基、又は、前記脂肪族炭化水素基と前記芳香族炭化水素基との組み合わせを示し、Rは、炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を示す。Xは、水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基である。)
【請求項3】
前記(A1)成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分総量100質量部に対して、0.1~40質量部である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A2)成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分総量100質量部に対して、0.1~40質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)アクリル系ポリマーが、さらに、下記一般式(c2)で表される構造単位(c2)、下記一般式(c3)で表される構造単位(c3)及び下記一般式(c4)で表される構造単位(c4)を含むものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化3】
(Rc3は水素原子又はメチル基を示し、Rc4は脂環式炭化水素基を含む炭素数5~22の炭化水素基を示す。)
【化4】
(Rc5は水素原子又はメチル基を示し、Rc6は炭素数4~10の鎖状炭化水素基を示す。)
【化5】
(Rc7は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、Zは、ヒドロキシ基、又は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を含む置換基を示す。)
【請求項6】
前記(C)成分中における前記構造単位(c1)の含有量が1~60質量%、前記構造単位(c2)の含有量が1~20質量%、前記構造単位(c3)の含有量が5~90質量%、前記構造単位(c4)の含有量が1~20質量%である、請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分総量100質量部に対して、40~90質量部である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A1)成分と前記(A2)成分との含有量比〔(A1)成分/(A2)成分〕が、質量基準で、0.1~1である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C)成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分総量100質量部に対して、5~50質量部である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
硬化物が相分離構造を有さない、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を含有してなるプリプレグ。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物と金属箔とを積層してなる、樹脂付き金属箔。
【請求項13】
請求項11に記載のプリプレグ又は請求項12に記載の樹脂付き金属箔を含有してなる積層体。
【請求項14】
請求項13に記載の積層体を含有してなる、プリント配線板。
【請求項15】
請求項14に記載のプリント配線板を含有してなる、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付き金属箔、積層体、プリント配線板及び半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
高機能プリント配線板に使用される配線板材料には、耐熱性、電気絶縁性、長期信頼性、及び部品接続信頼性等が要求されている。
更に、セラミック部品を搭載した基板においては、セラミック部品と基板との熱膨張係数の差、及び外的な衝撃によって発生する部品接続信頼性の低下が大きな課題となっている。この問題の解決方法として、基材側からの応力緩和性も提唱されている。これらの課題を解決すべく、熱硬化性樹脂と、アクリル系ポリマー及び末端変性ポリエーテルスルホン等の熱可塑性樹脂とを含有してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-283535号公報
【文献】特開2002-134907号公報
【文献】特開2002-371190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年はプリント配線板を高温環境等の過酷環境下で適用することが多くなってきており、本発明者らの検討によると、従来のプリント配線板では、過酷環境下にて金属箔との接着強度を確保することが困難であることが明らかとなった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、十分な耐熱性及び低弾性率を有し、常温環境下及び高温環境下での金属箔との高い接着強度を有する熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグ、樹脂付き金属箔、積層体、プリント配線板及び半導体パッケージを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記の本発明によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1]~[15]に関する。
[1](A)フェノール系樹脂、
(B)熱硬化性樹脂、及び
(C)アクリル系ポリマー
を含有する、熱硬化性樹脂組成物であり、
前記(A)成分が、(A1)炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂を含有する、熱硬化性樹脂組成物。
[2]前記(A1)成分が、下記一般式(1)に由来する構造単位と、下記一般式(2)に由来する構造単位と、を含むものである、上記[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい環形成原子数5~15の芳香族炭化水素基、又は、前記脂肪族炭化水素基と前記芳香族炭化水素基との組み合わせを示し、Rは、炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を示す。Xは、水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基である。)
[3]前記(A1)成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分総量100質量部に対して、0.1~40質量部である、上記[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4]前記(B)成分が、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド系化合物、ビスマレイミド系化合物とジアミン化合物との付加重合物、イソシアネート樹脂、トリアリルイソシアヌレート樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂及びビニル基含有ポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5](C)アクリル系ポリマーが、下記一般式(c1)で表される構造単位(c1)、下記一般式(c2)で表される構造単位(c2)、下記一般式(c3)で表される構造単位(c3)及び下記一般式(c4)で表される構造単位(c4)を含むものである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化2】

(Rc1は水素原子又はメチル基を示し、Rc2は炭素数1~3の炭化水素基を示す。)
【化3】

(Rc3は水素原子又はメチル基を示し、Rc4は脂環式炭化水素基を含む炭素数5~22の炭化水素基を示す。)
【化4】

(Rc5は水素原子又はメチル基を示し、Rc6は炭素数4~10の鎖状炭化水素基を示す。)
【化5】

(Rc7は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、Zは、ヒドロキシ基、又は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を含む置換基を示す。)
[6]前記(C)成分中における前記構造単位(c1)の含有量が1~60質量%、前記構造単位(c2)の含有量が1~20質量%、前記構造単位(c3)の含有量が5~90質量%、前記構造単位(c4)の含有量が1~20質量%である、上記[5]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7]更に、(A2)鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基との組み合わせである炭素数が10~25の脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8]前記(A1)成分と前記(A2)成分との含有量比〔(A1)成分/(A2)成分〕が、質量基準で、0.1~1である、上記[7]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9]前記(C)成分の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分総量100質量部に対して、5~50質量部である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[10]硬化物が相分離構造を有さない、上記[1]~[9]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含有してなるプリプレグ。
[12]上記[1]~[10]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物と金属箔とを積層してなる、樹脂付き金属箔。
[13]上記[11]に記載のプリプレグ又は上記[12]に記載の樹脂付き金属箔を含有してなる積層体。
[14]上記[13]に記載の積層体を含有してなる、プリント配線板。
[15]上記[14]に記載のプリント配線板を含有してなる、半導体パッケージ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、十分な耐熱性及び低弾性率を有し、常温環境下及び高温環境下での金属箔との高い接着強度を有する熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグ、樹脂付き金属箔、積層体、プリント配線板及び半導体パッケージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、数値範囲の下限値及び上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値及び上限値と任意に組み合わせられる。
また、本明細書に例示する各成分及び材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
更に、例示したもの及び好ましいと説明する態様が選択肢の集合体であるとき、その集合体の中から任意の選択肢を任意の数だけ抽出することができ、且つ、抽出した選択肢を、他で説明する態様と任意に組み合わせることもできる。
本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
なお、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」からなる群から選択される1種以上を意味し、他の類似用語も同様である。
なお、本実施形態における常温とは典型的には25℃であり、高温とは典型的には125℃である。
【0010】
[熱硬化性樹脂組成物]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、
(A)フェノール系樹脂(以下、「(A)成分」ともいう)、
(B)熱硬化性樹脂(以下、「(B)成分」ともいう)、及び
(C)アクリル系ポリマー(以下、「(C)成分」ともいう)
を含有する、熱硬化性樹脂組成物であり、前記(A)成分が、(A1)炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂(以下、「(A1)成分」ともいう)を含有する、熱硬化性樹脂組成物である。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上記構成を有することで、十分な耐熱性及び低弾性率を有し、金属箔との高い接着強度を有するものとなる。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂である(B)成分に加え、熱硬化性と低弾性を兼ね揃える(A1)成分と、(C)成分とを含有することで、高耐熱性と低弾性を両立すると共に、硬化物が優れた高伸び性を有するものとなる。該高伸び性の向上によって、熱履歴の付与によって発生する、熱硬化性樹脂組成物と金属箔との接着界面の応力が効果的に緩和されるため、金属箔との高い接着強度を達成することができたものと推測される。以下、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物が含有する各成分について説明する。
【0011】
〔(A)フェノール系樹脂〕
(A)フェノール系樹脂は、(A1)炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂を含有するものであり、更に、(A2)鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基との組み合わせである炭素数が10~25の脂肪族炭化水素基を有するフェノール系樹脂(以下、「(A2)成分」ともいう)を含有することが好ましい。
以下、(A1)成分が有する炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基を「炭化水素基a1」、(A2)成分が有する鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基との組み合わせである炭素数が10~25の脂肪族炭化水素基を「炭化水素基a2」と称する場合がある。
なお、本明細書中、「鎖状」とは、直鎖状又は分岐鎖状を意味する。
【0012】
(A1)成分が有する炭化水素基a1の炭素数は、好ましくは10~20、より好ましくは12~20、更に好ましくは12~18、より更に好ましくは14~18、特に好ましくは14~16、最も好ましくは15である。
(A2)成分が有する炭化水素基a2の炭素数は、好ましくは10~18、より好ましくは10~15、更に好ましくは10~13、特に好ましくは10~12、最も好ましくは11である。
炭化水素基a1及びa2の炭素数が上記範囲であると、得られる硬化物は高耐熱性と低弾性を両立すると共に、優れた高伸び性を有するものとなる。
【0013】
炭化水素基a1及びa2は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。不飽和脂肪族炭化水素基が有する不飽和結合の数は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよく、また、通常は5つ以下であってもよいし、3つ以下であってもよい。
【0014】
(A)フェノール系樹脂としては、炭化水素基a1として飽和脂肪族炭化水素基を有する(A1)成分と、炭化水素基a1として不飽和脂肪族炭化水素基を有する(A1)成分とを併用することも好ましい。これらを併用する場合、両者の合計に対する不飽和脂肪族炭化水素基を有する(A1)成分の質量比率は、60質量%以上であってもよいし、80質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。また、前記質量比率の上限に特に制限はなく、98質量%以下であってもよい。このような態様の(A)フェノール系樹脂としては、カルダノールに由来する構造単位を有するフェノール系樹脂が挙げられる。
【0015】
飽和脂肪族炭化水素基である炭化水素基a1としては、各種デシル基(「各種」とは、直鎖状又は分岐鎖状を意味し、以下、同様である。)、各種ウンデシル基(例えば、4-ペンチルシクロヘキシル基等を含む。)、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基等が挙げられる。
不飽和脂肪族炭化水素基である炭化水素基a1としては、上記炭素数10~25の飽和脂肪族炭化水素基において、その少なくとも一部が炭素-炭素不飽和結合となったものが挙げられる。例えば、炭素数15であれば、8-ペンタデセン-1-イル基、8,11-ペンタデカジエン-1-イル基、8,11,14-ペンタデカトリエン-1-イル基等が挙げられる。
【0016】
炭化水素基a2が有する鎖状の部位は、低弾性の観点から、炭素数4以上の直鎖状であることが好ましく、炭素数5以上の直鎖状であることがより好ましい。鎖状と環状との組み合わせ方に特に制限はなく、-鎖状-環状であってもよいし、-環状-鎖状であってもよいし、-鎖状-環状-鎖状であってもよいが、-環状-鎖状であることが好ましい。-環状-鎖状の具体例としては、4-ペンチルシクロヘキシル基(C11)、4-オクチルシクロヘキシル基(C14)、4-デシルシクロヘキシル基(C16)、4-ペンチルシクロオクチル基(C13)、4-オクチルシクロオクチル基(C16)等が挙げられる。これらの中でも、-環状-鎖状としては、4-ペンチルシクロヘキシル基(C11)が好ましい。
【0017】
なお、炭化水素基a1及び炭化水素基a2は、フェノール部位のヒドロキシ基の結合した位置(1位)に対してメタ位(3位又は5位)に置換していることが好ましい。
【0018】
(A1)成分及び(A2)成分としては、低弾性及び低吸湿性の観点から、下記一般式(a1)で表される構造単位(a1)及び下記一般式(a2)で表される構造単位(a2)からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。なお、(A1)成分及び(A2)成分は、構造単位(a2)を少なくとも1つは有するといえる。
【化6】

(上記一般式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい環形成原子数5~15の芳香族炭化水素基、又は、前記脂肪族炭化水素基と前記芳香族炭化水素基との組み合わせを示し、Rは、炭素数10~25の脂肪族炭化水素基を示す。なお、(A1)成分の場合においては、Rは、炭素数10~25の鎖状脂肪族炭化水素基であり、(A2)成分の場合においては、Rは、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基との組み合わせである炭素数が10~25の脂肪族炭化水素基である。Xは、水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基である。m及びnは、それぞれ独立に、0又は1である。)
【0019】
前記一般式(a1)及び(a2)中、「-*」は結合手を示す。一般式(a1)中の3つの結合手のうち少なくとも1つは他の構造単位と結合し、一般式(a2)中の3つの結合手のうち少なくとも1つは他の構造単位と結合する。各式中の結合手のうち、他の構造単位の結合手と結合しない結合手は、水素原子に結合する。
但し、構造単位(a1)中のベンゼン環と構造単位(a2)中のベンゼン環とはメチレン基を介して結合し、直接結合しない。また、同一分子中に2以上の構造単位(a1)を有し、構造単位(a1)同士が結合している場合、各構造単位(a1)中のベンゼン環はメチレン基を介して結合し、直接結合しない。同様に、同一分子中に2以上の構造単位(a2)を有し、構造単位(a2)同士が結合している場合、各構造単位(a2)中のベンゼン環はメチレン基を介して結合し、直接結合しない。
【0020】
つまり、一般式(a1)中のベンゼン環から伸びる結合手は、他の構造単位に結合するか、又は水素原子に結合する。他の構造単位に結合する場合、該結合手は、該他の構造単位(別の構造単位(a1)、又はmおよびnの少なくとも一方が1である構造単位(a2))のメチレン基に結合する。
一般式(a1)中のメチレン基から伸びる結合手は、他の構造単位(構造単位(a2)又は別の構造単位(a1))のベンゼン環に結合する。
【0021】
一般式(a2)中のベンゼン環から伸びる結合手は、他の構造単位に結合するか、又は水素原子に結合する。他の構造単位に結合する場合、該結合手は、該他の構造単位(構造単位(a1)、又はmおよびnの少なくとも一方が1である別の構造単位(a2))のメチレン基に結合する。
一般式(a2)中のmが0(又はnが0)である場合、-(CH-*(又は-(CH-*)は、前記ベンゼン環から伸びる結合手と同様の結合手(-*)を示す。すなわち、他の構造単位に結合するか、又は水素原子に結合する。他の構造単位に結合する場合、該結合手は、前記ベンゼン環から伸びる結合手と同様に、他の構造単位のメチレン基に結合する。
一般式(a2)中のmが1(又はnが1)である場合、-(CH-*(又は-(CH-*)はメチレン基であり、その結合手は、他の構造単位(構造単位(a1)、又は別の構造単位(a2))のベンゼン環に結合する。
【0022】
一般式(a1)において、ベンゼン環におけるRの結合位置は、安価であるという観点及び合成した樹脂が容易に液状化するという観点から、ヒドロキシ基の結合した位置(1位)に対してオルト位(2位又は6位)が好ましく、この場合、一般式(a1)は、それぞれ、下記一般式(a1-1)又は(a1-2)で表される。
【化7】

(上記一般式(a1-1)及び(a1-2)中、Rは前記一般式(a1)中のRと同じである。)
なお、一般式(a1-1)及び(a1-2)中の*は、一般式(a1)中の*の前記説明と同様に説明される。
本明細書において、構造単位(a1)に関する記載は、構造単位(a1-1)又は構造単位(a1-2)に読み替えることができる。
【0023】
一般式(a1)において、ベンゼン環における単結合及びメチレン基の結合位置は、それぞれ、特に限定されない。典型的には、ヒドロキシ基の結合した位置(1位)に対してオルト位(2位又は6位)及びパラ位(4位)のいずれかである。
【0024】
前記式中、Rが示す脂肪族炭化水素基は、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)、環状、鎖状と環状との組み合わせのいずれであってもよいが、鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
また、該脂肪族炭化水素基は、炭素数1~9の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数2~9の不飽和脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。炭素数1~9の飽和脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、より好ましくは炭素数1~5の飽和脂肪族炭化水素基、更に好ましくは炭素数1~3の飽和脂肪族炭化水素基である。また、炭素数2~9の不飽和脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数2~6の不飽和脂肪族炭化水素基、より好ましくは炭素数2~4の不飽和脂肪族炭化水素基、更に好ましくは炭素数3の不飽和脂肪族炭化水素基、特に好ましくはアリル基である。
が示す脂肪族炭化水素基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、含酸素炭化水素基、含窒素環状基等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。前記含酸素炭化水素基としては、例えば、エーテル結合含有炭化水素基が挙げられる。前記含窒素環状基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、キノリニル基、イミダゾリル基等が挙げられる。
【0025】
が示す芳香族炭化水素基は、複素原子を含有しない芳香族炭化水素基(アリール基)であってもよいし、複素原子を含有する複素芳香族炭化水素基(ヘテロアリール基)であってもよいが、複素原子を含有しない芳香族炭化水素基(アリール基)が好ましい。該芳香族炭化水素基は、環形成原子数5~15であるが、本明細書において、「環形成原子数」とは、芳香環を形成している原子(例えば炭素原子、窒素原子、酸素原子等)の数を指し、芳香環に置換している原子(例えば水素原子等)の数は含まれない。
該芳香族炭化水素基としては、好ましくは環形成原子数5~12の芳香族炭化水素基であり、より好ましくは環形成原子数6~12の芳香族炭化水素基であり、更に好ましくは環形成原子数6~10の芳香族炭化水素基である。
該芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0026】
が示す前記脂肪族炭化水素基と前記芳香族炭化水素基との組み合わせとしては、-脂肪族炭化水素基-芳香族炭化水素基、-芳香族炭化水素基-脂肪族炭化水素基、-脂肪族炭化水素基-芳香族炭化水素基-脂肪族炭化水素基等が挙げられる。これらの中でも、-脂肪族炭化水素基-芳香族炭化水素基、いわゆるアラルキル基が好ましい。芳香族炭化水素基と脂肪族炭化水素基は、前述したRが示す前記脂肪族炭化水素基と前記芳香族炭化水素基と同様に説明される。
【0027】
Xは、水素原子、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基であり、好ましくは、水素原子、ヒドロキシメチル基である。
【0028】
が示す炭素数10~25の脂肪族炭化水素基は、前述した炭化水素基a1及び炭化水素基a2と同様に説明される。該Rは、フェノール部位のヒドロキシ基の結合した位置(1位)に対してメタ位(3位又は5位)に置換していることが好ましく、この場合、それぞれ、下記一般式(a2-1)又は(a2-2)で表される。
【化8】

(上記一般式(a2-1)及び(a2-2)中、X及びRは、前記一般式(a2)中のX及びRと同じである。)
なお、一般式(a2-1)及び(a2-2)中の*は、一般式(a2)中の*の前記説明と同様に説明される。
本明細書において、構造単位(a2)に関する記載は、構造単位(a2-1)又は構造単位(a2-2)に読み替えることができる。
【0029】
(A1)成分及び(A2)成分が構造単位(a1)及び構造単位(a2)を有する場合、構造単位(a1)及び構造単位(a2)は、各々について、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
(A1)成分及び(A2)成分中における前記構造単位(a2)に対する前記構造単位(a1)のモル比(構造単位(a1)/構造単位(a2))は、後述する(B)熱硬化性樹脂との反応性、並びに低弾性及び低吸湿性の観点から、好ましくは0~5.0、より好ましくは0.25~5.0、更に好ましくは1.0~3.0、特に好ましくは1.0~2.0である。
【0030】
(A1)成分及び(A2)成分の重量平均分子量(Mw)は、相溶性の観点から、好ましくは4,000以下、より好ましくは1,000~3,000、更に好ましくは1,200~2,000である。なお、重量平均分子量が1,000以上であると、(B)熱硬化性樹脂との反応性に優れ、耐熱性を損なうことがなく、且つ溶融粘度を維持できる傾向にある。
本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によって、テトラヒドロフラン(THF)を溶解液として用いて測定される値であって、標準ポリスチレン換算値である。重量平均分子量(Mw)は、より詳細には、実施例に記載の方法に従って測定される。
(A1)成分及び(A2)成分の水酸基当量は、ガラス転移温度の向上及び絶縁性の向上の観点から、好ましくは100~350g/eq、より好ましくは150~300g/eq、更に好ましくは200~250g/eqである。水酸基当量は、実施例に記載の方法に従って測定される。
【0031】
((A1)成分及び(A2)成分の製造方法)
(A1)成分及び(A2)成分の製造方法に特に制限はなく、公知のフェノール系樹脂の製造方法を採用することができる。例えば、特開2015-89940号公報に記載されている多価ヒドロキシ樹脂の製造方法を参照及び応用することができる。
好ましい製造方法の一態様としては、例えば、下記一般式(2)で表されるフェノール系化合物とホルムアルデヒドとを塩基性触媒の存在下で反応させ、得られた生成物と下記一般式(1)で表されるフェノール系化合物とを好ましくは酸性触媒の存在下で反応させる方法が挙げられる。下記一般式(1)で表されるフェノール系化合物は、前記構造単位(a1)を形成し、下記一般式(2)で表されるフェノール系化合物は、前記構造単位(a2)を形成する。すなわち、(A1)成分及び(A2)成分は、下記一般式(1)に由来する構造単位と、下記一般式(2)に由来する構造単位と、を含むものであることが好ましい。
【0032】
【化9】

(上記一般式(1)中のRは、前記一般式(a1)中のRと同じであり、上記一般式(2)中のR及びXは、前記一般式(a2)中のR及びXと同じである。)
【0033】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中における(A1)成分の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分総量100質量部に対して、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは1~20質量部、更に好ましくは2~10質量部、特に好ましくは3~5質量部である。(A1)成分の含有量が上記下限値以上であると、より一層低弾性及び高伸び性を得易くなり、上記上限値以下であると、より一層ガラス転移温度の低下、難燃性の低下及びタック性の上昇を抑制できる傾向にある。
なお、本明細書において、「樹脂成分総量」とは、必要に応じて含有することができる後述の(E)フィラー等の無機化合物及び有機溶剤を含有しないその他の成分の総量を意味し、(A)成分、(B)成分、(C)成分、必要に応じて含有する(D)成分等が含まれる。
【0034】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中における(A2)成分の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分総量100質量部に対して、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは1~30質量部、更に好ましくは5~20質量部、特に好ましくは10~15質量部である。(A2)成分の含有量が上記下限値以上であると、より一層低弾性及び高伸び性を得易くなり、上記上限値以下であると、より一層ガラス転移温度の低下、難燃性の低下及びタック性の上昇を抑制できる傾向にある。
【0035】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中における(A1)成分と(A2)成分との含有量比〔(A1)成分/(A2)成分〕は、質量基準で、好ましくは0.1~1、より好ましくは0.15~0.6、更に好ましくは0.2~0.4である。
【0036】
(A)フェノール系樹脂中における(A1)成分と(A2)成分の総量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0037】
〔(B)熱硬化性樹脂〕
(B)熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂を用いることができ、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド系化合物、ビスマレイミド系化合物とジアミンとの付加重合物、イソシアネート樹脂、トリアリルイソシアヌレート樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂及びビニル基含有ポリオレフィンからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。これらの中でも、耐熱性及び絶縁性等の性能のバランスの観点から、エポキシ樹脂、シアネート樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。
(B)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本実施形態において、(B)熱硬化性樹脂の定義には(A)成分は含まれないものとする。
【0038】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、耐熱性及びガラス転移温度向上の観点から、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂は、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂、グリシジルアミンタイプのエポキシ樹脂、グリシジルエステルタイプのエポキシ樹脂等に分類され、これらの中でも、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、アラルキレン骨格含有エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールサリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、低級アルキル基置換フェノールサリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂、多官能脂環式エポキシ樹脂及びテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、相溶性の観点から、好ましくは200~600g/eq、より好ましくは300~500g/eq、更に好ましくは350~450g/eqである。エポキシ当量は、エポキシ基あたりの樹脂の質量(g/eq)であり、JIS K 7236に規定された方法に従って測定することができる。
【0040】
シアネート樹脂としては、例えば、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、ビスフェノールF型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂、ジシクロペンタジエン型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0041】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中における(B)熱硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分総量100質量部に対して、好ましくは40~90質量部、より好ましくは50~85質量部、更に好ましくは60~80質量部である。
(B)成分の官能基(例えばエポキシ基)に対する(A)成分のフェノール性水酸基の数は、特に限定されないが、0.5~1.5当量が好ましい。
(B)成分の含有量が上記範囲であると、金属箔との接着強度を保ち、且つガラス転移温度及び絶縁性の低下が抑制される傾向にある。
【0042】
〔(C)アクリル系ポリマー〕
(C)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を重合してなるものであれば特に限定されないが、下記一般式(c1)で表される構造単位(c1)、下記一般式(c2)で表される構造単位(c2)、下記一般式(c3)で表される構造単位(c3)及び下記一般式(c4)で表される構造単位(c4)を含むことが好ましい。
【0043】
【化10】

(Rc1は水素原子又はメチル基を示し、Rc2は炭素数1~3の炭化水素基を示す。)
【0044】
【化11】

(Rc3は水素原子又はメチル基を示し、Rc4は脂環式炭化水素基を含む炭素数5~22の炭化水素基を示す。)
【0045】
【化12】

(Rc5は水素原子又はメチル基を示し、Rc6は炭素数4~10の鎖状炭化水素基を示す。)
【0046】
【化13】

(Rc7は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、Zは、ヒドロキシ基、又は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を含む置換基を示す。)
【0047】
(一般式(c1)で表される構造単位)
上記一般式(c1)中のRc2が示す炭素数1~3の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
(C)成分が、構造単位(c1)を含むことによって、(C)成分は耐熱性に優れるものとなる。(C)成分が構造単位(c1)を複数含む場合、複数の構造単位(c1)は同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
構造単位(c1)は、(C)成分を得るための重合に使用する単量体成分の1つとして、炭素数1~3の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(以下、「単量体(c1)」ともいう)を使用することで、当該単量体に由来する構造単位として得られる。
単量体(c1)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
単量体(c1)としては、吸湿性の観点から、メタクリル酸エステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0049】
(一般式(c2)で表される構造単位)
上記一般式(c2)中のRc4が示す脂環式炭化水素基を含む炭化水素基の炭素数は、5~22であり、好ましくは6~15、より好ましくは7~10である。炭素数が上記下限値以上であると、単量体の化学的安定性が十分となると共に、(C)成分の吸湿率の低減効果が十分となり、22以下であると、(C)成分のガラス転移温度が十分なものとなる。
上記脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。(C)成分が、構造単位(c2)を含むことによって、吸湿率を効率良く低減でき、優れた耐電食性が得られる。
(C)成分が構造単位(c2)を複数含む場合、複数の構造単位(c2)は同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
構造単位(c2)は、(C)成分を得るための重合に使用する単量体成分の1つとして、環式炭化水素基を含む炭素数5~22の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(以下、「単量体(c2)」ともいう)を使用することで、当該単量体に由来する構造単位として得られる。
単量体(c2)としては、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸フェニルノルボルニル、(メタ)アクリル酸シアノノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ-8-イル、(メタ)アクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ-4-メチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、低吸湿性及び金属箔との接着性の観点から、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-8-イル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-4-メチル、(メタ)アクリル酸アダマンチルが好ましく、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ-8-イルがより好ましい。
【0051】
(一般式(c3)で表される構造単位)
上記一般式(c3)中のRc6が示す鎖状炭化水素基の炭素数は、4~10であり、好ましくは4~9、より好ましくは4~8である。炭化水素基の炭素数が上記下限値以上であると、エラストマの可とう性が良好となり、上記上限値以下であると、電気絶縁性が十分となる。
c6が示す炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよいが、熱分解による質量減少が起こり難く、耐熱性に優れる観点から、炭素数が4~10の直鎖状炭化水素基、又は3級炭素を有さない分岐鎖状炭化水素基であることが好ましい。
c6が示す炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル等が挙げられる。
(C)成分が構造単位(c3)を複数含む場合、複数の構造単位(c3)は同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
構造単位(c3)は、(C)成分を得るための重合に使用する単量体成分の1つとして、エステル部分に炭素数4~10の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルを使用することで、当該単量体(以下、「単量体(c3)」ともいう)に由来する構造単位として得られる。
単量体(c3)としては、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる(C)成分のガラス転移温度及びSP値の観点から、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ブチルが好ましく、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
【0053】
(一般式(c4)で表される構造単位)
上記一般式(c4)中のZは、ヒドロキシ基、又は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を含む置換基を示す。
(C)成分が構造単位(c4)を複数含む場合、複数の構造単位(c4)は同一であっても異なっていてもよい。
【0054】
構造単位(c4)は、(C)成分を得るための重合に使用する単量体成分の1つとして、エステル部分に置換基Zを有する(メタ)アクリル酸エステルを使用することで、当該単量体(以下、「単量体(c4)」ともいう)に由来する構造単位として得られる。
【0055】
上記置換基Zとして「ヒドロキシ基」を有する単量体(c4)としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。
【0056】
上記置換基Zとして「カルボキシ基を含む置換基」を有する単量体(c4)としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシ基含有モノマーが挙げられる。
【0057】
上記置換基Zとして「ヒドロキシ基を含む置換基」を有する単量体(c4)としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有モノマーが挙げられる。
【0058】
上記置換基Zとして「酸無水物基を含む置換基」を有する単量体(c4)としては、無水トリメリット酸(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、シクロヘキサントリカルボン酸無水物(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等の酸無水物基含有モノマーが挙げられる。
【0059】
上記置換基Zとして「アミノ基を含む置換基」を有する単量体(c4)としては、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル、(メタ)アクリル酸-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジニル等のアミノ基含有モノマーが挙げられる。
【0060】
上記置換基Zとして「アミド基を含む置換基」を有する単量体(c4)としては、N-(メタ)アクリロイルグリシンアミド等のアミド基含有モノマーが挙げられる。
【0061】
上記置換基Zとして「エポキシ基を含む置換基」を有する単量体(c4)としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、2-(2,3-エポキシプロポキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(2,3-エポキシプロポキシ)ブチル(メタ)アクリレート、5-(2,3-エポキシプロポキシ)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(2,3-エポキシプロポキシ)ヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸-3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸-4,5-エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、(メタ)アクリル酸-3-メチル-3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸-4-メチル-4,5-エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸-5-メチル-5,6-エポキシヘキシル、(メタ)アクリル酸-β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸-3-メチル-3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸-4-メチル-4,5-エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸-5-メチル-5,6-エポキシヘキシル等のエポキシ基含有モノマーが挙げられる。
【0062】
これらの単量体(c4)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの単量体(c4)の中でも、保存安定性の観点から、エポキシ基含有モノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸グリシジルがより好ましく、メタクリル酸グリシジルが更に好ましい。
【0063】
(C)成分中における各構造単位の含有量は、特に限定されないが、構造単位(c1)の含有量は1~60質量%、構造単位(c2)の含有量は1~20質量%、構造単位(c3)の含有量は5~90質量%、構造単位(c4)の含有量は1~20質量%であることが好ましい。
また、(C)成分中における構造単位(c1)の含有量は、特に限定されないが、より好ましくは10~50質量%、更に好ましくは15~40質量%である。構造単位(c1)の含有量が上記下限値以上であると、得られる(C)成分のガラス転移温度及びSP値に優れ、上記上限値以下であると、低弾性率が得られる。
(C)成分中における構造単位(c2)の含有量は、特に限定されないが、より好ましくは2~10質量%、更に好ましくは3~7質量%である。構造単位(c2)の含有量が上記下限値以上であると、吸湿性及び耐薬品性に優れ、上記上限値以下であると、機械的強度が十分となり、硬化物のレーザー加工性にも優れたものとなる。
(C)成分中における構造単位(c3)の含有量は、特に限定されないが、耐電食性と柔軟性の観点から、より好ましくは30~85質量%、更に好ましくは50~80質量%である。構造単位(c3)の含有量が上記下限値以上であると、耐電食性に優れ、上記上限値以下であると、優れたガラス転移温度が得られる。
(C)成分中における構造単位(c4)の含有量は、特に限定されないが、より好ましくは2~10質量%、更に好ましくは3~7質量%である。構造単位(c4)の含有量が上記下限値以上であると、より一層接着性及び強度が十分となり、上記上限値以下であると、共重合する際の架橋反応を抑制し、保存安定性も良好となる。
(C)成分中におけるその他の構造単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0064】
((C)成分の製造方法)
(C)成分は、単量体(c1)、単量体(c2)、単量体(c3)及び単量体(c4)を含有する単量体混合物を重合することで得られるものが好ましい。
上記単量体混合物は、単量体(c1)、単量体(c2)、単量体(c3)及び単量体(c4)のみからなるものであってもよいが、これらの単量体と共重合可能な、その他の単量体を含有していてもよい。
その他の単量体としては、例えば、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-フルオロスチレン、α-クロルスチレン、α-ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、(o-、m-、p-)ヒドロキシスチレン、スチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物類;N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-i-プロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-i-ブチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のN-置換マレイミド類;酢酸ビニルなどが挙げられる。
その他の単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
各単量体の使用量は、得られる(C)成分中における各構造単位の含有量が上記した範囲となるように調整することが好ましい。
【0066】
(C)成分を製造するための重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、沈殿重合、乳化重合等の既存の方法を適用することができる。これらの中でも、経済性の観点から、懸濁重合が好ましい。
懸濁重合は、例えば、懸濁剤を添加した水性媒体中で行うことができる。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子;リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール等の非イオン性の水溶性高分子が好ましい。懸濁剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
懸濁剤の使用量は、単量体の総量100質量部に対して、例えば、0.01~1質量部である。
【0067】
(C)成分を製造するための重合には、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン-1-カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性触媒;過酸化物又は過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス触媒などが挙げられる。ラジカル重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体の総量100質量部に対して、例えば、0.01~10質量部である。
【0068】
(C)成分を製造するための重合には、得られる(C)成分の分子量を調整する観点から、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
重合温度は、特に限定されないが、例えば、0~200℃の範囲であり、反応速度及び生産性の観点から、好ましくは40~120℃である。
【0070】
((C)成分の物性)
(C)成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは100,000~1,000,000、より好ましくは200,000~900,000、更に好ましくは300,000~800,000である。重量平均分子量が上記下限値以上であると、十分な低弾性率を有し、金属箔との高い接着強度が得られ、上記上限値以下であると、溶剤への溶解性がよく加工性が良好となる。
【0071】
(C)成分の溶解度パラメータ(SP値)は、特に限定されないが、好ましくは10.0~12.0、より好ましくは10.1~11.0、更に好ましくは10.2~10.5である。SP値が上記下限値以上であると、耐熱性が向上する傾向にあり、上記上限値以下であると、絶縁信頼性が向上する傾向にある。
なお、(C)成分のSP値は、Fedors法によって、材料の構造からSP値を算出することができる。材料の構造から、構成されている官能基の員数分を、下記表に示す各官能基におけるモル凝集エネルギー及びモル分子容量をそれぞれ合計することによって、合計モル凝集エネルギー及び合計モル分子容量を求め、下記式(1)により算出する。
【0072】
【表1】
【0073】
【数1】

式(1)中の記号はそれぞれ、δiはSP値、ΔEiは合計モル凝集エネルギー、ΔViは合計モル分子容量を示す。
【0074】
具体的に、メタクリル酸メチルの場合を例として、上記の方法によりSP値を算出すると、次のようになる。この場合、メタクリル酸メチルは、
構造式: CH―C(=CH)―C(=O)―O―CH
員数: CH 2個
CH 1個
>C< 1個
>CO 1個
―O― 1個
であり、表1より、
合計モル凝集エネルギー(ΔEi):(1125×2)+(1180×1)+(350×1)+(4150×1)+(800×1)=8730
合計モル分子容量(ΔVi):(33.5×2)+(16.1×1)+(-19.2×1)+(10.8×1)+(3.8×1)=78.5
となり、これを式(1)に適用して、
【0075】
【数2】
【0076】
と溶解度パラメータ(SP値)が算出される。
(C)アクリル系ポリマーのSP値は、各単量体の構成割合から算出する。具体的に、重量比でメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル=40で共重合させた場合例として、SP値を算出すると、次のようになる。メタクリル酸メチルのSP値は10.55、アクリル酸ブチルのSP値は10.21の為、10.55×0.4+10.21×0.6=10.35と算出される。
【0077】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中における(C)成分の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分総量100質量部に対して、好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~40質量部、更に好ましくは15~30質量部である。(C)成分の含有量が上記下限値以上であると、低弾性、柔軟性及び高伸び性に優れ、金属箔との十分な密着強度が得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、十分な耐熱性が得られる。
【0078】
〔(D)硬化促進剤〕
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、更に、(D)硬化促進剤を含有することが好ましい。(D)硬化促進剤は、(B)熱硬化性樹脂の種類によって適宜選択することができ、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
例えば、(B)成分としてエポキシ樹脂を用いる場合、(D)硬化促進剤としては、特に限定されないが、アミン化合物、イミダゾール化合物が好ましく、イミダゾール化合物がより好ましい。
アミン化合物としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルエタン、グアニル尿素等が挙げられる。
イミダゾール化合物としては、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール化合物が好ましく、2-フェニルイミダゾールがより好ましい。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物が(D)硬化促進剤を含有する場合、(D)硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部、更に好ましくは0.05~3質量部である。
【0079】
〔(E)フィラー〕
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、更に、(E)フィラーを含有することが好ましい。
(E)フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(E)フィラーは特に制限されるものではなく、公知のものを使用できる。(E)フィラーとしては、有機フィラーであってもよいし、無機フィラーであってもよいが、低熱膨張率及び難燃性の観点から、無機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、クレー(焼成クレー等)、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、低誘電率及び低熱膨張率の観点から、シリカが好ましい。シリカとしては、例えば、湿式法で製造され含水率の高い沈降シリカと、乾式法で製造され結合水等をほとんど含まない乾式法シリカ等が挙げられ、乾式法シリカとしては更に、製造法の違いにより破砕シリカ、フュームドシリカ、溶融シリカ(溶融球状シリカ)等が挙げられる。これらの中でも、溶融シリカ(溶融球状シリカ)、粉砕シリカが好ましい。
【0080】
(E)フィラーの平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.3~4.0μmである。平均粒径が0.1μm以上であると、フィラー同士の分散性が良好となり、且つワニスの粘度低下により取り扱い性が良好となる傾向にある。また、平均粒径が10μm以下であると、ワニス化の際に(E)フィラーの沈降が起き難い傾向にある。ここで、平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めたとき、体積50%に相当する点の粒子径のことであり、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0081】
(E)フィラーは、分散性の向上、並びにプリプレグの基材への密着性及び金属箔への密着性の向上の観点から、カップリング剤によって表面処理されたものであってもよい。
カップリング剤としては、シランカップリング剤が好ましく、該シランカップリング剤としては、エポキシシラン系カップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、ビニルシラン系カップリング剤、フェニルシラン系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でも、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。カップリング剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、カップリング剤を用いる場合、熱硬化性樹脂組成物中に(E)フィラーを配合した後、カップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、予めカップリング剤を乾式又は湿式で表面処理した(E)フィラーを使用する方式が好ましい。
【0082】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物が(E)フィラーを含有する場合、(E)フィラーの含有量は、特に限定されないが、樹脂成分総量100質量部に対して、好ましくは10~150質量部、より好ましくは20~100質量部、更に好ましくは30~70質量部である。(E)フィラーの含有量が上記下限値以上であると、低熱膨張性、耐熱性及び低タック性に優れ、上記上限値以下であると、低弾性効果が十分に得られる傾向にある。
【0083】
〔その他の成分〕
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、上記(B)成分の硬化剤(但し、上記(A)成分を除く。);イソシアネート、メラミン等の架橋剤;ゴム系エラストマ;リン系化合物等の難燃剤;導電性粒子;カップリング剤;流動調整剤;酸化防止剤;顔料;レベリング剤;消泡剤;イオントラップ剤などを含有していてもよい。
【0084】
〔有機溶剤〕
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、後述するプリプレグの製造を容易にする観点から、有機溶剤を含有するワニス状の熱硬化性樹脂組成物であってもよい。有機溶剤は、上記(A)成分、(B)成分等を製造する際に用いた有機溶剤がそのまま含有されたものであってもよいし、新たに配合したものであってもよい。
有機溶剤としては、特に限定されないが、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、ケトン系溶剤が好ましい。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。有機溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ワニスとしては、取り扱い性、プリプレグの基材への含浸性及びプリプレグの外観の観点から、不揮発分濃度が25~65質量%であることが好ましい。なお、本明細書において、「不揮発分」とは、熱硬化性樹脂組成物に含まれる有機溶剤を除去したときに残存する成分を指し、上記(E)フィラーも含まれる。
【0085】
(貯蔵弾性率)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物(積層板)の貯蔵弾性率は、特に限定されないが、応力緩和効果を発現させる観点から、好ましくは4.0GPa以下、より好ましくは3.7GPa以下、更に好ましくは3.2GPa以下、特に好ましくは2.7GPa以下である。貯蔵弾性率の下限値に特に制限はなく、1.0GPa以上であってもよい。貯蔵弾性率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0086】
(引張り伸び率)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物(積層板)の25℃での引張り伸び率は、特に限定されないが、応力緩和効果を発現させる観点から、好ましくは2.5%以上、より好ましくは2.8%以上、更に好ましくは3.0%以上、特に好ましくは3.1%以上である。25℃での引張り伸び率の上限値に特に制限はないが、6.0%以下であってもよい。
125℃での引張り伸び率は、特に限定されないが、高温環境下における応力緩和効果を発現させ、且つ、常温環境と高温環境との間の温度変化が起こる際の熱膨張に対する復元性の観点から、好ましくは6.0%以上、より好ましくは8.0%以上、更に好ましくは9.0%以上、より更に好ましくは9.5%以上、特に好ましくは9.7%以上、最も好ましくは9.8%以上である。125℃での引張り伸び率の上限値に特に制限はないが、通常、12.0%以下である。引張り伸び率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0087】
(銅箔引き剥がし強さ)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物において、25℃での銅箔引き剥がし強さは、特に限定されないが、実施例に記載の方法に従って測定したとき、好ましくは0.50kN/m以上、より好ましくは0.80kN/m以上、更に好ましくは0.83kN/m以上、特に好ましくは0.85kN/m以上である。25℃での銅箔引き剥がし強さの上限値に特に制限はないが、通常、2.0kN/m以下であってもよい。
また、125℃での銅箔引き剥がし強さは、特に限定されないが、好ましくは0.40kN/m以上、より好ましくは0.50kN/m以上、更に好ましくは0.55kN/m以上、特に好ましくは0.57kN/m以上、最も好ましくは0.60kN/m以上である。125℃での銅箔引き剥がし強さの上限値に特に制限はないが、1.50kN/m以下であってもよい。
【0088】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、金属箔との接着性を高める観点から、相分離構造を形成していないことが好ましい。相分離構造を形成しないことによって、常温環境下及び高温環境下における伸び率が向上し、これによって、応力緩和効果を効果的に発現できるため、金属箔との接着性を高めることができる。なお、本実施形態において、相分離構造の有無は、実施例に記載の方法により確認することができる。
【0089】
[プリプレグ]
本実施形態のプリプレグは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を含有してなる。
本実施形態のプリプレグは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸し、乾燥して製造することができる。
基材は、金属張積層板又はプリント配線板を製造する際に用いられる基材であれば特に制限されないが、通常、織布、不織布等の繊維基材が用いられる。繊維基材の材質としては、ガラス、アルミナ、アスベスト、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維;アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維;並びにこれらを混抄した繊維などが挙げられる。これらの中でも、ガラスクロスが好ましい。繊維基材の厚さは、例えば、160μm以下であり、好ましくは10~160μm、より好ましくは15~100μm、更に好ましくは20~50μmである。
繊維基材は、特に任意に折り曲げ可能なプリント配線板を得ることができ、製造プロセス上での温度、吸湿等に伴う寸法変化を小さくすることが可能となることから、50μm以下のガラスクロスであることが好ましい。
【0090】
プリプレグの製造条件に特に制限はないが、ワニスが含有する有機溶剤を80質量%以上揮発させてプリプレグを得ることが好ましい。乾燥温度としては、好ましくは80~180℃、より好ましくは110~160℃である。
【0091】
[樹脂付き金属箔]
本実施形態の樹脂付き金属箔は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物と金属箔とを積層してなる。
本実施形態の樹脂付き金属箔は、例えば、必要に応じてワニス状にした本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を金属箔に塗工し、乾燥させることによって製造することができる。
乾燥条件は、特に限定されないが、乾燥温度は、好ましくは80~180℃、より好ましくは110~160℃である。
塗工する方法に特に制限はなく、ダイコーター、コンマコーター、バーコーター、キスコーター、ロールコーター等の公知の塗工機を用いることができる。
【0092】
[積層体]
本実施形態の積層体は、本実施形態のプリプレグ又は本実施形態の樹脂付き金属箔を含有してなる。
本実施形態の積層体は、例えば、本実施形態のプリプレグ複数枚を積層し、加熱加圧して製造することができる。
本実施形態の積層体は、プリプレグとして本実施形態のプリプレグのみを含有するものであってもよいが、本実施形態とは異なるプリプレグ複数枚からなる積層体と、本実施形態のプリプレグ複数枚からなる積層体との積層物であってもよい。本実施形態とは異なるプリプレグ複数枚からなる積層体とは、例えば、本実施形態のプリプレグ複数枚からなる積層体よりも貯蔵弾性率が高い積層体が挙げられる。本実施形態のプリプレグ複数枚からなる積層体によって応力緩和効果が得られるため、当該態様とすることにより、本実施形態とは異なるプリプレグ複数枚からなる積層体のみを用いた場合に生じ得るプリント配線板のクラックの発生を抑制することができる。
【0093】
本実施形態の積層体は、本実施形態のプリプレグと金属箔とを積層してなる金属張積層板であってもよい。
金属張積層板は、例えば、上記積層体の両側の接着面と金属箔とを合わせるように重ね、真空プレス条件にて、好ましくは130~250℃、より好ましくは150~230℃、且つ、好ましくは0.5~10MPa、より好ましくは1~5MPaの条件で加熱加圧成形することによって製造することができる。
また、本実施形態の樹脂付き金属箔を2つ準備し、その樹脂面同士が向き合うように重ね、真空プレス条件にてプレスすることによっても金属張積層板を製造することもできる。加熱加圧方法については、特に限定されず、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機等を使用することができる。
【0094】
本実施形態の樹脂付き金属箔及び上記金属張積層板に用いられる金属箔としては、特に限定されないが、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられる。
金属箔の厚みは、特に限定されないが、一般的に積層板に用いられる金属箔の厚みである1~200μmの範囲から選択することが好ましく、より好ましくは10~100μm、更に好ましくは10~50μmである。
【0095】
[プリント配線板]
本実施形態のプリント配線板は、本実施形態の積層板を含有してなる。
本実施形態のプリント配線板は、例えば、本実施形態の積層板に回路加工してなるものであり、その製造方法としては、片面又は両面に金属箔が設けられた本実施形態の積層体(金属張積層板)の金属箔に、公知の方法により、回路(配線)加工を施す方法が挙げられる。
【0096】
[半導体パッケージ]
本実施形態の半導体パッケージは、本実施形態のプリント配線板を含有してなるものである。本実施形態の半導体パッケージは、本実施形態のプリント配線板の所定の位置に、公知の方法により、半導体チップ、メモリ等を搭載して製造することができる。
【実施例
【0097】
以下、実施例及び比較例を示し、本実施形態について具体的に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
なお、各例で使用した成分の重量平均分子量及び水酸基当量は、以下の方法によって測定した。
【0098】
[重量平均分子量]
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレン:TSKstandard POLYSTYRENE(Type;A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40)[東ソー株式会社製、商品名]を用いて3次式で近似した。GPCの測定条件を、以下に示す。
装置:
ポンプ:L-6200型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
検出器:L-3300型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラムオーブン:L-655A-52[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラム:ガードカラム;TSK Guardcolumn HHR-L+カラム;TSKgel G4000HHR+TSKgel G2000HHR(全て東ソー株式会社製、商品名)
カラムサイズ:6.0mm×40mm(ガードカラム)、7.8mm×300mm(カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:30mg/5mL
注入量:20μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
【0099】
[水酸基当量]
(A)フェノール系樹脂の水酸基当量(g/eq)は、自動滴定装置「COM-1700S」(平沼産業株式会社製)を用い、無水酢酸によるアセチル化法で滴定して求めた。
【0100】
[(A)フェノール系樹脂の合成]
合成例1
((A1)成分:フェノール系樹脂(A-1)の合成)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた内容量2Lのガラス製フラスコに、カルダノール300g(1.0mol)、メタノール150g、50%ホルムアルデヒド水溶液120g(2.0mol)を仕込み、その混合液に30%水酸化ナトリウム水溶液を2時間かけて滴下した。その後、45℃まで昇温し、6時間反応させた。次いで、得られた反応液に35%塩酸を添加して水酸化ナトリウムを中和した後、o-アリルフェノールを1,342g(10mol)添加し、シュウ酸を1.34g(o-アリルフェノールに対して0.1質量%)添加して系内を酸性にし、100℃まで昇温してから5時間反応を行った。その後、反応液の水洗を行ってから、過剰のo-アリルフェノールを留去し、フェノール系樹脂(A-1)を得た。
得られたフェノール系樹脂(A-1)の重量平均分子量(Mw)は1,412、水酸基当量は214g/eqであった。
【0101】
合成例2
((A2)成分:フェノール系樹脂(A-2)の合成)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた内容量2Lのガラス製フラスコに、p-(4-ペンチルシクロヘキシル)フェノール248g(1.0mol)、メタノール150g、50%ホルムアルデヒド水溶液120g(2.0mol)を仕込み、その混合液に30%水酸化ナトリウム水溶液を2時間かけて滴下した。その後、45℃まで昇温し、6時間反応させた。次いで、得られた反応液に35%塩酸を添加して水酸化ナトリウムを中和した後、o-アリルフェノールを1,342g(10mol)添加し、シュウ酸を1.34g(o-アリルフェノールに対して0.1質量%)添加して系内を酸性にし、100℃まで昇温してから5時間反応を行った。その後、反応液の水洗を行ってから、過剰のo-アリルフェノールを留去し、フェノール系樹脂(A-2)を得た。
得られたフェノール系樹脂(A-2)の重量平均分子量(Mw)は1,738、水酸基当量は238g/eqであった。
【0102】
[(C)アクリル系ポリマーの合成]
合成例3
(アクリル系ポリマー(C-1)の合成)
表2に記載の単量体配合比率(質量基準)で混合して得られた単量体混合物(合計1000g)に、過酸化物として過酸化ラウロイルを5g、連鎖移動剤としてn―オクチルメルカプタンを0.45g溶解させ、混合液とした。
次に、撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコールを0.3g、イオン交換水を2000g加えて撹拌しながら上記混合液を加え、撹拌回転数250回転/分、窒素雰囲気下において60℃で5時間、次いで90℃で2時間重合させ、樹脂粒子を得た。この樹脂粒子を水洗、脱水及び乾燥し、メチルエチルケトンに加熱残分が30質量%となるように溶解させ、アクリル系ポリマー(C-1)の溶液を得た。
【0103】
合成例4~7
(アクリル系ポリマー(C-2)~(C-5)の合成)
合成例3において、単量体配合比率を、表2に記載の通りに変更した以外は、合成例3と同様にして、アクリル系ポリマー(C-2)~(C-5)の溶液を得た。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例1~6、比較例1~4
表3に示す(D)成分以外の各成分を表3に示す配合組成(表中の配合量は質量部であり、溶液(有機溶媒を除く)又は分散液の場合は固形分換算量である。)で配合し、メチルイソブチルケトンに溶解後、(D)成分を表3に記載の配合組成に従って配合し、不揮発分40質量%のワニスを得た。なお、表3に記載の各成分の詳細は以下の通りである。
【0106】
[(A)フェノール系樹脂]
(A-1):合成例1で得たフェノール系樹脂(A-1)
(A-2):合成例2で得たフェノール系樹脂(A-2)
【0107】
[(B)熱硬化性樹脂]
EPICLON 153:テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名、エポキシ当量400g/mol)
【0108】
[(C)アクリル系ポリマー]
(C-1)~(C-5):合成例3~7で得られたアクリル系ポリマー(C-1)~(C-5)
【0109】
[(E)フィラー]
・Megasil 525 ARI:アミノシラン系カップリング剤により処理された溶融シリカ(シベルコ・ジャパン株式会社製、商品名、平均粒子径:1.9μm、比表面積5.8m/g)
・F05-12:破砕シリカ(福島窯業株式会社製、商品名、平均粒子径2.5μm)
・SC-2050-KNK:アミノシランカップリング剤処理を施したシリカフィラー(株式会社アドマテックス製、商品名、平均粒子径0.5μm)
【0110】
各例で作製したワニスを用いて、以下の方法によってプリプレグ、樹脂付き銅箔及び銅張積層板を作製し、後述の方法によって各評価を行った。
【0111】
[プリプレグの作製]
各例で作製したワニスを、厚さ0.028mmのガラスクロス1037(旭シュエーベル株式会社製、商品名)に含浸後、140℃にて10分間加熱して乾燥させ、プリプレグを得た。
【0112】
[樹脂付き銅箔の作製]
各例で作製したワニスを、厚さ35μmの電解銅箔「YGP-35」(日本電解株式会社製、商品名)に塗工機により塗工し、140℃にて約6分間熱風乾燥させ、塗布厚さ50μmの樹脂付き銅箔を作製した。
【0113】
[銅張積層板の作製]
4枚重ねたプリプレグの両側に厚さ35μmの電解銅箔「YGP-35」(日本電解株式会社製、商品名)を接着面がプリプレグと合わさるように重ね、200℃にて60分間、4MPaの真空プレス条件で両面銅張積層板を作製した。
また、樹脂付き銅箔は樹脂面が向き合うように重ね、200℃にて60分間、4MPaの真空プレス条件で両面銅張積層板を作製した。
【0114】
(1)相分離構造の確認
相分離構造の確認は、樹脂付き銅箔から作製した両面銅張積層板の樹脂絶縁層の断面をミクロトームにて平滑化した後、過硫酸塩溶液でエッチングして得たサンプルを、SEM観察(装置名:SU-3500、日立ハイテクノロジーズ(株)社製、加速電圧10KV)することによって行った。なお、SEM観察において、3000倍で相分離構造が確認されたものを相分離「有り」、相分離構造が確認されなかったものを相分離「無し」とした。結果を表3に示す。
【0115】
(2)貯蔵弾性率
貯蔵弾性率の評価は、樹脂付き銅箔から作製した両面銅張積層板の銅箔を全面エッチングすることによって得た積層板を、幅5mm×長さ30mmに切断し、動的粘弾性測定装置(株式会社UBM製)を用いて貯蔵弾性率を測定した。25℃の貯蔵弾性率が4.0GPa以下であれば十分に低弾性であり、応力緩和効果を発現可能であり、プリント配線板のクラックの発生を抑制し得ると判断した。結果を表3に示す。
【0116】
(3)耐熱性
プリプレグから作製した両面銅張積層板を50mm四方の正方形に切り出して試験片を得た。その試験片を260℃のはんだ浴中に浮かべて、その時点から試験片の膨れが目視で認められる時点までに経過した時間を測定し、耐熱性の指標とした。なお、経過時間の測定は1800秒までとし、1800秒以上経過した場合は耐熱性が十分であると判断した。結果を表3に示す。
【0117】
(4)引張り伸び率(25℃及び125℃)
樹脂付き銅箔から作製した両面銅張積層板の銅箔を全面エッチングすることによって得た積層板を、幅10mm×長さ100mmに切断し、恒温槽設置型オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて25℃及び125℃における引張り伸び率を測定した。25℃の引張り伸び率が3.0%以上及び125℃での引張り伸び率が5.0%以上であれば応力緩和効果を発現可能であると判断した。結果を表3に示す。
【0118】
(5)銅箔引き剥がし強さ(25℃及び125℃)
4枚重ねた上記プリプレグから作製した両面銅張積層板の銅箔を部分的にエッチングして、3mm幅の銅箔ラインを形成した。次に、恒温槽設置型剥離試験機(株式会社島津製作所製)を用い、温度25℃又は125℃の環境下に設定し、銅箔ラインを、接着面に対して90°方向に50mm/分の速度で引き剥がした際の荷重を測定し、金属箔との接着性の指標とした。25℃での銅箔引き剥がし強さが0.80kN/m以上及び125℃での銅箔引き剥がし強さが0.40kN/m以上であれば、金属箔との接着性が十分であると判断した。結果を表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
表3から明らかなように、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を用いた実施例1~6は、十分な耐熱性及び低弾性率を有し、常温環境下及び高温環境下での金属箔との高い接着強度を有することが分かる。一方、(A1)成分を含有しない比較例1、2及び4は、高温環境下の引張り伸び率が小さかった。更に、(C)成分を含有しない比較例3及び4は、貯蔵弾性率が大きくなった。