(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】癌を検出する方法及び検出試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220823BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220823BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220823BHJP
C07K 14/475 20060101ALN20220823BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20220823BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/574 A ZNA
G01N27/62 V
C07K14/475
C07K16/24
(21)【出願番号】P 2018153902
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2017165409
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】明庭 昇平
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-502106(JP,A)
【文献】BAUSKIN, A R et al.,The Propeptide Mediates Formation of Stromal Stores of PROMIC-1: Role in Determining Prostate Cancer Outcome,Cancer Research,2005年03月15日,Vol.65, No.6,pp.2330-2336
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体において、インタクト増殖分化因子(GDF15)プロペプチド量を測定することを含む、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
【請求項2】
検体において、GDF15プロペプチド断片量を測定することを含む、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
【請求項3】
検体において、インタクトGDF15プロペプチド量とGDF15プロペプチド断片量との合計量を測定することを含む、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の癌を検出する方法において、胃癌、膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、若しくは食道癌を検出する、又は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とを鑑別して検出する方法。
【請求項5】
前記GDF15プロペプチド断片が、以下の(A)及び/又は(B)に記載のGDF15プロペプチド断片を含む、請求項2又は3に記載の方法。
(A)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の58残基目のリジンから少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
(B)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の74残基目のグルタミン酸から少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
【請求項6】
GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を用いて前記測定を行う、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
質量分析法を用いて前記測定を行う、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
GDF15プロペプチドを認識する抗体を含む、癌を検出するための試薬(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の増殖分化因子15(Growth and Differentiation Factor 15、以降「GDF15」とも記す)タンパク質のプロペプチド及びその分解物、並びにそれらを測定対象とする癌の検出方法及び検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌を検出するための腫瘍マーカーとしては、一般的に表1に示すようなものが挙げられる。しかし、いずれのマーカーも癌の早期における陽性率は低く、良性腫瘍や炎症における偽陽性や悪性度の高い癌では検出できないなど課題のあるものも多い。そのため、これらの癌を高い精度で検出可能な腫瘍マーカーの発見および検査法の開発が望まれている。
【0003】
【0004】
増殖分化因子15(GDF15)は、マクロファージ阻害サイトカイン1(Macropharge Inhibitory Cytokine 1:MIC-1)や非ステロイド系抗炎症薬活性化遺伝子1(Nonsteroidal anti-inflammatory drug-Activated Gene 1:NAG-1)と同一のタンパク質であり、TGF-βファミリーに属する。GDF15は分泌シグナル及びプロペプチドを含むプレプロGDF15として発現後、分泌シグナルが切断されプロGDF15として細胞外へ分泌される。プロGDF15はプロペプチドを介して細胞外マトリックスに貯蔵され、フューリン様プロテアーゼによりプロペプチドから二量体を形成した状態でGDF15が切り離され血中へ放出される(非特許文献1)。プロGDF15は全長で分子量40,000付近、GDF15成熟体は分子量15,000付近に分画されることが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
GDF15は、膵臓癌や大腸癌等の様々な癌で血中の成熟体量が増加することが報告され、心疾患等の癌以外の疾病においても血中量増加の知見があり(特許文献1~6、非特許文献3~8)、他にも食欲調節や妊娠中の胎児検査への応用が試みられている(特許文献7~8)。
【0006】
しかし、これらの知見はいずれもGDF15成熟体に関するものであり、GDF15プロペプチドは細胞外マトリクスに局在するものと考えられていた(非特許文献2)。また、当該タンパク質を測定対象として疾患を検出することもその効果も不明であった。
【0007】
なお、GDF15プロペプチド(以下、「GDPP」とも記す)は、プロGDF15のN末端側に位置する165残基のポリペプチドである。より具体的には、本明細書におけるGDF15プロペプチドは、配列番号1に示すヒトGDF15のcDNA(GeneBank Accession No.:NM_004864)に基づくアミノ酸配列において、開始メチオニンから29残基目のアラニンまでのシグナルペプチドに続く、30残基目のロイシンから194残基目のアルギニンまでの配列を少なくとも含む、又は、前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-102461号公報
【文献】特開2009-545735号公報
【文献】特開2010-528275号公報
【文献】特開2011-523051号公報
【文献】特開2012-515335号公報
【文献】特開2015-108077号公報
【文献】特開2011-190262号公報
【文献】特開2003-532079号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Prostate Cancer Prostatic Dis. 2012;15(4):320-328
【文献】Cancer Res. 2005;65(6):2330-2336
【文献】Biochemical Pharmacology. 2013;85:597-606
【文献】Clin Cancer Res. 2009;15(21):6658-6664
【文献】Clin Cancer Res. 2011;17:4825-4833
【文献】Clin Cancer Res. 2003;9:2642-2650
【文献】Clin Cancer Res. 2006;12:442-446
【文献】BMC Cancer. 2014;14:578-588
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、癌を簡便かつ高い精度で検出する方法、及び前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、食道癌および胃癌において、GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いたイムノアッセイにより、血液中のGDF15プロペプチドは健常検体と比較してこれらの癌検体で増加を示すこと、並びに、肺癌において非小細胞肺癌に比べて小細胞肺癌でより上昇するという知見を得て、GDF15プロペプチドが癌、特に膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、食道癌若しくは胃癌を検出する、又は肺癌において非小細胞肺癌と小細胞肺がんとを鑑別して検出するマーカーとなり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]検体において、インタクト増殖分化因子(GDF15)プロペプチド量を測定することを含む、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
[2]検体において、GDF15プロペプチド断片量を測定することを含む、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
[3]検体において、インタクトGDF15プロペプチド量とGDF15プロペプチド断片量との合計量を測定することを含む、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
[4]上述の[1]~[3]の何れか一項に記載の癌を検出する方法において、胃癌、膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、若しくは食道癌を検出する、又は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とを鑑別して検出する方法。
[5]前記GDF15プロペプチド断片が、以下の(A)及び/又は(B)に記載のGDF15プロペプチド断片を含む、[2]又は[3]に記載の方法。
【0013】
(A)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の58残基目のリジンから少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
【0014】
(B)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の74残基目のグルタミン酸から少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
[6]GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を用いて前記測定を行う、[1]~[5]の何れか一項に記載の方法。
[7]質量分析法を用いて前記測定を行う、[1]~[5]の何れか一項に記載の方法。
[8]GDF15プロペプチドを認識する抗体を含む、癌を検出するための試薬(但し、去勢抵抗性前立腺癌を除く)。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、癌を簡便かつ高い精度で検出する方法、及び前記方法に利用できる試薬が提供される。
【0016】
また、本発明の試薬はGDF15プロペプチドを検出するものであり、GDF15発現制御はp53下流に位置しているため、既存の癌治療薬、特にタキサン系抗癌剤の治療効果を反映することが推測される。したがって、本発明の試薬は、癌の治療におけるコンパニオン診断薬にもなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】作製した各種組換えGDPPの構造を示す図である。
【
図3】ウェスタンブロッティング結果を示す図である。
【
図4】各種測定値のボックスプロット(Box Plot)を示す図である。
【
図5】受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図である。
【
図6】実施例6で測定、解析した結果を示す図である。
【
図7】健常人、食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌におけるiGDPPおよびtGDPP測定値のボックスプロット(Box Plot)を示す図である。
【
図8】食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌におけるCEA測定値のボックスプロット(Box Plot)を示す図である。
【
図9】非小細胞肺癌と小細胞肺癌におけるiGDPP、tGDPP、CEA測定値を比較した図である。
【
図10】非小細胞肺癌と小細胞肺癌におけるiGDPP、tGDPP、CEAのROC曲線解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1>本発明の癌を検出する方法
本発明の第一の態様は、癌を検出する方法(但し、去勢抵抗性前立腺癌(以下、「CRPC)とも記す)を除く)であり、検体においてGDF15プロペプチド量を測定することを含む。これは、健常な検体と比べて、癌の血液等の生体試料中に特徴的にGDF15プロペプチドが存在することに基づく方法である。この方法により、後述する実施例が示すように、従来知られた腫瘍マーカー(CA19-9、CEA)を測定した場合に比べて、癌(但し、CRPCを除く)、例えば膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、食道癌、若しくは胃癌を検出する、又は、非小細胞肺癌と小細胞肺がんとを鑑別して検出する際に、高い感度と特異度で検出することができる。
【0019】
本態様において測定対象であるGDF15プロペプチドには、配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の30残基目のロイシンから194残基目のアルギニンまでのアミノ酸配列からなるインタクトGDF15プロペプチド(以下、「iGDPP」とも記す)及び/又はGDF15プロペプチド断片が含まれ、GDF15プロペプチド断片には、dNT57-GDPP(配列番号2のアミノ酸配列の58残基目から167残基目に相当)、dNT73-GDPP(配列番号2のアミノ酸配列の74残基目から167残基目に相当)、及びその他のペプチド断片が含まれる。なお、インタクトGDF15プロペプチドは、分解されていないGDF15プロペプチドを指す。本発明の検出方法において、GDF15プロペプチド量を測定する方法は特に制限されない。例えば、GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した方法や、質量分析法を利用した方法が例示できる。
【0020】
GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した測定方法の具体例としては、以下のものが挙げられる。
(a)標識した測定対象及び測定対象を認識する抗体を用い、標識した測定対象及び検体に含まれる測定対象が、前記抗体に競合的に結合することを利用した競合法。
(b)測定対象を認識する抗体を固定化したチップに検体を接触させ、当該抗体と測定対象との結合に依存したシグナルを検出する表面プラズモン共鳴を用いた方法。
(c)蛍光標識した測定対象を認識する抗体を用い、当該抗体と測定対象とが結合することで蛍光偏光度が上昇することを利用した蛍光偏光免疫測定法。
(d)エピトープの異なる2種類の、測定対象を認識する抗体(うち1つは標識した抗体)を用い、当該2つの抗体と測定対象との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法。
(e)前処理として測定対象を認識する抗体により検体中の測定対象を濃縮後、その結合タンパクのポリペプチドを質量分析装置等により検出する方法。
【0021】
(d)、(e)の方法が簡便かつ汎用性が高いが、多検体を処理する上では(d)の方法が試薬及び装置に関する技術が十分確立されている点でより好ましい。
【0022】
GDF15プロペプチドを認識する抗体としては、GDF15プロペプチドのN末端領域を認識する、例えば配列番号2の30残基目のロイシンから57残基目のアルギニンまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体が、iGDPP量の測定に好ましく用いることができる。また、GDFプロペプチドのC末端領域を認識する、例えば配列番号2の74残基目のグルタミン酸から196残基目のアルギニンまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体が、iGDPP量とGDPP断片量との合計量(総GDPP、以降「tGDPP」とも記す)の測定に好ましく用いることができる。
【0023】
GDF15プロペプチドを認識する抗体は、GDF15プロペプチドそのもの、GDF15プロペプチドの部分領域からなるオリゴペプチド、プロGDF15タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することで得ることができる。
【0024】
免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いる哺乳動物でもよいし、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。
【0025】
なお、免疫原として、GDF15プロペプチドそのもの、またはGDF15プロペプチドの部分領域からなるオリゴペプチドを用いると、前記タンパク質または前記オリゴペプチドを調製する過程でその構造が変化する可能性がある。そのため、得られた抗体が、所望の抗原に対して高い特異性や結合力を有さない可能性があり、結果として検体中に含まれるGDF15プロペプチド量を正確に定量できなくなる可能性がある。一方、免疫原として、プロGDF15タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いると、免疫された動物の体内で構造変化を受けずに導入した通りのGDF15プロペプチドタンパク質のインタクトまたは部分領域が発現されるため、検体中のGDF15プロペプチドに対し、高い特異性及び結合力(すなわち高親和性)を有した抗体が得られるため好ましい。
【0026】
GDF15プロペプチドを認識する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であるのが好ましい。
【0027】
GDF15プロペプチドを認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地により所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行ない、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりモノクローン化を行なうことで、GDF15プロペプチドを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0028】
本発明の癌を検出する方法で用いる、GDF15プロペプチドを認識する抗体、例えば、GDF15プロペプチドを認識するモノクローナル抗体の選定は、宿主発現系に由来する、GPI(glycosyl phosphatidyl inositol)アンカー型GDF15プロペプチドまたは分泌型GDF15プロペプチドに対する親和性に基づいて行えばよい。
【0029】
なお、前記宿主としては特に限定はなく、当業者がタンパク質の発現に通常用いる、大腸菌や酵母などの微生物細胞、昆虫細胞、動物細胞の中から適宜選択すればよいが、ジスルフィド結合もしくは糖鎖付加といった翻訳後修飾により、天然型のGDF15プロペプチドに近い構造を有するタンパク質の発現が可能な、哺乳細胞を宿主として用いると好ましい。哺乳細胞の一例としては、従来用いられている、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK)293T細胞株、サル腎臓細胞COS7株、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはヒトから単離された癌細胞などが挙げられる。
【0030】
本発明の癌検出方法で用いる抗体の精製は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で樹立した、抗体を産生するハイブリドーマ細胞を培養後、その培養上清を回収し、必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿による抗体濃縮後、プロテインA、プロテインG、またはプロテインLなどを固定化した担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー及び/またはイオン交換クロマトグラフィーにより、抗体の精製が可能である。
【0031】
なお、前述したサンドイッチ法で抗原抗体反応を行なう際に用いる標識した抗体は、前述した方法で精製した抗体をペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼなどの酵素等で標識すればよく、その標識も技術が十分確立された方法を用いて行なえばよい。
【0032】
本発明の検出方法において、質量分析法を利用してGDF15プロペプチドを検出する方法について、以下に具体的に説明する。
【0033】
検体が血液である場合は、前処理工程として血液に多く含まれるアルブミン、イムノグロブリン、トランスフェリン等のタンパク質をAgilent Human 14等で除去した後、イオン交換、ゲル濾過または逆相HPLC等でさらに分画することが好ましい。
【0034】
測定は、タンデム質量分析(MS/MS)、液体クロマトグラフィ・タンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix assisted laser desorption ionizat-ion time-of-flight mass spectrometry、MALDI-TOF/MS)、表面増強レーザーイオン化質量分析(surface enhanced laser desorption ionization mass spectrometry、SELDI-MS)等により行うことができる。
【0035】
本発明の検出方法では、測定により得たGDF15プロペプチド量が、対照から算出した基準値(Cutoff値)を超えた場合に、膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌又は食道癌が検出されたと判定することが好ましい。また本発明の非小細胞肺癌と小細胞肺癌とを鑑別して検出する方法としては、非小細胞肺癌から算出した基準値(Cutoff値)を超えた場合に、小細胞肺癌が検出されたと判定することが好ましい。
【0036】
判定に用いるGDF15プロペプチド量は、測定値もしくは換算濃度値の何れでもよい。なお、換算濃度値は、GDF15プロペプチドを標準試料として作成された検量線に基づいて測定値から換算される値をいう。標準試料の濃度決定は、質量分析を用いた標準ペプチドの検量線に基づいて測定値から換算される値としてもよい。
【0037】
基準値(Cutoff値)は、健常人と膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、食道癌、若しくは胃癌、または、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とをそれぞれ測定し、受信者動作特性(ROC)曲線解析により最適な感度と特異度を示す測定値に適宜設定することができる。
【0038】
<2>本発明の癌を検出するための試薬
本発明の第二の態様は、GDF15プロペプチドを認識する抗体を含む、膵臓癌、大腸癌、肺癌、乳癌、食道癌、若しくは胃癌を検出する、又は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とを鑑別して検出するための試薬である。前記抗体は、通常は、配列番号2で表されるプロGDF15の30残基目のロイシンから196残基目のアルギニンまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体である。
【0039】
本態様において検出対象であるGDF15プロペプチドには、インタクトGDF15プロペプチド及び/又はGDF15プロペプチド断片が含まれ、GDF15プロペプチド断片には、dNT57-GDPP、dNT73-GDPP、及びその他のペプチド断片が含まれる。
【0040】
本発明の試薬を前述したサンドイッチ法に利用する場合は、前記抗体としてエピトープの異なる2種類の抗体を含むことが必要である。
【0041】
本発明の検出試薬は、さらに、癌の腫瘍マーカーを認識する抗体を含む、癌の腫瘍マーカーの検出試薬を含んでいてもよい。癌の腫瘍マーカーとしては、例えば表1に示すものが挙げられる。
【0042】
本発明の試薬に含まれる抗体は、抗体そのものであってもよく、標識されていてもよく、固相に固定化されていてもよい。
【0043】
本発明の試薬のうち、前述したサンドイッチ法の一態様である2ステップサンドイッチ法に利用する場合について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
まず、本発明の試薬は、以下の(I)から(III)に示す方法で作製することができる。
(I)まず、サンドイッチ法で用いる、GDF15プロペプチドを認識する、エピトープの異なる2種類の抗体(以下、「抗体1」及び「抗体2」とする)のうち、抗体1をイムノプレートや磁性粒子等のB/F(Bound/Free)分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合であってもよいし、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合であってもよい。
(II)担体に前記抗体1を結合させた後、非特異的結合を避けるため、担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルク、市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行ない1次試薬とする。
(III)他方の抗体2を標識し、得られた標識抗体を含む溶液を2次試薬として準備する。抗体2に標識する物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出装置で検出可能な物質、又はビオチンに対するアビジンなど特異的に結合する相手が存在する物質等が好ましい。また、2次試薬の溶液としては、抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液等が好ましい。
【0045】
このようにして作製した本発明の試薬は必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
【0046】
なお、1ステップサンドイッチ法の場合は、前述した(I)~(II)同様に担体に抗体1を結合させブロッキング処理を行なったものを作製し、前記抗体固定化担体に、標識した抗体2を含む緩衝液をさらに添加して試薬を作製すればよい。
【0047】
次に、前述した方法で得られた試薬を用いて、2ステップサンドイッチ法でGDF15プロペプチドを検出し測定するには、以下の(IV)から(VI)に示す方法で行なえばよい。
(IV)(II)で作製した1次試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(V)未反応物質をB/F分離により除去し、続いて(III)で作製した2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(VI)未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度のGDF15プロペプチド溶液を標準とし作成した検量線により、検体中のヒトGDF15プロペプチド濃度を定量する。
【0048】
検出試薬に含まれる抗体等の試薬成分の量は、検体量、検体の種類、試薬の種類、検出の手法等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、後述するように検体として2.5倍希釈した血清や血漿を50μL使用して、サンドイッチ法によりGDF15プロペプチド量の測定を行う場合、当該検体50μLを抗体と反応させる反応系当たり、担体へ結合させる抗体量が100ngから1000μgであってよく、標識抗体量が2ngから20μgであってよい。
【0049】
本発明の癌検出試薬は、用手法での検出にも利用可能であり、自動免疫診断装置を用いた検出にも利用可能である。特に自動免疫診断装置を用いた検出は、検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく検出が可能で、かつ短時間に検体中のGDF15プロペプチド並びに癌の腫瘍マーカーの濃度が定量可能であるため、好ましい。
【0050】
本発明の癌を検出する方法及び本発明の検出試薬の対象となる検体(被検試料)は、全血、血球、血清、血漿などの血液成分、細胞または組織の抽出液、尿、脳脊髄液などが挙げられる。血液成分や尿などの体液を検体として用いると、癌を簡便かつ非侵襲的に検出できるため好ましく、検体採取の容易性、他の検査項目への汎用性を考慮すると、血液成分を検体として用いるのが特に好ましい。検体の希釈倍率は無希釈から100倍希釈の中から使用する検体の種類や状態に応じて適宜選択すればよく、例えば、血清や血漿の場合は、2.5倍希釈した検体を50μL用いればよい。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
<実施例1> モノクローナル抗体作製
既知の方法(DNA免疫:特開2013-061321号公報)により、GDF15プロペプチドを認識するモノクローナル抗体を5種類作製した。
【0053】
<実施例2> 各種モノクローナル抗体のエピトープ解析
実施例1で作製した各抗体の抗原認識部位を、インタクトGDF15プロペプチド(iGDPP)及びN末端欠損型GDF15プロペプチド断片(dNT-GDPP)のバリアント発現細胞培養上清により同定した。
【0054】
各種組換えGDPPの発現評価及び精製工程のため、5’末端にFLAGタグ及びStrepII-tagを、3’末端にBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端側7アミノ酸からなるBNCペプチド(特開2009-240300号公報)をコードするオリゴヌクレオチドをさらに挿入した、分泌型iGDPP及び4種のdNT-GDPPを発現可能なプラスミドを調製した。作製した各種組換えGDPPの構造を
図1に、具体的な調製方法を以下に示す。
【0055】
なお、
図1に示すように、配列番号2のアミノ酸配列において、iGDPPは30残基目~196残基目に、dNT37-GDPPは38残基目~196残基目に、dNT59-GDPPは60残基目~196残基目に、dNT77-GDPPは78残基目~196残基目に、dNT94-GDPPは95残基目~196残基目に、それぞれ相当するものである。
【0056】
(1)ヒトGDF15のcDNA(GenBank Accessesion No.:NM_004864)から設計したプライマーを表2に示す組み合わせで用いて、iGDPP、dNT37-GDPP、dNT59-GDPP、dNT-77GDPP及びdNT94-GDPPに相当する各ポリヌクレオチドを、常法に従いRT-PCR法により増幅した。
【0057】
【0058】
(2)Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカー領域を含むプラスミドpFLAG1(SIGMA社製)のHindIII-EcoRI部位に、In-fusion(Clonetech社製)を用いて、プロトコルに従い、(1)のRT-PCR増幅産物を挿入し、各種分泌型GDPP発現プラスミドを構築した。
(3)プラスミドpFLAG1に挿入したポリヌクレオチドにより発現される各種分泌型GDPPにおいて、N末端側にFLAGタグ、C末端側にBNCタグが付加されていることを確認するために、一過性発現細胞である293T細胞株を用い、下記の方法で検証した。
(4)常法に従い、(2)で構築した各種分泌型GDPP発現プラスミドを293T細胞株へ導入して各種分泌型GDPPを一過性発現させ、培養72時間後の培養液を遠心分離し、上清を各種分泌型GDPP溶液として回収した。
【0059】
(5)各種分泌型GDPP溶液を試料として用いて、酵素免疫測定法(ELISA法)を以下の通り実施した。
(5-1)ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体(ROCKLAND社製)を100ng/ウェルになるようカーボネート緩衝液(pH9.8)で希釈し、MaxiSorp96穴プレート(NUNC社製)に固相化した。
(5-2)4℃にて一晩反応後、TBS(Tris-Buffered Saline)により3回洗浄し、3%ウシ血清アルブミン(BSA;Bovine Serum Albumin)を含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置した。
(5-3)TBSにより3回洗浄を行ない、各種分泌型GDPP溶液、及び、陰性対照として発現プラスミドを導入していない293T細胞株の培養上清を、50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
【0060】
(5-4)0.5%Tween 20を含むTBS(TBS-T)により3回洗浄を行なった後、1%BSAを含むTBS-T(1%BSA/TBS-T)で1μg/mLになるよう希釈したマウス抗BNCモノクローナル抗体溶液、または、各モノクローナル抗体を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間放置した。
(5-5)TBS-Tにより3回洗浄を行なった後、1%BSA/TBS-Tで10000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリンG-Fc抗体(SIGMA社製)溶液を50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
(5-6)TBS-Tにより4回洗浄を行ない、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加後、1mol/Lリン酸溶液で反応停止し、吸光測定プレートリーダーにて450nmの吸光値を測定した。
(5-7)ELISA解析の結果を
図2に、各抗体の抗原認識部位を表3に示す。
【0061】
【0062】
<実施例3> GDF15プロペプチド測定試薬の調製
実施例1で作製した抗GDPPモノクローナル抗体を用い、抗体の組み合わせを変えて2種類のGDPP測定試薬を作製した。1つはGDPPのN末端領域を認識する抗体(TS-GDPP02)とC末端領域を認識する抗体(TS-GDPP04)の組み合わせで、インタクトGDPP(iGDPP)を検出する。もう一方は、C末端領域を認識する抗体どうしの組み合わせ(TS-GDPP04とTS-GDPP08)で、iGDPPとdNT-GDPPの両方を検出する。後者で検出される値を、総GDPP(tGDPP)とする。以下に、具体的な調製方法を記載する。
【0063】
(1)水不溶性フェライト担体に抗GDF15プロペプチドモノクローナル抗体(TS-GDPP02及び08)を100ng/担体になるように室温にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて40℃・4時間ブロッキングを行なうことで、抗GDF15プロペプチド抗体固定化担体を調製した。
(2)抗GDF15プロペプチドモノクローナル抗体(TS-GDPP04)をアルカリフォスファターゼ標識キット(同仁化学社製)にて、抗GDF15プロペプチド標識抗体を調製した。
(3)磁力透過性の容器(容量1.2mL)に、(1)で調製した12個の抗体固定化担体を入れた後、(2)で調製した標識抗体を0.5μg/mL含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)50μLを添加し、凍結乾燥を実施することで、GDF15プロペプチド測定試薬を作製した。なお、作製したGDF15プロペプチド測定試薬は窒素充填下にて密閉封印シールを施し、測定まで4℃で保管した。
【0064】
<実施例4> GDF15プロペプチド標準品の調製
実施例3で調製した分泌型iGDPP培養上清中には分解物が混在しているため、組換えiGDPPのN末端側にあるStrep-IIタグ(IBA社製)を利用し、市販の精製キット(IBA社製)で全長GDF15プロペプチドのみを精製した。精製後の分泌型iGDPPを、ウェスタンブロッティング法により評価した。各種精製サンプルを常法に従いSDS-PAGEで展開し、PVDF膜(バイオラッド社製)に転写した。ブロッキングワン溶液(ナカライテスク社製)にてブロッキング後、当該ブロッキング溶液に添加しアルカリフォスファターゼ標識抗BNC抗体を1μg/シートにて添加し、4℃で一晩反応させた。TBS-Tで洗浄後、ECL Select試薬(GEヘルスケア社製)を用い、得られた化学発光をLAS 4000画像解析装置(GEヘルスケア社製)により検出した。
【0065】
GDPP精製品のウェスタンブロッティング結果を
図3に示す。タグペプチドのために分子量が大きくなっているが、N末及びC末どちらのタグ抗体を用いても、全長GDF15プロペプチドのバンドが1本のみ検出された。
【0066】
<実施例5> GDF15プロペプチド測定試薬の性能評価
GDF15プロペプチドを含むサンプルとして実施例4で作製した組換えGDPP上清、及び前立腺癌細胞株LnCapの培養上清をそれぞれFBSで10倍希釈し、GDF15プロペプチドを含まないサンプルとしてFBSのみの計3種の擬似検体サンプルをそれぞれ調製した。全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000(東ソー社製:製造販売届出番号13B3X90002000009)を用いて実施例4で作製した2種のGDF15プロペプチド測定試薬の性能評価を実施した。全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000による測定は、
(1)希釈サンプル20μLと界面活性剤を含む希釈液80μLを、実施例3で作製したGDF15プロペプチド測定試薬を収容した容器に自動で分注し、
(2)37℃恒温下で10分間の抗原抗体反応を行ない、
(3)界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄を行ない、
(4)4-メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加する、
ことで行い、単位時間当たりのアルカリフォスファターゼによる4-メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(nmol/(L・s))とした。AIA測定の結果、FBSを除くいずれの擬似検体サンプルも5点測定の変動係数が3%以下を示し、実施例3で作製したGDF15プロペプチド測定試薬にて得られる結果が信頼し得る結果であることが証明された。
【0067】
<実施例6> 臨床検体の測定
本実施例で使用した血清検体パネル(総計123症例)の内訳を表4に示す。健常人血清検体はBioreclamationIVT社より、各種癌血清検体はPROMEDDX社から購入し、各社の製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0068】
【0069】
全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000(東ソー社製)を評価用装置とし、実施例3で作製したiGDPPおよびtGDPP測定試薬を用いて臨床検体を測定した。各種測定値のボックスプロット(Box Plot)を
図4に、各検体群のiGDPP、tGDPP測定値の最小値、25パーセンタイル、中央値、75%パーセンタイル、最大値および95%信頼区間における測定値範囲を表5に示す。
iGDPPおよびtGDPP測定値は、健常群と比較していずれの癌種群においても明瞭に高値を示し、特に消化器系の主要な癌種である膵癌および大腸癌で測定値が高い傾向が認められた。
【0070】
【0071】
次に、iGDPPおよびtGDPPの健常人群と各種癌検体群間における受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を
図5に、AUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)および有意差検定におけるP値を表6に示す。iGDPPおよびtGDPPは、いずれの癌種においても健常人と統計的な有意差が認められ、優れた癌検出性能を有することが明らかとなった。特に、肺癌、膵癌および大腸癌ではAUCが0.9以上となり、健常と癌の鑑別に極めて有用であることが示された。
【0072】
【0073】
<実施例7> CA19-9との性能比較
消化器癌の代表的なマーカーであるCA19-9とiGDPPおよびtGDPPの消化器癌検出性能を比較した。CA19-9(東ソー社製:製造販売届出番号20400AMZ00913000)測定試薬により、実施例6で測定した健常、膵癌および大腸癌血清検体を解析した結果を
図6に、健常と膵癌または大腸癌のROC解析から求めたAUCおよび有意差検定におけるP値を表7に示す。CA19-9は健常群と比較して膵癌群または大腸癌群で高値傾向を示し、ROC解析からも優れた消化器系腫瘍マーカーであることが示された。一方、iGDPPまたはtGDPPはCA19-9に比べて膵癌および大腸癌検出性能が優れていることが示された。
【0074】
【0075】
<実施例8> iGDPP、tGDPPおよびCA19-9の感度および特異度の算出
実施例6および7に示すiGDPP、tGDPPおよびCA19-9のROC解析結果を用いて、各種マーカーの感度および特異度を算出した。Youden Index(感度-(100-特異度))の最大値から導き出された感度および特異度、並びにカットオフ値を表8に示す。iGDPP並びにtGDPPは肺癌、膵癌および大腸癌で感度および特異度がいずれも85%以上となり、優れた癌検出性能を有することが明らかとなった。また、iGDPP並びにtGDPPはCA19-9に比べて膵癌並びに大腸癌の検出性能が優れていることが示された。さらに、iGDPP並びにtGDPPはCA19-9陰性膵癌検体3例中3例、CA19-9陰性大腸癌検体8例中6例を陽性と検出できることが示された。
【0076】
【0077】
<実施例9> 臨床検体の測定(食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌)
本実施例で使用した血清検体パネル(総計120症例)の内訳を表9に示す。健常人血清検体はBioreclamationIVT社より、各種癌血清検体はPROMEDDX社またはBioreclamationIVT社から購入し、各社の製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0078】
【0079】
全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000(東ソー社製)を評価用装置とし、実施例3で作製したiGDPPおよびtGDPP測定試薬を用いて上記臨床検体を測定した。各種測定値のボックスプロット(Box Plot)を
図7に、各検体群のiGDPP、tGDPP測定値の最小値、25パーセンタイル、中央値、75%パーセンタイル、最大値および95%信頼区間における測定値範囲を表10に示す。
iGDPPおよびtGDPP測定値は、健常群と比較して食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌のいずれの癌種群においても明瞭に高値を示した。
【0080】
【0081】
次に、iGDPPおよびtGDPPの健常人群と食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌群間におけるROC曲線解析から算出したAUCおよび有意差検定におけるP値を表11に示す。iGDPPおよびtGDPPは、いずれの癌種においてもAUCが0.9以上であり、統計的な有意差が認められたことから、優れた癌検出性能を有することが明らかとなった。
【0082】
【0083】
<実施例10> 食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌におけるiGDPP、tGDPPの感度および特異度の算出
実施例9に示すiGDPPおよびtGDPPのROC曲線解析結果を用いて、各種マーカーの感度および特異度を算出した。Youden Index(感度-(100-特異度))の最大値から導き出された感度および特異度、並びにカットオフ値を表12に示す。iGDPP並びにtGDPPは食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌群で感度および特異度がいずれも85%以上となり(胃癌のiGDPPによる感度を除く)、優れた癌検出性能を有することが明らかとなった。
【0084】
【0085】
<実施例11>食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌におけるiGDPP、tGDPPおよびCEAの陽性率の比較
癌全般の代表的なマーカーであるCEAとiGDPPおよびtGDPPの食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌における陽性率を比較した。CEA測定試薬(東ソー社製:製造販売届出番号20100EZZ00112000)により、実施例9記載の食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌検体を解析した。CEAはカットオフ値5ng/mL以上、iGDPPおよびtGDPPは実施例10記載のカットオフ値で陽性率を算出した。CEA測定値のボックスプロットを
図8に、陽性率一覧を表13に示す。CEAは様々な癌種で上昇傾向が認められたものの、iGDPP並びにtGDPPは食道癌、胃癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌群でいずれもCEAに比べて陽性率が2倍程度高く、優れた癌検出性能を有することが明らかとなった。
【0086】
【0087】
<実施例12>肺癌におけるiGDPP、tGDPPおよびCEAの組織型鑑別性能の比較
肺癌の組織型は主に非小細胞(約85%)と小細胞(約15%)に大別されるが、組織型毎に治療方針が異なるため、組織型の鑑別が重要とされている。そこで、iGDPP、tGDPPおよびCEAの非小細胞肺癌と小細胞肺癌の組織型鑑別性能を比較した。CEA、iGDPPおよびtGDPPの非小細胞肺癌又は小細胞肺癌検体群の比較解析結果を
図9に、ROC曲線解析結果を
図10に示す。CEAは非小細胞肺癌で高値傾向を示したものの、有意差は認められなかった(マン=ホイットニーのU検定、p=0.9747)。一方、iGDPPおよびtGDPPは小細胞肺癌で高値傾向を示し、iGDPPは有意差が認められた(マン=ホイットニーのU検定、p=0.0452)。ROC曲線解析においても、CEAはAUCが0.5であり鑑別性能を有しないことが示された一方、iGDPPおよびtGDPPはAUCが0.7程度であり、良好な鑑別性能を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、肺癌、膵癌、大腸癌、乳癌、食道癌、若しくは胃癌を検出する、又は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とを鑑別して検出することができる、GDF15プロペプチドを検出する方法及び試薬が提供される。これにより、従来のマーカーでは判別の難しい様々な癌を血液診断等で簡便かつ精度高く検出することができる。その結果、癌の検出を簡便にし、治療法の選択ならびに治療効果判定が可能となるため、産業上非常に有用である。
【配列表】