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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
C03C3/087
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019560541
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046836
(87)【国際公開番号】W WO2019124453
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017242449
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】赤田 修一
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 勇也
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/102176(WO,A1)
【文献】特開平08-217486(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111881(WO,A1)
【文献】特開2013-209224(JP,A)
【文献】特開2002-012444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65~75%、
Al :0~20%、
MgO :0~5%、
CaO :2~20%、
NaO :5~20%、
O :0~10%、
Feに換算した全鉄:0.2~1.0%、
TiO :0.65~1.5%
CeO :0.1~2.0%を含み、
酸化物基準の質量百分率表示におけるMgO、CaO、SrOおよびBaOの総量をROとしたときに、MgOの含有量とROとの比(MgO/RO)が0.20以下であり、
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合(Fe-redox)が30~57%であり、
下記式で表されるAが20~40であり、
JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率Tv_Aが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で65%以上であり、
ISO-9050(2003)規定の日射透過率Teが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で50%以下であり、
JIS Z 8701(1999)規定の透過光の主波長Dwが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で508~580nmであるガラス板。
A=([t-Fe ]×Fe-redox)/[TiO
ここで、[t-Fe ]はt-Fe の含有量(単位:質量%)、[TiO ]はTiO の含有量(単位:質量%)である。
【請求項2】
酸化物基準の質量百分率表示におけるFeに換算した全鉄(t-Fe)の含有量とTiOの含有量との比(t-Fe/TiO)が0.3~1.1である請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
酸化物基準の質量百分率表示におけるFe に換算した全鉄(t-Fe )の含有量とTiO の含有量との比(t-Fe /TiO )が0.3~0.75である請求項2に記載のガラス板。
【請求項4】
ISO-9050(2003)規定の紫外線透過率Tuvがガラス板の3.9mm厚さ換算値で20%以下である請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項5】
酸化物基準の質量百分率表示で、TiOを1.0%以下含む請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項6】
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が45~57%である請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項7】
前記Aが20~38である請求項1~6のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項8】
酸化物基準の質量百分率表示で、TiO を0.81%以上含む請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめとする乗物等の窓ガラスとしては、遮熱性が高いガラスを用いることが求められる。遮熱性が低いと、日射を受けた車両内の温度が上昇して乗員にとって不快となり得るだけでなく、冷房負荷が増し燃費の悪化にもつながるからである。
【0003】
ガラスの遮熱性の指標としては、ISO-9050(2003)に規定される日射透過率(Te)があり、Teが低いほど遮熱性が高いことを意味する。
【0004】
乗物等の窓ガラスには、視認性および安全性の確保の観点から、可視光透過率が高いことも求められる。可視光透過率の指標としては、JIS R 3106(1998)に規定される可視光透過率(Tv_A)がある。
【0005】
特許文献1には、Teが低い熱線吸収ガラス板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/102176号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乗物等の窓ガラスは、搭乗者がガラス板を通して景色を見た場合にその透過光がより自然な色調である黄緑の色調を有するガラス板が好まれる傾向にある。特許文献1の実施例に記載されている熱線吸収ガラス板は、いずれも色調の指標である主波長が505nm以下であり、緑色であった。
本発明は、低い日射透過率および高い可視光透過率を同時に満足しつつ、透過光が黄緑の色調を有するガラス板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65~75%、
Al :0~20%、
MgO :0~5%、
CaO :2~20%、
NaO :5~20%、
O :0~10%、
Feに換算した全鉄:0.2~1.0%、
TiO :0.65~1.5%を含み、
酸化物基準の質量百分率表示におけるMgO、CaO、SrOおよびBaOの総量をROとしたときに、MgOの含有量とROとの比(MgO/RO)が0.20以下であり、
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が30~57%であり、
JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率Tv_Aが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で65%以上であり、
ISO-9050(2003)規定の日射透過率Teが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で50%以下であり、
JIS Z 8701(1999)規定の透過光の主波長Dwが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で508~580nmである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガラス板は、低い日射透過率および高い可視光透過率を同時に満足しつつ、透過光が黄緑の色調を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本明細書で使用される用語を説明する。特に示されない限り、以下に提供される用語の定義が本明細書および特許請求の範囲を通じて適用される。
【0011】
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値をそれぞれ下限値および上限値として含むことを意味する。
【0012】
全鉄の含有量は、Feの量として表すが、ガラス中に存在する鉄がすべて3価の鉄(Fe3+)として存在しているわけではなく、2価の鉄(Fe2+)も存在する。Feに換算した全鉄中の、Feに換算した2価の鉄の質量割合(百分率)を、Fe-redoxという。
Fe-redoxは、下記の式(1)により算出される。
Fe-redox(%)=1.255×log10(92/T1000nm)/([t-Fe]×t)×100 式(1)
ここで、T1000nmは、波長1000nmのガラス板の透過率(単位:%)であり、tは、ガラス板の厚さ(単位:mm)であり、[t-Fe]はFeに換算した全鉄の含有量(単位:質量%)である。
【0013】
可視光透過率Tv_Aは、JIS R 3106(1998)に従い分光光度計により透過率を測定して算出される可視光透過率である。重価係数は、標準のA光源、2度視野の値を用いる。本明細書では、板厚3.9mmに換算した値で表す。
ここで、板厚3.9mmに換算した値とは、透過率を測定したガラス板の屈折率を測定し、セルマイヤーの式を用いて屈折率から算出した当該ガラス板の反射率により、多重反射を考慮して当該ガラス板の値(ここでは可視光透過率Tv_A)を板厚3.9mmの値に換算したものである。
【0014】
日射透過率Teは、ISO-9050(2003)に規定されるものである。本明細書では、板厚3.9mmに換算した値で表す。
【0015】
紫外線透過率Tuvは、ISO-9050(2003)に従い分光光度計により透過率を測定して算出される紫外線透過率である。本明細書では、板厚3.9mmに換算した値で表す。
【0016】
色空間は、JIS Z 8781-4(2013)の規格に基づくものである(D65標準光源10度視野使用)。ガラスサンプルの透過率スペクトルからX、Y、Z座標(XYZ表色系)を算出し、そこからa座標に変換することができる。本明細書では、板厚3.9mmに換算した値で表す。
【0017】
刺激純度Peは、JIS Z 8701(1999)に従って算出した刺激純度である。本明細書では、板厚3.9mmに換算した値で表す。
透過光の主波長Dwは、JIS Z 8701(1999)に従って算出した透過光の主波長である。本明細書では、板厚3.9mmに換算した値で表す。PeとDwは、C標準光源2度視野の値である。
【0018】
以下、本発明の実施形態によるガラス板の各成分および特性について説明する。
【0019】
本発明の実施形態によるガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65~75%、
Al :0~20%、
MgO :0~5%、
CaO :2~20%、
NaO :5~20%、
O :0~10%を含む。
【0020】
SiOはガラス板の主要成分である。
SiOの含有量が65%以上であれば、耐候性が良好である。SiOの含有量は67%以上が好ましく、68%以上がより好ましく、69%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。SiOの含有量が75%以下であれば、失透しにくい。SiOの含有量は、74%以下がより好ましく、73%以下がさらに好ましく、72%以下が特に好ましい。
【0021】
Alは、耐候性を向上させる成分である。
Alの含有量は0%以上である。Alを含有すると耐候性が良好となる。Alの含有量は、0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、3%以上が最も好ましい。Alの含有量が20%以下であれば、溶解性が良好である。Alの含有量は、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、4%以下がよりさらに好ましく、3.5%以下が特に好ましい。
【0022】
MgOは、ガラス原料の溶解を促進し、耐候性を向上させる成分である。
MgOの含有量は0%以上である。MgOを含有すると溶解性、耐候性が良好となる。MgOの含有量は、0.1%以上であってもよく、0.2%以上であってもよく、0.3%以上であってもよく、0.5%以上であってもよい。MgOの含有量が5%以下であれば、失透しにくい。また、MgOの含有量が5%以下のガラス板は、MgOの含有量が5%超のガラス板と同一のTv_Aで比較した場合、Teが低い。したがって、MgOの含有量が5%以下であれば、可視光透過性を損なわずに日射透過率を下げることができる。MgOの含有量は、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が特に好ましく、実質的に含まないことが最も好ましい。実質的に含まないとは、不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味し、具体的にはMgOの含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下であることをいう。
【0023】
CaOは、ガラス原料の溶解を促進し、耐候性を向上させる成分である。
CaOの含有量が2%以上であれば、溶解性、耐候性が良好となる。CaOの含有量は、5%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、8.5%以上がさらに好ましく、8.8%以上が特に好ましい。CaOの含有量が20%以下であれば、失透しにくい。CaOの含有量は、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、11%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましく、9.5%以下が最も好ましい。
【0024】
NaOは、ガラス原料の溶解を促進する成分である。
NaOの含有量が5%以上であれば、溶解性が良好である。NaOの含有量は、8%以上が好ましく、11%以上がより好ましく、13%以上がさらに好ましく、13.5%以上が特に好ましく、14%以上が最も好ましい。NaOの含有量が20%以下であれば、耐候性が良好である。NaOの含有量は、18%以下が好ましく、17%以下がより好ましく、16%以下がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。
【0025】
Oはガラス原料の溶解を促進する成分である。
Oの含有量は0%以上である。KOを含有すると溶解性が良好となる。KOの含有量は、0.1%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1.0%以上が特に好ましく、1.3%以上が最も好ましい。KOの含有量が10%以下であれば、耐候性が良好となる。KOの含有量は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1.8%以下が特に好ましい。
【0026】
本発明の実施形態によるガラス板は、ガラス原料の溶融を促進するために、SrOを含んでもよい。SrOを含む場合、SrOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、実質的に含まないことが最も好ましい。実質的に含まないとは、不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味し、具体的にはSrOの含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下、であることをいう。また、SrOの含有量が5%以下であれば、失透しにくい。
【0027】
また、本発明の実施形態によるガラス板は、ガラス原料の溶融を促進するために、BaOを含んでもよい。BaOを含む場合、BaOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、実質的に含まないことが最も好ましい。実質的に含まないとは、不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味し、具体的にはBaOの含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下であることをいう。また、BaOの含有量が5%以下であれば、失透しにくい。
【0028】
本発明の実施形態によるガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示におけるMgO、CaO、SrOおよびBaOの総量をROとしたときに、MgOの含有量とROとの比(MgO/RO)が0.20以下である。MgO/ROが0.20以下のガラス板は、MgO/ROが0.20超のガラス板と同一のTv_Aで比較した場合、Teが低い。したがって、MgO/ROが0.20以下であれば、可視光透過性を損なわずに日射透過率を下げることができる。MgO/ROは、0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましく、0.07以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましく、0.03以下が特に好ましく、0.01以下が最も好ましい。
【0029】
本発明の実施形態によるガラス板は、鉄(Fe)を含有する。鉄は、TeおよびTv_Aを下げる作用を有し、また、青、緑ないし黄の着色成分としても作用する。乗物等の窓ガラスにおいては、Teが低いことが求められるが、Tv_Aが下がることは望ましくない。従って他成分および他要素とのバランスを見極めてFe含有量の最適範囲を見出すことは従来困難であった。
本発明の実施形態によるガラス板において、Feに換算した全鉄(以下、t-Feともいう。)の含有量は、酸化物基準の質量%表示で0.2~1.0%である。t-Feの含有量が0.2%以上であれば、Teを十分に低くできる。t-Feの含有量は0.3%以上が好ましく、0.4%以上がより好ましく、0.45%以上がさらに好ましく、0.5%以上が特に好ましく、0.55%以上が最も好ましい。また、t-Feの含有量が1.0%以下であれば、Tv_Aを十分に高くできる。t-Feの含有量は0.9%以下が好ましく、0.85%以下がより好ましく、0.8%以下がさらに好ましく、0.75%以下がよりさらに好ましく、0.7%以下がことさらに好ましく、0.65%以下が特に好ましく、0.6%以下が最も好ましい。
【0030】
本発明の実施形態によるガラス板は、Fe-redoxが30~57%である。Fe-redoxを30%以上とすればTeを十分に低くすることができる。Fe-redoxは、35%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、42%以上がさらに好ましく、45%以上がよりさらに好ましく、47%以上が特に好ましく、50%以上が最も好ましい。一方で、Fe-redoxが57%以下であれば、ガラスの溶解工程が複雑にならず、ガラスに含まれる泡が少ない。また、黄緑の色調のガラス板が得られる。Fe-redoxは、56%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、54%以下がさらに好ましく、53%以下が特に好ましい。Fe-redoxの調節は還元剤あるいは酸化剤の投入量を調節すること等により達成され得ることが当業者に理解される。
【0031】
本発明の実施形態によるガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示で、TiOを0.65~1.5%含む。TiOは、TeおよびTv_Aを下げる作用を有し、また、緑ないし黄の着色成分としても作用する。つまり、黄緑の色調を得るためには必須の成分である。乗物等の窓ガラスにおいては、Teが低いことが求められるが、Tv_Aが下がることは望ましくない。従って他成分および他要素とのバランスを見極めてTiO含有量の最適範囲を見出すことは従来困難であった。
TiOの含有量が0.65%以上であれば、Feの含有量と前述のFe-redoxの調整により目的とする黄緑の色調のガラス板が得られる。TiOの含有量は、0.70%以上が好ましく、0.75%以上がより好ましく、0.78%以上がさらに好ましく、0.80%以上が特に好ましい。また、TiOの含有量が1.5%以下であれば、Tv_Aが低くなり過ぎない。TiOの含有量は、1.2%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.95%以下がさらに好ましく、0.90%以下が特に好ましく、0.85%以下が最も好ましい。
【0032】
本発明の実施形態によるガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示におけるt-Feの含有量とTiOの含有量との比(t-Fe/TiO)が0.3~1.1であることが好ましい。t-Fe/TiOが0.3~1.1の範囲であれば、Tv_Aが低くなり過ぎずに目的とする黄緑の色調のガラス板が得られやすい。t-Fe/TiOは0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましく、0.65以上が特に好ましく、0.68以上が最も好ましい。また、t-Fe/TiOは1.0以下がより好ましく、0.9以下がさらに好ましく、0.8以下が特に好ましく、0.75以下が最も好ましい。
【0033】
本発明の実施形態によるガラス板は、下記式(2)で表されるAが20~50であることが好ましい。Aが20~50の範囲であれば、Tv_Aが低くなり過ぎずに目的とする黄緑の色調のガラス板が得られやすい。
A=([t-Fe]×Fe-redox)/[TiO] 式(2)
ここで、[t-Fe]はt-Feの含有量(単位:質量%)、Fe-redoxはFeに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合(単位:%)であり、上記式(1)により算出される。[TiO]はTiOの含有量(単位:質量%)である。Aは25以上がより好ましく、30以上がさらに好ましく、33以上が特に好ましく、35以上が最も好ましい。また、Aは45以下がより好ましく、42以下がさらに好ましく、40以下が特に好ましく、38以下が最も好ましい。
【0034】
本発明の実施形態によるガラス板は、CeOを含んでもよい。CeOは紫外線透過率を低下させる作用を提供する。
本発明の実施形態によるガラス板において、CeOを含む場合、CeOの含有量は、酸化物基準の質量%表示で0.1%以上が好ましく、0.4%以上がより好ましく、0.7%以上がさらに好ましく、1.0%以上が特に好ましく、1.2%以上が最も好ましい。CeOは高価であり、また多すぎると可視光透過率も減少させてしまうため、CeOの含有量は2.0%以下が好ましく、1.8%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましく、1.4%以下が特に好ましく、1.3%以下が最も好ましい。
【0035】
本発明の実施形態によるガラス板は、SOを含有してもよい。SOは主として、清澄剤として用いられる芒硝(NaSO)に由来する。
本発明の実施形態によるガラス板において、SOの含有量は、酸化物基準の質量%表示で、0.001~0.2%が好ましい。SOの含有量が0.001%以上であれば、ガラス溶融時の清澄効果が良く、泡が少なくなる。SOの含有量は、0.003%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましく、0.02%以上がさらに好ましい。SOの含有量が0.2%以下であれば、SOのガス成分が気泡としてガラス中に残りにくい。SOの含有量は、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましく、0.03%以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明の実施形態によるガラス板は、SnOを含有してもよい。SnOは清澄剤として作用する。また、SnOは酸化剤として作用するため、Fe-redoxの調整にも寄与する。
本発明の実施形態によるガラス板において、SnOの含有量は、酸化物基準の質量%表示で、0.02~1%が好ましい。SnOの含有量が0.02%以上であれば、ガラス溶融時の清澄効果が良く、泡が少なくなる。SnOの含有量は、0.1%以上であってもよく、0.2%以上であってもよく、0.3%以上であってもよい。また、SnOの含有量が1%以下であれば、原料コストを抑えることができ、製造ラインでの揮散が少ない。SnOの含有量は、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.4%以下が特に好ましい。
【0037】
本発明の実施形態によるガラス板は、上述したものの他にさらなる着色成分、例えばCoO、Se、MnO、MnO、Cr、V、NiO、Erを含有してもよいが、さらなる着色成分を含有しなくてもよい。本発明の実施形態のガラス板は、酸化物基準の質量%表示で、好ましくは、MnO、MnO、Cr、V、NiO、Erを実質的に含有しない。実質的に含有しないとは、不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味し、具体的にはCoOの含有量が0.0010%以下、好ましくは0.0005%以下、より好ましくは0.0001%以下、さらに好ましくは0.00001%以下であり、Seの含有量が0.0010%以下、好ましくは0.0005%以下、より好ましくは0.0001%以下、さらに好ましくは0.00001%以下であり、MnO及びMnOの含有量の合計が0.0015%以下、好ましくは0.001%以下、より好ましくは0.0005%以下であり、CrおよびNiOの含有量がそれぞれ0.0015%以下、好ましくは0.001%以下、より好ましくは0.0005%以下であり、Vの含有量が0.01%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.003%以下であり、Erの含有量が0.008%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.003%以下であることをいう。
【0038】
本発明の実施形態によるガラス板の可視光透過率Tv_Aは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で65%以上である。Tv_Aは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で70%以上が好ましく、72%以上がより好ましい。Tv_Aの上限は特に限定されないが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で90%以下であってもよく、80%以下であってもよく、78%以下であってもよい。
【0039】
本発明の実施形態によるガラス板の日射透過率Teは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で50%以下である。Teは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で48%以下が好ましく、46%以下がより好ましく、44%以下がさらに好ましく、42%以下が特に好ましく、40%以下が最も好ましい。Teの下限は特に限定されないが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で25%以上であってもよく、28%以上であってもよく、30%以上であってもよく、32%以上であってもよい。
【0040】
乗物等の窓ガラスは、車両内の人体や備品を紫外線から守る役割も果たす。本発明の実施形態によるガラス板の紫外線透過率Tuvは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、13%以下がさらに好ましく、12%以下が特に好ましく、11%以下が最も好ましい。Tuvの下限は特に限定されないが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で1%以上であってもよく、3%以上であってもよく、4%以上であってもよく、5%以上であってもよい。
【0041】
本発明の実施形態によるガラス板の透過光の主波長Dwは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で508~580nmである。Dwが508~580nmであれば、目的とする黄緑の色調のガラス板が得られる。Dwは510nm以上が好ましく、512nm以上がより好ましく、513nm以上がさらに好ましく、515nm以上が特に好ましい。また、Dwは520nm以上であってもよく、530nm以上であってもよく、540nm以上であってもよい。また、Dwは570nm以下が好ましく、560nm以下がより好ましく、550nm以下がさらに好ましく、540nm以下が特に好ましく、530nm以下が最も好ましい。また、Dwは525nm以下であってもよく、520nm以下であってもよい。
【0042】
本発明の実施形態によるガラス板の刺激純度Peは、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で20%以下が好ましい。Peは15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。Peの下限は特に限定されないが、ガラス板の3.9mm厚さ換算値で0.5%以上であってもよく、1.0%以上であってもよく、2.0%以上であってもよく、2.5%以上であってもよい。
【0043】
本発明の実施形態によるガラス板は、L色空間におけるaがガラス板の3.9mm厚さ換算値で-13.5~-8であることが好ましい。aは-12以上であってもよく、-11以上であってもよく、-10以上であってもよい。また、aは-9以下であってもよく、-9.5以下であってもよい。
はガラス板の3.9mm厚さ換算値で2~8であることが好ましい。bは2.5以上であってもよく、3以上であってもよい。また、bは6以下であってもよく、5以下であってもよく、4以下であってもよい。
ガラス板の3.9mm厚さ換算値で、aが-11~-9であり、かつbが3~4であることが特に好ましい。
はガラス板の3.9mm厚さ換算値で85~90であることが好ましい。Lは86以上であってもよく、88以上であってもよい。また、Lは89以下であってもよい。
【0044】
本発明のガラス板は、乗物用、建築用のいずれにも用いることができ、特に自動車用のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラス等として好適である。自動車用の窓ガラスとして用いる場合は、必要に応じて、複数のガラス板を中間膜を介して挟んだ合わせガラス、平面状のガラスを曲面に加工したガラス、強化処理をしたガラスとして用いる。また、建築用の複層ガラスとして用いる場合、2枚の本発明のガラス板からなる複層ガラス、または本発明のガラス板と他のガラス板との複層ガラスとして用いる。
【0045】
本発明のガラス板は、たとえば、下記の工程(i)~(v)を順に経て製造される。
(i)目標とするガラス組成になるように、珪砂、その他のガラス母組成原料、鉄源、チタン源等の着色成分原料、還元剤、清澄剤等を混合し、ガラス原料を調製する。
(ii)ガラス原料を連続的に溶融窯に供給し、重油等により約1400℃~1600℃(例えば、約1500℃)に加熱し溶融させて溶融ガラスとする。
(iii)溶融ガラスを清澄した後、フロート法等のガラス板成形法により所定の厚さのガラス板に成形する。
(iv)ガラス板を徐冷した後、所定の大きさに切断し、本発明のガラス板とする。
(v)必要に応じて、切断したガラス板を強化処理してもよく、合わせガラスに加工してもよく、複層ガラスに加工してもよい。
【0046】
ガラス母組成原料としては、珪砂、ソーダ灰、石灰石、長石等、通常のソーダライムシリカガラスの原料として用いられているものが挙げられる。
鉄源としては、鉄粉、酸化鉄粉、ベンガラ等が挙げられる。
チタン源としては、酸化チタン等が挙げられる。
セリウム源としては、酸化セリウム等が挙げられる。
還元剤としては、炭素、コークス等が挙げられる。還元剤は、溶融ガラス中の鉄の酸化を抑制し、目標のFe-redoxとなるように調整するためのものである。
この他に、還元剤や清澄剤としてSnOを用いてもよく、清澄剤としてSOを用いてもよい。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
例1~45、47~49は実施例であり、例46、50、51は比較例である。例46は、特許文献1に記載された例1に相当する。
【0048】
下記表1~5に示したガラス組成となるように、白金坩堝に原料を投入して1480℃で3時間溶融した。溶融後、カーボン板上に溶融液を流し出して徐冷して、ガラス板を製造した。得られたガラス板の両面を研磨し、厚さ3.9mmのガラス板を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
蛍光X線装置(XRF)(リガク社製、ZSX100e)を用いて、上記で得られたガラス板の表面における各成分のX線強度を測定して定量分析を行い、上記組成を確認した。また、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)により1nmごとに透過率を測定し、波長1000nmの透過率から上記式(1)にしたがい、Fe-redoxを算出した。また、表に示す光学的特性を求めた。
【0055】
表1~5より、例1~45、47~49のガラス板は、高い遮熱性、すなわち50%以下の日射透過率Teを有しながら、高い可視光透過性を維持し、かつ、508~580nmの主波長Dwで表される黄緑の色調を有していることがわかる。
それに対し、例46、50のガラス板は、遮熱性の基準は満たされているものの、TiOの含有量が0.65%未満であるため、Dwが508nm未満であり、望ましい黄緑の色調が達成されていない。
例51のガラス板は、MgO/ROが0.20超であるため、日射透過率Teが50%超であり、遮熱性の基準を満たさなかった。
【0056】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。本出願は、2017年12月19日出願の日本特許出願2017-242449に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガラス板は、低い日射透過率および高い可視光透過率を同時に満足しつつ、透過光が黄緑の色調を有している。そのため、車両用、建築用のガラス板として有用であり、特に自動車用のガラス板として好適である。