(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】多結晶シリコン棒、多結晶シリコンロッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/035 20060101AFI20220823BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C01B33/035
C30B29/06 D
(21)【出願番号】P 2019006931
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】星野 成大
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌彦
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048098(JP,A)
【文献】特開2017-048099(JP,A)
【文献】特開2015-214428(JP,A)
【文献】特開2016-028990(JP,A)
【文献】特開2016-121052(JP,A)
【文献】特開2014-028747(JP,A)
【文献】特開2009-263149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程を備え、
該円筒研削工程は、シリコン芯線上に形成された状態で、研削後の前記多結晶シリコン棒の中心軸がシリコン芯線の中心軸と2mm以上離間するように実行されることを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項2】
前記円筒研削工程は、研削後の前記多結晶シリコン棒の中心軸がシリコン芯線の中心軸と5mm以上離間するように実行される、請求項
1に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項3】
前記円筒研削工程は、研削後の前記多結晶シリコン棒の中心軸がシリコン芯線の中心軸と10mm以上離間するように実行される、請求項
1に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項4】
前記円筒研削工程は、研削後の前記多結晶シリコン棒の中心軸がシリコン芯線の中心軸と20mm以上離間するように実行される、請求項
1に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシーメンス法で育成された多結晶シリコンロッドに関し、特に、フローティングゾーン法(FZ法)による単結晶シリコン製造の原料として好適な多結晶シリコンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンは、半導体用の単結晶シリコンあるいは太陽電池用シリコンの原料である。多結晶シリコンの製造方法としては、シーメンス法が知られている。シーメンス法は、一般にシラン原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて多結晶シリコンを析出させる方法である。
【0003】
シーメンス法は、シリコン芯線を鉛直方向2本、水平方向1本の鳥居型に組み立て、該鳥居型シリコン芯線の両端部をそれぞれ芯線ホルダーに接続し、ベースプレート上に配置した一対の金属製の電極に固定する。一般的には反応炉内には複数組の鳥居型シリコン芯線を配置した構成となっている。
【0004】
鳥居型のシリコン芯線を多結晶シリコンの析出温度まで通電により加熱し、原料ガスとして例えばトリクロロシランと水素の混合ガスをシリコン芯線上に接触させると、多結晶シリコンがシリコン芯線上で気相成長し、所望の直径の多結晶シリコン棒が逆U字状に形成される。
【0005】
FZ法により単結晶シリコンを製造するに際しては、逆U字状に形成された多結晶シリコンの鉛直方向2本の多結晶シリコン棒の両端部を切り離し、円柱状の多結晶シリコンロッドとし、これを原料として用いてFZ法による単結晶シリコンの育成を行う。
【0006】
特許文献1(特開2008-285403号公報)には、多結晶シリコンロッドの中心部分に針状結晶が多く存在すると、FZ法による単結晶シリコンの製造工程で、未溶融の針状結晶またはその残部が溶融帯域を通過し、これが欠陥の発生を誘発して単結晶化が阻害される(有転位化する)可能性があることが開示されている。
【0007】
特許文献2(特開平3-252397号公報)には、FZ法による単結晶シリコン製造用の多結晶シリコンロッドにおいて、少なくとも溶融帯域の最小断面積以上を粗大化したシリコン単結晶粒を形成させることで、溶融帯域が一様に融解し、欠陥形成を防ぐことが開示されている。しかし、この手法では、特定の結晶方位を有する単結晶シリコンの芯線を準備する必要があることに加え、多結晶シリコンロッドを育成する差異の析出速度も低いという問題がある。
【0008】
しかも、特許文献3(特表2012-521950号公報)に記載があるように、多結晶シリコン棒をシーメンス法で育成する工程では、一般に、加熱プロセスの初期の段階で特に、接触加熱領域がグラファイトとシリコンとの接触点で生じ、機械的ストレスにより細シリコンロッドが溶融または損傷する可能性があり、そのため、加熱プロセスを中断したりし、新たにシリコン蒸着反応器を複雑な手順に対応させなければならないといった不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-285403号公報
【文献】特開平3-252397号公報
【文献】特表2012-521950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
つまり、上述の特許文献1や特許文献2に記載されているように、FZ向けの多結晶シリコンロッドの製造技術においてはシリコン芯線近傍の結晶構造がきわめて重要であるにも関わらず、特許文献3に記載されているように、シーメンス法による多結晶シリコンの析出反応のスタート時(反応初期)には細心の注意が必要となる。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、極めて簡易な手法により、かつ、結晶の配向性等への特別な配慮も不要な手法により、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な多結晶シリコンロッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコン棒および多結晶シリコンロッドは、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒若しくは多結晶シリコンロッドであって、該多結晶シリコン棒若しくは多結晶シリコンロッドの中心軸がシリコン芯線の中心軸と2mm以上離間していることを特徴とする。
【0013】
好ましくは前記中心軸間の距離が5mm以上であり、より好ましくは前記中心軸間の距離が10mm以上であり、さらに好ましくは前記中心軸間の距離が20mm以上である。
【0014】
また、本発明に係る多結晶シリコンロッドの製造方法は、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程を備え、該円筒研削工程は、前記多結晶シリコン棒の中心軸がシリコン芯線の中心軸と2mm以上離間するように実行されることを特徴とする。
【0015】
この場合も、好ましくは前記中心軸間の距離が5mm以上であり、より好ましくは前記中心軸間の距離が10mm以上であり、さらに好ましくは前記中心軸間の距離が20mm以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、極めて簡易な手法により、かつ、結晶の配向性等への特別な配慮も不要な手法により、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な多結晶シリコンロッドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来の、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程を説明するための図である。
【
図2】本発明における、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程を説明するための図である。
【
図3】本発明における、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
本発明者らは、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な多結晶シリコンロッドの開発にあたり、多結晶シリコンロッドの芯近傍(中心近傍)の結晶組織に着目して検討を行ってきた。しかし、シーメンス法による多結晶シリコンの析出反応のスタート時(反応初期)の諸条件が複雑なものとなると、反応炉内で多結晶シリコン棒が転倒したりスパークが発生してしまうといった問題を誘発してしまう結果を招くことになる。
【0020】
そこで、さらに検討を進めていくなかで、FZ法による単結晶シリコンの育成に用いられる原料として、該多結晶シリコンロッドの中心軸がシリコン芯線の中心軸からずれているものを用いると、FZ法で単結晶シリコンを育成する過程での有転位化が生じ難いという興味ある結果を得た。
【0021】
図1に示したように、シーメンス法で得られた多結晶シリコン棒からFZ法による単結晶シリコン製造用の多結晶シリコンロッドを作製するに際しては、析出後の多結晶シリコン棒1(直径D
1)を円筒状に成形するための外周研削加工が施される。析出後の多結晶シリコン棒1の延在方向の中心軸はシリコン芯線2の延在方向の中心軸に概ね一致するから(
図1(A)参照)、通常の外周研削加工を施すと、成形後に得られた多結晶シリコンロッド3(直径D
2)の中心軸(図中C
R)はシリコン芯線2の中心軸(図中C
0)に概ね一致する(
図1(B)参照)。
【0022】
本発明者らは、この点に着目し、意図的に、多結晶シリコンロッドの中心軸をシリコン芯線の中心軸からずらすことを試み、その効果を調べたところ、有転位化の確率が有意に低下することが確認できた。
【0023】
すなわち、本発明では、シーメンス法により育成された多結晶シリコンロッドの中心軸を、シリコン芯線の中心軸と2mm以上離間させることとした。
【0024】
そのために、
図2(A)に示したように、析出後の多結晶シリコン棒10の中心軸C
Rがシリコン芯線20の中心軸C
0と2mm以上離間することとなるような、シーメンス法による多結晶シリコンの析出条件を検討した。本発明者らは、そのためには、シリコン芯線20に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させればよいと考えた。気相成長反応において、析出速度を調整するための要素としては、反応ガス濃度や反応温度が挙げられる。
【0025】
例えば、シリコン芯線20に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させるために反応ガス濃度に差をつけるためには、ガス供給ノズル位置を変更することが考えられる。なお、ガス供給ノズル位置を変更することにより、供給ガスの温度は炉内のガス温度よりも低くなることが通常であるため、この効果により反応温度を下げることも可能となる。
【0026】
シリコン芯線20に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させるために反応温度に差をつけるためには、反応炉内に設置されている他ロッドからの輻射を遮蔽したり、調整することが簡便な手法である。反応炉内でのロッド配置を調整したり、反応炉壁とは別の遮蔽物等を別途設置してもよい。
【0027】
このような、析出後の多結晶シリコン棒10の中心軸C
Rがシリコン芯線20の中心軸C
0と離間する条件で析出させた場合には、もともと中心軸の偏位(C
RとC
0との最接近距離)があるため、通常の外周研削(円筒研削)を行っても、得られる多結晶シリコンロッド30の中心軸C
Rはシリコン芯線20の中心軸C
0と離間しているため、円筒研削時に生じる多結晶シリコンの研削ロスが少なくなるという利点がある(
図2(B)参照)。
【0028】
なお、多結晶シリコンロッドの中心軸をシリコン芯線の中心軸からずらすためには、
図3に示したように、析出後の多結晶シリコン棒10の延在方向の中心軸がシリコン芯線20の延在方向の中心軸に概ね一致する通常の多結晶シリコン棒10を育成した後(
図3(A)参照)、この多結晶シリコン棒の外周研削加工において、多結晶シリコンロッド30の中心軸C
Rがシリコン芯線20の中心軸C
0と離間するようにしてもよい(
図3(B)参照)。
【0029】
なお、上記中心軸の離間距離dは5mm以上であることが好ましく、より好ましくは10mm以上であり、さらに好ましくは20mm以上である。好ましい離間距離に上限はないものの、多結晶シリコンロッド成長条件や円筒研削条件によりコスト増やロス率の上昇が考えられるため、離間距離は適宜選択されうる。
【実施例】
【0030】
[実験1]
トリクロロシランを原料とし、シーメンス法により逆U字型の多結晶シリコン棒を育成した。1回のバッチで5つの逆U字型多結晶シリコン棒(直径約175mm)を得た。このような多結晶シリコン棒の育成を、析出条件は同じとして5バッチ(A~E)行い、各バッチ毎に5本(総計25本)の多結晶シリコンロッドを作製した。これらの多結晶シリコンロッドのそれぞれは、シリコン芯線の中心軸と円筒研削後の多結晶シリコンロッドの中心軸の離間距離が各バッチ間で異なるように、円筒研削が行われている。
【0031】
これらの25本の多結晶シリコンロッドを原料として用い、FZ法による単結晶シリコンの育成を行い、その歩留まりを調べた。
【0032】
なお、ここで言う歩留まりとは、転位の発生無く単結晶化した長さを100%としたときに、転位が発生した位置までの長さに対する割合である。つまり、転位の発生無く単結晶化した際には100%となる。
【0033】
表1に、上記各バッチ毎の5本の多結晶シリコンロッドを原料として用いた際の単結晶シリコンの育成時における上記歩留まりの平均値を纏めた。
【0034】
【0035】
表1に示したとおり、シリコン芯線の中心軸と多結晶シリコンロッドの中心軸の離間距離が長くなるにつれて歩留まりが高まる。すなわち、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程において、この円筒研削工程を、多結晶シリコンロッドの中心軸CRがシリコン芯線の中心軸C0と2mm以上離間するように実行して多結晶シリコンロッドとすることで、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な多結晶シリコンロッドが提供される。
【0036】
なお、上述のとおり、中心軸の離間距離dは5mm以上であることが好ましく、より好ましくは10mm以上であり、さらに好ましくは20mm以上である。
【0037】
[実験2]
トリクロロシランを原料とし、シーメンス法により逆U字型の多結晶シリコン棒を育成した。1回のバッチで5つの逆U字型多結晶シリコン棒(直径約155mm)を得た。このような多結晶シリコン棒の育成を析出条件を変えて5バッチ(F~J)行い、各バッチ毎に5本(総計25本)の多結晶シリコンロッドを作製した。これらの多結晶シリコンロッドのそれぞれは、シリコン芯線の中心軸と円筒研削後の多結晶シリコンロッドの中心軸の離間距離が各バッチ間で異なるように、円筒研削が行われている。
【0038】
これらの25本の多結晶シリコンロッドを原料として用い、FZ法による単結晶シリコンの育成を行い、その歩留まりを調べた。
【0039】
なお、ここで言う歩留まりも、転位の発生無く単結晶化した長さを100%としたときに、転位が発生した位置までの長さに対する割合である。つまり、転位の発生無く単結晶化した際には100%となる。
【0040】
表2に、上記各バッチ毎の5本の多結晶シリコンロッドを原料として用いた際の単結晶シリコンの育成時における上記歩留まりの平均値を纏めた。
【0041】
【0042】
表2に示したとおり、多結晶シリコンの析出条件を変えた場合にも、シリコン芯線の中心軸と多結晶シリコンロッドの中心軸の離間距離が長くなるにつれて歩留まりが高まる傾向が明確に読み取れる。すなわち、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程において、この円筒研削工程を、多結晶シリコンロッドの中心軸CRがシリコン芯線の中心軸C0と2mm以上離間するように実行して多結晶シリコンロッドとすることで、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な多結晶シリコンロッドが提供される。
【0043】
なお、この場合においても、上記中心軸の離間距離dは5mm以上であることが好ましく、より好ましくは10mm以上であり、さらに好ましくは20mm以上である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、極めて簡易な手法により、かつ、結晶の配向性等への特別な配慮も不要な手法により、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な多結晶シリコンロッドが提供される。
【符号の説明】
【0045】
1、10 多結晶シリコン棒
2、20 シリコン芯線
3、30 多結晶シリコンロッド