(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】伸縮性膜及び伸縮性膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20220823BHJP
A61B 5/25 20210101ALI20220823BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20220823BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220823BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B32B27/40
A61B5/25
A61B5/256
B32B27/00 101
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2019154064
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018181896
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸士
(72)【発明者】
【氏名】野中 汐里
(72)【発明者】
【氏名】池田 譲
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130899(JP,A)
【文献】特開2018-123304(JP,A)
【文献】特開2018-103439(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
A61B 5/25
A61B 5/256
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性膜であって、
フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜と、珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜とが積層されたものであり、
前記伸縮性膜の少なくとも一方の面がフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜であ
り、かつ、
前記フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜が、下記一般式(3)で示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物であり、かつ、前記珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜が、下記一般式(4)で示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物のものであることを特徴とする伸縮性膜。
【化1】
(式中、Rf
1
は炭素数1~200の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、少なくとも1個以上のフッ素原子を有し、エーテル基を有していても良い。Rは同一又は非同一で単結合又はメチレン基であり、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR
7
R
8
)
n
-OSiR
9
R
10
R
11
基である。R
7
、R
8
、R
9
、R
10
、R
11
は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、nは0~100の範囲である。R
12
は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R
13
は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であり、R
14
は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~8の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。a、b1、b2は1分子中の単位数であり、1≦a≦20、0≦b1≦20、0≦b2≦20、1≦b1+b2≦20の範囲の整数である。R
15
は水素原子、メチル基である。cは1分子中の単位数であり、1≦c≦4の範囲の整数である。)
【請求項2】
前記珪素原子を有する繰り返し単位が、珪素原子を側鎖に有するものであることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性膜。
【請求項3】
前記伸縮性膜が、JIS K 6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が20~1000%の範囲のものであることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の伸縮性膜。
【請求項4】
前記伸縮性膜が、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることを特徴とする請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の伸縮性膜。
【請求項5】
伸縮性膜を形成する方法であって、下記一般式
(4)で示される構造を有する樹脂を含む組成物を、加熱及び/又は光照射によって硬化させることで珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜を形成し、前記珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜の表面上に、下記一般式
(3)で示される構造を有する樹脂を含む組成物を、加熱及び/又は光照射によって硬化させることでフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜を積層することを特徴とする伸縮性膜の形成方法。
【化2】
(式中、Rf
1
は炭素数1~200の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、少なくとも1個以上のフッ素原子を有し、エーテル基を有していても良い。Rは同一又は非同一で単結合又はメチレン基であり、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR
7
R
8
)
n
-OSiR
9
R
10
R
11
基である。R
7
、R
8
、R
9
、R
10
、R
11
は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、nは0~100の範囲である。R
12
は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R
13
は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であり、R
14
は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~8の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。a、b1、b2は1分子中の単位数であり、1≦a≦20、0≦b1≦20、0≦b2≦20、1≦b1+b2≦20の範囲の整数である。R
15
は水素原子、メチル基である。cは1分子中の単位数であり、1≦c≦4の範囲の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性と強度と撥水性を兼ね備えた伸縮性膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
【0003】
ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けたり、身体に密着する伸縮性の衣服に貼り付けて常時体の状態をモニタリングする形態が示される。このようなウェアラブルデバイスは、通常、体からの電気信号を検知するための生体電極、電気信号をセンサーに送るための配線、センサーとなる半導体チップと電池からなる。また、通常、肌に粘着するための粘着パッドも必要である。生体電極及びこの周りの配線や粘着パッドの構造については、特許文献1に詳細に記載されている。特許文献1に記載のウェアラブルデバイスは、生体電極の周りにシリコーン系粘着膜が配置され、生体電極とセンサーデバイスの間は伸縮性のウレタン膜で被覆された蛇腹の形の伸縮可能な銀配線で結ばれている。
【0004】
ウレタン膜は伸縮性と強度が高く、伸縮配線の被覆膜として優れた機械特性を有している。しかしながら、ウレタン膜には加水分解性があるため、加水分解によって伸縮性と強度が低下するという欠点がある。一方で、シリコーン膜には加水分解性がないものの、強度が低いという欠点がある。
【0005】
そこで、ウレタン結合とシロキサン結合の両方をポリマー主鎖に有するシリコーンウレタンポリマーが検討されている。このポリマーの硬化物は、シリコーン単独よりは高強度で、ポリウレタン単独よりは低加水分解性である。しかしながら、このポリマーの硬化物では、ポリウレタン単独の強度、シリコーン単独の撥水性には及ばず、シリコーンとポリウレタンの中間の強度と撥水性しか得られない。
【0006】
シロキサンを側鎖に有するポリウレタンは、シロキサンの導入による強度の低下が無く、撥水性が向上することが報告されている(特許文献2)。側鎖のシロキサンの存在によって、これに押し出されるように反対方向を向いたウレタン結合の水素結合が強化され、シロキサンの導入による強度の低下を相殺するのである。
【0007】
高伸縮なウレタン膜は、触ったときに表面がベタつく特性がある。表面がベタつくと膜同士をくっつけたときに離れないし、この膜上にスクリーン印刷を行ったときに版と膜がくっついて印刷不良が発生する。一方、シリコーン膜は剥離性が高いために、膜同士がくっつくことはない。但し、シリコーンは強度が低いために、薄膜のシリコーン膜は伸ばすと簡単に千切れてしまう。シリコーン膜上にスクリーン印刷を行うと、版とくっつくことによる印刷不良は起こらないが、インクとの接着性が低いために、硬化後のインクが剥がれてしまう。これは、シリコーンの表面の剥離性の高さによる。一方、ウレタン膜のインクとの接着力は高く、硬化後のインクが剥がれることはない。
【0008】
また、シリコーンがペンダントされたポリウレタンを用いた膜は、伸縮性、強度、撥水性のバランスに優れているが、膜表面がベタついているために膜同士がくっついてしまったり、スクリーン印刷時に版とくっついてしまう欠点がある。
【0009】
主鎖にフッ素化アルキレン基を有するポリウレタン化合物が提案されている。フッ素化アルキレン基の剥離性を生かしたウレタンアクリレートを含有するナノインプリントリソグラフィー材料が提案されている(特許文献3)。ナノインプリントリソグラフィーのレジスト用途としては、版を剥がすときにレジスト膜が版にくっついたりせずにスムーズに版から剥がれる必要がある。主鎖にフッ素化アルキレン基を有するポリウレタン膜の表面はベタ付きが無いために版離れが良好である。また、フッ素化アルキレン基は高い撥水性を有するために、シリコーンウレタンと同様に撥水性を必要とされる用途にも用いられる。但し、主鎖にフッ素化アルキレン基を有するポリウレタン膜の強度は低い。
【0010】
以上のように、高伸縮、高強度、高撥水で、表面がベタつかずにスクリーン印刷等の印刷が可能で、印刷後のインクが剥がれることがない伸縮性の膜の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-033468号公報
【文献】特開2018-123304号公報
【文献】WO2014/104074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような背景から、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつシリコーンと同程度の優れた撥水性、更には伸縮性膜同士がくっつかない自立性を有する伸縮性膜及びその形成方法の開発が望まれている。
【0013】
そこで本発明は上記事情に鑑み、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた伸縮性膜及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために、本発明では、
伸縮性膜であって、
フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜と、珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜とが積層されたものであり、
前記伸縮性膜の少なくとも一方の面がフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜である伸縮性膜を提供する。
【0015】
このような伸縮性膜であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた伸縮性膜となる。
【0016】
また、前記珪素原子を有する繰り返し単位が、珪素原子を側鎖に有するものであることが好ましい。
【0017】
このような珪素原子を有する繰り返し単位であれば、より高強度、及び高伸縮の伸縮性膜となる。
【0018】
また、前記フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜が、下記一般式(1)で示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物であり、かつ、前記珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜が、下記一般式(2)で示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物のものであることが好ましい。
【化1】
(式中、Rf
1は炭素数1~200の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、少なくとも1個以上のフッ素原子を有し、エーテル基を有していても良い。Rは同一又は非同一で単結合又はメチレン基であり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR
7R
8)
n-OSiR
9R
10R
11基である。R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、nは0~100の範囲である。R
12は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R
13は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であり、R
14は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~8の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。a、b1、b2は1分子中の単位数であり、1≦a≦20、0≦b1≦20、0≦b2≦20、1≦b1+b2≦20の範囲の整数である。)
【0019】
このようなものであれば、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0020】
また、前記フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜が、下記一般式(3)で示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物であり、かつ、前記珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜が、下記一般式(4)で示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物のものであることが好ましい。
【化2】
(式中、Rf
1は炭素数1~200の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、少なくとも1個以上のフッ素原子を有し、エーテル基を有していても良い。Rは同一又は非同一で単結合又はメチレン基であり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR
7R
8)
n-OSiR
9R
10R
11基である。R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、nは0~100の範囲である。R
12は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R
13は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であり、R
14は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~8の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。a、b1、b2は1分子中の単位数であり、1≦a≦20、0≦b1≦20、0≦b2≦20、1≦b1+b2≦20の範囲の整数である。R
15は水素原子、メチル基である。cは1分子中の単位数であり、1≦c≦4の範囲の整数である。)
【0021】
このようなものであれば、本発明の効果をさらに十分に得ることができる。
【0022】
また、前記伸縮性膜が、JIS K 6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が20~1000%の範囲のものであることが好ましい。
【0023】
このような伸縮率であれば、伸縮配線の被覆膜として特に好適に用いることができる。
【0024】
また、前記伸縮性膜が、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることが好ましい。
【0025】
本発明の伸縮性膜は、特にこのような用途に好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明では、伸縮性膜を形成する方法であって、下記一般式(2)で示される構造を有する樹脂を含む組成物を、加熱及び/又は光照射によって硬化させることで珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜を形成し、前記珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜の表面上に、下記一般式(1)で示される構造を有する樹脂を含む組成物を、加熱及び/又は光照射によって硬化させることでフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜を積層する伸縮性膜の形成方法を提供する。
【化3】
(式中、Rf
1は炭素数1~200の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、少なくとも1個以上のフッ素原子を有し、エーテル基を有していても良い。Rは同一又は非同一で単結合又はメチレン基であり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR
7R
8)
n-OSiR
9R
10R
11基である。R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、nは0~100の範囲である。R
12は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R
13は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であり、R
14は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~8の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。a、b1、b2は1分子中の単位数であり、1≦a≦20、0≦b1≦20、0≦b2≦20、1≦b1+b2≦20の範囲の整数である。)
【0027】
本発明のような伸縮性膜の形成方法であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた伸縮性膜を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明の伸縮性膜の構成は、例えば、膜の表面側が低伸縮、低強度だが高撥水でベタ付き感のないフルオロウレタン膜で覆われ、内部がベタ付きがあるが高強度、高伸縮な側鎖型シリコーンウレタン膜の複合膜とすることができる。この複合膜は、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面はシリコーン以上の優れた撥水性を有し、表面のベタ付き感の無い伸縮性膜となる。このような本発明の伸縮性膜を導電性配線に接触させたり、導電性配線の片側か両面を被覆したりして得られる複合伸縮性配線膜であれば、伸縮性及び強度に優れるだけでなく、表面のベタ付き感が無くて肌触りが良好で、高い撥水性を有する。従って、本発明の伸縮性膜であれば、ウェアラブルデバイスにおいて、生体電極とセンサーを接続する配線部だけでなく、生体電極やセンサー、デバイスを載せることができる伸縮性膜あるいはこれらを封止する膜としてとして特に好適に用いることができる。フッ素の高い電気陰性度のためにフルオロウレタンの表面はマイナスチャージしやすい。人の肌はプラスチャージしているため、表面がフルオロウレタンで覆われた膜は自然に肌に貼りつく。生体電極は肌に貼り付ける必要があるため、このような膜上に生体電極を形成して粘着剤を用いずに伸縮性膜とその上に取り付けた生体電極を肌に貼り付けることもできる。また、本発明の伸縮性膜の形成方法であれば、上述のような伸縮性膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の伸縮性膜上に形成した心電計を生体電極側から見た概略図の一例である。
【
図2】本発明の伸縮性膜を基板上に形成した状態の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の伸縮性膜上に心電計を形成した状態の一例を示す断面図である。
【
図4】
図3の配線とセンターデバイスをフルオロウレタン層で覆った状態の一例を示す断面図である。
【
図5】シリコーンペンダント型ウレタン層の両面をフルオロウレタン層で覆った状態の一例を示す断面図である。
【
図6】
図5の伸縮性膜上に心電計を形成した状態の一例を示す断面図である。
【
図7】
図6の配線とセンターデバイスをフルオロウレタン層で覆った状態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述のように、ポリウレタンは十分な伸縮性と強度を有するが、撥水性が低く、加水分解によって強度と伸縮性が低下するという欠点があり、シリコーンは撥水性が高いが強度が低く、フッ素ポリマーはシリコーン以上に撥水性が高いが伸縮性に乏しいというという欠点があった。主鎖にシリコーンとウレタンの両方を有するシリコーンウレタンおよび主鎖にフッ素とウレタンの両方を有するフルオロウレタンも高撥水で膜表面がベタつかないが強度不足である。側鎖にシリコーンがペンダントしているウレタンをベースとする膜は、高強度、高伸縮、高撥水だが表面がベタつく欠点があった。このような背景から、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の強度も十分に高く、かつシリコーンと同程度かそれ以上の優れた撥水性と表面硬度を有する伸縮性膜及びその形成方法の開発が求められていた。
【0031】
そこで、本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、高伸縮、高強度、高撥水性だが表面がベタつく側鎖シリコーン型ウレタンをベースとする層の上に、高撥水で表面のベタ付きがないフルオロウレタンをベースとする層を形成し、複合膜とすることによって、高伸縮、高強度、高撥水性であって、表面ベタ付き感が無く伸縮性膜同士がくっつかない優れた伸縮性膜となるため、ウェアラブルデバイスにおける伸縮配線を形成するための伸縮性基板膜として特に好適なものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0032】
即ち、本発明は、伸縮性膜であって、フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜と、珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜とが積層されたものであり、前記伸縮性膜の少なくとも一方の面がフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜である伸縮性膜である。
【0033】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
<フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜>
本発明に用いられるフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜(フルオロウレタン層)は、下記一般式(1)で示される構造を有する樹脂(フッ素含有ポリウレタン、フルオロウレタン樹脂)を含む組成物(伸縮性膜材料組成物)の硬化物であることが好ましい。
【化4】
(式中、Rf
1は炭素数1~200の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、少なくとも1個以上のフッ素原子を有し、エーテル基を有していても良い。Rは同一又は非同一で単結合又はメチレン基であり、1≦a≦20の範囲の整数である。)
【0035】
また、一般式(1)で示される構造を有する樹脂(フッ素含有ポリウレタン)は、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する構造を有していることがより好ましい。
【化5】
(式中、Rf
1、R、aは上記と同様であり、R
15は水素原子、メチル基である。cは1分子中の単位数であり、1≦c≦4の範囲の整数である。)
【0036】
上記一般式(1)、(3)で示される構造(繰り返し単位)を有する樹脂は、下記一般式(1)’で示されるジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物(以下、イソシアネート化合物とも言う)とを反応させることによって得られる。
【化6】
(式中、Rf
1、Rは上記と同様である。)
【0037】
上記一般式(1)’で示されるジオール化合物(フルオロアルキル基又はフルオロアルキレン基を有するジオール化合物)としては、具体的には、下記のものを例示することができる。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【化14】
ここでn、qは1~20、2≦n+q≦20、1≦p≦40の範囲である。
【0046】
【化15】
ここでm、r、s、tは0~20の範囲である。
【0047】
【0048】
【0049】
<珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜>
本発明に用いられる珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜(シリコーンペンダント型ウレタン層)は、珪素原子を有する繰り返し単位が、珪素原子を側鎖に有するものであることが好ましい。また、シリコーンペンダント型ウレタン層は、下記一般式(2)で示される構造を有する樹脂(シリコーンウレタン樹脂)を含む組成物の硬化物であることがより好ましい。
【化18】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR
7R
8)
n-OSiR
9R
10R
11基である。R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、nは0~100の範囲である。R
12は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R
13は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であり、R
14は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~8の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。b1、b2は1分子中の単位数であり、0≦b1≦20、0≦b2≦20、1≦b1+b2≦20の範囲の整数である。)
【0050】
また、一般式(2)で示される構造を有する樹脂(シリコーンペンダント型ウレタン)は、下記一般式(4)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する構造を有していることがさらに好ましい。
【化19】
(式中、R
1~R
6、R
12~R
14、b1、b2、及びXは上記と同様であり、R
15は水素原子、メチル基である。cは1分子中の単位数であり、1≦c≦4の範囲の整数である。)
【0051】
上記一般式(2)、(4)で示される構造(繰り返し単位)を有する樹脂は、以下に説明する一般式(2)-1’ 、(2)-2’で示されるジオール化合物と、イソシアネート化合物とを反応させることによって得られる。
【0052】
一般式(2)で示される構造の繰り返し単位b1を形成するためのジオール化合物としては、下記一般式(2)-1’で示される化合物を挙げることができる。
【化20】
(式中、R
1~R
3、R
12~R
14、及びXは上記と同様である。)
【0053】
一般式(2)-1’で示される短鎖シリコーンがペンダントされたジオール化合物は、例えばグリセリンモノアリルエーテルとSiH基を有する短鎖シロキサン化合物を白金触媒中で反応させることによって得ることができる。一般式(2)-1’で示されるジオール化合物は具体的には下記のものを例示することができる。
【0054】
【0055】
【0056】
また、本発明では、一般式(2)で示される構造の繰り返し単位b2を形成するためのジオール化合物としては、下記一般式(2)-2’で示される化合物を挙げることができる。
【化23】
(式中、R
1~R
6、Xは上記と同様である。)
【0057】
一般式(2)-2’で示される短鎖シリコーンがペンダントされたジオール化合物は、例えばジヒドロキシジアルケニル化合物とSiH基を有する短鎖シロキサン化合物を白金触媒中で反応させることによって得ることができる。一般式(2)-2’で示されるジオール化合物は具体的には下記のものを例示することができる。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
本発明の伸縮性膜を形成するために用いられる一般式(1)及び、(2)に示される構造を有する樹脂は、一般式(1)’で示される化合物、及び(2)-1’、(2)-2’に示される珪素含有基を有する化合物を原料とし、これらとイソシアネート化合物を反応させることで形成することができる。
【0066】
上記一般式(1)’、(2)-1’、(2)-2’で示される化合物と反応させるイソシアネート化合物としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0067】
【0068】
【0069】
上記のイソシアネート化合物のうち、特に、(メタ)アクリレート基を有するイソシアネート化合物を一般式(1)’、(2)-1’、(2)-2’で示される化合物と反応させることにより、一般式(3)、(4)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることができる。その他、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート基を有する化合物をイソシアネート化合物と反応させることによっても、一般式(3)、(4)で示される末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることができる。
【0070】
上記のイソシアネート化合物は、一般式(1)’、(2)-1’、(2)-2’で示される化合物との反応性が高いために、これをコントロールすることが困難な場合がある。また、イソシアネート化合物は、保管中に大気中の水分と反応してイソシアネート基が失活してしまうことがあるため、保管には湿度を十分に防ぐ等十分な注意を要する。そこで、これらの事象を防ぐために、イソシアネート基が置換基で保護されたブロックイソシアネート基を有する化合物が用いられることがある。
【0071】
ブロックイソシアネート基は、加熱によってブロック基が脱保護してイソシアネート基となるものであり、具体的には、アルコール、フェノール、チオアルコール、イミン、ケチミン、アミン、ラクタム、ピラゾール、オキシム、β-ジケトン等で置換されたイソシアネート基が挙げられる。
【0072】
ブロックイソシアネート基の脱保護温度を低温化させるために、触媒を添加することもできる。この触媒としては、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫、ビスマス塩、2-エチルヘキサン酸亜鉛や酢酸亜鉛等のカルボン酸亜鉛が知られている。
【0073】
特に、特開2012-152725号公報では、カルボン酸としてα,β-不飽和カルボン酸亜鉛をブロックイソシアネート解離触媒として含むことによって、脱保護反応の低温化が可能であることが示されている。
【0074】
また、上記一般式(1)’、(2)-1’、(2)-2’で示される化合物、イソシアネート化合物に加えて、複数のヒドロキシ基を有する化合物を加えることもできる。このような複数のヒドロキシ基を有する化合物を添加することによって鎖長延長や分子間架橋が行われる。
【0075】
鎖長延長を行うことによって、伸縮性や強度を向上させることができる。例えば両末端がヒドロキシ基のポリエーテル系の鎖長延長剤を導入することによって伸縮性が向上する。両末端がヒドロキシ基のポリエステル系の鎖長延長剤は伸縮性と強度の両方を向上させ、ポリカーボネート系鎖長延長剤を導入すると強度を著しく向上させることができる。
【0076】
複数のヒドロキシ基を有する化合物としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【化38】
(式中、括弧が付された繰り返し単位の繰り返し数は、任意の数である。)
【0083】
また、アミノ基を有する化合物を添加することもできる。イソシアネート基とアミノ基が反応すると、尿素結合が形成される。ウレタン結合と尿素結合の部分はハードセグメントと呼ばれ、これらの水素結合によって強度が高まる。従って、ウレタン結合だけでなく、これに尿素結合を加えることによって強度を高めることが可能である。
【0084】
鎖長延長のポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートを含有するジオール化合物によって形成されている部分はソフトセグメントと呼ばれている。これらの中で最も伸縮性が高いのはポリエーテルであり、次いでポリエステル、ポリカーボネートの順に伸縮性は低下する。一方、引っ張り強度の順は伸縮性の順と逆である。ソフトセグメントの種類や繰り返し単位の選択によって強度と伸縮性を調整することができる。
【0085】
本発明の伸縮性膜形成に用いられるフルオロウレタン樹脂およびシリコーンウレタン樹脂としては、重量平均分子量が500以上のものであることが好ましい。このようなものであれば、本発明の伸縮性膜の形成に好適に用いることができる。また、樹脂の重量平均分子量の上限値としては、500,000以下が好ましい。
【0086】
なお、本発明の伸縮性膜は、JIS K 6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が20~1000%のものであることが好ましい。このような伸縮率であれば、伸縮配線の被覆膜として特に好適に用いることができる。
【0087】
また、本発明の伸縮性膜は、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることが好ましい。本発明の伸縮性膜は、特にこのような用途に好適に用いることができる。
【0088】
以上説明したような本発明の伸縮性膜であれば、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面はシリコーン以上の撥水性を有し、かつベタ付き感がない伸縮性膜となる。
【0089】
<伸縮性膜の形成方法>
また、本発明では、上述の伸縮性膜を形成する方法であって、上記一般式(2)で示される構造を有する樹脂を含む組成物を、加熱及び/又は光照射によって硬化させることで珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜を形成し、該珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜の表面上に、上記一般式(1)で示される構造を有する樹脂を含む組成物を、加熱及び/又は光照射によって硬化させることでフッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜を積層する伸縮性膜の形成方法を提供する。
【0090】
このとき、イソシアネート基とヒドロキシ基の反応によってウレタンポリマーを合成し、これに一般式(3)、(4)で示されるように、末端に(メタ)アクリレート基を形成し、このポリマーを含む組成物を製膜し加熱及び/又は光照射によって硬化させることにより、伸縮性膜を形成することが好ましい。具体的には、上記一般式(1)’、(2)-1’、(2)-2’で示されるジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物を混合し重合して、ポリマー末端が(メタ)アクリレートであるウレタン(メタ)アクリレートポリマーを合成する。このウレタン(メタ)アクリレートポリマーを含む組成物を製膜し、熱又は光照射によってこれを硬化して伸縮性膜を形成する方法である。この場合は、(メタ)アクリレートをラジカルで反応させて架橋する。ラジカル架橋する方法としては、ラジカル発生剤の添加が望ましい。ラジカル発生剤としては、熱分解によってラジカルを発生させる熱ラジカル発生剤、光照射によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤がある。
【0091】
熱ラジカル発生剤としてはアゾ系ラジカル発生剤、過酸化物系ラジカル発生剤が挙げられ、アゾ系ラジカル発生剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。過酸化物系ラジカル発生剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバロエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0092】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’-ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4-ベンゾイル安息香酸、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン(BAPO)、カンファーキノンを挙げることができる。
【0093】
なお、熱又は光ラジカル発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0094】
また、複数の(メタ)アクリレートやチオールを有する架橋剤を添加することもできる。これにより、ラジカル架橋の効率を向上させることができる。
【0095】
アルキル基やアリール基を有するモノマーや、珪素含有基やフッ素で置換されたアルキル基やアリール基を有するモノマーを添加することもできる。これにより、溶液の粘度を低下させ、より薄膜の伸縮性膜を形成することができる。これらのモノマーが重合性二重結合を有していれば、膜の硬化時に膜中に固定化される。
【0096】
アルキル基やアリール基を有するモノマーは、イソボロニルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、アダマンタンアクリレート、フェノキシエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレートを挙げることができる。
【0097】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を用いて伸縮性膜を形成する場合、熱硬化と光硬化とを組み合わせて硬化させることもできる。例えば、ベースとなる膜は熱硬化で形成しておいて、その上の膜は光硬化で形成することもできる。光硬化のメリットは、加熱が必ずしも必要ではないことと、短時間で硬化が可能なことである。デメリットは、光が届かない部分の硬化ができないことである。熱硬化と光硬化とを組み合わせることによって、それぞれの長所を生かした硬化方法を選択することができる。
【0098】
例えば、一般式(4)で示される構造を有するベースポリマーとラジカル発生剤を混合した溶液(組成物)を基板上に塗布し、熱又は光照射によってこれを硬化させて1層目を形成して、その上に(3)で示される構造を有するベースポリマーとラジカル発生剤を混合した溶液(組成物)を塗布して2層目を積層し、熱又は光照射によってこれを硬化させて伸縮性膜を形成することができる。
【0099】
本発明の伸縮性膜の形成において、1層目を形成する方法としては、上述の組成物を平板基板上や、ロール上に塗布する方法が挙げられる。組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート、バーコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等が挙げられる。また、塗布膜厚が0.1μm~2mmとなるように塗布することが好ましい。
【0100】
凹凸がある部品の封止には、ロールコートやスプレーコーティング等の方法や、スクリーン印刷、ステンシル印刷等で必要な部分だけに塗布する方法が好ましい。なお、種々のコーティングや印刷を行うために、混合溶液の粘度を調整する必要がある。低粘度にする場合は、有機溶剤を混合し、高粘度にするときは、シリカ等の充填剤を混合する。
【0101】
有機溶剤としては、大気圧での沸点が115~250℃の範囲の有機溶剤が好ましい。具体的には、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ブテニル、酢酸イソアミル、酢酸フェニル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、蟻酸イソアミル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチルから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0102】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を加熱によって硬化させる場合、加熱硬化は、例えば、ホットプレートやオーブン中あるいは遠赤外線の照射によって行うことができる。加熱条件は、30~150℃、10秒~60分間が好ましく、50~120℃、30秒~20分間がより好ましい。ベーク環境は大気中でも不活性ガス中でも真空中でもかまわない。
【0103】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を光照射によって硬化させる場合、光照射による硬化は、波長200~500nmの光で行うことが好ましい。光源としては、例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、メタルハライドランプ、LED等を用いることができる。また、電子ビームの照射であってもよい。照射量は、1mJ/cm2~100J/cm2の範囲とすることが好ましい。
【0104】
また、上述の方法以外にも、一般式(2)-1’及び又は(2)-2’で示されるジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物、場合によっては鎖長延長のためのジオール化合物、アミン化合物、触媒とを混合し、該混合物を製膜し、加熱又は光照射によって硬化させてベースとなる1層目の膜を形成し、その上に上記一般式(1)’で示される化合物と、イソシアネート基を有する化合物、場合によっては鎖長延長のためのジオール化合物、アミン化合物、触媒とを混合した混合物を製膜(積層)し、加熱又は光照射によって硬化させてベースとなる1層目の膜の上に2層目の膜を形成することもできる。
【0105】
このような伸縮性膜の形成方法の一例としては、1層目、2層目共に例えば一般式(2)-1’、(2)-2’、(1)’で示される化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物と、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物と、場合によってはアミノ基を有する化合物とを混合し、この混合物を1層目は基板上に、2層目は1層目の上に塗布して加熱硬化させ形成する方法が挙げられる。
【0106】
この方法においては、イソシアネート基とヒドロキシ基の反応によって、ウレタン結合を形成しながら高分子量化することで、ポリマーネットワークが形成される。ヒドロキシ基やイソシアネート基が3つ以上の化合物を添加すると架橋反応が進行するため、伸縮性は低下するが、膜強度は高まる。従って、ヒドロキシ基やイソシアネート基が2つあるいは3つの化合物の添加量を調整することによって、硬度、伸縮性、強度の調整を行うことができる。また、硬化後に基板から膜を剥がすことによって、独立した伸縮性膜を得ることができる。
【0107】
混合物中におけるヒドロキシ基とイソシアネート基のモル数の割合としては、ヒドロキシ基とイソシアネート基が同モル数あるいはヒドロキシ基の方が多い、即ちヒドロキシ基のモル数をイソシアネート基のモル数で割った数値が1以上であることが好ましい。イソシアネート基の方が少なければ、余剰のイソシアネート基が水と反応して炭酸ガスが発生することはなくなるため、膜内に発泡による穴が生じてしまう恐れがない。発泡ウレタンを作製するときにはイソシアネート基を過剰にするが、本発明の伸縮性膜では、高強度の特性が必要であるために、膜内に発泡による穴は存在しないことが好ましい。
【0108】
本発明の伸縮性膜における樹脂を、上記のようにヒドロキシ基のモル数がイソシアネート基より多い状態で形成すると、ポリマー末端においては、下記一般式(1’)、(2’)-1、(2’)-2で示されるジオール化合物の片側にのみウレタン結合が形成される場合がある。
【化39】
(式中、Rf
1、R、R
1~R
6、R
12~R
14、Xは前述の通りである。)
【0109】
ヒドロキシ基を含有する化合物とイソシアネート化合物を混合して高分子体(プレポリマー)を形成し、その後ヒドロキシ基を含有する化合物又はイソシアネート基を含有する化合物を追加混合して加熱硬化するプレポリマー法によって膜を形成することもできる。プレポリマーを形成する場合は、ヒドロキシ基を含有する化合物又はイソシアネート化合物の何れか一方を過剰にして分子量を上げる。ヒドロキシ基を含有する化合物又はイソシアネート化合物を混合して一度に膜を形成するワンショット法よりも、未反応の残留イソシアネート量を少なくすることができ、未架橋部分を低減して高強度な膜を形成することができる。
【0110】
硬化させる際の加熱温度は室温から200℃の範囲が好ましく用いられる。より好ましくは40~160℃の範囲で、時間は5秒から60分の範囲である。加熱硬化させるときに、剥離膜で膜の片側を覆う場合と、膜の両側を覆う場合があり、ロールで巻き取りながらの硬化の場合は片側、枚葉硬化の場合は両側の方が好ましいが、この限りではない。
【0111】
なお、1層目を、一般式(2)-1’、(2)-2’で示されるジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物と、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物と、場合によってはアミノ基を有する化合物とを混合した混合物を塗布、硬化させて形成し、2層目を、一般式(3)で示されるベースポリマーとラジカル発生剤を混合した溶液(組成物)を塗布して熱又は光で硬化させて形成しても構わない。また、1層目を、一般式(4)で示されるベースポリマーとラジカル発生剤を混合した溶液(組成物)を塗布して熱又は光で硬化させて形成し、2層目を、一般式(1)’で示される化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物と、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物と、場合によってはアミノ基を有する化合物とを混合した混合物を塗布、硬化させて形成しても構わない。
【0112】
<伸縮性膜>
本発明の伸縮性膜は、例えば、珪素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜(シリコーンペンダント型ウレタン層)の表面に、フッ素原子を有する繰り返し単位を含有するポリウレタン膜(フルオロウレタン層)が形成された複合伸縮性膜であるが、フルオロウレタン層は、シリコーンペンダント型ウレタン層の両面、又は片面どちらを覆っていても構わない。フルオロウレタン層の膜厚は特には限定しないが、シリコーンペンダント型ウレタン層に比べて薄い方が、高強度な点で好ましい。
【0113】
シリコーンペンダント型ではない通常のウレタン膜の表面に一般式(1)に示される構造を有する樹脂を含む組成物の硬化物であるフルオロウレタン層を形成することによっても高い撥水性を得ることができるが、シリコーンペンダント型ではない通常のウレタン膜の全ての表面をフルオロウレタン層で覆うことができない場合には、フルオロウレタン層で覆われていない部分の耐水性が低下する。フルオロウレタン層で覆われていてもいなくても高い耐水性を有しておく必要があるため、シリコーンペンダントウレタン膜をベースとしておく必要がある。
【0114】
薄膜のフルオロウレタン層を形成するために、フルオロウレタン層を形成するための組成物には、上述の有機溶剤を混合する方が好ましい。シリコーンペンダント型ウレタン層を形成するための溶液(組成物)の方には有機溶剤を含んでいても含んでいなくても構わない。
【0115】
フルオロウレタン層の表面に微細な凹凸を付けるエンボス加工を施すことによって、更に撥水性と低タック性を向上させることもできる。
【0116】
本発明の伸縮性膜は、単独の自立膜として用いるだけでなく、繊維上やメンブレン膜上に形成することもできる。
【0117】
本発明の伸縮性膜は、伸縮性の配線や、デバイス、センサー、アンテナ等を封止することもできる。封止後、これを繊維上や、伸縮性膜上、肌上に貼り付けることもできる。
【0118】
ここで、
図1~7に本発明の伸縮性膜の使用例を示す。
図1は、本発明の伸縮性膜6上に形成した心電計1を生体電極側から見た概略図である。また、
図2は、本発明の伸縮性膜6を基板7上に形成した状態を示す断面図であり、
図3はさらに伸縮性膜6上に心電計1を形成した状態を示す断面図であり、
図4は
図3の心電計1の伸縮する配線3とセンターデバイス4をフルオロウレタン層6-2で覆った状態の断面図であり、
図1の心電計1は特許文献1に記載のものである。
図1に示されるように、心電計1は、3つの生体電極2が電気信号を通電する配線3によって繋がれ、センターデバイス4に接続されている。
【0119】
配線3の材料としては、一般的に金、銀、白金、チタン、ステンレス等の金属やカーボン等の導電性材料が用いられる。なお、伸縮性を出すために、特許文献1に記載のように蛇腹形状の配線とすることもできるし、伸縮性フィルム(伸縮性膜)上に前述の導電性材料の粉やワイヤー化した導電性材料を貼り付けたり、前述の導電性材料を含有する導電インクを印刷したり、導電性材料と繊維が複合された導電性布を用いたりして配線3を形成しても良い。
【0120】
心電計1は肌に貼り付ける必要があるので、
図1、3、4では、生体電極2が肌から離れないようにするために生体電極2の周りに粘着部5を配置している。なお、生体電極2が粘着性を有するものである場合は、周辺の粘着部5は必ずしも必要ではない。
【0121】
この心電計1を、
図1に示されるように、本発明の伸縮性膜である伸縮性膜6上に作製する。伸縮性膜6は、表面のベタ付きが少ないので、この上にスクリーン印刷等で印刷を行った場合、版離れが良好である。版離れが不良な場合、版が離れるときにインク離れが生じ、伸縮膜上にインクが転写されない場合があり、好ましくない。
【0122】
更には、伸縮する配線3を、伸縮性膜6を構成する膜によって覆うこともできる。この時の膜は複合型である必要はなく、シリコーンペンダント型ウレタン層、フルオロウレタン層の何れか1つの層だけの膜であっても構わない。なお、
図4では伸縮する配線3をフルオロウレタン層6-2で覆っている。
【0123】
さらに、
図5に示すように、
図2で形成した伸縮性膜6を反転させ、シリコーンペンダント型ウレタン層6-1の、フルオロウレタン層6-2が形成されていない面にもフルオロウレタン層6-2を形成した伸縮性膜とすることもできる。この場合の伸縮性膜を用いた心電計の断面図は
図6又は
図7に示される。
【0124】
以上説明したような、本発明の伸縮性膜の形成方法であれば、ポリウレタンと同程度又はそれ以上の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面は高い撥水性と低タック性を有する伸縮性膜を容易に形成することができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、重量平均分子量(Mw)はGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0126】
伸縮性膜形成用ポリウレタンの合成に用いたフルオロジオール化合物1~6、シリコーンペンダントジオール化合物1~5、イソシアネート化合物1~4、ヒドロキシ化合物1~5を以下に示す。
【化40】
【0127】
【0128】
【0129】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート1の合成]
ヒドロキシ化合物1の1モル、ヒドロキシ化合物2の1モル、フルオロジオール1の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の4モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート1を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0130】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート2の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、フルオロジオール2の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシブチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート2を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0131】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート3の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、フルオロジオール3の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート3を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0132】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート4の合成]
フルオロジオール4の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の2モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート4を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0133】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート5の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、フルオロジオール5の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート5を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0134】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート6の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、フルオロジオール5の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート6を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0135】
[フルオロウレタン(メタ)アクリレート7の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、ヒドロキシ化合物2の1モル、フルオロジオール6の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の4モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシクロロピルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、フルオロウレタン(メタ)アクリレート7を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0136】
[シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート1の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、シリコーンペンダントジオール1の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物3の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート1を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0137】
[シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート2の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、シリコーンペンダントジオール3の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート2を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0138】
[シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート3の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、シリコーンペンダントジオール2の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート3を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0139】
[シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート4の合成]
ヒドロキシ化合物4の1モル、ヒドロキシ化合物2の1モル、シリコーンペンダントジオール1の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物4の4モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシブチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート4を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0140】
[シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート5の合成]
ヒドロキシ化合物3の1モル、ヒドロキシ化合物5の1モル、シリコーンペンダントジオール4の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物1の4モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート5を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0141】
[シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート6の合成]
ヒドロキシ化合物3の2モル、シリコーンペンダントジオール5の1モルを混合し、60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物2の4モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート6を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0142】
[比較ウレタン(メタ)アクリレート1の合成]
ヒドロキシ化合物3の2モルを60℃で加熱して減圧乾燥によって水分を除去した。イソシアネート化合物2の3モルと、ジブチル錫ジラウレートを0.01モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、ヒドロキシエチルアクリレートを2モル添加し、60℃で3時間攪拌しながら反応し、比較ウレタン(メタ)アクリレート1を得た。得られた重合体を13C,1H-NMR、及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
伸縮性膜形成用組成物に添加剤として配合した光ラジカル発生剤1~3を以下に示す。
光ラジカル発生剤1:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド
光ラジカル発生剤2:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン
光ラジカル発生剤3:(±)-カンファーキノン
【0149】
伸縮性膜形成用組成物に添加剤として配合した熱ラジカル発生剤1を以下に示す。
熱ラジカル発生剤1:ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)
【0150】
伸縮性膜形成用組成物に配合した有機溶剤を以下に示す。
有機溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、酢酸ブチル
【0151】
伸縮性膜形成用組成物に配合したアルキル基やアリール基を有するモノマーを以下に示す。
アルキル基やアリール基を有するモノマー:イソボロニルアクリレート
【0152】
[実施例1~12、比較例1~3]
表1に記載の組成で、末端に(メタ)アクリレート基を有するシリコーンウレタン化合物、光ラジカル発生剤1~3、及びアルキル基やアリール基を有するモノマーを混合し、伸縮性膜形成用組成物(伸縮性膜材料1-1~1-7、比較伸縮性膜材料1-1)を調製した。
【0153】
【0154】
表2に記載の組成で、末端に(メタ)アクリレート基を有するフルオロウレタン化合物、光ラジカル発生剤1~3、熱ラジカル発生剤1、有機溶剤、及びアルキル基やアリール基を有するモノマーを混合し、伸縮性膜形成用組成物(伸縮性膜材料2-1~2-10)を調製した。
【表2】
【0155】
(伸縮性膜の製作)
ポリエチレン基板上に、伸縮性膜材料1-1~1-7、及び比較例に用いた伸縮性膜材料1-1、2-10、比較伸縮性膜材料1-1をバーコート法で塗布し、伸縮性膜の1層目を作製した。その後、窒素雰囲気下1,000Wのキセノンランプで500mJ/cm2の光を照射して伸縮性膜の1層目を硬化させた。
【0156】
1層目の上に、伸縮性膜材料2-1~2-9をスプレー塗布し、実施例1~11では窒素雰囲気下1,000Wのキセノンランプで500mJ/cm2の光を照射して伸縮性膜の2層目を硬化させ、実施例12では窒素中130℃で20分間ベークして熱硬化させ、表3に示すような構成の伸縮性膜を形成した。
【0157】
(膜厚・接触角・伸縮率・強度の測定)
硬化後の伸縮性膜の1層目、2層目(実施例1~12)、比較例の1層の伸縮性膜(比較例1~3)、における膜厚、及び表面の水の接触角を測定し、指で触ったときのタック感を求めた。また、伸縮性膜表面の水の接触角を測定した後に、伸縮性膜を基板から剥がし、JIS K 6251に準じた方法で伸縮率(伸び)と引っ張り強度(強度)を測定した。結果を表3に示す。
【0158】
【0159】
表3に示されるように、本発明の伸縮性膜では、撥水性、強度、伸縮性が高く、かつ表面のタック性が無い伸縮性膜が得られた。
【0160】
一方、比較例1~3のように1層しかない膜では、シリコーンペンダントウレタン膜単独(比較例1)では、撥水性、強度、伸縮性が高いが表面のタック性があり、膜同士がくっついてしまう特性であり、フルオロウレタン膜単独(比較例2)では、表面タック性がないものの強度が劣っていた。又、シリコーンがないウレタン膜単独(比較例3)では撥水性が低かった。
【0161】
以上のことから、本発明の伸縮性膜であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性と低タック性に優れるため、ウェアラブルデバイス等に用いられる伸縮性の配線が印刷可能な膜として優れた特性を有していることが明らかとなった。
【0162】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0163】
1…心電計、 2…生体電極、 3…配線、 4…センターデバイス、 5…粘着部、
6…伸縮性膜、 6-1…シリコーンペンダント型ウレタン層、
6-2…フルオロウレタン層、 7…基板。