(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤、該マスキング剤を含むカボチャ含有食品及びその製造方法、並びにカボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3544 20060101AFI20220824BHJP
A23L 3/3481 20060101ALI20220824BHJP
A23L 5/20 20160101ALI20220824BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220824BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20220824BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20220824BHJP
【FI】
A23L3/3544
A23L3/3481
A23L5/20
A23L19/00 A
A23L29/00
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2018109072
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(73)【特許権者】
【識別番号】505234188
【氏名又は名称】ケミ・コム・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】西野 芳
(72)【発明者】
【氏名】平川 高弘
(72)【発明者】
【氏名】市川 博貴
(72)【発明者】
【氏名】青木 太祐
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 彩人
(72)【発明者】
【氏名】下川 洋一
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083024(JP,A)
【文献】特開2011-083264(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084749(WO,A1)
【文献】特開2016-198007(JP,A)
【文献】特開2005-015686(JP,A)
【文献】特開2007-135509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0136839(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
δ-ヘキサデカラクトンを含む、カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤
であり、
前記カボチャ含有食品におけるカボチャの割合が、15重量%~45重量%であり、
前記カボチャ含有食品に対して、0.01重量%~1重量%添加するように用いる、マスキング剤。
【請求項2】
δ-ヘキサラクトンをさらに含む、請求項1に記載のマスキング剤。
【請求項3】
ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンをさらに含む、請求項2に記載のマスキング剤。
【請求項4】
δ-ヘキサデカラクトン
を含む、カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が添加された、カボチャ含有食品
であり、
前記カボチャ含有食品におけるカボチャの割合が、15重量%~45重量%であり、
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、前記カボチャ含有食品に対して0.01重量%~1重量%添加された、カボチャ含有食品。
【請求項5】
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、δ-ヘキサラクトン
をさらに
含む、請求項4に記載の食品。
【請求項6】
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトン
をさらに
含む、請求項5に記載の食品。
【請求項7】
δ-ヘキサデカラクトンを
含む、カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤を添加する工程を含む、カボチャ含有食品の製造方法
であり、
前記カボチャ含有食品におけるカボチャの割合が、15重量%~45重量%であり、
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤を、前記カボチャ含有食品に対して0.01重量%~1重量%添加する、製造方法。
【請求項8】
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、δ-ヘキサラクトン
をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトン
をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
δ-ヘキサデカラクトンを
含む、カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤を添加することにより、カボチャ含有食品の光劣化臭をマスキングする方法
であり、
前記カボチャ含有食品におけるカボチャの割合が、15重量%~45重量%であり、
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤を、前記カボチャ含有食品に対して0.01重量%~1重量%添加する、方法。
【請求項11】
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、δ-ヘキサラクトン
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤が、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトン
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カボチャ含有食品用光劣化臭のマスキング剤、該マスキング剤を含むカボチャ含有食品及びその製造方法、並びにカボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流通時又は保管時等に、食品を光があたる環境下(例えば店頭に陳列された際の照明下)に置くことで、光により劣化した際の特有の臭い(光劣化臭)を生じることが問題となる場合がある。特に、長期保存用の電子レンジ対応食品は、100%の遮光性を得られる包装とすることができないため、光劣化臭の発生が問題となることが多い。
【0003】
この問題の解決方法として、例えば、特許文献1には、太陽光や蛍光灯の影響を受けやすい店頭陳列商品であっても光誘導によるオフフレーバーの発生の少ない、透明容器に封入された乳性飲食品が記載されている。しかしながら、上記方法では、使用する容器が限定されてしまうという問題がある。
【0004】
そこで、食品自体に添加することにより、光劣化臭をマスキングするマスキング剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カボチャ含有食品の光劣化臭を効果的にマスキングするマスキング剤、該マスキング剤が添加されたカボチャ含有食品及びその製造方法、並びにカボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、δ-ヘキサデカラクトンをカボチャ含有食品に添加することにより、該食品の光劣化臭が効果的にマスキングされることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[12]を提供する。
[1] δ-ヘキサデカラクトンを含む、カボチャ含有食品用光劣化臭マスキング剤。
[2] δ-ヘキサラクトンをさらに含む、[1]に記載のマスキング剤。
[3] ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンをさらに含む、[2]に記載のマスキング剤。
[4] δ-ヘキサデカラクトンが添加された、カボチャ含有食品。
[5] δ-ヘキサラクトンがさらに添加された、[4]に記載の食品。
[6] ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンがさらに添加された、[5]に記載の食品。
[7] δ-ヘキサデカラクトンを添加する工程を含む、カボチャ含有食品の製造方法。
[8] δ-ヘキサラクトンを添加する工程をさらに含む、[7]に記載の製造方法。
[9] ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを添加する工程をさらに含む、[8]に記載の製造方法。
[10] δ-ヘキサデカラクトンを添加することにより、カボチャ含有食品の光劣化臭をマスキングする方法。
[11] δ-ヘキサラクトンを添加することをさらに含む、[10]に記載の方法。
[12] ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを添加することをさらに含む、[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カボチャ含有食品の光劣化臭を効果的にマスキングするマスキング剤、該マスキング剤が添加されたカボチャ含有食品及びその製造方法、並びにカボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光劣化臭マスキング剤は、δ-ヘキサデカラクトンを含む。また、光劣化臭マスキング剤が、δ-ヘキサデカラクトンに加え、δ-ヘキサラクトンを含むことで、カボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング効果が向上するため、好ましい。また、光劣化臭マスキング剤が、δ-ヘキサデカラクトン及びδ-ヘキサラクトンに加え、さらにジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを含むことで、カボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング効果がより一層向上するため、より好ましい。マスキング剤がδ-ヘキサデカラクトン以外の成分を含む場合の各成分の割合は特に限定されないが、例えば、δ-ヘキサラクトンの含有量(重量)は、δ-ヘキサデカラクトンの含有量(重量)に対して、0.5~5倍、1~3倍又は1~2倍であってよく、ジアセチルの含有量は、δ-ヘキサデカラクトンの含有量に対して、0.01~0.5倍又は0.05~0.1倍であってよく、2-ブタノンの含有量は、δ-ヘキサデカラクトンの含有量に対して、0.01~0.5倍又は0.05~0.1倍であってよく、δ-テトラデカラクトンの含有量は、δ-ヘキサデカラクトンの含有量に対して、0.1~2倍又は0.5~1倍であってよく、δ-トリデカラクトンの含有量は、δ-ヘキサデカラクトンの含有量に対して、0.1~2倍又は0.5~1倍であってよい。光劣化臭マスキング剤の添加量は、カボチャ含有食品の種類及び形態等により当業者が適宜調整できるものであるが、例えば、該食品の全重量に対して、0.01%~1%であってよく、0.05%~0.3%であってよく、0.08%~0.25%であってよい。
【0011】
本発明の光劣化臭マスキング剤は、後述するように、trans-2-ヘプテナール及び/又はノナナールの増加、並びに/或いは、オクタナール及び/又はtrans-2-オクテナール及び/又は1-オクテン-3-オールが生成されることに起因する光劣化臭のマスキングにより効果的であり、オクタナール、trans-2-オクテナール及び1-オクテン-3-オールが生成されることに起因する光劣化臭のマスキングにさらに効果的であり、trans-2-ヘプテナール及びノナナールが増加し、且つオクタナール、trans-2-オクテナール及び1-オクテン-3-オールが生成されることに起因する光劣化臭のマスキングに特に効果的である。
【0012】
本発明の光劣化臭マスキング剤はカボチャ含有食品に添加するためのマスキング剤である。カボチャ含有食品の形態としては、例えば、カレー、シチュー、リゾット、グラタン、ピザ、パン、サラダ、煮物等の調理加工された食品、フリーズドライ及びパウダー等の固形食品、プリン、ゼリー、カボチャピューレ等のペースト状食品、スープ(例えば、ポタージュスープ等)、ジュース及び流動食等の液状食品等が挙げられる。特に、カボチャ含有食品が液状食品である場合に、本発明の効果が顕著に奏される。上述したように、本発明の光劣化臭マスキング剤は、特定の香気成分に起因する光劣化臭のマスキングに特に効果的であることから、上述した特定の香気成分に起因する光劣化臭が生じやすい食品において効果が高い。カボチャ含有食品におけるカボチャの加工方法としては特に限定されず、例えば、ピューレ、ペースト、カット加工及びそれらをそのまま又は他原料と混合して加熱調理する方法等が挙げられる。
【0013】
光劣化臭は、光照射の期間が長い程生じやすい。したがって、本発明のマスキング剤を添加するカボチャ含有食品が長期保存用であると、より本発明の効果が顕著に奏される。長期保存用の食品とは、例えば、12日以上、14日以上、28日以上、3カ月以上、6カ月以上又は9カ月以上の保存が可能な食品であってよい。また、保存条件は、常温、冷蔵及び冷凍のいずれであってもよい。
【0014】
カボチャ含有食品用の包材の形状としては、例えば、パウチ、カップ、トレー及びピローを包含するトレー等が挙げられる。光劣化臭は、100%の遮光性ではない材質を食品の包材として使用した場合に生じやすい。そのような材質としては、例えば、パウチ用の包材として用いられるPET/NY/CPPの3層ラミネート、及びOPP/CPPの2層ラミネート等が挙げられる。
【0015】
光劣化臭マスキング剤が添加されるカボチャ含有食品におけるカボチャの割合(重量%)は、例えば、1~70%であってよく、10~60%であってよく、15~45%であってよい。また、食品の水分含有量(重量%)は、例えば、30~99%であってよく、40%~90%であってよく、55~85%であってよく、60~99%であってよく、80~95%であってよい。光劣化臭マスキング剤は、カボチャ含有食品を製造する際に添加してもよく、カボチャ含有食品を製造した後に添加してもよい。
【0016】
本発明のマスキング剤により、添加したカボチャ含有食品の光劣化臭がマスキングされるという効果が奏される。
【0017】
本発明のカボチャ含有食品は、δ-ヘキサデカラクトンが添加されたカボチャ含有食品である。δ-ヘキサデカラクトンの添加量及びδ-ヘキサデカラクトンが添加された食品等については上述のとおりである。
【0018】
本発明のカボチャ含有食品においては、光劣化臭がマスキングされるという効果が奏される。
【0019】
本発明のカボチャ含有食品の製造方法は、δ-ヘキサデカラクトンを添加する工程を含む。δ-ヘキサデカラクトンの添加量及びδ-ヘキサデカラクトンを含むカボチャ含有食品等については上述のとおりである。添加するタイミングとしては特に限定されず、原料とδ-ヘキサデカラクトンを混合した後に加工してもよく、原料を加工したのちにδ-ヘキサデカラクトンを添加して混合してもよい。例えば、カボチャとδ-ヘキサデカラクトンを混合した後に加工してもよく、カボチャを加工した後にδ-ヘキサデカラクトンを混合してもよく、カボチャ以外の原料とδ-ヘキサデカラクトンを混合及び/加工した後にカボチャを混合してもよい。また、食品の製造方法が殺菌工程を含む場合には、δ-ヘキサデカラクトンは殺菌工程の前後いずれかに添加してもよいし、前後両方で添加してもよい。δ-ヘキサラクトンを添加する工程をさらに含む場合には、δ-ヘキサラクトンを添加する工程は、δ-ヘキサデカラクトンを添加する工程と同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。δ-ヘキサラクトンを添加する工程に加え、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを添加する工程をさらに含む場合にも、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを添加する工程は、δ-ヘキサデカラクトンを添加する工程及び/又はδ-ヘキサラクトンを添加する工程と同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。また、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを添加する工程において、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンを添加するタイミング及び順番等に制限はなく、本製造方法のいずれかの段階において、ジアセチル、2-ブタノン、δ-テトラデカラクトン及びδ-トリデカラクトンが添加されていればよい。
【0020】
本発明の製造方法により、製造されたカボチャ含有食品の光劣化臭がマスキングされるという効果が奏される。
【0021】
本発明のカボチャ含有食品の光劣化臭をマスキングする方法は、δ-ヘキサデカラクトンを添加することにより行う。δ-ヘキサデカラクトンの添加量、添加タイミング及びδ-ヘキサデカラクトンを含むカボチャ含有食品等については上述のとおりである。
【0022】
本発明の方法により、カボチャ含有食品の光劣化臭がマスキングされるという効果が奏される。
【実施例】
【0023】
[比較例]
以下の表1に示した原料及び表2に示した市販製剤0.1重量%をミキサーに投入して均一に混合した後、レンジアップパウチに150g充填し、シールした後、レトルト殺菌機にて125℃で30分間殺菌して、レトルトカボチャスープを調製した。
【0024】
【0025】
【0026】
得られた各スープを、光照射保存試験に供した(条件:15,000ルクス、10℃、2週間又は4週間)。保存期間を終了した各スープを専門パネリスト3名で評価した。評価基準は以下のとおりである。
〇:光劣化臭を全く感じない。
△:光劣化臭を感じる。
×:光劣化臭を顕著に感じる。
【0027】
結果を表2に示した。表に示した各種の作用特性をもつと考えられる市販製剤が添加されたスープは、いずれも、強い光を4週間照射された場合に光劣化臭が感じられた(「結果」欄で×評価)。一部の酸化防止剤やマスキングフレーバーにおいては、2週間までは光劣化臭が感じられなかったが、4週間まで保存した場合に光劣化臭が感じられた。
【0028】
[実施例1 光劣化臭に関する分析]
市販カボチャスープ(「朝のたべるスープ かぼちゃのチャウダー」、フジッコ株式会社製)を、光照射(10,000ルクス、5℃、1ヶ月間)することにより、光劣化臭を発生させたスープを得た。前記光照射したスープと、光照射していないスープについて、ガスクロマトグラフ法により香気成分を分析(条件は以下に記載)し、比較した。
【0029】
(ガスクロマトグラフ法による分析の条件)
・前処理方法
常温20~25℃(室内で1時間ほど静置)にした上記市販カボチャスープをEntech用バイアル瓶に50g採取し、バイアル瓶内のヘッドスペースガスをN2ガスにて20秒パージした。密閉したバイアル瓶を40℃の恒温槽(オーブン)で15分間静置させた後、バイアル瓶内のヘッドスペースガス200ccを自動濃縮装置(ENTECH INSTRUMENTS INC.)を用いて濃縮、GC/MSにて分析した。
・分析機器
ヘッドスペースガス自動濃縮装置:7150(ENTECH)
オートサンプラー:7405(ENTECH)
GC:7890(Agilent Technologies社製)
MSD:5975C(Agilent Technologies社製)
・分析条件
Column:DB-WAX (J&W), 60m × 0.32mm i.d.(0.50μm)
Inlet temp.:250℃
Column temp:40℃~230℃(多段階昇温)
Split ratio:splitless
【0030】
その結果、光照射していないスープと比較して、光照射したスープにおいて、ノナナール及びtrans-2-ヘプテナールの増加が認められた。また、光照射していないスープと比較して、光照射したスープにおいて、新たにオクタナール、trans-2-オクテナール及び1-オクテン-3-オールの生成が認められた。
【0031】
上記5成分をそれぞれ単品香料として調製し、専門パネリストにより官能評価を行ったところ、5成分すべてが光劣化臭と類似する傾向があると評価された。
【0032】
[試験例 光劣化臭に対する乳原料の影響]
表3に示したカボチャピューレ、乳原料、具材を含有するカボチャスープを、表1に記載のスープ原料配合にしたがって調製した。乳原料「あり」の試験区については、表1の配合に市販の生クリーム10重量%を追加し、残部を水で調整した。具材は、スープ100重量部に対して10重量部となるように添加した。
【0033】
【0034】
表1の原料配合(乳原料ありの試験区は乳原料を含めた配合)、及び具材を加えてミキサーで均一混合した後、透明なレトルトパウチに150g充填し、シールした後、レトルト殺菌機にて125℃で30分間殺菌して、レトルトカボチャスープを調製した。
【0035】
得られたスープを光照射(15,000ルクス、10℃、12日間)した後、ガスクロマトグラフ法により香気成分の分析(条件は実施例1と同じ)を行った。また、殺菌後に光を照射せず冷蔵庫(4℃)で12日間保存したスープを比較対照品として、同様に分析を行った。
【0036】
実施例1で特定した光劣化臭成分(光劣化により増加、または新規に発生する成分;ノナナール、trans-2-ヘプテナール、オクタナール、trans-2-オクテナール及び1-オクテン-3-オール)について、光照射品の各成分量のエリア面積を、比較対照品の各成分量のエリア面積で除した結果を表3に示した。
【0037】
いずれの試験区においても、光照射後のスープを食すると、光劣化臭が感じられる品質であった。
【0038】
以上の結果より、乳原料の有無にかかわらず、光劣化臭及び光劣化臭成分が増加したことが確認され、光劣化臭の発生要因はカボチャであることが示唆された。
【0039】
[実施例2 光劣化臭のマスキング成分の探索]
光劣化臭のマスキング成分の候補として以下の6成分を選択した。
O:ジアセチル 0.2g/kg
P:2-ブタノン 0.4g/kg
Q:δ-ヘキサラクトン 5g/kg
R:δ-トリデカラクトン 2g/kg
S:δ-テトラデカラクトン 2g/kg
T:δ-ヘキサデカラクトン 3g/kg
※O~Tは各香気を食用油脂1kgに溶解したもの
【0040】
光照射させた市販カボチャスープ(「朝のたべるスープ かぼちゃのチャウダー」、フジッコ株式会社製)にそれぞれ0.1重量%となるように添加し、専門パネリスト4名により官能評価試験を行い、匂いと味の観点から、光劣化臭をマスキングしているものを、O~Tの中から2成分選択した。
【0041】
その結果、匂いの観点からは、4名中3名がQとTを選択した。また、味の観点からは、4名中3名がTを選択した。総合すると、Tが匂いと味の観点から、マスキング効果が高いことが示唆された。
【0042】
次に、上記O~Tの成分について、以下の4種類の組み合わせを作製した。
V:Q+T
W:O+P+R+S
X:O+P(ケトンミックス品)
Y:Q+R+S+T(ラクトンミックス品)
※V~Yは各香気を食用油脂1kgに溶解したもの
【0043】
O~Tの試験に用いた光照射させたカボチャスープと同じものに、上記V~Yをそれぞれ0.2重量%となるように添加し、専門パネリスト4名により官能評価試験を行った。
【0044】
その結果、VとWを比較した場合に、より光劣化臭をマスキングしている方としてVを選択した者は2名、Wを選択した者は2名であった。同様にX(ケトンミックス品)とY(ラクトンミックス品)を比較した場合には、4名全員がYを選択した。また、4名全員が、V~Yの中で最も光劣化臭のマスキング効果が高い組み合わせとしてYを選択した。さらに、YにXを混合した香料(CC1706OL)を作製し、Yと比較したところ、4名全員が、CC1706OLの方がよりマスキング効果が高いと評価した。総合すると、ケトンミックス品とラクトンミックス品では、ラクトンミックス品の方がマスキング効果が高く、さらにラクトンミックス品にケトンミックス品を加えることで、よりマスキング効果が高まることが示唆された。
【0045】
[実施例3 光劣化臭の再現とマスキング成分のスクリーニング]
実施例1において特定された、光劣化臭と類似する傾向がある5成分に基づき、表4の組成の疑似光劣化臭香料を調製した。専門パネリストによる評価により、TR-2491よりもTR-2492の方がより光劣化臭の再現性が高いことを確認した。
【0046】
【0047】
上記疑似光劣化臭香料TR-2492を、光照射していない市販カボチャスープ(「朝のたべるスープ かぼちゃのチャウダー」、フジッコ株式会社製)に0.1重量%となるように添加し、光劣化風味スープを調製した。各種香料成分をブレンドした香料を上記光劣化風味スープに0.1重量%となるように添加し、専門パネリストによる官能評価により、マスキング効果を有する香料成分のスクリーニングを行った。スクリーニングにより選抜された香料成分を表5に示す。
【0048】
【0049】
スクリーニングの結果、成分(e)を有するサンプルが、光劣化臭のマスキング効果を有することが示された。以下、さらに上記サンプルの光劣化臭マスキング効果を比較検討した。
【0050】
表1に示した原料をミキサーに投入して均一にスープに対して、具材として国産カボチャ10mmダイスカット品を7重量%、及び表5の香料をそれぞれ0.1重量%となるように添加して混合した後、比較例に記載された方法にしたがって充填及びレトルト殺菌し、レトルトカボチャスープを得た。
【0051】
得られた各スープを、光照射保存試験に供した(条件:15,000ルクス、10℃、4週間)。保存期間を終了した各スープを専門パネリスト3名で評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:光照射4週間経過後においても、光劣化臭が感じられない。
○:光照射4週間経過後においても、ほとんど光劣化臭が感じられない。
△:光照射4週間経過後において、感じられる光劣化臭はごくわずかである。
×:光照射4週間経過すると、光劣化臭が感じられる。
△~◎を光劣化臭のマスキング効果がある、○~◎を光劣化臭のマスキング効果が高い、◎を光劣化臭のマスキング効果が著しく高い、と判断した。結果を表6に示す。
【0052】
【0053】
以上の結果から、成分(e)を含有する香料は、カボチャ含有食品の光劣化臭を効果的にマスキングしたことが確認された。また、成分(e)に加えて、成分(f)を含有させることで、よりマスキング効果が高まることが示された。さらに、成分(e)に加えて、成分(a)、成分(b)、成分(c)、成分(d)及び成分(f)を含有させることで、カボチャ含有食品の光劣化臭のマスキング効果がさらに高まることが示された。なお、このマスキング効果は、光劣化臭が発生した後のカボチャ含有食品に添加した場合にも示された。
【0054】
[実施例4 マスキング香料を配合した光劣化臭がマスキングされたカボチャ含有食品の製造例]
表1に示した原料をミキサーに投入して均一にスープに対して、具材として国産カボチャ10mmダイスカット品を10重量%、及び表5のマスキング香料(CCA-297085)を0.1重量%となるように添加して混合した後、レンジアップパウチに150g充填し、シールした後、レトルト殺菌機にて125℃で30分間殺菌して、レトルトカボチャスープを調製した。
【0055】
得られたスープを光照射(15,000ルクス、10℃、4週間)した後、専門パネリストが喫食して評価したところ、光劣化臭は一切感じられなかった。成分(a)~(f)を含有する香料は、カボチャ含有食品の光劣化臭を効果的にマスキングしたことが示された。