(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20220824BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20220824BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20220824BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/403 B
H01M50/403 E
H01M50/446
(21)【出願番号】P 2020519126
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 KR2019007030
(87)【国際公開番号】W WO2019240475
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0067719
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン-シク・ペ
(72)【発明者】
【氏名】ビ-オ・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ホン-シク・ソン
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-172036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40- 50/497
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)重量平均分子量が200,000~1,000,000であるポリオレフィン、第1希釈剤、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン、開始剤及び架橋触媒を押出機に投入及び混合する段階と、
(S2)前記押出機に第2希釈剤を投入及び混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を反応押出する段階と、
(S3)前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S4)前記延伸されたシートから第1希釈剤及び第2希釈剤を抽出してシラングラフトされたポリオレフィン多孔性膜を製造する段階と、
(S5)前記多孔性膜を熱固定する段階と、
(S6)前記多孔性膜を水分存在下で架橋させる段階とを含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1希釈剤の投入から押出までの経過時間(t1)に対する前記第2希釈剤の投入から押出までの経過時間(t2)の比率(t2/t1)が0.1~0.7である、請求項
1に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1希釈剤と第2希釈剤との重量比が50:50~80:20である、請求項
1または
2に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1希釈剤及び前記第2希釈剤が、それぞれ独立的に、液体パラフィンオイル、固体パラフィンオイル、鉱油、ワックス、大豆油、フタル酸エステル類、芳香族エーテル類、炭素数10~20の脂肪酸類、炭素数10~20の脂肪酸アルコール類、脂肪酸エステル類、またはこれらのうち2以上を含む、請求項
1から
3の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記第2希釈剤の動粘度が第1希釈剤の動粘度と同じであるかまたは低い、請求項
1から
4の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記第1希釈剤及び第2希釈剤の動粘度が、それぞれ独立的に、40℃の条件で5cSt~100cStであり、
このとき、前記第1希釈剤と第2希釈剤との動粘度の差が5cSt以上である、請求項
5に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記第1希釈剤と第2希釈剤との動粘度の差が10cSt以上である、請求項
6に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1希釈剤と第2希釈剤との総含量が、前記ポリオレフィン100重量部を基準にして100~350重量部である、請求項
1から
7の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、下記化学式1で表される化合物を含む、請求項
1から
8の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【化1】
化学式1において、前記R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立的に、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも一つはアルコキシ基であり、前記Rはビニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、または炭素数1~20のアルキル基であり、このとき、前記アルキル基の少なくとも一つの水素がビニル基、アクリル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基またはメタクリル基で置換される。
【請求項10】
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2以上を含む、請求項
9に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量は、前記ポリオレフィン、第1希釈剤及び第2希釈剤の合計100重量部を基準にして0.1~3.0重量部であり、前記開始剤の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~20重量部である、請求項
1から
10の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記架橋触媒の含量が、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~20重量部である、請求項
1から
11の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記架橋触媒が、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエン、スルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、またはこれらのうち2以上を含む、請求項
1から
12の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記熱固定の温度が、100~140℃である、請求項
1から
13の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2018年6月12日出願の韓国特許出願第10-2018-0067719号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が益々具体化されている。電気化学素子はこのような面から最も注目されている分野であり、なかでも充放電可能な二次電池の開発には関心が集まっている。近年はこのような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために新たな電極と電池の設計に関連する研究開発が行われている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初に開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べて、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
このようなリチウム二次電池は、正極、負極、電解液、分離膜から構成され、なかでも分離膜には、正極と負極とを分離して電気的に絶縁させるための絶縁性、及び高い気孔度に基づいてリチウムイオンの透過性を高めるために高いイオン伝導度が求められる。
【0006】
また、分離膜では、シャットダウン温度(shut down)とメルトダウン温度(melt down)との差が大きいと、分離膜を含むリチウム二次電池の安全性が確保される。両者の間隔を広げるためには、シャットダウン温度は減少する方向に、メルトダウン温度は増加する方向に調節しなければならない。
【0007】
メルトダウン温度を増加させる方法としては、架橋ポリオレフィン多孔性膜を用いる方法がある。しかし、架橋反応を用いる場合、気孔の形成に必要な希釈剤と架橋反応に必要な架橋剤とが副反応を起こすおそれがある。特に、希釈剤と反応した架橋剤が押出/延伸中に希釈剤とともに分離膜の表面に移動(migration)し、最終的に生成された分離膜の表面のみで集中的に架橋反応が起きる問題がある。このように分離膜の表面のみで架橋反応が起きる場合、厚さ方向で均一なメルトダウン温度を有する架橋ポリオレフィン分離膜を製造し難く、分離膜の表面における過架橋によって分離膜表面で気孔を形成し難くなって抵抗が増加する問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、分離膜の表面における過架橋を減少させて、厚さ方向で均一な架橋度を有するか又は分離膜内部の架橋度が表面よりも高いシラン架橋されたポリオレフィンを含む分離膜を提供することである。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、分離膜の厚さ方向で均一なメルトダウン温度を有し、該メルトダウン温度が従来に比べて高く且つ抵抗値が減少した架橋ポリオレフィン分離膜を提供することを目的とする。
【0010】
また、上記のような分離膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、下記具現例による架橋ポリオレフィン分離膜を提供する。
【0012】
第1具現例は、
架橋ポリオレフィン分離膜であって、
前記分離膜がシラン架橋されたポリオレフィンを含み、
前記分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋IR(infrared spectroscopy)ピーク強度が0.001~0.012であり、
前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の厚さ方向の中央のシラン架橋IRピーク強度(B)の比(B/A)が0.8~1.2であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0013】
第2具現例は、
架橋ポリオレフィン分離膜であって、
前記分離膜がシラン架橋されたポリオレフィンを含み、
前記分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋IRピーク強度が0.001~0.012であり、
前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の一側表面から前記分離膜の全体厚さの1/4地点のシラン架橋IRピーク強度(C)の比(C/A)が0.9~1.5であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0014】
第3具現例は、
架橋ポリオレフィン分離膜であって、
前記分離膜がシラン架橋されたポリオレフィンを含み、
前記分離膜の厚さ方向で、IRピーク2847cm-1の強度(D)に対するIRピーク1030cm-1の強度の比((A、BまたはC)/D)が0.001~0.012であり、
前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の厚さ方向の中央のシラン架橋IRピーク強度(B)の比(B/A)が0.8~1.2であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0015】
第4具現例は、第1または第2具現例において、
前記シラン架橋IRピークが1030cm-1であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0016】
第5具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、前記分離膜内のシラン(Si)含量が前記分離膜100重量部に対して150ppm~900ppm重量部であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0017】
第6具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記分離膜の架橋度が15~90%であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0018】
第7具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
架橋密度(単位体積当りSi-O-Si架橋点の個数)が0.01mol/L以上であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0019】
本発明の他の一態様は、下記具現例による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を提供する。
【0020】
第8具現例は、
(S1)重量平均分子量が200,000~1,000,000であるポリオレフィン、第1希釈剤、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン、開始剤及び架橋触媒を押出機に投入及び混合する段階と、
(S2)前記押出機に第2希釈剤を投入及び混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を反応押出する段階と、
(S3)前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S4)前記延伸されたシートから第1希釈剤及び第2希釈剤を抽出してシラングラフトされたポリオレフィン多孔性膜を製造する段階と、
(S5)前記多孔性膜を熱固定する段階と、
(S6)前記多孔性膜を水分存在下で架橋させる段階とを含むことを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0021】
第9具現例は、第8具現例において、
前記第1希釈剤の投入から押出までの経過時間(t1)に対する前記第2希釈剤の投入から押出までの経過時間(t2)の比率(t2/t1)が0.1~0.7であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0022】
第10具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記第1希釈剤と第2希釈剤との重量比が50:50~80:20であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0023】
第11具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記第1希釈剤及び前記第2希釈剤が、それぞれ独立的に、液体パラフィンオイル、固体パラフィンオイル、鉱油、ワックス、大豆油、フタル酸エステル類、芳香族エーテル類、炭素数10~20の脂肪酸類、炭素数10~20の脂肪酸アルコール類、脂肪酸エステル類、またはこれらのうち2以上を含むことを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0024】
第12具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記第2希釈剤の動粘度が第1希釈剤の動粘度と同じであるかまたは低いことを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0025】
第13具現例は、第12具現例において、
前記第1希釈剤及び第2希釈剤の動粘度が、それぞれ独立的に、40℃の条件で5cSt~100cStであり、
このとき、前記第1希釈剤と第2希釈剤との動粘度の差が5cSt以上であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0026】
第14具現例は、第13具現例において、
前記第1希釈剤と第2希釈剤との動粘度の差が10cSt以上であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0027】
第15具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記第1希釈剤と第2希釈剤との総含量が、前記ポリオレフィン100重量部を基準にして、100~350重量部であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0028】
第16具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、下記化学式1で表される化合物を含むことを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0029】
【0030】
化学式1において、前記R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R1、R2及びR3のうち少なくとも一つはアルコキシ基であり、前記Rはビニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、または炭素数1~20のアルキル基であり、このとき、前記アルキル基の少なくとも一つの水素がビニル基、アクリル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基またはメタクリル基で置換される。
【0031】
第17具現例は、第16具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2以上を含むことを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0032】
第18具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量は、前記ポリオレフィン、第1希釈剤及び第2希釈剤の合計100重量部を基準にして、0.1~3.0重量部であり、前記開始剤の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして、0.1~20重量部であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0033】
第19具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記架橋触媒の含量が、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして、0.1~20重量部であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0034】
第20具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記架橋触媒が、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエン、スルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、またはこれらのうち2以上を含むことを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0035】
第21具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記熱固定の温度が、100~140℃であることを特徴とする架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様による分離膜は、分離膜の厚さ方向における架橋度が一定であるかまたは内部の架橋度が表面よりも大きい架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。結果的に、分離膜表面の抵抗が減少し、出力、サイクル特性などの電気化学素子の物性を改善することができる。
【0037】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法は、シラングラフトされたポリオレフィン組成物の製造において、反応押出の前半部に第1希釈剤を開始剤、架橋剤などとともに一定量投入し、反応押出の後半部に第2希釈剤を単独で投入することで、分離膜の表面で主に架橋が起きる現象を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】分離膜試片を傾斜切削(1°)を通じて露出させた後、分離膜の厚さ方向の架橋度をIRで分析する方法を概略的に示した図である。
【
図2】本発明の一実施例による分離膜及び該分離膜の厚さ方向におけるIRスペクトルを示した図である。
【
図3】本発明の一実施例による分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋(Si-0)伸縮ピーク強度を示した図である。
【
図4】時間経過に応じた架橋構造の変化を架橋密度で概略的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び請求範囲に使用された用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0040】
本明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されるとするとき、これは「直接的な連結」だけではなく、他の素子を介在した「間接的な連結」も含む。また、「連結」とは、物理的連結だけでなく、電気化学的連結も含む。
【0041】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0042】
また、本明細書で使用される「含む」とは、言及した形状、数値、段階、動作、部材、要素及び/またはこれらのグループの存在を特定するものであって、一つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/またはグループの存在または付加を排除するものではない。
【0043】
本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0044】
本明細書の全体において、マーカッシュ形式の表面に含まれた「これらの組合せ」との用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組合せを意味するものであって、記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0045】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0046】
本発明の一態様は、架橋ポリオレフィン分離膜及び架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0047】
リチウム二次電池に使用される分離膜は、シャットダウン温度とメルトダウン温度との差が大きいと優れた安全性を有する。このとき、両者の間隔を広げるためには、シャットダウン温度は減少する方向に、メルトダウン温度は増加する方向に調節しなければならない。
【0048】
そこで、本発明者らは、より高いメルトダウン温度を有する分離膜を製造するため、シラン架橋反応を用いた。このとき、メルトダウン温度は、架橋ポリオレフィン多孔性膜の架橋度などによって制御可能である。例えば、架橋度が高ければメルトダウン温度が増加し、架橋度が低ければメルトダウン温度が減少する。
【0049】
このような架橋ポリオレフィン多孔性膜は、ポリオレフィン、希釈剤及び架橋剤(例えば、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン、開始剤、架橋触媒など)を混合し反応押出して製造し得るが、希釈剤及び架橋剤を一度に投入する場合、希釈剤と架橋剤とが副反応を起こすおそれがある。本発明者らは、特に粘度が低い希釈剤の場合、反応押出の過程で希釈剤が分離膜の表面に移動し、希釈剤と架橋剤とが副反応を起こして、分離膜の表面で集中的な架橋反応を起こす問題があることを見つけた。
【0050】
本発明者らはこのような問題点に着目し、分離膜の表面における集中的な架橋反応が減少した分離膜及びその製造方法を提供する。
【0051】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜は、前記分離膜がシラン架橋されたポリオレフィンを含み、前記分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋IR(infrared spectroscopy)ピーク強度が0.001~0.012であり、前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の厚さ方向の中央のシラン架橋IRピーク強度(B)の比(B/A)が0.8~1.2である。
【0052】
このとき、前記シラン架橋IRピークは1030cm-1付近のものである。前記1030cm-1におけるピークは-Si-O-Siの存在を示すものである。
【0053】
本発明の一態様によれば、前記架橋ポリオレフィン分離膜は、分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋IRピーク強度が0.001~0.012である。上記の数値範囲のように分離膜内のシラン架橋結合(Si-O-Si)が存在することによって、メルトダウン温度が高くなって約175℃以上を示し、電気化学素子の安全性が向上することができる。本発明の一態様において、上記の数値範囲は分離膜内の-Si-O-Siの存否を示したものである。換言すれば、分離膜に対してIRピークを測定して1030cm-1付近におけるIRピークが上記のようなピーク強度を示さないと、分離膜内にSi-O-Si架橋結合が存在しないということである。この場合、本発明の一態様によって所望のメルトダウン温度を達成できない。
【0054】
一方、シラン架橋ポリオレフィン分離膜を製造するとき、希釈剤の投入時点、種類及び量を制御することで、前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の厚さ方向の中央のシラン架橋IRピーク強度(B)の比(B/A)が0.8~1.2になるように制御する。これによって、本発明の一態様による分離膜は、表面のシラン架橋IRピーク強度と内部のシラン架橋IRピーク強度とが同等または類似に維持され、分離膜表面の抵抗値が減少して分離膜の厚さ方向で均一な機械的物性または熱的物性を有する分離膜を提供することができる。B/A比が0.8未満であると、分離膜表面の抵抗値が高くて、電気化学素子用分離膜として使用した場合出力向上などが十分にならないおそれがある。B/A比が1.2を超えると、分離膜内部の抵抗値が高くて、電気化学素子用分離膜として使用した場合出力向上などが十分にならないおそれがある。
【0055】
本発明において、前記シラン架橋IRピーク強度は、以下のような方法で測定できるが、これに制限されることはない。
【0056】
まず、測定しようとする分離膜試片を所定の大きさで用意した。その後、傾斜切削分析機を用いて分離膜を所定の傾斜で傾斜切削する。
【0057】
切削された分離膜をFT-IR分光器を用いて分離膜の厚さ方向で所定間隔で等分し、分離膜の表面から内部までのシラン架橋IRピーク強度を3回測定して平均値を算定する。
【0058】
このとき、試片の大きさ、傾斜角度、等分間隔、測定回数は、誤差範囲を減らすため、製造された分離膜の厚さ、大きさに応じて変わり得る。
【0059】
図1は、分離膜の厚さ方向で分離膜試片を傾斜切削(1°)して露出させた後、分離膜の厚さ方向の架橋度をIRで分析する方法を概略的に示した図である。
【0060】
一方、表面における集中的な架橋反応が減少した本発明の一態様の架橋ポリオレフィン分離膜は、分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の一側表面から前記分離膜の全体厚さの1/4地点のシラン架橋IRピーク強度(C)の比(C/A)より提供される。
【0061】
具体的には、本発明の一態様による分離膜は、架橋ポリオレフィン分離膜であって、前記分離膜がシラン架橋されたポリオレフィンを含み、前記分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋IRピーク強度が0.001~0.012であり、前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の一側表面から前記分離膜の全体厚さの1/4地点のシラン架橋IRピーク強度(C)の比(C/A)が0.9~1.5であることを特徴とする。
【0062】
このように、分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度に対する分離膜の全体厚さの1/4地点のシラン架橋IRピーク強度を同等または類似に制御することで、表面における集中的な架橋反応が減少した架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。C/A比が0.9未満であると、分離膜表面の抵抗値が高くて、電気化学素子用分離膜として使用した場合出力向上などが十分にならないおそれがある。C/A比が1.5を超えると、分離膜内部の抵抗値が高くて、電気化学素子用分離膜として使用した場合出力向上などが十分にならないおそれがある。
【0063】
一方、本発明の他の一態様は、架橋ポリオレフィン分離膜であって、前記分離膜がシラン架橋されたポリオレフィンを含み、前記分離膜の厚さ方向で、IRピーク2847cm-1の強度(D)に対するIRピーク1030cm-1の強度(A、BまたはC)の比((A、BまたはC)/D)が0.001~0.012であり、前記分離膜の一側表面のシラン架橋IRピーク強度(A)に対する前記分離膜の厚さ方向の中央のシラン架橋IRピーク強度(B)の比(B/A)が0.8~1.2である。
【0064】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜において、IRピーク2847cm-1はCH伸縮結合を示し、IRピーク2847cm-1の値はほぼ1に収束する。換言すれば、本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜は、厚さ方向において、IRピーク2847cm-1の強度(D)に対するIRピーク1030cm-1の強度(A、BまたはC)の比((A、BまたはC)/D)が0.001~0.012である。このとき、(A、BまたはC)/Dは、ポリオレフィン主鎖に対するシラン架橋結合の比を示すものであり得る。
【0065】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分離膜の厚さ方向におけるシラン架橋IRピーク強度は0.002~0.010、または0.003~0.008であり得る。
【0066】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分離膜内のシラン(Si)含量は、前記分離膜100重量部に対して150ppm~900ppm、250ppm~800ppm、または350ppm~750ppmであり得る。上記の数値範囲内であれば、本発明で所望の分離膜の機械的物性及び熱的物性を達成することができる。さらに、シラン架橋結合の量が適切であるため、電気化学素子用分離膜としての使用に適した抵抗値を維持することができる。
【0067】
前記分離膜内のシランの含量は、以下のような方法で測定できるが、これに制限されることはない。非制限的な例として、分離膜内のシラン含量は、Axiomモデルの誘導結合プラズマ質量分析機(ICP-MS、inductively coupled plasma with mass spectrometer、ここでMC-ICP-MS、Axiomは、英国のThermo Elemental社製のAXIOM MCモデルであって、高分解能機能をともに備える形態である)を用いて測定可能である。
【0068】
本発明の一態様による分離膜は、第1希釈剤及び第2希釈剤の投入時点、種類及び含量などを制御することで、分離膜の厚さ方向におけるIRピークが均一な分離膜を提供することができる。
【0069】
本発明の一態様は、分離膜の厚さ方向におけるIRピークが均一であるかまたは表面よりも内部のIRピーク値が大きい分離膜を提供する。すなわち、分離膜の表面でシランが過架橋されることを防止する。すなわち、分離膜の表面でシランが過架橋されて気孔度が減少することを防止することで、抵抗が相対的に低い分離膜を提供することができる。
【0070】
また、分離膜の厚さ方向におけるIRピークが均一であると、シラン架橋が厚さ方向で均一に行われたことが分かる。これによって、熱収縮率、機械的強度が厚さ方向で均一な分離膜を提供することができる。
【0071】
上述した本発明の一態様による分離膜は、架橋度が15~90%、20~80%、または25~75%である。架橋度が上記の数値範囲内であると、所望の範囲にメルトダウン温度が上昇でき、延伸工程における破断及びゲル発生の可能性が低い。
【0072】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、前記分離膜は、架橋密度(単位体積当りSi-O-Si架橋点の個数)が0.01mol/L以上であり、0.01~0.10mol/L、0.02~0.08mol/L、または0.03~0.07mol/Lであり得る。
【0073】
本発明者らは、架橋度が所定数値以上である場合、優れた耐熱性を示して分離膜のメルトダウン温度が上昇することを見つけた。メルトダウン温度が高いと、容量が大きくて安全性が重要な自動車などの分野にも本発明による分離膜を適用できる。
【0074】
一方、本発明者らは、架橋度の変化と架橋構造の変化との相関関係を研究した。架橋構造の変化は架橋密度で示した。
【0075】
上述したように、本発明の具体的な一実施形態において、分離膜の架橋密度は0.01mol/L以上であり得る。架橋密度が0.01mol/L未満であると架橋の程度が粗く、架橋密度が0.01mol/L以上であると架橋の程度が緻密である。これを
図4に示した。これによって、機械的強度が高くて高温での収縮率が減少し、特に、0.01mol/L以上では高温収縮率が緩く減少する。
【0076】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法は、
(S1)重量平均分子量が200,000~1,000,000であるポリオレフィン、第1希釈剤、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン、開始剤及び架橋触媒を押出機に投入及び混合する段階と、
(S2)前記押出機に第2希釈剤を投入及び混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を反応押出する段階と、
(S3)前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S4)前記延伸されたシートから第1希釈剤及び第2希釈剤を抽出してシラングラフトされたポリオレフィン多孔性膜を製造する段階と、
(S5)前記多孔性膜を熱固定する段階と、
(S6)前記多孔性膜を水分存在下で架橋させる段階とを含む。
【0077】
以下、本発明による分離膜の製造方法を具体的に説明する。
【0078】
まず、重量平均分子量が200,000~1,000,000であるポリオレフィン、第1希釈剤、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン、開始剤及び架橋触媒を押出機に投入し混合する(S1)。
【0079】
従来はポリオレフィン、希釈剤、架橋剤などを押出機に一度に投入し混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を製造した。しかし、このような工程では分離膜の表面のみで集中的なシラン架橋反応が起き、分離膜の機械的、熱的物性が厚さ方向で均一ではないという問題がある。
【0080】
一方、本発明では、希釈剤の種類、量及び/または投入時点などを制御することで、分離膜の厚さ方向で架橋度、メルトダウン温度などの機械的、熱的物性が均一な分離膜を提供することができる。
【0081】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;ポリペンテン;ポリヘキセン;ポリオクテン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、ヘキセン、ヘブセン及びオクテンのうち2種以上の共重合体;またはこれらの混合物であり得る。
【0082】
特に、前記ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などがあり、なかでも結晶度が高くて樹脂の溶融点が高い高密度ポリエチレンが最も望ましい。
【0083】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリエチレンの重量平均分子量は200,000~1,000,000、220,000~700,000、または250,000~500,000であり得る。本発明では、200,000~1,000,000の重量平均分子量を有する高分子量のポリオレフィンを分離膜製造の出発物質として使用することで、分離膜フィルムの均一性及び製膜工程性を確保しながら、最終的に強度及び耐熱性に優れた分離膜を得ることができる。
【0084】
本発明の具体的な一実施形態において、前記第1希釈剤は、湿式分離膜の製造に一般に使用される液体または固体のパラフィンオイル、鉱油、ワックス、大豆油などを使用することができる。
【0085】
本発明の具体的な一実施形態において、前記第1希釈剤としては、ポリオレフィンと液-液相分離可能な希釈剤も使用可能であり、例えば、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類;ジフェニルエーテル、ベンジルエーテルなどの芳香族エーテル類;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10~20の脂肪酸類;パルミチン酸アルコール、ステアリン酸アルコール、オレイン酸アルコールなどの炭素数10~20の脂肪酸アルコール類;パルミチン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、ステアリン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、オレイン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、リノール酸モノ-、ジ-またはトリエステルなどの、脂肪酸基の炭素数が4~26である飽和及び不飽和脂肪酸、若しくは、不飽和脂肪酸の二重結合がエポキシで置換された1個または2個以上の脂肪酸が、ヒドロキシ基が1~8個であって炭素数が1~10であるアルコールとエステル結合された脂肪酸エステル類;であり得る。
【0086】
前記第1希釈剤は、上述した成分を単独または2種以上含む混合物で使用することができる。
【0087】
本発明の具体的な一実施形態において、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、シラン架橋反応を起こす架橋剤であって、炭素-炭素二重結合基、具体的にはビニル基によってポリオレフィンにグラフトされ、アルコキシ基によって水架橋反応が行われてポリオレフィンを架橋させる役割をする。
【0088】
本発明の具体的な一実施形態において、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、下記化学式1で表される化合物を含むことができる:
【0089】
【0090】
化学式1において、前記R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R1、R2及びR3のうち少なくとも一つはアルコキシ基であり、前記Rはビニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、または炭素数1~20のアルキル基であり、このとき、前記アルキル基の少なくとも一つの水素がビニル基、アクリル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基またはメタクリル基で置換される。
【0091】
一方、前記Rは、追加的に、アミノ基、エポキシ基またはイソシアネート基をさらに含むことができる。
【0092】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2以上の混合物を含むことができる。
【0093】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量は、ポリオレフィン、第1希釈剤及び第2希釈剤の合計100重量部を基準にして、0.1~3.0重量部、0.2~2.0重量部、または0.5~1.5重量部であり得る。前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量が上記の数値範囲を満足する場合、シランの含量が少なくてグラフト率が低下し架橋度が低下するか、または、シラン含量が多くて未反応シランが残存し押出シートの外観が不良になる問題などを防止することができる。
【0094】
本発明の具体的な一実施形態において、前記開始剤は、ラジカルの生成が可能な開始剤であれば制限なく使用可能である。前記開始剤の非制限的な例としては、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)、ベンゾイルペルオキシド、アセチルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミルペルオキシド、過酸化水素、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0095】
本発明の具体的な一実施形態において、前記開始剤の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして、0.1~20重量部、詳しくは1~10重量部、より詳しくは2~5重量部であり得る。前記開始剤の含量が上記の数値範囲を満足する場合、開始剤の含量が低くてシラングラフト率が低下するか、または、開始剤の含量が多くて押出機内でポリエチレン同士が架橋される問題を防止することができる。
【0096】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒は、シラン架橋反応を促進させるために添加されるものである。
【0097】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒としては、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属のカルボン酸塩、有機塩基、無機酸または有機酸を使用することができる。前記架橋触媒の非制限的な例として、前記金属のカルボン酸塩としてはジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルトなどがあり、前記有機塩基としてはエチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジンなどがあり、前記無機酸としては硫酸、塩酸などがあり、前記有機酸としてはトルエン、スルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などがあり得る。また、前記架橋触媒は、これらを単独でまたは2以上を混合して使用することができる。
【0098】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして、0.1~20重量部、1~10重量部、または2~5重量部であり得る。前記架橋触媒の含量が上記の数値範囲を満足する場合、所望の水準のシラン架橋反応が起き、リチウム二次電池内での望まない副反応が起きない。また、架橋触媒が無駄使いになるなどの費用的な問題が生じない。
【0099】
次いで、前記押出機に第2希釈剤を投入し混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を反応押出する(S2)。
【0100】
すなわち、重量平均分子量が200,000~1,000,000であるポリオレフィン、第1希釈剤、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン、開始剤及び架橋触媒を押出機に投入し混合して、一定時間が経過した後、前記混合物に第2希釈剤を追加的に投入し混合する。
【0101】
本発明は、上述したように第1希釈剤と第2希釈剤との投入及び混合時点を相異なるように制御することで、分離膜の表面で集中的なシラン架橋反応が起きることを減少させることができる。
【0102】
前記第2希釈剤の種類は、第1希釈剤について上述したものと同様である。
【0103】
本発明の具体的な一実施形態において、前記第2希釈剤は第1希釈剤と同一であってもよく、異なる種類であってもよい。特に、一定時間が経過した後単独で投入する、すなわち、架橋添加剤(架橋剤、架橋触媒など)なく単独で投入される第2希釈剤を製膜される分離膜の表面側へと容易に移動させるため、第2希釈剤は、第1希釈剤と同一であるかまたは低い動粘度を有することが望ましい。
【0104】
第2希釈剤の動粘度が前記第1希釈剤の動粘度よりも低い場合、前記第2希釈剤の表面側への移動が容易であって表面気孔の閉塞を防止することができる。また、使用される第2希釈剤の動粘度が相対的に低い場合は、製造される架橋ポリオレフィン分離膜の気孔のサイズが小さくてシャットダウン温度を下げることができる。これによって、より低い温度で気孔閉塞が起き、安全性が向上した架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。
【0105】
そのため、本発明の具体的な一実施形態において、前記第1希釈剤及び第2希釈剤の動粘度は、それぞれ独立的に、40℃条件で5cSt~100cSt、10cSt~90cSt、15cSt~85cSt、または19.08cSt~67.84cStであり、このとき、前記第1希釈剤と第2希釈剤との動粘度の差は5cSt以上、または10cSt以上であり得る。
【0106】
本発明の具体的な一実施形態において、前記第1希釈剤と第2希釈剤との総含量は、前記ポリオレフィン100重量部を基準にして、100~350重量部、125~300重量部、または150~250重量部であり得る。希釈剤の総含量が上記の数値範囲を満足する場合、ポリオレフィン含量が多いことによる、気孔度が減少し気孔のサイズが小さくなって気孔同士で相互連結されず透過度が大幅に低下し、ポリオレフィン溶液の粘度が上がって押出負荷が上昇し加工が困難であるという問題を防止することができ、また、ポリオレフィン含量が少ないことによる、ポリオレフィンと希釈剤との混練性が低下してポリオレフィンが希釈剤に熱力学的に混練されず、ゲル形態で押出されることで生じる延伸時の破断及び厚さのバラツキなどの問題を減少させることができる。
【0107】
本発明の具体的な一実施形態において、第1希釈剤と第2希釈剤との重量比は、50:50~80:20、65:45~75:25、または60:40~70:30であり得る。第1希釈剤と第2希釈剤との重量比が上記の数値範囲を満足する場合、第1希釈剤が押出/延伸の段階で分離膜の表面に移動して表面部のみで集中的に架橋反応が起きる現象を減少させることができる。
【0108】
本発明の具体的な一実施形態において、前記第1希釈剤の投入から押出までの経過時間(t1)に対する前記第2希釈剤の投入から押出までの経過時間(t2)の比率(t2/t1)は0.1~0.7、0.2~0.65、または0.3~0.63であり得る。
【0109】
第1希釈剤及び第2希釈剤の投入から押出までの経過時間が上記のようであると、第1希釈剤が押出機内で目的とする反応である、ポリオレフィンと炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランのグラフト反応が均一に起き、続いて単独で投入される第2希釈剤が押出機のバレル部及び/またはダイ内で壁側(外郭)に移動して分離膜の形成段階で表面部の追加的な架橋反応が起きる現象を減少させることができる。
【0110】
本発明の具体的な一実施形態において、前記シラングラフトされたポリオレフィン組成物は、必要に応じて、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤、核形成剤(nucleating agent)などの特定機能を向上させるための一般的な添加剤をさらに含むことができる。
【0111】
本発明の具体的な一実施形態において、前記反応押出する段階では一軸押出機または二軸圧縮機を使用することができる。
【0112】
次に、前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する(S3)。
【0113】
例えば、反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をT-ダイなどが取り付けられた押出機などを用いて押出した後、水冷、空冷式を用いた一般的なキャスティングあるいはカレンダリング方法を使用して冷却押出物を形成することができる。
【0114】
本発明の具体的な一実施形態において、上記のように延伸する段階を経ることで改善された機械的強度及び突刺し強度を有する分離膜を提供することができる。
【0115】
本発明の具体的な一実施形態において、前記延伸は、ロール方式またはテンター方式の逐次または同時延伸で行うことができる。前記延伸比は、縦方向及び横方向でそれぞれ3倍以上、または4倍~10倍であり、総延伸比は14倍~100倍であり得る。延伸比が上記の数値範囲を満足する場合、一方向の配向が十分ではなく、同時に、縦方向と横方向との間の物性均衡が崩れて引張強度及び突刺し強度が低下するという問題を防止することができる。また、総延伸比が上記の数値範囲を満足すると、未延伸または気孔が形成されない問題を防止することができる。
【0116】
本発明の具体的な一実施形態において、延伸温度は使用されたポリオレフィンの融点、希釈剤の濃度及び種類によって変わり得る。
【0117】
本発明の具体的な一実施形態において、例えば、使用されたポリオレフィンがポリエチレン、希釈剤が液体パラフィン、第1希釈剤の動粘度が40℃で40~100cSt、第2希釈剤の動粘度が5~60cStである場合、前記延伸温度は、縦延伸の場合70~160℃、90~140℃、または100~130℃であり得、横延伸の場合90~180℃、110~160℃、または120~150℃であり得、両方向延伸を同時に行う場合は90~180℃、110~160℃、または120~150℃であり得る。前記延伸温度が上記の数値範囲を満足する場合、前記延伸温度が低いことによる、軟質性がなくて破断が起きるかまたは未延伸が起きる問題を防止でき、延伸温度が高いために発生する部分的な過延伸または物性差を防止することができる。
【0118】
その後、前記成形及び延伸されたシートから第1希釈剤及び第2希釈剤を抽出してシラングラフトされたポリオレフィン多孔性膜を製造する(S4)。
【0119】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性膜から有機溶媒を使用して第1希釈剤及び第2希釈剤を抽出し、前記多孔性膜を乾燥することができる。
【0120】
本発明の具体的な一実施形態において、前記有機溶媒は、前記希釈剤を抽出できるものであれば特に制限されないが、抽出効率が高くて乾燥が速いメチルエチルケトン、メチレンクロライドまたはヘキサンなどが適切である。
【0121】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出方法は、浸漬(immersion)方法、溶剤スプレー(solvent spray)方法、超音波(ultrasonic)法などの一般的なすべての溶媒抽出方法を単独でまたは複合的に使用することができる。抽出処理後の残留希釈剤の含量は、1重量%以下であることが望ましい。残留希釈剤の含量が1重量%を超過すれば、物性が低下して多孔性膜の透過度が減少する。残留希釈剤の含量は抽出温度と抽出時間の影響を受け、希釈剤と有機溶媒との溶解度を増加させるため、抽出温度は高いことが望ましいが、有機溶媒の沸騰による安全性の問題を考慮すると40℃以下であることが望ましい。前記抽出温度が希釈剤の凝固点以下であれば、抽出効率が大幅に低下するため、希釈剤の凝固点よりは高くなければならない。
【0122】
また、抽出時間は、製造される多孔性膜の厚さによって異なるが、厚さが5~15μmである分離膜の場合は1~3分が適切である。
【0123】
その後、前記多孔性膜を熱固定する(S5)。
【0124】
前記熱固定は、多孔性膜を固定して熱を加え、収縮しようとする多孔性膜を強制的に固定して残留応力を除去する段階である。
【0125】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンがポリエチレンである場合、前記熱固定の温度は100~140℃、105~135℃、または110~130℃であり得る。ポリオレフィンがポリエチレンである場合、前記熱固定の温度が上記の数値範囲を満足すると、ポリオレフィン分子の再配列が起きて多孔性膜の残留応力を除去でき、部分的溶融によって多孔性膜の気孔が詰まる問題を低減させることができる。熱固定の温度が高いほど製造された分離膜の熱収縮率が改善され、熱固定の温度が低いほど分離膜の抵抗を低減できる。
【0126】
本発明の具体的な一実施形態において、前記熱固定の時間は、10~120秒、20~90秒、または30~60秒であり得る。上記のような時間で熱固定する場合、ポリオレフィン分子の再配列が起きて多孔性膜の残留応力を除去でき、部分的溶融によって多孔性膜の気孔が詰まる問題を低減させることができる。
【0127】
次に、熱固定された多孔性膜を水分存在下で架橋させる(S6)。
【0128】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋は60~100℃、65~95℃、または70~90℃で行うことができる。
【0129】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋は、湿度60~95%で6~50時間行うことができる。
【0130】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0131】
実施例1
まず、押出機に、ポリオレフィンとして重量平均分子量が380,000である高密度ポリエチレン(大韓油化製VH035)10.5kg、第1希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製LP350F、40℃の動粘度67.89cSt)13.65kg、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとしてトリメトキシビニルシラン450g、架橋触媒としてジブチル錫ジラウレート6g、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)6gを投入し混合した。
【0132】
その後、前記押出機に、第2希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製LP150F、40℃の動粘度29.34cSt)5.85kgを投入し混合した。このとき、第1希釈剤の投入から押出までの経過時間(t1)に対する前記第2希釈剤の投入から押出までの経過時間(t2)の比率(t2/t1)は62%(0.62)であった。すなわち、前記第2希釈剤の投入から押出までの経過時間(t2)は前記第1希釈剤の投入から押出までの経過時間(t1)の約0.62倍に該当した。具体的には、第1希釈剤の投入から押出までの経過時間(t1)は52秒であり、第2希釈剤の投入から押出までの経過時間(t2)は32秒であった。その後、210℃の温度条件で反応押出してシラングラフトされたポリエチレン組成物を製造した。
【0133】
製造されたシラングラフトされたポリエチレン組成物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で逐次延伸した。MD延伸比及びTD延伸比はいずれも7.5倍にした。延伸温度はMDで108℃、TDで121℃であった。
【0134】
前記延伸されたシートからメチレンクロライドを用いて第1希釈剤及び第2希釈剤を抽出し、希釈剤が抽出されたシートを124℃で熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、85%の湿度条件で48時間架橋させ、架橋ポリエチレン分離膜を製造した。その結果を表1に示した。
【0135】
実施例2
投入される第2希釈剤を極東油化製LP100F(40℃の動粘度19.08cSt)に変更したことを除き、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。
【0136】
実施例3
第1希釈剤として極東油化製LP150F(40℃の動粘度29.34cSt)を使用し、第2希釈剤として極東油化製LP100F(40℃の動粘度19.08cSt)を使用したことを除き、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。
【0137】
比較例1
押出機にビニル基含有アルコキシシラン、開始剤及び架橋触媒を投入せず、非架橋されたポリオレフィン分離膜を製造した。
【0138】
具体的には、ポリオレフィンとして重量平均分子量が380,000である高密度ポリエチレン(大韓油化製VH035)10.5kg、希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製LP350F、40℃の動粘度67.89cSt)19.5kgを押出機に一度に投入し混合した。
【0139】
その後、210℃の温度条件で押出してポリエチレン組成物を製造した。
【0140】
製造されたポリエチレン組成物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で逐次延伸した。MD延伸比及びTD延伸比はいずれも7.5倍にした。延伸温度はMDで108℃、TDで121℃であった。
【0141】
前記延伸されたシートからメチレンクロライドを用いて希釈剤を抽出し、124℃で熱固定して非架橋されたポリエチレン分離膜を製造した。このとき、製造された分離膜のシャットダウン温度は140.3℃であった。一方、比較例1の場合、ビニル基含有アルコキシシランが投入されなかったため、シラン架橋に因るIRピークは現われなかった。
【0142】
比較例2
押出機に、ポリオレフィンとして重量平均分子量が380,000である高密度ポリエチレン(大韓油化製VH035)10.5kg、希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製LP350F、40℃の動粘度67.89cSt)19.5kg、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとしてトリメトキシビニルシラン450g、架橋触媒としてジブチル錫ジラウレート6g、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)6gを一度に投入し混合したことを除き、実施例1と同じ方法で分離膜を製造した。
【0143】
比較例3
シラングラフトされたポリオレフィン(HYUNDAI EP社製XP650)10.5kg及び液体パラフィンオイル(極東油化製LP350F、40℃の動粘度67.89cSt)19kgを押出機に投入して180℃で混合した後、押出した。
【0144】
その後、押出された結果物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で逐次延伸した。MD延伸比及びTD延伸比はいずれも7.5倍にした。延伸温度はMDで108℃、TDで121℃であった。
【0145】
次いで、前記結果物の両面に架橋触媒としてジブチル錫ジラウレート6gを含む30重量%水分散液を塗布した後、温度85℃に維持された温水に1時間浸漬してシラン架橋を完了した。その後、前記結果物を室温でメチレンクロライドに30分間浸漬して液体パラフィンオイルを抽出し、次いで80℃のオーブン内で30分間乾燥して抽出溶媒を除去した。その結果を表1に示した。
【0146】
実験例
(1)IRピーク強度の測定
実施例1~3、比較例2、3による分離膜の表面部及び内面部のシラン架橋IRピークを次のような方法で測定した。具体的には、分離膜試片を用意した後、傾斜切削分析機(SAICAS)を用いて分離膜の厚さ方向で傾斜1°の傾斜切削を行った。その後、切削された分離膜をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、アジレント社製Cary620)を用いて分離膜の厚さ方向に30等分して分析した。
図3は、このように分離膜の厚さ方向に等分された30個の位置でシラン架橋IRピークの強度を2回測定した結果を示した図であり、2回測定されたIRピークの強度がすべて0.004~0.006cm
-1範囲内で観察された。このことから、実施例1の分離膜は厚さ方向で均一に架橋反応が行われたことが分かる。
【0147】
(2)シャットダウン温度の測定
まず、実施例1~3及び比較例1~3で製造された分離膜を電解液(エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=5:5、LiPF6 1M)に投入した。
その後、30℃から5℃/minの条件で昇温させながら、イオン伝導度が0になる地点をシャットダウン温度と定義し、このときの温度を測定した。
【0148】
(3)メルトダウン温度の測定
メルトダウン温度は、多孔性膜から製造進行方向(Machine direction、MD)及び進行方向の垂直方向(Transverse direction、TD)のサンプルをそれぞれ採取した後、熱機械分析法(ThermoMechanical Analyzer:TMA)で測定した。具体的には、TMA装置(TAインスツルメント社製Q400)に長さ10mmのサンプルを入れ、19.6mNの張力を加えた状態で昇温条件(30℃から5℃/分)に露出させる。温度の上昇とともにサンプルの長さが変化するが、長さが急激に増加してサンプルが破断される温度を測定する。MDとTDをそれぞれ測定して、より高い温度を該当サンプルのメルトダウン温度とする。
【0149】
(4)分離膜の抵抗測定
分離膜をコインセル(CR2032)に介在させた後、非水電解液(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7、LiPF6 1M)を注液してコインセルを用意した。電解液が十分含浸されるように常温で6時間保管した後、電気化学測定装置(マルチポテンショスタット/ガルバノスタット、アメテック社製、VersaSTAT4)に10kHz~100kHzの範囲でインピーダンスを測定し、線形補間法(linear interpolation)を用いてインピーダンスの虚数値が0であるときのインピーダンスの実数値を抵抗として算定した。
【0150】
(5)電池安全性の評価
実施例1~3及び比較例1~3の分離膜を介在した電池を用意し、製造された電池を満充電した後、GB/T条件(釘直径5mm、貫通速度25mm/sec)で釘貫通実験を行った。釘貫通から12時間後まで発火しなければ、合格と判断した。
【0151】
(6)容量維持率の評価
実施例1~3及び比較例1~3の分離膜を介在したリチウム二次電池を用意し、前記リチウム二次電池に対して電気化学充放電器を用いて初期(1回)充放電を行った。このとき、充電は4.3Vの電圧まで0.1C-レートの電流密度で行い、放電は同じ電流密度で2.5Vまで行った。このような充放電を総200回行った。
【0152】
上記のような充放電過程で、それぞれの電池に含まれた正極及び負極の電圧と容量を測定した。
【0153】
各電池の容量維持率は次のように算出した。
容量維持率(%)=(200回サイクルにおける容量/初期容量)×100
【0154】
(7)架橋度の測定
架橋度(またはゲル分率)をASTM D2765に従ってキシレン溶媒を用いて測定した。具体的には、分離膜試片を還流キシレンに12時間浸漬して高分子を溶解した後、乾燥して秤量した。
【0155】
(8)分離膜内のシラン(Si)含量の測定
まず、分離膜試片を硫酸と反応させ、熱板(hot plate)上で硫酸化(sulfation)させた後、硫酸を除去した。その後、電気炉(温度:600℃)で4時間灰化させた後、硝酸と過酸化水素とに分解した。その後、試片が透明に溶解されてから、3次超純水で希釈して分析試料を用意した。
【0156】
分離膜内のシラン含量は、Axiomモデルの誘導結合プラズマ質量分析機(ICP-MS、inductively coupled plasma with mass spectrometer、ここでMC-ICP-MS、Axiomは、英国のThermo Elemental社製のAXIOM MCモデルであって、高分解能機能をともに備える形態である)を用いて測定した
【0157】
(9)分離膜内の架橋密度の測定
架橋密度は、フローリー・ハギンズ理論(Flory-Huggin theory)及びフローリー・レーナーの式(Flory-Rehner equation)に基づいて膨張率を使用して計算した。作用パラメータ(interaction parameter、χ)はフローリー・ハギンズ理論に基づいて計算され、ここで混合自由エネルギー(mixing free energy、ΔG)は高分子の体積分率(υp)及び作用パラメータ(χ)の関数であり、混合自由エネルギーが0である場合(ΔG=0)は平衡状態の膨張条件である。
【0158】
[数1]
ΔG = RT {ln(1-υp) + υp + χυp2} … フローリー・ハギンズ理論
フローリー・レーナーの式は架橋密度を決定するために使用された。ここで、Nは架橋密度(mol/L)であり、Vsは溶媒のモル体積(L/mol)である。
[数2]
-[ln(1-υp) + υp + χυp2] = NVs[υp1/3 - υp/2] … フローリー・レーナーの式
【0159】
(10)引張強度の測定
実施例1~3及び比較例1~3で製造された分離膜を15mm×100mmで裁断して試料を用意した。用意した試料を用いてASTM-D882に従って500mm/minの速度でMD方向にそれぞれ引っ張ったとき、試片が破断される時点の強度を測定した。
【0160】
(11)熱収縮率の測定
熱収縮率は(最初長さ-120℃/1時間熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)×100で算定した。
【表1】