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特許7129016単官能フェノール化合物、活性エステル樹脂及びその製造方法、並びに、熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】単官能フェノール化合物、活性エステル樹脂及びその製造方法、並びに、熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 12/00 20060101AFI20220825BHJP
   C08F 12/34 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08F12/00
C08F12/34
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020548426
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2019035853
(87)【国際公開番号】W WO2020059624
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2018173248
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】迫 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】林 弘司
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070564(JP,A)
【文献】特開2018-009129(JP,A)
【文献】特表2017-518427(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157713(WO,A1)
【文献】ネットワークポリマー,Vol. 38, No. 6,2017年,pp. 277-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物を含有する、活性エステル樹脂製造用原料組成物を用いてなる活性エステル樹脂であって、
前記単官能フェノール化合物が、式(1)又は(2)で示される構造を有する活性エステル樹脂
【化1】
〔式(1)及び(2)中、R はビニルベンジル基を表し、R は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。また、式(1)中のnは1~5の整数、mは0~4の整数であり、nとmの和は5である。式(2)中のnは1~7の整数、mは0~6の整数であり、式(2)におけるnとmの和は7である。式(1)、(2)におけるR 、R は同一のものからなるものであっても、異なるものからなるものであってもよい。〕
【請求項2】
前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物が、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、およびこれらの酸塩化物から選択される1種以上である、請求項1に記載の活性エステル樹脂。
【請求項3】
分子鎖の末端に、前記ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物由来のビニルベンジル構造を有する、請求項1又は2に記載の活性エステル樹脂。
【請求項4】
前記ビニルベンジル構造が、ビニルベンジル変性アリールオキシカルボニル基で構成されている、請求項に記載の活性エステル樹脂。
【請求項5】
主鎖の両末端にビニルベンジル基を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の活性エステル樹脂。
【請求項6】
式(I)で示される構造を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の活性エステル樹脂。
【化3】
(式(I)中、nは0~20の整数を表し、Xはビニルベンジル基を含有する単官能フェノール化合物の反応残基を表し、Yは多官能フェノール化合物の反応残基を表す。)
【請求項7】
ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物とを反応させる、活性エステル樹脂の製造方法であって、
前記単官能フェノール化合物が、式(1)又は(2)で示される構造を有する、活性エステル樹脂の製造方法。
【化4】
〔式(1)及び(2)中、R はビニルベンジル基を表し、R は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。また、式(1)中のnは1~5の整数、mは0~4の整数であり、nとmの和は5である。式(2)中のnは1~7の整数、mは0~6の整数であり、式(2)におけるnとmの和は7である。式(1)、(2)におけるR 、R は同一のものからなるものであっても、異なるものからなるものであってもよい。〕
【請求項8】
前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物が、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、およびこれらの酸塩化物から選択される1種以上である請求項7に記載の活性エステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載の活性エステル樹脂、及び硬化剤を含有する、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
電子部品基板用である、請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いたパッケージ基板。
【請求項13】
半導体パッケージ基板である、請求項12に記載のパッケージ基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単官能フェノール化合物、活性エステル樹脂及びその製造方法、並びに、熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂に代表される硬化性樹脂組成物は、その硬化物において優れた耐熱性と絶縁性を発現することから、半導体や多層プリント基板などの電子部品用途において広く用いられている。電子部品用途のなかでも半導体パッケージ基板では薄型化が進んでおり、実装時のパッケージ基板の反りが問題となっている。パッケージ基板の反りを抑制するため、高耐熱性が求められている。
【0003】
加えて、近年、半導体パッケージ基板においても、信号の高速化、高周波数化が進んでいる。そのため、高速化、高周波数化された信号に対しても、十分に低い誘電率を維持しつつ十分に低い誘電正接を発現する硬化物を得ることが可能な熱硬化性樹脂組成物の提供が望まれている。低誘電率及び低誘電正接を実現可能な材料として、活性エステル化合物をエポキシ樹脂用硬化剤として用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、低誘電率、低誘電正接は実現するものの、耐熱性は不十分であった。
【0004】
低誘電率及び低誘電正接の熱硬化性樹脂組成物とする他の技術として、低誘電率及び低誘電正接のエポキシ樹脂を含有させる方法、シアネート基を導入する方法、ポリフェニレンエーテルを含有させる方法等が用いられてきた。しかし、これらの方法を単純に組み合わせただけでは、低誘電率及び低誘電正接、高い耐熱性、信頼性、ハロゲンフリーといった、種々の要求を満足することが難しい場合がある。
【0005】
こうした状況において、誘電特性及び耐熱性を備える硬化物を形成可能な樹脂組成物として、ビニルベンジル変性活性エステル樹脂が検討されている(例えば、特許文献2~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-169021号公報
【文献】特開2018-70564号公報
【文献】特開2018-44040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より一層の誘電特性及び耐熱性の要求が求められる用途において、好適な硬化物を形成可能な活性エステル樹脂を得ることができる単官能フェノール化合物、活性エステル樹脂及びその製造方法、並びに活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、誘電特性及び耐熱性に優れた硬化物を得ることができる樹脂組成物について鋭意研究を重ねた結果、活性エステル樹脂の製造の際にビニルベンジル変性された単官能フェノール化合物を用いることで、分子末端にビニルベンジル変性アリールオキシカルボニル基を有する活性エステル樹脂を得ることができ、その硬化物は誘電特性及び耐熱性が従来のものよりも優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
[1]ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物。
[2]式(1)又は(2)で示される構造を有する、[1]に記載の単官能フェノール化合物。
【0010】
【化1】
〔式(1)及び(2)中、Rはビニルベンジル基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。また、式(1)中のnは1~5の整数、mは0~4の整数であり、nとmの和は5である。式(2)中のnは1~7の整数、mは0~6の整数であり、式(2)におけるnとmの和は7である。式(1)、(2)におけるR、Rは同一のものからなるものであっても、異なるものからなるものであってもよい。〕
[3][1]又は[2]に記載の単官能フェノール化合物を含有する、活性エステル樹脂製造用原料組成物。
[4]分子鎖の末端に、[1]又は[2]に記載の単官能フェノール化合物由来のビニルベンジル構造を有する、活性エステル樹脂。
[5]ビニルベンジル構造が、ビニルベンジル変性アリールオキシカルボニル基で構成されている、[4]に記載の活性エステル樹脂。
[6]主鎖の両末端にビニルベンジル基を含有する、[4]又は[5]に記載の活性エステル樹脂。
[7]式(I)で示される構造を有する、[4]から[6]のいずれかに記載の活性エステル樹脂。
【0011】
【化2】
(式(I)中、nは0~20の整数を表し、Xはビニルベンジル基を含有する単官能フェノール化合物の反応残基を表し、Yは多官能フェノール化合物の反応残基を表す。)
[8][1]又は[2]に記載の単官能フェノール化合物と芳香族ポリカルボン酸とを反応させる、活性エステル樹脂の製造方法。
[9][4]から[7]のいずれかに記載の活性エステル樹脂、及び硬化剤を含有する、熱硬化性樹脂組成物。
[10]電子部品基板用である、[9]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[11][9]又は[10]に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
[12][9]又は[10]に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いたパッケージ基板。
[13]半導体パッケージ基板である、[12]に記載のパッケージ基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電特性及び耐熱性に優れた硬化物を形成可能な活性エステル樹脂を得ることができる単官能フェノール化合物、活性エステル樹脂及びその製造方法、並びに活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた単官能フェノール化合物のGPCチャートである。
図2】実施例2で得られた単官能フェノール化合物のGPCチャートである。
図3】実施例3で得られた活性エステル樹脂(A-3)のGPCチャートである。
図4】実施例4で得られた活性エステル樹脂(A-4)のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
[フェノール化合物]
本実施形態に係るフェノール化合物は、ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物である。ビニルベンジル基は、単官能フェノール化合物の芳香族環に直接置換していることが好ましい。
【0016】
単官能フェノール化合物としては、フェノール性水酸基を一つ有する、単環又は多環の芳香族化合物から選択される1種以上を挙げることができる。単官能フェノール化合物としては、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、3,5-キシレノール、2,6-キシレノール、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、2-ベンジルフェノール、4-ベンジルフェノール、4-(α-クミル)フェノール、α-ナフトール、β-ナフトールなどの芳香族モノヒドロキシ化合物を挙げることができる。中でも、α-ナフトール、β-ナフトール、o-フェニルフェノール、及びp-フェニルフェノールから選択される1以上の芳香族モノヒドロキシ化合物を用いることで、耐熱性に優れ、より低い誘電正接の硬化物を得ることができる。
【0017】
ビニルベンジル基としては、エテニルベンジル基、イソプロペニルベンジル基、ノルマルプロペニルベンジル基等を挙げることができる。なかでも、工業的な入手しやすさと硬化性の点でエテニルベンジル基であることが好ましい。
【0018】
単官能フェノール化合物は、ビニルベンジル基の他に、アルキル基、アリール基等の置換基を1以上有していてもよい。アルキル基としては、例えば、炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基を挙げることができる。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アリール基としては、ベンジル基、ナフチル基、メトキシナフチル基等を挙げることができる。
【0019】
ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物の具体例としては、例えば、式(1)又は(2)で示される単官能フェノール化合物を挙げることができる。
【0020】
【化3】
〔式(1)及び(2)中、Rはビニルベンジル基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。また、式(1)中のnは1~5の整数、mは0~4の整数であり、nとmの和は5である。式(2)中のnは1~7の整数、mは0~6の整数であり、式(2)におけるnとmの和は7である。式(1)、(2)におけるR、Rは同一のものからなるものであっても、異なるものからなるものであってもよい。〕
【0021】
なお、式(2)における水酸基、R、Rはナフタレン環上の置換基としていずれの環上に結合していてもよいことを示すものである。
【0022】
アルキル基としては、例えば、炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基を挙げることができる。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、メトキシナフチル基等を挙げることができる。
【0023】
ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物は、活性エステル樹脂の硬化物の耐熱性及び誘電特性をより向上させる点で、Rが水素原子、メチル基及びアリール基から選択される化合物であることが好ましい。
【0024】
上記ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物を活性エステル樹脂の製造に用いることで、分子末端にビニルベンジル変性アリールオキシカルボニル基を有する活性エステル樹脂を得ることができる。
【0025】
よって、上記ビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物は、活性エステル樹脂製造用原料組成物として好適に用いることができる。活性エステル樹脂製造用原料組成物には、単官能フェノール化合物と反応してエステル構造を生じる、芳香族カルボン酸又はその酸ハロゲン化物を含有することができる。芳香族カルボン酸又はその酸ハロゲン化物は、芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物であることが好ましい。芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物については後述する。
【0026】
[単官能フェノール化合物の製造方法]
ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物の製造方法は、特に限定されず、従来公知のアルカリ化合物を用いた脱ハロゲン化水素反応による合成法等を用いることができる。例えば、トルエンやメチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンといった有機溶媒に、ビニルベンジルハライド化合物と多価フェノール化合物、及びアンモニウム塩の様な相間移動触媒を溶解させ、ここにアルカリ化合物を添加し、加熱しながら混合することにより製造することができる。中でも、フェノール基とビニルベンジル基両者を含有する化合物の収率が高いことから、アルカリ化合物としてはハイドロタルサイト類を用いることが好ましい。
【0027】
[活性エステル樹脂]
本実施形態に係る活性エステル樹脂は、分子鎖の末端に、好ましくは主鎖の両末端に、上記ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物由来のビニルベンジル構造を有する。ビニルベンジル構造は、ビニルベンジル変性アリールオキシカルボニル基であることが好ましい。なお、本明細書において、「活性エステル樹脂」とは、フェノール基及び芳香族カルボン酸基に由来するエステル構造を有する化合物又は樹脂のことを意味している。
【0028】
活性エステル樹脂としては、上記したビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物(a1)及び芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)から選択される化合物を反応原料とする活性樹脂を挙げることができる。反応原料には、上記(a1),(a2)の他に、フェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)、芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)を含んでいてもよい。
【0029】
ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物(a1)は、上記のビニルベンジル基を1以上有する単官能フェノール化合物と同じであるからここでは記載を省略する。ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物(a1)は、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0030】
芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-、2,3-、あるいは2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメシン酸、トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸;ピロメリット酸;およびこれらの酸塩化物等を挙げることができる。これらは単独で使用しても、併用してもよい。中でも、反応物の融点や溶剤溶解性が優れる点で、イソフタル酸、あるいはイソフタル酸とテレフタル酸との混合物が好ましい。
【0031】
フェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)としては、フェノール性水酸基を二つ以上有する、単環又は多環の芳香族化合物から選択される1以上の多官能フェノール化合物を挙げることができる。多官能フェノール化合物としては、例えば、下記式の式(3-1)~(3-7)で示される化合物等を挙げることができる。
【0032】
【化4】
【0033】
【化5】
【0034】
式(3-1)~(3-7)中、Rは水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。式(3-1)、(3-4)、(3-5)、(3-6)におけるnは0~4の整数であり、式(3-2)におけるnは0~3の整数であり、式(3-3)、(3-7)におけるnは0~6の整数である。複数あるRは、同一のものからなるものであっても、異なるものからなるものであってもよい。式(3-3)における水酸基、Rはナフタレン環上の置換基としていずれの環上に結合していてもよいことを示すものである。アルキル基としては、例えば、炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基を挙げることができる。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アリール基としては、ベンジル基、ナフチル基、メトキシナフチル基等を挙げることができる。この他ビナフトールも挙げることができる。
【0035】
多官能フェノール化合物は、下記式(4)で表される化合物でもよい。
【0036】
【化6】
(但し、式(4)中、mは0~20の整数である。)
【0037】
上記式(4)において、Arはそれぞれ独立して、フェノール性水酸基を含有する置換基を表し、Zは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、ケトン基、スルホニル基、置換若しくは非置換の炭素原子数1~20のアルキレン、置換若しくは非置換の炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、又は炭素原子数8~20のアラルキレンである。
【0038】
Arとしては、特に制限されないが、例えば、下記式(5-1)、(5-2)に記載する芳香族ヒドロキシ化合物の残基を挙げることができる。
【0039】
【化7】
式(5-1)、(5-2)中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基の何れかである。式(5-1)におけるnは0~5の整数であり、式(5-2)におけるnは0~7の整数である。式(5-2)における水酸基、Rはナフタレン環上の置換基としていずれの環上に結合していてもよいことを示すものである。複数あるRは、同一のものからなるものであっても、異なるものからなるものであってもよい。アルキル基としては、例えば、炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基を挙げることができる。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アリール基としては、ベンジル基、ナフチル基、メトキシナフチル基等を挙げることができる。
【0040】
前記Zにおける炭素原子数1~20のアルキレンとしては、特に制限されないが、メチレン、エチレン、プロピレン、1-メチルメチレン、1,1-ジメチルメチレン、1-メチルエチレン、1,1-ジメチルエチレン、1,2-ジメチルエチレン、プロピレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、ペンチレン、ヘキシレン等が挙げられる。
【0041】
前記炭素原子数3~20のシクロアルキレンとしては、特に制限されないが、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロペンチレン、シクロへプチレン、および下記式(6-1)~(6-4)で表されるシクロアルキレン等が挙げられる。
【0042】
【化8】
なお、上記式(6-1)~(6-4)において、「*」はArと結合する部位を表す。
【0043】
前記炭素原子数6~20のアリーレンとしては、特に制限されないが、下記式(7-1)で表されるアリーレン等が挙げられる。
【0044】
【化9】
なお、上記式(7-1)において、「*」はArと結合する部位を表す。
【0045】
前記炭素原子数8~20のアラルキレンとしては、特に制限されないが、下記式(8-1)~(8-5)で表されるアラルキレン等が挙げられる。
【0046】
【化10】
なお、式(8-1)~(8-5)において、「*」はArと結合する部位を表す。
【0047】
上述のうち、式(4)中のZは、炭素原子数3~20のシクロアルキレン、炭素原子数6~20のアリーレン、炭素原子数8~20のアラルキレンであることが好ましく、式(6-3)、(6-4)、(7-1)、(8-1)~(8-5)で表されるものであることが、密着性と誘電特性の観点からより好ましい。式(4)におけるmは、0~20の整数であり、好ましくは0~10の整数であり、さらに好ましくは0~8であり、溶剤溶解性の観点から、0~5であることが最も好ましい。
【0048】
また、フェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)は、下記式(9)記載の構造でも良い。
【0049】
【化11】
(但し式(9)中、lは1以上の整数、Rは水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。)
【0050】
式(9)において、lは好ましくは1~20、より好ましくは1~15、さらに好ましくは1~12の整数である。アルキル基としては、炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基を挙げることができる。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アリール基としては、ベンジル基、ナフチル基、メトキシナフチル基等を挙げることができる。
【0051】
上述した中でも、反応生成物の溶剤溶解性と誘電特性の点で、式(4)、(9)で表される化合物が好ましく、更に、式(4)の内、Arがフェノール、オルソクレゾール、ジメチルフェノール、フェニルフェノール、又はα-ナフトール、β-ナフトールの残基であり、かつZが式(6-3)、(7-1)、(8-1)~(8-5)であるものが好ましく、及び、式(9)で表される化合物がより好ましい。
【0052】
芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)としては、具体的には、安息香酸、安息香酸クロリド等を挙げることができる。
【0053】
活性エステル樹脂としては、例えば、以下の式(I)で表される構造を有する活性エステル樹脂を挙げることができる。
【0054】
【化12】
【0055】
活性エステル樹脂の具体例としては、例えば、以下の式(Ia),(Ib)で示される活性エステル樹脂を挙げることができる。
【0056】
【化13】
【0057】
活性エステル樹脂の示差走査熱量測定(DSC)によるガラス転移温度(DSC-Tg)は、特に限定されないが、溶剤溶解性の点で、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。
【0058】
[活性エステル樹脂の製造方法]
本実施形態に係る活性エステル樹脂の製造方法は、ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物と芳香族多価カルボン酸又はその誘導体(例えば、酸ハロゲン化物)とを反応させる工程を有する。ビニルベンジル基を有する単官能フェノール化合物と芳香族多価カルボン酸又はその酸ハロゲン化物とを反応させる工程は、特に限定されず、無水酢酸法、界面重合法、溶液法などの公知慣用の合成法により製造することができる。この内、ビニルベンジル基の重合による合成中のゲル化を防ぐため、より低温での合成が可能となる酸ハロゲン化物を用いて製造することが好ましい。
【0059】
[熱硬化性樹脂組成物]
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、上記した活性エステル樹脂及び硬化剤を含有する。活性エステル樹脂については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。
【0060】
(硬化剤)
硬化剤としては、上記した活性エステル樹脂と反応し得る化合物であれば良く、特に限定なく様々な化合物を利用することができる。硬化剤の一例としては、ラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物や、有機過酸化物が代表例として挙げられるが、中でも副生物として気体が生じないことから、有機過酸化物が好ましい。エポキシ樹脂は公知のものを使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などの2価以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。これらエポキシ樹脂は単独でも2種類以上を併用してもよい。これらエポキシ樹脂の中でも、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物のようなエポキシ当量が大きい樹脂を使用するのが好ましい。
【0061】
(配合量)
活性エステル樹脂とラジカル重合開始剤との配合量は、硬化物の成形条件に適した硬化時間となる配合量に調整することが好ましいが、硬化物特性の観点からは樹脂100質量部に対して0質量部を超え1質量部以下となる配合量が好ましい。上記配合量とすると活性エステル樹脂の硬化が十分に行われ、耐熱性・誘電特性に優れた硬化物を与える樹脂組成物を容易に得ることができる。また、活性エステル樹脂とエポキシ樹脂の配合比は、活性エステル樹脂に含まれるエステル基とエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の当量比が0.5~1.5の範囲にあることが好ましく、0.8~1.2の範囲にあることが特に好ましい。
【0062】
(硬化促進剤)
樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を含有することができる。硬化促進剤としては、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等を挙げることができる。特にビルドアップ材料用途や回路基板用途として使用する場合には、耐熱性、誘電特性、耐ハンダ性等に優れる点から、ジメチルアミノピリジンやイミダゾールが好ましい。特に半導体封止材料用途として使用する場合には、硬化性、耐熱性、電気特性、耐湿信頼性等に優れる点から、リン系化合物ではトリフェニルフォスフィン、第3級アミンでは1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデセン(DBU)が好ましい。
【0063】
(他の添加成分)
樹脂組成物は、更にその他の樹脂成分を含有しても良い。その他の樹脂成分としては、例えば、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらのエステル化物といったビニル基含有化合物や、シアン酸エステル樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾオキサジン樹脂;トリアリルイソシアヌレートに代表されるアリル基含有樹脂;ポリリン酸エステルやリン酸エステル-カーボネート共重合体等を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0064】
これらその他の樹脂成分の配合割合は特に限定されず、所望の硬化物性能等に応じて適宜調整することができる。配合割合の一例としては、全樹脂組成物中1~50質量%の範囲とすることができる。
【0065】
樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤、無機質充填材、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤等の各種添加剤を含有してもよい。難燃剤としては、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム、リン酸アミド等の無機リン化合物;リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、有機系含窒素リン化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5―ジヒドロオキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状有機リン化合物、及びそれをエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の化合物と反応させた誘導体等の有機リン化合物;トリアジン化合物、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、フェノチアジン等の窒素系難燃剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等のシリコーン系難燃剤;金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩化合物、金属粉、ホウ素化合物、低融点ガラス等の無機難燃剤等を挙げることができる。これら難燃剤を用いる場合は、全樹脂組成物中0.1~20質量%の範囲であることが好ましい。
【0066】
無機質充填材は、例えば、樹脂組成物を半導体封止材料用途に用いる場合などに配合される。無機質充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等を挙げることができる。中でも、無機質充填材をより多く配合することが可能となることから、溶融シリカが好ましい。溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、かつ、樹脂組成物の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いることが好ましい。更に、球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。その充填率は樹脂成分100質量部に対して、0.5~95質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0067】
樹脂組成物の製法は、特に限定されず、例えば、上記した各成分を撹拌装置や3本ロール等を用いて、例えば0℃~200℃で均一に混合することにより得ることができる。
【0068】
[硬化物]
樹脂組成物は、公知慣用の熱硬化法により、例えば、20~250℃程度の温度範囲で加熱硬化させ、成型することができる。
本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物は、160℃以上の耐熱性を有しているとともに、10GHzにおける誘電正接が3.0×10-3以下という低い誘電正接を示すことができる。以上のことから、半導体パッケージ基板等の電子材料用途に好ましく用いることができる。
【0069】
[半導体パッケージ基板等]
樹脂組成物を半導体パッケージ基板などの基板用途に用いる場合、一般的には有機溶剤を配合して希釈して用いることが好ましい。有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。有機溶剤の種類や配合量は樹脂組成物の使用環境に応じて適宜調整できるが、例えば、半導体パッケージ基板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶剤であることが好ましく、不揮発分が40~80質量%となる割合で使用することが好ましい。
【0070】
樹脂組成物を用いて半導体パッケージ基板を製造する方法は、例えば、樹脂組成物を補強基材に含浸し硬化させてプリプレグを得る方法を挙げることができる。補強基材としては、紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布等を挙げることができる。樹脂組成物の含浸量は特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20~80質量%となるように調製することが好ましい。
【実施例
【0071】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0072】
実施例1
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコにα-ナフトール72.1g(0.5モル)と、ハイドロタルサイト(協和化学工業社株式会社製キョーワード500SH)156g、トルエン608gを仕込み、70℃に加熱した。次いで、CMS-P(AGCセイミケルカル株式会社製、メタクロロメチルスチレンとパラクロロメチルスチレンの混合物)76.3g(0.5モル)を滴下したのち、110℃に加熱した。5時間反応を継続したのち、冷却してろ過して不溶物を除去し、反応液(A-1)を得た。反応液を分析したところ、水酸基当量347g/eq、不揮発分15.6%であったことから、下記式(2-1)の構造を有する化合物が得られていることが確認できた。
【0073】
【化14】
【0074】
実施例2
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコにβ―ナフトール72.1g(0.5モル)と、キョーワード500SH156g、トルエン608gを仕込み、70℃に加熱した。次いで、CMS-P76.3g(0.5モル)を滴下したのち、110℃に加熱した。5時間反応を継続したのち、冷却してろ過して不溶物を除去し、反応液(A-2)を得た。反応液を上記と同様に分析したところ、水酸基当量352g/eq、不揮発分14.4%であったことから、下記式(2-2)の構造を有する化合物が得られていることが確認できた。
【0075】
【化15】
【0076】
実施例3
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに実施例1で得られた反応液(A-1)445gとイソフタル酸クロライド20.2gを仕込み、系内を減圧窒素置換し溶解させた。その後、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.12gを溶解させ、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液41.2gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン層に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、熱減圧下乾燥して下記式(Ia)の構造を含む活性エステル樹脂(A-3)を合成した。不溶物は生成しなかった。生成物のTgは13℃であり半固形状だった。なお、TgはDSC(測定機器:METTLER TOREDO社製DSC1)により測定した。
【0077】
【化16】
【0078】
実施例4
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに実施例2で得られた反応液(A-2)733gとイソフタル酸クロライド30.3gを仕込み、系内を減圧窒素置換し溶解させた。その後、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.19gを溶解させ、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液61.8gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン層に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、熱減圧下乾燥して下記式(Ib)の構造を含む活性エステル樹脂(A-4)を合成した。不溶物は生成しなかった。生成物の上記と同様にして測定したTgは14℃であり半固形状だった。
【0079】
【化17】
【0080】
実施例5
温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコにα-ナフトール72.1g(0.5モル)と、CMS-P(AGCセイミケルカル株式会社製、メタクロロメチルスチレンとパラクロロメチルスチレンの混合物)76.3g(0.5モル)、トルエン148.3gを仕込み、60℃に加熱した。次いで、20%水酸化ナトリウム水溶液150.0g(水酸化ナトリウムとして0.75モル)を滴下したのち、5時間反応を継続した。塩酸を使用して余剰のアルカリを中和したのち、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン層に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。その後減圧により脱水を行ったのち、反応液(A-5)を得た。反応液を分析したところ、水酸基当量295g/eq、不揮発分34.4%であったことから、式(2-1)の構造を有する化合物が得られていることが確認できた。
【0081】
比較合成例1
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに1,6-ジヒドロキシナフタレン80.1g(0.5モル)と、キョーワード500SH156g、トルエン624gを仕込み、70℃に加熱した。次いで、CMS-P76.3g(0.5モル)を滴下したのち、110℃に加熱した。5時間反応を継続したのち、冷却してろ過して不溶物を除去し、反応液(B-1)を得た。反応液を上記と同様に分析したところ、水酸基当量177g/eq、不揮発分16.0%であった。下記式の構造を有する化合物が得られていることが確認できた。
【0082】
【化18】
【0083】
比較例1
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに比較合成例1で得られた反応液(B-1)442g、α-ナフトール57.6g、イソフタル酸クロライド80.8gを仕込み、系内を減圧窒素置換し溶解させた。その後、テトラブチルアンモニウムブロマイド 0.27gを溶解させ、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液164.8gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン層に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液したが、下層がエマルジョン化しており分液性は不良であった。エマルジョン層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、熱減圧下乾燥して以下の式(B-2a)の構造を有する活性エステル樹脂(B-2)を合成した。合成後のフラスコには溶剤・水に溶解しないゲル状の不溶物が付着していた。生成物の上記と同様にして測定したTgは43℃であり固形状だった。
【0084】
【化19】
【0085】
[樹脂組成物及びその硬化物の作製]
実施例3,4及び比較例1について、下記表1に示す組成で配合して硬化性樹脂組成物を得た。これを1.6mm厚の型枠に流し込み、120℃120分間、180℃60分間加熱し、硬化させた。得られた硬化物について、以下のようにして、耐熱性及び誘電正接を評価した。結果を表1に示した。
【0086】
(耐熱性)
硬化物を幅5mm、長さ54mmのサイズに切り出し、これを試験片とした。この試験片を粘弾性測定装置(DMA:レオメトリック社製固体粘弾性測定装置「RSAII」、レクタンギュラーテンション法:周波数1Hz、昇温速度3℃/分)を用いて、耐熱性を評価した。
【0087】
(誘電正接)
アジレント・テクノロジー株式会社製ネットワークアナライザ「E8362C」を用い空洞共振法にて、加熱真空乾燥後、23℃、湿度50%の室内に24時間保管した試験片の10GHzでの誘電正接を測定した。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示すとおり、実施例3で得られた活性エステル樹脂を用いた樹脂組成物から得られた硬化物は、167℃と高い耐熱性を有していたと共に、10GHzにおける誘電正接が2.6×10-3という低い誘電正接を示していた。同様に、実施例4で得られた活性エステル樹脂を用いた樹脂組成物から得られた硬化物は、164℃と高い耐熱性を有していたと共に、10GHzにおける誘電正接が3.0×10-3という低い誘電正接を示していた。
【0090】
これに対し、比較例1で得られた活性エステル樹脂を用いた樹脂組成物から得られた硬化物は、10GHzにおける誘電正接が3.5×10-3であり、耐熱性が120℃であった。
よって、本実施形態に係る活性エステル樹脂を用いた樹脂組成物は、従来のものに比べて耐熱性がより優れるとともに、より低い誘電正接を達成することができた。
図1
図2
図3
図4