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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】組成物および硬化膜付き医療器具
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20220825BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20220825BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220825BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20220825BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20220825BHJP
   A61M 25/09 20060101ALI20220825BHJP
   A61F 2/82 20130101ALN20220825BHJP
   A61M 25/06 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L29/08 100
A61L31/10
A61L33/06 200
A61M25/00 610
A61M25/09 550
A61F2/82
A61M25/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020568130
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001582
(87)【国際公開番号】W WO2020153270
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019009550
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】滋野井 悠太
(72)【発明者】
【氏名】菅▲崎▼ 敦司
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎吾
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-503737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具上に配置される硬化膜を形成するために用いられる組成物であって、
式(1)で表される化合物を含み、
前記式(1)で表される化合物の含有量が、前記組成物の固形分の合計質量に対して、85質量%以上である、組成物。
【化1】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。Rは、炭素数4以下のアルキル基を表す。R1AおよびR1Bは、それぞれ独立に、酸素原子または-NR101-を表す。R101は、水素原子またはアルキル基を表す。L は、-(CH -〔O-(CH -NH-COO-(CH -*2を表す。*2側が、Xと結合する。p、rおよびvは、それぞれ独立に、1~3の整数である。tは0または1の整数である。L は、*3-(CH -OCO-NH-〔(CH -O〕 -(CH -を表す。*3側がXと結合する。q、sおよびwは、それぞれ独立に、1~3の整数である。uは0または1の整数である。Xは、窒素原子または>CR102-を表す。R102は、水素原子を表す
【請求項2】
1AおよびR1Bが、酸素原子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Xが窒素原子である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、式(1-1)~式(1-3)で表される化合物からなる群から選択される1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【化2】
【請求項5】
医療器具と、前記医療器具上に配置された請求項1~のいずれか1項に記載の組成物を用いて形成された硬化膜とを有する、硬化膜付き医療器具。
【請求項6】
前記硬化膜が抗血栓性膜である、請求項に記載の硬化膜付き医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物および硬化膜付き医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、留置針、ガイドワイヤー、ステント、内視鏡、カニューレ、および、注射器などの多くの医療器具は、一般的に、その外表面に各種コーティング(塗膜)が施されている。このようなコーティングが施されることにより、医療器具を体内に容易に挿入できる、または、体内からの体液のドレナージを容易に行うことができる、などの効果が得られる。
【0003】
例えば、特許文献1においては、アクリルアミド系官能基を多数有する多官能重合性化合物を含む親水性コーティング配合物が開示されており、良好な耐摩耗性を有する強固で均一なコーティングを提供できる旨が述べられている。なお、特許文献1の実施例欄においては、多官能重合性化合物(PEG(polyethylene glycol)1500ジアクリルアミド)が具体的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2011―513566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記のような各種医療器具に施される塗膜(コーティング)においては、特許文献1に記載されるような耐摩耗性以外に、様々な特性が求められる。
例えば、抗血栓性が求められるが、そのためには、血小板、タンパク質、および細胞の付着が抑制されることが必要である。
【0006】
そこで、本発明は、血小板、タンパク質、および細胞の付着をいずれも抑制することができる、医療器具上に配置される硬化膜を形成するために用いられる組成物および硬化膜付き医療器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、後述する式(1)で表される化合物を含む組成物によれば、上記課題を解決できることを知得し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[8]である。
[1] 医療器具上に配置される硬化膜を形成するために用いられる組成物であって、
後述する式(1)で表される化合物を含む、組成物。
[2] Rがアルキル基である、上記[1]に記載の組成物。
[3] Rが炭素数4以下のアルキル基である、上記[1]または[2]に記載の組成物。
[4] R1AおよびR1Bが、酸素原子である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] Xが窒素原子である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 上記式(1)で表される化合物が、後述する式(1-1)~式(1-3)で表される化合物からなる群から選択される1種である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 医療器具と、上記医療器具上に配置された上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物を用いて形成された硬化膜とを有する、硬化膜付き医療器具。
[8] 上記硬化膜が抗血栓性膜である、上記[7]に記載の硬化膜付き医療器具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血小板および細胞の付着をいずれも抑制することができる、医療器具上に配置される硬化膜を形成するために用いられる組成物および硬化膜付き医療器具を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される範囲には、「~」の両端を含むものとする。例えば、「A~B」と表される範囲には、AおよびBを含む。
【0011】
本明細書において、固形分とは、溶媒成分を除いた組成物に含まれる成分を意図し、その性状が液状であっても固形分として計算する。
【0012】
本発明の硬化膜付き医療器具が、血小板、タンパク質、および細胞の付着をいずれも抑制することができることのメカニズムは明らかではないが、おおよそ以下のとおりである。
血小板の粘着や各種細胞の接着は、部材表面に吸着された生体組織液中のタンパク質を介して行われている。また、吸着によってタンパク質の構造が変化し、各種細胞が足場として認識しうる細胞接着部位が露出することによって細胞の接着が可能となることが知られている。本発明の特性(メカニズム)は、硬化膜中の化合物(1)に由来する構造が、血漿中のタンパク質が表面に吸着することを抑制している、または、吸着したタンパク質の構造変化を抑制していることに起因していると考えられる。
【0013】
[医療器具上に配置される硬化膜を形成するために用いられる組成物]
本発明の医療器具上に配置される硬化膜は、後述する式(1)で表される化合物(以下「化合物(1)」という場合がある。)を含む組成物(以下「本発明の硬化膜形成用組成物」という場合がある。)を用いて形成される硬化膜である。
【0014】
〈式(1)で表される化合物〉
式(1)で表される化合物〔化合物(1)〕について説明する。
【0015】
【化1】
【0016】
式(1)中、各記号の意味は以下のとおりである。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数4以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはプロパン-2-イル基であることがより好ましく、水素原子またはメチル基であることがさらに好ましく、メチル基であることがいっそう好ましい。
【0017】
は、水素原子または1価の置換基を表し、水素原子、アルキル基、アリール基、または下記式(2)で表される基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、フェニル基、または下記式(2)で表される基であることがより好ましく、アルキル基であることがさらに好ましく、炭素数4以下のアルキル基であることがいっそう好ましい。炭素数4以下のアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、およびプロパン-2-イル基であるが、これらに限定されるものではなく、炭素数4以下のアルキル基としては、エチル基またはメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0018】
【化2】
【0019】
式(2)中の各記号の意味は以下のとおりである。
式(2)中、Rは、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数4以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはプロパン-2-イル基であることがより好ましく、水素原子またはメチル基であることがさらに好ましい。
【0020】
式(2)中、R1Cは、酸素原子または-NR103-を表す。R103は、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数4以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはプロパン-2-イル基であることがより好ましく、水素原子またはメチル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがいっそう好ましい。R1Cは、酸素原子(-O-)または-NH-であることが好ましく、酸素原子(-O-)であることがより好ましい。
【0021】
式(2)中、Lは、-NH-COO-*2で表されるウレタン結合を含み、エーテル結合を含んでいてもよい脂肪族炭化水素基を表し、*2-(CH-OCO-NH-〔(CH-O〕-(CH-であることが好ましい。ここで、i、jおよびlは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。kは0以上の整数であり、0~3の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。
なお、上記Lで表される上記脂肪族炭化水素基中の上記ウレタン結合は、*2がX側となるように配置されている。
【0022】
式(1)中の各記号の意味は以下のとおりである。
1AおよびR1Bは、それぞれ独立に、酸素原子または-NR101-を表す。
101は、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数4以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはプロパン-2-イル基であることがより好ましく、水素原子またはメチル基であることがさらに好ましい。
1AおよびR1Bは、それぞれ独立に、酸素原子(-O-)または-NH-であることが好ましく、酸素原子(-O-)であることがより好ましい。
【0023】
およびLは、それぞれ独立に、-NH-COO-*1で表されるウレタン結合を含み、エーテル結合を含んでいてもよい脂肪族炭化水素基を表す。
は-(CH-〔O-(CH-NH-COO-(CH-*2であることが好ましい。*2側が、Xと結合する。ここで、p、rおよびvは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。tは0以上の整数であり、0~3の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。
は*3-(CH-OCO-NH-〔(CH-O〕-(CH-であることが好ましい。*3側がXと結合する。ここで、q、sおよびwは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。uは0以上の整数であり、0~3の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。
なお、Lで表される脂肪族炭化水素基中のウレタン結合は、*2がX側となるように配置されている。また、Lで表される脂肪族炭化水素基中のウレタン結合は、*3がX側となるように配置されている。
【0024】
Xは、窒素原子または>CR102-を表し、窒素原子であることが好ましい。
102は、水素原子または1価の置換基を表し、水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素数4以下のアルキル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはプロパン-2-イル基であることがさらに好ましく、水素原子またはメチル基であることがいっそう好ましい。
なお、>CR102-とは、以下の式(Y)で表される基である。式(Y)中、*は結合位置を表す。
【0025】
【化3】
【0026】
《式(1)で表される化合物の具体例》
化合物(1)の具体例としては、式(1-1)で表される化合物(以下「化合物(1-1)」という場合がある。)、式(1-2)で表される化合物(以下「化合物(1-2)」という場合がある。)、式(1-3)で表される化合物(以下「化合物(1-3)」という場合がある。)、式(1-4)で表される化合物(以下「化合物(1-4)」という場合がある。)、式(1-5)で表される化合物(以下「化合物(1-5)」という場合がある。)、および式(1-6)で表される化合物(以下「化合物(1-6)」という場合がある。)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
《式(1)で表される化合物の好ましい例》
本発明の硬化膜形成用組成物が含む化合物(1)としては、化合物(1-1)、化合物(1-2)および化合物(1-3)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
本発明の硬化膜形成用組成物が含む化合物(1)が化合物(1-1)、化合物(1-2)および化合物(1-3)からなる群から選択される少なくとも1種であると、血小板および線維芽細胞の付着がより抑制されたものとなる。
【0032】
《式(1)で表される化合物の含有量》
硬化膜形成用組成物中の式(1)で表される化合物の含有量は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物の固形分の合計質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがいっそう好ましい。
本発明の硬化膜形成用組成物中の式(1)で表される化合物の含有量の上限は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物の固形分の合計質量に対して、通常、100質量%未満であることが好ましく、99.9質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
《化合物(1)の合成方法》
化合物(1)は、従来公知の方法によって、容易に合成することができる。
【0034】
〈化合物(1)以外の成分〉
本発明の硬化膜形成用組成物は、本発明の作用効果を妨げない限り、上述した化合物(1)以外に、化合物(1)以外の他のモノマー、界面活性剤、重合開始剤、重合禁止剤および溶媒など、化合物(1)以外の成分をさらに含んでもよい。
【0035】
《化合物(1)以外の他のモノマー》
本発明の硬化膜形成用組成物では、硬化膜の力学物性(引張強度や耐摩耗性など)を調整する目的で、市販の単官能モノマーおよび/または多官能モノマーを、式(1)で表される化合物と併用してもよい。
本発明の硬化膜形成用組成物が化合物(1)以外の他のモノマーを含む場合の、本発明の硬化膜形成用組成物中の化合物(1)以外の他のモノマーの含有量は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物の固形分の合計質量に対して、0質量%超40質量%以下であることが好ましい。なお、化合物(1)以外の他のモノマーの含有量が0質量%であるとは、本発明の硬化膜形成用組成物が化合物(1)以外の他のモノマーを含まないことを意味する。
【0036】
《界面活性剤》
本発明の硬化膜形成用組成物には、硬化膜形成用組成物の基材への濡れ性やレベリング性を調整するために、市販の界面活性剤を添加してもよい。
本発明の硬化膜形成用組成物が界面活性剤を含む場合の、本発明の硬化膜形成用組成物中の界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物の固形分の合計質量に対して、0質量%超3質量%以下であることが好ましい。なお、界面活性剤の含有量が0質量%であるとは、本発明の硬化膜形成用組成物が界面活性剤を含まないことを意味する。
【0037】
《重合開始剤》
重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤および光アニオン重合開始剤などの光重合開始剤、ならびに熱ラジカル重合開始剤および熱カチオン重合開始剤などの熱重合開始剤が挙げられる。
本発明の硬化膜形成用組成物が重合開始剤を含む場合の、本発明の硬化膜形成用組成物中の重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物の固形分の合計質量に対して、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~8質量%であることがより好ましく、1質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
《重合禁止剤》
本発明の硬化膜形成用組成物には、化合物(1)および硬化膜形成用組成物の保存安定性を持たせるために、市販の重合禁止剤を添加してもよい。
本発明の硬化膜形成用組成物が重合禁止剤を含む場合の、本発明の硬化膜形成用組成物中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物の固形分の合計質量に対して、0.0005質量%~1質量%であることが好ましい。
【0039】
《溶媒》
溶媒は、特に限定されないが、アルコール、ケトンまたはこれらの混合溶媒が好ましく、炭素数3以下のアルコール、炭素数4以下のケトンまたはこれらの混合溶媒がより好ましく、メタノールまたはアセトンがさらに好ましい。
【0040】
硬化膜形成用組成物が溶媒を含む場合の硬化膜形成用組成物中の溶媒の含有量は、特に限定されないが、硬化膜形成用組成物の10質量%~95質量%であることが好ましく、30質量%~90質量%であることがより好ましく、50質量%~80質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
[硬化膜付き医療器具]
本発明の硬化膜付き医療器具(以下「本発明の医療器具」という場合がある。)は、医療器具と、医療器具上に配置された、本発明の硬化膜形成用組成物を用いて形成された硬化膜とを有する。
【0042】
〈医療器具〉
医療器具は、特に限定されないが、人工心肺、人工腎臓、人工血管、人工弁、血液透析膜、カテーテル、血液フィルター、血液保存パック、血小板保存パック、血液回路、留置針、ガイドワイヤー、ステント、内視鏡、カニューレ、および、人工臓器などが挙げられる。
【0043】
〈硬化膜〉
硬化膜は、医療器具上に配置された、本発明の硬化膜形成用組成物を用いて形成された膜である。
医療器具上に硬化膜を配置する方法は、特に限定されないが、本発明の硬化膜形成用組成物を医療器具の表面(血液、体液または組織液と接触しうる面をいう)に配置して、医療器具の表面に硬化膜前駆体膜を形成し、これを硬化させる方法が挙げられる。
【0044】
本発明の硬化膜形成用組成物を医療器具の表面に配置する方法は、特に限定されないが、バーコーター、スピンコーティング、ディッピング、またはペインティングなどによる方法が挙げられる。
医療器具の表面は、本発明の硬化膜形成用組成物を配置する前に、プラズマ処理、またはオゾン処理などの表面処理が施されていてもよい。また、医療器具の表面は、コーティングされていてもよい。
【0045】
医療器具の表面に形成した硬化膜前駆体膜を硬化させて硬化膜を形成する方法は、特に限定されないが、光照射または加熱によることが好ましく、光照射によることがより好ましい。特に、医療器具の材料が耐熱性の低い材料である場合には、光照射により硬化させることが好ましい。光照射は、可視光線、紫外線、電子線、またはガンマ線など、適宜選択すればよい。
硬化膜の厚みは、特に限定されないが、0.05μm~500μmであることが好ましく、0.1μm~100μmであることがより好ましく、1μm~50μmであることがさらに好ましい。
【0046】
硬化膜は抗血栓性膜であることが好ましい。
本発明の医療器具上に形成された硬化膜は、血小板、タンパク質、および細胞の付着が抑制されているため、血栓が形成されにくい。
【実施例
【0047】
[実施例1]
〈評価用サンプルの製造〉
以下に記載する方法により、評価用サンプル(以下「サンプル1」という場合がある。)を製造した。
【0048】
1.化合物(1-1)の合成
N-メチルジエタノールアミン(10g、83.9mmol)およびテトラヒドロフラン(50mL)を混合した。この混合液に、メタクリル酸2-イソシアナトエチル(27.34g、1176mmol)をテトラヒドロフラン(50mL)に希釈した溶液を滴下した。さらに、ネオスタンU600(538mg;日東化成社製)をテトラヒドロフラン(10mL)に希釈した溶液を発熱に注意しながら、滴下し、室温で12時間撹拌した。この反応の式は以下に示すとおりである。反応溶液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル~酢酸エチル:メタノール=4:1)に供することで精製し、式(1-1)で表される化合物〔化合物(1-1)〕(30g、収率83%)を得た。H NMR(Nuclear Magnetic Resonance)にて、目的物であることを確認した。
1H NMR (メタノール-d, 400MHz) δ: 1.93 (6H, s), 2.35 (3H,s), 2.71 (4H, t), 3.39 (4H, t), 4.10-4.19 (8H, m), 5.62 (2H, s), 6.12 (2H, s).
【0049】
【化8】
【0050】
なお、化合物(1-1)の合成法としては、下記の条件でも同様に合成できる。
N-メチルジエタノールアミン(7g、58.7mmol)、テトラヒドロフラン(100mL)、およびメタクリル酸2-イソシアナトエチル(19.6g、126mmol)を混合し、室温で24時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル~酢酸エチル:メタノール=9:1)に供することで精製し、式(1-1)で表される化合物(本明細書において「化合物1-1」という)(21g、収率85%)を得た。
【0051】
2.硬化膜形成用組成物の調製
合成した化合物(1-1)(重合禁止剤として、4OH-TEMPO(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を30質量ppm含む)と、重合開始剤と、溶媒とを、表1に示す配合量で配合して、硬化膜形成用組成物(以下「硬化膜形成用組成物1」という場合がある。)を調製した。
【0052】
【化9】
【0053】
3.硬化膜の作製
調製した硬化膜形成用組成物1を、バーコーターを用いて、乾燥後に厚さ3μmとなるようにクリアランスを調整して、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(コスモシャインA4300,東洋紡社製;両面易接着処理)上に塗布し、乾燥させて、硬化膜前駆体膜を形成した。
その後、紫外線露光機(ECS-401G,アイグラフィック社製;光源は高圧水銀ランプ)を用いて、2J/cmの露光量となるように硬化膜前駆体膜を露光し、PETフィルム上に硬化膜を作製した。
【0054】
〈付着性の評価〉
1.血小板付着性
製造した評価用サンプル(サンプル1)と、対照試料としてのPETフィルム(DIAFOIL T100E125、三菱樹脂株式会社製)とを用いて、血小板の粘着実験を行った。クエン酸ナトリウムで抗凝固したヒト全血から多血小板血漿と少血小板血漿とを遠心分離によって回収し、多血小板血漿を少血小板血漿で希釈することにより4×10cells/mLの血小板懸濁液を調整した。続いて、試料表面と血小板懸濁液とを37℃、60分間接触させた後、リン酸緩衝溶液で2回リンスし、粘着した血小板を1%グルタルアルデヒド溶液で固定化した。固定化した試料はリン酸緩衝溶液にて10分、リン酸緩衝溶液:水=1:1にて8分、水にて8分、さらに水でもう一度8分浸漬させて洗浄し、室温で風乾した。その後、試料表面1×10μmに付着した血小板数を電子顕微鏡で観察し、血小板粘着数を計測した。
PETフィルム(対照試料)に付着した血小板の総数を100%とした場合の、サンプル1における血小板の相対数を算出し、血小板付着性を以下の基準に従って評価した。
A・・・3%以下
B・・・3%超5%以下
C・・・5%超20%以下
D・・・20%超
【0055】
2.線維芽細胞付着性
製造した細胞付着用シート(サンプル1)と、対照試料としてのPETフィルム(DIAFOIL T100E125、三菱樹脂株式会社製)とを評価用基板として用いて、線維芽細胞の接着試験を行った。上記基板の表面をリン酸緩衝生理食塩水により洗浄した後、ウシ胎児血清を10%添加して調製したDMEM/F12培地(ダルベッコ改変イーグル培地とハムF-12培地の1:1混合培地)に37℃で60分間浸漬させて馴化した。その後、上記の培地に懸濁した正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を各試料に対して1cmあたり1×10個の密度となるように播種し、37℃、60分間接触させた。続いて、基板をリン酸緩衝溶液で2回リンスし、基板に接着した細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した。細胞の核をDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)、アクチン骨格をファロイジン抗体でそれぞれ染色して、蛍光顕微鏡を用いて付着細胞数の計測を行った。
PETフィルム(対照試料)に付着した線維芽細胞の総数を100%とした場合の、サンプル1における線維芽細胞の相対数を算出し、血小板付着性を以下の基準に従って評価した。
A・・・3%以下
B・・・3%超5%以下
C・・・5%超20%以下
D・・・20%超
【0056】
[実施例2]
〈評価用サンプルの製造〉
式(1-2)で表される化合物〔化合物(1-2)〕を合成し、表1に示す組成で硬化膜形成用組成物(以下「硬化膜形成用組成物2」という場合がある。)を調製した。
硬化膜形成用組成物2を用いて、実施例1と同様にして、評価用サンプル(以下「サンプル2」という場合がある。)を製造した。
【0057】
【化10】
【0058】
〈付着性の評価〉
製造した評価用サンプル(サンプル2)を用いて、実施例1と同様にして血小板および細胞〔正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)〕の付着性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0059】
[実施例3]
〈評価用サンプルの製造〉
式(1-3)で表される化合物〔化合物(1-3)〕を合成し、表1に示す組成で硬化膜形成用組成物(以下「硬化膜形成用組成物3」という場合がある。)を調製した。
硬化膜形成用組成物3を用いて、実施例1と同様にして、評価用サンプル(以下「サンプル3」という場合がある。)を製造した。
【0060】
【化11】
【0061】
〈付着性の評価〉
製造した評価用サンプル(サンプル3)を用いて、実施例1と同様にして血小板および細胞〔正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)〕の付着性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0062】
[比較例1]
〈評価用サンプルの製造〉
式(A)で表される化合物(以下「化合物A」という場合がある。)を合成し、表1に示す組成で硬化膜形成用組成物(以下「硬化膜形成用組成物4」という場合がある。)を調製した。
硬化膜形成用組成物4を用いて、実施例1と同様にして、評価用サンプル(以下「サンプル4」という場合がある。)を製造した。
【0063】
【化12】
【0064】
〈付着性の評価〉
製造した評価用サンプル(サンプル4)を用いて、実施例1と同様にして血小板および細胞〔正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)〕の付着性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0065】
[比較例2]
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(DIAFOIL T100E125、三菱樹脂株式会社製)を評価用サンプル(以下「サンプル5」という場合がある。)として用いて、実施例1と同様にして血小板および細胞〔正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)〕の付着性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1中、重合開始剤の欄のPI-1は光重合開始剤(下記式で表される化合物)を表し、Irg1173は光重合開始剤(Omnirad 1173,IGM Resins社製)を表す。
【0068】
【化13】
【0069】
PI-1は、国際公開第2017/018146号の[0105]~[0110]に記載の方法を参考にして合成したものを用いた。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1~3の評価用サンプルは血小板および細胞の付着がよく抑制されていた。
なかでも、実施例1の評価用サンプルは血小板および細胞の付着がいずれもよりよく抑制されていた。