(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物及びヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンの製造方法、並びにハロメチル=(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)=ケトン化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 67/10 20060101AFI20220825BHJP
C07C 49/567 20060101ALI20220825BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20220825BHJP
C07C 69/78 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C07C67/10
C07C49/567 CSP
C07C69/24
C07C69/78
(21)【出願番号】P 2019189784
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡部 友博
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181413(WO,A1)
【文献】Il'ina, Irina V. et al.,Reactions of allyl alcohols of the pinane series and of their epoxides in the presence of montmorillonite clay,Helvetica Chimica Acta,2007年,90(2),353-368
【文献】Vacas, Sandra et al.,Sex Pheromone of the Invasive Mealybug Citrus Pest, Delottococcus aberiae (Hemiptera: Pseudococcidae). A New Monoterpenoid with a Necrodane Skeleton,Journal of Agricultural and Food Chemistry ,2019年08月05日,67(34),9441-9449
【文献】Ramesh, Remya et al.,Enantiospecific Synthesis of Both Enantiomers of the Longtailed Mealybug Pheromone and Their Evaluation in a New Zealand Vineyard,Journal of Organic Chemistry,2015年,80(15),7785-7789
【文献】Zou, Yunfan et al.,Synthesis and Bioassay of Racemic and Chiral trans-α-Necrodyl Isobutyrate, the Sex Pheromone of the Grape Mealybug Pseudococcus maritimus,Journal of Agricultural and Food Chemistry ,2010年,58(8),4977-4982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(5)
【化1】
(式中、Xは、水酸基またはハロゲン原子を表す。)
で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物のエステル化により、下記一般式(6)
【化2】
(式中、Rは炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。)
で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物を得る工程を少なくとも含む、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)の製造方法。
【請求項2】
前記エステル化が、下記一般式(7)
【化3】
(式中、X
1は、ハロゲン原子を表す。)
で表されるハロメチル=(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)=ケトン化合物と、下記一般式(8)
【化4】
(式中、Rは炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。)
で表されるカルボン酸化合物とのエステル化反応によって行われる、請求項1に記載の2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)の製造方法。
【請求項3】
2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)の、請求項1または2に記載の製造方法における工程と、
前記で得た2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)の加水分解および/または加アルコール分解により、下記式(3)
【化5】
で表されるヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンを得る工程を少なくとも含む、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(7)
【化6】
(式中、X
1は、ハロゲン原子を表す。)
で表されるハロメチル=(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)=ケトン化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物及びヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンの製造方法に関する。本発明はまた、ハロメチル=(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)=ケトン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンを用いた害虫の管理方法として多くの応用が考案され、そして実施されている。例えば、発生予察または地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また、害虫防除の手段として広く性フェロモンが利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure& killまたはAttract & kill)、誘引感染法(Lure & infectまたはAttract & infect)、及び交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。
【0003】
コナカイガラムシ類(Mealybugs)は植物を吸汁する小型の昆虫であり、それらのいくつかの種は穀物及び果実植物に深刻な被害を与えるため農業上問題となる害虫である。コナカイガラムシ類は植物組織に付着して生息しているため、見つけるのが困難であることがしばしばある。そのため、コナカイガラムシ類を作物の植物検疫の際に除去するのが難しい。性フェロモン誘引剤を用いたトラップは、誘引力が強力で、かつ、種特異的に誘引できるので、対象害虫の探知及びモニタリングのための有用な手段である。
【0004】
コナカイガラムシ類の雌成虫は、翅を欠き、また、足が退化しているので、ほとんど移動しない。一方、雄成虫は翅を有するが、非常に小型でか弱く(tiny and fragile)、羽化後給餌せず生存期間は最大でも数日間である(非特許文献1,2)。固着性の雌が放出する性フェロモンは短命な雄を誘引するのに必須であり、交尾相手を見つけ出すための鍵となっており、進化上の強い選択圧にさらされていると考えられる(非特許文献3,4)。事実、コナカイガラムシ類のフェロモンは、高度に種特異的な構造を有しており非常に多様性に富んでいる(非特許文献5,6)。このため、コナカイガラムシ類の性フェロモンは、害虫防除及び害虫検疫のための有用な手段であり、また、昆虫の化学的コミュニケーション機構の多様性を研究するためのモデルとしても重要である。
【0005】
Pseudococcus baliteus(一般名:エアリアル=ルート=ミーリーバグ;Aerial root mealybug;以下、「ARMB」とも記載する)は、フィリピンで最初に記述された害虫で、日本でも石垣島等の南西諸島に分布が確認され、検疫上非常に問題となる害虫である。本種のフェロモンはまだ同定されておらず、そのフェロモンの解明が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Franco,J.C.;Zada,A.;Mendel,Z.,BiorationalControl of Arthropod Pests;I.Ishaaya,A.R.Horowitz,Eds.,Springer,Dordrecht,2009,pp233-278
【文献】Ross,L.,D.M.Shuker,Curr.Biol.,2009;19:R184-R186
【文献】Tabata,J.;Ichiki,R.T.;Moromizato,C.;Mori,K.,J.R.Soc.Interface 2017;14;20170027
【文献】Tabata,J.;Teshiba,M.,Biol.Lett.,2018,14,20180262
【文献】Millar,J.G.;Daan,K.M.;McElfresh,J.S.;Moreira,J.A.;Bentley,W.J.,Semiochemicals in Pest and Weed Control;Petroski,R.J.;Tellez,M.R.;Behle,R.W.,Eds.,American Chemical Society,WashingtonDC,2005,pp11―27
【文献】Zou,Y.;Millar,J.G.,Nat.Prod.Rep.,2015,pp1067-1113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、化学構造を明らかにしたARMBのフェロモン化合物およびその類縁体(Analog)の製造方法を提供し、また、その製造の際に有用な中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ARMBの性フェロモンを単離、同定することにより構造を推定し、その推定構造の化合物を合成することにより、その構造を確定し、合成品を用いた生物活性試験により立体化学を含む性フェロモンの構造を決定した。
そして、本発明者らは、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物を用いることにより、ARMBの性フェロモン物質である(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート等の2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物を効率良く製造することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
本発明の一つの態様によれば、下記一般式(5)
【化1】
(式中、Xは水酸基、または、ハロゲン原子を表す。)
で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物のエステル化により、下記一般式(6)
【化2】
(式中、Rは炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。)
で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物を得る工程を少なくとも含む2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の他の態様によれば、上述のエステル化が、下記一般式(7)
【化3】
(式中、X
1は、ハロゲン原子を表す。)
で表されるハロメチル=(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)=ケトン化合物と、下記一般式(8)
【化4】
(式中、Rは炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。)
で表されるカルボン酸化合物とのエステル化反応によって行われる、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の態様によれば、上述の2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)の、上述の製造方法における工程と、
下記一般式(6)
【化5】
(式中、Rは炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。)
で表される前記2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物の加水分解および/または加アルコール分解により、下記式(3)
【化6】
で表されるヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンを得る工程を少なくとも含む、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンの製造方法が提供される。
【0012】
更に、本発明の他の態様によれば、下記一般式(7)
【化7】
(式中、X
1は、ハロゲン原子を表す。)
で表されるハロメチル=(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)=ケトン化合物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ARMBの性フェロモン物質である(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート等の2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は、Pseudococcus baliteus処女雌のヘッドスペース揮発物の抽出物のGC-FID(Flame ionization detection)とGC-EAD(electrophysiological antenna detection)のクロマトグラムを示し、
図1(b)は、天然物の化合物(1)、化合物(1)の水素添加反応生成物(2)、並びに化合物(1)の塩基性エタノリシス生成物(3)及び(4)のマススペクトルを示す。
【
図2】
図2は、合成品の化合物(1)及び天然物の化合物(1)のケト基に隣接するメチレンプロトンの
1H-NMRシグナルを示す。なお、図中、「Synthetic」は「合成品」を意味し、「Natural」は「天然物」を意味する。
【
図3】
図3は、合成品の化合物(1)に対するPseudococcus baliteus雄の反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書中の中間体、試薬や目的物の化学式において、構造上、エナンチオ異性体(enantiomer;光学異性体)あるいはジアステレオ異性体(diastereomer)等の立体異性体が存在し得るものがあるが、特に記載がない限り、各化学式はこれらの異性体の全てを表すものとする。また、これらの異性体は、単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0016】
まず、ARMBのフェロモンの同定について説明する。
<ARMBのフェロモンの単離、同定>
ARMBのフェロモンは、以下のように、単離され、同定(構造推定)された。
最初に、ガラス製チャンバー(1L)中においてカボチャ果実で飼育したARMBの処女雌からヘッドスペース揮発物(Headspace volatiles)を1L/分の流速で引きHayeSepQ吸着剤(1g)に捕集した。揮発成分は3~4日毎に15mLのn-ヘキサンで抽出し、室温でエバポレーターにより濃縮した。濃縮物は-20℃で保管した。294,000雌成虫x日相当量(female day equivalents)を捕集した。エレクトロアンテノグラフィック=ディテクター(Electroantennographic detector;EAD)を備えたガスクロマトグラフ(GC)で得られた粗抽出物を分析したところ、DB-23カラムでKovat’s indexが2185を有する単一の化合物(1)が触角の反応を引き起こし、フェロモン候補物質として見いだされた。
【0017】
図1aの(a)は、Pseudococcus baliteus処女雌のヘッドスペース揮発物の上記抽出物のGC-FIDとGC-EADクロマトグラフを示す。
【0018】
次に、化合物(1)をGC-MS(Gas chromatography-Mass spectrometer)で分析し、電子衝撃イオン化(Elecctron impact;EI)70eVにおける高分解度マススペクトル(High-resolution mass spectrum)で、化合物(1)はC
15H
24O
3の分子式(観測値252.17804;計算値252.17255)を示し、4つの不飽和度(二重結合または環)の存在が予想された。化合物(1)のミクロスケール水素添加反応により一つの生成物、化合物(2)が得られ、このものの分子イオンピークはm/z254であり、一つの二重結合の存在が予想された。化合物(1)と(2)のマススペクトルのフラグメントのベースピークはそれぞれ109と111に観測され、これらは化合物(1)にトリメチルシクロペンテニル(C
8H
13)が存在することを示唆した。化合物(1)の塩基性エタノリシス(Basic ethanolysis)とエステル交換(Transesterification)は二つのピーク、すなわち化合物(3)と化合物(4)のピーク、を与え、これらの分子イオンはそれぞれm/z168と130に観測された。これらのマススペクトルを
図1の(b)に示す。化合物(4)のEI-MSとGC保持時間から化合物(1)は2-メチルブタン酸とトリメチルシクロペンテン構造を有するアルコールとのエステル化合物であることが示唆された。
【0019】
化合物(1)の約0.1mgを分取(Preparative)GCと分取LC(Liquid chromatograph;液体クロマトグラフ)により99%を超える純度まで精製して、35μlのC6D6に溶かし核磁気共鳴(NMR)分析に供した。1H-NMRスペクトルは二つのオレフィンと5組のメチル基プロトンの存在を示した。更に、DEPT(Distorsionless Enhancement by Polalization Transfer)法による13C-NMRの信号は、二つのカルボニル炭素を含む四つの四級炭素の存在を示した。
カルボニル炭素の信号の一つ(175.5ppm)はカルボン酸エステルに特徴的であり、その存在を示唆した。HSQC(Heteronuclear single-quantum coherence)分析とHMBC(Heteronuclear multiple-bond coherence)分析で、このカルボニル炭素はメチンプロトン(2.46ppm)とカップリング(coupling)しており、更にメチル基(1.20ppm,d,J=6.6Hz)と1組のジェミナル(geminal)プロトン(1.46ppmと1.82ppm)とカップリングしており、1組のジェミナル(geminal)プロトンは別なメチル基(0.96ppm,t,J=6.0Hz)と相関していた。これらのことから、化合物(1)は2-メチルブタン酸エステル(2-メチルブチレート)であることを示しており、これはミクロスケールエステル交換反応生成物で予想された事実と一致した。他方のカルボニル炭素の信号(205.1ppm)の信号は、4.54と4.60ppm(J=17.4Hz)にある一組のダブレットプロトンの信号と相関しており、この相関はエステルの酸素原子に隣接するプロトンに特徴的なものであった。二つの四級炭素と3組のメチルプロトンに由来するシングレット信号(0.91,0.94,0.95ppm)を含む他の部分は、トリメチルシクロペンテニル構造を成していると考えられ、二つのオレフィンプロトン(5.11ppm,ddd,J=1.8,2.4,5.4Hzと5.29ppm,ddd,J=1.8,2.4,5.4Hz)は、1H-NMRのデカップリング(decoupling)分析によって別な一組のジェミナルプロトン(1.71ppm,ddd,J=1.8,2.4,16.8Hzと2.92ppm,ddd,J=1.8,2.4,16.8Hz)とカップリングしていることがわかった。以上より、環状構造は1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニルあるいは1,2,2-トリメチル-4-シクロペンテニル構造であることが予想された。HMBCと核オーバーハウザー効果(nuclear Overhauser effect;NOE)パターンにより、前者がより妥当と考えられた。以上より、化合物(1)は、下記式(1)で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=2-メチルブチレートであり、化合物(2)は、下記式(2)で表される2-(1,2,2-トリメチルシクロペンチル)-2-オキソエチル=2-メチルブチレートであると推定された。
【0020】
【0021】
2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=2-メチルブチレート(1)には、ヒドロキシ=ケトン部分とカルボン酸部分に一つずつ不斉炭素が存在するため、四つの立体配置を異にする立体異性体が考えられる。つまり、化合物(1)は、以下の四種の立体異性体、すなわち、下記式(R,R)-(1)
【化9】
で表される(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートと、下記式(R,S)-(1)
【化10】
で表される(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートと、下記式(S,R)-(1)
【化11】
で表される(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートと、下記式(S,S)-(1)
【化12】
で表される(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートが考えられる。
【0022】
<四種の全ての立体異性体の合成>
本発明者らは、(+)-カンファー(Camphor)と(-)-カンファー(どちらも100%ee)から(R)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンと(S)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンをそれぞれ合成し、これらのいずれかから出発して(R)-2-メチルブタン酸と(S)-2-メチルブタン酸(それぞれ、89.3%eeと98.6%ee)をそれぞれ反応させることにより、化合物(1)の四種の全ての立体異性体、すなわち、(R,R)-(1)、(R,S)-(1)、(S,R)-(1)及び(S,S)-(1)を合成した。
また、本発明者らは、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンの両鏡像体、すなわち、(R)-(3)と(S)-(3)も合成した。
なお、化合物(1)の合成方法の詳細については、下記の実施例にて詳述する。
【0023】
<ARMBのフェロモンの立体化学の解明>
合成品と天然物、および、それらの誘導体の各スペクトル・データを比較することにより、以下のように天然物の立体化学を明らかにした。
図2に示すように、天然物の化合物(1)のケト基に隣接するメチレンプロトンの
1H-NMRにおけるケミカルシフトおよびカップリング定数は、合成品の(R
*,R
*)-(1)[(R
*,R
*)-(1)は(R,R)-(1)または(S,S)-(1)を表す。]のそれらと同じであり、(
R
*,S
*)-(1)[同様に(R
*,S
*)-(1)は(R,S)-(1)または(S,R)-(1)を表す。]のそれらとは異なることが判明した。
【0024】
キラル分割カラム(Chiral resolution column)β-DEXTM(商標) 120を用いたGC分析において、(R)-(3)と(S)-(3)の保持時間(Retension time)は、それぞれ、25.2分と25.3分であり、この内後者が天然物(1)の加水分解生成物の保持時間と一致した。
更に、合成品の(S,S)-(1)と天然物(1)の旋光度は、それぞれ、[α]D
24-65°(c=1.01,CHCl3)と[α]D
25-71°(c=0.0135,ヘキサン)であり、いずれも左旋性を示した。このことは、天然物がS,Sの絶対立体配置を有することを支持した。
【0025】
<四種の立体異性体の合成品の誘引活性>
図3は、合成した(1)の四種の立体異性体の誘引活性を温室で生物活性試験した結果を示す。
図3において、ブランク(Blank)は溶媒(ヘキサン)のみを表す。また、
図3のグラフ中、縦軸の「Captures/trap/day(mean+SEM)」は、1日当たりに捕獲した数(平均+標準誤差)を表し、及び、小文字a,b,cは、ANOVAで、次いでT
ukey-Kramer HSD検定(test)による統計学的に有意な違いを表す。
天然型絶対立体配置を有する(S,S)-異性体が雄に対する誘引力が最も強かった。(S,R)-異性体も多少の雄を誘引したが、(S,R)-異性体に誘引されたか、少量含まれている(S,S)-異性体に反応したかは明らかではない。その他の異性体は活性が弱かった。
【0026】
発明者らは、化学的な分析と生物活性の結果を合わせて、(S,S)-(1)がARMB、すなわちPseudococcus baliteusのフェロモンであると結論した。
【0027】
コナカイガラムシ類のフェロモンとして、α-ヒドロキシ=ケトン部分を有するモノテルペノイド(Monoterpenoid)は、極めてユニークな例である。比較的単純な二級水酸基を有するα-ヒドロキシ=ケトンはカミキリムシ類の数種について雄が産生する集合フェロモン(Aggregation pheromone)として知られているが、化合物(1)の様にα-位にケト基(ケトン性カルボニル基)を有する一級アルコール部分の構造は昆虫フェロモンとして極めてまれである。
【0028】
以下、本発明について説明する。
【0029】
まず、下記一般式(5)で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物について説明する。
【化13】
(式中、Xは水酸基、または、ハロゲン原子を表す。)
【0030】
Xがハロゲン原子である場合、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物は、下記一般式(7)で表されるハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物である。
【化14】
(式中、X
1はハロゲン原子を表す。)
【0031】
ハロゲン原子X
1としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、原料の入手のし易さ、中間体の反応性や安定性等の観点から、塩素原子、臭素原子が特に好ましい。
ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)としては、下記一般式(S)-(7)で表される(S)-ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物、下記一般式(R)-(7)で表される(R)-ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物およびこれらのラセミ体並びにスカレミック混合物が挙げられる。
【化15】
(式中、X
1はハロゲン原子を表す。)
(S)-ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(S)-(7)の具体例としては、(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、(S)-ヨードメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン等が挙げられる。
(R)-ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(R)-(7)の具体例としては、(R)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、(R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、(R)-ヨードメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン等が挙げられる。
【0032】
ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)は、下記の化学反応式に示される通り、メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)のカルボニル基に隣接するメチル基のハロゲン化反応により製造することができる。
【化16】
(式中、X
1はハロゲン原子を表す。)
【0033】
メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)としては、下記式(S)-(9)で表される(S)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、下記式(R)-(9)で表される(R)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、および、これらのラセミ体ならびにスカレミック混合物が挙げられる。
【化17】
【0034】
メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)は、例えば、W.C.Agostaら、J.Am.Chem.Soc.,90,7025(1968)の方法等に準じて、下記の化学反応式に示される通り、カンファー(Camphor;1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-オン)から合成することができる。
【化18】
【0035】
出発原料のカンファーは、天然物起源である純粋な光学異性体(enantiomaer)の両鏡像体、(1R)-(+)-カンファーと(1S)-(-)-カンファー、がどちらも工業的に入手可能であり、また、化学合成品のラセミ混合物(racemic mixture)、(±)-カンファーも大量に入手可能である。
【0036】
したがって、カンファーとして、目的に応じて、いずれかの光学異性体、いずれかの光学異性体が過剰となったスカレミック混合物(scalemic mixture)、またはラセミ混合物を原料として用いることができる。
【0037】
カンファーから、メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンへの変換の工程において、カンファーの1位に存在する四級炭素の絶対配置が変化する工程が含まれないので、カンファーの1位の四級炭素の立体化学はメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンの1位の立体化学に保存される。
【0038】
カルボニル基に隣接するメチル基のハロゲン化反応としては、公知のケトン化合物のα-ハロゲン化の方法を適用でき、特に限定されないが、単体ハロゲンによるハロゲン化反応、N-ハロ化合物によるハロゲン化反応、オニウム=トリハライド(onium trihalide)化合物によるハロゲン化反応、金属ハロゲン化物(Metal halide)によるハロゲン化反応等が挙げられる。
単体ハロゲンとしては、塩素(chlorine;Cl2)、臭素(Bromine;Br2)、ヨウ素(iodine;I2)、塩化臭素(Bromine chloride;BrCl)、塩化ヨウ素(Iodine chloride;ICl)等が挙げられる。
単体ハロゲンは、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、単体ハロゲンは、市販のものを用いることができる。
N-ハロ化合物としては、N-クロロスクシンイミド、N-クロロアセトアミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ブロモアセトアミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、ジブロモイソシアヌル酸、N-ブロモフタルイミド、N,N,N’,N’-テトラブロモベンゼン-1,3-ジスルホンアミド、ポリ(N,N’-ジブロモ-N,N’-エチレン)ベンゼン-1,3-ジスルホンアミド等が挙げられる。
オニウム=トリハライド化合物としては、テトラブチルアンモニウム=トリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウム=トリブロミド、フェニルトリメチルアンモニウム=トリブロミド、ピリジニウム=トリブロミド、ブロモトリフェノキシホスホニウム=ブロミド等が挙げられる。
N-ハロ化合物は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、N-ハロ化合物は、市販のものを用いることができる。
金属ハロゲン化物としては、臭化銅(II)、臭化亜鉛(II)等が挙げられる。
金属ハロゲン化物は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、金属ハロゲン化物は、市販のものを用いることができる。
【0039】
ハロゲン化反応の基質として、メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)をそのまま用いてもよいが、対応するエノール=エーテルやエノール=エステルを用いてもよい。
対応するエノール=エーテルとしては、1,2,2-トリメチル-1-(1-トリアルキルシリロキシビニル)-3-シクロペンテン化合物等のエノール=シリル=エーテル、特に好ましくは1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンが挙げられる。
【0040】
また、ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)は、別のハロゲンを有するハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)と、無機ハロゲン化物および/または有機ハロゲン化物とのハロゲン交換反応により製造することも可能である。ハロゲン交換反応により、ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンからクロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンからブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンからヨードメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、ヨードメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンからブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンを製造することができる。
無機ハロゲン化物としては、単体ハロゲン、ハロゲン化水素、金属ハロゲン化物等が挙げられる。
有機ハロゲン化物としては、ハロアルカン等が挙げられる。
また、ハロゲン交換反応には、触媒を用いてもよい。触媒としては、ルイス酸(Lewis acid)類及びテトラアルキルアンモニウム=ハライド等の塩類、アルミナ及びシリカゲル等の金属酸化物類、イオン交換樹脂類等が挙げられる。
【0041】
ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)は後述するヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)と比較して保存中あるいは分析条件下に安定であり、このハロメチルケトン化合物を中間体として用いた工業的製造は、特に好ましいことが判明した。
【0042】
次に、上記一般式(5)で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物において、Xが水酸基である場合、すなわち、下記式(3)で表されるヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンについて説明する。
【化19】
【0043】
ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)としては、下記式(S)-(3)で表される(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン、下記式(R)-(3)で表される(R)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンおよびこれらのラセミ体並びにスカレミック混合物が挙げられる。
【化20】
【0044】
ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)は、下記の化学反応式に示される通り、メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)のカルボニル基に隣接するメチル基のヒドロキシル化反応により製造することができる。
【化21】
【0045】
カルボニル基に隣接するメチル基のヒドロキシル化反応としては、公知のケトン化合物のα-ヒドロキシル化の方法を適用でき、特に限定されないが、超原子価ヨウ素(hypervalent iodine)試薬を用いるヒドロキシル化反応、金属酸化剤を用いるヒドロキシル化反応、微生物を用いた生化学的ヒドロキシル化反応等が挙げられる。
メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)については、上述の通りである。
【0046】
超原子価ヨウ素試薬としては、o-ヨードソ安息香酸(o-iodosobenzoic acid)、ヨードベンゼン=ジクロリド(iodobenzene dicholoride)、ジアセトキシヨードベンゼン(diacetoxyiodobenzene)、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼン(bis(trifluoroacetoxy)iodobenzene)、ヨードシルベンゼン(iodosylbenzene)、2-ヨードキシ安息香酸(2-iodoxybenzoic acid)、Dess-Martin試薬(Dess-Martin reagent;1,1,1-triacetoxy-1,1-dihydro-1,2-Benziodoxol-3(1H)-one)等が挙げられる。
超原子価ヨウ素試薬は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、超原子価ヨウ素試薬は、市販のものを用いることができる。
【0047】
金属酸化剤としては、オキソジパーオキシ=モリブデニウム-ピリジン-ヘキサメチルホスホルアミド錯体(oxodiperoxy molybdenium-pyridine-hexamethylphosphoramide complex;MoO5・C5H5N・HMPA)や塩化クロミル(chromyl chloride;CrO2Cl2)等の遷移金属酸化剤等が挙げられる。
金属酸化剤は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、金属酸化剤は、市販のものを用いることができる。
ヒドロキシル化反応の基質として、メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンをそのまま用いてもよいが、対応するエノール=エーテルやエノール=エステルを用いてもよい。
対応するエノール=エーテルとしては、1,2,2-トリメチル-1-(1-トリアルキルシリロキシビニル)-3-シクロペンテン化合物等のエノール=シリル=エーテル、特に好ましくは1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンが挙げられる。
【0048】
ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)は、下記の化学反応式に示される通り、下記一般式(6)で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物の加水分解(Hydrolysis)および/または加アルコール分解(Alcolysis)により、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)を得る工程により製造することもできる。
【化22】
(式中、Rは炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。)
【0049】
ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)をARMBのフェロモン化合物やその類縁体から合成でき、別な類縁体を合成する際にも、工業的な方法としてその利用価値が高い。
加水分解は、通常、塩基の存在下、水を用いて行われる。
加水分解における水の使用量は、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)1モルに対し、好ましくは1.0~100,000,000モルである。
【0050】
加アルコール分解は、通常、塩基の存在下、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の炭素数1~3の低級アルコールを用いて行う。
炭素数1~3の低級アルコールは、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、炭素数1~3の低級アルコールは、市販されているものを用いることができる。
加アルコール分解における炭素数1~3の低級アルコールの使用量は、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)1モルに対し、好ましくは1.0~100,000,000モルである。
加水分解または加アルコール分解に用いられる塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の水酸化物塩類、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、リチウム=t-ブトキシド、カリウム=t-ブトキシド等のアルコキシド類、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。塩基は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、塩基は、市販されているものを用いることができる。
塩基の使用量は、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)1モルに対し、好ましくは0.000001~100モル、より好ましくは0.0001~1モル、更に好ましくは0.001~1モルである。
加水分解または加アルコール分解には溶媒を用いてもよい。
溶媒として、上記反応試薬自身である水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低分子のアルコールを単独あるいは混合して用いてもよいし、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等のハロアルカン類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2-ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルホスホルアミド等の非プロトン性極性溶媒類等が挙げられる。
溶媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、溶媒は、市販されているものを用いることができる。
溶媒の使用量は、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)1モルに対し、好ましくは100~1,000,000mLである。
加水分解または加アルコール分解における反応温度は、用いる試薬の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、好ましくは-50℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは-20~150℃または溶媒の沸点温度である。
加水分解または加アルコール分解における反応時間は、好ましくは5分間~240時間である。
【0051】
ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)は保存中あるいは分析条件下に酸化や分解を受けやすいことが判明した。
例えば、ヒドロキシメチル基がホルミル基に酸化されたケトアルデヒド化合物である2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソアセトアルデヒドやヒドロキシメチル基がカルボキシル基に変換されたカルボン酸である1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテンカルボン酸が生じることが観察された。
このため、このヒドロキシメチルケトン中間体を用いた工業的製造の際には、その保存や分析には留意する必要がある。物質の同定等の種々の目的のためには必要な量だけ合成し使用することが好ましく、大量の長期保存は避けるべきである。
【0052】
<エステル化>
次に、下記の化学反応式に示される通り、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物(5)のエステル化により、下記一般式(6)で表される2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物を得る工程について説明する。
【化23】
(式中、X及びRは上記で定義された通りである。)
【0053】
2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)としては、下記一般式(S)-(6)で表される(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物、下記一般式(R)-(6)で表される(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物およびこれらのラセミ体ならびにスカレミック混合物等が挙げられる。
【0054】
【化24】
(式中、Rは上記で定義された通りである。)
【0055】
2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)におけるRは、炭素数1~9の一価の炭化水素基を表す。
炭素数1~9の一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基等の直鎖状のアルキル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、イソヘキシル基、tert-ブチル基等の分岐状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロペンチル基、シクロペンチルメチル基等の環状のアルキル基、ビニル基、エチニル基、アリル基、(E)-1-プロぺニル基、(Z)-1-プロペニル等の直鎖状のアルケニル基、イソプロペニル基、(E)-1-メチル-1-プロペニル基、(Z)-1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、イソペンテニル基等の分岐状のアルケニル基、2-シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。また、これらと異性体の関係にある炭化水素基でも良く、これらの炭化水素基の水素原子中の一部がメチル基、エチル基等で置換されていても良い。
特に好ましい例としては、sec-ブチル基であり、結合するカルボニルオキシ基を含めて2-メチルブチレート化合物となり、エステル化生成物が天然のARMBフェロモン物質を構成する。この際、構成されるエステル化合物は、(R)-2-メチルブチレート、(S)-2-メチルブチレートおよびそれらの任意の比の混合物を含む。
【0056】
2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)の具体例としては、以下の化合物が例示できる。
【0057】
【0058】
【0059】
エステル化反応としては、公知のエステルの製造方法を適用できるが、例えば、(I)カルボン酸化合物とのエステル化反応、(II)アシル化剤とのエステル化反応、(III)カルボン酸塩化合物とのエステル化反応、(IV)カルボン酸アルキル化合物とのエステル化反応等が挙げられる。
【0060】
(I)カルボン酸化合物とのエステル化反応の方法は、下記の化学反応式に示される通り、具体的には、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)および/またはハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)と、カルボン酸化合物とのエステル化反応により、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)を得る工程を含む。
【0061】
【化27】
【化28】
(式中、R及びX
1は上記で定義された通りである。)
【0062】
カルボン酸化合物は、下記一般式(8)で表される。
【化29】
(式中、Rは上記で定義された通りである。)
カルボン酸化合物(8)におけるRは、上述の一価の炭化水素基と同じである。
カルボン酸化合物(8)としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸等の直鎖状の飽和カルボン酸、2-メチルプロピオン酸(イソ酪酸)、(S)-2-メチルブタン酸、(R)-2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)、4-メチルペンタン酸、(S)-2-メチルペンタン酸、(R)-2-メチルペンタン酸、2-エチルブタン酸、5-メチルヘキサン酸、ピバル酸等の分岐状の飽和カルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、2-メチルシクロペンタンカルボン酸、シクロペンタン酢酸等の環状の飽和カルボン酸、アクリル酸、プロピオ―ル酸、3-ブテン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の直鎖状の不飽和カルボン酸、メタクリル酸、チグリン酸、アンゲリカ酸、セネシオ酸、4-メチル-4-ペンテン酸等の分岐状の不飽和カルボン酸、2-シクロヘキセンカルボン酸等の環状の不飽和カルボン酸、安息香酸、o-トルイル酸(o-toluic acid)、m-トルイル酸、p-トルイル酸、フェニル酢酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
特に好ましい例は2-メチルブタン酸であり、エステル化生成物が天然のフェロモン化合物を構成する。この際、使用されるカルボン酸化合物は、(S)-2-メチルブタン酸、(R)-2-メチルブタン酸およびそれらの任意の比の混合物を含む。
カルボン酸化合物(8)は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、カルボン酸化合物(8)は、市販されているものを用いることができる。
カルボン酸化合物(8)の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)および/またはハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、更に好ましくは1~5モルである。
カルボン酸化合物(8)とのエステル化反応には、溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等のハロアルカン類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2-ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類、その他、水等が挙げられる。
溶媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)および/またはハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7)1モルに対し、好ましくは100~1,000,000mLである。
【0063】
カルボン酸化合物(8)とのエステル化反応には、酸触媒を用いてもよい。この場合、好ましい反応基質はヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)であり、反応としては化合物(3)とカルボン酸化合物(8)との脱水によるエステル化反応となる。
【化30】
(式中、Rは上記で定義された通りである。)
酸触媒としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸類、三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド、酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類、酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。
酸触媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、酸触媒は、市販されているものを用いることができる。
酸触媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)および/またはハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7)1モルに対して、好ましくは0.0001~100モル、より好ましくは0.001~1モル、更に好ましくは0.01~0.05モルである。
【0064】
カルボン酸化合物(8)とのエステル化反応には、塩基類を用いてもよい。この場合、好ましい反応基質はハ
ロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)であり、反応として化合物(7)とカルボン酸化合物(8)との脱ハロゲン化水素によるエステル化反応となる。
【化31】
【0065】
塩基類としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の水酸化物類、炭酸カリウム等の炭酸塩類等の無機塩基類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、2-エチルピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等の有機塩基類、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。
塩基類は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、塩基類は、市販されているものを用いることができる。
塩基類の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)および/またはハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7)1モルに対して、好ましくは1~500モルである。
カルボン酸化合物(8)とのエステル化反応の反応温度は、反応条件により適切な反応温度を選択できるが、好ましくは-50℃~溶媒の沸点温度または250℃、より好ましくは0℃から溶媒の沸点温度、更に好ましくは10℃から溶媒の沸点温度である。
ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)と、カルボン酸化合物(8)とのエステル化反応においては、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類を含む溶媒を用いて、生じる水を共沸により系外に除去しながら反応を進行させるのもよい。この場合、常圧で溶媒の沸点で還流しながら水を留去してもよいが、減圧下に沸点より低い温度で水の留去を行ってもよい。
カルボン酸化合物(8)とのエステル化反応における反応時間は、好ましくは5分間~240時間である。
【0066】
(II)アシル化剤化合物とのエステル化反応の方法は、具体的には、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)と、アシル化剤化合物とのエステル化反応により、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)を得る工程を含む。
【化32】
(式中、Rは上記で定義された通りであり、Yは脱離基を表す。)
【0067】
アシル化剤化合物は、下記一般式(10)で表される。
【化33】
(式中、Rは上記で定義された通りであり、Yは脱離基を表す。)
アシル化剤化合物(10)におけるRの具体例としては、上述の一価の炭化水素基の具体例と同じである。
アシル化剤化合物(10)中のアシル基[R-C(=O)-]として、上述の(I)カルボン酸とのエステル化反応において用いられるカルボン酸化合物(8)に対応するアシル基が挙げられる。
アシル化剤化合物(10)として、酸ハロゲン化物(Acyl halide;Yがハロゲン原子の場合)、カルボン酸無水物(
Carboxylic anhydride;YがRC(=O)-O-と同じでも異なってもよいアシルオキシ基の場合)、カルボン酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物(Carboxylic=trifluoroacetic anhydride;Yがトリフルオロアセチルオキシ基の場合)、カルボン酸メタンスルホン酸混合酸無水物(Carboxylic=methanesulfonic anhydride;Yがメタンスルホニルオキシ基の場合)、カルボン酸トリフルオロメタンスルホン酸混合酸無水物(Carboxylic=trifluoromethanesulfonic anhydride;Yがトリフルオロメタンスルホニルオキシ基の場合)、カルボン酸ベンゼンスルホン酸混合酸無水物(Carboxylic=benzenesulfonic anhydride;Yがベンゼンスルホニルオキシ基の場合)、カルボン酸p-トルエンスルホン酸混合酸無水物(Carboxylic=p-toluenesulfonic anhydride;Yがp-トルエンスルホニルオキシ基の場合)等のカルボン酸混合酸無水物、アシルイミダゾール(Acyl=imidazole;Yがイミダゾールの場合)、カルボン酸p-ニトロフェニル(p-nitorophenyl=carboxylate;Yがp-ニトロフェニルオキシ基の場合)、カルボン酸ペンタフルオロフェニル(pentafluorophenyl=carboxylate;Yがペンタフルオロフェニルオキシ基の場合)、カルボン酸2,4,5-トリクロロフェニル(2,4,5-Trichlorophenyl=carboxylate;Yが2,4,5-トリクロロフェニルオキシ基の場合)、N-アシロキシ-5-ノルボルネン-endo-2,3-ジカルボキシイミド(N-Acyloxy-5-norbornene-endo-2,3-dicarboxyimide;Y
が5-ノルボルネン-endo-2,3-ジカルボキシイミド-N-オキシ基の場合)、アシロキシ=ベンゾトリアゾール(acyloxybenzotriazole;Yがベンゾトリアゾールオキシ基の場合)、1-アシロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(acyloxy-7-azabenzotriazole;Yが7-アザベンゾトリアゾールオキシ基の場合)、N-アシロキシスクシンイミド(N-acyloxysuccinimide;YがN-ヒドロキシスクシンイミド基の場合)等の活性化エステル等が挙げられる。
アシル化剤化合物(10)は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、アシル化剤化合物(10)は、市販されているものを用いることができる。
酸ハロゲン化物として、酸フルオリド(Yがフッ素原子の場合)、酸クロリド(Yが塩素原子の場合)、酸ブロミド(Yが臭素原子の場合)、酸ヨージド(Yがヨウ素原子の場合)を挙げられるが、原料の入手のし易さ、中間体の反応性や安定性等の観点から、塩素原子、臭素原子が特に好ましい。
カルボン酸無水物としては、導入すべきアシル基を有する対称な酸無水物(YがRC(=O)-O-の場合)が不要な副生成物を生じない点で好ましい。
導入するべきアシル基の原料となるカルボン酸が高価な場合、脱離基として機能したカルボン酸は回収できるが、より脱離性の大きい(酸性度の高い)別な酸との混合酸無水物、例えば、カルボン酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物、カルボン酸メタンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸トリフルオロメタンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸ベンゼンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸p-トルエンスルホン酸混合酸無水物等のカルボン酸混合酸無水物を使用することが好ましい。
アシル化剤化合物(10)の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、更に好ましくは1~5モルである。
アシル化剤化合物(10)とのエステル化反応には、塩基類を用いてもよい。
【0068】
塩基類としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の水酸化物類、炭酸カリウム等の炭酸塩類等の無機塩基類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、2-エチルピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等の有機塩基類、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。
塩基類は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、塩基類は、市販されているものを用いることができる。
塩基類の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対して、好ましくは1~500モルである。
アシル化剤化合物(10)とのエステル化反応には、溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等のハロアルカン類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2-ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類、その他、水等が挙げられる。
溶媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、溶媒は、市販されているものを用いることができる。また、塩基類が液体である場合は、それを溶媒として用いてもよいし、水酸化リチウム等の固体である場合においては、水に溶解して使用してもよい。
溶媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対し、好ましくは100~1,000,000mLである。
カルボン酸無水物、カルボン酸混合酸無水物、カルボン酸p-ニトロフェニル、カルボン酸イミダゾリド等のアシル化剤化合物(10)とのエステル化反応においては、酸触媒を用いてもよい。
酸触媒としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸類、三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド、酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類、酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。
カルボン酸無水物、カルボン酸混合酸無水物、カルボン酸p-ニトロフェニル等のアシル化剤化合物とのエステル化反応に用いる酸触媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対し、好ましくは0.0001~100モルである。
アシル化剤化合物(10)とのエステル化反応における反応温度は、用いるアシル化剤の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、好ましくは-50℃~溶媒の沸点温度または250℃、より好ましくは-20~150℃である。
アシル化剤化合物(10)とのエステル化反応における反応時間は、好ましくは5分間~240時間である。
【0069】
(III)カルボン酸塩化合物とのエステル化反応の方法は、具体的には、ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)と、カルボン酸塩化合物とのエステル化反応により、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物を得る工程を含む。
【化34】
(式中、X
1及びRは上記で定義された通りであり、Mは金属原子を表す。)
【0070】
カルボン酸塩化合物は、下記一般式(11)で表される。
【化35】
【0071】
カルボン酸塩化合物(11)におけるRの具体例としては、上述の一価の炭化水素基の具体例と同じである。
カルボン酸塩化合物(11)として、上述の(I)カルボン酸化合物とのエステル化反応において用いられるカルボン酸化合物(8)に対応する塩が挙げられる。
また、カルボン酸塩化合物(11)におけるMは、金属原子を表す。
カルボン酸塩化合物(11)としては、リチウム塩(MがLiである場合)、ナトリウム塩(MがNaである場合)、カリウム塩(MがKである場合)等のアルカリ金属塩化合物、マグネシウム塩(MがMg1/2である場合)、カルシウム塩(MがCa1/2である場合)、バリウム塩(MがBa1/2である場合)等のアルカリ土類金属塩化合物等が好ましい。
カルボン酸塩化合物(11)は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、カルボン酸塩化合物(11)は、市販されているものを用いることができる。
また、カルボン酸塩化合物(11)は、カルボン酸化合物(8)と、上述の塩基類とを反応させることにより、反応系中において調製してもよい。
カルボン酸塩化合物(11)の使用量は、ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、更に好ましくは1~5モルである。
カルボン酸塩化合物(11)とのエステル化反応に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等のハロアルカン類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2-ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類、その他、水等が挙げられる。
溶媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、溶媒は、市販されているものを用いることができる。
溶媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)および/またはハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン化合物(7)1モルに対し、好ましくは100~1,000,000mLである。
カルボン酸塩化合物(11)とのエステル化反応における反応温度は、用いるカルボン酸塩の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、好ましくは-50℃~から溶媒の沸点温度または250℃、より好ましくは-20~150℃である。
カルボン酸塩化合物(11)とのエステル化反応における反応時間は、好ましくは5分間~240時間である。
【0072】
(
IV)カルボン酸アルキル化合物とのエステル化反応の方法は、具体的には、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)と、カルボン酸アルキル化合物とのエステル化反応により、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)を得る工程を含む。
【化36】
(式中、Rは上記で定義された通りである。)
【0073】
カルボン酸アルキル化合物は、下記一般式(12)で表される。
【化37】
(式中、Rは上記で定義された通りであり、Zは炭素数1~3の一価の炭化水素基を表す。)
【0074】
カルボン酸アルキル化合物(12)におけるRの具体例としては、上述の一価の炭化水素基の具体例と同じである。
また、カルボン酸アルキル化合物(12)におけるZは、炭素数1~3の一価の炭化水素基を表す。
炭素数1~3の一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等の直鎖状のアルキル基、イソプロピル基等の分岐状のアルキル基等が挙げられる。
【0075】
カルボン酸アルキル化合物(12)とのエステル化反応では、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンと、望む一価炭化水素基Rを有するカルボン酸アルキル化合物を、触媒存在下において反応させ、生じるアルコールを除去することによりエステル交換を行うことが好ましい。
カルボン酸アルキル化合物(12)としては、カルボン酸の一級アルキル=エステルが好ましく、特にカルボン酸メチル、カルボン酸エチル、カルボン酸n-プロピルが価格、反応の進行のし易さ等の点から好ましい。
ここで、カルボン酸アルキル化合物(12)を構成するカルボン酸の具体例としては、カルボン酸と反応させるエステル化反応におけるカルボン酸化合物(8)の具体例と同じである。
カルボン酸アルキル化合物(12)は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、カルボン酸アルキル化合物(12)は、市販されているものを用いることができる。
カルボン酸アルキル化合物(12)の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、更に好ましくは1~5モルである。
触媒としては、酸触媒、ルイス酸(Lewis acid)触媒、塩基触媒、無機塩触媒等が挙げられる。
酸触媒としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸類、酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。
ルイス酸触媒としては、三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド、酸化チタン(IV)等が挙げられる。
塩基触媒としては、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド、4-ジメチルアミノピリジン等の塩基類、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。
無機塩触媒としては、青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム、アルミナ等の塩類が挙げられる。
触媒は、1種類又は必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、触媒は、市販されているものを用いることができる。
触媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対して、好ましくは0.0001~100モル、より好ましくは0.001~1モル、更に好ましくは0.01~0.05モルである。
【0076】
カルボン酸アルキル化合物(12)とのエステル化反応は、無溶媒(反応試薬であるカルボン酸アルキル化合物自身を溶媒として用いてもよい)で行うことができ、余計な濃縮や溶媒回収等の操作を必要としないので好ましい。
また、必要に応じて溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。
溶媒は、必要に応じて2種類以上を使用してもよい。また、溶媒は、市販されているものを用いることができる。
溶媒の使用量は、ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(3)1モルに対して、好ましくは10~1,000,000mLである。
カルボン酸アルキル化合物(12)とのエステル化反応の反応温度は、用いるカルボン酸アルキル化合物の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、通常、加熱下に行われ、エステル交換反応で生じる低沸点の炭素数1から3の低級アルコール、即ち、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の沸点付近で反応を行い、生じる低級アルコールを留去しながら行うのがよい。
また、減圧下に沸点より低い温度でアルコールの留去を行ってもよい。
カルボン酸アルキル化合物(12)とのエステル化反応における反応時間は、好ましくは5分間~240時間である。
【0077】
以上の様にして得られた2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=カルボキシレート化合物(6)は、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における常法の精製方法から適宜選択して精製できる。
【0078】
エステル化反応としては、2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル化合物(5)において説明したとおり、合成中間体として、ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7)が安定であるため、ハロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7)と、カルボン酸とのエステル化反応が工業的ARMBのフェロモン化合物および類縁体の製造方法として特に好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0080】
<ARMBのフェロモン化合物およびその類縁体の製造>
実施例において、原料、生成物、中間体の純度としてガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた値を用い%GCと表記する。生成物、中間体の異性体比はGC分析によって得られた面積の百分率の相対比を用いる。
GC条件: GC: Simadzu GC-14A,カラム(Column): 5%Ph-Me silicone 0.25mmφx25m,キャリアーガス(Carrier gas): He,検出器(Detector): FID、または、Hewlett-Packard 7890B,カラム(Column): 5%Ph-Me silicone 0.25mmφx30m,キャリアーガス(Carrier gas): He,検出器(Detector): FID。
収率は%GCに基づく収率の値である。反応に用いられる原料および反応で得られる生成物は100%純度であるとは限らないので、以下の式に従い計算した。
収率(%)={[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]÷[(反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]}×100
なお、化合物によってガスクロマトグラフィーの検出感度が異なるため、特に原料又は生成物が粗生成物の場合には、上記の収率が100%を超えることもあり得る。
化合物のスペクトル測定のサンプル、生物活性試験に用いたサンプルは、必要に応じて粗生成物を精製した。
【0081】
実施例1 (S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7:(S)-(7),X
1=Br)の合成を、下記の実施例1-1、そして実施例1-2において説明する。
【化38】
【0082】
実施例1-1 (S)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンの合成
【化39】
【0083】
窒素雰囲気下、(S)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(9)[100%ee,[α]D
24-149°(c=1.02,CHCl3)]のジエチル=エーテル溶液(46.2%GC)13.13gと、ジイソプロピルエチルアミン12.93gとジクロロメタン60mLの混合物に、氷水浴で冷却しかき混ぜながら、トリメチルシリル=トリフルオロメタンスルホニル14.0gとジクロロメタン20mLの混合物を10℃以下で滴下した。滴下終了後、反応混合物を氷冷で2時間、室温で14時間かき混ぜた。氷冷後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、n-ヘキサンで抽出した。有機層から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗(S)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのn-ヘキサン溶液14.78g(29.0%GC、収率48%)を得た。このものは溶液のまま次の反応に供した。
【0084】
(S)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテン
GC-MS(EI,70eV):45,73,91,105,119,141,168,181,195,209(ベースピーク),224(M+)。
【0085】
実施例1-2 (S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7:(S)-(7),X
1=Br)の合成
【化40】
【0086】
窒素雰囲気下、実施例1-1において得られた粗(S)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのn-ヘキサン溶液14.78gと、炭酸水素ナトリウム5.00gとテトラヒドロフラン150mLの混合物をドライアイス-アセトン浴を用いて、-60℃以下でかき混ぜながら、N-ブロモスクシンイミド10.0gを加えた。反応混合物を-60℃以下で140分間、その後、冷却浴を下げ30分間かけて徐々に反応温度を3℃まで上昇させて、更に氷冷下40分間かき混ぜた。飽和食塩水を加えて反応をクエンチし、n-ヘキサンで抽出した。通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作で得られた残渣をジクロロメタンに溶かしてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=9:1で溶出)で精製して目的物の(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7:(S)-(7),X1=Br)の二つのフラクション5.62g(78%GC)と0.65g(62.8%GC)を、二つのフラクション計で収率109%で得た。
【0087】
(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン
黄色油状物(yellow oil)。
IR(D-ATR):ν=3055,2962,2870,1715,1650,1457,1389,1375,1367,1264,1150,1023,832,717cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ=0.87(3H,s),1.14(3H,s),1.23(3H,s),2.13(1H,ddd,J=1.3,2.7,16.6Hz),3.15(1H,dt-like,J=2.3,16.4Hz),4.12(1H,d,J=13.9Hz),4.17(1H,d,J=13.8Hz),5.38(1H,ddd,J=1.4,2.5,7.3Hz),5.60(1H,dt-like,J=~2.4,5.7Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl3):δ=21.61,23.01,24.82,34.61,41.77,49.11,60.02,125.81,139.78,204.41ppm。
GC-MS(EI,70eV):43,67,79,91,109(ベースピーク),123,137,151,215,230(M+)。
【0088】
78%GCのフラクションには、6.5%GCの(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン[下記の化学式で示され、化合物(S)-(7)においてX=Clである場合]が含まれていた。この化合物はクロマトグラフィーに用いたジクロロメタン由来と思われる塩素源とシリカゲル上でハロゲン交換により生成したと考えられる。
【0089】
【化41】
(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン
GC-MS(EI,70eV):41,67,77,91,109(ベースピーク),122,137,151,171,186(M
+)。
【0090】
実施例2 (S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート[化合物(6)においてR=sec-ブチル基であり、立体化学が(S,S)である場合]の合成
【化42】
【0091】
窒素雰囲気下、炭酸カリウム8.00gとN,N-ジメチルホルムアミド40mLの混合物に、室温でかき混ぜながら、(S)-2-メチルブタン酸(98.6%ee、化合物(8)においてR=sec-ブチル基であり、立体化学が(S)である場合)2.0g、次いで実施例1で得られた(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(78.0%GC)と(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(6.5%GC)の混合物2.50gを加えた。反応混合物を室温で210分間かき混ぜた。GCによれば原料のブロモメチル=ケトン化合物とクロロメチル=ケトン化合物とも目的物へと変換された。次に、反応混合物を氷水にあけn-ヘキサンで抽出した。通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作で得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=100:0~97:3で溶出)で精製して、目的物の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートの二つのフラクション0.71g(93.1%GC)と1.20g(99.6%GC)を、二つのフラクション計収率82%で得た。
【0092】
(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
24-65.0°(c=1.01,CHCl3)
IR(D-ATR):ν=3056,2969,2937,2877,1744,1718,1461,1414,1261,1178,1151,1015,748,717cm-1。
1H-NMR(500MHz,C6D6,サンプル20.2mg/C6D60.58mL):δ=0.90(3H,s),0.94(3H,s),0.95(3H,t,J=7.3Hz),0.95(3H,s),1.19(3H,d,J=7.1Hz),1.40-1.50(1H,ddq-like m),1.70(1H,dq―like,J=16.2,1.3Hz),1.77-1.86(1H,m),2.42―2.49(1H,dq―like m),2.92(1H,dt-like,J=16.3,2.3Hz),4.53(1H,d,J=16.7Hz),4.59(1H,d,J=16.7Hz),5.10(1H,dq―like,J=5.8,1.3Hz),5.27―5.31(1H,m)ppm。
【0093】
上記1H-NMRスペクトルにおいて、ジアステレオマー、(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートに由来するカルボニル基に隣接するメチレン水素の微小なピークが観察された:δ=4.54(1H,d,J=~16Hz),4.58(1H,d,J=~16Hz)ppm。これらの面積比から(S,S)-異性体:(S,R)-異性体の比は約99:1であり、原料の(S)-2-メチルブタン酸の光学純度をNMRの分解能の範囲でよく反映していた。
1H-NMRにおいて、ケミカルシフトの濃度依存による変化、特にメチル基に由来するピークのシフトが観察された。上記スペクトル測定サンプル溶液(20.2mg/0.58mL)2μlを0.56mLのC6D6で希釈したサンプルのメチル基に由来するピークは、下記の通りである:δ=0.91(3H,s),0.94(3H,s),0.95(3H,s),0.97(3H,t,J=7.4Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=11.77,16.97,20.94,22.69,24.52,27.15,41.01,41.15,49.07,58.49,66.59,125.78,140.16,175.51,205.14ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,57,85,109(ベースピーク),123,137,194,209,223,237,252(M+)。
【0094】
実施例3 (S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレート[化合物(6)においてR=sec-ブチル基であり、立体化学が(S,R)である場合]の合成
【化43】
【0095】
実施例2の(S)-2-メチルブタン酸(98.6%ee)2.0gの代わりに(R)-2-メチルブタン酸(89.3%ee、化合物(8)においてR=sec-ブチル基であり、立体化学が(R)である場合)1.0gを用いて、実施例2と同様の方法で、実施例1で得られた(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(78%GC)と(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(6.5%GC)の混合物1.00gから、目的物の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートの二つのフラクション0.21g(87.6%GC)と0.62g(99.4%GC)を、二つのフラクション計収率94%で得た。
【0096】
(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
24-87.6°(c=1.01,CHCl3)
IR(D-ATR):ν=3055,2968,2937,2877,1743,1718,1461,1414,1368,1261,1235,1178,1151,1015,748,717cm-1。
1H-NMR(500MHz,C6D6,サンプル19.8mg/C6D60.58mL):δ=0.90(3H,s),0.94(3H,s),0.94(3H,t,J=7.3Hz),0.95(3H,s),1.20(3H,d,J=6.9Hz),1.40-1.50(1H,ddq-like m),1.70(1H,dq―like,J=16.2,1.3Hz),1.77-1.86(1H,m),2.42―2.48(1H,dq―like m),2.89-2.94(1H,dt-like,J=16.5,2.3Hz),4.54(1H,d,J=16.7Hz),4.58(1H,d,J=16.7Hz),5.11(1H,dq―like,J=5.8,1.3Hz),5.29(1H,dt-like,J=5.7,2.3Hz)ppm。
【0097】
上記1H-NMRスペクトルにおいて、ジアステレオマー、(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートに由来するカルボニル基に隣接するメチレン水素の微小なピークが観察された:δ=4.53(1H,d,J=16.7Hz),4.59(1H,d,J=~16.7Hz)ppm。これらの面積比から(S,R)-異性体:(S,S)-異性体は約95:5であり、原料の(R)-2-メチルブタン酸の光学純度をNMRの分解能の範囲でよく反映していた。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=11.78,17.02,20.95,22.69,24.52,27.12,41.01,41.18,49.07,58.49,66.58,125.78,140.16,175.50,205.14ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,57,85,109(ベースピーク),123,137,168,194,209,223,237,252(M+)。
【0098】
実施例4 (R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン[化合物(R)-7においてX=Brである場合]の合成を、下記の実施例4-1、そして実施例4-2において説明する。
【化44】
【0099】
実施例4-1 (R)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンの合成
【化45】
【0100】
実施例1―1の(S)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンのジエチル=エーテル溶液(46.2%GC)13.13gの代わりに(R)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン[100%ee,[α]D
23+149°(c=1.01,CHCl3)]のジエチル=エーテル溶液(37.2%GC)2.14gを用いて、実施例1-1と同様の方法で、粗(R)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのn-ヘキサン溶液2.29g(29.2%GC)を収率57%で得た。このものは溶液のまま次の反応に供した。
【0101】
上記で得られた(R)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのGC-MSスペクトルは、上記実施例1-1の(S)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのそれと同一であった。
【0102】
実施例4-2 (R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7:(R)-(7),X
1=Br)の合成
【化46】
【0103】
実施例1―2の粗(S)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのn-ヘキサン溶液の代わりに実施例4-1で得られた粗(R)-1,2,2-トリメチル-1-(1-トリメチルシリロキシビニル)-3-シクロペンテンのn-ヘキサン溶液2.29g(29.2%GC,100%ee)を用いて、実施例1-2と同様の方法で、目的物の(R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン1.86g(57.4%GC)(7:(R)-(7),X1=Br)を収率98%で得た。
【0104】
上記で得られた(R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7:(R)-(7),X1=Br)(淡黄色油状物(yellowish oil))の各種スペクトル(IR、1H-NMR、13C-NMR、GC-MS)のデータは、上記実施例1-2で得られた(S)ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(7:(S)-(7),X1=Br)のそれらと同一であった。
【0105】
実施例5 (R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート[化合物(6)においてR=sec-ブチル基であり、立体化学が(R,S)である場合]の合成
【化47】
【0106】
実施例2の(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(78%GC)と(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(6.5%GC)の混合物の代わりに実施例4-2で得られた(R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(57%GC,100%ee)1.86gと(S)-2-メチルブタン酸(98.6%ee)1.10gを用いて、実施例2と同様の方法で、目的物の(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート0.66g(95.8%GC)を収率54%で得た。
【0107】
(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
24+78.0°(c=1.02,CHCl3)
このものの各種スペクトル(IR、1H-NMR、13C-NMR、GC-MS)のデータは、上記実施例3で得られた(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートのそれらと同一であった。
【0108】
上記1H-NMRにおいて、ジアステレオマー、(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートに由来するカルボニル基に隣接するメチレン水素のピークは微小であり、原料の(S)-2-メチルブタン酸の光学純度をNMRの分解能の範囲でよく反映していた。
【0109】
実施例6 (R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレート[化合物(6)においてR=sec-ブチル基であり、立体化学が(R,R)である場合]の合成
【化48】
【0110】
実施例2の(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(78%GC)と(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(6.5%GC)の混合物の代わりに、実施例4と同様の方法で合成した(R)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(48%GC,100%ee)8.50gを用い、且つ実施例2の(S)-2-メチルブタン酸の代わりに(R)-2-メチルブタン酸(89.3%ee)5.00gを用いて、実施例2と同様の方法で、目的物の(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレートの二つのフラクション2.18g(97.9%GC)と1.05g(99.1%GC)を、二つのフラクション計収率74%で得た。
【0111】
(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
24+66.2°(c=1.00,CHCl3)
このものの各種スペクトル(IR、1H-NMR、13C-NMR、GC-MS)のデータは、上記実施例2で得られた(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートのそれらと同一であった。
【0112】
上記1H-NMRスペクトルにおいて、ジアステレオマー、(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートに由来するカルボニル基に隣接するメチレン水素の微小なピークが観察された。このピークの面積比から(R,R)-異性体:(R,S)-異性体の比は二つのフラクションで95.6~95.8:4.4~4.2であり、原料の(R)-2-メチルブタン酸光学純度をNMRの分解能の範囲でよく反映していた。
【0113】
実施例7 (S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=ベンゾエート[化合物(6)においてR=Phであり、立体化学が(S)である場合]の合成
【化49】
【0114】
実施例2の(S)-2-メチルブタン酸の代わりに安息香酸(Bonzoic acid、化合物(8)においてR=フェニル基である場合)150mgを用いて、実施例1の(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(78%GC)と(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(6.5%GC)の混合物100mgから、実施例2と同様の方法で、目的物の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=ベンゾエートの80mg(98.2%GC)を収率87%で得た。
【0115】
(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=ベンゾエート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
24-55.5°(c=1.00,CDCl3)
IR(D-ATR):ν=3059,2962,2935,2871,1731,1716,1602,1585,1452,1414,1367,1315,1277,1217,1177,1125,1093,1025,748,709cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,:δ=0.99(3H,s),1.19(3H,s),1.26(3H,s),2.11-2.16(1H,dq-like,J=16.4,1.4Hz),3.12-3.17(1H,dt-like,J=16.4,2.3Hz),5.05(1H,d,J=16.8Hz),5.11(1H,d,J=16.8Hz),5.42-5.44(1H,dq―like,J=5.8,1.4Hz),5.59(1H,dt-like,J=2.3,5.7Hz),7.42-7.46(2H,m),7.55-7.59(1H,m),8.09-8.11(2H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=20.97,22.88,24.40,40.93,49.18,58.65,67.27,125.69,128.35,129.49,129.86,133.19,140.19,166.00,206.13ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,51,67,77,91,105,109(ベースピーク),135,150,164,199,214,229,272(M+)。
【0116】
実施例8 (S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=バレレート[化合物(6)においてR=n-ブチル基である場合]の合成
【化50】
【0117】
実施例2の(S)-2-メチルブタン酸の代わりに吉草酸(Valeric acid、化合物(8)においてR=n-ブチル基である場合)150mgを用いて、実施例1の(S)-ブロモメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(78%GC)と(S)-クロロメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(6.5%GC)の混合物150mgから、実施例2と同様の方法で、目的物の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=バレレートの110mg(96.8%GC)を収率77%で得た。
【0118】
(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=バレレート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
23-74.9°(c=1.00,CDCl3)
IR(D-ATR):ν=3055,2960,2934,2873,1748,1718,1620,1459,1415,1369,1336,1238,1217,1169,1112,1018,991,748,717cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,:δ=0.92(3H,t,J=7.4Hz),0.99(3H,s),1.15(3H,s),1.20(3H,s),1.32-1.42(2H,m),1.62-1.69(2H,m),2.06-2.10(1H,dq-like,J=5.8,1.4Hz),2.43(2H,t,J=7.5Hz),3.06-3.11(1H,dt-like,J=16.2,2.3Hz),4.79(1H,d,J=16.9Hz),4.86(1H,d,J=16.8Hz),5.38-5.40(1H,dq―like,J=5.8,1.4Hz),5.58-5.60(1H,ddd-like,J=2.1,2.7,5.3Hz),7.42-7.46(2H,m),7.55-7.59(1H,m),8.09-8.11(2H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=13.69,20.90,22.19,22.86,24.32,26.88,33.52,40.92,49.09,58.58,66.66,125.66,140.13,173.18,206.43ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,67,85,109(ベースピーク),123,137,153,168,194,209,223,237,252(M+)。
【0119】
実施例9 (S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(化合物(S)-(3))の合成1
【化51】
【0120】
窒素雰囲気下、実施例2と同様の方法で合成し、そしてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレート100mg(~100%GC)とメタノール20mLの混合物に28重量%ナトリウム=メトキシド-メタノール溶液20mgを加え、反応混合物を加熱還流させながら5時間かき混ぜた。反応混合物を室温まで冷却した後、あらかじめメタノールで湿らせカラムに詰めた酸性イオン交換樹脂アンバーライト(Amberlite)FCP3500 2.5gを通して中和・ろ過し、更にメタノールで溶出させた。メタノール溶出液を減圧濃縮して目的の(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン30mgを収率45%[有姿(gross)]で得た。このものは、GC分析で一部熱分解が起こり純度は決定できなかったが、下記NMRスペクトル測定でほぼ純粋なものであった。
【0121】
(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
22+131.6°(c=0.92,CDCl3)
IR(D-ATR):ν=3468,3055,2963,2934,2872,1700,1621,1459,1403,1367,1337,1278,1217,1108,1081,1022,1012,748,717cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,:δ=0.84(3H,s),1.15(3H,s),1.18(3H,s),2.04-2.09(1H,dq-like,J=16.4,1.4Hz),2.40-3.40(1H,OH,br.),3.06-3.10(1H,dt-like,J=16.3,2.3Hz),4.27(1H,d,J=18.8Hz),4.37(1H,d,J=18.8Hz),5.36-5.39(1H,dq―like,J=5.7,1.3Hz),5.60(1H,ddd,J=2.1,2.7,5.8Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=21.00,22.69,24.56,40.66,49.40,50.83,66.75,125.62,139.70,213.60ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,55,67,81,91,109(ベースピーク),125,137,153,168(M+)。
GC-MS(CI,イソブタン):75,93,109,151,169[(M+1)+]。
【0122】
GCで一部分解してできる分解物をGC-MSで定性分析したところ、ヒドロキシメチル基がホルミル基に酸化されたケトアルデヒド化合物である2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソアセトアルデヒドやグリコリル基[glycolyl group;HO-CH2-C(=O)-]がカルボキシル基に変換されたカルボン酸である1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテン-1-カルボン酸が生じていることが観察された。
【0123】
2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソアセトアルデヒド
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,67,81,91,109(ベースピーク),123,137,151,165。
GC-MS(CI,イソブタン):71,95,121,139(ベースピーク),167[(M+1)+]。
【0124】
1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテン-1-カルボン酸
GC-MS(CI,イソブタン):109,155[ベースピーク,(M+1)+]。
【0125】
参考例1 (S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(化合物(S)-(3))の合成2
【化52】
【0126】
窒素雰囲気下、(S)-メチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン200mg(83%GC)、アセトニトリル5mL、水1mLとトリフルオロ酢酸300mgの混合物を室温でかき混ぜながら、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼン1.14gを加えた。反応混合物をかき混ぜながら加熱し3時間還流させた。冷却後、反応混合物をジエチル=エーテルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてクエンチした。通常の抽出、洗浄、乾燥、濃縮で得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、目的物の(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンを含む画分83mgを得た。このものは、GC分析で一部熱分解が起こりGC純度およびGC換算収率は決定できなかった。
【0127】
この画分の主成分の1H-NMR、13C-NMRスペクトルのデータは上記実施例7の(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンと同一であり、上記の目的物と1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテン-1-カルボン酸との80:20の混合物であり、NMR換算収率は37%であった。
【0128】
別途合成した(R)-1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテン-1-カルボン酸1
淡黄色油状物(yellowish oil)
IR(D-ATR):ν=3042,2967,2937,2875,1699,1618,1461,1411,1369,1337,1309,1279,1211,1076,951,745,730,715cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,:δ=1.01(3H,s),1.15(3H,s),1.26(3H,s),2.03-2.08(1H,dq-like m),3.12-3.18(1H,dt-like m),5.33-5.37(1H,m),5.53-5.56(1H,m),11.93(1H,COOH,br.)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=21.80,22.01,24.81,41.67,48.89,54.72,125.61,139.11,183.39ppm。
GC-MS(EI,70eV):41,55,67,77,93,109(ベースピーク),111,125,139,154(M+)。
【0129】
このものをサンプル瓶に入れ室温で長期間(83日間)保存したところ、目的物の純度は1H-NMRで純度約60%まで低下した。
【0130】
実施例10 (R)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン(化合物(R)-(3))の合成
【化53】
【0131】
実施例9の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(S)-2-メチルブチレートの代わりに実施例6と同様の方法で合成した(R)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=(R)-2-メチルブチレート150mgを用いて、実施例9と同様の方法で、目的物の(R)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン100mgを定量的収率[有姿(gross)]で得た。このものは、GC分析で一部熱分解が起こり純度は決定できなかったが、下記NMRスペクトル測定でほぼ純粋なものであった。
【0132】
(R)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
22-128.8°(c=1.04,CDCl3)
このものの各種スペクトル(IR、1H-NMR、13C-NMR、GC-MS)のデータは、上記実施例9で得られた(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトンのそれらと同一であった。
【0133】
実施例11 (S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=イソブチレート[化合物(6)においてR=イソプロピル基であり、立体化学が(S)である場合]の合成
【化54】
【0134】
窒素雰囲気下、実施例9と同様の方法で合成した(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン90mg、ピリジン2.20gと塩化メチレン2mLの混合物に無水イソ酪酸(Isobutyric anhydride、化合物(10)においてY=R-C(=O)-であり、R=イソプロピル基である場合)600mgを加えた。反応混合物を80℃まで加熱し、塩化メチレンを留去しながら1.5時間、更に室温で13時間かき混ぜた。反応混合物にn-ヘキサンを加え、希塩酸でクエンチした。通常の洗浄、乾燥、濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して目的の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=イソブチレート95mg(98.1%GC)を収率99%で得た。
【0135】
(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=イソブチレート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
26-77.8°(c=1.00,CDCl3)
IR(D-ATR):ν=3056,2974,2936,2875,1745,1717,1467,1459,1414,1337,1256,1191,1155,1100,1012,748,717cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,:δ=0.92(3H,s),1.14(3H,s),1.20(3H,s),1.22(3H,d,J=6.9Hz),1.23(3H,d,J=7.0Hz),2.06-2.10(1H,dq-like,J=16.4,1.4Hz),2.68(1H,sept,J=7.0Hz),3.07-3.11(1H,dt-like,J=16.5,2.3Hz),4.79(1H,d,J=16.8Hz),4.85(1H,d,J=16.8Hz),5.39-5.40(1H,dq―like,J=5.8,1.4Hz),5.59(1H,ddd,J=2.3,2.7,5.8Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=18.95,18.97,20.22.88,24.32,33.71,40.93,49.07,58.61,66.59,125.68,140.17,176.53,206.37ppm。
GC-MS(EI,70eV):43,55,71,91,109(ベースピーク),122,137,150,168,180,195,209,223,238(M+)。
【0136】
実施例12 (S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=アセテート[化合物(6)においてR=メチル基であり、立体化学が(S)である場合]の合成
【化55】
【0137】
窒素雰囲気下、実施例9と同様の方法で合成した(S)-ヒドロキシメチル=1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル=ケトン90mg、ピリジン0.20gと塩化メチレン2mLの混合物に塩化アセチル(Acetyl chloride、化合物(10)においてY=塩素原子、R=メチル基である場合)100mgを加えた。反応混合物を室温で5時間かき混ぜた後、n-ヘキサンを加え、希塩酸でクエンチした。通常の洗浄、乾燥、濃縮の後処理操作で得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して目的の(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=アセテート80mg(98.6%GC)を収率95%で得た。
【0138】
(S)-2-(1,2,2-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-オキソエチル=アセテート
淡黄色油状物(yellowish oil)
[α]D
24-96.6°(c=1.00,CDCl3)
IR(D-ATR):ν=3054,2964,2936,2872,1752,1717,1459,1415,1372,1276,1231,1185,1133,1077,1023,749,718cm-1。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,:δ=0.91(3H,s),1.14(3H,s),1.19(3H,s),2.06-2.10(1H,dq-like,J=16.4,1.4Hz),2.16(3H,s),3.06-3.10(1H,dt-like,J=16.4,2.3Hz),4.79(1H,d,J=16.8Hz),4.85(1H,d,J=16.8Hz),5.38-5.40(1H,dq―like,J=5.8,1.3Hz),5.59(1H,ddd,J=2.3,2.7,5.9Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,C6D6):δ=20.50,20.90,22.84,24.31,40.88,49.11,58.54,66.85,125.64,140.12,170.32,206.37ppm。
GC-MS(EI,70eV):43,55,67,81,93,109(ベースピーク),122,135,150,168,181,195,210(M+)。
【0139】
以下は、ARMBのフェロモン物質の同定における実験の詳細についてである。
<ARMBフェロモンの単離、同定>
<単離同定に用いた分析機器と条件>
GC: Agilent 6890N,インジェクション(Injection): SplitまたはSplitless 220℃,カラム(Column): DB-23 0.25mmφx30m 60℃(1分(min))+10℃/分(min)~220℃(8分(min))またはβ-DEXTM(商標) 120 0.25mmφx30m 100℃(5分(min))+2℃/分(min)~180℃,キャリアーガス(Carrier gas): He 1mL/分(min),検出器(Detector): FID 220℃。
GC-EAD: Hewlett-Packard HP5890 GC,増幅器: Nihon Koden AB-651J。発生初期の雄の頭部を切除してグランド電極に設置した。次いで、触角の数節の遠位端を切断し、切断面を生理食塩水1滴を用いてEAD装置のキャピラリーガラス電極につないだ。
GC-MS: JEOL SX-102A,インターフェース温度 210℃,イオン源温度 220℃。
分取(Preparative(GC: プログラマブルインジェクター ATAS GL International OPTIC 3,フラクションコレクションシステム Gerstel Gmbh & Co.KG ドライアイス冷却。
分取(Preparative)HPLC: Hewlett-Packard HP1050,Column: GL Science Intersil 4.6mmφx250mm 粒径5μm 室温,溶出: 5% ジエチル=エーテル ヘキサン溶液,1.0mL/分(min),検出器(Detector): UV210nm。
NMRスペクトル:JEOL JNM-A600 spectrometer。
【0140】
<揮発物質の収集>
ARMB、すなわちPseudococcus baliteusはカボチャ(Cucurbita moschata)果実上で16時間(h):8時間(h)明暗期;23℃;50%湿度で飼育したものを用いた。雄成虫は、カボチャ果実を10ppm メトプレン(methoprene)溶液に0.5分間浸すことにより取り除いた。雌成虫およそ500頭が付いたカボチャ果実を1Lのガラス製ジャーに入れ、吸着剤(Alltech HayeSepQ 60/80 mesh 1g)を通して、雌上部の活性炭フィルタを経たヘッドスペース空気を真空ポンプを用いて1L/分(min)で捕集した。3、4日毎に吸着された揮発物質を15mLヘキサンで抽出した。揮発物質の収集は6週間続けた。合わせた粗抽出物は、0.2gのシリカゲルで処理し、フェロモン単離のために分取(Preparative)HPLCと分取(Preparative)GCに供した。
【0141】
<水素添加反応>
フェロモン候補化合物1μgをエタノール0.1mLに溶かし、白金-黒5mgの存在下、水素ガス雰囲気下にかき混ぜた。10分後、反応混合物を遠心分離し、上澄み2μLをGC-MS分析に用いた。
【0142】
<エタノリシス>
アルゴンガス雰囲気下、フェロモン候補化合物10μgを0.01M水酸化カリウムのエタノール溶液0.1mLに溶かし、60℃で4時間処理した。反応混合物をメタノールで湿らせカラムに詰めた酸性イオン交換樹脂アンバーライト(Amberlite)FCP3500 2.5gを通して中和・ろ過し、更にメタノールで溶出させた。溶出液はそれ以上精製せずに分析に用いた。