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特許7129402一体形成体、並びに該一体形成体を有する複合材、電気接点用端子及びプリント配線板
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  • 特許-一体形成体、並びに該一体形成体を有する複合材、電気接点用端子及びプリント配線板 図1
  • 特許-一体形成体、並びに該一体形成体を有する複合材、電気接点用端子及びプリント配線板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】一体形成体、並びに該一体形成体を有する複合材、電気接点用端子及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20220825BHJP
   C22C 1/10 20060101ALI20220825BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C22C1/10 F
C25D7/00 Y
C25D15/02 J
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019509977
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012778
(87)【国際公開番号】W WO2018181480
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017066042
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】笠原 正靖
(72)【発明者】
【氏名】橘 昭頼
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-277217(JP,A)
【文献】特開平11-277217(JP,A)
【文献】特開2008-293883(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100147(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00,1/10,49/00
C25D 1/00,7/00,15/00,15/02
H01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と、該金属中に分散状態で配置された生体由来の繊維との一体形成体であって、
前記生体由来の繊維が、セルロース繊維、キチン繊維またはキトサン繊維であり、
前記一体形成体中に含まれる前記生体由来の繊維の質量割合が、0.02質量%以上、8質量%以下の範囲である前記一体形成体を備えることを特徴とする電気接点用端子。
【請求項2】
前記生体由来の繊維が、前記金属中に一方向に揃った状態で分散されている、請求項1に記載の電気接点用端子。
【請求項3】
前記生体由来の繊維が、前記金属中にランダム方向に配列した状態で分散されている、請求項1に記載の電気接点用端子。
【請求項4】
前記一体形成体の導電率として、前記金属の導電率に対する低下率が30%以下である、請求項1~3までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項5】
前記一体形成体の引張強度として、前記金属の引張強度に対する増加率が5%以上である、請求項1~4までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項6】
前記一体形成体の動摩擦係数として、前記一体形成体の表面に100gfの荷重で鋼球を摺動子として使用する往復摺動試験において、摺動回数20~50回の範囲内の条件下での動摩擦係数の最大値が、前記金属に対して0.8以下である、請求項1~5までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項7】
前記金属が、ニッケル、銅、パラジウム、銀、錫または金である、請求項1~6までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項8】
前記金属が、銅または錫である請求項1~7までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項9】
前記一体形成体中に含まれる前記生体由来の繊維の質量割合が、0.02質量%以上、7質量%以下の範囲である、請求項1~8までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項10】
前記一体形成体と、該一体形成体が形成された表面をもつ基材とを有する複合材を備える、請求項1~9までのいずれか1項に記載の電気接点用端子。
【請求項11】
前記基材が導電性基材である、請求項10に記載の電気接点用端子。
【請求項12】
前記基材が絶縁性基材である、請求項10に記載の電気接点用端子。
【請求項13】
金属と、該金属中に分散状態で配置された生体由来の繊維との一体形成体であって、
前記生体由来の繊維が、セルロース繊維、キチン繊維またはキトサン繊維であり、
前記一体形成体中に含まれる前記生体由来の繊維の質量割合が、0.02質量%以上、8質量%以下の範囲である前記一体形成体を備えることを特徴とするプリント配線板。
【請求項14】
前記生体由来の繊維が、前記金属中に一方向に揃った状態で分散されている、請求項13に記載のプリント配線板。
【請求項15】
前記生体由来の繊維が、前記金属中にランダム方向に配列した状態で分散されている、請求項13に記載のプリント配線板。
【請求項16】
前記一体形成体の導電率として、前記金属の導電率に対する低下率が30%以下である、請求項13~15までのいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項17】
前記一体形成体の引張強度として、前記金属の引張強度に対する増加率が5%以上である、請求項13~16までのいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項18】
前記一体形成体の動摩擦係数として、前記一体形成体の表面に100gfの荷重で鋼球を摺動子として使用する往復摺動試験において、摺動回数20~50回の範囲内の条件下での動摩擦係数の最大値が、前記金属に対して0.8以下である、請求項13~17までのいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項19】
前記金属が、ニッケル、銅、パラジウム、銀、錫または金である、請求項13~18までのいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項20】
前記金属が、銅または錫である請求項13~19までのいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項21】
前記一体形成体中に含まれる前記生体由来の繊維の質量割合が、0.02質量%以上、7質量%以下の範囲である、請求項13~20までのいずれか1項に記載のプリント配線板
【請求項22】
前記一体形成体と、該一体形成体が形成された表面をもつ基材とを有する複合材を備える、請求項13~21までのいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項23】
前記基材が導電性基材である、請求項22に記載のプリント配線板。
【請求項24】
前記基材が絶縁性基材である、請求項22に記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に金属自体が本来有する優れた導電性等の材料特性の低下をできる限り抑制しつつ、高強度化と軽量化と摺動特性の向上の実現を図ることができる新規の一体形成体、並びに該一体形成体を有する複合材、電気接点用端子及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属材料は、導電性等の材料特性が優れていることから、様々な用途で幅広く使用されている。また、金属材料の高強度化を図るための手段としては、マトリックス金属中に合金成分を添加して合金化を図ることが有用である。しかしながら、金属材料の合金化は、規則正しく配列された結晶格子を構成するマトリックス金属中の金属原子の位置に、原子半径が異なる合金原子が置換されて配置されることによって、原子配列が乱れて結晶格子が歪む結果、導電性等の材料特性が悪化しやすいという問題がある。
【0003】
また、金属材料の更なる高強度化を図るための他の手段としては、マトリックス金属中に、例えば炭素繊維、ガラス繊維などのナノ粒子を分散させた複合材として構成することが有用である。かかる複合材に用いるナノ粒子としては、材料の要求される性能に応じて適した材料が選択される。
【0004】
ところで、近年、炭素繊維、ガラス繊維に代わって、セルロース、キチンまたはキトサンなどの生体由来の繊維が着目されている。そのうち、例えばセルロース繊維は、優れた引張強度(3GPa程度)をもち、鉄系材料と比べて5分の1の重量(軽量)と、5倍の強度(高強度)を有する。セルロース繊維は、植物を原材料とするため、国土の7割が森林である日本にとって、非常に優位性が高く、また、植物から作られるので環境負荷が少ない上、鉄よりも軽くて強いので、幅広い分野で利用が見込まれている。さらに、セルロース繊維は、植物繊維を化学的、機械的に解きほぐした(解繊した)ナノセルロースの一形態であり、繊維1本の直径が4~100nmであり、長さが5μm以上である繊維状の物質である。このような形状を有する物質が、一般に繊維とよばれる。
【0005】
生体由来の繊維は、(1)軽量でありながら高強度を有する、(2)熱による変形が少ない、(3)比表面積が大きい、(4)ガスバリア性が高い、(5)水中で粘性を示す、(6)高い透明性を有する、(7)親水性である等の特性を有する。一方、炭素繊維は、疎水性であるため、複合材を作製するに当たり、表面改質処理を行わないと、複合材を構成する他の物質、溶媒等と均一に混合分散させるのが難しい場合が多い。加えて、炭素繊維は、高温に加熱されると発がん性のある有毒物質を排出するとの報告もされているため、その使用において環境上の問題もある。このため、生体由来の繊維に関しては、炭素繊維等に代わる、プラスチック、ゴムをはじめとする合成樹脂の補強材などとしての実用化に向けた研究が進められている。
【0006】
しかしながら、金属とともに複合材を構成し高強度化を図った例として、生体由来の繊維を用いた公知技術は現状では見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5566368号公報
【文献】再公表特許WO2015/170613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、金属ナノ粒子を担持したセルロースナノファイバを得る方法が開示されている。しかしながら、得られる金属粒子はセルロースの表層部に留まっており、金属材料として産業上利用することができるほどの十分な電気伝導性を得ることはできない。
【0009】
特許文献2には、セルロースと複合化した金属粒子のサイズを制御する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2には、電気伝導性と部材の加工に耐えうるだけの強度とを兼ね備えた一体形成体及び複合材を得る方法は示唆されていない。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、金属自体が本来有する優れた導電性等の材料特性の低下をできる限り抑制しつつ、高強度化と軽量化・摺動特性の向上の実現を図ることができる新規の一体形成体及びこれを有する複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]金属と、該金属中に分散状態で配置された生体由来の繊維との一体形成体であって、
前記一体形成体中に含まれる前記生体由来繊維の質量割合が、0.02質量%以上、10質量%以下の範囲である一体形成体。
[2]前記生体由来の繊維が、セルロース繊維である、上記[1]に記載の一体形成体。
[3]前記生体由来の繊維が、キチンまたはキトサン繊維である、上記[1]に記載の一体形成体。
[4]前記生体由来繊維が、前記金属中に一方向に揃った状態で分散されている、上記[1]~[3]のいずれかに記載の一体形成体。
[5]前記生体由来繊維が、前記金属中にランダム方向に配列した状態で分散されている、上記[1]~[3]のいずれかに記載の一体形成体。
[6]前記一体形成体の導電率として、前記金属の導電率に対する低下率が30%以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の一体形成体。
[7]前記一体形成体の引張強度として、前記金属の引張強度に対する増加率が5%以上である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の一体形成体。
[8]前記一体形成体の動摩擦係数として、前記一体形成体の表面に100gfの荷重で鋼球を摺動子として使用する往復摺動試験において、摺動回数20~50回の範囲内の条件下での動摩擦係数の最大値が、前記金属に対して0.8以下である、上記[1]~[7]までのいずれかに記載の一体形成体。
[9]前記金属が、ニッケル、銅、パラジウム、銀、錫または金である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の一体形成体。
[10]前記金属が、銅または錫である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の一体形成体。
[11]前記一体形成体中に含まれる前記生体由来繊維の質量割合が、0.02質量%以上7質量%以下の範囲である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の一体形成体。
[12]電気めっき法によって形成する、上記[1]~[11]のいずれかに記載の一体形成体の製造方法。
[13]上記[1]~[11]のいずれかに記載の一体形成体と、該一体形成体が形成された表面をもつ基材と、を有する複合材。
[14]基材が導電性基材である、上記[13]に記載の複合材。
[15]基材が絶縁性基材である、上記[13]に記載の複合材。
[16]上記[1]~[11]のいずれかに記載の一体形成体を備える電気接点用端子。
[17]上記[1]~[11]のいずれかに記載の一体形成体を備えるプリント配線板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属と、該金属中に分散配置された生体由来の繊維との一体形成体であって、該一体形成体中に含まれる生体由来繊維の質量割合を特定の範囲に制御することによって、特に、金属自体が本来有する優れた導電性等の材料特性の低下をできる限り抑制しつつ、高強度化と軽量化・摺動特性の向上の実現を図ることができる新規の一体形成体及びこれを有する複合材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に従う一体形成体の代表的な実施形態を示す概略断面斜視図であり、該一体形成体の表面または内部の一部を拡大した図とともに示す。
図2図2は、本発明に従う複合材の代表的な実施形態を示す概略断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に従う一体形成体及び複合材の実施形態について、以下で詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明に従う一体形成体の代表的な実施形態を示す。図1中、符号4は一体形成体、符号2は金属(マトリックス金属)、符号3は生体由来の繊維を表す。また、図2は、本発明に従う複合材の代表的な実施形態を示す。図2中、符号1は複合材、符号4は一体形成体、そして符号5は基材を表す。
【0016】
図1に示されるように、本発明の一体形成体4は、金属2と、金属2中に分散状態で配置された生体由来の繊維3とを有している。また、図2に示されるように、本発明の複合材1は、一体形成体4と、この一体形成体4が形成された表面をもつ基材5とを有している。
【0017】
基材5は、導電性基材であってもよく、絶縁性基材であってもよい。基材5が導電性基材である場合、例えば、銅及び銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、鉄、炭素鋼、ステンレス合金などの金属、またはその金属を主成分とする合金の他、炭素、導電性樹脂、導電性セラミックスを含めた導電性基材が挙げられる。一方、基材5が絶縁性基材である場合、表面に一体形成体4が形成可能であればよく、例えば、ガラス、セラミックス、エラストマのような絶縁性基材であってもよい。
【0018】
本発明の一体形成体4には、金属2とともに一体形成体4を形成するための繊維として、これまで使用の報告がされていない生体由来の繊維3が用いられている。一体形成体4が、このような構成を有することによって、特に、金属自体が本来有する優れた導電性等の材料特性の低下をできる限り抑制しつつ、高強度化と軽量化・摺動特性の向上の実現を図ることができる。
【0019】
金属2は、特に材質の限定はなく、また、形状についても特に限定はない。例えば、金属2の形状は、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔のような箔の他、薄板、厚板、線棒材、管材、角材等のような種々の形状が挙げられる。
【0020】
生体由来の繊維3としては、セルロース繊維、あるいは、キチンまたはキトサン繊維を使用することが好ましい。生体由来の繊維としては、環境負荷が少なくかつ材料コストが安価であることから、工業的には、セルロース繊維を用いることが好ましく、セルロースミクロフィブリルを用いることがより好ましい。セルロースミクロフィブリルは、セルロース分子鎖が数十本束となってできた微細な繊維であり、セルロース繊維は、このセルロースミクロフィブリルがさらに束となって構成されている。セルロース繊維の直径は、数十μmであるのに対し、セルロースミクロフィブリルの直径は、数nm~0.1μmである。セルロースミクロフィブリルまたはその誘導体は、セルロース繊維と比較して、分散性(親水性)、他物質との親和性、微粒子の捕捉・吸着などに優れる特性を有している。また、キチンまたはキトサン繊維は、吸着能に優れるだけでなく、誘導体の形成により親水化処理を容易に行うことができる。
【0021】
生体由来の繊維3が短繊維であることが好ましく、金属2中に短繊維が分散状態、特に均一な分散状態で配置されていることがより好ましい。これにより、一体形成体4は、安定した高い強度を得ることができる。また、短繊維のサイズとしては、直径が4~10nm、長さが5~10μmであることが好ましい。
【0022】
さらに、特定方向の強度(特に引張強度)を有効に高める場合には、生体由来の繊維3、特に短繊維は、金属2中に一方向に揃った状態で分散されていることが好ましい。一方、強度(特に引張強度)を異方性なく均一に高める場合には、生体由来の繊維3、特に短繊維は、金属2中にランダム方向に配列した状態で分散されていることが好ましい。
【0023】
一体形成体4は、例えば、電気めっき法によって形成することが好ましい。
【0024】
生体由来の繊維3、特にセルロース繊維は、軟化温度(220~230℃)が金属の融点よりも低い。そのため、従来の公知の加圧鋳造法または焼結法によって、金属が溶融する温度まで加熱して一体形成体を製造する場合には、セルロース繊維が熱分解することから、かかる方法では、一体形成体を製造することができない。
【0025】
一方、生体由来の繊維3は、親水性であるため、水溶液(特に酸性水溶液)からなる各種の金属2のめっき液に生体由来の繊維3を添加すると、生体由来の繊維3は、金属2のめっき液中において凝集することなく分散させることが可能である。次いで、生体由来の繊維3が分散されている金属2のめっき液中で電気めっき(分散めっき)を行なうことにより、生体由来の繊維3が、特に熱分解等の特性変化を生じることなく、マトリックス金属2中に分散状態で配置された一体形成体4を製造することができる。このため、本発明では、一体形成体4は電気めっき法によって形成されていることが好ましい。
【0026】
また、一体形成体4中に含まれる生体由来の繊維3の質量割合を、0.02質量%以上、10質量%以下の範囲に制御し、0.02質量%以上、7質量%以下の範囲であることが好ましい。前記質量割合が0.02質量%未満だと、生体由来の繊維3による金属2の補強効果が十分ではない。そのため、一体形成体4の強度が、生体由来の繊維を含有させていない金属材に比べて顕著な向上を示さない。また、一体形成体4を電気めっき法で形成する場合、一定量以上の不純物(ここでは生体由来の繊維)が金属2のめっき液に含まれると、めっき液の組成が崩れ、金属の析出ができなくなるおそれがある。特に、前記質量割合が10質量%超えである場合、電気めっき法での一体形成体4の製造が困難になる傾向にある。また、マトリックス金属2中に占める生体由来の繊維3の割合の増大に起因して、導電率の低下率が大きくなり過ぎてしまうことを抑制する観点から、生体由来の繊維3の質量割合は7質量%以下であることが好ましい。
【0027】
また、金属2は、電気めっきが可能な金属であれば特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、錫(Sn)、金(Au)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)またはこれらの合金等が挙げられ、特に、ニッケル、銅、パラジウム、錫、銀または金であることが好ましい。この中で、水溶液、特に酸性水溶液である金属2のめっき液を用いて、電気めっき法により導電性基材上に電析(堆積)可能な金属である、ニッケル、銅、パラジウムまたは錫がより好ましく、銅または錫であることが特に好ましい。さらに、これらの金属または合金の中で、特に高導電率を有し、しかも生体由来の繊維3による顕著な強度向上の効果を奏する銅を金属2として用いることが最適である。参考として、表1~表6に、ニッケル、銅、パラジウム、銀、錫または金のめっき浴組成及びめっき条件の例を示しておく。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
一体形成体4は、電気接点におけるジュール熱による材料の温度上昇を低減するため、一体形成体4の導電率として、金属2の導電率に対する低下率が30%以下であることが好ましく、5%以上25%以下であることがより好ましい。
【0035】
また、一体形成体4は、電気接点材料として必要な機械強度を満たすために、一体形成体4の引張強度として、金属2の引張強度に対する増加率が5%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0036】
一体形成体4を、電気めっき法によって形成する場合、複合材1は、一体形成体4と、一体形成体4が形成された表面をもつ基材5とで構成された表面処理材として機能する。このような表面処理材において、一体形成体4は、基材5上に積層された表面処理被膜であることが好ましく、例えば、基材5上に電気めっきにより形成しためっき被膜であることがより好ましい。基材5は、表面処理材の用途に応じて、導電性基材であってもよく、絶縁性基材であってもよい。導電性基材および絶縁性基材は、特に限定されるものではなく、例えば、上述した基材5で例示した導電性基材、絶縁性基材を使用することができる。
【0037】
複合材1を表面処理材として構成する場合、電気接点摺動時の摩耗による表面処理膜厚さの減少を低減するため、摺動特性をあらわす動摩擦係数が低いことが好ましい。このような一体形成体4の動摩擦係数として、例えば、一体形成体4の表面に100gfの荷重で鋼球を摺動子として使用する往復摺動試験において、摺動回数20~50回の範囲内の条件下での動摩擦係数の最大値が、金属2に対して0.8以下であることが好ましく、0.3~0.65の範囲であることがより好ましい。
【0038】
一体形成体4が、上述した銅箔等の箔として構成される場合には、例えば、回転する陰極ドラム(導電性基材)上に一体形成体4を形成した後に、陰極ドラムから一体形成体4を引き剥がすことによって箔を形成することができる。
【0039】
一体形成体4の厚さについては特に制限はないが、一体形成体4の厚さが厚すぎると生産コストが大きくなりすぎるため、厚さの上限値は500μm以下であることが好ましい。また、複合材1を表面処理材として構成する場合には、基材5上にわずかに表面処理されていれば摺動特性が向上する。そのため、耐久性の観点から、一体形成体4の厚さの下限値は、0.1μm以上が好ましい。
【0040】
また、一体形成体4が、板・箔もしくは膜としての形状を有する場合、一体形成体4の内の金属結晶粒の平均粒子径は、一体形成体4の厚み方向の平均粒子径に対して、一体形成体4の表面に平行な方向(長手方向)の平均粒子径の方が小さいことで、より高強度化の効果が得られる。一体形成体4の表面に平行な方向の金属結晶粒の平均粒子径は、0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0041】
なお、上述した実施形態では、一体形成体4を、主に電気めっき法により製造した場合について説明してきたが、生体由来の繊維3の材料特性が変化しない温度(例えば200℃以下)で一体形成体を製造できる方法であれば特に限定されるものではない。一体形成体4の他の製造方法として、例えば、無電解めっき法、ゾルゲル法、各種塗布法、低融点はんだなどの低融点金属の溶湯との混合などが挙げられる。
【0042】
<本発明の一体形成体の用途>
本発明の一体形成体は、用途に応じて適した金属を選択することによって、金属自体が本来有する導電性等の優れた材料特性の低下をできる限り抑制しつつ、高強度化と軽量化・摺動特性の向上の実現を図ることができるため、様々な技術分野で種々の製品に適用することができる。
【0043】
例えば、銅と生体由来の繊維とを箔として形成した一体形成体は、プリント配線板の形成に用いられる銅箔の代替品として使用できる。このような一体形成体を備えるプリント配線板は、導電性を低下させることなく、強度アップを図ることができる。さらに、一体形成体(箔)の厚さをより一層薄くできるため、携帯電話などの小型電子機器に使用されるプリント配線板の高密度化、薄型化、小型化、多層化に対応した薄箔化と高強度化に対応することが可能になる。
【0044】
また、銅板(導電性基板)上に、銅と生物由来の繊維とで表面処理被膜(一体形成体)を形成した表面処理銅板(複合材)は、コネクタの構成部品である電気接点用端子として使用できる。このような複合材を備える電気接点用端子は、導電性を低下させることなく、電気接点用端子全体としての強度アップを図ることができる。さらに、コネクタの小型化に対応した、電気接点用端子の小型化、薄肉化、高強度化を図ることもできる。
【0045】
また、錫と生物由来の繊維とで一体形成した一体形成体も、コネクタの構成部品である電気接点用端子として使用できる。このような一体形成体を備える電気接点用端子は、導電率を低下させることなく、摺動特性の向上を図ることができる。また、端子同士の接点の摺動による故障を抑制し、製品寿命の向上を図ることもできる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0047】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1~9)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表7に示す金属と、生体由来の繊維としてセルロース繊維とを表7に示す質量割合で一体形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。なお、セルロース繊維は、直径が約20nm、長さが数μmのスギノマシン社製のセルロース繊維を使用した。一体形成体は、表2に示す銅めっき浴に、セルロース繊維を、銅めっき浴に対して、0.01~30体積%程度添加し、攪拌して銅めっき浴中に分散させた後、セルロース繊維が分散した状態の銅めっき浴中で、表2に示すめっき条件で電気銅めっきを行い、一体形成体の厚さが5μmになるように作製した。一体形成体中に含まれるセルロース繊維の質量割合については、一体形成体の質量と、一体形成体を希硫酸にて溶解した後に残る残留物の質量から求めた。なお、一体形成体を希硫酸にて溶解した後に残留物は、フーリエ変換赤外分光分析によりセルロースであると同定した。
【0049】
(実施例10)
実施例1~9と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表7に示す金属と、生体由来の繊維としてキトサン繊維とを表7に示す質量割合で一体形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。なお、キトサン繊維は、直径が約20nm、長さが数μmのスギノマシン社製のキトサン繊維を使用した。
【0050】
(比較例1)
一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が0.002%になるように一体形成体を作製したこと以外は、実施例1と同様の方法で作製した。
【0051】
(比較例2)
一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が20%になるように一体形成体の作製を試みたが、一体形成体を形成することができなかった。
【0052】
(比較例3)
一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が11%になるように一体形成体を作製したこと以外は、実施例1と同様の方法で作製した。
【0053】
(従来例1)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表2に示す銅めっき浴およびめっき条件で電気銅めっきを行い、厚さ5μmの銅めっき被膜を形成し、銅めっき銅板を作製した。
【0054】
(実施例11)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表7に示す金属と、セルロース繊維とを表7に示す質量割合で一体形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。なお、セルロース繊維は、直径が約20nm、長さが数μmのスギノマシン社製のセルロース繊維を使用した。一体形成体は、表5に示す錫めっき浴に、セルロース繊維を、錫めっき浴に対して、0.01~30体積%程度添加し、攪拌して錫めっき浴中に分散させた後、セルロース繊維が分散した状態の錫めっき浴中で、表5に示すめっき条件で電気錫めっきを行い、一体形成体の厚さが5μmになるように作製した。
【0055】
(従来例2)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表5に示す錫めっき浴およびめっき条件で電気錫めっきを行い、厚さ5μmの錫めっき被膜を形成し、錫めっき銅板を作製した。
【0056】
(実施例12)
表1に示すニッケルめっき条件、および表7に示す質量割合以外は、実施例11と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、金属と、セルロース繊維とを一体形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。
【0057】
(従来例3)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表1に示すニッケルめっき浴およびめっき条件で電気ニッケルめっきを行い、厚さ5μmのニッケルめっき被膜を形成し、ニッケルめっき銅板を作製した。
【0058】
(実施例13)
表3に示すパラジウムめっき条件、および表7に示す質量割合以外は、実施例11と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、金属と、セルロース繊維とを一体形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。
【0059】
(従来例4)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表3に示すパラジウムめっき浴およびめっき条件で電気パラジウムめっきを行い、厚さ5μmのパラジウムめっき被膜を形成し、パラジウムめっき銅板を作製した。
【0060】
(実施例14)
表4に示す銀めっき条件、および表7に示す質量割合以外は、実施例11と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、金属と、セルロース繊維とを一体形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。
【0061】
(従来例5)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表4に示す銀めっき浴およびめっき条件で電気銀めっきを行い、厚さ5μmの銀めっき被膜を形成し、銀めっき銅板を作製した。
【0062】
(実施例15)
表6に示す金めっき条件、および表7に示す質量割合以外は、実施例11と同様の方法で、一体形成体(表面処理被膜)を形成し、一体形成体(表面処理被膜)の形成が可能か否かの確認を行った。
【0063】
(従来例6)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表6に示す金めっき浴およびめっき条件で電気金めっきを行い、厚さ5μmの金めっき被膜を形成し、金めっき銅板を作製した。
【0064】
作製した各表面処理被膜(めっき被膜)の特性として、引張強度、導電率、そして動摩擦係数を以下の方法で測定した。
【0065】
[評価方法]
1.引張強度の測定
カソード電極(チタン板)上に、厚さ10μmの表面処理被膜(めっき被膜)を形成した後に、チタン板から表面処理被膜を剥離し、表面処理被膜(めっき被膜)からなる箔(供試材)を作製した。作製した各3枚ずつの箔(供試材)について、JIS Z2241:2011に準じて引張試験を行い、それらの平均値を求めた。
【0066】
2.導電率の測定
引張強度の測定と同様に、カソード電極(チタン板)上に、厚さ10μmの表面処理被膜(めっき被膜)を形成した後に、チタン板から表面処理被膜を剥離し、表面処理被膜(めっき被膜)からなる箔(供試材)を作製した。作製した各3枚ずつの箔(供試材)について、20℃(±0.5℃)に保持した恒温漕中で、四端子法により、比抵抗値を測定した。測定した比抵抗値から導電率を算出し、それらの平均値を求めた。なお、端子間距離は200mmとした。
【0067】
3.動摩擦係数の測定
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表7に示す一体形成体(表面処理被膜)が形成された複合材(表面処理材)を作製した。作製した各3枚ずつの複合材(供試材)において、摺動試験装置(HEIDON Type:14FW、商品名、新東科学社製)を用いて、動摩擦係数測定を行った。測定条件は以下の通りである。R=3.0mm 鋼球プローブ、摺動距離 10mm、摺動速度 100mm/分、摺動回数 往復50回、荷重100gf。動摩擦係数は、摺動回数20~50回の範囲における動摩擦係数の最大値を生体由来の繊維を含有しない元の金属膜との比(動摩擦係数比)で評価した。
【0068】
【表7】
【0069】
表7の結果から、金属が銅めっきの場合(実施例1~10、従来例1および比較例1~3)で比較すると、一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が0.02質量%未満である比較例1は、引張強度が従来例1と比べて優位性が認められなかった。特に、一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が0.02質量%以上、7質量%以下の範囲である実施例1~8は、いずれも導電率の低下率に比べて引張強度の増加率が顕著に大きかった。その中でも、実施例2~8のセルロース繊維の質量割合が0.2質量%以上、7質量%以下の範囲では、特に引張強度の増加率が30%以上で、導電率の低下率が25%以下、かつ動摩擦係数比が0.65より小さく、特に優れていた。
【0070】
また、一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が8質量%である実施例9は、引張強度の増加率は大きいものの、一体形成体(表面処理被膜)中に含まれるセルロース繊維の質量割合が0.02質量%以上7質量%以下の場合に比べて導電率の低下率が大きかった。
【0071】
一方、比較例2では、セルロース繊維の質量割合が多すぎたため、複合材を形成することができなかった。また、比較例3では、引張強度の増加率に比べて導電率の低下率が顕著に大きかった。
【0072】
生体由来の繊維がキトサン繊維である実施例10は、導電率の低下率に比べて引張強度の増加率が顕著に大きかった。
【0073】
金属が錫めっきである実施例11と従来例2とを比較すると、実施例11は、従来例2に比べて、導電率の低下率が小さく、引張強度の増加率が顕著に大きかった。
【0074】
金属がニッケルめっきである実施例12と従来例3とを比較すると、実施例12は、従来例3に比べて、導電率の低下率が小さく、引張強度の増加率が顕著に大きかった。
【0075】
金属がパラジウムめっきである実施例13と従来例4とを比較すると、実施例13は、従来例4に比べて、導電率の低下率が小さく、引張強度の増加率が顕著に大きかった。
【0076】
金属が銀めっきである実施例14と従来例5とを比較すると、実施例14は、従来例5に比べて、導電率の低下率が小さく、引張強度の増加率が顕著に大きかった。
【0077】
金属が金めっきである実施例15と従来例6とを比較すると、実施例15は、従来例6に比べて、導電率の低下率が小さく、引張強度の増加率が顕著に大きかった。
【0078】
(実施例16~19)
表8に示す質量割合以外は、実施例1~9と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、金属と、セルロース繊維とを一体形成し、膜厚の異なる表面処理被膜(一体形成体)を形成した。
【0079】
(従来例7)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表2に示す銅めっき浴およびめっき条件で電気銅めっきを行い、厚さ20μmの銅めっき被膜を形成し、銅めっき銅板を作製した。
【0080】
実施例16~19、従来例7は、実施例1~15と同様の方法で引張強度、導電率、動摩擦係数を測定した。
【0081】
【表8】
【0082】
表8の結果から、一体形成体の膜厚が0.1μm以上500μm以下の範囲でも、実施例1~9と同様に、引張強度の増加率、導電率の低下率、動摩擦係数比が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、特に金属自体が本来有する導電性等の優れた材料特性の低下をできる限り抑制しつつ、高強度化と軽量化・摺動特性の向上の実現を図ることができる新規の一体形成体及びこれを有する複合材を提供することが可能になった。
【符号の説明】
【0084】
1 複合材
2 金属(マトリックス金属)
3 生体由来の繊維
4 一体形成体
5 基材
図1
図2