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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】融着機
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/255 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
G02B6/255
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020053381
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152611
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田邉 明夫
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-208740(JP,A)
【文献】特開平03-136719(JP,A)
【文献】特開昭60-180722(JP,A)
【文献】特表2013-517526(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0103013(KR,A)
【文献】特開平09-172788(JP,A)
【文献】米国特許第06336750(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
6/255
6/36-6/40
B23H 1/00-11/00
B23K 9/00
9/06- 9/133
10/00
H02M 9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ同士を接続する融着機であって、
光ファイバの先端部を突き合せて融着する融着部に配置される一対の電極と、
それぞれの前記電極に接続され、前記電極に電圧を印加する一対の電圧回路と、
それぞれの前記電圧回路の電圧を制御する制御部と、
を具備し、
前記融着機内の他の部品は接地され、
前記制御部は、融着時において、前記電極間で放電が開始するまでの間、それぞれの前記電極の電位が逆となるように、それぞれの前記電極に正負の電圧をそれぞれ印加することが可能であることを特徴とする融着機。
【請求項2】
前記制御部は、前記電極間で放電が開始された後、それぞれの前記電極の電位が逆位相となるように、それぞれの前記電極に高周波電圧を印加することが可能であることを特徴とする請求項1記載の融着機。
【請求項3】
前記制御部は、前記電極間で放電が開始された後、一方の前記電極を接地させ、他方の前記電極に高周波電圧を印加することが可能であることを特徴とする請求項1記載の融着機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ同士を融着するための融着機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ同士の接続には、融着機が用いられる。融着機は、一対のホルダに保持された光ファイバ同士を突き合わせて、電極間に配置し、アークによって光ファイバ同士の先端を融着して、光ファイバ同士を接続するものである。
【0003】
このような融着機には、アークを発生させて安定してアークを維持するために、高電圧電源装置が用いられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-208740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4(a)は、光ファイバ115の融着を行う際の設置状態を示す断面図である。図示したように、光ファイバ115は、一対の電極109の間に配置される。なお、電極109は、電極保持部材111やこれを固定するためのねじ113等によって、融着機へ固定される。この状態で、一対の電極109の間にアークを発生させることで、光ファイバ115の先端部を溶融して接合することができる。
【0006】
ここで、一対の電極109は、間隔(図中G)を開けて配置される。したがって、融着を行う際には、この間隔(空気層)の絶縁を破壊して放電させ、アークを発生させる必要がある。
【0007】
図5は、この際の電極109の電圧変動を示す概念図であり、横軸は時間tを示し、縦軸は電位Vを示す。また、図中D(実線)は、一方の電極109の電位を示し、図中E(破線)は、他方の電極109の電位を示す。
【0008】
特許文献1にも示されるように、最初に電極109間に放電を開始(アークを発生)させるためには、絶縁破壊させるだけの高電圧が必要である。このため、融着初期(図中範囲X)では、一方の電極109を所定の電位(図中F)まで上昇させることで、絶縁破壊(アークを発生)させることができる。
【0009】
一方、一度絶縁破壊が生じると、電極間にプラズマが発生する。このため、絶縁破壊以降(図中範囲Y)では、より低い電圧でも安定してアークを維持することができる。通常、この際には、電極間には高周波交流電圧が印加される。
【0010】
なお、一般的な電源回路では、回路の小型化等のために、他方の電極109は接地されており、電位0となる。
【0011】
しかし、近年、複数の光ファイバが併設されて一体化された光ファイバテープ心線の使用が増えている。このような光ファイバテープ心線同士を接続するためには、個々の光ファイバごとに融着するのではなく、一括して融着することが望まれる。
【0012】
図4(b)は、複数の光ファイバ115を融着する状態を示す概念図である。この場合には、一対の電極109間に、複数の光ファイバ115が配置れる。このように、複数の光ファイバが併設された光ファイバテープ心線同士を接続する場合には、電極109間の間隔(図中H)を、単心の光ファイバを接続する場合と比較して広くする必要がある。
【0013】
しかし、絶縁破壊に必要な電圧は、電極109の間隔に比例するため、電極109間を広くすると、最初に絶縁破壊(アークを発生)させるために必要な電位(図5のF)が高くなる。電極109の電位が高くなると、これまでは絶縁が保たれていた部位で絶縁破壊が生じる恐れがある。例えば、電極109を固定するための電極保持部材111やねじ113の電位も高くなるため、融着機内の他の部品(接地部分)の間で絶縁破壊が生じる恐れがある。
【0014】
これを防ぐためには、個々の部品ごとの間隔をあけるなど、意図しない部位での絶縁破壊が生じないようにする必要がある。しかし、このように、各部を設計すると、装置自体が大型化する。このため、よりコンパクトで安定して融着を行うことが可能な融着機が望まれる。
【0015】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、電極間距離を広くしても安定して融着を行うことが可能な融着機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的を達するために本発明は、光ファイバ同士を接続する融着機であって、光ファイバの先端部を突き合せて融着する融着部に配置される一対の電極と、それぞれの前記電極に接続され、前記電極に電圧を印加する一対の電圧回路と、それぞれの前記電圧回路の電圧を制御する制御部と、を具備し、前記融着機内の他の部品は接地され、前記制御部は、融着時において、前記電極間で放電が開始するまでの間、それぞれの前記電極の電位が逆となるように、それぞれの前記電極に正負の電圧をそれぞれ印加することが可能であることを特徴とする融着機である。
【0017】
前記制御部は、前記電極間で放電が開始された後、それぞれの前記電極の電位が逆位相となるように、それぞれの前記電極に高周波電圧を印加してもよい。
【0018】
前記制御部は、前記電極間で放電が開始された後、一方の前記電極を接地させ、他方の前記電極に高周波電圧を印加してもよい。
【0019】
本発明によれば、絶縁破壊をさせるための昇圧回路を二つ使用する必要はあるが、それぞれを逆の電位で昇圧することで、電極間に、個々の電極の正負の電位の和の電圧を印加することができる。このため、電極間距離を広くしても、電極間で絶縁破壊を起こすことができる。
【0020】
また、電極間の電位差を大きくしても、個々の電極の正負の電位の絶対値は大きくする必要がない。このため、他の部品(接地部分)との間で絶縁破壊が生じることを抑制することができる。
【0021】
また、放電開始後に、それぞれの電極の位相を逆にして高周波交流電圧とすることで、安定してアークを維持することができる。
【0022】
また、放電開始後に、一方の電極を接地させることで、電圧制御が容易である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極間距離を広くしても安定して融着を行うことが可能な融着機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】融着機100を示す斜視図。
図2】電圧制御システム10を示す図
図3】(a)、(b)は、各電極の電位変化を示す概念図。
図4】(a)、(b)は、電極109間に光ファイバ115を配置した状態を示す図。
図5】従来の各電極の電位変化を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、融着機100を示す図である。融着機100は、光ファイバの融着を行う融着部101と、光ファイバの接続部の加熱を行う加熱部103と、融着部101及び加熱部103等の操作を行うことが可能な操作部105と等を有する。
【0027】
融着部101には、開閉可能な風防が配置され、内部には、一対のホルダ載置部107が対向して配置される。ホルダ載置部107は、光ファイバが保持されたホルダが載置される部位である。また、ホルダ載置部107の間には、ベース部が配置され、ベース部には、一対の電極109が配置される。すなわち、光ファイバ同士を接続する融着機100は、光ファイバの先端部を突き合せて融着する融着部101に、一対の電極109が配置される。
【0028】
融着機100を用いて光ファイバを接続する際には、まず、融着部101の風防を開き、予め光ファイバが保持された一対のホルダを、内部のホルダ載置部107にセットする。これにより、図4に示すように、ホルダの先端から突出する光ファイバの先端が、一対の電極109間において互いに突き合わせられた状態となる。この状態で、電極109間に所定の電圧を印加することで、放電が開始される。
【0029】
図2は、融着機100における、一対の電極1a、1bの電圧を制御するための電圧制御システム10の構成を示す図である。電圧制御システム10は、主に、制御部5、電圧回路3a、3b等から構成される。
【0030】
電極1aは、電圧回路3aと接続され、電極1bは、電圧回路3bと接続される。すなわち、一対の電極1a、1bは、それぞれ、一対の電圧回路3a、3bに接続される。それぞれの電圧回路3a、3bによって、電極1a、1bに電圧を印加することができる。
【0031】
電圧回路3aは、放電開始電圧回路7aと高周波電圧回路9aを有する。また、電圧回路3bは、放電開始電圧回路7bと高周波電圧回路9bを有する。放電開始電圧回路7a、7b(昇圧用のトランス等を含む)は、前述したように、最初に放電を開始するまでの間の電圧を発生させる回路である。また、高周波電圧回路9a、9bは、放電開始後に、アークを維持する際の電圧を発生させる回路である。
【0032】
それぞれの電圧回路3a、3bは、CPU等の制御部5と接続される。なお、制御部5は、それぞれの電圧回路3a、3bごとに配置してもよい。制御部5は、電圧回路3a、3bで発生させる電圧を制御することができる。すなわち、制御部5は、電圧回路3a、3bの動作を制御し、放電開始電圧回路7a、7bと高周波電圧回路9a、9bと切り替えて電極間に所望の電圧を印加することができる。
【0033】
次に、制御部5による各電極1a、1bの電圧制御の詳細について説明する。図3(a)は、各電極1a、1bの電位変化を示す図であり、横軸が時間t、縦軸が電位Vである。前述したように、最初に放電が開始される前の範囲Xと、放電が開始された後に放電を安定して維持する範囲Yとで電圧の制御が異なる。
【0034】
本実施形態では、制御部5は、融着時において、電極1a、1b間で放電が開始するまでの間、それぞれの電極1a、1bの電位が逆となるように、それぞれの電極1a、1bに正負の電圧をそれぞれ印加することが可能である。すなわち、制御部5は、電極1a、1bの放電開始前の電圧制御をそれぞれ独立して行うことができる。より詳細には、制御部5は、電圧回路3aの放電開始電圧回路7aと、電圧回路3bの放電開始電圧回路7bとを用いて、一方の電極1aの電位(図中A)と、他方の電極1bの電位(図中B)とが、放電開始前の領域において、互いに逆の電位となるように制御する。
【0035】
図示した例では、電極1aに-C(V)の電圧が印加され、電極1bに+C(V)の電圧が印加される。したがって、電極1a、1b間に2C(V)の電圧が印加される。この実施例では、放電電圧2C(V)によって、電極1a、1b間に放電が開始される。なお、放電開始前の電極1a、1bの電位は、その絶対値が略同一であり正負のみが逆となるように制御されることが望ましい。
【0036】
放電が開始された後は、放電電圧よりも十分に小さな電圧により、放電状態を維持することができる。このため、電極1a、1b間で放電が開始された後、制御部5は、放電開始電圧回路7a、7bから、高周波電圧回路9a、9bに切り替えてる。すなわち、制御部5は、電圧回路3aの高周波電圧回路9aと、電圧回路3bの高周波電圧回路9bとを用いて、それぞれの電極1a、1bの電位が逆位相となるように、それぞれの電極1a、1bに高周波交流電圧を印加することが可能である。
【0037】
なお、図3(b)に示すように、電極1a、1b間で放電が開始された後、制御部5は、一方の電極1bを接地させ、他方の電極1aの電位のみを高周波制御して、電極間に高周波電圧を印加してもよい。すなわち、制御部5は、電圧回路3aの高周波電圧回路9aのみを用いて、電圧制御を行ってもよい。
【0038】
なお、制御部5による放電開始電圧回路7a、7bから高周波電圧回路9a、9bへの切り替えは、絶縁破壊が生じて電流が流れたことを検知した後に切り替えてもよく、放電開始からの時間で切り替えてもよく、放電をカメラ等で確認してから切り替えてもよい。すなわち、制御部5による電極1a、1bの電位の制御は、放電開始前において正負の電位にそれぞれ制御するものを除き、従来の制御と同様の制御でよい。
【0039】
以上、本実施の形態によれば、電極1a、1bの放電開始時の電位をそれぞれ逆になるように制御するため、それぞれの電極1a、1bの電位を抑えつつ、電極1a、1b間の放電開始電位を高くすることができる。
【0040】
なお、一般的な融着機では、放電開始の際に使用される回路(昇圧トランスなど)は、一つであるため、二つの独立した昇圧用の放電開始電圧回路7a、7bを使用すると、その分の装置の大型化や構造の複雑化の要因となる。また、特に高電圧回路が二つとなるため、過熱防止の対策が必要となる場合や、例えばバッテリーで駆動する際の使用回数の減少などの問題が生じる恐れがある。
【0041】
しかし、個々の電極の電位を低くすることができるため、意図しない部位での絶縁破壊等が生じることを抑制することができる。例えば、前述したように、電極電位を上げていくと、電極間での絶縁破壊よりも前に、電極を固定するための電極保持部材やねじなどと他の近接する部位(接地部)との間で絶縁破壊が生じてしまう恐れがある。このような意図しない絶縁破壊を防ぐためには、各部の間隔を広げるなどの設計が必要となる。
【0042】
しかし、本実施形態によれば、各電極の電位自体は従来と同等にすることができるので、各部の部品同士の間隔や、回路間の間隔等を大きくするような絶縁対策が不要である。このため、結果として、コンパクトな融着機を得ることができる。
【0043】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、実用新案登録請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0044】
1a、1b………電極
3a、3b………電圧回路
5………制御部
7a、7b………放電開始電圧回路
9a、9b………高周波電圧回路
10………電圧制御システム
100………融着機
101………融着部
103………加熱部
105………操作部
107………ホルダ載置部
109………電極
111………電極保持部材
113………ねじ
115………光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5