IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許7129550空間充填材および空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法
<>
  • 特許-空間充填材および空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法 図1A
  • 特許-空間充填材および空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法 図1B
  • 特許-空間充填材および空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法 図2A
  • 特許-空間充填材および空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法 図2B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】空間充填材および空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20220825BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220825BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20220825BHJP
   D04H 1/488 20120101ALI20220825BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20220825BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
B29B11/16
C09K3/10 Z
B32B5/28
D04H1/488
B29K101:12
B29K105:12
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021505571
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002869
(87)【国際公開番号】W WO2020183945
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019046240
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 郷史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 了慶
(72)【発明者】
【氏名】和志武 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】水光 俊介
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229959(JP,A)
【文献】特開平09-000946(JP,A)
【文献】特開平08-174687(JP,A)
【文献】特開2003-262116(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109183269(CN,A)
【文献】特開2002-127136(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092888(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 44/00-44/60;67/20
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00- 9/42
C09K 3/10- 3/12
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成され、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着された空間充填材であり、前記樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100℃以上であり、所定の空間内で加熱時の膨張応力で少なくとも厚み方向に充填する空間充填材。
【請求項2】
請求項1に記載の空間充填材であって、前記強化繊維および前記樹脂の合計体積のうちの前記樹脂の体積比率が15~95vol%である、空間充填材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が屈曲しており、前記樹脂の軟化により強化繊維の屈曲が解放されることで膨張する、空間充填材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の空間充填材であって、厚み方向において定荷重下での膨張率が105%以上である、空間充填材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の空間充填材であって、厚み方向に対して直交する方向への膨張による寸法変化率が-10~10%である、空間充填材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の空間充填材であって、前記熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、およびポリテトラフルオロエチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂である、空間充填材。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の空間充填材であって、前記強化繊維の繊維長が3~100mmである、空間充填材。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が絶縁性繊維である、空間充填材。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の空間充填材であって、空隙率が3~75%である、空間充填材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の空間充填材であって、所定の空間内で被固定材を固定させるために用いられる、空間充填材。
【請求項11】
請求項10に記載の空間充填材と、その少なくとも一部に接して一体化された被固定材とを備える、空間充填構造体。
【請求項12】
請求項11に記載の空間充填構造体であって、前記被固定材が前記空間充填材で挟まれている、空間充填構造体。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の空間充填材を使用する方法であって、前記空間充填材を、前記樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間内で前記空間充填材を膨張させる工程を含む、使用方法。
【請求項14】
請求項13に記載の使用方法であって、所定の空間に前記空間充填材を挿入する工程を含む、使用方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の空間充填材または請求項11もしくは12に記載の空間充填構造体を使用する方法であって、前記空間充填材または前記空間充填構造体を、前記樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間において前記空間充填材を膨張させて、被固定材を固定する工程を含む、使用方法。
【請求項16】
請求項15に記載の使用方法であって、所定の空間に、前記空間充填材および/または前記被固定材、または前記空間充填構造体を挿入する工程を含む、使用方法。
【請求項17】
請求項1316のいずれか一項に記載の使用方法であって、膨張後の空間充填材の空隙率が30~95%である、使用方法。
【請求項18】
請求項1317のいずれか一項に記載の使用方法であって、膨張後の空間充填材が連続した多孔質構造を有する、使用方法。
【請求項19】
請求項1318のいずれか一項に記載の使用方法であって、膨張後の空間充填材の密度が0.1~1.5g/cmである、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は2019年3月13日出願の特願2019-046240の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、所定の空間内で加熱時の膨張応力で充填する空間充填材および空間充填材を備える空間充填構造体、ならびにそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、加熱時に膨張し、防火、防煙のシール機能を発揮させる熱膨張性の複合材が知られている。例えば、特許文献1(特開平7-18249号公報)には、膨張剤としての酸処理黒鉛と、耐熱補強剤としての無機繊維と、耐熱結合剤としての無機結合材と、加熱前の形態保持材としての有機結合材とからなる混合物を抄造法によりシート状に成形したことを特徴とする熱膨張性無機質繊維複合材が開示されており、防火ドア用シール材に使用されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-18249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の熱膨張性無機質繊維複合材は、防火、防煙などのシール機能を発揮させることを目的として使用されているにすぎない。また、特許文献1では、膨張剤として酸処理黒鉛を用いており、酸処理黒鉛は、加熱した際にその層間化合物の熱分解に伴い、水蒸気などのガスが発生することにより膨張するものであるが、ガスの発生が好ましくない用途では使用できなかった。さらには、酸処理黒鉛は、酸に由来するSOxやNOxなどの有害なガスが発生する場合もある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、このような従来技術における問題点を解決するものであり、加熱による膨張の際にガスの発生がなく、所定の空間を様々な目的に充填することができる空間充填材およびその使用方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成され、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着された空間充填材は、樹脂を軟化させて強化繊維の屈曲が解放されることにより膨張するためガスの発生はないこと、および屈曲が解放された強化繊維の反発力が非常に大きく、所定の空間内を目的に応じて充填するのに適していることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成され、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着された空間充填材であり、所定の空間内で加熱時の膨張応力で少なくとも厚み方向に充填する(充填可能である)空間充填材。
〔態様2〕
態様1に記載の空間充填材であって、前記強化繊維および前記樹脂の合計体積のうちの前記樹脂の体積比率が15~95vol%(好ましくは17~93vol%、より好ましくは20~90vol%、さらに好ましくは25~85vol%)である、空間充填材。
〔態様3〕
態様1または2に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が屈曲しており、前記樹脂の軟化により強化繊維の屈曲が解放されることで膨張する、空間充填材。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、厚み方向において定荷重下での膨張率が105%以上(好ましくは120%以上、より好ましくは140%以上、さらに好ましくは150%以上、さらにより好ましくは170%以上)である、空間充填材。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、厚み方向に対して直交する方向への膨張による寸法変化率が-10~10%(好ましくは-8~8%、より好ましくは-5~5%)である、空間充填材。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記樹脂が熱可塑性樹脂である、空間充填材。
〔態様7〕
態様6に記載の空間充填材であって、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100℃以上(好ましくは105℃以上、より好ましくは110℃以上)である、空間充填材。
〔態様8〕
態様6または7に記載の空間充填材であって、前記熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、およびポリテトラフルオロエチレン系樹脂からなる群(好ましくは、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびポリスルホン系樹脂からなる群)より選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂である、空間充填材。
〔態様9〕
態様1~8のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記強化繊維の繊維長が3~100mm(好ましくは4~80mm、より好ましくは5~50mm)である、空間充填材。
〔態様10〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が絶縁性繊維である、空間充填材。
〔態様11〕
態様1~10のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、空隙率が3~75%(好ましくは5~70%、より好ましくは10~65%)である、空間充填材。
〔態様12〕
態様1~11のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、所定の空間内で被固定材を固定させるために用いられる、空間充填材。
〔態様13〕
態様12に記載の空間充填材と、その少なくとも一部に接して一体化された被固定材とを備える、空間充填構造体。
〔態様14〕
態様13に記載の空間充填構造体であって、前記被固定材が前記空間充填材で挟まれている、空間充填構造体。
〔態様15〕
態様1~12のいずれか一態様に記載の空間充填材を使用する方法であって、前記空間充填材を、前記樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間内で前記空間充填材を膨張させる工程を含む、使用方法。
〔態様16〕
態様15に記載の使用方法であって、所定の空間に前記空間充填材を挿入する工程を含む、使用方法。
〔態様17〕
態様1~12のいずれか一態様に記載の空間充填材または態様13もしくは14に記載の空間充填構造体を使用する方法であって、前記空間充填材または前記空間充填構造体を、前記樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間において前記空間充填材を膨張させて、被固定材を固定する工程を含む、使用方法。
〔態様18〕
態様17に記載の使用方法であって、所定の空間に、前記空間充填材および/または前記被固定材、または前記空間充填構造体を挿入する工程を含む、使用方法。
〔態様19〕
態様15~18のいずれか一態様に記載の使用方法であって、膨張後の空間充填材の空隙率が30~95%(好ましくは35~90%、より好ましくは40~85%、さらに好ましくは45~80%)である、使用方法。
〔態様20〕
態様15~19のいずれか一態様に記載の使用方法であって、膨張後の空間充填材が連続した多孔質構造を有する、使用方法。
〔態様21〕
態様15~20のいずれか一態様に記載の使用方法であって、膨張後の空間充填材の密度が0.1~1.5g/cm(好ましくは0.2~1.4g/cm、より好ましくは0.3~1.3g/cm)である、使用方法。
【0009】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空間充填材によれば、加熱による膨張の際にガスの発生がなく、所定の空間を様々な目的に充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解されるであろう。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1A】本発明の空間充填材の使用方法の第1の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張前の状態を示す。
図1B】本発明の空間充填材の使用方法の第1の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張後の状態を示す。
図2A】本発明の空間充填材の使用方法の第2の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張前の状態を示す。
図2B】本発明の空間充填材の使用方法の第2の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。本発明の空間充填材は、膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成されている。前記強化繊維同士は複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着されている。そして、空間充填材は、所定の空間内で加熱時の膨張応力により少なくとも厚み方向に充填可能である。ここで、膨張応力とは、空間充填剤が膨張して空間を囲んでいる外方部材に拘束される際に発生する応力をいう。また、空間充填材は、所定の空間を全て充填してもよいし、一部を充填してもよい。
【0013】
<膨張材としての強化繊維>
本発明で用いる強化繊維は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、有機繊維であっても無機繊維であってもよく、また、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において、空間充填材内で、樹脂で接着されていた強化繊維同士が、樹脂の軟化によりその屈曲が解放され、その屈曲が解放された強化繊維の反発力により空間充填材が膨張することになる。膨張材としての強化繊維とは、このような原理により空間充填材が膨張する際に用いられている強化繊維をいう。
【0014】
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、各種セラミック繊維(例えば、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維等)、各種金属繊維(例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス等)等が挙げられる。また、有機繊維としては、ガラス転移温度または融点が強化繊維の交点を接着する樹脂の軟化温度または硬化温度より高い限り特に制限されず、例えば、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリスルホンアミド繊維、フェノール樹脂繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維等が挙げられる。なお、本発明において、軟化温度とは、熱可塑性樹脂において、主に熱変形温度を意味し、例えば、荷重たわみ温度(JIS K 7207)であってもよい。特に、非晶性樹脂の場合はそのガラス転移温度を意味し、熱硬化性樹脂において、未硬化または半硬化の熱硬化性樹脂のプレポリマー成分の融点を意味する。また、硬化温度とは、未硬化または半硬化の熱硬化性樹脂を硬化させるときの温度を意味する。
これらのうち、空間充填材を膨張させる際の反発力を高くする観点から、ガラス繊維または炭素繊維などの高弾性率の無機繊維を用いるのが好ましい。また、膨張後の空間充填材を含む構造体において絶縁性が要求される用途の場合、絶縁性繊維(例えば、ガラス繊維、窒化ケイ素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維など)であってもよい。
【0015】
本発明で用いる強化繊維は、非連続繊維であってもよく、その平均繊維長は、繊維の反発力を高くする観点から、3~100mmであることが好ましい。より好ましくは4~80mm、さらに好ましくは5~50mmであってもよい。なお、平均繊維長は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0016】
本発明で用いる強化繊維は、繊維の反発力を高くする観点から、単繊維の平均繊維径が2~40μmであることが好ましい。より好ましくは3~30μm、さらに好ましくは4~25μmであってもよい。なお、平均繊維径は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0017】
本発明で用いる強化繊維は、強化繊維の反発力を高くする観点から、10GPa以上の引張弾性率をもつものが好ましい。より好ましくは30GPa以上、さらに好ましくは50GPa以上であってもよい。上限に関しては特に制限はないが、1000GPa以下であってもよい。なお、引張弾性率は、炭素繊維の場合はJIS R 7606、ガラス繊維の場合はJIS R 3420、有機繊維の場合はJIS L 1013など、それぞれの繊維に合った規格に準拠した方法により測定することができる。
【0018】
<樹脂>
本発明で用いる樹脂は、加熱溶融あるいは加熱流動するものであれば特に制限はなく、熱可塑性樹脂であってもよく、未硬化または半硬化の熱硬化性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、熱硬化性ポリウレタン系樹脂などが挙げられるが、樹脂の流動性や膨張時の温度等の条件設定の容易性の観点から、熱可塑性樹脂であるのが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系樹脂(ビニル基CH=CH-またはビニリデン基CH=C<を有するモノマーからなるポリマーまたは誘導体);脂肪族ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612など)、半芳香族ポリアミド系樹脂、全芳香族ポリアミド系樹脂などのポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン系樹脂などのフッ素系樹脂;半芳香族ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂などの熱可塑性ポリイミド系樹脂;ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂などのポリスルホン系樹脂;ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトンケトン系樹脂などのポリエーテルケトン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;非晶性ポリアリレート系樹脂;全芳香族ポリエステル系樹脂などの液晶ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、樹脂成分として、熱硬化性エラストマーおよび/または熱可塑性エラストマーを用いてもよい。この場合、シリコン/シリコーン系、フッ素系、ウレタン系、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、エステル系、アミド系のエラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂は単独で、あるいは二種類以上を組み合わせても良いし、前述の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂と組み合わせて用いてもよい。
【0019】
また、本発明に用いる熱可塑性樹脂は、膨張後の空間充填材を含む構造体において耐熱性が要求される用途の場合、ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。例えば、ガラス転移温度が100℃以上である熱可塑性樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらのうち、熱可塑性樹脂は、力学特性や成型性の点から、熱可塑性ポリイミド系樹脂(好ましくは、ポリエーテルイミド系樹脂)、ポリエーテルケトン系樹脂(好ましくは、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂)、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂であってもよい。耐熱性が要求される用途においては、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは105℃以上、さらに好ましくは110℃以上であってもよい。なお、上限に関しては特に制限はないが、300℃以下が好ましい。なお、ガラス転移温度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0020】
また、本発明で用いる樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
<空間充填材の製造方法>
空間充填材の製造方法としては、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部を樹脂で接着することができる限り特に制限はなく、強化繊維と樹脂とで構成された前駆体を準備する工程と、前記前駆体を加熱加圧する工程とを備えていてもよい。
樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、強化繊維を含む不織布を一枚ないしは多数枚(例えば、2~100枚、好ましくは3~80枚、より好ましくは5~50枚)積層して、液状の熱硬化性樹脂のプレポリマーを含浸させ、加熱加圧し、さらに、加圧しながら冷却することにより、熱硬化性樹脂を半硬化の状態にしたプリプレグとして製造する方法が挙げられる。
樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、加熱加圧前の前駆体としてはさまざまな形態とすることができる。好ましくは、熱可塑性繊維と強化繊維との混合不織布、または粒子状(または粉粒状)の熱可塑性樹脂が分散した強化繊維の不織布を、一枚ないしは多数枚(例えば、2~100枚、好ましくは3~80枚、より好ましくは5~50枚)積層して、前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度で加熱し、積層方向に加圧し、さらに、加圧しながら冷却することで製造する方法が挙げられる。好ましくは、前駆体が熱可塑性繊維と強化繊維との混合不織布であってもよい。
【0022】
混合不織布は、得られる空間充填材の膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、混合不織布の全重量中の強化繊維の割合が10~90wt%であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%、さらに好ましくは20~80wt%であってもよい。
【0023】
本発明で用いる混合不織布は、得られる空間充填材の膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、混合不織布の全重量中の熱可塑性繊維の割合が10~90wt%(例えば、10~80wt%)であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%(例えば、15~75wt%)、さらに好ましくは20~80wt%(例えば、20~75wt%)であってもよい。
【0024】
熱可塑性繊維の単繊維繊度は、強化繊維の分散性を良好にする観点から、0.1~20dtexであることが好ましい。加熱時の膨張応力に優れた空間充填材を得るためには、前駆体となる混合不織布中の強化繊維を斑なく分散させることが望ましい。熱可塑性繊維の単繊維繊度は、より好ましくは0.5~18dtex、さらに好ましくは1~16dtexであってもよい。なお、単繊維繊度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0025】
熱可塑性繊維の平均繊維長は、強化繊維の分散性を良好にする観点から、0.5~60mmであることが好ましい。熱可塑性繊維の平均繊維長は、より好ましくは1~55mm、さらに好ましくは3~50mmであってもよい。なお、平均繊維長は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。なお、その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、扁平、あるいは星型等異型断面であってもよい。
【0026】
また、混合不織布には、必要に応じてバインダー成分などを含んでいてもよく、バインダー成分の形状としては、繊維状、粒子状、液状などであってもよいが、不織布を形成する観点からは、バインダー繊維が好ましい。バインダー成分としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0027】
不織布の製造方法は、特に制限はなく、スパンレース法、ニードルパンチ法、スチームジェット法、乾式抄紙法、湿式抄紙法(ウェットレイドプロセス)などが挙げられる。中でも、生産効率や強化繊維の不織布中での均一分散の面から、湿式抄紙法が好ましい。例えば、湿式抄紙法では、前記熱可塑性繊維および強化繊維を含む水性スラリーを作製し、ついでこのスラリーを通常の抄紙工程に供すればよい。なお、水性スラリーは、バインダー繊維(例えば、ポリビニルアルコール系繊維などの水溶性ポリマー繊維、ポリエステル系繊維などの熱融着繊維、パラ系アラミド繊維や全芳香族ポリエステル系繊維のパルプ状物)などを含んでいてもよい。また、紙の均一性や圧着性を高めるために、スプレードライによりバインダー成分を塗布したり、湿式抄紙工程後に熱プレス工程を加えたりしてもよい。
【0028】
不織布の目付は、特に限定されるものではないが、5~1500g/mであることが好ましい。より好ましくは10~1000g/m、さらに好ましくは20~500g/mであってもよい。
【0029】
また、空間充填材の製造方法において、加熱成型する方法については特に制限はなく、スタンパブル成型や加圧成型、真空圧着成型、GMT成型のような一般的な圧縮成型が好適に用いられる。その時の成型温度は用いる熱可塑性樹脂の軟化温度や分解温度、未硬化または半硬化の熱硬化性樹脂の軟化温度や乾燥温度(半硬化させる温度)、硬化温度に併せて設定すればよい。例えば、熱可塑性樹脂が結晶性の場合、成型温度は熱可塑性樹脂の融点以上、(融点+100)℃以下の範囲であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂が非晶性の場合、成型温度は熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、(ガラス転移温度+200)℃以下の範囲であることが好ましい。なお、必要に応じて、加熱成型する前にIRヒーターなどで予備加熱することもできる。
【0030】
また、加熱成型する際の圧力も特に制限はないが、通常は0.05MPa以上の圧力で行われる。より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であってもよい。上限は特に限定されないが、30MPa程度であってもよい。加熱成型する際の時間も特に制限はないが、長時間高温に曝すとポリマーが劣化してしまう可能性があるので、通常は30分以内であることが好ましい。より好ましくは25分以内、さらに好ましくは20分以内であってもよい。下限は特に限定されないが、1分程度であってもよい。また、得られる空間充填材の厚さや密度は、強化繊維の種類や加える圧力で適宜設定可能である。更には、得られる空間充填材の形状にも特に制限は無く、適宜設定可能である。目的に応じて、仕様の異なる混合不織布などを複数枚積層したり、仕様の異なる混合不織布などをある大きさの金型の中に別々に配置したりして、加熱成型することも可能である。
【0031】
<空間充填材>
本発明の空間充填材は、膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成され、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着されている。例えば、強化繊維同士は、ランダムに絡み合った状態で樹脂により接着されていてもよく、好ましくは、強化繊維同士の交点に樹脂が水掻き状に存在していてもよく、強化繊維の全面が樹脂で被覆されていてもよい。このような構造を取る事で、空間充填材の構造強度が向上する。
【0032】
本発明の空間充填材は、所定の空間内で加熱時の膨張応力で少なくとも厚み方向に充填する。本発明において、所定の空間とは、単一の外方部材に囲まれる空間(隙間)であってもよく、複数の外方部材で形成される空間(隙間)であってもよい。
上記のような空間充填材の製造方法において、加熱成型の際に厚み方向に加圧していることから、周囲の樹脂マトリックスの軟化に伴い屈曲が解放された強化繊維の反発力(復元力)は厚み方向に発現するため、空間充填材の加熱時の膨張応力は厚み方向に生じる。
【0033】
本発明の空間充填材は、強化繊維が屈曲していることが好ましい。所定の空間内で樹脂の軟化温度以上に加熱されることにより、空間充填材中の樹脂が軟化し、強化繊維が有する屈曲が解放されるため、強化繊維の反発により空間充填材が膨張する。このように発現する加熱時の膨張応力により、所定の空間内で充填させたときの補強する強度や被固定材を固定する強度を優れたものとすることができる。
【0034】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空間充填材の全重量中の強化繊維の割合が10~90wt%であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%、さらに好ましくは20~80wt%であってもよい。
【0035】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空間充填材の全重量中の樹脂の割合が10~90wt%であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%、さらに好ましくは20~80wt%であってもよい。なお、空間充填材に含まれる樹脂として、必要に応じて用いられるバインダー成分を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、強化繊維および樹脂の合計体積のうちの樹脂の体積比率が15~95vol%であってもよい。強化繊維に対して樹脂が占める体積比率が小さすぎる場合、所定の空間内で空間充填材が膨張してその空間の壁面(または被固定材)に接触した際に樹脂が接する接触面積が小さくなるため、壁面または被固定材を固定する強度に寄与する応力が不十分となる可能性がある。また、強化繊維に対して樹脂が占める体積比率が大きすぎる場合、膨張材としての強化繊維の存在量が不足し、膨張性が不十分となる可能性がある。強化繊維および樹脂の合計体積のうちの樹脂の体積比率は、好ましくは17~93vol%、より好ましくは20~90vol%、さらに好ましくは25~85vol%であってもよい。
【0037】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、強化繊維および樹脂の合計体積のうちの強化繊維の体積比率が5~85vol%であってもよく、好ましくは7~83vol%、より好ましくは10~80vol%、さらに好ましくは15~75vol%であってもよい。
【0038】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空隙率(膨張前または使用前)が3~75%であってもよい。膨張前の空隙率が小さすぎる場合、空間充填材内の強化繊維に対して無理な圧縮力がかかることで強化繊維が折損あるいは流動し、加熱時に強化繊維の屈曲が解放されたとしても、その反発力が十分に得られないため、膨張性および加熱時の膨張応力が不十分となる可能性がある。また、膨張前の空隙率が大きすぎる場合、膨張する余地が小さいため、膨張性が不十分となる可能性がある。空隙率(膨張前)は、好ましくは5~70%、より好ましくは10~65%であってもよい。なお、ここで空隙率とは、空間充填材の嵩体積に対する、空隙の占める体積の割合を示し、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0039】
本発明の空間充填材の厚さは、充填させる空間および用途に応じて様々な厚さとすることが可能であり、例えば、0.1~200mmの広い範囲から選択可能であるが、例えば、0.1~20mmであってもよく、好ましくは0.5~18mm、より好ましくは1~15mmであってもよい。なお、空間充填材の厚さは後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0040】
本発明の空間充填材の目付は、充填させる空間および用途に応じて様々な目付とすることが可能であるが、100~10000g/mであってもよく、好ましくは500~8000g/m、より好ましくは800~5000g/mであってもよい。なお、空間充填材の目付は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0041】
本発明の空間充填材の密度は、充填させる空間および用途に応じて様々な密度とすることが可能であるが、0.5~10g/cmであってもよく、好ましくは0.6~8g/cm、より好ましくは0.7~5g/cmであってもよい。なお、空間充填材の密度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0042】
本発明の空間充填材の形状は、板状に限られるものではなく、充填させる空間および用途に応じて様々な形状とすることが可能であり、三次元構造を有している立体状も含まれる。立体状の場合、熱膨張する方向を厚み方向とする。
【0043】
本発明の空間充填材は、厚み方向において定荷重下での膨張率が105%以上であることが好ましい。好ましくは120%以上、より好ましくは140%以上、さらに好ましくは150%以上、さらにより好ましくは170%以上であってもよい。厚み方向において定荷重下での膨張率の上限は特に限定されないが、500%であってもよい。厚み方向において定荷重下での膨張率が上記のような範囲である場合、補強および/または固定についての強度を十分なものとすることができる。なお、空間充填材の厚み方向において定荷重下での膨張率は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0044】
本発明の空間充填材は、厚み方向に加熱時の膨張応力を集中させる観点から、厚み方向に対して直交する方向への膨張あるいは収縮による寸法変化率が-10~10%であることが好ましい。厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は、負の場合に収縮し、正の場合に膨張することを示す。厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は、より好ましくは-8~8%、さらに好ましくは-5~5%であってもよい。例えば、本発明の空間充填材は、強化繊維が面方向に配向していることが好ましく、このような構造の場合、厚み方向に対して直交する方向への膨張あるいは収縮による寸法変化率を小さくすることができる。なお、空間充填材の厚み方向に対して直交する方向への膨張あるいは収縮による寸法変化率は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0045】
本発明の空間充填材は、ガスの発生を抑制する観点から、加熱させる際に揮発する揮発性物質(例えば、加熱温度より沸点の低い低分子化合物等)、発泡剤、膨張黒鉛等を実質的に含まないことが好ましい。
【0046】
<空間充填材の使用方法>
本発明の空間充填材の使用方法は、樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間内で前記空間充填材を膨張させる工程を含んでいてもよい。
【0047】
例えば、本発明の空間充填材の使用方法の第1の実施態様の概略断面図を表す図1Aおよび図1Bに基づいて説明する。図1Aは、空間充填材11の膨張前の状態を示し、図1Bは、空間充填材11の膨張後の状態を示す。図1Aでは、外方部材12により囲まれる空間13内に空間充填材11が挿入されている。図1Aでは、空間13は単一の外方部材12により全体が囲まれて形成されているが、外方部材に全体を囲まれている閉鎖空間である必要はなく、例えば、コの字型のように、一部に開放空間が形成されていてもよい。また、複数の異なる部材により空間が形成されていてもよい。また、空間13内に複数の空間充填材11が挿入されていてもよい。なお、図1Aでは、外方部材12の一部を示している。
【0048】
空間充填材11を構成する樹脂の軟化温度以上で加熱することにより、樹脂が軟化し、それに伴い、樹脂で拘束されていた強化繊維の屈曲が解放され、それにより強化繊維の反発力(復元力)が厚み方向に発現する。そして、空間充填材11は厚み方向(図1AのX方向)に不可逆的に膨張し、図1Bに示すように、空間13を充填する。空間13の壁面には、空間充填材11の膨張応力により押圧力が加えられており、その応力が高いため、外方部材12が十分に補強される。
【0049】
膨張させる工程において、加熱温度は、例えば、(軟化温度+10)℃以上であってもよく、好ましくは(軟化温度+20)℃以上、より好ましくは(軟化温度+30)℃以上であってもよい。加熱温度の上限は、(軟化温度+200)℃以下であってもよい。
【0050】
また、本発明の空間充填材の使用方法は、膨張させる工程に先立って、所定の空間に空間充填材を挿入する工程を含んでいてもよい。
【0051】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材の空隙率が30~95%であってもよい。膨張後の空間充填材の空隙率がこの範囲にあることにより、膨張後の空間充填材に通液や通気を十分に施すことが可能となる。例えば、膨張後の空間充填材を含む構造体において冷却する必要がある場合、冷却液を充填後の空間充填材に通液することにより冷却することが可能となる。また、膨張後の空間充填材の空隙率は、好ましくは35~90%、より好ましくは40~85%、さらに好ましくは45~80%であってもよい。なお、膨張後の空間充填材の空隙率は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0052】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材が連続した多孔質構造を有していてもよい。膨張後の空間充填材の空隙が連通孔である場合、膨張後の空間充填材に通液や通気を十分に施すことが可能となる。
【0053】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材の力学的強度を良好にする観点から、膨張後(充填後)の空間充填材の密度が0.1~1.5g/cmであってもよく、好ましくは0.2~1.4g/cm、より好ましくは0.3~1.3g/cmであってもよい。
【0054】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材の力学的強度および通液性を良好にする観点から、厚み方向における充填膨張率が120~300%であってもよく、好ましくは130~280%、より好ましくは140~250%であってもよい。なお、厚み方向における膨張率とは、下記式で表される。
充填膨張率(%)=充填後の空間充填材の厚さ(充填する空間の厚さ)(mm)/充填前の空間充填材の厚さ(mm)×100
【0055】
本発明では、膨張を利用して所望の大きさとすることができ、所定の空間の厚さ(膨張後(充填後)の空間充填材の厚さ)は、例えば、0.2~600mmの広い範囲から選択可能であるが、例えば、0.2~50mmであってもよく、好ましくは0.5~30mm、より好ましくは1~20mmであってもよい。
【0056】
また、本発明の空間充填材の使用方法は、樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間において空間充填材を膨張させて、被固定材を固定する工程を含んでいてもよい。本発明の空間充填材は、被固定材を固定する固定材として使用してもよい。
【0057】
例えば、本発明の空間充填材の使用方法の第2の実施態様の概略断面図を表す図2Aおよび図2Bに基づいて説明する。図2Aは、空間充填材21の膨張前の状態を示し、図2Bは、空間充填材21の膨張後の状態を示す。図2Aでは、外方部材22により囲まれる空間23内に2枚の空間充填材21に挟まれた被固定材24が挿入されている。図2Aでは、空間23は単一の外方部材22により全体が囲まれて形成されているが、外方部材に全体を囲まれている閉鎖空間である必要はなく、例えば、コの字型のように、一部に開放空間が形成されていてもよい。また、複数の異なる部材により空間が形成されていてもよい。また、空間充填材21は、被固定材24の両面に1枚ずつ積層されて挿入されているが、積層枚数および挿入箇所は限定されず、被固定材24の少なくとも一つの面に1枚または複数枚積層されて挿入されていてもよい。被固定材24の両面に積層されている空間充填材21は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、膨張性の均一性を高める観点から、同一であることが好ましい。なお、図2Aでは、外方部材22の一部を示している。
【0058】
空間充填材21を構成する樹脂の軟化温度以上で加熱することにより、樹脂が軟化し、それに伴い、樹脂で拘束されていた強化繊維の屈曲が解放され、それにより強化繊維の反発力(復元力)が厚み方向に発現する。そして、空間充填材21は厚み方向(図2AのX方向)に不可逆的に膨張し、図2Bに示すように、被固定材24とともに、空間23を充填する。空間23の壁面および被固定材24の両面には、空間充填材21の膨張応力により押圧力が加えられており、その応力が高いため、被固定材24が十分に固定される。
【0059】
また、本発明の空間充填材の使用方法は、膨張させて被固定材を固定する工程に先立って、所定の空間に空間充填材および/または被固定材を挿入する工程を含んでいてもよい。空間充填材および被固定材は、一緒に挿入してもよいし、空間充填材および被固定材のうち一方をまず挿入し、その後もう一方を挿入してもよい。また、空間充填材および被固定材は、あらかじめ一方が挿入されていた所定の空間にもう一方を挿入してもよい。
【0060】
本発明の空間充填材を固定材として使用する場合、後述の実施例に記載した被固定材の押抜荷重が、25N以上であってもよく、好ましくは100N以上、より好ましくは200N以上であってもよい。被固定材の押抜荷重の上限は特に限定されないが、例えば、2000N程度であってもよい。なお、押抜荷重は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0061】
<空間充填構造体>
本発明の空間充填構造体は、前記空間充填材と、その少なくとも一部に接して一体化した被固定材とを備えていてもよい。空間充填構造体は、例えば、前記空間充填材と被固定材とが接するように積層し、空間充填材中の前記樹脂の軟化温度以上の温度で加熱し、積層方向に加圧し、さらに、加圧しながら冷却する方法により、前記空間充填材と被固定材とを融着させて製造することができる。また、空間充填構造体は、例えば、前記空間充填材と被固定材とを接着剤を介して積層して、接着させて製造することができる。この場合、接着剤としては、空間充填材と被固定材とを接着させることができる限り特に限定されず、公知の接着剤を使用することができる。
【0062】
本発明の空間充填構造体は、被固定材が前記空間充填材で挟まれていてもよい。空間充填構造体は、被固定材が、対向する少なくとも二方向で空間充填材により挟まれていてもよく、例えば、被固定材の厚み方向で挟まれていてもよく、厚み方向およびそれに直交する方向で挟まれていてもよい。
【0063】
<空間充填構造体の使用方法>
本発明の空間充填構造体の使用方法は、樹脂の軟化温度以上で加熱することにより所定の空間において前記空間充填材を膨張させて、被固定材を固定する工程を含んでいてもよい。
【0064】
また、本発明の空間充填構造体の使用方法は、膨張させて被固定材を固定する工程に先立って、所定の空間に空間充填構造体を挿入する工程を含んでいてもよい。
【0065】
また、本発明の空間充填材は、輸送手段、家電製品、産業機械、建造物などにおいて、部材に囲まれる所定の空間内を充填して、当該部材を補強する空間充填補強材や、当該部材に囲まれる所定の空間内に被固定材を固定する空間充填固定材として有効に用いることができる。
特に、空間充填材が所定の絶縁特性および/または耐熱性を有する場合、本発明の空間充填材の一態様では、絶縁性および/または耐熱性空間充填材として有用に用いることができる。
【0066】
例えば、本発明の空間充填材および空間充填構造体は、モーター(例えば、自動車の駆動用モーター)において、ロータに形成された複数の孔部内に永久磁石(被固定材)を固定するためのモールド材として用いることにより、永久磁石を十分な固定強度で固定することができるとともに、連通孔として存在する空隙に冷却液を通液することによりモーターを冷却することが可能であり、絶縁性および耐熱性を付与することも可能である。また、空隙を有しているにもかかわらず固定強度が高いため、空間に占める材料の比率を少なくすることができるため、コストの削減をすることも可能である。
【実施例
【0067】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0068】
[単繊維繊度]
JIS L 1015:2010「化学繊維ステープル試験方法」の8.5.1のB法に準じて、後述の方法で算出した平均繊維長を用いて、単繊維繊度を測定した。
【0069】
[平均繊維長]
ランダムに選択した100本の繊維について、その繊維長を測定し、その測定値の平均値を平均繊維長とした。
【0070】
[平均繊維径]
ランダムに選択した30本の繊維について、顕微鏡観察により繊維径を測定し、その測定値の平均値を平均繊維径とした。
【0071】
[引張弾性率]
ガラス繊維の場合はJIS R 3420、炭素繊維の場合はJIS R 7606に準拠し、引張弾性率を測定した。
【0072】
[熱可塑性繊維のガラス転移温度]
繊維のガラス転移温度は、レオロジー社製固体動的粘弾性装置「レオスペクトラDVE-V4」を用い、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで損失正接(tanδ)の温度依存性を測定し、そのピーク温度から求めた。ここで、tanδのピーク温度とは、tanδの値の温度に対する変化量の第1次微分値がゼロとなる温度のことである。
【0073】
[体積比率]
空間充填材を構成する強化繊維および樹脂の体積比率は、重量比率を、それぞれの比重により換算して算出した。
【0074】
[目付]
目付は、空間充填材サンプルを縦10cm、横10cmに切り出し、その重量(g)を計測し、下記式により算出した。
目付(g/m)=重量(g)/0.01(m
【0075】
[厚さ]
厚さは、空間充填材サンプルの中央部、および角から1cmずつ内側の部分(4箇所)、の計5箇所を測定し、その測定値の平均値をその空間充填材の厚さとした。
【0076】
[密度]
密度は、空間充填材サンプルを縦10cm、横10cmに切り出し、その厚さ(cm)と重量(g)を計測し、下記式により算出した。
密度(g/cm)=重量(g)/(厚さ(cm)×100(cm))
【0077】
[空隙率]
JIS K 7075「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験」に準拠し、空間充填材の空隙率(%)を算出した。
【0078】
[定荷重下での膨張率]
縦5cm、横5cmに切り出した膨張前の空間充填材を用い、重量1.44kg、縦5cm、横5cm、高さ7.4cmの金属製の直方体を空間充填材の上に乗せた状態で熱風炉中に入れ、樹脂の軟化温度+30℃以上の温度で、空間充填材の厚み変化が無くなるまで加熱した。
次いで、膨張した空間充填材の膨張前の厚さ及び膨張後の厚さから、下記式に従って定荷重下(5.6kPa)での膨張率を算出した。
膨張率(%)=膨張後の空間充填材の厚さ(mm)/膨張前の空間充填材の厚さ(mm)×100
【0079】
[厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率]
定荷重下(5.6kPa)での膨張率の計測に用いた膨張後サンプルについて、面方向の寸法を計測し、下記式により、寸法変化率を算出した。
寸法変化率(%)=(膨張後面積(cm)-膨張前面積(cm))/膨張前面積(cm)×100
【0080】
[充填性評価]
○:空間の高さがすべて埋まる
×:空間の高さが埋まらない
【0081】
また、充填膨張率を以下の式により算出した。なお、空間の高さがすべて埋まった場合、充填後の空間充填材の厚さは3mmとなる。
充填膨張率(%)=充填後の空間充填材の厚さ(mm)/充填前の空間充填材の厚さ(mm)×100
【0082】
また、上述の空間充填材の空隙率と同様の算出方法により、充填後の空間充填材の空隙率を算出した。
【0083】
また、充填後の空間充填材の密度を以下の式により算出した。
充填後密度(g/cm)=充填前の空間充填材の密度(g/cm)/(充填膨張率(%)/100)
【0084】
[押抜荷重]
高さ10mm、幅20mm、奥行き50mmの孔を有する鋼鉄製外方部材に、厚さ4mm、幅14mm、長さ50mmの直方体の鋼鉄製被固定材を挿入し、更に外方部材と被固定材との間に、幅14mm、長さ50mmに切り出した空間充填材を1枚ずつ挿入した。これらを熱風炉中で、所定温度にて30分加熱することで、空間充填材により、外方部材に被固定材を固定した。
次いで、得られた多重構造体(被固定材が空間充填材により外方部材の内部に固定されている構造体)に対して、万能試験機(島津製作所製「AG-2000A」)を用いて、被固定材のみに荷重を長さ方向にかけ、被固定材を押抜き、ずれが生じ始める時の荷重を押抜荷重とした。
【0085】
[通液性評価]
空間充填材を幅50mm、長さ50mmに切り出し、それを3枚積層した状態で、高さ9mm、幅50mm、奥行き50mmの貫通孔を有する鋼鉄製外方部材の孔内に挿入した。挿入後、所定の温度で加熱し、外方部材の孔を空間充填材で完全に充填した。外方部材の貫通孔を通液できるように外方部材の両端にそれぞれ耐圧チューブを取り付けた。
そして、耐圧チューブの一方より、45kPaの圧力で純水を注入し、空間充填材を経て他方の耐圧チューブから流出する水の体積を観測し、合計量が20mLから40mLとなるために必要な時間t(min)を計測した。
得られた時間より、下記式により、膨張後の空間充填材の通液速度を算出した。
通液速度(mL/min)=20(mL)/t(min)
【0086】
また、得られた通液速度について、以下の基準で通液性を評価した。
◎:100mm/min以上
〇:3mm/min以上100mm/min未満
×:3mm/min未満
【0087】
[絶縁性評価]
実施例にて得られた空間充填材を、JIS K 6911に準拠して体積抵抗率を計測し、以下の基準で絶縁性を評価した。
〇:体積抵抗率10(Ω・cm)以上
×:体積抵抗率10(Ω・cm)未満
【0088】
[耐熱性評価]
実施例にて得られた空間充填材を、3mm厚に隙間設定したテストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、所定温度で10分間加熱し、膨張させた後に冷却し、耐熱性試験片を作製した。次いで、JIS K 7017「繊維強化プラスチック-曲げ特性の求め方」に準拠して曲げ試験片を作製し、25℃および80℃雰囲気下で曲げ試験を実施し、下記式により物性保持率を算出した。
物性保持率(%)=80℃雰囲気下での曲げ強度(MPa)/25℃雰囲気下での曲げ強度(MPa)×100
次いで、以下の基準で耐熱性を評価した。
〇:物性保持率70%以上
×:物性保持率70%未満
【0089】
[参考例1](ポリエーテルイミド繊維の製造)
非晶性樹脂であるポリエーテルイミド(以下、PEIと略称することがある)系ポリマー(サービックイノベイティブプラスチックス製「ULTEM9001」)を150℃で12時間真空乾燥した。前記PEI系ポリマーを紡糸ヘッド温度390℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPEI繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PEI繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度は217℃であり、比重は1.27g/cmであった。
【0090】
[参考例2](半芳香族ポリアミド繊維の製造)
半芳香族ポリアミド系ポリマー(クラレ製「ジェネスタPA9T」、以下PA9Tと略称することがある;融点265℃)を80℃で12時間真空乾燥した。前記ポリマーを紡糸ヘッド温度310℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPA9T繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PA9T繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.1mmであり、ガラス転移温度は125℃であり、比重は1.14g/cmであった。
【0091】
[参考例3](脂肪族ポリアミド繊維の製造)
ポリアミド6系ポリマー(宇部興産製「UBEナイロン1015B」、以下PA6と略称することがある;融点225℃)を80℃で12時間真空乾燥した。前記ポリマーを紡糸ヘッド温度290℃、紡糸速度3000m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPA6繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PA6繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度は50℃であり、比重は1.14g/cmであった。
【0092】
[参考例4](ポリカーボネート繊維の製造)
非晶性樹脂であるポリカーボネート(以下、PCと略称することがある)系ポリマー(三菱エンジニアリングプラスチック製「ユーピロンS-3000」)を120℃で6時間真空乾燥した。前記PC系ポリマーを紡糸ヘッド温度300℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPC繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PC繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度は150℃であり、比重は1.20g/cmであった。
【0093】
[実施例1]
熱可塑性繊維としてPEI繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付254g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に前記PEI繊維が溶融してなるPEI樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である200℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.55mm、目付は1936g/m、密度は1.248g/cm、空隙率は26.3%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は231%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.2%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、膨張させる加熱温度を360℃として、各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2]
空間充填材の作製工程にて、混合不織布の枚数を4枚とした以外は実施例1と同様にして、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.36mm、目付は963g/m、密度は0.709g/cm、空隙率は58.1%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は141%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.2%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例3]
空間充填材の作製工程にて、混合不織布の積層枚数を12枚としたこと、およびスペーサーの高さを2.2mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.15mm、目付は2918g/m、密度は1.360g/cm、空隙率は19.7%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は237%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.2%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例4]
熱可塑性繊維としてPEI繊維70wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)30wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付224g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.42mm、目付は1698g/m、密度は1.197g/cm、空隙率は19.9%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は153%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.3%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0097】
[実施例5]
熱可塑性繊維としてPEI繊維30wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)70wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付293g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.80mm、目付は2218g/m、密度は1.232g/cm、空隙率は36.9%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は269%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.1%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0098】
[実施例6]
熱可塑性繊維としてPA9T繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付236g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、320℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に前記PA9T繊維が溶融してなるPA9T樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PA9Tのガラス転移温度以下である100℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.47mm、目付は1813g/m、密度は1.232g/cm、空隙率は21.7%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は208%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.2%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPA9T樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、膨張させる加熱温度を340℃として、各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0099】
[実施例7]
熱可塑性繊維としてPEI繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長の炭素繊維(東邦テナックス製:平均繊維径7μm、比重1.82g/cm)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付224g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱し、炭素繊維の間に前記PEI繊維が溶融してなるPEI樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である200℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.99mm、目付は1696g/m、密度は0.853g/cm、空隙率は43.0%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は299%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.2%であった。また、得られた空間充填材は、炭素繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0100】
[実施例8]
熱可塑性繊維としてPEI繊維10wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)90wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付346g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、加圧の圧力を15MPaに変更したこと以外は実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.86mm、目付は2583g/m、密度は1.390g/cm、空隙率は39.8%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は143%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.1%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0101】
[実施例9]
熱可塑性繊維としてPA6繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付234g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、300℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に前記PA6繊維が溶融してなるPA6樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PA6のガラス転移温度以下である30℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.40mm、目付は1800g/m、密度は1.286g/cm、空隙率は18.3%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は204%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.2%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPA6樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、膨張させる加熱温度を300℃として、各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0102】
[実施例10]
熱可塑性繊維としてPEI繊維80wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)20wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付230g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、混合不織布の積層枚数を12枚としたこと、およびスペーサーの高さを2.2mmに変更したこと以外実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.00mm、目付は2688g/m、密度は1.340g/cm、空隙率は5.0%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は125%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.3%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0103】
[実施例11]
熱可塑性繊維としてPEI繊維85wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)15wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付220g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、混合不織布の積層枚数を12枚としたこと、およびスペーサーの高さを2.2mmに変更したこと以外実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.00mm、目付は2573g/m、密度は1.289g/cm、空隙率は6.1%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は108%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.3%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPEI樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0104】
[実施例12]
熱可塑性繊維としてPC繊維49wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm)51wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付150g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、得られた混合不織布を12枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、280℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に前記PC繊維が溶融してなるPC樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PCのガラス転移温度以下である130℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.53mm、目付は1800g/m、密度は1.176g/cm、空隙率は28.3%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率は251%であり、厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は-0.1%であった。また、得られた空間充填材は、ガラス繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部がPC樹脂で接着されていた。
得られた空間充填材について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0105】
[比較例1]
熱可塑性繊維としてPEI繊維100wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付210g/mの不織布を得た。
その後、不織布の積層枚数を12枚とした以外実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.00mm、目付は2410g/m、密度は1.210g/cm、空隙率は5.0%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率を評価するために実施例1と同じ条件で加熱したところ、空間充填材が溶融、流出したため、空間充填材として機能しなかった。
【0106】
【表1】
【0107】
なお、表1において、GFはガラス繊維であり、CFは炭素繊維である。
【0108】
表1より、実施例1~12の空間充填材は、膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成され、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着された空間充填材であるため、所定の空間を充填する膨張性に優れており、被固定材を固定する強度(押抜荷重)が高いことがわかる。
【0109】
また、実施例1~7、9~10および12の空間充填材は、強化繊維および樹脂の合計体積のうちの樹脂の体積比率が30~90vol%であるため、被固定材を固定する強度(押抜荷重)が特に高い。
【0110】
比較例1は、膨張材としての強化繊維を含んでいないため、充填材として膨張できず、物理的に固定する応力が発現しなかった。そのため、所定の空間を充填させることができず、被固定材を固定することができなかった。
【0111】
実施例1~12の空間充填材は、膨張後において空隙を有しているため、通液性に優れている。
【0112】
また、実施例1~6および8~12の空間充填材は、強化繊維としてガラス繊維を用いているため、絶縁性に優れている。また、実施例1~8および10~12の空間充填材は、樹脂としてガラス転移温度が100℃以上である熱可塑性樹脂を用いているため、耐熱性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の空間充填材は、輸送手段、家電製品、産業機械、建造物などにおいて、部材に囲まれる所定の空間内を充填するために有用である。例えば、空間充填材は、部材を補強する補強材や、部材に囲まれる所定の空間内に被固定材を固定する固定材として用いることができる。さらに、本発明の空間充填材は、モーター(例えば、自動車の駆動用モーター)において、ロータに形成された複数の孔部内に永久磁石(被固定材)を固定するためのモールド材として用いることができる。
【0114】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0115】
11,21・・・空間充填材
12,22・・・外方部材
13,23・・・空間
24・・・被固定材
X・・・厚み方向
図1A
図1B
図2A
図2B