(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】成膜装置用部材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/34 20060101AFI20220825BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220825BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20220825BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20220825BHJP
C23C 18/06 20060101ALI20220825BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20220825BHJP
C23C 14/02 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C25D5/34
C25D7/00 Z
C23C14/00 B
C23C18/31 A
C23C18/06
C23C16/02
C23C14/02 Z
(21)【出願番号】P 2022089678
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-06-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆典
(72)【発明者】
【氏名】吉田 右
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 翔
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-256686(JP,A)
【文献】特開平09-316643(JP,A)
【文献】特開平09-087841(JP,A)
【文献】実公平04-001742(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-18/54
C23C26/00-30/00
C25D5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に形成されためっき被膜とを備える成膜装置用部材であって、
前記めっき被膜が、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Ag、Cd、およびSbからなる群より選択される少なくとも1つからなり、
前記基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、
0.71μm以上、かつ、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r
1よりも小さい、成膜装置用部材。
r
1=0.4578t-0.5027 …(1)
【請求項2】
前記めっき被膜の膜厚tが、3.1μm以上である、請求項1に記載の成膜装置用部材。
【請求項3】
前記基材の材質が、ステンレス鋼、弁金属、および弁金属合金からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の成膜装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置用部材に関する。また、本発明は、前記成膜装置用部材の製造方法、堆積物除去方法、有価金属回収方法、および成膜装置用部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物の表面に、金属などのコーティングを形成する手法としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、化学気相成長(CVD)などの真空成膜法が幅広く用いられている。また、近年では、金属ナノ粒子を含有するインクを塗布し、低温で焼成する方法など、減圧雰囲気を必要としない成膜法も開発されている。
【0003】
これらの成膜方法では、通常、被処理物の表面のみに選択的にコーティングを形成することは困難であるため、成膜装置内の他の部材の表面にも金属などのコーティング材料が付着、堆積してしまう。堆積物が付着した状態で成膜を続けると、部材の表面から堆積物が脱落し、成膜装置内を汚染する。特に、脱落した堆積物が被処理物の表面に付着すると、成膜不良の原因となる。
【0004】
したがって、成膜装置で用いられる各種部材には、使用時に表面に付着した堆積物が脱落しづらいこと、言い換えると堆積物の保持性に優れることが求められる。
【0005】
また、堆積物がある程度付着した部材は、成膜装置から取り外され、堆積物を除去するための堆積物除去処理に供されることが一般的である。
【0006】
堆積物を除去する方法としては、例えば、ブラスト処理などの物理的な方法を用いることが考えられる。
【0007】
ブラスト処理などの物理的な方法には、堆積物の材質によらず除去が可能であるというメリットがある。しかし、作業効率が悪く、特に様々な形状、寸法を有する成膜装置用部材の表面から堆積物を除去するためにはかなりの作業時間が必要となる。また、堆積物中に貴金属などの有価金属が含まれる場合には、単に除去するだけではなく、回収して再利用することが望ましい。しかし、ブラスト処理によって除去を行った場合、除去された堆積物とブラスト処理に用いた研磨材(メディア)とが混合した状態となるため、その中から有価金属を分離回収することが困難となる。
【0008】
そのため、物理的な方法に代えて、酸などを用いて堆積物を溶解除去するという化学的な方法を用いることが考えられる。
【0009】
化学的な方法の場合、成膜装置用部材の形状や寸法によらず、酸などの薬液中に成膜装置用部材を浸漬するだけで堆積物を溶解、除去することができるというメリットがある。しかし、堆積物を溶解させるためには、堆積物の材質に応じて薬液を使い分ける必要があり、特に、堆積物が貴金属などの化学的に安定な金属を含む場合には、溶解させることが難しい。王水のように酸化力が極めて高い酸を用いれば貴金属も溶解させることはできるが、その場合、本来溶解させてはいけない成膜装置用部材自体まで溶解してしまう場合もある。
【0010】
さらに、化学的除去では、堆積物中に含まれていた成分は薬液中に溶解して、非常に低い濃度の状態となる。そのため、堆積物中に含まれていた貴金属などの有価金属を分離回収するためには、さらなる化学的処理が必要であり、効率が悪い。
【0011】
そこで、特許文献1では、薄膜形成用治具の表面に、予め亜鉛やニッケルなどからなる金属表面層を形成しておくことが提案されている。前記薄膜形成用治具を使用すると、前記金属表面層の上に堆積物が付着する。したがって、使用後、酸やアルカリによって前記金属表面層を溶解させれば、その上に付着していた堆積物を治具から剥離することができる。この方法であれば、堆積物自体は溶解させる必要が無いため、剥離後、貴金属などの有価金属を容易に回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、本発明者らが検討したところ、特許文献1で提案されているように金属表面層を設けた場合であっても、堆積物を上手く剥離することができず、溶解処理を行っても基材表面に堆積物が残存してしまう場合があることが分かった。また、金属表面層を設けた部材では、堆積物の保持性が不十分であり、使用時に付着した堆積物が脱落してしまう場合があることも分かった。
【0014】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、堆積物を残存させることなく容易に除去することが可能であり、かつ使用時の堆積物の保持性にも優れる成膜装置用部材を提供することを目的とする。また、本発明は、使用済みの成膜装置用部材からの堆積物除去方法、および使用済みの成膜装置用部材から有価金属を回収する有価金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、基材と、前記基材の表面に形成されためっき被膜とを備える成膜装置用部材において、前記基材の表面粗さと前記めっき被膜の膜厚とが所定の関係を満たすように制御することにより上記課題を解決出来ることを見出した。
【0016】
本発明は、上記知見を元になされたものであり、その要旨構成は以下の通りである。
【0017】
1.基材と、前記基材の表面に形成されためっき被膜とを備える成膜装置用部材であって、
前記基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1よりも小さい、成膜装置用部材。
r1=0.4578t-0.5027 …(1)
【0018】
2.前記めっき被膜の膜厚tが、3.1μm以上である、上記1に記載の成膜装置用部材。
【0019】
3.前記算術平均粗さRa(μm)が、0.10μm以上である、上記1または2に記載の成膜装置用部材。
【0020】
4.前記基材の材質が、ステンレス鋼、弁金属、および弁金属合金からなる群より選択される少なくとも1つである、上記1または2に記載の成膜装置用部材。
【0021】
5.前記めっき被膜が、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Pd、Ag、Cd、In、Sn、およびSbからなる群より選択される少なくとも1つからなる、上記1または2に記載の成膜装置用部材。
【0022】
6.成膜装置用部材の製造方法であって、
基材の表面を粗面化する粗面化処理工程と、
前記粗面化処理工程後の基材の表面にめっきを施してめっき被膜を形成するめっき工程とを含み、
前記粗面化処理工程後の基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1よりも小さい、成膜装置用部材の製造方法。
r1=0.4578t-0.5027 …(1)
【0023】
7.成膜装置において使用された後の成膜装置用部材から、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物を除去する堆積物除去方法であって、
前記成膜装置用部材が、上記1または2に記載の成膜装置用部材であり、
前記成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記堆積物を前記成膜装置用部材から除去する堆積物除去工程を含む、堆積物除去方法。
【0024】
8.成膜装置において使用された後の成膜装置用部材から、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物に含まれる有価金属を回収する有価金属回収方法であって、
前記成膜装置用部材が、上記1または2に記載の成膜装置用部材であり、
前記成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記堆積物を前記成膜装置用部材から除去する堆積物除去工程と、
前記堆積物除去工程で除去された堆積物から有価金属を回収する回収工程とを含む、有価金属回収方法。
【0025】
9.成膜装置において使用された後の成膜装置用部材を再生する成膜装置用部材の再生方法であって、
前記成膜装置用部材が、上記1または2に記載の成膜装置用部材であり、
前記成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物を前記成膜装置用部材から除去する堆積物除去工程と、
前記堆積物が除去された後の前記基材の表面にめっきを施してめっき被膜を形成するめっき工程とを含み、
前記めっき被膜を形成する前の基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1よりも小さい、成膜装置用部材の再生方法。
r1=0.4578t-0.5027 …(1)
【発明の効果】
【0026】
本発明の成膜装置用部材は、堆積物を残存させることなく容易に除去することが可能であり、かつ使用時の堆積物の保持性にも優れている。また、本発明の堆積物除去方法によれば、使用済みの成膜装置用部材から堆積物を効率的に除去することができる。さらに、本発明の有価金属回収方法によれば、使用済みの成膜装置用部材から貴金属などの有価金属を効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】堆積物の密着性の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0029】
(成膜装置用部材)
本発明の一実施形態における成膜装置用部材は、基材と、前記基材の表面に形成されためっき被膜とを備える成膜装置用部材である。
【0030】
本発明の成膜装置用部材は、特に限定されることなく任意の成膜装置に用いることができる。前記成膜装置は、減圧雰囲気中で成膜を行う、いわゆる真空成膜装置であってもよく、また、大気圧中などの非減圧雰囲気中で成膜を行う成膜装置であってもよい。前記真空成膜装置としては、例えば、真空蒸着装置、スパッタリング装置、イオンプレーティング装置、化学気相成長(CVD)装置などが挙げられる。非減圧雰囲気中で成膜を行う成膜装置としては、例えば、金属ナノ粒子を含有するインクを用いた成膜装置などが挙げられる。
【0031】
前記成膜装置用部材は、防着部材であってもよい。ここで防着部材とは、成膜装置用部材の構成部材に堆積物が付着することを防ぐことを主たる目的として使用される部材と定義される。
【0032】
[基材]
前記成膜装置用部材の基材としては、特に限定されることなく任意のものを用いることができる。前記基材の材質は特に限定されないが、表面粗さの制御しやすさ、強度、耐食性、コストなどのバランスからは、金属製基材を用いることが好ましい。特に、耐食性とコストの観点からは、基材の材質を、ステンレス鋼、弁金属、および弁金属合金からなる群より選択される少なくとも1つとすることが好ましく、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、およびチタン合金からなる群より選択される少なくとも1つとすることがより好ましく、ステンレス鋼、チタン、およびチタン合金からなる群より選択される少なくとも1つとすることがさらに好ましい。ステンレス鋼、チタン、およびチタン合金は特に耐食性に優れているため、めっき被膜を形成するためのめっき液や、めっき被膜を溶解させるための薬液として、制限を受けることなく様々なものを使用することができる。
【0033】
上記基材の寸法は特に限定されず、任意のサイズのものを用いることができる。しかし、過度に薄いと強度が低下することに加え、取り扱いも困難となる場合がある。そのため、前記基材の厚さは、200μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。一方、厚さの上限についても特に限定されないが、100mm以下であってよく、50mm以下であってもよく、5mm以下であってもよい。
【0034】
[めっき被膜]
前記成膜装置用部材のめっき被膜としては、特に限定されることなく任意のめっき被膜を用いることができる。例えば、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Pd、Ag、Cd、In、Sn、およびSbからなる群より選択される少なくとも1つからなるめっき被膜を用いることができる。中でも、取り扱いの容易さ、溶解させやすさなどの観点からは、Niめっき被膜またはCuめっき被膜を用いることが好ましい。
【0035】
前記めっき被膜の形成方法は特に限定されず、任意の方法で形成することができる。前記めっき被膜は、湿式めっき被膜、溶融めっき被膜、および乾式めっき被膜のいずれであってもよい。前記湿式めっき被膜としては、例えば、電解めっき被膜および無電解めっき被膜が挙げられる。前記乾式めっき被膜としては、例えば、真空蒸着被膜、スパッタリング被膜、イオンプレーティング被膜、化学気相成長(CVD)被膜などが挙げられる。中でも、成膜のしやすさ、コスト、生産性などの観点からは、電気めっき被膜を用いることが好ましい。
【0036】
本発明の成膜装置用部材においては、前記基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1よりも小さいことが重要である。
r1=0.4578t-0.5027 …(1)
【0037】
基材の表面粗さが上記の条件を満たさない場合、使用後に溶解処理を行っても、めっき被膜が十分に溶解せず、その結果、堆積物が剥離できずに残存してしまう。その理由については、次のように考えられる。すなわち、付着した堆積物を確実に除去するためには、基材と堆積物との間に存在しているめっき被膜を、酸やアルカリなどの薬液により完全に溶解させ、堆積物を基材から剥離する必要がある。しかし、めっき被膜の膜厚と比較して基材の表面粗さが大きい場合、言い換えると、基材の表面粗さに対してめっき被膜の膜厚が薄い場合、基材表面の凹凸によってめっき被膜の連続性が損なわれる。そのため、成膜装置用部材を薬液に浸漬しても、内部まで溶解が進行せず、結果として堆積物を除去することができない。
【0038】
また、基材の表面粗さが上記の条件を満たさない場合、使用時に成膜装置用部材の表面に付着した堆積物が脱落しやすい。その理由を確認するために行った実験結果の一例を以下に説明する。
【0039】
(実験1)
基材の表面粗さが堆積物の密着性に及ぼす影響を評価するために、次の実験を行った。使用した試験片の構造および試験方法を、
図1を参照して説明する。なお、ここで堆積物の密着性とは、成膜装置用部材と、該成膜装置用部材の表面に付着した堆積物の密着性を指すものとする。
【0040】
まず、基材11の表面にめっき被膜を有する試験片10を作成した。基材11としては、ステンレス鋼(SUS304)からなる50mm×20mm×厚さ1mmの基板を使用した。めっき被膜としては、膜厚約10μmのNiめっき被膜12を基材11の一方の面に形成した。Niめっき被膜12は、基材11に前処理を施した後、ワット浴を用いた電気ニッケルめっきにより形成した。前記ワット浴の組成は、NiSO4:300g/L、NiCl2:70g/L、H3BO3:45g/Lとした。前記前処理としては、超音波洗浄、超音波脱脂、水洗、硫酸処理、および水洗を順次行った。前記超音波脱脂の条件は、脱脂液:イートレックス11(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)、温度:55℃、時間:1分とした。前記硫酸処理の条件は、硫酸濃度:0.5mol/L、温度:室温、時間:30秒とした。
【0041】
得られた試験片10の表面に、堆積物としてのAuスパッタ膜13を付着さた。Auスパッタ膜13は約100分間のスパッタリングにより形成し、Auスパッタ膜13の厚さは約2μmとした。
【0042】
次いで、試験片10に対するAuスパッタ膜13の密着性を評価するために、引張試験を行った。具体的には、堆積物としてのAuスパッタ膜13の表面に、SnPbAgはんだ14を用いて、SnPbAgワイヤー15を固定した。なお、SnPbAgワイヤー15を固定した部位以外のAuスパッタ膜13の表面は、マスキングテープ16によりマスキングした。
【0043】
試験片10を固定した状態で、試験片10の表面に垂直な方向(矢印A)にSnPbAgワイヤー15を引っ張り、剥離または破断が生じた時点における引張荷重を破断強度として測定した。測定は、条件1つあたり2回実施し、得られた破断強度の平均値を表1に示した。
【0044】
以上の試験を、基材の表面粗さが異なる4つの条件で行った結果を表1に示した。なお、基材の表面粗さを調整するために、No.2~4の試験では、上述した前処理に先だって、基材表面にブラスト処理を施し、その際、表1に示したようにブラスト条件を変えることによって表面粗さを調整した。一方、No.1の試験では、研磨仕上げされたステンレス鋼を、ブラスト処理を行うことなくそのまま前処理に供した。なお、表1の各ブラスト条件は、それぞれ下記の研磨材を用いたことを表す。
・WA #30:白色アルミナ研磨材#30(平均粒径:500~710μm)
・WA #60:白色アルミナ研磨材#60(平均粒径:212~300μm)
・WA #80:白色アルミナ研磨材#80(平均粒径:150~212μm)
【0045】
【0046】
表1に示した結果から分かるように、基材の算術平均粗さRaがr1(4.0813μm)よりも小さいNo.1~3においては、破断強度が6.0N/mm3以上であったのに対して、Raがr1以上であるNo.4では、破断強度が6.0N/mm3に満たず、堆積物の密着性が劣っていた。
【0047】
なお、No.1、3、4においては、引張試験を行った際、Niめっき被膜12とAuスパッタ膜13との間の界面において剥離が観察されたのに対して、No.2では前記界面での剥離は起こらず、SnPbAgワイヤーが切断した。
【0048】
以上のとおり、前記基材の表面における算術平均粗さRa(μm)を、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1より小さくすることにより、堆積物を残存させることなく容易に除去することが可能となることに加え、使用時の堆積物の脱落も防止することができる。
【0049】
本発明では、基材の算術平均粗さRaとめっき被膜の膜厚tとが上記の関係を満たしていれば所望の効果が得られる。そのため、Raとtの個々の値については特に限定されない。
【0050】
しかし、めっき被膜が極度に薄い場合、上記条件を満たすためには基材の表面を極めて平滑にする必要が生じる。また、めっき被膜が極度に薄い場合、膜厚のバラツキの影響が顕在化する結果、堆積物除去の安定性が低下するおそれがある。そのため、生産性や、堆積物除去のさらなる安定化の観点からは、めっき被膜の膜厚を、1.0μm以上とすることが好ましく、2.5μm以上とすることがより好ましく、3.1μm以上とすることがさらに好ましく、3.5μm以上とすることが最も好ましい。
【0051】
一方、めっき被膜が過度に厚いと、成膜に時間を要するため生産性が低下する。また、厚いめっき被膜を溶解させる必要があるため、堆積物除去に要する時間も長くなる。そのため、めっき被膜の膜厚は、100μm以下とすることが好ましく、60μm以下とすることがより好ましく、48μm以下とすることがさらに好ましく、35μm以下とすることが最も好ましい。
【0052】
また、基材の算術平均粗さRaを過度に小さくしようとすると、非常に精密な研磨を行う必要が生じ、生産性の低下やコストの上昇を招く。そのため、基材の算術平均粗さRaは0.01μm以上とすることが好ましく、0.03μm以上とすることがより好ましい。また、表1に示したように、破断強度をさらに向上させる、すなわち、堆積物の脱落防止効果をさらに高めるという観点からは、Raを0.1μm以上とすることが好ましく、0.71μm以上とすることがより好ましく、0.91μm以上とすることがさらに好ましく、1.5μm以上とすることが最も好ましい。
【0053】
一方、Raが過度に大きいと、上記条件を満たすためにはめっき被膜の膜厚をかなり厚くする必要が生じる。そのため、基材の算術平均粗さRaは10μm以下とすることが好ましく、6μm以下とすることがより好ましい。また、表1に示したように、破断強度をさらに向上させる、すなわち、堆積物の脱落防止効果をさらに高めるという観点からは、Raを4.5μm以下とすることが好ましく、4.0μm以下とすることが好ましく、3.0μm以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
上記めっき被膜は、基材表面の任意の部分に設けることができる。しかし、めっき被膜を溶解させた際に堆積物を残存させることなく除去するという観点からは、基材の表面全体に対するめっき被膜の被覆面積率を50%以上とすることが好ましく、70%以上とすることがより好ましく、90%以上とすることがさらに好ましく、95%以上とすることが最も好ましい。前記被覆面積率は100%であってもよい。言い換えると、基材の表面全体にめっき被膜が設けられていてもよい。
【0055】
本発明の成膜装置用部材を実際に成膜装置に用いた場合、一般的に、堆積物は該成膜装置用部材の表面全体に付着するのではなく、専ら成膜材料が供給される側の面のみに付着する。例えば、スパッタリング装置に用いた場合であれば、スパッタリングターゲットに面した側に堆積物が堆積し、成膜装置用部材の反対側の面にはほとんど付着しない。この時、堆積物が付着しなかった部分にもめっき被膜が形成されていれば、その部分からめっき被膜の溶解が進むため、容易に堆積物を除去することが可能となる。そのため、上述したように50%以上の被覆面積率とすることが有効である。
【0056】
同様の理由から、本発明の一実施形態における成膜装置用部材においては、基材の一方の面、他方の面、および側面のすべてにめっき被膜が存在することが好ましい。
【0057】
(成膜装置用部材の製造方法)
次に、上記成膜装置用部材の製造方法について説明する。なお、特に言及しない点については、上述した成膜装置用部材と同様とすることができる。
【0058】
本発明の一実施形態における上記成膜装置用部材の製造方法は、基材の表面を粗面化する粗面化処理工程と、前記粗面化処理工程後の基材の表面にめっきを施してめっき被膜を形成するめっき工程とを含む。そして、前記粗面化処理工程後の基材の表面における算術平均粗さRa(μm)を、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1よりも小さくする。
r1=0.4578t-0.5027 …(1)
【0059】
[粗面化処理工程]
本実施形態では、基材の表面粗さを調整するために、めっき被膜の形成に先立って基材の表面を粗面化する(粗面化処理工程)。前記粗面化処理の方法は特に限定されることなく、表面粗さを調製できる方法であれば任意の方法を用いることができる。例えば、前記粗面化は、ブラスト処理によって行うことができる。その際、ブラスト処理に使用するメディアの粒度や投射条件を変えることにより基材の表面粗さを調整することができる。
【0060】
[めっき工程]
次に、上記粗面化処理工程後の基材の表面にめっきを施してめっき被膜を形成する(めっき工程)。前記めっきの方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。前記めっきは、湿式めっき、溶融めっき、および乾式めっきのいずれであってもよい。前記湿式めっきとしては、例えば、電解めっきおよび無電解めっきが挙げられる。前記乾式めっきとしては、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、化学気相成長(CVD)などが挙げられる。中でも、成膜のしやすさ、コスト、生産性などの観点からは、電気めっきを用いることが好ましい。
【0061】
なお、前記めっきを行うに際しては、任意に前処理を行うことができる。前記前処理としては、使用する基材の材質などに応じて、脱脂、酸洗、水洗などの処理を任意に組み合わせて行うことが好ましい。
【0062】
また、前記めっき被膜は、基材の表面全体に設ける必要はなく、少なくとも一部、特に、成膜装置に設置した際に、堆積物が付着する面に設ければよい。したがって、前記記載の表面の内、めっき被膜を設ける必要がない部分には、マスキングを設けてからめっきを行うことも好ましい。
【0063】
(堆積物除去方法)
次に、使用済みの成膜装置用部材から堆積物を除去する方法について説明する。なお、特に言及しない点については、上述した成膜装置用部材の説明と同様とすることができる。
【0064】
本発明の一実施形態における堆積物除去方法は、成膜装置において使用された後の成膜装置用部材から、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物を除去する堆積物除去方法であって、前記成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記堆積物を前記成膜装置用部材から除去する堆積物除去工程を含む。ここで、前記成膜装置用部材としては、上述した成膜装置用部材を使用することができる。
【0065】
[堆積物除去工程]
堆積物除去工程においては、成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記堆積物を前記成膜装置用部材から除去する。めっき被膜を溶解することにより、堆積物を溶解させずとも、基材表面から除去することができる。なお、堆積物除去工程において、堆積物を構成する成分の一部または全部が溶解することは許容されるが、後述するように堆積物中に含まれる有価金属を回収する際の回収しやすさの観点からは、堆積物除去工程では該堆積物は実質的に溶解しないことが好ましい。
【0066】
めっき被膜の溶解方法は特に限定されないが、通常は、酸やアルカリなどの薬液を用いてめっき被膜を溶解させればよい。薬液の適用方法についても特に限定されず、例えば、成膜装置用部材を薬液に浸漬する方法、成膜装置用部材に薬液を噴霧する方法など、任意の方法を用いることができる。めっき被膜を確実に溶解させるという観点からは、成膜装置用部材を薬液に浸漬する方法が好ましい。また、その際には、溶解速度を高めるため、薬液を攪拌することが好ましい。
【0067】
前記薬液としては、特に限定されることなく、めっき被膜を溶解させることができ、かつ、基材を溶解しないものであれば任意の薬液を用いることができる。前記酸としては、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、フッ酸、およびそれらの2以上を混合したものを用いることができる。複数の酸を混合したものとしては、例えば、王水や逆王水を用いることもできる。また、前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、シアン化物水溶液を用いることができる。前記シアン化物としては、シアン化塩を用いることが好ましい。前記シアン化塩としては、例えば、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムなどが挙げられる。また、前記薬液は、さらに酸化剤を含むことができる。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素や次亜塩素酸が挙げられる。酸化剤を含む薬液としては、例えば、硫酸と過酸化水素の混合液、塩酸と過酸化水素の混合液などが挙げられる。
【0068】
前記薬液の濃度は、特に限定されないが、溶解させるめっき被膜の材質や膜厚などに応じて調整することが好ましい。例えば、硝酸を用いてNiめっき被膜を溶解させる場合、前記硝酸の濃度は、モル濃度で2mol/L以上とすることが好ましく、3mol/L以上とすることがより好ましい。
【0069】
前記薬液の温度は特に限定されないが、めっき被膜の溶解性を高めるという観点からは、室温よりも高い温度に加熱して用いることが好ましい。前記温度は、例えば、40℃以上であってよく、50℃以上であってもよく、60℃以上であってもよい。一方、過度に温度が高いと取り扱いが困難となるため、前記薬液の温度は90℃以下とすることが好ましく、80℃以下とすることがより好ましい。
【0070】
堆積物除去工程で使用した薬液は、ある程度の期間使用した後、廃液として処分することもできるが、環境負荷低減の観点からは、成分調整を施した上で再利用することが好ましい。
【0071】
また、上記のようにして堆積物を除去したあとの成膜装置用部材は、めっき被膜を備えない基材のみの状態となっている。そこで、堆積物を除去したあとの成膜装置用部材(基材)の表面に、再度めっきを施してめっき被膜を形成し、成膜装置用部材として再利用することが好ましい。言い換えると、本発明の他の実施形態の1つは、上記堆積物除去工程と、前記堆積物除去工程でめっき被膜および堆積物が除去された後の基材の表面に再度めっきを施してめっき被膜を形成する再めっき工程を含む、成膜装置用部材の再生方法であってよい。
【0072】
このように、成膜装置用部材を再生することにより、堆積物を除去、回収しつつ、基材を繰返し用いることができる。
【0073】
(有価金属回収方法)
次に、使用済みの成膜装置用部材から、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物に含まれる有価金属を回収する有価金属回収方法について説明する。なお、特に言及しない点については、上述した成膜装置用部材および堆積物除去方法の説明と同様とすることができる。
【0074】
本発明の一実施形態における有価金属回収方法は、成膜装置において使用された後の成膜装置用部材から、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物に含まれる有価金属を回収する有価金属回収方法であって、前記成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記堆積物を前記成膜装置用部材から除去する堆積物除去工程と、前記堆積物除去工程で除去された堆積物から有価金属を回収する回収工程とを含む。ここで、前記成膜装置用部材としては、上述した成膜装置用部材を使用することができる。
【0075】
[堆積物除去工程]
前記堆積物除去工程については、上記堆積物除去方法の説明において述べたとおりである。
【0076】
[回収工程]
上記堆積物除去工程で成膜装置用部材から堆積物を除去した後、該堆積物から有価金属を回収する。前記回収の方法は特に限定されないが、例えば、堆積物除去工程で使用した薬液中に存在する固形分を、ろ過などの方法により薬液から分離し、必要に応じて溶解、精製などの処理を施せばよい。本発明では、このように有価金属を固形物として回収することができるため、有価金属自体を溶解して回収する場合に比べて極めて効率的に回収が可能である。
【0077】
例えば、前記堆積物が貴金属である場合、薬液から固体状の堆積物(貴金属)を分離した後、王水などに溶解して液体状にして回収することもできる。また、高周波熔解などの方法で一旦溶融し、その後、固化させることでインゴット等として回収することもできる。回収した有価金属は、リサイクルすることが好ましい。
【0078】
上記有価金属としては、貴金属に限らず、任意の金属を回収することができる。成膜に使用される有価金属としては、例えば、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Mo、Ta、W、Al、Co、Cu、Fe、Mg、Mn、Sn、Cr、Nb、Ti、V、Ni、Bi、Ga、Ge、Si、Sr、Baなどが挙げられる。
【0079】
なお、堆積物除去工程において、堆積物中の有価金属が薬液に溶解した場合には、例えば、電解採取などの方法により回収することもできる。
【0080】
(成膜装置用部材の再生方法)
次に、使用済みの成膜装置用部材を再生する方法について説明する。なお、特に言及しない点については、上述した成膜装置用部材、成膜装置用部材の製造方法、および堆積物除去方法と同様とすることができる。
【0081】
本発明の一実施形態における成膜装置用部材の再生方法は、上述した成膜装置用部材を対象とするものである。そして、前記再生方法は下記の工程を含む。
(1)前記成膜装置用部材のめっき被膜を溶解することにより、前記成膜装置用部材の表面に付着した堆積物を前記成膜装置用部材から除去する堆積物除去工程
(2)前記堆積物が除去された後の前記基材の表面にめっきを施してめっき被膜を形成するめっき工程
【0082】
そして、前記再生方法においては、前記めっき被膜を形成する前の基材の表面における算術平均粗さRa(μm)を、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r1よりも小さい値とする。
r1=0.4578t-0.5027 …(1)
【0083】
本再生方法では、使用済みの成膜装置用部材から堆積物を除去した上で、再度めっき被膜を形成するので、再生された成膜装置用部材は、新しい成膜装置用部材と同様に成膜に用いることができる。また、再生された成膜装置用部材においては、基材の表面粗さとめっき被膜の膜厚が上述した条件を満たしているため、再度使用した後にも、容易に堆積物を除去することができる。したがって、本方法によれば、成膜装置用部材を繰返し使用することができる。
【0084】
なお、上記堆積物除去工程で堆積物を除去した時点で、基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、次のめっき工程で形成する予定のめっき被膜の膜厚t(μm)を用いて上記(1)式により算出される値r1以上である場合には、さらに粗面化処理を行って、Ra(μm)がr1より小さくなるように表面粗さを調整してもよい。
【0085】
言い換えると、本発明の別の実施形態における再生方法は、前記堆積物除去工程の後、前記めっき工程の前に、さらに、粗面化処理工程を含み、前記粗面化処理工程により、Ra(μm)がr1より小さくなるように表面粗さを調整することができる。
【0086】
また、本発明の別の実施形態における再生方法は、前記堆積物除去工程の後、前記粗面化処理工程の前に、さらに、粗面化処理工程の要否を判断する判断工程を含むことができる。前記判断工程においては、例えば、Ra(μm)がr1より小さいか否かを判定し、すでにRa(μm)がr1より小さい場合には前記粗面化処理工程を実施することなく次のめっき工程を実施し、反対に、Ra(μm)がr1以上である場合には前記粗面化処理工程を実施することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0088】
まず、上記実験1と同様の方法で、基材の表面にNiめっき被膜を有する試験片を作成した。ただし、本実施例では、基材の全面、すなわちオモテ面、裏面、側面のすべてにNiめっき被膜を形成した。前記試験片の寸法や材質などの条件は上記実験1と同様とした。なお、ブラスト処理条件は表2に示す通りとした。各ブラスト条件は、それぞれ下記の研磨材を用いたことを表す。
・WA #30:白色アルミナ研磨材#30(平均粒径:500~710μm)
・WA #60:白色アルミナ研磨材#60(平均粒径:212~300μm)
・WA #80:白色アルミナ研磨材#80(平均粒径:150~212μm)
・WA #220:白色アルミナ研磨材#220(平均粒径:45~75μm)
・WA #400:白色アルミナ研磨材#80(平均粒径:20~58μm)
・GC #1000:緑色炭化ケイ素#80(平均粒径:7~27μm)
【0089】
上記Niめっき被膜を形成する前の基材表面の算術平均粗さRaと、Niめっき被膜の厚さtを、それぞれ次の方法で測定した。測定結果を表2に示す。
【0090】
(算術平均粗さRa)
Niめっき被膜を形成する前の基材表面の算術平均粗さRaは、触針式の表面粗さ測定器である「小型表面粗さ測定機 Surftest SJ-210」(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。測定条件は次の通りとした。
・粗さ曲線用カットオフ値λc:0.8mm
・断面曲線用カットオフ値λs:2.5μm
・区間数:5
・測定長さ:4mm
【0091】
(めっき被膜の膜厚t)
めっき被膜の膜厚tは、めっき被膜を形成する前後での重量差から算出した。具体的には、まず、めっき被膜を形成する前の基材の重量w0を測定した。次に、めっき被膜を形成した後の試験片の重量w1を測定した。得られた値から、下記の式によりめっき膜厚tを求めた。
t(μm)=(w1-w0)/(d×S)×10000
ここで、
w0:めっき被膜を形成する前の基材の重量(g)
w1:めっき被膜を形成した後の試験片の重量(g)
d:Niの密度:8.90g/cm3
S:基材の表面積(cm2)
【0092】
得られた膜厚tを用いて(1)式で算出したr1の値と、Raがr1未満であるとの条件を満足するか否かについても表2に併記した。
【0093】
(剥離試験)
次に、各試験片における堆積物の除去しやすさを評価するために、以下の手順で剥離試験を行った。
【0094】
まず、上記試験片のNiめっき被膜の表面に、スパッタリングにより堆積物としてのAuスパッタ膜を形成した。Auスパッタ膜の膜厚は、約0.7μmとした。
【0095】
次いで、前記Auスパッタ膜を形成した試験片を、硝酸に浸漬してNiめっき被膜を溶解させた。前記硝酸としては、濃度:7mol/L、温度:60℃の硝酸を使用し、浸漬時間は240分とした。ただし、発明例No.9のみめっき被膜が非常に厚いため、浸漬時間を480分とした。浸漬を行う間、容器の底部に設置した攪拌子を使用して連続的に攪拌を行った。
【0096】
上記浸漬時間が経過した後、試験片を硝酸から引上げ、水洗した。その後、前記試験片の表面におけるAu剥離率を測定した。前記Au剥離率は、上記スパッタリングにより試験片に付着したAuの量wAu、0(g)と、上記硝酸浸漬によるNiめっき被膜の除去後に試験片に残存していたAuの量wAu、1(g)とから、下記の式により算出した。
Au剥離率(%)={1-wAu、1/wAu、0}×100
【0097】
ここで、スパッタリングにより試験片に付着したAuの量wAu、0は、上記スパッタリングを行う際に、スパッタリング前の試験片の重量と、スパッタリング後の試験片の重量を測定し、両者の差から求めた。
【0098】
上記硝酸浸漬によるNiめっき被膜の除去後に試験片に残存していたAuの量wAu、1は、以下の手順で測定した。まず、上記硝酸浸漬によるNiめっき被膜の除去後の試験片の表面に残存しているAuをシアン化カリウム水溶液に溶解させた。次いで、Auが溶解した前記シアン化カリウム水溶液を100mLに定容し、ICP発光分光分析によりAu濃度(g/L)を測定した。前記Au濃度からwAu、1(g)を求めた。なお、ここでAu剥離率が100%である場合は、試験片の表面に付着していたAuスパッタ膜が完全に除去できていることを意味する。したがって、Au剥離率は高い方がよく、ここではAu剥離率が98%以上の場合を合格(○)、98%未満の場合を不合格(×)として評価した結果を表2に併記した。
【0099】
表2に示した結果から分かるように、本発明の条件を満たす試験片では、98%以上という極めて高いAu剥離率を達成することができていた。また、剥離したAuスパッタ膜は、溶解することなく固体として分離されていたため、ろ過などの方法により容易に回収することができた。
【0100】
【符号の説明】
【0101】
10 試験片
11 基材
12 Niめっき被膜
13 Auスパッタ膜
14 SnPbAgはんだ
15 SnPbAgワイヤー
【要約】
【課題】堆積物を残存させることなく容易に除去することが可能であり、かつ使用時の堆積物の保持性にも優れる成膜装置用部材を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の表面に形成されためっき被膜とを備える成膜装置用部材であって、前記基材の表面における算術平均粗さRa(μm)が、前記めっき被膜の膜厚t(μm)を用いて下記(1)式により算出される値r
1よりも小さい、成膜装置用部材。
r
1=0.4578t-0.5027 …(1)
【選択図】
図1