(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】容器及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220826BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220826BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220826BHJP
C08G 65/32 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
C12M1/00 C ZNA
C12N5/071
C12N1/00 B
C08G65/32
(21)【出願番号】P 2018006810
(22)【出願日】2018-01-18
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】須賀 英隆
(72)【発明者】
【氏名】有馬 寛
(72)【発明者】
【氏名】榊原 真弓
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 慎治
(72)【発明者】
【氏名】田村 磨聖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 琢
(72)【発明者】
【氏名】長崎 玲子
(72)【発明者】
【氏名】長崎 晃
(72)【発明者】
【氏名】金森 敏幸
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-531433(JP,A)
【文献】特表2017-527669(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147878(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129673(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104541(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159380(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/013669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留可能な内部空間が形成された容器本体と、
前記内部空間を複数の液体貯留部に区画する隔壁と、を備え、
前記隔壁に、前記複数の液体貯留部のうち第1液体貯留部と第2液体貯留部とを連通させる孔が形成されており、前記孔にはハイドロゲルが保持されており、
前記孔の開口部は、前記隔壁の厚さ方向から見て、前記隔壁の全ての周縁から離れた位置に形成されており、
前記隔壁の厚さ方向の一方の面及び他方の面において、前記隔壁の厚さ方向から見た前記孔の断面積と同じ面積の円を想定したときの円の直径(面積相当径)をdとし、前記孔が形成された箇所における前記隔壁の厚さをtとしたとき、t:dは、1:0.5~1:5であり、
前記孔の1つあたりの体積は、0.5μL~1mLであり、
前記ハイドロゲルは、細胞を包含した状態で、前記孔の全体に充填されており、前記ハイドロゲルは、前記隔壁の厚さ方向の一方の面と面一である第1主面と、前記隔壁の厚さ方向の他方の面と面一である第2主面とを有する、容器。
【請求項2】
前記孔の表面の少なくとも一部に、前記ハイドロゲルを固定するための化合物が積層されている、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記ハイドロゲルが、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される化合物、培地及び前記細胞を混合することにより得られるものである、請求項1又は2に記載の容器。
【化1】
[式(A)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
1、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
1又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表
し、R
1
~R
4
のうちの2つ以上が-O(CH
2
CH
2
O)
n
-L-Z
1
である。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
1はアルキニル基を表し、nは20~500の整数を表す。pは
1~3の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
2及びR
4はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【化2】
[式(B)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
2、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
2又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表
し、R
5
~R
8
のうちの2つ以上が-O(CH
2
CH
2
O)
n
-L-Z
2
である。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
2はアジド基を表し、nは20~500の整数を表す。pは
1~3の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
6及びR
8はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【請求項4】
前記アルキニル基が、シクロオクチン環又はアザシクロオクチン環を有する基である、請求項3に記載の容器。
【請求項5】
前記式(A)で表される化合物がDBCO-4armPEGであり、前記式(B)で表される化合物がAzide-4armPEGである、請求項3に記載の容器。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の容器の製造方法であって、
前記孔に前記細胞を包含したハイドロゲルを配置する工程を含む、容器の製造方法。
【請求項7】
前記孔に前記細胞を包含したハイドロゲルを配置する工程は、
前記ハイドロゲルの材料に前記細胞を混合して調製したプレゲル溶液を前記孔に注入して前記孔を満たす工程と、
前記プレゲル溶液をゲル化させて前記ハイドロゲルを形成させる工程と、
を含む、請求項
6に記載の容器の製造方法。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載の容器の製造方法により、前記容器を製造する工程と、
前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、対象物質の濃度が互いに異なる培地をそれぞれ入れ、その結果、前記細胞を包含した前記ハイドロゲルに前記対象物質の濃度勾配が形成される工程と、
前記細胞を包含した前記ハイドロゲルをインキュベートする工程と、
を含む、細胞培養方法。
【請求項9】
前記細胞が下垂体原基の性質を有する細胞塊であり、前記対象物質が、糖質コルチコイド、骨形成タンパク質(BMP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)及びソニック・ヘッジホッグ(Shh)からなる群より選択される分化誘導因子である、請求項
8に記載の細胞培養方法。
【請求項10】
下垂体の製造方法であって、
請求項
6又は
7に記載の容器の製造方法により、前記細胞が、下垂体原基の性質を有する細胞塊である、前記容器を製造する工程と、
前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、糖質コルチコイド、BMP、FGF及びShhからなる群より選択される分化誘導因子の濃度が互いに異なる培地をそれぞれ入れ、その結果、前記細胞塊を包含した前記ハイドロゲルに前記分化誘導因子の濃度勾配が形成される工程と、
前記細胞塊を包含した前記ハイドロゲルをインキュベートし、その結果、前記細胞塊から下垂体が形成される工程と、
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器及びその使用に関する。より具体的には、容器、キット、対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲルの製造方法、細胞培養方法、及び下垂体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞から、複雑な組織や器官を分化誘導する場合、細胞を3次元培養(3D培養)することが適していると考えられている。その要諦は、胎児の発生を試験管内で再現することにあり、3D培養の方が平面培養よりも胎児発生を再現しやすいことにあると考えられる。
【0003】
下垂体は複雑な器官の1例である。例えば、特許文献1には、ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養(3D浮遊培養)することを含む、腺性下垂体又はその前駆組織を含むヒト細胞凝集塊の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/013669号
【文献】国際公開第2017/126551号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下垂体の発生はよく研究され、知見が蓄積している。
図1は、下垂体分化の後半ともいうべき、下垂体原基を形成した後のマウスの発生を示す模式図である。
図1中、BMP,FGF,Shh,Wntは、分化誘導シグナルを表す。
図1に示すように、下垂体原基には、背側の視床下部からのシグナル、及び腹側の口腔表皮からのシグナルが濃度勾配を形成した状態で作用すると考えられている。また、左右方向の周囲には神経堤由来の間葉系細胞が遊走してきており、そこからもシグナルが分泌される。
【0006】
特許文献1の製造方法をさらに発展させたものが特許文献2に記載されている。具体的には、マウス又はヒトのES細胞又はiPS細胞を3D培養することで、下垂体分化に必須な視床下部と口腔外胚葉とを、同時に、1つの3D細胞塊内に分化誘導させることができる。続いて、下垂体原基が自発的に誘導され、最終的に下垂体ホルモン産生細胞へと分化する。
【0007】
この下垂体ホルモン産生細胞は、生体内と同様に、刺激に反応してホルモンを分泌し、周囲に十分なホルモンがあれば抑制がかかるという、高度な分化を達成している。平面培養ではこのような応答能をもった下垂体ホルモン産生細胞を誘導できないことからも、3D培養は高いポテンシャルを有していると考えられる。
【0008】
一方で、従来の3D培養法には限界もある。生体の下垂体には、吻側及び尾側、腹側及び背側で、複数種類の下垂体ホルモン産生細胞が、種類ごとに部位を偏在して存在している。これに対して、従来の3D培養法では、下垂体ホルモン産生細胞を1種類ごとに誘導することはできるが、複数種類の下垂体ホルモン産生細胞を偏在させて同時に誘導することはできない。
【0009】
発明者らは、この原因として、胎児には存在する誘導因子の濃度勾配が、従来の3D培養法では再現できず、培養液中の誘導因子の濃度が一定になってしまっていることにあると考えた。そこで、本発明は、対象物質の濃度勾配を形成する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]液体を貯留可能な内部空間が形成された容器本体と、前記内部空間を複数の液体貯留部に区画する隔壁と、を備え、前記隔壁に、前記複数の液体貯留部のうち少なくとも2つを連通させる孔であって、ハイドロゲルが保持される孔が形成されている、容器。
[2]前記孔は、前記隔壁の厚さ方向から見て、前記隔壁の周縁から離れた位置に形成されている、[1]記載の容器。
[3]前記孔の表面の少なくとも一部に、前記ハイドロゲルを固定するための化合物が積層されている、[1]又は[2]に記載の容器。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の容器と、前記ハイドロゲルの材料とを含む、キット。
[5]前記ハイドロゲルの材料が、下記式(A)で表される化合物及び下記式(B)で表される化合物を含む、[4]に記載のキット。
【化1】
[式(A)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
1、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
1又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
1はアルキニル基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
2及びR
4はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【化2】
[式(B)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
2、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
2又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
2はアジド基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
6及びR
8はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
[6][1]~[3]のいずれかに記載の容器の前記孔にハイドロゲルを配置する工程と、前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、対象物質の濃度が互いに異なる液体をそれぞれ入れ、その結果、前記ハイドロゲルに前記対象物質の濃度勾配が形成される工程と、を含む、対象物質の濃度勾配を有する前記ハイドロゲルの製造方法。
[7]前記ハイドロゲルが、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される化合物及び水系液体を混合することにより得られるものである、[6]に記載の製造方法。
【化3】
[式(A)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
1、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
1又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
1はアルキニル基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
2及びR
4はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【化4】
[式(B)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
2、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
2又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
2はアジド基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
6及びR
8はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
[8][1]~[3]のいずれかに記載の容器の前記孔に細胞含有ハイドロゲルを配置する工程と、前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、対象物質の濃度が互いに異なる培地をそれぞれ入れ、その結果、前記細胞含有ハイドロゲルに前記対象物質の濃度勾配が形成される工程と、前記細胞含有ハイドロゲルをインキュベートする工程と、を含む、細胞培養方法。
[9]前記細胞含有ハイドロゲルが、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される化合物、培地及び細胞を混合することにより得られるものである、[8]に記載の細胞培養方法。
【化5】
[式(A)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
1、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
1又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
1はアルキニル基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
2及びR
4はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【化6】
[式(B)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
2、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
2又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
2はアジド基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
6及びR
8はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
[10]前記細胞が下垂体原基の性質を有する細胞塊であり、前記対象物質が、糖質コルチコイド、骨形成タンパク質(BMP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)及びソニック・ヘッジホッグ(Shh)からなる群より選択される分化誘導因子である、[8]又は[9]に記載の細胞培養方法。
[11]下垂体の製造方法であって、[1]~[3]のいずれかに記載の容器の前記孔に、下垂体原基の性質を有する細胞塊を含有する、細胞塊含有ハイドロゲルを配置する工程と、前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、糖質コルチコイド、BMP、FGF及びShhからなる群より選択される分化誘導因子の濃度が互いに異なる培地をそれぞれ入れ、その結果、前記細胞塊含有ハイドロゲルに前記分化誘導因子の濃度勾配が形成される工程と、前記細胞塊含有ハイドロゲルをインキュベートし、その結果、前記細胞塊から下垂体が形成される工程と、を含む、製造方法。
[12]前記細胞塊含有ハイドロゲルが、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される化合物、培地及び下垂体原基の性質を有する細胞塊を混合することにより得られるものである、[11]に記載の製造方法。
【化7】
[式(A)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
1、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
1又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
1はアルキニル基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
2及びR
4はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【化8】
[式(B)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
2、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
2又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
2はアジド基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
6及びR
8はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、対象物質の濃度勾配を形成する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】下垂体原基を形成した後の発生を示す模式図である。
【
図4】
図3に示すI-I線に沿うYZ断面図である。
【
図5】
図3に示すII-II線に沿うXZ断面図である。
【
図6】
図2の容器を用いた培養装置のYZ断面図である。
【
図7】
図2の容器を用いた培養装置のXZ断面図である。
【
図8】3つの液体貯留部を有する容器の一例を示す上面図である。
【
図9】1実施形態に係る容器の成形型を示す模式図である。
【
図10】1実施形態に係る容器の成形型を示す斜視図である。
【
図11】1実施形態に係る容器の製造方法を説明する模式図である。
【
図12】1実施形態に係る容器の製造方法を説明する模式図である。
【
図13】1実施形態に係る容器の製造方法を説明する模式図である。
【
図14】2つの液体貯留部を有する容器の一例を示す上面図である。
【
図16】
図15に示すIII-III線に沿うYZ断面図である。
【
図18】(a)は、実験例3において、
図3~5に示す容器の孔にプレゲル溶液を導入した様子を示す写真である。(b)は、実験例3において、
図15~17に示す容器の孔にプレゲル溶液を導入した様子を示す写真である。
【
図19】(a)及び(b)は、孔にハイドロゲルを導入した容器の第1液体貯留部及び第2液体貯留部にそれぞれ液体を導入した状態を示す写真である。
【
図20】(a)及び(b)は、実験例4において対象物質としてフルオレセインを使用した場合のハイドロゲルの写真である。(c)は実験例4において対象物質としてフルオレセインを使用した場合の結果を示すグラフである。
【
図21】(a)及び(b)は、実験例4において対象物質としてFITCデキストランを使用した場合のハイドロゲルの写真である。(c)は実験例4において対象物質としてFITCデキストランを使用した場合の結果を示すグラフである。
【
図22】(a)及び(b)は、実験例4において対象物質としてYFP-CFP融合タンパク質を使用した場合のハイドロゲルの写真である。(c)は実験例4において対象物質としてYFP-CFP融合タンパク質を使用した場合の結果を示すグラフである。
【
図23】(a)及び(b)は実験例5における免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図24】実験例6における免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。また、図には、場合によりX-Y-Z座標系を示した。以下、必要に応じて各座標系に基づいて各方向の説明を行う。
【0014】
[容器]
1実施形態において、本発明は、液体を貯留可能な内部空間が形成された容器本体と、前記内部空間を複数の液体貯留部に区画する隔壁と、を備え、前記隔壁に、前記複数の液体貯留部のうち少なくとも2つを連通させる孔であって、ハイドロゲルが保持される孔が形成されている、容器を提供する。後述するように、本実施形態の容器を用いることにより、対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲルを製造することができる。
【0015】
図2は、本実施形態の容器の一例である容器10の斜視図である。
図3は、容器10の平面図である。
図4は、
図3に示すI-I線に沿うYZ断面図である。
図5は、
図3に示すII-II線に沿うXZ断面図である。
【0016】
図2~
図5において、X方向は、容器本体1の底板11の長さ方向である。Y方向は、底板11に沿う面内でX方向に直交する方向である。Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向であり、底板11の厚さ方向である。Z方向を上下方向または高さ方向ともいう。一対の側板12A,12B、及び一対の端板13A,13Bは、底板11に対して上方に延出している。平面視とはZ方向から見ることをいう。
【0017】
図2に示すように、容器10は、容器本体1と、隔壁2とを備える。容器本体1は、底板11と、一対の側板12A,12Bと、一対の端板13A,13Bと、を備えている。側板12A,12Bと、端板13A,13Bと、隔壁2とは、容器10の主部14を構成する。主部14は、一体に形成されていてよい。
【0018】
底板11は、平面視において矩形状である。側板12A,12Bは、底板11の第1主面11aに立設されている。側板12A,12BはXZ平面に沿って形成されている。側板12A,12Bは、例えば、厚さ方向(Y方向)から見て矩形状である。2つの側板12A,12BはY方向に離れて形成されている。
【0019】
端板13A,13Bは、底板11の第1主面11aに立設されている。端板13A,13BはYZ平面に沿って形成されている。端板13A,13Bは、厚さ方向(X方向)から見て矩形状である。2つの端板13A,13BはX方向に離れて形成されている。
【0020】
底板11と、側板12A,12Bと、端板13A,13Bとにより囲まれた空間を内部空間15という。側板12A,12Bの下縁及び端板13A,13Bの下縁と、底板11とは液密に接合されている。そのため、容器10は、内部空間15に液体を貯留可能である。底板11は、液体貯留部17A,17B(後述)の下部開口を閉止している。
【0021】
隔壁2は、底板11の第1主面11aに立設されている。隔壁2はXZ平面に沿って形成されている。隔壁2は、厚さ方向(Y方向)から見て矩形状である。隔壁2は、側板12A,12Bと平行である。隔壁2は、側板12A,12Bの間に、側板12A,12Bから間隔をおいて形成されている。隔壁2は一定の厚さを有する。
【0022】
隔壁2の下縁2dは、底板11の第1主面11aに液密に接合されている。隔壁2の側縁2fa,2fbは、それぞれ端板13A,13Bの内面13Aa,13Baに達している。隔壁2の上縁2eは、側板12A,12Bの上縁12Ab,12Bb、及び端板13A,13Bの上縁13Ab,13Bbと同じ高さ位置にある。
【0023】
隔壁2は、容器本体1内において、内部空間15を2つの液体貯留部17A,17Bに区画している。隔壁2は、2つの液体貯留部17A,17Bを隔てている。第1液体貯留部17Aは、隔壁2の一方の面2a(第1主面2a)と、第1側板12Aとの間に形成された空間である。第2液体貯留部17Bは、隔壁2の他方の面2b(第2主面2b)と、第2側板12Bとの間に形成された空間である。
【0024】
図4及び
図5に示すように、隔壁2には、孔21が形成されている。孔21は、隔壁2を厚さ方向(Y方向)に貫通する貫通孔である。孔21は、第1液体貯留部17Aと第2液体貯留部17Bとを連通させる。
【0025】
図5に示すように、隔壁2の厚さ方向(Y方向)から見た孔21の形状は、矩形である。孔21の下縁21a及び上縁21cはX方向に沿う。孔21の側縁21ba,21bbはZ方向に沿う。
【0026】
図5に示すように、孔21の底面23aと天面23cとはXY平面に沿う。底面23aと天面23cとは互いに平行である。
図5に示すように、孔21の一対の側面23ba,23bbはYZ平面に沿う。側面23ba,23bbは互いに平行である。底面23aは、隔壁2の厚さ方向(Y方向)から見て下縁21aと一致する。側面23ba,23bbは、Y方向から見て、それぞれ側縁21ba,21bbと一致する。天面23cは、Y方向から見て上縁21cと一致する。
【0027】
孔21は、隔壁2の周縁(下縁2d、上縁2e、および側縁2fa,2fb)から離れた位置に形成されている。すなわち、孔21の下縁21aは隔壁2の下縁2dより高い位置にある。孔21の側縁21ba,21bbは隔壁2の側縁2fa,2fbよりも内方(側縁2fa,2fbが互いに近づく方向)寄りの位置にある。孔21の上縁21cは、隔壁2の上縁2eより低い位置にある。
【0028】
孔21はハイドロゲルを保持するものである。後述するように、孔21にハイドロゲルの材料であるプレゲル溶液を注入して孔21を満たし、続いて、プレゲル溶液をゲル化させてハイドロゲルを形成させることにより、孔21にハイドロゲルを保持させることができる。ハイドロゲルについては後述する。
【0029】
ここで、実施例において後述するように、容器10の孔21の一部が隔壁2の周縁に接している場合、孔21にプレゲル溶液を注入すると、プレゲル溶液が孔21から漏れ出てしまう。このような形状のプレゲル溶液をゲル化させると表面が球形のゲルが形成され、その場合、周囲の培地からの対象物質の濃度勾配が乱れてしまう。
【0030】
これに対し、発明者らは、容器10の孔21を、隔壁2の周縁から離れた位置に形成することにより、プレゲル溶液を孔21に注入した場合に、プレゲル溶液を孔21の内部に保持させることができることを見出した。この状態でプレゲル溶液をゲル化すると、培地と接する面が平面なゲルを得ることができる。その結果、培地を充填した場合に周囲の培地からの対象物質の濃度勾配を、例えば実施例に示すように直線的に形成できる。このように、ゲルの培地と接する面が平面であることが重要であるため、容器10の孔21を、隔壁2の周縁から離れた位置に形成することが重要なのである。
【0031】
したがって、容器10の孔21が、隔壁2の周縁から離れた位置に形成されていることにより、孔21の内部に孔21を満たす形状(孔21を塞ぐ形状、孔21と略同一の形状)のハイドロゲルを形成することができる。容器10の孔21を満たした状態でハイドロゲルを形成した場合、液体貯留部17Aに入れた液体がそのまま液体貯留部17Bへと流出することはない。
【0032】
後述するように、ハイドロゲルには細胞を含ませてもよい。細胞は特に限定されず、ヒト由来の細胞であってもよいし、非ヒト動物由来の細胞であってもよいし、植物由来の細胞であってもよいし、昆虫由来の細胞であってもよい。細胞は、1個ずつばらばらに解離した単一細胞であってもよいし、細胞塊であってもよい。細胞塊を構成する細胞の数は特に限定されず、例えば2~108個が例示できる。
【0033】
本実施形態の容器は、例えば細胞の培養に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の容器は培養容器であるということができる。
【0034】
容器10において、孔21の表面の少なくとも一部には、ハイドロゲルを固定するための化合物が積層されていることが好ましい。
【0035】
本明細書において、孔21の表面に化合物を積層するとは、物理吸着、共有結合等により、孔21の表面に化合物を付着させることを意味する。
【0036】
後述するように、ハイドロゲルとしては、例えば、アジド基を有する化合物とアルキニル基を有する化合物を反応させて形成するハイドロゲルを好適に用いることができる。そこで、このようなハイドロゲルを用いる場合には、ハイドロゲルを固定するための化合物として、アジド基又はアルキニル基を有する化合物を用いることができる。より具体的には、例えば、実施例において後述するアジド化ポリ-L-リジン等が挙げられる。また、アルキニル基としては、例えば、ジベンゾシクロオクチル(DBCO)基等が挙げられる。
【0037】
ハイドロゲルを固定するための化合物は、必ずしもハイドロゲルの構成物質と共有結合を形成する必要はない。このような観点から、ハイドロゲルを固定するための化合物としては、上述したものの他にも、例えば、ポリ-L-リジン、アガロース、ゼラチン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等を用いることができる。
【0038】
ハイドロゲルを固定するための化合物を孔21の表面に積層することにより、ハイドロゲルを孔21に固定し、ハイドロゲルが孔21から外れるのを防ぐことができる。以下、ハイドロゲルを固定するための化合物を孔21の表面に積層する操作を、「表面コート処理」という場合がある。
【0039】
孔21にハイドロゲルが充填された容器10は培養装置であるということができる。
図6は、容器10の孔21にハイドロゲルが充填された、培養装置30を示すYZ断面図である。
図7は、培養装置30のXZ断面図である。
図6および
図7に示すように、培養装置30は、容器本体1と、隔壁2と、ハイドロゲル3を備える。すなわち、培養装置30は、容器10の孔21にハイドロゲル3を設けた構成である。
【0040】
ハイドロゲル3は、細胞4を包含した状態で、孔21の全体に充填されている。
図6に示すように、ハイドロゲル3は、孔21に、隔壁2の厚さ方向の全体にわたって形成されている。ハイドロゲル3の第1主面3aは、第1液体貯留部17Aに面している。ハイドロゲル3の第1主面3aはXZ平面に沿う面であり、隔壁2の第1主面2aと面一である。ハイドロゲル3の第2主面3bは、第2液体貯留部17Bに面している。ハイドロゲル3の第2主面3bはXZ平面に沿う面であり、隔壁2の第2主面2bと面一である。
【0041】
ゲル3は、孔21の底面23a、側面21ba,21bb(
図6参照)及び天面23cに、その全面にわたって接している。実施例において後述するように、培養装置30を用いて、対象物質の密度勾配の影響下で細胞を培養することができる。
【0042】
(変形例)
本実施形態の容器は容器10に限られない。例えば、容器10の底板11は、平面視において矩形状であるが、底板11の形状はこれに限られない。底板11の形状は、例えば円形、楕円形等であってもよく、3角形、5角形、6角形等の多角形であってもよい。
【0043】
また、容器10の外面は略立方体形状であるが、これに限られない。容器の外面は、例えば、直方体形状であってもよいし、例えば球形、楕円体形状等であってもよい。
【0044】
また、容器10は隔壁2を1つ有しているが、隔壁の数は2以上であってもよい。いいかえると、容器10は、17A,17Bの2つの液体貯留部を有しているが、液体貯留部の数は3以上であってもよい。
図8は、3つの液体貯留部を有する容器の一例を示す上面図である。
【0045】
容器が隔壁を複数有する場合、各隔壁の厚さは同じであってもよいし、
図8に示すように、互いに異なっていてもよい。
【0046】
また、容器が隔壁を複数有する場合、孔21は、複数の隔壁が接する位置に形成されていることが好ましい。これにより、孔21の内部に形成したハイドロゲルにおいて、複数の対象物質の濃度勾配を形成することが可能になる。
【0047】
例えば、
図8に示す容器においては、液体貯留部17A1,17A2に異なる対象物質を導入することにより、1つのハイドロゲル内に複数の対象物質の濃度勾配を形成することができる。
【0048】
また、
図2~
図5に示す容器10では隔壁2の厚さは一定であるが、隔壁2の厚さは一定でなくてもよい。
【0049】
また、
図2~
図5に示す容器10の孔21の数は1つであるが、孔21の数は、少なくとも2つの液体貯留部を連通するものである限り2個以上であってもよい。また、孔21が複数存在する場合においても、複数の孔21はいずれも隔壁2の周縁から離れた位置に形成されていることが好ましい。
【0050】
また、Y方向から見た孔21の形状は、矩形に限らず、円形、楕円形、3角形、5角形、6角形等の多角形等であってもよい。
【0051】
また、孔21の第1液体貯留部17Aへの開口部の大きさと、第2液体貯留部17Bへの開口部の大きさは、同一であってもよく、異なっていてもよい。孔21の開口部の大きさを変化させることにより、ハイドロゲルに形成される対象物質の濃度勾配を変化させることができる。
【0052】
また、隔壁2の厚さと孔21のXZ平面における断面積の大きさの好ましい関係は次のとおりである。
【0053】
まず、孔21のXZ平面における断面積が、隔壁2の厚さ方向(Y方向)に一定である場合、隔壁2の厚さ方向(Y方向)から見た孔21の断面積と同じ面積の円22(面積相当円)を想定し、円22の直径(面積相当径)を「d」とする。また、孔21が形成された箇所(孔21のXZ平面における断面の重心)における隔壁2の厚さをtとする。
【0054】
このとき、t:dは、1:0.5~1:5であることが好ましく、1:0.5~1:2であることがより好ましく、1:0.5~1:1.5であることが更に好ましく、約1:1であることが特に好ましい。
【0055】
また、孔21のXZ平面における断面積が、隔壁2の厚さ方向(Y方向)で異なっている場合には、孔21のXZ平面における断面積の最小値と同じ面積の円22(面積相当円)を想定し、円22の直径(面積相当径)を「d」とする。また、面積相当円を想定した孔21の断面の重心における隔壁2の厚さをtとする。
【0056】
このとき、t:dは、1:0.5~1:5であることが好ましく、1:0.5~1:2であることがより好ましく、1:0.5~1:1.5であることが更に好ましく、約1:1であることが特に好ましい。
【0057】
t:dが上記の範囲にあることにより、例えばハイドロゲル内に細胞塊を配置した場合に、細胞塊に接触する対象物質の密度勾配を大きくすることが容易になる。いいかえると、細胞塊に接触する対象物質の濃度を細胞塊の位置毎に大きく変えることが容易になる。
【0058】
また、孔21 1つあたりの体積は、例えば0.5μL~1mLであることが好ましく、1μL~500μLであることがより好ましく、1μL~100μLであることが更に好ましい。孔21 1つあたりの体積が上記の範囲であると、ハイドロゲルを孔21に注入しやすい。
【0059】
(容器の製造方法)
図9~13を参照しながら容器10の製造方法を説明する。容器10は、例えば、
図9に示す成形型100を用いて成形することができる。成形型100は、第1型101と、第2型102と、孔形成用駒103と、下部駒104,105と、底板106とを備える。
【0060】
図9、
図10に示すように、第1型101は、第1液体貯留部17Aに即した形状の第1形成部111と、第2液体貯留部17Bに即した形状の第2形成部112とを有する。第1形成部111と第2形成部112とは互いに離間している。
【0061】
孔形成用駒103は、第1形成部111と第2形成部112との間に架け渡されている。形成用駒103は、第1形成部111及び第2形成部112に対して取り付け、取り外し可能である。下部駒104,105は、それぞれ第1形成部111及び第2形成部112の先端部に設けられている。下部駒104,105は、それぞれ第1形成部111及び第2形成部112に対して取り付け、取り外し可能である。
【0062】
培養容器10を成形するには、第1型101と第2型102との間の空隙部に樹脂Pを充てんし、硬化させる。これによって、主部14(
図2~5参照)が形成される。第1形成部111と第2形成部112との間に充てんされた樹脂Pは隔壁2(
図2~5参照)となる。隔壁2には、孔形成用駒103によって孔21が形成される。
【0063】
次いで、
図11に示すように、底板106を第2型102から外すとともに、下部駒104,105を、第1形成部111および第2形成部112から外す。これにより、孔形成用駒103が形成部111,112に対して容易に取り外しできるようになる。
【0064】
次いで、
図12に示すように、第1型101を第2型102から抜き出す。次いで、
図13に示すように、成形された主部14を第2型102から外し、主部14から孔形成用駒103を外す。次いで、別途用意した底板11(
図2~5参照)を主部14の下部に接合させる。
【0065】
主部14と底板11との接合は、例えば、シリコーン系の接着剤等を用いて行ってもよいし、超音波融着等により行ってもよい。以上の方法により、
図2~5に示す容器10を製造することができる。
【0066】
容器10を形成する樹脂Pとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0067】
[対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲルの製造方法]
1実施形態において、本発明は、上述した容器の前記孔にハイドロゲルを配置する工程と、前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、対象物質の濃度が互いに異なる液体をそれぞれ入れ、その結果、前記ハイドロゲルに前記対象物質の濃度勾配が形成される工程と、を含む、対象物質の濃度勾配を有する前記ハイドロゲルの製造方法を提供する。
【0068】
図14は、2つの液体貯留部を有する容器10を示す上面図である。
図14において、容器10の孔21にはハイドロゲル3が配置されている。そして、第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17Bに、対象物質の濃度が互いに異なる液体がそれぞれ導入されている。
図14の例では、対象物質は第1液体貯留部17Aに導入される液体のみに溶解されており、第2液体貯留部17Bに導入される液体は対象物質を含まない。
【0069】
その結果、
図14に示すように、対象物質がハイドロゲル3の第1液体貯留部17A側から拡散していき、ハイドロゲル3に対象物質の濃度勾配が形成される。
【0070】
(ハイドロゲル)
ハイドロゲルとは、ポリマーの網目構造の内部に水が取り込まれているゲルを意味する。本実施形態の製造方法において、ハイドロゲルとしては特に限定されず、例えば、アガロースゲル、低融点アガロースゲル、アルギン酸ゲル、カラギーナンゲル、キトサンゲル、コラーゲンゲル、フィブリンゲル、メチルセルロースゲル、ヒドロキシプロピルセルロースゲル、カルボキシメチルセルロースゲル、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、アクリル酸系合成ゲル、クリック架橋型ゲル等が挙げられる。
【0071】
クリック架橋型ゲルとしては、例えば、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される化合物及び水系液体を混合することにより得られるハイドロゲルが挙げられる。
【0072】
【化9】
[式(A)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
1、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
1又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
1はアルキニル基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
2及びR
4はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【0073】
【化10】
[式(B)中、A
1は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、-L-Z
2、-O(CH
2CH
2O)
n-L-Z
2又は炭素原子数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。ここで、Lは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~20の2価の基を表し、Z
2はアジド基を表し、nは20~500の整数を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数存在するR
6及びR
8はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。]
【0074】
《式(A)で表される化合物》
上記式(A)で表される化合物は、水溶性の基本骨格を有し、アジド基とクリック架橋反応する基を有するものである。
【0075】
ここで、基本骨格が水溶性であるとは、基本骨格となる化合物又は基本骨格を含む、上記式(A)で表される化合物が、常温から0度の温度において水又は略中性の緩衝液に10質量%以上溶解することを意味する。具体的な水溶性は、基本骨格となる化合物又は基本骨格を含む、上記式(A)で表される化合物を、1~100mg/mL程度の濃度でHEPESバッファー等の緩衝液(pH7.0~7.6)中に分散させ、溶解するか否かを目視で観察すること等により評価することができる。
【0076】
アジド基とクリック架橋反応する基とは、アジド基と容易かつ特異的に架橋反応を起こす基である。このような基としては、アルキニル基が挙げられる。より具体的には、シクロオクチン環又はアザシクロオクチン環を有する基が挙げられる。
【0077】
式(A)中、複数のA1が炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基である場合、前記アルキレン基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH2-はそれぞれ独立して-CH=CH-、-C≡C-、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、又はシクロヘキシレン基によって置換されていてもよい。また、pは0~50であってもよい。
【0078】
また、R1~R4のうちの少なくとも2つ、好ましくは3つ以上が-L-Z1であり、2つ以上が-O(CH2CH2O)n-L-Z1であることが好ましい。-L-Z1を3つ以上含むことで、式(B)で表される化合物との間に形成される架橋点が十分に多くなり、形成したハイドロゲルの強度を高めることができる。
【0079】
また、Lは、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエステル結合、カルバメート結合、カルボニル基、アルキレン基、これらの組み合わせ等であってよい。
【0080】
式(A)中、nはエチレングリコールの平均繰返し数である。nは20~500であり、30~250であることが好ましく、40~125であることがより好ましい。エチレングリコールの平均繰返し数を上記範囲に設定することで、式(A)で表される化合物の水系液体に対する溶解度を高めることができ、製造時及び使用時において取扱いが容易になる。
【0081】
エチレングリコールの平均繰り返し数nは、ゲル濾過クロマトグラフィーや質量分析によって分子量を測定し、NMRによってR1~R4基の数を推定すること等により推定することができる。
【0082】
式(A)中、Z1はアルキニル基を表し、具体的には、シクロオクチン環又はアザシクロオクチン環を有する基が挙げられる。シクロオクチン環及びアザシクロオクチン環中のアルキニル基はアジド基に対する反応性が高く、銅触媒等の触媒を用いることなく、アジド基とクリック反応することができる。シクロオクチン環又はアザシクロオクチン環を有する基としては、下記式(1)~(4)のいずれかで表される基が好ましい。
【0083】
【化11】
[式(1)~(4)中、*は上記式(A)におけるLとの結合位置を表す。]
【0084】
上記式(A)で表される化合物として、より具体的には、下記式(5)~(7)で表される化合物が好適に用いられる。下記式(5)~(7)において、L、Z1、n、pは、式(A)について上述したものと同様である。下記式(5)~(7)において、pは1~3であることが好ましい。
【0085】
【0086】
《式(B)で表される化合物》
上記式(B)で表される化合物は、水溶性の基本骨格を有し、アジド基(-N3)を有するものである。水溶性の基本骨格については、上記式(A)で表される化合物について上述したものと同様である。式(B)中、A1、L、n、pは、式(A)について上述したものと同様である。
【0087】
また、R5~R8のうちの少なくとも2つ、好ましくは3つ以上が-L-Z2であり、2つ以上が-O(CH2CH2O)n-L-Z2であることが好ましい。-L-Z2を3つ以上含むことで、式(A)で表される化合物との間に形成される架橋点が十分に多くなり、形成したハイドロゲルの強度を高めることができる。
【0088】
上記式(B)で表される化合物として、より具体的には、下記式(8)~(10)で表される化合物が好適に用いられる。下記式(8)~(10)において、L、n、pは、式(A)について上述したものと同様である。下記式(8)~(10)において、pは1~3であることが好ましい。
【0089】
【0090】
《水系液体》
上記式(A)で表される化合物、上記式(B)で表される化合物及び水系液体を混合することによりハイドロゲルを得ることができる。ここで、水系液体とは、水を主成分とする液体をいう。また、水を主成分とするとは、水系液体が含む水の割合が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であることを意味する。
【0091】
水系液体としては、例えば、水、細胞培養用培地、pH緩衝液等が挙げられる。細胞培養用培地は、ウシ胎児血清等の血清、抗生物質、分化誘導因子等を含有していてもよい。
【0092】
《対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲル》
本実施形態の製造方法により、対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲルを製造することができる。ハイドロゲルが対象物質の濃度勾配を有するとは、ハイドロゲル上の位置により、ハイドロゲルに含まれる対象物質の量が変化することを意味する。
【0093】
[細胞培養方法]
1実施形態において、本発明は、上述した容器の前記孔に細胞含有ハイドロゲルを配置する工程と、前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、対象物質の濃度が互いに異なる培地をそれぞれ入れ、その結果、前記細胞含有ハイドロゲルに前記対象物質の濃度勾配が形成される工程と、前記細胞含有ハイドロゲルをインキュベートする工程と、を含む、細胞培養方法を提供する。本実施形態の細胞培養方法により、対象物質の濃度勾配中で細胞を培養することができる。細胞は上述したものと同様であってよい。
【0094】
本実施形態の細胞培養方法は、例えば分化誘導因子の濃度勾配中で培養することが必要な、複雑な組織や器官の分化誘導に好適に利用することができる。このような組織や器官としては、例えば、下垂体、脳、眼、肝臓、腎臓、肺、消化管、膵臓等が挙げられる。
【0095】
本実施形態の細胞培養方法により、例えば、患者にHLA適合性を有する多能性幹細胞を分化誘導して複雑な組織や器官を分化誘導し、患者に移植する再生医療等に利用することができる。あるいは、分化誘導した組織や器官を用いて、医薬候補化合物のスクリーニングや、化合物の安全性試験等に利用することができる。
【0096】
本実施形態の細胞培養方法において、ハイドロゲルとしては、上述したものと同様のものを使用することができる。中でも、上記式(A)で表される化合物、上記式(B)で表される化合物及び水系液体を混合することにより得られるハイドロゲルを好適に用いることができる。
【0097】
細胞含有ハイドロゲルは、ハイドロゲルに細胞を含有させることにより調製することができる。例えば、ハイドロゲルが低融点アガロースである場合、培地等の水系液体に低融点アガロースを混合し、加熱して溶解させた後、低融点アガロースがゲル化せず、細胞が死なない程度の温度にまで冷却する。続いて、細胞を混合して容器10の孔21に導入し、そこでゲル化させる。これにより、容器10の孔21に細胞含有ハイドロゲルを配置することができる。
【0098】
あるいは、ハイドロゲルがクリック架橋型ゲルである場合、例えば、上記式(A)で表される化合物、上記式(B)で表される化合物及び培地を混合してプレゲル溶液を調製し、プレゲル溶液に細胞を混合することにより、細胞含有プレゲル溶液を調製することができる。
【0099】
続いて、細胞含有プレゲル溶液を容器10の孔21に導入し、そこでゲル化させる。ゲル化は室温で放置するだけで行うことができる。これにより、容器10の孔21に細胞含有ハイドロゲルを配置することができる。クリック架橋型ゲルは室温でゲル化させることができ、細胞に対する毒性も低いため、容易に細胞含有ハイドロゲルを孔21に配置することができる。
【0100】
本実施形態の細胞培養方法において、例えば、細胞が下垂体原基の性質を有する細胞塊であり、対象物質が、糖質コルチコイド、BMP、FGF及びShhからなる群より選択される分化誘導因子であってもよい。これにより、下垂体原基に分化誘導因子の濃度勾配を作用させ、従来不可能であった下垂体の分化誘導を行うことができる。
【0101】
下垂体原基の性質を有する細胞塊としては、例えば、ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、BMP及びShhを含む培地中で浮遊培養(3D浮遊培養)することにより得られる、LIM Homeobox 3(LHX3)陽性の細胞塊が挙げられる。
【0102】
[下垂体の製造方法]
1実施形態において、本発明は、下垂体の製造方法であって、上述した容器の前記孔に、下垂体原基の性質を有する細胞塊を含有する、細胞塊含有ハイドロゲルを配置する工程と、前記複数の液体貯留部の少なくとも2つに、糖質コルチコイド、BMP、FGF及びShhからなる群より選択される分化誘導因子の濃度が互いに異なる培地をそれぞれ入れ、その結果、前記細胞塊含有ハイドロゲルに前記分化誘導因子の濃度勾配が形成される工程と、前記細胞塊含有ハイドロゲルをインキュベートし、その結果、前記細胞塊から下垂体が形成される工程と、を含む、製造方法を提供する。
【0103】
実施例において後述するように、本実施形態の製造方法によれば、複数種類の下垂体ホルモン産生細胞を偏在させて同時に誘導し、機能的な下垂体を製造することができる。
【0104】
本実施形態の製造方法において、細胞塊含有ハイドロゲルは、上記式(A)で表される化合物、上記式(B)で表される化合物、培地及び下垂体原基の性質を有する細胞塊を混合することにより得られるものであってもよい。
【0105】
[キット]
1実施形態において、本発明は、上述した容器と、上述したハイドロゲルの材料とを含む、キットを提供する。本実施形態のキットは、例えば、対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲルの製造用キット、細胞培養用キット、下垂体の製造用キット等であるということができる。
【0106】
本実施形態のキットにおいて、ハイドロゲルの材料は、上記式(A)で表される化合物及び上記式(B)で表される化合物を含んでいてもよい。ここで、上記式(A)で表される化合物及び上記式(B)で表される化合物は、それぞれ別々に容器に収容されていてもよいし、混合されて同一の容器に収容されていてもよい。上記式(A)で表される化合物、上記式(B)で表される化合物及び水系液体を混合すると、クリック架橋反応が進行し、ハイドロゲルを形成することができる。
【実施例】
【0107】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
[実験例1]
(ハイドロゲル調製用試薬の合成)
ハイドロゲル調製用試薬として、DBCO-4armPEG及びAzide-4armPEGを合成した。
【0109】
《DBCO-4armPEGの合成》
まず、ペンタエリトリトールテトラ(アミノプロピル)ポリオキシエチレン(型式「PTE-400PA」、日油株式会社製、本明細書中、「4armPEG」という場合がある。)1gに20mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、40℃で撹拌して溶解させた。
【0110】
また、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)-sulfo-NHS(型式「A124」、Click chemistry tools社)52mgを10mLのDMSOに溶解させた。
【0111】
続いて、上記の4armPEG溶液に上記のDBCO-sulfo-NHS溶液を加え、40℃で3時間撹拌しながら反応させた。この結果、DBCO-4armPEGが得られた。
【0112】
続いて、上記の反応液にフルオレスカミンを反応させて、4armPEGへのDBCO基の導入率を測定した。具体的には、まず、フルオレスカミンをDMSOに溶解し、3mg/mL溶液を作製した。続いて、上記のDBCO-4armPEG溶液の100倍希釈液90μLとフルオレスカミン溶液30μLを混合し、暗所で30分間、室温で反応させた。
【0113】
続いて、励起波長360nmを照射し、波長465nmの蛍光をマイクロプレートリーダー(型式「GENios」、テカン社)を用いて測定し、4armPEGへのDBCO基の導入率を測定した。
【0114】
続いて、DBCO-4armPEGを透析した。透析は、分画分子量6,000~8,000の透析膜を用い、外液として水(ミリQ水)を用いて行った。透析開始から1時間後、17時間後、21時間後、25時間後、3日後に外液を交換した。
【0115】
続いて、透析後のDBCO-4armPEGを凍結乾燥し、使用するまで-20℃で保管した。4armPEGへのDBCO基の導入率は93.4%であり、DBCO-4armPEGの収量は776.3mgであった。また、合成したDBCO-4armPEGの分子量は43,168であった。
【0116】
《Azide-4armPEGの合成》
上記のDBCO-sulfo-NHS溶液の代わりに、Azide-PEG4-NHS(型式「AZ103」、Click chemistry tools社)38mgを10mLのDMSOに溶解させたAzide-PEG4-NHS溶液を使用した点以外は上記と同様にして、Azide-4armPEGを合成、透析、凍結乾燥し、使用するまで-20℃で保管した。
【0117】
4armPEGへのAzide基の導入率は99.4%であり、Azide-4armPEGの収量は1.0743gであった。また、合成したAzide-4armPEGの分子量は42,006であった。
【0118】
[実験例2]
(ハイドロゲルの形成条件の検討)
実験例1で合成したDBCO-4armPEG(綿状)及びAzide-4armPEG(綿状)を用いてハイドロゲルを調製した。DBCO-4armPEG及びAzide-4armPEGの溶媒として10v/v%のウシ胎児血清(FBS)、1v/v%のペニシリン・ストレプトマイシンを添加したMEM培地を使用した。
【0119】
まず、DBCO-4armPEG 41.3mgに上記の溶媒1mLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌して溶解させた。この結果、DBCO-4armPEGの1mM溶液が得られた。
【0120】
続いて、DBCO-4armPEGの1mM溶液を上記の溶媒で希釈し、0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9mM溶液をそれぞれ調製した。
【0121】
また、Azide-4armPEG 41.2mgに上記の溶媒1mLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌して溶解させた。この結果、Azide-4armPEGの1mM溶液が得られた。続いて、Azide-4armPEGの1mM溶液を上記の溶媒で希釈し、0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9mM溶液をそれぞれ調製した。
【0122】
続いて、それぞれ同じモル濃度に調製したDBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液を10μLずつ混合し、プレゲル溶液を調製した。続いて、各プレゲル溶液を30分間室温で静置してゲル化の反応を進めた後に、ゲル化の状態を目視で観察した。反応後のプレゲル溶液が、リン酸緩衝液(PBS)を添加及び除去しても溶解しない場合には、ゾル化又はゲル化したと評価した。このうち、ピペット先端で軽く触れても形状を維持するものをゲル化したと評価した。ゲル化の状態は以下の評価基準により評価した。下記表1に評価結果を示す。
【0123】
(評価基準)
×…ゾル・ゲル化しなかった。
△…ゾル化した。
○…ゲル化した。
【0124】
【0125】
その結果、プレゲル溶液の濃度が0.15mM以上の場合にハイドロゲルが形成される傾向が認められた。以降の実験では、DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液をそれぞれ0.5mMで調製し、等容量混合することにより0.25mMのプレゲル溶液を調製してハイドロゲルを形成させた。
【0126】
[実験例3]
(容器の検討)
図15~17に示す形状の容器10’を用いて、ハイドロゲルを形成させた。
図15は、容器10’の平面図である。
図16は、
図15に示すIII-III線に沿うYZ断面図である。
図17は、
図15に示すIV-IV線に沿うXZ断面図である。
【0127】
容器10’は、
図2~5に示した容器10と比較して、孔21の一部が隔壁2の周縁に接している点が主に異なる。
図16、
図17に示すように、容器10’の孔21の下縁21aは、隔壁2の下縁2dと一致している。容器10’の孔21は、縦×横×高さが3mm×3mm×3mmの立方体の形状であった。
【0128】
《ハイドロゲルの形成》
DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液をそれぞれ0.5mMで調製した。溶媒には5%KSR(インビトロジェン社)を含むgfCDM培地を使用した。続いて、DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液を等容量混合することにより0.25mMのプレゲル溶液を調製した。続いて、容器10’の孔21にプレゲル溶液30μLを注入した。
【0129】
図18(a)は、容器10の孔21にプレゲル溶液を導入した様子を示す写真である。
図18(a)に示すように、容器10を使用した場合、プレゲル溶液が孔21から漏れ出すことなく保持されることが明らかとなった。また、
図18(b)は、容器10’の孔21にプレゲル溶液を導入した様子を示す写真である。
図18(b)に示すように、容器10’を使用した場合、プレゲル溶液が孔21から漏れ出てしまうことが明らかとなった。
【0130】
[実験例4]
(対象物質の濃度勾配の形成)
図2~5に示したものと同様の容器10を用いて、対象物質の濃度勾配を有するハイドロゲルを作製した。容器10の孔21は、縦×横×高さが3mm×3mm×3mmの立方体の形状であった。
【0131】
《対象物質》
対象物質として、フルオレセイン(分子量332.31)、FITCデキストラン(分子量10,000)、黄色蛍光タンパク質(YFP)及びシアン蛍光タンパク質(CFP)の融合タンパク質(分子量56,000Da、以下「YFP-CFP」という。)を使用した。YFP-CFPは、EYFPのC末端側にリンカーペプチド(GGNSSVDGG:配列番号1)を介してECFPが融合した融合タンパク質をコードする遺伝子を、発現ベクターであるpET21(b)に導入し、大腸菌で発現させて調製した。発現したYFP-CFPは、YFP-CFPのC末端側に付加したヒスチジンタグを用いてニッケルカラムを用いて精製した。
【0132】
《ハイドロゲルの形成》
DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液をそれぞれ0.5mMで調製した。溶媒には水を使用した。続いて、DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液を等容量混合することにより0.25mMのプレゲル溶液を調製した。続いて、容器10の孔21にプレゲル溶液30μLを注入した。プレゲル溶液は、孔21から漏れ出ることなく、孔21の内部に保持させることができた。続いて、30分間室温で静置してハイドロゲルを形成させた。この結果、孔21がハイドロゲルで塞がれた状態になった。
【0133】
《濃度勾配の形成》
孔21にハイドロゲルを形成した容器10を複数用意し、各容器10の第1液体貯留部17Aに、フルオレセイン(終濃度10μM)、FITCデキストラン(終濃度10μM)又はYFP-CFP(終濃度600μg/mL)の水溶液1.5mLをそれぞれ導入した。また、各容器10の第2液体貯留部17Bに水1.5mLを導入した。
【0134】
図19(a)及び(b)は、孔21にハイドロゲルを導入した容器10の第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17Bにそれぞれ液体を導入した状態を示す写真である。
図19(b)は、液体貯留部の開口部側から撮影した写真である。
図19(b)中、点線はハイドロゲルの位置を示す。
【0135】
その後、9日間にわたり、各容器のハイドロゲルを蛍光顕微鏡で観察した。ここで、2~3日毎に第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17B内の液体を新しいものに交換した群と、9日間液体を交換しなかった群をそれぞれ用意し、両者の比較も行った。蛍光顕微鏡画像における、フルオレセイン、FITC及びYFP-CFPの蛍光強度をImage Jソフトウエアを用いて解析しグラフ化した。
【0136】
図20(a)~(c)は、対象物質としてフルオレセイン(分子量332.31)を使用し、2~3日毎に第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17B内の液体を新しいものに交換した場合の結果である。
図20(a)は、実験開始から1日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図20(b)は、実験開始から9日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図20(c)は、実験開始から1、4、7、9日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真を数値化したグラフである。
図20(c)中、横軸はハイドロゲルの第1液体貯留部側の端部からの距離(mm)を示し、縦軸はフルオレセインの蛍光強度(相対値)を示す。
【0137】
図21(a)~(c)は、対象物質としてFITCデキストラン(分子量10,000)を使用した場合の結果である。第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17B内の液体は9日間交換しなかった。
図21(a)は、実験開始から1日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図21(b)は、実験開始から9日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図21(c)は、実験開始から1、2、4、7、9日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真を数値化したグラフである。
図21(c)中、横軸はハイドロゲルの第1液体貯留部側の端部からの距離(mm)を示し、縦軸はFITCの蛍光強度(相対値)を示す。
【0138】
図22(a)~(c)は、対象物質としてYFP-CFP(分子量56,000Da)を使用した場合の結果である。第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17B内の液体は9日間交換しなかった。
図22(a)は、実験開始から1日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図22(b)は、実験開始から9日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図22(c)は、実験開始から1、2、3、6、8日後のハイドロゲルの蛍光顕微鏡写真を数値化したグラフである。
図22(c)中、横軸はハイドロゲルの第1液体貯留部側の端部からの距離(mm)を示し、縦軸はYFP-CFPの蛍光強度(相対値)を示す。
【0139】
その結果、いずれの対象物質についても、ハイドロゲル中に濃度勾配を形成できたことが明らかとなった。また、形成された濃度勾配は9日以上安定に維持することができた。また、低分子化合物(フルオレセイン)については、液交換を行わないと数日で濃度勾配が平坦化することが明らかとなった。また、分子量10,000程度以上の分子(FITCデキストラン、YFP-CFP)では、液交換を行うか否かに関わらず、少なくとも8日間は濃度勾配を維持できることが明らかとなった。
【0140】
[実験例5]
(細胞への毒性の検討)
図2~5に示したものと同様の容器10を用いて、下垂体原基の性質を備えた細胞塊(LIM Homeobox 3(LHX3)陽性細胞塊)を培養し、細胞塊への毒性を検討した。ハイドロゲルの毒性、ハイドロゲルの酸素透過性、ハイドロゲルによる栄養成分の透過性等が細胞に影響すると考えられた。容器10の孔21は、縦×横×高さが3mm×3mm×3mmの立方体の形状であった。
【0141】
《LHX3陽性細胞塊の調製》
ヒトES細胞(KhES-1)を酵素処理して単一細胞に分散させた。続いて低細胞接着性のV底96ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)を用いて再凝集させた。1ウェルあたり5,000個の細胞を播種し、5%KSR(インビトロジェン社)を含むgfCDM培地中で培養した。
【0142】
播種日を分化培養0日として、0~3日目まで終濃度20μMのY-27632(ROCK阻害剤)を添加した。培養3日目及び6日目に、Y-27632を含まない培地で半量培地交換を行った。
【0143】
培養6日目から18日目まで、終濃度5nMのBone Morphogenetic Protein 4(BMP4)を培地に添加した。培養6日目以降は、終濃度2μMの3-Chloro-N-[trans-4-(methylamino)cyclohexyl]-N-[[3-(4-pyridinyl)phenyl]methyl]benzo[b]thiophene-2-carboxamide(SAG)を培地に添加し続けた。培養18日目以降は、培養時の酸素分圧を40%に設定した。培養30日目以降は、gfCDM培地中に含むKSR(インビトロジェン社)を5%から10%に変更した。培養50日目以降は、gfCDM培地中に含むKSR(インビトロジェン社)を10%から20%に変更した。
【0144】
培養60日目に免疫染色を行いLHX3陽性の細胞が出現していることを確認することで、下垂体原基の性質を備えた細胞塊が分化できたものと判断した。下垂体原基の性質を備えた細胞塊を、以下の実験に使用した。
【0145】
《ハイドロゲルの形成》
DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液をそれぞれ0.5mMで調製した。溶媒として20%KSR(インビトロジェン社)を含むgfCDM培地を使用した。続いて、DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液を等容量混合することにより0.25mMのプレゲル溶液を調製した。
【0146】
続いて、LHX3陽性の細胞塊1個をプレゲル溶液30μLに懸濁し、細胞塊含有プレゲル溶液を調製した。続いて、容器10の孔21に細胞塊含有プレゲル溶液30μLを注入し、30分間室温で静置して細胞塊含有ハイドロゲルを形成させた。
【0147】
《毒性の検討》
細胞塊含有ハイドロゲルを形成させた容器10の第1液体貯留部17A及び第2液体貯留部17Bに、20%KSR(インビトロジェン社)及び終濃度2μMのSAGを含むgfCDM培地を1.5mLずつ導入した。続いて、容器10をインキュベーター内に入れて細胞塊を培養した。
【0148】
容器10での培養開始から1週間後、2週間後及び3週間後にハイドロゲルを回収して細胞塊をパラホルムアルデヒド固定し、薄膜切片を作製した。続いて、薄膜切片を、抗副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)抗体、抗PitX1抗体及び抗E-カドヘリン抗体で免疫染色し、蛍光顕微鏡で観察した。ACTHの発現は副腎皮質刺激ホルモン産生細胞の存在を示し、PitX1は下垂体前駆細胞マーカーであり、E-カドヘリンは下垂体前駆細胞を含む口腔外胚葉のマーカーである。
【0149】
図23(a)及び(b)は免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図23(a)は容器10での培養開始から1週間後の写真であり、
図23(b)は容器10での培養開始から2週間後の写真である。その結果、培養開始から少なくとも2週間は培養細胞への悪影響がないことが明らかとなった。
【0150】
また、孔21を表面コート処理しなかった場合、培養開始から3週間後には、ハイドロゲルが容器10の孔21から外れてしまうことが明らかとなった。
【0151】
[実験例6]
(細胞塊の培養)
図2~5に示したものと同様の容器10を用いて、分化誘導因子の濃度勾配中で細胞塊を培養した。容器10の孔21は、縦×横×高さが3mm×3mm×3mmの立方体の形状であった。
【0152】
《LHX3陽性細胞塊の調製》
実験例4と同様にして、下垂体原基の性質を備えた細胞塊(LHX3陽性細胞塊)を調製した。
【0153】
《表面コート処理》
容器10の孔21の表面をポリ-L-リジンでコートし、更にアジド基を導入した。まず、容器10に紫外線を30分間照射して滅菌した。続いて、クリーンベンチ内で、容器10の孔21にポリ-L-リジン溶液(以下、「PLL溶液」という。)30μLを注入した。PLL溶液は、ポリ-L-リジン(型式「P2636」、シグマ社)を水に50μL/mLの濃度で溶解し、ろ過滅菌して調製した。
【0154】
続いて、80℃に設定した乾燥機内で容器10を乾燥させた。続いて、クリーンベンチ内で、容器10の孔21にAzide-PEG4-NHS溶液30μLを注入し、30分間放置した。Azide-PEG4-NHS溶液は、Azide-PEG4-NHS(型式「AZ103」、Click chemistry tools社)をDMSO(型式「276855」、シグマ社)に1w/v%の濃度で溶解して調製した。続いて、クリーンベンチ内で、孔21からAzide-PEG4-NHS溶液を吸い取り、滅菌水で4回洗浄し乾燥させた。
【0155】
《ハイドロゲルの形成》
DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液をそれぞれ0.5mMで調製した。溶媒として5%KSR(インビトロジェン社)を含むgfCDM培地を使用した。続いて、DBCO-4armPEG溶液及びAzide-4armPEG溶液を等容量混合することにより0.25mMのプレゲル溶液を調製した。
【0156】
続いて、LHX3陽性の細胞塊1個をプレゲル溶液30μLに懸濁し、細胞塊含有プレゲル溶液を調製した。続いて、容器10の孔21に細胞塊含有プレゲル溶液30μLを注入し、30分間室温で静置して細胞塊含有ハイドロゲルを形成させた。
【0157】
《細胞塊の培養》
細胞塊含有ハイドロゲルを形成させた容器10の第1液体貯留部17Aに20%KSR(インビトロジェン社)、終濃度1μMのデキサメタゾン及び終濃度2μMのSAGを含むgfCDM培地を1.5mL導入した。また、第2液体貯留部17Bに、20%KSR(インビトロジェン社)及び終濃度2μMのSAGを含むgfCDM培地を1.5mL導入した。
【0158】
続いて、容器10をインキュベーター内に入れて細胞塊を培養した。10日間の培養後にハイドロゲルを回収して細胞塊をパラホルムアルデヒド固定し、薄膜切片を作製した。続いて、薄膜切片を、抗副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)抗体、抗成長ホルモン(GH)抗体、抗成長ホルモン放出ホルモン受容体(GHRH-R)抗体で免疫染色し、蛍光顕微鏡で観察した。ACTHの発現は副腎皮質刺激ホルモン産生細胞の存在を示し、GHの発現は成長ホルモン産生細胞の存在を示し、GHRH-Rの発現は成長ホルモン産生細胞の成熟を示す。
【0159】
図24は免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図24中、「デキサメタゾン(+)」は、細胞塊のうち、デキサメタゾンを添加した第1液体貯留部17A側の領域の結果であることを示し、「デキサメタゾン(-)」は、細胞塊のうち、デキサメタゾンを添加しなかった第2液体貯留部17B側の領域の結果であることを示す。
【0160】
その結果、第1液体貯留部17A側では、成長ホルモン産生細胞が顕在化しており、表面に成長ホルモン放出ホルモン受容体を発現していることから機能的に成熟していることが明らかとなった。
【0161】
一方、第2液体貯留部17B側ではわずかなデキサメタゾンの影響を受けたと考えられ、副腎皮質刺激ホルモン産生細胞が、成長ホルモンをわずかに発現する現象が観察された。
【0162】
従来の3D培養法では、下垂体ホルモン産生細胞を1種類ごとに誘導することはできるが、複数種類の下垂体ホルモン産生細胞を偏在させて同時に誘導することはできなかった。これに対し、本実験例では、複数種類の下垂体ホルモン産生細胞を、デキサメタゾンの濃度勾配に応じて偏在させて分化させることができたことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明によれば、対象物質の濃度勾配を形成する技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0164】
2…隔壁、2a,2b,3a,3b,11a,13Aa,13Ba…面、2e,12Ab,12Bb,13Ab,13Bb,21c…上縁、2d,21a…下縁、2fa,2fb,21ba,21bb…側縁、3…ハイドロゲル、4…細胞、10…容器、11…底板、12A,12B…側板、13A,13B…端板、14…主部、17A,17A1,17A2,17B…液体貯留部、21…孔、23a,23ba,23bb,23c…面、30…培養装置、100…成形型、101…第1型、102…第2型、103…孔形成用駒、104,105…下部駒、106…底板、111…第1形成部、112…第2形成部、P…樹脂。
【配列表】