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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】ガス切断用燃料ガス、及びガス切断方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/10 20060101AFI20220826BHJP
   C10L 3/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
B23K7/10 T
C10L3/00 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2016170030
(22)【出願日】2016-08-31
(65)【公開番号】P2018034191
(43)【公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-05-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150981
【氏名又は名称】日酸TANAKA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和文
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆志
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】田々井 正吾
【審判官】刈間 宏信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/032376(WO,A1)
【文献】特開昭50-049301(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132496(WO,A1)
【文献】特開昭50-043104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/00 - 7/10
C10L 3/00 - 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと予熱用酸素ガスとにより予熱炎を形成するとともに、鋼材に切断用酸素を噴射して切断するガス切断方法であって、
前記燃料ガスは、前記水素は70体積%以上90体積%未満、前記プロピレンは残分となるようその混合比率が設定され、
前記水素と、前記プロピレンとを別々に保管するとともに、燃料ガスとして用いる際にこれらを設定した前記混合比率となるように混合する、ガス切断方法。
【請求項2】
前記プロピレンが、不純物として20体積%以上25体積%以下のプロパンを含む、請求項1に記載のガス切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス切断用燃料ガス、及びガス切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板などのワークを切断する場合に、ワークの切断開始点を予熱孔の予熱炎によって酸化反応が可能な温度まで加熱し、加熱された部分に切断酸素孔から高純度の酸素ガスを噴射して燃焼、溶融させることによりワークを切断するガス切断方法が広く用いられている。
【0003】
このガス切断方法における予熱炎の形成のために、予熱孔に燃料ガスとして炭化水素系ガス(LPG、LNG、アセチレン、プロパン、メタン、エチレン、プロピレン、ブタンなど、またはこれらの混合ガス)及びこの燃料ガスを効率的に燃焼させるための予熱酸素ガスが用いられることが一般的であったが、近年、炭化水素系ガスに代えて水素ガスを主成分とする燃料ガスを用いられることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ところで、水素ガスは、燃焼速度が速いため、集中した加熱が可能という長所がある。一方、発熱量が低いため、最も一般的な燃料ガスであるLPG(一般にはプロパン95%以上)と比較して、切断を行うためには3~5倍の流量が必要となるという課題があった。
【0005】
そこで、上記課題を解決するため、水素ガスに発熱量の大きいプロパンを混合した燃料ガスが提案された。上記燃料ガスでは、プロパンの混合濃度が4%程度までは切断速度の低下は見られないが、その後、プロパンの混合濃度が増加するとともに急激に切断速度が低下してしまうという課題があった。これは、水素へのプロパンの混入によって、燃料ガスの熱量が同じ、あるいは増加しても、結果的に水素ガスの集中加熱効果が薄れて切断速度が低下するものと推察される。
【0006】
ところで、特許文献2には、ガス溶断等の加工後の仕上がり状態の高品質化を達成することを課題として、水素ガスと、38~45体積%以下のエチレンとを含有するガス切断用燃料ガス(「溶断ガス」ともいう)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3563660号公報
【文献】特許第4848060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された溶断ガスによれば、水素ガスへの炭化水素系ガスの混合比率(エチレン:38~45体積%)を高くした場合であっても、切断速度の低減を抑制することが可能であるが、水素ガスよりも高価なエチレンを多量に含むため、コスト低減等、生産性の改善が望まれているのが実状であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、切断速度等の切断性能を損なうことなく、切断面の粗さが小さい等の高品質な切断が可能な、ガス切断用燃料ガス、及びガス切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願の発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ガス切断用燃料ガスの主成分である水素ガスに混合する炭化水素系ガスとしてプロピレンを用いた場合に、切断速度の低減割合が小さくなること、及び水素ガスへのプロピレン混合量を増やすと切断に必要なガス量が低減する傾向があることを見出して、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1) 鋼材をガス切断する際に用いる燃料ガスであって、水素と、プロピレンとを含み、前記プロピレンの含有量が、10体積%超30体積%以下である、ガス切断用燃料ガス。
(2) 燃料ガスと予熱用酸素ガスとにより予熱炎を形成するとともに、鋼材に切断用酸素を噴射して切断するガス切断方法であって、前記燃料ガスが、水素と、プロピレンとを含み、前記プロピレンの含有量が、10体積%超30体積以下である、ガス切断方法。
(3) 前記プロピレンとして、一般工業用プロピレンガスを用いる、前項2に記載のガス切断方法。
(4) 前記一般工業用プロピレンガスが、20体積%以上25体積%以下のプロパンを含有する、前項2又は3に記載のガス切断方法。
(5) 前記水素と、前記プロピレンとを別々に保管するとともに、燃料ガスとして用いる際にこれらを混合する、前項2乃至4のいずれか一項に記載のガス切断方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶断ガス、及び溶断方法は、水素と10体積%超30体積%以下のプロピレンとを含む燃料ガスを用い、上記燃料ガスと予熱用酸素ガスとにより予熱炎を形成するとともに、鋼材に切断用酸素を噴射して切断することにより、切断速度の低減を抑制することができるため、切断性能を損なうことがない。また、水素ガスよりも高価なプロピレンガスの使用を30体積%以下とするとともに、燃料ガスの使用量そのものを低減することができるため、生産性が高く高効率な切断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用した一実施形態である切断方法に適用可能な切断装置の構成の一例を示す系統図である。
図2】本発明の検証試験1における、水素燃料ガス中にLPG、又はプロピレンを各種濃度で混合した際の燃料ガス全体の必要流量を測定した結果を示した図である。
図3】本発明の検証試験2における、比較例1の燃料ガスを用いた際の切断断面を示す図である。
図4】本発明の検証試験2における、比較例2の燃料ガスを用いた際の切断断面を示す図である。
図5】本発明の検証試験2における、実施例1の燃料ガスを用いた際の切断断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した一実施形態であるガス切断方法について、これに用いるガス切断用燃料ガスとともに図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態であるガス切断方法に用いるガス切断装置を示す系統図である。図1に示すように、本実施形態のガス切断装置1は、予熱孔7と切断酸素孔8とが設けられた切断火口6を有する切断吹管2と、水素ガスを供給する水素ガス供給源3と、プロピレンを供給するプロピレン供給源4と、予熱用酸素ガスを供給する酸素ガス供給源5と、水素とプロピレンとを含有する燃料ガス(ガス切断用燃料ガス)を切断火口6に供給する燃料ガス供給経路L1と、予熱用酸素ガスを切断火口6に供給する予熱用酸素ガス供給経路L2と、を備えて概略構成されている。
【0016】
切断吹管2は、特に限定されるものではなく、一般的な切断吹管を適用することができる。
【0017】
切断火口6は、切断吹管2の先端に設けられている。この切断火口6の先端には、燃料ガスと予熱用酸素ガスとにより予熱炎を形成するための予熱孔7と、切断用酸素ガスを噴射して鋼板等の切断材料(ワーク)を切断するための切断酸素孔8とが設けられている。また、切断火口6の基端には、燃料ガス流路9及び予熱用酸素ガス流路10、並びに切断用酸素ガス流路11が設けられている。そして、燃料ガス流路9と予熱用酸素ガス流路10とが当該切断火口6の内部で合流している。
【0018】
燃料ガス供給経路L1は、一端が水素ガス供給源3と接続されており、他端が切断火口6の燃料ガス流路9と接続されている。また、燃料ガス供給経路L1には、混合装置12が設けられており、この混合装置12にはプロピレン供給経路L3を介してプロピレン供給源4が接続されている。これにより、水素ガス供給源3から水素ガスが、プロピレン供給源4からプロピレンガスがそれぞれ混合装置12に供給され、水素ガスと10体積%超30体積%以下のプロピレンガスとが混合された混合ガスが生成される。そして、混合装置12より下流の燃料ガス供給経路L1には、この混合ガスが燃料ガスとして供給される。
【0019】
本実施形態の燃料ガスは、以下に示す検証試験で説明するように、水素ガスと、10体積%超30体積%以下のプロピレンガスとを含有する混合ガスである。ここで、プロピレンは、水素と比較して一般的に高価であること、及び集中加熱効果、輻射熱の低さといった水素ガスを用いた切断の利点を維持する観点から、燃料ガスにおけるプロピレンの混合比率は低く設定することが好ましい。
【0020】
具体的には、プロピレンの含有量の下限値としては、10体積%超であることが好ましく、15体積%以上であることがより好ましい。燃料ガス中におけるプロピレンの含有量が10体積%超であると、ワークの切断に必要な燃料ガスの総量を低減する効果が得られる。また、15体積%以上であると、燃料ガスの低減効果がより顕著に得られる。
【0021】
また、プロピレンの含有量の上限値としては、30体積%以下であることが好ましく、25体積%以下であることがより好ましい。燃料ガス中におけるプロピレンの含有量が30体積%以下であると、火炎の状態を安定させつつ、ワークの切断断面の粗さを増すことなく切断することができる。また、25体積%以下であると、上記効果がより顕著に得られる。
【0022】
なお、燃料ガス中におけるプロピレンの含有量の増加に伴う燃料ガスの低減効果は、約20体積%で最大となる。また、プロピレンの含有量が30体積%超となると、燃焼熱の上昇による輻射熱の上昇により、作業者が作業時に受ける熱が上昇するため、作業環境が悪化する要因となる。したがって、コスト面、切断品質及び作業環境の観点から、燃料ガス中におけるプロピレンの含有量(あるいは混合比率)は、15体積%以上25体積%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
ところで、燃料ガスとして水素ガスを用いた、従来のガス切断方法によれば、熱量を増加させるために水素ガスにプロパン等の炭化水素系ガスを混合して用いていた。しかしながら、燃料ガス中における炭化水素系ガスの含有量を増加させると、熱量の増加と引き換えに切断効率(速度)が低下してしまうため、低含有量(低熱量)の範囲でのみの使用に限定せざるをえなかった。
【0024】
これに対して、本実施形態のガス切断方法によれば、水素へのプロピレンの混合比を大きくしても、切断速度の低下傾向が小さいため、切断用燃料ガスの熱量調整の自由度が大きいという利点がある。
【0025】
また、燃料ガス供給経路L1には、安全対策として、逆火防止器13及び開閉弁(逆止弁を用いることが好ましい。以下同様)15が設けられている。さらに、燃料ガス供給経路L1及びプロピレン供給経路L3には、それぞれ圧力計14が設けられている。
【0026】
予熱用酸素ガス供給経路L2は、一端が酸素ガス供給源5と接続されており、他端が切断火口6の予熱用酸素ガス流路10と接続されている。また、予熱用酸素ガス供給経路L2には、圧力計14と開閉弁15とが設けられている。
【0027】
切断用酸素ガス供給経路L4は、一端が酸素ガス供給源5と接続されており、他端が切断火口6の切断用酸素ガス流路11と接続されている。また、切断用酸素ガス供給経路L4には、圧力計14と開閉弁15とが設けられている。
【0028】
なお、本実施形態のガス切断装置1では、予熱用酸素ガス供給経路L2と切断用酸素ガス供給経路L4とに、同一の酸素ガス供給源5を接続する構成を例示したが、これに限定されるものではない。すなわち、予熱用酸素ガス供給経路L2と切断用酸素ガス供給経路L4とに、それぞれ別の酸素供給源を接続する構成としても良い。
【0029】
水素ガス供給源3は、予熱用酸素ガスと合流するよりも前に酸素と混合することなく、燃料ガス供給経路L1ないし燃料ガス流路9に水素ガス単体を供給することが可能であれば、特に限定されるものではない。
【0030】
水素ガス供給源3として、一般に広く用いられている水素ガスが充填されたボンベを用いても良いし、水を電気分解して水素と酸素とを発生させる水分解装置から発生するガスを利用しても良い。ただし、水分解装置のガスを用いる場合は、水素と酸素とが混合して爆発する危険が無いように、それぞれが分離して取り出せるタイプの機器を選定する必要がある。
【0031】
プロピレン供給源4は、特に限定されるものではなく、プロピレンが充填されたボンベを用いることができる。また、本実施形態のプロピレンとしては、特に限定されるものではなく、一般工業用のプロピレンガスを用いることができる。ここで、一般工業用のプロピレンガスは、20体積%以上25体積%以下程度のプロパンを含有するが、これをそのままプロピレンガスとして用いることができる。
【0032】
酸素ガス供給源5は、燃料ガスと合流するよりも前に水素と混合することなく、予熱用酸素ガス供給経路L2と切断用酸素ガス供給経路L4とに酸素ガス単体を供給することが可能であれば、特に限定されるものではない。
【0033】
酸素ガス供給源5として、一般に広く用いられている酸素ガスが充填されたボンベを用いても良いし、水を電気分解して水素と酸素とを発生させる水分解装置から発生するガスを利用しても良い。ただし、水分解装置のガスを用いる場合は、水素と酸素とが混合して爆発する危険が無いように、それぞれが分離して取り出せるタイプの機器を選定する必要がある。水分解装置から発生する水素と酸素について、分離して取り出すタイプであっても水素中への酸素の混入、または酸素中への水素の混入の可能性がある。混入量は、できる限り少量であることが望ましいが、それぞれ爆発下限界未満の濃度であれば問題ない。
【0034】
なお、酸素ガス供給源5は、予熱用酸素ガス供給経路L2と切断用酸素ガス供給経路L4とにそれぞれ別個に設けても良い。
【0035】
切断火口6は、燃料ガスと予熱用酸素ガスとにより予熱炎を形成し、切断用酸素ガスを噴射するものであり、切断吹管2の先端に設けられている。また、切断火口6は、軸方向中央を貫通する切断用酸素ガス流路11と、燃料ガスと予熱用酸素ガスとの混合ガスの流路であって、切断用酸素ガス流路11の外側に設けられた予熱ガス流路16と、切断用酸素ガス流路11の先端に設けられた切断酸素孔8と、予熱ガス流路16の先端に設けられた予熱孔7と、を備えて概略構成されている。
【0036】
ここで、本実施形態の切断火口6は、図1に示すように、燃料ガス流路9と予熱用酸素ガス流路10とが当該切断火口6の内部で合流して、予熱ガス流路16を構成するチップミキシングタイプである。また、燃料ガス流路9には燃料ガス供給経路L1が、予熱用酸素ガス流路10には予熱用酸素ガス供給経路L2がそれぞれ接続されている。したがって、本実施形態のガス切断装置1では、燃料ガス供給経路L1と、予熱用酸素ガス供給経路L2とが切断火口6内で合流する構成となっている。なお、切断材料(ワーク)表面Sからの切断火口6の先端までの距離Lは、通常10~20mmの範囲となるように設定されている。
【0037】
次に、上述したガス切断装置1を用いた、本発明の一実施形態であるガス切断方法について説明する。
【0038】
具体的には、図1に示すように、本実施形態のガス切断を行う上での各種ガスの供給形態について説明する。
先ず、水素ガス供給源3から燃料ガス供給経路L1に水素ガスを供給する。水素ガスは、圧力調整器14によって調圧された後、混合装置12に供給される。
同様に、プロピレン供給源4からプロピレン供給経路L3にプロピレンガスを供給する。プロピレンガスは、圧力調整器14によって調圧された後、混合装置12に供給される。
【0039】
次に、混合装置12により、水素ガスとプロピレンガスとを設定した混合比率(すなわち、水素ガス70体積%以上90体積%未満、プロピレンガス10体積%超30体積%以下)となるように混合した後、この混合装置12から燃料ガスとして燃料ガス供給経路L1に供給する。そして、燃料ガスは、水素ガス用の逆火防止器13、開閉弁15を介して切断火口6の燃料ガス用流路9に供給される。
【0040】
ここで、本実施形態のガス切断方法では、上述したように、水素とプロピレンとを別々に保管するとともに、燃料ガスとして用いる際にこれらを混合することが好ましい。水素とプロピレンとを混合した燃料ガスを1本のボンベに保管した場合、プロピレンが鉄を触媒として水素と反応し、最終的にプロパンに経時変化するおそれがあるためである。
【0041】
酸素ガス供給源5から酸素ガスを予熱用酸素ガス供給経路L2と切断用酸素ガス供給経路L4とに供給する。予熱用酸素ガス供給経路L2に供給された酸素ガスは、予熱用酸素ガスとして圧力調整器14、開閉弁15を介して、切断火口6の予熱用酸素ガス流路10に供給される。燃料ガスと予熱用酸素ガスとは、切断火口6の内部で混合され、予熱孔7より噴出して着火され、予熱炎を形成する。
【0042】
もう一方の切断用酸素ガス供給経路L4に供給された酸素ガスは、切断用酸素として、圧力調整器14、開閉弁15を介して切断火口6の切断酸素流路11に供給され、切断酸素孔8から噴射され、予熱炎によって加熱された鉄鋼と反応して切断を行う。
【0043】
以上説明したように、本実施形態のガス切断方法では、水素ガスに10体積%超30体積%以下のプロピレンガスを混合した混合ガスを燃料ガスとして用いているため、燃料ガスとして水素ガスを用いた場合と同等以上の溶接品質を維持するとともに、燃料ガスの使用量を大幅に削減することができる。したがって、燃料ガスとしてLPG等を用いた従来のガス切断方法と同等程度のコストで、高効率な切断が可能となる。
【0044】
また、本実施形態のガス切断方法によれば、プロピレンとして、一般工業用のプロピレンガスを用いることができる。一般工業用のプロピレンガスは、20体積%以上25体積%以下程度のプロパンを含有するが、これをそのままプロピレンガスとして用いることができるため、燃料ガスのコスト低減により、生産性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態のガス切断方法によれば、水素とプロピレンとを別々に保管するとともに、燃料ガスとして用いる際にこれらを混合することにより、経時変化によるプロピレンのプロパンへの変質を抑制することができる。したがって、ガス変質による切断性能の低下や充填圧力低下の恐れが無く、高効率な切断が常時可能である。
【0046】
また、本実施形態のガス切断方法によれば、ガス切断装置1において、燃料ガスの主成分である水素ガスを、水素ガス単体として供給する水素ガス供給源3を用いており、プロピレンガスと混合した燃料ガスと予熱用酸素ガスとを切断火口6の内部で合流する構成としている。このため、万が一燃料ガスと予熱用酸素ガスとの間で爆発が発生した際に、切断火口6よりも上流側(一次側)の経路が破損するおそれがない。
【0047】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態のガス切断装置1では、燃料ガスと予熱用酸素ガスとが内部で合流する切断火口6を用いた構成を示しているが、これに限定されるものではない。
【0048】
例えば、燃料ガス流路と予熱用酸素ガス流路とが当該切断火口の内部で独立し、それぞれの予熱孔より噴出した後で切断火口の外部(切断火口の先端)で混合されるポストミキシングタイプの切断火口を用いてもよい。このような形態の切断火口によっても、上記実施形態と同様の効果が得られるとともに、逆火による爆発に対する安全性をさらに高めることが可能となる。
【0049】
また、図示はしないが、内部に混合室(ミキサーともいう)が設けられた切断吹管を用いるガス切断装置の構成とし、燃料ガスと予熱用酸素ガスとを切断吹管内の混合室で混合した後、切断火口に供給する構成としても良い。
【0050】
以下に、具体例を示す。
図1に示すガス切断装置を用い、燃料ガスの構成によるガス切断への影響について、以下の検証を行った。上述したように、切断用水素に炭化水素を混入させると、熱量は増加するが、切断速度は低下した。一方、切断用水素にプロピレンを混入させても、切断速度はそれほど低下しなかった。これは、プロピレンが有する二重結合が切断用水素の火炎の集中性を妨げないためであると推察される。
【0051】
<検証試験1>
燃料ガスの組成による、ガス切断に必要な燃料ガス全体の流量について検証した。
評価方法としては、ガス切断を行う際、燃料ガスの流量以外を同じ条件とした上で、燃料ガスの流量を徐々に低下していくと切断面の粗さが大きくなる。切断面の粗さが60μm未満となったときの燃料ガスの最低流量を必要流量として記録した。
【0052】
なお、切断面の粗さとは、対象物の表面からランダムに抜き取った各部分における、表面粗さを表すパラメータであって、一般的には、最大粗さ、平均粗さ等で表される。これらは、粗さ計と呼ばれる市販の装置で測定される。ここで、切断面の粗さは、本発明のガス切断方法によって得られる切断面の任意の箇所において、水平方向20mm内における最大粗さを表しており、その最大粗さが60μm未満を合格と判断した。
【0053】
燃料ガスの組成としては、下記の条件を用いた。
・検証例1:H+1体積%LPG(プロパン含有量:95体積%以上)
・検証例2:H+5~40体積%C
【0054】
また、検証例1、2において、燃料ガスの組成以外のガス切断条件は、下記の表1に示したものとした。
【0055】
【表1】
【0056】
図2に、水素燃料ガス中にLPG、又はプロピレンを各種濃度で混合した際の燃料ガス全体の必要流量を測定した結果を示す。
【0057】
図2に示すように、水素ガスに1体積%LPGを混合した燃料ガスを用いた場合、切断に必要な燃料ガスの流量(必要流量)は約25L/minであった。
【0058】
これに対して、水素ガスに10体積%プロピレンを混合した燃料ガスを用いた場合、切断に必要な燃料ガスの流量は約10L/minであり、上述した水素ガスに1体積%LPGを混合した従来の燃料ガスを用いた場合と比較して半分以下となることを確認した。
【0059】
また、図2に示すように、水素ガスへのプロピレン混合量を増やした場合、切断に必要なガス量は低減することがわかった。しかしながら、プロピレンを20体積%以上混合しても、切断に必要な燃料ガスの流量に変化がないことを確認した。
【0060】
<検証試験2>
燃料ガスの組成による、ガス切断した際の切断断面について検証した。
評価方法としては、各条件における切断断面から、板厚方向の中心部での切断面の粗さを測定した。なお、切断面の粗さの測定については、上述した検証試験1と同様である。
【0061】
ここで、燃料ガスの組成としては、下記の条件を用いた。
・比較例1:H+5体積%LPG(プロパン含有量:95体積%以上)
・比較例2:H+10体積%LPG(プロパン含有量:95体積%以上)
・実施例1:H+20体積%C
【0062】
また、比較例1、2及び実施例1において、燃料ガスの組成以外のガス切断条件は、下記の表2に示したものとした。
【0063】
【表2】
【0064】
図3は、比較例1の燃料ガスを用いた際の切断断面を示す図である。
図3に示すように、水素ガスに5体積%LPGを混合した燃料ガスを用いた場合、切断面粗さは60μm以下であったが、下端2mmの部分が粗くなった。
【0065】
図4は、比較例2の燃料ガスを用いた際の切断断面を示す図である。
図4に示すように、水素ガスに10体積%LPGを混合した燃料ガスを用いた場合、切断面粗さは70μm以上となり、下端3~4mmの部分が粗くなった。
【0066】
図5は、実施例1の燃料ガスを用いた際の切断断面を示す図である。
図5に示すように、水素ガスに20体積%プロピレンを混合した燃料ガスを用いた場合、切断面粗さは全範囲にわたって60μm以下となり、下端部分においても粗くならずに切断が可能であった。
【0067】
また、水素中のプロピレン組成が30%を超えると、切断断面の粗さが増加し、しかも、火炎の状態が不安定となった。原因の詳細は不明であるが、プロピレン中に不純物として存在するプロパンの影響であると推察する。従って、水素に混合させるプロピレンの量が30%を超えないことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のガス切断方法は、従来の水素ガスベースの燃料ガスに比べ、大幅な流量低減が図れることとなり、ガス切断における水素ガス燃料が普及しない最も大きなコスト上の問題を解消できることから産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・ガス切断装置
2・・・切断吹管
3・・・水素ガス供給源
4・・・プロピレン供給源
5・・・酸素ガス供給源
6・・・切断吹管
7・・・予熱孔
8・・・切断酸素孔
9・・・燃料ガス流路
10・・・予熱用酸素ガス流路
11・・・切断用酸素ガス流路
12・・・混合装置
13・・・逆火防止器
14・・・圧力計
15・・・開閉弁(逆止弁)
16・・・予熱ガス流路
16a・・・折曲部
16A・・・先端側部分(先端側)
α・・・傾斜角度
L1・・・燃料ガス供給経路
L2・・・予熱用酸素ガス供給経路
L3・・・プロピレン供給経路
L4・・・切断用酸素ガス供給経路
図1
図2
図3
図4
図5