(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】気相成長装置の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220826BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/44 J
(21)【出願番号】P 2017253342
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-11-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】人見 達矢
(72)【発明者】
【氏名】永島 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡山 玲子
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335732(JP,A)
【文献】特開2014-049461(JP,A)
【文献】特開2011-121803(JP,A)
【文献】特開2015-122364(JP,A)
【文献】特開2009-027104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
H01L 21/304
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスを供給する原料ガス供給口、基板を載置する基板保持台、該基板保持台を加熱することにより基板を加熱する加熱手段、及び原料ガス供給口、基板保持台及び加熱手段を収容する成長部を有し、前記原料ガスの反応により
窒化アルミニウム単結晶の気相成長を行う気相成長装置において、
気相成長装置にて前記気相成長を行った後、該成長部を構成する部材を取り外し、取り外した部材を水溶液により洗浄し、前記反応の副生物である
金属アルミニウム由来の析出物又は析出した
窒化アルミニウムを除去することを特徴とし、
前記水溶液は、硫酸及び過酸化水素を含有し、
前記水溶液は、pHが2以下の酸
性であり、
60℃以上180℃以下の温度で洗浄する気相成長装置の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置の洗浄方法に関する。詳しくは、複数のガスの反応によりベース基板上に単結晶層を積層させる気相成長装置において、結晶成長面への異物等の付着による結晶品質の低下を防止する気相成長装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長装置は、反応炉内で気相成長反応により結晶成長を行う装置であり、例えば、原料となるガスを供給する原料ガス供給口、気相成長を行うベースとなる基板を載置する基板保持台、該基板保持台を加熱することにより基板を加熱する加熱手段、及び原料ガス供給口、基板保持台及び加熱手段等を収容する成長部等で構成されている。このような気相成長装置を用いて、昇華(PVT:Physical Vapor Transport)法やハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等の結晶成長が行われる。このような気相成長を行う材料としては、発光素子材料として用いられる窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウムといったIII族窒化物単結晶が知られている。特に近年では、紫外光の発光素子として、アルミニウム系III族窒化物半導体(主に窒化アルミニウムガリウム混晶)を用いた発光素子の開発が精力的に進められている。
【0003】
現在、III族窒化物半導体発光素子の製造にあたっては、基板としての結晶品質、紫外光透過性、量産性やコストの観点から、ベース基板にはサファイア基板が一般的に採用されている。しかし、サファイア基板上にIII族窒化物を成長させた場合、サファイア基板と半導体積層膜を形成するIII族窒化物(例えば窒化アルミニウムガリウム等)との間の格子定数や熱膨張係数等の違いに起因して、結晶欠陥(ミスフィット転位)やクラック等が生じ、素子の発光性能を低下させる原因になるため、ベース基板としては、格子定数がより半導体積層膜の格子定数に近く、かつ熱膨張係数がより半導体積層膜の熱膨張係数に近い基板であることが望ましい。そのため、上記アルミニウム系III族窒化物半導体発光素子を形成するベース基板には、窒化アルミニウムや窒化アルミニウムガリウム等のIII族窒化物単結晶基板が好適に用いられている。
【0004】
上記III族窒化物単結晶基板の製造方法としては、前記のPVT法や、MOCVD法、HVPE法等の気相成長法が知られている。PVT法とは、固体のIII族窒化物を高温で昇華させ、低温のベース基板上に析出させることで単結晶層を成長させ、単結晶積層体を製造する方法である。高い成長速度で厚膜を成長することが可能であるというメリットがある。一方、MOCVD法や、HVPE法は、ベース基板上で、III族源ガスと窒素源ガス(例えば、アンモニアガス)とを反応させて、単結晶層を成長させ、単結晶積層体を製造する方法である。
【0005】
上記気相成長法において、III族窒化物単結晶積層体は、複数の原料ガスを供給する原料ガス供給口、基板を載置する基板保持台、該基板保持台を加熱することにより基板を加熱する加熱手段、及びこれらを収容する成長部を有する気相成長装置を用いて製造されている。
【0006】
ここで、これら気相成長法の課題として、該単結晶層中への異物の混入がある。異物が結晶成長面に付着した状態で結晶成長を行うと、付着した異物周辺における結晶成長異常による結晶欠陥の発生の要因となる。このような結晶成長異常による結晶欠陥は、具体的には、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察において比較的大きな凸部(以下、ヒロックと称す)として観察されたり、反射X線トポグラフ評価によって、他の領域の画像よりも明るい点(以下、明点と称す)として観察されるものである。上記結晶欠陥の発生は、III族窒化物単結晶層上に積層される発光素子において発光効率の低下等の性能低下の要因となる。また、異物が付着した箇所は他の領域と比べて機械強度が著しく低下し、研磨加工時にピット(窪み)を形成するばかりでなく、発光素子層を積層させた後にチップ形状に切断加工する際には加工割れの起点となりやすく、該基板を用いて製造される発光素子の歩留まりを大きく低下させる要因となるため、III族窒化物単結晶積層体の製造時における結晶成長面への異物の付着は可能な限り低減させることが必要である。
【0007】
前述した結晶成長面への異物の付着は、気相成長装置がIII族源ガス等の雰囲気ガスに侵され、該装置部材材質が剥離等する場合や、反応中にIII族化合物の粒子等が副生することが原因であると考えられており、これらの異物の付着を防ぎながら、結晶成長を行う方法が種々提案されている。例えば、結晶成長装置部材として耐腐食性材料を使用することによる装置部材の腐食の抑制(特許文献1参照)が行われている。
【0008】
さらに近年、より高品質な単結晶が望まれており、気相成長中の副生成物を抑制する方法が種々検討されている。例えば、反応器内のガスの流れを調整することにより、気相反応で生じた粒子(付着粒子:ノマルスキー微分干渉顕微鏡(100~500倍で観察)で観察される粒子)が結晶成長面に付着するのを防止し、高品質な単結晶を製造する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2009-536605号
【文献】国際公開WO2014/031119号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の方法により気相成長法における結晶成長面への異物の付着がある程度低減され、高品質なIII族窒化物単結晶積層体が製造できるようになってきているが、本発明者らの検討により、上記対策を講じてもなお、結晶成長面への異物の付着が完全には抑制できないことが判明した。特に、同じ気相成長装置を用いて繰り返しIII族窒化物単結晶層の成長を行った際には、繰り返す回数が増加するにつれて結晶成長面への異物の付着によるものと推測される単結晶層上のヒロックや明点の発生数が増加し、さらには異物を起点に多結晶として成長するものも観られた。このような異物起点の多結晶が成長すると、得られたIII族窒化物単結晶積層体の表面を平坦化し、最終的に化学的機械的研磨(CMP)を実施した際に、前記多結晶部分が凹部となって残り、場合によってはIII族窒化物単結晶層を貫通するような孔が形成される。
【0011】
通常、同じ気相成長装置を用いて繰り返しIII族窒化物単結晶層の成長を行う際には、直前の成長バッチにおいて該装置部材表面に析出した析出物を除去するため、キャリアガス、或いは塩化水素ガスや塩素ガス等の酸性ガス等のクリーニングガス雰囲気下で加熱クリーニング処理を行った後に次の成長バッチを行う。この加熱クリーニング処理の目的は、直前の成長バッチにおいて結晶成長の副反応等により該装置部材表面に析出した析出物等を完全に除去し、系内をパーティクル等のないクリーンな状態にした上で次の成長バッチを行うことにあるが、かかる加熱クリーニング処理によっても析出物が完全には除去できずに残留してしまい、次の成長バッチにおいて残留した析出物が該装置部材表面より脱離して結晶成長面に付着し、単結晶層中の異物の原因となることが判明した。すなわち本発明の目的は、複数のガスの反応によりベース基板上に単結晶層を成長させる気相成長装置において、結晶成長面への異物の付着による結晶品質の低下を防止する気相成長装置の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため、気相成長装置の洗浄方法について鋭意検討を行った。その結果、気相成長後の装置から成長部を構成する部材を取り外し、取り外した各部材を水溶液により洗浄することによって、前記加熱クリーニング処理では除去しきれずに残留してしまう析出物を除去できるという知見を得た。そこで洗浄後の部材を使用して気相成長装置を組み再度気相成長を行うことで、結晶成長面への異物の付着に起因する多結晶の発生が抑制できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、第1の本発明は原料ガスを供給する原料ガス供給口、基板を載置する基板保持台、該基板保持台を加熱することにより基板を加熱する加熱手段、及び原料ガス供給口、基板保持台及び加熱手段を収容する成長部を有し、前記原料ガスの反応により窒化アルミニウム単結晶の気相成長を行う気相成長装置において、気相成長装置にて前記気相成長を行った後、該成長部を構成する部材を取り外し、取り外した部材を水溶液により洗浄し、前記反応の副生物である金属アルミニウム由来の析出物又は析出した窒化アルミニウムを除去することを特徴とし、前記水溶液は、硫酸及び過酸化水素を含有し、前記水溶液は、pHが2以下の酸性であり、60℃以上180℃以下の温度で洗浄する気相成長装置の洗浄方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の気相成長装置の洗浄方法によれば、単結晶層成長時における結晶成長面への異物の付着を防止することができる。このため、異物の付着に由来する多結晶部の発生が非常に少ない単結晶積層体を製造することができる。特に同じ気相成長装置を用いて繰り返し単結晶積層体を製造する際においても製造回数を重ねても安定的に異物の付着を防止することができるため、安定的に多結晶部が非常に少ない単結晶積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一般的な気相成長装置成長部の概略図である。
【
図2】気相成長装置におけるサセプタ及び加熱部材周辺の構造の一例を示す概略図である。
【
図3】気相成長装置におけるサセプタ及び加熱部材周辺の構造の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の洗浄方法は、原料ガスを供給する原料ガス供給口、基板を載置する基板保持台、該基板保持台を加熱することにより基板を加熱する加熱手段、及び原料ガス供給口、基板保持台及び加熱手段を収容する成長部を有する気相成長装置において、気相成長装置にて気相成長を行った後、該成長部を構成する部材を取り外し、取り外した部材を水溶液により洗浄することが特徴である。
【0017】
前述のとおり、例えば、III族源ガスと窒素源ガスとを反応させてベース基板上にIII族窒化物単結晶層を成長させIII族窒化物単結晶積層体を得るまでのサイクルを同一の気相成長装置にて繰り返し行う際には、通常、反応の副生物である塩化アルミニウムや塩化ガリウム等のIII族金属由来の析出物およびベース基板外に析出したIII族窒化物等を成長部内より除去するため、キャリアガス、或いは塩化水素や塩素ガス等の酸性ガス等の雰囲気下で加熱クリーニング処理を行った後に結晶成長を行うが、かかる加熱クリーニングによっても塩化アルミニウムや塩化ガリウム等のIII族金属由来の副生物およびベース基板外に析出したIII族窒化物等は完全には除去できず、成長部内に残留する。成長部内に残留した該析出物が単結晶層の成長前又は成長中に脱離し結晶成長面に異物として付着した場合、付着した箇所およびその周辺において結晶成長異常による結晶欠陥および多結晶の発生等を引き起こし、結晶品質の低下の要因となる。特に、該析出物の脱離は窒化アルミニウム単結晶や窒化アルミニウムガリウム等アルミニウムを含む窒化物単結晶等のアルミニウム系III族窒化物単結晶のような高温下で気相成長を行う場合に顕著に生じる傾向がある。従って、本発明の洗浄方法を用いて成長部内に析出したIII族金属由来成分を除去した後にベース基板上にIII族窒化物単結晶層を成長させることで成長時における単結晶層中への異物の混入を防止し、結晶成長面への異物の付着に起因する多結晶の発生や、最終的に成長後の基板を研磨した際には凹部の発生が抑制された高品質のIII族窒化物単結晶積層体を得ることができるものと推測される。以下、本発明の洗浄方法について詳述する。
【0018】
(気相成長装置)
図1に本発明の一実施形態に係る気相成長装置成長部の概略図を示す。
図1に示す気相成長装置成長部99は、気相成長を行う反応管30、該反応管30内部を反応管外部より加熱する加熱手段36、結晶成長となるベース基板10を戴置する基板支持台(サセプタ)32、基板支持台32の下部に位置し、該支持台を加熱することによってベース基板10を加熱するための加熱手段37、反応管30内部に原料ガスを供給するために原料ガス供給口42、及び45、反応管30内部のガスを排気するための排気部34から構成されている。ここで、気相成長を行う際に複数の原料ガスを用いる場合には、
図1に示す様に用いるガスの種類に応じて複数の原料ガス供給口を有することも可能である。また、原料ガスの流れを制御するため、或いは複数の原料ガスがベース基板に達する前に混合されることを防ぐためにキャリアガスを用いることがあり、かかる場合には、上記気相成長装置においてキャリアガスの供給口を有してもよい。また、ベース基板10上に均一に単結晶層を積層させるためにサセプタ32を回転可能としても良い。さらに
図1では、サセプタ32を加熱する加熱手段として高周波加熱コイルを用いているが、他の加熱手段(例えばヒータコイルが埋設されているサセプタ等を用いた電気抵抗加熱など)を用いても良い。また、原料ガスが接触することによる加熱手段の劣化や、成長部反応域31以外の領域を必要以上に加熱することを抑制するため、
図2及び
図3に示すように加熱手段を覆うように保護部材33を用いてもよい。また、成長部を構成する部材の材質としては、かかる気相成長反応での反応中の温度に耐え得るものであれば限定せずに使用できるが、加熱手段に高周波加熱を用いる場合には、石英、アルミナ、サファイア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の絶縁体を使用することが好ましい。また特に、サセプタやベース基板周辺の部材のように加熱手段と近く高温となる部材は、反応中に成長部内を流通する原料ガス等による腐食が起こりやすいため、使用する原料ガス等に対する腐食耐性が高い材質を使用することが好ましく、例えば原料ガスに塩化アルミニウムを使用する場合には窒化ホウ素、窒化ケイ素が好ましい。
【0019】
(気相成長方法)
上記気相成長装置を用いた気相成長法による単結晶層の一般的な成長手順としては、反応管30内にベース基板10を設置した後、反応管30内を原料ガスを含まないキャリアガスを流通した状態で、反応管30とベース基板10をそれぞれ所定の温度に加熱する。次いで第一の原料ガス供給ノズル42および第二の原料ガス供給ノズル45より原料ガスの供給を開始してベース基板10上に単結晶層の成長を開始し、所望の膜厚が得られるまで前記原料ガスの供給を継続する。所望の膜厚に到達後、原料ガスの供給を停止し、単結晶積層体を冷却後に反応管30から取り出す。その後、反応管30内部のベース基板10以外に析出した析出物を除去するために、反応管30内部のクリーニング処理を行う。反応管30内部に析出物を分解することのできるクリーニングガス(例えば塩素ガスや塩化水素ガスなど)を供給して反応管30内部の析出部分を加熱状態に保持することで、析出物を除去することもできる。クリーニング終了後は、必要に応じて反応管30内部にキャリアガスを流通した状態で空焼処理する。クリーニング処理と空焼を兼ねる場合は、空焼処理は省略される。このような手順を一つのサイクルとして、サセプタ32上に次のサイクルのベース基板を設置して単結晶層の成長を行い、その後もサイクルを繰り返し行う。
【0020】
(本発明の気相成長装置の洗浄方法)
本発明の気相成長装置の洗浄方法は、気相成長装置にて気相成長を行った後、上記クリーニングガスによるクリーニング処理の代わりに、成長部を構成する部材を取り外し、取り外した部材を水溶液により洗浄することが特徴である。上記
図1の気相成長装置の場合を例示すると、単結晶積層体を反応管30から取り出した後にサセプタ32やベース基板10周辺の部材、第一の原料ガス供給ノズル42、第二の原料ガス供給ノズル45、反応管30等の成長部を構成する各部材を取り外し、各部材を水溶液で洗浄する。このような水溶液による洗浄を行うことにより、該成長部の各部材の表面に析出した析出物を除去することができる。特に、サセプタ32および保護部材33はその他の成長部部材よりも高温になることから析出物の析出量が多く、クリーニングガスによる一般的なクリーニング処理を行った際には析出物が残留しやすい傾向にある。従って、上記部材に対して、本発明の気相成長装置の洗浄方法を実施することが好ましい。またIII族窒化物単結晶、特に、窒化アルミニウム単結晶や窒化アルミニウムガリウム等、のアルミニウム系III族窒化物単結晶を気相成長法により製造する場合には、気相成長時の反応温度が比較的高いため成長部部材表面に析出物が残留していると、結晶成長時にかかる残留した析出物の脱離が起きやすい傾向にある。従って、かかる単結晶成長の際に本発明の気相成長装置の洗浄方法を実施することが好ましい。本発明の気相成長装置の洗浄方法は、単結晶成長を行った後に毎回行ってもよいし、成長させた単結晶層に含有する異物の個数についての閾値を設定し閾値を越えた場合に洗浄を行い、次の結晶成長を行ってもよい。
【0021】
(水溶液による洗浄)
本発明の気相成長装置の洗浄方法に用いる水溶液としては、析出物の除去効果が高い点で、水溶液を酸性、又はアルカリ性とすることが好ましい。酸性の水溶液として具体的には、硝酸、塩酸、硫酸、りん酸、フッ化水素酸等の酸溶液を原液もしくは希釈水溶液を使用することができる。一方、アルカリ性の水溶液として具体的には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の一般的な無機アルカリを水溶液化したものや、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドやテトラエチルアンモニウムハイドロオキサイドのような有機アルカリ水溶液を適宜希釈して使用することができる。酸またはアルカリの濃度は、濃い方が洗浄効果は高まるため、酸性、或いはアルカリ性の水溶液を用いる際の水溶液のpHとしては、3以下もしくは10以上が好ましく、2以下もしくは12以上がより好ましく、特に1以下もしくは13以上であることが最も好ましい。
【0022】
さらに、酸性もしくはアルカリ性水溶液による洗浄を行う際に酸化剤を添加することで標準酸化還元電位を高め、析出物の除去効果を高めることができるため、酸化剤を添加することが特に好ましい。酸化剤として具体的には、過酸化水素、二クロム酸塩、過マンガン酸塩等が上げられる。これらの中でも過酸化水素水が金属元素を含まないため金属汚染の原因とならず、かつ取扱いが比較的容易である点から、過酸化水素を用いることが好ましい。過酸化水素は、上記酸性もしくはアルカリ性水溶液に過酸化水素水を混合することで用いることができる。過酸化水素を用いる場合の濃度としては、0.1~30質量%の範囲で適宜用いれば良い。
【0023】
上記洗浄に用いる水溶液の中でも、特に硫酸と過酸化水素の混合液や、塩酸と過酸化水素の混合液、或いはアンモニアと過酸化水素の混合液は、前記の好ましいpHと高い標準酸化還元電位を兼備えるため特に洗浄効果が高く好ましい。上記混合液の混合比としては、上記のpHの範囲且つ過酸化水素の濃度の範囲で適宜混合すれば良い。
【0024】
上記部材を洗浄する方法としては、洗浄する部材の形状等を勘案して適宜行えば良く、水溶液中に部材を浸漬させる浸漬洗浄、或いは、部材に水溶液を流す流水洗浄等いずれも洗浄方法を用いても良い。また洗浄する際の温度としては、表面に析出した析出物が除去できる温度で適宜設定すれば良い。通常20℃以上200℃以下好ましくは60℃以上180℃以下、特に好ましくは90℃以上150℃以下の範囲で適宜選択すれば良い。さらに洗浄時間についても表面に析出した析出物が除去できる温度で適宜設定すれば良く、通常1分から300分の範囲から適宜選択すれば良い。
【0025】
上記本発明の気相成長装置の洗浄方法を行った後は、洗浄した部材表面の水を乾燥させた後に、気相成長装置に用いれば良い。水溶液として、酸性又はアルカリ性の水溶液を用いた場合、或いはさらに酸化剤を用い場合には、純水で洗浄後、乾燥しても良い。使用する純水としては、部材表面の汚染を低減させる観点から、金属イオン不純物や総有機炭素量(Total Organic Carbon:TOC)が低減された超純水を使用することが好ましく、特に、比抵抗が18MΩ・cm(25℃)以上を有し、かつ総有機炭素量が50ppb以下に管理された超純水を使用することが好ましい。
【0026】
上記、本発明の気相成長装置の洗浄方法を行った部材は、再度気相成長装置の部材として組み立てた後、上記方法によって結晶成長を行えば良い。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、窒化アルミニウム単結晶層中の多結晶部の測定は、以下の方法により行った。
【0028】
(窒化アルミニウム単結晶積層体中の多結晶部の測定方法)
窒化アルミニウム単結晶積層体の単結晶層表面をノマルスキー微分干渉顕微鏡(ニコン社製LV150)により、観察倍率50倍~1000倍で観察した。単結晶層体表面に露出した不定形な凸部の個数を多結晶部の個数としてカウントした。なお、不定形な凸部が多結晶であることはラマン分光分析により窒化アルミニウム単結晶をc軸方向以外から分析した際や、窒化アルミニウム多結晶を分析した際に観測されるラマンシフト670cm-1付近のE1(TO)モードのラマン散乱に由来するピークおよびラマンシフト610cm-1付近に観測されるA1(TO)モードのラマン散乱に由来するピークの有無により確認した。
【0029】
実施例1
図1に示す成長部を有する気相成長装置を使用し、ベース基板上に窒化アルミニウム単結晶層を成長させた。結晶成長中に特に高温となるサセプタ32および保護部材33の材質としては窒化ホウ素を採用し、反応管30および反応管30内部のその他の部材の材質としては石英を採用した。本実施例の実施前の成長バッチにおいて、後述する本実施例と同様の成長条件で窒化アルミニウム単結晶層の成長を予め行い、窒化アルミニウム単結晶積層体をを取り出した。
【0030】
(成長部部材に析出した析出物の除去)
次いで、気相成長装置から
図1に示す成長部を取り外し、96%濃硫酸400ml、30%過酸化水素水100mlを混合した水溶液(洗浄媒体)に90℃で10分間浸漬した後、比抵抗が18.2MΩ・cm、総有機炭素量(TOC)が5ppbの超純水流水中(2L/min)にて7分間流水洗浄し、洗浄媒体成分を除去した。洗浄後、クリーンベンチ内において成長部部材を60分間静置乾燥した。
【0031】
(成長部の再設置)
成長部部材が乾燥した後、成長部取り外し前と同じように各部材を設置し、次の窒化アルミニウム単結晶の成長の準備を行った。その後、気相成長装置内部に侵入した大気成分を除去するために、減圧とキャリアガスの充填を複数回繰り返して、気相成長装置内をパージした。
【0032】
(気相成長装置の空焼)
次に、成長部部材や気相成長装置内部に吸着した水分を除去するために空焼を行った。空焼では、気相成長装置内の各ガス供給管からキャリアガスを供給しながら高周波加熱コイルに電力を印加してサセプタを1500℃まで加熱し、成長部部材を前記サセプタからの輻射熱により加熱した。最高温度に達した状態で30分間保持した後、室温まで冷却した。
【0033】
(III族窒化物単結晶層の成長)
冷却後、次の窒化アルミニウム単結晶層を成長するための新たなベース基板をサセプタ上に設置した。ベース基板には直径25.4mmで厚さ500μmの昇華法で製造したc面窒化アルミニウム単結晶を使用した。次いで、気相成長装置内の各ガス供給管からキャリアガスを流通した状態で、サセプタおよび基板温度を1500℃に加熱した。到達後に、塩化アルミニウムガスと塩化水素ガスの混合ガスとをIII族源ガス供給ノズル(第一の原料ガス供給ノズル)を通じてベース基板上に供給した。さらに、窒素源ガス供給ノズル(第二の原料ガス供給ノズル)を通してアンモニアガスおよび塩化水素ガスを供給して、ベース基板上に窒化アルミニウム単結晶層の成長を開始した。所定時間を経過後、塩化アルミニウムガス、塩化水素ガス、アンモニアガスの供給を停止し、室温まで冷却した。ベース基板中心位置における成長速度は55μm/hであり、6時間成長することによって膜厚330μmの窒化アルミニウム単結晶層を得た。
【0034】
冷却後、得られた窒化アルミニウム単結晶積層体を気相成長装置内より取り出しノマルスキー微分干渉顕微鏡により50倍~1000倍の範囲で観察したところ、多結晶部は0個であった。
【0035】
以降、窒化アルミニウム単結晶積層体を取り出した後は、再び成長部を構成する部材の取り外しおよび水溶液による洗浄の工程に移行し、次のバッチの窒化アルミニウム単結晶層の成長を繰り返し行った。成長バッチを30回繰り返した結果、1基板あたりの多結晶の最大発生数は1個、平均の発生数は0.1個、発生数の標準偏差は0.35であり、成長部部材に析出した析出物の除去工程を含まない場合やクリーニングガスによる一般的なクリーニングを実施した場合と比較して多結晶の発生が低減した。
【0036】
実施例2~4、比較例1~3
表1に示す洗浄媒体および洗浄方法で成長部部材のクリーニングを行った以外は、実施例1と同様にIII族窒化物単結晶層の成長を行った。
結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
【符号の説明】
【0039】
99 気相成長装置
10 ベース基板
30 反応管
31 反応部反応域
32 サセプタ
33 保護部材
34 排気部
36 加熱手段
37 加熱手段
42 第一の原料ガス供給ノズル
45 第二の原料ガス供給ノズル