(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】疾患領域抽出装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220826BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20220826BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220826BHJP
G06T 7/136 20170101ALI20220826BHJP
G06T 7/174 20170101ALI20220826BHJP
【FI】
A61B6/03 360D
A61B6/03 360J
A61B6/03 360T
A61B6/03 377
A61B5/055 380
A61B5/055 382
G06T7/00 614
G06T7/136
G06T7/174
(21)【出願番号】P 2018186788
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 貞登
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/048507(WO,A1)
【文献】特開2018-011958(JP,A)
【文献】特表2010-517030(JP,A)
【文献】特表2017-520305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0293199(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0249979(US,A1)
【文献】特表2018-505705(JP,A)
【文献】特表2017-508561(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0286649(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0300622(US,A1)
【文献】特表2012-533331(JP,A)
【文献】特開2007-275318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
A61B 5/055
G06T 1/00 , 7/00
G16H 30/00 -30/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患を発症している被検体を撮影することにより得られた第1の画像を取得する画像取得部と、
前記第1の画像から該第1の画像とは異なる種類の
画像であって、疾患が現れた領域と該疾患が現れた領域以外の領域との信号値の相違が前記第1の画像の前記信号値の相違よりも高い第2の画像を推定することにより推定画像を導出する推定画像導出部と、
前記推定画像導出部により導出された推定画像から疾患領域を抽出する疾患領域抽出部と、
を含む疾患領域抽出装置。
【請求項2】
前記推定画像導出部は、前記第1の画像と、該第1の画像とは異なる種類の第2の画像とを位置合わせした画像の組のデータセットを複数含む学習情報を用いて機械学習された第1の判別器を備え、
前記推定画像導出部は、前記第1の判別器に入力された第1の画像に基づいて前記第1の判別器から出力された第2の画像の推定画像を導出する請求項1に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項3】
前記疾患領域抽出部は、前記第1の画像とは異なる種類の第2の画像と、該第2の画像において定義された疾患領域とのデータセット、及び前記推定画像導出部により導出された前記第2の画像の推定画像と、該推定画像において定義された疾患領域とのデータセットの少なくとも一方のデータセットを複数含む学習情報を用いて機械学習された第2の判別器を備え、
前記疾患領域抽出部は、前記第2の判別器に入力された推定画像に基づいて前記第2の判別器から出力された疾患領域を抽出する請求項1又は2に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項4】
前記第1の画像と前記第2の画像は、撮影条件が異なる画像である請求項1から3の何れか1項に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項5】
前記第1の画像と前記第2の画像は、撮影原理が異なる画像である請求項1から3の何れか1項に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項6】
前記第1の画像がCT画像であり、前記第2の画像がMR画像である請求項1から3の何れか1項に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項7】
前記MR画像が拡散強調画像である請求項6に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項8】
被検体が脳梗塞を発症している患者の脳であり、前記疾患領域が梗塞領域である請求項1から7の何れか1項に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項9】
前記疾患領域抽出部により抽出された前記疾患領域を前記画像取得部により取得された第1の画像に反映させて表示部に表示させる表示制御部をさらに備えた請求項1から8の何れか1項に記載の疾患領域抽出装置。
【請求項10】
疾患を発症している被検体を撮影することにより得られた第1の画像を取得し、
前記第1の画像から該第1の画像とは異なる種類の
画像であって、疾患が現れた領域と該疾患が現れた領域以外の領域との信号値の相違が前記第1の画像の前記信号値の相違よりも高い第2の画像を推定することにより推定画像を導出し、
導出された前記推定画像から疾患領域を抽出する疾患領域抽出方法。
【請求項11】
疾患を発症している被検体を撮影することにより得られた第1の画像を取得する手順と、
前記第1の画像から該第1の画像とは異なる種類の
画像であって、疾患が現れた領域と該疾患が現れた領域以外の領域との信号値の相違が前記第1の画像の前記信号値の相違よりも高い第2の画像を推定することにより推定画像を導出する手順と、
導出された前記推定画像から疾患領域を抽出する手順と、
をコンピュータに実行させる疾患領域抽出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疾患領域抽出装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CT(Computed Tomography)装置及びMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等の医療機器の進歩により、より質の高い高解像度の医用画像を用いての画像診断が可能となってきている。特に、対象部位を脳とした場合においては、CT画像及びMR画像等を用いた画像診断により、脳梗塞及び脳出血等の脳の血管障害を起こしている領域を特定することができる。このため、画像診断を支援するための各種手法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、MRIの拡散強調画像(DWI:Diffusion Weighted Image)に含まれる脳梗塞部位を検出し、拡散強調画像の異常部位と健常者の拡散強調画像とから、両者の解剖学的位置合わせに必要な位置変換データを取得し、患者の脳の各組織位置が健常者の脳の各組織位置に合致するように、位置変換データを用いて、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置で撮影されたSPECT画像を変換し、SPECT画像上で脳梗塞部位を判別する手法が提案されている。また、特許文献2においては、MR画像を入力し、入力されたMR画像に機械学習による変換を適用してCT画像を生成し、生成したCT画像を含めた複数のモダリティの画像を用いて診断を行う手法が提案されている。
【0004】
ところで、脳梗塞患者に対しては、アルテプラーゼという治療薬を使った血栓溶解療法が行われる。血栓溶解療法においては、脳梗塞の未発症が確認された時刻から4.5時間以内が適用対象であり、時間の経過により梗塞領域が広がるほど、治療後に出血が生じるリスクが高くなることが知られている。このため、血栓溶解療法の適否を判断するためには、医用画像を用いて梗塞領域を迅速かつ適切に判別することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-165765号公報
【文献】特表2018-505705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、梗塞領域がすでに広範囲である場合には出血が生じる可能性が高くなることが知られている。しかしながら、CT画像上で梗塞領域を的確に捉えることは、専門医であっても難易度が高く、計算機による梗塞領域の自動抽出と定量化が望まれている。そこで、梗塞領域を自動抽出する方法として、近年注目されている深層学習を応用することができる。深層学習を用いるには、CT画像とCT画像における梗塞の正解領域とのデータセットを複数含む学習情報が必要になる。しかしながら、CT画像上において梗塞領域は必ずしも鮮明ではないため、CT画像における梗塞の正解領域を示すデータを多く用意することは困難である。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みなされたものであり、梗塞の正解領域を示すデータを多く用意することが困難な画像であっても、梗塞領域を抽出可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の疾患領域抽出装置は、疾患を発症している被検体を撮影することにより得られた第1の画像を取得する画像取得部と、
第1の画像からこの第1の画像とは異なる種類の第2の画像を推定することにより推定画像を導出する推定画像導出部と、
推定画像導出部により導出された推定画像から疾患領域を抽出する疾患領域抽出部と、
を含む。
【0009】
ここで、本開示においては、例えば同じCT画像であっても、被検体に造影剤が投与されて取得されたCT画像と被検体に造影剤が投与されずに取得されたCT画像とでは「異なる種類の画像」とする。すなわち、少しでも異なる撮影条件で撮影されて取得された画像であれば「異なる種類の画像」とする。また、CT画像、MR画像、及びPET(Positron Emission Tomography)画像等、異なる撮影原理により取得された画像も「異なる種類の画像」とする。また、本開示において、第1の画像及び第2の画像は、同一の被検体を撮影することにより得られた画像とする。
【0010】
なお、本開示による疾患領域抽出装置においては、推定画像導出部は、第1の画像と、この第1の画像とは異なる種類の第2の画像とを位置合わせした画像の組のデータセットを複数含む学習情報を用いて機械学習された第1の判別器を備え、
推定画像導出部は、第1の判別器に入力された第1の画像に基づいて第1の判別器から出力された第2の画像の推定画像を導出してもよい。
【0011】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、疾患領域抽出部は、第1の画像とは異なる種類の第2の画像と、第2の画像において定義された疾患領域とのデータセット、及び推定画像導出部により導出された第2の画像の推定画像と、推定画像において定義された疾患領域とのデータセットの少なくとも一方のデータセットを複数含む学習情報を用いて機械学習された第2の判別器を備え、
疾患領域抽出部は、第2の判別器に入力された推定画像に基づいて第2の判別器から出力された疾患領域を抽出してもよい。
【0012】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、第1の画像と第2の画像は、撮影条件が異なる画像であってもよい。
【0013】
ここで、本開示において「撮影条件」は、被検体に造影剤が投与されているか否か、X線照射条件、スライス幅等、撮影時の各種条件を意味する。
【0014】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、第1の画像と第2の画像は、撮影原理が異なる画像であってもよい。
【0015】
ここで、本開示において「撮影原理」は、CT撮影、MR撮影、及びPET撮影等の撮影行う際の撮影方法を意味する。
【0016】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、第1の画像がCT画像であり、第2の画像がMR画像であってもよい。
【0017】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、MR画像が拡散強調画像であってもよい。
【0018】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、被検体が脳梗塞を発症している患者の脳であり、疾患領域が梗塞領域であってもよい。
【0019】
また、本開示による疾患領域抽出装置においては、疾患領域抽出部により抽出された疾患領域を画像取得部により取得された第1の画像に反映させて表示部に表示させる表示制御部をさらに備えていてもよい。
【0020】
本開示の疾患領域抽出方法は、疾患を発症している被検体を撮影することにより得られた第1の画像を取得し、
第1の画像からこの第1の画像とは異なる種類の第2の画像を推定することにより推定画像を導出し、
導出された推定画像から疾患領域を抽出する。
【0021】
なお、本開示による疾患領域抽出方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとして提供してもよい。
【0022】
本開示による他の疾患領域抽出装置は、コンピュータに実行させるための命令を記憶するメモリと、
記憶された命令を実行するよう構成されたプロセッサとを備え、プロセッサは、
疾患を発症している被検体を撮影することにより得られた第1の画像を取得し、
第1の画像からこの第1の画像とは異なる種類の第2の画像を推定することにより推定画像を導出し、
導出された推定画像から疾患領域を抽出する処理を実行する。
【発明の効果】
【0023】
本開示の疾患領域抽出装置、方法及びプログラムによれば、梗塞の正解領域を示すデータを多く用意することが困難な画像であっても、梗塞領域を抽出可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の一実施形態である疾患領域抽出装置を適用した、診断支援システムの概要を示すハードウェア構成図
【
図2】本開示の一実施形態である疾患領域抽出装置の構成を示す概略ブロック図
【
図3】梗塞領域の抽出対象となるCT画像の一例を示す図
【
図5】本開示の一実施形態である推定画像導出部の構成を示す図
【
図7】CT画像とMR画像との位置合わせを説明するための図
【
図8】MR推定画像における梗塞領域の抽出を説明するための図
【
図9】本開示の一実施形態である疾患領域抽出部の構成を示す図
【
図11】MR画像と疾患領域とのデータセットを説明する図
【
図13】本開示の一実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態による疾患領域抽出装置を適用した、診断支援システムの概要を示すハードウェア構成図である。
図1に示すように、診断支援システムでは、本実施形態による疾患領域抽出装置1、3次元画像撮影装置2、及び画像保管サーバ3が、ネットワーク4を経由して通信可能な状態で接続されている。なお、画像保管サーバ3は、本発明のデータ保管部に対応する。
【0026】
3次元画像撮影装置2は、被検体の診断対象となる部位を撮影することにより、その部位を表す3次元画像を生成する装置であり、具体的には、CT装置、MRI装置、及びPET装置等である。この3次元画像撮影装置2により生成された、複数のスライス画像からなる3次元画像は単位検査毎に画像保管サーバ3に送信され、保存される。なお、本実施形態においては、被検体である患者の診断対象部位は脳であり、3次元画像撮影装置2はCT装置2A及びMRI装置2Bである。そして、CT装置2Aにおいて、被検体の脳を含む3次元のCT画像Bc0を生成し、MRI装置2Bにおいて、被検体の脳を含む3次元のMR画像Bm0を生成する。なお、本実施形態においては、MR画像Bm0は、拡散強調画像とする。また、本実施形態においては、CT画像Bc0は、造影剤を使用しないで撮影を行うことにより取得される非造影CT画像とするが、造影剤を使用して撮影を行うことにより取得した造影CT画像を用いてもよい。
【0027】
画像保管サーバ3は、各種データを保存して管理するコンピュータであり、大容量外部記憶装置及びデータベース管理用ソフトウェアを備えている。画像保管サーバ3は、有線あるいは無線のネットワーク4を介して他の装置と通信を行い、画像データ等を送受信する。具体的には3次元画像撮影装置2で生成された3次元画像の画像データを含む各種データをネットワーク経由で取得し、大容量外部記憶装置等の記録媒体に保存して管理する。なお、画像データの格納形式及びネットワーク4経由での各装置間の通信は、DICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)等のプロトコルに基づいている。
【0028】
疾患領域抽出装置1は、1台のコンピュータに、本開示の疾患領域抽出プログラムをインストールしたものである。コンピュータは、診断を行う医師が直接操作するワークステーション又はパーソナルコンピュータでもよいし、それらとネットワークを介して接続されたサーバコンピュータでもよい。疾患領域抽出プログラムは、DVD(Digital Versatile Disc)あるいはCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体からコンピュータにインストールされる。又は、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、もしくはネットワークストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じて医師が使用するコンピュータにダウンロードされ、インストールされる。
【0029】
図2は、コンピュータに疾患領域抽出プログラムをインストールすることにより実現される本開示の一実施形態である疾患領域抽出装置の概略構成を示す図である。
図2に示すように、疾患領域抽出装置1は、標準的なワークステーションの構成として、CPU(Central Processing Unit)11、メモリ12及びストレージ13を備えている。また、疾患領域抽出装置1には、液晶ディスプレイ等からなる表示部14、並びにキーボード及びマウス等からなる入力部15が接続されている。入力部15は、ユーザによる種々の設定入力を受け付ける。なお、タッチパネルを用いることによって表示部14と入力部15とを兼用するようにしてもよい。
【0030】
ストレージ13は、ハードディスクドライブ及びSSD(Solid State Drive)等からなる。ストレージ13には、ネットワーク4を経由して画像保管サーバ3から取得した、被検体の医用画像、並びに処理に必要な情報を含む各種情報が記憶されている。
【0031】
また、メモリ12には、疾患領域抽出プログラムが記憶されている。疾患領域抽出プログラムは、CPU11に実行させる処理として、脳梗塞を発症している被検体を撮影することにより得られた脳のCT画像Bc1を取得する画像取得処理と、脳のCT画像Bc1から脳のMR画像を推定することにより脳のMR推定画像Dm1を導出する推定画像導出処理と、導出された脳のMR推定画像Dm1から梗塞領域A1を抽出する疾患領域抽出処理と、抽出された梗塞領域A1を脳のCT画像Bc1に反映させて表示部14に表示させる表示制御処理とを規定する。なお、本開示において、MR推定画像Dm1は推定画像に対応する。
【0032】
そして、CPU11がプログラムに従いこれらの処理を実行することで、コンピュータは、画像取得部21、推定画像導出部22、疾患領域抽出部23、及び表示制御部24として機能する。
【0033】
画像取得部21は、後述する第1の判別器30及び第2の判別器31の学習のために、脳梗塞を発症している被検体の脳のCT画像Bc0及びMR画像Bm0を画像保管サーバ3から取得する。また、梗塞領域の抽出のために、梗塞領域の抽出対象となるCT画像Bc1を画像保管サーバ3から取得する。なお、CT画像Bc0、CT画像Bc1及びMR画像Bm0が既にストレージ13に記憶されている場合には、画像取得部21は、ストレージ13からCT画像Bc0、CT画像Bc1及びMR画像Bm0を取得するようにしてもよい。また、画像取得部21は、後述する第1の判別器30及び第2の判別器31の学習のために、多数の被検体についてのCT画像Bc0及びMR画像Bm0を取得する。
【0034】
推定画像導出部22は、梗塞領域の抽出対象となるCT画像Bc1において撮影対象となった被検体を撮影することにより得られる脳のMR画像を推定することにより得られる脳のMR推定画像Dm1を、脳のCT画像Bc1から導出する。
図3は梗塞領域の抽出対象となるCT画像Bc1の一例を示す図、
図4はMR推定画像Dm1の一例を示す図である。なお、CT画像Bc1は3次元画像であるが、ここでは説明のため、CT画像Bc1の1つの断層面における2次元の断層画像を用いて説明する。また、MR推定画像Dm1も3次元画像であるが、ここでは説明のため、CT画像Bc1と同様に2次元の断層画像を用いて説明する。また、推定画像導出部22は、導出したMR推定画像Dm1を画像保管サーバ3に保管する。
【0035】
図3に示すように、脳のCT画像Bc1においては、脳梗塞の領域と他の領域との信号値の相違はそれほど大きくないため、CT画像Bc1を用いて梗塞領域を抽出することは、困難であることが多い。一方、拡散強調画像であるMR画像は、頭蓋骨が描出されず脳実質等の軟部組織のみを含む画像(
図7の右図のMR画像Bm0参照)であり、梗塞領域は他の領域と比較して大きい画素値(高い信号値)を有し、白く描出される。そこで、推定画像導出部22は、梗塞領域を抽出する対象画像とするために、CT画像Bc1に基づいて脳のMR画像を推定した
図4に示すMR推定画像Dm1を導出する。なお、
図4に示すように、拡散強調画像であるMR画像の推定画像であるMR推定画像Dm1は、頭蓋骨が描出されず脳実質等の軟部組織のみを含む画像となる。
【0036】
CT画像Bc1からMR推定画像Dm1を導出する方法としては、例えば画素値の変換及び機械学習を用いる手法等、CT画像に基づいてMR画像を作成する公知の技術を使用することができる。本実施形態においては、一例として、機械学習を用いる方法を使用する。
図5は本開示の一実施形態である推定画像導出部22の構成を示す図、
図6は学習モデルM1を説明するための図である。
【0037】
推定画像導出部22は、
図5に示すように、第1の判別器30を備えている。第1の判別器30は学習モデルM1を含んでおり、学習モデルM1は、
図6に示すように、CT画像Bc1が入力された場合に、MR推定画像Dm1を出力する。本実施形態においては、一例として推定画像導出部22は、CT画像Bc1が入力された場合に、MR推定画像Dm1を出力するように学習モデルM1を学習させる学習部としても機能する。なお、本開示はこれに限られず、例えば疾患領域抽出装置1が新たに学習部を備えていてもよいし、疾患領域抽出装置1とは別に新たに学習部を備えていてもよい。
【0038】
推定画像導出部22は、画像取得部21により取得された多数の被検体についてのCT画像Bc0及びMR画像Bm0に対して、CT画像Bc0とMR画像Bm0との位置合わせを行う。
図7はCT画像とMR画像との位置合わせを説明するための図である。なお、CT画像Bc0およびMR画像Bm0はともに3次元画像であるが、ここでは説明のため、CT画像Bc0およびMR画像Bm0の対応する1つの断層面における2次元の断層画像を用いて説明する。
【0039】
図7に示すように、同一被検体においては、脳の形状は略同一となる。一方、MR画像Bm0においては、梗塞領域が他の領域と比較して大きい画素値(高い信号値)を有するものとなる。これに対して、CT画像Bc0においては、梗塞領域と他の領域とは画素値の差異がMR画像Bm0ほど大きくない。なお、CT画像Bc0は、拡散強調画像であるMR画像Bm0とは異なり、頭蓋骨および脳実質を含んでいる。このため、推定画像導出部22は、CT画像Bc0から脳実質の領域を脳領域として抽出し、抽出した脳領域とMR画像Bm0との位置合わせを行う。
【0040】
本実施形態において、推定画像導出部22は、剛体位置合わせにより、CT画像Bc0およびMR画像Bm0のいずれか一方を他方に対して位置合わせする。本実施形態においては、CT画像Bc0をMR画像Bm0に対して位置合わせするものとするが、MR画像Bm0をCT画像Bc0に対して位置合わせするようにしてもよい。なお、位置合わせとしては非剛体位置合わせを用いてもよい。非剛体位置合わせとしては、例えばBスプラインおよびシンプレートスプライン等の関数を用いて、CT画像Bc0における特徴点をMR画像Bm0における特徴点に対応する対応点に非線形に変換することによる手法を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0041】
推定画像導出部22は、上記のようにして位置合わせがなされたCT画像Bc0及びMR画像Bm0の画像の組のデータセットを複数含む学習情報を取得する。推定画像導出部22は、これらの学習情報を教師データとして、CT画像Bc1が入力された場合に、MR推定画像Dm1を出力するように学習モデルM1を学習させる。推定画像導出部22は、以上のようにして学習された学習モデルM1を用いることにより、CT画像Bc1からMR推定画像Dm1を導出する。
【0042】
疾患領域抽出部23は、推定画像導出部22により導出された脳のMR推定画像Dm1から梗塞領域を抽出する。
図8はMR推定画像Dm1における梗塞領域A1の抽出を説明するための図である。なお、MR推定画像Dm1は3次元画像であるが、ここでは説明のため、2次元の断層画像を用いて説明する。なお、
図8に示すように、拡散強調画像であるMR画像の推定画像であるMR推定画像Dm1は、頭蓋骨が描出されず脳実質等の軟部組織のみを含む画像となる。
図8に示すように、MR推定画像Dm1においては、拡散強調画像であるMR画像Bm0と同様に、梗塞領域は他の領域と比較して大きい画素値(高い信号値)を有するものとなり、白く描出される。疾患領域抽出部23は、MR推定画像Dm1において、例えば予め定められた閾値よりも大きい画素値を有する領域を、梗塞領域として抽出する。これにより、
図8に示す梗塞領域A1が抽出される。
【0043】
なお、本開示の技術はこれに限られず、機械学習を用いる方法を使用してもよい。
図9は本開示の一実施形態である疾患領域抽出部23の構成を示す図、
図10は学習モデルM2を説明するための図である。
【0044】
疾患領域抽出部23は、
図9に示すように、第2の判別器31を備えている。第2の判別器31は学習モデルM2を含んでおり、学習モデルM2は、
図10に示すように、MR推定画像Dm1が入力された場合に、梗塞領域A1を出力する。本実施形態においては、一例として疾患領域抽出部23は、MR推定画像Dm1が入力された場合に、梗塞領域A1を出力するように学習モデルM2を学習させる学習部としても機能する。なお、本開示はこれに限られず、例えば疾患領域抽出装置1が新たに学習部を備えていてもよいし、疾患領域抽出装置1とは別に新たに学習部を備えていてもよい。
【0045】
図11はMR画像Bm0と梗塞領域A2とのデータセットを説明する図である。なお、MR画像Bm0は3次元画像であるが、ここでは説明のため、MR画像Bm0の対応する1つの断層面における2次元の断層画像を用いて説明する。拡散強調画像であるMR画像Bm0においては、
図11に示すように、梗塞領域A2は他の領域と比較して大きい画素値(高い信号値)を有するものとなる。従って、疾患領域抽出部23は、画像取得部21により取得された多数の被検体についてのMR画像Bm0に対して、一例として予め定められた閾値よりも大きい画素値を有する領域を、梗塞領域A2として抽出し、この梗塞領域A2をMR画像Bm0の梗塞領域A2として定義する。
【0046】
疾患領域抽出部23は、MR画像Bm0と、上記のようにして定義された梗塞領域A2とのデータセットを複数含む学習情報を教師データとして、MR推定画像Dm1が入力された場合に、梗塞領域A1を出力するように学習モデルM2を学習させる。具体的には、学習モデルM2は、抽出対象となるCT画像Bc1の各ボクセル位置を、梗塞領域と梗塞領域以外の2つのクラスに分類して、梗塞領域を判別する。このため、疾患領域抽出部23は、複数の被検体のMR画像Bm0において定義した梗塞領域A2から、あらかじめ定められたサイズ(例えば3×3等)の領域内の特徴量を取得し、取得した特徴量を学習モデルM2に入力し、梗塞領域であるとの判別結果を出力するように、学習モデルM2の学習、すなわち機械学習を行う。疾患領域抽出部23は、以上のようにして学習された学習モデルM2を用いることにより、MR推定画像Dm1から梗塞領域A1を抽出する。
【0047】
なお、上記実施形態においては、学習モデルM2の教師データとして、MR画像Bm0と、MR画像Bm0において定義された梗塞領域A2とのデータセットを複数含む学習情報を使用したが、本開示の技術はこれに限られない。学習モデルM2の教師データとして、上記学習情報に換えて、又は上記学習情報に加えて、MR推定画像Dm1と、MR推定画像Dm1において定義された梗塞領域A1とのデータセットを複数含む学習情報を使用してもよい。この場合、画像取得部21は、画像保管サーバ3に保管されたMR推定画像Dm1も取得する。
【0048】
疾患領域抽出部23は、MR推定画像Dm1において抽出された梗塞領域A1をCT画像Bc1上で反映させることにより、梗塞領域A1をCT画像Bc1において抽出された梗塞領域として特定する。すなわち、MR推定画像Dm1は、抽出対象となるCT画像Bc1から導出された画像であるため、MR推定画像Dm1とCT画像Bc1とは、位置合わせを行わなくとも位置が一致している。従って、MR推定画像Dm1において抽出された梗塞領域A1をCT画像Bc1上に反映させることにより、梗塞領域A1をCT画像Bc1において抽出された梗塞領域として特定することができる。
【0049】
なお、機械学習の手法としては、サポートベクタマシン(SVM(Support Vector Machine))、ディープニューラルネットワーク(DNN(Deep Neural Network))、畳み込みニューラルネットワーク(CNN(Convolutional Neural Network))、およびリカレントニューラルネットワーク(RNN(Recurrent Neural Network))等を用いることができる。
【0050】
表示制御部24は、抽出対象となるCT画像Bc1に疾患領域抽出部23による抽出結果を反映させて表示部14に表示する。
図12は抽出結果の表示の例を示す図である。なお、
図12においては、抽出対象となるCT画像Bc1の1つの断面における断層画像を示している。
図12に示すように、表示部14に表示された抽出結果においては、抽出対象のCT画像Bc1において、梗塞領域A1が表示される。なお、表示制御部24は、一例として
図12に示すように、梗塞領域A1を白枠で囲むように表示しているが、本開示はこれに限られない。例えば梗塞領域A1を網掛で表示させてもよいし、黒色や白色等で強調表示させてもよいし、表示態様については適宜変更することができる。
【0051】
次いで、本実施形態において行われる処理について説明する。
図13は本開示の一実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。まず、画像取得部21が、梗塞の抽出対象となるCT画像Bc1、すなわち脳梗塞を発症している被検体の脳のCT画像Bc0を取得し(ステップST1)、推定画像導出部22が、CT画像Bc0からMR推定画像Dm1を導出する(ステップST2)。
【0052】
次いで、疾患領域抽出部23が、MR推定画像Dm1において梗塞領域A1を抽出し(ステップST3)、梗塞領域の抽出対象となるCT画像Bc1において梗塞領域A1を特定する(ステップST4)。表示制御部24は、梗塞領域A1をCT画像Bc1に反映させて表示部14に表示させ(ステップST5)、処理を終了する。
【0053】
このように、本実施形態においては、脳梗塞を発症している被検体を撮影することにより得られた脳のCT画像Bc1を取得し、上記被検体と同一の被検体を撮影することにより得られる脳のMR画像を推定することにより得られる脳のMR推定画像Dm1を、脳のCT画像Bc1から導出し、導出された脳のMR推定画像Dm1から梗塞領域A1を抽出する。これにより、CT画像のみを用いて、梗塞領域を抽出することができるので、CT画像のみを用いて、脳梗塞の診断を迅速に行うことができる。従って、本実施形態によれば、例えばCT画像のように梗塞の正解領域を示すデータを多く用意することが困難な画像であっても、梗塞領域を抽出可能にすることができる。
【0054】
なお、上記実施形態においては、MR画像Bm0として拡散強調画像を用いているが、拡散強調画像Bm1以外のMR画像を用いてもよい。例えば、FLAIR画像、T1強調画像およびT2強調画像等を用いてもよい。また、拡散強調画像、FLAIR画像、T1強調画像およびT2強調画像等から選択された1以上の画像を用いてもよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、推定画像導出部22は、CT画像Bc1に基づいてMR推定画像Dm1を導出しているが、本開示はこれに限られない。推定画像導出部22は、例えば非造影CT画像に基づいて造影CT推定画像を導出してもよい。この場合、教師データとしてMR画像ではなく造影CT画像を使用する。通常、CT画像上で抽出される血栓領域は、急性期の梗塞を特定する際の手がかりとなる。また、血栓領域の特定は、血管内を治療する際にも必要となる。しかしながら、非造影CT画像上においては、造影されていないことから画像上で血管が見え難いため、血栓領域は必ずしも鮮明ではなく、場所の特定が困難である。そこで、非造影CT画像よりも比較的血管が見やすい造影CT画像を教師データとして、造影CT推定画像を推定し、造影CT推定画像において血栓領域を抽出する。これにより、非造影CT画像のみを用いて、血栓領域を抽出することができるので、造影CT画像のように血栓の正解領域を示すデータを多く用意することが困難な画像であっても、血栓領域を抽出可能にすることができる。さらに、例えば、被検体が造影剤を使用できない場合であっても、脳血栓の診断を精度よく行うことができる。
【0056】
また、上記実施形態においては、学習モデルM1の学習に用いるCT画像Bc0として、非造影CT画像または造影CT画像を用いているが、造影CT画像および非造影CT画像の双方を学習モデルM1の学習に用いるようにしてもよい。このように学習された学習モデルM1を用いることにより、抽出対象のCT画像が造影CT画像および非造影CT画像のいずれであっても、梗塞領域を判別できることとなる。
【0057】
また、上述した実施形態において、例えば、画像取得部21、推定画像導出部22、疾患領域抽出部23、及び表示制御部24といった各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device :PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0058】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせまたはCPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0059】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアとの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0060】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 疾患領域抽出装置
2 3次元画像撮影装置
3 画像保管サーバ
4 ネットワーク
11 CPU
12 メモリ
13 ストレージ
14 表示部
15 入力部
21 画像取得部
22 推定画像導出部
23 疾患領域抽出部
24 表示制御部
30 第1の判別器
31 第2の判別器
A1,A2 梗塞領域
Bc0 CT画像
Bc1 判別対象のCT画像
Bm0 MR画像
Dm1 推定画像
M1 第1の学習モデル
M2 第2の学習モデル