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特許7129984メルトブローン不織布、それを用いた積層体、メルトブローン不織布の製造方法およびメルトブロー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】メルトブローン不織布、それを用いた積層体、メルトブローン不織布の製造方法およびメルトブロー装置
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/011 20120101AFI20220826BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20220826BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220826BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20220826BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20220826BHJP
   G10K 11/168 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
D04H3/011
D04H3/16
B32B5/26
B60R13/08
G10K11/162
G10K11/168
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019535112
(86)(22)【出願日】2018-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2018028417
(87)【国際公開番号】W WO2019031286
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017155193
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】城谷 泰弘
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-301357(JP,A)
【文献】特開平03-045768(JP,A)
【文献】特開平11-131354(JP,A)
【文献】特開平06-192954(JP,A)
【文献】特開平11-350324(JP,A)
【文献】特表2010-514953(JP,A)
【文献】国際公開第2002/046504(WO,A1)
【文献】特表2016-538439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
B32B1/00-43/00
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分として含む樹脂組成物で構成され、200℃における面積収縮率が20%以下であり、30℃におけるたて方向の10%モジュラス(MMD)が22N/5cm以下であり、たて方向において引張強さ(T MD )が20.3N/5cm以上である、メルトブローン不織布。
【請求項2】
請求項1に記載のメルトブローン不織布であって、たて方向の引張強さ(TMD)とよこ方向の引張強さ(TCD)との比(TMD/TCD)が、1.00~1.40である、メルトブローン不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメルトブローン不織布であって、たて方向において伸び率(EMD)が25%以上であり、たて方向の伸び率(EMD)とよこ方向の伸び率(ECD)との比(EMD/ECD)が、0.80~1.20である、メルトブローン不織布。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、JIS L 1906に準じて測定される通気度が30~90cm3/cm2・sである、メルトブローン不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、乗り物吸音材用である、メルトブローン不織布。
【請求項6】
支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面に熱圧着されたメルトブローン不織布とで構成された積層体であり、前記メルトブローン不織布が、請求項1~5のいずれか一項に記載されたメルトブローン不織布である、積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体であって、前記積層体において、メルトブローン不織布と支持体との熱圧着面において、JIS K 6854-3に準じて測定された引き剥がし強さ(T型はく離法)が、0.2N/5cm以上である、積層体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の積層体であって、前記支持体が不織布またはフェルトで構成される、積層体。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載された積層体で構成された、乗り物用吸音材。
【請求項10】
結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を加熱溶融し、随伴流とともにノズル孔から溶融物を吐出する吐出工程と、
前記ノズル孔から吐出された吐出糸状物を、加温領域で加温する加温工程と、
前記加温された吐出糸状物を、エアギャップ領域で外気に暴露して冷却する冷却工程と、
前記冷却された吐出糸状物を、捕集面で捕集してウェブを得る捕集工程と、を備えるメルトブローン不織布の製造方法であって、
前記加温領域では、少なくとも一部の空間が、前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度以上に加温され、かつ
前記エアギャップ領域は、前記加温領域下端と前記捕集面との間の空間であり、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、前記加温領域下端と前記捕集面との間の距離Lとして5cm以上である、メルトブローン不織布の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のメルトブローン不織布の製造方法であって、前記加温領域が、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、前記ノズル孔から前記加温領域下端までの距離Hとして10cm以上である、メルトブローン不織布の製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載のメルトブローン不織布の製造方法であって、前記加温領域では、ノズル孔から鉛直方向下向き10cmの位置において、吐出糸状物の温度が、結晶化温度(Tc)-25℃以上である、メルトブローン不織布の製造方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法において、前記結晶性熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート系樹脂である、メルトブローン不織布の製造方法。
【請求項14】
結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を加熱溶融するための押出部と、
前記加熱溶融された樹脂溶融物を随伴流とともに吐出するためのダイと、
前記随伴流の下流側に設けられ、ダイから吐出された吐出糸状物を囲むための中空状カバー部と、
前記吐出糸状物を加温するための加熱手段と、
前記中空状カバー部から随伴流の下流方向に向かって流れる吐出糸状物を集積させるための捕集面を備える捕集部材と、を少なくとも備えるメルトブロー装置であり、
前記中空状カバー部と捕集部材とは、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、中空状カバー部下端から捕集面までの距離として5cm以上離れている、メルトブロー装置。
【請求項15】
請求項14に記載のメルトブロー装置において、前記ノズル孔から中空状カバー部下端までの距離が、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、10cm以上である、メルトブロー装置。
【請求項16】
請求項14または15に記載のメルトブロー装置において、前記中空状カバー部には、加温空気を流入するための吹き込み口が形成されている、メルトブロー装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2017年8月10日に出願した特願2017-155193の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、熱安定性に優れるとともに、柔らかな風合いを有するメルトブローン不織布、およびそれを用いた積層体、ならびにメルトブローン不織布の製造方法およびメルトブロー装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂はその汎用性の高さから、不織布においてもさまざまな形態で利用されているが、メルトブローン(MB)不織布に関しては殆ど展開されていない。この理由としては、PETが他のメルトブローン不織布として多用されている結晶性ポリマーに比べ結晶化速度が遅いことが挙げられる。すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂は結晶化速度が遅いため、メルトブロー時にその結晶化度を十分に高めることができず、その結果、得られたメルトブローン(MB)不織布は、熱安定性が低くなってしまう。このような熱安定性が低いMB不織布は、例えば、PETのガラス転移点(130℃程度)から70~80℃を超える温度である200℃下にフリーでおかれた場合にMB不織布が大きく収縮してしまう。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平3-045768号公報)には、PET樹脂をメルトブローしたウェブを180℃以下の乾熱処理に供することにより、PET樹脂の結晶化度が30%を超えないように結晶化させたMB不織布の製造方法が記載されている。そして、得られたMB不織布は、熱水面収縮率が20%以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-045768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ウェブに対する熱処理工程を増やす必要があると同時に、ウェブ自体を加熱するため、得られる不織布の風合いが硬くなる。また、このMB不織布では、100℃以上、例えば、200℃のような高温下での熱安定性については定かではない。さらに、このような製法では、通常の易結晶化ポリマーから製造されたMB不織布に較べ、強度の低いものしか得られない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、200℃条件下においても面積収縮率が小さく、柔らかい風合いを与えるPET系MB不織布、およびこれを用いた積層体を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、熱可塑性樹脂MB不織布に対して、柔らかい風合いを与え、熱安定性を向上することができる、メルトブロー方法(またはMB不織布の製造方法)及びメルトブロー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(i)まず、メルトブロー法では紡糸後の延伸工程が存在しないため、加熱により分子が動き易くなる場合、PET分子が本来有する「丸まった形状を取ろうとする性質」により、加熱により過度に熱収縮が発生する可能性があることを見出した。そして研究を進めた結果、(ii)メルトブロー紡糸後に加熱領域を設け、PET分子の結晶化を促進するとともに随伴流により疑似延伸効果を与えることによって、PET系MB不織布であっても、200℃もの高温下で熱収縮を抑制できることを見出した。さらに、本発明の発明者らは、この場合、MB不織布が有する柔らかな風合いが損なわれることを新たな課題として見出し、この新たな課題を解決するためにさらに研究を進めた結果、(iii)加温領域に続けて、所定の範囲のエアギャップ領域において、吐出糸状物を随伴流とともに走行させると、熱安定性だけでなく、柔らかな風合いのMB不織布を得ることができるのを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分として含む樹脂組成物で構成され、200℃における面積収縮率が20%以下であり、30℃におけるたて方向の10%モジュラスが22N/5cm以下である、メルトブローン不織布。
〔態様2〕
態様1に記載のメルトブローン不織布であって、たて方向において引張強さ(TMD)が10N/5cm以上であり、たて方向の引張強さ(TMD)とよこ方向の引張強さ(TCD)との比(TMD/TCD)が、1.00~1.40である、メルトブローン不織布。
〔態様3〕
態様1または2に記載のメルトブローン不織布であって、たて方向において伸び率(EMD)が25%以上であり、たて方向の伸び率(EMD)とよこ方向の伸び率(ECD)との比(EMD/ECD)が、0.80~1.20である、メルトブローン不織布。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布であって、JIS L 1906に準じて測定される通気度が30~90cm3/cm2・sである、メルトブローン不織布。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布であって、乗り物吸音材用である、メルトブローン不織布。
〔態様6〕
支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面に熱圧着されたメルトブローン不織布とで構成された積層体であり、前記メルトブローン不織布が、態様1~5のいずれか一態様に記載されたメルトブローン不織布である、積層体。
〔態様7〕
態様6に記載の積層体であって、前記積層体において、メルトブローン不織布と支持体との熱圧着面において、JIS K 6854-3に準じて測定された引き剥がし強さ(T型はく離)が、0.2N/5cm以上である、積層体。
〔態様8〕
態様6または7に記載の積層体であって、前記支持体が不織布またはフェルトで構成される、積層体。
〔態様9〕
態様6~8のいずれか一態様に記載された積層体で構成された、乗り物用吸音材。
〔態様10〕
結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を加熱溶融し、随伴流(溶融吐出物に随伴して流れる気流)とともにノズル孔から溶融物を吐出する吐出工程と、
前記ノズル孔から吐出された吐出糸状物を、加温領域で加温する加温工程と、
前記加温された吐出糸状物を、エアギャップ領域で外気に暴露して冷却する冷却工程と、
前記冷却された吐出糸状物を、捕集面で捕集してウェブを得る捕集工程と、を備えるメルトブローン不織布の製造方法であって、
前記加温領域では、少なくとも一部の空間が、前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度以上に加温され、かつ
前記エアギャップ領域は、前記加温領域下端と前記捕集面との間の空間であり、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、前記加温領域下端と前記捕集面との間の距離Lとして5cm以上である、メルトブローン不織布の製造方法。
〔態様11〕
態様10に記載のメルトブローン不織布の製造方法であって、前記加温領域が、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、前記ノズル孔から前記加温領域下端までの距離Hとして10cm以上である、メルトブローン不織布の製造方法。
〔態様12〕
態様10または11に記載のメルトブローン不織布の製造方法であって、前記加温領域では、ノズル孔から鉛直方向下向き10cmの位置において、吐出糸状物の温度が結晶化温度(Tc)-25℃以上である、メルトブローン不織布の製造方法。
〔態様13〕
態様10~12のいずれか一項に記載の製造方法において、前記結晶性熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート系樹脂である、メルトブローン不織布の製造方法。
〔態様14〕
結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を加熱溶融するための押出部と、
前記加熱溶融された樹脂溶融物を随伴流とともに吐出するためのダイと、
前記随伴流の下流側に設けられ、ダイから吐出された吐出糸状物を囲むための中空状カバー部と、
前記吐出糸状物を所定の温度(例えば、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度以上)に加温するための加熱手段と、
前記中空状カバー部から随伴流の下流方向に向かって流れる吐出糸状物を集積させるための捕集面を備える捕集部材と、を少なくとも備えるメルトブロー装置であり、
前記中空状カバー部と捕集部材とは、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、中空状カバー部下端から捕集面までの距離として5cm以上離れている、メルトブロー装置。
〔態様15〕
態様14に記載のメルトブロー装置において、前記ノズル孔から中空状カバー部下端までの距離が、ノズル孔から鉛直方向下向きの直線において、10cm以上である、メルトブロー装置。
〔態様16〕
態様14または15に記載のメルトブロー装置において、前記中空状カバー部には、加温空気を流入するための吹き込み口が形成されている、メルトブロー装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のMB不織布によれば、柔らかい風合いを有するとともに、200℃での高温下においても熱安定性に優れるPET系MB不織布、およびこれを用いた積層体を得ることができる。
【0012】
また、本発明では、紡糸後に特定の加温領域とエアギャップ領域を設けることにより、結晶性熱可塑性樹脂(特に結晶化速度の遅い樹脂)を用いた場合であっても、柔らかい風合いを与え、熱安定性を向上することができる、メルトブロー方法及びメルトブロー装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】本発明の一実施形態におけるメルトブロー装置を示す概略断面図である。
図2図1のメルトブロー装置におけるダイ10から捕集部材60の捕集面62の間を示す概略拡大断面図である。
図3】実施例1で得られたMB不織布の加熱試験後の写真である。
図4】実施例2で得られたMB不織布の加熱試験後の写真である。
図5】比較例2で得られたMB不織布の加熱試験後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。ただし、本発明は、図示の形態に限定されるものではない。
【0015】
(メルトブロー方法およびメルトブロー装置)
図1は、本発明の一実施形態におけるメルトブロー装置を示す概略断面図であり、図2は、図1のメルトブロー装置におけるダイ10から捕集部材60の捕集面62の間を示す概略拡大断面図である。図1に示すように、メルトブロー装置100では、押出部40において結晶性熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレートなど)を少なくとも含む樹脂組成物を加熱溶融し、この樹脂溶融物42がダイ10へ導かれる。次いで、ダイ10から吐出された吐出糸状物50が、捕集部材60の捕集面62へ向かって走行する。
【0016】
図2に示すようにダイ10は、樹脂溶融物42を吐出するためのノズル孔12およびノズル孔12の両側に設けられた熱風噴射溝14,14を備えている。そして、熱風噴射溝14,14から噴射される随伴流と共に、ノズル孔12から吐出された吐出糸状物(または溶融樹脂繊維)50は、吐出後、まず、加温領域26において加温される。加温領域26は、前記随伴流の下流側に設けられた中空状カバー部20により囲まれるとともに、熱風噴射機などの加熱手段23により加熱される。このような構成により、前記加温領域26の少なくとも一部の空間(例えば、ノズル孔下5cmの温度)を、前記熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)以上とすることができる。加熱手段23は、効率的に加熱する観点から、中空状カバー部20の側面から吐出糸状物50を加温するのが好ましい。ここで、結晶化温度とは、JIS K 7121に準拠して測定される温度である。
【0017】
中空状カバー部20は、ダイ10のノズル孔12の下方において、必要に応じて設けられるスペーサー部(図示せず)を介して随伴流の下流側に設けられる。中空状カバー部20の上端および下端は、吐出糸状物50を通過させるため、開放端であってもよく、または開口部が形成されていてもよい。
【0018】
ノズル孔12から吐出された吐出糸状物50は、通常であれば吐出後速やかにその温度が低下してしまうため、結晶化速度の遅い熱可塑性樹脂の場合、その結晶化を促進することは困難である。しかしながら、前記加温領域26中に、前記熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)以上となるよう加熱された空間が存在することにより、結晶化速度の遅い熱可塑性樹脂であっても、吐出糸状物50の結晶化を促進することが可能となる。
【0019】
そして、吐出糸状物50の段階で、随伴流による疑似延伸力を受けながら結晶化を促進することができるためか、MB不織布の熱安定性を高めることができ、例えば、高温にさらされた場合であっても、不織布が大きく収縮するのを抑制することができる。
【0020】
前記加温領域26で加熱される少なくとも一部の空間は、加温領域26中で、吐出糸状物50の結晶化度を促進できる限り特に限定されないが、例えば、ノズル孔12近傍であるのが好ましい。ここで、ノズル孔近傍とは、例えば、ノズル孔を中心とする半径5cmの半球状の空間であってもよい。
【0021】
加温領域の上下方向における長さは、ダイ10に設けられたノズル孔12からの鉛直方向下向きの直線において、加温領域26の上端から下端までの距離Hで表すことができる。この距離Hは、通常、ノズル孔からの鉛直方向下向きの直線において、ノズル孔12から中空状カバー部20の下端28までの距離に該当する。なお、中空状カバー部20の下端が上下方向において不均一な形状を有する場合、中空状カバー部20の下端は、中空カバー部20の真横からの投影図、すなわち立面図における中空状カバー部20の下端の最上部としてもよい。
【0022】
前記距離Hは、加温領域26の温度に応じて適宜設定することができ、例えば、10cm以上であってもよく、好ましくは10.5cm以上、さらに好ましくは11cm以上であってもよい。また、上限は本発明の効果を阻害しない限り特に限定されないが、MB不織布の伸度を高める観点から、18cm程度であってもよい。
【0023】
加温領域を設けない場合、吐出糸状物は、吐出後外気に曝されて速やかに冷却されてしまう。しかしながら、本発明では、特定の温度に調節された加温領域を設けるため、吐出後であっても、吐出糸状物が吐出後速やかに冷却されるのを抑制でき、例えば、ノズル孔12から鉛直方向に下向き10cmの位置において採取された吐出糸状物の温度は、例えば、(Tc-25)℃以上であってもよく、好ましくは(Tc-20)℃以上であってもよい。上限は、吐出糸状物50の結晶化を促進できる範囲で適宜設定することができ、例えば、経済効率の観点から、Tc+10℃以下、好ましくはTc℃以下であってもよい。
【0024】
例えば、ノズル孔12から鉛直方向に下向き10cmの位置において採取された吐出糸状物の温度は、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の場合、例えば105℃以上であってもよく、好ましくは110℃以上であってもよい。
【0025】
加熱領域26を加熱するための加熱手段(加熱源)23としては、中空状カバー部20の内部を加熱できる限り特に限定されず、ヒーター、熱風噴射機などを挙げることができる。加熱効率の観点からは、熱風噴射機が好ましい。例えば、図2に示すように、中空状カバー部20には、熱風噴射機23からの加熱空気流24を流入するための吹き込み口22,22が形成されている。この場合、吹き込み口22,22を介して、吐出糸状物50の表裏面に向かって、加熱空気流24,24が噴射される。加熱空気流24,24は、吐出糸状物50全体に噴射されてもよいし、吐出糸状物50の一部(例えば、ノズル孔近傍)に向かって噴射されてもよい。吹き込み口の形状は、熱風を中空状カバー部20内部に導入できる限り特に限定されず、丸状、多角形状などの窓が、中空状カバー部に単数または複数配設されていてもよい。例えば、吐出糸状物を幅方向に均一に加熱する観点から、吹き込み口22,22は、吐出糸状物の幅(例えば、ダイ10に形成される複数のノズル孔12の配列幅)と同程度の幅を有していてもよい。
【0026】
吹き込み口22,22から噴射される加熱空気流24の温度は、加温領域を所定の温度にすることができる限り特に限定されず、例えば、(Tc+30)℃~(Tc+250)℃程度の幅広い範囲から選択でき、好ましくは(Tc+40)℃~(Tc+240)℃程度であってもよい。また、ノズル1m幅当りのエアー量として、吐出糸状物の走行を妨害しない範囲であるのが好ましく、例えば0.5~5Nm3/分程度であってもよく、好ましくは1~3Nm3/分程度であってもよい。
【0027】
吐出糸状物50は、加温領域26を経た後、エアギャップ領域30で外気に暴露され、冷却される。エアギャップ領域30では吐出糸状物50は、随伴流と共に捕集部材60へと流れ、所定範囲のエアギャップ領域30を走行した後、捕集面62において捕集される。
【0028】
エアギャップ領域30の上下方向における長さは、ダイ10に設けられたノズル孔12からの鉛直方向下向きの直線において、加温領域26の下端28(または中空状カバー部20の下端28)から捕集部材60の捕集面62までの距離Lで表すことができる。この距離Lは、通常、中空状カバー部20の下端28から捕集面62の高さに該当する。なお、中空状カバー部20の下端28および捕集部材60の捕集面62が上下方向において不均一な形状を有する場合、距離Lは、中空カバー部20および捕集部材60の真横からの投影図、すなわち立面図における中空カバー部20の下端の最上部から捕集部材60の捕集面62の最上部までの長さであってもよい。
【0029】
前記距離Lは、随伴流により加温領域26を経た吐出糸状物50に柔らかな風合いを与えるため、5cm以上である必要がある。加温領域において疑似延伸されるとともに結晶化が促進された吐出糸状物50は、続いてエアギャップ領域30を随伴流と共に流れることにより、結晶化状態を保ちつつ、かさ高いウェブ状態を達成することが可能となり、得られるMB不織布の風合いを柔らかくすることができる。前記距離Lは、好ましくは6cm以上、より好ましくは8cm以上であってもよい。前記距離Lの上限は、特に限定されないが、捕集効率を高める観点から、15cm程度であってもよい。
【0030】
加温領域の距離Hとエアギャップ領域の距離Lについて、双方の和(H+L)は、例えば、13cm~30cm程度であってもよく、好ましくは15cm~28cm程度、さらに好ましくは18cm~25cm程度であってもよい。また、加温領域の距離Hとエアギャップ領域の距離Lは、例えば、1<H/L<3.5であってもよく、1<H/L<2であってもよく、好ましくは1<H/L<1.5であってもよい。
【0031】
また、熱風噴射溝14,14から噴射される随伴流に関し、例えば、噴射時の熱風温度は、使用される樹脂組成物の溶融温度に応じて適宜設定することができ、例えば、樹脂組成物の吐出温度と同程度であってもよい。また、噴射速度は、加温領域において吐出糸状物50に疑似延伸効果を与えることができるとともに、エアギャップ領域30において吐出糸状物50を解すことができる範囲で適宜設定することが可能であり、例えば、ノズル1m幅当りのエアー量として、5~30Nm3/分程度であってもよく、好ましくは10~25Nm3/分程度であってもよい。
【0032】
捕集部材60は、MB不織布を製造する場合に一般的に捕集部材として用いられるものであれば特に限定されず、回転ロールであってもよいし、コンベアベルトであってもよい。例えば、捕集部材60は、図1に示すように、一方向に周回されるコンベアベルトであってもよく、捕集面62において吐出糸状物50が集積され、コンベアベルトの回転に伴って、MB不織布52が連続的に形成される。
【0033】
(メルトブローン不織布)
上述したメルトブロー方法では、随伴流とともにノズルから吐出された吐出糸状物の段階において特定の処理を行うことにより、結晶性熱可塑性樹脂について、高温下での熱安定性が良好であるとともに、風合いの柔らかいMB不織布を製造することができる。
例えば、MB不織布は、結晶性熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂組成物で構成され、前記結晶性熱可塑性樹脂の融点をTmとした場合、例えば、(Tm×3/4)℃における面積収縮率が20%以下(好ましくは17%以下、より好ましくは16%以下)であり、30℃におけるたて方向(MD方向)の10%モジュラス(MMD)が22N/5cm以下であってもよい。前記結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系などの熱可塑性樹脂が挙げられる。前記樹脂組成物中、結晶性熱可塑性樹脂は50質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
【0034】
前記樹脂組成物には、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。これらの添加剤は、結晶性熱可塑性樹脂を重合によって得る際に重合系内にあらかじめ加えておいてもよいし、重合後、結晶性熱可塑性樹脂を加熱溶融する際に加えてもよい。
【0035】
特に、前記メルトブロー方法によると、結晶化速度の遅いポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂を用いた場合であっても、PET系MB不織布の熱収縮を効率的に抑制して、高温下での熱安定性が良好であるとともに、風合いの柔らかいPET系MB不織布を製造することができる。
【0036】
例えば、そのようなPET系MB不織布は、PET系樹脂を主成分として含む樹脂組成物で構成される。ここで、PET系樹脂が主成分であるとは、樹脂組成物を構成する樹脂成分のうちPET系樹脂が50質量%以上含まれることであり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であってもよい。なお、MB不織布とは、PET系に限定されないMB不織布を意味し、特にPET系樹脂に特化したMB不織布について言及する場合、PET系MB不織布と称する場合がある。
【0037】
なお、PET系樹脂とは、エチレングリコールに由来する単位およびテレフタル酸に由来する単位で構成され、用途に応じて、2.0モル%未満の共重合成分を含んでいてもよい。
【0038】
本発明のMB不織布(特にPET系MB不織布)は、従来PET系MB不織布では不可能であった200℃付近における熱安定性を高めることが可能であり、200℃における面積収縮率を20%以下とすることができる。前記面積収縮率は、好ましくは17%以下、より好ましくは16%以下であってもよい。ここで、面積収縮率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。このような高温下での面積収縮率を小さくすることにより、高温下での加工が可能となり、例えば、成形加工時間を短縮することができる。
【0039】
また、本発明のMB不織布は、熱安定性を高めるだけでなく、柔らかな風合いをも達成することができ、30℃におけるたて方向(MD方向)の10%モジュラス(MMD)が22N/5cm以下である。前記30℃におけるたて方向(MD方向)の10%モジュラス(MMD)は、好ましくは21N/5cm以下であってもよい。また、30℃におけるよこ方向(CD方向)の10%モジュラス(MCD)は18N/5cm以下であることが好ましく、16N/5cm以下であることがより好ましい。ここで、10%モジュラスは、10%ひずみ時の引張応力であり、具体的には、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。また、柔らかな風合いを保つ観点から、たて方向(MD方向)とよこ方向(CD方向)との間で同程度の10%モジュラスを有していることが好ましく、たて方向の10%モジュラス(MMD)とよこ方向の10%モジュラス(MCD)との比(MMD/MCD)は、例えば、1.00~1.50程度であってもよく、1.05~1.45程度であってもよく、または1.10~1.40程度であってもよい。
【0040】
本発明のMB不織布は、実用上取扱い性に問題のない強度および伸度を有していてもよく、例えば、たて方向(流れ方向またはMD方向)における引張強さが10N/5cm以上であってもよく、好ましくは14N/5cm以上、さらに好ましくは18N/5cm以上であってもよい。ここで、引張強さは、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0041】
また、本発明のMB不織布は、たて方向(MD方向)とよこ方向(CD方向)との間で同程度の引張強さを有しており、例えば、たて方向の引張強さ(TMD)とよこ方向の引張強さ(TCD)との比(TMD/TCD)は、1.00~1.40程度であってもよく、1.00~1.20程度であってもよく、1.10~1.35程度であってもよく、または1.10~1.20程度であってもよい。
【0042】
本発明のMB不織布は、例えば、たて方向(またはMD方向)における伸び率が25%以上であってもよく、好ましくは30%以上であってもよい。ここで、伸び率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0043】
また、本発明のMB不織布は、たて方向(MD方向)とよこ方向(CD方向)との間で同程度の伸び率を有しており、例えば、たて方向の伸び率(EMD)とよこ方向の伸び率(ECD)との比(EMD/ECD)が、0.80~1.20程度であってもよく、0.80~1.15程度であってもよく、0.90~1.20程度であってもよく、または0.95~1.15程度であってもよい。
【0044】
本発明のMB不織布は、用途に応じて平均繊維径を適宜決定することができ、その平均繊維径は特に制限されないが、例えば、吸音性および不織布強度の観点から、平均繊維径は、例えば、0.5~10μm程度であってもよく、好ましくは1~8μm程度、より好ましくは1~5μm程度であってもよい。ここで、平均繊維径は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0045】
本発明のMB不織布は、用途に応じて密度を適宜決定することができ、その密度は特に制限されないが、例えば、吸音性の観点から、密度は、例えば、0.1~0.4g/cm3程度であってもよく、好ましくは0.1~0.3g/cm3程度、より好ましくは0.1~0.2g/cm3程度であってもよい。
【0046】
本発明のMB不織布は、用途に応じて厚みを適宜決定することができ、その厚みは特に制限されないが、例えば、取扱い性および吸音性の観点から、厚みは、例えば、50~500μm程度であってもよく、好ましくは80~400μm程度、より好ましくは100~300μm程度であってもよい。
【0047】
本発明のMB不織布は、用途に応じて目付を適宜決定することができ、その目付は特に制限されないが、例えば、吸音性および生産性の観点から、目付は、例えば、10~100g/m2程度であってもよく、好ましくは20~70g/m2程度、より好ましくは20~50g/m2程度であってもよい。
【0048】
本発明のMB不織布は、用途に応じて通気度を適宜決定することができ、その通気度は特に制限されないが、例えば、吸音性の観点から、通気度は、例えば、30~90cm/cm2・s程度であってもよく、好ましくは35~85cm/cm2・s程度、より好ましくは40~80cm/cm2・s程度であってもよい。
【0049】
本発明のMB不織布は、医療および衛生材料、工業資材用途、日用品および衣料用途などの各種用途に利用できるが、特に、高周波吸音性に優れるため、乗り物吸音材(特に自動車吸音材)、屋外用高周波吸音パネル、電子機器用ノイズ抑制シートなどに対して、好適に使用することができる。
【0050】
また、本発明のMB不織布は、熱安定性に優れるため、各種支持体(例えば、シート状樹脂部材、布帛など)と組み合わせ、積層体として使用することができる。前記積層体は、例えば、支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面に熱圧着されたMB不織布とで構成された積層体であって、前記MB不織布が、本発明の不織布である積層体であってもよい。
【0051】
また、本発明のMB不織布は、柔かい風合いを有するとともに、支持体との密着性が良好であり、例えば、前記不織布と支持体との熱圧着面において、JIS K 6854-3に準じて測定された引き剥がし強さ(T型はく離法)が、0.2N/5cm以上であってもよく、好ましくは0.25N/5cm以上、さらに好ましくは0.3N/5cm以上であってもよい。
【0052】
前記支持体は、用途に応じて各種材料から適宜選択することができ、各種樹脂シート、布帛(織物、編物、不織布、フェルト)などであってもよい。また、布帛は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維のいずれから形成されてもよい。不織布としては、例えば、湿式不織布、乾式不織布(例えば、ケミカルボンド、サーマルボンド、ニードルパンチ、スパンレース、ステッチボンド、エアレイドなど)、紡糸直結型不織布(例えば、スパンボンドなど)などのいずれであってもよい。密度や厚みを調整し、吸音性を高めることができる観点からは、支持体は、フェルトまたは不織布(例えば、ニードルパンチ不織布)であるのが好ましい。
【0053】
前記積層体は、MB不織布において上述した各種用途に用いることが可能である。特に、前記積層体は高周波吸音性に優れるため、乗り物吸音材(特に自動車吸音材)、屋外用高周波吸音パネル、電子機器用ノイズ抑制シートとして、好適に使用することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0055】
[繊維の平均繊維径]
走査型電子顕微鏡を用いてMB不織繊維構造を観察した。電子顕微鏡写真より無作為に選択した100本の繊維径を測定し、数平均繊維径を求め、繊維の平均繊維径とした。
【0056】
[目付]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.1に準じて、MB不織布の目付(g/m2)を測定した。
【0057】
[厚さ]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.2に準じて、MB不織布の厚さを測定した。
【0058】
[密度]
前記不織布の目付および厚みから不織布の体積を測定し、これらの結果からMB不織布の密度を算出した。
【0059】
[通気度]
JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の8.26に準じて、フラジール形法により通気度(cm3/cm2・s)を測定した。
【0060】
[強度・伸度・10%モジュラス]
試料を、それぞれ、たて方向およびよこ方向に幅5cmでカットし、それぞれのサンプルについて、島津製作所製オートグラフを使用し、JIS L 1906に準じ、引張り速度10cm/分で伸長し、切断時の荷重値を引張強さ、およびその際の伸び率を伸度とした。また、伸度10%における引張応力を10%モジュラスとして測定した。なお、これらの測定は温度30℃において行った。
【0061】
[200℃での面積収縮率]
20cm角の正方形の試料について、それぞれの辺から5cm内側に入った箇所に線を引き、試料内部に10cm角の正方形をマーキングした。200℃に熱したオーブンの中に前記試料を投入し、1分間フリーの状態で試料を熱処理した。マーキング箇所について、熱処理前後における寸法をそれぞれ測定し、以下の式により面積周出率を算出した。
(面積収縮率)={(熱処理前面積)-(熱処理後面積)}/(熱処理前面積)×100
【0062】
[200℃での成型加工性]
20cm角の正方形の試料と20cm角の正方形の基材(目付約600g/m2のフェルト)とを重ね合わせ、ついで、積層状態のまま鉄板に挟み、温度200℃、圧力200Pa下で、1分間加熱した後、得られた積層体を取り出した。この積層体について、加熱後に皺などの外観異常や、MB不織布に由来する柔らかな風合いに問題がなければA、加熱後に皺などの外観異常が発生したり、MB不織布に由来する柔らかな風合いに問題があればBとして、200℃での成型加工性を評価した。
【0063】
[積層体の引き剥がし強さ]
200℃での成型加工性を評価するために得た積層体について、試料と基材との引き剥がし強さを、JIS K 6854-3に準じて、T型はく離法により測定した。
【0064】
(実施例1)
温度300℃における溶融粘度が80Pa・sであるPET樹脂(結晶化温度(Tc)130℃)を溶融させて、樹脂溶融物を、ノズル単孔径(直径)0.3mm、ノズル単孔長さ/ノズル単孔径(L/D)=10、ノズル孔ピッチ0.75mmのノズルを有するダイに供給し、温度340℃の熱風を随伴流として、ノズル1m幅当りのエアー量15Nm3/分で吹き付けながら、溶融物を紡糸温度320℃、単孔吐出量0.13g/分でノズルから吐出した。なお、ノズル孔から鉛直方向下向き5cmにおける環境温度(以下、ノズル下5cmの温度と称する)は、165.0℃であった。
【0065】
ノズルの下では、図1に示すように、ノズル下側を長さ11.0cmの保温カバーで保温するとともに、この保温カバーの側面に設けられた吹き込み口から、ノズル孔に向けて、ノズルの両側から温度350℃の熱風を加熱空気流として、ノズル1m幅当りのエアー量2Nm3/分で吹き付けてノズルからの吐出糸状物を加温した。紡糸ノズル下10cmで測定した吐出糸状物の温度は138.9℃であった。
【0066】
その後、吐出糸状物は、保温カバーを出た後9.0cmのエアギャップ領域を走行した後、捕集ネットにおいて捕集され、後加工を行うことなく、秤量30g/cm2のPET系MB不織布を得た。ここで、図1に示すように、加温領域Hの長さは、11.0cmであり、エアギャップ領域Lの長さは9.0cmである。得られたMB不織布を200℃で熱処理した後の状態を図3に示す。
【0067】
(実施例2)
加熱空気流の吹き込み温度を180℃とする以外は、実施例1と同様に実施した。このとき、ノズル下5cmの温度は141.1℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した吐出糸状物の温度は110.3℃であった。得られたMB不織布を200℃で熱処理した後の状態を図4に示す。
【0068】
(実施例3)
ノズル下側に設けられた保温カバーの長さを15.0cmとし、エアギャップ領域の長さを5.0cmとするとともに、加熱空気流の吹き込み温度を300℃とする以外は、実施例1と同様に実施した。このとき、ノズル下5cmの温度は142.0℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した吐出糸状物の温度は130.7℃であった。
【0069】
(実施例4)
ノズル下側に設けられた保温カバーの長さを15.0cmとし、エアギャップ領域の長さを8.0cmとする以外は、実施例1と同様に実施した。このとき、ノズル下5cmの温度は145.2℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した吐出糸状物の温度は137.6℃であった。
【0070】
(実施例5)
ノズル下側に設けられた保温カバーの長さを17.5cmとし、エアギャップ領域の長さを5.5cmとするとともに、加熱空気流の吹き込み温度を180℃とする以外は、実施例1と同様に実施した。このとき、ノズル下5cmの温度は138.9℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した吐出糸状物の温度は123.6℃であった。
【0071】
(比較例1)
保温カバーの吹き込み口から、加熱空気流の吹き込みを行わない以外は、実施例1と同様に実施した。すなわち、比較例1では、カバー内を加温しておらず紡糸ノズル下の空間をPET系樹脂の結晶化温度以上に加温しなかったため、距離Hは0cmとし、距離Lは9.0cmとした。また、ノズル下5cmの温度は119.1℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した樹脂の温度は100.8℃であった。
【0072】
(比較例2)
溶融物をノズルから吐出後、保温カバーを設けず、加熱空気流を噴射することなく、そのままノズル孔から13cm下に配設された捕集ネットにおいて捕集する以外は、実施例1と同様に実施した。すなわち、比較例2では、紡糸ノズル下の空間をPET系樹脂の結晶化温度以上に加温しなかったため、距離Hは0cmであり、距離Lは13.0cmである。また、ノズル下5cmの温度は82.6℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した樹脂の温度は54.6℃であった。得られたMB不織布を200℃で熱処理した後の状態を図5に示す。
【0073】
(比較例3)
加温領域Hの長さを10.5cm、エアギャップ領域Lの長さを2.0cmとする以外は、実施例1と同様に実施した。すなわち、比較例3では、距離Hは10.5cmであり、距離Lは2cmである。また、このとき、ノズル下5cmの温度は148.0℃であり、紡糸ノズル下10cmで測定した吐出糸状物の温度は119.3℃であった。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、比較例1では保温カバーを設けたものの加温しなかったため、紡糸ノズル下10cmで測定した樹脂の温度は実施例と比べて低い値であった。そして、加温領域がなく結晶化が促進しなかったためか、得られた試料は200℃での面積収縮率が30%を超えている。また、実施例と比較して、MB不織布の強力も低い値であった。また、支持体とMB不織布とを熱圧着した積層体は、MB不織布が加熱により大きく収縮したため、外観に皺が発生し、成型加工性が不十分であった。
【0076】
また、比較例2では、保温カバーを設けていないため、紡糸ノズル下10cmで測定した樹脂の温度は実施例の半分以下であった。そのため、得られた試料は200℃での面積収縮率が30%を超えている。また、支持体とMB不織布とを熱圧着した積層体は、MB不織布が加熱により大きく収縮したため、外観に皺が発生し、成型加工性が不十分であった。
【0077】
さらに、比較例3では、加温領域は設けたものの、エアギャップ領域の長さである距離Lが2.0cmであったため、加温領域で得られた吐出糸状物をかさ高くほぐすことができず、たて方向(MD方向)の10%モジュラスの値が30N/5cmを超え、風合いの硬い不織布となった。また、得られた不織布は通気度が実施例の半分程度であった。また、支持体とMB不織布とを熱圧着した積層体は、積層体は硬くこわばり、不織布の柔らかな風合いを得られなかったため、成型加工性が不十分であった。
【0078】
一方、実施例1~5では、得られた試料はいずれも200℃での面積収縮率を小さくすることができ、さらに、たて方向(MD方向)の10%モジュラスの値が20N/5cm程度またはそれ未満となり、風合いの柔らかい不織布を得ることができた。これらの不織布は、比較例1と比べ、不織布の強力が高かった。さらに、強力および伸度ともに、不織布のたて方向およびよこ方向の間で等方性が高く、たて・よこバランスのよい不織布を得ることができた。
また、比較例2および3と比べると、実施例1~5はいずれも通気度を高くすることが可能であった。
さらにまた、支持体と実施例1~5で得られたMB不織布とを熱圧着した積層体は、いずれも加熱後に外観に皺が発生せず、成型加工性に優れていた。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に支持体と、実施例1~5で得られたMB不織布とを熱圧着した積層体の引き剥がし強さを示す。表2に示すように、実施例1~5で得られたMB不織布を用いた積層体は、いずれも引き剥がし強さが0.3N/5cm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のMB不織布およびこれを用いた積層体は、上述したように、医療および衛生材材料、工業資材用途、日用品および衣料用途などの各種用途に利用できるが、特に、高周波吸音性に優れるため、乗り物吸音材(特に自動車吸音材)、屋外用高周波吸音パネル、電子機器用ノイズ抑制シートなどに対して、好適に使用することができる。
【0082】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
100・・・メルトブロー装置
10・・・ダイ
12・・・ノズル孔
14・・・熱風噴射溝
20・・・中空状カバー部
22・・・吹き込み口
24・・・加熱空気流
26・・・加温領域
28・・・加温領域の下端(中空状カバー部の下端)
30・・・エアギャップ領域
40・・・押出部
50・・・吐出糸状物
60・・・捕集部材
62・・・捕集面
図1
図2
図3
図4
図5