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特許7130197酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/68 20060101AFI20220829BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20220829BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20220829BHJP
   B01D 53/81 20060101ALI20220829BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20220829BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20220829BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220829BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20220829BHJP
【FI】
B01D53/68 100
B01D53/50 100
B01D53/56 100
B01D53/81 ZAB
B01D53/96
B01J20/08 C
B01J20/34 G
C01F7/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021041604
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】韓 田野
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】亀田 知人
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05882622(US,A)
【文献】特開2016-190199(JP,A)
【文献】Journal of Materials Science,2007年11月,Vol. 42, Issue 22,Page 9210-9215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12、
53/34-53/85、
53/92、53/96
B01J 20/00-20/28、
20/30-20/34
C01F 1/00-17/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性排ガスの処理方法であって、OH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて、酸性排ガス中の酸性ガスを処理する第1の工程を有し、
前記第1の工程においては、少なくとも酸性排ガス中の塩化水素をOH型Mg-Al層状複水酸化物によって吸着する、酸性排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記第1の工程で使用するOH型Mg-Al層状複水酸化物は、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して得られる再生物を含む、請求項1に記載の酸性排ガスの処理方法。
【請求項3】
破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する第2の工程を更に有し、
前記第1の工程では、前記第2の工程で生成した前記再生物の少なくとも一部を使用する、請求項1又は2に記載の酸性排ガスの処理方法。
【請求項4】
破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する第2の工程を更に有し、
前記第2の工程においては、前記第1の工程で酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて前記再生物を生成する、請求項1又は2に記載の酸性排ガスの処理方法。
【請求項5】
破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する第2の工程を更に有し、
前記第1の工程及び前記第2の工程を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し実行し、
2回目以降のいずれかのサイクルの前記第1の工程で用いられるOH型Mg-Al層状複水酸化物の少なくとも一部として、当該サイクル以前のサイクルの第2工程で再生した再生物を用いる、請求項1又は2に記載の酸性排ガスの処理方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の酸性排ガスの処理方法を行う手段を有する、酸性排ガスの処理設備。
【請求項7】
前記第1の工程で用いるOH型Mg-Al層状複水酸化物を収容する容器と、発生源から発生する酸性排ガスを前記容器に導くための第1の配管とを含む第1ユニットを有する、請求項6に記載の酸性排ガスの処理設備。
【請求項8】
破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して再生物を生成する再生装置と、前記再生装置から前記再生物を前記第1ユニットに導くための第2の配管とを含む第2ユニットを更に有する、請求項7に記載の酸性排ガスの処理設備。
【請求項9】
前記第2の配管は、前記第1ユニットから酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を前記再生装置に導くとともに、前記再生装置から前記再生物を前記第1ユニットに導く、請求項8に記載の酸性排ガスの処理設備。
【請求項10】
焼却炉と、請求項6~9のいずれか1項に記載の酸性排ガスの処理設備と、を有する焼却施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却施設において焼却炉から排出される燃焼排ガスには、塩化水素等の有害な酸性物質である酸性ガスが含まれている。このため、燃焼排ガスを大気中に放出するのに先立って、上記酸性ガスを除去する必要がある。以下、酸性ガスを含む燃焼排ガスを酸性排ガスという。
【0003】
特許文献1には、焼却施設で発生する酸性排ガスを、層状複水酸化物を含む固体状の酸性排ガス処理剤に接触させることにより、塩化水素等の酸性物質を処理する酸性排ガスの処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-190199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている酸性排ガスの処理方法では、層状複水酸化物と酸性排ガス中の酸性ガス成分との反応速度が小さいことに起因して、層状複水酸化物の使用量が多くなるという課題があった。そして、層状複水酸化物の使用量が多くなると、処理設備が大型化しやすくなるという問題を生じる。
また、酸性排ガスの処理剤として知られているCO型Mg-Al層状複水酸化物の場合、酸性排ガスの処理に供した後、再生のために用いる再生剤として、高価な炭酸塩を使用しなければならないという課題があった。高価な再生剤の使用はイニシャル及びランニングのコスト増加につながり、上述したように層状複水酸化物の使用量が多い場合はこの問題が顕著であった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みて、酸性排ガスの処理に必要な層状複水酸化物の量を少なくすることができ、かつ、酸性排ガスの処理に供した層状複水酸化物を再生する際のコストの上昇を抑えることができる、酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、OH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて酸性排ガスの処理を行うことで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
[1]酸性排ガスの処理方法であって、OH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて、酸性排ガス中の酸性ガスを処理する第1の工程を有する、酸性排ガスの処理方法。
[2]前記第1の工程で使用するOH型Mg-Al層状複水酸化物は、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して得られる再生物を含む、上記[1]に記載の酸性排ガスの処理方法。
[3]破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する第2の工程を更に有し、
前記第1の工程では、前記第2の工程で生成した前記再生物の少なくとも一部を使用する、上記[1]又は[2]に記載の酸性排ガスの処理方法。
[4]破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する第2の工程を更に有し、
前記第2の工程においては、前記第1の工程で酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて前記再生物を生成する、上記[1]又は[2]に記載の酸性排ガスの処理方法。
[5]破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する第2の工程を更に有し、
前記第1の工程及び前記第2の工程を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し実行し、
2回目以降のいずれかのサイクルの前記第1の工程で用いられるOH型Mg-Al層状複水酸化物少なくとも一部として、当該サイクル以前のサイクルの第2工程で再生した再生物を用いる、上記[1]又は[2]に記載の酸性排ガスの処理方法。
[6]上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の酸性排ガスの処理方法を行う手段を有する、酸性排ガスの処理設備。
[7]前記第1の工程で用いるOH型Mg-Al層状複水酸化物を収容する容器と、発生源から発生する酸性排ガスを前記容器に導くための第1の配管とを含む第1ユニットを有する、上記[6]に記載の酸性排ガスの処理設備。
[8]破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して再生物を生成する再生装置と、前記再生装置から前記再生物を前記第1ユニットに導くための第2の配管とを含む第2ユニットを更に有する、上記[7]に記載の酸性排ガスの処理設備。
[9]前記第2の配管は、前記第1ユニットから酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を前記再生装置に導くとともに、前記再生装置から前記再生物を前記第1ユニットに導く、上記[8]に記載の酸性排ガスの処理設備。
[10]焼却炉と、上記[6]~[9]のいずれか一つに記載の酸性排ガスの処理設備と、を有する焼却施設。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸性排ガスの処理に必要な層状複水酸化物の量を少なくすることができ、かつ、酸性排ガスの処理に供した層状複水酸化物を再生する際のコストの上昇を抑えることができる、酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】吸着材が充填された吸着塔に、吸着対象物質を含む流体を流通させたときの、吸着対象物質の吸着状況の経時変化を模式的に示す図である。図1(a)は吸着塔内部の吸着対象物質の濃度勾配の時間的遷移を表し、図1(b)は破過時間(t)における吸着塔の入口から吸着塔の出口までの任意の位置における吸着材の吸着率を表し、図1(c)は、破過時間(t)経過以降を含む吸着塔の出口における吸着対象物質の濃度の経時変化を表す。
図2】本発明の実施形態に係る酸性排ガスの処理設備及び焼却施設の一例を示す模式的な構成図である。
図3】第1及び第2の工程を経る際の、第1及び第2ユニット内の層状複水酸化物の処理・再生・移送の状況とその遷移の一例を示す模式図である。
図4】実施例及び比較例の破過曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設について説明する。
【0011】
[酸性排ガスの処理方法]
本発明の実施形態に係る酸性排ガスの処理方法は、酸性排ガスの処理方法であって、OH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて、酸性排ガス中の酸性ガスを処理する第1の工程を有する。
【0012】
上記酸性排ガスの処理方法においては、第1の工程において、焼却炉等の発生源から発生する酸性排ガスをOH型Mg-Al層状複水酸化物に接触させることによって、酸性排ガスに含まれる塩化水素等の酸性ガス成分を除去する。
上記酸性排ガスの処理方法には、酸性排ガスの処理剤としてOH型Mg-Al層状複水酸化物を用いていることにより、以下のような利点がある。
【0013】
まず、OH型Mg-Al層状複水酸化物は、酸性排ガスの処理剤として知られているCO型Mg-Al層状複水酸化物に比べて塩化水素の吸着速度が大きい。その理由は、これに限るものではないが、CO型Mg-Al層状複水酸化物と塩化水素との反応が、Mg-Al層状複水酸化物の層間水中におけるOHとCO 2-のイオン交換反応であるのに対して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の場合、イオン交換反応だけではなく、層間水中におけるOHとHの酸塩基反応が生じることが一因であると考えられる。
そして、塩化水素の吸着速度が大きいことにより、酸性排ガス中の酸性ガス成分との反応に必要なOH型Mg-Al層状複水酸化物の量が少なくて済む。このため、酸性排ガスの処理設備の規模を小さくすることができる。
また、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生して、酸性排ガスの処理が可能なOH型Mg-Al層状複水酸化物(以下、単に「再生物」ということがある)を得るためには、水酸化ナトリウムなどの安価な再生剤を使用すればよく、破過したCO型Mg-Al層状複水酸化物の再生に必要とされる炭酸塩を不要とすることができる。これにより、層状複水酸化物の再生に関わるコストを低減することができる。
加えて、上述したように、酸性排ガスの処理に必要なOH型Mg-Al層状複水酸化物の量が少ないため、再生に必要な再生剤の使用量も少なくなる。このため、イニシャルコストを大きく低減することができ、酸性排ガスの処理と層状複水酸化物の再生とを繰り返す設備においてはランニングコストも大きく低減することができる。
【0014】
以下、上記第1の工程、及び、上記酸性排ガスの処理方法で実行され得る他の工程について詳細に説明する。
【0015】
<第1の工程>
上記第1の工程においては、焼却炉等の発生源から発生する酸性排ガスをOH型Mg-Al層状複水酸化物に接触させて、酸性排ガス中の塩化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸性ガス成分を除去する。
OH型Mg-Al層状複水酸化物は、層状の水酸化物基本層と、層間アニオン及び層間水からなる中間層が交互に積層した構造を有するナノ粒子である。そして、OH型Mg-Al層状複水酸化物は、例えば、塩化水素であれば塩素イオンの形で、硫黄酸化物であれば硫酸イオンの形で、窒素酸化物であれば硝酸イオンの形で、それぞれ層間アニオンと交換することによってこの成分を取り込むため、酸性排ガスから酸性ガス成分を除去することができる。
【0016】
上記第1の工程においては、例えば、OH型Mg-Al層状複水酸化物のナノ粒子を収容した容器内に処理対象ガスを通過させて、処理対象ガスをOH型Mg-Al層状複水酸化物に接触させることにより、酸性ガス成分を除去することができる。
上述したように、OH型Mg-Al層状複水酸化物は、酸性排ガスの処理剤として知られているCO型Mg-Al層状複水酸化物に比べて酸性排ガス中の酸性ガス成分、特に、塩化水素の吸着速度が大きい。そして、吸着速度が大きい処理剤を用いた場合、酸性排ガスの処理に必要な処理剤の量が少なくなり、コンパクトで経済的な処理設備を設計することが可能になる。その理由を以下に説明する。
【0017】
一般に、吸着材が充填されている吸着塔に一定濃度の吸着対象物質を含む流体を一定流速で流した場合、吸着塔内の吸着対象物質の吸着率の時間変化は、吸着塔の出口(以下、塔出口という)における吸着対象物質の濃度の時間変化に等しいと考えられる。
吸着材が充填されている吸着塔に一定濃度の吸着対象物質を含む気体を一定流速で流した場合、吸着対象物質は吸着材によって吸着塔の入口側から順次吸着される。吸着塔内では、吸着対象物質は一定幅の濃度勾配を持ちながら、塔出口に向かって一定速度で進行する。吸着対象物質の濃度勾配の先端が塔出口に達する時間(破過時間)が経過した後の、塔出口における吸着対象物質濃度の経時変化を表す曲線は「破過曲線」と呼ばれ、吸着塔の設計に重要な要素となる。
【0018】
上記の吸着材を含む吸着塔に、吸着対象物質を含む流体を流通させたときの、吸着対象物質の吸着状況の経時変化は、図1に示すような模式図として表される(石崎英司、吸着塔における吸着ダイナミックスの計算機シミュレーションに関する研究、博士学位論文、茨城大学大学院理工科学研究科、2016年9月第28~29頁参照)。ここで、図1(a)は、吸着塔内部の吸着対象物質の濃度勾配の時間的遷移を表し、図1(b)は、破過時間(t)における吸着塔の入口(以下、塔入口という)から塔出口までの任意の位置における吸着材の吸着率を表し、図1(c)は、破過時間(t)経過以降の時間帯を含む、塔出口における吸着対象物質の濃度の経時変化を表す。
【0019】
図1(a)に示すように、吸着塔Tに一定濃度(C)の吸着対象物質を含む流体を一定流速で流した場合、時間の経過とともに、符号Mで示す安定な物質濃度勾配(以下、物質移動帯(MTZ)ともいう)が、吸着平衡帯Eを形成しながら、塔出口Tbに向けて図1(a)において下向きに進行する。そして、破過時間(t)において、流体中の物質が塔出口Tbから漏出し始める。その後、塔出口Tbの吸着対象物質の濃度(C)は、図1(c)に示すように、時間経過とともにやがて濃度(C)に達する。すなわち、図1(c)は破過曲線を表している。
【0020】
図1(b)は、破過時間(t)における、塔入口Taから塔出口Tbまでの任意の位置における吸着材の吸着率(吸着量(q)/飽和吸着量(q))を表している。すなわち、図1(b)は、破過時間(t)に達したときの吸着塔Tの内部の吸着状態を表している。そして、破過時間(t)から吸着塔Tの内部の物質吸着量が飽和に達した時間(t)の吸着塔Tの内部の吸着率(q/q)の変化を示す曲線は、同じく塔出口Tbの吸着対象物質の濃度(C)又は上記濃度(C)に対する当該濃度(C)の比(C/C)の変化を示す曲線と等しくなる。
【0021】
以上のことから、吸着材の吸着速度が大きくなると、MTZの物質濃度勾配は小さくなり、破過時間は長くなる。また、破過曲線から求められる破過時間以降の物質濃度の変化率が大きくなる。このため、吸着材の再生が必要になるまでの時間に相当する再生サイクル(これは、実質的に破過時間でもある)が一定になるように吸着設備を設計する場合、飽和吸着量が同等であれば、吸着速度の大きい吸着材の方が吸着塔への充填量を少なく設計することができ、よりコンパクトで経済的な処理設備とすることが可能になる。
【0022】
後述するように、OH型Mg-Al層状複水酸化物の塩化水素の飽和吸着量と、CO型Mg-Al層状複水酸化物の塩化水素の飽和吸着量はほぼ同等である。したがって、塩化水素の吸着速度が大きいOH型Mg-Al層状複水酸化物の使用量を、CO型Mg-Al層状複水酸化物の使用量よりも少なくすることができ、延いては、コンパクトで経済的な処理設備とすることができる。
【0023】
(OH型Mg-Al層状複水酸化物)
第1の工程で酸性排ガス処理剤として用いられるOH型Mg-Al層状複水酸化物は、水酸化物基本層([Mg2+ 1-xAl3+ (OH)])と、層間水酸化物イオン及び層間水から構成される中間層([(OH・yHO])とが交互に積層した構造を有しているナノ粒子である。水酸化物基本層がx相当分の正電荷を持ち、これを補償する負電荷を持つ陰イオンとして水酸化物イオンが中間層に存在している不定比化合物である。
OH型Mg-Al層状複水酸化物は、水酸化物基本層を保持したまま、塩化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸性ガスを層間に取り込むことができる。このため、上記の酸性ガスを除去する酸性排ガス処理に好適に用いることができる。
上述したように、OH型Mg-Al層状複水酸化物は、塩化水素の吸着速度が特に大きいので、酸性排ガス中の酸性ガス成分との反応に必要なOH型Mg-Al層状複水酸化物の量を少なくすることができる。
【0024】
OH型Mg-Al層状複水酸化物は、meixneriteとして、天然に産出する粘土鉱物も存在するが、通常、合成粉末が用いられる。合成方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、Journal of Materials Science (2007) 42:9210-9215に記載の方法)を用いることができる。
また、後述するように、OH型Mg-Al層状複水酸化物は、酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生することにより得られる。このとき、水酸化ナトリウムなどの安価な再生剤を使用することができる。このため、OH型Mg-Al層状複水酸化物として、再生物又は再生物を含むものを用いることにより、CO型Mg-Al層状複水酸化物等の他のアニオン型Mg-Al層状複水酸化物に比べてコスト上昇を抑制しやすくなる。
【0025】
なお、OH型Mg-Al層状複水酸化物が酸性排ガス処理に用いられる際、OH型Mg-Al層状複水酸化物以外の層状複水酸化物や、例えば、水酸化カルシウム(消石灰)、酸化カルシウム、重炭酸ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、水酸化ドロマイト、軽焼ドロマイト、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等の層状複水酸化物以外の薬剤が併用されてもよい。ただし、OH型Mg-Al層状複水酸化物を効率的に再生して再利用する観点から、他の層状複水酸化物や薬剤と混在させないことが好ましい。
【0026】
上記第1の工程で使用するOH型Mg-Al層状複水酸化物が再生物を含むものであってもよい。
第1の工程で用いるOH型Mg-Al層状複水酸化物は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上の再生物を含む。第1の工程で用いるOH型Mg-Al層状複水酸化物の100質量%が再生物であってもよい。第1の工程で用いるOH型Mg-Al層状複水酸化物が再生物を多く含むことで、新しい処理剤を追加する必要性や、使用済みの処理剤を廃棄する必要性が低下し、環境負荷を低減しやすくなる。
【0027】
上記再生物は、外部の工程で再生されたものであってもよいし、以下に説明する第2の工程で生成されたものであってもよい。第2の工程で生成された再生物を使用すれば、新たな処理剤の追加する必要性が低下する。また、後述するように、第1の工程で使用したOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生して再利用するという手順を繰り返すことにより、第1の工程で用いる再生物の割合を大きくしやすくなる。
【0028】
<第2の工程>
上記酸性排ガスの処理方法は、酸性排ガスの処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンにイオン交換して、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成する工程(以下、第2の工程という)を更に有していてもよい。
酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物は、前記酸性ガス成分が層間に取り込まれると、層間水酸化物イオンが、塩素イオン等の酸性排ガス由来の他のアニオンに交換され、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物となる。破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物は、酸性排ガスを更に除去する能力を有しない。このため、上記第2の工程において、再度アニオン交換することにより、酸性排ガス処理可能なOH型Mg-Al層状複水酸化物に再生して、再度酸性排ガスの処理に利用することができる。
【0029】
本発明の酸性排ガスの処理方法の一態様においては、上記第2の工程において、再生の対象となる破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物は、上記第1の工程で酸性排ガス処理に供したものである。
この場合、第1の工程で使用されたOH型Mg-Al層状複水酸化物が再生されて、再度酸性排ガス処理に利用できるので、環境負荷を低減しやすくなる。
また、後述する処理設備のように、上記第1の工程と第2の工程とが同じ設備内で実施されることにより、再生の対象物が再生を行う位置の近傍で生成されるので、再生の対象物を遠距離移送する必要がなく、第2の工程を容易に実施することができ、純度の高い再生物を得やすくなる。
【0030】
本発明の酸性排ガスの処理方法の他の一態様においては、上記第2の工程で生成した再生物の少なくとも一部を上記第1の工程で使用する。
上記第2の工程で生成された再生物を、上記第1の工程で使用すれば、新たな処理剤を追加する必要性が低下するため、継続的に酸性排ガスの処理を行う場合のランニングコストを低減しやすくなる。
なお、再生された層状複水酸化物の少なくとも一部を、処理設備外に移して外部の設備で利用するようにしてもよい。
【0031】
本発明の酸性排ガスの処理方法の更に他の一態様においては、上記第1の工程及び第2の工程を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し実行し、2回目以降のいずれかのサイクルの第1の工程で用いられるOH型Mg-Al層状複水酸化物の少なくとも一部として、当該サイクル以前のサイクルの第2工程で再生した再生物を用いる。
本態様においては、酸性排ガスの処理剤であるOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生しながら繰り返し利用することができるので、ランニングコストを更に低減させやすくなる。また、酸性排ガス処理を長期間継続しやすくなる。
本態様において、再生回数が予め定めた上限に達した場合は、未使用の合成品に入れ替えるようにしてもよい。また、酸性排ガスの処理性能を高く保つために、所定のタイミングで所定量の未使用の合成品を追加するようにしてもよい。
【0032】
(再生剤)
破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生するために用いる再生剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらの再生剤は、破過したCO型Mg-Al層状複水酸化物の再生剤として用いられる炭酸塩に比べて安価であり、層状複水酸化物の再生に要するコストを低減しやすくなる。
【0033】
酸性排ガス処理に供されたOH型Mg-Al層状複水酸化物の再生は、例えば、0.4質量%以上の濃度の水酸化ナトリウム水溶液と、室温~80℃で混合、撹拌して、イオン交換することによって行うことができる。
【0034】
上記第2の工程で用いる再生剤の使用量に特に制限はないが、再生の対象となる破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物100質量部に対して、好ましくは10~30質量部、より好ましくは10~20質量部、更に好ましくは10~15質量部である。
【0035】
上記第2の工程においては、層状複水酸化物中のアニオンを水酸化物イオンに交換して層状複水酸化物を再生するとともに、上記アニオンの離脱に伴って生成される塩化水素、硫酸、硝酸等の酸性物質を、水に溶解させる方法等によって回収することが好ましい。回収された酸性物質は、工業用の酸性物質等として再利用することができる。
【0036】
(再生物への置き換え)
上記第1の工程において酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物は、未使用のOH型Mg-Al層状複水酸化物や再生物に、一括で置き換えてもよいし、バッチ式で一定量を置き換えてもよいし、連続的に順次置き換えてもよい。
一括で置き換える場合は、OH型Mg-Al層状複水酸化物を有効に利用しやすいという利点があり、連続的に置き換える場合は、酸性排ガス処理を継続させやすいことや、設備の構成を簡素化しやすい等の利点がある。
バッチ式で置き換える場合は、例えば、OH型Mg-Al層状複水酸化物をそれぞれ含む複数の経路を設け、それらのうちのいずれかの経路に酸性排ガスを選択的に導き、当該経路に含まれるOH型Mg-Al層状複水酸化物に酸性排ガスを接触させている間に、上記複数の経路のうちの他の経路に含まれるOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生する態様を採ることができる。この場合、複数の経路を用いて、上記第2の工程を第1の工程と並行して実行することができるので、酸性排ガス処理を継続させやすくしつつ、OH型Mg-Al層状複水酸化物を有効に利用しやすくなる。
なお、上述したように、OH型Mg-Al層状複水酸化物を含む複数の経路を選択的に利用する場合、必ずしも容器から再生装置へ移送する必要はなく、酸性排ガス処理のために選択されていない経路に含まれる層状複水酸化物に再生剤を供給することによって再生を行うこともできる。
【0037】
連続的に順次置き換える場合、例えば、酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を連続的に、又は、所定量を所定のタイミングで順次取り出し、取り出した層状複水酸化物に対応する量の再生物を連続的に又は所定のタイミングで順次供給するという態様を採ることができる。
【0038】
[酸性排ガスの処理設備]
本発明の実施形態に係る酸性排ガスの処理設備は、上記の酸性排ガスの処理方法を行う手段を有する。
上記酸性排ガスの処理設備において、上述した第1の工程を実施する手段としては、例えば、上記第1の工程で用いるOH型Mg-Al層状複水酸化物を収容する容器と、焼却炉等の発生源から発生する酸性排ガスを上記容器に導くための第1の配管とを含むユニットが挙げられる。以下、当該ユニットを「第1ユニット」と称する。
【0039】
上記第1の配管は処理対象のガスが流れる煙道の一部を構成する。以下の説明において、「上流」「下流」「上流側」「下流側」「入口」「出口」という場合、処理対象のガスが流れる方向を基準にしている。
【0040】
上記酸性排ガスの処理設備においては、焼却炉等の発生源から排出される酸性排ガスを第1ユニットの入口へ導入することにより、上述した第1の工程を実行する。これによって、上述したように、塩化水素等の酸性ガス成分が十分に除去される。そして、第1ユニットの出口から酸性ガス成分が除去された処理済みのガスを排出する。
【0041】
上述した第2の工程を実施する手段としては、例えば、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して再生物を生成する再生装置と、上記再生装置から再生物を上記第1ユニットに導くための第2の配管とを含むユニットが挙げられる。以下、当該ユニットを「第2ユニット」と称する。
【0042】
上記第2の配管は、上記第1ユニットから酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を上記再生装置に導くとともに、上記再生装置から上述した再生物を上記第1ユニットに導くものであってもよい。
この場合、上記第2の配管の第1ユニットへ接続する側の端部が、使用済み層状複水酸化物の入口かつ再生物の出口であり、再生装置へ接続する側の端部が使用済み層状複水酸化物の出口かつ再生物の入口である。
このように第2の配管を介して使用済み層状複水酸化物の受取りと再生物の送出しを行うようにすると、層状複水酸化物を繰り返し使用することができ、かつ、処理設備の構成を簡素にすることができる。
【0043】
上記第2ユニットは、第2の配管の近傍及び第2の配管内のうち少なくも一方に配置されたスクリュー等の押出し部材を備えていてもよい。上記スクリューを回転させるなどして、層状複水酸化物を押出し部材で押すことにより、第1ユニットから第2ユニットへ、又は、第2ユニットから第1ユニットへと移送することができる。
【0044】
上記第2ユニットの再生装置を、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物を外部から受け付けるように構成してもよい。この場合、他の処理設備で発生する使用済みの層状複水酸化物を、再生物を生成するための原料として利用できるので、原料を確保しやすくなる。
【0045】
上記第1ユニットは、OH型Mg-Al層状複水酸化物をそれぞれ収容する複数の容器を含み、焼却炉等の発生源から発生する酸性排ガスを、上記複数の容器のいずれかに選択的に導くための切換え弁を更に備えていてもよい。
上記切換え弁を備えることにより、複数の容器のうちの一つに収容されたアニオン型層状複水酸化物による酸性排ガスの処理能力が低下した場合に、上記切換え弁によって、他の他方の容器へガスを導くことにより、当該容器内に収容された、酸性排ガスの処理能力が低下していないOH型Mg-Al層状複水酸化物によって、処理能力を低下させることなく、酸性排ガスの処理を継続することができる。
【0046】
上記酸性排ガスの処理設備は、第1ユニットの下流側に配置された、上記第1ユニットから排出される酸性排ガス中の塩化水素の濃度を連続的に検知する濃度検知装置を更に備えていてもよい。
上記濃度検知装置を備えることにより、ガス中の塩化水素の濃度の上昇を把握することができる。そして、上述したように、切換え弁を介して複数の容器にアニオン型層状複水酸化物を収容した構成を採用している場合は、切換え弁によって、塩化水素の処理効率が低下した容器を、処理効率が低下していない別の容器に切り換えることで、処理能力を低下させることなく、酸性排ガスの処理を継続することができる。
【0047】
[焼却施設]
本発明の実施形態に係る焼却施設は、焼却炉と、上記酸性排ガスの処理設備とを有する。
上記酸性排ガスの処理設備は、焼却炉の下流に設置され、焼却炉から排出される酸性排ガスを取込み、上述した第1の工程を実行することによって酸性排ガスを処理する。本焼却施設においては、焼却炉から発生する酸性排ガス中の酸性ガス成分が上記処理設備によって除去されるので、周辺環境に有害な酸性物質が放出されることを防止することができる。
また、酸性排ガスの処理設備が上述した第2の工程を実行する第2ユニットを備えたものであれば、第1の工程を実行する第1ユニットで生成された使用済みのOH型Mg-Al層状複水酸化物を再生することができる。このため、得られた再生物を第1ユニットで再利用することにより、効率的に酸性排ガスの処理を継続することができる。また、第2ユニットで生成された再生物を他の処理設備で利用することもできる。
【0048】
[酸性排ガスの処理設備を含む焼却施設の具体例]
以下、酸性排ガスの処理設備を含む焼却施設の具体例について図面を用いて説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る酸性排ガスの処理設備を含む焼却施設の一例を示す模式的な構成図である。本発明は図示した構成には制限されない。
【0049】
図2に示す焼却施設100は、焼却炉11、ボイラ12、ガス冷却装置13、集塵機14、誘引通風気15及び煙突16、及び、これらの間を順次接続して煙道を形成する配管21~26を備えている。
また、焼却施設100は、酸性排ガス処理剤であるOH型Mg-Al層状複水酸化物を収納する容器を含むユニット50と、破過したOH型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して再生物を生成する再生装置40を含むユニット60と、を有する酸性排ガスの処理設備80を備えている。
【0050】
焼却施設100において、OH型Mg-Al層状複水酸化物を収容する容器31、及び、焼却炉11から発生する酸性排ガスを容器31に導くための配管24により構成されるユニット50が、上述した第1の工程を実行する第1ユニットである。
また、破過したアニオン型Mg-Al層状複水酸化物の層間アニオンを水酸化物イオンに交換して再生物を生成する再生装置40、及び、第1ユニット50から酸性排ガスの処理に供したアニオン型Mg-Al層状複水酸化物を再生装置40に導くとともに、再生装置40から再生物を第1ユニット50に導くための配管41を含むユニット60が、上述した第2の工程を実行する第2ユニットである。
【0051】
(焼却施設の動作)
次に、酸性排ガス処理設備80を含む焼却施設100の動作を説明する。
まず、焼却炉11で発生した酸性排ガスは、ボイラ12で熱回収され、冷却装置13で冷却された後、集塵機14で集められて、酸性排ガス処理設備80の第1ユニット50へと導かれる。なお、初期状態では、容器31に収容されているOH型Mg-Al層状複水酸化物は、処理能力が低下していない状態のものであり、合成後に一度も酸性排ガスの処理に供されていないもの、一度以上酸性排ガスの処理に供された後に再生された再生物、又は、これらの混合物である。
そして、上記酸性排ガスに対して、第1ユニットにおいて、上述した第1の工程が実行される。これによって、酸性排ガス中の塩化水素、硫黄酸化物、及び、窒素酸化物等の酸性ガス成分が除去される。
処理が終了し酸性ガス成分が除去されたガスは、第1ユニット50から排出され、誘因通風機15を経て煙突16から外部へ放出される。
【0052】
一方、酸性排ガスの処理開始から破過時間が経過するとき、又は、破過時間に十分近づいたときに、第1ユニット50の容器31内の、酸性排ガス処理に供したOH型Mg-Al層状複水酸化物を第2ユニット60へと移送する。
そして、再生装置40にてOH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を生成し、所定のタイミングで第2ユニット60から第1ユニットへ再生物を移送する。
【0053】
第1ユニット50から第2ユニット60へ層状複水酸化物を移送するに当たっては、例えば、処理対象の酸性排ガスの流量を測定する流量計を設けておき、当該流量計の計測した流量と経過時間とに基づいて、移送を実行するようにしてもよい。
あるいは、第1ユニット50の下流側に、第1ユニット50から排出される酸性排ガス中の酸性ガス成分の濃度を連続的に検知する濃度検知装置を設けておき、その検知結果に基づいて、第1ユニット50から第2ユニット60への層状複水酸化物の移送を実行してもよい。
また、上述したように、上記第1ユニットとして、OH型Mg-Al層状複水酸化物をそれぞれ収容する複数の容器を含み、焼却炉から発生する酸性排ガスを、上記複数の容器のいずれかに選択的に導くための切換え弁を更に備えているものとする場合は、上記濃度検知装置の検知結果に基づいて、切換え弁を制御するようにしてもよい。
【0054】
図3は、上記第1及び第2の工程を経る際の、第1及び第2ユニット内の層状複水酸化物の処理・再生・移送の状況とその遷移の一例を示す模式図である。以下、図3に基づいて、第1及び第2の工程を実行する際に、第1及び第2ユニット内で層状複水酸化物がどのように処理されるかを具体的に説明する。
図3においては、理解を容易にするため、第2ユニットが第1ユニットの容器の倍以上の容積の収容スペースを有しており、使用済みの層状複水酸化物を一括で再生物に置き換えるものとして説明する。なお、バッチ式や連続式で再生物へ置き換える場合は、層状複水酸化物の移送のタイミングが図3に示したものと異なるものの、実質的に図3と同様に遷移することが明らかであるため、詳細な説明は省略する。
【0055】
図3(a)は初期段階を示しており、第1ユニット50の内部には合成された未使用のOH型Mg-Al層状複水酸化物が収容されている。なお、合成品に代えて、外部で生成された酸性排ガス処理可能な再生物が収容されていてもよいし、合成品と再生物との混合物が収容されていてもよい。また、第2ユニット60の内部には、酸性排ガス処理可能な、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物が収容されるとともに、使用済みのOH型Mg-Al層状複水酸化物を受け入れるスペースが確保されている。図3において、第2ユニット60内の再生物は外部で生成されたものを想定しているが、第1ユニット50で酸性排ガス処理に供したものを予め第2ユニット60内に収容しておいたものでもよい。
【0056】
第1ユニット50において酸性排ガス処理が行われることによって、OH型Mg-Al層状複水酸化物に酸性排ガス成分が取り込まれ、図3(b)では、OH型Mg-Al層状複水酸化物が酸性排ガス処理に供されて、破過乃至破過に近い状態にあることを示している。なお、図3においては、破過もしくは破過に近い状態にあって酸性排ガス処理に適さない層状複水酸化物を「破過物」と記載する。
次に、図3(c)に示すように、第1ユニット50内の破過物を第2ユニット60内の空きスペースに移送する。そして、図3(d)の段階へ遷移する間に、OH型Mg-Al層状複水酸化物の再生物を第2ユニット60から第1ユニット50へ移送するとともに、第2ユニット60に移送した破過物の再生を行う。なお、図3(d)の段階において、第2ユニット60によって生成された再生物は、第1ユニット50から移送された破過物を再生したものであるため、図3では「自己再生物」と記載する。
【0057】
次に、第1ユニット50で酸性排ガス処理を行うことにより、第1ユニット50内の再生物が破過物に変化する(図3(e)の段階)。
そして、図3(f)の段階において、上記図3(d)の段階で第2ユニット60内に生じた空きスペースに、第1ユニット50から破過物を移送する。そして、図3(g)へ遷移する間に、第2ユニット60内の自己再生物を第1ユニット50へ移送するとともに、第2ユニット60内の破過物から自己再生物を生成する。
図3(a)~図3(d)が第1サイクル、図3(d)~図3(g)が第2サイクル、図3(g)以降が第3サイクル以降のサイクルである。図3に示す例では、第2サイクルで再生された自己再生物が第3サイクルで酸性排ガス処理に用いられている。
【0058】
(処理設備及び焼却施設の他の構成)
上述したように、上記第1ユニットが、OH型Mg-Al層状複水酸化物をそれぞれ収容する複数の容器を含み、焼却炉から発生する酸性排ガスを、上記複数の容器のいずれかに選択的に導くための切換え弁を更に備えている場合、上記切換え弁を作動させることによって、煙道から切り離された方の容器に含まれる層状複水酸化物を上述した再生方法によって再生することができる。このため、破過物を再生装置へ移送して再生処理を行うのと並行して、酸性排ガスの処理を継続することができる。
また、上記複数の容器と切換え弁を備えている場合、必ずしも容器から層状複水酸化物を再生装置へ移送する必要はなく、容器に収容したままで、再生剤を接触させることにより再生するようにしてもよい。
【0059】
第2ユニット60で生成された再生物を、処理設備80以外の処理設備や、焼却施設100以外の焼却施設で使用するようにしてもよい。
第1ユニット50で生成される使用済みの層状複水酸化物を第2ユニット60で再生した再生物を用いるだけでなく、未使用の層状複水酸化物や、外部で生成された再生物を適宜補給するようにしてもよい。
【0060】
焼却施設100において、層状複水酸化物の再生を行う第2ユニット60は焼却施設100のインサイトに設けられているが、これに限るものではなく、層状複水酸化物の再生手段を焼却施設100のオフサイトに配置してもよい。この場合、焼却施設100内に、酸性排ガスの処理に供した層状複水酸化物を第1ユニット60から取り出す手段と、まだ処理に供していない層状複水酸化物や再生済みの層状複水酸化物を第1ユニット60に供給する手段とを設けることが好ましい。そして、上記各手段を、酸性排ガスの流量及び/又は酸性ガス成分の濃度に応じて、層状複水酸化物の供給や取り出しを行うものとしてもよい。
【実施例
【0061】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
内径16mmのガラス製の反応管に0.1gのOH型Mg-Al層状複水酸化物を充填し、窒素ガスを反応管の上流から流通し、各反応管を管状電気炉で流通するガス温度が170℃になるように調整した。
塩化水素を1,000ppmになるように窒素を流通しながら、マスフローコントローラーで各ガスの流量を調整し、反応管における空塔速度が1.0m/minになるように反応管に上記の混合ガスを通過させた。
試験開始後の反応管の出口の流通ガス中の塩化水素濃度をFT-IR式ガス分析計によって連続測定し、破過曲線を作成した。
実施例1で用いたOH型Mg-Al層状複水酸化物の化学式は以下のとおりである(分子量:118.86)。
[Mg0.67Al0.33(OH)](OH0.33・3HO・・・式(1)
上記OH型Mg-Al層状複水酸化物は、以下に示す手順によって合成した。
硝酸マグネシウム六水和物及び硝酸アルミニウム九水和物を用いて、マグネシウム濃度0.33mol/L、アルミニウム濃度0.17mol/Lの混合水溶液(マグネシウム/アルミニウム=2/1(モル比))を調製した。
この混合溶液500mLを、濃度0.1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液500mLに、30℃で撹拌しながら滴下した。このとき、濃度1.25mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴下により、pHを10.5に保持した。
滴下終了後、30℃で1時間撹拌した。その後、沈殿物をろ過し、繰り返し純水で洗浄した後、40℃で40時間減圧乾燥し、CO型Mg-Al層状複水酸化物を得た。
得られたCO型Mg-Al層状複水酸化物を500℃で2時間仮焼した後、濃度0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、窒素ガス気流下で投入し、30℃で3時間撹拌した。その後、沈殿物をろ過し、繰り返し純水で洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、OH型Mg-Al層状複水酸化物を得た。
Mg0.67Al0.331.17+0.33OH+1.17H
→ Mg0.67Al0.33(OH)(OH0.33+xOH・・・式(2)
上記の理論式(2)に基づいて反応が進むことから、上記化学式(1)であると同定した。
【0063】
[比較例1]
OH型Mg-Al層状複水酸化物に代えて、CO型Mg-Al層状複水酸化物を用いた以外は実施例1と同様にして測定を行い、破過曲線を作成した。
比較例1で用いたCO型Mg-Al層状複水酸化物の化学式は以下のとおりである(分子量:123.2)。
[Mg0.67Al0.33(OH)](CO 2-0.17・3HO・・・式(3)
上記CO型Mg-Al層状複水酸化物は、以下に示す手順によって合成した。
硝酸マグネシウム六水和物及び硝酸アルミニウム九水和物を用いて、マグネシウム濃度0.33mol/L、アルミニウム濃度0.17mol/Lの混合水溶液(マグネシウム/アルミニウム=2/1(モル比))を調製した。
この混合溶液を、濃度0.1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液に、30℃で撹拌しながら滴下した。このとき、濃度1.25mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴下により、pHを10.5に保持した。
滴下終了後、30℃で1時間撹拌した。その後、沈殿物をろ過し、純水で繰り返し洗浄した後、40℃で40時間減圧乾燥し、CO型Mg-Al層状複水酸化物を得た。
そして、上記合成物はCO型Mg-Al層状複水酸化物の理論式に基づいて反応が進むことから、上記化学式(3)であると同定した。
【0064】
実施例1及び比較例1の塩化水素の破過曲線を図4に示す。図4から明らかなように、OH型Mg-Al層状複水酸化物を用いている実施例1の方が、CO型Mg-Al層状複水酸化物を用いている比較例1に比べて、破過時間が長く、破過後の塩化水素濃度の時間変化も大きい。
また、下記の反応式(4)と、上記式(1)及び式(3)の層状複水酸化物の分子量とに基づいて、実施例1及び比較例1において供試した各々の塩化水素の飽和吸着量を求めると、実施例1のOH型Mg-Al層状複水酸化物では0.101g/gであり、比較例1のCO型Mg-Al層状複水酸化物では0.098g/gとなり、両者はほぼ同等の値である。このことから、吸着塔の破過時間を一定に設計した場合、OH型Mg-Al層状複水型酸化物を用いた実施例1の方が、CO型Mg-Al層状複水酸化物を用いた比較例1よりも少ない充填量で、酸性排ガスの処理を行うことが可能であることが判る。
[M1-xM’(OH)]An- x/n・mHO+xHCl
→ [M1-xM’(OH)]Cl・mHO+x/nAn-・・・式(4)
【0065】
また、塩素イオンによってイオン交換された後の層状複水酸化物は下記化学式(5)で表される。
[M0.67Al0.33(OH)](Cl0.33・3HO・・・式(5)
そして、上記化学式(5)の化合物を、水酸化ナトリウムを再生剤として上記化学式(1)の層状複水酸化物に、また、炭酸ナトリウムを再生剤として上記化学式(3)の層状複水酸化物に、それぞれ再生する場合の再生反応式は下記の式(6)、式(7)で表される。
[M0.67Al0.33(OH)](Cl0.33・3HO+0.33NaOH
→ [Mg0.67Al0.33(OH)](OH0.33・3HO+0.33NaCl
・・・式(6)
[M0.67Al0.33(OH)](Cl0.33・3HO+0.17NaCO
→ [Mg0.67Al0.33(OH)](CO 2-0.33・3HO+0.33NaCl
・・・式(7)
上記式(6)、式(7)、各再生剤の分子量(NaOH:40、NaCO:106)、及び、上記式(5)の化合物の分子量(124.91)に基づいて、各再生剤の当量を算出すると以下のようになり、OH型Mg-Al層状複水型酸化物を用いた実施例1の方が少ない当量の再生剤で再生可能であることが判る。なお、「LDH」は「層状複水酸化物」を意味する。
・NaOH/LDH:0.33×40/124.91≒0.10567
・NaCO/LDH:0.17×106/124.91≒0.14426
【符号の説明】
【0066】
11:焼却炉
12:ボイラ
13:ガス冷却装置
14:集塵機
15:誘因通風機
16:煙突
21~23、25、26:配管(煙道)
24:第1の配管
31:層状複水酸化物収容容器
40:再生装置
41:第2の配管
50:第1ユニット
60:第2ユニット
80:酸性排ガスの処理設備
100:焼却施設
【要約】
【課題】酸性排ガスの処理に必要な層状複水酸化物の量を少なくすることができ、かつ、酸性排ガスの処理に供した層状複水酸化物を再生する際のコストの上昇を抑制することができる、酸性排ガスの処理方法、酸性排ガスの処理設備、及び、焼却施設を提供する。
【解決手段】酸性排ガスの処理方法であって、OH型Mg-Al層状複水酸化物を用いて、酸性排ガス中の酸性ガスを処理する第1の工程を有する、酸性排ガスの処理方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4