(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステル系化合物製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20220829BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20220829BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07C69/54 B
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020565412
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 KR2020002019
(87)【国際公開番号】W WO2020226271
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0054493
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0017053
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・テク・リム
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ウン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウォンムン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ヨンジン・キム
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145220(JP,A)
【文献】国際公開第2010/090258(WO,A1)
【文献】特開2014-091725(JP,A)
【文献】特開2012-144513(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190286(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143732(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式2のアルコール系化合物と下記化学式3の(メタ)アクリル酸系化合物を、下記化学式4のジアミン系化合物および下記化学式5の酸無水物の存在下に反応させる段階を含
み、
前記アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の反応は、無溶媒条件で行われる、下記化学式1の(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造方法:
【化1】
前記化学式1~5において、
R
11~R
13はそれぞれ独立して
C
1~6
の直鎖または分枝鎖のアルキル、またはC
3~6
シクロアルキルであるか;またはR
11
が水素であり、R
12
とR
13
は互いに結合してC
1~6
アルキルで置換または非置換されたC
6~10
の脂環式環構造を形成し、
R
14は水素またはメチルであり、
R
21~R
24はそれぞれ独立して水素、または
C
1~6
の直鎖または分岐鎖のアルキルであり、
R
25は
C
1~5
アルキレンであり、
R
31およびR
32はそれぞれ独立して水素またはメチルであり、
R
41およびR
42はそれぞれ独立して
C
1~6
アルキレンであり、
mおよびnはそれぞれ独立して0または1の整数であるが、mとnが同時に0である時、R
31とR
32はそれぞれメチルである。
【請求項2】
前記アルコール系化合物がブタノールまたはメントールである、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸系化合物がアクリル酸である、請求項1
または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸系化合物が前記アルコール系化合物1モルに対して1~3のモル比で使用される、請求項1から
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ジアミン系化合物がN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレン-1,2-ジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、またはN,N,N’,N’-テトラメチルブチレンジアミンである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ジアミン系化合物が前記アルコール系化合物1モルに対して0.5~1.5のモル比で使用される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸無水物が酢酸無水物である、請求項1から
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸無水物が前記アルコール系化合物1モルに対して1~1.5のモル比で使用される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記反応が、前記アルコール系化合物と前記(メタ)アクリル酸系化合物を混合する第1段階;前記第1段階の結果として収得された混合物に対して前記ジアミン系化合物を混合して反応させる第2段階;そして前記第2段階の結果として収得された反応物に対して前記酸無水物を混合して反応させる第3段階;により行われ、
前記第1段階および第2段階が0℃以下の温度で行われ、
前記第3段階が50~80℃で行われる、請求項1から
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第2段階の結果として収得された反応物が、アクリル-ジアミノアルカン陽イオンを含む、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記反応後、ヘキサンを利用した抽出精製工程をさらに含む、請求項1から
10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互引用]
本出願は、2019年5月9日付韓国特許出願第10-2019-0054493号および2020年2月12日付韓国特許出願第10-2020-0017053号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造方法に関し、ジアミン系化合物および酸無水物を利用してアルコールにアクリル構造を容易に導入することによって、(メタ)アクリル酸エステル系化合物、特に立体障害が大きい(メタ)アクリル酸エステル系化合物を高純度および高収率で製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリル構造は重合のための単量体の代表的機能構造である。アクリル構造によって重合された重合体は接着剤、高吸水性樹脂(Super Absorbent Polymer,SAP)等多様な用途に使用されることができる。
【0004】
そのため単量体にアクリル構造を導入するための方法に対する研究が引き続き行われているが、構造的に複雑なアクリル酸エステル単量体を製造するには多くの限界がある。
【0005】
一般にエステル化(esterification)は、構造的妨害が高い構造、すなわち立体障害が大きい構造ではよく起きない。そのため立体障害が大きいアクリル酸エステル単量体の製造時には、アクリロイルクロリド(acryloyl chloride)やアクリル酸無水物(acylic anhydride)等をアクリレート原料物質として使用してアルコールと反応させる方法が主に利用される。
【0006】
しかし、原料物質としてアクリロイルクロリドを使用する場合、作業者が取り扱いにくい短所があり、また、アクリル酸無水物の場合は反応温度が110℃以上で高いため、生成されたアクリル酸エステル間に重合反応が行われる可能性が高い。その他にも二つの物質はいずれも高いコストが求められ、環境的、安全的な問題が存在するので量産化が容易ではない。
【0007】
また、3級アルコールのように立体障害が大きい構造を有するアルコールの場合は反応性が低いので、アクリロイルクロリドまたはアクリル酸無水物との反応時、トリエチルアミンまたは4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)の塩基を使用するが、この場合、アクリル酸エステルへの転換率および収率が低いという短所がある。
【0008】
そこで本発明者らは、アクリル酸エステルの合成時、ジアミン系化合物および酸無水物を利用する場合、アルコール、特に立体障害を有するアルコールにもアクリル構造を容易に導入することができ、(メタ)アクリル酸エステル系化合物を高純度および高収率で製造する可能性があることを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ジアミン系化合物および酸無水物を利用してアルコールにアクリル構造を容易に導入することによって、(メタ)アクリル酸エステル系化合物、特に立体障害が大きい(メタ)アクリル酸エステル系化合物を高純度および高収率で製造できる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、下記化学式2のアルコール系化合物と下記化学式3の(メタ)アクリル酸系化合物を、下記化学式4のジアミン系化合物および下記化学式5の酸無水物の存在下に反応させる段階を含む、下記化学式1の(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造方法を提供する:
【0011】
【0012】
前記化学式1~5において、
R11~R13はそれぞれ独立して水素、置換または非置換されたC1~20アルキル、または置換または非置換されたC3~20シクロアルキルであるか、または互いに隣接する二つの官能基が結合して脂環式環構造を形成し、
R14は水素またはメチルであり、
R21~R24はそれぞれ独立して水素、または置換または非置換されたC1~10アルキルであり、
R25は置換または非置換されたC1~10アルキレンであり、
R31およびR32はそれぞれ独立して水素またはメチルであり、
R41およびR42はそれぞれ独立して置換または非置換されたC1~10アルキレンであり、
mおよびnはそれぞれ独立して0または1の整数であるが、mとnが同時に0である時、R31とR32はそれぞれメチルである。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、「置換または非置換された」という用語は、重水素;ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;ヒドロキシ基;カルボニル基;エステル基;イミド基;アミノ基;ホスフィンオキシド基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオキシ基;アリールチオキシ基;アルキルスルホキシ基;アリールスルホキシ基;シリル基;ホウ素基;アルキル基;シクロアルキル基;アルケニル基;アリール基;アラルキル基;アラルケニル基;アルキルアリール基;アルキルアミン基;アラルキルアミン基;ヘテロアリールアミン基;アリールアミン基;アリールホスフィン基;またはN、OおよびS原子のうち1個以上を含むヘテロ環基;からなる群より選ばれた1個以上の置換基で置換または非置換されたり、前記例示した置換基のうち2以上の置換基が連結された置換または非置換されたことを意味する。例えば、「2以上の置換基が連結された置換基」はビフェニル基であり得る。すなわち、ビフェニル基はアリール基であり得、2個のフェニル基が連結された置換基と解釈され得る。
【0015】
本明細書において、「アルキル基」は直鎖または分枝鎖であり得、炭素数は特に限定されないが、1~20であり得、より具体的には1~12あるいは1~6であり得る。具体的な例としては、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチル-ブチル、1-エチル-ブチル、ペンチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、オクチル、n-オクチル、tert-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、1-エチル-プロピル、1,1-ジメチル-プロピル、イソヘキシル、2-メチルペンチル、4-メチルヘキシル、または5-メチルヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書において、「シクロアルキル基」は、環構造を有する飽和炭化水素系官能基(または脂環式アルキル基)として、単環または多環構造を有し得る。シクロアルキル基の炭素数は特に限定されないが3~20であり得、より具体的には3~12あるいは3~6であり得る。具体的な例としてはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはアダマンチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において、「アルキレン」は2価基であることを除いては前述したアルキル基に関する説明が適用される。具体的な例としてはメチレン、エチレン、プロピレン、またはブチレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
発明の一実施形態による前記化学式1のアクリル酸エステル系化合物の製造方法は、前記化学式2のアルコール系化合物と前記化学式3の(メタ)アクリル酸系化合物を、前記化学式4のジアミン系化合物および前記化学式5の酸無水物の存在下に反応させる段階を含む。
【0019】
前記のような条件で反応を行うと、前記化学式4のジアミン系化合物が前記反応物、具体的には(メタ)アクリル酸系化合物と先に反応してアクリル-ジアミノアルカン陽イオンを形成する。引き続き前記化学式5の酸無水物が前記アクリル-ジアミノアルカン陽イオンでのアクリルと反応し、アクリル酸エステル製造の核心物質であるアクリル-アルキル混合無水物(mixed anhydride)を形成し、形成された混合無水物は再びアクリル-ジアミノアルカン陽イオンと反応して活性化エネルギを低くすることによって、立体障害が大きい前記化学式2のアルコール系化合物と化学式3の(メタ)アクリル酸系化合物のエステル化反応が促進される。
【0020】
そのため、発明の一実施形態による製造方法で、前記化学式4のジアミン系化合物なしで前記化学式5の酸無水物単独で使用される場合、エステル化反応促進のためのアクリル-ジアミノアルカン陽イオンの形成がなされないため、反応効率が顕著に低下する。また、前記化学式5の酸無水物以外の酸無水物が使用される場合、前記混合無水物形成のための別途の高コストの工程が必要であるが、前記化学式5の構造を有する酸無水物の場合、in-situで混合無水物が形成され、その後アクリル酸エステル合成のためのエステル化反応が選択的で、かつ段階的に進行されるので、アクリル酸エステル、特に立体障害が大きいアクリル酸エステルを高純度および高効率で製造することができる。
【0021】
前記製造方法において、反応物である前記化学式2のアルコール系化合物は、前記化学式2においてR11~R13がすべて水素であるか、またはR11~R13のうち二つが水素であり、残りが置換または非置換されたC1~20アルキル、または置換または非置換されたC3~20シクロアルキルである1級アルコールであり得;または前記化学式2において、前記R11~R13がそれぞれ独立して水素、置換または非置換されたC1~20アルキル、または置換または非置換されたC3~20シクロアルキルであるか、または互いに隣接する二つの官能基が結合して脂環式環構造を形成し、ただし、R11~R13のうち二つ以上が同時に水素ではない、立体障害が大きい構造を有する2級または3級アルコールであり得る。
【0022】
前記アルコール系化合物が2級または3級アルコールである場合、より具体的に化学式2において、R11~R13がそれぞれ独立して水素、置換または非置換されたC1~12アルキル、または置換または非置換されたC3~12シクロアルキルであるか、または互いに隣接する二つの官能基が結合してC6~12の脂環式環構造を形成することができ、ただし、R11~R13のうち二つまたは三つが同時に水素でない化合物であり得る。このように前記アルコール系化合物が立体障害が大きい2級または3級アルコールである場合にも、前記化学式4のジアミン系化合物と化学式5の酸無水物を利用したエステル化反応によって立体障害が大きい(メタ)アクリル酸エステル系化合物を高純度高効率で製造することができる。
【0023】
また、前記化学式1において、R11~R13の官能基が置換される場合、C1~6直鎖または分枝鎖アルキル、またはC3~6シクロアルキルで置換され得、より具体的にはメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチルなどのC1~4直鎖または分枝鎖アルキルで1以上置換され得る。
【0024】
より具体的には、前記アルコール系化合物は化学式2において、R11~R13がそれぞれ独立してメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t-ブチルなどのC1~6の直鎖または分枝鎖のアルキル;またはシクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシルなどのC3~6シクロアルキルであるか、またはR11~R13のうちいずれか一つの官能基、一例としてR11が水素であり、残りの二つの官能基、一例としてR12とR13は互いに結合してシクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロヘキシル、2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシルなどの、C1~6直鎖または分枝鎖アルキルで置換または非置換された、C6~10の脂環式環構造を形成した、化合物であり得る。
【0025】
前記アルコール系化合物の具体的な例として、t-BuOHまたはメントール(menthol)などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
また、前記アルコール系化合物と反応する前記化学式3の(メタ)アクリル酸系化合物は、最終的に製造されるアクリル酸エステル系化合物に対してアクリル構造を提供する化合物として、具体的には前記化学式3においてR14が水素であるアクリル酸、またはR14がメチルであるメタクリル酸であり得る。
【0027】
前記(メタ)アクリル酸系化合物は、前記アルコール系化合物1モルに対して1~3のモル比、より具体的には1.5~2.3のモル比で使用され得る。アルコール系化合物1モルに対して(メタ)アクリル酸系化合物の使用量が1モルを未満の場合、未反応アルコール系化合物の含有量が増加し、これに伴う副反応物生成の恐れがある。また、前記(メタ)アクリル酸系化合物の使用量が3モルを超えると、過量の(メタ)アクリル酸系化合物使用により抽出効率および純度減少の恐れがある。
【0028】
一方、上記したアルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の反応は、前記化学式4のジアミン系化合物と前記化学式5の酸無水物の存在下で行われる。
【0029】
前記ジアミン系化合物は二つのアミノ基を含む化合物として、先立って説明したようにアクリル酸エステル系化合物の製造時、反応物と先に反応してアクリル-ジアミノアルカンの陽イオンを形成する。そのため反応の活性化エネルギが低くなって、従来アクリル酸エステル系化合物製造反応時に比べて低い温度で反応が起きることができ、また、反応中のアクリル酸エステル系化合物間の重合反応を防止することができる。
【0030】
また、従来のアルコール系化合物とアクリル酸またはその無水物との反応による(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造時触媒物質としてトリエチルアミン(TEA)を使用した。しかし、この場合、副反応物である酢酸エステルの比率が増加する問題があった。しかし、本発明では前記ジアミン系化合物を使用し、前記ジアミン系化合物が反応物と反応してアクリル-ジアミノアルカンの陽イオンを形成した後、後続の反応により(メタ)アクリル酸エステル系化合物が形成されるので、アセチル化による副反応物の生成の恐れがなく、高純度および高収率でアクリル酸エステル系化合物を製造することができる。
【0031】
また、従来のエステル化触媒を使用する製造方法に比べて同じ量の生成物を得るために使用される反応物の量を減少させることができ、滴加工程が必要ないので、製造工程が単純になり工程時間および工程コストを節減することができる。
【0032】
前記ジアミン系化合物は具体的には、前記化学式4において、R21~R24がそれぞれ独立して水素、または置換または非置換されたC1~10アルキルであり、R25が置換または非置換されたC1~10アルキレンである化合物であり得、また、前記R21~R24の官能基が置換される場合、C1~6直鎖または分枝鎖アルキル、またはC3~6シクロアルキルで置換され得、より具体的にはメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチルなどのC1~4直鎖または分枝鎖アルキルで1以上置換され得る。
【0033】
より具体的には、前記ジアミン系化合物は前記化学式4においてR21~R24がそれぞれ独立して水素;またはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t-ブチルなどのC1~6の直鎖または分枝鎖のアルキルであり、R25がメチレン、エチレン、プロピレンなどのC1~5アルキレンである化合物であり得、より具体的にはR21およびR22がメチルであり、R23およびR24がそれぞれ独立して水素またはメチルであり、R25がメチレンまたはエチレンである化合物であり得る。
【0034】
前記ジアミン系化合物の具体例としてはN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N,N-ジメチルエチレン-1,2-ジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、またはN,N,N’,N’-テトラメチルブチレンジアミンなどが挙げられ、その中でも(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造時純度および収率改善効果を考慮するとTMEDAがより好ましい。
【0035】
前記ジアミン系化合物は、前記アルコール系化合物1モルに対して0.5~1.5のモル比、あるいは0.8~1.2のモル比で使用され得る。アルコール系化合物に対してジアミン系化合物の使用量が0.5モル比未満の場合、アクリル-ジアミノアルカンの陽イオン形成が充分でなくて転換率が低下する恐れがあり、また、ジアミン系化合物の使用量が1.5モル比超過の場合、純度および抽出効率低下の恐れがある。
【0036】
また、前記化学式5の酸無水物は、アクリル酸エステル系化合物製造のための反応物とジアミン系化合物との反応によって形成されたアクリル-ジアミノアルカン陽イオンでのアクリルと反応し、アクリル酸エステル製造の核心物質であるアクリル-アルキル混合無水物(mixed anhydride)を形成し、形成された混合無水物は再びアクリル-ジアミノアルカン陽イオンと反応し、反応の活性化エネルギを低くすることによって立体障害が大きい前記アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物のエステル化反応を促進させる。
【0037】
また、従来の立体障害が大きい(メタ)アクリル酸エステルの製造時には、エステル化反応促進のためにアクリル酸無水物が主に使用されたが、アクリル酸無水物の場合は反応温度が110℃以上で高いため、生成されたアクリル酸エステル間に重合が発生した。これに対して本発明では前記化学式5の構造を有する酸無水物を使用することによって、従来に比べて低い温度で反応が起き得、その結果、反応中のアクリル酸エステル系化合物間の重合反応を防止することができる。
【0038】
前記酸無水物は具体的に前記化学式5において、R31およびR32がそれぞれ独立して水素またはメチルであり、R41およびR42がそれぞれ独立して置換または非置換されたC1~6あるいはC1~4アルキレンであり、mおよびnがそれぞれ独立して0または1の整数であるが、mとnが同時に0である時、R31とR32はそれぞれメチルである、アルカン酸無水物(alkanoic anhydride)であり得る。
【0039】
また、前記化学式5において、R41およびR42はそれぞれ独立して置換され得、この時置換基は製造される(メタ)アクリル酸エステル系化合物の構造を考慮して適宜選択することができる。具体的には、R41およびR42はそれぞれ独立してC1~6アルキル、より具体的にはC1~4アルキルで置換され得る。もしR41およびR42がハロゲン基、またはヘテロ元素を含むヘテロ炭化水素基などで置換される場合には(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造が難しい。一例として、トリクロロ、トリフルオロなどハロゲン基を含む置換基の場合、アクリル-エステルでないトリクロロアセチル-エステルなどのアセチル-エステルが形成され、この場合活用が難しい。
【0040】
また、前記酸無水物の具体的な例としては、酢酸無水物(acetic anhydride)、プロパン酸無水物(propanoic anhydride)、酢酸プロパン無水物(acetic propanoic anhydride)、酪酸無水物(butyric anhydride)、イソ酪酸無水物(isobutyric anhydride)、イソ吉草酸無水物(isovaleric anhydride)、トリメチル酢酸無水物(trimethylacetic anhydride)などが挙げられ、その中でも酢酸無水物の使用時、(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造収率および転換率がより増進され得、また、回収および再使用により製造コストを節減できるので好ましい。
【0041】
前記酸無水物は前記アルコール系化合物1モルに対して1~1.5のモル比、あるいは1.2~1.3のモル比で使用され得る。アルコール系化合物に対して酸無水物の使用量が1モル比未満の場合、転換率低下の恐れがあり、また、酸無水物の使用量が1.5モル比超過の場合、アルキルエステル形成副反応が発生する恐れがある。
【0042】
発明の一実施形態による製造方法において前記アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の反応は、無溶媒条件で行われ得る。そのため、製造工程が簡素化され得、溶媒使用による環境的、安全的な問題に対する恐れがない。
【0043】
また、前記アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の反応は、50℃以上80℃以下、あるいは60℃以上70℃以下で行われ得る。前記反応温度が50℃未満である場合、転換率が低くなり、80℃を超える場合は反応中のアクリル酸エステル間重合の可能性が増加して収率が低下し得る。
【0044】
具体的には、前記アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の反応は、アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の1次混合、結果の1次混合物に対する前記ジアミン系化合物の2次混合、および結果の2次混合物に対する前記酸無水物の3次混合により行われ得る。
【0045】
より具体的には、前記アルコール系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物の反応は、前記アルコール系化合物と前記(メタ)アクリル酸系化合物を混合する第1段階;前記第1段階の結果として収得された混合物に対して前記ジアミン系化合物を混合して反応させる第2段階;そして前記第2段階の結果として収得された反応物に対して前記酸無水物を混合して反応させる第3段階;により行われ得、この時、前記第2段階の結果として収得された反応物は、前記ジアミン系化合物と前記(メタ)アクリル酸系化合物との反応により生成されたアクリル-ジアミノアルカン陽イオンを含む。
【0046】
前記1次ないし3次の混合工程は通常の混合方法により行われ得る。
【0047】
ただし、前記反応が無溶媒条件で行うので前記1次混合および2次混合時多量の熱が発生し得る。そのため、前記1次混合および2次混合は0℃以下、より具体的には0~-15℃で行うことが好ましく、これのために前記1次および2次混合は氷浴(ice bath)の中で行われ得る。
【0048】
また、前記2次混合の完了後には、上記した反応温度条件で3次混合が行われ得る。そのため前記2次混合完了後、3次混合は50~80℃の油浴(oil bath)の中で行われ得る。
【0049】
上記した工程によって前記化学式1で表される(メタ)アクリル酸エステルが製造される。
【0050】
この時、製造される(メタ)アクリル酸エステル系化合物の純度をより高めるために、結果の反応物に対してヘキサンなどを利用した抽出精製工程を選択的にさらに行うこともでき、そのため発明の一実施形態による製造方法は前記反応後抽出精製工程をさらに含み得る。
【0051】
前記抽出精製工程は通常の方法により行われるので、詳細な説明は省略する。
【0052】
上記したように本発明の一実施形態による製造方法によって、単一合成反応のみで(メタ)アクリル酸エステル系化合物を高純度および高収率で製造することができる。
【0053】
具体的には前記製造方法によって(メタ)アクリル酸エステル系化合物を90%以上、あるいは95%以上の高純度、および60%以上、あるいは65%以上、あるいは80%の高収率で製造することができる。
【0054】
本発明において(メタ)アクリル酸エステルの収率は、下記数式1により計算される。
【0055】
[数1]
収率(%)=[(抽出後生成された(メタ)アクリル酸エステルのモル数)/(化学式2のアルコール系化合物の使用モル数)]×100
【0056】
また、本発明の一実施形態による製造方法は、前記化学式4のジアミン系化合物と化学式5の酸無水物を利用して反応活性化エネルギを低くすることによって、立体障害を有するアルコールにもアクリル構造を容易に導入できるため、立体障害が大きい(メタ)アクリル酸エステル系化合物、具体的には前記化学式1において、R11~R13がそれぞれ独立して水素、置換または非置換されたC1~20アルキル、または置換または非置換されたC3~20シクロアルキルであるか、または互いに隣接する二つの官能基が結合して脂環式環構造を形成し、ただし、R11~R13のうち二つ以上が同時に水素ではない、(メタ)アクリル酸エステル系化合物の製造に特に有用である。
【0057】
また、前記製造方法により製造される(メタ)アクリル酸エステルは、これらに限定されるものではないが、接着剤、高吸水性樹脂または架橋剤などに使用されることができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の製造方法は、ジアミン系化合物および酸無水物を利用することによって、立体障害を有するアルコールにアクリル構造を容易に導入できるため、(メタ)アクリル酸エステル系化合物を高純度および高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明の理解を深めるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は本発明を例示するだけであり、本発明の内容は下記の実施例によって限定されない。
【0060】
【0061】
100ml容積のフラスコにt-BuOH 2.3g(30mmol)とアクリル酸(acrylic acid) 4.3g(60mmol)を入れ、0℃以下の氷浴(ice bath)でゆっくり攪拌した。前記フラスコにN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA) 3.5g(30mmol)を発熱に注意してゆっくり投入した。投入完了後、フラスコを60℃油浴(oil bath)に移し、酢酸無水物(acetic anhydride) 3.8g(37.5mmol)を約2時間にわたってゆっくり投入した。投入完了後、60℃で3時間追加で攪拌し、TLCおよびGCにより反応の転換率(conversion)を確認した。反応終結確認後、結果の反応物にヘキサンを投入し攪拌して抽出した。抽出物上部のヘキサン層は別に分離し、下部の有機塩層をヘキサンを利用してもう一度抽出した。集められたヘキサン層を水を利用して1回洗浄した。ヘキサン層内の残留水分をMgSO4を利用して除去した後、減圧蒸留によりヘキサンを除去し、前記構造のアクリル酸エステルを収得した(収率:66%、転換率:>99%、純度:>95%)。
【0062】
1H NMR (CDCl3, 500MHz): 6.30 (m, 1H), 6.07 (m, 1H), 5.72 (m, 1H), 1.52 (s, 9H)
【0063】
【0064】
100ml容積のフラスコにメントール(menthol) 4.7g(30mmol)とアクリル酸4.3g(60mmol)を入れ、0℃以下の氷浴(ice bath)でゆっくり攪拌した。前記フラスコにTMEDA 3.5g(30mmol)を発熱に注意してゆっくり投入した。投入完了後、フラスコを60℃油浴(oil bath)に移し、酢酸無水物3.8g(37.5mmol)を約2時間にわたってゆっくり投入した。投入完了後、60℃で3時間追加で攪拌し、TLCおよびGCにより反応転換率を確認した。反応終結を確認した後、結果の反応物にヘキサンを投入して攪拌して抽出した。抽出物上部のヘキサン層は別に分離し、下部の有機塩層をヘキサンを利用してもう一度抽出した。集められたヘキサン層を水を利用して1回洗浄し、ヘキサン層内の残留水分をMgSO4を利用して除去した後、減圧蒸留によりヘキサンを除去し、前記構造のアクリル酸エステルを収得した(収率:86%、転換率:>99%、純度:>95%)。
【0065】
1H NMR (CDCl3, 500MHz): 6.39 (dd, J=17.4Hz, 1.2Hz, 1H), 6.10 (dd, J=17.4Hz, 10.5Hz, 1H), 5.79 (dd, J=10.5Hz, 1.2Hz, 1H), 4.76 (dt, J=11.0Hz, 4.6Hz, 1H), 2.11 (m, 1H), 1.87 (m, 1H), 1.68 (m, 1H), 1.50 (m, 1H), 1.41 (m, 1H), 1.11-0.95 (m, 2H), 0.90 (dd, J=7.9Hz, 6.8Hz, 6H), 0.76 (d, J=7.1Hz, 3H)
【0066】
【0067】
前記実施例2で、TMEDAの代わりにトリエチルアミン(TEA)を使用することを除いては同一に行い、前記構造のアクリル酸エステルを収得した(収率:66%、転換率:>99%、純度:>60%)。ただし、前記反応の結果としてアセチル化された副生成物が約30%生成されたことを確認した。
【0068】
比較例2
100ml容積のフラスコに、t-BuOH 2.3g(30mmol)、アクリル酸無水物(acrylic anhydride) 4.2g(33mmol)、および重合防止剤MEHQ (4-methoxyphenol) 200ppmを入れ、60℃で10時間攪拌し、TLCおよびGCにより反応の転換率(conversion)を確認した。反応終結後、結果の反応物にヘキサンを投入し攪拌して抽出した。抽出物上部のヘキサン層は別に分離し、下部の有機塩層をヘキサンを利用してもう一度抽出した。集められたヘキサン層を水を利用して1回洗浄した。ヘキサン層内の残留水分をMgSO4を利用して除去した後、減圧蒸留によりヘキサンを除去し、前記実施例1と同じ構造のアクリル酸エステルを収得した(転換率:<5%)。