IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7130935ポリ塩化ビニル系樹脂成形品及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系樹脂成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20220830BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20220830BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20220830BHJP
   B29B 7/10 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08J5/00 CEV
C08L27/06
C08K3/26
B29B7/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017198970
(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公開番号】P2019073585
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2019-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 俊樹
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100828(JP,A)
【文献】特開2014-231565(JP,A)
【文献】特開昭50-105748(JP,A)
【文献】特開平04-311753(JP,A)
【文献】特開昭51-012849(JP,A)
【文献】特開2000-260228(JP,A)
【文献】特開2003-105149(JP,A)
【文献】特開平11-181206(JP,A)
【文献】特開2003-311812(JP,A)
【文献】国際公開第01/72896(WO,A1)
【文献】特表2015-529732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29B 7/00-11/14、13/00-15/06
B29C 31/00-31/10、37/00-37/04、
48/00-48/96、71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、平均1次粒子径0.01~0.3μmの炭酸カルシウムを1~50質量部、及び衝撃強度改質剤を5~18質量部それぞれ含有してなる樹脂混合物を成形した樹脂成形品であって、上記衝撃強度改質剤として、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)またはアクリル系ゴムのみを用いるものであり、0℃でのシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、且つ、ビカット軟化温度が85℃以上であることを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
【請求項2】
パイプ、継手、排水マス、雨樋、窓枠、サイディング、フィルム・シート材、平板及び波板の群から選ばれる製品に使用される請求項記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
【請求項3】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂が、塩化ビニル単独重合体、或いは、塩化ビニル単量体と塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体である請求項1又は2記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
【請求項4】
上記炭酸カルシウムは、炭素数10~20の高級脂肪酸により表面処理が施されたものである請求項1~3のいずれか1項記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
【請求項5】
ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、平均1次粒子径0.01~0.3μmの炭酸カルシウムを1~50質量部、及び、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)またはアクリル系ゴムのみである衝撃強度改質剤を5~18質量部それぞれ含有した樹脂混合物を500~3000rpmの回転速度で混合させ、押出成形、プレス成形、射出成形及びカレンダー成形の群から選ばれる成形方法により樹脂混合物を成形することにより、0℃でのシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、且つ、ビカット軟化温度が85℃以上である樹脂成形品を得ることを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃強度改質剤と炭酸カルシウムとを含有するポリ塩化ビニル系樹脂成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリ塩化ビニル系樹脂成形品は、押出成形、プレス成形、射出成形、カレンダー成形といった方法で成形され、パイプ、継手、排水マス、雨樋、窓枠、サイディング、フィルム・シート材、平板、波板等の各種の製品に広く使用されている。
【0003】
塩化ビニル樹脂には耐衝撃性に劣るという欠点があるため、これらの成形品には、多くの場合、衝撃強度改質剤としてメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)やアクリル系ゴム、塩素化ポリエチレン等が使用されている。その一例として下記の特許文献1が挙げられる。
【0004】
しかしながら、一般に塩化ビニル樹脂は5℃以下の低温で脆くなるという特徴がある。このため、低温衝撃性を発現するためには、常温の場合よりも多量の衝撃強度改質剤を添加する必要があり、その結果、添加に伴うコストの増加や軟化点の低下効果が著しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭51-25062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐低温衝撃性に優れ、且つ、軟化点低下やコストの増加を抑制したポリ塩化ビニル系樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、平均1次粒子径0.01~0.3μmの炭酸カルシウムを1~50質量部及び衝撃強度改質剤を5~18質量部それぞれ含有してなる樹脂混合物の成形品は、衝撃強度改質剤と炭酸カルシウムとの何らかの相互作用が発揮され、これにより衝撃強度改質剤の添加量を抑え、且つ、耐低温衝撃性が十分に高くなることを見出し、本発明をなすに至ったものである。なお、上記で言う耐低温衝撃性とは、5℃以下での衝撃強度のことであるが、一般には0℃での衝撃強度が求められ、例えば、耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管(HIVP管)などの様々な製品についてJIS等の規格で定められている。
【0008】
従って、本発明は、下記のポリ塩化ビニル系樹脂成形品及びその製造方法を提供する。
1.ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、平均1次粒子径0.01~0.3μmの炭酸カルシウムを1~50質量部、及び衝撃強度改質剤を5~18質量部それぞれ含有してなる樹脂混合物を成形した樹脂成形品であって、上記衝撃強度改質剤として、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)またはアクリル系ゴムのみを用いるものであり、0℃でのシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、且つ、ビカット軟化温度が85℃以上であることを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
2.パイプ、継手、排水マス、雨樋、窓枠、サイディング、フィルム・シート材、平板及び波板の群から選ばれる製品に使用される上記1記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
3.上記ポリ塩化ビニル系樹脂が、塩化ビニル単独重合体、或いは、塩化ビニル単量体と塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体である上記1又は2記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
4.上記炭酸カルシウムは、炭素数10~20の高級脂肪酸により表面処理が施されたものである上記1~3のいずれかに記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形品。
5.ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、平均1次粒子径0.01~0.3μmの炭酸カルシウムを1~50質量部、及び、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)またはアクリル系ゴムのみである衝撃強度改質剤を5~18質量部それぞれ含有した樹脂混合物を500~3000rpmの回転速度で混合させ、押出成形、プレス成形、射出成形及びカレンダー成形の群から選ばれる成形方法により樹脂混合物を成形することにより、0℃でのシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、且つ、ビカット軟化温度が85℃以上である樹脂成形品を得ることを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂成形品は、0℃での耐衝撃性に優れ、且つ、軟化点の低下を抑制し得るものであり、様々な用途に優位に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂成形品は、ポリ塩化ビニル系樹脂に、衝撃強度改質剤及び所定の平均1次粒子径を有する炭酸カルシウムを所定量含有するものである。
【0011】
本発明で用いるポリ塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル単量体と塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体(通常、塩化ビニル50質量%以上の共重合体)、塩素化塩化ビニル共重合体である。塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、エチレン、プロピレン等のオレフィンモノマー、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン等が挙げられる。上記のポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、好ましくは500~1500であり、より好ましくは700~1300である。この平均重合度が500未満では耐衝撃強度が低く、要求を満たすことはできない。また、この平均重合度が1500を超えると溶融粘度が高く、可塑剤なしで成形することが困難となる。なお、このポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、JIS K 7367-2に既定の溶融粘度法により測定した値である。
【0012】
本発明で用いられる炭酸カルシウムは、平均1次粒子径が0.01~0.3μmであり、好ましくは0.05~0.2μmである。一般にこの平均1次粒子径領域の炭酸カルシウムとしては、石灰石を原料として化学的手法で合成された軽質炭酸カルシウムが市販されている。炭酸カルシウムの平均1次粒子径が上記範囲内であれば、衝撃強度改質剤との間の何らかの相互作用によってポリ塩化ビニル系樹脂成形品の耐低温衝撃性を向上させることができる。なお、炭酸カルシウムの平均1次粒子径は、透過型電子顕微鏡写真観察法により測定される。
【0013】
上記の炭酸カルシウムは、特には、予め表面処理が施されたものであって凝集し難いものを採用することが好適である。この場合、表面処理品の平均1次粒子径が0.01~0.3μmである。表面処理が施されていない炭酸カルシウムを用いる場合、凝集を起こしやすくなり、凝集すると衝撃強度向上効果が不十分となる場合がある。また、炭酸カルシウムの粒子がポリ塩化ビニル系樹脂成形品中に均一に分散されることが望ましく、このため、炭酸カルシウムには脂肪酸表面処理が施されているものが望ましい。
【0014】
上記表面処理に用いる脂肪酸としては、炭素数10~20の高級脂肪酸が好ましく、具体的には、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸等の脂肪酸が好適に使用され、これらは2種以上混合して用いてもよい。なお、上記の脂肪酸としては、脂肪酸のみならず、ナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属等との脂肪酸塩、更には脂肪酸エステルの形態であってもよい。
【0015】
上記の炭酸カルシウムの配合量は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、1~50質量部とするものであり、好ましくは3~40質量部である。炭酸カルシウムの配合量が上記範囲内であれば、塩素化ポリエチレンとの間の何らかの相互作用による衝撃強度の改質効果が最もよく発揮され、ポリ塩化ビニル系成形品の0℃での耐衝撃性が向上し得る。炭酸カルシウムが1質量部未満では、衝撃強度向上効果が発揮され難くなり、50質量部を超えると、炭酸カルシウムが均一分散され難く、凝集して大粒径となった炭酸カルシウムの界面にできるクレーズによって破壊に至り易くなる。
【0016】
本発明に用いられる衝撃強度改質剤は、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ゴム、塩素化ポリエチレンの群から選ばれる少なくとも1種類の樹脂材料である。好ましい形態としては、粒子であり、平均粒子径5~500μmのものを用いることが好ましい。
【0017】
上記衝撃強度改質剤の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し5~18質量部であり、より好ましくは6~12質量部である。この範囲で炭酸カルシウムとの相互作用が最もよく発揮され、0℃での衝撃強度が向上する。5質量部未満では0℃での耐衝撃性改良効果が十分ではなく、18質量部を超えると軟化点や抗張力等の諸特性が低下する。
【0018】
上記メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体樹脂(MBS樹脂)は、該技術分野で公知のものを用いることができる。なかでも、上記の樹脂中にブタジエンを40~85質量%含有するものが好ましい。この含有量が40質量%未満では十分な耐衝撃性改善効果が得られず、85質量%を超えると流動性や抗張力を低下させる原因となる場合がある。
【0019】
また、上記メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体樹脂の粒径については特に制限はないが、平均粒径が10~350μmの範囲にあるものが好ましい。
【0020】
上記アクリル系ゴムは、当該技術分野で公知のものを用いることができる。例えば、アクリル酸ブチルゴム、ブタジエン-アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸2-エチルヘキシル-アクリル酸ブチルゴム、メタクリル酸2-エチルヘキシル-アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸ステアリル-アクリル酸ブチルゴム、シリコーン系ゴム等とアクリル酸エステルゴムとの複合ゴムなどが挙げられる。この場合のシリコーン系ゴムとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンゴムなどがある。更に、アクリル酸メチル、エチレン及びカルボキシル基を有する成分を加えた三元共重合体などの他、スチレンブタジエンやアクリルエステルからなるゴム状のコアにメチルメタクリレートやアクリル酸エステル等をグラフトさせたコアシェルゴムなどがある。
【0021】
上記塩素化ポリエチレンは、塩素含有率25~50質量%のものが好ましい。この含有率が25質量%未満のものはゴム弾性に乏しく耐衝撃性に劣り、50質量%を超えるものは柔らかくなりすぎて耐熱性や抗張力の低下をもたらす場合がある。
【0022】
また、上記塩素化ポリエチレンは、耐衝撃性向上の観点から、非晶性のものが好ましく、さらに、ムーニー粘度ML(1+4)(121℃)が70~120の範囲にあるものが特に好ましい。
【0023】
本発明に用いられるポリ塩化ビニル系樹脂成形品には、これらの他に、塩素含有樹脂のための熱安定剤を添加してもよい。この熱安定剤は、塩素含有樹脂組成物を成形加工する際に、塩素含有樹脂が熱分解して塩化水素を放出し、成形品を変色したり、分子鎖を切断し劣化させることを防止するために使用される。この熱安定剤としては、ポリ塩化ビニル系樹脂成形品に従来用いられてきたものを使用することができ、例えば、カルシウム、バリウム、亜鉛等の金属化合物、錫系化合物、鉛系化合物などが挙げられる。この熱安定剤の配合量は、特に制限はないが、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは1~10質量部で使用することができる。また、必要に応じて、滑剤、加工助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料等を添加してもよい。これらの添加剤は、各々20質量部以下の範囲で添加することができる。
【0024】
本発明は、上述したように上記ポリ塩化ビニル樹脂、衝撃強度改質剤及び炭酸カルシウムを所定量配合するものである。この樹脂混合物を得る方法としては、回転混合機を用い、特定の回転速度で混合させながら成形させることにより、衝撃強度改質剤の添加量を最大限に抑制し、且つ、0℃での耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。本発明の樹脂組成物を対流させて均一混合できる観点から、用いられる回転混合機としては、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等が挙げられる。
【0025】
上記の回転混合機の回転速度については、特に制限はないが、好ましくは500~3000rpm、より好ましくは1000~2500rpmで行うことができる。この回転速度が500rpm未満の場合には、炭酸カルシウムの分散不良により炭酸カルシウムの凝集が起こり、衝撃強度が高い成形品が得られない場合がある。逆に、上記回転速度が3000rpmを超えると、過度な発熱のため混合温度を均一にコントロールすることが困難になるおそれがある。上記混合機による撹拌の際は、配合材料の温度が10~40℃、好ましくは20~30℃より回転混合させ、昇温により配合材料が100~140℃、好ましくは110~130℃に到達したところで排出させることにより、樹脂混合物の粉体コンパウンドを得ることができる。この場合、配合材料の混合時間は、好ましくは0.05~1.0hr、好ましくは0.05~0.5hrとすることができる。
【0026】
上記の粉体コンパウンド(樹脂混合物)の成形(「本成形」ともいう)の方法としては、特に制限はないが、押出成形、プレス成形、射出成形及びカレンダー成形の群の中から選ばれる成形法により行うことが好適である。
【0027】
上記成形の前には、上記の粉体コンパウンドを予備溶融加工させることができる。この予備溶融加工としては、例えば、押出成形又はロール成形したもの、或いは、これらを細断により好ましくは0.5~10mm程度、より好ましくは1~7mm程度にペレット化して使用する方法等が挙げられる。この予備溶融加工の設定温度を140~200℃で2~12分間で混練させることが好適である。押出成形を用いた予備溶融加工の場合には、例えば、粉体コンパウンドを押出成形機で140~180℃で溶融させて、スクリュー速度を10~60rpmにコントロールし、長手方向が0.5~10mm程度のペレットになるように行い、ペレットコンパウンドを得ることができる。ロール成形の場合には、2本ロール(例えば3~9インチで10~30rpm)に粉体コンパウンドを投入させ、例えば160~200℃で1~30分、好ましくは1~10分混練させ、厚さ0.1~5mmとすることができる。このような条件下で予備溶融加工を行うことにより、その後の樹脂混合物の本成形時には、炭酸カルシウムをより均一に分散させることが可能と考えられる。
【0028】
上記予備溶融加工の後、上述した各種成形法により粉体コンパウンドを成形して本成形品であるポリ塩化ビニル系樹脂成形品を得ることができる。この成形加工の具体例としては、所望の質量分のペレットまたは所望の長さに切断したロールシートを、好ましい条件として、150~250℃、圧力10~100kg/cm2及び1~30分の条件で、所望の形状になるようにプレスすることにより、プレスシート(厚さが好ましくは0.5~10mm、より好ましくは3~5mm)を成形させて成形シートを得ることができる。また、本成形加工は、プレス成形だけでなく、押出成形方法を選択しても構わない。この場合には、押出機にペレット化した予備溶融加工品を投入し、樹脂温度が140~200℃で、回転速度が20~60rpmになるようにコントロールし、角棒、シート等の押出成形品を得ることも可能である。
【0029】
本発明で成形したポリ塩化ビニル系樹脂成形品のシャルピー衝撃強度は、好ましくは20kJ/m2以上であり、より好ましくは40kJ/m2以上、更に好ましくは50kJ/m2以上である。このシャルピー衝撃強度は、0±2℃条件下でJIS K 7111に準拠して測定する。上記のシャルピー衝撃強度が20kJ/m2未満であると、使用時に割れが発生し易くなる。
【0030】
また、上記ポリ塩化ビニル系樹脂成形品のビカット軟化点は、JIS K 7206に準拠して、試験荷重10N及び昇温速度50℃/hの条件下で、好ましくは85℃以上、より好ましくは87℃以上である。ビカット軟化点が85℃未満であると、成形品の耐熱性が不十分であり、昼夜の寒暖差が激しい地域で使用した際、特に屋外で使用した際に、成形品が軟化してしまう。なお、本発明の成形品のビカット軟化点の上限は特に制限はないが好ましくは150℃を上限することがよい。
【0031】
なお、本発明の成形品は、例えば、寒冷地で用いられるパイプ、継手、排水マス、雨樋、窓枠、フィルム・シート材、平板、波板等の各種の工業製品に好適に使用することができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
[実施例1~15]
(1)ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドの作製
全ての実施例に共通する信越化学工業社製のポリ塩化ビニル樹脂「TK-1000(平均重合度1000)」を使用し、所定の平均1次粒子径を有する炭酸カルシウム、衝撃強度改質剤、熱安定剤及び滑剤を、表1,2に示す配合材料及び配合量(質量部)で添加し、回転混合機として日本コークス工業社製10Lヘンシェルミキサー(FM10C/1型)を用いて、回転数1800rpm(但し、実施例14の回転数は2400rpm、実施例15の回転数は1200rpm)で回転混合させながら、0.1hrブレンドし、120℃でポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドを排出させた。なお、上記のヘンシェルミキサーには、上羽根としてST羽根(標準)、及び下羽根としてAO羽根(標準)をそれぞれ使用した。
【0034】
(2)ロールシートの作製(予備溶融加工)
上記で得たポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドを6インチ2本ロールにて、ロール温度170℃及び20rpmの条件でコントロールし、5分間混練し、厚み0.7mmのロールシート化した。
【0035】
(3)プレスシートの作製(本成形加工)
上記ロールシート(厚さ0.7mm)を所望の長さに切断し、所望の質量部となるように重ねあわせて180℃、圧力50kg/cm2及び5分の条件でプレスし、所望の厚さのプレスシートを得た。
【0036】
[実施例16]
ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドの作製については、実施例1と同様に実施したが、予備溶融加工、本成形加工については、下記方法により押出成形品を作製した。
【0037】
〈押出ペレットの作製(予備溶融加工)〉
作製した粉体コンパウンドを用いて50mmφ単軸押出機にて押出ペレットを作成した。L/D=25の50mmφ単軸押出機にて、スクリュー圧縮比CR:2.5、スクリーン:♯60×1枚、スクリュー回転数:40rpm、シリンダー設定温度C1:140℃、C2:150℃、C3:155℃、C4:160℃(C1が最もホッパーに近く、その後C2、C3、C4の順に通過する)、ダイス設定温度160℃で押出ペレットを作成した。
【0038】
〈押出成形品の作製(本成形加工)〉
作製した押出ペレットを用いて15mmφ異方向二軸押出機にて押出成形を行った。L/D=30の15mmφ異方向二軸押出機にて、スクリュー圧縮比CR:2.5、ダイス:4×10mm角棒、スクリュー回転数:40rpm、シリンダー設定温度C1:140℃、C2:150℃、C3:160℃、C4:170℃(C1が最もホッパーに近く、その後C2、C3の順に通過する)、ダイス設定温度180℃で押出成形を行った。
【0039】
[実施例17]
ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドの作製については、実施例1と同様に実施したが、予備溶融加工を行わず、粉体コンパウンドを用いて実施例16と同様に本成形加工を実施した。
【0040】
[比較例1]
炭酸カルシウム及び衝撃強度改質剤を全く配合しないこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0041】
[比較例2~5]
炭酸カルシウムを全く配合しないこと及び塩素化ポリエチレン(衝撃強度改質剤)の配合量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0042】
[比較例6,7]
衝撃強度改質剤を全く配合しないこと及び炭酸カルシウムの配合量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0043】
[比較例8,9]
炭酸カルシウムの配合量及び塩素化ポリエチレン(衝撃強度改質剤)の配合量を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0044】
[比較例10,11]
炭酸カルシウムを全く配合しないこと及び衝撃強度改質剤の種類を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0045】
[比較例12]
炭酸カルシウムの配合量を表4に示すように変更し、10Lヘンシェルミキサー(FM10C/1型)の回転数を400rpmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0046】
上記の各実施例及び各比較例の成形品に対して、シャルピー衝撃強度及びビカット軟化点の評価を下記の方法により行った。
【0047】
〈シャルピー衝撃強度〉
JIS K 7111に準拠して、0℃±2℃の条件下でシャルピー衝撃試験を行い、衝撃強度を測定した。このシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上の場合を「○」、20kJ/m2未満の場合を「×」と評価した。その測定値及び評価を表1,2(実施例)及び表3,4(比較例)に併記した。
【0048】
〈ビカット軟化点の測定〉
JIS K 7206に準拠して、試験荷重10N及び昇温速度50℃/hで各例の成形品のビカット軟化温度を測定した。各例の成形品のビカット軟化点が85℃以上の場合を「○」、85℃未満の場合を「×」と評価した。その測定値及び評価を表1,2(実施例)及び表3,4(比較例)に併記した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
上記表1~4の樹脂配合の詳細は、以下のとおりである。
・ポリ塩化ビニル樹脂:「TK-1000」(信越化学工業社製、平均重合度1000)
・熱安定剤:Sn系安定剤(オクチル錫メルカプト、ブチル錫サルファイド)
・Caセッケン:カルシウムステアレート
・滑剤:パラフィンワックス、ポリエチレンワックス(酸化タイプ)
・炭酸カルシウム:下記(I)~(III)の3種類の軽質炭酸カルシウムのうちいずれか1つを用いる。
(I)平均1次粒子径0.15μm、脂肪酸表面処理品
(II)平均1次粒子径0.10μm、脂肪酸表面処理品
(III)平均1次粒子径0.08μm、脂肪酸表面処理品
(上記の炭酸カルシウムの表面処理に用いられる脂肪酸は、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸に代表される脂肪酸を混合したものである。)
・MBS樹脂(メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体)「B-562」(カネカ社製、D50=215μm、ブタジエン含有量70wt%)
・アクリル系ゴム:「FM-50」(カネカ社製、MMAグラフトアクリルゴム、D50=173μm)
・塩素化ポリエチレン:「エラスレン351A」〔昭和電工社製、塩素含有率35wt%、ムーニー粘度90M(121℃)〕
【0054】
表1,2の結果から、実施例1~17のポリ塩化ビニル系樹脂成形品は、0℃でのシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、且つ、ビカット軟化温度が85℃以上であるのに対して、比較例1~12は、衝撃強度改質剤と炭酸カルシウムをそれぞれ単独で用いた場合、或いは、加工条件が十分でない場合の例であり、その結果、ポリ塩化ビニル系樹脂成形品は、0℃でのシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、且つビカット軟化温度が85℃以上の物性値が得られないことが分かる。特に、実施例1~6と比較例3とを比較すると、衝撃強度改質剤と炭酸カルシウムとの間の何らかの相互作用によって0℃での耐衝撃性が向上し、その効果は特に実施例4と実施例5で顕著であることが分かる。