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特許7130937マルチウェルプレート用蓋部材及びマルチウェルプレート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】マルチウェルプレート用蓋部材及びマルチウェルプレート
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017207058
(22)【出願日】2017-10-26
(65)【公開番号】P2018099109
(43)【公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2016245889
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】杣田 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】和泉 賢
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】高木 大輔
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-205850(JP,A)
【文献】特開平04-058880(JP,A)
【文献】特開2006-288308(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150415(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
G01N 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルが形成されたマルチウェルプレート、前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材とを備え、該マルチウェルプレート用蓋部材の一方の面に、前記マルチウェルプレートに対する接着強度が異なる2以上の領域を有し、
前記マルチウェルプレートの複数のウェルは、粒子を収容したウェルと、粒子を収容しないウェルとからなり、
粒子を収容したウェルの覆蓋部における接着強度が、粒子を収容しないウェルの覆蓋部における接着強度よりも大きいことを特徴とするマルチウェルプレート。
【請求項2】
前記マルチウェルプレート用蓋部材の前記粒子を収容しないウェルの覆蓋部は、当該ウェルの開封後に再度覆蓋可能な粘着乃至接着加工がされてなることを特徴とする請求項1に記載のマルチウェルプレート。
【請求項3】
前記マルチウェルプレート用蓋部材は、前記複数のウェルのうち近接するウェル間に設けられるミシン目と、
前記マルチウェルプレート用蓋部材の端部から突設した突出部と、を有する請求項1または2に記載のマルチウェルプレート。
【請求項4】
前記粒子が、少なくとも特定の塩基配列を含むDNAである請求項1から3のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
【請求項5】
前記特定の塩基配列を有するDNAのコピー数が、計数された既知数である請求項4に記載のマルチウェルプレート。
【請求項6】
前記粒子が、少なくとも細胞である請求項1から3のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
【請求項7】
前記細胞の数が、計数された既知数である請求項6に記載のマルチウェルプレート。
【請求項8】
1個のウェル毎に開封可能である請求項3から7のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
【請求項9】
前記マルチウェルプレートの長さ方向のウェル列及び前記マルチウェルプレートの幅方向のウェル列の少なくともいずれかのウェル列毎に開封可能である請求項3から8のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
【請求項10】
前記突出部が、前記マルチウェルプレートの長さ方向端部及び前記マルチウェルプレートの幅方向端部の少なくともいずれかに沿って突設されている請求項3に記載のマルチウェルプレート。
【請求項11】
前記マルチウェルプレート用蓋部材が、エラストマー製である請求項1から10のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
【請求項12】
前記マルチウェルプレート用蓋部材のウェル側の表面が、撥水性材料で撥水処理されている請求項1から11のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のマルチウェルプレートと、
前記マルチウェルプレート用蓋部材のマルチウェルプレートと対向する面とは反対の面側に設けられる被覆シートと、を備え、
前記蓋部材は、マルチウェルプレートに対向する面の前記接着強度が、該被覆シートの粘着力よりも粘度が高いもしくは接着強度が強い領域を有することを特徴とするマルチウェルプレートセット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチウェルプレート用蓋部材及びマルチウェルプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの分野などでは、マルチウェルプレートを用いた検査や分析、保存などが行われている。
例えば、マルチウェルプレートと被覆シートとの間にエラストマー製の内蓋を設けたマルチウェルプレートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、試料を収容する格納体を一個ずつ又は複数個毎に区分できるように分割線が設けられたシートを有する容器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、他の試みとしては、マルチウェルプレートを繰り返し密封と開封を繰り返す際の形状と機構を有するマルチウェルプレートカバーが提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0003】
しかし、これらの手法では、コンタミネーションをある程度は防ぐことが可能であるが、校正用途などで既知のコピー数の粒子が収容されているウェルへのコンタミネーションを完全に防止することは難しい。例えば、既知のコピー数の粒子が収容されているウェルプレートをユーザーが使用する際に、当該ウェルの蓋を誤って開封してしまうことによるコンタミネーションを防止することはできないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、マルチウェルプレートにおける既知のコピー数の粒子を収容したウェルの誤使用を防止でき、マルチウェルプレートにおける一部のウェルの使用が可能となるマルチウェルプレート用蓋部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段としての本発明のマルチウェルプレートは、複数のウェルが形成されたマルチウェルプレート、前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材とを備え、該マルチウェルプレート用蓋部材の一方の面に、前記マルチウェルプレートに対する接着強度が異なる2以上の領域を有し、
前記マルチウェルプレートの複数のウェルは、粒子を収容したウェルと、粒子を収容しないウェルとからなり、
粒子を収容したウェルの覆蓋部における接着強度が、粒子を収容しないウェルの覆蓋部における接着強度よりも大きい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、マルチウェルプレートにおける既知のコピー数の粒子を収容したウェルの誤使用を防止でき、マルチウェルプレートにおける一部のウェルの使用が可能となるマルチウェルプレート用蓋部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1Aは、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの一例を示す平面図である。
図1B図1Bは、図1Aの側面図である。
図1C図1Cは、図1Aにおいて、マルチウェルプレート用蓋部材上に被覆シートを設けた状態を示す側面図である。
図1D図1Dは、図1CのX部分の拡大図である。
図2図2は、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図3図3は、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図4図4は、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図5図5は、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図6図6は、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図7図7は、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図8A図8Aは、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示し、ウェル間部位に粘着材料を粘着加工した状態を示す平面図である。
図8B図8Bは、図8Aの部分拡大側面図である。
図9A図9Aは、剥がし治具を用いて、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす状態の一例を示す側面図である。
図9B図9Bは、図9Aの平面図である。
図10図10は、剥がし治具を用いて、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がして、ウェルを開封する状態の他の一例を示す側面図である。
図11図11は、剥がし治具を用いて、マルチウェルプレート用蓋部材の任意のウェル列のみを剥がす状態の他の一例を示す平面図である。
図12図12(A)から(C)は、マルチウェルプレート用蓋部材を凸状部材で押し付けることにより凸形状となったマルチウェルプレート用蓋部材でウェルを覆蓋する方法を示す概略図である。
図13A図13Aは、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの他の一例を示す平面図である。
図13B図13Bは、図13AのY部分の部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(マルチウェルプレート用蓋部材)
本発明のマルチウェルプレート用蓋部材は、複数のウェルが形成されたマルチウェルプレートの、前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材であって、一方の面に、前記マルチウェルプレートに対する接着強度が異なる2以上の領域を有する。
粒子を収容したウェルの覆蓋部における接着強度が、それ以外のウェルの覆蓋部における接着強度よりも大きいことが好ましい。
接着強度は、例えば、引張試験機を用いた剥離試験など、公知の方法により測定することができる。
【0009】
本発明においては、複数のウェルのうち、粒子を収容したウェルが密封され、粒子を収容していないウェルが開封可能である。これにより、マルチウェルプレートの既知のコピー数の粒子が収容されているウェルについて誤使用を防止でき、マルチウェルプレートの一部のウェルの使用が可能となる。
【0010】
本発明のマルチウェルプレート用蓋部材は、従来のマルチウェルプレートでは、被覆シートを用いて覆蓋する場合、マルチウェルプレートの複数のウェルをすべて使用する場合には、問題はないが、マルチウェルプレートの一部のウェルを使用する場合には、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がし難く(開封し難く)、剥がす(開封する)際の振動でウェル内の内容物にコンタミネーションが発生するおそれがあり、マルチウェルプレートの一部のウェルを使用することが困難であるという知見に基づくものである。
また、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材は、従来のマルチウェルプレートと被覆シートとの間にエラストマー製の内蓋を配した技術では、マルチウェルプレートとエラストマー製の内蓋が密着して、容易に剥がす(開封する)ことが困難であるという知見に基づくものである。
更に、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材は、作製したマルチウェルプレートを冷凍保存する場合には、マルチウェルプレートと内蓋とがより密着してしまい、内蓋を剥がしづらくなってしまうという知見に基づくものである。
また、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材は、従来の分割線が設けられたシートを有する容器では、分割線を有するシートがエラストマー製ではないため、マルチウェルプレートとの密着性が十分ではなく、シートに分割線を設けただけでは、ウェル毎やウェル列毎にシートを剥がすことは容易ではないという知見に基づくものである。
更に、従来の被覆シートにより容器を密封する方法では、被覆シートを剥がして試薬を分注する際に、被覆シートをすべて剥がして全てのウェルを露出させるため、試薬を入れるウェルと試薬を入れないウェルとの取違いが生じ易く、この場合PCR法を用いた増幅反応による検査等において、既知のコピー数が含まれるウェルについては、被覆シートを剥がす必要がないという知見に基づくものである。
【0011】
<マルチウェルプレート用蓋部材>
マルチウェルプレートの複数のウェルをそれぞれ覆蓋するマルチウェルプレート用蓋部材としては、ミシン目と、粘着乃至接着部材とを有し、突出部を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0012】
マルチウェルプレート用蓋部材としては、その材質、形状、大きさ、構造などについて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
マルチウェルプレート用蓋部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エラストマーが好ましい。
エラストマーは、耐薬品性に優れており、蓋部材としての密閉性も良好であり、被覆シートのように粘着剤を用いて、マルチウェルプレートに貼り付けずに使用することも可能である。
エラストマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種熱可塑性エラストマー、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ブチルゴムエチレン-プロピレンゴム等の合成ゴムや天然ゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、マルチウェルプレート用蓋部材の材質として、透明性のある素材であれば、密閉後でもウェル内の観察(例えば、蛍光強度の確認など)ができるという利点がある。
更に、通常、試薬分注ではピペットを用いているが、マルチウェルプレート用蓋部材の材質として、自己修復機能を持つ樹脂を用い、マルチウェルプレート用蓋部材に対し注射器等を用いて針をウェル内に挿入させて状態で試薬分注することもできる。これにより、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がすことなく試薬分注することも可能になる。
【0013】
マルチウェルプレート用蓋部材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シート状、プレート状などが挙げられる。
マルチウェルプレート用蓋部材の平均厚みは、0.5mm以上3mm以下であることが好ましい。この平均厚みの範囲において、十分な弾性を発揮し得、密封性が良好となる。
マルチウェルプレート用蓋部材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造であっても複数層構造であっても構わない。
【0014】
マルチウェルプレート用蓋部材のウェル側の表面は、撥水性材料で撥水処理されていることが好ましい。これにより、分注された液や細胞などのマルチウェルプレート用蓋部材への付着を防止できる。
撥水性材料としては、例えば、フッ素樹脂などが挙げられる。
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
<ミシン目>
マルチウェルプレート用蓋部材は、複数のウェルのうち近接するウェル間に設けられるミシン目を有する。ミシン目は、切断線、分割線と称することもある。
ミシン目のピッチや大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、剥がし治具等を用いる場合、ミシン目の大きさを0.1mm以上0.4mm以下にすることが好ましい。
剥がし治具等を使用せず、手作業で切断する場合には、ミシン目の大きさが2mm以上3mm以下程度であると、マルチウェルプレート用蓋部材の切断が容易になる。
ミシン目のピッチとしては、上記ミシン目の大きさとほぼ同等のピッチにすることが好ましい。
ウェル毎にマルチウェルプレート用蓋部材を剥がせることが好ましい。これにより、個々のウェルを独立に使用できる点から好ましい。
マルチウェルプレートの長さ方向のウェル列及びマルチウェルプレートの幅方向のウェル列の少なくともいずれかのウェル列毎にマルチウェルプレート用蓋部材を剥がすことが好ましい。これにより、ウェル列毎に剥がして使用することが可能となる。
【0016】
<突出部>
突出部は、マルチウェルプレート用蓋部材の端部から突設した部であり、その材質、形状、大きさ、構造などについて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
突出部の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、マルチウェルプレート用蓋部材と異なる材質(エラストマー)であれば、シートを剥がす際に突出部をつかみやすいなどの利点が生じる。一方で、同じ材質(エラストマー)であれば、マルチウェルプレート用蓋部材の成形が容易であるため、コスト面で有利である。
突出部の形状としては、指又は剥がし治具で掴みやすい形状が好ましく、例えば、三角形、矩形、長方形、円形、楕円形、半円形などが挙げられる。
突出部の大きさ及び構造については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
マルチウェルプレート用蓋部材が突出部を有することにより、突出部を指又は剥がし治具で掴んで、1個のウェル毎又はウェル列毎にマルチウェルプレート用蓋部材を容易に剥がすことができる。
突出部は、マルチウェルプレートの長さ方向端部、及びマルチウェルプレートの幅方向端部の少なくともいずれかに沿って設けられていることが好ましい。
【0017】
<粘着乃至接着部材>
粘着乃至接着部材としては、マルチウェルプレートとマルチウェルプレート用蓋部材とを接着することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす必要がないウェルにおけるマルチウェルプレート用蓋部材が当接するウェル間部位に粘着乃至接着材料を付与することにより形成することが好ましい。
粘着乃至接着材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロジン誘導体、テルペン系樹脂、石油系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂等の粘着剤などが挙げられる。
【0018】
本発明のマルチウェルプレート用蓋部材を凸状部材で押し付けて形成した凸形状のマルチウェルプレート用蓋部材で複数のウェルを覆蓋する構成とすることもできる。これにより、ウェルの容積が減じる方向となり、ウェルに分注された試薬の量がウェルの容積より少ない場合、マルチウェルプレートを輸送中に分注された液の移動を制限することができ、分注された液中の細胞などがウェルの上部に付着することを防ぐことができる。また、分注後に冷凍し輸送する場合においては、ウェル内の液移動を制限することができ、分注された液へのダメージを抑制することができる。
なお、凸状部材を除去すると、マルチウェルプレート用蓋部材は、凸形状からシート状に復元し、上述したマルチウェルプレート用蓋部材の使用が可能となる。
【0019】
(マルチウェルプレート)
本発明のマルチウェルプレートは、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材で複数のウェルが覆蓋されており、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0020】
マルチウェルプレートは、複数のウェルが形成された板状の部材である。
マルチウェルプレートとしては、その材質、形状、大きさ、構造などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
マルチウェルプレートの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、半導体、セラミックス、金属、ガラス、石英ガラス、プラスチックスなどが挙げられる。これらの中でも、プラスチックスが好ましい。
プラスチックスとしては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
【0021】
マルチウェルプレートの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、板状、プレート状などが好ましい。
マルチウェルプレートの構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造であっても複数層構造であっても構わない。
マルチウェルプレートに設けるウェルの数は、複数であり、2つ以上が好ましく、5つ以上がより好ましく、具体的には、ウェルの数が24個、48個、96個、又は384個のマルチウェルプレートが用いられる。
【0022】
ウェルの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平底、丸底、U底、V底などが挙げられる。
【0023】
本発明のマルチウェルプレートにおいては、複数のウェル内に粒子が収容されることが好ましい。
【0024】
粒子としては、例えば、細胞、ヌクレオチドを構成成分として含む物質、アミノ酸を構成成分として含む物質、無機微粒子、有機ポリマー粒子などが挙げられる。これらの中でも、(1)細胞、(2)ヌクレオチドを構成成分として含む物質、(3)アミノ酸を構成成分として含む物質が好ましい。
【0025】
(1)細胞としては、その種類等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、分類学的に、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞を問わず、すべての細胞について使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞壁を有しており、取扱いやすい微生物が好ましい。微生物とは、自然界に存在する未知及び既知のあらゆる微小な生物を意味し、細菌、真菌、原虫、ウイルスなどを包含する意味である。
真核細胞としては、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、動物細胞が好ましい。
動物細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分化した細胞、未分化の細胞などが挙げられる。
分化した細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞;星細胞;クッパー細胞;血管内皮細胞;類道内皮細胞、角膜内皮細胞等の内皮細胞;繊維芽細胞;骨芽細胞;砕骨細胞;歯根膜由来細胞;表皮角化細胞等の表皮細胞;気管上皮細胞;消化管上皮細胞;子宮頸部上皮細胞;角膜上皮細胞等の上皮細胞;乳腺細胞;ペリサイト;平滑筋細胞、心筋細胞等の筋細胞;腎細胞;膵ランゲルハンス島細胞;末梢神経細胞、視神経細胞等の神経細胞;軟骨細胞;骨細胞などが挙げられる。動物細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、又はそれらを何代か継代させたものでもよい。これらの中でも、繊維芽細胞、子宮頸部上皮細胞が好ましい。
未分化の細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞;単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞;iPS細胞などが挙げられる。
真菌としては、例えば、カビ、酵母などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酵母がより好ましい。
原核細胞としては、例えば、真正細菌、古細菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(2)ヌクレオチドを構成成分として含む物質としては、リボヌクレオチドを構成成分とするRNA(リボ核酸)、デオキシリボヌクレオチドを構成成分とするDNA(デオキシリボ核酸)等の核酸、これら核酸の断片、あるいはこれら核酸又はその断片のアナログなどが挙げられる。
これらは、長さや一本鎖及び二本鎖の別を問わず、例えば、プライマー、プローブ、siRNAs(small interfering RNAs)などとして使用される比較的短鎖のオリゴ又はポリヌクレオチド;遺伝子(mRNAも含まれる)やプラスミドなどの長鎖のポリヌクレオチドなどが挙げられる。
核酸又は核酸断片のアナログとしては、核酸又は核酸断片に非核酸成分を結合させたもの、核酸又は核酸断片を蛍光色素や同位元素等の標識剤で標識したもの(例えば、蛍光色素や放射線同位体で標識されたプライマーやプローブ)、核酸又は核酸断片を構成するヌクレオチドの一部の化学構造を変化させたもの(例えば、ペプチド核酸など)などが挙げられる。これらは、生物から得られる天然物であっても又はそれらの加工物であってもよく、或いは、遺伝子組換技術を利用して製造されたものでも、また化学的に合成されたものでもよい。
【0027】
(3)アミノ酸を構成成分として含む物質としては、アミノ酸を構成成分とするペプチド、蛋白質、又はこれらの誘導体などが挙げられる。ペプチドや蛋白質を構成するアミノ酸の種類、蛋白質の立体構造については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
蛋白質には、アミノ酸のみから構成される単純蛋白質、単純蛋白質に非タンパク物質が結合した複合蛋白質、複数個の単純蛋白質及び複合蛋白質がサブユニットとして会合した高分子物質などが挙げられる。単純蛋白質としては、例えば、アルブミン、グロブリン、プロラミン、グルテリン、ヒストン、プロタミン、硬タンパク質などが挙げられる。複合蛋白質としては、例えば、ヘモグロビン等の色素蛋白質、糖質と結合した糖蛋白質、脂質と結合したリポ蛋白質、核酸と結合した核蛋白質、リンと結合したリン蛋白質、金属と結合した金属蛋白質などが挙げられる。
蛋白質の種類については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分子の形状により分類される繊維状タンパク質(例えば、ケラチン、コラーゲン、フィブロイン等)や球状タンパク質;局在性により分類される細胞内タンパク質、膜タンパク質、分泌タンパク質、血液タンパク質;機能により分類される酵素タンパク質、ホルモンタンパク質、受容体タンパク質、免疫タンパク質(抗体など)、分子量マーカー蛋白質などが挙げられる。
蛋白質の誘導体には、単純蛋白質や複合蛋白質が一部分加水分解を受けたもの、熱により凝固したもの(凝固蛋白質)、上記蛋白質に非蛋白物質を結合させたもの(例えば、蛋白質を蛍光色素や同位元素等で標識したもの)、アミノ酸残基の側鎖の化学構造を変化させたものなどが含まれる。また、ペプチドの誘導体には、ペプチドに非ペプチドを結合させたもの(例えば、ペプチドを蛍光色素や同位元素等で標識したもの)、アミノ酸残基の側鎖の化学構造を変化させたものなどが挙げられる。具体例としては、例えば、抗体と酵素を化学的に架橋して得られる抗体酵素複合体(例えば、抗ジゴケシゲニン(DIG)-アルカリフォスファターゼ(AP)結合抗体)や抗体蛍光色素複合体などが挙げられる。 これらの蛋白質、ペプチド又はこれらの誘導体は、生物から得られる天然物又はそれらの加工物であってもよく、或いは、遺伝子組換技術を利用して製造されたものでも、また化学的に合成されたものでもよい。これらの中でも、抗体、酵素、血液蛋白質、分子量マーカー蛋白質、抗体酵素複合体、抗体蛍光色素複合体を好適に例示することができる。
【0028】
これらの粒子の中でも、細胞、特定の塩基配列を有するDNAが特に好ましい。
【0029】
複数のウェル内に収容される粒子が、少なくとも細胞であり、複数のウェル内に収容される細胞の数が、計数された既知数であることが好ましい。
【0030】
複数のウェル内に収容される粒子が、少なくとも特定の塩基配列を有するDNAであり、複数のウェル内に収容される特定の塩基配列を有するDNAのコピー数が、計数された既知数であることが好ましい。
【0031】
マルチウェルプレート内の特定のウェルに既知のコピー数であるDNAの入った細胞などを収容することができる。この目的としては、例えば、PCR法によるDNA増幅検査における、LOD(limit of detection)を検出する際に用いられる。この既知コピー数であるDNAの入った細胞が収容されているウェルについては、該当するウェルの被覆シートを剥がす必要がないため、後述する粘着乃至接着加工により粘着乃至接着させることで、必要なウェルの取違いや、該当ウェルのコンタミネーションを防止することができる。
【0032】
なお、既知コピー数とは既定の分子数のことであり、既定の分子数とは、この場合ウェル内に含まれる核酸のコピー数を意味する。
【0033】
-核酸-
核酸は、特定の塩基配列を有することが好ましい。核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNAなどが挙げられる。
特定の塩基配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、感染症検査に用いられる塩基配列、自然界には存在しない塩基配列、動物細胞由来の塩基配列、植物細胞由来の塩基配列などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
核酸は、担体に担持された状態で扱うことが好ましい、担体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞、樹脂などが挙げられる。
細胞としては、遺伝子導入を行うことができる細胞であれば特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、前述の細胞種を問わず使用することができる。
【0034】
-粘着乃至接着加工-
マルチウェルプレートは、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす必要がないウェル(例えば、試薬分注が必要でないウェルや前述した既知コピー数のDNAを持つ細胞が入ったウェルなど)に対しては、マルチウェルプレート用蓋部材が容易に開封しない(剥がれない)ように、該当するウェルにおける前記マルチウェルプレート用蓋部材が当接するウェル間部位を、粘着乃至接着材料で粘着乃至接着加工することが好ましい。
マルチウェルプレート用蓋部材のミシン目とウェルの粘着乃至接着加工とにより、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がした際に、試薬分注が必要でないウェルをマルチウェルプレート用蓋部材で覆蓋された状態にすることができ、試薬分注の際の試薬の入れ間違いを防止することが可能となる。
粘着乃至接着加工は、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす必要がないウェルにおける前記マルチウェルプレート用蓋部材が当接するウェル間部位に粘着乃至接着材料を付与することにより行うことができる。
粘着乃至接着材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロジン誘導体、テルペン系樹脂、石油系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂等の粘着剤などが挙げられる。
【0035】
<その他の部材>
その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、被覆シートなどが挙げられる。
【0036】
-被覆シート-
被覆シートとしては、その材質、形状、大きさ、構造などについて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
被覆シートの材質としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
被覆シートは、マルチウェルプレート用蓋部材よりも一回り大きく、マルチウェルプレートの外枠の内側に位置するような大きさであることが好ましい。被覆シートをマルチウェルプレートに貼り付けるための粘着剤はマルチウェルプレート用蓋部材よりも外側に塗布されており、そうすることで被覆シートがマルチウェルプレート用蓋部材に貼りつくことなく、マルチウェルプレートに被覆シートを貼付けることができる。
以上のような構成にすることで、マルチウェルプレート使用時に、マルチウェルプレート用蓋部材に影響なく、被覆シートを剥がすことができる。
【0037】
本発明のマルチウェルプレートを使用する場合には、まず、被覆シートを剥がした後、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がして使用する。マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす際には、突出部を一の指で掴み、他の指で使用しないマルチウェルプレート用蓋部材を押さえ、対象部分のマルチウェルプレート用蓋部材をミシン目に沿って剥がして使用する。
また、マルチウェルプレート用蓋部材を一時的に剥がし、露出したウェルに処理を行った後、再度、剥がしたマルチウェルプレート用蓋部材を使用することもできる。
マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす際には、剥がし治具を用いることもできる。剥がし治具は、剥がし機構と、スライド機構と、押さえ部材とを有する。
剥がし治具を用いることにより、非剥がし対象のウェルを覆蓋するマルチウェルプレート用蓋部材を押さえ部材で押さえながら、剥がし機構をスライド機構によりスライドさせて剥がし対象のウェルを覆蓋するマルチウェルプレート用蓋部材を効率よく容易に剥がすことができる。
【0038】
本発明のマルチウェルプレートは、バイオ関連産業、ライフサイエンス産業、及び医療産業等において幅広く使用され、例えば、PCRプレート、細胞培養プレート、校正用標準プレートなどに好適に用いられる。
【0039】
(マルチウェルプレート用蓋セット)
本発明のマルチウェルプレート用蓋セットは、複数のウェルが形成されたマルチウェルプレートの、前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材と、
前記マルチウェルプレート用蓋部材のマルチウェルプレートと対向する面とは反対の面側に設けられる被覆シートと、を備え、
前記蓋部材は、マルチウェルプレートに対向する面に、該被覆シートの粘着力よりも粘度が高いもしくは接着強度が強い領域を有する。
マルチウェルプレート用蓋部材としては、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材が用いられる。
被覆シートとしては、本発明のマルチウェルプレートにおける被覆シートと同様なものが用いられる。
【0040】
ここで、本発明のマルチウェルプレート用蓋部材及びマルチウェルプレートの実施形態の一例について図面を参照して説明する。
なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0041】
<第1の実施形態>
図1Aは、本発明の第1実施形態のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの一例を示す説明図である。
図1Bは、図1Aの側面図であり、図1Cは、図1Bにおいて被覆シートを設けた場合の側面図である。図1Dは、図1CのX部分の拡大図である。
このマルチウェルプレート用蓋部材2は、マルチウェルプレート1に設けられたすべてのウェル3を覆うことができる大きさのシート状部材であり、ミシン目5と、突出部4とを有している。
マルチウェルプレート1は、96個のウェル3が設けられた80mm×120mmの大きさのポリプロピレン樹脂製のプレートである。
なお、図1Aから図1Cでは、96個のマルチウェルプレートについて説明しているが、ウェルの数が24個、48個、96個、又は384個のマルチウェルプレートについても同様に適用することができる。
【0042】
マルチウェルプレート用蓋部材2は、エラストマー(シリコーンゴムシート、信越ポリマー株式会社製、BAグレード)であり、平均厚みは2mmである。
突出部4は、マルチウェルプレート用蓋部材2の端部から突設されており、図1A図2、及び図3に示すように、マルチウェルプレートの長さ方向端部及びマルチウェルプレートの幅方向端部の少なくともいずれかに沿って突設することができる。
突出部4は、三角形状であり、マルチウェルプレート用蓋部材2と同じ材質で一体に形成されている。なお、図6に示すように長方形状の突出部4、図7に示す半円形の突出部4とすることもできる。
【0043】
図1Aに示すように、ウェル3を囲むようにミシン目5を設けており、1個のウェル毎にマルチウェルプレート用蓋部材を剥がせるようにしている。これにより、所望のウェルを任意に使用できる点から好ましい。
また、図4及び図5に示すように、マルチウェルプレートの長さ方向のウェル列及びマルチウェルプレートの幅方向のウェル列の少なくともいずれかのウェル列毎にマルチウェルプレート用蓋部材を開封する(剥がす)ことができるように、各列の分断用のミシン目5を設けることが好ましい。これにより、ウェル列毎に剥がして使用することが可能となる。
ミシン目のピッチや大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、剥がし治具等を用いる場合、ミシン目の大きさを0.1mm以上0.4mm以下にすることが好ましい。
剥がし治具等を使用せず、手作業で切断する場合には2mm以上3mm以下程度であると、マルチウェルプレート用蓋部材の切断が容易になる。
ミシン目のピッチとしては、上記ミシン目の大きさとほぼ同等のピッチにすることが好ましい。
【0044】
被覆シート6としては、PCR用粘着プレートシール(日本ジェネティクス株式会社製)を用いる。
図1C及び図1Dに示すように、マルチウェルプレート用蓋部材2は、被覆シート6よりも一回り小さく、マルチウェルプレート1の外枠の内側に位置するような大きさに設けられている。これにより、被覆シート6をマルチウェルプレート1に貼り付けるための粘着剤はマルチウェルプレート用蓋部材2よりも外側の部分6aに塗布されているので、被覆シート6がマルチウェルプレート用蓋部材2に貼り付くことなく、マルチウェルプレート1に被覆シート6を貼付けることができる。
以上のような構成にすることで、ウェルプレートの使用時に、マルチウェルプレート用蓋部材2への影響なく、被覆シート6を容易に剥がすことができる。
【0045】
<第1Aの実施形態>
図8Aは、本発明の第1Aの実施形態のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの一例を示す説明図であり、図8Bは、その部分拡大側面図である。なお、図8Aでは、突出部がない構成で記載しているが、突出部を設けてもよい。
図8A及び図8Bで示したように、マルチウェルプレート用蓋部材を開封する必要がないウェル(例えば、試薬分注が必要でないウェル)に対して、マルチウェルプレート用蓋部材が当接するウェル間部位31に対向するマルチウェルプレート用蓋部材の面に、粘着材料(アクリルエマルション系粘着剤、サイビノール、サイデン化学株式会社製)を塗布している。塗布した後、ミシン目が施された蓋部材でシーリングする。これらにより、試薬分注が必要でないウェルにおけるマルチウェルプレート用蓋部材が当接するウェル間部位31は粘着材料により剥がし難くなるので、試薬分注の際の試薬の入れ間違いを防止することが可能となる。
試薬分注が必要でないウェルの位置については、図8Aに示したような一列だけでなく、任意に選択することができる。また、図8A及び図8Bに示したようなミシン目5形状とすることで、ウェル間部位31をより剥がし難くすることができるので、試薬分注の際の試薬の入れ間違いをより確実に防止することが可能となる。
粘着材料を塗布した表面部位以外の部位については、第1の実施形態と何ら変わりはなくマルチウェルプレート用蓋部材を容易に剥がすことができる。
粘着材料を、図8Bに示すように、ウェル3の縁よりも外側のウェル間部位31に対応する蓋部材の面側に塗布することにより、ウェル間部位31をより剥がし難くすることができるので、試薬分注の際の試薬の入れ間違いをより確実に防止することが可能となる。
試薬分注の入れ間違いを防止する目的として、既知コピー数であるDNAをもつ細胞等が入ったウェルについてマルチウェルプレート用蓋部材は剥がす必要がない。本実施例の構成により、マルチウェルプレート用蓋部材が剥がし難くなり、ウェルの取違いを確実に防止することが可能となる。更に、既知コピー数であるDNAを持つ細胞等が入ったウェルに色付けや目印を付けることで剥がせないことが明確に視覚化できることから望ましい。
なお、マルチウェルプレート用蓋部材は、プレート上のウェル全てを覆う構成としてもよいし、プレート上の特定ウェル(例えば、既知コピー数であるDNAを持つ細胞等が入ったウェル)を覆い、その他のウェルは覆わない構成とするとしても構わない。
本実施例では、マルチウェルプレート用蓋部材の側に粘着材料を塗布してなるマルチウェルプレート用蓋部材とすることで、マルチウェルプレートに貼り付けた際に、剥がす必要のないウェルを剥がしがたくし、間違いをより確実に防止することが可能となる。
なお、マルチウェルプレート用蓋部材付きマルチウェルプレートとする場合は、上記に限定されず、マルチウェルプレートの非剥がし対象のウェルの周囲部分(且つ隣接ウェル間)に粘着部材や接着部材を設ける構成としてもよい。
【0046】
<第2の実施形態>
図9A及び図9Bに示すように、剥がし機構11と、スライド機構13と、押さえ部材12とを有する剥がし治具10を用いて、非剥がし対象ウェルの箇所を覆蓋するマルチウェルプレート用蓋部材2を、押さえ部材12で押さえながら、剥がし機構11をスライド機構13でスライドさせることにより、剥がし対象ウェルを覆蓋しているマルチウェルプレート用蓋部材2を剥がすことができる。
この際、図10に示すように、マルチウェルプレート用蓋部材2の端部の突出部4を剥がし治具10の剥がし機構11に固定することにより、更に、マルチウェルプレート用蓋部材を容易に剥がすことができる。
また、マルチウェルプレート用蓋部材2を剥がしてしまうのではなく、剥がし治具10を用いて一時的にウェル3を開封することができる。これにより、マルチウェルプレートの半分毎に別々の試薬を入れるなどの用途で、ウェル3を開封後に再度マルチウェルプレート用蓋部材を使用することもできる。この際にも、マルチウェルプレート用蓋部材2がミシン目を有することで、一時的に容易に開封することができる。
また、図11に示すように、剥がし治具10を用いて、スライド機構13をスライドさせることによりマルチウェルプレート用蓋部材2の任意のウェル列のみを剥がすことができる。これにより、マルチウェルプレートの任意のウェル列のみを使用したい場合に、そのウェル列のみのマルチウェルプレート用蓋部材2を容易に剥がすことができる。なお、図11中の符号14は、第2の押さえ部材14である。
なお、第2の実施形態において、既に説明した第1の実施の形態と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0047】
<第3の実施形態>
図12(A)から図12(C)に示すように、マルチウェルプレート用蓋部材2を凸状部材20で押し付けて形成した凸形状のマルチウェルプレート用蓋部材で複数のウェル3を覆蓋することができる。
凸状部材20をマルチウェルプレート用蓋部材2に押し付けることによって、マルチウェルプレート用蓋部材が変形し、ウェルの容積が減じる方向となり、ウェルに分注された試薬の量がウェルの容積より少ない場合、マルチウェルプレートを輸送中に分注された液の移動を制限することができ、分注された液中の細胞などがウェルの上部に付着することを防ぐことができる。また、分注後に冷凍し輸送する場合においては、ウェル内の液移動を制限することができ、分注された液へのダメージを抑制することができる。
凸状部材20を除去すると、マルチウェルプレート用蓋部材2は、凸形状からシート状に復元し、第1の実施形態で説明した使用が可能となる。
この第3の実施形態で使用するマルチウェルプレート用蓋部材の材質は、大きな変形が可能であり、かつ復元性のあるゴム系の弾性体であることが好ましい。
凸状部材の材質については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、第3の実施形態において、既に説明した第1の実施の形態と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0048】
<第4の実施形態>
図13Aは、本発明の第4の実施形態のマルチウェルプレート用蓋部材を有するマルチウェルプレートの一例を示す説明図であり、図13Bは、Y部分の部分拡大平面図である。なお、図13Aでは、突出部の記載を省略している。
図13A及び図13Bで示したように、マルチウェルプレート用蓋部材に設けたミシン目5の形状をウェル3の孔径よりもわずかに大きい円形状とした。これにより、任意の特定のウェルに試薬を入れない場合に、マルチウェルプレート用蓋部材とプレートを粘着剤で接着するが、その後、マルチウェルプレート用蓋部材を剥がす際に、任意のウェル上以外のマルチウェルプレート用蓋部材部分を残しやすくすることができ、より剥がしやすくなるという利点がある。
隣接する円形状のミシン目5は、連結部30により結合していることが、複数のウェルからマルチウェルプレート用蓋部材を一度に剥がす際に便利である。
なお、第4の実施形態において、既に説明した第1の実施の形態と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0049】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 複数のウェルが形成されたマルチウェルプレートの、前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材であって、
一方の面に、マルチウェルプレートに対する接着強度が異なる2以上の領域を有する、ことを特徴とするマルチウェルプレート用蓋部材である。
<2> 粒子を収容したウェルの覆蓋部における接着強度が、それ以外のウェルの覆蓋部における接着強度よりも大きい前記<1>に記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<3> 前記複数のウェルのうち近接するウェル間に設けられるミシン目と、
前記マルチウェルプレート用蓋部材の端部から突設した突出部と、を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<4> 前記粒子が、少なくとも特定の塩基配列を有するDNAである前記<2>から<3>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<5> 前記特定の塩基配列を有するDNAのコピー数が、計数された既知数である前記<4>に記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<6> 前記粒子が、少なくとも細胞である前記<2>から<5>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<7> 前記細胞の数が、計数された既知数である前記<6>に記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<8> 複数のウェルが形成されたマルチウェルプレートの前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材であって、
前記複数のウェルのうち近接するウェル間に設けられるミシン目と、
前記マルチウェルプレートと前記マルチウェルプレート用蓋部材とを接着するための粘着乃至接着部材と、
を有することを特徴とするマルチウェルプレート用蓋部材である。
<9> 前記マルチウェルプレート用蓋部材の端部から突設した突出部を有する前記<8>に記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<10> 1個のウェル毎に開封可能である前記<8>から<9>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<11> 前記マルチウェルプレートの長さ方向のウェル列及び前記マルチウェルプレートの幅方向のウェル列の少なくともいずれかのウェル列毎に開封可能である前記<8>から<10>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<12> 前記突出部が、前記マルチウェルプレートの長さ方向端部及び前記マルチウェルプレートの幅方向端部の少なくともいずれかに沿って突設されている前記<3>から<7>及び<9>から<11>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<13> 前記マルチウェルプレート用蓋部材が、エラストマー製である前記<1>から<12>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<14> 前記マルチウェルプレート用蓋部材のウェル側の表面が、撥水性材料で撥水処理されている前記<1>から<13>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<15> 剥がし治具により、粒子を収容したウェルを覆蓋するマルチウェルプレート用蓋部材を押さえながら、粒子を収容していないウェルを覆蓋するマルチウェルプレート用蓋部材を剥がして開封する前記<2>から<14>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<16> 前記マルチウェルプレート用蓋部材を凸状部材で押し付けて形成した凸形状のマルチウェルプレート用蓋部材で前記複数のウェルを覆蓋する前記<1>から<15>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材である。
<17> 複数のウェルが形成されたマルチウェルプレートの、前記複数のウェルを覆蓋するためのマルチウェルプレート用蓋部材と、
前記マルチウェルプレート用蓋部材のマルチウェルプレートと対向する面とは反対の面側に設けられる被覆シートと、を備え、
前記蓋部材は、マルチウェルプレートに対向する面に、該被覆シートの粘着力よりも粘度が高いもしくは接着強度が強い領域を有することを特徴とするマルチウェルプレート用蓋セットである。
<18> 前記<1>から<16>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材で複数のウェルが覆蓋されていることを特徴とするマルチウェルプレートである。
<19> 前記マルチウェルプレート用蓋部材上に被覆シートを有する前記<18>に記載のマルチウェルプレートである。
<20> 前記複数のウェル内に収容された粒子が、少なくとも細胞である前記<18>から<19>のいずれかに記載のマルチウェルプレートである。
<21> 前記細胞の数が、計数された既知数である前記<20>に記載のマルチウェルプレートである。
<22> 前記複数のウェル内に収容された粒子が、少なくとも特定の塩基配列を有するDNAである前記<20>から<21>のいずれかに記載のマルチウェルプレートである。
<23> 前記特定の塩基配列を有するDNAのコピー数が、計数された既知数である前記<22>に記載のマルチウェルプレートである。
<24> 前記複数のウェルの数が、24個、48個、96個、又は384個である前記<18>から<23>のいずれかに記載のマルチウェルプレートである。
【0050】
前記<1>から<16>のいずれかに記載のマルチウェルプレート用蓋部材、前記<17>に記載のマルチウェルプレート用蓋セット、及び前記<18>から<24>のいずれかに記載のマルチウェルプレートによると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 マルチウェルプレート
2 マルチウェルプレート用蓋部材
3 ウェル
4 突出部
5 ミシン目
6 被覆シート
10 剥がし治具
11 剥がし機構
12 押さえ部材
13 スライド機構
20 凸状部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【文献】特開2002-159284号公報
【文献】特許第4719892号公報
【文献】特開2003-149249号公報
【文献】特開2013-011576号公報
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B