IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7130947ポリエステル系粘着剤組成物、ポリエステル系粘着剤、粘着シート及び粘着剤層付き光学部材
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ポリエステル系粘着剤組成物、ポリエステル系粘着剤、粘着シート及び粘着剤層付き光学部材
(51)【国際特許分類】
   C09J 167/00 20060101AFI20220830BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220830BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20220830BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220830BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220830BHJP
   B32B 7/02 20190101ALI20220830BHJP
【FI】
C09J167/00
C09J11/06
C09J7/00
B32B27/00 M
B32B27/36
B32B7/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017232863
(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公開番号】P2018197333
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017102073
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健斗
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-001375(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033857(WO,A1)
【文献】特開2013-032424(JP,A)
【文献】特開2018-109150(JP,A)
【文献】特開2016-079243(JP,A)
【文献】特開2008-124238(JP,A)
【文献】特開2015-134906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 167/00
C09J 11/06
C09J 7/00
C09J 7/20
B32B 27/00
B32B 27/36
B32B 7/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂(I)と、加水分解抑制剤(II)を含有するポリエステル系粘着剤組成物であって、
前記ポリエステル系樹脂(I)のガラス転移温度が-15~+30℃であり、
前記ポリエステル系樹脂(I)の酸価が1mgKOH/g以下であり、
前記加水分解抑制剤(II)が、カルボジイミド基含有化合物であり、
前記加水分解抑制剤(II)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂(I)100質量部に対して0.01~3質量部であることを特徴とするポリエステル系粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂(I)が、芳香族ジカルボン酸(a1)の含有割合が50モル%以上の多価カルボン酸成分(A)と、側鎖に炭化水素基を有するジオール化合物(b1)を含有するポリオール成分(B)を含有して得られるポリエステル系樹脂であり、
前記芳香族ジカルボン酸(a1)全体に対するイソフタル酸の含有割合が60モル%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系粘着剤組成物。
【請求項3】
前記加水分解抑制剤(II)の重量平均分子量が、500以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系粘着剤組成物。
【請求項4】
さらに、架橋剤(III)を含有することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル系粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項に記載のポリエステル系粘着剤組成物が、架橋剤(III)により架橋されてなることを特徴とするポリエステル系粘着剤。
【請求項6】
請求項に記載のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。
【請求項7】
基材を有し、前記粘着剤層が前記基材の少なくとも片面側に設けられていることを特徴とする請求項に記載の粘着シート。
【請求項8】
基材を有しない基材レスタイプであることを特徴とする請求項に記載の粘着シート。
【請求項9】
光学部材の貼り合せに用いることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項10】
請求項に記載のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層及び光学部材を有することを特徴とする粘着剤層付き光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系粘着剤組成物、それを用いてなるポリエステル系粘着剤、粘着シート及び粘着剤層付き光学部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐久性及び機械的強度に優れているため、フィルム、ペットボトル、繊維、トナー、電機部品、接着剤、粘着剤等、幅広い用途で用いられているが、近年では、特に、光学部材を貼り合せる際の粘着剤としてポリエステル系粘着剤が用いられるようになっている。
【0003】
一方、近年、様々な分野で、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等の表示装置や、タッチパネル等の前記表示装置と組み合わせて用いられる入力装置が広く用いられるようになっており、これらの製造においては、光学フィルムや基材等の光学部材の貼り合せに、透明な粘着シート、例えば、基材レス両面粘着シートが使用されている。
【0004】
ここで、タッチパネル等の光学機器を構成する光学部材には透明基材が必要とされ、従来、ガラス製の保護カバーやガラス基板等のガラス基材が用いられてきたが、近年、耐衝撃性や軽量化の観点から、ガラス基材に替わり、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、(環状)オレフィン樹脂等のプラスチック基材が用いられるようになっている。
【0005】
しかしながら、このようなプラスチック基材を用いると、かかるプラスチック基材から発生するガスや水分によって、プラスチック基材と粘着剤層との間に発泡や剥離が生じ、視認性の低下を招くという問題があった。
【0006】
従って、光学部材の貼り合せに用いられる粘着剤においては、これらの発泡や剥離を抑制することができる性能(以下、耐ブリスター性という。)が要求されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、指圧程度の圧力で充分な接着力を発揮し、優れた粘着性、耐熱性、機械的強度を有する幅広い用途に展開可能なポリエステル系樹脂を含有してなる粘着剤として、芳香族ジカルボン酸10モル%以上50モル%未満を含むカルボン酸成分と、側鎖に炭化水素基を有するグリコール5モル%以上を含む多価アルコール成分とを重縮合してなり、かつ、数平均分子量が5000以上であるポリエステル系樹脂を含有する粘着剤が記載されており、光学部材用の粘着剤として用いることができることも記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、初期及び湿熱老化後のいずれにおいても優れた表面粘着性、粘着力、耐熱性、耐湿性、耐クリープ性等の諸特性を兼備すると共に、優れた接着剤層を形成し得る粘着剤組成物として、ガラス転移温度が-80~0℃の範囲である、側鎖に水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、芳香環構造を5~50mol%含有するポリエステル系樹脂、環式ジテルペン化合物及び前記樹脂中の水酸基及び/又はカルボキシル基と反応し得る反応性化合物を含むことを特徴とする感圧式接着剤組成物が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、耐久性(加温加湿保存性)、及び、粘着特性の両立を図ることができるポリエステル系粘着剤組成物として、ポリエステル、耐加水分解剤、粘着付与剤、及び、架橋剤を含有するポリエステル系粘着剤組成物であって、前記粘着付与剤の酸価が、8以下であり、前記粘着付与剤の軟化点が、80~170℃であり、前記ポリエステル100重量部に対して、前記粘着付与剤を20~100重量部含有することを特徴とするポリエステル系粘着剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-45914号公報
【文献】特開2009-7419号公報
【文献】特開2015-134906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されている粘着剤は、芳香族ジカルボン酸の含有量が少ない多価カルボン酸成分を使用したポリエステル系樹脂を用いるものであるため、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が低くなり、高温(特に80℃以上)での粘着力が低下する傾向があり、高温高湿条件下での耐ブリスター性に劣るものである。
【0012】
また、特許文献2においても、実際に開示されている粘着剤は、ガラス転移温度が低いポリエステル系樹脂を用いるものであり、高温高湿条件下における粘着力が十分なものではなく、市場で求められる高レベルの耐ブリスター性を得られるものではない。
【0013】
さらに、本発明者の検討によると、特許文献3に記載されているポリエステル系粘着剤組成物のガラス転移温度は-50℃程度であり、実際に開示されている粘着テープの粘着力は十分なものでなく、市場で求められる高レベルの耐ブリスター性を得られるものではない。
【0014】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高温高湿環境に曝された場合でも、高レベルの耐ブリスター性を有する粘着剤を得ることができるポリエステル系粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ポリエステル系粘着剤組成物において、一般的に粘着剤組成物に用いられる樹脂よりも高い特定範囲のガラス転移温度を有するポリエステル系樹脂及び加水分解抑制剤を用いることにより、非常に高レベルの耐ブリスター性を発揮する粘着剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は下記<1>~<12>に関するものである。
<1>ポリエステル系樹脂(I)と、加水分解抑制剤(II)を含有するポリエステル系粘着剤組成物であって、前記ポリエステル系樹脂(I)のガラス転移温度が-20~+30℃であることを特徴とするポリエステル系粘着剤組成物。
<2>前記ポリエステル系樹脂(I)が、芳香族ジカルボン酸(a1)の含有割合が50モル%以上の多価カルボン酸成分(A)と、側鎖に炭化水素基を有するジオール化合物(b1)を含有するポリオール成分(B)を含有して得られるポリエステル系樹脂であり、前記芳香族ジカルボン酸(a1)全体に対するイソフタル酸の含有割合が60モル%以上であることを特徴とする<1>に記載のポリエステル系粘着剤組成物。
<3>前記加水分解抑制剤(II)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂(I)100質量部に対して0.01~10質量部であることを特徴とする<1>または<2>に記載のポリエステル系粘着剤組成物。
<4>前記加水分解抑制剤(II)の重量平均分子量が、500以上であることを特徴とする<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリエステル系粘着剤組成物。
<5>前記加水分解抑制剤(II)が、カルボジイミド基含有化合物であることを特徴とする<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリエステル系粘着剤組成物。
<6>さらに、架橋剤(III)を含有することを特徴とする<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリエステル系粘着剤組成物。
<7><6>に記載のポリエステル系粘着剤組成物が、架橋剤(III)により架橋されてなることを特徴とするポリエステル系粘着剤。
<8><7>に記載のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。
<9>基材を有し、前記粘着剤層が前記基材の少なくとも片面側に設けられていることを特徴とする<8>に記載の粘着シート。
<10>基材を有しない基材レスタイプであることを特徴とする<8>に記載の粘着シート。
<11>光学部材の貼り合せに用いることを特徴とする<8>~<10>のいずれか1つに記載の粘着シート。
<12><7>に記載のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層及び光学部材を有することを特徴とする粘着剤層付き光学部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温高湿環境に曝された場合でも、高レベルの耐ブリスター性を有する粘着剤を得ることができるポリエステル系粘着剤組成物を提供することができる。
前記粘着剤は、光学部材の貼り合せ用途に好適に用いることができ、特には、プラスチック材料からなる光学部材の貼り合せに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
なお、本発明において、「カルボン酸」との用語は、カルボン酸に加えて、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸エステル等のカルボン酸の誘導体を含むものであり、これらカルボン酸の誘導体を「エステル形成性誘導体」と記載する。
なお、イソフタル酸等の具体的なカルボン酸についても同様である。
また、本発明において「シート」とは、シート、フィルム、テープを概念的に包含するものである。
【0019】
<ポリエステル系粘着剤組成物>
本発明のポリエステル系粘着剤組成物は、ポリエステル系樹脂(I)と、加水分解抑制剤(II)を含有するポリエステル系粘着剤組成物であって、前記ポリエステル系樹脂(I)のガラス転移温度が-20~+30℃である。
【0020】
[ポリエステル系樹脂(I)]
本発明で用いられるポリエステル系樹脂(I)は、ガラス転移温度が-20~+30℃であることが必要であり、好ましくは-15~+25℃、より好ましくは-10~+20℃、さらに好ましくは-8~+15℃、特に好ましくは-5~+10℃である。
【0021】
かかるガラス転移温度が上限値を超えると、ポリエステル系樹脂(I)の柔軟性が失われ、粘着剤の初期密着性(被着体との貼り合せ時の密着性)が低下し、指圧程度の圧力では充分な粘着力を発揮しにくくなるため、作業性が低下する。
また、かかるガラス転移温度が下限値より低いと、粘着剤の凝集力が低下し、浮き剥がれが生じやすくなるため、本発明の目的を達成することができない。
【0022】
上記ポリエステル系樹脂(I)のガラス転移温度(Tg)は、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC Q20を用いて測定される値である。なお、測定温度範囲は-90℃から+100℃で、温度上昇速度は10℃/分である。
【0023】
本発明で用いられるポリエステル系樹脂(I)は、構成原料として、多価カルボン酸成分(A)及びポリオール成分(B)を含む共重合成分を共重合(縮合重合)することにより得られるものであることが好ましい。
【0024】
(多価カルボン酸成分(A))
多価カルボン酸成分(A)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸(a1)、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸等の二価カルボン酸や、三価以上の多価カルボン酸等を挙げることができる。
【0025】
芳香族ジカルボン酸(a1)としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンジルマロン酸、ジフェン酸、4,4′-オキシジ安息香酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0026】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、チオジプロピオン酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
【0027】
脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等が挙げられる。
【0028】
三価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、アダマンタントリカルボン酸、トリメシン酸等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明において多価カルボン酸成分(A)は、芳香族ジカルボン酸(a1)を50モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは55~100モル%、さらに好ましくは55~90モル%、特に好ましくは60~85モル%、殊に好ましくは60~80モル%である。
【0030】
かかる含有割合が少なすぎると、粘着剤の凝集力が低下し、浮きや剥がれが生じやすくなる傾向がある。
また、かかる含有割合が多すぎると、ポリエステル系樹脂(I)の柔軟性が失われ、粘着剤の初期粘着性が低下する傾向がある。
【0031】
さらに、本発明においては、芳香族ジカルボン酸(a1)は、イソフタル酸を含有し、芳香族ジカルボン酸(a1)全体に対するイソフタル酸の含有割合が60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは62モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上、特に好ましくは70モル%、最も好ましくは80モル%以上である。
【0032】
かかる含有割合が少なすぎると、ポリエステル系樹脂(I)の結晶性が高くなり溶剤溶解性が低下する傾向がある。
【0033】
本発明においては、上記芳香族ジカルボン酸(a1)以外の多価カルボン酸成分(A)として、粘着剤の初期粘着性が向上する観点から、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)4以上の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)9~12の脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0034】
また、タック感を付与する点からは、脂肪族ジカルボン酸を含有することが好ましく、特に好ましくは炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)が4~12の脂肪族ジカルボン酸であり、更に好ましくはセバシン酸である。
【0035】
かかる脂肪族ジカルボン酸の含有割合としては、多価カルボン酸成分(A)全体に対して、50モル%未満であることが好ましく、特に好ましくは10~45モル%、更に好ましくは20~45モル%である。
【0036】
かかる含有割合が低すぎると、ポリエステル系樹脂(I)のガラス転移温度が高くなり充分な粘着力が得られなくなる傾向があり、かかる含有割合が高すぎると、密着成分が少なくなることにより、極性のある被着体への粘着力が低下する傾向がある。
【0037】
本発明においては、ポリエステル系樹脂(I)中に分岐点を増やす目的で、三価以上の多価カルボン酸を用いてもよく、なかでも、製造の際に比較的ゲル化が発生しにくい点で、トリメリット酸を用いることが好ましい。
【0038】
かかる三価以上の多価カルボン酸の含有割合としては、粘着剤の凝集力の点から、多価カルボン酸成分(A)全体に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは0.1~5モル%であり、かかる含有割合が多すぎると、ポリエステル系樹脂(I)の製造時にゲル化しやすい傾向がある。
【0039】
(ポリオール成分(B))
本発明において、ポリオール成分(B)は、側鎖に炭化水素基を有するジオール化合物(b1)を含有することが好ましい。
【0040】
側鎖に炭化水素基を有するジオール化合物(b1)としては、例えば、ジプロピレングリコール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール等の分岐構造を有する脂肪族ジオールや、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等の脂環族ジオール等を挙げることができる。
これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0041】
これらの中でも、機械的強度、耐熱性を保持しながら結晶化を起こしにくくする点から、炭素数1~6、特には炭素数1~4の炭化水素基を有するジオール化合物が好ましく、更に好ましくは、ネオペンチルグリコール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールである。
【0042】
かかる側鎖に炭化水素基を有するジオール化合物(b1)の含有割合としては、ポリオール成分(B)全体に対して、5モル%以上であることが好ましく、より好ましくは15~90モル%、更に好ましくは30~80モル%である。
【0043】
かかる含有割合が少なすぎると、ポリエステル系樹脂(I)が結晶化し、粘着剤の初期粘着力が低下する傾向があり、かかる含有割合が多すぎると、ポリエステル系樹脂(I)の製造時の反応性が低下する傾向がある。
【0044】
また、本発明で用いられる、側鎖に炭化水素基を有するジオール化合物(b1)以外のポリオール成分(B)としては、上記の他に、例えば、直鎖構造の脂肪族ジオール、芳香族ジオール等の二価のアルコール、三価以上の多価アルコール等を挙げることができる。
【0045】
直鎖構造の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の直鎖脂肪族ジオール及びそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加体等が挙げられる。
【0046】
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4′-チオジフェノール、4,4′-メチレンジフェノール、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ビスフェノールフルオレン、4,4′-ジヒドロキシビフェニル、o-,m-及びp-ジヒドロキシベンゼン、2,5-ナフタレンジオール、p-キシレンジオール等の芳香族ジオール及びそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加体等が挙げられる。
【0047】
三価以上の多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,3,6-ヘキサントリオール、アダマンタントリオール等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0048】
これらの中でも、粘着力に優れる点で、直鎖構造の脂肪族ジオールを用いることが好ましく、特には、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールを用いることが好ましく、更には、ポリエステル系樹脂(I)の結晶化度が下がり、より粘着力に優れる点で、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールを用いることが好ましい。
【0049】
かかる直鎖構造の脂肪族ジオールの含有割合としては、ポリオール成分(B)全体に対して、5~95モル%であることが好ましく、より好ましくは10~85モル%、更に好ましくは20~70モル%である。
【0050】
かかる含有割合が多すぎると、ポリエステル系樹脂(I)が結晶化し、粘着剤の初期粘着力が低下する傾向があり、少なすぎると、ポリエステル系樹脂(I)の製造時の反応性が低下する傾向がある。
【0051】
また、本発明においては、ポリエステル系樹脂(I)中に後述の架橋剤(III)との反応点を形成し、凝集力を高める点から、三価以上の多価アルコールを用いることが好ましく、なかでも、比較的ゲルが発生しにくい点で、トリメチロールプロパンを用いることが好ましい。
【0052】
かかる三価以上の多価アルコールの含有割合としては、ポリオール成分(B)全体に対して、10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1~5モル%である。
【0053】
かかる含有割合が多すぎると、製造時にポリエステル系樹脂(I)がゲル化して、製造が困難となる傾向がある。
【0054】
(製造方法)
本発明で用いられるポリエステル系樹脂(I)は、例えば、多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)を、触媒存在下、公知の方法により重縮合反応させることにより製造することができる。
【0055】
その際、多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)の配合割合としては、多価カルボン酸成分(A)1当量あたり、ポリオール成分(B)が1~2当量であることが好ましく、特に好ましくは1.1~1.7当量である。ポリオール成分(B)の含有割合が低すぎると、酸価が高くなり高分子量化が困難となる傾向があり、ポリオール成分(B)の含有割合が高すぎると、収率が低下する傾向がある。
【0056】
重縮合反応に際しては、まず、エステル化反応が行われた後、重縮合反応が行われる。
かかるエステル化反応において使用される触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系、三酸化アンチモン等のアンチモン系、二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム系等の触媒や酢酸亜鉛、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0057】
これらの中でも、触媒活性の高さと色相のバランスから、例えば、三酸化アンチモン、テトラブチルチタネート、二酸化ゲルマニウム、酢酸亜鉛を用いることが好ましい。
【0058】
触媒の配合量は、多価カルボン酸成分(A)に対して1~10,000ppmであることが好ましく、より好ましくは10~5,000ppm、さらに好ましくは10~3,000ppmである。
かかる配合量が少なすぎると、重合反応が充分に進行しにくい傾向があり、多すぎると、反応時間短縮等の利点はなく副反応が起こりやすい傾向がある。
【0059】
エステル化反応時の反応温度については、160~280℃が好ましく、より好ましくは180~270℃、さらに好ましくは200~260℃である。
かかる反応温度が低すぎると反応が充分に進みにくい傾向があり、高すぎると分解等の副反応が起こりやすい傾向がある。また、反応時の圧力は通常、常圧下であればよい。
【0060】
エステル化反応の反応時間については、1~48時間が好ましく、より好ましくは1.5~24時間、さらに好ましくは2~12時間である。
【0061】
エステル化反応が行われた後、重縮合反応が行われる。
重縮合反応の反応条件としては、エステル化反応で用いるものと同様の触媒をさらに同程度の量配合し、反応温度を好ましくは220~280℃(より好ましくは230~270℃)として、反応系を徐々に減圧して最終的には5hPa以下で反応させることが好ましい。
かかる反応温度が低すぎると反応が充分に進行しにくい傾向があり、高すぎると分解等の副反応が起こりやすい傾向がある。
【0062】
重縮合反応の反応時間については、1~48時間が好ましく、より好ましくは1.5~24時間、さらに好ましくは2~12時間である。
【0063】
(物性)
本発明で用いられるポリエステル系樹脂(I)の数平均分子量は5,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~150,000、さらに好ましくは15,000~80,000である。
【0064】
かかる数平均分子量が低すぎると、粘着剤として充分な凝集力が得られず、耐熱性や機械的強度が低下しやすい傾向があり、かかる数平均分子量が高すぎると、柔軟性が失われ、粘着剤の初期粘着性が低下する傾向がある。
【0065】
なお、本明細書における数平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による数平均分子量であり、高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式社製、「HLC-8320GPC」)に、カラム:TSKgel SuperMultipore HZ-M(排除限界分子量:2×10、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:4μm)を2本直列で用いることにより測定されるものである。
【0066】
また、本発明で用いられるポリエステル系樹脂(I)の酸価は、10mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは5mgKOH/g以下、さらに好ましくは1mgKOH/g以下、特に好ましくは0.5mgKOH/g以下である。
【0067】
かかる酸価が高すぎると、本発明のポリエステル系粘着剤組成物からなる粘着剤層が加水分解されて耐久性が低下する傾向がある。また、粘着剤層の一方の面が金属酸化物薄膜層となる構成とした際に、腐食が起こり、金属酸化物膜の導電性が低下する傾向がある。
【0068】
上記ポリエステル系樹脂(I)の酸価は、ポリエステル系樹脂(I)10gを7/3(トルエン/メタノール(体積比))のトルエンとメタノールの混合溶媒に溶解し、JIS K 0070に基づき中和滴定により求められるものである。
なお、本発明において、ポリエステル系樹脂(I)の酸価とは、樹脂中におけるカルボキシル基の含有量を意味するものである。
【0069】
[加水分解抑制剤(II)]
本発明のポリエステル系粘着剤組成物は、特に高温高湿下での耐久性が向上する点から、前記ポリエステル系樹脂(I)に加えて、加水分解抑制剤(II)を含有する。
【0070】
加水分解抑制剤(II)としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、多価カルボン酸成分(A)のカルボン酸末端基と反応して結合する化合物が挙げられ、具体的には、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基等の官能基を有する化合物等が挙げられる。
これらの中でも、カルボジイミド基含有化合物が、カルボキシル基末端基由来のプロトンの触媒活性を消失させる効果が高い点で好ましい。
【0071】
カルボジイミド基含有化合物としては、通常、カルボジイミド基(-N=C=N-)を分子内に1個以上有する公知のカルボジイミドを用いればよいが、より高温高湿下での耐久性を向上させる点で、カルボジイミド基を分子内に2個以上有するポリカルボジイミドを用いることが好ましく、特には3個以上含有することが好ましく、更には5個以上含有することが好ましく、殊には7個以上含有することが好ましい。
【0072】
なお、50個以上含有すると分子構造が大きくなりすぎるために、好ましくない傾向がある。また、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートを脱炭酸縮合反応させることによって生成する高分子量ポリカルボジイミドを用いることも好ましい。
【0073】
高分子量ポリカルボジイミドとしては、以下のジイソシアネートを脱炭酸縮合反応させたものが挙げられる。
【0074】
かかるジイソシアネートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1-メトキシフェニル-2,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上を併用することができる。
このような高分子量ポリカルボジイミドは、合成してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0075】
カルボジイミド基含有化合物の市販品としては、例えば、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト(登録商標)シリーズが挙げられ、それらの中でも、カルボジライト(登録商標)V-01、V-02B、V-03、V-05、V-07、V-09、V-09GBは有機溶剤との相溶性に優れる点で好ましい。
【0076】
前記エポキシ基含有化合物としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物等が好ましい。
【0077】
グリシジルエステル化合物の具体例としては、例えば、安息香酸グリシジルエステル、t-Bu-安息香酸グリシジルエステル、p-トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0078】
グリシジルエーテル化合物の具体例としては、例えば、フェニルグリシジルエ-テル、o-フェニルグリシジルエ-テル、1,4-ビス(β,γ-エポキシプロポキシ)ブタン、1,6-ビス(β,γ-エポキシプロポキシ)ヘキサン、1,4-ビス(β,γ-エポキシプロポキシ)ベンゼン、1-(β,γ-エポキシプロポキシ)-2-エトキシエタン、1-(β,γ-エポキシプロポキシ)-2-ベンジルオキシエタン、2,2-ビス-[р-(β,γ-エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン及び2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン等のビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応で得られるビスグリシジルポリエーテル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0079】
前記オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、ビスオキサゾリン化合物が挙げられる。
ビスオキサゾリン化合物の具体例としては、例えば、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4,4-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-エチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4,4’-ジエチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-プロピル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-ブチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-ヘキシル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-シクロヘキシル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-ベンジル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4,4-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-デカメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(4,4-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-9,9’-ジフェノキシエタンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-シクロヘキシレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ジフェニレンビス(2-オキサゾリン)等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0080】
これらの中でも、ポリエステルとの反応性の観点から、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)が好ましい。
【0081】
加水分解抑制剤(II)としては、耐加水分解性、耐ブリスター性の観点から重量平均分子量が高いものを用いるほうが好ましい。
加水分解抑制剤(II)の重量平均分子量は、500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましい。なお、重量平均分子量の上限は通常50,000である。
【0082】
加水分解抑制剤(II)の重量平均分子量が小さすぎると、耐加水分解性、耐ブリスター性が低下する傾向がある。また、重量平均分子量が大きすぎると、ポリエステル樹脂との相溶性が低下する傾向がある。
【0083】
なお、本明細書における重量平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、「HLC-8320GPC」)に、カラム:TSKgel SuperMultipore HZ-M(排除限界分子量:2×10、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:4μm)を2本直列で用いることにより測定されるものである。
【0084】
加水分解抑制剤(II)の含有量は、前記ポリエステル系樹脂(I)100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.3~3質量部、特に好ましくは0.5~1.5質量部である。
【0085】
かかる含有量が多すぎると、ポリエステル系樹脂(I)との相溶性が低下し、粘着剤に濁りが発生しやすい傾向があり、少なすぎると、充分な耐久性が得られにくい傾向がある。
【0086】
また、加水分解抑制剤(II)の含有量は、前記ポリエステル系樹脂(I)の酸価に応じて最適化させることが好ましく、ポリエステル系粘着剤組成物中のポリエステル系樹脂(I)の酸価の合計(x)と、ポリエステル系粘着剤組成物中の加水分解抑制剤(II)の官能基量の合計(y)のモル比((y)/(x))が、0.5≦(y)/(x)であることが好ましく、特に好ましくは1≦(y)/(x)≦1,000、更に好ましくは1.5≦(y)/(x)≦100である。
【0087】
ポリエステル系粘着剤組成物中のポリエステル系樹脂(I)の酸価の合計(x)に対するポリエステル系粘着剤組成物中の加水分解抑制剤(II)の官能基量の合計(y)の含有割合が高くなると、ポリエステル系樹脂(I)との相溶性が低下したり、粘着力、凝集力、耐久性能が低下したりする傾向があり、(x)に対する(y)の含有割合が低くなると、耐湿熱性能が低下する傾向がある。
【0088】
[架橋剤(III)]
本発明のポリエステル系粘着剤組成物は、さらに、架橋剤(III)を含有することが好ましい。
架橋剤(III)によってポリエステル系樹脂(I)を架橋することにより、凝集力に優れたものとなり、粘着剤としての性能をより向上させることができる。
【0089】
架橋剤(III)としては、ポリエステル系樹脂(I)に含まれる官能基、例えば、水酸基及び/又はカルボキシル基と反応する官能基を有する化合物であればよく、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリエポキシ化合物等が挙げられる。
これらの中でも、粘着剤の初期粘着性と機械的強度、耐熱性をバランスよく両立できる点から、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0090】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等のポリイソシアネートが挙げられる。また、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物、ヘキサメチレンジイソシアネート付加物やイソホロンジイソシアネート付加物等のイソシアネート付加物等が挙げられる。
【0091】
なお、上記ポリイソシアネート化合物は、フェノールやラクタム等でイソシアネート部分がブロックされたものでも使用することができる。
これらの架橋剤(III)は、その1種を単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0092】
架橋剤(III)の含有量は、ポリエステル系樹脂(I)中に含まれる官能基の量、ポリエステル系樹脂(I)の分子量と用途目的により適宜選択できるが、通常は、ポリエステル系樹脂(I)に含まれる水酸基及び/又はカルボキシル基の1当量に対して、架橋剤(III)に含まれる反応性基が、0.2~10当量となる割合で架橋剤(III)を含有することが好ましく、より好ましくは0.5~8当量、さらに好ましくは1~5当量である。
【0093】
架橋剤(III)に含まれる反応性基の当量数が小さすぎると粘着剤の凝集力が不足し、充分な耐熱性が得られない傾向があり、大きすぎると粘着剤の柔軟性が低下し、初期粘着性が低下し、指圧程度の圧力で充分な接着力を発揮できなくなる傾向がある。
【0094】
[その他の成分]
本発明のポリエステル系粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、従来公知の触媒、触媒作用抑制剤、軟化剤、紫外線吸収剤、安定剤、耐電防止剤、粘着付与剤等の添加剤や、その他、無機又は有機の充填剤、金属粉、顔料等の粉体、粒子状等の添加剤を含有してもよい。
【0095】
触媒としては、例えば、有機金属系化合物、3級アミン化合物等が挙げられる。
有機金属系化合物としては、例えば、ジルコニウム系化合物、鉄系化合物、錫系化合物、チタン系化合物、鉛系化合物、コバルト系化合物、亜鉛系化合物等を挙げることができる。
【0096】
ジルコニウム系化合物としては、例えば、ナフテン酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネート等が挙げられる。
鉄系化合物としては、例えば、鉄アセチルアセトネート、2-エチルヘキサン酸鉄等が挙げられる。
錫系化合物としては、例えば、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジラウレート等が挙げられる。
チタン系化合物としては、例えば、ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライド等が挙げられる。
鉛系化合物としては、例えば、オレイン酸鉛、2-エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛等が挙げられる。
コバルト系化合物としては、例えば、2-エチルヘキサン酸コバルト、安息香酸コバルト等が挙げられる。
亜鉛系化合物としては、例えば、ナフテン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛等が挙げられる。
【0097】
3級アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシク口-(5,4,0)-ウンデセン-7等が挙げられる。
【0098】
これらの中でも、反応速度と粘着剤層のポットライフの点で、ジルコニウム系化合物が好ましい。
また、触媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0099】
触媒の含有量は、ポリエステル系樹脂(I)100質量部に対して、0.001~0.1質量部であることが好ましく、より好ましくは0.005~0.08質量部であり、さらに好ましくは0.01~0.05質量部である。
かかる含有量が少なすぎると硬化速度が遅くなり安定した塗膜を形成しづらくなる傾向があり、多すぎるとポットライフが短くなり塗工性が低下する傾向がある。
【0100】
本発明のポリエステル系粘着剤組成物は、ポットライフを延長し、塗工性を向上させる点で上記触媒に触媒作用抑制剤を含有させることが好ましい。
触媒作用抑制剤としては、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステルや、アセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ-ジケトンが挙げられる。これらはケトエノール互変異性化合物であり、上記触媒を保護することにより、触媒の溶液状態での触媒活性を低下させ、配合後における粘着剤組成物の過剰な粘度上昇やゲル化を抑制し、粘着剤組成物のポットライフを延長することができる。
【0101】
これらの中でも、ポットライフと硬化速度のバランスの点から、触媒作用抑制剤としてアセチルアセトンを用いることが好ましい。なお、これらの触媒作用抑制剤は1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0102】
触媒作用抑制剤と触媒の含有割合(質量比)が、触媒作用抑制剤:触媒=0.001:1~15:1の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.005:1~13:1であり、特に好ましくは0.01:1~10:1である。触媒の含有量に対して、触媒作用抑制剤の含有量が少なすぎるとポットライフが短く塗工性が低下する傾向があり、多すぎると硬化速度が低下する傾向がある。
【0103】
本発明のポリエステル系粘着剤組成物は、耐熱性を向上させる観点から、更に酸化防止剤を含有することが好ましい。酸防止剤を含有することにより、耐熱環境下におけるポリエステル系樹脂(I)の分子量低下を抑制し、被着体への糊残り防止性に優れるようになる。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤が好ましい。
ヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤としては、例えば、フェノールのOH基が結合した芳香族環上炭素原子の隣接炭素原子の少なくとも一方に、ターシャリーブチル基等の立体障害の大きな基が結合したヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤であれば、任意の適切な酸化防止剤を採用し得る。このような酸化防止剤を用いることによって、耐熱環境下におけるポリエステル系樹脂(I)の分子量低下を抑制する効果が非常に大きくなる。
【0104】
酸化防止剤の含有割合は、ポリエステル系樹脂(I)100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.03~8質量部であり、さらに好ましくは0.05~5質量部である。
かかる含有量が少なすぎると被着体への糊残りが発生しやすくなる傾向があり、多すぎると粘着物性が低下する傾向がある。
また、上記添加剤の他にも、粘着剤の構成成分の製造原料等に含まれる不純物等が少量含有されたものであってもよい。
【0105】
<ポリエステル系粘着剤>
本発明のポリエステル系粘着剤は、上記説明した本発明のポリエステル系粘着剤組成物が架橋剤(III)により架橋されてなる。かかる架橋剤(III)による架橋反応は、通常、粘着剤組成物を20℃以上120℃以下で加熱することにより行うことができる。
【0106】
本発明のポリエステル系粘着剤は、実質的に酸性基を含有していないことが好ましく、具体的には、酸価が10mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは1mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.1mgKOH/g以下である。
なお、ポリエステル系粘着剤の酸価は、ポリエステル系樹脂(I)の酸価と同様の方法で求めることができる。
【0107】
<粘着シート>
本発明の粘着シートは、本発明のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層を有する。
また、本発明の粘着シートは、基材を有し、粘着剤層が基材の少なくとも片面側に設けられるものであることが好ましい。
【0108】
さらに、本発明の粘着シートは、透明性に優れ、構成する厚みに対しての粘着力が高い観点から、本発明のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層を有し、基材を有しない基材レスタイプの粘着シートとすることも好ましい。
本発明の粘着シートは、特には、光学部材の貼り合せに用いる光学部材用粘着シートとして好適である。
【0109】
本発明の粘着シートは、公知一般の粘着シートの製造方法に従って製造することができ、例えば、基材上に、ポリエステル系樹脂(I)、加水分解抑制剤(II)及び架橋剤(III)を含有するポリエステル系粘着剤組成物を塗工、乾燥し、必要により養生することで、基材上に本発明のポリエステル系粘着剤からなる粘着剤層を有する本発明の粘着シートが得られる。
【0110】
また、離型シートに粘着剤層を形成し、反対側の粘着剤層面に離型シートを貼り合わせることにより、基材レスタイプの粘着シートを製造することができる。
得られた粘着シートや基材レスタイプの粘着シートは、使用時には、上記離型シートを粘着剤層から剥離して、粘着剤層と被着体を貼合する。
【0111】
基材としては、例えば、ポリエチレンナフタート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン等のポリフッ化エチレン樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体;三酢酸セルロース、セロファン等のセルロース系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の合成樹脂からなる合成樹脂シート;アルミニウム、銅、鉄等の金属箔;上質紙、グラシン紙等の紙;硝子繊維、天然繊維、合成繊維等からなる織物や不織布等が挙げられる。
これらの基材は、単層体として又は2種以上が積層された複層体として用いることができる。
【0112】
これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート又はポリイミドからなる合成樹脂シートが好ましく、特には粘着剤との密着性に優れる点で、ポリエチレンテレフタレートシートが好ましい。更には、金属薄膜層を有したポリエチレンテレフタレートシートであることが、基材と接着剤との密着性に優れ、なおかつ金属薄膜層を腐食せずに基材を安定的に保つことができ、本発明のポリエステル系粘着剤層を有する本発明の粘着シートの効果を顕著に発揮できる点で好ましい。
【0113】
なお、本発明の粘着シートにおいては、ITO(Indium Tin Oxide)電極膜がPET(ポリエチレンテレフタレート)基材上に薄膜形成されているフィルムのPET側に粘着剤層を有し、粘着剤層を介してPET基材とPC(ポリカーボネート)系フィルムが積層され、更にアクリル系フィルムが積層されてなる光学積層体とすることが最も好ましい(層構成:ITO電極膜/PET基材/粘着剤層/PC系フィルム/アクリル系フィルム)。
【0114】
上記離型シートとしては、例えば、上記基材で例示した各種合成樹脂シート、紙、布、不織布等に離型処理したもの等を使用することができ、例えば、シリコン系の離型シート、オレフィン系の離型シート、フッ素系の離型シート、長鎖アルキル系の離型シート、アルキッド系の離型シートが挙げられるが、シリコン系の離型シートを用いることが好ましい。
【0115】
基材の厚みとしては、1~1000μmであることが好ましく、より好ましくは2~500μm、さらに好ましくは3~300μmである。
【0116】
上記粘着剤組成物の塗工方法としては、例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いればよい。
【0117】
上記養生処理の条件としては、温度は通常20~70℃、好ましくは30~50℃、時間は通常1~30日、好ましくは3~15日である。
具体的には、例えば23℃で1~20日間、好ましくは、23℃で3~10日間、40℃で1~7日間等の条件で行えばよい。
【0118】
乾燥条件としては、乾燥温度は60~140℃が好ましく、より好ましくは80~120℃であり、乾燥時間は1~30分間が好ましく、より好ましくは2~5分間である。
【0119】
本発明の粘着シートの粘着剤層の乾燥後の厚みは、5~200μmであることが好ましく、より好ましくは10~100μmである。
かかる粘着剤層の厚みが薄すぎると、粘着力が低下する傾向があり、厚すぎると均一に塗工することが困難となるうえ、塗膜に気泡が入る等の不具合が発生しやすい傾向がある。
【0120】
なお、上記粘着剤層の厚みは、株式会社ミツトヨ製「ID-C112B」を用いて、粘着シート全体の厚みの測定値から、粘着剤層以外の構成部材の厚みの測定値を差し引くことにより求めた値である。
【0121】
本発明の粘着シートの粘着剤層のゲル分率は、耐久性能と粘着力の点から50%以上であることが好ましく、より好ましくは55~90%、さらに好ましくは60~85%である。
ゲル分率が低すぎると凝集力が低下することにより耐久性低下する傾向があり、ゲル分率が高すぎると凝集力の上昇により粘着力が低下する傾向がある。
【0122】
なお、上記ゲル分率は、架橋度の目安となるもので、例えば、以下の方法にて算出される。
すなわち、基材となる高分子シート(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等)に粘着剤層が形成されてなる粘着シート(セパレーターを設けていないもの)を200メッシュのステンレス鋼製金網で包み、トルエン中に23℃×24時間浸漬し、金網中に残存した不溶解の粘着剤成分の質量百分率をゲル分率とする。ただし、基材の質量は差し引いておく。
【0123】
さらに、本発明の粘着シートは、必要に応じて、粘着剤層の外側に離型シートを設け保護されていてもよい。また、粘着剤層が基材の片面に形成されている粘着シートでは、基材の粘着剤層とは反対側の面に剥離処理を施すことにより、該剥離処理面を利用して粘着剤層を保護することも可能である。
【0124】
<粘着剤層付き光学部材>
本発明の粘着剤層付き光学部材は、本発明のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層及び光学部材を有するものであり、本発明のポリエステル系粘着剤を含有する粘着剤層を光学部材上に積層形成することにより、得ることができる。
【0125】
光学部材としては、例えば、ITO電極膜やポリチオフェン等の有機系導電膜等の透明電極膜、偏光板、位相差板、楕円偏光板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、電磁波シールドフィルム、近赤外線吸収フィルム、AR(アンチリフレクション)フィルム等を挙げることができる。
【0126】
これらの中でも、本発明の効果を顕著に発揮でき、高い粘着力が得られる観点から、透明電極膜が好ましく、より好ましくはITO電極膜である。
なお、ITO電極膜はガラスやPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材上に薄膜で形成されていることが多い。
【0127】
本発明の粘着剤層付き光学部材には、粘着剤層の光学部材面とは逆の面に、さらに離型シートを設けることが好ましく、実用に供する際には、上記離型シートを剥離して、粘着剤層と被着体を貼合する。
かかる離型シートとしては、シリコン系の離型シートを用いることが好ましい。
【実施例
【0128】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0129】
[ポリエステル系樹脂の製造]
下記表1のモル比に基づき、下記ポリエステル系樹脂(I-1)~(I-4)及び(I’-1)~(I’-2)を製造した。
【0130】
(ポリエステル系樹脂(I-1)の製造)
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、多価カルボン酸成分(A)としてイソフタル酸219.4部(1.3モル)及びセバシン酸218.5部(1.1モル)、ポリオール成分(B)としてネオペンチルグリコール225部(2.2モル)、1,4-ブタンジオール108.2部(1.2モル)、1,6-ヘキサンジオール24.7部(0.2モル)及びトリメチロールプロパン4.2部(0.03モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、内温250℃まで徐々に温度を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。
【0131】
その後、内温260℃まで上げ、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、1.33hPaまで減圧し、3時間かけて重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(I-1)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(I-1)の数平均分子量は22,000、ガラス転移温度は-18.0℃であった。
【0132】
(ポリエステル系樹脂(I-2)の製造)
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、多価カルボン酸成分(A)としてイソフタル酸262.1部(1.6モル)及びセバシン酸171.8部(0.8モル)、ポリオール成分(B)としてネオペンチルグリコール227.5部(2.2モル)、1,4-ブタンジオール109.4部(1.2モル)、1,6-ヘキサンジオール25部(0.2モル)及びトリメチロールプロパン4.2部(0.03モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、内温250℃まで徐々に温度を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。
【0133】
その後、内温260℃まで上げ、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、1.33hPaまで減圧し、3時間かけて重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(I-2)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(I-2)の数平均分子量は23,000、ガラス転移温度は-6.3℃であった。
【0134】
(ポリエステル系樹脂(I-3)の製造)
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、多価カルボン酸成分(A)としてイソフタル酸283.8部(1.7モル)及びセバシン酸148.1部(0.7モル)、ポリオール成分(B)としてネオペンチルグリコール228.8部(2.2モル)、1,4-ブタンジオール110部(1.2モル)、1,6-ヘキサンジオール25.1部(0.2モル)及びトリメチロールプロパン4.3部(0.03モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、内温250℃まで徐々に温度を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。
【0135】
その後、内温260℃まで上げ、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、1.33hPaまで減圧し、3時間かけて重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(I-3)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(I-3)の数平均分子量は22,000、ガラス転移温度は1.6℃であった。
【0136】
(ポリエステル系樹脂(I-4)の製造)
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、多価カルボン酸成分(A)としてイソフタル酸328部(2.0モル)及びセバシン酸99.8部(0.5モル)、ポリオール成分(B)としてネオペンチルグリコール231.3部(2.2モル)、1,4-ブタンジオール111.2部(1.2モル)、1,6-ヘキサンジオール25.4部(0.2モル)及びトリメチロールプロパン4.3部(0.03モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、内温250℃まで徐々に温度を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。
【0137】
その後、内温260℃まで上げ、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、1.33hPaまで減圧し、3時間かけて重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(I-4)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(I-4)の数平均分子量は23,000、ガラス転移温度は13.5℃であった。
【0138】
(ポリエステル系樹脂(I’-1)の製造)
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、多価カルボン酸成分(A)としてイソフタル酸76.9部(0.5モル)及びセバシン酸374.3部(1.9モル)、ポリオール成分(B)としてネオペンチルグリコール216.8部(2.1モル)、1,4-ブタンジオール104.2部(1.2モル)、1,6-ヘキサンジオール23.8部(0.2モル)及びトリメチロールプロパン4部(0.03モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、内温250℃まで徐々に温度を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。
【0139】
その後、内温260℃まで上げ、触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、1.33hPaまで減圧し、3時間かけて重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(I’-1)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(I’-1)の数平均分子量は25,000、ガラス転移温度は-48.5℃であった。
【0140】
(ポリエステル系樹脂(I’-2)の製造)
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、多価カルボン酸成分(A)としてイソフタル酸76.6部(0.5モル)、セバシン酸186.5部(0.9モル)、アゼライン酸173.6部(0.9モル)、ポリオール成分(B)としてエチレングリコール14.3部(0.2モル)、シクロヘキサンジメタノール349部(2.4モル)、触媒として二酸化ゲルマニウム0.04部仕込み、内温250℃まで除々に温度を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。
【0141】
その後、内温270℃まで上げ1.33hPaまで減圧し、3時間かけて重縮合反応を行い、ポリエステル系樹脂(I’-2)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(I’-2)の数平均分子量は30,000、ガラス転移温度は-25.6℃であった。
【0142】
【表1】
【0143】
[ポリエステル系粘着剤組成物の製造]
(実施例1)
上記で得られたポリエステル系樹脂(I-1)を酢酸エチルで固形分濃度55質量%に希釈し、このポリエステル系樹脂(I-1)溶液100部(固形分)に対し、加水分解抑制剤としてポリカルボジイミド(日清紡ケミカル株式会社製;商品名「カルボジライトV-07」、重量平均分子量(Mw):6231)1部(固形分)、及び架橋剤としてトリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(東ソー株式会社製;製品名「コロネートL55E」)3部(固形分)を配合し、撹拌、混合することにより、ポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0144】
(実施例2)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-2)、架橋剤の配合量を4部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0145】
(実施例3)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-3)、加水分解抑制剤の配合量を0.1部、架橋剤の配合量を4部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0146】
(実施例4)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-3)、加水分解抑制剤の配合量を0.5部、架橋剤の配合量を4部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0147】
(実施例5)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-3)、架橋剤の配合量を4部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0148】
(実施例6)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-3)、加水分解抑制剤をポリカルボジイミド(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-09GB」、重量平均分子量(Mw):5951)、架橋剤の配合量を4部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0149】
(実施例7)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-4)、架橋剤の配合量を4部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0150】
(比較例1)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I’-1)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0151】
(比較例2)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I’-2)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0152】
(比較例3)
実施例1において、ポリエステル系樹脂(I-1)をポリエステル系樹脂(I-3)、架橋剤の配合量を4部に変更し、加水分解抑制剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系粘着剤組成物を得た。
【0153】
[粘着フィルムの製造]
上記で得られたそれぞれのポリエステル系粘着剤組成物を厚さ38μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)製セパレーター上にアプリケータを用いて塗布し、100℃で4分間乾燥し、粘着剤層の厚さが50μmの粘着シートを得た。
【0154】
次いで、得られた粘着剤組成物層表面を前記セパレーターとは剥離力の異なる厚さ38μmのPET製セパレーターで覆い、40℃で4日間エージング処理を行い、両面セパレーター付き粘着フィルムを得た。
【0155】
[粘着シート評価]
(高温下粘着力)
上記で得られたそれぞれの両面セパレーター付き粘着フィルムの粘着剤層から一方の面のセパレーターを剥離し、粘着剤層をPETフィルム(100μm)に転写して評価用の粘着シートを作製した。
【0156】
上記で得られた評価用の粘着シートの粘着剤層からもう一方の面のセパレーターを剥離して、粘着剤層をポリカーボネート板(三菱樹脂株式会社製「ステラ」)に貼合し、円筒型液晶用加圧脱装置(栗原製作所製「YK-350S型」)を用いて0.5MPa、50℃の条件下で20分間圧着し、その後、恒温槽付き引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフAGS-H 500N」)を用いて、85℃の条件で剥離速度300mm/minで、180度剥離強度(N/25mm)を測定した。結果を表2に示す。
【0157】
(耐ブリスター性)
上記で得られた評価用の粘着シートの粘着剤層からもう一方のセパレーターを剥離して、粘着剤層をポリカーボネート板(三菱樹脂株式会社製「ステラ」)に貼合し、0.5MPa、50℃の条件下で20分間圧着し、「PC板/ポリエステル系粘着剤層/PETフィルム」の構成を有する試験片を作製した。
【0158】
その後、試験片を85℃/85%の恒温恒湿槽で24時間負荷を与え、負荷後の試験片の外観(発泡の有無)を目視で確認し、以下の基準に従って耐ブリスター性を評価した。結果を表2に示す。
【0159】
◎:発泡がなく外観変化がなかった。
○:試験片の面積に対し発泡を生じた部分の面積が1/4程度以下であった。
△:試験片の面積に対し発泡を生じた部分の面積が1/4程度を超え半分程度以下であった。
×:試験片の面積に対し発泡を生じた部分の面積が半分程度を超えるものであった。
【0160】
【表2】
【0161】
上記結果より、ガラス転移温度が所望の範囲内のポリエステル系樹脂及び加水分解抑制剤を含有する実施例1~7の粘着剤組成物を用いてなる粘着剤層を有する粘着シートは、高温下においても優れた粘着力を有し、粘着剤層が高温高湿下に晒された場合においても発泡が少なく、耐ブリスター性に非常に優れていることがわかる。
【0162】
一方、ガラス転移温度が所望の範囲内ではないポリエステル系樹脂を用いてなる比較例1及び2においては、高温下における粘着力が低く、耐ブリスター性も満足しないものであることがわかる。
また、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が所望の範囲内ではあるものの、加水分解抑制剤を使用しなかった比較例3においては、耐ブリスター性を満足するものではないことがわかる。