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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20220830BHJP
   C08G 59/06 20060101ALI20220830BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220830BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220830BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08G59/62
C08G59/06
C08L63/00 B
H01L23/30 R
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018110021
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019210428
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 晃広
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-093551(JP,A)
【文献】特開平08-333428(JP,A)
【文献】特開平06-244319(JP,A)
【文献】特開2006-274217(JP,A)
【文献】特開平03-258830(JP,A)
【文献】特開2013-209442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08L 63/00- 63/10
H01L 23/00- 23/56
CAPlus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と硬化剤とを含有し、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤のいずれか少なくとも一方が、下記一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を含むエポキシ樹脂組成物。
【化1】

(一般式(I)中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rはそれぞれ独立に炭素数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Yはいずれも水素原子を表すか、いずれもグリシジル基を表し、pは0~4を表し、qは0~2を表しmは0≦m<0.9を満たす数を表し、rは0<r≦0.9を満たす数を表し、0.1≦(m+r)≦0.9を満たす。)
【請求項2】
前記硬化剤が、前記一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール硬化剤の水酸基当量が110g/eq~150g/eqである、請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ナフトール化合物とフェノール化合物との共重合型エポキシ樹脂、及びアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂を含む、請求項2又は請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂を含む、請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂が、前記一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量が110g/eq~150g/eqである、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤は、トリフェニルメタン型フェノール樹脂を含む、請求項6又は請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
さらに無機充填材を含有する請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
さらに硬化促進剤を含有する請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物によって封止された素子を備える電子部品装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンコントロールユニット(ECU)、車載IC(Integrated Circuit)等の電子部品の素子に関する封止技術の分野では、エポキシ樹脂をベースとした組成物の適用が広まっている。その理由は、エポキシ樹脂組成物が成形性、電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等の諸特性においてバランスがとれているためである。
【0003】
ECU、車載IC等には高温化及び長時間の使用に耐えることが要求される。一般的に、ECU、車載IC等の用途に使用されるエポキシ樹脂組成物には、信頼性の観点から、硬化物としたときに高いガラス転移温度(Tg)を示すことが要求される。このような観点から、ECU、車載IC等の用途で使用されるエポキシ樹脂組成物には、トリフェニルメタン(TPM)型の樹脂が広く使用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-88634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トリフェニルメタン型の樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を使用して硬化物を作製する場合、高温下に長時間放置すると樹脂の分解によって樹脂の重量が減少しやすいという課題があった。
【0006】
本開示は、高いTgを示し、高温下で長時間放置しても重量減少の少ない硬化物が得られるエポキシ樹脂組成物、及びこれにより封止された素子を備える電子部品装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> エポキシ樹脂と硬化剤とを含有し、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤のいずれか少なくとも一方が、下記一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を含むエポキシ樹脂組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式(I)中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は有機基を表し、Rはそれぞれ独立に置換基を表し、Yはいずれも水素原子を表すか、いずれもグリシジル基を表し、p及びqはそれぞれ独立に0以上の置換基の数を表し、mは0≦m≦1を満たす数を表し、rは0<r≦1を満たす数を表す。)
<2> 前記硬化剤が、前記一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含む、<1>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<3> 前記フェノール硬化剤の水酸基当量が110g/eq~150g/eqである、<2>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<4> 前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ナフトール化合物とフェノール化合物との共重合型エポキシ樹脂、及びアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂を含む、<2>又は<3>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<5> 前記エポキシ樹脂が、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂を含む、<4>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<6> 前記エポキシ樹脂が、前記一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含む、<1>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<7> 前記一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量が110g/eq~150g/eqである、<6>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<8> 前記硬化剤は、トリフェニルメタン型フェノール樹脂を含む、<6>又は<7>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<9> さらに無機充填材を含有する<1>~<8>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
<10> さらに硬化促進剤を含有する<1>~<9>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
<11> <1>~<10>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物によって封止された素子を備える電子部品装置。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高いTgを示し、高温下で長時間放置しても重量減少の少ない硬化物が得られるエポキシ樹脂組成物、及びこれにより封止された素子を備える電子部品装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0013】
≪エポキシ樹脂組成物≫
本開示のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と硬化剤とを含有し、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤のいずれか少なくとも一方が、下記一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を含む。
【0014】
【化2】
【0015】
一般式(I)中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は有機基を表し、Rはそれぞれ独立に置換基を表し、Yはいずれも水素原子を表すか、いずれもグリシジル基を表し、p及びqはそれぞれ独立に0以上の置換基の数を表し、mは0≦m≦1を満たす数を表し、rは0<r≦1を満たす数を表す。
【0016】
一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を用いると、高いTgを発現しつつ、高温下で長時間放置しても重量減少が少ない硬化物が得られる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
一般的に、エポキシ樹脂組成物の硬化物の硬化反応部位に存在する酸素原子はラジカルの発生の原因となりやすい。このラジカルにより、特に硬化反応部位、炭素-炭素結合等において樹脂の分解が引き起こされると考えられる。しかしながら、一般式(I)で表される構造単位を有する化合物は、ラジカルが非局在化しにくく、比較的ラジカルが消失しやすい構造をとっていると考えられる。これにより、高温下における硬化物の分解が抑制され、長時間放置したときの重量減少が抑制されると考えられる。また、一般式(I)で表される構造単位を有する化合物は一定数の架橋点を有するため、硬化物は高いTgを維持することができると考えられる。
【0017】
なお、トリフェニルメタン型の樹脂は極性が比較的低く、発生したラジカルが非局在化しやすいと考えられる。しかしながら、例えばトリフェニルメタン型の樹脂を用いる場合であっても、一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を併用すると、硬化物においてラジカルが消失しやすく、高温下での重量減少を抑制することができると考えられる。これにより、高いTgと高温下での重量安定性を両立することが可能になると考えられる。
【0018】
本開示のエポキシ樹脂組成物において、硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含んでもよく、エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含んでもよく、これらのフェノール硬化剤及びエポキシ樹脂を組み合わせて用いてもよい。入手容易性の観点からは、硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含むことが好ましく、高Tgの観点からは、エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0019】
一般式(I)中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は有機基を表し、水素原子であることが好ましい。Rが有機基を表す場合、当該有機基としては、例えば、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基が挙げられる。硬化物の耐分解性の観点からは、Rは芳香族炭化水素基を含まないことが好ましい。Rが炭化水素基を表す場合、当該炭化水素基の炭素数は特に制限されず、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましい。炭化水素基は任意の置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0020】
一般式(I)中、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。Rで表される置換基としては、例えば、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基等の脂肪族炭化水素基;芳香族炭化水素基などの炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は特に制限されず、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましい。炭化水素基は任意の置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0021】
で表される置換基の置換位置は特に制限されない。Rで表される置換基が存在する場合(すなわち、0<p又は0<qの場合)、一般式(I)中の芳香環2つに結合する炭素原子に対してオルト位又はパラ位にRが存在することが好ましく、オルト位にRが存在することがより好ましい。
【0022】
一般式(I)中、Yはいずれも水素原子を表すか、いずれもグリシジル基を表す。「Yはいずれも水素原子を表すか、いずれもグリシジル基を表す」とは、1分子中に存在する少なくとも1つの「一般式(I)で表される構造単位」において、Yがいずれも水素原子を表すか、いずれもグリシジル基を表すことを意味し、1分子中に存在する全てのYが必ずしも同じであることを意味するものではない。例えば、一般式(I)で表される構造単位を有する化合物が水酸基を有する化合物のグリシジルエーテル化により合成されるエポキシ樹脂である場合、グリシジルエーテル化の過程で未反応の水酸基が残存していても、一般式(I)で表される構造単位を有する化合物の範囲に含まれるものとする。
入手容易性の観点からは、Yはいずれも水素原子であることが好ましく、高Tgの観点からは、Yはいずれもグリシジル基であることが好ましい。
【0023】
一般式(I)中、p及びqはそれぞれ独立に0以上の置換基の数を表す。p及びqはそれぞれ、エポキシ樹脂組成物又はその硬化物中の一般式(I)で表される構造単位における、該当する位置に存在する置換基Rの数の平均値を表す。pは0~4であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。qは0~2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0024】
一般式(I)中、mは0≦m≦1を満たす数を表し、rは0<r≦1を満たす数を表す。m及びrはそれぞれ、エポキシ樹脂組成物又はその硬化物中の一般式(I)で表される構造単位における、該当する位置に存在する官能基(すなわち、水酸基又はグリシジルオキシ基)の数の平均値を表す。m及びrは、0<(m+r)<1を満たすことが好ましく、0.1≦(m+r)≦0.9を満たすことがより好ましく、0.3≦(m+r)≦0.9を満たすことがさらに好ましく、0.5≦(m+r)≦0.8を満たすことが特に好ましい。
【0025】
例えばmが0のときrが0を超え1未満であることが好ましく、0.1~0.9であることがより好ましく、0.3~0.9であることがさらに好ましく、0.5~0.8であることが特に好ましい。また、例えばrが0のときmが0を超え1未満であることが好ましく、0.1~0.9であることがより好ましく、0.3~0.9であることがさらに好ましく、0.5~0.8であることが特に好ましい。
【0026】
一般式(I)中、-O-Yで表される官能基(すなわち、水酸基又はグリシジルオキシ基)の数)の位置は特に限定されない。当該官能基の位置は、一般式(I)中の芳香環2つに結合する炭素原子に対してオルト位又はパラ位であることが好ましく、オルト位であることがより好ましい。
【0027】
一般式(I)で表される構造単位を有する化合物中の芳香環の結合様式、具体的には、主鎖上の、各芳香環に隣接する2原子の位置関係は特に限定されない。例えば、各芳香環においてそれぞれ独立に、各芳香環に隣接する主鎖上の2原子がオルト位又はパラ位の関係であることが好ましく、パラ位の関係であることがより好ましい。
【0028】
一般式(I)で表される構造単位を有する化合物は、一般式(I)で表される構造単位を一部に有していればよく、その他の構造単位を有する共重合体であってもよい。
【0029】
エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂及び硬化剤のいずれか少なくとも一方が一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を含んでいればよい。すなわち、硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含んでいてもよく、エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物は一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を1種含有してもよく、2種以上含有していてもよい。
【0030】
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤に加えて、無機充填材、硬化促進剤、各種添加剤等を含有してもよい。以下、本開示のエポキシ樹脂組成物を構成する主な成分についてより詳細に説明する。
【0031】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂は、上述のように、一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0032】
エポキシ樹脂は上記一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでもよく、その種類は特に制限されない。エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(以下、「多官能エポキシ樹脂」ともいう)を用いることが好ましい。ここでエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂とは、硬化前のエポキシ化合物を意味し、モノマー及びオリゴマーを含む。エポキシ樹脂の種類は特に限定されない。具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとする、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂;上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂をエポキシ化したトリフェニルメタン型エポキシ樹脂;上記フェノール化合物及びナフトール化合物と、アルデヒド化合物とを酸性触媒下で共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化した共重合型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルであるジフェニルメタン型エポキシ樹脂;アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン系フェノール化合物のジグリシジルエーテルであるスチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールS等のジグリシジルエーテルである硫黄原子含有エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸化合物のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物の共縮合樹脂をエポキシ化したジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;ジフェニルメタン型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物であるアラルキル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。エポキシ樹脂は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
中でも、成形性及び流動性の観点から、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ナフトール化合物とフェノール化合物との共重合型エポキシ樹脂及びアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であるエポキシ樹脂(以下、特定エポキシ樹脂とも称する)が好ましい。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。エポキシ樹脂が特定エポキシ樹脂を含む場合、特定エポキシ樹脂の性能を発揮する観点から、エポキシ樹脂の総量中に、特定エポキシ樹脂を合計で30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましい。
【0034】
以下、好ましいエポキシ樹脂の具体例を示す。
【0035】
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(II)で示されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(II)で表されるエポキシ樹脂の中でもRのうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子であるYX-4000H(三菱ケミカル株式会社、商品名)、全てのRが水素原子である4,4’-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ビフェニル、全てのRが水素原子の場合及びRのうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子である場合の混合品であるYL-6121H(三菱ケミカル株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0036】
【化3】
【0037】
式(II)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数4~18のアリール基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0038】
スチルベン型エポキシ樹脂としては、スチルベン骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(III)で表されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(III)で表されるエポキシ樹脂の中でも、Rのうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子でありR10の全てが水素原子の場合と、3,3’,5,5’位のうちの3つがメチル基、1つがtert-ブチル基でそれ以外が水素原子でありR10の全てが水素原子の場合との混合品であるESLV-210(住友化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0039】
【化4】
【0040】
式(III)中、R及びR10は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0041】
ジフェニルメタン型エポキシ樹脂としては、ジフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(IV)で表されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(IV)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R11の全てが水素原子でありR12のうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子であるYSLV-80XY(新日鉄住金化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0042】
【化5】
【0043】
式(IV)中、R11及びR12は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0044】
硫黄原子含有型エポキシ樹脂としては、硫黄原子を含有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず、例えば下記一般式(V)で示されるエポキシ樹脂が挙げられる。下記一般式(V)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R13のうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位としたときの3,3’位がtert-ブチル基で6,6’位がメチル基でそれ以外が水素原子であるYSLV-120TE(新日鉄住金化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0045】
【化6】
【0046】
式(V)中、R13は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0047】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂をエポキシ化したエポキシ樹脂であれば、特に限定されず、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化等の手法を用いてエポキシ化したエポキシ樹脂が好ましく、例えば下記一般式(VI)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(VI)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R14の全てが水素原子でありR15がメチル基でi=1であるESCN-190、ESCN-195(住友化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0048】
【化7】
【0049】
式(VI)中、R14は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。R15は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0050】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を原料としてエポキシ化したエポキシ樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(VII)で示されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(VII)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0であるHP-7200(DIC株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0051】
【化8】
【0052】
式(VII)中、R16は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0053】
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂としては、トリフェニルメタン骨格を持つ化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば特に制限はなく、トリフェニルメタン骨格を持つ化合物とフェノール性水酸基を有する化合物とのノボラック型フェノール樹脂等のトリフェニルメタン型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂等のトリフェニルメタン型エポキシ樹脂が好ましく、下記一般式(VIII)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(VIII)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0、k=0である1032H60(三菱ケミカル株式会社、商品名)、EPPN-502H(日本化薬株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0054】
【化9】
【0055】
式(VIII)中、R17及びR18は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、kは0~4の整数、nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0056】
ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂としては、ナフトール骨格を有する化合物及びフェノール骨格を有する化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されず、ナフトール骨格を有する化合物及びフェノール骨格を有する化合物を用いたノボラック型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化したものが好ましく、下記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R21がメチル基でi=1であり、j=0、k=0であるNC-7300(日本化薬株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0057】
【化10】
【0058】
式(IX)中、R19~R21は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、jは0~2の整数、kは0~4の整数を示す。pは平均値で0~1の正数を示し、l、mはそれぞれ平均値で0~11の正数であり(l+m)は1~11の数を示す。
【0059】
上記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂としては、l個の構成単位及びm個の構成単位をランダムに含むランダム共重合体、交互に含む交互共重合体、規則的に含む共重合体、ブロック状に含むブロック共重合体等が挙げられ、これらのいずれか1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物としては、フェノール、クレゾール等のフェノール類及び/又はナフトール、ジメチルナフトール等のナフトール類と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル、これらの誘導体等とから合成されるフェノール樹脂を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。例えば、フェノール、クレゾール等のフェノール類及び/又はナフトール、ジメチルナフトール等のナフトール類とジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル、これらの誘導体等とから合成されるフェノール樹脂をグリシジルエーテル化したものが好ましく、下記一般式(X)及び(XI)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(X)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0、R38が水素原子であるNC-3000S(日本化薬株式会社、商品名)、i=0、R38が水素原子であるエポキシ樹脂と一般式(II)の全てのRが水素原子であるエポキシ樹脂とを重量比80:20で混合したCER-3000(日本化薬株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。また、下記一般式(XI)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0、j=0、k=0であるESN-175(新日鉄住金化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0061】
【化11】
【0062】
式(X)及び(XI)において、R38は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。R37、R39~R41は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、jは0~2の整数、kは0~4の整数を示す。
【0063】
上記一般式(II)~(XI)中のR~R21及びR37~R41について、「それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい」とは、例えば、式(II)中の8~88個のRの全てが同一でも異なっていてもよいことを意味している。他のR~R21及びR37~R41についても、式中に含まれるそれぞれの個数について全てが同一でも異なっていてもよいことを意味している。また、R~R21及びR37~R41はそれぞれが同一でも異なっていてもよい。例えば、RとR10の全てについて同一でも異なっていてもよい。
【0064】
また、一般式(III)~(XI)における炭素数1~18の有機基はアルキル基又はアリール基であることが好ましい。
【0065】
上記一般式(II)~(XI)中のnは、0~10の範囲であることが好ましい。nが10以下であると(B)成分の溶融粘度が高くなりすぎず、エポキシ樹脂組成物の溶融成形時の粘度が低下し、未充填不良、ボンディングワイヤ(素子とリードを接続する金線)の変形の発生等が抑制される傾向にある。1分子中の平均nは0~4の範囲に設定されることが好ましい。
【0066】
以上、エポキシ樹脂組成物に使用可能な好ましいエポキシ樹脂の具体例を上記一般式(II)~(XI)に沿って説明したが、より具体的な好ましいエポキシ樹脂として、耐リフロークラック性の観点からは、4,4’-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニルが挙げられ、成形性及び耐熱性の観点からは、4,4’-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)-ビフェニルが挙げられる。
【0067】
硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含む場合、エポキシ樹脂はトリフェニルメタン型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤と、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂との組合せにより、高Tg及び耐熱分解性を両立し本開示のエポキシ樹脂組成物の効果をより良好に発揮できる傾向にある。
【0068】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されない。中でも成形性、耐リフロー性及び電気的信頼など各種特性バランスの観点から、100g/eq~1000g/eqであることが好ましく、150g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0069】
エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含む場合、一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されず、110g/eq~150g/eqであることが好ましく、115g/eq~135g/eqであることがより好ましい。エポキシ当量が110g/eq以上であると、硬化物の耐熱分解性が向上する傾向にあり、エポキシ当量が150g/eq以下であると、硬化物のTgが上昇する傾向にある。
【0070】
エポキシ樹脂の軟化点又は融点は特に制限されない。中でも成形性の観点から、軟化点又は融点は、40℃~180℃であることが好ましく、取扱い性の観点からは50℃~130℃であることがより好ましい。
【0071】
エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含む場合、一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂の軟化点又は融点は特に制限されない。中でも成形性の観点から、軟化点又は融点は、40℃~180℃であることが好ましく、取扱い性の観点からは70℃~100℃であることがより好ましい。
【0072】
エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有率は、成形性の観点から、3質量%~15質量%であることが好ましく、5質量%~12質量%であることがより好ましい。
【0073】
エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂の全質量に対する一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂の割合は50質量%~100質量%であることが好ましく、70質量%~100質量%であることがより好ましく、90質量%~100質量%であることがさらに好ましい。
【0074】
<硬化剤>
エポキシ樹脂組成物は硬化剤を含有する。硬化剤は、上述のように、一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含んでいてもよい。
【0075】
硬化剤は上記一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤以外の硬化剤を含んでいてもよく、その種類は特に限定されない。例えば、フェノール樹脂等のフェノール化合物;ジアミン、ポリアミン等のアミン化合物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の無水有機酸;ジカルボン酸、ポリカルボン酸等のカルボン酸化合物等が挙げられる。硬化剤は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0076】
硬化剤として使用可能なフェノール化合物としては特に制限はない。例えば、硬化剤として一般に使用される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール樹脂又は多価フェールであることが好ましい。具体的には、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル等とから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジシクロペンタジエンとから共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂;これらのフェノール樹脂の2種以上を共重合して得られる共重合型フェノール樹脂などが挙げられる。フェノール化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上述のフェノール樹脂の中でも、耐リフロークラック性の観点からはアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール樹脂(以下、特定フェノール樹脂とも称する)が好ましい。特定フェノール樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。特定フェノール樹脂の性能を良好に発揮する観点からは、フェノール樹脂の総量中に、特定フェノール樹脂を合計で60質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。
【0078】
アラルキル型フェノール樹脂としては、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル、これらの誘導体等とから合成されるフェノール樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(XII)~(XIV)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0079】
【化12】
【0080】
式(XII)~(XIV)において、R22~R28は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、jは0~2の整数、kは0~4の整数、pは0~4の整数、nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0081】
上記一般式(XII)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、R23が全て水素原子であるMEH-7851(明和化成株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0082】
上記一般式(XIII)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、k=0であるXL-225、XLC(三井化学株式会社、商品名)、MEH-7800(明和化成株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0083】
上記一般式(XIV)で示されるフェノール樹脂の中でも、j=0、k=0、p=0であるSN-170(新日鉄住金化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0084】
ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(XV)で示されるフェノール樹脂が好ましい。下記一般式(XV)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0であるDPP(新日本石油化学株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0085】
【化13】
【0086】
式(XV)中、R29は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、nは平均値であり、0~10の正数を示す。
【0087】
トリフェニルメタン型フェノール樹脂としては、トリフェニルメタン骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(XVI)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0088】
下記一般式(XVI)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、k=0であるMEH-7500(明和化成株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0089】
【化14】
【0090】
式(XVI)中、R30及びR31は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、kは0~4の整数、nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0091】
ベンズアルデヒド型とアラルキル型との共重合型フェノール樹脂としては、ベンズアルデヒド骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合型フェノール樹脂であれば特に限定されず、下記一般式(XVII)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0092】
下記一般式(XVII)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、k=0、q=0であるHE-510(エア・ウォーター・ケミカル株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0093】
【化15】
【0094】
式(XVII)中、R32~R34は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、kは0~4の整数、qは0~5の整数、l、mはそれぞれ平均値で0~11の数であり(l+m)は1~11の数を示す。
【0095】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール化合物及びナフトール化合物から選ばれるフェノール性化合物とアルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるフェノール樹脂であれば特に限定されない。中でも下記一般式(XVIII)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0096】
下記一般式(XVIII)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、R35が全て水素原子であるタマノル758、759(荒川化学工業株式会社、商品名)、HP-850N(日立化成株式会社、商品名)等が市販品として入手可能である。
【0097】
【化16】
【0098】
式(XVIII)中、R35は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。R36は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい。iは0~3の整数、nは平均値であり、0~10の数を示す。
【0099】
上記一般式(XII)~(XVIII)におけるR22~R36について記載した「それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい」は、例えば、式(XII)中のi個のR22の全てが同一でも相互に異なっていてもよいことを意味している。他のR23~R36についても、式中に含まれるそれぞれの個数について全てが同一でも相互に異なっていてもよいことを意味している。また、R22~R36は、それぞれが同一でも異なっていてもよい。例えば、R22及びR23の全てについて同一でも異なっていてもよく、R30及びR31の全てについて同一でも異なっていてもよい。
【0100】
上記一般式(XII)~(XVIII)におけるnは、0~10の範囲であることが好ましい。10以下であると樹脂成分の溶融粘度が高くなりすぎず、エポキシ樹脂組成物の溶融成形時の粘度も低くなり、未充填不良、ボンディングワイヤ(素子とリードを接続する金線)の変形等が発生し難くなる。1分子中の平均nは0~4の範囲に設定されることが好ましい。
【0101】
エポキシ樹脂が一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂を含む場合、硬化剤はトリフェニルメタン型フェノール樹脂を含むことが好ましい。一般式(I)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂と、トリフェニルメタン型フェノール樹脂との組合せにより、高Tg及び耐熱分解性を両立し本開示のエポキシ樹脂組成物の効果をより良好に発揮できる傾向にある。
【0102】
硬化剤の官能基当量(硬化剤がフェノール樹脂である場合は水酸基当量)は特に制限されない。官能基当量は、成形性、耐リフロー性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点から、70g/eq~1000g/eqであることが好ましく、80g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0103】
硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含む場合、一般式(I)で表される構造単位を有する硬化剤の水酸基当量は、110g/eq~150g/eqであることが好ましく、115g/eq~135g/eqであることがより好ましい。水酸基当量が110g/eq以上であると、硬化物の耐熱分解性が向上する傾向にあり、水酸基当量が150g/eq以下であると、硬化物のTgが上昇する傾向にある。
【0104】
硬化剤の軟化点又は融点は特に制限されない。成形性と耐リフロー性の観点から、軟化点又は融点は40℃~180℃であることが好ましく、取扱い性の観点からは50℃~130℃であることがより好ましい。
【0105】
硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含む場合、一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤の軟化点又は融点は特に制限されない。成形性と耐リフロー性の観点から、軟化点又は融点は40℃~180℃であることが好ましく、取扱い性の観点からは70℃~100℃であることがより好ましい。
【0106】
硬化剤が一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤を含む場合、硬化剤の全質量に対する一般式(I)で表される構造単位を有するフェノール硬化剤の割合は特に制限されず、50質量%~100質量%であることが好ましく、70質量%~100質量%であることがより好ましく、90質量%~100質量%であることがさらに好ましい。
【0107】
エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノール樹脂を使用する場合、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との配合比率は、エポキシ樹脂の総エポキシ当量に対するフェノール樹脂の総水酸基当量の比率(フェノール樹脂中の総水酸基数/エポキシ樹脂中の総エポキシ基数)で0.5~2.0の範囲に設定することが好ましく、0.7~1.5の範囲に設定することがより好ましく、0.8~1.3の範囲に設定することがさらに好ましい。上記比率が0.5以上であると、エポキシ樹脂の硬化が充分に行われ、硬化物の耐熱性、耐湿性及び電気特性がより向上する傾向がある。一方、上記比率が2.0以下であると、フェノール樹脂成分が過剰とならず、硬化効率がより向上する。さらに硬化樹脂中に多量のフェノール性水酸基が残ることが抑制されるため、パッケージの電気特性及び耐湿性がより向上する傾向がある。
【0108】
<無機充填材>
エポキシ樹脂組成物は、無機充填材を含有してもよい。特に、エポキシ樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、エポキシ樹脂組成物は無機充填材を含有することが好ましい。エポキシ樹脂組成物が無機充填材を含有することで、硬化物の熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等が改良される。無機充填材の種類は特に限定されない。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア、タルク、クレー、マイカ等の粉未、これらを球形化したビーズなどが挙げられる。無機充填材として難燃効果を有するものを用いてもよい。難燃効果を有する無機充填材としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛の複合水酸化物等の複合金属水酸化物、硼酸亜鉛などが挙げられる。中でも、線膨張係数の低減の観点からは溶融シリカが好ましく、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。無機充填材は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
エポキシ樹脂組成物が無機充填材を含む場合、無機充填材の含有率には特に制限はない。エポキシ樹脂組成物の総量中に55体積%~90体積%の範囲であることが好ましく、70体積%~90体積%であることがより好ましい。無機充填材の含有率が55体積%以上であると、硬化物の熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等の特性がより向上する傾向がある。無機充填材の含有率が90体積%以下であると、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇することが抑制され、流動性がより向上して成形性がより良好になる傾向がある。
【0110】
無機充填材の平均粒径は特に制限されず、1μm~50μmであることが好ましく、10μm~30μmであることがより好ましい。無機充填材の平均粒径が1μm以上であると、エポキシ樹脂組成物の粘度の上昇がより抑制される傾向がある。無機充填材の平均粒径が50μm以下であると、樹脂成分と無機充填材との分離が抑制され、硬化物の均一性がより向上し硬化物特性のばらつきがより効果的に抑制されたり、狭い隙間への充填性がより向上したりする傾向がある。無機充填材の平均粒径は、レーザー散乱回折法粒度分布測定装置により、体積平均粒径として測定することができる。
【0111】
流動性の観点からは、無機充填材の粒子形状は角形よりも球形が好ましく、また無機充填材の粒度分布は広範囲に分布したものが好ましい。例えば、無機充填材を75体積%以上含有する場合、その70体積%以上を球状粒子とし、粒度分布を0.1μm~80μmという広範囲に分布させたものが好ましい。このような無機充填材は最密充填構造をとりやすいため、含有量を増加させても材料の粘度上昇が少なく、流動性により優れたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0112】
<硬化促進剤>
エポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を含有してもよい。エポキシ樹脂組成物における硬化促進剤の含有量は特に制限されない。エポキシ樹脂の総量100質量部に対して、硬化促進剤を総量で0.1質量部~10質量部含有することが好ましく、1質量部~7.0質量部含有することがより好ましい。硬化促進剤の含有量が0.1質量部以上であると、より短時間で硬化させることが可能になる傾向がある。一方、硬化促進剤の含有量が10質量部以下であると、硬化速度を適切に制御することができ、より良好な成形品が得られる傾向がある。
【0113】
硬化促進剤の種類は特に制限されず、例えば、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン等のシクロアミジン化合物;これらシクロアミジン化合物の誘導体;これらシクロアミジン化合物又はシクロアミジン化合物の誘導体に、無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第三級アミン化合物;これら第三級アミン化合物の誘導体;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール化合物;これらイミダゾール化合物の誘導体;トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン化合物;これら有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体;これら有機ホスフィン化合物に、無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物;これら有機ホスフィン化合物に、4-ブロモフェノール、3-ブロモフェノール、2-ブロモフェノール、4-クロロフェノール、3-クロロフェノール、2-クロロフェノール、4-ヨードフェノール、3-ヨードフェノール、2-ヨードフェノール、4-ブロモ-2-メチルフェノール、4-ブロモ-3-メチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジメチルフェノール、4-ブロモ-3,5-ジメチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4-クロロ-1-ナフトール、1-ブロモ-2-ナフトール、6-ブロモ-2-ナフトール、4-ブロモ-4’-ヒドロキシビフェニル等のハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に、脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる分子内分極を有する化合物(例えば、特開2004-156036号公報参照);テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムエチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウムテトラ置換ボレート;2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩;が挙げられる。
【0114】
エポキシ樹脂組成物が硬化促進剤を含有する場合、流動性の観点からは、有機ホスフィン化合物にπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、及び有機ホスフィン化合物にハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる分子内分極を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。また硬化性の観点からは、有機ホスフィン化合物にハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる分子内分極を有する化合物が好ましい。
【0115】
<各種添加剤>
エポキシ樹脂組成物は、カップリング剤、イオン交換体、離型剤、応力緩和剤、難燃剤、着色剤、消泡剤、可塑剤等の各種添加剤をさらに含有してもよい。また、エポキシ樹脂組成物は、以下に示す添加剤に限定されることなく、必要に応じて当技術分野で周知の各種添加剤を含有してもよい。
【0116】
(カップリング剤)
エポキシ樹脂組成物は、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウム/ジルコニウム系化合物などの公知のカップリング剤を含有してもよい。これにより樹脂成分と無機充填材との接着性をより向上させることができる。
【0117】
エポキシ樹脂組成物がカップリング剤を含有する場合、カップリング剤の含有率は、無機充填材の全質量に対して0.05質量%~5質量%であることが好ましく、0.1質量%~2.5質量%であることがより好ましい。カップリング剤の含有率が無機充填材の全質量に対して0.05質量%以上であると、フレームとの接着性がより向上する傾向がある。カップリング剤の含有率が無機充填材の全質量に対して5質量%以下であると、パッケージの成形性がより向上する傾向がある。
【0118】
カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン;β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシラン;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプトシラン;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン等のアルキルシランなどのシランカップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネートカップリング剤が挙げられる。カップリング剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、強度の観点からは、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシランが好ましい。
【0119】
(イオン交換体)
エポキシ樹脂組成物は、イオン交換体を含有してもよい。特にエポキシ樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、イオン交換体を含有することが好ましい。イオン交換体の種類は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ハイドロタルサイト類、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びビスマスからなる群より選ばれる元素の含水酸化物等が挙げられる。イオン交換体は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、下記一般式(A)で示されるハイドロタルサイトが好ましい。
【0120】
Mg(1-X)Al(OH)(COX/2・mHO ……(A)
(0<X≦0.5、mは正の数)
【0121】
エポキシ樹脂組成物がイオン交換体を含有する場合、イオン交換体の含有率は、ハロゲンイオン等のイオンを捕捉できる十分な量であれば特に制限はない。イオン交換体の含有率は、エポキシ樹脂の総量に対して0.1質量%~30質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0122】
(離型剤)
エポキシ樹脂組成物は、成形時における金型との良好な離型性の観点から、離型剤を含有してもよい。離型剤の種類は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルナバワックス、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。離型剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、酸化型又は非酸化型のポリオレフィン系ワックスが好ましい。ポリオレフィン系ワックスとしては、例えば市販品ではヘキスト社製のH4、PE、PEDシリーズ等の数平均分子量が500~10000程度の低分子量ポリエチレンが挙げられる。
【0123】
エポキシ樹脂組成物が離型剤を含有する場合、離型剤の含有率は特に制限されず、エポキシ樹脂の総量に対して0.01質量%~10質量%であることが好ましく、0.1質量%~5質量%であることがより好ましい。離型剤の含有率がエポキシ樹脂の総量に対して0.01質量%以上であると、離型性が充分に得られる傾向がある。離型剤の含有率がエポキシ樹脂の総量に対して10質量%以下であると、より良好な接着性が得られる傾向がある。またエポキシ樹脂組成物が離型剤としてポリオレフィン系ワックスとその他の離型剤とを併用する場合、その他の離型剤の含有率はエポキシ樹脂の総量に対して0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~3質量%であることがより好ましい。
【0124】
(応力緩和剤)
エポキシ樹脂組成物は、シリコーンオイル、シリコーンゴム粉末等の応力緩和剤を含有してもよい。応力緩和剤を配合することにより、パッケージの反り変形量、パッケージクラックをより低減させることができる。応力緩和剤の種類は特に限定されない。一般に使用されている応力緩和剤としては、例えば、シリコーン系、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エラストマー、NR(天然ゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンパウダー等のゴム粒子、メタクリル酸メチル-スチレン-ブタジエン共重合体(MBS)、メタクリル酸メチル-シリコーン共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体等のコア-シェル構造を有するゴム粒子などが挙げられる。応力緩和剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、シリコーン系応力緩和剤が好ましい。シリコーン系応力緩和剤としては、エポキシ基を有するシリコーン系応力緩和剤、アミノ基を有するシリコーン系応力緩和剤、これらをポリエーテル変性したもの等が挙げられる。
【0125】
(難燃剤)
エポキシ樹脂組成物は、難燃性の観点から、難燃剤を含有してもよい。難燃剤の種類は特に制限されず、一般に使用されている公知の難燃剤から適宜選択してよい。例えば、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む公知の有機若しくは無機の化合物、金属水酸化物等が挙げられる。難燃剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。エポキシ樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、難燃剤の含有率は特に制限されない。難燃剤の含有率は、エポキシ樹脂の総量に対して1質量%~30質量%であることが好ましく、2質量%~15質量%であることがより好ましい。
【0126】
(着色剤)
エポキシ樹脂組成物は着色剤を含有してもよい。着色剤としては、カーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を挙げることができる。着色剤の含有量は目的等に応じて適宜選択してよい。
【0127】
(エポキシ樹脂組成物の調製方法)
エポキシ樹脂組成物の調製方法は特に制限されず、各種成分を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いても調製できる。一般的な手法としては、各成分をミキサー等によって十分混合し、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分を均一に撹拌及び混合し、予め70℃~140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練、冷却し、粉砕する等の方法でエポキシ樹脂組成物を得ることができる。エポキシ樹脂組成物は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び重量でタブレット化すると取り扱いが容易である。
【0128】
エポキシ樹脂組成物は、常温常圧下(例えば、25℃、大気圧下)において固体であっても液状であってもよく、固体であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物が固体である場合の形状は特に制限されず、粉状、粒状、タブレット状等が挙げられる。エポキシ樹脂組成物がタブレット状である場合の寸法及び質量は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び質量となるようにすることが取り扱い性の観点から好ましい。
【0129】
(エポキシ樹脂組成物の用途)
本開示のエポキシ樹脂組成物は、電子部品の素子の封止用途に好適であり、中でも、ECU、車載IC等の電子部品の素子の封止用途に好適である。
【0130】
(エポキシ樹脂組成物の物性)
エポキシ樹脂組成物を硬化したときのTgは、特に制限されない。例えば、トランスファー成形機を用い、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形したときのTgが150℃以上であることが好ましく、175℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。本開示において、Tgは、引張りモードによる動的粘弾性測定(DMA)により算出される。測定条件は、振動数:10Hz、昇温速度:10℃/minとし、得られたtanδチャートのピークをガラス転移温度とする。測定装置としては、例えば、Parkin Elmer社の「DMA8000」を用いることができる。
【0131】
<電子部品装置>
本開示の電子部品装置は本開示のエポキシ樹脂組成物によって封止された素子を備える。電子部品装置に使用する支持体及び素子の種類は特に制限されず、電子部品装置の製造に一般的に用いられるものを使用してよい。本開示のエポキシ樹脂組成物は高いTgを示し、高温化で長時間放置しても重量減少が少ない硬化物が得られることから、ECU、車載IC等の電子部品装置の用途に特に好適である。また、電子部品装置は、演算、記憶等のために用いる電子部品装置であってもよい。
【0132】
エポキシ樹脂組成物を用いて電子部品装置を封止する方法は特に制限されず、低圧トランスファー成形法、インジェクション成形法、圧縮成形法等が挙げられる。
【実施例
【0133】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0134】
〔エポキシ樹脂組成物の調製〕
(実施例及び比較例)
実施例及び比較例では以下の成分を使用した。
【0135】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:エポキシ当量196g/eq、融点106℃のビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社、商品名YX-4000)
・エポキシ樹脂2:エポキシ当量167g/eq、融点59℃のトリフェニルメタン型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社、商品名1032H60)
【0136】
(硬化剤)
・硬化剤1:水酸基等量120g/eqのフェノール樹脂
・硬化剤2:水酸基当量98g/eq、軟化点115℃のトリフェニルメタン型フェノール樹脂(明和化成株式会社、商品名MEH-7500)
硬化剤3:一般式(I)の構造単位を有するフェノール硬化剤(一般式(I)において、Rは水素原子、Yはいずれも水素原子、p=0、q=0、m=0、0<r≦1であるフェノール硬化剤;水酸基当量123g/eq)
【0137】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィンと1,4-ベンゾキノンとの付加反応物
【0138】
(無機充填材)
・無機充填材:平均粒径17.5μm、比表面積3.8m/gの球状溶融シリカ
【0139】
(その他の添加剤)
・カップリング剤:エポキシシラン(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
・着色剤:カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社、商品名MA-100)
・離型剤:Licowax E(商品名、クラリアント社)
・イオン交換体:HT-P(商品名、堺化学工業株式会社)
・シリコーン:(信越化学工業株式会社、商品名KF-105)
・消泡剤:BY16-876(商品名、東レ・ダウコーニング株式会社)
・応力緩和剤:SRK-200E(商品名、三菱ケミカル株式会社)及びNH-100S(商品名、日塗化学株式会社)の混合物
・可塑剤:TPPO(北興化学)
【0140】
上述の成分をそれぞれ表1に示す量(質量部)で配合し、混練温度110℃の条件で混練を行うことによって、実施例、及び比較例のエポキシ樹脂組成物をそれぞれ得た。表中、「-」は成分が配合されていないことを表す。
【0141】
【表1】
【0142】
〔エポキシ樹脂組成物の特性評価〕
次に、上記で得られたそれぞれのエポキシ樹脂組成物を、以下に示す各種試験によって評価した。評価結果を表2に示す。なお、エポキシ樹脂組成物の成形は、トランスファー成形機を用い、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件下で行った。
【0143】
(1)Tg(動的粘弾性測定(DMA))
エポキシ樹脂組成物の硬化物5mm×2mm×50mmを得て、Parkin Elmer社の「DMA8000」を用いてTgを測定した。30℃~330℃まで10℃/分の昇温速度で測定を行った。結果を表2に示す。
【0144】
(2)流動性
混練後のエポキシ樹脂組成物を20g秤量し、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、エポキシ樹脂組成物を上記条件で成形し、流動距離(cm)を求めた。結果を表2に示す。
【0145】
(3)重量減少
直径50mm、厚さ3mmの硬化物を200℃の恒温槽で1000時間保管した後の重量減少の度合いを測定した。結果を表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
表2から分かるように、硬化剤3を含有する実施例は比較例と比べて同程度のTgを有し、重量安定性に関しても優れる結果となった。これに対して、硬化剤2を含む比較例では、実施例と比較して、重量減少が大きく、保存安定性に劣っていた。