(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】有機シリコン化合物の製造方法、アミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法および有機シリコン化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20220830BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C07F7/18 M
C07F7/18 M CSP
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018114953
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕以智
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】Synthesis, Reactivity, Functionalization, and ADMET Properties of Silicon-Containing Nitrogen Heterocycles,Journal of the American Chemical Society,2018年,(2018), 140, 21, P6668-6684
【文献】B(C6F5)3-Catalyzed C-Si/Si-H Cross-Metathesis of Hydrosilanes,Journal of the American Chemical Society,2017年,(2017), 139, 36 p12434-12437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/
C07B 61/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機シリコン化合物の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される化合物と、金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウム化合物から選択される少なくとも1種とを反応させて下記一般式(3)で表される化合物を製造する工程と、
前記一般式(3)で表される化合物と下記一般式(4)で表される化合物とを反応させる工程とを有する、有機シリコン化合物の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、
無置換の炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表し;
mは1~nの整数を表す。]
【化2】
[一般式(2)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Xは、ハロゲン原子を表す。]
【化3】
[一般式(3)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Mは、リチウム原子またはハロゲン化マグネシウムを表す。]
【化4】
[一般式(4)において、R
5およびR
6は、それぞれ独立して、
無置換の炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表す。]
【請求項2】
下記一般式(7)で表される化合物と下記一般式(8)で表される化合物とを塩基性の媒体中で反応させて、前記一般式(2)で表される化合物を製造する工程を有する、請求項1に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
【化5】
[一般式(7)において、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Xは、ハロゲン原子を表す。]
【化6】
[一般式(8)において、R
7は水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Yはハロゲン原子を表す。]
【請求項3】
前記一般式(2)で表される化合物と有機リチウム化合物とを反応させて前記一般式(3)で表される化合物を製造する、請求項1または2に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)のmが1であり、一般式(1)および一般式(4)のnが4である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(7)のXおよび一般式(8)のYが、ともに臭素原子である、請求項2~4のいずれか1項に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される有機シリコン化合物のベンジル基をアミノ基から脱保護する工程を有する、下記一般式(6)で表されるアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法。
【化7】
[一般式(6)において、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、
無置換の炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表し;
mは1~nの整数を表す。]
【化8】
[一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、
無置換の炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表し;
mは1~nの整数を表す。]
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法を用いて、前記一般式(1)で表される有機シリコン化合物を製造する工程を有する、請求項6に記載のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記ベンジル基の脱保護を、水素分子を用いた水素添加反応によって行う、請求項6または7に記載のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(1)で表される有機シリコン化合物。
【化9】
[一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または
フルオロ基もしくはビニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、
無置換の炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表し;
mは1~nの整数を表し;
n-mは2~3の整数を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造するための前駆体として有用な有機シリコンとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無置換のアミノ基で置換されたアリール基を有する有機シリコン化合物(アミノアリール基含有有機シリコン化合物)は、ポリイミド樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂等の原料や、シランカップリング剤として有用であり、工業的規模での効率的な生産実現を目指して、これまでに幾つかの製造方法が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1および非特許文献1には、N,N-ビス(トリメチルシリル)-p-ブロモアニリンから製造したグリニャール試薬をジメチルジクロロシラン等のシリコン化合物と反応させて、トリメチルシリル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造し、そのトリメチルシリル基をアミノ基から脱保護することでアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造する方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2および非特許文献2には、1,2-ビス(クロロジメチルシリル)エタンなどのビス(クロロシリル)アルキレン化合物によりアミノ基に保護基を導入したクロロアニリン誘導体からグリニャール試薬を製造し、そのグリニャール試薬とシリコン化合物とを反応させた後に保護基をアミノ基から脱保護することでアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造する方法が提案されている。
【0005】
一方、非特許文献3には、保護基を導入していないp-ヨードアニリンとトリエトキシシランを、触媒とリガンド分子の存在下でカップリング反応させることによりアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-099979号公報
【文献】特開2006-104104号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of Organic Chemistry 第51号2434頁(1986年)
【文献】Synthetic Communication 第16号809頁(1986年)
【文献】Journal of Organic Chemistry 第66号7449頁(2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1、2および非特許文献1、2には、アミノ基がシリル系保護基で保護されたハロアニリン誘導体からアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造する方法が記載され、非特許文献3には、保護基で保護されていないp-ヨードアニリンとシリコン化合物のカップリング反応により、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造したことが記載されている。
しかし、特許文献1、2および非特許文献1、2で使用しているアミノ基がシリル系保護基で保護されたハロアニリン誘導体は、製造工程が煩雑であることや、保護基の導入に用いる保護剤が高価であることにより、そのハロアニリン誘導体を用いてアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造すると、どうしてもコストが嵩み、製造効率が低くなるという問題がある。
【0009】
例えば、非特許文献1には、p-ブロモアニリンにトリメチルシリル基を導入してN-(トリメチルシリル)-p-ブロモアニリンとした後、グリニャール反応を用いて、もう1つのトリメチルシリル基を導入することでN,N-ビス(トリメチルシリル)-p-ブロモアニリンを製造する方法が記載されている。しかし、この方法では、トリメチルシリル基の導入を2段階で行うことと、ここでのグリニャール反応と、アミノ基を保護した後、シリル基を導入するために行うグリニャール反応との2回のグリニャール反応を行うことになるため、工程数が多くなるとともに、工程毎の損失が累積して収率が低くなるという問題がある。これに対して、特許文献1には、N-(トリメチルシリル)-p-ブロモアニリンに他の方法でトリメチルシリル基を導入した例が記載されている。しかし、この方法を用いても、保護基の導入に複数の工程を要することには変わりがなく、やはり製造効率の点で満足のいく方法とは言えない。
【0010】
また、特許文献2および非特許文献2では、1,2-ビス(クロロジメチルシリル)エタン等のビス(クロロシリル)アルキレン化合物を保護剤に使用してクロロアニリンに保護基を導入している。ここで、このシリル系保護剤は高価であるため工業的規模で使用するのは現実的でない。しかも、保護基を導入する際に、高温に加熱してリフラックスを行う必要があるため、エネルギーコストも嵩んでしまう。
【0011】
一方、非特許文献3では、保護基を使用せず、カップリング反応を用いてアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造しているが、そのカップリング反応の際、高価なビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)触媒を大量に使用する必要がある。また、リガンド分子に使用する2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ビフェニルも高価な物質である。そのため、このカップリング反応を用いる方法も、工業的規模で行う製造方法として不適切である。
【0012】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を、低コストで効率よく製造することができる製造方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アミノ基の保護基としてベンジル基を用いることにより、煩雑な操作や高温加熱、高価な保護剤を用いることなく、アミノ基が保護されたハロアニリン誘導体を得ることができ、さらに、そのハロアニリン誘導体とシリコン化合物との反応により、効率よく、ベンジル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物が製造できることを見出した。そして、そのベンジル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物を脱保護することにより、アミノアリール基含有有機シリコン化合物が高い収率で得られることを見出すに至った。本発明はこれらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0014】
[1] 下記一般式(1)で表される有機シリコン化合物の製造方法であって、下記一般式(2)で表される化合物と、金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウム化合物から選択される少なくとも1種とを反応させて下記一般式(3)で表される化合物を製造する工程と、前記一般式(3)で表される化合物と下記一般式(4)で表される化合物とを反応させる工程とを有する、有機シリコン化合物の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表し;
mは1~nの整数を表す。]
【化2】
[一般式(2)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Xは、ハロゲン原子を表す。]
【化3】
[一般式(3)において、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Mは、リチウム原子またはハロゲン化マグネシウムを表す。]
【化4】
[一般式(4)において、R
5およびR
6は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表す。]
[2] 下記一般式(7)で表される化合物と下記一般式(8)で表される化合物とを塩基性の媒体中で反応させて、前記一般式(2)で表される化合物を製造する工程を有する、[1]に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
【化5】
[一般式(7)において、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Xは、ハロゲン原子を表す。]
【化6】
[一般式(8)において、R
7は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
Yはハロゲン原子を表す。]
[3] 前記一般式(2)で表される化合物と有機リチウム化合物とを反応させて前記一般式(3)で表される化合物を製造する、[1]または[2]に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
[4] 一般式(1)のmが1であり、一般式(1)および一般式(4)のnが4である、[1]~[3]1~3のいずれか1項に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
[5] 一般式(7)のXおよび一般式(8)のYが、ともに臭素原子である、[2]~[4]のいずれか1項に記載の有機シリコン化合物の製造方法。
[6] 下記一般式(1)で表される有機シリコン化合物のベンジル基をアミノ基から脱保護する工程を有する、下記一般式(6)で表されるアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法。
【化7】
[一般式(6)において、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し;
nは1~4の整数を表し;
mは1~nの整数を表す。]
[7] [1]~[5]のいずれか1項に記載の製造方法を用いて、前記一般式(1)で表される有機シリコン化合物を製造する工程を有する、[6]に記載のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法。
[8] アミノ基からのベンジル基の脱保護を、水素分子を用いた水素添加反応によって行う、[6]または[7]に記載のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法。
[9] 前記一般式(1)で表される有機シリコン化合物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ベンジル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物を、低コストで効率よく製造することができる。このベンジル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物を脱保護することにより、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を高い収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書等において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
<有機シリコン化合物>
本発明の有機シリコン化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有するものである。
一般式(1)で表される有機シリコン化合物は、中央のベンゼン環に結合している窒素原子に2つのベンジル基が結合した構造を有しており、この構造が、ベンジル基で保護されたアミノアリール基を構成する。本明細書中では、一般式(1)で表される有機シリコン化合物を、「ベンジル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物」ということがある。
一般式(1)で表される化合物は、下記の<有機シリコン化合物の製造方法>の欄で説明するように、低コストで効率よく製造することができ、また、そのベンジル基を脱保護することにより、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を高い収率で得ることができる。そのため、一般式(1)で表される化合物は、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造するための前駆体として有用性が高い。
以下において、一般式(1)で表される化合物の化学構造について説明する。
【0018】
【0019】
一般式(1)において、R1、R2、R3、R4およびR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表す。R1、R2、R3、R4およびR7は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1、R2、R3、R4およびR7は、それぞれ、その結合手が掛かるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。
R1、R2、R3、R4およびR7におけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は1~6であり、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3である。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1-メチルペンチル基、1-エチルブチル基等を例示することができる。
R1、R2、R3、R4およびR7におけるアルコキシ基は、オキシ基にアルキル基が結合した構造を有する。アルコキシ基を構成するアルキル基の説明と好ましい範囲、具体例については、R1等におけるアルキル基の説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。
R1、R2、R3、R4およびR7におけるアルキル基およびアルコキシ基は、置換基で置換されていてもよい。置換基として、フルオロ基、ビニル基等を挙げることができる。
R1、R2、R3およびR4として特に好ましい基は、その有機シリコン化合物の原料の入手が容易であることから、水素原子またはメチル基である。
R7として特に好ましい基は、その有機シリコン化合物の原料の入手が容易であることと、脱保護を簡便に行うことができることから、水素原子またはメトキシ基である。
【0020】
一般式(1)において、-Si(OR5)n-mR6
4-nで表される基は、その結合手が掛かるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。-Si(OR5)n-mR6
4-nで表される基の結合位置は特に限定されず、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表す。R5とR6は互いに同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の説明と好ましい範囲、具体例については、R1等におけるアルキル基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。中でも、R5およびR6は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることがより好ましい。
【0021】
nは1~4の整数を表し、mは1~nの整数を表す。mは1~2であることが好ましく、n-mは2~3であることが好ましい。mが2以上であるとき、括弧で括られた構造同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。すなわち、mが2以上であるとき、複数のR1、R2、R3、R4およびR7は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。また、mが1であるとき、分子内に存在する2つのR7は互いに同一であっても異なっていてもよい。n-mが2以上であるとき、複数のR5は互いに同一であっても異なっていてもよい。nが2以下であるとき、複数のR6は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
以下において、一般式(1)で表される有機シリコン化合物の具体例を例示する。ただし、本発明の一般式(1)で表される有機シリコン化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、Meはメチル基を表す。
【0023】
【0024】
<有機シリコン化合物の製造方法>
次に、本発明の有機シリコン化合物の製造方法について詳細に説明する。
本発明の有機シリコン化合物の製造方法は、一般式(1)で表される有機シリコン化合物の製造方法であって、下記一般式(2)で表される化合物と、金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウム化合物から選択される少なくとも1種とを反応させて下記一般式(3)で表される化合物を製造する工程([1-1]有機金属化合物製造工程)と、下記一般式(3)で表される化合物と下記一般式(4)で表される化合物とを反応させる工程([1-2]有機シリコン化合物製造工程)とを有する。
本発明で製造する一般式(1)で表される化合物の説明については、上記の<有機シリコン化合物>の欄の記載を参照することができる。
本発明の有機シリコン化合物の製造方法において、出発物質に用いる化合物は下記一般式(2)で表される化合物である。
【0025】
【0026】
一般式(2)において、R1、R2、R3、R4およびR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を表す。一般式(2)におけるR1、R2、R3、R4およびR7は、それぞれ、一般式(1)におけるR1、R2、R3、R4およびR7と同義であり、その説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。
Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子として、例えばヨウ素原子、臭素原子、塩素原子を挙げることができ、一般式(3)で表される化合物を製造し易いことからヨウ素原子、臭素原子であることが好ましい。Xは、その結合手が掛かるベンゼン環の置換可能ないずれかの位置に結合する。結合位置は、特に限定されず、アミノ基に対するオルト位,メタ位,パラ位のいずれであってもよい。
【0027】
一般式(2)で表される化合物は、ハロアニリンまたはその誘導体のアミノ基がベンジル基で保護された構造を有する。これにより、上記の各工程で、アミノ基が化学変化を起こすことが回避され、これらの工程終了後に、目的のベンジル基で保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物(一般式(1)で表される化合物)を収率よく得ることができる。ここで、一般式(2)で表される化合物は、下記の(一般式(2)で表される化合物の製造方法)の欄で説明するように、ハロアニリンまたはその誘導体と、ベンジルハライドまたはその誘導体とを塩基性の媒体中で反応させるという、簡単な方法により製造することができ、その製造に煩雑な操作や高温加熱、高価な保護剤が不要である。そのため、一般式(2)で表される化合物を出発物質として用いることにより、従来のシリル系保護剤でアミノ基を保護したハロアニリン誘導体を用いる場合に比べて、アミノ基が保護されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物を低コストで効率よく製造することができる。
以下に、一般式(2)で表される化合物の製造方法を具体的に説明する。
【0028】
(一般式(2)で表される化合物の製造方法)
一般式(2)で表される化合物であって、2つのベンジル基のベンゼン環に結合している各R7が同一であるもの(下記一般式(2a)で表される化合物)は、下記一般式(7)で表される化合物と下記一般式(8)で表される化合物とを塩基性条件下で反応させることにより製造することができる。また、一般式(2)で表される化合物であって、2つのベンジル基のベンゼン環に結合している各R7が異なるものは、下記一般式(8)で表される化合物として、R7が互いに異なる2種類の化合物を用いることにより製造することができる。
【0029】
【0030】
一般式(7)において、R1、R2、R3、R4およびXは、それぞれ、一般式(2)におけるR1、R2、R3、R4およびXと同義であり、その説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(2)および一般式(2)で参照した一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。
一般式(8)において、R7は一般式(2)におけるR7と同義であり、その説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(2)で参照した一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。Yはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子として、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子を挙げることができ、臭素原子であることが好ましい。
反応溶媒の液性を調整する塩基は、無機塩基性化合物であっても有機塩基性化合物であってもよい。無機塩基性化合物として、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。有機塩基性化合物として、トリエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジアザビシクロウンデセンなどの脂肪族三級アミン等を挙げることができる。これらの塩基は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
反応に供する一般式(7)で表される化合物と一般式(8)で表される化合物のモル比(一般式(7)で表される化合物:一般式(8)で表される化合物)は、1:2~1:3とすることが好ましく、1:2~1:2.5とすることがより好ましく、1:2~1:2.2とすることがさらに好ましい。
反応溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の非プロトン性溶媒、または、これらの2種類以上を混合した混合溶媒を用いることができる。
反応温度は、0~40℃から適宜選択することができ、0~30℃から選択することが好ましい。
反応時間は、0.1~24時間とすることが好ましく、1~12時間とすることがより好ましい。
得られた一般式(2)で表される化合物は、精製してから有機シリコン化合物の製造に供してもよいし、精製せずに有機シリコン化合物の製造に供してもよい。精製方法は特に限定されず、例えば抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の精製方法を適宜組み合わせて用いることができる。
【0032】
(有機シリコン化合物の製造工程)
次に、有機シリコン化合物の製造方法の各工程について説明する。
【0033】
[1-1]有機金属化合物製造工程
この工程では、下記反応式に示すように、上記の一般式(2)で表される化合物と、金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウム化合物から選択される少なくとも1種とを反応させて一般式(3)で表される化合物を製造する。反応に供する一般式(2)で表される化合物は、全て同一のものであってもよいし、2種類以上を組み合わせて反応に供してもよい。
【0034】
【0035】
反応式において、Mgは金属マグネシウムを表し、RLi(Rは炭化水素基を表す)は有機リチウム化合物の例を表し、RMgX(Rは炭化水素基を表し、Xはハロゲンを表す)は有機マグネシウム化合物の例を表す。RMgXを構成するハロゲンXの種類は、一般式(2)におけるハロゲン原子Xと同じであっても異なっていてもよい。有機リチウム化合物として、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムなどのアルキルリチウム等を挙げることができ、有機マグネシウム化合物としては、イソプロピルマグネシウム塩化物などのアルキルマグネシウムハロゲン化物等を挙げることができる。
【0036】
一般式(3)において、R1、R2、R3、R4およびR7は、それぞれ一般式(2)におけるR1、R2、R3、R4およびR7と同義であり、その説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(2)で参照した一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。
Mは、リチウム原子またはハロゲン化マグネシウムMgX(Xはハロゲンを表す)を表す。ハロゲン化マグネシウムを構成するハロゲンとして、例えばI、Br、Clを挙げることができ、一般式(3)で表される化合物を製造し易いことからI、Brであることが好ましい。ハロゲン化マグネシウムを構成するハロゲンの種類は、一般式(2)におけるハロゲン原子Xと同じであっても異なっていてもよい。Mは、一般式(2)で表される化合物と、金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウム化合物から選択される少なくとも1種との反応により、一般式(2)のハロゲン原子Xと置き換わって導入されたものであり、その結合位置は一般式(2)におけるハロゲン原子Xの結合位置に対応する。
ここで製造される一般式(3)で表される化合物は有機金属化合物であり、次工程[1-2]において、一般式(4)で表される化合物に対し求核剤として作用する。
【0037】
工程[1-1]における反応は、グリニャール反応やリチウム-ハロゲン交換反応で用いられる一般的な反応条件を用いて行うことができる。
反応に供する一般式(2)で表される化合物と、金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウムから選択される少なくとも1種とのモル比(一般式(2)で表される化合物:金属マグネシウム、有機リチウム化合物および有機マグネシウムから選択される少なくとも1種)は、1:1~1:4とすることが好ましく、1:1~1:2とすることがより好ましく、1:1~1:1.5とすることがさらに好ましい。
反応溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の非プロトン性溶媒、または、これらの2種類以上を混合した混合溶媒を用いることができる。
反応温度は、-78~150℃から適宜選択することができ、-78~100℃から選択することが好ましい。
反応時間は、0.1~24時間とすることが好ましく、1~4時間とすることがより好ましい。
製造した一般式(3)で表される化合物は、精製してから次工程[1-2]に供してもよいし、精製せずに次工程[1-2]に供してもよい。
【0038】
[1-2]有機シリコン化合物製造工程
この工程では、工程[1-1]で製造した一般式(3)で表される化合物と、下記一般式(4)で表される化合物とを反応させる。その結果、一般式(1)で表される有機シリコン化合物が生成される。反応に供する一般式(3)で表される化合物は、全て同一のものであってもよいし、2種類以上を組み合わせて反応に供してもよい。
【0039】
【0040】
一般式(4)において、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表す。一般式(4)におけるR5およびR6は、それぞれ一般式(1)におけるR5およびR6と同義であり、その説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。中でも、R5およびR6は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であることが好ましく、入手の容易さと一般式(3)で表される化合物との反応性の点から、メチル基、エチル基であることがより好ましい。一般式(4)で表される化合物の好ましい具体例として、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン等を例示することができる。
nは1~4の整数を表す。nが2以上であるとき、複数のR5は互いに同一であっても異なっていてもよい。nが2以下であるとき、複数のR6は互いに同一であっても異なっていてもよい。
反応に供する一般式(4)で表される化合物は、全て同一のものであってもよいし、2種類以上を組み合わせて反応に供してもよい。
【0041】
ここで生成する一般式(1)で表される化合物において、-Si(OR5)n-mR6
4-nで表される基は、一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物との反応により、Mと置き換わって導入されたものであり、その結合位置は一般式(3)におけるMの結合位置に対応する。また、-Si(OR5)n-mR6
4-nで表される基は、一般式(4)で表される化合物からm個の(OR5)を除いた部分に対応する。
【0042】
反応に供する一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とのモル比(一般式(3)で表される化合物:一般式(4)で表される化合物)は、1:1~1:6とすることが好ましく、1:1~1:4とすることがより好ましく、1:1~1:2とすることがさらに好ましい。
ここで用いる反応溶媒の具体例については、上記の工程[1-1]で用いる反応溶媒の具体例を参照することができる。
反応温度は、-78~40℃から適宜選択することができ、-78~20℃から選択することが好ましい。
反応時間は、0.1~24時間とすることが好ましく、1~6時間とすることがより好ましい。
【0043】
[1-3]精製工程
この工程は、必要に応じて、製造した一般式(2)で表される化合物、工程[1-1]で得た一般式(3)で表される化合物、および工程[1-2]で得た一般式(1)で表される有機シリコン化合物の少なくともいずれかを精製する工程であり、一般式(2)で表される化合物の製造工程の後、工程[1-1]の後、工程[1-2]の後にそれぞれ行うことができる。本発明の製造方法によれば、精製工程を行わなくとも純度の高い有機シリコン化合物を製造することができるが、精製工程を行うことにより、微量の金属不純物等を除去することができ、より純度の高い有機シリコン化合物を得ることができる。
精製方法は特に限定されず、抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶、減圧蒸留等、有機化合物の精製方法として通常用いられている方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0044】
<アミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法>
次に、本発明のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法について説明する。
本発明のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法は、下記一般式(6)で表される有機シリコン化合物の製造方法である。本発明のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法は、一般式(1)で表される有機シリコン化合物のベンジル基をアミノ基から脱保護する工程([2-2]脱保護工程)を少なくとも含むものである。また、本発明のアミノアリール基含有有機シリコン化合物の製造方法は、一般式(1)で表される有機シリコン化合物を製造する工程([2-1]有機シリコン化合物製造工程)をさらに含むものであることが好ましい。
以下において、各工程について説明する。
【0045】
[2-1]有機シリコン化合物製造工程
一般式(1)で表される有機シリコン化合物の製造方法の説明については、上記の<有機シリコン化合物の製造方法>の欄の記載を参照することができる。
【0046】
[2-2]脱保護工程
この工程では、下記反応式に示すように、工程[2-1]で製造した、一般式(1)で表される有機シリコン化合物のベンジル基をアミノ基から脱保護する。これにより、下記一般式(6)で表されるアミノアリール基含有有機シリコン化合物が生成される。
【0047】
【0048】
一般式(1)の説明については、<有機シリコン化合物の製造方法>および<有機シリコン化合物>の欄の記載を参照することができる。
一般式(6)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、mおよびnは、それぞれ一般式(1)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、mおよびnと同義であり、その説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。
【0049】
ベンジル基の脱保護は、ベンジル基を脱保護するための一般的な脱保護剤および脱保護条件を用いて行うことができる。脱保護剤の具体例としては、パラジウム炭素、水素ガス、蟻酸、蟻酸アミド、金属ナトリウム、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン等を挙げることができ、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、副生成物が少なく、反応操作や目的生成物の精製手順が簡単であることから、パラジウム炭素と水素ガスを組み合わせた水素添加反応により脱保護を行うことが好ましい。
反応に供する一般式(1)で表される化合物と脱保護剤とのモル比(一般式(1)で表される化合物:脱保護剤)は、脱保護剤の種類によっても異なるが、1:0.01~1:10とすることが好ましく、1:0.01~1:5とすることがより好ましく、1:0.1~1:2とすることがさらに好ましい。
反応溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、メタノール、エタノール等の有機溶媒、または、これらの2種類以上を混合した混合溶媒を用いることができる。
反応温度は、-78~40℃から適宜選択することができ、0~30℃から選択することが好ましい。
反応時間は、0.1~72時間とすることが好ましく、1~48時間とすることがより好ましい。
得られたアミノアリール基含有有機シリコン化合物は、必要に応じて精製してもよい。例えば、濾過、抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の方法を適宜組み合わせることにより、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を高い純度に単離精製することができる。
【0050】
本発明によれば、本発明の有機シリコン化合物の製造方法で製造した有機シリコン化合物を前駆体として用い、これを脱保護することによりアミノアリール基含有有機シリコン化合物を製造するため、純度が高いアミノアリール基含有有機シリコン化合物を、低コストで効率よく製造することができる。そのため、本発明の製造方法は、アミノアリール基含有有機シリコン化合物の工業生産に効果的に用いることができ、また、そうして製造されたアミノアリール基含有有機シリコン化合物は、ポリイミド樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂等の原料やシランカップリング剤として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0052】
(実施例1) N,N-ジベンジル-4-トリメトキシシリルアニリンの製造
本実施例では、まず、一般式(2)で表される化合物の例として、N,N-ジベンジル-4-ブロモアニリンを製造した。
[N,N-ジベンジル-4-ブロモアニリンの製造工程]
【0053】
【0054】
4-ブロモアニリン(32.2g,187mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(180mL)に溶解し、炭酸カリウム(62.1g,449mmol)とヨウ化カリウム(6.2g,37mmol)を加えて混合物を製造した。この混合物を、窒素ガス雰囲気下、氷浴で冷却しながらベンジルブロミド(70.4g,412mmol)をゆっくりと滴下し、室温に昇温した後、攪拌することで反応させた。この反応溶液を水(400mL)に注いで反応を停止させ、析出した固体を吸引濾取した。得られた固体を流水洗浄した後、減圧下で加熱乾燥させた。得られた粗体をエタノールから再結晶させることにより、目的のN,N-ジベンジル-4-ブロモアニリンの白色針状結晶を、収量57.3g、収率87%で得た。
【0055】
[N,N-ジベンジル-4-トリメトキシシリルアニリンの製造工程]
次に、製造したN,N-ジベンジル-4-ブロモアニリンを用い、一般式(1)で表される有機シリコン化合物の例として、N,N-ジベンジル-4-トリメトキシシリルアニリンを製造した。下記反応式において、Meはメチル基を表す。
【0056】
【0057】
N,N-ジベンジル-4-ブロモアニリン(10.0g,28.4mmol)とオルトケイ酸テトラメチル(13.0g,85.2mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶解した溶液を、窒素ガス雰囲気下、-78度に冷却した。この溶液を攪拌しながら、sec-ブチルリチウムのシクロヘキサン・ヘキサン溶液(1.0mol/L,56.8mL)を滴下し、室温に昇温して反応させた。この反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(200mL)に注いで反応を停止させた後、酢酸エチル(200mL)を加えてよく攪拌し、固形分を濾別した後、濾液から有機層を分離した。有機層を飽和食塩水(200mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮を行うことにより、N,N-ジベンジル-4-トリメトキシシリルアニリンの粗体を得た。
1H NMR(CDCl3):7.44(d,J=8.8Hz,2H),7.35-7.19(br,10H),6.75(d,J=8.8Hz,2H),4.66(s,4H),3.60(s,9H)
【0058】
(実施例2) 4-トリメトキシシリルアニリンの製造
本実施例では、実施例1で製造したN,N-ジベンジル-4-トリメトキシシリルアニリンを用い、一般式(6)で表されるアミノアリール基含有有機シリコン化合物の例として、4-トリメトキシシリルアニリンを製造した。下記反応式において、Meはメチル基を表す。
【0059】
【0060】
N,N-ジベンジル-4-トリメトキシシリルアニリン(11.1g,28.4mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶解してパラジウム炭素(0.56g,Pd5%,約55%水湿潤品)を加え、水素ガス雰囲気下、室温で攪拌することにより反応させた。反応容器内の水素ガスを窒素ガスで置換した後、反応溶液からパラジウム炭素を濾別し、その濾液を減圧下で濃縮して粗体を得た。この粗体を減圧蒸留にて精製することにより、目的の4-トリメトキシシリルアニリンの無色透明品を収量5.8g、収率96%で得た。
【0061】
(比較例1) アミノ基がtert-ブトキシカルボニル基で保護されたブロモアニリン誘導体からの有機シリコン化合物の製造
比較として、アミノ基がtert-ブトキシカルボニル基で保護されたブロモアニリン誘導体を用い、下記反応式に示す有機シリコン化合物(N-(tert-ブトキシカルボニル)-4-トリメトキシシリルアニリン)の製造を試みた。下記反応式において、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。tert-ブトキシカルボニル基は、アミノ基の保護基として一般的に用いられているものである。
【0062】
【0063】
N-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ブロモアニリン(10.0g,36.8mmol)とオルトケイ酸テトラメチル(11.2g,73.5mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶解した溶液を、窒素ガス雰囲気下、-78度に冷却した。この溶液を攪拌しながら、sec-ブチルリチウムのシクロヘキサン・ヘキサン溶液(1.0mol/L,73.5mL)を滴下し、室温に昇温して反応させた。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(200mL)に注いで反応を停止させた後、酢酸エチル(200mL)を加えてよく攪拌し、固形分を濾別した後、濾液から有機層を分離した。有機層を飽和食塩水(200mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮して粗体を得た。この粗体について、NMRおよびGC-MSによる分析を行ったところ、複数種の生成物を含む混合物であることが確認され、目的とするN-(tert-ブトキシカルボニル)-4-トリメトキシシリルアニリンの存在は認められなかった。
【0064】
(比較例2) アミノ基の代わりにニトロ基を導入した化合物からの有機シリコン化合物の製造
比較として、アミノ基の代わりにニトロ基を導入した化合物を用い、下記反応式に示す有機シリコン化合物(4-トリメトキシシリル-ニトロベンゼン)の製造を試みた。下記反応式において、Meはメチル基を表す。
【0065】
【0066】
4-ブロモニトロベンゼン(2.00g,9.90mmol)とオルトケイ酸テトラメチル(3.01mg,19.8mmol)をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解した溶液を、窒素ガス雰囲気下、-78度に冷却した。この溶液を攪拌しながら、sec-ブチルリチウムのシクロヘキサン・ヘキサン溶液(1.0mol/L,9.9mL)を滴下し、室温に昇温して反応させた。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20mL)に注いて反応を停止させた後、酢酸エチル(20mL)を加えてよく攪拌し、固形分を濾別した後、濾液の有機層を分離した。有機層を飽和食塩水(200mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮を行うことにより粗体を得た。この粗体について、NMRおよびGC-MSによる分析を行ったところ、複数種の生成物を含む混合物であることが確認され、目的とする4-トリメトキシシリル-ニトロベンゼンの存在は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、アミノアリール基含有有機シリコン化合物を低コストで効率よく製造することができる。このため、本発明は、ポリイミド樹脂やポリイミドシリコーン樹脂の原料等として有用なアミノアリール基含有有機シリコン化合物の工業生産に利用することができ、産業上の利用可能性が高い。