(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20220830BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220830BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B32B15/08 D
B32B27/18 Z
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2018129698
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義徳
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-109311(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158565(WO,A1)
【文献】特開2001-168246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34-23/46
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および熱伝導性充填剤を含む熱伝導層と、該熱伝導層の
両面に形成された金属箔とを有する熱伝導シートであって、
前記金属箔の厚みが
、それぞれ、0.1μm以上1.5μm以下である、熱伝導シート。
【請求項2】
前記金属箔が、金、銀、銅およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導層の表面粗さ(Ra)が1μm以上15μm以下である、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュールなど)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介し、この熱伝導性シートに対して所定の圧力をかけることで発熱体と放熱体とを密着させている。そのため、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用される熱伝導シートには、高い密着性に加え、高い熱伝導性を有することが求められてきた。
【0004】
そこで、被着体との密着性および熱伝導性に優れる熱伝導シートとして、樹脂と、厚み方向に配向した熱伝導性充填材とを含む熱伝導シートが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
また、近年においては、モジュールの高性能化による、モジュールの頻繁な交換要求に伴い、熱伝導シートの貼り替えが頻繁に要求されるようになった。そのため、ヒートシンクから簡単に剥がすことが可能であって(リワーク性が高く)、生産性を向上させることが求められるようになった。
【0006】
そこで、伝熱シートの伝熱特性(熱伝導率)、取扱い性(強度、タック性)、およびシートの形状加工性(応力緩和)のバランスを改善するために、伝熱シート表面に金属箔を付与することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-026202号公報
【文献】特開2010-254766号公報
【文献】国際公開2011/158565号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、伝熱シート表面に金属箔を付与しても、熱伝導性とリワーク性とを両立することができないという問題が生じることがあった。
【0009】
そこで、本発明は、熱伝導性を維持しつつ、リワーク性が向上された熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、特定の範囲の厚みを有する金属箔を所定の熱伝導層の少なくとも一方の面に形成すれば、熱伝導性を維持しつつ、優れたリワーク性を発揮し得ることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、熱可塑性樹脂および熱伝導性充填剤を含む熱伝導層と、該熱伝導層の少なくとも一方の面上に形成された金属箔とを有する熱伝導シートであって、前記金属箔の厚みが0.1μm以上1.5μm以下であることを特徴とする。
このように、特定の範囲の厚みを有する金属箔を所定の熱伝導層の少なくとも一方の面に形成すれば、熱伝導性を維持しつつ、優れたリワーク性を発揮することができる。
【0012】
本発明の熱伝導シートでは、前記金属箔が、金、銀、銅およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
金属箔が、金、銀、銅およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有すると、熱伝導性を確実に維持しつつ、優れたリワーク性を確実に発揮することができる。
【0013】
本発明の熱伝導シートでは、前記熱伝導層の表面粗さ(Ra)が1μm以上15μm以下であることが好ましい。
熱伝導層の表面粗さが1μm以上15μm以下であると、金属箔が熱伝導層に追従して、熱伝導性をより確実に維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱伝導シートによれば、熱伝導性を維持しつつ、優れたリワーク性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の熱伝導シートの実施形態の一例を示す図である。
【
図2】本発明の熱伝導シートの実施形態の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、発熱体と、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
【0017】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、以下に詳述する所定の熱伝導層と、熱伝導層の一方の面上に形成された金属箔とを有し、任意に、熱伝導層の他方の面上に形成された金属箔または熱伝導層の他方の面上に形成されたその他の層をさらに有する。
図1は、本発明の熱伝導シートの実施形態の一例を示す図である。
図1において、熱伝導シート10は、熱伝導層1と、熱伝導層1の一方の面に形成された金属箔2とを有する。
図2は、本発明の熱伝導シートの実施形態の他の一例を示す図である。
図2において、熱伝導シート20は、熱伝導層1と、熱伝導層1の両面に形成された金属箔2,3とを有する。
なおここで、熱伝導層上に金属箔を形成して熱伝導シートを作製する方法としては、例えば、熱伝導層の両面に金属箔を貼り合せ、貼り合せたものを離型PETフィルムに挟み、所定温度でローラーを用いてこすり、金属箔を熱伝導層の両面に圧着する方法、加圧プレスする方法などが挙げられる。加圧プレスする方法は、2枚の金属板に熱伝導層の片面あるいは両面に金属箔を貼り合せ、離形PETフィルムに挟み、0.3MPa以上3.0MPa以下の圧力で、加圧プレスすることが好ましい。また、加圧時に、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは70℃以下、特に好ましくは50℃以下で、加温してもよい。このように加圧加熱プレスすることで、熱伝導層と金属箔の密着性を向上させることができ、熱抵抗試験による、低荷重側の熱抵抗値をさらに下げることができる。熱伝導シート作製前後における、熱伝導層および金属箔の厚みは、熱伝導シート作製の際の加圧条件などにより異なるが、熱伝導シート作製後の厚みが熱伝導シート作製前の厚みの3%以上10%以下であることが好ましい。
【0018】
熱伝導シートの0.30MPa加圧下の熱抵抗値としては、通常0.31℃/W未満であり、0.25℃/W未満であることが好ましく、0.19℃/W未満であることがより好ましい。
熱伝導シートの0.80MPa加圧下の熱抵抗値としては、通常0.31℃/W未満であり、0.25℃/W未満であることが好ましく、0.19℃/W未満であることがより好ましい。
なお、熱伝導シートの熱抵抗値は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
<熱伝導層>
熱伝導層は、熱可塑性樹脂と熱伝導性充填剤とを含み、任意の他の成分をさらに含む。
以下、熱可塑性樹脂と熱伝導性充填剤とについて詳述する。
【0020】
<<熱可塑性樹脂>>
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導層が熱可塑性樹脂を含有することにより、使用時(放熱時)の高温環境下で、熱伝導シートの柔軟性を向上させ、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。また、本発明の熱伝導シートの特性及び効果を失わないことを条件として、熱伝導層に熱硬化性樹脂を併用することができる。なお、本明細書において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導層が含みうる熱可塑性樹脂は、熱伝導層のマトリックス樹脂を構成し、また、熱伝導性充填剤を結着する結着材としても機能する。
このような熱可塑性樹脂としては、「常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂」、「常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂」、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、比較的低い圧力下でも、界面密着性を高めて界面熱抵抗を低下させることができ、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性(すなわち、放熱特性)を向上させることができる点で、「常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂」が好ましい。
なお、本明細書において、「常温」とは、23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0021】
[常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂]
熱伝導層が常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を含むことにより、熱伝導層の柔軟性を良好にすることができ、例えば、熱伝導シートと、該熱伝導シートを接着させる被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができる。
【0022】
常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導層ひいては熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性を向上させることに加え、比較的低い圧力下でも、界面密着性を高め、界面熱抵抗を低下させて、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性(すなわち、放熱特性)を向上させることができる点で、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。
【0023】
[[常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂]]
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で液体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロペンテン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で液状の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、デュポン株式会社製のバイトン(登録商標)LM、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-101、スリーエム株式会社製のダイニオンFC2210、信越化学工業株式会社製のSIFELシリーズ、などが挙げられる。
【0024】
なお、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の粘度は、特に制限されないが、混練性、流動性、架橋反応性が良好で、成形性にも優れるという点から、温度80℃における粘度(粘度係数)が、500cP以上30,000cP以下であることが好ましく、550cP以上25,000cP以下であることがより好ましい。
【0025】
[[含有割合]]
そして、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の含有割合は、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂および後に詳述する常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂の合計含有量の40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの柔軟性をより高めて、例えば、熱伝導シートと熱伝導シートを挟み込んでいる被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性をより良好にし得るため、比較的低い挟持圧力下(例えば、0.5MPa以下)での熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。
【0026】
[常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂]
熱伝導層(熱伝導シート)が常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂を含むことにより、熱伝導シートと、該熱伝導シートを接着させる被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができる。
【0027】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導層ひいては熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などを向上させる観点からは、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
【0028】
[[常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂]]
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で固体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、加工性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、が好ましい。
【0029】
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-912、G-700シリーズ、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ、ダイエルG-310;ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ;、スリーエム社製のダイニオンFC2211、FPO3600ULV;などが挙げられる。
【0030】
[[熱可塑性フッ素樹脂の含有割合]]
熱可塑性樹脂が熱可塑性フッ素樹脂である場合、熱伝導層における熱可塑性フッ素樹脂の含有割合は、30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。熱可塑性フッ素樹脂の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などをより向上させることができる。なお、熱可塑性樹脂が常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の双方を含む場合には、それら各々の含有割合の合計が上記範囲内にあることが好ましい。
【0031】
<<熱硬化性樹脂>>
本発明の熱伝導シートの特性および効果を失わないことを条件として、熱伝導層に任意に使用し得る熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0032】
<<熱伝導性充填剤>>
熱伝導シートにおける熱伝導層が熱伝導性充填剤を含むことにより、熱伝導層の熱伝導性をさらに高めることができる。熱伝導層が含みうる熱伝導性充填剤としては、炭素質材料や、無機酸化物材料、無機窒化物材料、などが挙げられる。熱伝導性充填剤としては、炭素質材料または無機窒化物材料が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0033】
[炭素質材料]
炭素質材料としては、粒子状炭素材料や繊維状炭素材料などが挙げられる。
熱伝導性充填材が炭素質材料である場合に、熱伝導層における炭素質材料の含有割合は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。炭素質材料の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導層中において伝熱パスを良好に形成できるため、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性をより高めることができる。また、炭素質材料の含有割合が上記上限値以下であれば、炭素質材料の配合により熱伝導層ひいては熱伝導シートの柔軟性が低下するのを抑制し、熱伝導シートと被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートに優れた熱伝導性を発揮させることができる。
【0034】
[[粒子状炭素材料]]
粒子状炭素材料としては、特に制限されることはなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、膨張化黒鉛が好ましい。熱伝導層に膨張化黒鉛を用いれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性をより向上させることができる。
【0035】
-膨張化黒鉛-
膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業株式会社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0036】
-平均粒子径-
粒子状炭素材料の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の平均粒子径が上記範囲内であれば、熱伝導層の硬さおよび粘着性のバランスをより向上させて、取扱い性を向上させることができると共に、熱伝導層の熱抵抗をより低下させて熱伝導性を向上させることができる。
なお、本明細書において、「平均粒子径」は、粒子状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について最大径(長径)を測定し、測定した長径の個数平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
-アスペクト比-
また、粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、「アスペクト比」は、粒子状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0038】
-粒子状炭素材料の含有割合-
そして、熱伝導層中の粒子状炭素材料の含有割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることがさらに好ましく、150質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましい。熱伝導層中の粒子状炭素材料の含有割合が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、20質量部以上150質量部以下であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの硬さと粘着性とのバランスを一層向上させることができ、取扱い性を一層向上させることができる。また、粒子状炭素材料の含有割合が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、30質量部以上であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導率を向上させることができる。また、熱伝導層中の粒子状炭素材料の含有割合が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、90質量部以下であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの粘着性を向上させ、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができる。
【0039】
[[繊維状炭素材料]]
上記熱伝導層が任意に含みうる繊維状炭素材料としては、特に制限されることなく、例えば、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの繊維状の炭素ナノ構造体、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
例えば、熱伝導層が繊維状炭素材料を含めば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性を向上させ得ると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを防止することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで、粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や強度を高めつつ、粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0040】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、CNTなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、比較的低い挟持圧力での熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度をさらに向上させることができるからである。
【0041】
-CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体-
繊維状炭素材料として好適に使用し得る、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度をさらに向上させることができるからである。
【0042】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることがさらに好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。したがって、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の配合により熱伝導層ひいては熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができる。
なお、「繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状の炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状の炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0043】
そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0044】
さらに、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状の炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0045】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。したがって、繊維状の炭素ナノ構造体の配合により、熱伝導層ひいては熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができる。
【0046】
さらに、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがさらに好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。また、繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。
【0047】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが100μm以上5000μm以下であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
【0048】
さらに、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積は、300m2/g以上であることが好ましく、600m2/g以上であることがより好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1200m2/g以下であることがより好ましい。さらに、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が300m2/g以上であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m2/g以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して熱伝導層中のCNTの分散性を高めることができる。
なお、本明細書において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0049】
さらに、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、繊維状の炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm3以上0.2g/cm3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm3以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、熱伝導層中で繊維状の炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm3以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0050】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0051】
ここで、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0052】
-繊維状炭素材料の性状-
そして、熱伝導シートにおける熱伝導層に含まれうる繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性および強度を十分に高いレベルで並立させることができるからである。ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比は、10を超えることが好ましい。
【0053】
なお、本明細書において、「平均繊維径」は、繊維状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。特に、繊維径が小さい場合は、同様の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察することが好適である。
【0054】
-繊維状炭素材料の含有割合-
そして、熱伝導層中における繊維状炭素材料の含有割合は、0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。熱伝導層中における繊維状炭素材料の含有割合が0.03質量%以上であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に向上させることができると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。さらに、熱伝導層中の繊維状炭素材料の含有割合が2.0質量%以下であれば、繊維状炭素材料の配合により、熱伝導層ひいては熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができるからである。
【0055】
[無機窒化物材料]
無機窒化物材料としては、例えば、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、絶縁性と熱伝導性の付与の点で、窒化ホウ素が好ましい。
ここで、窒化ホウ素粒子の市販品の具体例としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の「PT」シリーズ(例えば、「PT-110」);昭和電工社製の「ショービーエヌUHP」シリーズ(例えば、「ショービーエヌUHP-1」);Dangdong Chemical Engineering Institute Co.,Ltd.社製「HSL」「HS」;などが挙げられる。
【0056】
また、熱伝導性無機粒子の形状としては、例えば、板状、鱗片状、球状などが挙げられ、好ましくは、板状、鱗片状が挙げられ、より好ましくは、鱗片状が挙げられる。
【0057】
<<添加剤>>
上記熱伝導層には、必要に応じて、熱伝導層の成形に使用され得る既知の添加剤をさらに配合することができる。そして、熱伝導層に配合し得る添加剤としては、特に制限されることなく、例えば、赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤等の難燃剤;脂肪酸エステル系可塑剤等の可塑剤;ウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ性向上剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;などが挙げられる。
【0058】
<熱伝導層の性状>
そして、本発明の熱伝導層は、特に限定されることなく、以下の性状を有していることが好ましい。
【0059】
<<熱伝導層の表面粗さRa>>
熱伝導層の表面粗さRaは、1μm以上あることが好ましく、3μm以上あることがより好ましく、また、15μm以下であることが好ましく、10μm以下あることがより好ましい。本発明の熱伝導シートにおける表面粗さRaは、上記範囲内であれば、金属箔が熱伝導層に追従して、熱伝導性をより確実に維持することができる。
ここで、熱伝導層の表面粗さRaは、JISB0601に準拠して、例えばナノスケールハイブリッド顕微鏡(VK-X250キーエンス社製)を用いて、表面粗さに対して、好ましい範囲を選択し算出することができる。
【0060】
<<熱伝導層の熱抵抗値>>
熱伝導層は、0.30MPa加圧下の熱抵抗値が0.31℃/W未満である。0.30MPa加圧下の熱抵抗の値が0.31℃/W未満であると、比較的低い圧力が加えられる使用環境下で、優れた熱伝導性を有することができる。
ここで、熱抵抗値は、熱伝導層の熱抵抗を測定するのに通常用いられる既知の測定方法を用いて測定することができ、樹脂材料熱抵抗試験器(例えば、日立テクノロジーアンドサービス社製、商品名「C47108」)などで測定することができる。
【0061】
熱伝導層は、加圧力を0.80MPaから0.30MPaへ変化させたときの熱抵抗値の変化率が+150.0%以下であることが好ましい。加圧力を0.80MPaから0.30MPaへ変化させたときの熱抵抗値の変化率が+150.0%以下であると、加圧力の低下に伴う熱抵抗値の増加の幅が小さく、一定以上の硬さを有する。そのため、硬さと粘着性とのバランスを向上させ、取扱い性を向上させることができる。
尚、加圧力を0.80MPaから0.30MPaへ低下させたときの熱抵抗値の変化率は、次式で算出することができる:100×(0.30MPa加圧下での熱抵抗値-0.80MPa加圧下での熱抵抗値)/0.80MPa加圧下での熱抵抗値(%)。
【0062】
<<熱伝導層の熱伝導率>>
熱伝導層は、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、20W/m・K以上であることが好ましく、30W/m・K以上であることがより好ましく、40W/m・K以上であることがさらに好ましい。熱伝導率が20W/m・K以上であれば、例えば熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。
【0063】
<<熱伝導層の厚み>>
熱伝導層の厚みは、80μm以上500μm以下であることが好ましい。本発明の熱伝導シートにおける熱伝導層は、取扱い性を損なわない限りにおいて、厚みを薄くする程、熱伝導層ひいては熱伝導シートのバルク熱抵抗を小さくすることができ、熱伝導性および放熱装置に使用した場合の放熱特性を向上させることができる。
【0064】
<<熱伝導層の密度>>
熱伝導層は、密度が1.8g/cm3以下であることが好ましく、1.6g/cm3以下であることがより好ましい。このような熱伝導層を有する熱伝導シートは、汎用性が高く、例えば電子部品などの製品に実装した際に、かかる電子部品の軽量化に寄与することができるからである。
【0065】
<熱伝導層の調製>
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導層は、例えば、以下に詳述する、(i)プレ熱伝導層成形工程、(ii)積層体形成工程、(iii)スライス工程、などを含む熱伝導層調製方法により調製される。
【0066】
[(i)プレ熱伝導層成形工程]
プレ熱伝導層成形工程では、熱可塑性樹脂と、熱伝導性充填剤とを含み、添加剤等の任意成分をさらに含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導層を得る。
【0067】
<<組成物>>
ここで、組成物は、熱可塑性樹脂と、熱伝導性充填剤と、上述した任意成分(添加剤)とを混合して調製することができる。そして、熱可塑性樹脂、熱伝導性充填剤および任意の添加剤としては、本発明の熱伝導シートにおける熱伝導層に含まれ得る熱可塑性樹脂、熱伝導性充填剤および添加剤として上述した成分を用いることができる。
因みに、熱伝導層の樹脂を架橋型の樹脂とする場合には、架橋型の樹脂を含む組成物を用いてプレ熱伝導層を成形してもよいし、架橋可能な樹脂と硬化剤とを含有する組成物を用いてプレ熱伝導層を成形し、プレ熱伝導層成形工程後に架橋可能な樹脂を架橋させることにより、熱伝導層に架橋型の樹脂を含有させてもよい。
【0068】
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め熱可塑性樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、他の熱伝導性充填剤および任意の添加剤と混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上150℃以下とすることができる。
【0069】
なお、組成物に繊維状炭素ナノ構造体をさらに含有させる場合、繊維状炭素ナノ構造体は、凝集し易く、分散性が低いため、そのままの状態で樹脂などの他の成分と混合すると、組成物中で良好に分散し難い。一方、繊維状炭素ナノ構造体は、溶媒(分散媒)に分散させた分散液の状態で樹脂などの他の成分と混合すれば凝集の発生を抑制することはできるものの、分散液の状態で混合した場合には混合後に固形分を凝固させて組成物を得る際などに多量の溶媒を使用するため、組成物の調製に使用する溶媒の量が多くなる虞が生じる。そのため、プレ熱伝導層の成形に用いる組成物に繊維状炭素ナノ構造体を配合する場合には、繊維状炭素ナノ構造体は、溶媒(分散媒)に繊維状炭素ナノ構造体を分散させて得た分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素ナノ構造体の集合体(易分散性集合体)の状態で他の成分と混合することが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素ナノ構造体の集合体は、一度溶媒に分散させた繊維状炭素ナノ構造体で構成されており、溶媒に分散させる前の繊維状炭素ナノ構造体の集合体よりも分散性に優れているので、分散性の高い易分散性集合体となる。従って、易分散性集合体と、樹脂などの他の成分とを混合すれば、多量の溶媒を使用することなく効率的に、組成物中で繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができる。
【0070】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の分散液は、例えば、溶媒に対して繊維状炭素ナノ構造体を添加してなる粗分散液を、キャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理に供して得ることができる。なお、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波ホモジナイザーによる分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌装置による分散処理が挙げられる。また、解砕効果が得られる分散処理は、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散させる分散方法である。そして、解砕効果が得られる分散処理は、市販の分散システム(例えば、商品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)など)を用いて行うことができる。
【0071】
また、分散液からの溶媒の除去は、乾燥やろ過などの既知の溶媒除去方法を用いて行うことができるが、迅速かつ効率的に溶媒を除去する観点からは、減圧ろ過などのろ過を用いて行うことが好ましい。
【0072】
[[組成物の成形]]
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、プレ熱伝導層とすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0073】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に制限されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0074】
[[プレ熱伝導層]]
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導層では、熱伝導性充填剤が主として面内方向に配列し、特にプレ熱伝導層の面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
【0075】
[(ii)積層体形成工程]
積層体形成工程では、プレ熱伝導層成形工程で得られたプレ熱伝導層を厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導層を折畳または捲回して、熱可塑性樹脂および熱伝導性充填剤を含む熱伝導層が厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、プレ熱伝導層の折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導層を一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導層の捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、プレ熱伝導層の短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導層を捲き回すことにより行うことができる。また、プレ熱伝導層の積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0076】
ここで、通常、積層体形成工程で得られる積層体において、プレ熱伝導層の表面同士の接着力は、プレ熱伝導層を積層する際の圧力や折畳または捲回する際の圧力により充分に得られる。
【0077】
なお、得られた積層体は、層間剥離を抑制する観点からは、積層方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力で押し付けながら、120℃以上170℃以下で2時間以上8時間以下加熱することが好ましい。ここで、層間剥離の防止は、積層体を形成する際に接着剤または溶剤をプレ熱伝導層に塗布し、プレ熱伝導層同士を接着させることにより行ってもよいが、熱伝導層を効率的に調製する観点からは、接着剤または溶剤は使用しないことが好ましい。
【0078】
そして、プレ熱伝導層を積層、折畳または捲回して得られる積層体では、熱伝導性充填材が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
【0079】
[(iii)スライス工程]
スライス工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下
の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導層を得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導層の厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0080】
ここで、前記刃部として用いることができる刃の実施形態について説明する。
刃部を備える1枚の刃は、刃先の表裏両側が切刃となっている「両刃」であってもよく、刃の表側のみが切刃となっている「片刃」であってもよい。
【0081】
また、刃先の断面形状は、特に制限されず、刃先の最先端を通る中心軸に対して、非対称でも対称でもよい。
【0082】
当該刃部を構成する刃の枚数は、特に限定されず、例えば、1枚の刃からなる1枚刃で構成されていてもよく、2枚の刃からなる2枚刃で構成されていてもよい。
【0083】
ここで、2枚の刃は、それぞれ、片刃であっても両刃であってもよい。
また、2枚の刃のうちの一方または両方の刃が両刃の場合、当該両刃は、対称刃であっても非対称刃であってもよい。
また、2枚の刃は、それぞれ、1段刃であっても2段刃であってもよい。
【0084】
また、刃の材質は特に特定されず、金属、セラミック、プラスチックいずれでもよいが、特に衝撃に耐える観点から超硬合金が望ましい。すべり性向上、切削性向上目的で、刃の表面にシリコーン、フッ素等をコーティングしてもよい。
【0085】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0086】
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は-20℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上30℃以下とすることがより好ましい。さらに、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。このようにして得られた熱伝導層内では、粒子状炭素材料や繊維状炭素材料が厚み方向に配列していると推察される。従って、上述の工程を経て調製された熱伝導層は、厚み方向の熱伝導性だけでなく、導電性も高い。
【0087】
<金属箔>
金属箔の厚みは、0.1μm以上1.5μm以下である限り、特に制限はないが、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、また、1.0μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。金属箔の厚みが0.5μm以上であれば、リワーク性をより向上させることができる。また、金属箔の厚みが1.0μm以下であれば、熱伝導層に対してより追従することができ、熱伝導性が低下するのを確実に抑制することができる。
なお、金属箔の厚みは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0088】
前記金属箔の材質としては、金属である限り、特に制限はないが、金、銀、銅、アルミニウムが好ましく、コストが安く、錆を防止できるという観点から、銀であることがより好ましい。
【0089】
金属箔の表面粗さRaは、特に制限はないが、0.005μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましく、また、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。金属箔の表面粗さRaが0.005μm以上であれば、熱伝導層の凹凸に追従しやすくすることができる。また、金属箔の表面粗さRaが0.2μm以下であっても熱伝導層の凹凸に追従しやすくすることができる。
ここで、金属箔の表面粗さRaは、JISB0601に準拠して、例えばナノスケールハイブリッド顕微鏡(VK-X250キーエンス社製)を用いて、表面粗さに対して、好ましい範囲を選択し算出することができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0091】
各実施例および各比較例において、熱伝導層および金属箔の膜厚、熱伝導層および金属箔の表面粗さ、熱伝導シートの熱抵抗値、および熱伝導シートのリワーク性の測定または評価を行った。ここで、これらは、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0092】
<熱伝導層および金属箔の膜厚>
熱伝導層および金属箔の膜厚は、株式会社ミツトヨ社製デジマチックインジケーター(ID-C112X)を用いて(1/1000mm)の精度で測定した。測定結果を表1に示すが、表1の値は、熱伝導層上に金属箔を形成する(熱伝導シートを作製する)前の熱伝導層および金属箔の厚みである。
【0093】
<熱伝導層および金属箔の表面粗さRa>
熱伝導層および金属箔の表面粗さRaは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、形状解析レーザー顕微鏡、VK-X250シリーズ)を用いて測定した。20倍の倍率で測定し、任意に4線、長さ200μmを選択し、線粗さに対する表面粗さRaを求め、平均を算出した。結果を表1に示す。
【0094】
<熱伝導シートの熱抵抗値>
熱伝導シートの熱抵抗値は、樹脂材料熱抵抗試験器(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製)を用いて測定した。ここで、1.0cm2の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、試料温度50℃において、比較的低圧である0.30MPaを加えた時の熱抵抗値(℃/W)と、試料温度50℃において、比較的高圧である0.80MPaを加えた時の熱抵抗値(℃/W)をそれぞれ測定した。熱抵抗値が小さいほど熱伝導シートが熱伝導性に優れ、例えば、発熱体と放熱体との間に介在させて放熱装置とした際の放熱特性に優れていることを示す。さらに、下記評価基準により評価した。結果を表1に示す。
<<評価基準>>
A:0.19(℃/W)未満
B:0.19(℃/W)以上0.25(℃/W)未満
C:0.25(℃/W)以上0.31(℃/W)未満
D:0.31(℃/W)以上
【0095】
<熱伝導シートのリワーク性の評価>
熱伝導シートを直径2cmの円型に打ち抜き、厚さ5mmの2枚のアルミニウム板に挟み、90℃、30分で圧力0.1MPaでプレスし、冷却後、アルミニウム板を剥がし、熱伝導シートのリワーク性を下記評価基準で評価した。評価結果を表1に示す。
なお、熱伝導層の両面に金属箔が形成されている場合には、熱伝導層の両側(上側および下側)についてリワーク性を評価し、熱伝導層の片面に金属箔が形成されている場合には、熱伝導層の金属箔が形成されている片面(上側または下側)についてリワーク性を評価した。
<<評価基準>>
A:金属箔のアルミニウム板への転写がない(金属箔のアルミニウム板への転写が面積比(金属箔の面積を100%としたときの面積比)で、0%である)。
B:金属箔のアルミニウム板への転写が面積比(金属箔の面積を100%としたときの面積比)で、0%超5%未満である。
C:金属箔のアルミニウム板への転写が面積比(金属箔の面積を100%としたときの面積比)で、5%以上である。
【0096】
(実施例1)
<繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製>
<<分散液の調製>>
繊維状の炭素ナノ構造体(SGCNT、日本ゼオン社製、比表面積:600m2/g)を400mg量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。次に、湿式ジェットミル(株式会社常光製、製品名「JN-20」)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、繊維状の炭素ナノ構造体をメチルエチルケトンに分散させた。そして、固形分濃度0.20質量%の分散液を得た。
【0097】
<<溶媒の除去>>
その後、上述で得られた分散液をキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、繊維状炭素材料としての、シート状の繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を得た。
【0098】
<組成物の調製>
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)を70部と、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC-2211」、ムーニー粘度:27ML1+4、100℃)を30部と、熱伝導性充填材である粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC100」、体積平均粒子径:250μm、電子顕微鏡観察における長軸方向の粒子径200μm、単軸方向の粒子径10~20μm)を50部と、繊維状炭素材料としての上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を0.5部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機に投入して、10秒間解砕することにより、組成物を得た。
【0099】
<プレ熱伝導層の成形>
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.5mmのプレ熱伝導層を得た。
【0100】
<積層体の形成>
続いて、得られたプレ熱伝導層を縦150mm×横150mm×厚み0.5mmに裁断し、プレ熱伝導層の厚み方向に120枚積層し、さらに、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約60mmの積層体を得た。
【0101】
<熱伝導層の成形>
その後、二次加圧されて得られた積層体の積層側面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層されたプレ熱伝導層の主面の法線方向に)スライスすることにより、縦150mm×横60mm×厚み0.15mm(150μm)の熱伝導層を得た。
【0102】
<金属箔と熱伝導層との積層>
上記で得られた熱伝導層の両面に金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を貼り合せ、貼り合せたものを離型PETフィルム(ユニチカ株式会社製、商品名:「エンブレット(登録商標)」、厚み50μm)に挟み、温度50℃でローラーを用いて10往復こすり、金箔を熱伝導層の両面に圧着させた。
【0103】
(実施例2)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、銅箔(膜厚0.4μm、堀金箔粉株式会社製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0104】
(実施例3)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、アルミ箔(膜厚0.3μm、堀金箔粉株式会社製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0105】
(実施例4)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、熱伝導層の上側については銀箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)に代え、熱伝導層の下側については銀箔(膜厚0.5μm、株式会社今井金箔製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0106】
(実施例5)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、銀箔(膜厚0.5μm、株式会社今井金箔製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0107】
(実施例6)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、熱伝導層の上側については銀箔(膜厚1μm、株式会社今井金箔製)に代え、熱伝導層の下側については銀箔(膜厚0.5μm、株式会社今井金箔製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0108】
(実施例7)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、銀箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)に代え、熱伝導層の膜厚を150μmから300μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0109】
(実施例8)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を、銀箔(膜厚1.5μm、株式会社今井金箔製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0110】
(実施例9)
実施例1において、金箔(膜厚0.3μm、株式会社今井金箔製)を熱伝導層の両面に形成することに代えて、銀箔(膜厚1.5μm、株式会社今井金箔製)を熱伝導層の上側面にのみ形成したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0111】
(実施例10)
実施例7において、熱伝導性充填材である粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC100」、体積平均粒子径:250μm、電子顕微鏡観察における長軸方向の粒子径200μm、単軸方向の粒子径10~20μm)50部と、繊維状炭素材料としての上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体0.5部とを添加することに代えて、窒化ホウ素粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名「PT-110」)150部を添加し、熱伝導層の膜厚を300μmから150μmに変更したこと以外は、実施例7と同様にして、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0112】
(比較例1)
実施例1において、熱伝導層のいずれの面にも金属箔を圧着しないこと以外は、実施例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、および熱伝導層の成形を行った。
【0113】
(比較例2)
比較例1において、熱伝導層の膜厚を150μmから300μmに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、および熱伝導層の成形を行った。
【0114】
(比較例3)
実施例9において、「常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(G-101)70質量部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(FC-2211)30質量部」を「常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(G-101)60質量部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(FC-2211)40質量部」に変更し、銀箔(膜厚1.5μm、株式会社今井金箔製)を、アルミ箔(膜厚5.0μm、堀金箔粉株式会社製)に代えたこと以外は、実施例9と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0115】
(比較例4)
実施例8において、「常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(G-101)70質量部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(FC-2211)30質量部」を「常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(G-101)60質量部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(FC-2211)40質量部」に変更し、銀箔(膜厚1.5μm、株式会社今井金箔製)を、アルミ箔(膜厚5.0μm、堀金箔粉株式会社製)に代えたこと以外は、実施例8と同様にして、繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製、組成物の調製、プレ熱伝導層の成形、積層体の形成、熱伝導層の成形、および金属箔と熱伝導層との積層を行った。
【0116】
【0117】
表1より、実施例1~10では、比較例1~4と比較して、熱伝導性を維持しつつ、優れたリワーク性を発揮することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の熱伝導シートは、例えば、各種機器および装置などにおいて使用される放熱材料、放熱部品、冷却部品、温度調節部品、電磁波シールド部材、電磁波吸収部材、被圧着物を加熱圧着する場合に被圧着物と加熱圧着装置との間に介在させる熱圧着用ゴムシートとして好適である。
ここで、各種機器および装置などとしては、特に限定されることなく、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン等の電子機器;ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器;液晶ディスプレイ(バックライトを含む)、プラズマディスプレイ、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクタ、時計等の表示機器;インクジェットプリンタ(インクヘッド)、電子写真装置(現像装置、定着装置、ヒートローラ、ヒートベルト)等の画像形成装置;半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、CPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品;リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、多層基板等の配線基板(配線板にはプリント配線板なども含まれる);真空処理装置、半導体製造装置、表示機器製造装置等の製造装置;断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置;DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ハードディスクドライブ等のデータ記録機器;カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、顕微鏡、CCD等の画像記録装置;充電装置、リチウムイオン電池、燃料電池等のバッテリー機器;などが挙げられる。
【符号の説明】
【0119】
1 熱伝導層
2 金属箔
3 金属箔
10 熱伝導シート
20 熱伝導シート