(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】中空構造体及び中空構造体の製造方法、並びに冷蔵庫用扉、冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
B29C 65/48 20060101AFI20220830BHJP
F25D 23/06 20060101ALI20220830BHJP
F25D 23/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B29C65/48
F25D23/06 X
F25D23/02 303M
F25D23/02 304E
(21)【出願番号】P 2018168881
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】須田 哲也
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-044961(JP,A)
【文献】特開平05-170268(JP,A)
【文献】特開2013-024372(JP,A)
【文献】特開昭57-169315(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099828(WO,A1)
【文献】特開昭48-013456(JP,A)
【文献】特表2017-515082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
F25D 23/06
F25D 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を画成する凸形状部と当該凸形状部の周縁のフランジ部とを有する透明な樹脂材料からなる第1部材と、
板状の透明な
樹脂材料からなる第2部材と、を備え、
前記フランジ部と前記第2部材の周縁部とが、ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合されており、
前記第1部材のフランジ部と前記第2部材の周縁部との前記ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合された接合部のヘイズが8%以下である中空構造体。
【請求項2】
前記ホットメルト接着剤組成物は、温度70℃における溶融粘度が1×10
4Pa・s以上2×10
5Pa・s以下である、請求項1に記載の中空構造体。
【請求項3】
前記凸形状部は立ち上がり部と頂部とを備え、前記第2部材に対して前記立ち上がり部のなす角度が15度以上45度以下である、請求項1又は2に記載の中空構造体。
【請求項4】
前記頂部は平面状である、請求項3に記載の中空構造体。
【請求項5】
下記式(1)及び(2)を満足する、請求項1~4のいずれかに記載の中空構造体、
0.5≦D
t1/D
a≦1000 (1)
0.5≦D
t2/D
a≦1000 (2)
第1部材のフランジ部の厚み :D
t1(単位:mm)
ホットメルト接着剤組成物の層の厚み:D
a (単位:mm)
第2部材の周縁部の厚み :D
t2(単位:mm)。
【請求項6】
前記第1部材及び前記第2部材が、各々独立して、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上から構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の中空構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の中空構造体を用いた冷蔵庫用扉。
【請求項8】
請求項7に記載の冷蔵庫用扉を用いた冷蔵庫。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の中空構造体の製造方法であって、
予め成形された前記第1部材の実質的に平面状のフランジ部と前記第2部材の周縁部とを、ホットメルト接着剤組成物を介して貼合せる工程と、
該貼合せた領域を加熱圧着処理して、前記第1部材と前記第2部材とを前記ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合する工程と、
を含む中空構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の中空構造体の製造方法であって、
一つの面の周縁部にホットメルト接着剤組成物を配設した前記第2部材を、前記ホットメルト接着剤組成物を配設した面を上にして平面状の上面を有する下金型に載置する工程と、
前記下金型と対向し、前記下金型の平面と平行な周縁部と、該周縁部に囲まれ、前記周縁部よりも前記下金型の平面からの距離が離れたキャビテイ部と該キャビテイ部の内面に開口する少なくとも一つの吸引孔を有する上金型の内面に、溶融軟化した板状の透明部材を前記吸引孔から吸引して減圧吸着させて、前
記第1部材の形状に賦形する工程と、
前記下金型と前記上金型とを型締めすることにより、前記透明部材の前記第1部材のフランジ部となる周縁部と前記第2部材の周縁部とを、前記ホットメルト接着剤組成物を介して接合する工程と、
を含む中空構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の中空構造体の製造方法であって、
一つの面の周縁部にホットメルト接着剤組成物を配設し、1以上の貫通孔を周縁部を除く領域に有する前記第2部材を平面状の上面を有する下金型に載置する工程と、
予め加熱した板状の透明部材を、前記第2部材に配設した前記ホットメルト接着剤組成物の上に載置する工程と、
前記下金型と対向し、前記下金型の平面と平行な周縁部と、該周縁部に囲まれ、前記周縁部よりも前記下金型の平面からの距離が離れたキャビテイ部と該キャビテイ部の内面に開口する少なくとも一つの吸引孔を有する上金型と前記下金型とを型締めすることにより、前記透明部材の周縁部と前記第2部材とを前記ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合するとともに、前記透明部材を前記吸引孔から吸引して減圧吸着させて前記第1部材の形状に賦形すると同時に、前記第2部材の貫通孔から気体を導入し非接合領域を中空部として形成する工程と、
を含む中空構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有する中空構造体及びその製造方法に関する。また、その中空構造体を用いた冷蔵庫用扉、及び、その冷蔵庫用扉を用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
レストランやスーパーマーケットにおいて、食品や飲料の鮮度を維持しながら展示する冷蔵庫の扉には、透明なガラス板が使用されている。近年は、大型の冷蔵用ショーケースの扉に対する要求がある。しかしながら、大型の扉にガラス板を使用するには、強度面の信頼性を確保するためにガラス板の厚みを比較的厚くする必要があり、そのために重量増加により扉の開閉が困難になったり、扉を設置するときの作業性が低下するという課題があった。
【0003】
そこで、最近では、軽量であり、板厚みが比較的薄くても強度面での信頼性に優れている透明樹脂板が注目されている。
【0004】
特許文献1には、食品や飲料などの製品を冷却して展示するための冷却装置のアクセスドアに適用する、プラスチックからなる実質的に面平行な多重壁と空洞部(中空部ともいう)を有する多層構造体が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、溶融した熱可塑性樹脂板(B)を真空成型した後に、予め成形した熱可塑性樹脂からなる成形体(A)に接着剤を使用せずに溶着して、大面積で一部に中空部を有する熱可塑性樹脂成形体を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2013/133707号パンフレット
【文献】国際公開2013/099828号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、アクリレート系接着剤を用いてプラスチック製の多重壁を貼り合わせ、中空部を有する構造体(中空構造体)を製造することが記載されている。しかしながら、一般的なアクリレート系接着剤は揮発性溶媒を高含有量で含むため、接着剤中の揮発性溶媒を完全に乾燥除去することは困難であり、残存溶媒臭が問題となることがある。食品等の冷却装置のドア材としては、大面積になるほど残存溶媒臭等の問題は深刻となり、このような接着剤を用いた中空構造体は使用が制限される。
【0008】
また、揮発性溶媒を含む接着剤で、プラスチック製の多重壁を貼り合わせる場合、アクリレート系接着剤中の溶媒がプラスチック製の壁を部分的に溶解して、アクリレート系接着剤の層とプラスチック製壁の層との間に、それらの層が混ざり合った混合層が形成される。このような混合層が形成されると、多重壁の貼り合わせ部分(接合部)の透明性が低下する。特に大面積の場合は接合部も大きくなることから冷蔵庫等のショーケース(以下、単に「冷蔵庫」と略する。)の扉として使用したときに冷蔵庫内部の商品の視認性が低下して、製品価値が損なわれる。
また、中空構造体が大面積のときには、接着剤の乾燥斑が生じやすく、中空構造体の接合部の接合強度(以下、「中空構造体の機械的強度」という。)と製品外観が損なわれる。
【0009】
また、特許文献2に記載の熱可塑性樹脂成形体(中空構造体)の製造方法では、接着剤を使用せずに溶着するため、成形体(A)と熱可塑性樹脂板(B)を、高温に長時間曝す必要があり、冷却時に生じる樹脂板内部と樹脂板表面部の温度差が原因で熱歪みが生じやすい。このため、中空構造体が大面積のときには反りや撓みが生じて、得られた樹脂成形体の機械的強度が低下するおそれがあった。また、プラスチック製の多重壁を、単に加熱して溶着すると、プラスチック製多重壁の層の間に、それらの層が混ざり合った混合層が形成され、溶着部分の透明性が低下する。接着剤を用いた場合と同様に、特に大面積の透明部材としては本来の機能が損なわれ、製品価値が低下する。
【0010】
本発明は、これらの問題点に鑑み、接合部の透明性が高く、中空構造体の機械的強度に優れ、残存溶媒臭のない、中空構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の構成を含むものである。
〔1〕中空部を画成する凸形状部と当該凸形状部の周縁のフランジ部とを有する透明な樹脂材料からなる第1部材と、
板状の透明な樹脂材料からなる第2部材と、を備え、
前記フランジ部と前記第2部材の周縁部とが、ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合されており、
前記第1部材のフランジ部と前記第2部材の周縁部との前記ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合された接合部のヘイズが8%以下である中空構造体。
【0012】
〔2〕前記ホットメルト接着剤組成物は、温度70℃における溶融粘度が1×104Pa・s以上2×105Pa・s以下である〔1〕の中空構造体。
【0013】
〔3〕前記凸形状部は立ち上がり部と頂部とを備え、前記第2部材に対して前記立ち上がり部のなす角度が15度以上45度以下である〔1〕及び〔2〕の中空構造体。
【0014】
〔4〕前記頂部は平面状である、〔3〕の中空構造体。
【0015】
〔5〕下記式(1)及び(2)を満足する〔1〕~〔4〕の中空構造体。
0.5≦Dt1/Da≦1000 (1)
0.5≦Dt2/Da≦1000 (2)
第1部材のフランジ部の厚み :Dt1(単位:mm)
ホットメルト接着剤組成物の層の厚み:Da (単位:mm)
第2部材の周縁部の厚み :Dt2(単位:mm)。
【0016】
〔6〕前記第1部材及び前記第2部材が、各々独立して、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上から構成される〔1〕~〔5〕の中空構造体。
【0017】
〔7〕上記〔1〕~〔6〕の中空構造体を用いた冷蔵庫用扉。
【0018】
〔8〕上記〔7〕の冷蔵庫用扉を用いた冷蔵庫。
【0019】
〔9〕上記〔1〕~〔6〕の中空構造体の製造方法であって、
予め成形された前記第1部材の実質的に平板状のフランジ部と前記第2部材の周縁部とを、ホットメルト接着剤組成物を介して貼合せる工程と、
該貼合せた領域を加熱圧着処理して、前記第1部材と前記第2部材とを前記ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合する工程と、
を含む中空構造体の製造方法。
【0020】
〔10〕上記〔1〕~〔6〕の中空構造体の製造方法であって、
一つの面の周縁部にホットメルト接着剤組成物を配設した前記第2部材、前記ホットメルト接着剤組成物を配設した面を上にして平面状の上面を有する下金型に載置する工程と、
前記下金型と対向し、前記下金型の平面と平行な周縁部と、該周縁部に囲まれ、前記周縁部よりも前記下金型の平面からの距離が離れたキャビテイ部と該キャビテイ部の内面に開口する少なくとも一つの吸引孔を有する上金型の内面に、溶融軟化した板状の透明部材を前記吸引孔から吸引して減圧吸着させて、前記前記第1部材の形状に賦形する工程と、
前記下金型と前記上金型とを型締めすることにより、前記透明部材の前記第1部材のフランジ部となる周縁部と前記第2部材の周縁部とを、前記ホットメルト接着剤組成物を介して接合する工程と、
を含む中空構造体の製造方法。
【0021】
〔11〕上記〔1〕~〔6〕の中空構造体の製造方法であって、
一つの面の周縁部にホットメルト接着剤組成物を配設し、1以上の貫通孔を周縁部を除く領域に有する前記第2部材を平面状の上面を有する下金型に載置する工程と、
予め加熱した板状の透明部材を、前記第2部材に配設した前記ホットメルト接着剤組成物の上に載置する工程と、
前記下金型と対向し、前記下金型の平面と平行な周縁部と、該周縁部に囲まれ、前記周縁部よりも前記下金型の平面からの距離が離れたキャビテイ部と該キャビテイ部の内面に開口する少なくとも一つの吸引孔を有する上金型と前記下金型を型締めすることにより、前記透明部材の周縁部と前記第2部材の周縁部とを前記ホットメルト接着剤組成物の層を介して接合するとともに、前記透明部材を前記吸引孔から吸引して減圧吸着させて前記第1部材の形状に賦形すると同時に、前記第2部材の貫通孔から気体を導入し非接合領域のを中空部として形成する工程と、
を含む中空構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、接合部の透明性が高く、中空構造体の機械的強度に優れ、残存溶媒臭のない中空構造体を提供することができる。本発明は、大面積の中空構造体を提供するときに、特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)は本発明の一実施態様に係る中空構造体の構成例を示す模式的側面図、(b)は
図1(a)のA部の詳細な断面図、(c)は上面図である。
【
図2】(a)~(c)は、本発明の一実施態様に係る中空構造体の製造方法を示す工程フロー断面図である。
【
図3】(a)~(c)は、本発明の他の実施態様に係る中空構造体の製造方法を示す工程フロー断面図である。
【
図4】(a)及び(b)は、本発明の他の実施態様に係る中空構造体の製造方法を示す工程フロー断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の中空構造体及び中空構造体の製造方法、並びに冷蔵庫用扉の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態)
図1(a)~(c)に示すように、本実施形態の中空構造体1は、中空部を画成する凸形状部12と当該凸形状部の周縁のフランジ部11とを有する透明な第1部材10と、板状の透明な第2部材20とを備え、第1部材10のフランジ部11と該フランジ部と対向する第2部材20の周縁部21とが、ホットメルト接着剤組成物30の層を介して接合され一体化されている。被接合面は、周縁部21の一面とフランジ部11の凸形状部12の凸方向とは反対側の面である。該中空構造体1の中央部には、第1部材10の凸形状部12と第2部材20の中央部(周縁部21を除く非接合領域)22とにより、中空部25が画成されている。中空構造体1は、中空部25を有することにより、断熱性に優れている。
【0026】
また、第1部材10が中央部(又は非接合領域)に凸形状部12を有することにより、中空構造体1は三次元的に起伏を有する構造となり、中空構造体1自体の剛性が強くなる。即ち、衝撃等を受けたときの形状安定性が向上し(機械的強度が高く)、また、温度や湿度の変化に対しても反りや撓み等が少ない(寸法安定性に優れる)。
【0027】
図1(b)に示すように、第1部材10は、凸形状部12とフランジ部11とを有する。凸形状部12は、立ち上がり部14と頂部13とを有する。立ち上がり部14は、第2部材20の平面に対して角度αとなるように形成されている。頂部13は、第2部材20とほぼ平行な平面状に構成されている。フランジ部11は、立ち上がり部14の周縁端15から、帽子のつば状に延在している。フランジ部11の少なくとも被接合面は、第2部材20と平行な面を有する。フランジ部11の被接合面と反対の面も第2部材20と平行な面とすることができるが、接合時の圧力が均等に掛けられるのであれば、必ずしも第2部材20と平行な面である必要は無い。また、フランジ部11の被接合面と反対の面には、フランジ部11の強度を高めるために、リムなどの突起構造を設けても良い。
【0028】
本発明の中空構造体1においては、接合部が、後述するホットメルト接着剤組成物30の層を介してフランジ部11と第2部材20の周縁部21が接合された積層構造を有する。透明なフランジ部11と透明な周縁部21を、実質的に有機溶媒を含まないホットメルト接着剤組成物30を介して接合することにより、接合部の透明性が良好となるので中空構造体1全体の外観が良好となる。さらに、接合部の接合強度が向上するので、中空構造体1の機械的強度が向上し、また、温度変化に対する寸法安定性が優れたものになる。
なお、本明細書において「透明」とは、全光線透過率80%以上、又は、ヘイズ8%以下である状態を意味する。
【0029】
中空構造体1においては、第2部材20に対して立ち上がり部14のなす角度αは特に限定されるものではないが、角度α15度以上45度以下であることが好ましい。角度αの下限が15度以上であれば、中空構造体1の中空部25の面積割合を十分に大きくすることができる。一方、角度αの上限が45度以下であれば、中空構造体1を至近距離から眺めたときに、接合部と中空部25とが識別されにくくなり中空構造体1全体の外観が良好となる。
【0030】
通常、冷蔵庫用扉に中空状の部材(本発明の「中空構造体1」と区別するため「中空状部材」という。)を用いた場合、冷蔵庫用扉の内側と外側との間に温度差があるため、中空状部材の内側の部材と外側の部材とでは熱膨張の大きさが異なる。そのため、冷蔵庫用扉の内側(低温側)部材が収縮し冷蔵庫用扉の外側(高温側)の部材が伸びることがある。冷蔵庫用扉の内側部材よりも外側の部材の方が大きく伸びると、中空状部材に反りが発生しやすい。反りが発生すれば、中空状部材の外観が損なわれたり、中空状部材の内側の部材と外側の部材の接合強度が低下したりする場合がある。
【0031】
それに対し、本実施形態の中空構造体1を冷蔵庫用扉に用いる場合には、中央部に凸形状部12を有する第1部材10を冷蔵室側(低温側)となるように配置することにより、第1部材10の低温時の収縮による反りを凸形状部12による三次元構造で抑制することができる。また、凸形状部12の頂部13が、実質的に平面状であることから、冷蔵庫内部の商品の視認性が良好となり、好ましい。
【0032】
前述した温度による線膨張の違いにより生じる反りを更に抑制するために、内部の商品の視認性を維持した範囲で頂部13及び立ち上がり部14のいずれか、又は両方に予め緩やかな単曲面あるいは複曲面を有することもできる。また、この実施形態では、フランジ部11と立ち上がり部14との境界部である周縁端15や、立ち上がり部14と頂部13との境界部は平面が交差する形状になっているが、曲面的に(Rを持たせて)連続させてもよい。
【0033】
頂部13や立ち上がり部14を単曲面、複曲面とすることや、境界部にRを持たせることで、低温側の寸法収縮を曲面で相殺して内部商品の視認性の低下を低減する効果がある。また、応力の集中を防ぎ、強度をより向上させることができる。
【0034】
頂部13や立ち上がり部14の曲面(R形状)は、曲面形状の歪みによる内部商品の視認性を低下させないために、曲率半径3000mm以上であることが好ましい。
【0035】
中空部25の厚み方向の長さHは、特に限定されるものではないが、長さHは、中空部25内での断熱効果により結露を低減するために4mm以上が好ましく、6mm以上が好ましい。一方、長さHが大きくなるほど、中空部25内で内部対流が生じて冷蔵庫扉等に使用する場合に上下の温度差が大きくなり結露が生じやすくなることから、長さHは16mm以下が好ましく、14mm以下が好ましい。
【0036】
前述の通り、中空構造体1の接合部は、ホットメルト接着剤組成物30の層を介してフランジ部11と第2部材20の周縁部21が接合された積層構造を構成している。第1部材10のフランジ部11の厚みをDt1(mm)、ホットメルト接着剤組成物30の層の厚みをDa(mm)、第2部材20の周縁部21の厚みをDt2(mm)としたときに、中空構造体1においては、Dt1及びDt2の下限及び上限は特に限定されるものではない。しかし、冷蔵庫用扉としての剛性、寸法安定性、断熱性が良好となることから、Dt1及びDt2の下限はそれぞれ1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましい。一方、冷蔵庫用扉の重量を低減して、扉の開閉が容易となることから、Dt1及びDt2の上限はそれぞれ10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。Dt1及びDt2は上記範囲内で任意に組み合わせることができる。なお、本明細書において、上限値と下限値は、例えば、好ましい上限値とより好ましい下限値を組み合わせるなどして、任意の好ましい範囲とすることができる。
【0037】
ホットメルト接着剤組成物30の厚みDa(単位:mm)の下限及び上限は特に限定されるものではない。しかし第1部材10と第2部材20の接合面の凹凸に追随して接合可能となり接着強度を得やすいことから、厚みDaの下限は0.01mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。一方、Daの上限は、ホットメルト接着剤組成物30の内部ヘイズの影響が少なく、接合部の透視性が得られやすく、また接合面の凹凸に追随して接合可能となり、接着強度を得やすいことから2.0mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。
【0038】
中空構造体1においては、Dt1、Dt2及びDaの値はそれぞれ独立して決めることができる。さらに、Dt1/Da及びDt2/Daの値は、特に限定されるものではないが、下記式(1)及び式(2)を満足することができる。
【0039】
0.5≦Dt1/Da≦1000 (1)
0.5≦Dt2/Da≦1000 (2)
Dt1/Daの下限及びDt2/Daの下限は、接着強度が良好となることから0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、5.0以上がさらに好ましい。一方、Dt1/Daの上限及びDt2/Daの上限は、透明性および接着強度を維持できることから1000以下が好ましく、200以下がさらに好ましい。
【0040】
なお、中空構造体1の平面形状は、
図1(c)に示すような矩形状が代表的であるが、用途に合わせて円形状や多角形状など様々な形状とすることができる。また、接合部の幅(フランジ部の張り出し長さ)は、製造する中空構造体の大きさに合わせて十分な接合強度が担保される幅以上であれば、特に制限されず、周方向(平面形状が矩形の場合は各辺)に異なる幅を有していても良い。
【0041】
(第1部材及び第2部材)
第1部材10及び第2部材20(以下、必要に応じて適宜「透明部材」と略する。)は、本発明の中空構造体1を構成する部材の一つである。
【0042】
本実施形態に用いられる第1部材10及び第2部材20の材料の種類は特に限定されず、各々独立して、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などの公知の材料からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の材料が挙げられる。特に、透明性、高剛性、加工性(成形性)が要求される用途にはアクリル系樹脂が好適である。また、耐衝撃性を求められる用途には、耐衝撃アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂が好適である。このような樹脂材料を用いることにより、中空構造体1の軽量化を図ることができる。
【0043】
第1部材10及び第2部材20の材料として、強化ガラス材料等を用いてもよい。ただし中空構造体1の軽量化を図るためには、樹脂材料を用いることが好ましい。
【0044】
透明部材には、当業者が周知技術にもとづき、公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、熱安定剤、着色剤、帯電防止剤等の添加剤や、機能を付与するための単官能単量体を添加することができる。
【0045】
また、中空構造体1の外側表面となる透明部材の表面には、当業者が周知技術にもとづき、公知のアクリル系硬化被膜、シリコーン系硬化被膜及び無機粒子系硬化被膜からなる群より選ばれる少なくとも1種からなるハードコート層を設けることにより、中空構造体1の耐擦傷性、耐薬品性を高めることができる。
【0046】
第1部材10及び第2部材20の被接合面はいずれも、典型的には平板状であり、対向する被接合面同士は、実質的に平行である(中空構造体1の製作時の製造誤差や平面粗さは許容される)。対向する被接合面同士が実質的に平行であれば、ホットメルト接着剤組成物30の層の厚みむらを抑制でき、接合部の光学歪みを小さくできるので、綺麗な外観が得られる。また接合強度を十分に確保できるので中空構造体1全体の機械強度や耐久性が向上する。
【0047】
(ホットメルト接着剤組成物)
中空構造体1は、第1部材10と第2部材20が、ホットメルト接着剤組成物30の層を介して接合されている。
【0048】
本実施形態においてホットメルト接着剤組成物とは、常温では固体状又は軟質状の樹脂組成物であり、熱をかけることで溶融し、接合すべき部材間に配置して部材同士を接着させる接着剤であり、実質的に有機溶媒を含まない樹脂組成物のことをいう。
ホットメルト接着剤組成物は、実質的に有機溶媒を含まないので、残存溶媒臭のない中空構造体を得ることが可能となる。
さらに、ホットメルト接着剤組成物は、実質的に有機溶媒を含まないので、得られた中空構造体は、有機溶媒の乾燥斑に起因する接着斑という問題がなく、中空構造体の機械的強度が良好となる。特に大面積の中空構造体において、機械的強度の向上は効果的である。
【0049】
本実施形態においては、ホットメルト接着剤組成物30は、加熱圧着後に冷やして固まった後に、透明性を有するタイプが好ましい。
【0050】
ホットメルト接着剤組成物30としては、公知のホットメルト接着剤組成物を用いることができる。具体的には、エチレン-酢酸ビニルアセテート系共重合体(EVA共重合体)や、可塑化したポリビニルブチラール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系エラストマー樹脂等が挙げられる。中でも、EVA共重合体のホットメルト接着剤組成物は、安価な市販品の入手が可能であり、優れた耐水性、接着性、透明性を有することから有用である。また、公知の有機過酸化物等を用いてEVA共重合体を架橋させることにより、中空構造体1の耐久性や接合部の接合強度を向上できる。
【0051】
市販品としては、例えば、EVA共重合体としてはPV-F4U(商品名、サンビック社製)やメルセンG(登録商標、商品名、東ソー社製)、ポリウレタン系樹脂としてはTecoflex(商品名、オカダエンジニアリング社製)やエセラン(登録商標、商品名、NTW社製)、アクリル系エラストマー樹脂としてはクラリティー(登録商標、商品名、クラレ社製)が挙げられる。
【0052】
ホットメルト接着剤組成物30の溶融温度の下限は、特に限定されるものではないが、実使用温度での接着強度、耐久性が得られることから、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。またホットメルト接着剤組成物30の溶融温度の上限は、透明部材を接合するときの熱変形や、プレス加工する時の金型転写などを低減でき、貼り合わせ部分の外観が良好で、高い接着強度が得られることから、第1部材10及び第2部材20を構成する材料の内、熱変形温度が低い方の材料の熱変形温度をTd(℃)とすると、(Td+40)℃以下が好ましく、(Td+20)℃以下がより好ましい。
【0053】
具体的には、第1部材10及び第2部材20の材料がアクリル系樹脂の場合には、溶融温度は120℃以下が好ましい。第1部材10及び第2部材20の材料がポリカーボネート系樹脂の場合には、溶融温度は150℃以下が好ましい。なお、第1部材10と第2部材20は同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。
【0054】
ホットメルト接着剤組成物30の形状は、当業者が周知技術にもとづき、公知のロッド(棒)形状、ペレット(粒)形状、シート形状のものを使用できる。中でも、大型の中空構造体1を製造するときに、ホットメルト接着剤組成物の配設が容易であり、被接合物(透明部材)の位置合わせが容易であり、溶融加工処理の操作性に優れることから、シート形状のホットメルト接着剤組成物が好ましい。或いは又、公知のグル―ガン又はホットガンを使用でき、ホットメルト接着剤組成物を、被接合部の任意の部位に任意の量だけ配設することができることから、ロッド(棒)形状又ペレット(粒)形状のホットメルト接着剤組成物を用いてもよい。
【0055】
ホットメルト接着剤組成物の溶融粘度の上限は特に限定されるものではないが、透明部材同士を接合する時に、ホットメルト接着剤組成物と透明部材の間の空気を抜きやすくするため、また、加熱圧着時にホットメルト接着剤組成物が溶融して流れ性が向上し、ホットメルト接着剤組成物が接合部分に十分行き渡るようにするため、溶融粘度は温度70℃において2×105Pa・s以下が好ましい。またホットメルト接着剤組成物の流れ性が高くなりすぎると、加熱圧着時にホットメルト接着剤が透明部材の周縁部よりはみ出し、製品の外観を損なうばかりでなく、圧着型を汚染してしまうことから、溶融粘度の下限は温度70℃において1×104Pa・s以上が好ましい。
【0056】
ホットメルト接着剤組成物の形態がシート形状の場合、シート状のホットメルト接着剤組成物の表面にエンボス加工して、凹凸パターンを付与することができる。その場合、シート表面の中心線平均粗さRa(JIS-B0601(1982))の下限は特に限定されるものではないが、中心線平均粗さRaは、ホットメルト接着剤組成物シートと透明部材の境界面から空気を抜きやすく、気泡の噛み込を防ぐことができることから、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましい。一方、中心線平均粗さRaの上限は、境界面に大きな気泡を噛み込むことを防止するため、15μm以下が好ましく、13μm以下がより好ましい。
【0057】
シート状のホットメルト接着剤組成物の平均厚みの下限は特に限定されるものではないが、透明部材とホットメルト接着剤組成物間の空気が抜けやすいことから、0.02mm以上が好ましい。一方、加熱圧着時にホットメルト接着剤組成物が透明部材の周縁部よりはみ出すのを防ぐことができるので、平均厚みの上限は2mm以下が好ましい。
【0058】
本実施形態の中空構造体1の接合部の透明性は、中空構造体1の外観が良好となることから、全光線透過率80%以上、又は、ヘイズ8%以下であることが好ましい。
【0059】
(混合層)
本発明の中空構造体の接合部においては、第1部材10の層とホットメルト接着剤組成物の層の間に、それらの層が混ざり合った混合層が形成されていないことが好ましい。同様に、第2部材20の層とホットメルト接着剤組成物の層との間に、それらの層が混ざり合った混合層が形成されていないことが好ましい。
【0060】
ここでいう「混合層」とは、透明部材を形成する透明部材形成用組成物の濃度が、透明部材の層側からホットメルト接着剤組成物の層側へ連続的に減少する層のことをいう。このような混合層の有無を確認する手段は、特に限定されるものではなく、例えば、瞬間マルチ測光装置(大塚電子(株)製、製品名「MCPD3700])を用いて、中空構造体の接合部の切断面上の反射スペクトルを測定して、屈折率の変化を測定することにより確認できる。
【0061】
透明部材とホットメルト接着剤組成物のそれぞれの屈折率が異なるときに混合層が形成された場合、混合層の透明性が低下し、あるいは光学歪みが発生する。中空構造体の接合部に混合層が形成されないようにすることで、接合部の透明性を維持できるので、中空構造体の外観を良好に維持できる。中空構造体の接合部に混合層が形成されないようにする方法については、後述の中空構造体の製造方法において詳細に説明する。
【0062】
公知の熱硬化性接着剤や公知の光硬化性接着剤等のように有機溶媒(以下、「溶媒」という。)を含有する接着剤を、プラスチック製の透明部材どうしの接合に使用した場合、透明部材の表層が、接着剤に含まれる溶媒により溶解、膨潤し、透明部材の層と接着剤の層の界面付近に各層の成分が互いに混ざり合った混合層が形成される。このような形態の混合層の内部には、溶媒が残存するので、接合部付近の耐候性、耐久性、透明性の低下を引き起こし、長期的にはケミカルクラックの原因となる。また、残存溶媒量の多い中空構造体を食料品や飲料等を冷蔵する冷蔵庫用扉に用いた場合、食品の安全性や人体への影響に問題がある。
【0063】
溶媒の沸点が低い場合には、中空構造体を加熱することにより、残存溶媒量を低減できる。しかし、加熱炉や排気装置、真空装置等の設置を必要とし、長時間の加熱処理により製造コストが増加してしまう。
【0064】
本実施形態の中空構造体においては、ホットメルト接着剤組成物が実質的に溶媒を含まないため、公知の熱硬化性接着剤や光硬化性接着剤に付随する上記問題を解決できる。
【0065】
ホットメルト接着剤組成物の層は、第1部材10の層と第2部材20の層を物理的に強固に密着できるので、本実施形態の中空構造体は冷蔵庫用扉に用いるための十分な強度を有している。
【0066】
(冷蔵庫用扉)
本実施形態の中空構造体1を用いた冷蔵庫用扉は、第1部材10と第2部材20との間に中空部25を有しているため、断熱性に優れており、冷蔵庫の扉に使用された時に、冷蔵効率の省エネ、食品や飲料等の鮮度を維持できるとともに、冷蔵庫用扉の内側表面に結露が生じることを抑制できる。
【0067】
中空部25内は、大気圧下で開放又は密閉されていても良いし、減圧状態さらには真空状態に密閉されていても良い。また、冷蔵庫用扉の断熱性を向上させるために、中空部25内にアルゴンガスなどの空気より熱伝導率の低い気体を封入してもよい。大気圧下で密閉されている場合、中空部25は厚み方向に有意の空間長Hを有しているので、中空部内で断熱されるため、結露をより低減できる。
【0068】
さらに、冷蔵庫用扉は、透明な部材で構成されているため、冷蔵庫用扉を開閉せずに、冷蔵庫内にある商品を視認できる。
【0069】
冷蔵庫用扉は、中央部に凸形状部12を有するため、三次元構造となり剛性が強く、形状が安定し寸法安定性に優れる。
【0070】
(冷蔵庫)
本実施形態の冷蔵庫用扉を用いた冷蔵庫の一実施形態として、冷蔵庫用扉が、中空構造体の外周部又は上下辺部を囲うフレームと、フレーム上の1以上の箇所に冷蔵庫用扉を冷蔵庫本体に固定し、冷蔵庫用扉を開閉するためのヒンジ構造を有している、フレーム付タイプの形態を挙げることができる。別の一実施形態としては、冷蔵庫用扉は、上述したフレームを使用せずに、中空構造体に直接ヒンジ構造を設けた、フレームレスタイプの形態を挙げることができる。また、引き戸型の冷蔵庫にも本発明の中空構造体を引き戸型の冷蔵庫扉として使用することができる。
【0071】
フレームレスタイプの形態とすることで、冷蔵庫内部の商品の視認性が向上し、またフレームで遮られていた部分を視認できるので商品陳列スペースをより拡大できる。
【0072】
通常、冷蔵庫は、冷蔵庫用扉の内部と外部との間には温度差があるため、冷蔵庫用扉の内側の部材と外側の部材とでは熱膨張の大きさが異なる。そのため、冷蔵庫用扉の内側(低温側)部材が収縮し冷蔵庫用扉の外側(高温側)の部材が伸び、或いは又、冷蔵庫用扉の内側部材よりも外側の部材の方が大きく伸びるため、室温側(高温側)に凸の反りが発生しやすい。反りが発生すれば、冷蔵庫用扉の外観が損なわれ、冷蔵庫用扉の内側の部材と外側の部材の接合強度が低下する。この影響は、中空構造体が大面積のときに特に顕著に表れる。
【0073】
本実施形態の中空構造体1を冷蔵庫用扉に用いた場合には、中央部に凸形状部12を有する第1部材10が冷蔵室側(低温側)となるように配置することにより、透明部材の低温時の収縮による反りを中央の凸形状部12による三次元構造で抑制することができる。
【0074】
また、第1部材10の中央凸形状部12の頂部13を実質的に平面状とすることができるので、冷蔵庫内の商品の視認性を良好にできる。
【0075】
また板状の第2部材20を室温側(高温側)へ配置することにより、冷蔵庫用扉が面一で配置されるため、外観上好ましい。
【0076】
(中空構造体の製造方法)
上述した中空構造体1を製造する方法について、以下に代表的な実施形態を説明するが、本発明の製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0077】
本発明の中空構造体の製造方法は、中央部に凸形状部を有する透明な第1部材と、板状の透明な第2部材が、ホットメルト接着剤組成物の層を介して、接合一体化されて中空部を形成してなる中空構造体の製造方法に関する。
【0078】
この製造方法の実施形態は、特に限定されるものではないが、中空構造体を、容易に短時間のうちに効率よく、しかも精度よく製造できる方法として、後述する製造方法A、製造方法B及び製造方法Cを挙げることができる。以下、製造方法A~Cについて順に説明する。
【0079】
(製造方法A)
製造方法Aは、本発明の中空構造体の製造方法の一実施形態であり、生産性に優れている。
【0080】
図2(a)~(c)は、製造方法Aを示す工程フロー断面図であり、中央部に凸形状部を有するように予め成形加工された透明部材(第1部材10)と、板状の透明部材(第2部材20)とをホットメルト接着剤組成物30を介して接合して中空構造体を得る方法である。
【0081】
ホットメルト接着剤組成物30は、上述したものを用いることができる。
【0082】
製造方法Aにおいては、下記の工程(1)~(2)を順次行う。
【0083】
(工程(1))
工程(1)においては、
図2(a)に示すように、中空部を画成する凸形状部を有する透明な第1部材10の被接合面が実質的に平面状のフランジ部11と、板状の透明な第2部材20の周縁部21を、ホットメルト接着剤組成物30を介して貼合せた状態で、加熱圧着下型60上に載置する。中央部に凸形状部を有する第1部材10は、当業者が周知技術にもとづいて、公知の成形方法を用いて作製しておく。
なお、本明細書において、『被接合面が実質的に平面状のフランジ部』とは、第1部材と前記第2部材とを、ホットメルト接着剤組成物を介して接合したときに、接合部の接合強度にむら(斑)を生じない程度に、巨視的にみて、フランジ部の被接合面に凹凸がないことを意味する。
【0084】
加熱圧着下型60と加熱圧着上型70は、各々の内部に図示しない加熱用ヒーター又は加熱用熱媒による加熱機構が設けられている。
【0085】
(工程(2))
工程(2)においては、
図2(b)に示すように、加熱圧着下型60と加熱圧着上型70により、工程(1)で貼合された第1部材10のフランジ部11と第2部材20の周縁部21を加熱圧着し、接合する。これにより、
図2(c)に示すように第1部材10と第2部材20の接合部が、第1部材10のフランジ部11と第2部材20の周縁部21がホットメルト接着剤組成物30の層を介して接合された積層構造からなり、非接合領域の少なくとも一部を中空部25として有する中空構造体1が得られる。
【0086】
予め第1部材を成形加工するための成形方法としては、板状の透明部材を加熱して成形する方法が好ましい。その際、ヒーター加熱、炉加熱などの公知の加熱方法を用いて、板状の透明部材を加熱して軟化することができ、また、加熱されて軟化した板状の透明部材を成形する方法としては、真空成形、プレス成形、圧空成形、ブロー成形などの公知の成形方法を用いることができる。
【0087】
加熱圧着下型60及び加熱圧着上型70(以下、合わせて「加熱圧着型」という。)の加熱圧着面は、透明部材の表面に加熱圧着型の表面が転写して、中空構造体の外観が損なわれないように、鏡面形状に加工してあることが好ましい。
【0088】
加熱圧着型の加熱圧着面の温度の下限は、使用する第1部材や第2部材の熱変形温度と、ホットメルト接着剤組成物の溶融温度によって適宜選定される。加熱温度は、ホットメルト接着剤組成物を短時間で加熱溶融させることができ、実使用温度での接着強度、耐久性が得られるように、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。一方、加熱温度の上限は、短時間でホットメルト接着剤組成物の溶融が可能で、接合部に加熱による光学歪を生じることなく、またアクリル樹脂面に金型痕などの転写がなく接合でき、貼り合わせ部分の外観が良好で、高い接着強度が得られるように、第1部材及び第2部材を構成する材料の内、熱変形温度が低い方の材料の熱変形温度がTd(℃)として、(Td+40)℃以下が好ましく、(Td+20)℃)以下がより好ましい。
【0089】
具体的には、透明部材の材料がアクリル系樹脂の場合は、80℃以上120℃以下とすることができる。
【0090】
なお、本発明の製造方法において、ホットメルト接着剤組成物の溶融温度は上述したとおりである。
【0091】
製造方法Aにおいて、加熱圧着におけるプレス圧の下限値は、特に限定されるものではないが、噛みこんだ空気を抜くことができ外観を損なわないことから0.05MPaが好ましい。一方、プレス圧の上限値は、透明部材の変形、透明部材への金型表面形状の転写を防ぐことができることから、5MPaが好ましく、3MPaがより好ましい。
このように、透明材料の選択、ホットメルト接着剤組成物の溶融温度の最適化、加熱圧着における温度及びプレス圧を最適化することで、接合部における混合層の形成を抑制し、特にほとんど混合層の形成なしで接合部を形成することができる。
【0092】
以上の製造方法Aにより、ホットメルト接着剤組成物30を使用しているので、接着剤を使用せずに加熱溶着して接合する方法と比べると、混合層の発生を抑制できるので、接合部の透明性が良好となる。また、溶媒を含む接着剤を使用して接合する方法と比べると、接着斑の発生を抑制でき、接合部の透明性が良好となる。さらに、接合時に加熱するのは中空構造体の周縁部のみであるため、短時間で接合することができるので、冷却時に生じる熱歪みを低減して、中空構造体の反りや撓みを抑制できるので、中空構造体の機械的強度を優れたものにできる。この効果は、中空構造体が大面積のときに特に顕著に得られる。
【0093】
(製造方法B)
製造方法Bは、本発明の中空構造体の製造方法の一実施形態であり、寸法安定性(位置合わせの安定性)と生産性(生産工程・時間の短縮化)に優れている。
【0094】
図3(a)~(c)は、製造方法Bを示す工程フロー断面図であり、板状の透明部材2を加熱成型加工して第1部材10を成形した後、第1部材10の余熱によりホットメルト接着剤組成物30を溶融させて、板状の第2部材20を接合して中空構造体を得る方法である。
【0095】
ホットメルト接着剤組成物は、上述したものを用いることができる。
【0096】
製造方法Bにおいては、下記の工程(3)~(5)を順次行う。
【0097】
(工程(3))
工程(3)において、
図3(a)に示すように、板状の透明な第2部材20の周縁部21にホットメルト接着剤組成物30を配設した該第2部材20を、平面状の上面を有する下金型80に載置する。
【0098】
(工程(4))
工程(4)において、
図3(a)に示すように、加熱されて溶融軟化した板状の透明部材2を、下金型80の平面と平行な周縁部93と、該周縁部に囲まれ、周縁部よりも下金型の平面からの距離が離れたキャビテイ部92と該キャビテイ部の内面に開口する少なくとも一つの吸引孔91を有する上金型90の下端面に当接させる。次いで
図3(b)に示すように、透明部材2を上金型90のキャビテイ部92の内面92aに開口する少なくとも一つの吸引孔91から吸引して減圧吸着することにより、上金型90の内面92aに沿う形状に賦形して第1部材10を形成する。つまり、上金型90のキャビテイ部92の内面92aは、第1部材10の凸形状部12の外形の形状を有している。
なお、透明部材2が「溶融軟化した」状態とは、透明部材2を、吸引孔91から吸引して減圧吸着することで、金型90の内面に沿う形状に賦形できる程度に、加熱されて軟化した状態のことをいう。また、加熱方法としては、ヒーター加熱、炉加熱などの公知の加熱方法を用いることができる。
【0099】
(工程(5))
工程(5)において、
図3(c)に示すように、下金型80と上金型90を型締めする。第1部材10の余熱によりホットメルト接着剤組成物30が溶融し、第1部材10のフランジ部11と第2部材20の周縁部21とが、ホットメルト接着剤組成物30の層を介して接合される。これにより、非接合領域の少なくとも一部に中空部25が形成された中空構造体が得られる。
【0100】
工程(5)において、第1部材10の余熱温度は、使用する透明部材2の材料の熱変形温度と、ホットメルト接着剤組成物30の溶融温度により適宜選定されるが、通常は、製造方法Aの工程(2)において加熱圧着型の温度を選択したのと同様の方法で決めればよい。
【0101】
下金型80及び上金型90の加熱圧着面は、製造方法Aに記載したのと同じ理由で、鏡面形状に加工しておくことが好ましい。
【0102】
上記のような製造方法Bにより、ホットメルト接着剤組成物30を使用しているので、接着剤を使用せずに加熱溶着して接合する方法と比べると、混合層の発生を抑制できるので、接合部の透明性が良好となる。また、溶媒を含む接着剤を使用して接合する方法と比べると、接着斑の発生を抑制でき、接合部の透明性が良好となる。さらに、短時間で接合することができるので、加熱溶着して接合する方法と比べると冷却時に生じる熱歪みを低減して、中空構造体の反りや撓みを抑制でき、中空構造体の機械的強度を優れたものにできる。この効果は、中空構造体が大面積のときに特に顕著に得られる。また、寸法精度がよく、生産性の高い中空構造体を製造することができる。
【0103】
(製造方法C)
製造方法Cは、本発明の中空構造体の製造方法の一実施形態であり、寸法安定性(位置合わせの安定性)と生産性(生産工程・時間の短縮化)に優れている。
【0104】
図4(a)、(b)は、製造方法Cを示す工程フロー断面図であり、板状の透明部材2の加熱後、透明部材2と第2部材20とをホットメルト接着剤組成物30を溶融させて接合する直前又は接合とほぼ同時に、第1部材10を成形して中空構造体を得る方法である。
【0105】
ホットメルト接着剤組成物30は、上述したものを用いることができる。
【0106】
製造方法Cにおいては、下記の工程(6)~(8)を順次行う。
【0107】
(工程(6))
工程(6)において、
図4(a)に示すように、少なくとも一つの貫通孔23を形成した板状の透明な第2部材20の周縁部21にホットメルト接着剤組成物30を配設した第2部材20を平面状の上面を有する下金型80に載置する。
【0108】
下金型80には、第2部材20の貫通孔23と重なるように、少なくとも一つの貫通孔81を設けることができる。
【0109】
(工程(7))
工程(7)において、
図4(a)に示すように、予め自重で変形しない程度に予備加熱した板状の透明部材2を、工程(6)のホットメルト接着剤組成物30の上に載置する。
【0110】
(工程(8))
工程(8)において、
図4(b)に示すように、下金型80と、下金型80の上方に配置された上金型90とを型締めして、加熱圧着する。上金型90は、製造方法Bと同様であり、説明を省略する。このとき、透明部材2の周縁部2a(フランジ部11となる部分)と第2部材20の周縁部21を、ホットメルト接着剤組成物30を介して接合するとともに前記透明部材2を溶融軟化して、吸引孔91から吸引し透明部材2を上金型90のキャビテイ部92の内面92aに減圧吸着し、上金型90の内面に沿う形状に賦形して第1部材10を形成する。このとき、非接合領域の少なくとも一部に中空部25が形成される。この際に、下金型80の貫通孔81は、大気圧下に開放されていてもよいし、貫通孔81をとおして加圧空気を中空部25内に供給してもよい。
なお、透明部材2が「溶融軟化した」状態とは、工程(4)における「溶融軟化した」状態と同様の状態のことをいう。
【0111】
なお、工程(8)の加熱圧着温度は、使用する透明部材2の材料の熱変形温度と、ホットメルト接着剤組成物30の溶融温度により適宜選定されるが、通常は、製造方法Aの工程(2)において加熱圧着型の温度を選択したのと同様の方法で決めればよい。
【0112】
また、下金型80及び上金型90の加熱圧着面は、製造方法Aに記載したのと同じ理由で、鏡面形状に加工しておくことが好ましい。
【0113】
上記のような製造方法Cにより、ホットメルト接着剤組成物30を使用しているので、接着剤を使用せずに加熱溶着して接合する方法と比べると、混合層の発生を抑制でき、接合部の透明性が良好となる。また、溶媒を含む接着剤を使用して接合する方法と比べると、接着斑の発生を抑制でき、接合部の透明性が良好となる。さらに、短時間で接合することができるので、冷却時に生じる熱歪みを低減して、中空構造体の反りや撓みを抑制でき、中空構造体の機械的強度を優れたものにできる。さらに、接合と第1部材の成型を同時に行うことで、寸法精度に優れた中空構造体を得ることができる。この効果は、中空構造体が大面積のときに特に顕著に得られる。また、寸法精度がよく、生産性の高い中空構造体を製造することができる。なお、第2部材に形成した貫通孔23は、中空構造体の接合後に貫通孔23を介して中空部25内を減圧状態や真空状態とした後に、あるいはアルゴンガスなどの熱伝導率の低い基体を貫通孔から注入した後に塞いで密閉してもよい。
【0114】
さらに、製造方法A~Cにおいて、第1部材の端部と第2部材の端部とは製造過程において必ずしも一致させておく必要は無く、接合後に切削、研磨等により、中空構造体の端面を揃えることができる。また、ホットメルト接着剤組成物は、加熱加圧されることで流動し、加圧部材や金型を汚染するほどでないとしても接合後に端部からはみ出す場合もある。この場合も上記端面の調整を行うことで、はみ出しのない中空構造体が得られる。なお、ホットメルト接着剤組成物を配設する位置は、形成される中空部25側にはみ出さないように調整することが、製品外観の点から好ましい。
【0115】
上述した製造方法A~Cを用いることにより、外観と機械的強度及び温度や湿度の変化に対する寸法安定性に優れている中空構造体を、容易に短時間のうちに効率よく、しかも精度よく製造することができる。特に大面積の中空構造体において、効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の中空構造体は、接合部の透明性が高く、機械的強度(接合部の接合強度)に優れ、残存溶媒臭がない。また、温度変化に対する寸法安定性に優れている。さらに、高い断熱効果を有しているので、スーパーマーケットやレストラン等で、食品や飲料の製品鮮度を維持しながら展示するための冷蔵庫や冷蔵用ショーケースの扉に好適である。本発明の中空構造体は、特に大面積の中空構造体に好適である。
【符号の説明】
【0117】
1:中空構造体
2:透明部材
2a:周縁部
10:第1部材
11:フランジ部
12:凸形状部
13:頂部
14:立ち上がり部
15:周縁端
20:第2部材
21:周縁部
22:中央部
23:貫通孔
25:中空部
30:ホットメルト接着剤組成物
60:加熱圧着下型
70:加熱圧着上型
80:下金型
81:貫通孔
90:上金型
91:吸引孔
92:キャビテイ部
92a:キャビテイ部の内面
93:周縁部