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特許7131585生体物質の付着抑制能を有するイオンコンプレックス材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】生体物質の付着抑制能を有するイオンコンプレックス材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/34 20060101AFI20220830BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20220830BHJP
   C09D 143/02 20060101ALI20220830BHJP
   C09D 201/06 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08F220/34
C08F220/26
C09D143/02
C09D201/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020142727
(22)【出願日】2020-08-26
(62)【分割の表示】P 2016563726の分割
【原出願日】2015-12-10
(65)【公開番号】P2021008618
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2014250269
(32)【優先日】2014-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】安部 菜月
(72)【発明者】
【氏名】西野 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】北原 真樹
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-120410(JP,A)
【文献】特開2001-279164(JP,A)
【文献】特開平01-266126(JP,A)
【文献】特開昭57-010653(JP,A)
【文献】特開2005-208628(JP,A)
【文献】特開2007-063459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/34
C08F 220/26
C09D 143/02
C09D 201/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化1】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]であって、式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が3.5モル%乃至50モル%であり、式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合がモル%乃至65モル%であり、式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が、3モル%乃至88モル%であり、かつN-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド由来の単位を含まない共重合体、及び
(ii)溶媒
を含む、生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用組成物。
【請求項2】
共重合体が、下記式(a1)、(b1)及び(c1):
【化2】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される繰り返し単位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化3】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]であって、式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が3.5モル%乃至50モル%であり、式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が8モル%乃至65モル%であり、式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が、3モル%乃至88モル%である共重合体と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物のpHを調整する工程、及び
コーティング膜形成用組成物を基体に塗布する工程、
を含む方法により得られる生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜。
【請求項4】
共重合体が、下記式(a1)、(b1)及び(c1):
【化4】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される繰り返し単位を含む、請求項3に記載のコーティング膜。
【請求項5】
乾燥工程後に得られた膜を、さらに水及び電解質を含む水溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を含む、請求項3又は4に記載のコーティング膜。
【請求項6】
下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化5】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至8のシクロアルキル基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]であって、式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が3.5モル%乃至50モル%であり、式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が8モル%乃至65モル%であり、式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合が、3モル%乃至88モル%である共重合体と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物のpHを調製する工程、及び
コーティング膜形成用組成物を基体に塗布する工程、
を含む生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質の付着抑制能を有するイオンコンプレックス材料及びその製造方法に関するものである。具体的に本発明は、生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜、該コーティング膜の製造方法、特定のモノマー混合物を重合させることにより得られる共重合体、共重合体の製造方法、特定の組成を有するコーティング膜形成用組成物、該膜を形成するためのコーティング膜形成用組成物の原料として使用される共重合体含有ワニスの製造方法、コーティング膜を形成するためのゾル、並びにゾルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工透析器、人工臓器、医療器具等の医療用器具、器材等の生体物質付着抑制のために様々な、生体物質の付着抑制能を有するコーティング材料が提案されている。それらの中にはエチレングリコール鎖を側鎖に持つポリマーをコーティングすることで生体物質の付着を阻害するような材料が知られており、例えば特許文献1においては、2-メトキシエチルアクリレートの共重合体を血液フィルターや人工透析フィルターなどの不織布にコーティングする例が記載されている。また、非特許文献1では、人工透析膜の基体として使われるポリスルホン(PSF)やポリエーテルスルホン(PES)などに対して生体物質の付着抑制能を付与するために、親水性を持つポリビニルピロリドン(PVP)がコーティングされることが記載されている。しかしながらこれらの材料は、親水性等の効果から期待される生体物質の付着抑制能を有する一方、ポリマー自体の水に対する溶解性を抑えアルコールや有機溶媒への溶解性を高めていることから、除菌用のエタノールなどによる洗浄、高粘度の生体物質等によるコーティング膜へのずり応力(せん断応力)、長期間の使用等が原因となりコーティング膜自体の溶出が確認されており、ひいてはその溶出物によるアレルギーなどが懸念されている。
【0003】
一方で、カチオン、アニオンを側鎖に含む高分子材料を表面に有する材料は、その静電気的バランスにより、該表面が電気的に中性に保たれることで生体物質(蛋白質、細胞等)の吸着を防ぐ作用があることが知られている。また、それらの機能を用いたコーティング材料も提案されており、ガラスやポリマー基板などへの固着・固定化方法に関しても様々な報告がされている。例えば、非特許文献2では、電荷中和ユニットとしてリン脂質と類似分子構造をもつ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とシランカップリング基を有するメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを共重合させたポリマーによりガラス基板との化学吸着による表面修飾を達成したことを報告しており、一方で、ポリマー基板上には疎水性相互作用による物理吸着をねらいメタクリル酸ブチルを共重合させたポリマーにより基板への固定化させることを報告している。しかしながら、これらの方法では基板の種類によってポリマー種を選ぶ必要がある。
【0004】
また、特許文献2においてはリン酸エステル基を有する重合体含有コーティング液から形成された膜を200乃至450℃で加熱処理して得たコーティング膜が記載されている。コーティング膜の水系媒体への溶出を抑えるために基体にコーティング後、200乃至450℃の高温で加熱処理する必要があるため、加熱処理のためにオーブン、ホットプレート等の加熱装置が必要である。また樹脂材料等の耐熱性が低い基材には適用し難い等の問題があった。さらに該コーティング膜を形成するためのコーティング液を作製するために種々のポリマーを重合しているが、実施例において重合反応はエタノール中で行なっており、水の中での重合反応性は不明である。
【0005】
また、特許文献3においては、アクリル系酸性リン酸エステル単量体に水の存在下にてアミン類を反応させ、酸塩基反応を選択進行させて得られた新規アクリル系リン酸エステルアミン塩単量体(ハーフ塩)並びにその製造方法が記載されている。このアミン塩(ハーフ塩)は、この単量体はゴム弾性付与や、油溶性物質の変性剤として、感光性樹脂分野において幅広い用途及び有用性があるとの記載があるが、当該アミン塩(ハーフ塩)単量体自体の水の中での重合反応性や、得られた重合体の生体物質への付着抑制能については不明である。またメタノール等の極性溶媒中での重合時における、全使用単量体中における上記アクリル系酸性リン酸エステル単量体の使用比率は主として5%前後から1%前後の例が多く、多すぎるとゲル化してしまうとの記載がある。
【0006】
また、特許文献4には、ポリビニルピロリドン(PVP)を含む中空糸膜を有する血液浄化器が開示されており、その中空糸中のPVPの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であることが記載され、そのPVPコーティング液を使用して、中空糸内をコーティングすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-323030号公報
【文献】特開2007-63459号公報
【文献】特開平6-92979号公報
【文献】特開2010-233999号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】人工臓器、39巻、1号、pp.77(2010)
【文献】高分子論文集、Vol.65,No.3,pp.228,(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、これまでに(1)水系媒体への溶出を抑えるため200乃至450℃もの高温での加熱処理により得られるコーティング膜が必要、(2)基材の種類によりコーティング膜材料を適切に選ぶ必要がある、(3)上記コーティング膜形成用組成物中に使用される共重合体はワニス製造時にゲル化しやすい、といった上記3点の課題を克服すべく、検討を行ってきた。本発明は、上記課題に加え、コーティング膜における生体物質付着抑制能のさらなる向上と、その製造におけるコーティング膜形成用組成物の取扱い性の改善を目的とし、特に低温乾燥工程のみで容易に形成可能な生体物質付着抑制能を有するコーティング膜、該コーティング膜の製造方法、特定のモノマー混合物を重合させることにより得られる共重合体、共重合体の製造方法、特定の組成を有するコーティング膜形成用組成物、該膜を形成するためのコーティング膜形成用組成物の原料として使用される共重合体含有ワニスの製造方法、コーティング膜を形成するためのゾル、並びにゾルの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである:
1.下記式(A)、(B)及び(C):
【化1】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される化合物を少なくとも含むモノマー混合物を重合させることにより得られる、共重合体;
【0011】
2.さらに下記式(D)又は(E):
【化2】

[式中、
、T及びUは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;nは、1乃至6の整数を表す]
で表される化合物を含むモノマー混合物を重合させることにより得られる、上記1に記載の共重合体;
【0012】
3.(i)下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化3】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す];及び
(ii)溶媒
を含む、コーティング膜形成用組成物;
【0013】
4.共重合体が、下記式(a1)、(b1)及び(c1):
【化4】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される繰り返し単位を含む、上記3に記載の組成物;
【0014】
5.下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化5】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を、基体に塗布する工程、
を含む方法により得られるコーティング膜;
【0015】
6.共重合体が、下記式(a1)、(b1)及び(c1):
【化6】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される繰り返し単位を含む、上記5に記載のコーティング膜;
【0016】
7.コーティング膜形成用組成物を予めpH調整する工程を含む、上記5又は6に記載のコーティング膜;
【0017】
8.乾燥工程後に得られた膜を、さらに水及び電解質を含む水溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を含む、上記5乃至7の何れか1項に記載のコーティング膜;
【0018】
9.生体物質の付着抑制能を有する、上記5乃至8の何れか1項に記載のコーティング膜;
【0019】
10.下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化7】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
を含むゾル;
【0020】
11.動的光散乱法により測定される粒径分布において、平均粒径が2nm以上500nm以下である、上記10に記載のゾル;
【0021】
12.下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化8】

[式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至8のシクロアルキル基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を、基体に塗布する工程、
を含むコーティング膜の製造方法;
【0022】
13.下記式(A)、(B)及び(C):
【化9】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される化合物、溶媒及び重合開始剤を含む混合物を、重合開始剤の10時間半減期温度より高い温度に保持した溶媒に滴下し、反応させる工程を含む、共重合体含有ワニスの製造方法;
【0023】
14.下記式(A)、(B)及び(C):
【化10】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される化合物を少なくとも含むモノマー混合物を重合させる工程を含む、共重合体の製造方法;
【0024】
15.さらに下記式(D)又は(E):
【化11】

[式中、
、T及びUは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;nは、1乃至6の整数を表す]
で表される化合物を含むモノマー混合物を重合させることにより得られる、上記14に記載の製造方法;
【0025】
16.下記式(A)、(B)及び(C):
【化12】

[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される化合物を少なくとも含むモノマー混合物を重合させる工程を含む、ゾルの製造方法;
【0026】
17.生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用の、上記1又は2に記載の共重合体;
【0027】
18.生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用の、上記3又は4に記載の組成物;
【0028】
19.生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用の、上記10又は11に記載のゾル;
【0029】
20.コーティング膜が、生体物質の付着抑制能を有する、上記12に記載の製造方法;
【0030】
21.ワニスが、生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用である、上記13に記載の製造方法;
【0031】
22.共重合体が、生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用である、上記14又は15に記載の製造方法;
【0032】
23.ゾルが、生体物質の付着抑制能を有するコーティング膜形成用である、上記16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明のコーティング膜は、式(a)で表されるアニオンと、式(b)で表されるカチオンと、式(c)で表される疎水性基を含む共重合体と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を基体に塗布する工程を経ることで形成することができる。本発明のコーティング膜は、式(a)で表されるアニオンと、式(b)で表されるカチオンとがイオン結合(イオンコンプレックス)を形成することで、ガラス、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物又は樹脂(合成樹脂及び天然樹脂)等、基体の種類を選ばず固着することができ、また固着後は水系溶媒(水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコール等)への耐久性に優れたコーティング膜となる。さらに、式(c)で示される疎水性基を導入することで、プラスチックなどの樹脂との密着性がよく、固着後の水系溶媒に対する耐久性がより優れた膜となる。また、共重合体のイオンバランスを調節するために、コーティング膜形成用組成物を予めpH調整剤等によりpHを調整したり、乾燥後のコーティング膜を水及び/又は電解質を含む水溶液で洗浄することにより、生体物質の付着抑制能に優れたコーティング膜となる。
【0034】
また本発明の共重合体は、式(a)で表されるカチオンと、式(b)で表されるカチオンに加え、式(c)で表される疎水性基を含むことにより、有機溶媒への溶解性が向上する。これにより該共重合体を含むコーティング膜形成用組成物における溶媒を、組成物の所望の性質に従いより広範囲から選択することができるようになり、例えば、溶媒として水に比べ揮発しやすいエタノール等の有機溶媒を用いることにより、コーティング後の乾燥が容易になる等、コーティング工程が簡素化される。また共重合体が、式(c)で表される疎水性基を含むことにより、コーティング膜の生体物質の付着抑制能の向上を図ることができる。
【0035】
さらに本発明のコーティング膜形成用組成物に含まれる共重合体を合成する場合、該共重合体の側鎖であるリン酸エステル基は、例えば特許文献3に記載のように、会合性が強く重合条件によってはゲル化してしまうことが知られているが、本発明では、反応基質や試薬の添加順序や添加温度を制御したりすることで、ゲル化せず透明な共重合体含有ワニスを得るための製造方法を提供することができる。この方法によれば、本発明に係る共重合体中にリン酸エステル基を有する繰り返し単位を例えば50モル%程度有する重合体であってもゲル化せず透明な共重合体含有ワニスが製造できる。この共重合体含有ワニスは、本発明のコーティング膜を形成するためのコーティング膜形成用組成物として、又はそれらを作成するための原料として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
≪用語の説明≫
本発明において用いられる用語は、他に特に断りのない限り、以下の定義を有する。
【0037】
本発明において、「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0038】
本発明において、「アルキル基」は、直鎖若しくは分岐の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。「炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例に加え、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基又はオクタデシル基、あるいはそれらの異性体が挙げられる。
【0039】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味するか、あるいは1以上の上記ハロゲン原子で置換された上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例は、上記のとおりである。一方「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロブチル基、又はペルフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0040】
本発明において、「エステル結合」は、-C(=O)-O-若しくは-O-C(=O)-を意味し、「アミド結合」は、-NHC(=O)-若しくは-C(=O)NH-を意味し、エーテル結合は、-O-を意味する。
【0041】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基、あるいは1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を意味する。ここで、「アルキレン基」は、上記アルキル基に対応する2価の有機基を意味する。「炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基等が挙げられ、これらの中で、エチレン基、プロピレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基が好ましく、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基がより好ましく、特にエチレン基又はプロピレン基が好ましい。「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、上記アルキレン基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、特に、エチレン基又はプロピレン基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置き換えられているものが好ましい。
【0042】
本発明において、「炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基」は、炭素原子数3乃至10の、単環式若しくは多環式の、飽和若しくは部分不飽和の、脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。この中でも、炭素原子数3乃至10の、単環式若しくは二環式の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基又はシクロヘキシル基等の炭素原子数3乃至10のシクロアルキル基、あるいはビシクロ[3.2.1]オクチル基、ボルニル基、イソボルニル基等の炭素原子数4乃至10のビシクロアルキル基が挙げられる。
【0043】
本発明において、「炭素原子数6乃至10のアリール基」は、炭素原子数6乃至10の、単環式若しくは多環式の、芳香族炭化水素の1価の基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基等が挙げられる。「炭素原子数6乃至10のアリール基」は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0044】
本発明において、「炭素原子数7乃至14のアラルキル基」は、基-R-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1乃至5のアルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6乃至10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、ベンジル基、フェネチル基、又はα-メチルベンジル基等が挙げられる。「炭素原子数7乃至14のアラルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0045】
本発明において、「炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基」は、基-R-O-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1乃至5のアルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6乃至10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、又はフェノキシプロピル基等が挙げられる。「炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0046】
本発明において、「ハロゲン化物イオン」とは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを意味する。
本発明において、「無機酸イオン」とは、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン又はホウ酸イオンを意味する。
上記Anとして好ましいのは、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンであり、特に好ましいのはハロゲン化物イオンである。
【0047】
本発明において、(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方を意味する。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸を意味する。
【0048】
本発明において、生体物質としては、蛋白質、糖、核酸及び細胞又はそれらの組み合わせが挙げられる。例えば蛋白質としてはフィブリノゲン、牛血清アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン、各種グロブリン、β-リポ蛋白質、各種抗体(IgG、IgA、IgM)、ペルオキシダーゼ、各種補体、各種レクチン、フィブロネクチン、リゾチーム、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血清γ-グロブリン、ペプシン、卵白アルブミン、インシュリン、ヒストン、リボヌクレアーゼ、コラーゲン、シトクロームc、例えば糖としてはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ヘパリン、ヒアルロン酸、例えば核酸としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、例えば細胞としては線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられ、本発明のコーティング膜は、特に血小板に対して高い付着抑制能を有する。本発明のコーティング膜は、蛋白質、糖が混在する血清に対して特に高い付着抑制能を有する。本発明のコーティング膜は、細胞、特に胚性線維芽細胞に対して特に高い付着抑制能を有する。本発明のコーティング膜は、特にマウス胚性線維芽細胞(例えば、C3H10T1/2)に対して特に高い付着抑制能を有する。
【0049】
生体物質の付着抑制能を有するとは、例えば、
生体物質が血小板の場合、実施例に記載した方法で行う血小板付着試験にて、コーティング膜無しと比較した場合の相対血小板付着数(%)((実施例の血小板付着数(個))/(比較例の血小板付着数(個)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味し;
生体物質がタンパク質の場合、実施例に記載した方法で行うQCM-D測定にて、コーティング膜無しと比較した場合の相対単位面積当たりの質量(%)((実施例の単位面積当たりの質量(ng/cm)/(比較例の単位面積当たりの質量(ng/cm)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味し;
生体物質が細胞の場合、実施例に記載した方法で行う蛍光顕微鏡によるコーティング膜無しと比較した場合の相対吸光度(WST O.D.450nm)(%)((実施例の吸光度(WST O.D.450nm))/(比較例の吸光度(WST O.D.450nm)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味する。
【0050】
≪本発明の説明≫
本発明のコーティング膜は、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【0051】
【化13】
【0052】
[式中、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を、基体に塗布する工程を含む方法により得られる。
【0053】
本発明のコーティング膜に係る共重合体は、上記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、上記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、上記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位を含む共重合体であれば特に制限は無い。なお、本発明において、上記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位は、上記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位及び上記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とは異なる。該重合体は、上記式(a)で表される有機基を含むモノマーと、上記式(b)で表される有機基を含むモノマーと、上記式(c)で表される有機基を含むモノマーとをラジカル重合して得られたものが望ましいが、重縮合、重付加反応させたものも使用できる。共重合体の例としては、オレフィンが反応したビニル重合ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン等が挙げられるが、これらの中でも特にオレフィンが反応したビニル重合ポリマー又は(メタ)アクリレート化合物を重合させた(メタ)アクリルポリマーが望ましい。
【0054】
本発明のコーティング膜に係る共重合体中における式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%であり、好ましくは3.5モル%乃至50モル%であり、さらに好ましくは4モル%乃至30モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0055】
本発明のコーティング膜に係る共重合体中における式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%であり、好ましくは5モル%乃至70モル%であり、さらに好ましくは8モル%乃至65モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0056】
本発明に係る共重合体中における式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合は、全共重合体に対して上記式(a)及び(b)を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(a)及び(b)と下記に記述する第4成分との合計割合を差し引いた残部であってもよいが、例えば1モル%乃至90モル%であり、好ましくは3モル%乃至88モル%である。さらに好ましくは5モル%乃至87モル%である。最も好ましくは50モル%乃至86モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0057】
本発明に係る共重合体中における上記式(a)、式(b)及び式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位の割合の組み合わせは、
好ましくは、
式(a):3モル%乃至80モル%、式(b):3モル%乃至80モル%、式(c):1モル%乃至90モル%、
より好ましくは、
式(a):3.5モル%乃至50モル%、式(b):5モル%乃至70モル%、式(c):3モル%乃至88モル%、
さらに好ましくは、
式(a):4モル%乃至30モル%、式(b):8モル%乃至65モル%、式(c):5モル%乃至87モル%、
最も好ましくは、
式(a):4モル%乃至30モル%、式(b):8モル%乃至65モル%、式(c):50モル%乃至86モル%、
である。
【0058】
本発明のコーティング膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコールが挙げられる。アルコールとしては、炭素数2乃至6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよいが、共重合体の溶解の観点から、水、PBS、エタノール及びプロパノールから選ばれるのが好ましい。
【0059】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01乃至50質量%が望ましい。また、コーティング膜形成用組成物中の共重合体の濃度としては、好ましくは0.01乃至4質量%、より好ましくは0.01乃至3質量%、特に好ましくは0.01乃至2質量%、さらに好ましくは0.01乃至1質量%である。共重合体の濃度が0.01質量%以下であると、得られるコーティング膜形成用組成物の共重合体の濃度が低すぎて十分な膜厚のコーティング膜が形成できず、4質量%以上であると、コーティング膜形成用組成物の保存安定性が悪くなり、溶解物の析出やゲル化が起こる可能性がある。
【0060】
さらに本発明のコーティング膜形成用組成物は、上記共重合体と溶媒の他に、必要に応じて得られるコーティング膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、防腐剤、界面活性剤、基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0061】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の共重合体のイオンバランスを調節するために、本発明のコーティング膜を得る際には、さらにコーティング膜形成用組成物中のpHを予め調整する工程を含んでいてもよい。pH調整は、例えば上記共重合体と溶媒を含む組成物にpH調整剤を添加し、該組成物のpHを3.0~13.5、好ましくは3.5~8.5、さらに好ましくは3.5~5.5とするか、あるいは好ましくは8.5~13.5、さらに好ましくは10.0~13.5とすることにより実施してもよい。使用しうるpH調整剤の種類及びその量は、上記共重合体の濃度や、そのアニオンとカチオンの存在比等に応じて適宜選択される。
pH調整剤の例としては、アンモニア、ジエタノールアミン、ピリジン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸又はそのアルカリ金属塩;コリン等の4級アンモニウムカチオン、あるいはこれらの混合物(例えば、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液)を挙げることができる。これらの中でも、アンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、コリン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましく、特にアンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム及びコリンが好ましい。
【0062】
したがって本発明は、(i)上記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、上記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、上記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体、(ii)溶媒、及び場合により(iii)pH調整剤を含む、コーティング膜形成用組成物に関する。共重合体、溶媒及びpH調整剤の具体例は、上記のとおりである。
【0063】
本発明はまた、上記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、上記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位と、上記式(c)で表される有機基を含む繰り返し単位と、を含む共重合体を含むゾルに関する。ゾルが含む共重合体の具体例は、上記のとおりである。
好ましくは、本発明のゾルはさらに溶媒、pH調整剤を含む。溶媒、pH調整剤の具体例は上記のとおりである。より好ましくは、本発明のゾルは、コーティング膜形成用ゾルであって、コーティング膜形成用組成物の一態様である。
【0064】
本発明のゾルは、動的光散乱法により測定される粒径分布において、平均粒径が2nm以上500nm以下である。さらに好ましい平均粒径は、2nm以上400nm以下であり、さらに好ましい平均粒径は、2nm以上300nm以下であり、最も好ましい平均粒径は、2nm以上200nm以下である。
【0065】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物を基体に塗布し、乾燥させてコーティング膜を形成する。
本発明のコーティング膜を形成するための基体としては、ガラス、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物、活性炭又は樹脂を挙げることができる。金属含有化合物若しくは半金属含有化合物は、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物などの無機化合物の成形体など無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。
【0066】
樹脂としては、天然樹脂又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂としてはセルロース、三酢酸セルロース(CTA)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、テフロン(登録商標)、シクロオレフィンポリマー(COP)(例えば、ZEONOR(登録商標)、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン(株)製))又は各種イオン交換樹脂等が好ましく用いられるが、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリプロピレン(PP)及びシクロオレフィンポリマー(COP)がより好ましく、ポリスチレン(PS)及びポリエーテルスルホン(PES)が特に好ましい。本発明のコーティング膜は、低温乾燥にて形成できるため、耐熱性が低い樹脂等にも適用可能である。
【0067】
本発明のコーティング膜を形成すべく、上記のコーティング膜形成用組成物を基体の表面の少なくとも一部に塗布する。塗布方法としては特に制限は無く、通常のスピンコート、ディップコート、溶媒キャスト法等の塗布法が用いられる。
【0068】
本発明に係るコーティング膜の乾燥工程は、大気下又は真空下にて、好ましくは、温度-200℃乃至200℃の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記コーティング膜形成用組成物中の溶媒を取り除くと共に、本発明に係る共重合体の式(a)及び式(b)同士がイオン結合を形成して基体へ完全に固着する。
【0069】
コーティング膜は、例えば室温(10℃乃至35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速にコーティング膜を形成させるために、例えば40℃乃至50℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温~低温(-200℃乃至-30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールの混合媒体(-78℃)、液体窒素(-196℃)等が挙げられる。
【0070】
乾燥温度が-200℃以下であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃以上であると、コーティング膜表面のイオン結合反応が進みすぎて該表面が親水性を失い、生体物質付着抑制能が発揮されない。より好ましい乾燥温度は10℃乃至180℃、より好ましい乾燥温度は25℃乃至150℃である。
【0071】
乾燥後、該コーティング膜上に残存する不純物、未反応モノマー等を無くすため、さらには膜中の共重合体のイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を実施してもよい。洗浄は、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃乃至95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに基体に強固に固着したままである。形成されたコーティング膜は生体物質が付着してもその後水洗等にて容易に除去することができ、本発明のコーティング膜が形成された基体表面は、生体物質の付着抑制能を有する。
【0072】
本発明のコーティング膜の応用事例として例えば人工透析器のフィルター用コーティング膜があるが、本発明のコーティング膜はフィルターへ使用される合成樹脂(例えばPES、PS及びPSF等)へのコーティング膜の固着性、固着後の耐久性も良好である。基体の形態は特に制限されず、基板、繊維、粒子、ゲル形態、多孔質形態等が挙げられ、形状は平板でも曲面でもよい。
例えば人工透析器のフィルター用コーティング膜とする場合は、上記素材で作成された例えば直径0.1乃至500μmの中空糸形状をしたフィルターの内側に本発明に係るコーティング膜形成用組成物を通液し、その後乾燥工程、洗浄工程(熱水(例えば40℃乃至95℃)洗浄等)を経て作製することができる。
必要に応じて、滅菌のためにγ線、エチレンオキサイド、オートクレーブ等の処理がされる場合もある。
【0073】
本発明のコーティング膜の膜厚は、好ましくは10~1000Åであり、さらに好ましくは10~500Åであり、最も好ましくは20~400Åである。
【0074】
本発明のコーティング膜は、生体物質の付着抑制能を有するので、医療用基材用コーティング膜として好適に用いることができる。例えば、白血球除去フィルター、輸血フィルター、ウイルス除去フィルター、微小凝血塊除去フィルター、血液浄化用モジュール、人工心臓、人工肺、血液回路、人工血管、血管バイパスチューブ、医療用チューブ、人工弁、カニューレ、ステント、カテーテル、血管内カルーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤー、縫合糸、留置針、シャント、人工関節、人工股関節、血液バッグ、血液保存容器、手術用補助器具、癒着防止膜、創傷被覆材などにおいて好適に用いることができる。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓、毒素吸着フィルターやカラムなどが挙げられる。
また、本発明のコーティング膜は、フラスコ、ディッシュ、プレート等の細胞培養容器や、蛋白質の付着を抑えた各種研究用器具のコーティング膜として有用である。
また、本発明のコーティング膜は、化粧品用材料、コンタクトレンズケア用品用材料、スキンケア用繊維加工剤、生化学研究用診断薬用材料、臨床診断法で広く用いられている酵素免疫測定(ELISA)法やラテックス凝集法における非特異的吸着を抑制するためのブロッキング剤、酵素や抗体などの蛋白質を安定化するための安定化剤としても有用である。
さらに本発明のコーティング膜は、トイレタリー、パーソナルケア用品、洗剤、医薬品、医薬部外品、繊維、防汚材向けのコーティング膜としても有用である。
【0075】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物及びゾルに含まれる共重合体は、下記式(a1)、(b1)及び(c1)の繰り返し単位を含む共重合体が特に好ましく用いられる。
【0076】
【化14】
【0077】
式中、T、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Q及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し、mは、0乃至6の整数を表す。
【0078】
式(a1)において、mは0乃至6の整数を表すが、好ましくは1乃至6の整数を表し、より好ましくは1乃至5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0079】
本発明に係る共重合体中に含まれる式(a1)で表される繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%であり、好ましくは3.5モル%乃至50モル%であり、さらに好ましくは4モル%乃至30モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(a1)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0080】
本発明に係る共重合体に含まれる式(b1)で表される繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%であり、好ましくは5モル%乃至70モル%であり、さらに好ましくは8モル%乃至65モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(b1)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0081】
本発明に係る共重合体に含まれる式(c1)で表される繰り返し単位の割合は、全共重合体に対して上記式(a1)及び式(b1)を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(a1)及び式(b1)と下記に記述する第4成分との合計割合を差し引いた残部であってもよいが、例えば1モル%乃至90モル%であり、好ましくは3モル%乃至88モル%であり、さらに好ましくは5モル%乃至87モル%であり、最も好ましくは50モル%乃至86モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(c1)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0082】
本発明に係る共重合体中における上記式(a1)、式(b1)及び式(c1)で表され繰り返し単位の割合の組み合わせは、
好ましくは、
式(a1):3モル%乃至80モル%、式(b1):3モル%乃至80モル%、式(c1):1モル%乃至90モル%、
より好ましくは、
式(a1):3.5モル%乃至50モル%、式(b1):5モル%乃至70モル%、式(c1):3モル%乃至88モル%、
さらに好ましくは、
式(a1):4モル%乃至30モル%、式(b1):8モル%乃至65モル%、式(c1):5モル%乃至87モル%、
最も好ましくは、
式(a1):4モル%乃至30モル%、式(b1):8モル%乃至65モル%、式(c1):50モル%乃至86モル%、
である。
【0083】
本発明はまた、下記式(A)、(B)及び(C):
【0084】
【化15】
【0085】
[式中、
、T、T、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Rは、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、炭ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される化合物を含むモノマー混合物を、溶媒中にて反応(重合)させることにより得られる共重合体及びその製造方法に関する。
【0086】
、T及びTとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3としては、水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基が好ましく、式(a)のUa1及びUa2には水素原子、式(b)のUb1、Ub2及びUb3には水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基がより好ましい。
【0087】
上記式(A)の具体例としては、ビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシメチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、この中でもビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートが好ましく用いられる。
【0088】
ビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートの構造式は、それぞれ下記式(A-1)~式(A-4)で表される。
【0089】
【化16】
【0090】
例えば、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)は、製品名;ホスマーM(ユニケミカル(株)製)やライトエステルP-1M(共栄社化学(株)製)に含まれる化合物である。
例えば、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレートは、製品名;ホスマーPE(ユニケミカル(株)製)に含まれる化合物である。
例えば、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートは、製品名;ホスマーPP(ユニケミカル(株)製)に含まれる化合物である。
【0091】
これらの化合物は、合成時において、後述する一般式(D)又は(E)で表されるような、2つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物を含む場合がある。
【0092】
上記式(B)の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクロイルコリンクロリド等が挙げられるが、この中でもジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクロイルコリンクロリド又は2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0093】
ジメチルアミノエチルアクリレート(=アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)、メタクロイルコリンクロリド及び2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(t-ブチルアミノ)エチルの構造式は、それぞれ下記式(B-1)~式(B-5)で表される。
【0094】
【化17】
【0095】
上記式(C)の具体例としては、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の直鎖若しくは分岐アルキルエステル類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の環状アルキルエステル類;ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアラルキルエステル類;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系モノマー;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマーが挙げられる。この中でもブチル(メタ)アクリレート又はシクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0096】
ブチルメタクリレート(=メタクリル酸ブチル)及びシクロヘキシルメタクリレート(=メタクリル酸シクロヘキシル)の構造式は、それぞれ下記式(C-1)及び式(C-2)で表される。
【0097】
【化18】
【0098】
本発明に係る共重合体は、さらに任意の第4成分が共重合していてもよい。例えば、第4成分として2以上の官能基を有する(メタ)アクリレート化合物が共重合しており、ポリマーの一部が部分的に3次元架橋していてもよい。そのような第4成分として、例えば、下記式(D)又は(E):
【0099】
【化19】
【0100】
[式中、T、T及びUは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;nは、1乃至6の整数を表す]で表される2官能性モノマーが挙げられる。すなわち本発明に係る共重合体は、好ましくは、このような2官能性モノマーから誘導される架橋構造を含むものである。
【0101】
式(D)及び(E)において、T及びTは、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。
【0102】
式(E)において、Uは、好ましくは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは、水素原子である。
【0103】
式(D)において、Rは、好ましくは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至3の直鎖若しくは分岐アルキレン基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、エチレン基若しくはプロピレン基であるか、あるいは1つの塩素原子で置換されたエチレン基若しくはプロピレン基であり、特に好ましくは、エチレン基若しくはプロピレン基である。また式(D)において、nは、好ましくは、1乃至5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0104】
式(E)において、Rは、好ましくは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至3の直鎖若しくは分岐アルキレン基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、エチレン基若しくはプロピレン基であるか、あるいは1つの塩素原子で置換されたエチレン基若しくはプロピレン基であり、特に好ましくは、エチレン基若しくはプロピレン基である。また式(E)において、nは、好ましくは、1乃至5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0105】
式(D)で表される2官能性モノマーは、好ましくは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、あるいは上記式(A-3)又は(A-4)由来の2官能性モノマー等が挙げられる。
式(E)で表される2官能性モノマーは、好ましくは、リン酸ビス(メタクリロイルオキシメチル)、リン酸ビス[(2-メタクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ビス[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]、あるいは上記式(A-3)又は(A-4)由来の2官能性モノマーが挙げられる。
【0106】
また、3官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリアクリル酸ホスフィニリジントリス(オキシ-2,1-エタンジイル)が挙げられる。
【0107】
これら第4成分の中でも、特に、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ビス[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]並びに上記式(A-3)及び(A-4)由来の2官能性モノマーのうち、エチレングリコール又はプロピレングリコールの繰り返し単位を有するジ(メタ)アクリレート及びリン酸エステル基を介してエチレングリコール又はプロピレングリコールの繰り返し単位を有するジ(メタ)アクリレートが好ましく、その構造式は、それぞれ、下記式(D-1)~(D-3)及び式(E-1)~(E-3)で表される。
【0108】
【化20】
【0109】
共重合体には、これらの第4成分の1種又は2種以上が含まれていてもよい。
上記共重合体中における第4成分、例えば、上記式(D)又は(E)で表される2官能性モノマーから誘導される架橋構造の割合は、0モル%乃至50モル%である。
【0110】
式(A)で表される化合物の、上記共重合体を形成するモノマー全体に対する割合は、3モル%乃至80モル%であり、好ましくは3.5モル%乃至50モル%であり、さらに好ましくは4モル%乃至30モル%である。また、式(A)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
式(B)で表される化合物の、上記共重合体を形成するモノマー全体に対する割合は、3モル%乃至80モル%であり、好ましくは5モル%乃至70モル%であり、さらに好ましくは8モル%乃至65モル%である。また、式(B)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
式(C)で表される化合物の、上記共重合体を形成するモノマー全体に対する割合は、上記式(A)及び(B)の割合を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(A)及び(B)と上記第4成分との合計割合を差し引いた残部であってもよいが、例えば1モル%乃至90モル%であり、好ましくは3モル%乃至88モル%であり、さらに好ましくは5モル%乃至87モル%であり、最も好ましくは50モル%乃至86モル%である。また、式(C)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
【0111】
本発明に係る共重合体は、さらに任意の第5成分として、エチレン性不飽和モノマー、又は多糖類若しくはその誘導体が共重合していてもよい。エチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸及びそのエステル;酢酸ビニル;ビニルピロリドン;エチレン;ビニルアルコール;並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。多糖類又はその誘導体の例としては、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)等のセルロース系高分子、デンプン、デキストラン、カードランを挙げることができる。
【0112】
親水性の官能性誘導体とは、親水性の官能基又は構造を有するエチレン性不飽和モノマーを指す。親水性の官能性基又は構造の例としては、ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基等が挙げられる。
【0113】
ベタイン構造は、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味し、例えば、ホスホリルコリン基:
【化21】

を挙げることができる。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等を挙げることができる。
【0114】
アミド構造は、下記式:
【化22】

[ここで、R16、R17及びR18は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2010-169604号公報等に開示されている。
【0115】
アルキレングリコール残基は、アルキレングリコール(HO-Alk-OH;ここでAlkは、炭素原子数1乃至10のアルキレン基である)の片側端末又は両端末の水酸基が他の化合物と縮合反応した後に残るアルキレンオキシ基(-Alk-O-)を意味し、アルキレンオキシ単位が繰り返されるポリ(アルキレンオキシ)基も包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2008-533489号公報等に開示されている。
【0116】
アミノ基は、式:-NH、-NHR19又は-NR2021[ここで、R19、R20及びR21は、互いに独立して、有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]で表される基を意味する。本発明におけるアミノ基には、4級化又は塩化されたアミノ基を包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等を挙げることができる。
【0117】
スルフィニル基は、下記式:
【化23】

[ここで、R22は、有機基(例えば、炭素原子数1乃至10の有機基、好ましくは、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素原子数1乃至10のアルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するポリマーとして、特開2014-48278号公報等に開示された共重合体を挙げることができる。
【0118】
本発明に係る共重合体の合成方法としては、一般的なアクリルポリマー又はメタクリルポリマー等の合成方法であるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの方法により合成することができる。その形態は溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合など種々の方法が可能である。
本発明に係るコーティング膜形成用組成物は、所望の共重合体を、所望の溶媒にて所定の濃度に希釈することにより調製してもよい。
さらに本発明に係るコーティング膜形成用組成物は、本発明の共重合体含有ワニスから調製してもよい。一の実施態様では、本発明の共重合体含有ワニスは、上記式(A)及び(B)で表される化合物を、溶媒中で、両化合物の合計濃度0.01質量%乃至20質量%にて反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0119】
重合反応における溶媒としては、水、リン酸緩衝液又はエタノール等のアルコール又はこれらを組み合わせた混合溶媒でもよいが、水又はエタノールを含むことが望ましい。さらには水又はエタノールを10質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを50質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを80質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを90質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。好ましくは水とエタノールの合計が100質量%である。
【0120】
反応濃度としては、例えば上記式(A)又は式(B)で表される化合物の反応溶媒中の濃度を、0.01質量%乃至4質量%とすることが好ましい。濃度が4質量%以上であると、例えば式(A)で表されるリン酸基の有する強い会合性により共重合体が反応溶媒中でゲル化してしまう場合がある。濃度0.01質量%以下では、得られたワニスの濃度が低すぎるため、十分な膜厚のコーティング膜を得るためのコーティング膜形成用組成物の作成が困難である。濃度が、0.01質量%乃至3質量%、例えば3質量%、2質量%又は1質量%であることがより好ましい。
【0121】
また本発明に係る共重合体の合成においては、例えば式(1)に記載の酸性リン酸エステル単量体(ハーフ塩)を作成後、式(C)で表される化合物と共に重合して共重合体を作製してもよい。
【0122】
【化24】
【0123】
リン酸基含有モノマーは会合し易いモノマーのため、反応系中に滴下されたとき、速やかに分散できるように反応溶媒中に少量ずつ滴下してもよい。
【0124】
さらに、反応溶媒はモノマー及びポリマーの溶解性を上げるために加温(例えば40℃乃至100℃)してもよい。
【0125】
重合反応を効率的に進めるためには、重合開始剤を使用することが望ましい。重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製品名;V-65、10時間半減期温度;51℃)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(和光純薬社製品名;VA-044、10時間半減期温度;44℃)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](和光純薬社製品名;VA-061、10時間半減期温度;61℃)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾ(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド(和光純薬社製品名;VA-086、10時間半減期温度;86℃)、過酸化ベンゾイル(BPO)、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(和光純薬社製品名;VA-057、10時間半減期温度;57℃)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタノイックアシド)(和光純薬社製品名;VA-501)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート(和光純薬社製品名;VA-046B、10時間半減期温度;46℃)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(和光純薬社製品名;V-50、10時間半減期温度;56℃)、ペルオキソ二硫酸又はt-ブチルヒドロペルオキシド等が用いられる。
水への溶解性、イオンバランス及びモノマーとの相互作用を考慮した場合、2,2’-アゾ(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタノイックアシッド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド及びペルオキソ二硫酸から選ばれることが好ましい。
有機溶媒への溶解性、イオンバランス及びモノマーとの相互作用を考慮した場合、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)又は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)を用いることが望ましい。
【0126】
重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計重量に対し、0.05質量%~10質量%である。
【0127】
反応条件は反応容器をオイルバス等で50℃乃至200℃に加熱し、1時間乃至48時間、より好ましくは80℃乃至150℃、5時間乃至30時間攪拌を行うことで、重合反応が進み本発明の共重合体が得られる。反応雰囲気は窒素雰囲気が好ましい。
【0128】
反応手順としては、全反応物質を室温の反応溶媒に全て入れてから、上記温度に加熱して重合させてもよいし、あらかじめ加温した溶媒中に、反応物質の混合物全部又は一部を少々ずつ滴下してもよい。
【0129】
後者の反応手順によれば、本発明の共重合体含有ワニスは、上記式(A)、(B)及び(C)で表される化合物、溶媒及び重合開始剤を含む混合物を、重合開始剤の10時間半減期温度より高い温度に保持した溶媒に滴下し、反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0130】
この実施態様では、上記の反応手順と温度条件を採用することにより、上記式(A)又は式(B)で表される化合物の反応溶媒中の濃度を、例えば、0.01質量%乃至10質量%とすることができる。この実施態様では、濃度が4質量%を超えても、反応前に滴下相及び反応相が透明均一な溶液となり、反応後の共重合体の反応溶媒中でのゲル化を抑制することができる。この実施態様におけるその他の条件は、上記と同様である。
【0131】
本発明に係る共重合体の重量分子量は数千から数百万程度であれば良く、好ましくは5,000乃至5,000,000である。さらに好ましくは、10,000乃至2,000,000である。また、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでも良く、該共重合体を製造するための共重合反応それ自体には特別の制限はなく、ラジカル重合やイオン重合や光重合、マクロマー、乳化重合を利用した重合等の公知の溶液中で合成される方法を使用できる。これらは目的の用途によって、本発明の共重合体のうちいずれかを単独使用することもできるし、複数の共重合体を混合し、且つその比率は変えて使用することもできる。
【0132】
また、このようにして製造される種々の共重合体は、2次元ポリマーでも3次元ポリマーであってもよく、水やアルコールを含有する溶液に分散した状態である。つまり、これらのポリマーを含むワニスでは、不均一なゲル化や白濁沈殿ができることは好ましくはなく、透明なワニス、分散コロイド状のワニス、若しくはゾルであるのが好ましい。
【0133】
本発明に係る共重合体は、その分子内にカチオン、アニオンの両方を有するため、イオン結合による共重合体同士が結合し、ゾルとなる場合がある。また前記のように、例えば、第3成分として2以上の官能基を有する(メタ)アクリレート化合物が共重合している共重合体の場合、共重合体の一部が部分的に3次元架橋してゾルとなる場合がある。
【実施例
【0134】
以下、合成例、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに
限定されない。
【0135】
<重量平均分子量の測定方法>
下記合成例に示す共重合体の重量平均分子量はGel Filtration Chromatography(以下、GFCと略称する)、もしくはGel Permination Chromatography(以下、GPCと略称する)による測定結果である。測定条件等は次のとおりである。
(GFC測定条件)
・装置:Prominence(島津製作所製)
・GFCカラム:TSKgel GMPWXL(7.8mmI.D.×30cm)×2~3本
・流速:1.0ml/min
・溶離液:イオン性物質含有水溶液、もしくは、EtOHの混合溶液
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.05~0.5質量%
・注入量:100uL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリエチレンオキサイド(Agilent社製)×10種
(GPC測定条件)
・装置:HLC-8220(東ソー(株)製)
・GPCカラム:Shodex〔登録商標〕・Asahipak〔登録商標〕(昭和
電工(株)製)×3本
・流速:0.6ml/min
・溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.05~0.5質量%
・注入量:100uL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリスチレン(東ソー(株)製)×10種
【0136】
<原料(リン含有化合物)組成の測定方法>
リン含有化合物を含む原料の、各リン含有化合物の濃度(質量%)測定は、31P-NMRにより行った。下記標準物質を用いて原料中に含まれる各リン含有化合物の絶対濃度(絶対質量%)を算出した。
【0137】
(測定条件)
・モード:逆ゲートデカップリングモード(定量モード)
・装置:varian 400 MHz
・溶媒:CD3OD(重メタノール)(30重量%)
・回転数:0 Hz
・データポイント:64000
・フリップ角:90°
・待ち時間:70 s
・積算回数:16回,n=4,
・標準物質:トリメチルリン酸+D2O (75%TMP溶液を調製)
【0138】
<pHの測定方法>
・装置:卓上型pHメータ LAQUA F-72(HORIBA製)
・電極:マイクロ ToupH電極 9618S
・温度:25℃±1℃
・条件:組成物を電極に直接差し込み測定
【0139】
<合成実施例1>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)社製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)5.00gに純水17.65gを加え十分に溶解した。次いで、エタノール17.65g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル3.82g(東京化成工業(株)社製)、メタクリル酸シクロヘキシル0.43g(東京化成工業(株)社製)、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(和光純薬社製品名;VA-057、和光純薬工業(株)社製)0.05gを、20℃以下に保ちながら、ホスマーMの水溶液に順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水141.24gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで固形分約5質量%の共重合体含有ワニス185.84gを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約329,000であった。
【0140】
<合成実施例2>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)社製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)5.00gに純水24.54gを加え十分に溶解した。次いで、エタノール10.52g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル3.82g(東京化成工業(株)社製)、メタクリル酸ブチル0.36g(東京化成工業(株)社製)、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(和光純薬社製品名;VA-057、和光純薬工業(株)社製)0.05gを、20℃以下に保ちながら、ホスマーMの水溶液に順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水141.24g、エタノール7.01gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで固形分約5質量%の共重合体含有ワニス184.51gを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約245,000であった。
【0141】
<合成実施例3>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)5.00gに純水6.88g、エタノール61.90g、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)8.96g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)24.06g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(東京化成工業(株)社製)0.19gを、20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を滴下ロートに導入した。一方で、別途純水27.51g、エタノール247.60gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した。24時間後に冷却することで固形分約9.71質量%の共重合体含有ワニス382.10gを得た。得られたコロイド状液体のGPCにおけるメインピークの重量平均分子量は約30,000であった。
【0142】
<合成実施例4>
アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレート(製品名;ホスマーPE、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:96.4%、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレート(48.1質量%)及びその他の物質(51.9質量%)の混合物)8.00gに純水7.11g、エタノール28.44g、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)4.39g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)26.92g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(東京化成工業(株)社製)0.20gを、20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を滴下ロートに導入した。一方で、別途純水63.99g、エタノール255.95gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した。24時間後に冷却することで固形分約9.20質量%の共重合体含有ワニス394.99gを得た。得られたコロイド状液体のGPCにおけるメインピークの重量平均分子量は約36,000であった。
【0143】
<合成実施例5>
アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレート(製品名;ホスマーPE、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:96.4%、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレート(48.1質量%)及びその他の物質(51.9質量%)の混合物)8.00gに純水14.59g、エタノール58.36g、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)8.77g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)23.55g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(東京化成工業(株)社製)0.20gを、20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を滴下ロートに導入した。一方で、別途純水58.36g、エタノール233.43gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した。24時間後に冷却することで固形分約9.67質量%の共重合体含有ワニス405.26gを得た。得られたコロイド状液体のGPCにおけるメインピークの重量平均分子量は約38,000であった。
【0144】
<合成実施例6>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)1.00gにエタノール39.76g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)0.76g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)3.22g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名;V-65、和光純薬工業(株)社製)0.25gを、20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を滴下ロートに導入した。一方で、別途純水29.82g、エタノール29.82gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した。24時間後に冷却することで固形分約4.50質量%の共重合体含有ワニス105.00gを得た。得られた透明液体のGPCにおける重量平均分子量は約9,200であった。
【0145】
<合成実施例7>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)社製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)1.00gを20℃以下に冷却しながらコリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)1.18gと、純水8.49gを加えて均一になるまで撹拌した。この混合溶液にメタクロイルコリンクロリド80%水溶液(東京化成工業(株)社製)1.26g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)3.22g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名;V-65、和光純薬工業(株)社製)0.03g、エタノール37.33gを20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水14.00gとエタノール55.99gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌する。24時間後に冷却することで固形分約5.00質量%の共重合体含有ワニス124.00gを得た。得られたコロイド状液体のGFCにおける重量平均分子量は約42,000であった。
【0146】
<合成実施例8>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)社製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)1.00gを20℃以下に冷却しながらコリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)1.18gと、純水15.46gを加えて均一になるまで撹拌した。この混合溶液にメタクロイルコリンクロリド80%水溶液(東京化成工業(株)社製)1.26g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)1.38g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名;V-65、和光純薬工業(株)社製)0.02g、エタノール16.31gを20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水24.46gとエタノール24.46gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌する。24時間後に冷却することで固形分約5.00質量%の共重合体含有ワニス88.00gを得た。得られたコロイド状液体のGFCにおける重量平均分子量は約38,000であった。
【0147】
<合成実施例9>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)社製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)4.75gを35℃以下に冷却しながらコリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)5.69gを加えて均一になるまで撹拌した。この混合液にメタクロイルコリンクロリド80%水溶液(東京化成工業(株)社製)5.97g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)6.54g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名;V-65、和光純薬工業(株)社製)0.08g、エタノール139.95gを35℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水103.94gとエタノール112.10gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、1時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌する。24時間後に冷却することで固形分約4.16質量%の共重合体含有ワニス379.03gを得た。得られたコロイド状液体のGFCにおける重量平均分子量は約8,600であった。
【0148】
<合成実施例10>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)社製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)25.00gを35℃以下に冷却しながらコリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)29.95gを加えて均一になるまで撹拌した。この混合液にメタクロイルコリンクロリド80%水溶液(東京化成工業(株)社製)20.95g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)28.67g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名;V-65、和光純薬工業(株)社製)0.70g、エタノール110.84gを35℃以下に保ちながら順に加えた。さらに、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(和光純薬社製品名;VA-057、和光純薬工業(株)社製)0.70gを純粋27.71gに溶解させた水溶液を35℃以下に保ちながら上記の溶液に加え、十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水56.81gとエタノール131.62gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、1時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌する。24時間後に冷却することで固形分約19.86質量%の共重合体含有ワニス432.97gを得た。得られたコロイド状液体のGFCにおける重量平均分子量は約8,500であった。
【0149】
<合成実施例11>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)1.00gにエタノール30.59g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)0.76g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)社製)2.07g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名;V-65、和光純薬工業(株)社製)0.19gを、20℃以下に保ちながら順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を滴下ロートに導入した。一方で、別途純水22.94g、エタノール22.94gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した。24時間後に冷却することで固形分約4.9質量%の白濁した共重合体ワニス80.49gを得た。得られたワニスのGPCにおけるメインピークの重量平均分子量は約10,000であった。
【0150】
<比較合成例1>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)10.00gに純水68.88gを加え十分に溶解した。次いで、エタノール29.52g、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル7.63g(東京化成工業(株)製)、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(和光純薬社製品名;VA-057、和光純薬工業(株)製)0.09gを、20℃以下に保ちながら、ホスマーMの水溶液に順に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ロートに導入した。一方で、別途純水373.89g、エタノール29.52gを冷却管付きの3つ口フラスコに入れ、これを窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を導入した滴下ロートを3つ口フラスコにセットし、0.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで固形分約3.5質量%の共重合体含有ワニス509.60gを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約280,000であった。
【0151】
(シリコンウェハの準備)
半導体評価用の市販のシリコンウエハをそのまま用いた。
【0152】
(PESフィルム)
バーコート法により作成された、市販のポリエーテルスルホン(PES)のフィルム(約0.1mm)を約1cm角にカットしたものをPESフィルムとした。
【0153】
(QCMセンサー(PES)の作成)
Au蒸着された水晶振動子(Q-Sense,QSX304)を、UV/オゾン洗浄装置(UV253E、フィルジェン株式会社製)を用いて10分間洗浄し、直後に1-デカンチオンール(東京化成工業(株)製)0.1012gをエタノール100mlに溶解した溶液中に24時間浸漬した。エタノールでセンサー表面を洗浄後自然乾燥し、ポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレン)(Aldrich社製)1.00gを1,1,2,2-テトラクロロエタン99.00gに溶解したワニスをスピンコーターにて3500rpm/30secで膜センサー側にスピンコートし、205℃/1min乾燥することでQCMセンサー(PES)とした。
【0154】
(QCMセンサー(PS)の作成)
Au蒸着された水晶振動子(Q-Sense,QSX304)を、UV/オゾン洗浄装置(UV253E、フィルジェン株式会社製)を用いて10分間洗浄し、直後に2-アミノエタンチオール(東京化成工業(株)製)0.0772gをエタノール1000mlに溶解した溶液中に24時間浸漬した。エタノールでセンサー表面を洗浄後自然乾燥し、ポリスチレン(Aldrich社製)1.00gをトルエン99.00gに溶解したワニスをスピンコーターにて3500rpm/30secで膜センサー側にスピンコートし、120℃/1min乾燥することでQCMセンサー(PS)とした。
【0155】
<実施例1>
上記合成実施例1で得られた共重合体含有ワニス1.00gに、純水10.78g、エタノール4.89gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは5.2であった。得られたコーティング膜形成組成物中に、上記シリコンウェハ又はPESフィルムをディップし、オーブンにて45℃、12時間乾燥させた。その後、コーティング膜上に付着している未硬化の膜形成用組成物をPBSと純水で十分に洗浄を行って、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ、又はPESフィルムを得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ30Åであった。
また、上記コーティング膜形成用組成物を3500rpm/30secでQCMセンサー(PES)にスピンコートし、乾燥工程として45℃のオーブンで12時間ベークした。その後、洗浄工程として過剰についた未硬化のコーティング膜形成用組成物をPBSと超純水にて各2回ずつ洗浄し、表面処理済QCMセンサー(PES)を得た。
【0156】
<実施例2>
上記合成実施例2で得られた共重合体含有ワニス1.00gに、純水10.78g、エタノール4.89gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは5.3であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ、PESフィルム又は表面処理済QCMセンサー(PES)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ81Åであった。
【0157】
<実施例3>
上記合成実施例3で得られた共重合体含有ワニス6.50gに、エタノール203.88g、アンモニア水(28%水溶液、関東化学(株)製)0.17gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは10.3であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ、PESフィルム又は表面処理済QCMセンサー(PES)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ120Åであった。
【0158】
<実施例4>
上記合成実施例4で得られた共重合体含有ワニス6.50gに、エタノール192.83g、アンモニア水(28%水溶液、関東化学(株)製)0.22gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは11.2であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ、PESフィルム又は表面処理済QCMセンサー(PES)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ82Åであった。
【0159】
<実施例5>
上記合成実施例5で得られた共重合体含有ワニス6.50gに、エタノール203.02、アンモニア水(28%水溶液、関東化学(株)製)0.27gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは11.2であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ、PESフィルム又は表面処理済QCMセンサー(PES)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ119Åであった。
【0160】
<実施例6>
上記合成実施例6で得られた共重合体含有ワニス9.00gに、コリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)0.10gとエタノール141.00gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは12.8であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PES、PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ109Åであった。
【0161】
<実施例7>
上記合成実施例7で得られた共重合体含有ワニス9.00gに、コリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)0.13gとエタノール141.00gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは13.2であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PES、PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ57Åであった。
【0162】
<実施例8>
上記合成実施例8で得られた共重合体含有ワニス9.00gに、コリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)社製)0.18gとエタノール141.00gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは12.6であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PES、PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ44Åであった。
【0163】
<実施例9>
上記合成実施例9で得られた共重合体含有ワニス18.00gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)社製)0.57gと純水17.06g、エタノール39.82gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.6であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ51Åであった。
【0164】
<実施例10>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス8.00gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)社製)1.03gと純水45.26g、エタノール105.62gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.5であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ54Åであった。
【0165】
<実施例11>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス10.00gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)社製)1.19gと純水26.78g、エタノール62.54gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.6であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ112Åであった。
【0166】
<実施例12>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス50.00gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)社製)1.74gと純水45.00g、エタノール105.00gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.7であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ165Åであった。
【0167】
<実施例13>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス5.00gに、クエン酸(関東化学(株)社製)1.29gと純水28.53g、エタノール66.55gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.5であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ359Åであった。
【0168】
<実施例14>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス5.00gに、酢酸(関東化学(株)社製)1.85gと純水28.53g、エタノール66.55gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.5であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ291Åであった。
【0169】
<実施例15>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス5.00gに、リンゴ酸(関東化学(株)社製)1.55gと純水28.53g、エタノール66.55gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.5であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ342Åであった。
【0170】
<実施例16>
上記合成実施例10で得られた共重合体含有ワニス4.00gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)社製)0.57gとクエン酸(関東化学(株)社製)0.40gと純水22.47g、エタノール53.74gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成組成物を調製した。pHは3.5であった。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ又は表面処理済QCMセンサー(PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ300Åであった。
【0171】
<比較例1>
上記PESフィルムをそのまま用いた。
【0172】
<比較例2>
上記QCMセンサー(PES)をそのまま用いた。
【0173】
<比較例3>
上記比較合成例1で得られた共重合体含有ワニス1.00gに、純水7.27g、エタノール3.39gを加えて十分に攪拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。実施例1と同様の方法にて、コーティング膜が形成されたシリコンウェハ、PESフィルム又は表面処理済QCMセンサー(PES、PS)を得た。上記シリコンウェハを用いて光学式干渉膜厚計でコーティング膜の膜厚を確認したところ44Åであった。
【0174】
<比較例4>
上記QCMセンサー(PS)をそのまま用いた。
【0175】
[血小板付着実験]
(血小板溶液の調製)
3.8質量%クエン酸ナトリウム溶液0.5mLに対して、健康なボランティアより採血した血液4.5mLを混和した後、遠心分離にて[冷却遠心機5900((株)久保田製作所製)、1000rpm/10分、室温]上層の多血小板血漿(PRP)を回収した。引き続き、下層について遠心分離を行い(上記遠心機、3500rpm/10分、室温)、上層の乏血小板血漿(PPP)を回収した。多項目自動赤血球分析装置(XT-2000i、シスメックス(株)製)にてPRPの血小板数を計測後、PPPを用いてPRPの血小板濃度が30×10cells/μLになるように調製した。
【0176】
(血小板付着実験)
各実施例、比較例のPESフィルムを24穴平底マイクロプレート(コーニング社製)に配置した。これらの基板を配置したプレートのウェル内に、上記血小板濃度に調製したPRP溶液300μLを添加した。5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で24時間、COインキュベーター内にて静置した。所定の静置時間が経過した後、プレート内のPRPを除き、PBS3mLにて5回洗浄した。その後、2.5体積%グルタルアルデヒドのPBS溶液2mLを添加し、4℃で一昼夜静置後、グルタルアルデヒドのPBS溶液を除き、超純水(Milli-Q水)3mLで5回洗浄した。さらに、70%エタノール水(v/v)1mLで3回洗浄し、風乾した。
【0177】
[血小板付着数の計測]
上記血小板付着実験を行った各実施例、比較例のPESフィルムに、イオンスパッター(E-1030、(株)日立ハイテクノロジーズ製)にてPt-Pdを1分間蒸着した。その後、電子顕微鏡(S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)にて血小板の付着を1,000倍で観察した。電子顕微鏡にてPESフィルムの中心部から半径2mm以内5箇所(1箇所あたりの面積:縦95μm×横126.5μm=11,385[μm])の血小板付着数を計測した。各箇所の計測値を平均することで血小板付着数とした。その結果を下記表1に示す。
【0178】
【表1】
【0179】
[タンパク質付着試験;QCM-D測定]
各実施例及び比較例によって得た表面処理済QCMセンサー(PES、PS)を散逸型水晶振動子マイクロバランスQCM-D(E4、Q-Sense社製)に取り付け、周波数の変化が1時間で1Hz以下となる安定したベースラインを確立するまでPBSを流した。次に、安定したベースラインの周波数を0Hzとして約10分間PBSを流した。引き続き、フィブリノゲンをPBSで100μg/mlに希釈した溶液、又は41010 - Basal Medium Eagle (BME), no Glutamine(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)に15wt%のウシ血清(FBS)、L-Glutamine、抗生物質としてペニシリンとストレプトマイシンを添加した溶液を約30分流し、その後再びPBSを約20分流した後の11次オーバートーンの吸着誘起周波数のシフト(Δf)を読み取った。分析のためにQ-Tools(Q-Sense社製)を使用して、吸着誘起周波数のシフト(Δf)を、Sauerbrey式で説明される吸着誘起周波数のシフト(Δf)を単位面積当たりの質量(ng/cm)と換算したものを生体物質の付着量として表2に示す。比較例と比較し、実施例は1桁又は2桁低い各種タンパク質吸着量を示した。なお、フィブリノゲンはPESセンサー、FBS由来の生体物質はPSセンサーをそれぞれ被吸着物質とした。
【0180】
【表2】
【0181】
(細胞培養コーティングプレートの調製)
実施例又は比較例にて調製したコーティング膜形成用組成物を用い、下記のコーティング法により平底96穴細胞培養プレート(BDバイオサイエンス社製、#351172)のウェルにコーティング膜を形成した。
コーティング方法は、上記コーティング膜形成組成物を1ウェルあたり200μL添加し、60分間放置後に過剰の液を除去して50℃で一晩乾燥させた。その後、滅菌水を1ウェルあたり200μL添加後、除去して洗浄を行った。同様に、さらに2回洗浄を行った。
陽性対照のサンプルとしては、市販の細胞低接着プレート(コーニング社製、#3474)を用いた。
【0182】
(細胞の調製)
細胞は、マウス胚線維芽細胞C3H10T1/2(DSファーマバイオメディカル社製)を用いた。細胞の培養に用いた培地は、10%FBS(HyClone社製)とL-グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン安定化溶液(SIGMA-ALDRICH社製)を含むBME培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いた。細胞は、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて2日間以上静置培養した。引き続き、本細胞をPBS5mlで洗浄した後、トリプシン-EDTA溶液(インビトロジェン社製)1mLを添加して細胞を剥がし、上記の培地10mLにてそれぞれ懸濁した。本懸濁液を遠心分離(株式会社トミー精工製、型番LC-200、1000rpm/3分、室温)後、上清を除き、上記の培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
【0183】
(細胞付着実験)
上記にて調製したプレートに対して、それぞれの細胞懸濁液を2×10cells/wellとなるように各100μL加えた。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で4日間COインキュベーター内にて静置した。
【0184】
(細胞付着の観察)
培養4日間後、コーティングした平底96穴細胞培養プレートに対する細胞の付着を倒立型顕微鏡(オリンパス社製、CKX31)による観察に基づき比較した。また、Cell Counting Kit-8溶液(同仁化学研究所製)を1ウェル当たり10μL添加し、37℃で2時間COインキュベーター内にて静置した。その後、吸光度計(MolecularDevices社製、SpectraMax)で450nmの吸光度を測定した。その結果を下記表3に示す。
【0185】
【表3】

表3の通り、本願のコーティング膜付きのプレートは、細胞が付着しないことが示された。
【0186】
[動的光散乱法による粒径測定]
各実施例の各コーティング膜形成用組成物中のゾル粒子径の測定は、動的光散乱光度計(DLS、大塚電子社製、製品名:DLS-8000DLTKY)を用いて測定した。結果を表4に示す。
【0187】
【表4】