(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス材料及び有機エレクトロニクス素子
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2020505997
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009777
(87)【国際公開番号】W WO2019175979
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】本名 涼
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 広貴
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-359922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011482(US,A1)
【文献】KUNUGI, Y. et al.,Light-emitting diodes based on linear and starburst electro-oligomerized thienyltriphenylamines,Synthetic Metals,NL,Elsevier,1998年05月19日,Vol. 89,pp. 227-229,https://doi.org/10.1016/S0379-6779(97)81223-4
【文献】CHEN, S. et al.,Electrochemical Synthesis and Characterization of a New Electrochromic Copolymer Based on 2,2′-Bithiophene and Tris[4-(2-Thienyl)phenyl]amine,Int. J. Electrochem. Sci.,RS,Electrochemical Science Group,2012年10月01日,Vol. 7,pp. 9095-9112,https://doi.org/10.1149/2.040301jes
【文献】WU, Tzi-Yi and CHUNG, Hsin-Hua,Applications of Tris(4-(thiophen-2-yl)phenyl)amineand Dithienylpyrrole-based Conjugated Copolymers in High-Contrast Electrochromic Devices,Polymers,スイス,MDPI Publishing,2016年05月27日,Vol. 8, No. 6,206,https://doi.org/10.3390/polym8060206
【文献】CHENG, X. et al.,Electrosynthesis and Characterization of a Multielectrochromic Copolymer of Tris[4-(2-thienyl)phenyl]amine with 3,4-Ethylenedioxythiophene,Journal of The Electrochemical Society,Vol. 160, No. 1,米国,The Electrochemical Society,2012年11月06日,pp. G6-G13,https://doi.org/10.1149/2.040301jes
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50-51/56
H05B 33/00-33/28
H01L 27/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐構造を有し、かつ、下記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含有
し、
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、重合性官能基を更に有する、有機エレクトロニクス材料。
【化1】
(式(1)において、Raは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表し、Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。)
【請求項2】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する構造単位を更に有し、
前記正孔輸送性を有する構造単位が、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、置換又は非置換のチオフェン構造、及び、置換又は非置換のフルオレン構造からなる群から選ばれる少なくとも一種の部分構造を含む構造単位を含む、請求項1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項3】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有するモノマーと、正孔輸送性を有する構造単位を有するモノマーとを含むモノマー混合物の共重合体である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項4】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3価以上の構造単位と、2価の構造単位と、1価の構造単位とを有し、前記2価の構造単位が、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項5】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3価以上の構造単位と1価の構造単位とを少なくとも有し、前記3価以上の構造単位が、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項6】
前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3価以上の構造単位と1価の構造単位とを少なくとも有し、前記1価の構造単位が、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項7】
前
記重合性官能基
が、置換又は非置換の炭素-炭素多重結合を有する基、及び、置換又は非置換の小員環を有する基からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項8】
重合開始剤を更に含有する、請求項
1~7のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含有する、インク組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は、請求項9に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
【請求項11】
請求項10に記載の有機層を少なくとも一つ備えた、有機エレクトロニクス素子。
【請求項12】
請求項10に記載の有機層を少なくとも一つ備えた、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【請求項14】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【請求項15】
請求項14に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(「有機EL素子」とも記す。)、表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0003】
有機EL素子は、使用する有機材料から、低分子化合物を用いる低分子型有機EL素子と、高分子化合物を用いる高分子型有機EL素子との二つに大別される。有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる湿式プロセスとの二つに大別される。簡易成膜が可能なため、湿式プロセスは、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法として期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
湿式プロセスを用いて作製した有機EL素子は、低コスト化及び大面積化が容易であるという特長を有している。しかし、有機EL素子の特性に関しては、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明の実施形態は、前記に鑑み、湿式プロセスに適し、かつ、有機層の電荷輸送性の向上に適した有機エレクトロニクス材料及びインク組成物を提供することを課題とする。本発明の他の実施形態は、優れた電荷輸送性を有する有機層を提供することを課題とする。更には、本発明の他の実施形態は、優れた電荷輸送性を有する有機層を備えた有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には様々な実施形態が含まれる。実施形態の例を以下に列挙する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0008】
一実施形態は、分岐構造を有し、かつ、下記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含有する、有機エレクトロニクス材料に関する。
【化1】
(式(1)において、Raは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表し、Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。)
【0009】
他の一実施形態は、前記有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含有する、インク組成物に関する。
【0010】
他の一実施形態は、前記有機エレクトロニクス材料、又は、前記インク組成物を用いて形成された、有機層に関する。
【0011】
他の一実施形態は、前記有機層を少なくとも一つ備えた、有機エレクトロニクス素子に関する。
【0012】
他の一実施形態は、有機層を少なくとも一つ備えた、有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【0013】
他の実施形態は、前記有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子;前記有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置;及び、前記照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、湿式プロセスに適し、かつ、有機層の電荷輸送性の向上に適した有機エレクトロニクス材料及びインク組成物を提供することができる。また、本発明の他の実施形態によれば、優れた電荷輸送性を有する有機層を提供することができる。更には、本発明の他の実施形態によれば、優れた電荷輸送性を有する有機層を備えた有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
<有機エレクトロニクス材料>
一実施形態である有機エレクトロニクス材料は、分岐構造を有し、かつ、式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含有する。有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを、一種のみ含有しても、又は、二種以上含有してもよい。電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーは、低分子化合物と比較し、湿式プロセスにおける成膜性に優れるという点で好ましい。
【0018】
【0019】
式(1)において、Raは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表す。Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。
【0020】
電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーは、式(1)で表される部分構造を有することで、良好な正孔輸送性部位であるアリールアミン構造とチオフェン構造とが導入され、正孔輸送性が向上すると考えられる。特に、電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーは、式(1)で表される部分構造を含む構造単位と、正孔輸送性を有する構造単位とを有する場合、高い正孔輸送能を示す。「正孔輸送性を有する構造単位」は「式(1)で表される部分構造を含む構造単位」とは異なる構造単位である。電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーは、式(1)で表される部分構造を有することにより、有機エレクトロニクス材料として高い性能を発揮することができると考えられる。
【0021】
[電荷輸送性ポリマー又はオリゴマー]
電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーは、電荷を輸送する能力を有するポリマー又はオリゴマーである。以下の記載において、「電荷輸送性ポリマー又はオリゴマー」を、「電荷輸送性ポリマー」とも記す。
【0022】
(式(1)で表される部分構造を含む構造単位)
電荷輸送性ポリマーは、下記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有する。以下の記載において、「式(1)で表される部分構造」を「部分構造(1)」とも記し、「式(1)で表される部分構造を含む構造単位」を「構造単位(1)」とも記す。電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を、一種のみ含有しても、又は、二種以上含有してもよい。
【0023】
【0024】
式(1)において、Raは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表し、Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。
【0025】
置換基の例としては、-R1、-OR2、-SR3、-OCOR4、-COOR5、-SiR6R7R8、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される置換基(以下、「置換基a」とも記す。)が挙げられる。
【0026】
R1は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。
【0027】
R2~R8は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。
【0028】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアルコキシ基は、直鎖、分岐又は環状であってよい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~22である。アリール基の炭素数は、好ましくは6~30である。ヘテロアリール基の炭素数は、好ましくは2~30である。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、及びヘテロアリール基は、置換又は非置換であってよい。アルケニル基及びアルキニル基は重合性を示してもよく、重合性を示すアルケニル基及びアルキニル基は、後述する重合性官能基を含む基に該当する。
【0029】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、及びヘテロアリール基が更に置換基を有する場合の置換基の例として、前記置換基aが挙げられ、好ましくは-R1である。
【0030】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、Raのいずれか少なくとも一つが、重合性官能基を含む基であってもよい。部分構造(1)に含まれるチオフェン-イル基が重合性を示してもよく、部分構造(1)に含まれる重合性を示すチオフェン-イル基は、後述する重合性官能基を含む基に該当する。
【0031】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、3,7-ジメチルオクチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0032】
本明細書において、アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。
【0033】
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が直接結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が直接結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0034】
芳香族炭化水素の例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、フェナントレン、ビフェニル、ターフェニル、トリフェニルベンゼン等が挙げられる。芳香族複素環の例として、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、ピロール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0035】
Raが置換基を含む場合、置換基は、好ましくは-R1を含み、より好ましくはアルキル基及びヘテロアリール基から選択される少なくとも一種を含み、更に好ましくはアルキル基を含む。アルキル基としては、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。ヘテロアリール基としては、縮合環が好ましく、カルバゾリル基がより好ましい。カルバゾリル基は、9-カルバゾリル基であることが好ましい。
【0036】
Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表す。置換基の例としては、前記置換基aが挙げられる。
【0037】
Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。「他の構造」は、水素原子及び上述の置換基以外の構造である。Rbの三つが結合部位である場合、部分構造(1)は3価の構造であり、Rbの二つが結合部位である場合、部分構造(1)は2価の構造であり、Rbの一つが結合部位である場合、部分構造(1)は1価の構造である。電荷輸送性向上のより高い効果が得られることから、部分構造(1)は、2又は3価であることが好ましく、3価であることがより好ましい。
【0038】
Ra及びRbの少なくとも一方が置換基を含む場合、部分構造(1)に含まれる置換基の合計数は、1~6であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。複数の置換基が存在する場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なってもよい。
【0039】
置換基ではないRa、並びに、置換基及び結合部位ではないRbは、水素原子である。水素原子の数は、0~8個であり、3~8個であることが好ましい。結合部位以外の全てのRa及びRbが水素原子であってもよい。
【0040】
部分構造(1)は、下記式(1-1)で表される部分構造であることが好ましい。部分構造(1)が式(1-1)で表される部分構造である場合、電荷輸送性向上の高い効果が得られる。電荷輸送性ポリマーを容易に製造することもできる。
【0041】
【0042】
式(1-1)において、Raは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表し、Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。置換基の例として、前記置換基aが挙げられる。
【0043】
部分構造(1)の例を以下に挙げる。部分構造(1)は、下記式で表される構造に限定されない。本明細書において、「*」は、他の構造との結合部位を表す。
【0044】
【0045】
上記式において、Rは、それぞれ独立に、置換基を表す。nは、それぞれ独立に、0~2の整数を表す。nはRの数を示す。置換基の例として、前記置換基aが挙げられる。複数のRが存在する場合、Rは互いに同一であっても異なってもよい。
【0046】
部分構造(1)の好ましい具体例を以下に列挙する。部分構造(1)は、下記式で表される構造に限定されない。
【0047】
【0048】
構造単位(1)は、部分構造(1)を少なくとも一つ有する構造単位である。構造単位(1)は、1~6価であることが好ましく、1~3価であることがより好ましい。電荷輸送性向上のより高い効果が得られることから、構造単位(1)は、2価又は3価であることが好ましく、3価であることがより好ましい。
【0049】
構造単位(1)の例を以下に列挙する。構造単位(1)は、下記式で表される構造に限定されない。
【0050】
【0051】
上記式において、Aは、それぞれ独立に部分構造(1)を表し、Bは、それぞれ独立に、芳香族炭化水素構造及び芳香族複素環構造から選択される少なくとも一種を含む部分構造を表し、Yは、直接結合又は2価の連結基を表す。
2価の連結基は、例えば、置換基a(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基である。
【0052】
部分構造(1)が、電荷輸送性ポリマー内に、分子鎖の骨格構造を形成する構造単位として含まれる場合、電荷輸送性向上の高い効果が得られる傾向がある。この観点から、構造単位(1)は、式(L1-1)~(L1-5)、式(B1-1)~(B1-11)、並びに、式(T1-1)及び(T1-2)のいずれかで表される構造単位であることが好ましい。電荷輸送性向上のより高い効果が得られることから、構造単位(1)は、式(L1-1)、式(B1-1)、及び、式(T1-1)のいずれかで表される構造単位であることが好ましく、式(L1-1)及び式(B1-1)のいずれかで表される構造単位であることがより好ましく、式(B1-1)で表される単位であることが更に好ましい。これらの単位は、所望の電荷輸送性ポリマーを容易に合成しやすい傾向があることからも好ましい単位である。
【0053】
部分構造(1)は、電荷輸送性ポリマー内に、分子鎖の骨格構造への置換基として含まれていてもよい。分子鎖の骨格構造の置換基として含まれている場合、構造単位(1)は、例えば、式(L1-6)~(L1-8)のいずれかで表される構造単位である。具体的には、Rに代えてR’を有すること以外は、後述する構造単位L2の説明において具体例として列挙した構造単位と同じ構造単位が挙げられる。R’は、水素原子又は置換基を表し、置換基は、好ましくは、それぞれ独立に置換基a又は部分構造(1)である。各構造単位においてR’のいずれか少なくとも一つは部分構造(1)である。
【0054】
(電荷輸送性ポリマーの構造)
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を有する。電荷輸送性ポリマーは、更に正孔輸送性を有する構造単位を有することが好ましい。電荷輸送性ポリマーは、分岐構造を有する分岐状ポリマーである。電荷輸送性ポリマーを構成する構造単位は、好ましくは、3価以上の構造単位Bと1価の構造単位Tとを含む。電荷輸送性ポリマーを構成する構造単位は、2価の構造単位Lを更に含んでもよい。構造単位Bは、分岐部を構成する構造単位である。構造単位Lは、電荷輸送性を有する構造単位であることが好ましい。構造単位Tは、分子鎖の末端部を構成する構造単位である。電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bと、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと、末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含む。
【0055】
電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ一種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0056】
好ましい実施形態によれば、分岐構造は、少なくとも一つの分岐部と、該少なくとも一つの分岐部の一つに結合する3個以上の鎖を有する。より好ましくは、分岐構造は、少なくとも一つの分岐部と、該少なくとも一つの分岐部の一つに結合する3個以上の鎖とを有し、更に、前記3個以上の鎖のそれぞれに、別の少なくとも一つの分岐部と、該別の少なくとも一つの分岐部の一つに結合する別の2個以上の鎖とを有する多重分岐構造を含む。ここで、「鎖」とは、少なくとも構造単位Lを含む構造単位の繋がりであり、好ましくは構造単位Lと構造単位B(任意に含まれ得る単位)と構造単位Tとにより構成される構造単位の繋がりである。
【0057】
好ましい実施形態によれば、分岐構造は、少なくとも一つの構造単位Bと、該少なくとも一つの構造単位Bの一つに結合する3個以上の構造単位Lを有する。好ましくは、分岐構造は、少なくとも一つの構造単位Bと、該少なくとも一つの構造単位Bの一つに結合する3個以上の構造単位Lとを有し、更に、前記3個以上の構造単位Lのそれぞれにつき、該構造単位Lに結合する別の構造単位Bと、該別の構造単位Bに結合する別の2個以上の構造単位Lとを有する多重分岐構造を含む。
【0058】
電荷輸送性ポリマーは、「構造単位B」、「構造単位L」、及び「構造単位T」からなる群から選ばれる少なくとも一種として、構造単位(1)を少なくとも一つ有する。電荷輸送性ポリマーの好ましい例を以下に挙げる。電荷輸送性向上の高い効果が得られる傾向があることから、電荷輸送性ポリマーは、(A)及び(B)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、(A)を少なくとも満たすことがより好ましい。
(A)構造単位Bと構造単位Lと構造単位Tとを有し、構造単位Lが構造単位(1)を含む、電荷輸送性ポリマー
(B)構造単位Bと構造単位Tとを少なくとも有し、構造単位Bが構造単位(1)を含む、電荷輸送性ポリマー
(C)構造単位Bと構造単位Tとを少なくとも有し、構造単位Tが構造単位(1)を含む、電荷輸送性ポリマー
(D)構造単位Bと構造単位Lと構造単位Tとを有し、構造単位Bと構造単位Lと構造単位Tからなる群から選ばれる少なくとも一種が構造単位(1)を含む、電荷輸送性ポリマー
【0059】
構造単位(1)を有する電荷輸送性ポリマーは、更に正孔輸送性を有する構造単位を有することが好ましい。正孔輸送性を有する構造単位は、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。正孔輸送性を有する構造単位は、1価、2価、又は3価以上のいずれであってもよい。電荷輸送性ポリマーは、「構造単位B」、「構造単位L」、及び「構造単位T」からなる群から選ばれる少なくとも一種として、正孔輸送性を有する構造単位を少なくとも一つ有する。正孔輸送性を有する構造単位は、電荷輸送性ポリマー内に、分子鎖の骨格構造を形成する構造単位として含まれることが好ましい。
【0060】
正孔輸送性を有する構造単位を有する電荷輸送性ポリマーの好ましい例を以下に列挙する。以下の電荷輸送性ポリマー(a)~(c)は、構造単位(1)も有する。電荷輸送性向上の高い効果が得られる傾向があることから、電荷輸送性ポリマーは、(a)及び(b)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、(b)を少なくとも満たすことがより好ましい。
(a)構造単位Bと構造単位Lと構造単位Tとを有し、構造単位Lが正孔輸送性を有する構造単位を含む、電荷輸送性ポリマー
(b)構造単位Bと構造単位Tとを少なくとも有し、構造単位Bが正孔輸送性を有する構造単位を含む、電荷輸送性ポリマー
(c)構造単位Bと構造単位Lと構造単位Tとを有し、構造単位Lと構造単位Bとからなる群から選ばれる少なくとも一種が正孔輸送性を有する構造単位を含む、電荷輸送性ポリマー
【0061】
構造単位(1)と、正孔輸送性を有する構造単位とをする電荷輸送性ポリマーは、上記の(A)~(D)からなる群から選択されるいずれか少なくとも一つと、上記の(a)~(c)からなる群から選択されるいずれか少なくとも一つとを満たす電荷輸送性ポリマーであることが好ましい。(A)と(b)とを少なくとも満たす電荷輸送性ポリマー又は(B)と(a)とを少なくとも満たす電荷輸送性ポリマーであることがより好ましく、(A)と(b)とを少なくとも満たす電荷輸送性ポリマーであることが更に好ましい。
【0062】
正孔輸送性を有する構造単位は、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、置換又は非置換のチオフェン構造、及び、置換又は非置換のフルオレン構造からなる群から選ばれる一種以上の部分構造を含む構造単位であることが好ましい。高い正孔注入性、正孔輸送性等を有する観点から、置換又は非置換の芳香族アミン構造、及び、置換又は非置換のカルバゾール構造からなる群から選ばれる一種以上の部分構造を含む構造単位であることが好ましい。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0063】
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。部分構造中、「B」は構造単位Bを、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを表す。以下の部分構造中、複数のBは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。L及びTについても、同様である。なお、電荷輸送性ポリマーは、以下の部分構造を有するものに限定されない。
【0064】
【0065】
(構造単位B)
構造単位Bは、3方向以上に分岐した構造を有する電荷輸送性ポリマーおいて、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。電荷輸送性ポリマーは、構造単位Bを、一種のみ有していても、又は、二種以上有していてもよい。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bの例として、3価の構造単位(1)(以下、「構造単位B1」とも記す。)と、部分構造(1)を含まない構造単位(以下、「構造単位B2」とも記す。)が挙げられる。
【0066】
構造単位B2は、電荷輸送性を有する構造単位であることが好ましく、正孔輸送性を有する構造単位であることがより好ましい。構造単位B2は、特に限定されないが、例えば、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの一種又は二種以上を含有する構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0067】
構造単位B2の具体例として、以下が挙げられる。構造単位B2は、以下に限定されない。
【0068】
【0069】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。
Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。
Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。
構造単位中、W、ベンゼン環及びArは、置換基(ただし、式(1)で表される部分構造を含まない。)を有していてもよく、置換基の例として、置換基aが挙げられる。
【0070】
本明細書において、アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。
【0071】
(構造単位L)
構造単位Lは、2価の構造単位である。電荷輸送性ポリマーは、構造単位Lを、一種のみ有していても、又は、二種以上有していてもよい。構造単位Lの例として、2価の構造単位(1)(以下、「構造単位L1」とも記す。)と、部分構造(1)を含まない構造単位(以下、「構造単位L2」とも記す。)が挙げられる。
【0072】
構造単位L2は、電荷輸送性を有する構造単位であることが好ましく、正孔輸送性を有する構造単位であることがより好ましい。電荷輸送性を有する構造単位は、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位L2は、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの一種又は二種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。構造単位L2は、価数以外に関し、構造単位B2と同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0073】
一実施形態において、構造単位L2は、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの一種又は二種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの一種又は二種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位L2は、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの一種又は二種以上を含む構造から選択されることが好ましい。
【0074】
構造単位L2の具体例として、以下が挙げられる。構造単位L2は、以下に限定されない。
【0075】
【0076】
【0077】
式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基(ただし、式(1)で表される部分構造を含まない。)を表す。置換基の例として、置換基aが挙げられる。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基である。
Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0078】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。電荷輸送性ポリマーは、構造単位Tを、一種のみ有していても、又は、二種以上有していてもよい。電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは、重合性官能基を含む基を有してもよい。構造単位Tの例として、1価の構造単位(1)(以下、「構造単位T1」とも記す。)と、部分構造(1)を含まない構造単位(以下、「構造単位T2」とも記す。)が挙げられる。
【0079】
構造単位T2は、電荷輸送性を有する構造単位であることが好ましく、正孔輸送性を有する構造単位であることがより好ましい。構造単位T2は、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの一種又は二種以上を含む構造から選択される。一実施形態において、構造単位T2は、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位T2は重合可能な構造(すなわち、例えば、ピロール-イル基等の重合性官能基)であってもよく、重合性官能基を有してもよい。構造単位T2は、価数以外に関し、構造単位B2と同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。構造単位T2は、価数以外に関し、構造単位L2と同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0080】
構造単位T2の具体例として、以下が挙げられる。構造単位T2は、以下に限定されない。
【0081】
【0082】
式中、Rは、構造単位L2におけるRと同様である。電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、好ましくは、Rのいずれか少なくとも一つが重合性官能基を含む基である。
【0083】
(重合性官能基)
一実施形態において電荷輸送性ポリマーは、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる観点から、重合性官能基を少なくとも一つ有することが好ましい。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。重合性官能基は、構造単位(1)中に含まれていてもよく、構造単位(1)以外の構造単位中に含まれていてもよい。
【0084】
重合性官能基としては、置換又は非置換の、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、スチリル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、ベンゾシクロブテニル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル構造を有する基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。
【0085】
これらの基が置換されている場合の置換基は特に限定されないが、例えば、直鎖、環状又は分岐アルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1~22であることが好ましく、1~10であることがより好ましい。
【0086】
重合性官能基としては、置換又は非置換の、環状エーテル構造を有する基及び炭素-炭素多重結合を有する基が好ましく、置換又は非置換の、ビニル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基がより好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、置換又は非置換の、ビニル基、スチリル基、オキセタン基、及びエポキシ基がより好ましく、ビニル基及びスチリル基が特に好ましい。
【0087】
重合性官能基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの骨格構造と重合性官能基とが、アルキレン鎖(例えば炭素数1~8の直鎖状のアルキレン鎖)等の連結基を介して結合していてもよい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の連結を介して結合していてもよい。更に、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、骨格構造と重合性官能基との間に、エーテル結合、エステル結合等から選択される一種以上を含む連結基を有していてもよい。
【0088】
前述の「重合性官能基を含む基」の例には、「重合性官能基」それ自体、及び、「重合性官能基と、アルキレン鎖、エーテル結合等の連結基とを合わせた基が含まれる。重合性官能基を含む基として、例えば、国際公開第2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0089】
重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端部以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0090】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0091】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、十分な溶解度の変化を得て、多層化を容易に行う観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0092】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。
【0093】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
【0094】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、5,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましく、300,000以下が最も好ましい。
【0095】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0096】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位(1)の割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点から、全構造単位を基準として1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。特に高い特性向上の効果を得る観点から、25モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましい。上限は特に限定されず、100モル%以下である。例えば、電荷輸送性ポリマーが正孔輸送性を有する構造単位を更に有する場合、構造単位(1)の割合は、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0097】
電荷輸送性ポリマーに含まれる正孔輸送性を有する構造単位の割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点から、全構造単位を基準として5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、25モル%以上が更に好ましい。上限は、100モル%未満である。
【0098】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0099】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Lを含む場合、構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位B及び構造単位Tを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0100】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0101】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0102】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bを含む電荷輸送性ポリマーの場合、これらの構造単位の割合(モル比)は、L:T:B=100:10~400:10~300が好ましく、100:20~300:20~200がより好ましく、100:40~200:30~100が更に好ましい。
【0103】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0104】
電荷輸送性ポリマーの好ましい例を以下に挙げる。
(1) 構造単位L1と構造単位B2と構造単位T2とを少なくとも有する電荷輸送性ポリマー
電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性等の調整のために、構造単位L2を更に有してもよい。
(2) 構造単位L2と構造単位B1と構造単位T2とを少なくとも有する電荷輸送性ポリマー
電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性等の調整のために、構造単位B2を更に有してもよい。
(3) 構造単位L2と構造単位B2と構造単位T1とを少なくとも有する電荷輸送性ポリマー
電荷輸送性ポリマーは、溶解性、硬化性等の調整のために、構造単位T2を更に有してもよい。
【0105】
(1)~(3)において、構造単位B2及び構造単位L2は、それぞれ独立に、正孔輸送性を有する構造単位であることが好ましく、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、置換又は非置換のチオフェン構造、及び、置換又は非置換のフルオレン構造からなる群から選ばれる少なくとも一種の部分構造を含む構造単位であることが好ましく、置換又は非置換の芳香族アミン構造、及び、置換又は非置換のカルバゾール構造からなる群から選ばれる少なくとも一種の部分構造を含む構造単位であることがより好ましい。
【0106】
(1)~(3)において、構造単位T2は、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造を含む構造単位であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造を含む構造単位であることがより好ましい。
【0107】
電荷輸送性ポリマーは、(1)又は(2)を満たすポリマーであることが好ましく、(1)を満たすポリマーであることがより好ましい。
【0108】
電荷輸送性ポリマーの重合度(構造単位の単位数)は、有機層の膜質を安定化させる観点から、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。また、重合度は、溶媒への溶解性の観点から、1,000以下が好ましく、700以下がより好ましく、500以下が更に好ましい。
【0109】
重合度は、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量、構造単位の分子量、及び構造単位の比率を利用し、平均値として求めることができる。
【0110】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、電荷輸送性ポリマーが有する構造単位を形成するためのモノマーを重合反応させることによって製造できる。電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を有するモノマーと、正孔輸送性を有する構造単位を有するモノマーとを少なくとも含むモノマー混合物の共重合体であることが好ましい。一例を挙げると、モノマー混合物は、構造単位(1)を有するモノマーと、構造単位L2を有するモノマー、及び/又は、構造単位B2を有するモノマーとを含むことが好ましい。モノマー混合物は、任意に、前記以外の一種以上のモノマー(例えば、構造単位T2を有するモノマー)を含んでもよい。電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を有するモノマーのみを一種含むモノマーの重合体であってもよい。また、電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を有するモノマーのみを二種以上含むモノマー混合物の共重合体であってもよい。
【0111】
モノマー混合物における構造単位(1)を有するモノマーの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点から、モノマー混合物中の全モノマーを基準として、好ましくは1モル%以上、より好ましくは25モル%以上、更に好ましくは40モル%以上である。上限は特に限定されず、100モル%以下である。例えば、モノマー混合物が構造単位L2を有するモノマー、構造単位B2を有するモノマー、及び構造単位T2を有するモノマーのいずれかを更に含有する場合、構造単位(1)の割合は、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0112】
モノマー混合物における構造単位B2を有するモノマー、構造単位L2を有するモノマー、及び構造単位T2を有するモノマーからなる群から選択される少なくとも一種の合計の割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点から、モノマー混合物中の全モノマーを基準として、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは25モル%以上である。上限は特に限定されず、100モル%未満である。
【0113】
モノマー混合物を用いる場合、モノマーを共重合させることにより、電荷輸送性ポリマーを容易に製造することができる。共重合の形式は、交互、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する共重合体、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。
【0114】
重合反応は、カップリング反応であることが好ましく、カップリング反応としては、例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、薗頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知の反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0115】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0116】
鈴木カップリング反応に使用できるモノマーとして、例えば、以下が挙げられる。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
式中、Lは2価の構造単位を表し、Bは3価又は4価の構造単位を表し、Tは1価の構造単位を表す。R1~R3は、互いに結合を形成することが可能な官能基を表し、例えば、それぞれ独立に、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、及びハロゲン基からなる群から選択されるいずれか一種を表す。使用されるモノマーは、「L」、「B」及び「T」の少なくともいずれかとして、構造単位(1)を含む。
【0121】
これらのモノマーは、公知の方法により合成することができる。また、これらのモノマーは、例えば、東京化成工業株式会社、シグマアルドリッチジャパン合同会社等から入手可能である。
【0122】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料は、任意の添加剤を含むことができ、例えばドーパントを更に含有してよい。ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得るものであればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、一種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0123】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl3、PF5、AsF5、SbF5、BF5、BCl3、BBr3等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO5、H2SO4、HClO4等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl4、ZrCl4、HfCl4、NbF5、AlCl3、NbCl5、TaCl5、MoF5;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF6
-(ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF4
-(テトラフルオロホウ酸イオン)、PF6
-(ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして前記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。前記以外の公知の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等である。
【0124】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、Cs2CO3等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0125】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合は、有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。
【0126】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性低分子化合物、他のポリマー等を更に含有してもよい。
【0127】
[含有量]
有機エレクトロニクス材料中の電荷輸送性ポリマーの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。電荷輸送性ポリマーの含有量の上限は特に限定されず、100質量%とすることも可能である。ドーパント等の添加剤を含むことを考慮し、電荷輸送性ポリマーの含有量を、例えば95質量%以下又は90質量%以下としてもよい。
【0128】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0129】
<インク組成物>
一実施形態によれば、インク組成物は、前記有機エレクトロニクス材料と、該材料を溶解又は分散し得る溶媒とを含有する。インク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0130】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等である。
【0131】
[重合開始剤]
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、インク組成物は、好ましくは、重合開始剤を含有する。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。そのような物質として、例えば、前記イオン化合物が挙げられる。
【0132】
[添加剤]
インク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0133】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。
【0134】
<有機層>
一実施形態によれば、有機層は、前記有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて形成された層である。有機層は、良好な電荷輸送性を示す。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好かつ簡便に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0135】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0136】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0137】
<有機エレクトロニクス素子>
一実施形態によれば、有機エレクトロニクス素子は、少なくとも一つの前記有機層を有する。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。
【0138】
<有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)>
一実施形態によれば、有機EL素子は、少なくとも一つの前記有機層を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、前記有機層を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは他の機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。
【0139】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。
【0140】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0141】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0142】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)3(ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)2Ir(acac)(ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C3〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)3(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0143】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が、ポリマーとしては、前記有機エレクトロニクス材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0144】
熱活性遅延蛍光材料としては、例えば、PIC-TRZ(2-biphenyl-4,6-bis(12-phenylindolo[2,3-a]carbazol-11-yl)-1,3,5-triazine)、CC2TA(2,4-bis{3-(9H-carbazol-9-yl)-9H-carbazol-9-yl}-6-phenyl-1,3,5-triazine)、CZ-PS(9,9'-(4,4'-sulfonylbis(4,1-phenylene))bis(3,6-di-tert-butyl-9H-carbazole))、4CzPN(3,4,5,6-tetra(9H-carbazol-9-yl)phthalonitrile)、HAP-3TPA(4,4',4''-(1,3,3a1,4,6,7,9-heptaazaphenalene-2,5,8-triyl)tris(N,N-bis(4-(tert-butyl)phenyl)aniline))等の化合物が挙げられる。
【0145】
[正孔注入層、正孔輸送層]
前記有機層を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として使用することが好ましい。上述のとおり、有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物を用いることにより、これらの層を容易に形成することができる。
【0146】
有機EL素子が、前記有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。また、有機EL素子が、前記有機層を正孔輸送層として有し、更に正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。公知の材料として、例えば、芳香族アミン系化合物(例えば、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン(α-NPD)等の芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)等のチオフェン系導電性ポリマー)などが挙げられる。
【0147】
正孔輸送層が溶解度を変化させた有機層である場合、その上層にインク組成物を用いて発光層を容易に形成することが可能である。この場合、重合開始剤は、正孔輸送層である有機層に含有させても、又は、正孔輸送層の下層にある有機層に含有させてもよい。
【0148】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。また、前記有機エレクトロニクス材料も使用できる。
【0149】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0150】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0151】
[基板]
基板として、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有することが好ましい。石英ガラス、樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0152】
樹脂フィルムとしては、光透過性樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0153】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0154】
[封止]
有機EL素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、封止されていてもよい。封止に用いる材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルム、又は酸化珪素、窒化ケイ素等の無機物を用いることができるが、これらに限定されることはない。封止の方法も、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0155】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されるものではない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0156】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の三つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の二つの発光極大波長を含有する組み合わせなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0157】
<表示素子、照明装置、表示装置>
一実施形態によれば、表示素子は、前記有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0158】
また、一実施形態によれば、照明装置は、本発明の実施形態の有機EL素子を備えている。更に、一実施形態によれば、表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして前記照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とすることができる。
【0159】
<実施形態の例>
本発明の好ましい実施形態の例を以下に挙げる。本発明の実施形態は以下の例に限定されない。
【0160】
[1] 分岐構造を有し、かつ、下記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有する電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーを含有する、有機エレクトロニクス材料。
【化16】
(式(1)において、Raは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rbは、それぞれ独立に、水素原子、置換基、又は、他の構造との結合部位を表し、Rbの少なくとも一つは他の構造との結合部位である。)
【0161】
[2] 前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する構造単位を更に有し、
前記正孔輸送性を有する構造単位が、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、置換又は非置換のチオフェン構造、及び、置換又は非置換のフルオレン構造からなる群から選ばれる少なくとも一種の部分構造を含む構造単位を含む、前記[1]に記載の有機エレクトロニクス材料。
[3] 前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を有するモノマーと、正孔輸送性を有する構造単位を有するモノマーとを含むモノマー混合物の共重合体である、前記[1]又は[2]に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0162】
[4] 前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3価以上の構造単位と、2価の構造単位と、1価の構造単位とを有し、前記2価の構造単位が、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を含む、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
[5] 前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3価以上の構造単位と1価の構造単位とを少なくとも有し、前記3価以上の構造単位が、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を含む、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
[6] 前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、3価以上の構造単位と1価の構造単位とを少なくとも有し、前記1価の構造単位が、前記式(1)で表される部分構造を含む構造単位を含む、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0163】
[7] 前記電荷輸送性ポリマー又はオリゴマーが、重合性官能基を更に有する、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
[8] 重合開始剤を更に含有する、前記[7]に記載の有機エレクトロニクス材料。
[9] 前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含有する、インク組成物。
[10] 前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は、前記[9]に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
【0164】
[11] 前記[10]に記載の有機層を少なくとも一つ備えた、有機エレクトロニクス素子。
[12] 前記[10]に記載の有機層を少なくとも一つ備えた、有機エレクトロルミネセンス素子。
[13] 前記[12]に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
[14] 前記[12]に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
[15] 前記[14]に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【実施例】
【0165】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0166】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間撹拌した。同様に、サンプル管にトリス(t-ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間撹拌した。これらの溶液を混合し、室温で30分間撹拌して、触媒の溶液(以下、「Pd触媒溶液」とも記す。)を得た。触媒の調製において、全ての溶媒は、30分間以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0167】
<電荷輸送性ポリマー1の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL-1(5.0mmol)、下記モノマーB-1(2.0mmol)、下記モノマーT-1(2.0mmol)、下記モノマーT-2(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。30分間撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を加えた。全ての溶媒は30分間以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。得られた混合物を2時間、加熱還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
【0168】
【0169】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノール-水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過により回収し、トルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物とをろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮液をトルエンに溶解した後、メタノール-アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノール-アセトン(8:3)で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。
【0170】
得られた電荷輸送性ポリマー1の数平均分子量は5,600、重量平均分子量は40,200であった。電荷輸送性ポリマー1は、構造単位L-1、構造単位B-1、構造単位T-1、及び構造単位T-2を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、および18.2%であった。
【0171】
数平均分子量及び重量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ :L-6050 株式会社日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器:L-3000 株式会社日立ハイテクノロジーズ
検出波長 :254nm
カラム :Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成株式会社
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業株式会社
流速 :1mL/min
カラム温度 :室温(25℃)
分子量標準物質 :標準ポリスチレン(PStQuick B/C/D) 東ソー株式会社
【0172】
<電荷輸送性ポリマー2の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-1(1.8mmol)、下記モノマーB-2(0.2mmol)、前記モノマーT-1(2.0mmol)、下記モノマーT-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー2の合成を行った。
【0173】
【0174】
得られた電荷輸送性ポリマー2の数平均分子量は9,400、重量平均分子量は28,100であった。電荷輸送性ポリマー2は、構造単位L-1、構造単位B-1、構造単位B-2、構造単位T-1、及び構造単位T-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、16.4%、1.8%、18.2%、及び18.2%であった。
【0175】
<電荷輸送性ポリマー3の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-1(1.0mmol)、前記モノマーB-2(1.0mmol)、前記モノマーT-1(2.0mmol)、前記モノマーT-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー3の合成を行った。
【0176】
得られた電荷輸送性ポリマー3の数平均分子量は11,000、重量平均分子量は32,000であった。電荷輸送性ポリマー3は、構造単位L-1、構造単位B-1、構造単位B-2、構造単位T-1、及び構造単位T-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、9.1%、9.1%、18.2%、及び18.2%であった。
【0177】
<電荷輸送性ポリマー4の合成>
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-2(2.0mmol)、前記モノマーT-1(2.0mmol)、前記モノマーT-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー4の合成を行った。
【0178】
得られた電荷輸送性ポリマー4の数平均分子量は10,200、重量平均分子量は31,700であった。電荷輸送性ポリマー4は、構造単位L-1、構造単位B-2、構造単位T-1、及び構造単位T-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。
【0179】
<電荷輸送性ポリマー5の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL-2(5.0mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、前記モノマーT-1(2.0mmol)、前記モノマーT-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー5の合成を行った。
【0180】
【0181】
得られた電荷輸送性ポリマー5の数平均分子量は12,100、重量平均分子量は45,000であった。電荷輸送性ポリマー5は、構造単位L-2、構造単位B-1、構造単位T-1、及び構造単位T-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。
【0182】
(電荷輸送性ポリマー6の合成)
三口丸底フラスコに、前記モノマーL-1(5.0mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、前記モノマーT-1(2.0mmol)、前記モノマーT-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー6の合成を行った。
【0183】
得られた電荷輸送性ポリマー6の数平均分子量は10,000、重量平均分子量は47,600であった。電荷輸送性ポリマー6は、構造単位L-1、構造単位B-1、構造単位T-1、及び構造単位T-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。
【0184】
<電荷輸送性ポリマー7の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL-3(5.0mmol)、前記モノマーB-1(2.0mmol)、前記モノマーT-1(2.0mmol)、前記モノマーT-3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に前記Pd触媒溶液(7.5mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー7の合成を行った。
【0185】
【0186】
得られた電荷輸送性ポリマー7の数平均分子量は10,300、重量平均分子量は32,600であった。電荷輸送性ポリマー7は、構造単位L-3、構造単位B-1、構造単位T-1、及び構造単位T-3を有し、それぞれの構造単位の割合(モル比)は、45.5%、18.2%、18.2%、及び18.2%であった。
【0187】
<電荷輸送性評価用素子の作製>
大気雰囲気下で、各電荷輸送性ポリマー(10.0mg)、下記電子受容性化合物1(0.5mg)、及びトルエン(1.5mL)を混合し、インク組成物を調製した。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、前記インク組成物を回転数3,000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で210℃、30分間加熱して硬化させ、有機層(100nm)を形成した。
【0188】
【0189】
有機層を有する基板を真空蒸着機中に移し、有機層上に、アルミニウムを蒸着法で成膜(100nm)し、封止処理を行って電荷輸送性評価用素子を作製した。
【0190】
電荷輸送性評価用素子のITOを陽極、アルミニウムを陰極として電圧を印加した。0.1V及び1.5Vの電圧をそれぞれ印加した時の電流密度(A/cm3)を表1に示す。
【0191】
【0192】
表1に示したとおり、本発明の実施形態である有機エレクトロニクス材料によれば、良好な電荷輸送性を示す有機層が得られた。
【0193】
以上に、実施例を用いて本発明の実施形態の効果を示した。実施例において使用した有機エレクトロニクス材料以外にも、前記で説明した、構造単位(1)を有する電荷輸送性ポリマーを含有する有機エレクトロニクス材料を用い、良好な電荷輸送性を示す有機層を得ることが可能である。良好な電荷輸送性を示す有機層を使用することで、駆動電圧の低い有機エレクトロニクス素子を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0194】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板