(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C09J 183/07 20060101AFI20220830BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20220830BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20220830BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220830BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20220830BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220830BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C09J183/07
C09J183/04
C09J11/04
C09J11/06
C09J4/00
C09J7/38
B32B27/00 101
(21)【出願番号】P 2020559867
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2019044825
(87)【国際公開番号】W WO2020116127
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018229752
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 太一
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
(72)【発明者】
【氏名】大竹 滉平
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190977(JP,A)
【文献】特開2007-191637(JP,A)
【文献】特開2005-75959(JP,A)
【文献】特開2004-155832(JP,A)
【文献】国際公開第2012/36209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基から選ばれる重合性基、または炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R
1のうち少なくとも1個は前記重合性基であり、
R
2は、それぞれ独立して酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、
mおよびnは、m≧0、n≧1、1≦m+n≦1,000を満たす数を表す。)
(B)(a)R
3
3SiO
1/2単位(式中、R
3は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(b)SiO
4/2単位からなり、(a)単位と(b)単位のモル比が0.6~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、
(C)微粉末シリカ:1~100質量部、および
(D)光重合開始剤:0.01~20質量部
を含有し、シロキサン構造を有しない(メタ)アクリレート化合物を含有しないことを特徴とする紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物。
【請求項2】
23℃において、振動数1Hzで測定した粘度Aと振動数10Hzで測定した粘度Bとの比(チクソ比)がA/B=1.1~10である請求項1記載の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物。
【請求項3】
振動数10Hzの粘度Bが、10~5,000Pa・sの範囲である請求項1または2記載の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物。
【請求項5】
請求項4記載の硬化物からなる粘着剤。
【請求項6】
請求項4記載の硬化物からなる粘着シート。
【請求項7】
請求項4記載の硬化物からなる微小構造体転写用スタンプ。
【請求項8】
少なくとも1つの凸状構造を有する請求項7記載の微小構造体転写用スタンプ。
【請求項9】
請求項7または8記載の微小構造体転写用スタンプを備えた微小構造体転写装置。
【請求項10】
請求項4記載の硬化物からなる粘着剤層を有する微小構造体保持基板。
【請求項11】
請求項10記載の微小構造体保持基板を備えた微小構造体転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物に関し、さらに詳述すると、物体を移送するための仮固定材に好適に使用できる、紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、液晶ディスプレー、車載部品等に代表されるようなエレクトロニクス機器には、高性能化のみならず、省スペース化、省エネルギー化も同時に求められている。そのような社会的要請に応じて、搭載される電気電子部品も微細化しており、その組立工程も年々複雑化し、困難になっている。
【0003】
このような微細化した素子や部品を選択的かつ一度に移送可能な技術が近年開発され、注目を浴びている(非特許文献1)。
この技術は、マイクロ・トランスファー・プリンティング技術と呼ばれ、エラストマーの粘着力で微細な部品を一遍にピックアップし、より粘着力の強い所望の場所に移送させるという技術である。
【0004】
マイクロ・トランスファー・プリンティング材料としては、シリコーン粘着剤組成物を基材等にスピンコーティングやスクリーン印刷等により塗布した後に硬化させた粘着性物品が利用される。
【0005】
この用途に用いる粘着材料としてシリコーンエラストマーが知られており、加熱硬化型の無溶剤型シリコーン系粘着剤が多く提案されている(特許文献1~3)。
しかし、加熱硬化型の無溶剤シリコーン粘着剤を用いると、加熱硬化後に室温まで冷却した時に硬化物が収縮してしまい、塗布パターンの寸法誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0006】
このような材料の収縮を抑えるため、紫外線照射により室温にて短時間で硬化可能なシリコーン樹脂の開発も行われている(特許文献4)。
しかし、シリコーンエラストマーが元来有する微小な粘着力では移送できないような素子や部品も存在し始めており、より強い粘着力を有する紫外線硬化型シリコーン粘着剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5825738号公報
【文献】特許第2631098号公報
【文献】特許第5234064号公報
【文献】特許第5989417号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】JOHN A. ROGERS、「Transfer printing by kinetic control of adhesion to an elastometric stamp」, nature materials, Nature Publishing Group,平成17年12月11日、第6巻、p.33-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、形状保持性が良好で、硬化収縮が少なく、仮固定材として優れた粘着性を有する硬化物を与える紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の(メタ)アクリロイルオキシ含有基を有するオルガノポリシロキサン、所定のオルガノポリシロキサンレジン、微粉末シリカ、光開始剤を用い、かつシロキサン構造を有しない(メタ)アクリレート化合物を添加しないことで、所望の形状を保持しつつ紫外線照射により速やかに硬化し、硬化収縮が少なく、かつ良好な粘着力が得られる紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基から選ばれる重合性基、または炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R
1のうち少なくとも1個は前記重合性基であり、
R
2は、それぞれ独立して酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、
mおよびnは、m≧0、n≧1、1≦m+n≦1,000を満たす数を表す。)
(B)(a)R
3
3SiO
1/2単位(式中、R
3は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(b)SiO
4/2単位からなり、(a)単位と(b)単位のモル比が0.6~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、
(C)微粉末シリカ:1~100質量部、および
(D)光重合開始剤:0.01~20質量部
を含有し、シロキサン構造を有しない(メタ)アクリレート化合物を含有しないことを特徴とする紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物、
2. 23℃において、振動数1Hzで測定した粘度Aと振動数10Hzで測定した粘度Bとの比(チクソ比)がA/B=1.1~10である1の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物、
3. 振動数10Hzの粘度Bが、10~5,000Pa・sの範囲である1または2の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物、
4. 1~3のいずれかの紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物、
5. 4の硬化物からなる粘着剤、
6. 4の硬化物からなる粘着シート、
7. 4の硬化物からなる微小構造体転写用スタンプ、
8. 少なくとも1つの凸状構造を有する7の微小構造体転写用スタンプ、
9. 7または8の微小構造体転写用スタンプを備えた微小構造体転写装置、
10. 4の硬化物からなる粘着剤層を有する微小構造体保持基板、
11. 10の微小構造体保持基板を備えた微小構造体転写装置
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、形状保持性および作業性が良好で、硬化収縮が少なく、その硬化物は仮固定材としての優れた粘着性を有する。
したがって、紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物は、元来のシリコーンエラストマーの持つ粘着力では移送できない微小素子を移送することができるだけの十分な粘着力を有し、また硬化収縮率が小さいため良好な寸法精度を有するため、マイクロ・トランスファー・プリンティング材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の微小構造体転写用スタンプの一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の微小構造体転写用スタンプの一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の微小構造体転写用スタンプの製造方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、(B)(a)R3
3SiO1/2単位(式中、R3は、非置換または置換の炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(b)SiO4/2単位からなり、(a)単位と(b)単位のモル比が0.6~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、
(C)微粉末シリカ:1~100質量部、および
(D)光重合開始剤:0.01~20質量部
を含有し、シロキサン構造を有しない(メタ)アクリレート化合物を含有しないことを特徴とする。
【0015】
(A)オルガノポリシロキサン
本発明に使用される(A)成分は、本組成物の架橋成分であり、下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。
【0016】
【0017】
式(1)において、R1は、それぞれ独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基から選ばれる重合性基、または炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表すが、R1のうち少なくとも1個は重合性基であり、R2は、それぞれ独立して酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、mおよびnは、m≧0、n≧1、1≦m+n≦1,000を満たす数を表す。
【0018】
R1における炭素原子数1~20の一価炭化水素基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-デシル基等のアルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これら一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部は、その他の置換基で置換されていてもよく、その具体例としては、クロロメチル、ブロモエチル、トリフルオロプロピル、シアノエチル基等のハロゲン置換炭化水素基や、シアノ置換炭化水素基などが挙げられる。
これらの中でも、好ましくは、脂肪族不飽和基を除く、炭素原子数1~8の一価炭化水素基であり、炭素原子数1~5のアルキル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、フェニル基がより一層好ましい。特に、合成のし易さとコストの面から、R1のうち90%以上がメチル基またはフェニル基であることが好ましい。
【0019】
一方、R1の重合性基であるアクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基から選ばれる重合性基におけるアルキル(アルキレン)基の炭素数としては、特に限定されるものではないが、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。これらアルキル基の具体例としては、上記で例示した一価炭化水素基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられる。
重合性基の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
【化3】
(式中、bは、1≦b≦4を満たす数を表し、R
4は、炭素原子数1~10のアルキレン基を表す。)
【0021】
R4の炭素原子数1~10のアルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デシレン基等が挙げられるが、メチレン、エチレン、トリメチレン基が好ましい。
【0022】
上述のとおり、式(1)で表されるオルガノポリシロキサンにおいて、R1のうちの少なくとも1個は重合性基であるが、1~6個が重合性基であることが好ましく、2~4個が重合性基であることがより好ましい。
なお、重合性基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端および側鎖のいずれに存在してもよいが、柔軟性の面では末端にのみ存在することが好ましい。
【0023】
また、R2の炭素原子数1~20のアルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デシレン基等が挙げられる。
これらの中でも、R2としては、酸素原子、メチレン、エチレン、トリメチレン基が好ましく、酸素原子またはエチレン基がより好ましい。
【0024】
式(1)において、mおよびnは、m≧0、n≧1、1≦m+n≦1,000を満たす数であるが、好ましくは1≦m+n≦700、より好ましくは20≦m+n≦500を満たす数である。m+nが1未満であると揮発し易く、m+nが1,000を超えると組成物の粘度が高くなり、取り扱い性に劣る。
【0025】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、組成物の作業性や硬化物の力学特性をより向上させることを考慮すると、10~100,000mPa・sが好ましく、10~50,000mPa・sがより好ましい。なお、本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメーター等)により測定できる(以下、同様)。
【0026】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記式(3)および(4)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記式においてMeはメチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0027】
【化4】
(式(4)中、括弧内のシロキサン単位の配列順序は任意である。)
【0028】
なお、上記(A)成分のオルガノポリシロキサンは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
(B)オルガノポリシロキサンレジン
(B)成分は、硬化物に粘着性を付与する成分であり、(a)R3
3SiO1/2単位(式中、R3は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(b)SiO4/2単位からなり、(a)単位と(b)単位のモル比が0.6~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンである。
R3における炭素原子数1~10の一価炭化水素基の具体例としては、上記R1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられるが、中でもメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル基等の炭素原子数2~6のアルキル基;フェニル、トリル基等の炭素原子数6~10のアリール基、ベンジル基等の炭素原子数7~10のアラルキル基;ビニル、アリル、ブテニル基等の炭素原子数2~6のアルケニル基が好ましい。
なお、上記R3の一価炭化水素基も、R1と同様に、炭素原子に結合した水素原子の一部または全部が、上述したその他の置換基で置換されていてもよい。
【0030】
本発明の(B)成分では、(a)R3
3SiO1/2単位(M単位)と(b)SiO4/2単位(Q単位)のモル比がM単位:Q単位=0.6~1.2:1であるが、M単位のモル比が0.6未満になると、硬化物の粘着力やタック性が低下することがあり、1.2を超えると、硬化物の粘着力や保持力が低下することがある。
硬化物の粘着力、保持力およびタック性をより適切な範囲とすることを考慮すると、M単位とQ単位のモル比は、M単位:Q単位=0.7~1.2:1が好ましい。
【0031】
(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンの添加量は、上記(A)成分100質量部に対して1~1,000質量部の範囲であるが、5~500質量部が好ましく、10~300質量部がより好ましい。添加量が(A)成分100質量部に対し、1質量部よりも少ないと硬化物の粘着力が不十分となり、1,000質量部よりも多いと粘度が著しく高くなり取扱い性に劣る。
【0032】
(C)微粉末シリカ
(C)成分は、主に組成物にチクソ性を付与する成分であり、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)や沈殿シリカ(湿式シリカ)が挙げられるが、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)が好ましい。また、(C)成分を配合することで硬化物の硬度を高め、部品等を移送する際の位置ずれを抑制する効果もある。
(C)成分の比表面積は、特に限定されるものではないが、50~400m2/gが好ましく、100~350m2/gがより好ましい。比表面積が50m2/g未満であると、組成物のチクソ性が不十分となる場合があり、400m2/gを超えると、組成物の粘度が過剰に高くなり、作業性が悪くなる場合がある。なお、比表面積は、BET法による測定値である。
この(C)成分の微粉末シリカは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらの微粉末シリカは、そのまま用いても構わないが、表面疎水化処理剤で処理したものを用いてもよい。
この場合、予め表面処理剤で処理した微粉末シリカを用いても、微粉末シリカの混練時に表面処理剤を添加し、混練と表面処理を同時に行ってもよい。
これら表面処理剤は、アルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤等が挙げられ、これらは、1種単独で用いても、2種以上を同時に、または異なるタイミングで用いてもよい。
【0034】
本発明の組成物において、(C)成分の添加量は、上記(A)成分100質量部に対して1~100質量部の範囲であるが、5~80質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。
(C)成分の添加量が1質量部未満では十分なチクソ性が発現せず、形状保持性に劣る。添加量が100質量部を超えると、組成物の粘度が高くなり過ぎ、著しく作業性が悪くなる。
【0035】
(D)光重合開始剤
本発明で使用可能な光重合開始剤の具体例としては、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF製Irgacure 651)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF製Irgacure 184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 127)、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル(BASF製Irgacure MBF)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASF製Irgacure 907)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(BASF製Irgacure 369)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、(A)成分との相溶性の観点から、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)が好ましい。
【0036】
光重合開始剤の添加量は、(A)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲である。0.01質量部未満であると硬化性が不足し、20質量部を超える量で添加した場合は深部硬化性が悪化する。
【0037】
上述のとおり、本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、硬化収縮が大きくならないよう、シロキサン構造を有しない単官能または多官能(メタ)アクリレート化合物を含有しない。ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
シロキサン構造を有しない単官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられ、シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、トリメチロルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0038】
なお、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、シリコーンゴムの補強、粘度調整、耐熱性向上、難燃性向上などを目的とする充填剤として周知のものを添加することができる。
充填剤としては、ヒュームド酸化チタン等の補強性充填剤;酸化鉄、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の非補強性充填剤;これらの充填剤をオルガノシラン、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物で処理したものなどが挙げられる。
また、本発明の組成物には、シランカップリング剤、重合禁止剤、酸化防止剤、耐光性安定剤である酸素吸収剤、光安定化剤等の添加剤を配合することもできる。
さらに、本発明の組成物は他の樹脂組成物と適宜混合して使用することもできる。
【0039】
本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、上記(A)~(D)成分、および必要に応じてその他の成分を、任意の順序で混合し、撹拌等して得ることができる。撹拌等の操作に用いる装置は特に限定されないが、擂潰機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。また、これら装置を適宜組み合わせてもよい。
【0040】
本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の粘度は、塗布時の形状保持性と作業性の観点から、23℃、振動数10Hzで測定した粘度が10~5,000Pa・sの範囲であることが好ましく、10~3,000Pa・sがより好ましく、10~1,500Pa・sがより一層好ましい。粘度は、HAAKE社製MARS等の粘度・粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
また、本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、塗布時の形状保持性と作業性の観点から、23℃において振動数1Hzで測定した粘度Aと振動数10Hzで測定した粘度Bとの比(チクソ比)が、A/B=1.1~10の範囲であることが好ましく、1.2~8.0がより好ましい。
【0041】
本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、硬化物の寸法精度の観点から、23℃で測定した硬化前の密度αと硬化物の密度βをもとに式(β―α)/α×100より算出される硬化収縮率が3.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下であることがより一層好ましい。
【0042】
本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、紫外線を照射することにより速やかに硬化する。
この場合、照射する紫外線の光源としては、例えば、UVLEDランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアークランプ、キセノンランプ等が挙げられる。
紫外線の照射量(積算光量)は、例えば、本発明の組成物を2.0mm程度の厚みに成形したシートに対して、好ましくは1~10,000mJ/cm2であり、より好ましくは10~6,000mJ/cm2である。すなわち、照度100mW/cm2の紫外線を用いた場合、0.01~100秒程度紫外線を照射すればよい。
本発明において、紫外線照射によって得られた硬化物の粘着力は、微小素子を移送できるだけの粘着性を考慮すると、0.1~100MPaが好ましく、0.1~50MPaがより好ましい。
【0043】
また、本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、各種基材に塗布して紫外線硬化させることにより、粘着性物品として利用することができる。
基材としては、プラスチックフィルム、ガラス、金属等、特に制限なく使用できる。
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、トリアセチルセルロースフィルム等が挙げられる。
ガラスについても、厚みや種類などについて特に制限はなく、化学強化処理などをしたものでもよい。
なお、基材と粘着剤層の密着性を向上させるために、基材に予めプライマー処理、プラズマ処理等を施したものを用いてもよい。
【0044】
塗工方法は、例えば、スピンコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の公知の塗工方法から適宜選択して用いることができる。
【0045】
本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、無溶剤型であるため、硬化物の作製方法としては、型を用いたポッティングも可能である。
ポッティングにおける型へ流し込む際に気泡を巻き込むことがあるが、減圧により脱泡することができる。型としては、例えば、シリコンウエハー上にフォトレジストにより所望の凹凸をつけたレジスト型を用いることができる。
硬化後、型から硬化物を取り出したい場合には、組成物を流し込む前に容器に離型剤処理を施す方が好ましい。離型剤としてはフッ素系、シリコーン系等のものが使用可能である。
【0046】
なお、本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、そのまま使用する事ができるが、ハンドリング性、基材への塗布性などの改善が必要な場合には、本発明の特性を損なわない範囲において有機溶剤により希釈してから使用することも許容される。
【0047】
図1,2に示されるように、本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物は、微小な素子や部品等を移送するための微小構造体転写用スタンプ100,101として利用することができる。
図1において、微小構造体転写用スタンプ100は、基材200上に本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物層300を有して構成されている。この場合、硬化物層300の大きさは、基材200に収まる大きさであればよく、全く同じ大きさでもよい。
基材200の材質には特に制限はなく、その具体例としては、プラスチックフィルム、ガラス、合成石英、金属等が挙げられる。厚みや種類などについても特に制限はなく、化学強化処理などをしたものでもよい。なお、基材と粘着剤層の密着性を向上させるために、基材に予めプライマー処理、プラズマ処理等を施したものを用いてもよい。微小構造体移送時の位置ずれを抑制し、移送精度を高めるためには、平坦度の高い合成石英を使用することが好ましい。
【0048】
基材200上に硬化物層300を作製する方法にも特に制限はなく、例えば、基材200上に未硬化の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物を直接塗布して硬化させる方法と、基材200上に紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物のシート状硬化物を貼り合せる方法のいずれでもよい。
基材200上に紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物を直接塗布して硬化させる方法では、基材200上へシリコーン粘着剤組成物を塗布後、紫外線照射により硬化することで微小構造体転写用スタンプ100を得ることができる。
塗布方法としては、例えば、スピンコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の公知の塗工方法から適宜選択して用いることができる。
また、これらの方法でシリコーン粘着剤組成物を基材に塗布後、プレス成型やコンプレッション成型等を行いながら紫外線照射により硬化させることで、平坦性の高い微小構造体転写用スタンプ100を得ることもできる。
【0049】
基材200上に紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物のシート状硬化物を貼り合せる方法では、材料をシート状に成型後、基材200に貼り合せることで微小構造体転写用スタンプ100を得ることができる。
紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物をシート状に成型する方法としては、例えば、ロール成形、プレス成型、トランスファー成型、コンプレッション成型等の成型方法から適宜選択して用いることができる。シート状硬化物は、ホコリ等の付着防止や硬化時の酸素阻害抑制のために、プラスチックフィルムに挟み込む形で成型することが好ましい。また、得られたシート状硬化物が所望よりも大きい場合、所望の大きさにカットすることも可能である。
また、シート状硬化物と基材200との密着性を上げるため、これらのいずれか、または両方の貼り合せ面にプラズマ処理、エキシマ処理、化学処理等を施してもよい。さらに、貼り合せ強度を向上させるために、粘着剤・接着剤等を使用してもよい。粘着剤・接着剤の具体例としては、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系等のものが使用可能である。
貼り合せ方法としては、ロール貼り合せや真空プレス等を用いることができる。
【0050】
微小構造体転写用スタンプ100中のシリコーン粘着剤硬化物層300の厚さは、成型性や平坦性の観点から1μm~1cmが好ましく、10μm~5mmがより好ましい。
【0051】
一方、
図2において、微小構造体転写用スタンプ101は、基材201上に本発明の紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物層310を有して構成される。基材201としては、基材200と同様のものを使用できる。シリコーン粘着剤硬化物層310は、表面に凸状構造311を有している。また、凸状構造311の下部には、ベース層312が設けられていてもよい。
基材201上に硬化物層310を作製する方法に特に制限はなく、例えば、基材201上にモールド成型等により直接硬化物層310を成型する方法と、基材201上に凸状構造311を有するシート状硬化物を貼り合せる方法が挙げられる。
【0052】
基材201上にモールド成型により直接シリコーン粘着剤硬化物層310を成型する方法では、
図3に示されるように、基材201と型401の間に本発明のシリコーン粘着剤組成物を満たし、紫外線照射により硬化させた後、型401を脱型することで微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。
型401としては、例えば、シリコンウエハーや石英基板上にフォトレジストにより所望の凹凸をつけたレジスト型、紫外線硬化型樹脂にパターン露光して凹凸をつけた樹脂型等を用いることができる。樹脂型の場合、基材として各種プラスチックフィルムを用いることができる。
基材201と型401の間にシリコーン粘着剤組成物を満たす方法としては、基材201と型401のいずれか、もしくは両方にシリコーン粘着剤組成物を塗布してから貼り合せる方法が挙げられる。塗布方法や貼り合せ方法は上述の方法を用いることができる。塗布時に型401に微小な気泡が残る可能性があるが、真空貼り合せや減圧による脱泡により解決できる。
これらの方法でシリコーン粘着剤組成物を基材に塗布後、プレス成型、コンプレッション成型、ロールプレス成型等を行いながら紫外線照射により硬化させることで、微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。
【0053】
また、別の方法として、シリコーン粘着剤組成物を所望のパターンを有するメッシュを用いてスクリーン印刷した後、紫外線照射により硬化させる方法でも微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。この際、本発明のシリコーン粘着剤組成物は形状保持性に優れるため、塗布後から硬化するまでに所望のパターン形状を損なうことはない。
【0054】
基材201上に、凸状構造311を有するシリコーン粘着剤シート状硬化物を貼り合せる方法では、シリコーン粘着剤組成物を、凸状構造311を有するシート状硬化物に成型後、基材201に貼り合せることで、微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。
紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物を、凸状構造311を有するシート状硬化物に成型する方法としては、型401と同様な凹凸を有する型を用いたロール成形、プレス成型、トランスファー成型、コンプレッション成型等の成型方法から適宜選択して用いることができる。
シート状硬化物は、ホコリ等の付着防止や硬化時の酸素阻害抑制のために、プラスチックフィルム等に挟み込んで成型することが好ましい。また、得られたシート状硬化物が所望よりも大きい場合、所望の大きさにカットすることも可能である。
さらに、シート状硬化物と基材201との密着性を上げるため、これらの貼り合せ面にプラズマ処理、エキシマ処理、化学処理等を施してもよい。また、貼り合せ強度を向上させるために、上述した各種粘着剤・接着剤等を使用してもよい。
貼り合せ方法としては、ロール貼り合せや真空プレス等を用いることができる。
【0055】
凸状構造311の大きさや配列は、移送対象の微小構造体の大きさや所望の配置に合わせて設計可能である。
凸状構造311の上面は平坦であり、また、その面形状に制限はなく、円形、楕円形、四角形等が挙げられる。四角形等の場合、エッジに丸みをつけても問題ない。凸状構造311の上面の幅は、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
また、凸状構造311の側面の形態にも制限はなく、垂直面、斜面等を問わない。
凸状構造311の高さは、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
空間を隔てて隣り合う凸状構造311同士のピッチ距離は、0.1μm~10cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
また、ベース層312の厚さは、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~5mmがより好ましい。
【0056】
以上のような微小構造体転写用スタンプは、装置へ取り付けて微小構造体転写装置として利用できる。装置への取り付け方法に制限はないが、真空チャック、粘着剤シート等が挙げられる。微小構造体転写装置は、素子等の微小構造体を微小構造体転写用スタンプの粘着性によりピックアップし、所望の位置へ移動後、リリースすることで、微小構造体の移送を達成することが可能である。
【0057】
例えば、レーザー光を用いて半導体素子のサファイア基板をGaN系化合物結晶層から剥離するレーザーリフトオフ(laser lift off、LLO)プロセスの際に、剥離した半導体素子の位置ずれが生じないように仮固定するための微小構造体保持基板(ドナー基板)として、
図1,2に示される微小構造体転写用スタンプ100,101を使用することができる。半導体素子に微小構造体保持基板が粘着した状態でレーザー照射を行うことにより、剥離した半導体素子が微小構造体保持基板上に転写・仮固定される。
更に、上記微小構造体保持基板よりも粘着力の大きい微小構造体転写用スタンプ100,101を用いることにより、上記微小構造体保持基板上に仮固定された半導体素子を選択的にピックアップすることができる。ここで、ピックアップした半導体素子を実装先基板上の所望の位置へ移動後、はんだ付けを行って半導体素子と実装先基板とを接合し、微小構造体転写用スタンプを半導体素子から剥離することにより、半導体素子の転写および基板への実装が達成される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した各成分の化合物は以下のとおりである。以下の式において、Meはメチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0059】
(A)成分
【化5】
(式(A-1)中、括弧内のシロキサン単位の配列順序は任意である。)
【0060】
(B)成分
Me3SiO1/2単位およびSiO2単位を含有し、(Me3SiO1/2単位)/(SiO2単位)のモル比が0.85であるオルガノポリシロキサンレジン(数平均分子量3,500)の60質量%トルエン溶液
(C)成分
乾式シリカ((株)トクヤマ製レオロシールDM-30S、比表面積230m2/g)
【0061】
(D)成分
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASFジャパン(株)製Irgacure 1173)
(E)成分
イソボルニルアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB-XA)
【0062】
[実施例1~4,参考例1~2]
上記(A)~(B)成分を表1の割合で混合し、減圧下にて100℃でトルエンを留去した後、(C)~(E)成分を表1の割合で添加してプラネタリーミキサーで混合し、表1記載の各シリコーン組成物を調製した。
なお、表1における組成物の粘度は、粘度・粘弾性測定装置(HAAKE社製MARS)を用いて23℃で測定した振動数10Hzでの値であり、チクソ比は23℃での振動数1Hzの粘度Aと振動数10Hzの粘度Bとの比A/Bより算出した。
【0063】
調製した各シリコーン組成物を、アイグラフィック(株)製アイUV電子制御装置(型式UBX0601-01)を用い、窒素雰囲気下、室温(25℃)で、波長365nmの紫外光での照射量が8,000mJ/cm2となるように紫外線を照射し、硬化させた。なお、シートの厚みは2.0mmとした。硬化物の硬度は、JIS-K6249に準じて測定した。
硬化物の粘着力は、(株)島津製作所製小型卓上試験機EZ-SXにより測定した。
具体的には、1mm厚の硬化物に1mm角SUS製プローブを1MPaで15秒間押し付けた後、200mm/minの速度で引っ張った際にかかる負荷を測定した値である。
硬化前の組成物の密度および硬化物の密度は、JIS―K6249に準じて測定した。
硬化収縮率(%)は、硬化前の密度αと硬化物の密度βをもとに、式(β―α)/α×100より算出した。
【0064】
【0065】
表1に示されるように、実施例1~4で調製した紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物は、良好な形状保持性と作業性を有し、その硬化物は十分な粘着力を有し、また、シロキサン構造を有しない(メタ)アクリレート化合物であるイソボルニルアクリレート((E)成分)を含んでいないため、硬化収縮率が小さく良好な寸法精度を有する。
一方、参考例1~2で調製した組成物は、形状保持性、作業性、硬化物の粘着力という点では問題がなく、マイクロトランスファー・プリンティング材料として実用可能であるものの、(E)成分を含んでいるため、実施例の組成物に比べて硬化収縮率が大きく、寸法精度が低いことがわかる。
【符号の説明】
【0066】
100,101 微小構造体転写用スタンプ
200,201 基材
300,310 硬化物層
311 凸状構造
312 ベース層
401 型