(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】不織布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/541 20120101AFI20220830BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20220830BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
D04H1/541
A61F13/15 355B
A61F13/511 300
(21)【出願番号】P 2022530745
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2022008545
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021048081
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399120660
【氏名又は名称】JNCファイバーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺田 博和
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-80907(JP,A)
【文献】国際公開第95/06769(WO,A1)
【文献】特開2009-144316(JP,A)
【文献】特開昭61-118113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/541
A61F 13/15
A61F 13/511
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性複合繊維の交点が熱融着されている不織布であって、前記不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm
2であり、前記不織布における高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であり、前記不織布の単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上である、不織布。
【請求項2】
比容積が100cm
3/g以上である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
圧縮最大荷重4gf/cm
2における圧縮仕事量が0.20gf・cm/cm
2以上である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
前記熱融着性複合繊維の繊度が0.8~20dtexである、請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
前記熱融着性複合繊維の繊維長が20~102mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
熱融着性複合繊維を含有するウェブを形成する工程、過熱水蒸気ガスを用いて非圧下で前記熱融着性複合繊維の交点を熱融着させる工程、を含む、不織布の製造方法。
【請求項7】
前記ウェブを形成する工程が、カード法またはエアレイド法である、請求項6に記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
前記熱融着性複合繊維を熱融着させる工程の後に、さらに熱処理する工程を含む、請求項6または7に記載の不織布の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の不織布を用いた吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度の不織布、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品に用いられる不織布には、より快適性を求めて、改良が続けられている。特に、おむつなどの吸収性物品の表面材としては、嵩高さや柔軟性に優れること、肌面との擦れによる毛羽の発生や破損が無いこと、尿、軟便、経血などの粘度の異なる様々な液体や固形物に対して、液体を素早く吸収体へ送る性能(通液性)などが必要とされる。
【0003】
吸収性物品などの表面材に用いられる不織布として、スルーエアー不織布が知られている。スルーエアー不織布とは、融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂で構成された複合繊維からなるウェブを熱処理することで得られる。ウェブを熱処理する方法としては、例えば、ウェブを支持搬送する搬送支持体を備えた熱処理装置(例えば、熱風貫通式熱処理機、熱風吹き付け式熱処理機)によって複合繊維同士を熱融着させる方法が知られている。しかしながら、スルーエアー不織布は熱風を吹き付けて製造されるため、ウェブに熱風による圧力がかかり、それによって不織布の嵩が低下したり、厚み方向において繊維密度の高い側と低い側が形成され、その高密度側表層の形成によって、柔軟性が損なわれたり、軟便や経血などの高粘度成分が閉塞してしまうという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、スルーエアー不織布を用いて、密度の低い側を肌側として使用することで高粘度液体の閉塞を防ぐことが記載されている。しかしながら、このような不織布の使用によって、高粘度液体の通液性は改善されるものの、嵩高さや柔軟性は十分ではなく、これらすべてが満足できる不織布は未だ得られていない。
【0005】
一方、針ロールとそれを受ける孔ロールとにより不織布を挟みながら、針ロールの加熱された針で不織布を刺すことで開孔が形成された開孔不織布が知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2には、表面上に列設された多数のピンを有するピンロールと、ピン列とピン列の間に形状を形成するための突条を備えた突条ロールとの間で不織布を挟圧搬送することによって、立体形状を付与することが開示されている。しかしながら、この方法を用いる場合、不織布がロールの間に挟持されて潰されてしまうため、開孔部分以外は、不織布が圧密されてしまい、嵩高性や柔軟性が損なわれるという問題がある。また、確かに開孔部の通液性は高いものの、逆に液戻りが生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-80907号公報
【文献】特開平6-330443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの状況に鑑み、本発明の目的は、嵩高で、柔軟性に優れ、毛羽や破損が生じない高強度の不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ウェブの形状を維持した状態で、すなわち不織布の厚み方向において繊維密度の高低が小さい状態で、繊維を熱融着させて不織布を製造することによって、前記の課題を解決することができると考えた。そこで、熱融着工程において、できる限り熱風の風速を低く設定し、ウェブ表面への熱風吹き付け圧力を低減させることを試みた。しかしながら、熱風風速の低減は、風速安定性を低下させ、得られた不織布の物性のばらつきが増大し、更には不織布強度が著しく低下することが判明した。また、物性のばらつきや強度低下を改善するために、熱風処理時間を長くする必要があり、生産性が著しく低下する問題が生じた。本発明者は、これらの状況に鑑みて、更なる加工方法を検討した。その結果、過熱水蒸気ガスを用いて非圧下で熱融着性複合繊維の交点を熱融着させることで、嵩高で、柔軟性に優れ、さらには高強度の不織布が得られることを見出し、前記の課題を解決する本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1]熱融着性複合繊維の交点が熱融着されている不織布であって、前記不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2であり、前記不織布における高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であり、前記不織布の単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上である、不織布。
[2]比容積が100cm3/g以上である、[1]に記載の不織布。
[3]圧縮最大荷重4gf/cm2における圧縮仕事量が0.20gf・cm/cm2以上である、[1]または[2]に記載の不織布。
[4]前記熱融着性複合繊維の繊度が0.8~20dtexである、[1]~[3]のいずれかに記載の不織布。
[5]前記熱融着性複合繊維の繊維長が20~102mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の不織布。
[6]熱融着性複合繊維を含有するウェブを形成する工程、過熱水蒸気ガスを用いて非圧下で前記熱融着性複合繊維の交点を熱融着させる工程、を含む、不織布の製造方法。
[7]前記ウェブを形成する工程が、カード法またはエアレイド法である、[6]に記載の不織布の製造方法。
[8]前記熱融着性複合繊維を熱融着させる工程の後に、さらに熱処理する工程を含む、[6]または[7]に記載の不織布の製造方法。
[9][1]~[5]のいずれかに記載の不織布を用いた吸収性物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度の不織布を提供することが可能となる。また、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度の不織布を高い生産性で製造することが可能となる。さらに、このような不織布は、嵩高で、柔軟性に優れ、毛羽や破損が生じないことに加え、高粘性液体の通液性の改善が期待され、例えば、おむつなどの吸収性物品用の表面材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施例による不織布断面の光学顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例による不織布表層のレーザー顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、本発明の比較例による不織布断面の光学顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、本発明の比較例による不織布表層のレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の不織布は、熱融着性複合繊維の交点が熱融着されており、不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2であり、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であり、単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上であることを特徴としている。
【0013】
(熱融着性複合繊維)
本発明の不織布に用いられる熱融着性複合繊維としては、熱によって溶融し融着点を形成できるものであれば特に限定されず、同心鞘芯型熱融着性複合繊維、偏心鞘芯型熱融着性複合繊維、または並列型熱融着性複合繊維を例示できる。また、熱融着性複合繊維の断面形状としては、特に限定されず、円や楕円などの丸型、三角や四角などの角型、星型や八葉型などの異型、または分割や中空などのいずれも使用することができる。
【0014】
熱融着性複合繊維を構成する熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、または高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン系樹脂、結晶性ポリプロピレン(PP)、またはプロピレンを主成分とするプロピレンとエチレンまたはαオレフィンとの共重合体(Co-PP)などのポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、またはポリエステル共重合体(Co-PET)などのポリエステル系樹脂を例示できる。熱融着性複合繊維を構成する熱可塑性樹脂の組み合わせとしては、特に限定されないが、融点差が10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。具体的な熱可塑性樹脂の高融点成分/低融点成分の組み合わせとしては、PP/HDPE、PP/Co-PP、PET/HDPE、PET/LLDPE、PET/Co-PET、PET/PPを例示できるが、嵩高性、原料コスト、生産安定性などの観点から、PP/HDPEまたはPET/HDPEの組み合わせであることが好ましく、PET/HDPEの組み合わせであることがより好ましい。また、熱融着性複合繊維の熱融着性の観点から、複合繊維の表面に低融成分が50%以上占めていることが好ましく、70%以上占めていることがより好ましい。また、低融点成分と高融点成分の体積比としては、特に限定されないが、20/80~80/20であることが好ましく、30/70~70/30であることがより好ましい。低融点の熱可塑性樹脂が20体積%以上であれば、熱融着性複合繊維の融着点強度が向上し、高強度の不織布が得られるため好ましく、80体積%以下であれば、嵩高で柔軟な不織布が得られるため好ましい。
【0015】
熱融着性複合繊維を構成する熱可塑性樹脂は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、または可塑剤などの添加剤を含有してもよい。
【0016】
本発明の不織布に用いられる熱融着性複合繊維の繊度は、特に限定されないが、0.8~20dtexが好ましく、0.9~10dtexがより好ましく、1.0~6.0dtexがさらに好ましい。特に紙おむつなど吸収性物品の表面材に用いる場合、熱融着性複合繊維をより低い繊度とすることで、不織布の柔軟性が良好となる。さらに、繊度が低いとスムース性が向上することから、肌との摩擦が低減し、かぶれが低減する。一般に、低い繊度の熱融着性複合繊維を含有する不織布は、繊維構成本数が増えるため熱風が通りにくくなり、その結果、不織布全体に風圧がかかり、嵩が低下するが、本発明の不織布は、繊維の熱融着に、熱風ではなく過熱水蒸気ガスを用いるため、圧を掛けずにウェブの隅々まで熱融着できることから、嵩高、高強度に加え、肌触りに優れる不織布が得られる。
【0017】
本発明の不織布に用いられる熱融着性複合繊維の繊維長としては、特に限定されないが、20~102mmであることが好ましく、30~51mmであることがより好ましい。繊維長が20~102mmであれば、カード法などによるウェブ形成工程において、開繊性や地合いに優れたウェブを形成することが容易となり、均一な物性を有する不織布が得られるため好ましい。
【0018】
本発明の不織布は、熱融着性複合繊維以外に、天然繊維(木質繊維など)、再生繊維(レーヨンなど)、半合成繊維(アセテートなど)や化学繊維、合成繊維(ポリエステル、アクリル、ナイロン、塩化ビニルなど)などのいわゆる熱融着性複合繊維ではない繊維(以下、「非熱融着性繊維」と言う)を含んでもよい。「非熱融着性繊維」とは、不織布を製造する際に行われる熱融着工程において、熱融着に関与するような熱的変化(溶融または軟化)を生じない繊維を言う。非熱融着性繊維が含まれる場合、不織布の全重量に対する非熱融着性繊維の割合は、本発明の効果を阻害しない限り制限されないが、例えば、1~30重量%とすることができ、好ましくは3~15重量%である。非熱融着性繊維の割合が1重量%以上であれば使用に見合う効果が得られ、30重量%以下であれば高い強度の不織布を得ることができる。
また、熱融着性複合繊維や非熱融着性繊維は、その表面が各種の繊維処理剤が付与されていてもよく、これによって親水性、耐久親水性、撥水性、制電性、表面平滑性、耐摩耗性などの機能を付与されていてもよい。
【0019】
(不織布)
本発明の不織布は、熱融着性複合繊維の交点が熱融着されており、不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2であり、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であり、単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上であることを特徴とする。従来のように、熱風を吹き付けることによって熱融着性複合繊維の交点を熱融着させる方法では、使用する繊維や製造方法によっては、不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2や単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上を満たすことは可能であったが、そのような不織布は、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4を超えるものになり、満足できる柔軟性が得られなかった。また、熱風をできる限り低速にした方法では、不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2や高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下を満たすことは可能であったが、単位目付あたりの強度が0.40N/50mm未満となり、強度が低く、手羽立ちや破損が生じるものであった。また、熱ロールなどで圧密処理する方法では、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下や単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上を満たすことが可能であったが、繊維密度が20本/mm2を超えるものとなり、満足できる嵩高性が得られなかった。これに対して、本発明は、過熱水蒸気ガスを用いて非圧下で熱融着性複合繊維を熱融着させることによって、不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2であり、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であり、単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上である不織布が得られることを見出したものである。
【0020】
ここで、本明細書における「表層」について説明する。本明細書において、「表層」とは、不織布表面から、厚み方向に中心へ向かって不織布全体の厚みの20%に相当する領域を意味する。そして、不織布両面の表層の繊維密度を測定し、繊維密度が高い側の表層を「高密度側表層」、繊維密度が低い側の表層を「低密度側表層」という。
【0021】
次に、本明細書における「繊維密度」について説明する。本明細書において、「繊維密度」とは、不織布の断面における単位面積あたりの繊維本数で表され、単位は、例えば、本/mm2とすることができる。繊維密度の測定方法は、実施例において、レーザー顕微鏡を用いる方法を詳しく説明するが、実施例で採用された方法以外にも、反射型光学顕微鏡を用いた方法や走査型電子顕微鏡を用いた方法など、不織布の断面における一定面積の中に存在する繊維の本数を把握することによって繊維密度を算出できる方法であれば、特に限定されるものではない。
【0022】
本発明の不織布の高密度側表層の繊維密度は、嵩高な不織布を得るためには、5~20本/mm2であることが重要である。高密度側表層の繊維密度が5本/mm2以上であれば、繊維同士の接触本数が十分となり、高強度の不織布を得ることができる。一方、20本/mm2以下であれば、繊維が密になり過ぎず、十分な嵩高性を得ることができる。かかる観点から、高密度側表層の繊維密度としては、6~18本/mm2であることが好ましく、8~16本/mm2であることがより好ましい。また、低密度側表層の繊維密度としては、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下を満たせばよく、すなわち、3.6~20本/mm2であればよい。
【0023】
本発明の不織布における高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比は、柔軟性に優れた不織布を得るためには、1.4以下であることが重要である。高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であれば、高密度側表層の繊維密度が大きくなり過ぎず、柔軟性の低下を抑制することができる。かかる観点から、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比は、1.3以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。なお、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比の下限値は1.0であり、1.0に近づくほど、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度が等しい状態、すなわち本発明における理想的な状態に近づくことを意味している。
【0024】
本発明の不織布の単位目付あたりの強度は、毛羽立ちや破損が生じない高強度の不織布を得るためには、0.40N/50mm以上であることが重要であり、0.50N/50mm以上であることが好ましく、0.60N/50mm以上であることがより好ましい。単位目付あたりの強度の上限としては、特に限定されないが、不織布の嵩高さとの兼ね合いから、現実的に3N/50mm以下である。
【0025】
本発明の不織布の比容積としては、特に限定されないが、100cm3/g以上であることが好ましく、110cm3/g以上であることがより好ましく、120cm3/g以上であることがさらに好ましい。比容積が100cm3/g以上であれば、不織布の嵩高さが満足できるものとなる。比容積の上限としては、特に限定されないが、不織布の強度との兼ね合いから、現実的に300cm3/g以下である。
【0026】
不織布の目付としては、特に限定されないが、10~100g/m2であることが好ましく、15~70g/m2であることがより好ましい。特に、おむつなどの吸収性物品の表面材として用いる場合、15~40g/m2であることが好ましい。目付が15g/m2以上であれば、尿、軟便、経血などの液戻りを抑制できるため好ましく、40g/m2以下であれば、通気性が良好となるため好ましい。
【0027】
本発明の不織布の圧縮仕事量としては、特に限定されないが、圧縮最大荷重4gf/cm2において0.20gf・cm/cm2以上であることが好ましく、0.20~0.50gf・cm/cm2であることがより好ましい。圧縮仕事量は、不織布の柔軟性の尺度となるものであり、圧縮仕事量が大きいほど柔軟性に優れると評価できる。圧縮仕事量が0.20gf・cm/cm2以上であれば、満足できる柔軟性が得られ、おむつなどの吸収性物品の表面材として用いることで、装着感の優れる吸収性物品を得ることが可能となる。
【0028】
本発明の不織布は、一種類の(単層の)不織布からなっていてもよいし、繊度、組成、または密度などが異なる2種類以上の不織布が積層されていてもよい。2種類以上の不織布が積層されてなる場合、例えば、繊度の異なる不織布を積層することによって、繊維間に形成される隙間の大きさが不織布の厚み方向に変化する不織布とし、通液性や通液速度、表層の風合いなどをコントロールすることができる。また、例えば、組成の異なる不織布を積層することによって、不織布の親水性および疎水性が不織布の厚み方向に変化する不織布とし、通液性や通液速度をコントロールすることができる。
【0029】
また、本発明の不織布は、特に限定されないが、スルーエアー不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、フィルム、メッシュ、またはネットなどの他の方法により得られた不織布やフィルム、シートと積層一体化されていてもよい。積層一体化させることで、通液性や通液速度、液戻り性などをコントロールすることができる。積層一体化させる方法としては、特に限定されないが、ホットメルトなどの接着剤により積層一体化する方法、スルーエアーや熱エンボスなどの熱接着により積層一体化する方法を例示できる。
【0030】
不織布は、本発明の効果を損なわない範囲で、制電加工、撥水加工、親水加工、抗菌加工、紫外線吸収加工、近赤外線吸収加工、またはエレクトレット加工などを目的に応じて施されていてもよい。
【0031】
(不織布の製造方法)
本発明の不織布の製造方法は、熱融着性複合繊維を含有するウェブを形成する工程(以下、ウェブ形成工程と言う場合がある。)と、過熱水蒸気ガスを用いて非圧下で熱融着性複合繊維の交点を熱融着させる工程(以下、熱融着工程という場合がある)、とを含む。この方法によれば、ウェブの形状を維持して、すなわち厚み方向の粗密の少ない状態で繊維の交点を熱融着することができ、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度の不織布を得ることが可能となる。従来から用いられてきた熱風を用いて吹き付けることで熱融着性複合繊維の交点を熱融着させる工程では、熱風を低風速にしてしまうと繊維同士の熱融着が不十分となり強度の低い不織布にならざるを得なかった。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明に用いる過熱水蒸気ガスは熱風と比べて熱容量が大きいために、非圧下であっても、ウェブの隅々にまで十分に熱を伝え、強固な熱融着点を形成することができ、これによって、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度の不織布を高い生産性で製造できると考えられる。
【0032】
熱融着性複合繊維を含有するウェブとしては、特に限定されないが、スパンボンド法、メルトブローン法、またはトウ開繊法などにより形成された長繊維ウェブであっても、短繊維(ステープルやチョップ)を用いて、カード法、エアレイド法または湿式法などにより形成された短繊維ウェブであってもよい。中でも、嵩高性や柔軟性を向上させる観点から、カード法またはエアレイド法により形成されたウェブであることが好ましく、カード法により形成されたウェブであることがより好ましい。なお、本発明に置おいて、「ウェブ」とは、繊維が少なからず絡んだ状態の繊維集合体を言い、熱融着性複合繊維の交点は融着していない状態を意味する。
【0033】
次いで、ウェブ形成工程で得られたウェブを、過熱水蒸気ガスを用いて非圧下で熱融着性繊維の交点を熱融着させる。例えば、搬送コンベアなどでウェブを過熱水蒸気ガスが充填された炉内に導入し、連続的に不織布を得る方法を例示できる。ここで「非圧下」とは、実質的にウェブに圧力がかからない状態のことを言い、ウェブの厚みに対して不織布の厚みが80%以上であれば、「非圧下」と判断できる。
【0034】
過熱水蒸気ガスの温度としては、特に限定されないが、熱融着性複合繊維を構成する低融点の熱可塑性樹脂の融点または軟化点の+0~30℃を例示できる。また、過熱水蒸気ガスの吹き付け風速としては、非圧下となる範囲であれば特に限定されないが、0.1m/min未満であることが好ましい。また、過熱水蒸気ガスの吹き付け圧力としては、非圧下となる範囲であれば特に限定されないが、0.1kPa未満であることが好ましい。
【0035】
熱融着工程の処理時間としては、特に限定されないが、60秒以下であることが好ましく、30秒以下であることがより好ましい。処理時間が60秒以下であれば、満足できる生産性で不織布を製造することが可能となる。
【0036】
本発明の不織布の製造方法は、不織布の毛羽立ちを抑制する目的で、熱融着工程の後に、さらに熱処理を施してもよい。熱処理方法としては、特に限定されず、不織布に循環熱風を付与するスルーエアー処理、不織布を浮かせながら上下から熱風を付与するフローティングドライヤー処理を例示できる。本発明の不織布は、過熱水蒸気ガスにて、ウェブの形状に近い状態で繊維交点が熱融着されているため、その後の工程で、熱風などによる熱処理を行ったとしても、不織布の嵩を損なうことなく、毛羽立ちをさらに抑制することができる。
【0037】
本発明の不織布は、例えば、おむつ、ナプキン、または失禁パットなどの吸収性物品、マスク、ガウン、または術衣などの衛生材、壁用シート、障子紙、または床材などの室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、または生ごみ用カバーなどの生活関連材、使い捨てトイレまたはトイレ用カバーなどのトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、またはペット用タオルなどのペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、またはインクタンク用吸着剤などの産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など、嵩高で、かつ高強度が要求される様々な繊維製品への用途に利用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の不織布の性能の評価は以下の方法で行った。
<熱融着性複合繊維の繊度>
JIS L 1015に準拠し、熱融着性複合繊維の繊度を測定した。
<高密度側および低密度側表層の繊維密度>
キーエンス社製のレーザー顕微鏡(VK-X210)を用い、不織布両面の表層(不織布の表面から、厚み方向に中心へ向かって不織布全体の厚みの20%の深さまで)をスキャンし、視野が1mm×1.4mmの不織布両表層の画像を得た。得られた画像において、不織布の幅方向(CD方向)に平行な線を引き、その線と繊維とが交差する数を計測することで、繊維本数を求めた。また、上記CD方向に平行な線の長さと、レーザー顕微鏡で厚み方向にスキャンした長さ(不織布厚みの20%の長さ)の積をCD方向の断面積とした。そして、得られた繊維本数をCD方向の断面積で除し、この値の合計9点の平均値をCD方向の繊維密度(本/mm2)とした。同様に、不織布の流れ方向(MD方向)に平行な線と繊維とが交差する繊維本数をMD方向の断面積で除し、この値の合計9点の平均値をMD方向の繊維密度(本/mm2)とした。得られたCDおよびMD方向の繊維密度の平均値を表層の繊維密度(本/mm2)とした。不織布両面の表層に対して上記の測定を行い、表層の繊維密度の値が大きい方を高密度側表層の繊維密度(本/mm2)、小さい方を低密度側表層の繊維密度(本/mm2)とした。
<高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比>
上記方法にて得られた高密度表層側の繊維密度と低密度表層側の繊維密度の値を用いて、以下の式により、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比を算出した。
高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比=高密度表層側の繊維密度(本/mm2)÷低密度表層側の繊維密度(本/mm2)
<不織布の目付>
100mm×100mmに切り出した不織布重量を測定し、単位面積あたりに換算した値を不織布の目付(g/m2)とした。
<不織布の厚み>
東洋精機製のデジシックネステスターを用い、直径35mmの圧力子(荷重)によって、3.5g/cm2の圧力を掛けた時の厚みを4箇所測定し、その平均値を不織布の厚み(mm)とした。
<不織布の比容積>
不織布の目付(g/m2)及び厚み(mm)から、以下の式により、不織布の比容積を算出した。
比容積(cm3/g)=厚み(mm)÷目付(g/m2)×1000
<不織布の単位目付あたりの強度>
50mm×150mmの大きさで、MD方向に長く切り出したサンプルを、島津製作所製のオートグラフ(AGX-J)を用い、チャック間距離100mm、引張速度100mm/minで引っ張った時の最大強力を不織布の強度とし、これを不織布の目付(g/m2)で除した値を、不織布の単位目付あたりの強度とした。
<不織布の圧縮仕事量>
カトーテック製のハンディー圧縮機(KES-G5)を用い、以下の通りに圧縮仕事率を測定した。まず、試料台に不織布を置き、面積2cm2の加圧子を試料上方から、速度1.0cm/秒、最大圧縮荷重4gf/cm2の条件で試料に押し込み圧縮した。測定データをもとに数値処理により圧縮仕事量を算出した。
<耐毛羽立ち性の評価>
不織布の表面の毛羽立ち性を以下のように官能評価した。
◎:チクチク感、ザラザラ感を全く感じない。
○:チクチク感、ザラザラ感を少し感じるが気にならない。
×:チクチク感、ザラザラ感を感じる。
<吸収性評価>
吸収性評価は、以下の組成の人工経血液(粘度16cP)を用い、初期通液時間および繰り返し通液時間により行った。
人工経血液の組成:
(1) イオン交換水;874.7重量部
(2) 塩化ナトリウム;10.0重量部
(3) 炭酸ナトリウム;10.7重量部
(4) グリセリン;100.0重量部
(5) カルボキシメチルセルロース;4.6重量部
<初期通液時間および繰り返し通液時間の評価>
90mm×90mmの吸収体(日本製紙クレシア製キムタオル(商品面)を2枚重ねたもの)上に、100mm×100mmに切り出した不織布を載せる。次いで、不織布上に通液板(重さ450g、70mm×70mm×12mmの中央部に27mmの開口を有するSUS板)を載せ、開口中央部の高さ12mm上から人工経血液3mLを滴下し、不織布表面から人工経血液がなくなるまでの時間(通液時間)を測定し(1回目)、初期通液時間とした。
1回目の通液測定終了から3分間静置し、再度、同様の手順で通液時間を測定し(2回目)、その通液時間を繰り返し通液時間とした。
【0040】
[実施例1]
熱融着性複合繊維として、芯にポリエチレンテレフタレート(融点250℃)、鞘に高密度ポリエチレン(融点130℃)を体積比50/50で配した、繊度1.7dtex、繊維長51mmの親水性の繊維処理剤が付与された同心鞘芯型の熱融着性複合繊維を用いた。
次いで、カード法により熱融着性複合繊維からなる厚み3.9mmのウェブを作製し、140℃の過熱水蒸気ガスが充填された炉内に10秒間導入することで不織布を得た。過熱水蒸気ガスの風速は0.1m/min未満であった。
得られた不織布の物性を表2に示す。また、得られた不織布断面の光学電子顕微鏡写真を
図1に、不織布の高密度側表層および低密度側表層のレーザー顕微鏡写真を
図2に示す。
【0041】
<実施例2>
熱融着性複合繊維として、芯にポリエチレンテレフタレート(融点250℃)、鞘に高密度ポリエチレン(融点130℃)を体積比70/30で配した、繊度3.3dtex、繊維長51mmの親水性の繊維処理剤が付与された同心鞘芯型の熱融着性複合繊維を用いた。
次いで、カード法により熱融着性複合繊維からなる厚み4.8mmのウェブを作製し、140℃の過熱水蒸気ガスが充填された炉内に10秒間導入することで不織布を得た。過熱水蒸気ガスの風速は0.1m/min未満であった。得られた不織布不織布の物性を表2に示す。
【0042】
<実施例3>
実施例2で得られた不織布を、さらに熱風循環式ドライヤーにて、140℃、1.0m/sの循環風速の熱風で熱処理することで不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0043】
<比較例1>
実施例1と同様にして得られたウェブを、熱風循環式ドライヤーにて130℃、1.0m/sの循環風速の熱風で10秒間処理することで不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。また、得られた不織布断面の光学電子顕微鏡写真を
図3に、不織布の高密度側表層および低密度側表層のレーザー顕微鏡写真を
図4に示す。
【0044】
<比較例2>
実施例1と同様にして得られたウェブを、熱風循環式ドライヤーにて145℃で5分間処理することで不織布を得た。熱風の風速は0.1m/min未満であった。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0045】
<比較例3>
実施例2と同様にして得られたウェブを、熱風循環式ドライヤーにて130℃、1.0m/sの循環風速の熱風で10秒間処理することで不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0046】
不織布の製造条件を表1にまとめる。
【0047】
【0048】
【0049】
従来の循環熱風処理(比較例1および3)では、熱融着工程で熱風の吹き付けによる圧力がかかる(ウェブに対する不織布の厚みが80%未満)ため、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が大きくなり、強度は高いものの、嵩高性と柔軟性が損なわれ、人工経血液の通液性も低くなる結果となった。また、熱風の風速を極力低速にした比較例2では、非圧下(ウェブに対する不織布の厚みが80%以上)であるため、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が小さく、嵩高性や通液性に優れるものであったが、強度が低く、毛羽立ちが発生するものであった。また、熱融着工程の処理時間が長く、満足できる生産性は得られなかった。本発明に係る実施例1~3は、非圧下で過熱水蒸気ガスを用いているため、高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が小さく、嵩高であり、柔軟性に優れ、十分な強度を有し、人工経血液などの高粘度液体の通液性に優れる不織布が得られた。さらに、熱融着工程の処理時間が短く、満足できる生産性が得られた。また、非圧下で過熱水蒸気ガスを用いて熱融着処理して得られた不織布を、さらに循環熱風により熱処理した実施例3は、耐毛羽立ち性に非常に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の不織布は、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度を兼ね備えるため、使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品の表面材に好適に使用することができる。また、マスク、ガウン、または術衣などの医療用資材、壁用シート、障子紙、または床材などの室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、または生ごみ用カバーなどの生活関連材、使い捨てトイレまたはトイレ用カバーなどのトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、またはペット用タオルなどのペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、またはインクタンク用吸着剤などの産業資材、被覆材、ハップ材、寝装材、介護用品など、嵩高、柔軟性、高強度が要求される様々な繊維製品への用途に利用することができる。
また本発明の製造方法によれば、嵩高で、柔軟性に優れ、高強度を兼ね備える不織布を高い生産性で製造することができる。
【要約】
嵩高で、柔軟性に優れ、高強度の不織布を提供することを課題とする。熱融着性複合繊維の交点が熱融着されている不織布であって、前記不織布の高密度側表層の繊維密度が5~20本/mm2であり、前記不織布における高密度側表層の繊維密度と低密度側表層の繊維密度との比が1.4以下であり、前記不織布の単位目付あたりの強度が0.40N/50mm以上である、不織布。