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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】新規T細胞受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220830BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20220830BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220830BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220830BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220830BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20220830BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/725
C12N5/10
C12N15/867 Z
A61P43/00 105
A61P35/00
A61K48/00
A61K35/17 Z
C07K7/06
C07K7/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018566153
(86)(22)【出願日】2018-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2018003799
(87)【国際公開番号】W WO2018143454
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017019883
(32)【優先日】2017-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(72)【発明者】
【氏名】中面 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 聡明
(72)【発明者】
【氏名】植村 靖史
(72)【発明者】
【氏名】福田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】南川 淳隆
(72)【発明者】
【氏名】葛西 義明
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳志
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/173112(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/092787(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010148(WO,A1)
【文献】Dargel et al.,Gastroenterology,2015年10月,Vol. 149,p. 1042-1052
【文献】Toshiaki Yoshikawa et al.,Cancer Sci.,2011年05月,vol. 102, no. 5,p. 918-925
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号29で示されるアミノ酸配列、
配列番号29で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号29で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、
β鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号31で示されるアミノ酸配列、
配列番号31で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号31で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と
を含むT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRは配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体と結合しうる、かつ、前記TCRを発現するHLA-A24ポジティブなCTLは、GPC3298-306ペプチドをパルスし、カルセインAMで標識をしたHLA-A*24:02強制発現T2細胞(HLA-A*02:01/A*24:02陽性, TAP陰性)に対する認識効率が
少なくとも約10-9MであるTCR、
又は
α鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号30で示されるアミノ酸配列、
配列番号30で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号30で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、
β鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号32で示されるアミノ酸配列、
配列番号32で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号32で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列とを含むT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRは配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体と結合しうる、かつ、前記TCRを発現するHLA-A24ポジティブなCTLは、GPC3298-306ペプチドをパルスし、カルセインAMで標識をしたHLA-A*24:02強制発現T2細胞(HLA-A*02:01/A*24:02陽性, TAP陰性)に対する認識効率が少なくとも約5×10-9MであるTCR。
【請求項2】
前記TCRは、
α鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号29で示されるアミノ酸配列と、
β鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号31で示されるアミノ酸配列と
を含むT細胞受容体(TCR)
又は
α鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号30で示されるアミノ酸配列と、
β鎖の全長のアミノ酸配列として、
配列番号32で示されるアミノ酸配列と
を含むT細胞受容体(TCR)である、
請求項1に記載のT細胞受容体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のT細胞受容体をコードする、核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項3に記載の核酸又は請求項4に記載のベクターを含む細胞。
【請求項6】
前記細胞がリンパ球又は多能性幹細胞である、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
前記細胞が細胞傷害性T細胞である、請求項5に記載の細胞。
【請求項8】
請求項3に記載の核酸又は請求項4に記載のベクターを細胞に導入する工程を含む、請求項5に記載の細胞を製造する方法。
【請求項9】
請求項3に記載の核酸又は請求項4に記載のベクターを含む多能性幹細胞から誘導されたT細胞。
【請求項10】
以下の工程を含む、T細胞の製造方法。
(1)請求項3に記載の核酸又は請求項4に記載のベクターを含む多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程、及び
(2)該造血前駆細胞をT細胞に分化させる工程、及び任意選択で
(3)該T細胞を増殖させる工程
【請求項11】
前記T細胞が細胞傷害性T細胞、特にCD8陽性細胞傷害性T細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項5~7及び9のいずれか1項に記載の細胞を含有してなる医薬。
【請求項13】
癌の予防又は治療に使用するための、請求項12に記載の医薬。
【請求項14】
請求項5~7及び9のいずれか1項に記載の細胞を含有してなる、グリピカン3を発現する細胞の殺傷剤。
【請求項15】
ヒトを除く哺乳動物に対し、請求項5~7及び9のいずれか1項に記載の細胞の有効量を投与することを特徴とする、該ヒトを除く哺乳動物における癌の予防又は治療方法。
【請求項16】
癌の予防又は治療に使用するための、請求項5~7及び9のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項17】
癌の予防剤又は治療剤を製造するための、請求項5~7及び9のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリピカン3特異的な新規T細胞受容体に関する。
【0002】
(発明の背景)
原発性肝癌は、主として肝細胞癌(HCC)であり、わが国で5番目に多くみられる癌であるが、予後が非常に悪く、死亡率が非常に高い。この予後不良の主な要因の1つとして、進行性HCCに対する治療の選択肢が限定されていることが挙げられる。進行性HCCの患者は、局所切除や多種キナーゼ阻害剤のソラフェニブの投与などの対症療法のみが可能であり、特に高齢者に対しては、ソラフェニブの奏効率は低く、副作用の発生率が高い。従って、副作用のリスクを最小限にし、進行性HCC患者の生存率を向上させる新たな治療法の開発が求められている。
【0003】
免疫療法は、HCCに対する有力な治療法の1つであると考えられている。例えば、グリピカン3(Glypican-3)(GPC3)は、HCCにおいて特に過剰発現しており、予後不良とも関連するため、HCCに対する癌免疫療法の理想的な標的である。そして、HCCに対する免疫治療法として、GPC3特異的な抗体や、GPC3を標的とするヒトキメラ抗原受容体(CAR)を用いた治療法が報告されている(特許文献1)。また、HLA-A02-拘束性GPC3367-375ペプチドに特異的なT細胞受容体(TCR)についても報告されている(特許文献2)。
【0004】
TCRとは、T細胞が抗原を認識する際に使用する受容体であり、TCRはα鎖とβ鎖、あるいはγ鎖とδ鎖の二量体から構成される。TCRはT細胞表面上でCD3分子群と複合体を形成し、抗原を認識してT細胞へ刺激シグナルを伝達する。それぞれのTCR鎖は可変領域と定常領域を有し、定常領域は細胞膜を貫通する短い細胞質部分を持ち、可変領域は細胞外に存在して、抗原-HLA(MHC)複合体と結合する。可変領域には、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる領域が3つ存在し、この領域が抗原-HLA(MHC)複合体と結合する。3つのCDRはそれぞれCDR1、CDR2、CDR3と呼ばれている。
【0005】
本発明者らは、様々なGPC3144-152ペプチド特異的なTCRを発現する細胞傷害性T細胞(CTL)クローンを、HLA-A02拘束性GPC3144-152ペプチドをワクチン接種した患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)から樹立した(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1には、これらのCTLクローンのTCR配列については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/070468号
【文献】国際公開第2015/173112号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yoshikawa T., et al., Cancer Sci 2011 (102): 918-925
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グリピカン3(GPC3)を特異的に認識する新規のT細胞受容体(TCR)を提供することを課題とする。また、前記TCRを用いた(例えば、前記TCRを含む細胞傷害性T細胞を用いた)、GPC3を発現する癌や腫瘍の予防又は治療のための医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、GPC3ペプチド(HLA-A24-拘束性GPC3298-306ペプチド又はHLA-A02-拘束性GPC3144-152ペプチド)を接種した患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)からCTLクローンを樹立し、その中から、特定のCTLクローンのTCR配列を解読した。そのTCR配列を基に、鋭意研究した結果、これらのTCRがGPC3発現癌細胞に対して応答性を有すること、TCRの定常領域に所定の改変を施したTCRを細胞に遺伝子導入することで機能型TCRを効率的に発現できることなどを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下を提供する。
[1]
α鎖の相補性決定領域として、
配列番号1で示されるアミノ酸配列、
配列番号2で示されるアミノ酸配列、及び
配列番号3で示されるアミノ酸配列、
又は
配列番号4で示されるアミノ酸配列、
配列番号5で示されるアミノ酸配列、及び
配列番号6で示されるアミノ酸配列、
を含み、
β鎖の相補性決定領域として、
配列番号7で示されるアミノ酸配列、
配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び
配列番号9で示されるアミノ酸配列
又は
配列番号10で示されるアミノ酸配列、
配列番号11で示されるアミノ酸配列、及び
配列番号12で示されるアミノ酸配列
を含むT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRは配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体と結合しうる、TCR。
[2]
α鎖の相補性決定領域として、
配列番号13で示されるアミノ酸配列、
配列番号14で示されるアミノ酸配列、及び
配列番号15で示されるアミノ酸配列
を含み、
β鎖の相補性決定領域として、
配列番号16で示されるアミノ酸配列、
配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び
配列番号18で示されるアミノ酸配列
を含むT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRは配列番号28で示されるアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体と結合しうる、TCR。
[3]
α鎖の可変領域として、
配列番号19で示されるアミノ酸配列、
配列番号19で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号19で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
又は
配列番号20で示されるアミノ酸配列、
配列番号20で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号20で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含み、
β鎖の可変領域として、
配列番号21で示されるアミノ酸配列、
配列番号21で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
又は
配列番号22で示されるアミノ酸配列、
配列番号22で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、若しくは
配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含むT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRは配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体と結合しうる、TCR。
[4]
α鎖の可変領域として、
配列番号23で示されるアミノ酸配列、
配列番号23で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含み、
β鎖の可変領域として、
配列番号24で示されるアミノ酸配列、
配列番号24で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含むT細胞受容体(TCR)であって、前記TCRは配列番号28で示されるアミノ酸配列を有するペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体と結合しうる、TCR。
[5]
α鎖の定常領域として、
配列番号25で示されるアミノ酸配列、
配列番号25で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
配列番号25で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
をさらに含み、
β鎖の定常領域として、
配列番号26で示されるアミノ酸配列、
配列番号26で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載のT細胞受容体。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のT細胞受容体をコードする、核酸。
[7] [6]に記載の核酸を含む発現ベクター。
[8] [6]に記載の核酸又は[7]に記載のベクターを含む細胞。
[9] 前記細胞がリンパ球又は多能性幹細胞である、[8]に記載の細胞。
[10] 前記細胞が細胞傷害性T細胞である、[8]に記載の細胞。
[10-1] [1]~[5]のいずれかに記載のT細胞受容体をコードする外因性の核酸を含む細胞。
[10-2] [1]~[5]のいずれかに記載のT細胞受容体をコードする外因性の核酸を含む多能性幹細胞。
[10-3] [1]~[5]のいずれかに記載のT細胞受容体をコードする外因性の核酸を含む造血前駆細胞。
[10-4] [1]~[5]のいずれかに記載のT細胞受容体をコードする外因性の核酸を含むT細胞。
[11] [6]に記載の核酸又は[7]に記載のベクターを細胞に導入する工程を含む、[8]に記載の細胞を製造する方法。
[12] [6]に記載の核酸又は[7]に記載のベクターを含む多能性幹細胞から誘導されたT細胞。
[13]
以下の工程を含む、T細胞の製造方法。
(1)[6]に記載の核酸又は[7]に記載のベクターを含む多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程、及び
(2)該造血前駆細胞をT細胞に分化させる工程、及び任意選択で
(3)該T細胞を増殖させる工程
[14] 前記T細胞が細胞傷害性T細胞、特にCD8陽性細胞傷害性T細胞である、[13]に記載の方法。
[15] [8]~[10]及び[12]のいずれかに記載の細胞を含有してなる医薬。
[16] 癌の予防又は治療に使用するための、[15]に記載の医薬。
[17] [8]~[10]及び[12]のいずれかに記載の細胞を含有してなる、グリピカン3を発現する細胞の殺傷剤。
[18] 哺乳動物に対し、[8]~[10]及び[12]のいずれかに記載の細胞の有効量を投与することを特徴とする、該哺乳動物における癌の予防又は治療方法。
[19] 癌の予防又は治療に使用するための、[8]~[10]及び[12]のいずれかに記載の細胞。
[20] 癌の予防剤又は治療剤を製造するための、[8]~[10]及び[12]のいずれかに記載の細胞の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明のT細胞受容体は、GPC3ペプチド(HLA-A24-拘束性GPC3298-306ペプチド若しくはHLA-A02-拘束性GPC3144-152ペプチド)又は該ペプチドとHLA-A分子(HLA-A24又はHLA-A02)との複合体に対する結合能を有する。また、前記T細胞受容体をコードする核酸は、HLA-A分子とGPC3ペプチドを提示する細胞に対する細胞傷害活性をT細胞に付与し得ることから、GPC3を発現する癌や腫瘍の予防又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、抗原特異的CTL反応を測定するための、インターフェロン-γに対するELISPOTアッセイの結果を示す。
図2図2は、GPC3ペプチドとHLA-A分子との複合体に対する各CTLクローンの認識効率を測定するための、ペプチドタイトレーションアッセイの結果を示す。
図3図3は、本発明のTCRを導入した形質転換PBMCのデキストラマー染色及びフローサイトメトリーの結果を示す。
図4図4は、TCR1-1’遺伝子を導入したFf-l01s04細胞、もしくは遺伝子導入していないFf-I01s04細胞をを由来とする、分化T細胞におけるT細胞マーカーの発現を示す。図中、上段(A,BおよびC)は遺伝子導入していないFf-I01s04細胞を由来とする分化T細胞のT細胞マーカーの発現を、下段(D,EおよびF)は遺伝子を導入したFf-l01s04細胞、もしくは遺伝子導入していないFf-I01s04細胞を由来とする分化T細胞のマーカーの発現を示す。
図5図5は、GPC3抗原ペプチドを添加した、もしくは添加していない、HLA-A24陽性またはHLA-A24陰性のリンパ芽球細胞系(LCL)に、対する、TCR1-1’を発現するiPS細胞由来T細胞の細胞傷害活性試験の結果を示す。
図6図6は、GPC3陽性HLA-A*24:01陽性のヒト肝臓癌細胞株に対する、TCR1-1’を発現するiPS細胞由来T細胞の細胞傷害活性試験の結果を示す。
【0013】
(発明の詳細な説明)
1.T細胞受容体
本発明は、GPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合しうるT細胞受容体(T細胞レセプター又はTCRとも呼ばれる)(以下「本発明のTCR1」と略記する。)を提供する。また、本発明は、GPC3144-152ペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体に結合しうるT細胞受容体(以下「本発明のTCR2」と略記する)を提供する。以下では、「本発明のTCR1」と「本発明のTCR2」をまとめて、「本発明のTCR」と略記する場合がある。本発明のTCRは、単離されたものでもよい。
【0014】
本発明において、「T細胞受容体(TCR)」とは、TCR鎖(α鎖、β鎖)のダイマーから構成され、抗原又は該抗原-HLA(ヒト白血球型抗原)(MHC;主要組織適合遺伝子複合体)複合体を認識してT細胞へ刺激シグナルを伝達する受容体を意味する。それぞれのTCR鎖は可変領域と定常領域から構成され、可変領域には、3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、CDR3)が存在する。また、本発明のTCRには、TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを構成しているものだけでなく、ホモダイマーを構成しているものも包含される。さらに、本発明のTCRには、定常領域の一部若しくは全部を欠損したものや、アミノ酸配列を組み換えたもの、可溶性TCR(soluble TCR)としたものなども包含される。
【0015】
本発明において、「可溶性TCR」とは、TCRの化学的修飾、Fc受容体との結合又は細胞膜貫通ドメインの除去等により、可溶化したTCRを意味し、可溶性とは、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(KCl 2.7mM、KH2PO4 1.5mM、NaCl 137mM及びNa2PO4 8 mM、pH 7.1~7.5)中で単分散へテロ二量体として存在し、かつそのTCRの90%以上が、25℃、1時間のインキュベーションの後に単分散へテロ二量体として残存できる性質を意味する。可溶性TCRは、安定性を高めるために各鎖の定常領域間に、新たに人工的にジスルフィド結合を導入してもよい。このような可溶性TCRは、例えば国際公開第2004/074322号、Boulter et al., Clin Exp Immunol, 2005 ,142(3):454-460などに記載された方法にしたがって作成できる。可溶性TCRを用いる場合、該TCRが抗原又は該抗原-HLA複合体に結合しうる限りその濃度は特に制限されないが、例えばin vitroでの試験に用いる場合、40 μg/ml以上であることが好ましい。
【0016】
本発明において、「GPC3298-306ペプチド」又は「HLA-A24-拘束性GPC3298-306ペプチド」とは、配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるグリピカン3(GPC3)のペプチド断片を意味する。好ましい実施態様において、本発明のTCR1は、GPC3298-306ペプチドとHLA-A24との複合体を特異的に認識し結合しうる。同様に、本発明において、「GPC3144-152ペプチド」又は「HLA-A02-拘束性GPC3144-152ペプチド」とは、配列表の配列番号28で示されるアミノ酸配列からなるGPC3のペプチド断片を意味する。好ましい実施態様において、本発明のTCR2は、GPC3144-152ペプチドとHLA-A02との複合体を特異的に認識し結合しうる。以下では、「GPC3298-306ペプチド」と「GPC3144-152ペプチド」をまとめて、「GPC3ペプチド」と略記する場合がある。
【0017】
本発明のTCRが上記複合体を特異的に認識し、結合しうることは公知の方法によって確認することができ、好適な方法としては、例えばHLA-A24分子又はHLA-A02分子とGPC3ペプチドを用いたデキストラマーアッセイ又はELISPOTアッセイなどが挙げられる。ELISPOTアッセイを行うことにより、該TCRを細胞表面に発現しているT細胞がTCRにより標的細胞を認識し、そのシグナルが細胞内に伝達されたことを確認することができる。
本明細書で用いる「結合しうる(capable of binding)」という用語は、「結合する能力を有すること(having an ability to bind)」を意味し、1つ又はそれ以上の他の分子と非共有結合複合体を形成する能力を指す。本発明の複合体の例として、GPC3ペプチドとHLA分子(例:HLA-A24又はHLA-A02)との複合体、又はGPC3ペプチドとTCRとの複合体が挙げられる。本発明の複合体の別の例として、TCRとそれ自体HLAと複合体を形成するGPC3ペプチドとの複合体が挙げられる。結合能を決定するための様々な方法及びアッセイは、当技術分野で公知である。結合は、通常、高親和性を有する結合であり、KD値で測定される親和性は、好ましくは1 μM未満、より好ましくは100 nM未満、さらにより好ましくは10 nM未満、さらにより好ましくは1 nM未満、さらにより好ましくは100 pM未満、さらにより好ましくは10 pM未満、さらにより好ましくは1 pM未満である。「KD」または「KD値」という用語は、当技術分野で公知の平衡解離定数に関連する。本発明の文脈において、これらの用語は、目的の特定の抗原(例:本明細書中で定義されるGPC3のペプチド、又はペプチドとHLAとの各複合体)に対するTCRの平衡解離定数に関連し得る。平衡解離定数は、複合体(例:TCR-ペプチド-HLA複合体)が、その成分(例:TCR及びペプチド-HLA複合体)に可逆的に解離する傾向の尺度である。KD値を決定する方法は、当技術分野において公知であり、例えば、表面プラズモン共鳴が例示される。
【0018】
本発明において、「単離された」とは、特定の成分(例:TCR)が、その天然環境の成分から同定、分離され、あるいは回収されている状態を意味する。
本発明において、「1又は数個のアミノ酸」とは、例えば、1,2,3,4又は5個のアミノ酸(例:1~4個のアミノ酸、1~3個のアミノ酸又は1~2個のアミノ酸)を意味する。例えば、TCR CDR領域の文脈では、1又は数個は、好ましくは1、2又は3個のアミノ酸を意味する。TCR可変領域又はTCRの文脈では、1又は数個は、好ましくは1~5、1~4又は1~3個、特に1、2又は3個のアミノ酸を意味する。
本発明において、「% 同一性」とは、例えば、 90%以上の(例:91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%又はそれより高い)同一性を意味する。アミノ酸配列の同一性は、以下の条件下(expectancy =10; gap allowed; matrix=BLOSUM62; filtering=OFF)で、相同性計算アルゴリズムのNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて計算することができる。% 同一性を決定するため、全長にわたる本発明の配列を別の配列と比較することが理解される。言い換えれば、本発明における%同一性は、本発明の配列の短い断片(例えば1~3アミノ酸)を別の配列と比較すること、またはその逆を除外する。
【0019】
本発明の一実施態様において、本発明のTCR1のα鎖の相補性決定領域として、配列番号1~3でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列、又は配列番号4~6でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含み、TCR1のβ鎖の相補性決定領域として、配列番号7~9でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列、又は配列番号10~12でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含む。上記アミノ酸配列は、前記CDR1~CDR3のアミノ酸配列を含むTCRがGPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に対する結合能を有する限り、1個ないし数個(例えば、2個、3個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されてもよい。好ましい実施態様において、本発明のTCR1は、配列番号1~3でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含むTCRα鎖、及び配列番号7~9でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。別の好ましい実施態様において、本発明のTCR1は、配列番号4~6でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含むTCRα鎖、及び配列番号10~12でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。
本発明の別の実施態様において、本発明のTCR1は、配列番号6で示されるCDR3を含むTCRα鎖、及び配列番号12で示されるCDR3を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。好ましくは、このヘテロダイマーは、GPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体への結合能を有する。
【0020】
本発明のさらに別の実施態様において、本発明のTCR2のα鎖の相補性決定領域として、配列番号13~15でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含み、本発明のTCR2のβ鎖の相補性決定領域として、配列番号16~18でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含む。上記アミノ酸配列は、前記CDR1~CDR3のアミノ酸配列を含むTCRがGPC3144-152ペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体に対する結合能を有する限り、1個ないし数個(例えば、2個、3個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されてもよい。好ましい実施態様において、本発明のTCR2は、配列番号13~15でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含むTCRα鎖、及び配列番号16~18でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。
本発明のさらにまた別の実施態様において、本発明のTCR2は、配列番号15で示されるCDR3を含むTCRα鎖、及び配列番号18で示されるCDR3を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。好ましくは、前記ヘテロダイマーは、GPC3144-152ペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体への結合能を有する。
【0021】
本発明のさらなる別の実施態様において、本発明のTCR1のα鎖は、好ましくは、α鎖の前記可変領域を含むTCRがGPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合しうることを条件として、配列番号19で示されるアミノ酸配列、配列番号19で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号19で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるα鎖の可変領域を含む。あるいは、本発明のTCR1のα鎖は、好ましくは、α鎖の前記可変領域を含むTCRがGPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合しうることを条件として、配列番号20で示されるアミノ酸配列、配列番号20で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号20で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるα鎖の可変領域を含む。該可変領域は、配列番号1~3でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列、又は配列番号4~6でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含んでいることが好ましい。なお、アミノ酸配列の同一性は、上記で記載したように計算することができる。下記のアミノ酸配列の同一性についても、同様に計算することができる。
【0022】
また、本発明のTCR1のβ鎖は、好ましくは、β鎖の前記可変領域を含むTCRがGPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合しうることを条件として、配列番号21で示されるアミノ酸配列、配列番号21で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるβ鎖の可変領域を含む。あるいは、本発明のTCR1のβ鎖は、好ましくは、β鎖の前記可変領域を含むTCRがGPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合しうることを条件として、配列番号22で示されるアミノ酸配列、配列番号22で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列のいずれかで示されるβ鎖の可変領域を含む。該可変領域は、配列番号7~9でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列、又は配列番号10~12でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含んでいることが好ましい。
【0023】
好ましい実施態様において、本発明のTCR1は、配列番号19で示されるアミノ酸配列含むTCRα鎖、及び配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。別の好ましい実施態様において、本発明のTCR1は、配列番号20で示されるアミノ酸配列含むTCRα鎖、及び配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成する。
【0024】
本発明の別の実施態様において、本発明のTCR2のα鎖は、好ましくは、α鎖の前記可変領域を含むTCRがGPC3144-152ペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体に結合しうることを条件として、配列番号23で示されるアミノ酸配列、配列番号23で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるα鎖の可変領域を含む。該可変領域は、配列番号13~15でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含んでいることが好ましい。
【0025】
また、本発明のTCR2のβ鎖は、好ましくは、β鎖の前記可変領域を含むTCRがGPC3144-152ペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体に結合しうることを条件として、配列番号24で示されるアミノ酸配列、配列番号24で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるβ鎖の可変領域を含む。該可変領域は、配列番号16~18でそれぞれ示されるCDR1~CDR3の各アミノ酸配列を含んでいることが好ましい。
【0026】
好ましい実施態様において、本発明のTCR2は、配列番号23で示されるアミノ酸配列含むTCRα鎖、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むTCRβ鎖を含み、該TCRのα鎖とβ鎖がヘテロダイマーを形成し得る。
【0027】
さらに、本発明のTCRのα鎖は、好ましくは、α鎖の前記定常領域を含むTCRが刺激シグナルをT細胞に伝達しうることを条件として、配列番号25で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号25で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるα鎖の定常領域を含んでいることが好ましい。本発明の特定の実施態様において、α鎖の定常領域は配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む。また、本発明のTCRのβ鎖は、好ましくは、β鎖の前記定常領域を含むTCRが刺激シグナルをT細胞に伝達しうることを条件として、配列番号26で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列で示されるβ鎖の定常領域を含んでいることが好ましい。本発明の特定の実施態様において、β鎖の定常領域は配列番号26で示されるアミノ酸配列を含む。
【0028】
また、本発明のTCRのα鎖又はβ鎖の定常領域は、その由来のCTLクローンのTCRのα鎖又はβ鎖の定常領域において、所定の改変が施されていることが好ましい。この改変としては、例えば、CTLクローンのTCRの定常領域の特定のアミノ酸残基をシステイン残基に置換(例:TCRα鎖の定常領域の48番目のスレオニンをシステインに置換(すなわちTCRα鎖の定常領域を配列番号53に置換)、CTLクローンのTCRβ鎖の定常領域の57番目のセリンをシステインに置換(すなわちTCRβ鎖の定常領域を配列番号54に置換))することで、α鎖とβ鎖間のジスルフィド結合によるダイマー発現効率を亢進することなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
上述した可変領域と定常領域を有する本発明のTCR1のα鎖としては、例えば、配列番号29、30、47又は48で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、上述した可変領域と定常領域を有する本発明のTCR1のβ鎖としては、例えば、配列番号31、32、49又は50で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、これらのポリペプチドのアミノ酸配列において、好ましくは、前記α鎖又はβ鎖を含むTCRがGPC3298-306ペプチド又は該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合しうることを条件として、1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は該ポリペプチドのアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列のいずれかで示されるTCRのα鎖又はβ鎖も、本発明に好適に用いることができる。本発明のTCR1としては、配列番号29で示されるα鎖及び配列番号31で示されるβ鎖により構成されたヘテロダイマー(本明細書中、上記へテロダイマーをTCR1-1と称することがある)、配列番号47で示されるα鎖及び配列番号49で示されるβ鎖から構成されたヘテロダイマー(本明細書中、上記へテロダイマーをTCR1-1’と称することがある)、配列番号30で示されるα鎖及び配列番号32で示されるβ鎖により構成されたヘテロダイマー(本明細書中、上記へテロダイマーをTCR1-2と称することがある)、又は配列番号48で示されるα鎖及び配列番号50で示されるβ鎖により構成されたヘテロダイマー(本明細書中、上記へテロダイマーをTCR1-2’と称することがある)が好ましい。
【0030】
上述した可変領域と定常領域を有する本発明のTCR2のα鎖としては、例えば、配列番号33又は51で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドなどが挙げられるが、これに限定されない。また、上述した可変領域と定常領域を有する本発明のTCR2のβ鎖としては、例えば、配列番号34又は52で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドなどが挙げられるが、これに限定されない。さらに、これらのポリペプチドのアミノ酸配列において、好ましくは、前記α鎖又はβ鎖を含むTCRがGPC3144-152ペプチド又は該ペプチドとHLA-A02との複合体に結合しうることを条件として、1若しくは数個(例えば、2個、3個、4個、5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は該ポリペプチドのアミノ酸配列と90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列のいずれかで示されるTCRのα鎖又はβ鎖も、本発明に好適に用いることができる。本発明のTCR2としては、配列番号33で示されるα鎖及び配列番号34で示されるβ鎖から構成されたヘテロダイマー(本明細書中、上記へテロダイマーをTCR2-1と称することがある)、又は配列番号51で示されるα鎖及び配列番号52で示されるβ鎖から構成されたヘテロダイマー(本明細書中、上記へテロダイマーをTCR2-1’と称することがある)が好ましい。
【0031】
本発明のTCRは、後述する本発明の核酸又はベクターを使用して遺伝子工学的に生産することができる。例えば、本発明のTCRのα鎖をコードする核酸及びβ鎖をコードする核酸の両方を細胞に導入してTCRのα鎖、β鎖ポリペプチドを発現させることなどにより、当該細胞に、本発明のTCRを発現させ、自体公知の方法により単離することができる。
【0032】
2.本発明の核酸
本発明は、上述した本発明のTCRをコードする、核酸(以下「本発明の核酸」と略記する。)を提供する。本発明の核酸は、単離されたものでもよい。
【0033】
本発明の核酸としては、TCRのα鎖をコードする核酸、TCRのβ鎖をコードする核酸、及びTCRのα鎖及びβ鎖の両方をコードする核酸のいずれであってもよい。
本発明はまた、本明細書に記載のいずれか若しくは複数のCDR、可変領域及び/又は定常領域をコードする核酸に関する。
本発明はまた、ストリンジェントな条件下で、本明細書で定義されるいずれかの核酸の相補体にハイブリダイズしうる核酸を包含する。好ましい実施態様において、ハイブリダイズしうる核酸は、本明細書に記載の機能を有する、CDR、可変領域又は定常領域のアミノ酸配列をコードする。具体的には、ハイブリダイズしうる核酸は、前記アミノ酸配列を含むTCRが、a)GPC3298-306ペプチドまたは該ペプチドとHLA-A24との複合体に結合する能力、又はb)GPC3144-152ペプチドまたは該ペプチドとHLA-A02との複合体に結合する能力有するようなアミノ酸配列をコードする。
【0034】
本発明のTCR1のα鎖をコードする核酸としては、上記で定義されたTCR1のα鎖をコードする核酸であればいかなるものでもよいが、例えば、配列番号29、30、47又は48で示されるポリペプチドをコードする核酸などが挙げられる。また、本発明のTCR1のβ鎖をコードする核酸としては、上記で定義されたTCR1のβ鎖をコードする核酸であればいかなるものでもよいが、例えば、配列番号31、32、49又は50で示されるポリペプチドをコードする核酸などが挙げられる。
【0035】
本発明のTCR2のα鎖をコードする核酸としては、上記で定義されたTCR2のα鎖をコードする核酸であればいかなるものでもよいが、例えば、配列番号33又は51で示されるポリペプチドをコードする核酸などが挙げられる。また、本発明のTCR2のβ鎖をコードする核酸としては、上記で定義されたTCR2のβ鎖をコードする核酸であればいかなるものでもよいが、例えば、配列番号34又は52で示されるポリペプチドをコードする核酸などが挙げられる。
【0036】
本発明の核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。核酸がRNAである場合は、RNAの配列については、配列表におけるTをUと読み替えることとする。また、本発明の核酸は、in vitro又は細胞中で、ポリペプチドを発現できる限り、天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、又はこれらの混合物を含んでもよい。
【0037】
本発明の核酸は、自体公知の方法により構築することができる。例えば、配列表に記載したTCRのアミノ酸配列又は核酸配列に基づき、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法やGibson Assembly法を利用して接続することにより、本発明のTCRの全長又は一部をコードするDNAを構築することが可能である。
【0038】
3.本発明の核酸を含む発現ベクター
本発明の核酸は、発現ベクターに組み込むことができる。従って、本発明は、上述した本発明の核酸のいずれかを含む発現ベクター(以下「本発明のベクター」と略記する。)を提供する。
本発明のベクターは、標的細胞のゲノムに組み込まれないベクターであってもよい。一実施態様において、ゲノムに組み込まれないベクターは、標的細胞のゲノムの外側で複製しうる。ベクターは、標的細胞のゲノムの外側に複数のコピーで存在してもよい。本発明のさらなる実施態様において、ベクターは標的細胞のゲノムに組み込まれる。好ましい実施態様において、ベクターは、標的細胞のゲノムのあらかじめ決められた位置に組み込まれる。
【0039】
本発明のベクターに使用されるプロモーターとしては、例えば、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、TCR V α遺伝子プロモーター、TCR Vβ遺伝子プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーター等が好ましい。
【0040】
本発明のベクターは、上記プロモーターの他に、所望により、転写及び翻訳調節配列、リボソーム結合部位、エンハンサー、複製起点、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などを含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0041】
本発明の一実施態様において、上述した本発明のTCRのα鎖をコードする核酸と、β鎖をコードする核酸とを含む発現ベクターを標的細胞内に導入し、標的細胞内や細胞表面にTCRのα鎖とβ鎖のヘテロダイマーを構成することができる。この場合において、TCRのα鎖をコードする核酸と、β鎖をコードする核酸は、別々の発現ベクターに組み込んでもよいし、1つの発現ベクターに組み込んでもよい。1つの発現ベクターに組み込む場合には、これら2種類の核酸は、ポリシストロニック発現を可能にする配列を介して組み込むことが好ましい。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスのT2A配列(PLoS ONE3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、内部リボソームエントリー部位(IRES)(U.S. Patent No. 4,937,190)などが挙げられるが、均一な発現量の観点からは、T2A配列が好ましい。
【0042】
本発明に用いることができる発現ベクターは、細胞に導入された場合に、疾患の予防又は治療に十分な期間TCRを発現できれば特に限定されないが、ウイルスベクターやプラスミドベクターなどが挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターやシュードタイプベクターを含む)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルス、エピソーマルベクターなどが挙げられる。また、トランスポゾン発現システム(PiggyBacシステム)を用いてもよい。プラスミドベクターとしては、動物細胞発現プラスミド(例えば、pa1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo)などが挙げられる。
【0043】
4.本発明の核酸又はベクターを含む細胞
本発明の核酸又はベクターを細胞に導入し、TCR1が細胞表面に存在するときには、該細胞は標的細胞に対するHLA-A24拘束性のGPC3298-306特異的な細胞傷害活性を有し得る。同様に、本発明の核酸又はベクターを細胞に導入し、本発明のTCR2が細胞表面に存在するときには、該細胞は標的細胞に対するHLA-A02拘束性のGPC3144-152特異的な細胞傷害活性を有し得る。従って、本発明は、本発明の核酸又はベクターを含む細胞(言い換えれば、本発明の核酸又はベクターを有する細胞)(以下「本発明の細胞」と略記する。)を提供する。ここで、本発明の核酸は、本発明のベクターの形態で所望の細胞に導入されていていることが好ましい。本発明はまた、ゲノム編集(例えば、CRISPRシステム、TALENシステムなど)により本発明の核酸を宿主ゲノムに導入することを包含する。本発明の細胞の好適な態様としては、TCRα鎖をコードする核酸と、TCRβ鎖をコードする核酸の両方が導入されている細胞が挙げられるが、この態様に限定されない。本発明の細胞が細胞傷害活性を有することの確認は公知の方法によればよく、好適な方法として、例えばクロム放出アッセイなどのHLA-A24又はHLA-A02陽性標的細胞に対する細胞傷害活性の測定が挙げられる。好ましい実施態様において、本発明の細胞はヒト細胞である。
【0044】
本発明の核酸又は発現ベクターを導入する細胞としては、例えば、リンパ球や、多能性幹細胞を含むリンパ球の前駆細胞が挙げられる。本発明において、「リンパ球」とは、脊椎動物の免疫系における白血球のサブタイプの一つを意味し、リンパ球としては、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)が挙げられる。T細胞受容体はT細胞の抗原の認識に重要な役割を示すことから、本発明の核酸又はベクターを導入する細胞としては、T細胞が好ましい。本発明において、「T細胞」とは、リンパ器官あるいは末梢血中等に認められる白血球の一種で、主に胸腺で分化成熟しT細胞受容体(TCR)を発現することを特徴とするリンパ球の一分類を意味する。本発明に用いることができるT細胞としては、例えば、CD8陽性細胞である細胞傷害性T細胞(CTL)、CD4陽性細胞であるヘルパーT細胞、制御性T細胞、エフェクターT細胞などが挙げられるが、好ましくは、細胞傷害性T細胞である。また、CD4/CD8両陽性細胞も、T細胞に包含される。本発明のTCRを発現するT細胞は、生体より採取されたT細胞に、本発明の核酸又はベクターを導入することにより、本発明のTCRを発現するT細胞を得ることができる。あるいは、本発明の核酸又はベクターが導入された、リンパ球の前駆細胞(例:多能性幹細胞)から誘導することで、本発明のTCRを発現するT細胞(即ち、該前駆細胞に由来するT細胞)を得ることができる。
【0045】
本発明の細胞(例:細胞傷害性T細胞)は、該細胞が本来有するTCR遺伝子に加えて、本発明の核酸又はベクターに由来する外因性のTCR遺伝子も有する。この点において、本発明の細胞は、生体より採取された細胞とは異なる。
【0046】
前記リンパ球は、ヒト又は非ヒト哺乳動物の例えば末梢血、骨髄及び臍帯血より採取することができる。本発明のTCR遺伝子導入細胞を癌などの疾患の治療に用いる場合には、当該細胞集団は治療対象本人、又は治療対象のHLAタイプと一致したドナーから採取することが好ましい。好ましい対象又はドナーはヒトである。
【0047】
多能性幹細胞を含むリンパ球の前駆細胞としては、例えば、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、造血幹細胞を含む造血前駆細胞、自己複製能を失った多能性前駆細胞(multipotent progenitor:MMP)、ミエローリンフォイド共通前駆細胞(MLP)、ミエロイド系前駆細胞(MP)、顆粒球単核前駆細胞(GMP)、マクロファージ-樹状細胞前駆細胞(MDP)、樹状細胞前駆細胞(DCP)などが挙げられる。ヒト胚、特にES細胞に由来する任意の細胞は、胚を破壊して作製された細胞であっても、胚を破壊することなく作製された細胞であってもよい。倫理の観点からは、iPS細胞、EC細胞、EG細胞、造血前駆細胞、MMP、MLP、MP、GMP、MDP、DCP、胚を破壊することなく作製されたES細胞が好ましい。
【0048】
iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって製造することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(例えば、Takahashi K.及びYamanaka S. (2006) Cell,126;663-676:Takahashi K. et al. (2007) Cell,131;861-872:Yu J. et al. (2007) Science,318;1917-1920:Nakagawa M.et al.(2008) Nat.Biotechnol.26;101-106)。iPS細胞を用いる場合、該iPS細胞は、自体公知の方法により体細胞から作製してもよいし、既に樹立され、ストックされているiPS細胞を用いてもよい。本発明に用いるiPS細胞の由来となる体細胞に制限はないが、好ましくは末梢血由来の細胞または臍帯血由来の細胞である。多能性幹細胞の由来となる動物に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒトなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0049】
本発明において、「造血前駆細胞」とは、CD34陽性細胞を意味し、好ましくは、CD34/CD43両陽性(DP)細胞である。本発明に用いる造血前駆細胞の由来は制限されず、例えば、下述の方法により、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる造血前駆細胞であってもよく、また、生体組織から、公知の手法により単離した造血前駆細胞であってもよい。
【0050】
本発明の核酸又はベクターを細胞に導入する方法に特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。核酸やプラスミドベクターを導入する場合には、例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456 (1973)、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.), 第119巻 (第6号), 345-351 (2002) などに記載の方法を用いることができる。ウイルスベクターを用いる場合には、本発明の核酸を適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させることで、細胞に導入することができる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が国際公開第2007/69666号、Cell, 126, 663-676 (2006) 及び Cell, 131, 861-872 (2007)などに開示されている。特に、レトロウイルスベクターを用いる場合には、組換えフィブロネクチンフラグメントであるCH-296(タカラバイオ社製)を用いることにより、各種細胞に対して、高効率な遺伝子導入が可能となる。
【0051】
本発明の核酸はまた、RNAの形態で直接細胞に導入し、細胞内でTCRを発現するために用いてもよい。RNAの導入方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、リポフェクション法や電気穿孔法などが好適に使用できる。
【0052】
本発明の核酸をT細胞に導入する場合には、本発明のTCRの発現上昇、ミスペアTCRの出現の抑制、又は非自己反応性の抑制の観点から、該T細胞が本来発現する内在性のTCRα鎖及びTCRβ鎖の発現をsiRNAによって抑制してもよい。前記の核酸を当該方法に適用する場合には、本発明のTCRに対するsiRNAの効果を避けるため、該TCRをコードする核酸の塩基配列を、内在性のTCRα鎖及びTCRβ鎖の発現を抑えるsiRNAが作用するRNAに対応する塩基配列とは異なる配列(コドン変換型配列)とすることが好ましい。これらの方法は、例えば国際公開第2008/153029号に記載されている。前記の塩基配列は、天然から取得されたTCRをコードする核酸へのサイレント変異の導入や、人為的に設計した核酸を化学的に合成することで作製することができる。あるいは、内在性のTCR鎖とのミスペアを避けるため、本発明のTCRをコードする核酸の定常領域の一部又は全部を、ヒト以外の動物、例えばマウス由来の定常領域に置換してもよい。
【0053】
5.本発明の細胞の製造方法
また本発明は、本発明の核酸又はベクターを細胞に導入する工程を含む、本発明の細胞の製造方法(以下「本発明の製法」と略記する。)を提供する。本発明の核酸又はベクターが導入される細胞、導入方法等は、4.に記載の通りである。
【0054】
本発明の製法の一態様において、(1)本発明の核酸又はベクターが導入された多能性幹細胞を、造血前駆細胞に分化させる工程、及び(2)該造血前駆細胞をT細胞に分化させる工程を含む、T細胞の製法が提供される。
【0055】
(1)多能性幹細胞を造血前駆細胞に分化させる工程(工程(1))
多能性幹細胞から造血前駆細胞への分化方法としては、造血前駆細胞へ分化できる限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2013/075222号、国際公開第2016/076415号及びLiu S. et al., Cytotherapy, 17 (2015);344-358などに記載されているように、造血前駆細胞への誘導培地中で多能性幹細胞を培養する方法が挙げられる。
【0056】
本発明において、造血前駆細胞への誘導培地は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、これらの混合培地などが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどが含まれていてもよい。
【0057】
本発明においてビタミンC類とは、L-アスコルビン酸およびその誘導体を意味し、L-アスコルビン酸誘導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。本発明に用いるアスコルビン酸の誘導体として、リン酸ビタミンC、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸アスコビルおよびアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸が例示される。好ましくは、リン酸ビタミンCであり、例えば、リン酸-L-アスコルビン酸Naまたはリン酸-L-アスコルビン酸Mgなどのリン酸-L-アスコルビン酸塩が挙げられる。
【0058】
工程(1)で用いる好ましい基礎培地は、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含むIMDM培地である。
【0059】
工程(1)で用いる培養液は、BMP4 (Bone morphogenetic protein 4)、VEGF (vascular endothelial growth factor)、SCF (Stem cell factor)およびFLT-3L (Flt3 Ligand)からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインがさらに添加されていてもよい。より好ましくは、VEGF、SCFおよびFLT-3Lを添加された培養液である。
【0060】
工程(1)でビタミンC類を用いる場合、ビタミンC類は、4日毎、3日毎、2日毎、または1日毎に、別途添加(補充)することが好ましく、1日毎に添加することが好ましい。当該ビタミンC類は、培養液において、5 ng/ml~500 ng/mlに相当する量(例:5 ng/ml、10 ng/ml、25 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200 ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/mlに相当する量)を添加ことが好ましい。
【0061】
工程(1)でBMP4を用いる場合、培養液中におけるBMP4の濃度は、特に制限されないが、10 ng/ml~100 ng/ml(例:10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml)であることが好ましく、20 ng/ml~40 ng/mlであることがより好ましい。
【0062】
工程(1)でVEGFを用いる場合、培養液中におけるVEGFの濃度は、特に制限されないが、10 ng/ml~100 ng/ml(例:10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml)であることが好ましく、なかでも、20 ng/mlが好ましい。
【0063】
工程(1)でSCFを用いる場合、培養液中におけるSCFの濃度は、特に制限されないが、10 ng/ml~100 ng/ml(例:10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml)であることが好ましく、なかでも、30 ng/mlが好ましい。
【0064】
工程(1)でFLT-3Lを用いる場合、培養液中におけるFLT-3Lの濃度は、特に制限されないが、1 ng/ml~100 ng/ml(例:1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml)であることが好ましく、なかでも、10 ng/mlが好ましい。
【0065】
工程(1)において、多能性幹細胞の培養は、接着培養または浮遊培養であってもよく、接着培養の場合、コーティング剤をコーティングした培養容器を用いて行ってもよく、また他の細胞と共培養してもよい。共培養する他の細胞として、C3H10T1/2(Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830, 2010)、異種由来のストローマ細胞(Niwa A et al. J Cell Physiol. 2009 Nov;221(2):367-77.)が例示される。コーティング剤としては、マトリゲル(Niwa A, et al. PLoS One.6(7):e22261, 2011)が例示される。浮遊培養では、Chadwick et al. Blood 2003, 102: 906-15、Vijayaragavan et al. Cell Stem Cell 2009, 4: 248-62、およびSaeki et al. Stem Cells 2009, 27: 59-67に記載の方法が例示される。
【0066】
工程(1)において、培養温度の条件は、特に制限されないが、例えば、37℃~42℃程度、37~39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば造血前駆細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。造血前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも6日間以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上であり、好ましくは14日である。培養期間が長いことについては、造血前駆細胞の製造においては通常問題とされないが、例えば35日以下が好ましく、21日以下がより好ましい。また、低酸素条件で培養してもよく、本発明において低酸素条件とは、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%またはそれら以下の酸素濃度が例示される。
【0067】
(2)造血前駆細胞をT細胞に分化させる工程(工程(2))
造血前駆細胞からT細胞への分化方法としては、造血前駆細胞をT細胞へ分化できる限り特に制限されないが、例えば、国際公開第2016/076415号などに記載されているような、(2-1)造血前駆細胞からCD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程、及び(2-2)CD4CD8両陽性T細胞からCD8陽性T細胞を誘導する工程を含む方法が挙げられる。造血前駆体は、工程(1)により得られた細胞集団から、造血前駆細胞のマーカーを用いてあらかじめ単離することが好ましい。該マーカーとしては、CD43、CD34、CD31及びCD144からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0068】
(2-1)造血前駆細胞からCD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程(工程(2-1))
本発明において、CD4CD8両陽性T細胞への分化方法としては、例えば、CD4CD8両陽性T細胞への誘導培地中で造血前駆細胞を培養する方法が挙げられる。
【0069】
本発明において、CD4CD8両陽性T細胞への分化誘導培地としては、特に制限されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地には、上記工程(1)で用いたものと同様のものが挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地には、例えば、ビタミンC類、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどが含まれていてもよい。
【0070】
工程(2-1)で用いる好ましい基礎培地は、血清、トランスフェリン、セリン、およびL-グルタミンを含むαMEM培地である。基礎培地へビタミンC類を添加する場合、ビタミンC類は、工程(1)の場合と同様である。
【0071】
工程(2-1)で用いる培養液は、サイトカインであるFLT-3L及び/又はIL-7をさらに含んでいてもよく、より好ましくは、FLT-3LおよびIL-7を添加された培養液である。
【0072】
工程(2-1)でIL-7を用いる場合、培養液中におけるIL-7の濃度は、1 ng/ml~50 ng/ml(例:1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml)であることが好ましく、なかでも、5 ng/mlが好ましい。
【0073】
工程(2-1)でFLT-3Lを用いる場合、FLT-3Lは、上記工程(1)と同様に用いることができる。
【0074】
工程(2-1)において、造血前駆細胞を接着培養または浮遊培養してもよく、接着培養の場合、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい。共培養するフィーダー細胞として、骨髄間質細胞株OP9細胞(理研BioResource Centerより入手可能)が例示される。当該OP9細胞は、好ましくは、Dll1を恒常的に発現するOP-DL1細胞である(Holmes R1 and Zuniga-Pflucker JC. Cold Spring Harb Protoc. 2009(2))。本発明において、フィーダー細胞としてOP9細胞を用いる場合、別途用意したDll1またはDll1とFc等の融合タンパク質を適宜培養液に添加することによっても行い得る。本発明において、Dll1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM#005618、マウスの場合、NM#007865に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらと高い配列同一性(例えば90%以上)を有し、同等の機能を有する天然に存在する変異体が包含される。CD4CD8両陽性T細胞を製造する際にフィーダー細胞を用いる場合、当該フィーダー細胞を適宜交換して培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。当該交換は、5日毎、4日毎、3日毎、または2日毎にて行い得る。
【0075】
工程(2-1)において、培養温度の条件は、特に制限されないが、例えば、37℃~42℃程度、37~39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD4CD8両陽性T細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。造血前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、22日以上、23日以上であり、好ましくは23日である。また、90日以下が好ましく、42日以下がより好ましい。
【0076】
(2-2)CD4CD8両陽性(DP)T細胞からCD8陽性T細胞を誘導する工程(工程(2-2))
工程(2-1)により得られたCD4/CD8DP細胞を、CD8 single positive (SP)細胞に分化誘導する工程に付すことにより、CD8 single positive (SP)細胞へ分化誘導することができる。
【0077】
工程(2-2)で用いる基礎培地および培地としては、工程(1)に記載された基礎培地および培地と同様のものが挙げられる。
【0078】
前記培地は、副腎皮質ホルモン剤を含んでいてもよい。副腎皮質ホルモン剤としては、例えば、糖質コルチコイド及びその誘導体などが挙げられ、該糖質コルチコイドとしては、例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンが挙げられる。なかでも、デキサメタゾンが好ましい。
【0079】
副腎皮質ホルモン剤としてデキサメタゾンを用いる場合、培養液中におけるデキサメタゾンの濃度は、1nM~100nM(例:1nM、5nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM)が好ましく、なかでも、10nMが好ましい。
【0080】
前記培地は、抗体(例:抗CD3抗体、抗CD28抗体、抗CD2抗体)、サイトカイン(例:IL-7、IL-2、IL-15)などを含有していてもよい。
【0081】
工程(2-2)で抗CD3抗体を用いる場合、該抗CD3抗体としては、CD3を特異的に認識する抗体であれば特に限定されないが、例えば、OKT3クローンから産生される抗体が挙げられる。抗CD3抗体は、磁気ビーズ等が結合されているものであってもよく、また、前記抗CD3抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体を表面に結合させた培養容器上で該Tリンパ球を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。抗CD3抗体の培地中における濃度は、10ng/ml~1000ng/ml(例:10 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/ml、600 ng/ml、700 ng/ml、800 ng/ml、900 ng/ml、1000 ng/ml)が好ましく、なかでも、500 ng/mlが好ましい。その他の抗体の濃度についても、当業者は、培養条件等に基づき、適宜決定することができる。
【0082】
工程(2-2)でIL-2を用いる場合、培地中におけるIL-2の濃度は、10 U/ml~1000 U/ml(例:10 U/ml、20 U/ml、30 U/ml、40 U/ml、50 U/ml、60 U/ml、70 U/ml、80 U/ml、90 U/ml、100 U/ml、200 U/ml、500 U/ml、1000 U/ml)が好ましく、なかでも、100 U/mlが好ましい。工程(2-2)で用いるIL-7又はIL15の培地中における濃度は、1 ng/ml~100 ng/ml(例:1 ng/ml、5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml)が好ましく、なかでも、10 ng/mlが好ましい。
【0083】
工程(2-2)において、培養温度の条件は、特に制限されないが、37℃~42℃程度が好ましく、37~39℃程度がより好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD8陽性T細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することができる。CD8陽性T細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、1日以上、3日以上、7日以上が好ましく、60日以下が好ましく、35日以下がより好ましい。
【0084】
6.本発明の核酸、ベクター又は細胞を含有してなる医薬
本発明は、本発明の核酸、ベクター又は細胞を有効成分として含有する医薬(以下「本発明の医薬」と略記する。)を提供する。本発明の核酸を含む細胞は、HLA-A24分子とGPC3298-306ペプチド、あるいはHLA-A02分子とGPC3144-152ペプチドを提示する細胞に対して細胞傷害活性を示し得る。従って、本発明の核酸、ベクター又は細胞を含有してなる医薬は、GPC3を発現する疾患の予防又は治療のために用いることができ、たとえば哺乳動物(例:マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)、好ましくはヒト、に投与することができる。GPC3を発現する疾患としては、特に限定されないが、例えばGPC3を発現する癌や腫瘍などが挙げられる。従って、本発明の好ましい実施態様において、GPC3を発現する癌や腫瘍の予防又は治療のための抗癌剤が提供される。
【0085】
かかるGPC3を発現する癌や腫瘍は、例えば、“Daniel Baumhoer et al., Am J. Clin Pathol, 2008, 129, 899-906”などに記載されている。具体的には、肝臓癌(例:肝細胞癌)、卵巣癌(例:卵巣明細胞腺癌)、小児癌、肺癌(例:扁平上皮癌、肺小細胞癌)、精巣癌(例:非セミノーマ胚細胞腫瘍)、軟部腫瘍(例:脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫)、子宮癌(例:子宮頚部上皮内腫瘍、子宮頸部扁平上皮癌)、メラノーマ、副腎腫瘍(例:副腎の腺腫)、神経性腫瘍(例:シュワン腫)、胃癌(例:胃の腺癌)、腎臓癌(例:グラヴィッツ腫瘍)、乳癌(例:浸潤性小葉性癌、粘液性癌)、甲状腺癌(例:髄様癌)、喉頭癌(例:扁平上皮癌)、膀胱癌(例:浸潤性移行上皮癌)などが挙げられるが、これらに限定されない。この中でも、GPC3の発現量の観点からは、肝臓癌、卵巣癌、小児癌、肺癌が好ましく、なかでも肝臓癌、特に肝細胞癌が好ましい。
【0086】
本発明の医薬の有効成分として、核酸又はベクターを用いる場合には、公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、希釈剤、増量剤、結合剤、滑沢剤、流動助剤、崩壊剤、界面活性剤等などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することが好ましい。賦形剤は、当業者にはよく知られており、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(例えば、0.01Mリン酸塩、0.138M NaCl、0.0027M KCl、pH7.4)、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩を含有する水溶液、生理食塩液、グリコール又はエタノールなどの溶液及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸の塩などが挙げられる。また、湿潤剤又は乳化剤などの補助剤、及びpH緩衝剤も使用することができる。さらに、懸濁化剤、保存剤、安定化剤及び分散剤などの製剤補助剤などを用いてもよい。また、上記医薬組成物は、使用前に適切な無菌の液体により再構成するための乾燥形態であってもよい。該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて、全身的に又は局所的に、経口投与又は非経口投与することができる。非経口投与する場合には、静脈投与、皮内投与、皮下投与、直腸投与、経皮投与すること等が可能である。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
【0087】
有効成分が核酸である場合の投与量としては、例えば、1回につき体重1kgあたり該核酸が0.001mg~10mgの範囲で投与される。例えば、ヒト患者に投与する場合、体重60kgの患者に対し0.001~50mgの範囲で投与される。有効成分がウイルスベクター粒子である場合の投与量は、体重60kgの対象に対して、1回につき、例えばウイルスの力価として約1×10pfu~1×1015pfuの範囲で投与される。上記の投与量は例示であり、用いる核酸やベクターの種類や投与経路、投与対象又は患者の年齢、体重、症状などにより、投与量を適宜選択することができる。
【0088】
本発明の医薬の有効成分として、本発明の細胞を用いる場合には、該細胞は、対象に投与する前に適切な培地及び/又は刺激分子を使用して培養及び/又は刺激を行ってもよい。刺激分子としては、サイトカイン類、適当なタンパク質、その他の成分などが挙げられるが、これらに限定されない。サイトカイン類としては、例えばIL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IFN-γ等が例示され、好ましくは、IL-2を用いることができる。IL-2の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば、好適には0.01~1×10U/mL、より好適には1~1×10U/mLである。また、適当なタンパク質としては、例えばCD3リガンド、CD28リガンド、抗IL-4抗体が例示される。また、この他、レクチン等のリンパ球刺激因子を添加することもできる。さらに、培地中に血清や血漿を添加してもよい。これらの培地中への添加量は特に限定はないが、0体積%~20体積%が例示され、また培養段階に応じて使用する血清や血漿の量を変更することができる。例えば、血清又は血漿濃度を段階的に減らして使用することもできる。血清又は血漿の由来としては、自己又は非自己のいずれでも良いが、安全性の観点からは、自己由来のものが好ましい。
【0089】
本発明において、本発明の細胞を有効成分として含有する医薬は、非経口的に対象に投与して用いることが好ましい。非経口的な投与方法としては、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、及び皮下投与などの方法が挙げられる。投与量は、対象の状態、体重、年齢等応じて適宜選択されるが、通常、細胞数として、体重60kgの対象に対し、1回当り、通常1×10~1×1010個となるように、好ましくは1×10~1×10個となるように、より好ましくは5×10~5×10個となるように投与される。また、1回で投与してもよく、複数回にわたって投与してもよい。本発明の医薬は、非経口投与に適した公知の形態、例えば、注射又は注入剤とすることができる。本発明の医薬は、適宜、薬理学的に許容できる賦形剤を含んでいてもよい。薬理学的に許容できる賦形剤としては、上記に記載したものが挙げられる。本発明の医薬は、細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含んでもよい。培地としては、特に限定するものではないが、RPMI、AIM-V、X-VIVO10などの培地が挙げられるが、これらに限定されない。また該医薬には医薬的に許容される担体(例:ヒト血清アルブミン)、保存剤等が安定化の目的で添加されていてもよい。
【0090】
さらに、本発明の細胞は、GPC3を発現する細胞を殺傷し得るため、GPC3を発現する細胞の殺傷剤として用いることができる。かかる殺傷剤は、前記医薬と同様にして作製し、使用することができる。
【0091】
また、本発明のTCRは、例えばTCRを抗CD3抗体の一本鎖抗体断片(scFv)(又はT細胞に結合し、T細胞応答を活性化する類似の抗体断片)を組み合わせた融合タンパク質として用いることもできる。かかる融合タンパク質は、安定した、可溶性の高親和性TCRとするために、2つのTCR鎖のポリペプチドの各定常領域間に、新たに人工的にジスルフィド結合を導入してもよい。また、融合タンパク質のscFvは、TCRのβ鎖の定常領域に融合していることが好ましい。このような融合タンパク質については、例えば、米国特許第7,569,664号、Liddy et al., Nat. Med. 18:908-7 (2012)、Oates and Jakobsen, OncoImmunology 2:e22891 (2013)などに記載されている。
【0092】
かかる融合タンパク質は、生体内に導入された場合に、TCRの特異的認識を通じて、GPC3を発現する細胞に結合し、scFvが細胞傷害性T細胞の細胞表面に存在するCD3に結合することで、GPC3を発現する細胞を傷害し得る。従って、前記融合タンパク質や、このタンパク質をコードする核酸を含有する医薬も、本発明の核酸や細胞を含有する医薬と同様に、GPC3を発現する疾患の予防又は治療のために用いることができる。医薬として用いる場合には、前述の記載と同様に調製等することができる。
【0093】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
(配列番号:1)TCR1-1α鎖のCDR1のアミノ酸配列
(配列番号:2)TCR1-1α鎖のCDR2のアミノ酸配列
(配列番号:3)TCR1-1α鎖のCDR3のアミノ酸配列
(配列番号:4)TCR1-2α鎖のCDR1のアミノ酸配列
(配列番号:5)TCR1-2α鎖のCDR2のアミノ酸配列
(配列番号:6)TCR1-2α鎖のCDR3のアミノ酸配列
(配列番号:7)TCR1-1β鎖のCDR1のアミノ酸配列
(配列番号:8)TCR1-1β鎖のCDR2のアミノ酸配列
(配列番号:9)TCR1-1β鎖のCDR3のアミノ酸配列
(配列番号:10)TCR1-2β鎖のCDR1のアミノ酸配列
(配列番号:11)TCR1-2β鎖のCDR2のアミノ酸配列
(配列番号:12)TCR1-2β鎖のCDR3のアミノ酸配列
(配列番号:13)TCR2-1α鎖のCDR1のアミノ酸配列
(配列番号:14)TCR2-1α鎖のCDR2のアミノ酸配列
(配列番号:15)TCR2-1α鎖のCDR3のアミノ酸配列
(配列番号:16)TCR2-1β鎖のCDR1のアミノ酸配列
(配列番号:17)TCR2-1β鎖のCDR2のアミノ酸配列
(配列番号:18)TCR2-1β鎖のCDR3のアミノ酸配列
(配列番号:19)TCR1-1α鎖の可変領域のアミノ酸配列
(配列番号:20)TCR1-2α鎖の可変領域のアミノ酸配列
(配列番号:21)TCR1-1β鎖の可変領域のアミノ酸配列
(配列番号:22)TCR1-2β鎖の可変領域のアミノ酸配列
(配列番号:23)TCR2-1α鎖の可変領域のアミノ酸配列
(配列番号:24)TCR2-1β鎖の可変領域のアミノ酸配列
(配列番号:25)TCRα鎖の定常領域のアミノ酸配列
(配列番号:26)TCRβ鎖の定常領域のアミノ酸配列
(配列番号:27)GPC3298-306ペプチドのアミノ酸配列
(配列番号:28)GPC3144-152ペプチドのアミノ酸配列
(配列番号:29)TCR1-1α鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:30)TCR1-2α鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:31)TCR1-1β鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:32)TCR1-2β鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:33)TCR2-1α鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:34)TCR2-1β鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:35)TCR1-2α鎖PCR増幅用フォワードプライマー
(配列番号:36)TCR1-2α鎖PCR増幅用リバースプライマー
(配列番号:37)TCR1-2β鎖PCR増幅用フォワードプライマー
(配列番号:38)TCR1-2β鎖PCR増幅用リバースプライマー
(配列番号:39)TCR1-2α鎖シークエンス用フォワードプライマー
(配列番号:40)TCR1-2α鎖シークエンス用リバースプライマー
(配列番号:41)TCR1-2α鎖シークエンス用リバースプライマー
(配列番号:42)TCR1-2α鎖シークエンス用リバースプライマー
(配列番号:43)TCR1-2β鎖シークエンス用フォワードプライマー
(配列番号:44)TCR1-2β鎖シークエンス用フォワードプライマー
(配列番号:45)TCR1-2β鎖シークエンス用リバースプライマー
(配列番号:46)TCR1-2β鎖シークエンス用リバースプライマー
(配列番号:47)TCR1-1’α鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:48)TCR1-2’α鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:49)TCR1-1’β鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:50)TCR1-2’β鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:51)TCR2-1’α鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:52)TCR2-1’β鎖全長のアミノ酸配列
(配列番号:53)TCRα鎖の定常領域の改変アミノ酸配列
(配列番号:54)TCRβ鎖の定常領域の改変アミノ酸配列
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明はこれらに限定されない。
【0095】
実施例中の略号は、本技術分野で現在通常用いられている用例に従うものであり、例えば、次のような意味である。
HLA: ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)
HIV: ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus)
ELISPOT: 酵素免疫スポットアッセイ(Enzyme-Linked ImmunoSpot)
TAP: 抗原プロセシング関連トランスポーター(Transporter associated with Antigen Processing)
【実施例
【0096】
実施例1
進行性の肝細胞癌患者に対し、適正製造基準(Good Manufacturing Practice)のガイドラインに従って合成された抗原(HLA-A*24:02-拘束性GPC3298-306ペプチド(以下では「GPC3298-306ペプチド」と略記する。)(配列番号27:EYILSLEEL ; アメリカンペプチド社)又はHLA-A*02:01-拘束性GPC3144-152ペプチド(以下では「GPC3144-152ペプチド」と略記する。)(配列番号28:FVGEFFTDV ; アメリカンペプチド社))及びフロイントの不完全アジュバント(incomplete Freund’s adjuvant (IFA) ; Montanide ISA-51VG ; セピック社)を混合して乳剤化したワクチンを皮内投与し、投与後に得られた末梢血単核細胞(PBMC)又は肝腫瘍生検組織検体からCTLクローンを樹立した。
以下にCTLクローン樹立に関する具体的な方法を記す。
(1)抗原投与
進行性の肝細胞癌(HCC)患者における、グリピカン3(GPC3)ペプチドの用量漸増を伴う非ランダム、非盲検のフェーズ1治験 (試験名:進行肝細胞がん患者を対象としたHLA-A24及びA2結合性グリピカン3(GPC3)由来ペプチドワクチンの臨床第I相試験、UMIN試験ID: UMIN000001395) において、HLA-A2ポジティブな患者にGPC3144-152ペプチド及びフロイントの不完全アジュバントを混合して乳剤化したワクチンを、1、15、29日目に皮内注射により投与(30mgペプチド/body)した。3回目のワクチン投与から2週間後の末梢血を採取し、後述のPBMCの単離に供した。
また、別の臨床試験 (試験名:進行肝細胞がん患者を対象としたHLA-A24及びA2結合性グリピカン3(GPC3)由来ペプチドワクチン療法の免疫学的有効性を評価する臨床試験、UMIN試験ID: UMIN000005093)において、HLA-A24ポジティブな患者にGPC3298-306ペプチド及びフロイントの不完全アジュバントを混合して乳剤化したワクチンを2週毎に皮内注射により投与(3mgペプチド/body)した。6回目のワクチン投与後に肝腫瘍生検を行い、得られた組織を後述のCTLクローン(具体的には、CTL1-1)の樹立に供した。また、3回目のワクチン投与から2週間後の末梢血を採取し、後述のようにPBMCを単離したあと、CTLクローン(具体的には、CTL1-2)の樹立に供した。
【0097】
(2)PBMCの単離及びCTLバルクの樹立
前記末梢血(30 mL)をフィコールパック勾配(Ficoll-Paque gradient)を用いて遠心分離することでPBMCを単離した。
単離したPBMC (2 x 106 個) を10 μg/mLのGPC3ペプチド(GPC3298-306ペプチド又はGPC3144-152ペプチド)、10%ヒトAB血清、50 IU/mlの組み換えヒトインターロイキン-2、10 ng/mlの組み換えヒトインターロイキン-15を添加したAIM-V培地中で14日間培養し、CTLバルクを樹立した。
【0098】
(3)CTL クローンの樹立
上記(2)で得られたPBMC及びGPC3ペプチド反応性CD8CTLバルクからCD8陽性かつGPC3デキストラマー陽性細胞、又はCD8陽性かつCD107a陽性細胞をFACSAria セルソーターを用いて単離した。また、上記(1)の生検腫瘍組織からCD8陽性かつGPC3デキストラマー陽性細胞をFACSAria セルソーターを用いて単離した。なお、単離時に使用したCD8特異的抗体はProImmune社から、CD107a特異的抗体はBD Bioscience社から、GPC3298-306/HLA-A*24:02-デキストラマーとGPC3144-152/HLA-A*02:01デキストラマーはImmudex社からそれぞれ購入した。
上記単離により得られた各細胞を96ウェルプレートに播種(1 cell/well)し、10%ヒトAB血清、IL-2 (200 U/mL)及びフィトヘマグルチニン-P(PHA)(5 μg/mL)を添加したAIM-V培養液中で、放射線照射(100 Gy)した非自己由来のPBMC(1ウェル当たり8 x 104 個)をフィーダー細胞として用いて、14-21日間刺激することで、CTLクローンを樹立した。本明細書中、HLA-A2ポジティブな患者から樹立したCTLクローンをCTL2-1、HLA-A24ポジティブな患者から樹立したCTLクローンをCTL1-1(生検腫瘍組織由来)、CTL1-2(PBMC由来)と称することがある。
【0099】
試験例1 ELISPOT アッセイ
抗原特異的CTL反応を測定するため、ELISPOTアッセイを行った。
CTL2-1 (1ウェル当たり1 x 104 個)、CTL1-1 (1ウェル当たり1 x 105 個)及びCTL1-2 (1ウェル当たり1 x 105 個)を37℃、5%CO存在下で、GPC3を強制発現させた癌細胞株(SK-Hep-1/hGPC3)もしくはそのMockコントロール癌細胞株(SK-Hep-1/vec)と共に20時間培養した。その結果を図1(A)及び(B)に示す。
この結果、本試験に適用した各CTLは、GPC3を発現する癌細胞に応答したインターフェロン-γ産生能を有することが判明した。
【0100】
試験例2 ペプチドタイトレーションアッセイ(Peptide titration assay)
実施例1で樹立した各CTLクローン(CTL2-1、CTL1-1及びCTL1-2)と、それぞれ対応するT2標的細胞を10:1 (effector/target (E/T) = 10)になるように混合し、4時間共培養した。CTL2-1に対応するT2標的細胞としては、カルセインAMで標識をしたT2細胞(HLA-A*02:01陽性, TAP陰性)にGPC3144-152ペプチドをパルスしたものを使用し、CTL1-1及びCTL1-2に対応するT2標的細胞としては、カルセインAMで標識をしたHLA-A*24:02強制発現T2細胞(HLA-A*02:01/A*24:02陽性, TAP陰性)にGPC3298-306ペプチドをパルスしたものを使用した。ネガティブコントロールをおく場合には、各細胞にHIVペプチドをパルスしたものを用いた。
【0101】
各CTLクローンについて、細胞傷害率(%)(下記計算式を用いて算出)をペプチド濃度に対してプロットした(図2(A)及び(B))。
【0102】
【数1】
【0103】
50%細胞傷害活性と曲線が交差するペプチド濃度をそのクローンの認識効率とする場合、CTL2-1の認識効率は約10-10Mであり、CTL1-1の認識効率は約10-9Mであった。
この結果、CTL2-1はGPC3144-152-HLA-A*02:01複合体を有する細胞に対し細胞傷害性を有すること、CTL1-1 及びCTL1-2はGPC3298-306-HLA-A* 24:02複合体を有する細胞に対し細胞傷害性を有することが示された。
【0104】
実施例2 CTL TCR配列の解読
1.配列解読
CTL1-1のTCR(すなわちTCR1-1)及びCTL2-1のTCR(すなわちTCR2-1)の各配列は以下の方法で分析した。
すなわち、T細胞のトータルRNAはRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて抽出した。Omniscript RT Kit (QIAGEN)及びオリゴdTプライマー(oligo dT primer: Invitrogen)を用いて、ファーストストランド(First-Strand) cDNAを合成し、cDNAをPCRにより増幅した。PCRのプライマーとしては、Uemura Y. et al., J Immunol, 2003, 170:947-960又はMisko et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1999, 96: 2279-2284に記載されている、再構成したT細胞受容体(TCR)α鎖用のTCRAVファミリー特異的なオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマー及びTCRAC(Cα) 定常領域のリバースプライマー、及び再編成したTCRβ鎖用のTCRBVファミリー特異的なオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマー及びTCRBC(Cβ) 定常領域のリバースプライマーを用いた。α鎖及びβ鎖の増幅したPCR産物を、pGEM-Tプラスミドベクター(プロメガ)にクローニングし、配列を解読した。得られた配列をIMGT(ImMunoGeneTics)データベースを用いて分析した。
CTL1-2のTCR(すなわちTCR1-2)配列分析は以下の方法で実施した。
すなわち、T細胞のトータルRNAはRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて抽出した。SuperScriptIII逆転写酵素(ThermoFisher Scientific)及びオリゴdTプライマー(oligo dT primer: Invitrogen)を用いて、ファーストストランド(First-Strand) cDNAを合成し、cDNAをPCRにより増幅した。これをネクストジェネレーションシーケンサー(MiSeq、Illumina)を用いて、レパトア解析を行い、予備的な配列解析を行った。この後、レパトア解析結果の部分配列データよりV領域(5’非翻訳領域)、C領域(3’非翻訳領域のポリA付加シグナル直前)にプライマーを設計し(TCR1-2α鎖用フォワードプライマー: AAGCACTCTTCTAGCCCAGAGAA(配列番号:35)、TCR1-2α鎖用リバースプライマー: TAGCAGGGCCTCGATAATGA(配列番号:36)、TCR1-2β鎖用フォワードプライマー: AGAATGCTTACTACAGAGACACCA(配列番号:37)、TCR1-2β鎖用リバースプライマー: GTTTAGCCTATTTCGTACTTGG(配列番号:38))、PCRにより増幅した。PCR増幅断片はカラム精製後、以下のシークエンシングプライマーを用いBigDye Terminator V3.1 Cycle Sequencing Kit(ThermoFisher Scientific)にて反応した。使用したシークエンシングプライマーは以下のとおりである;
TCR1-2α鎖用フォワードプライマー:
ACGCCTTCAACAACAGCATTA(配列番号:39)、
TCR1-2α鎖用リバースプライマー:
CAGACTTGTCACTGGATTTAGAG(配列番号:40)、GGAGCACAGGCTGTCTTACAA(配列番号:41)、ATAGCAGGGCCTCGATAATGA(配列番号:42)、
TCR1-2β鎖用フォワードプライマー:
AGAATGCTTACTACAGAGACACCA(配列番号:43)、GCTGTGTTTGAGCCATCAGAA(配列番号:44)、
TCR1-2β鎖用リバースプライマー:
AGGCAGTATCTGGAGTCATTGAG(配列番号:45)、GTTTAGCCTATTTCGTACTTGG(配列番号:46)。
カラム精製後、ABIキャピラリーシークエンサーにて配列決定を行った。
【0105】
試験例3 TCRを導入したPBMCを用いたデキストラマー染色及びフローサイトメトリー分析
1.TCR発現レトロウィルスベクターの構築
上記の方法で同定したTCRβ鎖の遺伝子配列とTCRα鎖の遺伝子配列をもとに、システイン置換(具体的には、TCRα鎖の定常領域の48番目のスレオニンをシステインに、CTLクローンのTCRβ鎖の定常領域の57番目のセリンをシステインに置換)を組み込んだアミノ酸配列(具体的には、配列番号47:TCR1-1α鎖から設計したTCR1-1’α鎖、配列番号48:TCR1-1β鎖から設計したTCR1-1’ β鎖、配列番号49:TCR1-2α鎖から設計したTCR1-2’α鎖、配列番号50:TCR1-2β鎖から設計したTCR1-2’ β鎖、配列番号51:TCR2-1α鎖から設計したTCR2-1’α鎖、配列番号52:TCR2-1β鎖から設計したTCR2-1’ β鎖)を設計した。TCR1-1’ならびにTCR2-1’の各α鎖及びβ鎖のアミノ酸をコードする塩基配列を設計し、設計した塩基配列をバイシストロニック発現用配列T2Aで繋いだオリゴDNAを人工合成(GenScript)して、レトロウイルスベクタープラスミドpDON-AI-2(タカラバイオ社)のマルチクローニングサイト(Bgl II-Hpa Iサイト)に挿入した。
【0106】
2.TCR遺伝子導入
上記1.で得られたウイルスベクタープラスミドを、G3T-hi 細胞 (タカラバイオ社)に導入して一過性のレトロウイルスベクターを得た。これをPG13細胞に導入してレトロウイルスベクター産生細胞を得た。
HLA-A*24:02又はHLA-A*02:01が陽性の健康ドナーから実施例1(2)と同様の方法により単離したPBMCを、5%ヒト血漿X-VIVO20で抗CD3抗体(クローンHIT3a)を用いて刺激、インキュベートした。3日後、レトロネクチン(タカラバイオ社)でコートした24ウェルプレートを用いて、上記レトロウイルスベクター産生細胞から得られたレトロウイルスベクターにより、GPC3(GPC3298-306ペプチド又はGPC3144-152ペプチド)特異的なTCR(具体的には、TCR1-1’又はTCR2-1')を形質導入し、翌日再度形質導入した。
【0107】
3.デキストラマー(Dextramer)染色及びフローサイトメトリー分析
2.で作製した形質転換PBMCを、HLA-A*02:01 デキストラマー-RPE (GPC3144-152 (FVGEFFTDV), HIV19-27(TLNAWVKVV); イムデックス社)又はHLA-A*24:02 デキストラマー-RPE (GPC3298-306 (EYILSLEEL), HIV583-591 (RYLKDQQLL); イムデックス社)で室温、30分間染色し、次いで抗CD8-FITC(プロイミューン社)と共に4℃で20分間染色した。フローサイトメトリーは、既報(Ueda N and Zhang R, et al., Cellular & Molecular Immunol. 13: 1-12, 2016)に記載の通り、FACSAccuri フローサイトメーター(BDバイオサイエンス社)を用いて行った。TCR1-1’に関する検討結果を図3Aに、TCR2-1'に関する検討結果を図3Bに示す。
本結果においてCD8ポジティブの細胞集団のなかにデキストラマー陽性の細胞集団が認められたことから、それぞれのTCRを導入したPBMCにおいて機能型TCRが効率的に細胞表面に発現したことが判明した。
【0108】
実施例3
本発明のTCRをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターの作成、上記TCRを発現するiPS細胞由来T細胞の作成
1.本発明のTCRをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターの作成
1)TCR1-1’を組み込んだレンチウィルスベクターの作製
理化学研究所、三好浩之博士より提供されたCS-UbC-RfA-IRES2-hKO1ベクターを用い、TCR1-1’を組み込んだGateway Entry ベクターとLR クロナーゼ(Life technologies)反応を行う事でTCR1-2’を導入したCS-UbC-RfA-IRES2-hKO1/TCR1-1’プラスミドを作製した。
2)TCR1-1’を組み込んだレンチウィルス上清の作製
CS-UbC-RfA-IRES2-hKO1/TCR1-1’をパッケージング細胞LentiX-293Tに導入し、レンチウィルスを含む培養上清を回収。超遠心を行い、ウィルスの濃縮を行った。
3)TCR1-1’ transduced-iPS細胞の樹立
iMatrix(ニッピ)上で培養したiPS細胞(Ff-l01s04株)に、CS-UbC-RfA-IRES2-hKO1/TCR1-1’ウィルス液を感染させた。
4)TCR1-2’/iPS細胞のT細胞分化
感染4日後に、感染iPS細胞をDishより剥がし、染色せずにhKO1発現細胞をFACS Aria IIIを使用し、sorting行った(本明細書中、sorting後の細胞をTCR1-1’遺伝子導入Ff-l01s04細胞と称することがある)。hKO1陽性にてsortした細胞について、国際公開第2017/221975号に記載の方法に準じてT細胞方向への分化を行い、分化後の細胞における各種マーカーの発現をFACS Aria IIIを用いて検討した。
上記検討の結果を図4に示す。図4下段に示すように、TCR1-1’遺伝子導入Ff-l01s04細胞を上記分化操作に供することにより、TCR1-1’α鎖とTCR1-1’ β鎖の複合体が細胞膜表面に発現したT細胞を誘導可能であることが明らかとなった。
【0109】
試験例4
本発明のTCRを発現するiPS細胞由来T細胞の細胞傷害性試験
TCR1-1’を発現するiPS細胞由来T細胞の細胞傷害性をクロムリリースアッセイにより測定した。具体的には、GPC3抗原ペプチドを添加した、もしくは添加していない、HLA-*24:02陽性またはHLA-A*24:02陰性のリンパ芽球細胞系(LCL)にNa 51CrO水溶液(3.7MBq)を添加、37℃で1時間標識し、これを標的細胞とした。標的細胞に、エフェクター細胞を図5に示す比率で添加し、37℃で4時間反応させた。反応後の上清に遊離された51Cr量から、以下の式に基づいて、細胞傷害活性(%lysis)を算出した。
【0110】
【数2】
【0111】
なお、上式において、最小放出値とはエフェクター細胞を加えないウェルにおける51Cr遊離量であり、標的細胞からの51Crの自然遊離量を示す。また、最大放出値とは1% Triton X-100を加えて標的細胞を破壊したときの51Cr遊離量を示す。
本試験の結果を図5に示す。図5より、TCR1-1’を発現するiPS細胞由来T細胞はGPC3ペプチドを添加したHLA-A24陽性LCLに対してのみ細胞傷害活性を有することが示された。
【0112】
試験例5
本発明のTCRを発現するiPS細胞由来T細胞の細胞傷害性試験(2)
TCR1-1’を発現するiPS細胞由来T細胞の細胞傷害性をCyteCell Imaging Systemにより測定した。具体的には、標的細胞(JHH7株、HepG2株、またはSK-Hep-1株(いずれも、ヒト肝臓癌細胞株))にCalcein-AM(Dojindo)溶液を添加、37℃で30分間標識した。その後、Hoechst33342(ThermoFisher)溶液を添加、37℃で20分間標識した。標的細胞に、エフェクター細胞を図5に示す比率で添加し、37℃で4時間反応させた。緑色蛍光陽性および青色蛍光陽性の細胞を生存細胞(viable target cell count (VTCC))として計測し、上記T細胞の細胞傷害活性(%lysis)を以下の式にしたがって算出した。
【0113】
【数3】
【0114】
なお、上式において、最大放出VTCCとは1% Triton X-100を加えて標的細胞を破壊したときのVTCCを示す。
本試験の結果を図6に示す。図6より、TCR1-1’を発現するiPS細胞由来T細胞は、HLA-A24陽性かつGPC3陽性の肝臓癌細胞(JHH7株およびHepG2株)に対して細胞傷害性を有することが示された。
【0115】
本出願は、日本国で出願された特願2017-019883(出願日:2017年2月6日)を基礎としており、ここで言及することにより、その内容は本明細書に全て包含される。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明により、GPC3ペプチド(HLA-A24-拘束性GPC3298-306ペプチド及びHLA-A02-拘束性GPC3144-152ペプチド)又は該ペプチドとHLA-A分子(HLA-A24又はHLA-A02)との複合体に対する結合能を有するT細胞受容体及びそれらをコードする核酸が提供される。前記T細胞受容体をコードする核酸は、HLA-A分子とGPC3ペプチドを提示する細胞に対する細胞傷害活性をT細胞に付与し得ることから、GPC3を発現する疾患の予防又は治療に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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