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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】モータ装置およびモータ装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/092 20160101AFI20220830BHJP
【FI】
H02P25/092
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021100009
(22)【出願日】2021-06-16
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521263537
【氏名又は名称】NASCA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】城ノ口 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103957(JP,A)
【文献】特開2016-144291(JP,A)
【文献】特開2008-154318(JP,A)
【文献】特開2004-112970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し6相巻線が巻回されたモータ部と、
前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、
前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備えるモータ装置であって、
前記スイッチインバータ部は、第1電位と第2電位の間に上段スイッチ、中間スイッチおよび下段スイッチが直列接続されたスイッチ群が3つ並列接続されており、
前記スイッチ制御部は、前記上段スイッチと前記下段スイッチにそれぞれ反転した制御信号を送出し、
前記制御信号が切り替わってから所定期間、同じ群に含まれる前記中間スイッチにオン信号を送出することを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相から6相巻線が巻回されており、前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相の一端は中性点に接続されており、
前記スイッチインバータ部は、第1スイッチ群、第2スイッチ群および第3スイッチ群が並列に接続され、
前記第1スイッチ群は、前記第1電位から順に第1上段スイッチ、第1中間スイッチおよび第1下段スイッチが直列接続され、
前記第2スイッチ群は、前記第1電位から順に第2上段スイッチ、第2中間スイッチおよび第2下段スイッチが直列接続され、
前記第3スイッチ群は、前記第1電位から順に第3上段スイッチ、第3中間スイッチおよび第3下段スイッチが直列接続され、
前記第1上段スイッチと前記第1中間スイッチの間に前記A相の他端が接続され、前記第1中間スイッチと前記第1下段スイッチの間に前記D相の他端が接続され、
前記第2上段スイッチと前記第2中間スイッチの間に前記E相の他端が接続され、前記第2中間スイッチと前記第2下段スイッチの間に前記B相の他端が接続され、
前記第3上段スイッチと前記第3中間スイッチの間に前記C相の他端が接続され、前記第3中間スイッチと前記第3下段スイッチの間に前記F相の他端が接続されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記スイッチ制御部は、前記中間スイッチを流れる電流値が、最大値の半分になるまで前記オン信号を継続することを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ装置であって、
前記スイッチ制御部は、前記電流値が前記最大値の四分の一になるまで前記オン信号を継続することを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ装置であって、
前記スイッチ制御部は、前記電流値が0になるまで前記オン信号を継続することを特徴とするモータ装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記スイッチ制御部は、前記中間スイッチの両端の電位を検出し、下段側電位が上段側電位よりも大きい場合に前記オン信号を送出することを特徴とするモータ装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであることを特徴とするモータ装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=5:6であることを特徴とするモータ装置。
【請求項9】
固定子に対して6相の巻線が巻回され、スイッチインバータ部からの出力により回転子を回転させるモータ装置の駆動方法であって、
前記スイッチインバータ部は、上段スイッチ、中間スイッチおよび下段スイッチが直列接続されたスイッチ群が3つ並列接続されており、
前記上段スイッチおよび前記下段スイッチに互いに反転した制御信号を送出する相制御工程と、
前記制御信号のオン信号とオフ信号の切り替えを検出する切替検出工程と、
前記制御信号の切り替えが検出された場合には、前記中間スイッチに所定期間のオン信号を送出する還流制御工程と、を備えることを特徴とするモータ装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置およびモータ装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源として用いられている。また、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータも提案されている。(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
図7は、三相巻線を2系統備えたモータ装置の駆動回路を簡略化して示す回路図である。図7に示すようにモータ装置は、第1系統の三相巻線としてA相コイル、E相コイル、C相コイルを有し、第2系統の三相巻線としてD相コイル、B相コイル、F相コイルを有している。また、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に、各相に対応する6つのスイッチが直並列で接続されている。したがって、スイッチAとスイッチDの直列接続、スイッチEとスイッチBの直列接続、スイッチCとスイッチFの直列接続が並列接続されている。また、上下段の各スイッチA,E,CとスイッチD,B,Fの間には還流ダイオードが接続されている。また、各スイッチと還流ダイオードの間は、各相の巻線(コイル)の一端に接続されている。各相の巻線の他端は、中性点に接続されている。また、各スイッチには寄生ダイオードが逆接続された構成となっている。
【0004】
図7に示したモータ装置では、スイッチA~Fに位相が1/6周期ずつ異なる信号を入力する。このとき、上段と下段のスイッチにはそれぞれ反転した信号が入力される。また、上段と下段のスイッチの間にはそれぞれ還流ダイオードが逆接続されているため、上段から下段への電流は遮断され、他相の巻線と中性点を経由して下段に電流が流れることは防止される。例えば、スイッチAがオンでスイッチDがオフ、さらにスイッチEがオンの場合に、スイッチEからE相コイル、中性点、A相コイルを経てスイッチDを流れるような電流は生じない。これにより、各相のコイルに適切に電流が流れて、スイッチトリラクタンスモータを回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-093889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図7に示したモータ装置の駆動回路では、各スイッチの切り替え時に還流ダイオードに電流が流れる。図8は、図7に示した駆動回路における上段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図8(a)はスイッチA,Eがオン時の電流を示し、図8(b)はスイッチAをオフにした直後の電流を示している。図9は、図7に示した駆動回路における下段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図9(a)はスイッチB,Dがオン時の電流を示し、図9(b)はスイッチDをオフにした直後の電流を示している。図8図9中に破線で示した矢印は電流の流れを示している。図8および図9では、スイッチAとスイッチDの場合について示したが、スイッチEとスイッチBおよびスイッチCとスイッチFも同様となる。
【0007】
図8(a)に示したように、スイッチA,E,FがオンでスイッチB,C,Dがオフの場合には、電源電圧からスイッチAとA相コイルおよびスイッチEとE相コイルを経て中性点に電流が流れ、F相コイルとスイッチFを経て中性点から電流が接地電圧に流れる。スイッチAがオフに切り替わった場合には、スイッチAの反転信号であるオン信号がスイッチDに印加されオンになる。スイッチAがオフ、スイッチDがオンになった直後には、図8(b)に示したように、A相コイルを流れていた電流の過渡応答により、スイッチDの寄生ダイオードを介して接地電圧側からスイッチDおよび還流ダイオードを介してA相コイルに電流が流れる。
【0008】
図9(a)に示したように、スイッチB,C,DがオンでスイッチA,E,Fがオフの場合には、電源電圧からスイッチCとC相コイルを経て中性点に電流が流れ、B相コイルとスイッチBおよびD相コイルとスイッチDを経て中性点から電流が接地電圧に流れる。スイッチDがオフに切り替わった場合には、スイッチDの反転信号であるオン信号がスイッチAに印加されオンになる。スイッチDがオフ、スイッチAがオンになった直後には、図9(b)に示したように、D相コイルを流れていた電流の過渡応答により、還流ダイオードを介してA相コイルに電流が流れる。
【0009】
図8(b)および図9(b)に示したように、スイッチの切り替え直後には、コイルを流れていた電流の過渡応答によって、還流ダイオードを電流が流れる。還流ダイオードはダイオード特性を有しているため、電流iが流れる場合には順方向電圧Vfだけ電圧降下が発生し、電力ΔW=i・Vfが消費される。この還流ダイオードによる電力の消費は、6相全てのスイッチのオフ動作時に発生するため、電源電圧から供給された電力が回転子の回転エネルギーに変換される効率が低下し、モータ装置が出力するトルクが低下するという問題が発生する。
【0010】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、還流ダイオードによる電力消費を抑制し、トルクの向上を図ることが可能なモータ装置およびモータ装置の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し6相巻線が巻回されたモータ部と、前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備えるモータ装置であって、前記スイッチインバータ部は、第1電位と第2電位の間に上段スイッチ、中間スイッチおよび下段スイッチが直列接続されたスイッチ群が3つ並列接続されており、前記スイッチ制御部は、前記上段スイッチと前記下段スイッチにそれぞれ反転した制御信号を送出し、前記制御信号が切り替わってから所定期間、同じ群に含まれる前記中間スイッチにオン信号を送出することを特徴とする。
【0012】
このような本発明のモータ装置では、上段スイッチと下段スイッチに送出される制御信号のオン信号とオフ信号が切り替わった場合に、中間スイッチにオン信号を送出して導通させることで、下段側から上段側に還流電流が流れる際の電力消費を抑制し、トルクの向上を図ることが可能となる。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相から6相巻線が巻回されており、前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相の一端は中性点に接続されており、前記スイッチインバータ部は、第1スイッチ群、第2スイッチ群および第3スイッチ群が並列に接続され、前記第1スイッチ群は、前記第1電位から順に第1上段スイッチ、第1中間スイッチおよび第1下段スイッチが直列接続され、前記第2スイッチ群は、前記第1電位から順に第2上段スイッチ、第2中間スイッチおよび第2下段スイッチが直列接続され、前記第3スイッチ群は、前記第1電位から順に第3上段スイッチ、第3中間スイッチおよび第3下段スイッチが直列接続され、前記第1上段スイッチと前記第1中間スイッチの間に前記A相の他端が接続され、前記第1中間スイッチと前記第1下段スイッチの間に前記D相の他端が接続され、前記第2上段スイッチと前記第2中間スイッチの間に前記E相の他端が接続され、前記第2中間スイッチと前記第2下段スイッチの間に前記B相の他端が接続され、前記第3上段スイッチと前記第3中間スイッチの間に前記C相の他端が接続され、前記第3中間スイッチと前記第3下段スイッチの間に前記F相の他端が接続されている。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記スイッチ制御部は、前記中間スイッチを流れる電流値が、最大値の半分になるまで前記オン信号を継続する。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記スイッチ制御部は、前記電流値が前記最大値の四分の一になるまで前記オン信号を継続する。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記スイッチ制御部は、前記電流値が0になるまで前記オン信号を継続する。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記スイッチ制御部は、前記中間スイッチの両端の電位を検出し、下段側電位が上段側電位よりも大きい場合に前記オン信号を送出する。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータである。
【0019】
また、本発明の一態様では、前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=5:6である。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明のモータ装置の駆動方法は、固定子に対して6相の巻線が巻回され、スイッチインバータ部からの出力により回転子を回転させるモータ装置の駆動方法であって、前記スイッチインバータ部は、上段スイッチ、中間スイッチおよび下段スイッチが直列接続されたスイッチ群が3つ並列接続されており、前記上段スイッチおよび前記下段スイッチに互いに反転した制御信号を送出する相制御工程と、前記制御信号のオン信号とオフ信号の切り替えを検出する切替検出工程と、前記制御信号の切り替えが検出された場合には、前記中間スイッチに所定期間のオン信号を送出する還流制御工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、還流ダイオードによる電力消費を抑制し、トルクの向上を図ることが可能なモータ装置およびモータ装置の駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係るモータ装置の概要を示す図であり、図1(a)はスイッチインバータ部の構成を示す回路図であり、図1(b)はモータ部の構造例を示す模式図である。
図2】スイッチ制御部からスイッチインバータ部に送出される制御信号のタイミングチャートであり、図2(a)は3つのスイッチ群における上段スイッチと下段スイッチへの制御信号を示し、図2(b)は第1スイッチ群に含まれる各スイッチへの信号を示している。
図3】還流制御工程を用いた場合について示すタイミングチャートであり、図3(a)は巻線への経路と寄生ダイオードに流れる電流値を示し、図3(b)は各スイッチのゲートに印加される信号を示している。
図4】還流制御工程を用いない場合について示すタイミングチャートであり、図4(a)は巻線への経路と寄生ダイオードに流れる電流値を示し、図4(b)は各スイッチのゲートに印加される信号を示している。
図5】中間スイッチADにおける寄生ダイオードのI-V特性の一例を示すグラフである。
図6】モータ装置のトルク波形を示すグラフであり、図6(a)は電源電圧を36Vで計算したシミュレーション結果を示し、図6(b)は電源電圧を680Vで計算したシミュレーション結果を示している。
図7】三相巻線を2系統備えたモータ装置の駆動回路を簡略化して示す回路図である。
図8図7に示した駆動回路における上段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図8(a)はスイッチA,Eがオン時の電流を示し、図8(b)はスイッチAをオフにした直後の電流を示している。
図9図7に示した駆動回路における下段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図9(a)はスイッチB,Dがオン時の電流を示し、図9(b)はスイッチDをオフにした直後の電流を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るモータ装置の概要を示す図であり、図1(a)はスイッチインバータ部の構成を示す回路図であり、図1(b)はモータ部の構造例を示す模式図である。
【0024】
図1(a)に示すように、本実施形態のスイッチインバータ部は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に3つのスイッチ群(第1スイッチ群、第2スイッチ群、第3スイッチ群)が並列に接続されている。各スイッチ群には、3つのスイッチが含まれて直列接続されており、合計9個のスイッチでスイッチインバータ部が構成されている。各スイッチは、それぞれドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースが接地電圧側(下流側)に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に逆接続された等価回路となる。
【0025】
また、モータ部は、A相巻線、E相巻線、C相巻線の3つの巻線(コイル)で構成される第1系統の三相巻線と、D相巻線、B相巻線、F相巻線の3つの巻線で構成される第2系統の三相巻線を備えている。図1(a)に示したように、A相巻線、E相巻線、C相巻線、D相巻線、B相巻線、F相巻線の一端は共通の中性点に接続されている。また、各スイッチはスイッチ制御部(図示省略)によって動作が制御される。
【0026】
第1スイッチ群には、電源電圧側から順に上段スイッチAと、中間スイッチADと、下段スイッチDとが直列接続されている。また、上段スイッチAと中間スイッチADの間がA相巻線の他端に接続されている。また、中間スイッチADと下段スイッチDの間がD相巻線の他端に接続されている。ここで、上段スイッチA、中間スイッチAD、下段スイッチDは、それぞれ本発明における第1上段スイッチ、第1中間スイッチ、第1下段スイッチに相当している。
【0027】
第2スイッチ群には、電源電圧側から順に上段スイッチEと、中間スイッチEBと、下段スイッチBとが直列接続されている。また、上段スイッチEと中間スイッチEBの間がE相巻線の他端に接続されている。また、中間スイッチEBと下段スイッチBの間がB相巻線の他端に接続されている。ここで、上段スイッチE、中間スイッチEB、下段スイッチBは、それぞれ本発明における第2上段スイッチ、第2中間スイッチ、第2下段スイッチに相当している。
【0028】
第3スイッチ群には,電源電圧側から順に上段スイッチCと、中間スイッチCFと、下段スイッチFとが直列接続されている。また、上段スイッチCと中間スイッチCFの間がC相巻線の他端に接続されている。また、中間スイッチCFと下段スイッチFの間がF相巻線の一端に接続されている。ここで、上段スイッチC、中間スイッチCF、下段スイッチFは、それぞれ本発明における第2上段スイッチ、第2中間スイッチ、第2下段スイッチに相当している。
【0029】
図1(b)に示すように、モータ部10は回転子(ロータ)11と、回転子11の周囲に配置された固定子(ステータ)12を備えている。また、回転子11には、外周に沿って強磁性体からなるロータティースが配置されている。また固定子12は、コアバック部とその内周に突出して形成された複数のティース部13を備えている。また、各ティース部13には巻線(コイル)14が巻回されて、上述したA相巻線、E相巻線、C相巻線の第1系統の三相巻線と、D相巻線、B相巻線、F相巻線の第2系統の三相巻線が構成されている。
【0030】
コアバック部は、回転子11の外側に回転子11の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部13が等間隔に突出して形成されている。コアバック部には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0031】
ティース部13は、コアバック部の内周面から回転子11に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部13は同じ長さと形状で形成されるとともに等間隔に配置されており、各ティース部13の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部13およびスロットには、巻線14が巻回されており、巻線14に電流が流れることでティース部13に磁界が発生する。
【0032】
ここで、A相巻線、E相巻線およびC相巻線は、それぞれ1/3周期の差で配置されており第1系統の三相巻線を構成している。同様に、D相巻線、B相巻線およびF相巻線も、それぞれ1/3周期の差で配置されており第2系統の三相巻線を構成している。図1(b)では、回転子11が10個のロータティースを備え、固定子12が12個のティース部13を備えた10極12スロットのスイッチトリラクタンスモータの例を示している。モータ部の極数Pとスロット数Sは、10極12スロットには限定されないが、P:S=5:6の比率となっている。また、ティース部13への各相の巻回方法も集中巻きに限定されず分布巻きであってもよい。
【0033】
次に、モータ装置の制御方法について説明する。図2は、スイッチ制御部からスイッチインバータ部に送出される制御信号のタイミングチャートであり、図2(a)は3つのスイッチ群における上段スイッチと下段スイッチへの制御信号を示し、図2(b)は第1スイッチ群に含まれる各スイッチへの信号を示している。図2(a)(b)における横軸は時間経過を示しており、360度を1周期とした共通の電気角を表している。また、図2(a)(b)における縦軸はオン信号およびオフ信号を示しており、横軸に重なる位置がLowでオフ信号を示し、横軸から上方に離れた位置がHighでオン信号を示している。
【0034】
図2(a)に示したように、スイッチ制御部はスイッチインバータ部の各スイッチに対して、180度周期(1/2周期)のオン信号とオフ信号を交互に切り替えてゲートに送出する。このとき、上段スイッチA、下段スイッチB、上段スイッチCに印加される制御信号は、それぞれ位相が60度(1/6周期)ずつ異なっている。また、同じスイッチ群における上段スイッチと下段スイッチは、互いの制御信号が反転した反転信号とされている。具体的には、上段スイッチAと下段スイッチD、上段スイッチEと下段スイッチB、上段スイッチCと下段スイッチFには、それぞれ反転信号が入力される(相制御工程)。ここでは上段スイッチと下段スイッチに完全に反転した信号を印加する例を示したが、後述するようにわずかにオン信号をオフ信号よりも長くし、上段スイッチと下段スイッチの両者にオン信号が印加されるオーバーラップ期間を設けるとしてもよい。
【0035】
図2(b)に示したように、スイッチ制御部は、上段スイッチAと下段スイッチDに印加された制御信号のオン信号とオフ信号が切り替わるタイミングを検出する(切替検出工程)。また、上段スイッチAと下段スイッチDの制御信号が切り替わった場合には、スイッチ制御部は中間スイッチADのゲートにオン信号を送出して、所定期間経過後にオフ信号を送出する(還流制御工程)。また、図2(b)では中間スイッチADにオン信号が印加される期間として90度(1/4周期)の例を示しているが、後述するように還流制御工程で中間スイッチADに印加されるオン信号の継続時間は90度に限定されない。
【0036】
次に、還流制御工程による消費電力低減について図3および図4を用いて説明する。図3は、還流制御工程を用いた場合について示すタイミングチャートであり、図3(a)は巻線への経路と寄生ダイオードに流れる電流値を示し、図3(b)は各スイッチのゲートに印加される信号を示している。図4は、還流制御工程を用いない場合について示すタイミングチャートであり、図4(a)は巻線への経路と寄生ダイオードに流れる電流値を示し、図4(b)は各スイッチのゲートに印加される信号を示している。
【0037】
図3(a)(b)および図4(a)(b)の横軸は共通の時間経過を示す時間軸である。図3(a)および図4(a)において、実線は中間スイッチADの寄生ダイオードに流れる電流値を示し、破線はA相巻線に接続された配線に流れる電流値を示し、一点鎖線はD相巻線に接続された配線に流れる電流値を示している。図3(b)および図4(b)では、上段スイッチAと下段スイッチDにそれぞれ185度のオン信号と175度のオフ信号を交互に印加して、わずかに両者にオン信号が印加した例を示している。
【0038】
図3および図4に示したように、上段スイッチAのゲートにオン信号が印加されると、A相巻線に接続された配線には徐々に電流が流れ始め、一定時間経過後に最大値をとる。上段スイッチAのゲートに印加される制御信号がオン信号からオフ信号に切り替わると、A相巻線に接続された配線の電流値は、最大値から徐々に減少して一定時間経過後に0となる。これは、A相巻線のインダクタンスによって電圧変化から電流の位相が遅れることによる。下段スイッチDに印加される制御信号の切り替えでも同様である。このとき、上段スイッチAまたは下段スイッチDにオフ信号が印加されて非導通状態とされていても、A相巻線またはD相巻線に接続された配線には過渡応答による還流電流が流れることとなる。この還流電流は、中間スイッチADのソース側(下流側)からドレイン側(上流側)に向かって電流が流れることによる。
【0039】
還流制御工程を用いる場合には、図3(b)に示したように、上段スイッチAと下段スイッチDに印加される制御信号の切り替え時点から、中間スイッチADにはオン信号が印加されて導通状態となる。この中間スイッチADの導通状態は、A相巻線またはD相巻線に接続された配線を流れる還流電流が0となるまで継続する。この際に、還流電流は導通状態である中間スイッチADを流れるため、図3(a)に実線で示されているように、寄生ダイオードには電流が流れない。
【0040】
還流制御工程を用いない場合には、図4(b)に示したように、上段スイッチAと下段スイッチDに印加される制御信号の切り替えに関わらず、中間スイッチADにはオフ信号が印加されて遮断状態が継続する。この際に、図3(a)に実線で示されているように、還流電流は中間スイッチADにおける寄生ダイオードを流れる。
【0041】
図5は、中間スイッチADにおける寄生ダイオードのI-V特性の一例を示すグラフである。図5の横軸は寄生ダイオードに印加される電圧(V)を示し、縦軸は寄生ダイオードを流れる電流値(mA)を示している。図5に示したように、中間スイッチADの寄生ダイオードは、0.4~0.5V程度の順方向電圧(Vf)のダイオード特性を有しており、電流が流れる場合に0.4~0.5V程度の電圧降下を引き起こすこととなる。つまり、図4(a)に実線で示したように、還流電流が寄生ダイオードを流れる場合には、それに応じた電圧降下が中間スイッチADの両端に生じることとなる。
【0042】
したがって還流制御工程を用いない場合には、図4(a)の実線で示された面積に相当する電力が寄生ダイオードによって消費されることとなる。それに対して還流制御工程を用いる場合には、還流電流は寄生ダイオードを流れず導通状態の中間スイッチADを流れるため、電圧降下がほとんどなく消費電力を極めて小さくすることができる。
【0043】
また、還流制御工程で中間スイッチADにオン信号を送出して導通状態とする期間は、中間スイッチADを流れる還流電流の電流値が、少なくとも最大値の半分になるまで継続することが好ましい。図4(a)に示したように、還流電流は徐々に減少していくため、最大値の半分になるまで中間スイッチADを導通状態にしておくことで、寄生ダイオードを流れる還流電流による電力消費を約1/4程度にまで抑制することができる。また、中間スイッチADを流れる還流電流の電流値が、最大値の四分の一になるまで中間スイッチADにオン信号を送出して導通状態とすると、さらに寄生ダイオードによる電力消費を抑制できる。さらに、中間スイッチADを流れる還流電流の電流値が0になるまで、中間スイッチADにオン信号を送出して導通状態とすることが好ましい。
【0044】
中間スイッチADにオン信号を送出する機関の決定方法は限定されないが、一例としては、スイッチ制御部に理想ダイオードコントローラの機能を備えることが挙げられる。この場合、スイッチ制御部は、中間スイッチADの両端の電圧を測定して、下段スイッチD側の電圧(ソース電位、下段側電位)が上段スイッチA側の電圧(ドレイン電位、上段側電位)よりも大きい場合に、中間スイッチADのゲートにオン信号を送出する。また、中間スイッチADの両端の電圧において、上段側電位が下段側電位よりも大きくなるまでオン信号を継続する。このような理想ダイオードコントローラを用いることで、中間スイッチADは理想ダイオードとして動作し、還流電流が流れる際の電圧降下を著しく低減することができる。
【0045】
上述した図2図4では、第1スイッチ群についてのスイッチ制御部の制御動作を示したが、第2スイッチ群を構成する上段スイッチE、中間スイッチEB、下段スイッチBの組み合わせ、および第3スイッチ群を構成する上段スイッチC、中間スイッチCF、下段スイッチFの組み合わせも同様である。したがって、還流制御工程を用いることによる電力消費の低減効果は、6相全ての巻線での全周期において得られることとなる。
【0046】
図6は、モータ装置のトルク波形を示すグラフであり、図6(a)は電源電圧を36Vで計算したシミュレーション結果を示し、図6(b)は電源電圧を680Vで計算したシミュレーション結果を示している。図6において横軸は時間(秒)を示し、縦軸は回転子11に生じるトルク(Nm)を示している。グラフ中の実線は、還流制御工程を用いずに中間スイッチの寄生ダイオードを還流電流が流れた場合を示している。グラフ中の破線は、還流制御工程を用いて、還流電流が0になるまで中間スイッチを導通状態として、導通状態の中間スイッチを還流電流が流れる場合を示している。
【0047】
図6(a)(b)に示したように、還流制御工程を用いて導通状態の中間スイッチに還流電流を流す場合のほうが、還流制御工程を用いず寄生ダイオードに還流電流を流す場合よりもトルクが大きくなっている。ここで、図6(a)に示した結果では約6%のトルク向上であり、図6(b)に示した結果では約0.1%のトルク向上であった。電源電圧が小さい場合には、寄生ダイオードでの0.4~0.6V程度の電圧降下も影響が大きく、還流制御工程によるトルク向上の効果が大きいことがわかる。
【0048】
上述したように本実施形態では、上段スイッチ、中間スイッチおよび下段スイッチが直列接続されたスイッチ群を3つ並列接続されたスイッチインバータ部において、スイッチ制御部は、上段スイッチと下段スイッチにそれぞれ反転した制御信号を送出し、制御信号が切り替わってから所定期間、同じ群に含まれる中間スイッチにオン信号を送出することで、導通状態の中間スイッチを介して還流電流を流すことができ、寄生ダイオードによる電力消費を抑制して出力トルクを向上させることができる。
【0049】
(第2実施形態)
第1実施形態では、スイッチ制御部に理想ダイオードコントローラを用いて、上段側電位が下段側電位よりも大きくなるまで中間スイッチの導通状態を継続したが、本実施形態では所定の電位差となるまでオン信号を継続する。一例としては、下段側電位が上段側電位よりも大きく、中間スイッチの両端の電位差が電源電圧の数%となった段階で、中間スイッチへ送出する信号をオフ信号とする。具体的な電位差の範囲は限定されないが、例えば1%~3%の範囲とすることが好ましい。
【0050】
本実施形態では、中間スイッチの寄生ダイオードにわずかに還流電流が流れる可能性があるが、両端の電位差が電源電圧の数%程度になるまでは、中間スイッチの導通状態が継続する。これにより、還流電流による電力消費を抑制し、トルク向上を図ることができる。
【0051】
(第3実施形態)
本実施形態では、中間スイッチに対してオン信号を送出する継続期間Tを予め定めてスイッチ制御部に記録しておき、上段スイッチおよび下段スイッチへの制御信号の切り替え時点から継続期間Tが経過するまでオン信号を継続し、継続期間T経過後にオフ信号に切り替える。ここで継続期間Tは、回転子11の回転速度や、各相を流れる電流値を変数としてテーブルを作成しておき、上段スイッチおよび下段スイッチへの制御信号の切り替え時点における回転速度や電流値に基づいて、テーブルを参照して継続期間Tを決定するとしてもよい。または、回転速度や電流値と継続期間Tの関係を数式で記述しておき、当該数式に回転速度や電流値を入力して継続期間Tを算出するとしてもよい。
【0052】
本実施形態では、予め定められたテーブルや数式に基づいて、回転速度や電流値から継続期間Tを決定し、フィードフォワード制御によって中間スイッチへのオン信号の送出期間が決定される。これにより、中間スイッチの両端電位を測定する必要が無く、回路構成を簡略化しながらも還流電流による電力消費を抑制し、トルク向上を図ることができる。
【0053】
(第4実施形態)
本実施形態では、中間スイッチのドレインとソースの間にシャント抵抗を並列接続しておき、シャント抵抗を流れる電流Isを検出して、電流Isの向きが寄生ダイオードの順方向である期間は、中間スイッチにオン信号を送出する。
【0054】
本実施形態では、シャント抵抗を用いて電流の向きを検出するだけで、中間スイッチにオン信号を送出して導通状態とする期間を決定する。これにより、回路構成を簡略化しながらも還流電流による電力消費を抑制し、トルク向上を図ることができる。
【0055】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…モータ部
11…回転子
12…固定子
13…ティース部
14…巻線
【要約】
【課題】還流ダイオードによる電力消費を抑制し、トルクの向上を図ることが可能なモータ装置およびモータ装置の駆動方法を提供する。
【解決手段】6相巻線が巻回されたモータ部と、モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備え、スイッチインバータ部は、第1電位と第2電位の間に上段スイッチ(A,E,C)、中間スイッチ(AD,EB,CF)および下段スイッチ(D,B,F)が直列接続されたスイッチ群が3つ並列接続されており、スイッチ制御部は、上段スイッチ(A,E,C)と下段スイッチ(D,B,F)にそれぞれ反転した制御信号を送出し、制御信号が切り替わってから所定期間、同じ群に含まれる中間スイッチ(AD,EB,CF)にオン信号を送出するモータ装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9