(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 13/14 20060101AFI20220830BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20220830BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20220830BHJP
【FI】
A23C13/14
A23D7/00 508
A23L9/20
(21)【出願番号】P 2018129656
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】内田 英明
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼ 直樹
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-142248(JP,A)
【文献】特開2006-325426(JP,A)
【文献】日本食品工業学会誌,1994年,Vol.41,No.5,pp.327-334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型乳化物を加熱殺菌する加熱殺菌工程と、
前記加熱殺菌工程後の前記水中油型乳化物を
10℃以上20℃以下の範囲内の温度まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後の前記水中油型乳化物を、0℃以上1℃以下の範囲内の温度にまで降温する第21降温工程と、
前記第21降温工程後の前記水中油型乳化物を、0℃以上1℃以下の範囲内の温度で第21時間静置する第21静置工程と、
前記第21静置工程後の前記水中油型乳化物を、3±1℃の範囲内の温度にまで昇温する第21昇温工程と、
前記第21昇温工程後の前記水中油型乳化物を、3±1℃の範囲内の温度で第22時間静置する第22静置工程と
を備え
る、起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項2】
前記第21時間は、0.5時間以上6時間以下の範囲内であり、
前記第22時間は、24±2時間の範囲内である
請求項
1に記載の起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程では、前記加熱殺菌工程後の前記水中油型乳化物が1分以上10分以下の範囲内の時間に10℃以上20℃以下の範囲内の温度まで冷却される
請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンドクリームやノンデイリークリーム(植物油脂クリーム)等の起泡性水中油型乳化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「クリーム類の組成を調整することによってクリーム類の乳化安定性を向上させたり、ホイップ時間を短縮化させたりすること」が提案されている(例えば、特開2018-019610号公報、特開2017-176101号公報、特開2016-171764号公報、特開平5-171223号公報等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-019610号公報
【文献】特開2017-176101号公報
【文献】特開平5-171223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の提案では、クリーム類の組成が固定化されるためクリーム類の風味等、他の物性を向上または維持させることが難しくなると思われる。
【0005】
本発明の課題は、起泡性水中油型乳化物の組成に関わらず、乳化安定性の向上およびホイップ時間の短縮の少なくとも一方を実現することができる起泡性水中油型乳化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法は、加熱殺菌工程、冷却工程、第21降温工程、第21静置工程、第21昇温工程および第22静置工程を備える。加熱殺菌工程では、水中油型乳化物が加熱殺菌される。なお、この加熱殺菌工程において均質化処理がなされてもかまわない。冷却工程では、加熱殺菌工程後の水中油型乳化物が10℃以上20℃以下の範囲内の温度まで冷却される。なお、この冷却工程では、多段階冷却が行われてもかまわない。また、この冷却工程において多段階冷却が行われる場合、そのいずれかの段階において均一化等、他の処理が施されてもかまわない。また、この冷却工程は、例えば、温度変化工程に供される装置(温調機能のみを有する装置、均温用攪拌機能付き温調装置など)の上流側の装置(例えば、加熱殺菌装置や、均質化器など)の出口またはその近傍で終了すると考えてもよいし、第21昇温工程に移る場合、その第21降温工程に供される装置または装置領域の設定温度とは異なる設定温度を有する直前の装置または装置領域の出口またはその近傍で終了すると考えてもよい。第21降温工程では、冷却工程後の水中油型乳化物が0℃以上1℃以下の範囲内の温度にまで降温される。なお、この第21降温工程では多段階降温が行われてもかまわない。第21静置工程では、第21降温工程後の水中油型乳化物が、0℃以上1℃以下の範囲内の温度で第21時間静置される。第21昇温工程では、第21静置工程後の水中油型乳化物が、3±1℃の範囲内の温度にまで昇温される。また、この第21昇温工程では多段階昇温が行われてもかまわないが、一段階昇温が行われることが好ましい。第22静置工程では、第21昇温工程後の水中油型乳化物が、3±1℃の範囲内の温度で第22時間静置される。
【0007】
本願発明者らの鋭意検討の結果、冷却工程後に第21降温工程、第21静置工程、第21昇温工程および第22静置工程を実行することによって、起泡性水中油型乳化物の組成に関わらず、ホイップ時間を維持しつつ乳化安定性を向上することができることが明らかとされた。
【0008】
本発明の第2局面に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法は第1局面に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法であって、第21時間は、0.5時間以上6時間以下の範囲内である。また、第22時間は、24±2時間の範囲内である。
【0009】
本発明の第3局面に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法は第1局面または第2局面に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法であって、冷却工程では、加熱殺菌工程後の水中油型乳化物が1分以上10分以下の範囲内の時間に10℃以上20℃以下の範囲内の温度まで冷却される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る起泡性水中油型乳化物製造システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
-第1実施形態-
本発明の第1実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法は、加熱殺菌工程、冷却工程、昇温工程、第1静置工程、降温工程および第2静置工程を含む。以下、これらの工程について詳述する。なお、これらの工程は、逐次的に実行されてもよいし、
図1に示されるような起泡性水中油型乳化物製造システム100を利用して連続的に実行されてもよい。なお、
図1中、符号EMは乳化装置等を示し、符号110は加熱殺菌装置を示し、符号120は冷却装置を示し、符号130はゾーン式温調装置を示し、符号TH1は第1サーミスタ示し、符号TH2は第2サーミスタを示し、符号TH3は第3サーミスタを示している。なお、ゾーン式温調装置130では複数のゾーンZ1,Z2が設けられており、各ゾーンZ1,Z2において温調が行われる。また、第1サーミスタTH1は冷却装置120の出口に配設されており、第2サーミスタTH2はゾーン式温調装置130の第1ゾーンZ1に配設されており、第3サーミスタTH3はゾーン式温調装置130第2ゾーンZ2に配設されている。また、起泡性水中油型乳化物の製造に際して起泡性水中油型乳化物製造システム100を利用する場合、以下の冷却工程における起泡性水中油型乳化物の温度は第1サーミスタTH1により監視され、昇温工程および第1静置工程における起泡性水中油型乳化物の温度は第2サーミスタTH2により監視され、降温工程における起泡性水中油型乳化物の温度は第3サーミスタTH3により監視される。なお、降温工程後の起泡性水中油型乳化物は、容器140に封入されて冷蔵庫に静置される。
【0012】
(1)加熱殺菌工程
加熱殺菌工程では、起泡性水中油型乳化物が加熱殺菌処理される。なお、ここにいう「起泡性水中油型乳化物」とは、コンパウンドクリームや、ノンデイリークリーム等である。なお、ここにいう「コンパウンドクリーム」とは、クリームの乳脂肪の一部を「植物性脂肪(植物油脂等)」に置き換えたものをいう。また、ここにいう「ノンデイリークリーム」とは、乳脂肪が含まれず、脂肪分として「植物性脂肪」のみを用いたものをいう。なお、コンパウンドクリームおよびノンデイリークリームには、安定剤や乳化剤等が含まれていることが多い。ところで、加熱殺菌工程に供せられる起泡性水中油型乳化物は製造されてもよいし購入されてもよい。ただし、起泡性水中油型乳化物が購入される場合、その起泡性水中油型乳化物は加熱殺菌処理前のものでなければならない。
【0013】
加熱殺菌処理は、例えば、バッチ式保持法、高温短時間殺菌法(HTST)、超高温殺菌法(UHT)等によって実施されるが、殺菌効率や風味の維持等の面から超高温殺菌法(UHT)によって実施されることが好ましい。加熱殺菌処理としてバッチ式保持法が採用される場合、加熱温度は70℃前後であることが好ましく、加熱時間は30分間程度であることが好ましい。また、加熱殺菌処理として高温短時間殺菌法が採用される場合、加熱温度は82℃以上85℃以下の範囲内であることが好ましく、加熱時間は10秒前後であることが好ましい。さらに、加熱殺菌処理として超高温殺菌法が採用される場合、加熱温度は120℃以上130℃以下の範囲内であることが好ましく、加熱時間は2秒以上15秒以下の範囲内であることが好ましい。また、殺菌処理に供される装置としては、例えば、ヒータ付タンク(バッチ式)や、プレート型熱交換器、掻き取り式熱交換器(連続式)が挙げられる。
【0014】
ところで、本加熱殺菌工程において、起泡性水中油型乳化物に対して加熱殺菌処理のみならず、均質化処理が施されてもよい。なお、均質化処理は、加熱殺菌処理の前に行われてもよいし、後に行われてもよいし、同時に行われてもよい。また、均質化方法として、単段均質化法が採用されてもよいし、多段均質化法が採用されてもよい。
【0015】
(2)冷却工程
冷却工程では、加熱殺菌工程後の起泡性水中油型乳化物が冷却される。なお、特に限定されないが、この冷却工程では、加熱殺菌工程後の起泡性水中油型乳化物が1分以上10分以下の範囲内の時間に3℃以上10℃以下の範囲内の温度まで冷却されることが好ましい。また、この冷却工程では、多段階冷却が行われてもかまわない。そして、この冷却工程において多段階冷却が行われる場合、そのいずれかの段階において均一化等、他の処理が施されてもかまわない。
【0016】
(3)昇温工程
昇温工程では、冷却工程後の起泡性水中油型乳化物が昇温される。なお、昇温方法としては、冷却工程後の起泡性水中油型乳化物を積極的に加熱してもよいし、一定時間、常温で放置してもよい。なお、特に限定されないが、この昇温工程では、冷却工程後の起泡性水中油型乳化物が20±2℃の範囲内の温度にまで昇温されることが好ましい。また、この昇温工程では多段階昇温が行われてもかまわないが、一段階昇温が行われることが好ましい。
【0017】
(4)第1静置工程
第1静置工程では、昇温工程後の水中油型乳化物が、昇温工程の目標昇温温度で静置される。なお、特に限定されないが、この第1静置工程では、昇温工程後の水中油型乳化物が20±2℃の範囲内の温度で0.5時間以上6時間以下の範囲内の時間、静置されるのが好ましい。
【0018】
(5)降温工程
降温工程では、第1静置工程後の水中油型乳化物が冷却されて降温される。なお、特に限定されないが、この降温工程では、第1静置工程後の水中油型乳化物が3±1℃の範囲内の温度にまで降温されることが好ましい。また、この降温工程では多段階降温が行われてもかまわないが、一段階降温が行われることが好ましい。
【0019】
(6)第2静置工程
第2静置工程では、降温工程後の水中油型乳化物が、降温工程の目標降温温度で静置される。なお、特に限定されないが、この第2静置工程では、降温工程後の水中油型乳化物が3±1℃の範囲内の温度で24±2時間の範囲内の時間、静置されるのが好ましい。
【0020】
<第1実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法の特徴>
第1実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法を実施することによって、起泡性水中油型乳化物の組成に関わらず、乳化安定性およびオーバーランを維持しつつホイップ時間を短縮することができる。
【0021】
-第2実施形態-
本発明の第2実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法は、加熱殺菌工程、冷却工程、降温工程、第1静置工程、昇温工程および第2静置工程を含む。以下、これらの工程について詳述する。なお、これらの工程は、逐次的に行われてもよいし、
図1に示されるような起泡性水中油型乳化物製造システム100を利用して連続的に行われてもよい。なお、
図1中の符号は、第1実施形態で説明した通りである。なお、ここで、起泡性水中油型乳化物の製造に際して起泡性水中油型乳化物製造システム100を利用する場合、以下の冷却工程における起泡性水中油型乳化物の温度は第1サーミスタTH1により監視され、降温工程および第1静置工程における起泡性水中油型乳化物の温度は第2サーミスタTH2により監視され、昇温工程起泡性水中油型乳化物の温度は第3サーミスタTH3により監視される。なお、昇温工程後の起泡性水中油型乳化物は、容器140に封入されて冷蔵庫に静置される。
【0022】
(1)加熱殺菌工程
第2実施形態に係る加熱殺菌工程は、第1実施形態に係る加熱殺菌工程と同じである。このため、第2実施形態に係る加熱殺菌工程の説明は省略する。
【0023】
(2)冷却工程
冷却工程では、加熱殺菌工程後の起泡性水中油型乳化物が冷却される。なお、特に限定されないが、この冷却工程では、加熱殺菌工程後の起泡性水中油型乳化物が1分以上10分以下の範囲内の時間に10℃以上20℃以下の範囲内の温度まで冷却されることが好ましい。また、この冷却工程では、多段階冷却が行われてもかまわない。そして、この冷却工程において多段階冷却が行われる場合、そのいずれかの段階において均一化等、他の処理が施されてもかまわない。
【0024】
(3)降温工程
降温工程では、冷却工程後の水中油型乳化物がさらに冷却されて降温される。なお、特に限定されないが、この降温工程では、冷却工程後の水中油型乳化物が0℃以上1℃以下の範囲内の温度にまで降温されることが好ましい。また、この降温工程では多段階降温が行われてもかまわないが、一段階降温が行われることが好ましい。
【0025】
(4)第1静置工程
第1静置工程では、降温工程後の水中油型乳化物が、降温工程の目標降温温度で静置される。なお、特に限定されないが、この第1静置工程では、降温工程後の水中油型乳化物が0℃以上1℃以下の範囲内の温度で0.5時間以上6時間以下の範囲内の時間、静置されるのが好ましい。
【0026】
(5)昇温工程
昇温工程では、第1静置工程後の起泡性水中油型乳化物が昇温される。なお、昇温方法としては、冷却工程後の起泡性水中油型乳化物を積極的に加熱してもよいし、一定時間、常温で放置してもよい。なお、特に限定されないが、この昇温工程では、第1静置工程後の起泡性水中油型乳化物が3±1℃の範囲内の温度にまで昇温されることが好ましい。また、この昇温工程では多段階昇温が行われてもかまわないが、一段階昇温が行われることが好ましい。
【0027】
(6)第2静置工程
第2静置工程では、昇温工程後の水中油型乳化物が、昇温工程の目標昇温温度で静置される。なお、特に限定されないが、この第2静置工程では、昇温工程後の水中油型乳化物が3±1℃の範囲内の温度で24±2時間の範囲内の時間、静置されるのが好ましい。
【0028】
<第2実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法の特徴>
第2実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の製造方法を実施することによって、起泡性水中油型乳化物の組成に関わらず、ホイップ時間を維持しつつ乳化安定性を向上することができる。
【0029】
<実施例・比較例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されることはない。
【0030】
(調製例1)
60℃~70℃に加温した原料水を調合タンクに投入した後、その調合タンクに60℃~70℃に加温した乳脂肪(原料クリーム)および脱脂濃縮乳を投入した。次に、調合タンクの内容物を攪拌して乳脂肪および脱脂濃縮乳を混合・溶解させた後に、調合タンクに乳化剤としてシュガーエステルを投入すると共に、安定剤を投入した。次いで、その内容物を循環溶解させた(以下、このようにして得られた内容物を「乳由来組成物」と称する。)。
【0031】
一方、油溶性溶解タンクにパーム核油を投入した後にその油溶性溶解タンクで上記植物油脂の混合物を65℃~70℃に加温してから、その油溶性溶解タンクに乳化剤としてレシチンおよびグリセリン脂肪酸エステルを投入し、植物油脂の混合物にレシチンおよびグリセリン脂肪酸エステルを溶解させた(以下、このようにして得られた内容物を「植物由来油脂組成物」と称する。)。
【0032】
そして、植物由来油脂組成物を調合タンクに送液して、植物由来油脂組成物と乳由来組成物とを混合し、その混合物に対して70℃で10分間、予備乳化を実施した。そして、その予備乳化物の組成を確認した後に増粘多糖類およびフレーバーを添加し、目的のコンパウンドクリームAの起泡性水中油型乳化物を得た。なお、このコンパウンドクリームAの原料組成は表1の通りであった。また、このコンパウンドクリームAの無脂乳固形分は5.0質量%であった。
【0033】
【0034】
(調製例2)
パーム核油をやし油およびパーム油に代えた以外は、上記調製例1と同様にしてコンパウンドクリームBの起泡性水中油型乳化物を得た。なお、このコンパウンドクリームBの原料組成は表2の通りであった。また、このコンパウンドクリームBの無脂乳固形分は5.0質量%であった。
【0035】
【0036】
(調製例3)
60℃~70℃に加温した原料水を調合タンクに投入した後、その調合タンクに60℃~70℃に加温した脱脂濃縮乳を投入した。次に、調合タンクの内容物を攪拌して脱脂濃縮乳を溶解させた後に、調合タンクに乳化剤としてシュガーエステルを投入すると共に、安定剤を投入した。次いで、その内容物を循環溶解させた(以下、このようにして得られた内容物を「脱脂乳由来組成物」と称する。)。
【0037】
一方、油溶性溶解タンクにパーム核油を投入した後にその油溶性溶解タンクで上記植物油脂の混合物を65℃~70℃に加温してから、その油溶性溶解タンクに乳化剤としてレシチンおよびグリセリン脂肪酸エステルを投入し、植物油脂の混合物にレシチンおよびグリセリン脂肪酸エステルを溶解させた(以下、このようにして得られた内容物を「植物由来油脂組成物」と称する。)。
【0038】
そして、植物由来油脂組成物を調合タンクに送液して、植物由来油脂組成物と脱脂乳由来組成物とを混合し、その混合物に対して70℃で10分間、予備乳化を実施した。そして、その予備乳化物の組成を確認した後にフレーバーを添加し、目的のノンデイリークリームAの起泡性水中油型乳化物を得た。なお、このノンデイリークリームAの原料組成は表3の通りであった。また、このノンデイリークリームAの植物性脂肪濃度は28.5質量%であった。
【0039】
【0040】
(調製例4)
パーム核油をやし油およびパーム油に代えた以外は、上記調製例3と同様にしてノンデイリークリームBの起泡性水中油型乳化物を得た。なお、このノンデイリークリームBの原料組成は表4の通りであった。また、このノンデイリークリームBの植物性脂肪濃度は45質量%であった。
【0041】
【0042】
(比較例1)
1.各種クリームの製造
先ず、調製例1で調製したコンパウンドクリームAの起泡性水中油型乳化物、調製例2で調製したコンパウンドクリームBの起泡性水中油型乳化物、調製例3で調製したノンデイリークリームAの起泡性水中油型乳化物および調製例1で調製したノンデイリークリームBの起泡性水中油型乳化物それぞれを130℃のプレート型熱交換器に3秒間通して加熱殺菌処理した後、その起泡性水中油型乳化物を直ちに3℃にまで冷却した。
【0043】
次に、冷却後の各起泡性水中油型乳化物を3℃に維持して6時間静置した後、さらに各起泡性水中油型乳化物を3℃に維持して24時間静置し、目的のクリームを得た。
【0044】
なお、上記の一連の工程は、
図1に示される起泡性水中油型乳化物製造システムを利用して行われた。
【0045】
2.各種クリームの物性測定
(1)乳化破壊時間
上述の通りにして得られた各種クリームの乳化破壊時間を計測したところ、表5に示される結果が得られた。なお、乳化破壊時間は、「100mL容量のピーカーに各種クリームをそれぞれ50mL注ぎ入れた後にその各種クリームそれぞれを250rpmで撹拌し続けたときにおいて、その撹拌開始時刻からその撹拌抵抗が上昇し始めるまでにかかる時間である。
【0046】
(2)ホイップ時間
先ず、上述の通りにして得られた各種クリーム900gをそれぞれステンレス製の専用ボウルに投入した後、各専用ボウルに砂糖63gを投入した。次に、各専用ボウルの内容物を5℃に調温した。次いで、各専用ボウルをケンミックスミキサー(愛工舎製)にセットして、570±10rpmの回転数でその内容物をホイップした。なお、このホイップ開始時から時間を計測した。続いて、得られたホイップクリームを専用カップに摺り切りで充填した。さらに続いて、その専用カップを針入度計(株式会社丸菱科学機械製作所製針入度試験器)にセットし、ホイップクリームへの針入度を計測した。そして、針入度(硬さ)が280mmから300mmの範囲内となった時点を時間計測の終点とした。最後に、ホイップ開始時から時間計測の終点までの時間をホイップ時間とした。なお、本比較例に係る各種クリームのホイップ時間は、表5に示される通りであった。
【0047】
(3)オーバーラン
先ず、上述の通りにして得られた各種クリームをカップ一杯に注いで、その重量を測定した後、風袋を引いてホイップ前の各種クリームのカップ一杯分の重量を求めた。次に、各種クリームをケンミックスミキサー(愛工舎製)用いて570±10rpmの回転数でホイップした。次いで、各種ホイップクリームを、同カップ一杯に充填して、その重量を測定した後、風袋を引いてホイップ後の各種クリームのカップ一杯分の重量を求めた。そして、次式からオーバーランを算出した。なお、本比較例に係る各種クリームのオーバーランは、表5に示される通りであった。
【0048】
(オーバーラン)={(ホイップ前のクリームのカップ一杯分の重量)-(ホイップ後のクリームのカップ一杯分の重量)}/(ホイップ後のクリームのカップ一杯分の重量)×100
【0049】
【実施例1】
【0050】
1.各種クリームの製造
先ず、調製例1で調製したコンパウンドクリームAの起泡性水中油型乳化物、調製例2で調製したコンパウンドクリームBの起泡性水中油型乳化物、調製例3で調製したノンデイリークリームAの起泡性水中油型乳化物および調製例1で調製したノンデイリークリームBの起泡性水中油型乳化物それぞれを130℃のプレート型熱交換器に3秒間通して加熱殺菌処理した後、その起泡性水中油型乳化物を直ちに3℃にまで冷却した。
【0051】
次に、冷却後の各起泡性水中油型乳化物を20℃まで昇温させた後に、その起泡性水中油型乳化物を20℃に維持して6時間静置した。
【0052】
続いて、6時間静置後の各起泡性水中油型乳化物を3℃まで降温させた後、その起泡性水中油型乳化物を3℃に維持して24時間静置し、目的のクリームを得た。
【0053】
なお、上記の一連の工程は、
図1に示される起泡性水中油型乳化物製造システムを利用して行われた。
【0054】
2.各種クリームの物性測定
比較例1と同様にして乳化破壊時間、ホイップ時間およびオーバーランを測定した。同測定結果を比較例1の測定結果を基準として評価したところ表6に示される結果が得られた。なお、表6中、乳化破壊時間の行において「M」の記号は、乳化破壊時間が(比較例1の乳化破壊時間±2分)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、乳化破壊時間が上記範囲内であれば、そのクリームの乳化安定性は、比較例1のクリームの乳化安定性と同等であると評価している。また、ホイップ時間の行において「A」の記号は、ホイップ時間が(比較例1のホイップ時間-1分30秒)未満であることを示し、「B」の記号は、ホイップ時間が(比較例1のホイップ時間-1分30秒)以上(比較例1のホイップ時間-1分00秒)未満の範囲内であることを示し、「C」の記号は、ホイップ時間が(比較例1のホイップ時間-1分00秒)以上(比較例1のホイップ時間-30秒)未満の範囲内であることを示し、「D」の記号は(比較例1のホイップ時間-30秒)以上(比較例1のホイップ時間-1秒)以下の範囲内であることを示している。さらにオーバーランの行において「M」の記号は、オーバーランが(比較例1のオーバーラン±10)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、オーバーランが上記範囲内であれば、そのクリームのオーバーランは、比較例1のクリームのオーバーランと同等であると評価している。
【0055】
【0056】
表6に示される結果から明らかなように、本実施例1に係る各種クリームは、比較例1に係る各種クリームと同等の乳化安定性およびオーバーランを示しつつ、比較例1に係る各種クリームのホイップ時間よりも短いホイップ時間を示している。
【実施例2】
【0057】
クリームの起泡性水中油型乳化物をノンデイリークリームAの起泡性水中油型乳化物に限定すると共に、20℃昇温後の静置時間を2時間とした以外は実施例1と同様にコンパウンドクリームAを製造し、比較例1と同様にしてコンパウンドクリームAの物性を測定した。同測定結果を比較例1の測定結果を基準として評価したところ表7に示される結果が得られた。なお、表7中、乳化破壊時間の行において「M」の記号は、乳化破壊時間が(比較例1の乳化破壊時間±2分)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、乳化破壊時間が上記範囲内であれば、そのクリームの乳化安定性は、比較例1のクリームの乳化安定性と同等であると評価している。また、ホイップ時間の行において「A」の記号は、ホイップ時間が(比較例1のホイップ時間-1分30秒)未満であることを示している。さらにオーバーランの行において「M」の記号は、オーバーランが(比較例1のオーバーラン±10)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、オーバーランが上記範囲内であれば、そのクリームのオーバーランは、比較例1のクリームのオーバーランと同等であると評価している。
【0058】
【0059】
表7に示される結果から明らかなように、本実施例2に係るノンデイリークリームAは、比較例1に係るノンデイリークリームAと同等の乳化安定性およびオーバーランを示しつつ、比較例1に係る各種クリームのホイップ時間よりも短いホイップ時間を示している。
【実施例3】
【0060】
加熱殺菌処理直後の冷却において各水中油型乳化物の冷却温度を10℃とした以外は実施例1と同様にして各種クリームを製造し、比較例1と同様にして各種クリームの物性を測定した。同測定結果を比較例1の測定結果を基準として評価したところ表8に示される結果が得られた。なお、表8中、乳化破壊時間の行において「M」の記号は、乳化破壊時間が(比較例1の乳化破壊時間±2分)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、乳化破壊時間が上記範囲内であれば、そのクリームの乳化安定性は、比較例1のクリームの乳化安定性と同等であると評価している。また、ホイップ時間の行において「C」の記号は、ホイップ時間が(比較例1のホイップ時間-1分00秒)以上(比較例1のホイップ時間-30秒)未満の範囲内であることを示し、「D」の記号は(比較例1のホイップ時間-30秒)以上(比較例1のホイップ時間-1秒)以下の範囲内であることを示している。さらにオーバーランの行において「M」の記号は、オーバーランが(比較例1のオーバーラン±10)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、オーバーランが上記範囲内であれば、そのクリームのオーバーランは、比較例1のクリームのオーバーランと同等であると評価している。
【0061】
【0062】
表8に示される結果から明らかなように、本実施例3に係る各種クリームは、比較例1に係る各種クリームと同等の乳化安定性およびオーバーランを示しつつ、比較例1に係る各種クリームのホイップ時間よりも短いホイップ時間を示している。
【実施例4】
【0063】
1.各種クリームの製造
先ず、調製例1で調製したコンパウンドクリームAの起泡性水中油型乳化物、調製例2で調製したコンパウンドクリームBの起泡性水中油型乳化物、調製例3で調製したノンデイリークリームAの起泡性水中油型乳化物および調製例1で調製したノンデイリークリームBの起泡性水中油型乳化物それぞれを130℃のプレート型熱交換器に3秒間通して加熱殺菌処理した後、その起泡性水中油型乳化物を直ちに20℃にまで冷却した。
【0064】
次に、冷却後の各起泡性水中油型乳化物を0℃まで降温させた後に、その起泡性水中油型乳化物を0℃に維持して6時間静置した。
【0065】
続いて、6時間静置後の各起泡性水中油型乳化物を3℃まで昇温させた後、その起泡性水中油型乳化物を3℃に維持して24時間静置し、目的のクリームを得た。
【0066】
なお、上記の一連の工程は、
図1に示される起泡性水中油型乳化物製造システムを利用して行われた。
【0067】
2.各種クリームの物性測定
比較例1と同様にして乳化破壊時間、ホイップ時間およびオーバーランを測定した。同測定結果を比較例1の測定結果を基準として評価したところ表9に示される結果が得られた。なお、表9中、乳化破壊時間の行において「M」の記号は、乳化破壊時間が(比較例1の乳化破壊時間+2分)以上(比較例1の乳化破壊時間+4分)未満の範囲内であることを示し、「S」の記号は、乳化破壊時間が(比較例1の乳化破壊時間+4分)以上であることを示している。また、ホイップ時間の行において「M」の記号は、ホイップ時間が(比較例1のホイップ時間±15秒)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、ホイップ時間が上記範囲内であれば、そのクリームのホイップ性は、比較例1のクリームのホイップ性と同等であると評価している。さらにオーバーランの行において「M」の記号は、オーバーランが(比較例1のオーバーラン±10)の範囲内であることを示している。なお、ここでは、オーバーランが上記範囲内であれば、そのクリームのオーバーランは、比較例1のクリームのオーバーランと同等であると評価している。
【0068】
【0069】
表9に示される結果から明らかなように、本実施例4に係る各種クリームは、比較例1に係る各種クリームと同等のホイップ時間およびオーバーランを示しつつ、比較例1に係る各種クリームの乳化安定性よりも優れた乳化安定性を示している。