(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】トリアリルシアヌレート含有付加硬化型シリコーン組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220830BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220830BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20220830BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220830BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20220830BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20220830BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20220830BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220830BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/3492
C08K3/36
B65D65/02 E
C09J183/07
C09J183/05
C09J11/06
C09J11/04
(21)【出願番号】P 2019131875
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】明田 隆
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-033362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 5/3492
C08K 3/36
B65D 65/02
C09J 183/07
C09J 183/05
C09J 11/06
C09J 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が0.1~5となる量、
(C)白金族金属系触媒:(A)成分及び(B)成分の合計質量に対する白金族金属の質量換算で0.1~500ppmとなる量、
(D)
アセチレンアルコール系化合物から選ばれる硬化制御剤:0.01~3質量部、
(E)トリアリルシアヌレート:0.001~3質量部
及び、
(F)補強性シリカ:1~80質量部
を含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項2】
(F)補強性シリカが、オルガノシラン化合物及びオルガノシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種で表面疎水化処理されたものである、請求項1記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項3】
(B)成分が、ケイ素原子に結合した水素原子(以下、ヒドロシリル基という)を、全ケイ素原子の合計モル数に対し、該ヒドロシリル基のケイ素原子のモル数が70mol%以上となる量で有する、請求項1又は2記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が、アセチレンアルコール、アセチレンアルコールのシラン変性物、及び、アセチレンアルコールのシロキサン変性物から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーン組成物を含む食品容器用接着剤。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーン組成物の硬化物を備える食品容器。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法であって、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び(F)成分を混合した後に、該混合物に(E)成分を添加して上記付加硬化型シリコーン組成物を得る工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー状硬化物(シリコーンゴム硬化物)を与える、トリアリルシアヌレート含有付加硬化型シリコーン組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加硬化型のシリコーン組成物は、速やかに硬化して金属や樹脂等の基材への接着性を示し、硬化の際に副生成物を生じない事から、接着剤等の用途に広く使用されている。しかしながら、付加硬化型シリコーン組成物に一般的に使用されるTAIC(トリアリルイソシアネート)のような添加剤は、食品容器向けの規格であるFDA177.2600に登録されておらず、付加硬化型のシリコーン組成物を食品容器向けに使用するにあたって問題があった。また、使用する添加剤によっては、付加硬化型のシリコーン組成物を室温で保管すると、その後硬化する際に硬化遅延が生じ、使用時に硬化不良となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-68268号公報
【文献】特開2015-108088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、食品容器用として有用である付加硬化型シリコーン組成物を提供することを目的とする。さらに、該組成物を室温保管後に硬化する際に生じる硬化遅延を抑制し、より速やかに硬化することができる付加硬化型シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、付加硬化型シリコーン組成物の添加剤としてトリアリルシアヌレートを用いることにより、食品容器用として、特には食品容器用接着剤として好適な組成物を提供できることを見出した。また、該トリアリルシアヌレート含有付加硬化型シリコーン組成物の製造工程においてトリアリルシアヌレートを添加するタイミングを制御することにより、該組成物を室温保管後に硬化する際に生じる硬化遅延を抑制し、より速やかに硬化できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が0.1~5となる量、
(C)白金族金属系触媒:(A)成分及び(B)成分の合計質量に対する白金族金属の質量換算で0.1~500ppmとなる量、
(D)アセチレンアルコール系化合物から選ばれる硬化制御剤:0.01~3質量部、
(E)トリアリルシアヌレート:0.001~3質量部
及び、
(F)補強性シリカ:1~80質量部
を含む付加硬化型シリコーン組成物、及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の付加硬化型シリコーン組成物の硬化物は、食品容器の接着剤、パッキン等として有用である。また、本発明の製造方法によれば、トリアリルシアヌレートを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化遅延を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<(A)成分>
(A)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個有するジオルガノポリシロキサンである。該アルケニル基としては炭素数2~8を有するアルケニル基であればよく、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、及びヘプテニル基が挙げられ、特に、ビニル基であることが好ましい。該(A)成分のアルケニル基の結合位置は、特に制限されず、分子鎖末端および分子鎖側鎖のいずれであってもよい。好ましくは、分子鎖末端にあるのがよい。
【0009】
(A)ジオルガノポリシロキサンが有する、ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基としては、炭素数1~18の、好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素原子数が1~10、特には炭素数1~7の、置換又は非置換の、一価炭化水素基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、ブロピル基、プチル基、ペンチル基、ヘキシル基、及びヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、及び、3一クロロプロピル基、3,3,3一トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。中でも特に、メチル基、及びフェニル基が好ましい。(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、及び分岐鎖状が挙げられる。
【0010】
(A)成分は、25℃における粘度100~500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、300~100,000mPa・sの範囲内を有するのがよい。該粘度範囲は、得られるシリコーンゴムの物理的特性、及び組成物の取扱作業性の点から好ましい。該粘度は、回転粘度計により測定することができる。
【0011】
(A)ジオルガノポリシロキサンとしては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、R1
3SiO0.5で示されるシロキサン単位とR1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位とR1
2SiOで示される単位とSiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン共重合体、R1
3SiO0.5で示されるシロキサン単位とR1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位とSiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン共重合体、R1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位とR1
2SiOで示されるシロキサン単位とSiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン共重合体、R1R2SiOで示されるシロキサン単位とR1SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくはR2SiO1.5で示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン共重合体、及びこれらの二種以上からなる混合物が挙げられる。上式中のR1はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、上述したケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基であり、特に好ましくは、メチル基又はフェニル基である。
上式中のR2はアルケニル基であり、上述したアルケニル基の通りであり、特に好ましくはビニル基である。(A)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0012】
(A)成分は、官能基を有しない(即ち(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与しない)重合度10以下の低分子シロキサン成分を付随することがある。その場合、該低分子シロキサンの含有量は、(A)成分に対して0~0.3質量%であることが好ましく、より好ましくは0~0.2質量%、更に好ましくは0~0.1質量%である。言い換えると、(A)成分100質量部あたり、好ましくは0.3質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、含有しなくてもよい。上記上限値以下であれば、低分子シロキサンの揮発によるシリコーン硬化物の曇りの発生や、周辺部品等への悪影響を抑制することができる。
尚、(A)成分が2種以上のオルガノポリシロキサンの併用である場合は、(A)成分全体として、該低分子シロキサンの含有量が上記上限値以下であるのがよい。
【0013】
上記官能基とは(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する基(アルケニル基及びSi-H基)並びにSi-OH基を示す。上記低分子シロキサンとしては、詳細には、下記式(1)で示される環状構造のジオルガノシクロポリシロキサンが挙げられる。
【化1】
(式中、xは3~10の整数であり、R
1は上述の通りである。)
(A)成分に付随する上記低分子シロキサンの量を低減する方法としては、10~10,000Pa及び200~300℃の条件で低分子シロキサン成分を気化除去する方法や、減圧条件で不活性ガスを吹き込んで気化を促進する方法などが挙げられる。
【0014】
<(B)成分>
(B)成分は、ケイ素原子に結合する水素原子(即ち、SiH基)を、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。(B)成分の構造は直鎖状、分岐状、環状、或いは三次元網状構造の樹脂状物のいずれでもよい。好ましくは(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン中の全ケイ素原子のうち70mol%以上が該SiHのケイ素原子であるのがよい。
【0015】
このような(B)成分としては、例えば、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
HaR3
bSiO(4-a-b)/2 (2)
(式中、R3は、互いに独立に、アルケニル基を含有しない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、a及びbは、0<a<2、0.8≦b≦2、かつ、0.8<a+b≦3となる数であり、好ましくは0.05≦a≦1、1.5≦b≦2かつ1.8≦a+b≦2.7となる数である)。
【0016】
上記R3は、上述した(A)成分においてケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基として例示した基の選択肢から選ばれるものであればよい。好ましくは炭素原子数が1~10、特に1~7の1価炭化水素基であり、好ましくはメチル基、及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等の、炭素原子数1~3の置換または非置換のアルキル基、又はフェニル基であるのがよい。
【0017】
上記式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン、及び1,3,5,7,8-ペンタメチルペンタシクロシロキサン等の環状メチルハイドロジェンポリシロキサン;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R4
2(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなり、任意にR4
3SiO1/2単位、R4
2SiO2/2単位、R4(H)SiO2/2単位、(H)SiO3/2単位又はR4SiO3/2単位を含み得るシリコーンレジン(式中、R4は非置換又は置換の1価炭化水素基であり、前記R1と同様のものが挙げられる)等が挙げられる。(B)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0018】
(B)成分の重量平均分子量は、100~10,000が好ましく、200~5,000がより好ましい。該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:トルエン)によるポリスチレン換算の重量平均分子量により測定できる。
【0019】
(B)成分として、好ましくは、下記構造式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、括弧内に示される各シロキサン単位の配列は任意であってよい)
【0020】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの製造方法は特に制限されず、公知の方法で得ることができる。例えば、R4(H)SiCl2及びR4
2(H)SiCl(式中、R4は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを共加水分解することにより、又は、該クロロシランとR4
3SiCl及びR4
2SiCl2(式中、R4は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを組み合わせて共加水分解して得ることができる。また、このように共加水分解して得られたポリシロキサンを平衡化したものでもよい。
【0021】
(B)成分の量は、(A)成分100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~20質量部であり、より好ましくは0.5質量部~5質量部である。また、(A)成分中のアルケニル基1個に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)の個数比が0.1~5となる量であり、好ましくは0.5~4となるような量である。
【0022】
<(C)成分>
(C)成分は、白金族金属系触媒であり、前記(A)成分のアルケニル基と前記(B)成分のSiH基とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。
【0023】
白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとの錯体(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体などの白金族金属系触媒が挙げられる。なお(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
成分(C)の量は、触媒量であればよく、即ち、上記(A)成分と(B)成分のヒドロシリル化反応を促進する量であれば限定されないが、通常、(A)成分及び(B)成分の合計質量に対する白金族金属の質量換算で、0.1~500ppmであり、好ましくは0.5~200ppmである。
【0025】
<(D)成分>
(D)成分は、本発明の組成物を一剤型または二剤型の組成物として調製する際や、組成物を基材に塗工する際などの硬化前に増粘やゲル化を起こさないように、ヒドロシリル化反応触媒の反応性を制御するための硬化制御剤である。
【0026】
硬化制御剤としては、例えば、アセチレンアルコール系化合物、トリアリルイソシアヌレート系化合物、ビニル基含有ポリシロキサン、アルキルマレエート類、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、及びベンゾトリアゾールまたはこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、本組成物の硬化性を損なうことなく、特に優れた保存性を組成物に与えることができるため、アセチレンアルコール系化合物が好ましい。アセチレンアルコール系化合物としては、アセチレンアルコール、並びにそのシラン変性物およびシロキサン変性物が挙げられる。
【0027】
アセチレンアルコールとしては、特にエチニル基と水酸基は同一の炭素原子に結合しているものが好ましく、より詳細には下記の化合物が挙げられる。
【化5】
また、アセチレンアルコールのシラン変性物とは、アセチレンアルコールの水酸基が例えばアルコキシシランまたはアルコキシシロキサンによりシリル化されてSi-O-C結合に転換された化合物である。例えば、下記の化合物が挙げられる。
【化6】
(式中、nは0~50の整数であり、mは1~50、好ましくは3~50の整数である。)
【0028】
(D)成分の量は(A)成分100質量部に対し0.01~3質量部であり、好ましくは0.02~0.5質量部である。
【0029】
<(E)成分>
(E)成分はトリアリルシアヌレートであり、本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物に接着性を与える為に機能する。トリアリルシアヌレートは、アメリカ合衆国のFDA(米国食品医薬品局)が発行している下記2項目についてポジティブリストに掲載済みの化合物である。
PART 175.105(Substances for Use Only as Components of Adhesives)
PART 177.2600(Rubber articles intended for repeated use)
【0030】
(E)トリアリルシアヌレートの量は(A)成分100質量部に対し0.001~3質量部であり、好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0031】
<(F)成分>
(F)成分は補強性シリカであり、補強性シリカとしては、沈殿シリカ(沈降シリカ、湿式シリカ)及びヒュームドシリカ(煙霧質シリカ、乾式シリカ)が挙げられる。
【0032】
沈殿シリカは、好ましくはBET法による比表面積100m2/g以上(例えば100~300m2/g)、より好ましくは120~250m2/g、更に好ましくは150~220m2/gを有するのがよい。上記比表面積を有すれば、高引裂き強度かつ高伸長なゴムが得られるため好ましい。また、沈殿シリカは、DBP(フタル酸ジブチル)吸油量100~250ml/100gを有するものが好ましく、150~220ml/100gを有するものがより好ましい。このような範囲であれば十分なゴム強度が得られるため好ましい。ヒュームドシリカは、好ましくはBET法による比表面積50m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上、更に好ましくは120~350m2/g、最も好ましくは150~320m2/gを有するのがよい。該範囲であれば、高引裂き強度かつ高伸長なゴムが得られるため好ましい。本発明の組成物は、沈殿シリカとヒュームドシリカを組み合わせて用いても、これらの一方を用いてもよいが、ヒュームドシリカを含むことが好ましい。
【0033】
また上記補強性シリカは、表面処理剤で予め表面疎水化処理されていてもよい。あるいは、前記(A)及び/又は(B)成分のオルガノポリシロキサンとの混練時に表面処理剤を添加して補強性シリカの表面を疎水化処理することもできる。表面処理剤としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルヒドロキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、低分子ポリシロキサン、チタネート系処理剤、及び脂肪酸エステルなどが挙げられ、好ましくはアルキルジシラザン、より好ましくはヘキサメチルジシラザンである。これらの表面処理剤は、1種で用いてもよく、また2種以上を同時に又は異なるタイミングで用いても構わない。
【0034】
表面処理剤の量は、補強性シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5~50質量部、より好ましくは1~40質量部、更に好ましくは2~30質量部とすることができる。表面処理剤の使用量が上記範囲内であると、組成物中に表面処理剤又はその分解物が残らず、流動性が得られ、経時で粘度が上昇するのを抑制できる。
【0035】
(F)成分の量は、組成物の取り扱い性及び硬化物の機械的強度の点から、(A)成分100質量部に対し1~80質量部であり、好ましくは2~60質量部、更に好ましくは3~40質量部である。
【0036】
<その他の成分>
本発明の付加硬化型シリコーン組成物は、上記(A)~(F)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を配合してもよい。
【0037】
その他の成分としては、例えば、エポキシ基やアルコキシ基含有の有機ケイ素化合物、ベンゼン環にエステル基が結合している化合物などの接着付与成分;ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機充填剤;補強性のシリコーンレジン;けい酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック等の非補強性無機充填剤などが挙げられる。
【0038】
以下、本発明の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法についてより詳細に説明する。
本発明の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法としては、上記の(A)~(D)成分、及び(F)成分の混合物を公知の方法で調製した後に、該混合物に(E)成分を混合して製造するのが好ましい。(E)成分を最後に添加することにより、得られる付加硬化型シリコーン組成物を室温で保管した後に硬化させる際に生じる硬化遅延を抑制することができる。これに対し、(E)成分を早い段階(例えば(A)~(D)成分を混合する工程)で混合すると、得られる組成物及び室温保管中の組成物が硬化遅延を起こすという問題が生じ得る。これは(E)成分が触媒の金属に配位し、反応抑制剤(触媒毒)として働いてしまうためと考えられる。
混合方法としては、各成分を混合、撹拌させた後、減圧脱泡を行うことができる装置を用いる方法であれば特に限定されるものではないが、ニーダー、加圧ニーダー、二軸押し出し機、減圧脱泡機能付きのプラネタリーミキサーなどを用いる方法が好ましい。
【0039】
すなわち、本発明の製造方法は、上記の(A)~(D)成分、及び(F)成分の混合後に、上記(E)成分を混合すればよいが、好ましくは下記(i)~(v)の工程順に行うことがよい。
工程(i):(A)成分、(F)成分および必要に応じて表面処理剤を混合し、シリコーンゴムベースを得る工程。
工程(ii):上記工程(i)で得たシリコーンゴムベースに(C)成分および(D)成分を添加し、撹拌混合を行う工程。
工程(iii):上記工程(ii)で得た混合物に(B)成分を添加し、撹拌混合を行う工程。
工程(iv):上記工程(iii)で得た混合物に(E)成分を添加し、撹拌混合を行う工程。
工程(v):上記工程(iv)で得た混合物について、減圧脱泡を行い、付加硬化型シリコーン組成物を得る工程。
【0040】
上記各工程における混合時間については特に限定されるものではないが、十分に撹拌されかつ各成分が均一になる時間であればよく、1~60分が好ましい。混合時の温度は5℃~35℃の常温が好ましく、上記工程(i)のシリコーンゴムベースを得る工程においては必要に応じて100℃~200℃に加熱してもよい。工程(v)の減圧脱泡における減圧度としては、-0.08MPa以下が好ましい。
【0041】
本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化条件は、特に制限されるものでないが、好ましくは70~200℃で30秒~60分間、特に90~130℃で1分~30分間であればよい。上記本発明の製造方法にて得られた組成物は、室温保管後の硬化において、硬化遅延が抑制され、速やかに硬化することができる。
【0042】
該硬化物は上記トリアリルシアヌレートを有することにより良好な接着性を有する。従って、本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物は、食品容器の接着剤、又はパッキン等の用途で使用することができる。特に上述した通りトリアリルシアヌレートは食品容器向けの規格に登録されており、食品容器にて安全に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
下記実施例及び比較例にて使用した各成分は以下の通りである。下記式においてMeはメチル基であり、Viはビニル基である。また、粘度は回転粘度計による25℃の測定値である。
(A)成分:
(A-1)下記平均式で表されるオルガノポリシロキサン(粘度30,000mPa・s)
Vi(Me)
2SiO-(Me
2SiO)
750-Si(Me)
2Vi
(A-2)下記平均式で表されるオルガノポリシロキサン(粘度700mPa・s)
【化7】
(式中、シロキサン単位の配列はランダム又はブロックである。)
【0045】
(B)成分:
(B-1)下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化8】
(式中、シロキサン単位の配列はランダム又はブロックである。)
(B-2)下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化9】
(C)成分:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量1.0質量%)
(D)成分:エチニルシクロヘキサノール
(E)成分:トリアリルシアヌレート
(F)成分:ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製アエロジル200、比表面積200m
2/g)
【0046】
[実施例1~6]
上記各成分を表1に示す配合量で、下記(i)~(v)の工程を順に行い、付加硬化型シリコーン組成物を調製した。
工程(i):(A-1)成分91.5質量部と(F)成分5質量部、ヘキサメチルジシラザン1質量部、及び、水0.35質量部をニーダーを用いて25℃で混合後、大気圧にて150℃に昇温してから3時間撹拌して25℃に冷却した後、(A-2)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行い、シリコーンゴムベースを得た。
工程(ii):上記工程(i)で得たシリコーンゴムベースに(C)成分、次いで、(D)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行った。
工程(iii):上記工程(ii)で得た混合物に(B)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行い、さらに30分間減圧下で撹拌を行った。
工程(iv):上記工程(iii)で得た混合物に(E)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行った。
工程(v):上記工程(iv)で得た混合物について更に25℃で30分間減圧脱泡し、付加硬化型シリコーン組成物を得た。
なお、実施例1~6で得られた付加硬化型シリコーン組成物において、官能基を有しない重合度10以下の低分子シロキサンの含有量は、(A-1)成分と(A-2)成分との合計に対して0.3質量%以下であった。
【0047】
[実施例7]
実施例1において、工程(iv)を行う順番を工程(i)と工程(ii)の間とした以外は実施例1の工程を繰り返し、付加硬化型シリコーン組成物を得た。
【0048】
[実施例8]
実施例1において、工程(iv)を行う順番を工程(ii)と工程(iii)の間とした以外は実施例1の工程を繰り返し、付加硬化型シリコーン組成物を得た。
【0049】
【表1】
※(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比である。
【0050】
実施例1~8で調製した組成物について、調製直後の組成物、及び室温(21~25℃)で1週間保管した後の組成物の、125℃における硬化速度をレオメータ(アルファテクノロジーズジャパンエルエルシー社製RHEOMETER MDR 2000)を用いて測定し、誘導時間(T10)を評価した。結果を表2に示す。
また、得られた硬化物について、BfR(Bundesinstitut fuer Roskobewertung)法に基づく方法にて200℃で4時間加熱した前後の質量を測定し、質量減少率を求めた。結果を表2に示す。なお、BfR規定に基づく200℃で4時間加熱した前後の質量減少率が0.5%以下であることが好ましい。
更に、実施例1~8で得られたシリコーン組成物を、洗浄したアルミニウム板表面に塗布し120℃60分間オーブンで加熱硬化した後、25℃まで降温した試験片について下記のように接着性を評価した。
得られた試験片の端部のアルミニウム板とシリコーン硬化物との界面にカミソリ刃で切り込みを入れた後、手でシリコーン硬化物を引き剥がした際に、シリコーン硬化物がアルミニウム板から完全に剥がれてしまう場合は「剥離」、シリコーン硬化物がアルミニウム板に残存し剥がれない場合は「接着」とした。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示されるように、本発明の付加硬化型シリコーン組成物は、硬化性及びアルミニウムへの接着性に優れ、質量減少率の少ない硬化物を与える。
また、(A)~(D)成分の混合物を調製した後に(E)トリアリルシアヌレートを添加して調製された実施例1~6の付加硬化型シリコーン組成物の硬化速度と、(E)トリアリルシアヌレートを早い段階で添加して調製された実施例7および8の付加硬化型シリコーン組成物の硬化速度とを対比すると、実施例1~6の組成物は、調整直後の誘導時間が実施例7および8の組成物よりも短く、硬化速度がより速いものとなった。さらに、室温(21~25℃)で1週間保管後であっても、実施例7及び8の組成物と比較して、実施例1~6の組成物の方が誘導時間の増加が無く、硬化遅延が抑制されている。従って、本発明の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法における好ましい態様は、(A)~(D)成分の混合物を調製した後に(E)成分を添加して調製する方法であり、当該方法により組成物の硬化遅延を抑制し、より速やかに硬化することが可能な組成物となる。