(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】易接着層付集電体を用いた電極、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車、並びに、電極及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220830BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220830BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220830BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220830BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220830BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220830BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2020522156
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020666
(87)【国際公開番号】W WO2019230592
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018104354
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信
(72)【発明者】
【氏名】磯島 広
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-250916(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146916(WO,A1)
【文献】特開2015-088486(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131093(WO,A1)
【文献】特開平10-149810(JP,A)
【文献】特開2013-125707(JP,A)
【文献】特開2002-304997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 4/66
H01M 10/0562-10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の少なくとも一方の表面に易接着層を有する易接着層付集電体
における前記易接着層を設けた表面上に、固体電解質を含有する電極活物質層を有する電極であって、
前記易接着層が、トルエンに対する25℃における溶解度が1g/100g以上である重合体
と絶縁性粒子とを含有し、
該絶縁性粒子に由来する凸部を前記一方の表面に1×10
5~1×10
11個/m
2
有し、500MPa以下の引張弾性率を示す、
電極。
【請求項2】
前記易接着層の表面抵抗が10
4Ω/□以上である、請求項1に記載の
電極。
【請求項3】
前記絶縁性粒子が無機フィラーの粒子又は樹脂粒子である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記易接着層の厚さが10~300nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記重合体のガラス転移温度が0℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記易接着層の残存水分量が100ppm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記固体電解質が無機固体電解質である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】
前記無機固体電解質が硫化物系固体電解質である、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記電極活物質層が粒子状バインダーを含有する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電極を有する全固体二次電池。
【請求項11】
請求項10に記載の全固体二次電池を用いた電子機器。
【請求項12】
請求項10に記載の全固体二次電池を用いた電気自動車。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電極の製造方法であって、
集電体の表面に、トルエンに対する25℃における溶解度が1g/100g以上である重合体
と絶縁性粒子とを含有する易接着層形成用組成物を製膜
して易接着層を形成し、
CLogP値が2.0以上で、かつ前記易接着層に含まれる前記重合体を1g/100g以上の溶解度で溶解する溶剤と、電極活物質と、固体電解質とを含有する活物質層形成用組成物を前記易接着層上で製膜する、電極の製造方法。
【請求項14】
前記易接着層形成用組成物が溶剤を含有し、該易接着層形成用組成物を塗布法により製膜する、請求項13に記載の
電極の製造方法。
【請求項15】
前記溶剤が水系溶剤である、請求項14に記載の
電極の製造方法。
【請求項16】
前記易接着層の表面抵抗が10
4
Ω/□以上である、請求項13~15のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか1項に記載の電極の製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易接着層付集電体、電極、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車、並びに、易接着層付集電体、電極及び全固体二次電池の各製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池は、構成層(無機固体電解質層、負極活物質層及び正極活物質層)を形成する固体粒子(無機固体電解質、活物質、導電助剤等)同士の密着若しくは接触を確保することにより、界面抵抗の低減と電池性能の向上を図るため、通常、固体粒子同士を密着させるバインダーが用いられる。しかし、各構成層、特に負極活物質層及び正極活物質層(併せて電極活物質層ということがある。)において、バインダーの含有量を多くすると電池性能の低下を招くため、バインダーの含有量は可能な限り少ない量に設定される。
【0004】
ところで、電解液を用いた二次電池であっても全固体二次電池であっても、電極活物質層は、それぞれ、電極活物質層の他に電極活物質層を支持する集電体を備えた積層体として用いられることがある。このような積層体を用いる場合、電極活物質層中におけるバインダーの含有量を低く設定すると、電極活物質層と集電体との密着不良が発生し、電池性能が低下する。
そのため、上述の積層体を電極として備えた二次電池において、電極(を構成する集電体)の検討が進められている。例えば、炭素質成分等の導電材料と、リチウムポリシリケート等の特定のポリマー材料とを含有するプライマー層(コーティング層)を表面に設けた集電体等が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-52710号公報
【文献】特表2013-533601号公報
【文献】特表2011-501383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載の技術は、いずれも、集電体と電極活物質との間に設けるプライマー層に特定のポリマー材料と導電材料を含有させることにより、集電体と活物質層との密着性を高めるとともに、集電体と電極活物質層との間に電子伝導パスを構築するものである。そのため、プライマー層は比較的厚く(通常、マイクロメートルオーダー)形成される。これにより、二次電池の総厚も増大するから、エネルギー密度、更には電気抵抗の点で、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、二次電池の電極を構成する材料として用いることにより、集電体上に設けられる電極活物質層に対して高い密着力を示し、かつ高い電池性能を付与できる易接着層付集電体を提供することを課題とする。また、本発明は、この易接着層付集電体を用いた、電極、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車を提供することを課題とする。更に、本発明は、上記易接着層付集電体、電極及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、集電体の表面に、CLogP値2.0以上である溶剤(例えばトルエン)に対する溶解度(25℃)が1g/100g以上である重合体からなる易接着層を設けることにより、集電体上に設けられる電極活物質層との密着性を高め、しかも集電体と電極活物質層との間に電子又はイオンの伝導パスを構築できることを見出した。更に、易接着層を設けた集電体を二次電池の電極を構成する材料として用いることにより、二次電池に優れた電池性能を付与できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>集電体の少なくとも一方の表面に易接着層を有する易接着層付集電体であって、
易接着層が、トルエンに対する25℃における溶解度が1g/100g以上である重合体を含有する、易接着層付集電体。
<2>易接着層の表面抵抗が104Ω/□以上である、<1>に記載の易接着層付集電体。
<3>易接着層の厚さが10~300nmである、<1>又は<2>に記載の易接着層付集電体。
<4>易接着層が、その表面に1×105~1×1011個/m2の凸部を有する、<1>~<3>のいずれか1つに記載の易接着層付集電体。
<5>易接着層の引張弾性率が500MPa以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の易接着層付集電体。
<6>重合体のガラス転移温度が0℃以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の易接着層付集電体。
<7>易接着層の残存水分量が100ppm以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の易接着層付集電体。
<8>上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の易接着層付集電体における易接着層を設けた表面上に、固体電解質を含有する電極活物質層を有する電極。
<9>固体電解質が無機固体電解質である、<8>に記載の電極。
<10>無機固体電解質が硫化物系固体電解質である、<9>に記載の電極。
<11>電極活物質層が粒子状バインダーを含有する、<8>~<10>のいずれか1つに記載の電極。
<12>上記<8>~<11>のいずれか1つに記載の電極を有する全固体二次電池。
<13>上記<12>に記載の全固体二次電池を用いた電子機器。
<14>上記<12>に記載の全固体二次電池を用いた電気自動車。
<15>集電体の表面に、トルエンに対する25℃における溶解度が1g/100g以上である重合体を含有する易接着層形成用組成物を製膜する、易接着層付集電体の製造方法。
<16>易接着層形成用組成物が溶剤を含有し、この易接着層形成用組成物を塗布法により製膜する、<15>に記載の易接着層付集電体の製造方法。
<17>溶剤が水系溶剤である、<16>に記載の易接着層付集電体の製造方法。
<18>上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の易接着層付集電体を用いた、電極の製造方法であって、
CLogP値が2.0以上で、かつ易接着層付集電体の易接着層に含まれる重合体を1g/100g以上の溶解度で溶解する溶剤と、電極活物質とを含有する活物質層形成用組成物を易接着層付集電体の易接着層上で製膜する、電極の製造方法。
<19>上記<18>に記載の電極の製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の易接着層付集電体は、二次電池の電極を構成する材料として用いたときに、電極活物質層との強固な密着性を示し、高い(電子若しくはイオン)伝導性を発現する。そのため、本発明の易接着層付集電体を備えた本発明の電極及び全固体二次電池は高い電池性能を示す。すなわち、本発明は、集電体上に設けられる電極活物質層に対して高い密着力を示し、かつ高い電池性能を付与できる易接着層付集電体、これを用いた電極及び(全固体)二次電池を提供できる。また、本発明は、上述の優れた電池性能を示す本発明の全固体二次電池を備えた、電子機器及び電気自動車を提供できる。更に、本発明は、上述の優れた特性を示す、易接着層付集電体、電極及び全固体二次電池の製造方法を提供できる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る易接着層付集電体を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、単に「アクリル」又は「(メタ)アクリル」と記載するときは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
本明細書において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を損なわない範囲で置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本明細書において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、後述する置換基Tが挙げられる。
本明細書において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
【0013】
本発明において、「(易接着層付)集電体」及び「電極」は、二次電池の構成部材である態様(二次電池に組み込まれた状態)と、本発明で規定する構成を備えている限り、二次電池に組み込まれる前の、(易接着層付)集電体材又は電極材である態様の両態様を包含する。したがって、「(易接着層付)集電体」及び「電極」の形態は、上記両態様に応じた形態を特に制限されずに適用され、例えば、シート状(フィルム状)であっても短冊状であってもよく、また長尺としても短尺(枚葉体)としてもよい。(易接着層付)集電体材又は電極材である場合、長尺のシート状であることが好ましい。
【0014】
[易接着層付集電体]
本発明の易接着層付集電体は、CLogP値2.0以上である溶剤に対する溶解度(25℃)が1g/100g以上である重合体を含有する易接着層を備えた集電体(集電体と易接着層との積層体)である。
本発明において、易接着層とは、集電体の、電極活物質層が積層される表面に設けられる層であって、集電体上で電極活物質を製膜する際に、集電体と電極活物質とを強固に接着(密着)させ、電極活物質層の集電体からの剥離を抑制する機能を果たす層(接着層)をいう。易接着層が集電体と電極活物質とを接着させる接着強度は、易接着層付集電体の用途等により一義的に決定できないが、例えば、実施例で評価する「膜強度試験」において評価基準「C」以上(欠陥発生径が16mm以下)となる強度が挙げられる。
このような易接着層を備えた本発明の易接着層付集電体は、二次電池の電極を構成する材料として用いることにより、CLogP値が2.0以上の溶剤を含有する活物質層形成用組成物で形成される電極活物質層(活物質層ともいう。)に対して高い密着力を示し、かつ高い電池性能を二次電池に付与できる。その理由の詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。すなわち、易接着層中の重合体は、本発明の易接着層付集電体上に活物質層を形成した後(本発明の易接着層付集電体が電極に組み込まれた後)には、活物質層を形成するための活物質層形成用組成物中の上記溶剤に一旦溶解して、形成される活物質層中に拡散、侵入等して取り込まれ、場合によっては活物質層を構成する成分との混合領域を形成する(易接着層が層としての形態を維持せず、消失する)。これにより、集電体と活物質層との強固な密着性が発現する。また、易接着層が絶縁性であっても易接着層が消失して露出した集電体の表面と活物質層とが接触して伝導パスが構築される(集電体と活物質層との絶縁が解消される。)。しかも、伝導パスを構築しなくてもよいため、易接着層を薄層に形成でき、二次電池の薄厚化にも資する。
このように、本発明の易接着層付集電体は、活物質層の形成に際して易接着層中の重合体が活物質層中に取り込まれ、好ましくは易接着層を消失させることにより、集電体上に設けられる活物質層に対して高い密着力を示し、かつ二次電池に高い電池性能を付与できる。
【0015】
本発明の易接着層付集電体は、上述のように、CLogP値2.0以上である溶剤に対する溶解度(25℃)が1g/100g以上である重合体を含有する易接着層に、CLogP値が2.0以上の溶剤を含有する活物質層形成用組成物に対する溶解性を発現させることにより、上記機能を果たす。このような機能を果たす本発明の易接着層付集電体は、二次電池の構成層を形成する材料として、好ましくは全固体二次電池の電極を形成する材料として、CLogP値が2.0以上の溶剤を含有する活物質層形成用組成物と組み合わせて、用いられる。
本発明において、易接着層付集電体を、正極を形成する材料として用いる場合、易接着層付正極集電体といい、負極を形成する材料として用いる場合、易接着層付負極集電体ということがある。
【0016】
本発明において、易接着層に含まれる重合体の溶解度は、CLogP値が2.0以上の溶剤に対するものであり、後述するように、活物質層を形成する活物質層形成用組成物に用いる溶剤のうちCLogP値が2.0以上の溶剤に対する溶解度である。このような溶剤は、電池性能、製造的観点等から重合体との組み合わせて適宜に決定され、一義的ではない。その詳細は後述するが、例えば、トルエン(ClogP=2.52)、ジイソブチルケトン(DIBK、ClogP=3.48)、酪酸ブチル(ClogP=2.27)等が挙げられる。
【0017】
重合体の溶解度(25℃)は、CLogP値が2.0以上の溶剤に対して、1g/100g以上であれば、活物質層との密着性及び伝導パスを構築できる。この溶解度は、密着性の強化と伝導パスの構築(電池性能)とをより高い水準でバランスよく両立できる点で、2g/100g以上が好ましく、5g/100g以上がより好ましく、10g/100g以上が更に好ましい。溶解度の上限は、特に制限されないが、例えば、100g/100g以下にすることができ、実際的には50g/100g以下がよい。
ここで、CLogP値とは、1-オクタノールと水との分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算に用いる方法若しくはソフトウェアについては公知のものを用いることができるが、特に断らない限り、本発明ではPerkinElmer社製のChemBioDrawUltra(バージョン13.0)を用いて構造を描画し算出することとする。
また、CLogP値が2.0以上の溶剤に対する重合体の溶解度は、易接着層から採取した重合体及びCLogP値が2.0以上の溶剤を用いて、後述する実施例で示す方法及び条件で測定した値とする。
【0018】
本発明の易接着層付集電体は、集電体と易接着層とを有していればよく、他の層(フィルム)を有していてもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、コート層等が挙げられる。更には易接着層付集電体を支持する基材も挙げられる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態に係る易接着層付集電体21は、長尺のシート状に形成され、その長手方向に垂直な断面が
図1に示されている。この易接着層付集電体21は、長尺の集電体22と、集電体22の一方の表面全体に接して設けられた易接着層23とを有している。
本発明の易接着層付集電体を、正極、電解質及び負極からなる1ユニットを複数積層した積層構造の二次電池に用いる場合、集電体の両表面に、本発明で規定する易接着層を設けることが好ましい。
【0020】
本発明の易接着層付集電体の総厚は、電池性能等に応じて適宜に設定され、例えば、1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましい。
【0021】
本発明の易接着層付集電体を構成する集電体は、二次電池に通常用いられるものであれば特に制限されず、電子伝導体が好ましい。集電体を形成する材料は、集電体の用途(正極集電体又は負極集電体)に応じて適宜の材料が選択される。例えば、正極集電体として用いる場合、材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム若しくはステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀で処理したもの(薄膜を形成したもの)等が挙げられ、中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。一方、負極集電体として用いる場合、材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金若しくはステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀で処理したものが挙げられ、中でも、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0022】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体等も用いることができる。
集電体の厚さは、易接着層付集電体の総厚が上記範囲を満たす厚さであれば特に制限されず、例えば、1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましい。
集電体の表面は、表面処理により凹凸を形成することも好ましい。
【0023】
本発明の易接着層付集電体を構成する易接着層は、後述する特定の重合体を含有し、通常、層状若しくは膜状になっている。この易接着層は、集電体と活物質層とを強固に密着させる機能を奏し、集電体と活物質層とを密着させた後(易接着層付集電体が電極に組み込まれた後)にも一部が層の形態を維持していてもよい。すなわち、本発明において、易接着層は、電極において、全体が消失(重合体が活物質層に拡散)する態様に加えて、一部が消失する態様を包含する。消失する程度は、電極若しくは二次電池に求められる電池性能等により一義的に決定できず、集電体と活物質層との間に伝導パスが構築される程度に適宜に設定される。易接着層の消失量は、重合体の種類、溶剤の種類(ClogP値)、更には塗布状態等によって適宜に調整できる。
【0024】
この易接着層は、集電体の表面全体に設けてもよく、また集電体の表面の一部に設けてもよい。易接着層を設ける割合は、活物質層形成用組成物に含有する溶剤に対する溶解速度及び溶解度等に応じて、易接着層が上述の機能を発揮するように設定される。また、易接着層は単層でも複層でもよい。
【0025】
易接着層は、導電性を有していてもよいが、薄厚化が可能な絶縁性とすることができる。易接着層が示す絶縁性は、表面抵抗で特定することができ、例えば、表面抵抗が104Ω/□以上とすることができる。易接着層の表面抵抗は、108Ω/□以上であることが好ましく、1012Ω/□以上であることがより好ましい。易接着層の表面抵抗は、後述する実施例で示す方法及び条件で測定した値とする。
易接着層の厚さは、特に制限されないが、活物質層を形成する際に速やかに消失(重合体が溶解)して活物質層に対する高い密着性を維持しつつ、更に優れた電池性能を付与できる点で、10~500nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましく、30~300nmが更に好ましく、50~200nmが特に好ましい。易接着層の厚さが上記範囲にあると、二次電池の総厚をより薄くでき、エネルギー密度の向上、更には電気抵抗の低減を図ることができる。この点は、特に複数の二次電池を積層して構成する場合に効果的である。
【0026】
易接着層の引張弾性率は、密着性と電池性能とをより高い水準で両立できる点で、500MPa以下であることが好ましく、200MPa以下であることがより好ましく、100MPa以下であることが更に好ましい。引張弾性率の下限値は、特に制限されず、例えば1MPaとすることができる。易接着層の引張弾性率は、後述する実施例で示す方法及び条件で測定した値とする。
【0027】
易接着層は、残存水分量が少ないことが好ましく、例えば、100ppm(質量基準)以下であることが好ましい。易接着層の残存水分量は、易接着層を0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定により、求めることができる。
【0028】
易接着層は、その表面に1×105~1×1011個/m2の凸部(突起)を有することが好ましい。本発明の易接着層付集電体は、通常、長尺体である場合はロール等に巻き取られて、一方、短尺体である場合は積層されて、製造、保管、搬送等される。このとき、集電体の易接着層とは反対側の表面が内側又は下側等の隣接する易接着層に接触して、この易接着層を剥離若しくは破損させることがある。しかし、易接着層の表面に上述の凸部の数(突起数)で凸部を設けておくと、易接着層の剥離及び破損を防止できる。易接着層の剥離及び破損を効果的に防止できる点で、突起数は、1×105~1×108個/m2の範囲であることがより好ましい。突起数は後述する実施例で示す方法及び条件で測定した値とする。
易接着層の凸部は、後述する粒子を易接着層に含有させて形成してもよく、ショットブラスト法等の表面処理により形成してもよい。
【0029】
易接着層が含有する重合体は、CLogP値2.0以上である溶剤に対する溶解度(25℃)が1g/100g以上である重合体である。この重合体の溶解度を決定する溶剤は、上述の通りであり、例えばトルエンとすることができる。
易接着層が含有する重合体は、上記溶解度を満たすものであれば特に制限されず、二次電池に通常用いられる各種の重合体が挙げられる。重合体は、単独重合体、共重合体を包含し、共重合体は、付加重合体、縮重合体を含み、重合様式は特に制限されない。この重合体は、架橋重合体でも非架橋重合体でもよい。
上記重合体は、絶縁性の有機重合体が好ましく、例えば、下記の各樹脂、その他の樹脂が挙げられる。
含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)が挙げられる。
炭化水素系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加(水添)スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンが挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂としては、各種の(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマーの単独重合体又は共重合体(好ましくは、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体)が挙げられる。また、その他のビニル系モノマーとの共重合体(コポリマー)も好適に用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸メチルとスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとアクリロニトリルとの共重合体、(メタ)アクリル酸ブチルとアクリロニトリルとスチレンとの共重合体が挙げられる。本発明において、コポリマーは、統計コポリマー及び周期コポリマーのいずれでもよく、ブロックコポリマーが好ましい。
その他の樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。
中でも、含フッ素樹脂、炭化水素系熱可塑性樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びセルロース誘導体樹脂が好ましい。
重合体は、1種を単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0030】
重合体のガラス転移温度は、特に制限されないが、固体粒子の表面形状等に追従して、固体粒子同士の密着性、更には固体粒子と集電体との密着性を強化できる点で、30℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることが更に好ましく、-10℃以下であることが特に好ましい。ガラス転移温度の下限値は、特に制限されず、例えば-130℃とすることができる。重合体のガラス転移温度は、後述する実施例に記載した測定方法により得られる値とする。
重合体の質量平均分子量は、特に制限されず、適宜に決定される。
【0031】
易接着層中の、重合体の含有量は、活物質層との密着性と電池性能とを考慮して適宜に決定され、例えば、100質量%以下とすることができる。易接着層が下記の添加剤等を含有する場合、重合体の含有量は、50~99.9質量%とすることができ、60~99質量%とするのがよい。
【0032】
易接着層は、上記重合体の他に、各種の添加剤等を含有していてもよい。
添加剤としては、二次電池の構成層に通常用いられる成分を用いることができ、また、易接着層の表面に凸部を形成する粒子等が挙げられる。このような粒子としては、絶縁性の粒子であることが好ましく、例えば、無機フィラーの粒子、樹脂粒子等が挙げられる。無機フィラーとしては、特に制限されないが、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン等が挙げられる。樹脂粒子を構成する樹脂としては、特に制限されないが、例えば、上述の重合体で挙げた各種の樹脂が挙げられる。粒子の平均粒径は、特に制限されないが、易接着層に上述の突起数で凸部を形成できる点で、0.02~5μmであることが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましい。粒子の平均粒径は、後述する実施例に記載した測定方法により得られる値(体積平均粒子径)とする。本発明において、易接着層は、伝導性を示さない(伝導パスを構築しない)含有量であれば、導電性粒子(例えば、特許文献1~3に記載の炭素材料からなる粒子、金属粒子)を含有していてもよい。
【0033】
易接着層中の、上記添加剤の合計含有量は、適宜に設定され、例えば、30質量%以下に設定できる。また、易接着層中の、上記粒子の含有量は、易接着層に上述の突起数で凸部を形成できる範囲に設定されるが、易接着層の層厚等によって一義的に決定できない。例えば、2~30質量%に設定することができる。
【0034】
[易接着層付集電体の製造方法]
本発明の易接着層付集電体の製造方法は、特に制限されないが、集電体の少なくとも一方の表面に、CLogP値が2.0以上の溶剤(例えばトルエン)に対する25℃における溶解度が1g/100g以上である重合体を含有する易接着層形成用組成物を調製し、この易接着層形成用組成物を集電体の表面で製膜することにより、得られる。
【0035】
易接着層付集電体の製造方法に用いる易接着層形成用組成物は、上記特定の溶解度を示す重合体を含有し、好ましくは溶剤、必要に応じてその他の成分(添加剤等)を含有する。易接着層形成用組成物が含有する重合体、添加剤等は上述した通りである。易接着層形成用組成物中の各成分の含有量は、易接着層形成用組成物の固形分(固形成分)100質量%中における含有量として、上述の易接着層における含有量と同じである。
本発明において、固形分とは、特に断りがない限り、組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、溶剤以外の成分を指す。
【0036】
易接着層形成用組成物が含有する溶剤は、重合体を溶解又は分散するものであれば特に制限されず、公知の各種溶剤又は水を用いることができる。中でも、重合体を溶解する溶剤又は重合体を分散させる水系溶剤が好ましく、重合体を溶解する溶剤としては、例えば、後述する活物質層形成用組成物に用いられる溶剤(好ましくは有機溶剤)が挙げられる。一方、重合体を分散させる水系溶剤は、水、水と混和しうる(高極性)溶剤、この(高極性)溶剤と水との混合溶剤等が挙げられる。(高極性)溶剤としては、例えば、炭素数1~3のアルコール化合物等が挙げられる。
易接着層形成用組成物中の溶剤の含有量は、特に制限されないが、例えば、20~99質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~90質量%が特に好ましい。
易接着層形成用組成物は、上記の各成分及び溶剤を常法にて混合することにより、調製できる。
【0037】
本発明の易接着層付集電体の製造方法においては、上述の集電体を準備し、この集電体の表面で易接着層形成用組成物を製膜する。製膜は、特に制限されないが、溶剤を含有する易接着層形成用組成物を塗布する方法が好ましく、通常、塗布後に乾燥する。易接着層形成用組成物の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
次いで、塗布した易接着層形成用組成物を乾燥する。乾燥温度は特に制限されないが、例えば、その下限は、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。乾燥温度は、特に制限されず、適宜に設定できる。
こうして、集電体の少なくとも一方の表面に易接着層を備えた易接着層付集電体を作製できる。
【0038】
[電極(電極シート)]
本発明の電極(電極シート)は、本発明の易接着層付集電体における易接着層を設けた表面上に電極活物質層を有している。この電極は、本発明の易接着層付集電体を用いて作製されたものであり、集電体と活物質層との高い密着力を維持しつつ、二次電池の電極として用いることにより高い電池性能を二次電池に付与できる。
本発明の電極は、電解質として固体電解質層を有する全固体二次電池の電極として好適に用いることができ、電解質として液体電解質(電解液)を有する二次電池の電極としても用いることができる。
例えば、本発明の電極を長尺状にライン製造する場合(搬送中に巻き取っても)、また、捲回型二次電池の電極として用いる場合において、固体粒子同士の高い密着性、更には集電体と活物質中の固体粒子との高い密着性を維持できる。このような電極を用いて二次電池を製造すると、優れた電池性能を示し、更には高い生産性及び歩留まり(再現性)を実現できる。
【0039】
本発明において、易接着層を設けた表面上に活物質層を有するとは、易接着層付集電体における易接着層に接した状態で活物質層を有する態様(易接着層が残存している態様)と、易接着層付集電体における集電体に接した状態で活物質層を有する態様(易接着層が消失している態様)と、両態様が混在した態様とを包含する。活物質層における集電体又は易接着層との界面近傍は、上述のように、易接着層中の重合体が取り込まれており、この重合体と活物質層を構成する成分とが混合した混合領域(混合層)を形成していてもよい。取り込まれた重合体は、通常、集電体に近接するほど含有量が高くなる。
このように、本発明の電極は、易接着層付集電体と活物質層とを備えた積層体であるが、易接着層は層として残存していてもよく、(活物質層に取り込まれて)消失していてもよい。本発明においては、特段の断りがない限り、易接着層中の重合体が取り込まれていても(混合領域を含めて)活物質層という。なお、
図2に示す全固体二次電池において、易接着層付集電体の易接着層は図示していないが、易接着層が残存する場合、負極集電体1と負極活物質層2との界面、又は、正極集電体5と正極活物質層4との界面に、存在する。
【0040】
本発明の電極は、正極として構成されても負極として構成されてもよく、用途等に応じて適宜に選択される。同様に、活物質層は正極活物質層でも負極活物質層でもよく、また、集電体も正極集電体でも負極集電体でもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。同様に、正極及び負極のいずれか、又は両方を合わせて、単に電極と称することがある。正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に集電体と称することがある。
【0041】
電極は、易接着層付集電体で挙げた他の層を更に有していてもよい。また、本発明の電極を全固体二次電池用の電極として用いる場合、活物質層上に固体電解質層を有する積層体、更に固体電解質層上に別の活物質層を有する積層体とすることもできる。
【0042】
本発明の電極の総厚は、特に制限されず、例えば、30~500μmが好ましく、50~350μmがより好ましい。また、本発明の電極における活物質層の厚さも、特に制限されず、電池の種類、電池性能等に応じて適宜に設定され、例えば、10~450μmが好ましく、20~300μmがより好ましい。本発明の電極を全固体二次電池用の電極として用いる場合、本発明の電極を構成する上記各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
【0043】
本発明の電極を構成する活物質層は、電極活物質と、好ましくは、導電助剤、バインダー粒子と、所望により、固体電解質、各種の添加剤等とを含有している。
【0044】
<活物質>
活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能なものである。このような活物質としては、以下に説明する、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、活物質層は本発明の電極の用途に応じて正極活物質又は負極活物質を含有する。正極活物質としては遷移金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)が好ましく、負極活物質としては、金属酸化物若しくはSn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属が好ましい。
【0045】
(正極活物質)
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0046】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、LiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0047】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0048】
正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0049】
正極活物質の、活物質層中における含有量は特に制限されず、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。
【0050】
(負極活物質)
負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体又はリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al、In等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵、放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0051】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0052】
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
【0053】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°以上70°以下に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°以上40°以下に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0054】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの一種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、並びにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、SiO、GeO、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、SnSiO3、GeS、SnS、SnS2、PbS、PbS2、Sb2S3、Sb2S5及びSnSiS3が好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2であってもよい。
【0055】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLi4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0056】
本発明においては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。本発明において、上記炭素質材料は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0058】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0059】
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物負極活物質に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素材料、リチウム、リチウム合金、リチウムと合金可能な金属が好適に挙げられる。
【0060】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に制限はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式、湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0061】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0062】
負極活物質の、活物質層中における含有量は特に制限されず、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0063】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0064】
<導電助剤>
活物質層は、活物質の電子導電性を向上させる等のために用いられる導電助剤を適宜必要に応じて含有してもよい。導電助剤としては、一般的な導電助剤を用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。またこれらの内1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
活物質層中の導電助剤の含有量は、0~10質量%が好ましい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際にLiの挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
【0065】
<バインダー>
活物質層は、好ましくはバインダーを含有する。これにより、固体粒子同士を強固に密着させることができる。また、固体粒子と集電体とを強固に密着性させることもできる。
本発明に用いるバインダーは、全固体二次電池に通常用いられるものであれば特に制限されないが、特開2015-088486号公報に記載のバインダー、国際公開第2017/131093号公報に記載のバインダーが好ましく挙げられる。特に、本発明の易接着層付集電体に対して設けられる活物質層に下記に示すバインダーを含有させると、固体粒子同士(例えば、無機固体電解質同士、無機固体電解質と活物物質、活物質同士)の強固な密着性(結着性)を維持しつつ、更には活物質層(中の固体粒子)と集電体とをより強固に密着させることができる。
【0066】
バインダーの形状は、上述の機能を奏することができれば特に制限されないが、粒子であること(粒子状の形態をとるバインダーをバインダー粒子ということがある。)が好ましく、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは粒状であることが好ましい。
【0067】
以下に、本発明に好ましく用いられるバインダーとして、バインダー粒子A及びバインダー粒子Bについて詳述する。
- バインダー粒子A -
バインダー粒子Aを構成するポリマーは、数平均分子量(Mn)が好ましくは1000以上のマクロモノマーAに由来する構成成分が組み込まれている。このバインダー粒子Aを構成するポリマー中、マクロモノマーA由来のグラフト部分は、主鎖に対し側鎖を構成する。主鎖は特に限定されない。このバインダー粒子Aは、とりわけ正極活物質に対して高い密着性を示す。
【0068】
モノマー(a)
バインダー粒子Aを構成するポリマーのマクロモノマーA由来の構成成分以外(例えば主鎖)の構成成分は特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。マクロモノマーA由来の構成成分以外の構成成分を導入するためのモノマー(以下、このモノマーを「モノマー(a)」とも称する。)としては、重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマー及び/又は(メタ)アクリル系モノマーを適用することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリル系モノマーを用いることが好ましい。更に好ましくは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーを用いることが好ましい。モノマー1分子中の重合性基の数は特に限定されないが、1~4個であることが好ましい。
バインダー粒子Aを構成するポリマーは、下記官能基群(a)のうち少なくとも1つを有していることが好ましい。この官能基群は、主鎖に含まれていても、マクロモノマーA由来の側鎖に含まれていてもよいが、主鎖に含まれることが好ましい。このように、主鎖等に特定の官能基が含まれることで、無機固体電解質、活物質、集電体の表面に存在していると考えられる水素原子、酸素原子、硫黄原子との相互作用が強くなり、結着性が向上し、界面の抵抗が下げられるという作用が期待できる。
【0069】
官能基群(a)
カルボニル基含有基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、エーテル基、シアノ基、チオール(スルファニル)基
カルボニル基含有基としてはカルボキシ基、カルボニルオキシ基、アミド基、カルバモイル基等が挙げられ、炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい。カルボニルオキシ基はカルボニル基又はオキシ基がポリマーとの結合部となる基であり、カルボニル基又はオキシ基に結合する末端基としては後述する置換基Tが挙げられる。
アミノ基は炭素数0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~2が特に好ましい。
スルホン酸基はそのエステル若しくは塩でもよい。エステルの場合、炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい。
リン酸基はそのエステル若しくは塩でもよい。エステルの場合、炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい。
エーテル基としては、-O-結合を有する基であれば特に制限されず、-O-に結合する末端基としては後述する置換基Tが挙げられる。
なお、上記官能基は、置換基として存在しても、連結基として存在していてもよい。例えば、アミノ基は2価のイミノ基又は3価の窒素原子として存在してもよい。
【0070】
上記のポリマーをなすビニル系モノマー又は(メタ)アクリル系モノマーとしては、下記式(b-1)で表されるものが好ましい。
【0071】
【0072】
式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が特に好ましい)、又はアリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましい)を表す。中でも水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0073】
R2は、水素原子、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましい)、アラルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~15がより好ましい)、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、又はアミノ基(NRN
2:RNは後記の定義に従い、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基)である。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シアノ基、エテニル基、フェニル基、カルボキシ基、チオール基、スルホン酸基等が好ましい。
R2は更に後記置換基Tを有していてもよい。中でも、カルボキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、アルキル基などが置換していてもよい。
カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基は例えば炭素数1~6のアルキル基を伴ってエステル化されていてもよい。
酸素原子を含有する脂肪族複素環基は、エポキシ基含有基、オキセタン基含有基、テトラヒドロフリル基含有基などが好ましい。
【0074】
L1は、任意の連結基であり、後記連結基Lの例が挙げられる。具体的には、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニレン基、炭素数6~24(好ましくは6~10)のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(NRN)、カルボニル基、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はそれらの組み合わせに係る基等が挙げられる。上記連結基は任意の置換基を有していてもよい。連結原子数、連結原子の数の好ましい範囲も後記と同様である。任意の置換基としては、置換基Tが挙げられ、例えば、アルキル基又はハロゲン原子などが挙げられる。
【0075】
nは0又は1である。
【0076】
上記のポリマーをなす(メタ)アクリル系モノマーとしては、上記(b-1)のほか、下記式(b-2)~(b-6)のいずれかで表されるものが好ましい。
【0077】
【0078】
R1、nは、上記式(b-1)と同義である。
R3は、R2と同義である。ただし、その好ましいものとしては、水素原子、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基、アミノ基(NRN
2)などが挙げられる。
L2は、任意の連結基であり、L1の例が好ましく、酸素原子、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニレン基、カルボニル基、イミノ基(NRN)、又はそれらの組み合わせに係る基等がより好ましい。
L3は連結基であり、L2の例が好ましく、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基がより好ましい。
L4は、L1と同義である。
R4は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数0~6(好ましくは0~3)のヒドロキシ基含有基、炭素数0~6(好ましくは0~3)のカルボキシ基含有基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基である。なお、R4は上記L1の連結基になって、この部分で2量体を構成していてもよい。
mは1~200の整数を表し、1~100の整数であることが好ましく、1~50の整数であることがより好ましい。
【0079】
上記式(b-1)~(b-6)において、アルキル基、アリール基、アルキレン基、アリーレン基など置換基を取ることがある基については、本発明の効果を維持する限りにおいて任意の置換基を有していてもよい。任意の置換基としては、例えば、置換基Tが挙げられ、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリーロイル基、アリーロイルオキシ基、アミノ基等の任意の置換基を有していてもよい。
【0080】
以下にモノマー(a)の例を挙げるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。下記式中のlは1~1,000,000を表す。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
(マクロモノマーA)
マクロモノマーAは、数平均分子量が1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが特に好ましい。上限としては、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。上記バインダー粒子Aを構成するポリマーが上記の範囲の分子量をもつマクロモノマーA由来の側鎖を有することで、より良好に有機溶剤(分散媒)中に均一に分散でき固体電解質粒子等と混合して塗布できるようになる。
【0085】
バインダー粒子Aを構成するポリマーにおける上記の側鎖成分は溶剤への分散性を良化する働きを有するものと解される。これにより、バインダー粒子Aが良好に分散されるので、無機固体電解質等の固体粒子を局部的若しくは全面的に被覆することなく結着させることができる。その結果、固体粒子間の電気的なつながりを遮断せずに密着させることができるため、固体粒子間の界面抵抗の上昇を抑えられると考えられる。更に、バインダー粒子Aを構成するポリマーが側鎖を有することでバインダー粒子Aが固体粒子に付着するだけでなく、その側鎖が絡みつく効果も期待できる。これにより固体粒子間の界面抵抗の抑制と結着性の良化との両立が図られるものと考えられる。更に、バインダー粒子Aを構成するポリマーは、その分散性の良さから、水中乳化重合などと比較して有機溶剤中に転層させる工程を省略でき、また、沸点が低い溶剤を分散媒として用いることができるようにもなる。なお、マクロモノマーA由来の構成成分の分子量は、バインダー粒子Aを構成するポリマーを合成するときに組み込む重合性化合物(マクロモノマーA)の分子量を測定することで同定することができる。
【0086】
-分子量の測定-
本発明においてバインダーAを構成するポリマー及びマクロモノマーAの分子量については、特に断らない限り、数平均分子量をいい、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の数平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、ポリマー種によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる。
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0087】
マクロモノマーAのSP値は10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。
【0088】
-SP値の定義-
本明細書においてSP値は、特に断らない限り、Hoy法によって求める(H.L.Hoy Journal of Painting,1970,Vol.42,76-118)。また、SP値については単位を省略して示しているが、その単位はcal1/2cm-3/2である。なお、側鎖成分のSP値は、上記側鎖をなす原料モノマーのSP値とほぼ変わらず、それにより評価してもよい。
【0089】
SP値は有機溶剤に分散する特性を示す指標となる。ここで、側鎖成分を特定の分子量以上とし、好ましくは上記SP値以上とすることで、固体粒子との結着性を向上させ、かつ、これにより溶剤との親和性を高め、安定に分散させることができ好ましい。
【0090】
上記のマクロモノマーAの主鎖は特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。マクロモノマーAは、重合性不飽和結合を有することが好ましく、例えば各種のビニル基、(メタ)アクリロイル基を有することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
本発明において、「アクリル」ないし「アクリロイル」というときには、アクリロイル基のみならずその誘導構造を含むものを広く指し、アクリロイル基のα位に特定の置換基を有する構造を含むものとする。ただし、狭義には、α位が水素原子の場合をアクリル若しくはアクリロイルと称することがある。α位にメチル基を有するものをメタクリルと呼び、アクリル(α位が水素原子)とメタクリル(α位がメチル基)のいずれかのものを意味して(メタ)アクリルと称することがある。
【0091】
上記マクロモノマーAは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。また、上記マクロモノマーAは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造単位S(好ましくは炭素数6以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数8以上24以下のアルキレン基)を含むことが好ましい。このように、側鎖をなすマクロモノマーAが直鎖炭化水素構造単位Sを有することで、分散媒との親和性が高くなり分散安定性が向上するという作用が期待できる。
【0092】
上記のマクロモノマーAは、下記式(b-11)で表される部位を有することが好ましい。
【0093】
【0094】
R11はR1と同義である。*は結合部である。
【0095】
上記のマクロモノマーAとしては、下記式(b-12a)~(b-12c)のいずれかで表される部位を有することが好ましい。これらの部位を「特定重合性部位」と呼ぶこともある。
【0096】
【0097】
Rb2はR1と同義である。*は結合部である。RNは後記置換基Tで示す定義と同義である。式(b-12c)、後述の(b-13c)及び(b-14c)のベンゼン環には任意の置換基Tが置換していてもよい。
*の結合部の先に存在する構造部としては、マクロモノマーAとしての分子量を満たせば特に限定されないが、炭素原子、酸素原子、水素原子から構成される構造部位であることが好ましい。このとき、置換基Tを有していてもよく、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子)などを有していてもよい。
【0098】
上記のマクロモノマーAは、下記式(b-13a)~(b-13c)のいずれかで表される化合物又は式(b-14a)~(b-14c)のいずれかで表される繰り返し単位を有する化合物であることが好ましい。
【0099】
【0100】
Rb2、Rb3は、R1と同義である。RNは後記置換基Tで示す定義と同義である。
【0101】
naは特に限定されないが、好ましくは1~6の整数であり、より好ましくは1又は2である。
【0102】
Raはnaが1のときは置換基(好ましくは有機基)、naが2以上のときは連結基を表す。
Rbは二価の連結基である。
Ra及びRbが連結基であるとき、その連結基としては、下記連結基Lが挙げられる。具体的には、炭素数1~30のアルカン連結基(2価の場合アルキレン基)、炭素数3~12のシクロアルカン連結基(2価の場合シクロアルキレン基)、炭素数6~24のアリール連結基(2価の場合アリーレン基)、炭素数3~12のヘテロアリール連結基(2価の場合ヘテロアリーレン基)、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)、ホスフィニデン基(-PR-:Rは水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、シリレン基(-SiRR’-:R、R’は水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、カルボニル基、イミノ基(-NRN-:RNは後記の定義に従い、ここでは、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基)、又はその組み合わせであることが好ましい。中でも、炭素数1~30のアルカン連結基(2価の場合アルキレン基)、炭素数6~24のアリール連結基(2価の場合アリーレン基)、エーテル基、カルボニル基、又はその組み合わせであることが好ましい。また、Ra及びRbが連結基であるとき、その連結基として、下記連結基Lが採用されてもよい。
Ra及びRbを構成する連結基は、炭素原子、酸素原子、水素原子から構成される連結構造であることが好ましい。又は、Ra及びRbを構成する連結基が、後記繰り返し単位(b-15)を有する構造部であることも好ましい。Ra及びRbが連結基であるときの連結基を構成する原子の数や連結原子数は後記連結基Lと同義である。
【0103】
Raが1価の置換基であるときには、後記置換基Tの例が挙げられ、中でもアルキル基、アルケニル基、アリール基であることが好ましい。このとき、連結基Lが介在して置換していても、置換基内に連結基Lが介在していてもよい。
あるいは、Raが1価の置換基であるときは、-Rb-Rcの構造や、後記繰り返し単位(b-15)を有する構造部であることも好ましい。ここでRcは、後記置換基Tの例が挙げられ、中でもアルキル基、アルケニル基、アリール基であることが好ましい。
【0104】
このとき、Ra及びRbは、それぞれ、少なくとも、炭素数1~30の直鎖炭化水素構造単位(好ましくはアルキレン基)を含有することがより好ましく、上記直鎖炭化水素構造単位Sを含むことがより好ましい。また、上記Ra~Rcは、それぞれ、連結基又は置換基を有していてもよく、その例としては後記連結基Lや置換基Tが挙げられる。
【0105】
上記のマクロモノマーAは更に下記式(b-15)で表される繰り返し単位を有することが好ましく、この繰り返し単位は上記重合性二重結合(好ましくは上記式(b-11)及び式(b-12a)~式(b-12c)のいずれかで表される部位)に後述する連結基Lを介して結合していることが好ましい。
【化9】
式中、R
b3は上述のR
b3と同義である。R
b4は水素原子又は後記置換基Tである。好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基である。R
b4がアルキル基、アルケニル基、アリール基であるとき、更に後記置換基Tを有していてもよく、例えば、ハロゲン原子やヒドロキシ基などを有していても良い。
Xは連結基であり、連結基Lの例が挙げられる。好ましくは、エーテル基、カルボニル基、イミノ基、アルキレン基、アリーレン基、又はその組み合わせである。組み合わせに係る連結基としては、具体的には、カルボニルオキシ基、アミド基、酸素原子、炭素原子、及び水素原子で構成された連結基が挙げられる。R
b4及びXが炭素原子を含むときその好ましい炭素数は、後記置換基T及び連結基Lと同義である。連結基の好ましい構成原子数や連結原子数も同義である。
その他、マクロモノマーAは、上述した重合性基を有する繰り返し単位のほか、上記式(b-15)のような(メタ)アクリレート構成単位、ハロゲン原子(例えばフッ素原子)を有していてもよいアルキレン鎖(例えばエチレン鎖)を有していてもよい。このとき、アルキレン鎖には、エーテル基(-O-)等が介在していてもよい。
【0106】
置換基としては、上記の連結基の末端に任意の置換基が配置された構造が挙げられる、末端置換基の例としては、後記置換基Tが挙げられ、上記R1の例が好ましい。
【0107】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、スルホ基(スルホン酸基)、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。
また、これらの置換基Tで挙げた各基は、上記の置換基Tが更に置換していてもよい。
【0108】
化合物、置換基及び連結基等がアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等を含むとき、これらは環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよく、上記のように置換されていても無置換でもよい。
【0109】
本明細書で規定される各置換基は、本発明の効果を奏する範囲で下記の連結基Lを介在して置換されていても、その構造中に連結基Lが介在していてもよい。例えば、アルキル基、アルキレン基、アルケニル基及びアルケニレン基等は更に構造中に下記のヘテロ連結基を介在していてもよい。
【0110】
連結基Lとしては、炭化水素連結基〔炭素数1~10のアルキレン基(より好ましくは炭素数1~6、更に好ましくは1~3)、炭素数2~10のアルケニレン基(より好ましくは炭素数2~6、更に好ましくは2~4)、炭素数2~10のアルキニレン基(より好ましくは炭素数2~6、更に好ましくは2~4)、炭素数6~22のアリーレン基(より好ましくは炭素数6~10)〕、ヘテロ連結基〔カルボニル基(-CO-)、チオカルボニル基(-CS-)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、イミノ基(-NRN-)、イミン連結基(RN-N=C<,-N=C(RN)-)、スルホニル基(-SO2-)、スルフィニル基(-SO-)、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、2価のヘテロ環基〕、又はこれらを組み合わせた連結基が好ましい。なお、縮合して環を形成する場合には、上記炭化水素連結基が、二重結合や三重結合を適宜形成して連結していてもよい。形成される環として好ましくは、5員環又は6員環が好ましい。5員環としては含窒素の5員環が好ましく、その環をなす化合物として例示すれば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、インダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、インドリン、カルバゾール、又はこれらの誘導体などが挙げられる。6員環としては、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、同様に置換されていても無置換でもよい。
【0111】
RNは水素原子又は置換基を表し、置換基は上記置換基Tで示す定義と同義である。置換基としては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が更に好ましく、2~3が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が更に好ましく、2~3が特に好ましい)、アラルキル基(炭素数7~22が好ましく、7~14がより好ましく、7~10が特に好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい)が好ましい。
【0112】
RPは水素原子、ヒドロキシ基、又は置換基である。置換基としては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が更に好ましく、2~3が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が更に好ましく、2~3が特に好ましい)、アラルキル基(炭素数7~22が好ましく、7~14がより好ましく、7~10が特に好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい)、アルコキシ基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい)、アルケニルオキシ基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が更に好ましく、2~3が特に好ましい)、アルキニルオキシ基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が更に好ましく、2~3が特に好ましい)、アラルキルオキシ基(炭素数7~22が好ましく、7~14がより好ましく、7~10が特に好ましい)、アリールオキシ基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい)が好ましい。
【0113】
本明細書において、連結基を構成する原子の数は、1~36であることが好ましく、1~24であることがより好ましく、1~12であることが更に好ましく、1~6であることが特に好ましい。連結基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは所定の構造部間を結ぶ経路に位置し連結に関与する最少の原子数をいう。例えば、-CH2-C(=O)-O-の場合、連結基を構成する原子の数は6となるが、連結原子数は3となる。
【0114】
具体的な連結基の組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。オキシカルボニル基(-OCO-)、カーボネート基(-OCOO-)、アミド基(-CONH-)、ウレタン基(-NHCOO-)、ウレア基(-NHCONH-)、(ポリ)アルキレンオキシ基(-(Lr-O)x-)、(ポリ)アルキレンオキシカルボニル基(-(Lr-O)x-CO-)、カルボニル(ポリ)オキシアルキレン基(-CO-(O-Lr)x-、カルボニル(ポリ)アルキレンオキシ基(-CO-(Lr-O)x-)、カルボニルオキシ(ポリ)アルキレンオキシ基(-COO-(Lr-O)x-)、(ポリ)アルキレンイミノ基(-(Lr-NRN)x-)、アルキレン(ポリ)イミノアルキレン基(-Lr-(NRN-Lr)x-)、カルボニル(ポリ)イミノアルキレン基(-CO-(NRN-Lr)x-)、カルボニル(ポリ)アルキレンイミノ基(-CO-(Lr-NRN)x-)、(ポリ)エステル基(-(CO-O-Lr)x-、-(O-CO-Lr)x-、-(O-Lr-CO)x-、-(Lr-CO-O)x-、-(Lr-O-CO)x-)、(ポリ)アミド基(-(CO-NRN-Lr)x-、-(NRN-CO-Lr)x-、-(NRN-Lr-CO)x-、-(Lr-CO-NRN)x-、-(Lr-NRN-CO)x-)などである。xは1以上の整数であり、1~500が好ましく、1~100がより好ましい。RNは上述の置換基Tで示す定義と同義である。
【0115】
Lrはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が好ましい。Lrの炭素数は、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。複数のLrやRN、RP、x等は同じである必要はない。連結基の向きは上記の記載により限定されず、適宜所定の化学式に合わせた向きで理解すればよい。
【0116】
上記マクロモノマーAとして、末端にエチレン性不飽和結合を有するマクロモノマーを用いてもよい。ここで、マクロモノマーAは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。
【0117】
マクロモノマーAに由来する構成成分の共重合比は特に限定されないが、バインダー粒子Aを構成するポリマー中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0118】
・バインダー粒子A等の諸元
バインダー粒子Aを構成するポリマーの数平均分子量は5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが特に好ましい。上限としては、1,000,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。
【0119】
バインダー粒子Aの平均粒子径は、1,000nm以下であることが好ましく、750nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。下限値は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。本発明においてバインダー粒子Aの平均粒子径は、特に断らない限り、後記実施例に記載した測定方法により得られる値とする。
無機固体電解質の平均粒子径より、上記バインダー粒子Aの粒径が小さいことが好ましい。
バインダー粒子Aの大きさを上記の範囲とすることにより、良好な密着性と界面抵抗の抑制とを実現することができる。
【0120】
本発明においてバインダー粒子Aを構成するポリマーは非晶質であることが好ましい。本発明においてポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、特開2015-088486号公報の段落[0143]に記載のガラス転移温度(Tg)の測定法で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないポリマーのことをいう。上記ポリマーのTgは、50℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることが更に好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。下限値としては、-80℃以上であることが好ましく、-70℃以上であることがより好ましく、-60℃以上であることが特に好ましい。本発明においてバインダー粒子Aをなすポリマーのガラス転移温度は、特に断らない限り、上記測定法により得られる値とする。
なお、作製された全固体二次電池からの測定は、例えば、電池を分解し電極を水に入れてその材料を分散させた後、ろ過を行い、残った固体を収集し、上記Tgの測定法でガラス転移温度を測定することにより行うことができる。
【0121】
バインダー粒子Aはこれを構成するポリマーのみからなっていてもよく、あるいは、別種の材料(ポリマーや低分子化合物、無機化合物など)を含む形で構成されていてもよい。好ましくは、構成ポリマーのみからなるバインダー粒子である。
【0122】
- バインダー粒子B -
バインダー粒子Bは、質量平均分子量(Mw)が好ましくは1,000以上1,000,000未満のマクロモノマーB由来の構成成分を含み、かつ、2環以上の環構造を含む基を有する。このバインダー粒子Bは、とりわけ負極活物質に対して高い密着性を示す。
バインダー粒子Bを構成するポリマーとして、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレア、ポリウレタン又は(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0123】
バインダー粒子Bの合成に用いられるモノマー
バインダー粒子Bの合成に用いられるマクロモノマーB以外のモノマーは特に限定されない。このようなモノマーとしては、重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマー及び/又は(メタ)アクリル系モノマーを適用することができる。具体的には、上述のバインダー粒子Aで記載したモノマー(a)を採用することができる。
【0124】
バインダー粒子Bを構成するポリマーの合成原料として用いうるモノマーとして、上記「A-数字」で示す例示化合物を挙げることができる。ただし、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。
【0125】
(マクロモノマーB由来の構成成分)
本発明に用いられるバインダー粒子Bを構成するポリマーは、質量平均分子量が好ましくは1000以上のマクロモノマーB由来の構成成分が組み込まれている。上記バインダー粒子Bを構成するポリマーにおいて、マクロモノマーB由来の構成成分は主鎖に対し側鎖を構成する。
マクロモノマーBの質量平均分子量は、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが更に好ましい。上限は、1,000,000未満であることが好ましく、500,000以下であることより好ましく、100,000以下であることが更に好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。上記バインダー粒子Bを構成するポリマーが上記の範囲の分子量をもつ側鎖を有することで、より良好に有機溶剤中に均一に分散でき固体電解質粒子と混合して塗布できるようになる。
なお、マクロモノマーBの質量平均分子量は、マクロモノマーAの数平均分子量の測定方法と同様にして、測定することができる。
【0126】
このようなマクロモノマーB由来の構成成分を含有するバインダー粒子Bは、バインダー粒子Aと同様の作用を奏する。
【0127】
マクロモノマーBのSP値は10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。
【0128】
バインダー粒子Bを構成するポリマーにおいて、上記のマクロモノマーB由来のグラフト部分を側鎖、それ以外を主鎖とした場合、この主鎖構造は特に限定されない。マクロモノマーBは、重合性不飽和結合を有することが好ましく、例えば各種のビニル基や(メタ)アクリロイル基を有することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0129】
上記のマクロモノマーB由来の構成成分は、グラフト鎖中に(メタ)アクリル酸成分、(メタ)アクリル酸エステル成分及び(メタ)アクリロニトリル成分から選ばれる構成成分(繰り返し単位)を含むことが好ましい。また、上記マクロモノマーBは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造単位S(好ましくは炭素数6以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数8以上24以下のアルキレン基である。これらのアルキレン基を構成するメチレンの一部は置換基を有してもよく、またこれらのアルキレン基を構成するメチレンの一部が他の構造(酸素原子、硫黄原子、イミノ基、カルボニル基等)に置き換わっていてもよい。)を含むことが好ましい。このように、マクロモノマーBが直鎖炭化水素構造単位Sを有することで、溶剤との親和性が高くなり分散安定性が向上するという作用が期待できる。
【0130】
上記のマクロモノマーBは、上記式(b-1)で表される部位を有することが好ましい。
【0131】
マクロモノマーBとして、炭化水素系溶剤に対して溶媒和されている構造部分(溶媒和部分)と溶媒和されない構造部分(非溶媒和部分)とを有しているポリウレア又はポリウレタンも好ましい。ポリウレア又はポリウレタンとしては、炭素数6以上の長鎖アルキル基を有する粒子が好ましい。このような粒子は、例えば、非水媒体中で、炭素数6以上の長鎖アルキル基を有するジオール化合物(いわゆる親油性ジオール)と、イソシアネート化合物と、ポリアミン(ポリウレタンの場合はポリオール)化合物と、を反応させることで得られる。つまり、炭素数6以上の長鎖アルキル基等の、炭化水素系溶剤と溶媒和した構造部分を粒子に付与することができる。なお、親油性ジオール及びイソシアネート化合物に代えて、これらの化合物からなる末端NCOプレポリマーを反応させてもよい。
親油性ジオールは、官能基が2以下のポリオールであって、好ましい分子量は700以上5000未満である。ただし、親油性ジオールは、これに限定されない。親油性ジオールの具体例としては、各種の油脂を低級アルコール及び/又はグリコールを用いてアルコリシス化する方法、油脂を部分鹸化する方法、水酸基含有脂肪酸をグリコールによりエステル化する方法等によって、油脂に約2個以下の水酸基を含有させたもの、あるいはJ.H.SAUNDERS,K.C.FRISCH著のPOLYURETHANES,CHEMISTRY AND TECHNOLOGY PART1,Chemistry(pp.48~53、1962年発行)等に記載の、油脂変性ポリオール、末端アルコール変性した(メタ)アクリル樹脂及び末端アルコール変性したポリエステル等が挙げられる。
上記のうち、水酸基含有脂肪酸としては、例えば、リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ヒマシ油脂肪酸及び水添ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。
末端アルコール変性した(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、チオグリセロールを連鎖移動剤として用いた長鎖アルキル(メタ)アクリレートの重合物などが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートの重合物としては、炭素数6以上30未満のアルキル(メタ)アクリレートの1種又は2種以上が好適に用いられる。更に好ましくは、炭素数8以上25未満(特に好ましくは炭素数10以上20未満)のアルキル(メタ)アクリレートである。
イソシアネート化合物としては、通常のイソシアネート化合物を全て適用でき、特に好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添加トルエンジイソシアネート(水添加TDI)、水添加ジフェニルメタンジイソシアネート(水添加MDI)及びイソホロジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族系ジイソシアネート化合物である。
アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、ビス-アミノプロピルピペラジン、ポリオキシプロピレンジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、チオ尿素及びメチルイミノビスプロピルアミン等が挙げられる。アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合した混合物として用いてもよい。
上記マクロモノマーBとして、末端にエチレン性不飽和結合を有するマクロモノマーを用いてもよい。ここで、マクロモノマーBは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。
【0132】
マクロモノマーBに由来する構成成分の共重合比は特に限定されないが、バインダー粒子Bを構成するポリマー中、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。なお、共重合比は、バインダー粒子Bの合成に用いられるモノマーの仕込み量(使用量)から算出することができる。ただし、2環以上の環構造を含む基を有するモノマーの仕込み量(使用量)は含まれない。
【0133】
-2環以上の環構造を含む基-
本発明に用いられる2環以上の環構造を含む基は、2環以上の環(好ましくは縮環)構造を有する化合物の少なくとも1つの水素原子を結合手に置き換えた基であればよく、下記一般式(D)で表される化合物の少なくとも1つの水素原子を結合手に置き換えた基であることが好ましく、1つ又は2つの水素原子を結合手に置き換えた基であることがより好ましく、1つの水素原子を結合手に置き換えた基であることが特に好ましい。
下記一般式(D)で表される化合物から形成される基は、炭素質材料等との親和性に優れるため、バインダー粒子Bを含有する組成物の分散安定性を向上させることができ、固体粒子の結着性を向上させることができる。分散安定性の向上、結着性の向上に伴い、本発明の二次電池はサイクル特性に優れる。2環以上の環構造を含む基は、サイクル特性向上の観点から、3環以上の環構造を含む基であることが好ましく、4環以上の環構造を含む基であることが更に好ましい。上限に特に制限はないが、18環以下が好ましく、16環以下がより好ましく、12環以下が更に好ましく、8環以下が更に好ましく、6環以下が更に好ましい。
【0134】
【0135】
一般式(D)中、環αは2環以上の環を表し、RD1は環αの構成原子と結合している置換基を表し、d1は1以上の整数を表す。d1が2以上の場合、複数のRD1は同一でも異なっていてもよい。隣接する原子に置換するRD1が互いに結合して、環を形成してもよい。環αは、2環以上が好ましく、3環以上がより好ましく、4環以上が更に好ましい。また、環αは、18環以下が好ましく、16環以下がより好ましく、12環以下が更に好ましく、8環以下が更に好ましく、6環以下が更に好ましい。環αは3員環以上の環構造を含有することが好ましく、4員環以上の環構造を含有することがより好ましく、5員環以上の環構造を含有することが更に好ましく、6員環構造を含有することが特に好ましい。また環αは24員環以下の環構造を含有することが好ましく、12員環以下の環構造を含有することがより好ましく、8員環以下の環構造を含有することが更に好ましく、6員環の環構造を含有することが特に好ましい。
【0136】
環αは脂肪族炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族環、ヘテロ環のいずれか又はその組み合わせの構造を含有することが好ましい。脂肪族炭化水素環の具体的な構造としてはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、デカリンなどが挙げられる。
【0137】
不飽和炭化水素環の具体的な構造としては上記脂肪族炭化水素環の一部が二重結合に置き換わった環構造が挙げられる。例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0138】
芳香族環の具体的な構造としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピセン、ペンタヘン、ペリレン、ヘリセン、コロネンなどが挙げられる。
ヘテロ環の具体的な構造としては、エチレンイミン、エチレンオキシド、エチレンスルフィド、アセチレンオキシド、アザシクロブタン、1,3-プロピレンオキシド、トリメチレンスルフィド、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、アザロトピリデン、オキサシクロヘプタトリエン、チオトロピリデン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、アクリジン、キサンテン、アクリジン、ベンゾキノリン、カルバゾール、ベンゾ-O-シンノリン、ポルフィリン、クロリン、コリンなどが挙げられる。
【0139】
環αは中でも、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、ベンゾキノリン、キサンテン、カルバゾール、ポルフィリンを含有する構造が好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、イミダゾール、オキサゾール、インドールを含有していることが更に好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ピレンを含有する構造が特に好ましい。
【0140】
RD1で表される置換基としては、上述の置換基Tが好ましく挙げられる。
また、RD1で表される置換基として、=Oも好ましい。このような=Oを有する環αの例として、アントラキノンを含む構造が挙げられる。
【0141】
後述のように、上記2環以上の環構造を含む基を、本発明に用いられるバインダー粒子Bを構成するポリマーの側鎖及び/又はマクロモノマーB成分の側鎖に含ませるため、RD1が上記式(b-1)で表される部位及び/又は上記連結基Lを有すること、RD1が後述のP1であることも好ましい。
【0142】
本発明に用いられるバインダー粒子Bを構成するポリマーは、上記2環以上の環構造を含む基をポリマー主鎖、側鎖及び末端のいずれに有していてもよい。
以下、上記2環以上の環構造を有する化合物が、一般式(D)で表される化合物である場合を例に挙げて説明する。
ポリマーの主鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物が、一般式(D)で表される化合物の少なくとも2つの水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組み込まれ、ポリマーの繰り返し構造となる主鎖そのものとなるものである。一方、ポリマーの側鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つの水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組み込まれることを意味する。また、ポリマー末端に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つ水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組み込まれ、ポリマー鎖長となるものである。ここで、ポリマーの主鎖、側鎖及びポリマー末端の複数に含まれていても構わない。
本発明では、バインダー粒子Bを構成するポリマーが、上記2環以上の環構造を含む基を、主鎖又は側鎖に有することが好ましく、側鎖に有することがより好ましく、マクロモノマーB由来の構成成分の側鎖(マクロモノマーB由来の構成成分が有するグラフト鎖)中に有することが特に好ましい。マクロモノマーB成分の側鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つの水素原子を結合手に置き換えた構造を側鎖として有する繰り返し単位が、マクロモノマーB成分を構成する繰り返し単位の1つとして、マクロモノマーB成分に組み込まれていることを意味する。
【0143】
上記2環以上の環構造を含む基が、本発明に用いられるバインダー粒子Bを構成するポリマーの側鎖に組み込まれていることにより、上記2環以上の環構造を含む基の運動性が向上することで吸着性が向上する。そうすることで、全固体二次電池における固体粒子間等の結着性をより向上させることができる。上記2環以上の環構造を含む基が、本発明に用いられるバインダー粒子Bを構成するポリマーのマクロモノマーB成分の側鎖に含まれていることにより、バインダー粒子B表面に存在する上記2環以上の環構造を含む基の割合が多くなり、全固体二次電池における固体粒子間等の結着性をより向上させることができる。
【0144】
本発明においては、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量が、バインダー粒子Bを構成するポリマー100質量%中10質量%以上85質量%以下であることが好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、18質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量が上記範囲内にあることにより、吸着性とバインダー粒子Bの分散安定性が両立することができ好ましい。
なお、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量は、バインダー粒子Bの合成に用いられるモノマーの仕込み量(使用量)から算出することができる。国際公開第2017/131093号に記載の表1において、M1~M4及びMMで表される成分のうち、2環以上の環構造を含む基を有する成分の合計が、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量である。例えば、表1のBP-5では、M4(B-5)とMM(MM-2)が2環以上の環構造を含む基を有しており、2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量は40質量%である。
【0145】
また、本発明において、上記一般式(D)で表される化合物は、下記一般式(1)で表される化合物及び後述の一般式(2)で表される脂肪族炭化水素のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、負極活物質である炭素質材料等との親和性に優れる。そのため、これらの化合物を含有する組成物の分散安定性をより向上させるとともに固体粒子の結着性を向上させることができる。また、分散安定性の向上、結着性の向上に伴い、この組成物を用いて作製した二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0146】
【0147】
一般式(1)において、CHCはベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環を表す。n1は0~8の整数を表す。R11~R16は各々独立に、水素原子又は置換基を表す。CHCがベンゼン環以外の場合は環構造にR11~R16以外に水素原子を有していてもよい。X1及びX2は各々独立に、水素原子又は置換基を表す。ここで、R11~R16、X1及びX2において、互いに隣接する基が結合して、5又は6員環を形成してもよい。ただし、n1が0の場合、R11~R16のいずれか1つの置換基は、-(CHC1)m1-Rxであるか、又はR11~R16のいずれか2つが互いに結合して、-(CHC1)m1-を形成する。ここで、CHC1はフェニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基を表し、m1は2以上の整数を表し、Rxは水素原子又は置換基を表す。また、n1が1の場合、R11~R16、X1及びX2において、互いに隣接する少なくとも2つが結合して、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環又はシクロヘキサジエン環を形成する。
【0148】
R11~R16が表す置換基として、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基若しくはその塩、スルホ基若しくはその塩、アミノ基、メルカプト基(スルファニル基)、アミド基、ホルミル基、シアノ基、ハロゲン原子、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、エポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0149】
なお、以下ではホルミル基をアシル基に含めて説明する。
【0150】
アルキル基の炭素数は、1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~20が特に好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、オクチル、ドデシル、ステアリル、ベンジル、ナフチルメチル、ピレニルメチル及びピレニルブチルが挙げられる。アルキル基としては内部に二重結合又は三重結合の不飽和炭素結合を含有することが更に好ましい。
【0151】
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~26がより好ましく、6~15が特に好ましい。具体的には、フェニル、ナフチル、アントラセン、ターフェニル、トリル、キシリル、メトキシフェニル、シアノフェニル及びニトロフェニルが挙げられる。
【0152】
ヘテロアリール基は、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環の基であり、その炭素数は、6~30が好ましく、6~26がより好ましく、6~15が特に好ましい。具体的には、フラン、ピリジン、チオフェン、ピロール、トリアジン、イミダゾール、テトラゾール、ピラゾール、チアゾール及びオキサゾールが挙げられる。
【0153】
アルケニル基の炭素数は、2~30が好ましく、2~25がより好ましく、2~20が特に好ましい。具体的には、ビニル及びプロペニルが挙げられる。
【0154】
アルキニル基の炭素数は、2~30が好ましく、2~25がより好ましく、2~20が特に好ましい。具体的には、エチニル、プロピニル及びフェニルエチニルが挙げられる。
【0155】
アルコキシ基:アルコキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
アリールオキシ基:アリールオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
ヘテロアリールオキシ基:ヘテロアリールオキシ基中のヘテロアリール基は、上記ヘテロアリール基と同じである。
アルキルチオ基:アルキルチオ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
アリールチオ基:アリールチオ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
ヘテロアリールチオ基:ヘテロアリールチオ基中のヘテロアリール基は、上記ヘテロアリール基と同じである。
アシル基:炭素数は、1~30が好ましく、1~25がより好ましく、1~20が更に好ましい。アシル基はホルミル基、脂肪族カルボニル基、芳香族カルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含む。例えば、次の基が挙げられる。ホルミル、アセチル(メチルカルボニル)、ベンゾイル(フェニルカルボニル)、エチルカルボニル、アクリロイル、メタクリロイル、オクチルカルボニル、ドデシルカルボニル(ステアリン酸残基)、リノール酸残基、リノレン酸残基
アシルオキシ基:アシルオキシ基中のアシル基は、上記アシル基と同じである。
アルコキシカルボニル基:アルコキシカルボニル基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
アリールオキシカルボニル基:アリールオキシカルボニル基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
アルキルカルボニルオキシ基:アルキルカルボニルオキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
アリールカルボニルオキシ基:アリールカルボニルオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0156】
これら置換基は一般的に、一般式(1)で示される芳香族炭化水素の求電子置換反応、求核置換反応、ハロゲン化、スルホン化、ジアゾ化、又はそれらの組み合わせによって導入することが可能である。例えばフリーデルクラフト反応によるアルキル化、フリーデルクラフト反応によるアシル化、ビルスマイヤー反応、遷移金属触媒カップリング反応などが挙げられる。
【0157】
n1は、0~6の整数がより好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
【0158】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される化合物が好ましい。
【0159】
【0160】
一般式(1-1)において、Arはベンゼン環である。R11~R16、X1及びX2は、一般式(1)におけるR11~R16、X1及びX2と同義であり、好ましい範囲も同じである。n3は1以上の整数を表す。ただし、n3が1の場合、R11~R16、X1及びX2において、互いに隣接する少なくとも2つが結合して、ベンゼン環を形成する。
一般式(1-2)において、Rxは一般式(1)におけるRxと同義であり、好ましい範囲も同じである。R10は置換基を表し、nxは0~4の整数を表す。m3は3以上の整数を表す。Ryは、水素原子又は置換基を表す。ここで、RxとRyが結合してもよい。
【0161】
n3は、1~6の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましく、1~2の整数が特に好ましい。
m3は、3~10の整数が好ましく、3~8の整数がより好ましく、3~5の整数が特に好ましい。
【0162】
一般式(1)で表される化合物の具定例として、ナフタレン、アントラセン、フェナントラセン、ピレン、テトラセン、テトラフェン、クリセン、トリフェニレン、ペンタセン、ペンタフェン、ペリレン、ピレン、ベンゾ[a]ピレン、コロネン、アンタントレン、コランヌレン、オバレン、グラフェン、シクロパラフェニレン、ポリパラフェニレン又はシクロフェンの構造を含む化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0163】
【0164】
一般式(2)において、Y1及びY2は各々独立に水素原子、メチル基又はホルミル基を表す。R21、R22、R23及びR24は各々独立に、置換基を表し、a、b、c及びdは0~4の整数を表す。
ここで、A環は、飽和環、二重結合を1若しくは2個有する不飽和環又は芳香環であってもよく、B環及びC環は、二重結合を1若しくは2個有する不飽和環であってもよい。なお、a、b、c又はdの各々において、2~4の整数の場合、互いに隣接する置換基が結合して環を形成してもよい。
【0165】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、ステロイド骨格を有する化合物である。
ここで、ステロイド骨格の炭素番号は、下記の通りである。
【0166】
【0167】
最初に、一般式(2)で表される脂肪族炭化水素を説明する。
【0168】
R21、R22、R23及びR24における置換基は、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基又はその塩、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、エポキシ基、オキセタニル基が好ましく、また、同一炭素原子に2つ置換した置換基が共同して形成された、=O基が好ましい。
アルキル基は、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基が挙げられる。アルキル基としては内部に二重結合又は三重結合の不飽和炭素結合を含有することが更に好ましい。
アルケニル基は、炭素数1~12のアルケニル基が好ましく、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基が挙げられる。
R21は、炭素番号3に置換するのが好ましく、R22は、炭素番号6又は7に置換するのが好ましく、R23は炭素番号11又は12に置換するのが好ましく、R24は、炭素番号17に置換するのが好ましい。
【0169】
Y1、Y2は水素原子又はメチル基が好ましい。
【0170】
a、b、c、dは0~2の整数が好ましい。
【0171】
A環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号4と5の結合が好ましく、B環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号5と6又は6と7の結合が好ましく、C環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号8と9の結合が好ましい。
【0172】
なお、一般式(2)で表される化合物は、立体異性体のいずれをも包含するものである。置換基の結合方向が紙面下方向をα、紙面上方向をβで表すと、α、βのいずれであってもよく、これらの混合であってもよい。また、A/B環の配置、B/C環の配置、C/D環の配置は、トランス配置であっても、シス配置のいずれであってもよく、これらの混合配置であっても構わない。
【0173】
本発明では、a~dの総和が1以上であって、かつR21、R22、R23及びR24のいずれかが、ヒドロキシ基又は置換基を有していてもよいアルキル基が好ましい。
【0174】
ステロイド骨格を有する化合物としては下記に示されるようなステロイドが好ましい。
下記では、ステロイド環に有する置換基は、立体的に制御されているものである。
左からコレスタン類、コラン類、プレグナン類、アンドロスタン類、エストラン類である。
【0175】
【0176】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素の具体例として、コレステロール、エルゴステロール、テストステロン、エストラジオール、エルドステロール、アルドステロン、ヒドロコルチゾン、スチグマステロール、チモステロール、ラノステロール、7-デヒドロデスモステロール、7-デヒドロコレステロール、コラン酸、コール酸、リトコール酸、デオキシコール酸、デオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸リチウム、ヒオデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸、ホケコール酸又はヒオコール酸の構造を含む化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0177】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、市販品を用いることができる。
【0178】
一般式(D)で表される化合物は、RD1の少なくとも1つがL1a-P1であること、又はRD1の少なくとも2つが各々独立にL2a-P2又はL3a-P2であることが好ましく、前者であることがより好ましい。一般式(1)においては、R11~R16、X1及びX2の少なくとも1つがL1a-P1であること、又はR11~R16、X1及びX2の少なくとも2つが各々独立にL2a-P2又はL3a-P2であることが好ましく、前者であることがより好ましい。一般式(2)においては、R21、R22、R23及びR24の少なくとも1つがL1a-P1であること、又はRD1の少なくとも2つが各々独立にL2a-P2又はL3a-P2であることが好ましく、前者であることがより好ましい。
なお、L1a-P1はL1aで環に結合する。また、L2a-P2及びL3a-P2はL2a及びL3aでそれぞれ環に結合する。
【0179】
L1aは、単結合又は連結基を表す。連結基としては、炭化水素連結基〔炭素数1~10のアルキレン基(より好ましくは炭素数1~6、更に好ましくは1~3)、炭素数2~10のアルケニレン基(より好ましくは炭素数2~6、更に好ましくは2~4)、炭素数2~10のアルキニレン基(より好ましくは炭素数2~6、更に好ましくは2~4)、炭素数6~22のアリーレン基(より好ましくは炭素数6~10)、又はこれらの組み合わせ〕、ヘテロ連結基〔カルボニル基(-CO-)、チオカルボニル基(-CS-)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、イミノ基(-NRNa-)、アンモニウム連結基(-NRNa
2
+-)、ポリスルフィド基(Sの数が1~8個)、イミン連結基(RNa-N=C<,-N=C(RNa)-)、スルホニル基(-SO2-)、スルフィニル基(-SO-)、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はこれらの組み合わせ〕、又は、これらを組み合わせた連結基が好ましい。L1aにおけるRNaは水素原子又は炭素数1~12のアルキル基(好ましくは炭素数1~4、更に好ましくは炭素数1~2)を表す。
【0180】
なお、置換基や連結基が縮合して環を形成する場合には、上記炭化水素連結基が、二重結合や三重結合を適宜形成して連結していてもよい。形成される環としては、5員環又は6員環が好ましい。5員環としては含窒素5員環が好ましく、その環をなす化合物として例示すれば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、インダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、インドリン、カルバゾール、又はこれらの誘導体などが挙げられる。6員環としては、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、同様に置換されていても無置換でもよい。
【0181】
L1aが組み合わせからなる連結基である場合、組み合わせる数は、特に限定されず、例えば、2~30が好ましく、2~20がより好ましく、2~10が更に好ましく、2~4が特に好ましい。組み合わせからなる連結基としては、例えば、炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキレン基、炭素数6~24(好ましくは6~10)のアリーレン基、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、イミノ基(NRNa)、カルボニル基、(ポリ)アルキレンオキシ基、(ポリ)エステル基、(ポリ)アミド基又はそれらの組み合わせに係る基が挙げられる。中でも、炭素数1~4のアルキレン基、エーテル基(-O-)、イミノ基(NRNa)、カルボニル基、(ポリ)アルキレンオキシ基、(ポリ)エステル基又はそれらの組み合わせに係る基がより好ましい。他にも後述する例示モノマーが有する連結基が挙げられる。
【0182】
L1aが置換基を採りうる基であるとき、更に置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、アルキル基、アシル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基が好ましい。
L1aは一定以上の長さを有することが好ましい。具体的には環α(環α、一般式(1)又は(2)における環構造を構成する原子のうちL1aが結合する原子)とP1とを連結する最短原子数は、2原子以上が好ましく、4原子以上がより好ましく、6原子以上が更に好ましく、8原子以上が特に好ましい。上限は1000原子以下であることが好ましく、500原子以下であることがより好ましく、100原子以下であることが更に好ましく、20原子以下であることが特に好ましい。
【0183】
L2a、L3aはL1aと同義でありそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0184】
P1は重合性部位である。重合性部位とは、重合反応で重合することができる基であり、エチレン性不飽和基、エポキシ基やオキセタニル基のような、連鎖重合する基が挙げられる。またヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基等を2つ以上有する基、及び、縮合重合する基として、ジカルボン酸無水物構造を1つ以上有する基などが挙げられる。
なお、エチレン性不飽和基は、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基(アリル基を含む)が挙げられる。
【0185】
P1は、エチレン性不飽和基、エポキシ基、オキセタニル基又はジカルボン酸無水物を1つ以上、又はヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基、2つ以上含有する部分構造が好ましく、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基又はビニル基を1つ以上、又はヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基を2つ以上含有する部分構造がより好ましく、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する部分構造が好ましい。
【0186】
P2はヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物など縮合重合する基が挙げられる。中でもヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物が好ましく、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基が特に好ましい。
【0187】
L1a-P1は、下記一般式(F-1)で表される基であることが好ましい。
【0188】
【0189】
一般式(D)で表される化合物は、d1が1~4で、RD1が一般式(F-1)で表される基であることが好ましく、d1が1で、RD1が一般式(F-1)で表される基であることがより好ましい。一般式(1)においては、R11~R16、X1及びX2の少なくとも4つが一般式(F-1)で表される基であることが好ましく、少なくとも1つが一般式(F-1)で表される基であることがより好ましい。一般式(2)においては、R21、R22、R23及びR24の少なくとも4つが一般式(F-1)で表される基であることが好ましく、少なくとも1つが一般式(F-1)で表される基であることがより好ましい。
【0190】
X31は、-O-又は>NHを表す。
【0191】
式中、R31は、水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を表す。
R31として採りうるアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1~24のアルキル基が好ましく、1~12のアルキル基がより好ましく、1~6のアルキル基が特に好ましい。
R31として採りうるアルケニル基としては、特に限定されないが、炭素数2~24のアルケニル基が好ましく、2~12のアルケニル基がより好ましく、2~6のアルケニル基が特に好ましい。
R31として採りうるアルキニル基としては、特に限定されないが、炭素数2~24のアルキニル基が好ましく、2~12のアルキニル基がより好ましく、2~6のアルキニル基が特に好ましい。
R31として採りうるアリール基としては、特に限定されないが、炭素数6~22のアリール基が好ましく、6~14のアリール基がより好ましい。
R31として採りうるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
R31は、中でも、水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチルがより好ましい。
R31が置換基を採りうる基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基)であるとき、R31は更に置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エステル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリーロイルオキシ基等)、アミド基(カルバモイル基)が好ましい。
【0192】
L31は、L1aと同義である。中でも、アルキレン基(好ましくは炭素数1~12、更に好ましくは1~6)、カルボニル基、エーテル基、イミノ基、又はこれらを組み合わせた連結基がより好ましい。炭素数1~4のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、イミノ基又はこれらを組み合わせた連結基が特に好ましい。
L31が置換基を採りうる基であるとき、更に置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、アルキル基、アシル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基が好ましい。
L31は一定以上の長さを有することが好ましい。環α(環α、一般式(1)又は(2)における環構造を構成する原子のうちL1aが結合する原子)とX31とを連結する最短原子数は、環αとP1とを連結する最短原子数と同じである。
【0193】
以下に、上記2環以上の環構造を有する化合物の例を挙げるが、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。なお、下記例示化合物において、m4は、1~100000を表し、n4は、1~100000を表す。
【0194】
【0195】
2環以上の環構造を有する化合物は、例えば、2環以上の環構造と反応点(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)を有する化合物に重合性基(例えば、(メタ)アクリロイル基など)を含有する化合物を反応させて合成することにより得ることができる。
【0196】
バインダー粒子Bの平均粒子径は、50,000nm以下であり、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、250nm以下であることが特に好ましい。下限値は10nm以上であり、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましく、100nm以上であることが特に好ましい。バインダー粒子Bの大きさを上記の範囲とすることにより、固体粒子等との抵抗被膜の面積が小さくなり、低抵抗化することができる。すなわち、良好な密着性と界面抵抗の抑制とを実現することができる。
なお、バインダー粒子Bの平均粒子径の測定方法は、バインダー粒子Aの平均粒子径の測定方法と同じである。
【0197】
バインダー粒子Bを構成するポリマーの質量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、30,000以上が更に好ましい。上限としては、1,000,000以下が実質的であるが、架橋された態様も好ましい。
なお、バインダー粒子Bを構成するポリマーの質量平均分子量は、バインダー粒子Aを構成するポリマーの数平均分子量の測定方法と同様にして測定することができる。
【0198】
加熱や電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時に、バインダー粒子Bを構成するポリマーが上記範囲の質量平均分子量であることである。
【0199】
本発明に用いられるバインダーを構成するポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。また、このポリマーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー溶液をそのまま用いてもよい。金属系触媒(ウレタン化、ポリエステル化触媒=スズ、チタン、ビスマス)は少ない方が好ましい。重合時に少なくするか、晶析で触媒を除くことで、共重合体中の金属濃度を、100ppm(質量基準)以下とすることが好ましい。
【0200】
活物質層のバインダーの含有量は特に制限されない。活物質層中、バインダーの含有量は、100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~40質量部であることがより好ましい。活物質層が無機固電解質を含有する場合、上記含有量にかかわらず、無機固電解質100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~40質量部であることがより好ましく、1~30質量部であることが特に好ましい。本発明において、バインダーの含有量は上記範囲内に設定されるが、易接着層付集電体により集電体と活物質層との密着性が強固であるから、バインダーの含有量を低減できる。
バインダーを上記の範囲で用いることにより、一層効果的に無機固体電解質の結着性と界面抵抗の抑制性とを両立して実現することができる。
【0201】
活物質層において、バインダーは1種を単独で用いても、複数の種類のものを組み合わせて用いてもよい。また、他の粒子と組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明に用いられるバインダーは、常法により調製することができる。
また、バインダーとして、バインダー粒子が分散した分散液として用いることもできる。バインダーを粒子化する方法としては、例えば、重合反応時にバインダー粒子を形成する方法、重合反応液からバインダー樹脂を沈殿させて粒子化する方法等が挙げられる。
【0202】
<固体電解質>
活物質層は、固体電解質を含有してもよく、本発明の電極を全固体二次電池に用いる場合、活物質層は固体電解質を含有することが好ましい。
固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。固体電解質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する固体電解質であればよい。このような固体電解質としては、有機固体電解質及び無機固体電解質が挙げられ、無機固体電解質が好ましい。
【0203】
- 有機固体電解質 -
有機固体電解質は、二次電池に通常使用されるものを特に制限されることなく用いることができ、例えば、ポリマー電解質が挙げられる。ポリマー電解質は、電解質塩と、この電解質塩を溶解してポリマー電解質にイオン伝導度を付与しうるポリマーとからなるものが挙げられる。
ポリマー電解質を形成するポリマーは、電解質塩とともにイオン伝導体として機能するものであればよく、例えば、二次電池用のポリマー電解質に通常用いられる高分子を挙げることができる。具体的には、ポリエーテル、ポリシロキサン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリレート等の各ポリマーが挙げられる。中でも、ポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキシド(ポリプロピレングリコール)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(ポリテトラヒドロフラン)などのポリエーテル、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸などのポリアクリレート、ポリカーボネートが好ましい。
ポリマー電解質を形成する電解質塩は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンを含有する塩である。この電解質塩は、全固体二次電池の充電及び放電によって、正極と負極との間を往復するイオンとして周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンを解離する(発生させる)金属塩である。この電解質塩は、上述のポリマーに溶解されることにより、ポリマーとともにイオン伝導性を発現する特性を示す。
電解質塩としては、上記イオン伝導性を発現する特性を示すものであれば特に限定されず、全固体二次電池用のポリマー電解質に通常用いられる電解質塩を挙げることができる。
中でも、リチウム塩が好ましく、下記(a-1)及び(a-2)から選ばれる金属塩(リチウム塩)が好ましい。
【0204】
(a-1):LiAxDy
Aは、P、B、As、Sb、Cl、Br若しくはIであるか、又は、P、B、As、Sb、Cl、Br及びIから選ばれる2種以上の元素の組み合わせを示す。Dは、F又はOを示す。xは1~6であり、1~3がより好ましい。yは1~12であり、4~6がより好ましい。
LiAxDyで示される金属塩の好ましい具体例として、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6及びLiSbF6から選ばれる無機フッ化物塩、並びに、LiClO4、LiBrO4及びLiIO4から選ばれる過ハロゲン酸塩を挙げることができる。
【0205】
(a-2):LiN(RfSO2)2
Rfはフッ素原子又はパーフルオロアルキル基を示す。このパーフルオロアルキル基の炭素数は1~4が好ましく、1~2がより好ましい。
LiN(RfSO2)2で示される金属塩の好ましい具体例として、例えば、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(FSO2)2及びLiN(CF3SO2)(C4F9SO2)から選ばれるパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩を挙げることができる。
【0206】
上記の中でも、イオン伝導性の観点から、電解質塩は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiBrO4、LiN(CF3SO2)2、LiN(FSO2)2及びLiN(CF3SO2)(C4F9SO2)から選ばれる金属塩が好ましく、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(CF3SO2)2及びLiN(FSO2)2から選ばれる金属塩がより好ましく、LiClO4、LiN(CF3SO2)2及びLiN(FSO2)2から選ばれる金属塩が更に好ましい。
【0207】
上記ポリマー及び上記電解質塩は、それぞれ、1種単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
有機固体電解質の、活物質層中の含有量は、併用する活物質との合計含有量として、0.01~50質量%であることが好ましく、0.05~40質量%であることがより好ましい。上記ポリマーと上記電解質塩との質量比は、上記ポリマー:電解質塩=1:0.05~2.50が好ましく、1:0.3~1がより好ましい。
【0208】
- 無機固体電解質 -
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、上述の有機固体電解質とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の(全固体)二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は、(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iV)水素化物系固体電解質が挙げられ、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましい。
【0209】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0210】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0211】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0212】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0213】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0214】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0215】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0216】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0217】
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
ハロゲン化物系無機固体電解質は、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLi3YBr6、Li3YCl6等の化合物が挙げられる。中でも、Li3YBr6、Li3YCl6を好ましい。
【0218】
(iV)水素化物系無機固体電解質
水素化物系無機固体電解質は、水素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH4、Li4(BH4)3I、3LiBH4-LiCl等が挙げられる。
【0219】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の体積平均粒子径は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。無機固体電解質の体積平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0220】
無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
固体電解質層を形成する場合、固体電解質層の単位面積(cm2)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
ただし、固体電解質層が上述の活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0221】
無機固体電解質の、活物質層中の含有量は、分散性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、併用する活物質との合計含有量として、50~99.9質量%であることが好ましく、60~99.5質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることが特に好ましい。
【0222】
<添加剤>
本発明の固体電解質組成物は、上記各成分以外の他の成分として、所望により、イオン液体、リチウム塩(支持電解質)、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等の添加剤を、適宜の含有量で、含有することができる。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
【0223】
[電極(電極シート)の製造方法]
本発明の電極の製造方法は、本発明の易接着層付集電体を用いて、この易接着層を形成する重合体を活物質層内に取り込むことができる方法であれば特に制限されない。好ましい製造方法として、CLogP値が2.0以上で、かつ易接着層付集電体の易接着層に含まれる重合体の溶解度が1g/100g以上である溶剤と電極活物質とを含有する活物質層形成用組成物を調製し、得られた活物質層形成用組成物を易接着層付集電体の易接着層上で製膜する方法である。この方法においては、上記集電体、上記易接着層形成用組成物及び活物質層形成用組成物を組み合わせて用いることができる。活物質層形成用組成物を製膜する過程において、易接着層の表面に活物質層形成用組成物を塗布することにより、易接着層を形成する重合体を、活物質層形成用組成物が含有する溶剤により、再溶解させて活物質層形成用組成物中に取り込み、その後活物質層形成用組成物を乾燥する。これにより、本発明の電極を作製できる。
【0224】
本発明の電極の製造方法において、活物質層形成用組成物の調製に用いる溶剤は、易接着層形成用組成物(易接着層)の重合体に応じて選択される。すなわち、CLogP値が2.0以上で、かつ集電体上に形成された易接着層に含まれる重合体を1g/100g以上の溶解度(25℃)で溶解する溶剤を選択する。溶剤の溶解度(25℃)は、上述の通りであり、好ましい範囲も同じである。溶剤のClogP値は2.0以上である。ClogP値が2.0以上の溶剤を用いると、上述の重合体を速やかに再溶解させ、また、固体電解質の劣化が抑制されることで上述の密着性と電池特性を両立できる。溶剤のClogP値は2~4.5であることが好ましい。
CLogP値が2.0以上の溶剤は、通常、低極性で疎水性を示す溶剤である。このような溶剤であれば特に制限されず、各種の溶剤を用いることができる。例えば、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、エステル化合物等の各有機溶剤が好ましく、その具体例としては下記のものが挙げられる。
【0225】
エーテル化合物としては、例えば、ジブチルエーテル(ClogP=2.57)、ジヘキシルエーテル(ClogP=4.24)、ジイソアミルエーテル(ClogP=3.41)、アニソール(ClogP=2.08)などが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、ジプロピルケトン(ClogP=2.34)、ジブチルケトン(ClogP=3.6)、ジイソブチルケトン(ClogP=3.48)、2-デカノン(ClogP=4.01)、ジイソプロピルケトン(ClogP=2.64)などが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、トルエン(ClogP=2.52)、エチルベンゼン(ClogP=2.94)、キシレン(ClogP=3.01)などが挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘプタン(ClogP=3.42)、オクタン(ClogP=3.84)、シクロヘキサン(ClogP=2.5)、シクロオクタン(ClogP=3.34)、メチルシクロヘキサン(ClogP=2.83)、エチルシクロヘキサン(ClogP=3.25)などが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酪酸ブチル(ClogP=2.27)、酪酸ペンチル(ClogP=2.69)、イソ酪酸イソブチル(ClogP=2.4)、プロピオン酸ペンチル(ClogP=2.27)などが挙げられる。
非水系分散媒としても、上記記載の溶剤が挙げられる。
【0226】
本発明においては、中でも、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が好ましく、ケトン化合物、芳香族化合物、エステル化合物が更に好ましい。
【0227】
溶剤は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0228】
本発明において、活物質層形成用組成物中の、溶剤の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、活物質層形成用組成物中、15~99質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましく、25~60質量%が特に好ましい。
【0229】
活物質層形成用組成物が含有しうる、活物質、固体電解質、導電助剤、添加剤等の各成分は上述した通りである。活物質層形成用組成物中の各成分の含有量は、活物質層形成用組成物の固形分(固形成分)100質量%に対する含有量として、上述の活物質層における含有量と同じである。
【0230】
活物質層形成用組成物は、上記の各成分及び溶剤を常法にて混合することにより、調製できる。混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。バインダーは、そのままの形態で混合してもよく、分散液の形態で混合してもよい。混合する環境は、特に制限されず、大気下、乾燥空気(露点-20℃以下)下又は不活性ガス(例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス)下等が挙げられる。
【0231】
本発明の電極の製造方法においては、易接着層付集電体における易接着層の表面で活物質層形成用組成物を製膜する。製膜は、活物質層形成用組成物を塗布、乾燥することが好ましい。これにより、易接着層を消失させて集電体の表面に強固に密着した活物質層を形成して、本発明の電極を作製できる。
活物質層形成用組成物の塗布方法は、特に制限されないが、易接着層形成用組成物の塗布方法と同じである。また、活物質層形成用組成物の乾燥方法(条件)は、易接着層中の重合体を活物質中に取り込むことができる方法(条件)であれば特に制限されないが、重合体の種類及び溶剤の種類等に応じて、易接着層形成用組成物の乾燥方法(条件)から適宜に選択できる。易接着層中の重合体を再溶解させるため、活物質層形成用組成物を易接着層上に塗布した状態をしばらく維持した後に乾燥してもよい。
本発明の電極の製造方法においては、こうして得られた電極(活物質層)を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。ただし、加圧力は、全固体二次電池にかける加圧力よりも低く設定することができ、例えば、2~100MPaに設定することができる。
【0232】
[二次電池]
本発明の電極を備えた二次電池は、電解質として液体電解質を有する二次電池であってもよく、電解質として固体電解質層を有する全固体二次電池であってもよい。上述のように安全性等の種々の利点を有する全固体二次電池であることが好ましい。
液体電解質を有する二次電池は、本発明の電極を用いること以外は通常の二次電池と同様である。以下に、全固体二次電池について詳述する。
【0233】
- 全固体二次電池 -
本発明の全固体二次電池は、正極(正極集電体及び正極活物質層)と、この正極に対向する負極(負極活物質層及び負極集電体)と、正極(正極活物質層)及び負極(負極活物質層)の間に配置された固体電解質層とを有する。本発明において、正極及び負極の少なくとも一方、好ましくはいずれも本発明の電極(電極シート)で構成されている。集電体及び活物質層は、本発明の電極におけるものと同じである。なお、正極及び負極の一方が本発明の電極で形成されない場合、活物質を含有する公知の固体電解質組成物を用いて形成することができる。
固体電解質層は、例えば、固体電解質を含有する通常の固体電解質組成物で形成される。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
【0234】
〔筐体〕
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0235】
以下に、
図2を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0236】
図2は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、正極及び負極のいずれも本発明の電極(易接着層が消失した態様)を用いて形成した二次電池であり、
図2においては易接着層を図示していない。この全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0237】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0238】
本発明の全固体二次電池は、本発明の電極からなる電極を備えており、上述のように、集電体と活物質層とが強固に密着し、活物質層の集電体からの剥離を防止でき、高い電池性能を発揮する。
【0239】
- 二次電池の用途 -
本発明の二次電池、とりわけ全固体二次電池は、上述の優れた特性を示し、種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、電子機器としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
中でも、上述の優れた特性を活かして、上記の各種電子機器、及び自動車に本発明の二次電池を搭載することが好ましい。本発明の二次電池を通常の方法で搭載した電子機器及び電気自動車は優れた電池性能を発揮する。
【0240】
[二次電池の製造方法]
本発明の二次電池の製造方法は、本発明の電極を用いて製造する方法、すなわち本発明の電極の製造方法を介して(経て)製造する方法であれば特に制限されず、本発明の電極を用いて公知の方法により製造できる。
- 全固体二次電池の製造方法 -
以下に、全固体二次電池の製造方法について説明する。
本発明の全固体二次電池の製造方法は、本発明の電極の製造方法を介して製造する方法である。例えば、本発明の電極を製造し、これを用いて固体電解質層を形成することにより、製造できる。具体的には、固体電解質層は、電極上で製膜してもよく、電極上に配置若しくは転写してもよい。こうして形成した固体電解質層に別の電極を重ねて全固体二次電池とする。少なくとも1つの電極として本発明の電極を用いていれば、他の電極として通常の電極(集電体と活物質層との積層体)を作製して用いてもよい。好ましくは、正極及び負極として本発明の電極を作製し、これらの間に固体電解質層を配置して製造する方法が挙げられる。
【0241】
固体電解質層は、例えば、固体電解質組成物を調製し、これを塗布、乾燥して成膜することができる。固体電解質組成物は、固体電解質と、好ましくは分散媒、バインダーと、必要により上述の添加剤とを含有する組成物であり、スラリーであることが好ましい。固体電解質組成物が含有する成分は上述の通りである。分散媒としては、通常用いられるものが挙げられ、固体電解質層の形成に通常用いられる各種の溶剤をClogP値にかかわらず用いることができる。
本発明の固体電解質組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0242】
<固体電解質層の形成(成膜)>
固体電解質組成物の塗布方法は、特に制限されず、上述の易接着層形成用組成物の塗布方法と同じ方法を適用できる。また、固体電解質組成物の乾燥方法(条件)も、特に制限されず、上述の易接着層形成用組成物の乾燥方法(条件)を適用できる。
製膜した固体電解質組成物又は製造した全固体二次電池を加圧することが好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
上記加圧は、固体電解質組成物の加熱と同時に行うこともできる。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。一方、無機固体電解質とバインダーが共存する場合、バインダーを形成する樹脂のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。加圧は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、分散媒が残存している状態で行ってもよい。
【0243】
加圧中の雰囲気としては特に制限されず、大気下、乾燥空気下、不活性ガス中などいずれでもよい。プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池を加圧する場合、中程度の圧力をかけ続けるために、拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧は被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。このときのプレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で加圧することもできる。プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0244】
<初期化>
上記のようにして製造した二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【実施例】
【0245】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0246】
実施例及び比較例に用いるバインダー及び無機固体電解質を以下のようにしてそれぞれ合成した。
<粒子状バインダーAの合成例>
還流冷却管、ガス導入コックを付した2L三口フラスコに、下記マクロモノマーM-1の40質量%ヘプタン溶液を7.2g、アクリル酸メチル(上記例示化合物A-3、和光純薬工業社製)を12.4g、アクリル酸(上記例示化合物A-1、和光純薬工業社製)を6.7g、ヘプタン(和光純薬工業社製)を207g、アゾイソブチロニトリルを1.4g添加し、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に、100℃に昇温した。別容器にて調製した液(マクロモノマーM-1の40質量%ヘプタン溶液を93.1g、アクリル酸メチルを222.8g、アクリル酸を120.0g、ヘプタン300.0g、アゾイソブチロニトリル2.1gを混合した液)を4時間かけて滴下した。滴下完了後、アゾイソブチロニトリル0.5gを添加した。その後100℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却し、ろ過することで粒子状バインダーAの分散液を得た。固形成分濃度は39.2%であった。
粒子状バインダーAの平均粒径は0.15μmであった。また、粒子状バインダーAを形成する樹脂の質量平均分子量は10万であり、ガラス転移温度は-5℃であった。
【0247】
(マクロモノマーM-1の合成例)
12-ヒドロキシステアリン酸(和光純薬工業社製)の自己縮合体(GPCポリスチレンスタンダード数平均分子量:2,000)にグリシジルメタクリレート(東京化成工業社製)を反応させマクロモノマーとしてそれをメタクリル酸メチルとグリシジルメタクリレート(東京化成工業社製)と1:0.99:0.01(モル比)の割合で重合したポリマーにアクリル酸(和光純薬社製)を反応させたマクロモノマーM-1を得た。このマクロモノマーM-1のSP値は9.3、数平均分子量は11000であった。
下記に、粒子状バインダーAを構成するポリマー及びマクロモノマーM-1の推定構造式を示す。
【0248】
【0249】
【0250】
<粒子状バインダーBの合成例>
還流冷却管、ガス導入コックを付した1Lの3つ口フラスコにヘプタンを200質量部加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に室温から80℃に昇温した。攪拌しているヘプタン中に、別容器にて調製した液(アクリル酸ブチル(上記例示化合物A-5、和光純薬工業社製)90質量部、メタクリル酸メチル(上記例示化合物A-4、和光純薬工業社製)20質量部、アクリル酸(上記例示化合物A-1、和光純薬工業社製)10質量部、下記B-27(合成品)を20質量部、下記マクロモノマーMM-1を60質量部(固形分量)、重合開始剤V-601(商品名、和光純薬工業社製)を2.0質量部混合した液)を2時間かけて滴下し、その後80℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物にV-601を更に1.0質量部添加し、90℃で2時間攪拌した。得られた溶液をヘプタンで希釈することで、粒子状バインダーBの分散液を得た。固形成分濃度は30%であった。
粒子状バインダーBの平均粒径は0.2μmであった。また、粒子状バインダーBを形成する樹脂の質量平均分子量は15万であり、ガラス転移温度は-20℃であった。
【0251】
(B-27の合成)
1Lの3つ口フラスコにコレステロール(東京化成工業社製)80g、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)(アルドリッチ社製)を50g、4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製)を5g、ジクロロメタンを500g加えた後、20℃で5分攪拌した。攪拌している溶液中に1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(東京化成工業社製)52gを30分かけて添加し、20℃で5時間攪拌した。その後0.1M塩酸で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧留去を行った。得られたサンプルをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することでB-27を得た。
【0252】
(マクロモノマーMM-1の合成)
還流冷却管、ガス導入コックを付した1Lの3つ口フラスコにトルエンを190質量部加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に室温から80℃に昇温した。攪拌しているトルエン中に、別容器にて調製した液(下記処方α)を2時間かけて滴下し、80℃で2時間攪拌した。その後、V-601(和光純薬工業社製)を0.2質量部添加し、更に95℃で2時間攪拌した。攪拌後95℃に保った溶液に2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(東京化成工業社製)を0.025質量部、メタクリル酸グリシジル(和光純薬工業社製)を13質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業社製)を2.5質量部加えて120℃で3時間攪拌した。得られた混合物を室温まで冷却したのちメタノールに加えて沈殿させ、沈殿物をろ取し、メタノールで2回洗浄後、ヘプタン300質量部を加えて溶解させた。得られた溶液を減圧下で濃縮することでマクロモノマーMM-1の溶液を得た。固形分濃度は43.4%、SP値は9.1、質量平均分子量は16,000であった。得られたマクロモノマーMM-1を以下に示す。
【0253】
(処方α)
メタクリル酸ドデシル(例示化合物A-9、和光純薬工業社製)150質量部
メタクリル酸メチル (例示化合物A-4、和光純薬工業社製) 59質量部
3-メルカプトイソ酪酸 (東京化成工業社製) 2質量部
V-601 (和光純薬工業社製) 1.9質量部
【0254】
【0255】
<易接着層の製膜に用いる重合体Cの合成例>
200mL3つ口フラスコに1,4-ブタンジオール0.36gと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸1.8gとポリカーボネートジオール(商品名:デュラノールT5650J、旭化成社製、Mw800)6.4g、NISSO-PB GI-1000(商品名、水添ポリブタジエンポリオール、日本曹達社製、Mw1500)を加え、メチルエチルケトン49gに溶解した。この溶液に、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート7.6gを加えて80℃で撹拌し、均一に溶解させた。この溶液に、ネオスタンU-600(商品名、日東化成社製)100mgを添加して75℃で10時間攪伴後、メタノール1gを加えてポリマー末端を封止して重合反応を停止後、乾燥し、ポリウレタン樹脂Cの粉末を得た。
【0256】
<易接着層の製膜に用いる重合体Dの合成例>
200mL3つ口フラスコに1,4-ブタンジオール0.36gと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸1.8gとポリカーボネートジオール(商品名:デュラノールG3450J、旭化成社製、Mw800)6.4g、NISSO-PB GI-1000(商品名、水添ポリブタジエンポリオール、日本曹達社製、Mw1500)を加え、メチルエチルケトン49gに溶解した。この溶液に、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート7.6gを加えて80℃で撹拌し、均一に溶解させた。この溶液に、ネオスタンU-600 100mgを添加して75℃で10時間攪伴後、メタノール1gを加えてポリマー末端を封止して重合反応を停止後、乾燥し、ポリウレタン樹脂Dの粉末を得た。
【0257】
<易接着層の製膜に用いる重合体Eの合成例>
200mL3つ口フラスコに1,4-ブタンジオール0.20gと2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸0.41gとポリカーボネートジオール(商品名:エタナコールUH-200、宇部興産社製、Mw2,000)10.0gとトリメチロールプロパン(東京化成工業社製)0.193gとを加え、メチルエチルケトン22gに溶解した。この溶液に、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート3.8gを加えて80℃で撹拌し、均一に溶解させた。この溶液に、ネオスタンU-600 100mgを添加して80℃で4時間攪伴し、Mw27,000のプレポリマーを得た。このプレポリマーに、エポール(商品名、末端ジオール変性水添ポリイソプレン、出光興産社製、Mw2,500)3.7gのTHF溶液5gを加えて、更に80℃で4時間攪伴を続け、メタノール1gを加えてポリマー末端を封止して重合反応を停止後、乾燥し、架橋ポリウレタン樹脂Eの粉末を得た。
【0258】
調製した各粒子状バインダー若しくはその分散液、更に易接着層の製膜に用いる重合体について、下記の各試験を行い、易接着層の製膜に用いる重合体のガラス転移温度を表1に示した。
【0259】
<粒子状バインダーの平均粒径の測定>
粒子状バインダーの平均粒径の測定は、以下の手順で行った。上記にて調製した粒子状バインダーの分散液をジイソブチルケトンを用いて0.1質量%の分散液を調製した。この分散液試料に1kHzの超音波を10分間照射した後に、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、粒子状バインダーの体積平均粒径を測定した。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照した。1水準につき5つの試料を作製して測定し、その平均値をバインダー粒子の平均粒径とした。
【0260】
<平均分子量の測定>
粒子状バインダーを形成する樹脂の数平均分子量又は質量平均分子量は、上記方法(条件2)により、測定した。
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
各樹脂若しくは各重合体のガラス転移温度(Tg)を、上記方法により、測定した。
<固形分濃度の測定方法>
粒子状バインダーの各分散液及びマクロモノマー溶液の固形分濃度は、下記方法に基づいて、測定した。
7cmΦのアルミカップ内に粒子状バインダーA若しくはBの分散液又はマクロモノマー溶液を約1.5g秤量し、少数点第3位までの秤量値を読み取った。続いて窒素雰囲気下で90℃2時間、続いて140℃2時間加熱し、乾燥させた。得られたアルミカップ内の残存物の質量を測り、下記式により固形分濃度を算出した。測定は、5回行い、最大値及び最小値を除いた、3回の平均を採用した。
固形分濃度(%)=[アルミカップ内の残存物量(g)]/[粒子状バインダーA若しくはBの分散液又はマクロモノマー溶液(g)]
【0261】
<硫化物系無機固体電解質の合成>
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。
【0262】
実施例1
実施例1では、表1に示すように、CLogP値2.0以上の溶剤としてのトルエンに対する25℃における溶解度が1g/100g以上の重合体を含有する易接着層形成用組成物と、CLogP値が2.0以上の溶剤としてのトルエン、電極活物質及び硫化物系無機固体電解質を含有する活物質層形成用組成物を用いて、易接着層付集電体を作製し、電極及び全固体二次電池を製造した。
【0263】
[
参考例1-1]
<易接着層付正極集電体の作製>
以下のようにして、
図1に示される易接着層付正極集電体21を作製した。
水添スチレンブタジエンゴム(水添SBR)3g(DYNARON1321P(商品名)、JSR社製)をモレキュラーシーブス3Aで脱水したトルエン100gに加え、プラネタリーミキサーを用いて室温で1時間分散させて、易接着層形成用組成物を得た。
次いで、露点-60℃に設定されたドライルーム内で厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)上にアプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケーター、テスター産業社製)により易接着層形成用組成物を塗布(表1に示す塗布方法は溶剤系)して、100℃のホットプレート上で1時間乾燥した。こうして、厚さ10nmの易接着層を有する易接着層付正極集電体を得た。
【0264】
作製した易接着層付正極集電体について、下記の特性若しくは物性を測定若しくは算出して、表1に示した。
なお、表1における「易接着層付正極集電体」欄中の「塗布方法」は、易接着層形成用組成物が有機溶剤を含有する場合、溶剤系と表記し、水系溶剤を含有する場合、水系と表記する。
【0265】
<溶解度>
後述する正極活物質層形成用組成物の調製に用いた溶剤(表1にも示す。)100g(液温25℃に調整)を撹拌しながら、易接着層形成用組成物の調製に用いた重合体(表1にも示す。)を1gずつ添加し、未溶解物が出る直前の値(添加量)を溶解度とした。得られた溶解度を下記基準にてクラス分けして表1に示す。
- 溶解度の基準 -
A:10g/100g以上
B: 5g/100g以上、10g/100g未満
C: 1g/100g以上、 5g/100g未満
D:1gの重合体でも溶解せず、未溶解物が確認できる
【0266】
<ClogP値>
溶剤のClogP値は、上述の算出方法に準拠して、算出した。
【0267】
<表面抵抗>
調製した易接着層形成用組成物をテフロン(登録商標)シート上にベーカー式アプリケーター(パルテック社製)を用いて塗布し、送風乾燥機(ヤマト科学社製)内に静置して100℃で8時間乾燥させた後、テフロン(登録商標)シートから静かに剥離し、厚さ50μm以上の易接着層を得た。得られた易接着層について、JIS C 2151に従い、表面抵抗を測定した。得られた表面抵抗値(単位:Ω/□)を、易接着層付正極集電体における易接着層の表面抵抗値とした。
【0268】
<突起数>
易接着層付正極集電体の易接着層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られたSEM画像から突起50点を任意に選択し、各突起について最も近傍に位置する他の突起との距離(最近傍突起間距離)を測定し、これらの平均を算出した。得られた平均最近傍突起間距離から1m2当たりの突起数(個)を算出した。例えば、平均最近傍突起間距離が1mmである場合、突起数は1000×1000=1000000個/m2となる。
【0269】
<引張弾性率>
易接着層形成用組成物をテフロン(登録商標)シート上にベーカー式アプリケーター(パルテック社製)を用いて塗布し、送風乾燥機(ヤマト科学社製)内に静置して100℃で8時間乾燥させた。次いで、乾燥後の膜を、ショッパー形試料打抜器(安田精機製作所製)を用いて、JIS K 7127「プラスチック-引張特性の試験方法 第3部:フィルム及びシートの試験条件」により規定される標準試験片タイプ5を作製した。このようにして、引張試験用試験片を調製した。
作製した試験片について、デジタルフォースゲージZTS-5N及び縦型電動計測スタンドMX2シリーズ(いずれも商品名、イマダ社製)を用いて、温度25℃、露点-50℃の環境下で引張試験を行った。試験片中央部には50mm離れて平行な2本の標線をつけ、1分間に10mmの速度で試験片を引き延ばし、JIS K 7161「プラスチック-引張特性の試験方法」に基づいて弾性率を算出した。得られた弾性率を、易接着層付正極集電体における易接着層の弾性率とした。
【0270】
<重合体のガラス転移温度>
特開2015-088486号公報の段落[0143]に記載のガラス転移温度(Tg)の測定法に基づいて、測定した。
【0271】
(正極シートの作製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPS 2.8g、粒子状バインダーAの分散液を固形分換算で0.2g、分散媒としてトルエン12.3gを投入した。遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。その後、活物質としてNMC(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(アルドリッチ社製))7.0g、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ社製)を0.2g容器に投入し、同様に、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数100rpmで10分間混合を続け、正極活物質層形成用組成物を調製した。
正極活物質層形成用組成物において、粒子状バインダーAは粒子状を維持している。
【0272】
調製した正極活物質層形成用組成物を、正極集電体の易接着層上に、アプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケーター、テスター産業社製)により30mg/cm2の目付量となるように塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で1時間乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧した(20MPa、1分間)。こうして、易接着層を形成する水添SBRを正極活物質層に取り込んで、正極集電体上に正極活物質層(厚さ80μm)を有する正極シートを作製した。
【0273】
<易接着層付負極集電体Aの作製>
易接着層付正極集電体の作製において、アルミニウム箔をステンレス鋼(SUS)箔(負極集電体)に変更した以外は、易接着層付正極集電体の作製と同様にして、易接着層付負極集電体Aを作製した。
作製した易接着層付負極集電体について、易接着層付正極集電体と同様にして、上記各特性若しくは物性を測定若しくは算出した。易接着層付負極集電体の各特性及び物性は、易接着層付正極集電体と同じであるため、記載を省略する。
【0274】
(負極シートの作製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPS 2.8g、粒子状バインダーBの分散液を固形分換算で0.2g、分散媒としてトルエン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。その後、活物質として黒鉛(商品名、CGB20、日本黒鉛社製)7.0gを容器に投入し、同様に、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数200rpmで15分間混合を続け負極活物質形成用組成物を調製した。
負極活物質層形成用組成物において、粒子状バインダーBは粒子状を維持している。
【0275】
上記で調製した負極活物質形成用組成物を、易接着層付負極集電体Aの易接着層上に、アプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケーター、テスター産業社製)により15mg/cm2の目付量となるように塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で1時間乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧した(20MPa、1分間)。こうして、易接着層を形成する水添SBRを負極活物質層に組み込んで、負極集電体上に負極活物質層(厚さ60μm)を有する負極シートを作製した。
【0276】
<全固体二次電池の製造>
図2に示す層構成を有する全固体二次電池を以下のようにして製造した。
すなわち、ポリエチレンテレフタラート(PET)製の円筒に10mmφのSUS製の棒を片側開口部から挿入した。正極シートを直径9mmの円盤状に打ち抜き、円筒内にSUS棒に正極集電体22を対面させた状態で配置した後、円筒内の正極活物質層の表面上にLPSを30mg入れて、円筒の反対側開口部から10mmφのSUS棒を挿入して350MPaで加圧成形して固体電解質層(200μm)を形成した。固体電解質層側のSUS棒を一旦外し、負極シートの負極活物質層を固体電解質層に対面させた状態で直径9mmの円盤状に打ち抜いた負極シートを固体電解質層上に配置した。次いで、外していたSUS棒を円筒内に再度挿入し、600MPaで加圧後、SUS棒をかしめ、
参考例1-1の全固体二次電池を製造した。
こうして、本発明の易接着層付集電体を正極及び負極に用いた全固体二次電池を製造した。
【0277】
[参考例1-2~1-8]
参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製において、易接着層の厚さを表1に示す値に変更し、更に参考例1-4においては正極活物質層形成用組成物の溶剤をトルエンに代えてジイソブチルケトン(DIBK)を用い、参考例1-5においては易接着層形成用組成物の溶剤をトルエンに代えてDIBKを用いた以外は、参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製と同様にして、参考例1-2~1-8の易接着層付正極集電体をそれぞれ作製した。
こうして作製した各易接着層付正極集電体を用いた以外(易接着層付負極集電体としては参考例1-1で作製した易接着層付負極集電体A(易接着層の厚さは10nm)を用いた。参考例1-9~1-11、実施例1-12~1-14、参考例1-15~1-18及び比較例1-1~1-3も同じ。)は、参考例1-1と同様にして、参考例1-2~1-8の全固体二次電池をそれぞれ製造した。
参考例1-7で作製した易接着層付正極集電体の易接着層を削り取り、水分測定をJIS K0113に沿って測定した結果、残留水分量は80ppmであった。
【0278】
[参考例1-9~1-11]
参考例1-6の易接着層付正極集電体の作製において、易接着層形成用組成物にデンカブラック(平均粒径35nm、デンカ社製)を混合し、このデンカブラックの、水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P(商品名))に対する混合質量比を変更して易接着層の表面抵抗を表1に示す値に設定した以外は、参考例1-6と同様にして、参考例1-9~1-11の易接着層付正極集電体をそれぞれ作製した。こうして作製した易接着層付正極集電体を用いた以外は参考例1-1と同様にして、参考例1-9~1-11の全固体二次電池をそれぞれ製造した。
【0279】
[実施例1-12~1-14]
参考例1-3の易接着層付正極集電体の作製において、水添スチレンブタジエンゴムを含有する上記易接着層形成用組成物を、スチレンブタジエンゴム(SBR)のソープフリーラテックス(SX1105(商品名)、日本ゼオン社製)にコロイダルシリカ(スノーテックスZL(商品名)、平均粒径85nm、日産化学社製)を表1に示す突起数になる含有量で含有させた易接着層形成用(水系)組成物を用いた(表1に示す塗布方法は水系)以外は、参考例1-3と同様にして、実施例1-12~1-14の易接着層付正極集電体をそれぞれ作製した。こうして作製した易接着層付正極集電体を用いた以外は参考例1-1と同様にして、実施例1-12~1-14の全固体二次電池をそれぞれ製造した。
【0280】
[参考例1-15及び1-16]
参考例1-3の、易接着層付正極集電体の作製において、水添スチレンブタジエンゴムに代えて、上記で合成したポリウレタン樹脂C(参考例1-15)又はポリウレタン樹脂D(参考例1-16)に変更した以外は、参考例1-3と同様にして、参考例1-15及び1-16の易接着層付正極集電体をそれぞれ作製した。こうして作製した易接着層付正極集電体を用いた以外は参考例1-1と同様にして、参考例1-15及び1-16の全固体二次電池をそれぞれ製造した。
【0281】
[参考例1-17]
参考例1-3の、易接着層付正極集電体の作製において、水添スチレンブタジエンゴム3g(DYNARON1321P(商品名))をトルエン100gに溶解した易接着層形成用組成物を、スチレンブタジエンゴムのソープフリーラテックス(SX1105(商品名)、水系組成物、日本ゼオン社製)を水で希釈した組成物に変更した(表1に示す塗布方法は水系)以外は、参考例1-3と同様にして、易接着層付正極集電体を作製した。この易接着層付正極集電体を用いた以外は参考例1-1と同様にして、参考例1-17の全固体二次電池を製造した。
【0282】
[参考例1-18]
参考例1-3の正極シートの作製において、粒子状バインダーAの分散液に代えて水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P(商品名))を用いて調製した正極活物質層形成用組成物を用いた以外は、参考例1-3と同様にして、正極シートを製造した。正極活物質層形成用組成物において、水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P)はトルエンに溶解している。この正極シートを用いた以外は参考例1-1と同様にして、参考例1-18の全固体二次電池を製造した。
【0283】
[比較例1-1]
参考例1-3の、易接着層付正極集電体の作製において、水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P(商品名))3gに代えて、架橋ポリウレタン樹脂Eに変更した以外は、参考例1-3の易接着層付正極集電体の作製の作製と同様にして、比較例1-1の易接着層付正極集電体を作製した。この易接着層付正極集電体を用いた以外は参考例1-1と同様にして、全固体二次電池を製造した。
【0284】
[比較例1-2]
参考例1-16において、トルエンに代えてイソブチロニトリル(IBN)を用いて調製した正極活物質層形成用組成物を用いた以外は、参考例1-16と同様にして、全固体二次電池を製造した。
IBNに対するポリウレタン樹脂Dの溶解度は1g/100g未満であった。
【0285】
[比較例1-3]
参考例1-17において、スチレンブタジエンゴムのソープフリーラテックスに代えてリチウムシリケート35(日産化学社製)とデンカブラックとを固形分換算で1:1になるように調製した易接着層形成用組成物を用いて厚み2000nmの易接着層を形成した以外は、参考例1-17と同様にして、易接着層付正極集電体を作製した。この易接着層付正極集電体を用いた以外は参考例1-1と同様にして、比較例1-3の全固体二次電池を製造した。
【0286】
作製した全固体二次電池について、下記の特性若しくは物性を測定若しくは評価して、その結果を表1に示した。
<全固体二次電池の構成層の厚さの測定>
全固体二次電池の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して得られた画像から構成層の厚さを算出した。
【0287】
<膜強度の評価>
集電体と活物質層との密着力を、下記の膜強度試験により、評価した。
この膜強度試験は、JIS K 5600-5-1に準拠し、マンドレル試験機を用いた耐屈曲性試験として、行った。すなわち、各例で製造した正極シートを幅50mm、長さ100mmの短冊状に切り出した試験片を用いて、正極活物質層をマンドレルとは逆側(正極集電体をマンドレル側)、かつ試験片の幅方向がマンドレルの軸に平行となるようにセットし、マンドレルの外周面に沿って180°屈曲(1回)させた後、正極活物質層の集電体からの剥離が生じているか否かを目視で観察した。この屈曲試験は、まず、直径25mmのマンドレルを用いて行い、剥離が発生していない場合、マンドレルの径(単位mm)を20、16、12、10、8、6、5、4、3、2と徐々に小さくしていき、最初に剥離が発生したマンドレルの直径を記録した。この剥離が最初に発生したマンドレルの直径(欠陥発生径)が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、評価した。本試験において、欠陥発生径が小さいほど集電体と正極活物質層の密着性が強固であることを示し、評価基準AA、A、B及びCが合格レベルである。
【0288】
-評価基準-
AA: 5mm未満
A: 5mm以上、10mm未満
B:10mm以上、16mm未満
C:16mm
D:20mm以上
【0289】
<電池性能の測定>
各例で製造した全固体二次電池の電池性能を、充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名、東洋システム社製)を用いて測定した電池電圧により、評価した。具体的には、全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vになるまで電流値2.0mAで放電した。放電開始10秒後の電池電圧を読み取り、以下の評価基準により、評価した。
評価基準を以下に示す。本試験において、評価基準AA、A、B及びCが合格レベルである。なお、表中の電池性能評価における「-」は、正極シートの膜強度が弱く、電池を製造できなかったため、電池性能の評価ができなかったことを意味する。
【0290】
- 評価基準 -
AA:4.10V以上
A:4.05V以上、4.10V未満
B:4.00V以上、4.05V未満
C:3.95V以上、4.00V未満
D:3.90V以上、3.95V未満
【0291】
<耐接着性の評価>
各例で作製した易接着層付正極集電体から切り出したシート状サンプル10枚を重ね合せて積層サンプルを作製した。シート状サンプルは、上下に位置するシート状サンプルの易接着層と集電体とが接触するように重ねた。この試験体を、温度30℃、相対湿度80%の環境下で、加圧力0.5MPaの加圧状態で24時間加圧し、次いで、温度23℃、相対湿度50%環境下で12時間以上静置した後、10枚の易接着層付正極集電体それぞれを剥離した。各易接着層付集電体の剥離面(下面)を観察して、以下の評価基準により、易接着層付集電体の耐接着性を評価した。本試験において、評価基準A、B及びCが合格レベルである。
- 評価基準 -
A:10枚とも下面に剥離跡が見られない場合
B:1枚又は2枚の易接着層付集電体の下面のエッジ部に僅かに剥離跡が見られる場合
C:1枚又は2枚の易接着層付集電体の下面に剥離跡が見られる場合
D:3枚以上の易接着層付集電体の下面に剥離跡が見られる場合
【0292】
【0293】
表1に示す結果から次のことが分かる。すなわち、本発明で規定する溶解度を満たさない重合体を含む易接着層を有する易接着層付集電体(比較例1-1及び1-3)は、その上に形成される活物質層との密着性(膜強度)が十分ではない。また、本発明で規定する溶解度を満たす重合体を含む易接着層を有する易接着層付集電体であっても、本発明で規定するClogP値を満たさない溶剤を含有する活物質層形成用組成物を用いた場合(比較例1-2)には、この集電体は形成される活物質層集電体に対して十分な密着性を示さない。
これに対して、本発明で規定する溶解度を満たす重合体を含む易接着層を有する易接着層付集電体(参考例1-1~1-11、実施例1-12~1-14、参考例1-15~1-18)は、本発明で規定するClogP値を満たす溶剤を含有する活物質層形成用組成物を用いて形成される活物質層に対して優れた密着性を示すだけでなく、電池電圧が高く、優れた電池性能を発揮する全固体二次電池を製造できる。更には、耐接着性にも優れ、重ね合わされても易接着層の剥離及び破損を防止できる。
【0294】
参考例2
参考例2では、実施例1と同様にして、表2に示される負極を作製し、この負極を用いて全固体二次電池を製造して、負極及び全固体二次電池について評価した。その結果を表2に示す。
【0295】
[参考例2-1]
参考例2-1は、上記参考例1-3と同様にして電極及び全固体二次電池を製造した。
ただし、易接着層付負極集電体Aに設けた易接着層の厚さを50nmとした。
[参考例2-2]
参考例1-3において、易接着層付負極集電体Aに代えて、下記のようにして作製した易接着層付負極集電体Bを用いた以外は、参考例1-3と同様にして、全固体二次電池を製造した。
- 易接着層付負極集電体Bの作製 -
参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製において、アルミニウム箔を銅箔(負極集電体)に変更し、更に易接着層の厚さを50nmに変更した以外は、参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製と同様にして、易接着層付負極集電体Bを作製した。
【0296】
[比較例2-1]
比較例1-1において、易接着層付負極集電体Aに代えて易接着層付負極集電体Cを用いた以外は、比較例1-1と同様にして、全固体二次電池を製造した。
- 易接着層付負極集電体Cの作製 -
参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製において、アルミニウム箔をステンレス鋼(負極集電体)に変更し、かつ水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P(商品名))を架橋ポリウレタン樹脂Eに変更し、更に易接着層の厚さを50nmとした以外は、参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製と同様にして、易接着層付負極集電体Cを作製した。
[比較例2-2]
比較例2-1において、易接着層付負極集電体Cに代えて易接着層付負極集電体Dを用いた以外は、比較例2-1と同様にして、全固体二次電池を製造した。
- 易接着層付負極集電体Dの作製 -
参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製において、アルミニウム箔を銅箔(負極集電体)に変更し、かつ水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P(商品名))を架橋ポリウレタン樹脂Eに変更し、更に易接着層の厚さを50nmとした以外は、参考例1-1の易接着層付正極集電体の作製と同様にして、易接着層付負極集電体Dを作製した。
【0297】
作製した易接着層付負極集電体について、実施例1と同様にして、上記各特性若しくは物性を測定若しくは算出した。なお、易接着層付正極集電体の各特性及び物性は、対応する実施例1の易接着層付正極集電体と同じであるため、記載を省略する。
また、作製した正極シート及び全固体二次電池について、実施例1と同様にして、上述の特性若しくは物性を測定若しくは評価して、その結果を表2に示した。
ただし、膜強度の評価については、評価対象を、正極シートではなく、負極シートに変更して、行った。また、耐接着性は、評価対象を、正極シートではなく、負極シートに変更して、下記負極用評価基準により、評価した。
【0298】
【0299】
表2に示す結果から、本発明で規定する溶解度を満たす重合体を含む易接着層を有する易接着層付集電体であれば、負極集電体として用いても、負極活物質層に対して高い密着力を示し、かつ高い電池性能を発揮する全固体二次電池を製造できることが分かる。また、易接着層付集電体は、重ね合わされても易接着層の剥離及び破損を防止できる。
【0300】
参考例3
参考例3では、表3に示すように、正極活物質層の固体電解質として酸化物系無機固体電解質を用いた以外は実施例1と同様にして易接着層付集電体、電極及び全固体二次電池を製造して、これらを評価した。ただし、電池性能の評価は以下の評価基準とした。その結果を表3に示す。本試験において、評価基準AA、A、B及びCが合格レベルである。
- 評価基準 -
AA:3.80V以上
A:3.75V以上、3.80V未満
B:3.70V以上、3.75V未満
C:3.65V以上、3.70V未満
D:3.60V以上、3.65V未満
【0301】
[参考例3-1]
参考例1-3の正極シートの作製において、硫化物系無機固体電解質LPSに代えて酸化物系無機固体電解質Li7La3Zr2O12(LLZ)を用いて調製した正極活物質層形成用組成物を用いた以外は、参考例1-3と同様にして、正極シートを作製した。この正極シートを用いた以外は参考例1-3と同様にして、全固体二次電池を製造した。
[比較例3-1]
比較例1-1の正極シートの作製において、LPSに代えてLLZを用いて調製した正極活物質層形成用組成物を用いた以外は、比較例1-1と同様にして、正極シートを作製した。この正極シートを用いた以外は比較例1-1と同様にして、全固体二次電池を製造した。
【0302】
参考例4
参考例4では、正極活物質層の固体電解質として有機固体電解質を用いた以外は参考例3と同様にして易接着層付集電体、電極及び全固体二次電池を製造して、これらを評価した。その結果を表3に示す。
【0303】
[参考例4-1]
参考例1-3の正極シートの作製において、硫化物系無機固体電解質としてのLPSに代えて有機固体電解質として下記Li塩含有ポリエチレンオキシド溶液を用いて調製した正極活物質層形成用組成物を用いた以外は、参考例1-3と同様にして、正極シートを作製した。なお、Li塩含有ポリエチレンオキシド溶液の使用量は、その固形分量が参考例1-3のLPSの使用量と同じになるように設定した。こうして得られた正極シートを用いた以外は参考例1-3と同様にして、全固体二次電池を製造した。
<Li塩含有ポリエチレンオキシドの調製例>
ポリエチレンオキシド(PEO、Mw:10万、Aldrich社製)2.5gとリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、和光純薬工業社製)1.0gをアセトニトリル(和光純薬工業社製)25gに溶解させて、Li塩含有ポリエチレンオキシド溶液を調製した。
【0304】
[比較例4-1]
比較例1-1の正極シートの作製において、LPSに代えて上記Li塩含有ポリエチレンオキシド溶液(使用量は固形分換算)を用いて調製した正極活物質層形成用組成物を用いた以外は、比較例1-1と同様にして、正極シートを作製した。この正極シートを用いた以外は比較例1-1と同様にして、全固体二次電池を製造した。
【0305】
作製した易接着層付正極集電体について、実施例1と同様にして、上記各特性若しくは物性を測定若しくは算出した。なお、易接着層付性負極集電体の各特性及び物性は、対応する実施例1の易接着層付負極集電体と同じであるため、記載を省略する。
また、作製した負極シート及び全固体二次電池について、実施例1と同様にして、上述の特性若しくは物性を測定若しくは評価して、その結果を表3に示した。
【0306】
【0307】
表3に示す結果から、本発明で規定する溶解度を満たす重合体を含む易接着層を有する易接着層付集電体であれば、その上に、無機固体電解質として酸化物系無機固体電解質又は有機固体電解質層を含有する正極活物質を設けても、正極活物質層に対して高い密着力を示し、かつ高い電池性能を発揮する全固体二次電池を製造できることが分かる。また、易接着層付集電体は、重ね合わされても易接着層の剥離及び破損を防止できる。
【0308】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0309】
本願は、2018年5月31日に日本国で特許出願された特願2018-104354に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0310】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 イオン伝導度測定用セル(コイン電池)
21 易接着層付集電体
22 集電体
23 易接着層