(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された断熱材
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20220830BHJP
F16L 59/065 20060101ALI20220830BHJP
F25D 23/06 20060101ALI20220830BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220830BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20220830BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C08L81/02
F16L59/065
F25D23/06 X
C08K7/14
C08K9/06
C08K5/29
(21)【出願番号】P 2021525681
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 KR2020014593
(87)【国際公開番号】W WO2021080379
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0133913
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0133914
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0138009
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ラン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、スン-イン
(72)【発明者】
【氏名】ハム、ミョン-チョ
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-080262(JP,A)
【文献】米国特許第06042910(US,A)
【文献】特開平01-185366(JP,A)
【文献】特開平02-180962(JP,A)
【文献】特開2009-173865(JP,A)
【文献】特開2008-188960(JP,A)
【文献】特開2002-012763(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0075843(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00-18/87
71/00-71/04
75/00-75/32
79/00-79/14
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
F16L59/00-59/22
F25D23/02
23/06-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィド100重量部、ガラス繊維60~120重量部及び耐加水分解剤0.01~3重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物
であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、下記数式1
【数1】
で計算される加熱減量が0.10%以下であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、真空バスのボリューム(Bath Volume)が3.26Lである真空バス(bath)に、射出試片を表面積が147,840mm
2となる量で入れ、Volume/Surface 2.21E-03l/cm
2、排気温度150℃及び排気時間15時間の条件下で排気して、バスの内部を真空状態にした後、5時間以降の時点から12時間となる時点で測定した圧力上昇率が、1.77×10
-4torr/h以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィドは、多分散度指数(PDI)が5~7であることを特徴とする、請求項1
または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガラス繊維は、シラン系化合物で表面処理されたガラス繊維であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ガラス繊維は、平均直径が5~15μmであり、平均長さが1~5mmであることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記耐加水分解剤はカルボジイミド系重合体であることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記カルボジイミド系重合体は、融点が56~95℃であることを特徴とする、請求項
6に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
前記カルボジイミド系重合体は、下記化学式5
【化1】
(前記において、nは、1~15の整数である。)で表される重合体であることを特徴とする、請求項
6または
7に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、総揮発性有機化合物(TVOC)値が120ppm以下であり、引張強度が200~250MPaであり、屈曲強度は290~350MPaであることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、熱変形温度(HDT)が270~300℃であり、溶融指数(315℃、5kg)が23~41g/10分であることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィド100重量部、ガラス繊維60~120重量部及び耐加水分解剤0.01~3重量部を溶融混練し、押出するステップを含むことを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含むことを特徴とする、断熱材。
【請求項13】
前記断熱材は冷蔵庫の真空断熱材であることを特徴とする、請求項
12に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2019年10月25日付の韓国特許出願第10-2019-0133913号、2019年10月25日付の韓国特許出願第10-2019-0133914号、及び前記優先権2件を併合して2020年10月23日付で再出願された韓国特許出願第10-2020-0138009号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された断熱材に関し、より詳細には、流れ性に優れ、アウトガッシングが少なく、薄い厚さでも優れた断熱性能及び機械的強度を実現できるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された断熱材に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、地球温暖化に対する観点から、家電製品の消費電力量削減の必要性が叫ばれている。特に、冷蔵庫は、家電製品の中で消費電力量が多い製品であり、冷蔵庫の消費電力量削減は、地球温暖化対策として必要不可欠な状況にある。冷蔵庫の消費電力は、冷蔵庫の内部の負荷量が一定であれば、冷却用圧縮機の効率と冷蔵庫の内部からの熱漏洩量に関係する断熱材の断熱性能によってその大部分が決まるので、冷蔵庫では、冷却用圧縮機の効率向上及び断熱材の性能向上を行うことが重要となっている。
【0004】
従来の冷蔵庫の場合、冷蔵と冷凍によって差はあるが、およそ30cmを超える厚さの発泡ポリウレタン(Polyurethane、PU)断熱壁を提供するのが一般的であった。しかし、この場合、冷蔵庫の内部容積率が減少するという問題がある。
【0005】
これによって、断熱材の高性能化のために、冷蔵庫に真空断熱材を使用してきた。
【0006】
真空断熱材は、ボディーの内部を真空に維持することで、厚さが薄いながらも、対流及び伝導による熱伝達を抑制することができる断熱材である。
【0007】
従来の真空断熱材を用いた冷蔵庫としては、日本特許公開第2001-165557号公報に開示されたものがある。この特許文献の冷蔵庫は、シート状無機繊維集合体からなるコア材をガス遮断性フィルムからなる外被材で覆って内部を減圧密封した真空断熱体を形成し、この真空断熱体を外箱と内箱とで形成される空間に配置し、その周囲に発泡断熱材を充填して断熱壁を形成したものである。
【0008】
しかし、従来の真空断熱材の場合、使用される有機化合物による製造工程中にアウトガッシングが多量発生し、断熱材用樹脂組成物の流れ性が良くないため工程性が低下し、冷蔵庫の支持の役割に必要な機械的物性の不足により、薄いながらも耐衝撃性などが優れた真空断熱材の開発が依然として求められているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、アウトガッシングが少ないので断熱材の表面特性に優れ、断熱性能に優れ、流れ性に優れ、薄い厚さでも耐衝撃性のような機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された断熱材を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の上記目的及びその他の目的は、以下で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、一例として、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部及びガラス繊維80~120重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供する。
【0012】
前記ガラス繊維は、好ましくは、前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して90~100重量部、例えば、100重量部の量で含まれてもよい。
【0013】
他の例として、本発明は、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びエポキシシランでサイジングされたガラス繊維を含み、TVOC値が120ppm以下、揮発分損失量(Volatile weight loss)が0.15%以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましくは断熱材に使用されてもよい。
【0015】
また、本発明は、好ましくは、溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィド100重量部、ガラス繊維60~120重量部及び耐加水分解剤0.01~3重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、好ましくは、溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィド100重量部、ガラス繊維60~120重量部及び耐加水分解剤0.01~3重量部を含んで溶融混練及び押出するステップを含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含む断熱材を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、薄い厚さで優れた断熱性能を実現することができ、流れ性が良いので作業性に優れ、アウトガッシングが少ないので、成形品の表面特性に優れ、真空度を長く維持することができ、特に、向上した機械的強度を有するので、冷蔵庫などの断熱材を必要とする電子製品に有用に適用することができる。
【0019】
また、本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、電子製品の内部容積率を向上させ、耐衝撃性、支持性能及び断熱性能を高めることでエネルギー利用効率を高めることができるので、産業上の適用が積極的に期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、一例として、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部及びガラス繊維80~120重量部を含むことを特徴とし、この範囲内で、薄い厚さでも耐衝撃性に優れ、十分な断熱性能を有するという利点がある。
【0022】
前記ガラス繊維は、好ましくは、前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して90~100重量部、例えば、100重量部の量で含まれてもよく、この範囲内で、薄い厚さでも耐衝撃性に優れ、十分な断熱性能を有するという利点がある。
【0023】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、他の例として、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びエポキシシランでサイジングされたガラス繊維を含み、TVOC値が120ppm以下、揮発分損失量(Volatile weight loss)が0.15%以下であることを特徴とし、このような場合に、断熱特性に優れるだけでなく、流れ性が良く、アウトガッシングが少ないので表面特性及び真空維持特性に優れた断熱材を得るという利点がある。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましくは、溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィド100重量部、ガラス繊維60~120重量部及び耐加水分解剤0.01~3重量部を含むことを特徴とし、この範囲内で、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、アウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れ、流れ性が良いので加工性に優れ、耐衝撃性のような機械的強度に優れると同時に断熱性に優れるという効果がある。
【0025】
以下、本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された成形品を構成する各成分を詳細に説明する。
【0026】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂は、好ましくは、溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィドであってもよく、この範囲内で、機械的物性、耐熱性、加工性及び断熱性に優れるという効果がある。
【0027】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、好ましくは、Mw/Mnで計算される多分散度指数(PDI)が5~7であってもよく、より好ましくは5.1~6.9、さらに好ましくは5.2~6.8、より一層好ましくは5.3~6.6、特に好ましくは5.3~6.5、特にさらに好ましくは5.4~6.4であり、この範囲内で、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、機械的物性、耐熱性、加工性及び断熱性がいずれも優れるという効果がある。
【0028】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂は、一例として、線状ポリアリーレンスルフィド樹脂が加熱硬化工程を経ずに重合反応の改善を通じて製造されるのとは異なり、重合過程中に加熱硬化(heat curing)工程を経て製造されてもよいが、本発明の定義に従う限り、一般に本発明の属する技術分野で架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂と称されるものであれば、特に制限されず、具体例として、NHU 21150C、Toray M2900、Tosoh B385などのような市販の架橋型ポリフェニレンスルフィドを使用することもできる。
【0029】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、一例として、オリゴマーフリー(oligomer free)のポリアリーレンスルフィド樹脂であってもよく、この場合に、高温で加工時にガスの発生が著しく減少して、ヘイズが低くなるので、外観特性に優れながらも機械的物性が維持されるという効果がある。
【0030】
本記載において、オリゴマーフリーのポリアリーレンスルフィド樹脂は、特に特定しない限り、アセトン、又は、アセトンと脱イオン水で洗浄してポリアリーレンスルフィド樹脂内のオリゴマーが除去されたもので、「オリゴマーフリー(oligomer free)」とは、オリゴマー(oligomer)が除去されたものを指し、具体例として、オリゴマー含量が500ppm以下、または300ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10~50ppmであることを意味する。
【0031】
前記オリゴマーは、一例として、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート(2,6-Diisopropylphenyl isocyanate)、2,6-ジイソプロピルアニリン(2,6-Diisopropylaniline)、1,4-ビス(フェニルチオ)ベンゼン(1,4-Bis(phenylthio)-benzene)、1,6-ヘキサンジオール(1,6-Hexanediol)及びp-クロロ-N-メチルアニリン(p-Chloro-N-methylaniline)からなる群から選択された1種以上であってもよく、このようなオリゴマーが除去される場合に、ヘイズ及び機械的物性が改善されるという効果がある。
【0032】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融指数は、好ましくは50~470g/10分であってもよく、より好ましくは50~460g/10分、さらに好ましくは50~450g/10分、より一層好ましくは100~450g/10分、特に好ましくは150~450g/10分、特にさらに好ましくは200~450g/10分であり、この範囲内で、機械的物性、耐熱性、加工性及び断熱性に優れるという効果がある。
【0033】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィドは、好ましくは、重量平均分子量(Mw)が3×105~4×105g/molであってもよく、より好ましくは3.0×105~3.9×105g/mol、さらに好ましくは3.0×105~3.7×105g/mol、より一層好ましくは3.0×105~3.5×105g/mol、特に好ましくは3.1×105~3.5×105g/mol、特にさらに好ましくは3.1×105~3.4×105g/molであり、この範囲内で、機械的物性、耐熱性、加工性及び断熱性に優れるという効果がある。
【0034】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィドは、好ましくは、数平均分子量(Mn)が0.51×105~8×105g/molであってもよく、より好ましくは0.51×105~7×105g/mol、さらに好ましくは0.51×105~6×105g/mol、より一層好ましくは0.52×105~0.59×105g/mol、特に好ましくは0.53×105~0.58×105g/mol、特にさらに好ましくは0.54×105~0.56×105g/molであり、この範囲内で、機械的物性、耐熱性、加工性及び断熱性に優れるという効果がある。
【0035】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィドは、好ましくは、総揮発性有機化合物(TVOC)が200ppm以下であってもよく、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下であり、この範囲内で、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、機械的物性及び断熱性に優れ、人体に有害な有害物質の放出が少ないので環境に優しいという利点がある。
【0036】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、好ましくは、ポリフェニレンスルフィド樹脂であってもよい。
【0037】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は、一例として、下記化学式1の構造を有する単位体を70モル%以上、または70~99.9モル%含有してもよい。
【0038】
【0039】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は、好ましくは、下記化学式2の構造を有する共重合単位体からなる群から選択された1種以上を、30モル%以下、または0.1~30モル%含有してもよい。
【0040】
【0041】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィドは、優れた耐化学性及び優れた耐熱性(熱変形温度270℃以上)を有し、それ自体難燃性を有しているので、難燃剤なしでも難燃化が可能な環境に優しい難燃樹脂に該当する。
【0042】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィドは、ヘイズメーター(Haze meter)を用いて、オイル浴槽の温度240℃、冷却温度23℃でフォギング(fogging)時間を5時間として、ガラスに捕集されるガスのフォギングの程度(haze)が、好ましくは6以下であってもよく、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4.5以下、より一層好ましくは4.2以下であり、この範囲内で、アウトガッシングが少ないので、成形品の表面特性に優れ、真空度を長く維持することができ、残りの物性バランスに優れるという利点がある。
【0043】
(ガラス繊維)
本記載のガラス繊維は、好ましくは、60~120重量部含まれてもよく、より好ましくは60~110重量部、さらに好ましくは60~105重量部、より一層好ましくは65~105重量部、特に好ましくは67~105重量部、特にさらに好ましくは67~101重量部含まれ、この範囲内で、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、機械的物性及び断熱性に優れるという利点がある。
【0044】
前記ガラス繊維は、好ましくは、シラン系化合物で表面処理されたガラス繊維であってもよく、より好ましくは、エポキシシラン化合物またはアミノシラン化合物で表面処理されたガラス繊維であり、さらに好ましくはエポキシシラン化合物で表面処理されたガラス繊維であり、この場合に、ポリアリーレンスルフィド樹脂との相溶性をさらに向上させることで、樹脂組成物の成形性を改善させるという効果がある。
【0045】
前記シラン系化合物は、サイジング剤であって、ガラス繊維フィラメントを集束させ、ガラス繊維の表面に所望の特性を付与する役割を果たす。
【0046】
前記エポキシシラン化合物は、ガラス繊維の表面処理に通常使用されるエポキシシラン化合物であれば、特に制限されないが、好ましい例として、下記化学式3で表される化合物であってもよい。
【0047】
【0048】
前記化学式3において、R1は、少なくとも1つのエポキシ基を有する群であり、Xは、ヒドロキシ基、または水と反応してヒドロキシ基を作ることができる置換基であってもよく、前記aは、1~3の整数であり、前記bは、1~3の整数であり、a+b=4を満たす。
【0049】
他の好ましい例として、前記エポキシシラン化合物は、下記化学式4で表される化合物であってもよい。
【0050】
【0051】
前記化学式4において、R’Oは、メトキシ、エトキシまたはアセトキシであり、Rは、結合又は炭素数1~5のアルキレン基であり、Xはエポキシ基である。
【0052】
前記シラン系化合物は、好ましくは、表面処理されていないガラス繊維総100重量部に0.10~0.50重量部含まれてもよく、この範囲内で、ポリアリーレンスルフィド樹脂との相溶性をさらに向上させることで、樹脂組成物の成形性を改善させるという効果がある。
【0053】
前記ガラス繊維は、平均直径が、好ましくは5~15μm、より好ましくは10~15μmであり、平均長さが、好ましくは1~5mm、より好ましくは10~15μmであり、この範囲内で、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度を補完して機械的強度を向上させ、耐熱性及び断熱性に優れるという利点がある。
【0054】
本記載において、ガラス繊維の平均直径及び平均長さは、この技術分野において通常用いられる方法により測定されれば、特に制限されず、一例として、SEM電子顕微鏡で50個のガラス繊維を測定して平均した値であってもよい。
【0055】
前記ガラス繊維は、一例として、ガラスを形成する様々な酸化物を溶融させた後、ブッシング(bushing)を通じて細い糸状のガラスフィラメント(filament)を紡糸し、これらをサイジング剤でコーティングした後、合糸して、ストランド(strand)状に製造されてもよい。
【0056】
前記ガラス繊維は、一例として、フィラメント状であって、複数本(例、3000~5000個又は4000個)が合糸されてストランドを形成することができる。このようなストランドは、好ましくは、チョッピング(chopping)加工を通じて一定の長さに切断し、乾燥してチョップドストランド(chopped strands)状として得ることができる。
【0057】
前記ガラス繊維は、本発明の定義に従う限り、市販されているものを使用することができ、一例として、309C(製造社名:CPIC)、910-10P、415Aなどを入手して使用することができる。
【0058】
(耐加水分解剤)
本記載の耐加水分解剤は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部を基準として、好ましくは0.01~3重量部含まれてもよく、より好ましくは0.05~2重量部、さらに好ましくは0.05~1重量部、より一層好ましくは0.05~0.5重量部、特に好ましくは0.1~0.5重量部、特にさらに好ましくは0.1~0.3重量部含まれ、この範囲内で、高温加工時にもアウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れ、真空度を長く維持できるので断熱性に優れるという利点がある。
【0059】
前記耐加水分解剤は、好ましくは、カルボジイミド系重合体であってもよく、この場合に、高温加工時にもアウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れ、真空度を長く維持できるので断熱性に優れるという利点がある。
【0060】
前記カルボジイミド系重合体は、融点が、好ましくは56~95℃であってもよく、より好ましくは60~90℃であり、この範囲内で、高温加工時にもアウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れ、真空度を長く維持できるので断熱性に優れるという利点がある。
【0061】
本記載において、融点の測定は、本発明の属する技術分野において通常用いられる測定方法によるものであれば、特に制限されず、一例としてDSCで測定してもよい。
【0062】
前記カルボジイミド系重合体は、好ましくは、下記化学式5で表される化合物であってもよく、この場合に、高温加工時にもアウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れるという利点がある。
【0063】
【0064】
(前記において、nは、1~15の整数である。)
【0065】
前記化学式5で表されるカルボジイミド系重合体は、一例として、下記反応式1のように、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート(2,6-diisopropylphenyl isocyanate;DIPPI)と2,4,6-トリイソプロピル-m-フェニレンジイソシアネート(2,4,6-Triisopropyl-m-phenylene diisocyanate;TRIDI)が縮重合反応して製造されてもよい。
【0066】
【0067】
(前記反応式1において、+Tは、所定の反応温度で加熱することを意味し、前記-CO2は、反応時にCO2が出発物質から除去されることを意味する。)
【0068】
前記カルボジイミド系重合体は、好ましくは、重量平均分子量が500~4,000g/molであってもよく、より好ましくは1,000~3,000g/molであり、この範囲内で、高温加工時にもアウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れ、真空度を長く維持できるので断熱性に優れるという利点がある。
【0069】
本記載において、重量平均分子量は、カラム充填物質として多孔性シリカで充填されたゲルクロマトグラフィー(GPC)を通じて、温度40℃で、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用して、標準PS(Standard polystyrene)試料に対する相対値を測定することができる。
【0070】
本記載において、カルボジイミド系重合体は、好ましくは、カルボジイミド系重合体90~99.9重量%及び補助剤0.1~10重量%の混合で含まれてもよく、より好ましくはカルボジイミド系重合体92~98重量%及び補助剤2~8重量%の混合で含まれ、さらに好ましくはカルボジイミド系重合体95~97重量%及び補助剤3~5重量%の混合で含まれ、この範囲内で、本発明が目的とする効果を阻害することなく、補助剤の性能が良好に発現されるという利点がある。
【0071】
前記補助剤は、好ましくはシリカであってもよく、この場合に、高温加工時にもアウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れるという利点がある。
【0072】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物)
本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましくは、下記数式1で計算される加熱減量が0.10%以下であり、より好ましくは0.099%以下、さらに好ましくは0.095%以下、より一層好ましくは0.09%以下であり、好ましい例としては0.06~0.10%、より好ましい例としては0.06~0.099%、さらに好ましい例としては0.06~0.095%、より一層好ましい例としては0.06~0.09%であり、この範囲内で、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、残りの物性バランスに優れるという利点がある。
【0073】
【0074】
前記120℃で2時間加熱する前と後の重量の差は、水分の減少量を意味する。
【0075】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、カップリング剤、酸化防止剤及び滑剤から選択された1種以上の添加剤をさらに含むことができ、この場合に、引張強度、衝撃強度及び屈曲強度をさらに向上させることができる。
【0076】
前記添加剤は、一例として、前記架橋型ポリアリーレンスルフィド総100重量部に0.2~0.5重量部含まれてもよく、他の例として0.15~0.4重量部、より具体的な例として0.1~0.3重量部含まれ、この範囲内で、流れ性及び耐熱性をさらに向上させることができる。
【0077】
前記添加剤は、他の一例として、前記架橋型ポリアリーレンスルフィド総100重量部に0.4重量部以下で含まれてもよく、好ましくは0.1重量部以下、より好ましくは0.01重量部以下で含まれ、この範囲内で、断熱性能を低下させないと共に、引張強度、屈曲強度及び衝撃強度をさらに向上させることができる。この場合に、本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、添加剤フリーのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と称することができる。
【0078】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましくは、溶融指数(315℃、5kg)が22~43g/10分であってもよく、より好ましくは23~41g/10分、さらに好ましくは23~32g/10分であり、この範囲内で、流れ性に優れるので表面特性に優れるという利点がある。
【0079】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましくは、揮発分損失量が0.15%以下であってもよく、より好ましくは0.13%以下、さらに好ましくは0.12%以下であり、この範囲内で、断熱性に優れるという利点がある。
【0080】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、引張強度が、好ましくは200~250MPa、より好ましくは210~250MPaであってもよく、この範囲内で、薄い厚さで使用しても断熱性能に優れ、引張強度に優れるという利点がある。
【0081】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、屈曲強度が、好ましくは290~350MPa、より好ましくは290~350MPaであってもよく、この範囲内で、薄い厚さで使用しても断熱性能に優れ、屈曲強度に優れるという利点がある。
【0082】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、熱変形温度が、好ましくは270~300℃、より好ましくは273~300℃であってもよく、この範囲内で、耐熱特性に優れる断熱材を提供するという利点がある。
【0083】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、薄い厚さでも優れた断熱性能を実現でき、また、耐衝撃性及び支持性能を提供できるので、冷蔵庫などのように真空断熱材を必要とする電子製品に有用に適用することができる。このような真空断熱材の使用により、電子製品の内部容積率を向上させ、耐衝撃性、支持性能及び断熱効果を高めることでエネルギー利用効率を大きく高め、電子製品の有効容積を大きく広げるという利点がある。
【0084】
したがって、本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、特に冷蔵庫の断熱材に適するが、これに制限されず、超低温冷蔵装置、温蔵装置または送風装置などのような様々な電気/電子装置にも適用することができる。
【0085】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、真空バスのボリューム(Bath Volume)が3.26Lである真空バス(bath)に、射出試片を表面積が147,840mm2となる量で入れ、Volume/Surfaceが2.21E-03l/cm2、排気温度が150℃及び排気時間が15時間の条件下で排気して、バスの内部を真空状態にした後、4.5~5時間以降の時点から12時間となる時点で測定したバスの内部の圧力上昇率が、好ましくは1.77×10-4torr/h以下、より好ましくは1.75×10-4torr/h以下、さらに好ましくは1.7×10-4torr/h以下、より一層好ましくは1.65×10-4torr/h以下、特に好ましくは1.0×10-4torr/h以下、特にさらに好ましくは0.9×10-4torr/h以下であり、具体例として0.5×10-4torr/h~1.77×10-4torr/h、好ましい例として0.5×10-4torr/h~1.75×10-4torr/h、より好ましい例として0.5×10-4torr/h~1.7×10-4torr/h、さらに好ましい例として0.5×10-4torr/h~1.65×10-4torr/h、より一層好ましい例として0.5×10-4torr/h~1.0×10-4torr/h、最も好ましい例として0.5×10-4torr/h~0.9×10-4torr/hであり、この範囲内で、断熱性に優れ、かつ物性バランスに優れるという利点がある。このとき、射出試片は、表面積が147,840mm2となる量であれば、特に制限されないが、測定の便宜のための具体的な例として、ディスク又はディスク/四角の形状であるか、5×5スペーサーの形状(格子状の形成)で9個であることが適当であり得る。また、前記圧力上昇率の測定機器及び装置などは、本発明の定義及び条件に従う限り、本発明の属する技術分野において通常用いられる圧力上昇率の測定機器及び装置などであれば、特に制限されない。
【0086】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、真空バスのボリューム(Bath Volume)が3.26Lである真空バス(bath)に、射出試片を表面積が147,840mm2となる量で入れ、Volume/Surfaceが2.21E-03l/cm2、排気温度が150℃及び排気時間が15時間の条件下で排気して、バスの内部を真空状態にした後、4.5~5時間以降の時点から12時間となる時点で測定したバスの内部の圧力上昇率から算出されたアウトガッシング率(outgassing rate)が、好ましくは1.08×10-10torr・l/cm2・sec以下、より好ましくは1.07×10-10torr・l/cm2・sec以下、さらに好ましくは1.05×10-10torr・l/cm2・sec以下、より一層好ましくは1.01×10-10torr・l/cm2・sec以下、特に好ましくは0.9×10-10torr・l/cm2・sec以下、特にさらに好ましくは0.6×10-10torr・l/cm2・sec以下、特により一層好ましくは0.55×10-10torr・l/cm2・sec以下、最も好ましくは0.53×10-10torr・l/cm2・sec以下であってもよく、具体例として0.1×10-10torr・l/cm2・sec~1.08×10-10torr・l/cm2・sec、好ましい例として0.1×10-10torr・l/cm2・sec~1.07×10-10torr・l/cm2・sec、より好ましい例として0.1×10-10torr・l/cm2・sec~1.05×10-10torr・l/cm2・sec、さらに好ましい例として0.1×10-10torr・l/cm2・sec~1.01×10-10torr・l/cm2・sec、より一層好ましい例として0.1×10-10torr・l/cm2・sec~0.9×10-10torr・l/cm2・sec、最も好ましい例として0.1×10-10torr・l/cm2・sec~0.6×10-10torr・l/cm2・secであり、この範囲内で、断熱性に優れ、かつ物性バランスに優れるという利点がある。このとき、射出試片は、表面積が147,840mm2となる量であれば、特に制限されないが、測定の便宜のための具体的な例として、ディスク又はディスク/四角の形状であるか、5×5スペーサーの形状(格子状の形成)で9個であることが適当であり得る。また、前記圧力上昇率の測定機器及び装置などは、本発明の定義及び条件に従う限り、本発明の属する技術分野において通常用いられる圧力上昇率の測定機器及び装置などであれば、特に制限されず、前記圧力上昇率からアウトガッシング率の算出は、アウトガッシング率の単位に従うことができる。
【0087】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましい例として、総揮発性有機化合物(TVOC)が120ppm以下であり、引張強度が200~250MPaであり、屈曲強度は290~350MPaであってもよく、この範囲内で、断熱特性に優れるだけでなく、流れ性が良く、アウトガッシングが少ないので表面特性及び真空維持特性に優れる断熱材を得るという利点がある。
【0088】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、好ましい例として、熱変形温度(HDT)が270~300℃であり、溶融指数(315℃、5kg)が23~41g/10分であってもよく、この範囲内で、断熱特性に優れるだけでなく、流れ性が良く、アウトガッシングが少ないので表面特性及び真空維持特性に優れる断熱材を得るという利点がある。
【0089】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法)
本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、好ましくは、溶融指数(315℃、5kg)50~480g/10分の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部、ガラス繊維60~120重量部及び耐加水分解剤0.01~3重量部を含んで溶融混練及び押出するステップを含むことを特徴とし、この場合に、加熱時に発生する重量の減少が少ないので成形性及び成形品の品質に優れ、アウトガッシングが少ないので成形品の表面特性に優れ、流れ性が良いので加工性に優れ、耐衝撃性のような機械的強度に優れると同時に、断熱性に優れるという効果がある。
【0090】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、好ましくは、前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂、ガラス繊維及び耐加水分解剤を、ミキサー又はスーパーミキサーを用いて一次混合した後、二軸押出機(twin-screw extruder)、一軸押出機(single-screw extruder)、ロールミル(roll-mills)、ニーダー(kneader)、またはバンバリーミキサー(banbury mixer)などの様々な配合加工機器のうちの1つを用いて溶融混練及び押出するステップを含むことができる。
【0091】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、一例として、押出後、押出物をペレタイザで切断してペレットを収得するステップ、及び前記ペレットを除湿乾燥機又は熱風乾燥機で乾燥するステップを含むことができ、この場合に、以降の射出ステップで加工が容易であるという効果がある。
【0092】
前記溶融混練及び押出は、二軸押出機で、一例として、285~330℃、好ましくは290~320℃、より好ましくは300~320℃;及び一例として150~500rpm、好ましくは200~400rpm、さらに好ましくは200~300rpmの条件で行うことができ、この範囲内で、成分物質の分解がなく、かつ加工が容易であるという効果がある。
【0093】
(断熱材)
本記載の断熱材は、本記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から製造されることを特徴とし、この場合に、成形品の表面特性に優れ、耐衝撃性のような機械的強度に優れると同時に、断熱性に優れるという効果がある。
【0094】
前記断熱材は、好ましくは、冷蔵庫の真空断熱材であってもよく、この場合に、冷蔵庫の内部容積率を向上させ、耐衝撃性、支持性能及び断熱効果を高めることでエネルギー利用効率を高めるという効果がある。
【0095】
本記載において、断熱材(insulation panel;insulation material)は、好ましくは断熱体(adiabatic body)を形成することができ、より好ましくは冷蔵庫の断熱体を形成することができ、この場合に、冷蔵庫のような電子製品の内部容積率を向上させ、耐衝撃性、支持性能及び断熱効果を高めることでエネルギー利用効率を大きく高めるという利点がある。したがって、本発明が本記載の断熱材で作られた断熱体を含むことができることは自明な事項である。
【0096】
前記断熱材の製造方法は、一例として、前記溶融混練及び押出されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物ペレットを、射出温度300~350℃、好ましくは310~340℃で射出するステップを含むことができる。
【0097】
前記射出加工は、一例として、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度300~350℃及び金型温度120~150℃下で射出成形するものであってもよい。
【0098】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は様々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が、以下に記述する実施例に限定されるものと解釈されない。本明細書の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【実施例】
【0099】
下記の実施例及び比較例で使用した架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「架橋PPS樹脂」という)及び線状ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「線状PPS樹脂」という)は、次の通りである。
【0100】
1)架橋PPS樹脂として21150C(NHU社製)、21330C(NHU社製)及び21170C(NHU社製)を使用した。
2)線状PPS樹脂として1150C(NHU社製)、1170C(NHU社製)、1190C(NHU社製)及び11100C(NHU社製)を使用した。
3)低塩素タイプの線状PPS樹脂として1370C(NHU社製)を使用した。
4)ガラス繊維として、エポキシシラン化合物で表面処理された309C(CPIC社製)、アミノシラン化合物で表面処理された910-10P(Owens corning社製)、及び表面処理されていない415A(Owens corning社製)を使用した。
5)耐加水分解剤としてポリカルボジイミド(Lanxess社製)を使用した。
6)カップリング剤としてA-187(Mometive社製)を使用した。
7)酸化防止剤としてAO-80(ADEKA社製)を使用した。
8)滑剤としてWE-40P(Clariant社製)を使用した。
【0101】
前記それぞれのPPS樹脂の物性を下記のように測定し、その結果を下記の表1~表4に記載した。
【0102】
*TVOC(ppm)
トルエン17mgを10mlメタノールに希釈して作った1.7μg/μLのトルエン標準溶液1μLを試験管に注入し、JTD-GC/MS-03を用いて320℃/10分の条件でクロマトグラムを得、トルエン標準溶液のクロマトグラムのピーク面積(Astd)を確認した。PPS21mgをそれぞれPAT管に注入し、グラスウールで試験管の上部を塞いだ後、JTD-GC/MS-03を用いて320℃/10分の条件でクロマトグラムを得、測定試料に存在する揮発性物質のクロマトグラムのピーク面積の和(Acompound)を確認し、下記数式2によってTVOC含量を計算した。
【0103】
【0104】
TVOCcompound:測定試料1gに存在する揮発性物質の含量(μg/g)
Acompound:測定試料に存在する各揮発性物質のクロマトグラムのピーク面積の和
Astd:トルエン標準溶液のクロマトグラムのピーク面積
Cstd:トルエン標準溶液を使用して注入されたトルエンの質量(約1.7μg)
Wsample:測定試料の重量(g)
【0105】
【0106】
前記表1から分かるように、架橋型PPSである21150Cが、最も少ないTVOCを発生させることを確認した。
【0107】
*溶融指数(MI)の分析
PPS樹脂のグレード(Grade)別のISO 1133規格を基準として、温度315℃、荷重5kgで10分間測定してg/10分で表した。このとき、測定設備はMelt Indexcer(Model:G-01/製造社:toyoseiki)を使用した。
【0108】
【0109】
前記表2から分かるように、架橋型PPS樹脂は、概ね溶融指数が低い反面、線状PPS樹脂はいずれも700g/10分以上であった。また、前記架橋型PPS樹脂のうち21330Cと21150Cは、溶融指数が450g/10分以下であるが、21170Cは700g/10分以上であった。
【0110】
*フォギングテスト(Fogging Test)
PPS樹脂のグレード(Grade)別のhaze(%)評価を行った。ヘイズメーター(Haze meter)を用いて、オイル浴槽の温度240℃、冷却温度23℃でフォギング(fogging)時間を5時間として、ガラスに捕集されるガスのフォギング(fogging)の程度を確認した。
【0111】
【0112】
前記表3から分かるように、架橋型PPS樹脂は、フォギングの程度(haze)が5以下である反面、線状PPS樹脂は9以上であり、低塩素タイプのPPS樹脂は20以上であった。
【0113】
*分子量の測定
PPS樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量を高温GPC方法(装置:超高温GPC SSC-7110、検出器:R検出器、溶液:1-クロロナフタレン、カラム温度:210℃、オーブン温度:250℃、及びシステム温度:50℃)で測定し、その結果を下記の表4に示した。
【0114】
【0115】
前記表4から分かるように、架橋型PPS樹脂は、多分散度指数(PDI)が5~7である反面、線状PPS樹脂は5未満であった。
【0116】
(実施例1~4及び比較例1~8)
下記の表5に従って各成分を混合した後に、スクリューL/Dが42、φ値が40mmである二軸押出機を用いて、300~320℃の区間で溶融及び混練して、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物ペレットを製造した。
【0117】
製造されたペレットを120℃で2時間以上乾燥させた後、射出温度310℃、金型温度140℃でISO規格の試片を製造し、また、流動性は、スパイラル(Spiral)形状を用いて315℃、保圧110bar及び2tの条件下で測定した。
【0118】
【0119】
[試験例1]
前記実施例1~4及び比較例1~8で製造されたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物試片を、23℃、相対湿度約60%で48時間放置した後、その特性を下記の方法により測定し、その結果を下記の表6及び表7に示した。
【0120】
イ.溶融指数(MI)の測定
ISO 1133規格を基準として温度315℃、荷重5kgで測定し、測定設備はMelt Indexcer(Model:G-01/製造社:toyoseiki)を使用した。
【0121】
ロ.TVOCの測定(JTD GC/FID法を用いる)
トルエン40mgを10mlメタノールに希釈して作った4.0μg/μLのトルエン標準溶液1μLをTenax PAT管に注入し、JTD-GC/01を用いて320℃/10分の条件でクロマトグラムを得、トルエン標準溶液のクロマトグラムのピーク面積(Astd)を確認した。組成物50mgをそれぞれPAT管に注入し、グラスウールで試験管の上部を塞いだ後、JTDGC/MS-01を用いて320℃/10分の条件でクロマトグラムを得、測定試料に存在する揮発性物質のクロマトグラムのピーク面積の和(Acompound)を確認した。上述した式1によってTVOCを測定した。
【0122】
ハ.引張強度の測定
ISO 527-1、2規格を基準として測定した。このとき、試験速度は5mm/分であり、測定装備はZwick社のUTMを使用した。
【0123】
二.屈曲強度の測定
*ISO 178規格を基準として測定した。このとき、試験速度は1.3mm/分であり、測定装備はZwick社のUTMを使用した。
【0124】
ホ.衝撃強度の測定
衝撃強度(V-notched Charpy、kJ/m2):標準測定ISO 179に基づいて測定した。
【0125】
ヘ.熱変形温度(HDT)の測定
ISO 75-1、2方法により、1.80MPaの高荷重の熱変形による温度を測定した。
【0126】
ト.流動長さ(spiral flow length)
Engel80射出機を用いて金型内の樹脂がどれくらい流れて行ったかを確認する方法で、射出圧力及び射出速度を除いて保圧のみを用いて樹脂を射出した。315℃のシリンダー温度で金型温度120℃以上で110barの大きさの保圧を適用した条件で樹脂組成物の流動長さを測定した。
【0127】
チ.揮発分損失量
260℃のギアオーブン(geer oven)に試料を入れ、2時間加熱した後、取り出して、初期重量に対する重量損失量を測定して揮発分損失量(%)として表した。
【0128】
リ.圧力上昇率及びアウトガッシング率
上述したように、真空バスのボリューム(Bath Volume)が3.26Lである真空バス(bath)に、射出試片を表面積が147,840mm2となる量で入れ、Volume/Surface 2.21E-03l/cm2、排気温度150℃及び排気時間15時間の条件下で排気して、バスの内部を真空状態にした後、5時間以降の時点から12時間となる時点でバスの内部の圧力上昇率及びアウトガッシング率を測定した。より具体的な測定過程(Test Process)は、次の(1)~(9)の通りである。
【0129】
(1)射出試片の準備(5×5スペーサー9個で総表面積147,840mm2)→(2)スペーサーを超音波洗浄0.25時間(h)→(3)スペーサーを70℃で乾燥3時間(h)→(4)真空バスにスペーサーを挿入→(5)真空ポンプ及びヒーターを作動(排気開始)→(6)150℃で加熱15時間(h)→(7)ヒーターのオフ(heater off)後、常温で冷却(cooling)4.5時間(h)→(8)真空ポンプの作動中止(排気終了)→(9)真空ポンプの作動中止後、5時間以降から12時間となる時点でアウトガッシング率(outgassing rate)を測定
【0130】
【0131】
前記表6から分かるように、本発明に係る実施例1及び実施例2のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、比較例1~5と比較して、引張強度、屈曲強度、衝撃強度及び熱的強度がいずれも優れることが確認できた。したがって、本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、薄い厚さで優れた断熱性能を実現することができ、優れた耐衝撃性及び支持性能を有するところ、環境に優しく人体に無害であり、冷蔵庫などの断熱体を必要とする電子製品に有用に適用して内部容積率を向上させ、耐衝撃性、支持性能及び断熱効果を高めることでエネルギー利用効率を高め、設備の有効容積を大きく高めることができることが判明した。
【0132】
【0133】
また、前記表7から分かるように、本発明に係る実施例3及び4のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、比較例6~7と比較して、揮発分損失量が少なく、TVOC含量が少なく、引張強度及び屈曲強度に優れることがわかり、特に、150℃で15時間ベーキングした後、真空環境で放出されるガスの量、すなわち、アウトガッシング率(torr・l/cm2・sec)が、実施例3が0.525×10-10、実施例4が0.317×10-10と非常に低いので、アウトガッシングの程度が従来技術に比べて低いことが確認できた。ただし、比較例8のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、物理的及び熱的特性が過度に劣悪であるため、流動長さ及び熱変形温度を測定する必要さえないことが確認できた。したがって、本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、薄い厚さで優れた断熱性能を実現することができ、TVOCが低いので、環境に優しく人体に無害であり、揮発分損失量が少ないことで低アウトガッシング特性を有するので、冷蔵庫などの断熱体を必要とする電子製品に有用に適用して内部容積率を高めることができ、耐衝撃性に優れることを再度確認することができた。
【0134】
(追加実施例1~5及び追加比較例1~4)
下記の表8に従って各成分を混合した以外は、前記実施例1と同様の方法でポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を製造した。
【0135】
【0136】
[試験例2]
前記追加実施例1~5及び追加比較例1~4で製造されたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物試片を、23℃、相対湿度約60%で48時間放置した後、その特性を上述した方法又は下記の方法により測定し、その結果を下記の表9に示した。
【0137】
*引張弾性率の測定
ISO 527-1、2規格を基準として測定した。このとき、試験速度は5mm/分であり、測定装備はZwick社のUTMを使用した。
【0138】
*屈曲弾性率の測定
ISO 178規格を基準として測定した。このとき、試験速度は1.3mm/分であり、測定装備はZwick社のUTMを使用した。
【0139】
*加熱減量
オーブンを用いて試料を120℃で2時間加熱した後に重量を測定し、また、260℃で2時間加熱した後に重量を測定した後、下記の数式1を用いて計算した。
【0140】
【0141】
【0142】
また、前記表9から分かるように、本発明に係る追加実施例1~5のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、追加比較例1~4と比較して、機械的強度や流れ性は同等又はそれ以上の効力が発揮されるが、真空断熱体の断熱性を間接的に確認できる加熱減量が遥かに少ないので、断熱性が非常に優れることが確認できた。断熱のために断熱体の内部を真空状態にする過程で断熱材のアウトガッシング(outgasing)の含量が多いと、すなわち、加熱減量が大きいと、高真空状態にするのが難しく、また、高真空状態にするとしても排気時間が大きく増加して非経済的であるため、本発明のように加熱減量の低い断熱材が断熱体の製造に非常に有利である。注目すべきものとして、本発明に係るガラス繊維の含量を超える追加比較例2及び本発明に係るガラス繊維の含量に満たない追加比較例4の場合はいずれも、追加実施例1~5に比べて加熱減量が高いものと示され、断熱性が劣悪であることが確認できた。